(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001457
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】吊車一体型引戸緩衝装置
(51)【国際特許分類】
E05D 15/06 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
E05D15/06 119
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100127
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000137959
【氏名又は名称】株式会社ムラコシ精工
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】横山 辰朗
【テーマコード(参考)】
2E034
【Fターム(参考)】
2E034CA01
2E034DA02
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でありながら従来に比して幅の狭い引戸に対しても容易に取り付けることが可能な吊車一体型引戸緩衝装置を提供する。
【解決手段】枠体(3a)の上枠(3u)に設けられた上ガイドレール(2)に沿って走行する引戸(4)に取り付けられる吊車一体型引戸緩衝装置(10)であって、引戸緩衝装置(11)の両側端部にそれぞれ取り付けられた1対の吊車(5,6)と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体の上枠に設けられた上ガイドレールに沿って走行する引戸に取り付けられる吊車一体型引戸緩衝装置であって、
引戸緩衝装置の両側端部にそれぞれ取り付けられた1対の吊車
を備えることを特徴とする吊車一体型引戸緩衝装置。
【請求項2】
前記吊車は、
前記上ガイドレールを転動するローラが設けられた吊車本体部と、
前記引戸緩衝装置と前記吊車本体部とを軸状部材を介して連結する際、前記吊車本体部の一端に前記軸状部材を挿通するために貫通して設けられた長孔と、
を有する請求項1に記載の吊車一体型引戸緩衝装置。
【請求項3】
前記長孔は、一端に開口が設けられたU字形状を有する
請求項2に記載の吊車一体型引戸緩衝装置。
【請求項4】
前記長孔は、前記開口を狭くする開口端部を有している
請求項3に記載の吊車一体型引戸緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊車一体型引戸緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、戸枠に設けられた引き戸レールを走行させる引戸においては、戸枠に対し上下方向(重力方向)に僅かな遊びをもって組み付けられている。このような引戸においては、例えばユーザが引戸を閉める際、急激に閉じることのないようにその動作を緩慢にする開閉体緩衝装置(クローザやブレーキ機構)が取り付けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の開閉体緩衝装置においては、一方の吊り車に捕捉引込機構が取り付けられており、他方の吊り車には捕捉引込機構が設けられていない。つまり、一方の吊り車に取り付けられた捕捉引込機構と他方の吊り車との間には間隔が開けられているため、現在の大きさの引戸よりも狭い引戸に取り付けることが困難であった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成でありながら従来に比して幅の狭い引戸に対しても容易に取り付けることが可能な吊車一体型引戸緩衝装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明においては、枠体の上枠に設けられた上ガイドレールに沿って走行する引戸に取り付けられる吊車一体型引戸緩衝装置であって、
引戸緩衝装置の両側端部にそれぞれ取り付けられた1対の吊車と、を備える。
【0007】
本発明において、前記吊車は、前記上ガイドレールを転動するローラが設けられた吊車本体部と、前記引戸緩衝装置と前記吊車本体部とを軸状部材を介して連結する際、前記吊車本体部の一端に前記軸状部材を挿通するために貫通して設けられた長孔と、を有することが好ましい。
【0008】
本発明において、前記長孔は、一端に開口が設けられたU字形状を有することが好ましい。
【0009】
前記長孔は、前記開口を狭くする開口端部を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
以上の構成によれば、従来に比して幅の狭い引戸に対しても容易に取り付けることが可能な吊車一体型引戸緩衝装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置を備えた引戸装置の全体構成を示す平面図である。
【
図2】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置が引戸に取り付けられた状態を示す斜視図である。
【
図3】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の吊車が上ガイドレールに取り付けられた状態を示す断面図である。
【
図4】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の外観構成を示す斜視図である。
【
図5】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の構成を示す分解斜視図である。
【
図6】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の吊車の外観構成を示す斜視図である。
【
図7】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の吊車の構成を示す正面図、側面図、上面図、および、下面図である。
【
図8】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置が最も短くなった状態を示す側面図およびA-A縦断面図である。
【
図9】第1の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置が最も長くなった状態を示す側面図およびA-A縦断面図である。
【
図10】第2の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の構成を示す分解斜視図である。
【
図11】第2の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の吊車の外観構成を示す斜視図である。
【
図12】第2の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置の吊車の構成を示す正面図、側面図、上面図、下面図、および、背面図である。
【
図13】第2の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置が最も短くなった状態を示す側面図およびA-A縦断面図である。
【
図14】第2の実施の形態における吊車一体型引戸緩衝装置が最も長くなった状態を示す側面図およびA-A縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施の形態の概要
まず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号が括弧を付して記載されている。
【0013】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態にかかる吊車一体型引戸緩衝装置(10)は、枠体(3a)の上枠(3u)に設けられた上ガイドレール(2)に沿って走行する引戸(4)に取り付けられ、引戸緩衝装置(11)の両側端部にそれぞれ取り付けられた1対の吊車(5,6)と、を備える。
【0014】
本発明において、前記吊車(6)は、前記上ガイドレール(2)を転動するローラ(63)が設けられた吊車本体部(61)と、前記引戸緩衝装置(10)と前記吊車本体部(61)とを軸状部材(67p)を介して連結する際、前記吊車本体部(61)の一端に前記軸状部材(67p)を挿通するために貫通して設けられた長孔(67h,77h)と、を有することが好ましい。
【0015】
本発明において、前記長孔(67h)は、一端に開口が設けられたU字形状を有することが好ましい。
【0016】
本発明において、前記長孔(77h)は、前記開口を狭くする開口端部(77aq,77bq)を有していることが好ましい。
【0017】
2.第1の実施の形態の具体例
以下、本発明の第1の実施の形態にかかる吊車一体型引戸緩衝装置10を備えた引戸装置1の構成について
図1乃至
図9を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
なお、以下の説明で使用する方向において、引戸4が閉まる側である戸閉側とは、
図1の紙面左側すなわち矢印a方向をいうものとし、引戸4が開く側である戸開側とは
図1の紙面右側すなわち矢印b方向をいうものとする。したがって、開閉方向または水平方向を矢印ab方向とする。
【0019】
また、上側または上方向とは、
図1の紙面上方向すなわち矢印c方向をいうものとし、下側または下方向とは
図1の紙面下方向すなわち矢印d方向をいうものとする。したがって、上下方向または重力方向を矢印cd方向とする。
【0020】
さらに、引戸4の板厚方向とは、
図1の紙面奥行き方向すなわち前後方向をいうものとする。具体的には、
図2に示すように、すなわち引戸4が
図1の紙面の手前側から奥側へ押される際の矢印f方向を奥側、引戸4が
図1の紙面の奥側から手前側へ引っ張られる際の矢印e方向を手前側とする。但し、この左側、右側、上側、下側、奥側、手前側とは、説明の便宜上用いられるのであって、引戸の使用状況によっては異なる方向として定義することができる。
【0021】
<引戸装置>
図1および
図2に示すように、本実施の形態において引戸装置1は、上吊り式の引戸4を対象とし、建物等の構造物における開口の縁部に固定された枠体3aの上枠3uに設けられた上ガイドレール2、その上ガイドレール2に沿ってスライド移動する引戸4、その引戸4に取り付けられた吊車一体型引戸緩衝装置10、吊車一体型引戸緩衝装置10における2つの吊車5,6と引戸4とを結合するホルダ8(8a、8b)を有している。なお、吊車一体型引戸緩衝装置10は、引戸緩衝装置11、その引戸緩衝装置11の両側端部に取り付けられた2つの吊車5,6によって構成されている。
【0022】
なお、引戸装置1は、必ずしも上ガイドレール2、引戸4、吊車一体型引戸緩衝装置10、ホルダ8、および、吊車一体型引戸緩衝装置10を全て揃えている必要はなく、少なくとも引戸4、吊車一体型引戸緩衝装置10およびホルダ8(8a、8b)を有していればよい。
【0023】
<引戸>
図1および
図2に示すように、引戸4は、種々の材料からなる平面視長方形状の板状部材であり、その上端部の開閉方向(矢印ab方向)における両側には、ホルダ8a、8bを固定するための収容凹部がそれぞれ設けられている。この引戸4の収容凹部に対してホルダ8a、8bがそれぞれ収容された状態で一体に固定される。
【0024】
引戸4は、開閉方向(矢印ab方向)にスライド移動することにより枠体3aを開閉することが可能である。なお、説明を容易にするために1枚の引戸4のみを示しているが、引戸4の紙面奥側或いは紙面手前側にも同様に引戸4(図示せず)が取り付けられており、この2枚の引戸4を開閉することで枠体3aが開閉される。ただし、以下では、1枚の引戸4だけを用いて説明する。
【0025】
<上ガイドレール>
図3に示すように、上ガイドレール2は、後述する吊車一体型引戸緩衝装置10の吊車5,6の走行をガイドするレールであり、枠体3aの上枠3uに対して固定されている。ただし
図3においては、上ガイドレール2が吊車6を保持する状態の断面構成を示しており、吊車5については省略している。上ガイドレール2は、全体的に下方に開口する略U字状に形成されている。この上ガイドレール2は、アルミニウム等の金属によって形成されている。
【0026】
上ガイドレール2は、開閉方向(矢印ab方向)に延在する天壁部2a、その天壁部2aの両側端部から下方向(矢印d方向)へそれぞれ延びる1対の側壁部2bと、その1対の側壁部2bの下方向先端部から前後方向(矢印ef方向)に沿って互いに近づくように延びて対向した状態に隔離配置された1対の突出壁部2cとを備えている。
【0027】
なお、一対の側壁部2bおよび突出壁部2cともに、天壁部2aと同様に開閉方向(矢印ab方向)に延在している。天壁部2aと側壁部2bとの間の角部には、L字状に折り曲げられた段部2dがそれぞれ形成されている。段部2dは、その内側において下方(矢印d方向)に面する下端面2dbを有し、その下端面2dbが吊車6のローラ63と接触して転動する走行面となる。
【0028】
突出壁部2cは、その先端部分に対して上方向(矢印c方向)に向かって弧状に膨らんだ断面半円形状の突部分2cbを有し、その突部分2cbが吊車6のローラ63と接触して転動する走行面となる。すなわち、上ガイドレール2の段部2dの下端面2dbと突出壁部2cの突部分2cbとの間に吊車6のローラ63が配置される。
【0029】
ここで、吊車6における段部2dの下端面2dbと突出壁部2cの突部分2cbとの距離は、ローラ63の直径よりも僅かに大きい程度であり、ローラ63にとって摺動抵抗を大きくすることのない程度の最低限のクリアランスが存在している。
【0030】
上ガイドレール2は、そのU字状の内側の収容空間Sに吊車6の吊車本体部61およびローラ63のほぼ全部を収容し、段部2dの下端面2dbおよび突出壁部2cの突部分2cbに当該ローラ63を接触させた状態で、当該上ガイドレール2に沿って開閉方向(矢印ab方向)に走行可能に保持する。以下、段部2dの下端面2dbおよび突出壁部2cの突部分2cbをローラ63の走行面2tと呼ぶ。
【0031】
<ホルダ>
図1および
図2に示すように、ホルダ8は、引戸4の上端部の2箇所に固定されて吊車5,6と結合される部品である。吊車5と結合されるのがホルダ8aであり、吊車6と結合されるのがホルダ8bである。
【0032】
ホルダ8aおよびホルダ8bは、引戸緩衝装置11の両側端部にそれぞれ取り付けられた吊車5および吊車6と対応する間隔で引戸4に取り付けられている。なお、ホルダ8a、8bともに同一構造であり、ここでは便宜上、特に区別する必要がある場合を除きホルダ8と呼ぶ。
【0033】
ホルダ8は、吊車5,6と結合される直方体形状を有するホルダ本体81と、そのホルダ本体81に取り付けられた板状部材からなるプレート体82とを備えている。ホルダ8は、プレート体82の両側に2個の貫通孔82hを介して引戸4に固定される。
【0034】
ホルダ8のホルダ本体81は、プレート体82に対して上下調整可能に取り付けられており、後述する吊車5,6の連結軸55、65と係止される凹部(図示せず)を有する。ホルダ8は、引戸4の収容部にホルダ本体81が収容された状態でプレート体82の貫通孔82hを介してビス等の締結具によって引戸4に固定される。
【0035】
プレート体82の上端面は、引戸4の上端面4aと面一である。すなわち、プレート体82の上端面は、引戸4の上端面4aから上方向(矢印c方向)に飛び出ていなければよい。
【0036】
<吊車>
図4乃至
図7に示すように、吊車5は、ホルダ8aと結合されると共に引戸緩衝装置11の戸閉側(矢印a方向)の一端に取り付けられているのに対し、吊車6は引戸緩衝装置10の戸開側(矢印b方向)の他端に取り付けられている。
【0037】
吊車5,6は、基本的には同一構造を有しているが、
図5に示すように、引戸緩衝装置11に取り付ける際の貫通孔57h、貫通孔67hの形状が異なるだけである。ここでは、吊車6について説明し、吊車5については吊車6と異なる部分について説明する。
【0038】
なお、引戸緩衝装置11においては、開閉方向(矢印ab方向)において吊車5および吊車6の間に挟み付けられた状態となり、3者が一体化されている。因みに、引戸緩衝装置10は、引戸4が閉められる際、急激に閉じられることのないようにその動作を緩慢にするものであり、ここでは詳細な説明は省略する。
【0039】
図6および
図7に示すように吊車6は、樹脂等からなる吊車本体部61、樹脂等からなる吊車結合部67、樹脂等または金属からなる2本のローラ支軸62、樹脂等または金属からなる4個のローラ63、および、樹脂等または金属からなる連結軸65を有している。
【0040】
吊車6の吊車本体部61は、略直方体形状からなり、そのほぼ中央には上下方向(矢印cd方向)に貫通した貫通孔を有し、その貫通孔に連結軸65が挿入された状態でワッシャー66から突出した部分をカシメることにより、吊車本体部61と連結軸65とを一体に固定している。また吊車本体部61は、連結軸65を間に挟んだ開閉方向(矢印ab方向)の両側に前後方向(矢印ef方向)に軸支した2本のローラ支軸62を有している。
【0041】
吊車6の吊車結合部67は、吊車本体部61の戸閉側(矢印a方向)の端部と一体に設けられている。吊車6の吊車結合部67は、前後方向(矢印ef方向)に沿って貫通する貫通孔67hを有している。
【0042】
因みに、
図5に示すように、吊車5の吊車結合部57は、吊車本体部51の戸開側(矢印b方向)の端部と一体に設けられている。吊車結合部57は、直方体形状を有し、吊車本体部51と一体に形成されている。吊車結合部57の前後方向(矢印ef方向)における幅は、吊車本体部51の前後方向(矢印ef方向)における幅よりも大きく、前後方向(矢印ef方向)に設けられた2つのローラ53の幅よりも小さい。
【0043】
吊車結合部57は、前後方向(矢印ef方向)に沿って貫通する断面円形状の貫通孔57hを有している。この貫通孔57hの内径は、引戸緩衝装置10の戸閉側(矢印a方向)の一端に設けられた貫通孔11haを介して一体に固定するためのピン57pの外径と同じであるか、または僅かに大きく形成されている。
【0044】
一方、吊車6における吊車結合部67の貫通孔67hは、開閉方向(矢印ab方向)に所定の長さを有する長孔形状である。この貫通孔67h(以下、「貫通孔67h」を「長孔67h」と呼ぶ場合があるものとする。)は、側面視において半円と半円とを長方形でつなげた形状であり、その内径はピン67pの直径と同じか、僅かに大きい。
【0045】
すなわち、吊車5の吊車結合部57の貫通孔57hは、断面円形状であるのに対し、吊車6の吊車結合部67の貫通孔(長孔)67hは、断面長孔形状である。吊車6の長孔67hにおいては、ピン67pを介して引戸緩衝装置11の戸開側(矢印b方向)の他端に設けられた貫通孔11hbを介して取り付けられるが、長孔6の開閉方向(矢印ab方向)の範囲において吊車6が移動自在に保持される。
【0046】
吊車6は、吊車連結部67の長孔67hと引戸緩衝装置11の戸閉側(矢印a方向)の一端に設けられた貫通孔11ha(
図5)とを対向するように配置した状態で、貫通孔11haおよび長孔67hの双方に挿通されるピン67pにより当該引戸緩衝装置11に対して取り付けられる。このとき、ピン67pは、引戸緩衝装置11の貫通孔11hb、および、吊車結合部67の長孔67hを挿通した後にカシメられる。これにより、引戸緩衝装置11と吊車6とはピン67pを介して外れることがない状態で取り付けられることになる。
【0047】
ローラ支軸62は、吊車本体部61に軸支され、当該ローラ支軸62の両側端部にはローラ63がそれぞれ一体に取り付けられている。実際上、ローラ支軸62をローラ63の貫通孔に挿通させた後、当該ローラ支軸62の両端をカシメることにより、ローラ63がローラ支軸から抜け落ちることを防止している。
【0048】
4個のローラ63は、ローラ支軸62における両側端部にそれぞれ一体に固定された円盤状の回転体であり、上ガイドレール2における走行面2t(段部2dの下端面2dbおよび突出壁部2cの突部分2cb)と接触して転動する。
【0049】
すなわち吊車6は、4個のローラ63が上ガイドレール2の走行面2tを転動することにより当該上ガイドレール2に沿って開閉方向(矢印ab方向)へ自在に移動可能となる。
【0050】
吊車6の連結軸65は、開閉方向(矢印ab方向)における両側端部にそれぞれ軸支された2本のローラ支軸62の間に設けられている。具体的には吊車本体部61の貫通孔に連結軸65が挿入された状態でワッシャー66から突出した部分をカシメることにより、吊車本体部61と連結軸65とを一体に固定している。
【0051】
図6および
図7に示すように、吊車本体部61の下端面には、連結軸65を中心として戸閉側(矢印a方向)および戸開側(矢印b方向)にそれぞれ脚部70が一体に設けられている。脚部70は、手前側(矢印e方向)に設けられた第1の脚71、および、奥側(矢印f方向)に設けられた第2の脚72を有している。
【0052】
図3に示すように、脚部70における第1の脚71および第2の脚72は、互いに線対称となるように配置されている。なお、第1の脚71および第2の脚72は、線対称であって同一形状を有しているので、ここでは第1の脚71についてのみ説明する。
【0053】
脚部70における第1の脚71は、基部71a、幹部71b、枝部71c、凸部71dを有している。基部71aは、吊車本体部61の下端面から下方(矢印d方向)に向かって僅かに延びる、第1の脚71の根元に相当する部分である。
【0054】
幹部71bは、基部71aの先端から当該基部71aと離れるように外側つまり手前側(矢印e方向)へ向かいながら下方(矢印d方向)へ所定の長さだけ斜めに延びる、第1の脚71の主要脚部に相当する部分である。
【0055】
枝部71cは、幹部71bの先端から内側つまり奥側(矢印f方向)へ向かって水平または僅かに下方(矢印d方向)に所定の長さだけ延びる部分である。
【0056】
第1の脚71の枝部71cは、第2の脚72の枝部72cと互いに所定の間隔を空けて向かい合うように配置される。このように脚部70は、第1の脚71および第2の脚72が線対称に配置されている。
【0057】
この場合、第1の脚71は、第1弾性体部分としての幹部71b、および、第2弾性体部分としての枝部71cによって基部71aから下方に延びる断面く字形状に屈曲した弾性体部を形成している。すなわち幹部71bおよび枝部71cが互いに近づくように撓むことにより第1の脚71は弾性変形可能である。
【0058】
凸部71dは、枝部71cの先端に設けられ、下方(矢印d方向)に向かって弧状に膨らんだ略半円形状の部分である。この凸部71dは、ホルダ8のホルダ本体81の上端面に接触する部分であり、引戸4の跳ね上がりを抑制する押圧部として機能する。つまり凸部71dは、ホルダ本体81を介して引戸4の上端面を間接的に押し付けることになる。このように第1の脚61における凸部61dをホルダ8の上端面81aと接触させているので、ホルダ本体81の上下調整機能により当該ホルダ本体81が上下方向に移動したときの動きに対して第1の脚61は追従することができる。
【0059】
このように脚部70は、第1の脚71および第2の脚72が互いに向かい合うように配置され、枝部71c、72cの凸部71d、72dがホルダ8のホルダ本体81の上端面81aと接触して押し付けた状態を形成することができる。
【0060】
また、脚部70における第1の脚71の幹部71bは、基部71aから離れるように下方(矢印d方向)および外側つまり手前側(矢印e方向)へ向かって斜めに延びている。また、幹部71bは、上ガイドレール2の突出壁部2cの先端とは接触しておらず、当該突出壁部2cの先端との間に僅かな隙間を有している。このように脚部70は、引戸4が跳ね上げられていない状態において上ガイドレール2とは非接触であり、吊車6が走行する際の摺動抵抗が生じることを防止している。
【0061】
なお、吊車5においても、吊車6と同様に、脚部70が設けられている。したがって、引戸装置1では、引戸4の上端部に2箇所固定されたホルダ8a、ホルダ8bのホルダ本体81a、ホルダ本体81bに対して吊車5の脚部70および吊車6の脚部70を双方共に接触させた状態を形成している。
【0062】
<動作および効果>
以上の構成において、吊車一体型引戸緩衝装置10における引戸緩衝装置11の両側端部にそれぞれ吊車5および吊車6を取り付けるようにしたことにより、従来に比して幅の狭い引戸4に対しても引戸緩衝装置11および吊車5,6を取り付けることができる。この際、引戸緩衝装置11の両側端部に取り付けられた吊車5,6の間隔と、引戸4に固定されたホルダ8a、8bの間隔とが一致している場合、吊車6は長孔67hではなく、吊車5の円形状の貫通孔57hと同様に円形状の貫通孔67hであってもよい。
【0063】
また、吊車一体型引戸緩衝装置10において、引戸緩衝装置11の両側端部に取り付けられた吊車5,6の間隔と、引戸4に固定されたホルダ8a、8bの間隔とが一致していない場合には、ホルダ8a、8bに対して吊車5,6を取り付けることができないばかりか、仮に取り付けられたとしても歪みが生じて走行不良を起こすおそれがある。しかしながら、吊車一体型引戸緩衝装置10では、吊車6が長孔67hの範囲内で移動可能であることにより、ホルダ8a、8bに対して吊車5,6の連結軸55,65を容易に係止させることができる。
【0064】
すなわち、ユーザは、吊車5の連結軸55を引戸4のホルダ8aに係止した後、吊車6の連結軸65と引戸4のホルダ8bとの位置関係が合わない場合であっても、吊車6の吊車本体部61を開閉方向(矢印ab方向)へ移動させることにより、吊車6の連結軸65と引戸4のホルダ8bと容易に係止させることができる。
【0065】
したがって、引戸4に対してホルダ8a、8bを固定する際に、高精度の位置決めを必要とせず、施工現場において吊車6を長孔67hの範囲内で開閉方向(矢印ab方向)へ僅かに移動するだけで、引戸4のホルダ8a、8bに対して吊車5,6を容易に取り付けることができる。
【0066】
3.第2の実施の形態の具体例
以下、本発明の第2の実施の形態にかかる吊車一体型引戸緩衝装置10の構成について
図10乃至
図14を参照しながら詳細に説明する。
【0067】
図5との対応部分に同一符号を付した
図10に示すように、吊車6は、第1の実施の形態とは異なる吊車結合部77を有している。この吊車結合部77の長孔77hは、第1の実施の形態における吊車結合部67の長孔67hではなく、戸閉側(矢印a方向)が開口した形状である。
【0068】
図11および
図12に示すように、吊車結合部77は、吊車本体部61の戸開側(矢印b方向)において一体に設けられた基部77c、その基部77cの上側端部から戸開側(矢印b方向)に延びる薄板状の上壁部77aと、基部77cの下側端部から戸開側(矢印b方向)に延び、上壁部77aと平行に形成された薄板状の下壁部77bとを有している。
【0069】
つまり、吊車結合部77の長孔77hは、基部77c、上壁部77a、および、下壁部77bによって形成されており、側面視において半円と長方形とをつなげた形状を有している。上壁部77aと下壁部77bとの間の距離は、ピン67pの直径と同じか、それよりも僅かに大きい。
【0070】
また、上壁部77aは、戸開側(矢印b方向)の端部が下壁部77bに向かうように曲げられた湾曲部77aqを有している。同様に、下壁部77bも戸開側(矢印b方向)の端部が上壁部77aに向かうように曲げられた湾曲部77bqを有している。
【0071】
つまり、上壁部77aの湾曲部77aqと下壁部77bの湾曲部77bqとが互いに対向しており、湾曲部77aqおよび湾曲部77bqが長孔77hの開口を狭くする開口端部として形成されている。
【0072】
このため、上壁部77aの湾曲部77aqと下壁部77bの湾曲部77bqとの間の距離が上壁部77aと下壁部77bとの間の距離よりも短くなっている。つまり、上壁部77aの湾曲部77aqと下壁部77bの湾曲部77bqとの距離はピン67pの直径よりも小さくなっている。
【0073】
したがって、施工時において、引戸緩衝装置10の戸閉側(矢印a方向)の他端に設けられた貫通孔11hbと吊車6の吊車結合部77の長孔77hとを対向させた状態で、貫通孔11hbおよび長孔77hの双方に挿通されてカシメられたピン67pから吊車6が抜け落ちることがない。
【0074】
これにより、吊車6がピン67pから抜け落ちることなく長孔77hの範囲内で吊車6の吊車本体部61を開閉方向(矢印ab方向)に移動させることができるので、当該吊車6の連結軸65と引戸4のホルダ8bとの位置を簡単に一致させて取り付けることができる。
【0075】
したがって、この場合も、
図13および
図14に示すように、引戸4に対してホルダ8a、8bを固定する際に、高精度の位置決めを必要とせず、施工現場において吊車6を開閉方向(矢印ab方向)へ長孔77hの範囲内で移動することにより、引戸4のホルダ8a、8bに対して吊車5,6を容易に取り付けることができる。
【0076】
4.他の実施の形態
なお、第1の実施の形態においては、吊車6の吊車結合部67に長孔67hを設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、吊車5の吊車結合部57に対しても円形状の貫通孔57hではなく長孔形状とするようにしてもよい。
【0077】
これにより、引戸装置1は、引戸緩衝装置10の両側端部に設けられた吊車5,6の双方を開閉方向(矢印ab方向)に移動させることができるので、引戸4に固定されたホルダ8a、8bに対して容易に取り付けることができる。つまり、引戸4に対して固定するホルダ8a、8bの幅の自由度を更に拡げることができる。
【0078】
また、第2の実施の形態においては、戸閉側(矢印a方向)の吊車6の吊車結合部67に開口を有する長孔77hを設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、戸閉側(矢印a方向)の吊車5の吊車結合部57に対しても開口を有する長孔77hを設けるようにしてもよい。
【0079】
また、第2の実施の形態においては、上壁部77aに湾曲部77aqを設けると共に、下壁部77bに湾曲部77bqを設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、上壁部77aの先端部に屈曲部、下壁部77bの先端部に屈曲部を設けるようにしてもよい。
【0080】
または、上壁部77aおよび下壁部77bが先端に向かうに連れて互いに近づくように傾斜したテーパー面を設けるようにしてもよい。要は、上壁部77aの先端部と下壁部77bの先端部とが互いに近づいてピン67pが長孔77hから脱落しない構成であればその他種々の形状を有していてもよい。
【0081】
さらに、本実施の形態においては、上吊り式の引戸4を対象とするようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、下支持式の引戸4を対象とするようにしてもよい。この場合。引戸4の下端面に戸車(図示せず)を設け、その戸車が枠体3aの下枠の上を走行する際に当該引戸4の跳ね上がりが生じても、脚部60によって引戸4の跳ね上がりを抑制することができる。
【0082】
なお、その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の引戸緩衝装置付き吊車装置を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
1…引戸装置、2…上ガイドレール、2a……壁部、2b…側壁部、2c…突出壁部、2d…段部、2t…走行面、3a…枠体、3u…上枠、4…引戸、5,6…吊車、8(8a、8b)…ホルダ、10…引戸緩衝装置、61…吊車本体部、62…ローラ支軸、63…ローラ、65…連結軸、66…ナット、57,67…吊車結合部、67h、77h…長孔、70…脚部、71…第1の脚、71a…基部、71b…幹部、71c…枝部、71d…凸部、72…第2の脚、81…ホルダ本体、82…プレート体。