(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145703
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】身体組成計測装置、制御方法、および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0537 20210101AFI20241004BHJP
【FI】
A61B5/0537
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058172
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】309007357
【氏名又は名称】SKメディカル電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】本田 圭
(72)【発明者】
【氏名】須田 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 映
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127GG11
4C127GG13
4C127GG16
4C127HH03
4C127HH18
(57)【要約】
【課題】被験者の身体組成の計測結果がばらつくことを防止または抑制できる身体組成計測装置、制御方法、および制御プログラムを提供する。
【解決手段】身体組成計測装置1は、計測条件にしたがって、被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入したときの電圧信号、および電流信号に基づき電気インピーダンスを測定し、測定された電気インピーダンスに基づきインピーダンス軌跡を算出する。さらに、身体組成計測装置1は、電圧信号の大きさに関する値、電流信号の大きさに関する値、および異常性指標を算出し、これらの少なくとも1つに基づいて、変更可能な計測条件を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する身体組成計測装置であって、
前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入する電流投入部と、
前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号を検出する電圧検出部と、
前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者に流れる電流に関する電流信号を検出する電流検出部と、
前記電圧検出部によって検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさに増幅する電圧信号増幅部と、
前記電流検出部によって検出された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換する電流電圧変換部と、
前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号と前記電流電圧変換部によって変換された電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出する電気インピーダンス算出部と、
前記電気インピーダンス算出部によって算出された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出するインピーダンス軌跡算出部と、
前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出する体組成情報算出部と、
前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出する異常性指標算出部と、
前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号の大きさに関する値および/または前記電流電圧変換部によって変換された電流信号の大きさに関する値を算出する実効値算出部と、
前記実効値算出部によって算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記実効値算出部によって算出された前記電流信号の大きさに関する値、および前記異常性指標算出部によって算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記身体組成計測装置の変更可能な前記計測条件を決定する計測条件決定部と、を備える身体組成計測装置。
【請求項2】
前記被験者の身体の組成を計測する本計測に先だって、前記計測条件を決定する予備計測を実施する、請求項1に記載の身体組成計測装置。
【請求項3】
前記計測条件決定部は、前記予備計測において、前記実効値算出部によって算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記実効値算出部によって算出された前記電流信号の大きさに関する値、および前記異常性指標算出部によって算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記本計測における計測条件を決定する、請求項2に記載の身体組成計測装置。
【請求項4】
前記計測条件決定部は、前記本計測において、前記実効値算出部によって算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記実効値算出部によって算出された前記電流信号の大きさに関する値、および前記異常性指標算出部によって算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、以降における本計測の計測条件を決定する、請求項3に記載の身体組成計測装置。
【請求項5】
前記計測条件決定部は、前記本計測における計測条件として、前記電圧信号増幅部のゲインを決定する、請求項3または4に記載の身体組成計測装置。
【請求項6】
前記計測条件決定部は、前記異常性指標が規定値以下であり、かつ前記実効値算出部が算出した前記電圧信号の大きさに関する値が上限値を超えない範囲で最大となるように本計測の際の前記電圧信号増幅部のゲインを決定する、請求項5に記載の身体組成計測装置。
【請求項7】
前記計測条件決定部は、前記本計測における計測条件として、前記被験者の身体に投入される複数のプローブ電流の周波数帯域を決定する、請求項2または3に記載の身体組成計測装置。
【請求項8】
前記計測条件決定部は、前記本計測における計測条件として、前記異常性指標が規定値以下となるように前記被験者の身体に投入される複数のプローブ電流の周波数帯域を決定する、請求項7に記載の身体組成計測装置。
【請求項9】
前記計測条件決定部は、決定された前記周波数帯域に応じて前記インピーダンス軌跡のポイント数を決定する、請求項8に記載の身体組成計測装置。
【請求項10】
前記被験者の身体組成の1度の計測において前記本計測を連続で複数回実施し、前記計測条件決定部は、1度の計測中における前記本計測中の計測条件と、次の本計測における計測条件とが同じとなるように計測条件を維持し、前記体組成情報算出部は、得られた複数の身体組成に関する情報を用いて、前記被験者の身体組成の結果を算出する、請求項2~4のいずれか1項に記載の身体組成計測装置。
【請求項11】
前記計測条件決定部は、少なくとも前記異常性指標算出部によって算出された異常性指標に基づいて前記身体組成計測装置の変更可能な前記計測条件を決定し、前記異常性指標算出部は、前記インピーダンス軌跡算出部が算出したインピーダンス軌跡と前記電気インピーダンス算出部が算出した周波数ごとの電気インピーダンスとの距離に基づいて前記異常性指標を算出する請求項1~4のいずれか1項記載の身体組成計測装置。
【請求項12】
計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する身体組成計測装置であって、
前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入する電流投入部と、
前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号を検出する電圧検出部と、
前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体に流れる電流に関する電流信号を検出する電流検出部と、
前記電圧検出部によって検出された電圧信号を電気インピーダンス算出に使用する大きさに増幅する電圧信号増幅部と、
前記電流検出部によって検出された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換する電流電圧変換部と、
前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号と前記電流電圧変換部によって変換された前記電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出する電気インピーダンス算出部と、
前記電気インピーダンス算出部によって算出された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出するインピーダンス軌跡算出部と、
前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出する体組成情報算出部と、
前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出する異常性指標算出部と、
前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号の大きさに関する値、および前記電流電圧変換部によって変換された前記電流信号の大きさに関する値を算出する実効値算出部と、
前記実効値算出部によって算出された前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号の大きさに関する値、前記実効値算出部によって算出された前記電流電圧変換部によって変換された前記電流信号の大きさに関する値、および前記異常性指標算出部によって算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記体組成情報算出部によって算出された前記被験者の身体組成に関する情報のうち不適切なものを除外する計測結果除外部と、を備える身体組成計測装置。
【請求項13】
前記被験者の身体組成の1度の計測において前記被験者の身体の組成を計測する本計測を連続で複数回実施し、前記体組成情報算出部は、前記計測結果除外部によって不適切な算出結果が除外され、残った身体組成に関する1つ以上の情報を用いて、前記被験者の身体組成の結果を算出する、請求項12に記載の身体組成計測装置。
【請求項14】
計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する身体組成計測装置の制御方法であって、
前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入し、前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号と、前記被験者の身体に流れる電流に関する電流信号とを検出するステップ(a)と、
前記ステップ(a)において検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさに増幅するステップ(b)と、
前記ステップ(a)によって検出された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換するステップ(c)と、
前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号と前記ステップ(c)において変換された電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出するステップ(d)と、
前記ステップ(d)において算出された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出するステップ(e)と、
前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出するステップ(f)と、
前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出するステップ(g)と、
前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号の大きさに関する値、および/または前記ステップ(a)において検出された前記被験者の身体に流れる電流信号の大きさに関する値を算出するステップ(h)と、
前記ステップ(h)において算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記電流信号の大きさに関する値、および前記ステップ(g)において算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記身体組成計測装置の変更可能な前記計測条件を決定するステップ(i)と、を含む、制御方法。
【請求項15】
前記被験者の身体の組成を計測する本計測に先だって、前記計測条件を決定する予備計測を実施する、請求項14に記載の制御方法。
【請求項16】
計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する身体組成計測装置の制御方法であって、
前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入し、前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号と、前記被験者の身体に流れる電流に関する電流信号とを検出するステップ(a)と、
前記ステップ(a)において検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさに増幅するステップ(b)と、
前記ステップ(a)によって検出された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換するステップ(c)と、
前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号と前記ステップ(c)において変換された電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出するステップ(d)と、
前記ステップ(d)において算出された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出するステップ(e)と、
前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出するステップ(f)と、
前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出するステップ(g)と、
前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号の大きさに関する値、および/または前記被験者の身体に流れる電流信号の大きさに関する値を算出するステップ(h)と、
前記ステップ(h)において算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記電流信号の大きさに関する値、および前記ステップ(g)において算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記ステップ(f)において算出された前記被験者の身体組成に関する情報を除外するステップ(i)と、を含む、制御方法。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか1項に記載の制御方法を、コンピューターに実行させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体組成計測装置、制御方法、および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被験者の体脂肪重量、体水分量などの身体組成を生体電気インピーダンス法に基づいて計測する装置が知られている(例えば、下記特許文献1~4を参照)。この装置では、被験者の身体に複数の周波数からなる微弱な交流電流を流したときの被験者の身体に生じる電圧と被験者の身体に流れる電流とに基づき被験者の身体の生体電気インピーダンスを測定し、測定された生体電気インピーダンスから身体組成を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-316829号公報
【特許文献2】特開平9-154829号公報
【特許文献3】特開2003-116805号公報
【特許文献4】特許第3984332号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、生体電気インピーダンス(以下、単に「電気インピーダンス」ともいう)は、被験者の体格、体動、腕と脇との接触の有無、両足の太もも同士の接触の有無などの要因により変化する可能性がある。その結果、被験者の身体組成の計測結果がばらつく可能性がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被験者の身体組成の計測結果がばらつくことを防止または抑制できる身体組成計測装置、制御方法、および制御プログラムを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
上記目的を達成するため本発明の身体組成計測装置は、計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する。身体組成計測装置は、電流投入部と、電圧検出部と、電流検出部と、電圧信号増幅部と、電流電圧変換部と、電気インピーダンス算出部と、インピーダンス軌跡算出部と、体組成情報算出部と、異常性指標算出部と、実効値算出部と、計測条件決定部と、を備える。電流投入部は、前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入する。電圧検出部は、前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号を検出する。電流検出部は、前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体に流れる電流に関する電流信号を検出する。電圧信号増幅部は、前記電圧検出部によって検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさに増幅する。電流電圧変換部は、前記電流検出部によって測定された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換する。電気インピーダンス算出部は、前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号と前記電流電圧変換部によって変換された電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出する。インピーダンス軌跡算出部は、前記電気インピーダンス測定部によって測定された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出する。体組成情報算出部は、前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出する。異常性指標算出部は、前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出する。実効値算出部は、前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号の大きさに関する値および/または前記電流電圧変換部によって変換された電流信号の大きさに関する値を算出する。計測条件決定部は、前記実効値算出部によって算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記実効値算出部によって算出された前記電流信号の大きさに関する値、および前記異常性指標算出部によって算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記身体組成計測装置の変更可能な前記計測条件を決定する。
【0008】
また、上記目的を達成するため本発明の身体組成計測装置は、計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する。身体組成計測装置は、電流投入部と、電圧検出部と、電流検出部と、電圧信号増幅部と、電流電圧変換部と、電気インピーダンス算出部と、インピーダンス軌跡算出部と、体組成情報算出部と、異常性指標算出部と、実効値算出部と、計測結果除外部と、を備える。電流投入部は、前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入する。電圧検出部は、前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号を検出する。電流検出部は、前記電流投入部によって前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体に流れる電流を検出する。電圧信号増幅部は、前記電圧検出部によって検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさに増幅する。電流電圧変換部は、前記電圧電流測定部によって測定された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換する。電気インピーダンス算出部は、前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号と前記電流電圧変換部によって変換された電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出する。インピーダンス軌跡算出部は、前記電気インピーダンス測定部によって測定された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出する。体組成情報算出部は、前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出する。異常性指標算出部は、前記インピーダンス軌跡算出部によって算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出する。実効値算出部は、前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号の大きさに関する値および/または前記電流電圧変換部によって変換された前記電流信号の大きさに関する値を算出する。計測結果除外部は、前記実効値算出部によって算出された前記電圧信号増幅部によって増幅された前記電圧信号の大きさに関する値、前記実効値算出部によって算出された前記電流電圧変換部によって変換された前記電流信号の大きさに関する値、および前記異常性指標算出部によって算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記体組成情報算出部によって算出された前記被験者の身体組成に関する情報のうち不適切なものを除外する。
【0009】
また、上記目的を達成するため本発明の身体組成計測装置の制御方法は、計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する。身体組成計測装置の制御方法は、前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入し、前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号と、前記被験者の身体に流れる電流に関する電流信号とを検出するステップ(a)と、前記ステップ(a)において検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさに増幅するステップ(b)と、前記ステップ(a)によって検出された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換するステップ(c)と、前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号と前記ステップ(c)において変換された電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出するステップ(d)と、前記ステップ(d)において算出された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出するステップ(e)と、前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出するステップ(f)と、前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出するステップ(g)と、前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号の大きさに関する値、および/または前記ステップ(a)において検出された前記被験者の身体に流れる電流信号の大きさに関する値を算出するステップ(h)と、前記ステップ(h)において算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記電流信号の大きさに関する値、および前記ステップ(g)において算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記身体組成計測装置の変更可能な前記計測条件を決定するステップ(i)と、を含む。
【0010】
また、上記目的を達成するため本発明の身体組成計測装置の制御方法は、計測条件にしたがって被験者の身体の組成を計測する。身体組成計測装置の制御方法は、前記被験者の身体に周波数の異なる複数のプローブ電流を投入し、前記複数のプローブ電流が前記被験者の身体に投入されたときにおける前記被験者の身体の所定の部位間に生じる電圧に関する電圧信号と、前記被験者の身体に流れる電流に関する電流信号とを検出するステップ(a)と、前記ステップ(a)において検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさに増幅するステップ(b)と、前記ステップ(a)によって検出された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧に変換するステップ(c)と、前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号と前記ステップ(c)において変換された電流信号とに基づいて、周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報を算出するステップ(d)と、前記ステップ(d)において算出された前記周波数ごとの電気インピーダンスに関する情報に基づいてインピーダンス軌跡を算出するステップ(e)と、前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡に基づいて、前記被験者の身体組成に関する情報を算出するステップ(f)と、前記ステップ(e)において算出された前記インピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出するステップ(g)と、前記ステップ(b)において増幅された前記電圧信号の大きさに関する値、および/または前記被験者の身体に流れる電流信号の大きさに関する値を算出するステップ(h)と、前記ステップ(h)において算出された前記電圧信号の大きさに関する値、前記電流信号の大きさに関する値、および前記ステップ(g)において算出された異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、前記ステップ(f)において算出された前記被験者の身体組成に関する情報を除外するステップ(i)と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る身体組成計測装置によれば、被験者の体格、体動、腕と脇との接触の有無などの要因により、被験者の身体組成の計測結果がばらつくことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る身体組成計測装置の概略構成を例示するブロック図である。
【
図2】
図1に示す身体組成計測装置の使用状態を表す概念図である。
【
図3】
図1に示す制御部のハードウェア構成を例示する概略ブロック図である。
【
図4】インピーダンス軌跡の一例を示すグラフである。
【
図5】身体組成計測装置の制御方法のメイン処理を例示するフローチャートである。
【
図6】
図5に示すフローチャートにおける予備計測(S102)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートである。
【
図7A】
図5に示すフローチャートにおける本計測(S103)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートである。
【
図8】
図7Bに示す電気インピーダンス測定の異常の有無を判定する処理(S322)を例示するサブルーチンフローチャートである。
【
図9】生体内における細胞における電流(電流信号)の周波に応じた流れを例示する模式図である。
【
図10】
図9に示す生体の概略的な電気等価回路図である。
【
図11A】第2の実施形態における本計測(S103)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートである。
【
図12】第3の実施形態における本計測(S103)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートである。
【
図13】ブタを使用した計測精度の検証実験における身体組成計測装置の使用状態を表す概念図である。
【
図14A】計測時間の検証実験においてV-POWERを確認した結果を例示するグラフである。
【
図14B】計測時間の検証実験においてI-POWERを確認した結果を例示するグラフである。
【
図15A】計測時間の検証実験においてR0の変動誤差(%)を確認した結果を例示するグラフである。
【
図15B】計測時間の検証実験においてR∞の変動誤差(%)を確認した結果を例示するグラフである。
【
図15C】計測時間の検証実験において異常性指標の平均値を確認した結果を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る身体組成計測装置の概略構成を例示するブロック図であり、
図2は身体組成計測装置の使用状態を表す概念図である。また、
図3は、
図1に示す制御部のハードウェア構成を例示する概略ブロック図である。
【0015】
<身体組成計測装置1の構成>
身体組成計測装置1は、被験者(患者、被介護者など)の身体Eの身体組成を計測するための装置である。身体組成計測装置1は、バッテリーにより駆動する携帯型の身体組成計測装置でありうる。携帯型の身体組成計測装置は、ベッドサイド、外来、訪問など、どのような場所においても被験者の身体組成の計測が可能である。
【0016】
図1に示すように、身体組成計測装置1は、制御部10と、電流測定部20と、信号出力部30、電圧測定部40と、記録部62と、入力部63と、スピーカー64と、表示部65と、メモリ66と、を備える。電気インピーダンス算出部120と、電流測定部20と、信号出力部30と、電圧測定部40とは、電気インピーダンス測定部50を構成する。
【0017】
記録部62は、例えば、RAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)、またはHDD(Hard Disk Drive)などによって構成されうる。
【0018】
入力部63は、例えばタッチパネル、各種キー、スイッチなどを有し、医療従事者などの操作者による指示、各種設定、被験者に関する情報などを受け付ける。操作者による指示には、例えば、計測開始/終了の指示が含まれ、各種設定には、例えば、計測結果の出力方法や表示方法に関する設定などが含まれる。また、被験者に関する情報には、被験者の性別、年齢、身長、体重、既往歴などが含まれる。
【0019】
表示部65は、身体組成計測装置1の筐体の一面に配置されたディスプレイを有する。また、表示部65は、異常などを視覚的に報知するための発光素子(LED:Light-Emitting Diode)などを備えることもできる。
【0020】
<表面電極Lc、Hc、Lp、Hp>
図2に示すように、被験者の身体Eの所定の部位に表面電極LcおよびHcと、表面電極LpおよびHpとが取り付けられ(粘着シートなどにより貼付される)、これらの表面電極は、各々接続ケーブル2A~2Dを介して身体組成計測装置1に接続されている。より具体的には、表面電極Lcは測定時において被験者の身体Eの右足甲部に取り付けられ、表面電極Hcは測定時において被験者の身体Eの右手甲部に取り付けられる。表面電極Lcは電流測定部20に接続され、表面電極Hcは信号出力部30に接続されている。表面電極Hcは、表面電極Lcと対をなしている。また、表面電極Lpは測定時において被験者の身体Eの右足甲部に取り付けられ、表面電極Hpは測定時において被験者の身体Eの右手甲部に取り付けられる。表面電極Hpは、表面電極Lpと対をなしている。
【0021】
<制御部10の構成>
図3に示すように、制御部10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM12、RAM13、補助記憶部14、および入出力I/F15を有する。補助記憶部14は、例えば、SSD、またはHDDを有する。CPU11、ROM12、RAM13、および補助記憶部14は、コンピューターを構成する。
【0022】
CPU11は、ROM12または補助記憶部14に予め保存されている制御プログラムをRAM13にロードし、実行することにより、様々な機能を実現する。ROM12は、不揮発性のメモリである。ROM12には、CPU11の演算処理に必要な各種のパラメータなどが保存されている。RAM13は、揮発性のメモリであり、CPU11による演算処理の結果や各種データを一時的に保存する。補助記憶部14には、OS(Operating System)、制御プログラムなどのプログラムや、CPU11による演算処理の結果などが保存される。入出力I/F15は、システム部(図示せず)との間においてデータを送受する入出力インターフェースである。
【0023】
制御部10は、CPU11が制御プログラム実行することにより、インピーダンス軌跡算出部110、電気インピーダンス算出部120、判断部130、報知部140、身体組成計測部150、異常性判定部160、実効値算出部170、計測条件決定部180、およびモード制御部190として機能する(再び
図1を参照)。
【0024】
<電気インピーダンス測定部50>
電気インピーダンス測定部50は、周波数の異なる複数のプローブ電流を生成し、その各周波数のプローブ電流を被験者の身体Eに印加して、各周波数のプローブ電流が被験者の身体Eに流されているときに、プローブ電流と電極間の電圧との関係から、被験者の身体Eの電気インピーダンスを算出する。なお、以下では、電気インピーダンスを算出する場合について主に説明するが、電気インピーダンスの逆数である電気アドミッタンスおよび/または電気インピーダンスを算出するように構成してもよい。
【0025】
<信号出力部30>
信号出力部30は、電流投入部として機能し、制御部10からの指示に従って被験者の身体Eに対してマルチ周波数のプローブ電流(以下、「マルチ周波数電流」という)Ibを流す。マルチ周波数電流は、周波数の異なる複数のプローブ電流である。マルチ周波数のプローブ電流は、例えば、2.5kHzから350kHzまで、2.5kHzずつ周波数を増加させた交流電流を重畳したものとすることができる。信号出力部30は、測定信号発生器31、および出力バッファ32を有する。
【0026】
測定信号発生器31は、CPU11の指示に従って、所定の周期ごとに測定信号(電流)Iaを出力バッファ32に対して出力する。測定信号発生器31が測定信号Iaを出力する周期は、例えば800nsec程度とすることができる。測定信号Iaは、上記所定の周期内において、所定の周波数間隔で随時変化する信号である。測定信号Iaは、例えば1kHz~400kHzの範囲で15kHzの周波数間隔で変化するものであってもよい。もしくは特開平10-14898号公報に示されるM系列信号のように多くの周波数成分を含んだ測定信号であってもよい。
【0027】
より具体的には、測定信号発生器31は、図示していないM系列信号発生器、矩形波発生器、および時分割器を有し、CPU11の指示に従って、周期T*(2n-1)ビット(nは正の整数)のM系列信号と、周期T*N=2*Wで(Nは2以上の整数)最初のW期間が1で残りのW期間が0である信号とを時分割で発生する。例えば、M系列信号発生器は、1.25MHzで作動する周期511(=2n-1)のM系列信号を発生するとともに、矩形波発生器は周期(32/1.25MHz)のデューティー50%の矩形波を発生する。また、時分割器は、0.8μsec=1/1.25MHzを4等分し、初めの3つの時間(0.6μsec)はM系列信号を、後の0.2μsecは矩形波を出力するように信号を切り替える制御信号を与える。
【0028】
さらに、測定信号発生器31は、CPU11の指示に従って、マルチ周波数のプローブ電流の周波数帯域を変更することができる。例えば、1~1,000kHzとすることができるし、2.5~350kHz、2.5~500kHz、2.5~750kHz、2.5~1,000kHzとすることができる。これらは一例であり、0.5kHzや1kHz単位で細かく調整する仕様としてもよい。
【0029】
出力バッファ32は、入力される測定信号Iaを定電流状態に保ちながら、マルチ周波数電流Ibとして表面電極Hcに出力する。これにより、マルチ周波数電流Ibが被験者の身体Eに流れる。なお、マルチ周波数電流Ibの電流値は特に限定されない。マルチ周波数電流Ibの電流値は、例えば100~800μA程度とすることができる。出力バッファ32は、被験者が変わっても測定信号Iaが基本的に一定となるように、人体の電気抵抗値よりも十分大きな制限抵抗を介して、測定信号Iaを印加している。なお、出力バッファ32がアナログフィルタを有する構成とし、アナログフィルタで高周波ノイズを除去した測定信号Iaを印加するようにしてもよい。
【0030】
<電流測定部20>
電流測定部20は、マルチ周波数電流Ibを電圧に変換して得られた電圧信号Vbを出力する。電流測定部20は、電流検出部24、I/V変換器23、BPF(バンドパスフィルタ)22、およびA/D変換器21を有する。
【0031】
I/V変換器23は、電流電圧変換部として機能する電流/電圧変換器である。電流検出部24は、信号出力部30によってマルチ周波数電流が被験者の身体Eに投入されたときにおける被験者の身体Eを流れるマルチ周波数電流Ibを、電流に関する電流信号に変換して検出する。I/V変換器23は、電流検出部24が検出した表面電極Hcと表面電極Lcとの間に流れるマルチ周波数電流Ibを、ゲインGiにより電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧Vbに変換する。I/V変換器23は、制御部10の指示に応じてゲインGiを変更可能に構成されている。I/V変換器23は、得られた電圧VbをBPF22に対して出力する。
【0032】
BPF22は、バンドパスフィルタである。BPF22は、電圧信号Vbから不要な帯域の信号をカットしてA/D変換器21に出力する。なお、BPF22の通過帯域は、身体組成計測装置1の仕様に応じて適宜選択することができる。BPF22の通過帯域は、例えば、約1kHz~800kHzに設定することができる。
【0033】
A/D変換器21は、制御部10からのデジタル変換指示に従って、アナログの電圧Vbをデジタルの電圧信号Vbに変換する。デジタルの電圧信号Vbは、電圧データとして、M系列信号の1周期前までの同期加算データと同期加算される形で、メモリ66に時系列的に格納される。
【0034】
メモリ66は、制御部10の求めに応じて、格納したデータを制御部10に対して送受信する。具体的には、実効値算出部70や、電気インピーダンス算出部120に対して送受信される。なお、メモリ66は、例えばSRAMにより構成することができる。
【0035】
制御部10は、同期加算部として機能し、電流測定部20から送られる電圧信号Vbのデータに対して、例えばA/D変換器21によるA/D変換の量子誤差などを除去するために、同期加算を行う。より具体的には、同期加算部は、1周期前までのM系列信号の同期加算データと今回のA/D変換後のデータとを同期加算し、メモリ66に格納する。すなわち、メモリ66には、同期加算を行った後の1周期分のM系列信号が格納されることになる。その後、メモリ66に格納した1周期分のM系列信号に対し、次のA/D変換後のデータを同様に同期加算し、メモリ66に上書きする。この様な同期加算処理を、一定回数(N回)繰り返す。
【0036】
また、A/D変換したデータをそのままメモリ66に蓄積し、後から同期加算処理を行う構成としてもよい。但し、この場合、蓄積された膨大なデータを同期加算処理する時間が必要になることや、データを蓄積するメモリのメモリ容量の制約で、充分な同期加算回数が得られないことがある。
【0037】
なお、メモリ66のi番目のデータをd(i)、同期加算値をD(n)(n=0~1021)とすると、D(n)=Σd(2*511*m+n)となる。ここで和の記号Σはm=0~31まで和をとるものとする。
【0038】
また、同期加算の繰り返し回数は、補助記憶部14に予め保存されている。また、操作者が入力部63を通じて同期加算の繰り返し回数を設定するように構成してもよい。
【0039】
このように、信号出力部30と電流測定部20とにより、電流Ibに対応するデジタル電圧信号Vbが電気インピーダンス算出部120に入力される。一方、デジタル電圧信号Vpは、電圧測定部40から電気インピーダンス算出部120に対して入力される。
【0040】
<電圧測定部40>
電圧測定部40は、信号出力部30によってマルチ周波数電流が被験者の身体Eに投入されたときにおける被験者の身体Eの所定の部位間に生じる電圧を測定する。電圧測定部40は、電圧検出部44、差動増幅器43、BPF42、およびA/D変換器41を有する。
【0041】
電圧検出部44は、表面電極Hpと表面電極Lpの間の電圧に関する電圧信号を検出する。差動増幅器43は、電圧信号増幅部として機能し、電圧検出部44により検出された表面電極Hpと表面電極Lpとの間の電圧をゲインGdにより電気インピーダンス測定に使用する大きさの電圧Vpに増幅して出力する。差動増幅器43は、制御部10の指示に応じてゲインGdを変更可能に構成されている。差動増幅器43は、電圧VpをBPF42に対して出力する。
【0042】
BPF42は、入力された電圧信号Vpから所定の帯域の信号をカットしてA/D変換器41に出力する。なお、BPF42の通過帯域は、身体組成計測装置1の仕様に応じて適宜選択することができる。BPF42の通過帯域は、例えば、約1kHz~800kHzに設定することができる。
【0043】
A/D変換器41は、制御部10からのデジタル変換指示に従って、アナログの電圧Vpをデジタルの電圧信号Vpに変換する。デジタルの電圧信号Vpは、電圧データとしてM系列信号の1周期前までの同期加算データと同期加算される形で、メモリ66に格納される。なお、電圧データに対する同期加算は、電流より変換して得られた電圧信号Vbに対するものと同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0044】
電気インピーダンス算出部120は、電気インピーダンス法に基づき、入力されたデジタル電圧信号Vb、Vpに基づき被験者の身体Eの電気インピーダンスを算出する。より具体的には、電気インピーダンス算出部120は、メモリ66に格納された、同期加算処理を規定回数繰り返した後の、電圧信号Vb、Vpに基づくデータを用いて、被験者の身体Eの電気インピーダンスを算出する。この際、電気インピーダンス算出部120は、測定信号がM系列信号のように多くの周波数成分を含んだものである場合は、まず時間の関数である電圧Vb、Vpに対してフーリエ変換処理を行う。これにより、周波数の関数であるVp(f)、Vb(f)が得られる。なお、測定信号が、周波数が随時変化する信号である場合は、周波数の関数としてVp(f)、Vb(f)が直接測定されるのでこの処理は不要である。続いて、電圧Vp(f)、Vb(f)に対して、平均化が行われた後、周波数ごとの電気インピーダンスZ(f)=Vp(f)/Vb(f)が算出される。
【0045】
電気インピーダンス算出部120は、入力されたデジタル電圧信号Vb、Vp、および算出した電気インピーダンスをRAM13に保存するとともに、インピーダンス軌跡算出部110、判断部130、および身体組成計測部150に対して出力する。以下、電圧信号Vb、Vpを測定データともいう。電気インピーダンス法の原理については後述する。
【0046】
インピーダンス軌跡算出部110は、インピーダンス算出部120から入力された各周波数における電気インピーダンスからインピーダンス軌跡の中心座標および半径を算出する。また、インピーダンス軌跡算出部110は、プローブ電流の周波数が∞であるときのレジスタンスR∞と、プローブ電流の周波数が0であるときのレジスタンスR0と、R∞/R0と、臨界周波数fcとをさらに算出する。インピーダンス軌跡算出部110は、インピーダンス軌跡、R∞、R0およびR∞/R0と、臨界周波数fcと、を判断部130、身体組成計測部150、および異常性判定部160に対して出力する。
【0047】
なお、インピーダンス軌跡算出部110は、最小二乗法を用いてインピーダンス軌跡を算出する。レジスタンスR∞およびR0は、算出されたインピーダンス軌跡とリアクタンスX=0との交点を求めることにより算出することができる。また、臨界周波数fcは、インピーダンス軌跡のうち、リアクタンスが最も小さくなる点の左右両側に位置する電気インピーダンス測定値に対応する周波数から算出することができる。
【0048】
図4は、インピーダンス軌跡の一例を示すグラフである。
図4に示すグラフの横軸はレジスタンスRであり、縦軸はリアクタンスXである。また、黒丸(「●」)または白抜きの丸(「〇」)は各周波数の電気インピーダンス測定の測定ポイント(測定値)である。同図において、黒丸は臨界周波数fcよりも高い周波数(「高周波」ともいう)の測定ポイントであり、白抜きの丸は臨界周波数fcよりも低い周波数(「低周波」ともいう)の測定ポイントである。
図4に示す例では、350KHzのドットが最も周波数の高い電流を印加した際に測定された測定値であり、2.5KHzのドットが最も周波数の低い電流を印加した際に測定された測定値である。
【0049】
インピーダンス軌跡は、各周波数の電気インピーダンス測定値にフィットするように、算出された曲線である。通常、インピーダンス軌跡は、ほぼCole-Coleの円弧となる。
【0050】
周波数が非常に低い場合、および非常に高い場合には、リアクタンスXは実質的に0となり、電気インピーダンスZは、レジスタンスRと実質的に等しくなる。このため、インピーダンス軌跡とX=0との交点のうち、レジスタンスの大きい方が、周波数が0のときのレジスタンスR0となり、レジスタンスの小さい方が、周波数が∞のときのレジスタンスR∞となる。R0は、細胞外液量を反映しているとされ、R∞は、体水分量を反映しているとされる。
【0051】
判断部130は、各周波数における電気インピーダンス測定値のインピーダンス軌跡に対する分布、およびインピーダンス軌跡の半径の大きさの少なくとも一方に基づいて電気インピーダンス測定における異常の有無を判断する。
【0052】
判断部130は、電気インピーダンス測定に異常がなかったと判断された際には、「異常なし」を示すOK信号を身体組成計測部150および報知部140に対して出力する。一方、判断部130は、電気インピーダンス測定に異常があったと判断された際には、「異常あり」を示すNG信号を身体組成計測部150および報知部140に対して出力する。
【0053】
報知部140は、OK信号が入力された際には報知を行わず、NG信号が入力された際には、被験者や身体組成計測装置1の操作者に対して異常を報知する。異常の報知方法は特に限定されない。例えば、スピーカー64から異常報知音を出力する方法や、表示部65に電気インピーダンス測定に異常があった旨を表示させる方法、またはそれらを組み合わせた方法によって異常を報知してもよい。
【0054】
身体組成計測部150は、電気インピーダンス算出値、およびインピーダンス軌跡と、入力部63から入力された被験者に関する情報とに基づいて身体組成を算出・計測する。身体組成計測部150は、少なくともOK信号が入力された際に身体組成を計測する。あるいは、身体組成計測部150は、OK信号が入力されたときにのみ身体組成を計測するものであってもよいし、OK信号が入力された際およびNG信号が入力された際の両方に身体組成を計測するものであってもよい。なお、本実施形態では、OK信号が入力されたときにのみ身体組成が計測される場合を例に挙げて説明する。
【0055】
身体組成計測部150は、体組成情報算出部として機能し、計測した身体組成を表示部65に出力する。表示部65は、計測された身体組成を表示する。判断部130より報知部140に対してNG信号が出力された場合は、電気インピーダンス測定に異常があったものとして、身体組成の計測が中止された旨が表示部65のディスプレイに表示される。
【0056】
また、身体組成計測部150は、記録部62に対しても計測した身体組成を出力する。記録部62は、計測された身体組成を記録する。
【0057】
なお、身体組成の具体的計測方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、体水分量は、回帰分析により計測することができる。具体的には、人体の導体部分、すなわち体水分部分を長さL、断面積Sの円柱と仮定する。その場合、人体の導体部分の抵抗は長さLに比例し、断面積Sに反比例する。よって、R=ρL/Sとなり、変形するとS=ρL/Rとなる。これを体積V=LSに代入すると人体の導体部分の体積VはρL2/Rと計測される。従って、体水分量(TBW)は、TBW=α+βL2/Rにより計測することができる。ここで、αとβとは統計的に求められる定数である。また、身長などの人体特徴データを上記式に加算することにより、計測される体水分量の精度を向上させることができる。具体的には、体水分量(TBW)は、TBW=α+βL2/R+γW+δAGEにより計測することで、より正確な体水分量の計測が可能となる。ここで、Wは体重であり、AGEは年齢である。なお、同様の手法により除脂肪重量(FFM)も計測することができる。
【0058】
異常性判定部160は、異常性指標算出部として機能し、インピーダンス軌跡算出部110によって算出されたインピーダンス軌跡の異常性の指標である異常性指標を算出する。異常性指標の具体的な算出方法については後述する。異常性判定部160は、異常性指標が所定の規定値(第1閾値)を超える場合、インピーダンス軌跡は異常であると判定する一方で、異常性指標が規定値以下である場合、インピーダンス軌跡は異常ではないと判定する。規定値は、例えば0.004でありうる。
【0059】
実効値算出部170は、電圧信号Vpの大きさに関する値(以下、「V-POWER」という)、および/または電流Ibに対応する電圧信号Vbの大きさ(すなわち、電流信号の大きさ)に関する値(以下、「I-POWER」という)を算出する。V-POWER、およびI-POWERは、例えば、各々電圧信号Vpの実効値Vpa、および電圧信号Vbの実効値Vbaでありうる。
【0060】
例えば、実効値算出部170は、電圧測定部から入力した電圧信号Vpのデータで、同期加算処理を規定回数繰り返した後のデータを用い、これをデジタル信号処理することにより電圧信号VpのV-POWERを算出する。また、実効値算出部170は、電流測定部から入力した電圧信号Vbのデータで、同期加算処理を規定回数繰り返した後のデータを用い、これをデジタル信号処理することにより電圧信号VbのI-POWERを算出する。より具体的には、実効値算出部170は、交流信号の実効値の定義に基づき、サンプリングした全データについて二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)を求めることによりV-POWER、およびI-POWERを算出する。
【0061】
一方、本実施形態では、出力バッファ32のコンデンサーを介して、被験者の身体Eには交流成分のみの電流Ibが印加されている。実効値は、直流成分が無い平均値が0の交流信号のデータに対して、標準偏差σと等しくなる。このため、実効値算出部170は、デジタル電圧信号Vp、Vbのデータの標準偏差σを算出することにより、各々V-POWER、およびI-POWERを算出する。
【0062】
ここで、V-POWERは、回路の処理可能な範囲内において、できる限り大きい値であることが望ましい。例えば、V-POWERは、±3σの範囲にほぼすべてのデータが収まる範囲内において上限の閾値が設定されうる。A/D変換器41の分解能が8bitである場合、V-POWERは、好適には、20~40の値に設定され、より好ましくは30~40に設定されうる。
【0063】
出力バッファ32は、人体の電気抵抗値よりも十分大きな制限抵抗を有し、計測対象の被験者が他の被験者に変わった場合でも測定信号Iaが基本的に一定となるように、上記制限抵抗を介して、測定信号Iaを印加するように構成されている。A/D変換器21の分解能が8bitである場合、I-POWERは、好適には、20~40の値に設定され、より好ましくは30~40に設定されうる。
【0064】
一方、I-POWERは、被験者の身体Eに取り付けられている表面電極の接触状態に応じて変化しうる。したがって、制御部10は、測定されたI-POWERに基づき、計測中の表面電極のいずれかが被験者の身体Eから剥がれたなどの異常を検知することができる。
【0065】
計測条件決定部180は、V-POWER、I-POWER、および異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、身体組成計測装置1の変更可能な計測条件を決定する。身体組成計測装置1において変更可能な計測条件は、例えば、差動増幅器43のゲインGd、I/V変換器23のGi、電気インピーダンス測定の周波数帯域Bw(または上限周波数)、電気インピーダンス軌跡を作成するためのデータポイント数Npなどでありうる。ただし、データポイント数Npは、周波数帯域Bwに応じて定められる。また、上限周波数は、周波数帯域Bwの上限の周波数である。計測条件を決定する方法および具体例については後述する。
【0066】
本実施形態では、身体組成計測装置1は、第1の測定モード、第2の測定モード、および第3の測定モードのいずれかで動作可能に構成されている。モード制御部190は、第1の測定モード、第2の測定モード、および第3の測定モードのうちいずれかの測定モードにより計測を実施するかを制御する。
【0067】
第1の測定モードは、電気インピーダンス測定部50によって、電流測定部20から入力された、マルチ周波数電流Ibを電圧に変換して得られた電圧信号Vbと、電圧測定部40から入力された電圧信号Vpのデータとに対して、それぞれ実施する同期加算処理の繰り返し回数が所定回数(例えば、1周期前のM系列信号の同期加算データと、次の1周期分のM系列信号との同期加算処理を合計128回×40回繰り返して実施する。128回の処理は、矩形波による疑似ノイズをキャンセルするために実施され、それを40回繰り返す処理では、回数を増やすほど非同期ノイズの除去率が高くなるために実施される)である測定モードである。以下、第1の測定モードを通常モードと呼ぶこともある。また、第2の測定モードは、第1の測定モードよりも繰り返し回数が少ない測定モードであり、第3の測定モードは、繰り返し回数が、第1の測定モードよりも多い測定モードである。例えば、第2の測定モードの繰り返し回数は、所定回数が128回×30回であり、第3の測定モードの繰り返し回数の合計回数は、128回×50回でありうる。第2の測定モードの繰り返し回数が、第1の測定モードの繰り返し回数に対して倍数で設定されてもよく、2/3倍や、1/2倍であってもよい。同様に、第3の測定モードの繰り返し回数が、第1の測定モードの繰り返し回数に対して倍数で設定されてもよく、3/2倍や、2倍であってもよい。128回×40回の繰り返し回数に対し、128回の方が増減してもよいし、40回の方が増減してもよい。
【0068】
例えば、モード制御部190は、被験者の身体組成に関する計測を、第2の測定モードから開始する。モード制御部190は、第2の測定モードによって計測を実施した際、異常性判定部160が第2の測定モードのインピーダンス軌跡が異常であると判定した場合、すなわち異常性指標が規定値を超える場合、第2の測定モードよりも同期加算処理の繰り返し回数を増やして再度計測を実施する。繰り返し回数の増分Δnは特に限定されるものではない(例えば、128回×(40+1)回、128回×(40+5)回など)。
【0069】
また、モード制御部190は、第1の測定モードによって計測を実施した際、異常性判定部160が前記第1の測定モードのインピーダンス軌跡が異常であると判定した場合、第3の測定モードで再度計測を実施しうる。より具体的には、モード制御部190は、第2の測定モードによる計測を最初に実施し、異常性判定部160が第2の測定モードのインピーダンス軌跡が異常であると判定した場合には、第1の測定モードによる計測に移行し、異常性判定部160が第1の測定モードのインピーダンス軌跡が異常であると判定した場合には、第3の測定モードによる計測に移行する。
【0070】
(身体組成計測装置1の制御方法)
以下、
図5~
図7Bを参照して、本実施形態における身体組成計測装置の制御方法について説明する。
図5はメイン処理の処理手順を例示するフローチャートである。同図に示すフローチャートの処理は、CPU11が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0071】
[メイン処理]
上述したとおり、電気インピーダンスは、被験者の体格、体動、腕と脇との接触の有無、両足の太もも同士の接触の有無などの要因により変化する可能性がある。このため、設定されている計測条件が被験者の電気インピーダンスの測定に適していない場合、身体組成計測の精度が十分に得られない可能性がある。例えば、計測時の被験者の体動が多い場合や、被験者が極端にむくんでいる場合、または被験者が極端に痩せている場合は、電気インピーダンスの測定が安定せず、インピーダンス軌跡において測定結果の飛び値が発生する可能性が高い。これは、被験者が極端にむくんでいる場合は、体内抵抗値が著しく低くなることがあり、被験者が極端に痩せている場合は、表面抵抗が高くなることがあるためである。
【0072】
そこで、本実施形態では、被験者の身体の組成を計測する本計測に先だって、本計測用の計測条件を決定するための予備的な計測(以下、「予備計測」という)を実施する。本願明細書では、予備計測とは、予備計測の後に行われる本計測用の計測条件を決定するために行われ、身体組成に関する情報の算出を直接的な目的としない計測のことをいう。また、本計測とは、予備計測によって決定された計測条件にしたがって実施され、身体組成に関する情報の算出を行う計測のことをいう。
【0073】
まず、制御部10は、予備計測用の計測条件を設定する(ステップS101)。制御部10は、各々の計測条件を予備計測用の初期値に設定する。例えば、差動増幅器43のゲインGdの初期値は、V-POWERが40程度(概ね最大値)になるように設定されうる。なお、差動増幅器43のゲインGdの初期値は、最大値からはじめてもよい。また、I/V変換器23のGiの初期値は、I-POWERが40程度(概ね最大値)になるように設定されうる。また、電気インピーダンス測定の周波数帯域Bwの初期値は、例えば、2.5kHz~350kHzに設定されうる。また、例えば、周波数帯域Bwを2.5kHzごとに測定するように、データポイント数Npを設定する。制御部10は、周波数帯域Bwが、例えば2.5kHz~350kHzである場合、データポイント数Npを350kHz/2.5kHz=140ポイントに設定する。
【0074】
次に、制御部10は、本計測における計測条件を決定するために予備計測を実施する(ステップS102)。本実施形態では、制御部10は、予備計測において、本計測よりも同期加算の繰り返し回数が少ない条件で実施する。そうすることで、予備計測にかかる時間が短縮される。加えて、予備計測では、I-POWERおよびV-POWERの算出までのステップを実施し、周波数毎の電気インピーダンスの算出やインピーダンス軌跡の算出、および身体組成の算出を行わずに、計測条件を決定し、予備計測にかかる時間をさらに短縮することもできる。なお、
図6では、I-POWER、V-POWER、および異常性指標の算出までのステップで予備計測を完了する場合について示した。
【0075】
予備計測において、異常性指標が規定値以下(より低い方が望ましい)になり、かつ、V-POWERが規定値(上限値)を超えない範囲で最大になる計測条件が選択される。また、異常性指標、V-POWER、およびI-POWERのうちのいずれかが不適切な場合は、計測条件が見直される。具体的な処理手順については後述する。
【0076】
次に、制御部10は、本計測を実施する(ステップS103)。この際、制御部10は、予備計測において決定された計測条件に計測条件を設定し、計測条件を固定した上で、身体組成計測の本計測を実施する。
【0077】
[予備計測処理]
図6は、
図5のフローチャートにおける予備計測(S102)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートである。同図に示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU11が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0078】
まず、電流投入部として機能する信号出力部30は、被験者に投入するプローブ電流の周波数帯域を設定し(S201)、被験者にM系列を用いたプローブ電流を印加する(S202)、そして、電流検出部、電圧検出部は、被験者の身体Eの所定部位間の電圧に関する電圧信号、および流れる電流に関する電流信号を検出する(ステップS203およびS204)。
【0079】
次に、電圧信号増幅部(差動増幅器43)は、検出された電圧信号を増幅する(ステップS206)。電圧信号増幅部は、ステップS204において検出された電圧信号を電気インピーダンス測定に適した大きさの電圧Vpに増幅する。
【0080】
並行して、電流電圧変換部(I/V変換器23)は、検出された電流信号を電圧信号に変換する(ステップS205)。電流電圧変換部は、ステップS203によって検出された電流信号を電気インピーダンス測定に使用する電圧信号Vbに変換する。得られた電圧信号Vp、および電圧信号Vbは、各々BPF42、22により、ノイズなどを含む所定の帯域の信号がカットされる(ステップS207、S208)。さらに、これらのデータに対しA/D変換を行い(ステップ209、S210)、M系列信号の1周期前までの同期加算データとA/D変換データとの同期加算を行うことで、電圧信号と電流信号の平均化処理を行い(ステップS211、S212)、S/N比を向上させる。その後、実効値算出部170により、平均化処理された電圧信号Vpを用いてV-POWERを、平均化処理された電圧信号Vbを用いてI-POWERをそれぞれ求める(ステップS213およびS214)。そして、時間の関数である電圧信号Vp、および電圧信号Vbそれぞれに対してフーリエ変換処理を行い、周波数の関数に変換する(ステップS215、S216)。
【0081】
なお、実際には、電流投入部、電圧信号増幅部、電流電圧変換部、および実効値算出部170は、ハードウェア(電子回路)により実現されているため、上記ステップS201~S216の処理は、同時に行われる。すなわち、電流に関する信号処理と、電圧に対する信号処理は、並行して同時に実施される。
【0082】
電気インピーダンス測定部50は、周波数の関数となったVp、およびVbに基づいて、周波数毎の電気インピーダンスに関する情報を算出し(ステップS217)、最小二乗法の演算手段によりカーブフィッティングを行うことで、インピーダンス軌跡を算出する(ステップS218)。
【0083】
次に、異常性判定部160は、異常性指標を算出する(ステップS219)。異常性判定部160は、ステップS218において算出されたインピーダンス軌跡に基づいて、異常性指標を算出する。本実施形態では、インピーダンス軌跡に対する各周波数におけるインピーダンス測定値のバラツキを異常性指標として算出する。すなわち、異常性指標が大きいほどバラツキが多く測定データのフィッティング精度が低く、異常性指標が小さいほどバラツキが少なく測定データのフィッティング精度が高いことを表す。
【0084】
より具体的には、異常性判定部160は、周波数(f)において測定された電気インピーダンスZ(f)とインピーダンス軌跡との間の所定方向における距離e(f)を算出する。距離e(f)は、例えば電気インピーダンスとインピーダンス軌跡との間の、インピーダンス軌跡の半径方向における距離であってもよく、横軸方向または縦軸方向における距離であってもよい。例えば、半径方向の場合、測定された電気インピーダンスZ(f)とインピーダンス軌跡との距離e0(f)は、電気インピーダンスZ(f)とインピーダンス軌跡の中心との距離d(f)と、半径rとを用いて、下記の数式(1)のように表せる。
【0085】
e0(f)=d(f)-r …(1)
異常性判定部160は、算出された距離e0(f)の二乗和Σe0(f)2を異常性指標として算出する。
【0086】
また、下記数式(2)に示すように、被験者の身体Eのサイズを考慮して、e0(f)をrで除算したものe0(f)/rの二乗和Σe1(f)2を異常性指標として算出することもできる。
【0087】
Σe1(f)2=Σ{e0(f)/r}2 …(2)
インピーダンス軌跡の半径rは、被験者の体型、すなわち身体Eのサイズ(長さや断面積)により大きく異なる。このため、e0(f)の大きさは、被験者の身長などによって大きく異なることとなる。距離e0(f)を半径rで除することにより、被験者の身体Eのサイズに対する異常性指標の依存性を抑制できる。すなわち、上記式(1)を用いることで、被験者の身長が高い場合と低い場合とのどちらの場合においても正確に異常性指標を算出できる。
【0088】
また、下記数式(3)に示すように、e0(f)を半径rで除算する代わりに、e0(f)を被験者の身長hで除算したものe0(f)/hの二乗和Σe2(f)2を異常性指標として算出することもできる。
【0089】
Σe2(f)2=Σ{e0(f)/h}2 …(3)
このように、異常性判定部160は、例えば、Σe0(f)2、Σe1(f)2、またはΣe2(f)2を異常性指標として算出する。
【0090】
次に、計測条件決定部180は、算出されたV-POWER、I-POWER、異常性指標は適切であるか否かを判定する(ステップS220)。計測条件決定部180は、V-POWER、I-POWER、および異常性指標に基づき、計測条件が適切であるか否かを判定する。計測条件決定部180は、測定された電圧Vpおよび電流Ibに基づくV-POWERおよびI-POWERと、インピーダンス軌跡に基づく異常性指標の数値が適正範囲である場合(ステップS220:YES)、本計測における計測条件を決定し(ステップS221)、処理を終了する(リターン)。例えば、計測条件決定部180は、V-POWERおよびI-POWERが各々20~40の範囲であり、異常性指標が規定値(例えば0.004)以下である場合に、計測条件が適切であると判定する。一方、計測条件決定部180は、V-POWERおよびI-POWERの少なくともいずれかが20~40の範囲外であるか、および/または異常性指標が規定値を超える場合に、計測条件は適切ではないと判定する。
【0091】
一方、計測条件決定部180は、計測条件が適切ではない場合(ステップS220:NO)、計測条件を変更する(ステップS222)。制御部10は、少なくともいずれかの計測条件を変更し、ステップS201の処理に戻る。制御部10は、計測条件の変更として、例えば、ゲインGd、および/またはゲインGiを一段階下げた値に設定する。また、周波数帯域については、例えば、周波数の最大値(高周波側の上限)を増減する。
【0092】
計測条件決定部180は、異常性指標が規定値(例えば、0.004)以下となり、V-POWERが上限値(例えば40)を超えない範囲で最大となるようなゲインGdを、本計測の際の計測条件としてもよい。
【0093】
また、計測条件決定部180は、周波数帯域について、異常性指標が規定値(例えば、0.004)以下となり、異常性指標が一番小さくなる周波数帯域を本計測の際の計測条件としてもよく、V-POWERが上限値(例えば40)を超えない範囲で、一番大きくなる周波数帯域を本計測の際の計測条件としてもよい。
【0094】
[本計測処理]
図7Aは、
図5のフローチャートにおける本計測(S103)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートであり、
図7Bは
図7Aに続くサブルーチンフローチャートである。
図7A、
図7Bに示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU11が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0095】
まず、制御部10は、予備計測により設定された計測条件を設定する(ステップS301)。また、モード制御部190は、被験者の身体組成に関する計測を、第2の測定モードから開始する。
【0096】
次に、ステップS302~S318において、電気インピーダンス測定部50は、被験者の身体の電気インピーダンス測定処理を行い、インピーダンス軌跡を算出する。これらの処理は、予備計測処理における被験者の身体の電気インピーダンス測定処理およびインピーダンス軌跡の算出(ステップS202~S218)と同じであるので、詳細な説明を省略する。なお、本計測において、制御部10は、電圧信号Vp、および電圧信号Vbそれぞれに対し、M系列信号の1周期前までの同期加算データとA/D変換データとの同期加算を行うが(ステップS312、S311)、この際、同期加算の繰り返し回数(平均化回数;合計128回×N回)は、第2の測定モードで設定された回数(例えばN=40として、合計128回×40回)で実施される。一般的に、本計測における平均化回数は、予備計測における平均化回数よりも多く設定される。その後、制御部10は、インピーダンス軌跡を用い、プローブ電流の周波数が∞であるときのレジスタンスR∞と、プローブ電流の周波数が0であるときのレジスタンスR0を算出する(ステップS319)。また、制御部10は、予備計測のステップS215と同様にして、インピーダンス軌跡を用い、異常性指標も算出する(ステップS320)。
【0097】
次に、異常性判定部160は、算出された異常性指標が規定値以下であるか否かを判定する(ステップS321)。制御部10は、異常性指標が規定値以下である場合(ステップS321:YES)、電気インピーダンス測定における異常の有無を判断する(ステップS322)。電気インピーダンス測定の異常の有無を判定するための判断方法の詳細については後述する。電気インピーダンス測定に異常がない場合(ステップS322:YES)、身体組成計測部150は、R0、R∞、および被験者に関する情報(特に、性別、年齢、身長、体重)に基づいて被験者の身体組成を算出し、表示する(ステップS323)。この際、身体組成計測部150は、計測結果を表示部65に送信し、表示部65は、ディスプレイに計測結果を表示する。また、身体組成計測部150は、身体組成の結果と合わせて、ステップS317において算出された電気インピーダンスに関する情報、ステップS318において算出されたインピーダンス軌跡、ステップS319において算出されたR0とR∞、およびステップS320において算出された異常性指標を、同様に表示する。さらに、記録部62はこれらの計測結果を保存する。
【0098】
一方、制御部10は、電気インピーダンス測定に異常がある場合(ステップS322:NO)、身体組成の計測を中止し、異常を報知し(ステップS324)、処理を終了する(リターン)。例えば、制御部10は、電気インピーダンス測定に異常がある旨の警告メッセージを表示部65に送信し、表示部65は上記警告メッセージをディスプレイに表示する。したがって、医療従事者などの操作者が被験者の身体Eの身体組成を誤認することを抑制できる。
【0099】
一方、制御部10は、異常性指標が規定値を超える場合(ステップS321:NO)、ステップS311、S312における平均化回数の合計回数(同期加算における繰り返し回数)を増加させる(ステップS325)。例えば、制御部10は、平均化回数の合計回数を合計128回×N回から、合計128回×(N+Δn)回に増加させる。あるいは、モード制御部190は、測定モードを第2の測定モードから第1の測定モードに切り替える。これにより、増分Δnが10回である場合、平均化回数の合計回数が合計128回×N回から、合計128回×(N+10)回に増加する。また、モード制御部190は、第1の測定モードにおいて、異常性指標が規定値を超える場合、測定モードを第1の測定モードから第3の測定モードに切り替える。これにより、平均化回数の合計回数がさらに合計128回×(N+10+10)回に増加する。異常性指標が規定値を超える場合、平均化回数の合計回数を増加させる代わりに、または平均化回数の合計回数を増加させるとともに、計測に異常がある旨を、表示部に表示したり、音や音声で知らせる等してユーザーに対して報知してもよい。
【0100】
次に、制御部10は、平均化回数の合計回数が最大回数以上であるか否かを判定する(ステップS326)。平均化回数の合計回数の最大回数は、例えば、128回×80回でありうるし、128回×120回であっても良い。制御部10は、平均化回数の合計回数が最大回数以上である場合(ステップS326:YES)、身体組成計測を中止し、異常を報知し(ステップS327)、処理を終了する(リターン)。制御部10は、測定データの精度が十分ではないと判断し、身体組成計測を中止する。また、制御部10は、十分な精度の測定データを得られない旨を操作者に報知する。あるいは、制御部10は、身体組成計測を中止せずに、計測結果を参考値として表示部65のディスプレイに表示するように制御してもよい。
【0101】
一方、制御部10は、平均化回数の合計回数が最大回数よりも小さい場合(ステップS326:NO)、再度、電気インピーダンス測定の処理(ステップS302~S325)に移行する。このように、制御部10は、平均化回数の合計回数が最大回数を超えない範囲において、平均化回数の合計回数を段階的に増加させて電気インピーダンス測定を行うことにより、インピーダンス測定値のバラツキを規定範囲に収めつつ、平均化回数を最小限とどめることができる。
【0102】
[電気インピーダンス測定の異常の有無を判断する処理(ステップS322)]
図8は、電気インピーダンス測定の異常の有無を判断する処理を例示するサブルーチンフローチャートである。同図に示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU11が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0103】
以下のステップS401においては、臨界周波数fcを指標とし、インピーダンス軌跡に対する各周波数におけるインピーダンス測定値の分布の偏りを評価することにより電気インピーダンス測定に異常がなかったか否かが判断される。ステップS402においては、R∞/R0を指標とし、インピーダンス軌跡の大きさが正常範囲以内であるか否かに基づいて電気インピーダンス測定に異常がなかったか否かが判断される。なお、ステップS401およびS402はどのような順番で判断されてもよい。以下では、ステップS401、S402の順番で実行される場合について例示して説明する。
【0104】
判断部130は、臨界周波数fcに異常があるか否かを判断する(ステップS401)。本ステップでは、臨界周波数fcを指標とし、インピーダンス軌跡に対する各周波数におけるインピーダンス測定値の分布の偏りを評価することにより臨界周波数fcに異常があるか否かが判断される。
【0105】
判断部130は、インピーダンス軌跡算出部110によって算出された臨界周波数fcがあらかじめ定められた範囲内であるか否かを判断する。判断部130は、臨界周波数fcがあらかじめ定められた範囲内にある場合、臨界周波数fcに異常はないと判断(ステップS401:YES)し、ステップS402に進む。一方、判断部130は、臨界周波数fcがあらかじめ定められた範囲外である場合、臨界周波数fcに異常があると判断する(ステップS401:NO)。したがって、判断部130は、電気インピーダンス測定に異常があると判断し(ステップS404)、処理を終了する(リターン)。
【0106】
通常、健常者であれば臨界周波数fcは50kHz前後である。ただし、臨界周波数fcには個人差がある。このため、臨界周波数fcの下限は5~20kHz程度、上限は90~150kHzであることが好ましい。すなわち、ステップS401において、臨界周波数fcの許容範囲として5~150kHz程度であり、更に10~100kHz程度の範囲が定められることが好ましい。
【0107】
判断部130は、臨界周波数fcに異常がないと判断された場合(ステップS401:YES)、R∞/R0に異常があるか否かを判断する(ステップS402)。本ステップでは、R∞/R0を指標とし、インピーダンス軌跡の大きさが正常範囲以内であるか否かに基づいて電気インピーダンス測定に異常があるか否かが判断される。判断部130は、R∞/R0があらかじめ定められた範囲内にあるか否かを判断する。判断部130は、R∞/R0があらかじめ定められた範囲内にある場合は、値R∞/R0に異常なかったと判断し(ステップS402:YES)、ステップS403に進み、電気インピーダンス測定に異常はないと判断する。
【0108】
一方、判断部130は、値R∞/R0があらかじめ定められた範囲外であるときは、R∞/R0に異常があったと判断する(ステップS402:NO)。したがって、判断部130は、電気インピーダンス測定に異常があると判断し(ステップS404)、処理を終了する(リターン)。
【0109】
通常、健常者の場合、R∞/R0の値は、0.6~0.8(60%~80%)程度となる。このため、ステップS402において、R∞/R0の許容範囲は、0.85~0.9程度以下(0%~90%程度)に設定することができる。
【0110】
なお、本実施形態では、ステップS402において、R∞/R0の値についてのみ判断する例についてのみ説明したが、R∞/R0の値とともに、R∞およびR0の各々の値についても適切な範囲内にあるか否かを判断するように構成してもよい。すなわち、R∞やR0が異常に大きくなったり異常に小さくなったりした場合にも電気インピーダンスの測定に異常があったものと判断するように構成してもよい。例えば、R∞およびR0がそれぞれ>0Ωであることを判断指標としてもよい。また、R∞およびR0がそれぞれ、100~1000Ωの範囲内であることを判断指標としてもよい。
【0111】
本実施形態では、予備計測と本計測の全体を通して、計測条件が最適化される。具体的には、インピーダンス軌跡から算出される異常性指標が規定値(例えば、0.004)以下であり、かつ、I-POWERおよびV-POWERが規定範囲内にある状態で、最もゲインGdが大きくなるように最適化される。さらに、電圧信号や、電流由来の電圧信号の同期加算の平均化回数が最適化される。
【0112】
なお、本実施形態、および
図6や
図7Aでは、予備計測ではI-POWER、V-POWER、および異常性指標を用いて計測条件を決定し、本計測では異常性指標と電気インピーダンス測定における異常の有無判断から計測結果の表示、または計測時の異常の報知を行う構成としたが、これに限らない。すなわち、予備計測において、I-POWER、V-POWER、および異常性指標に加え、本計測と同様に、電気インピーダンス測定における異常の有無判断を加えて計測条件を決定してもよい。また、本計測においても、I-POWERおよびV-POWERを判断指標に加えることや、I-POWER、V-POWER、異常性指標、および電気インピーダンス測定における異常の有無判断の、いずれか1つ以上の組合せで判定を実施しても良い。さらに、電気インピーダンス測定における異常の有無判断においても、臨界周波数fc、R∞/R0、および、R∞およびR0の各々の値、のいずれか1つ以上の組合せで判定を実施しても良い。
【0113】
[電気インピーダンス法による測定原理]
図9は生体内における細胞における電流(電流信号)の周波に応じた流れを例示する模式図であり、
図10は
図9に示す生体の概略的な電気等価回路図である。
【0114】
生体電気インピーダンス法は、生体電気インピーダンスから被験者の体水分分布や、体脂肪率、体脂肪量などといった身体組成を計測(推計)する方法である。生体電気インピーダンスは、生体中のイオンによって運送される電流に対する生体のレジスタンスと、細胞膜、組織界面、あるいは非イオン化組織によって作り出される様々な種類の分極プロセスと関連したリアクタンスとにより構成される。
【0115】
リアクタンスの逆数であるキャパシタンスは、主として電流に時間的遅れをもたらし、位相のずれ(フェーズシフト)を作り出す。このフェーズシフトは、レジスタンスに対するリアクタンスの比率の逆正接角(アークタンジェント)である電気位相角として幾何学的に定量することができる。なお、生体電気インピーダンスZの大きさは、レジスタンスをRとし、リアクタンスをXとすると、Z2=R2+X2によって定義される。
【0116】
生体電気インピーダンスZ、レジスタンスR、リアクタンスXおよび電気位相角Φは周波数依存性を有する。
図9に示すように、電流の周波数が非常に低い場合は、細胞膜と組織界面の生体電気インピーダンスZは非常に高くなる。このため、電流は細胞膜や組織界面を通じて流れず、細胞外液を通じてのみ流れる。従って、測定される生体電気インピーダンスZは、レジスタンスRと実質的に等しくなる。
【0117】
電流の周波数が増加するにつれて、電流(低周波成分)は細胞膜や組織界面を通じて流れるようになる。このため、リアクタンスXが高くなると共に、位相角Φが広がる。ただし、電流の周波数が、臨界周波数fcを超えると、細胞膜および組織界面の容量性性能が失われる。このため、電流(高周波成分)の周波数が臨界周波数fcを超えてさらに大きくなると、リアクタンスXは減少する。電流の周波数が非常に高くなると、生体電気インピーダンスZは、再びレジスタンスRと実質的に等しくなる。なお、「臨界周波数」とは、リアクタンスが最大となるときの周波数をいう。
【0118】
図10に示すように、人体の等価回路は、細胞膜容量Cmkおよび細胞内液抵抗Rikが直列に接続された回路と、細胞外液抵抗Reとの並列回路により構成されている。
【0119】
電流の周波数が低い場合、電流は主として細胞外スペースを流れる。このため、インピーダンスZは細胞外液抵抗Reと実質的に等しくなる。一方、電流の周波数が高い場合、電流は実質的に細胞膜を通るようになる。このため、細胞膜容量Cmは実質的に短絡されているものとみなされる。したがって、電流の周波数が高い場合は、インピーダンスZは、合成抵抗Ri・Re/(Ri+Re)と実質的に等しくなる。ここでCm、Riは組織全体としてのCmk、Rikの合成容量、合成抵抗を意味する。
【0120】
したがって、周波数の低い電流を印加して被験者の体の電気インピーダンスを測定することで細胞外液抵抗Reを求めることができる。また、求められた細胞外液抵抗Reと、周波数の高い電流を印加したときの被験者の体の電気インピーダンスとから、Z=Ri・Re/(Ri+Re)に基づいて細胞内液抵抗Riを求めることができる。そして、得られた細胞内液抵抗Riと細胞外液抵抗Reとに基づいて被験者の身体組成値を推計することができる。なお、被験者の身体組成の計測方法は、特に限定されず、従来既知の方法を用いることができる。
【0121】
なお、本明細書において「身体組成」とは、身体Eの組成に関わるデータ全般をいう。例えば「身体組成」は、身体の組成の量、身体Eに対する特定の組成の割合、身体Eに対する特定の組成の分布などを含む。「組成」とは、身体Eを組成するものであり、組成の具体例としては、例えば、体水分量、細胞内液量、細胞外液量、タンパク質、脂肪、カルシウム分などが挙げられる。身体組成の具体例としては、体脂肪率、被験者の身体Eに含まれる体脂肪重量、徐脂肪重量(筋肉量)、位相角(筋肉質)、体水分分布、骨密度、骨格筋量、除脂肪指数、骨格筋量指数、浮腫率などが挙げられる。体水分分布の具体例としては、細胞内液量、細胞外液量、体内水分量などが挙げられる。など、体内水分量は、細胞内液量と細胞外液量との総和である。
【0122】
<第1の実施形態における作用効果>
以上で説明した第1の実施形態の身体組成計測装置1によれば、下記の作用効果を奏する。
【0123】
身体組成計測装置1は、被検者に適した計測条件を予備計測において決定し、決定された計測条件にしたがって被験者の身体の組成を本計測において計測する。したがって、被験者の体格、体動、腕と脇との接触の有無などの要因により、被験者の身体組成の計測結果がばらつくことを抑制できる。さらに、身体組成計測装置1の計測時間を最小限に抑える構成としているため、計測中に、被験者の体動や、腕と脇との接触が発生する可能性を下げることができる。
【0124】
身体組成計測装置1は、平均化回数(同期加算の繰り返し回数)が最大回数を超えない範囲において、平均化回数を段階的に増加させて電気インピーダンス測定を行う。これにより、インピーダンス測定値のバラツキを規定範囲に収めつつ、同期加算処理の繰り返し回数を最小限にとどめることができる。したがって、電流(インピーダンス計測時には電圧信号に変換して使用)や電圧信号の平均化処理にかかる時間が計測精度に対して必要以上にかかることを防止または抑制できる。これにより、身体組成計測装置1の計測時間を最小限に抑えることができる。その結果、身体組成計測装置1がバッテリーにより駆動する携帯型である場合に、バッテリーの電力消耗を低減できる。
【0125】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、本計測に先だって、予備計測を実施することに加えて、本計測において測定された電圧、電流が適切ではない場合に計測条件を変更する場合について説明する。なお、説明の重複を避けるため、第1の実施形態と同じ構成については詳細な説明を省略する。
【0126】
図11Aは第2の実施形態における本計測(S103)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートであり、
図11Bは
図11Aに続くサブルーチンフローチャートである。
図11A、
図11Bに示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU11が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0127】
ステップS501~S524の処理は、第1の実施形態の
図7A,
図7BにおけるステップS301~S321、およびS325~S327の処理と各々同じであるので詳細な説明を省略する。また、ステップS529~S531の処理は、
図7BにおけるステップS322~S324の処理と各々同じであるので詳細な説明を省略する。
【0128】
本実施形態では、ステップS525において、電圧信号Vp、および電流Ibに対応する電圧信号Vbの大きさを算出する。ステップS525は、第1の実施形態の
図6におけるステップS213およびS214の処理と同じであるので詳細な説明を省略する。
【0129】
ステップS526において、計測条件決定部180は、測定された電圧および電流が適切であるか否かを判定する。計測条件決定部180は、V-POWER、I-POWER、および異常性指標に基づき、測定された電圧Vp、電流Ibが適切であるか否かを判定する。計測条件決定部180は、測定された電圧Vpおよび電流Ibが適切である場合(ステップS526:YES)、本計測における計測条件を維持し(ステップS527)、ステップS529の処理に移行する。例えば、計測条件決定部180は、V-POWERおよびI-POWERが各々20~40の範囲であり、異常性指標が規定値以下である場合に測定された電圧Vpおよび電流Ibは適切であると判定する。異常性指標の規定値は、例えば0.004でありうる。
【0130】
一方、計測条件決定部180は、測定された電圧Vpおよび電流Ibが適切ではない場合(ステップS526:NO)、計測条件を変更する(ステップS528)。制御部10は、少なくともいずれかの計測条件を変更し、ステップS502の処理に戻る。制御部10は、計測条件の変更として、例えば、ゲインGd、および/またはゲインGiを一段階下げた値に設定する。
【0131】
なお、上述の例では、予備計測を実施する場合について説明したが、このような場合に限定されず、予備計測を行わずに、本計測において測定された電圧、電流が適切ではない場合に計測条件を変更するように構成してもよい。
【0132】
<第2の実施形態における作用効果>
以上で説明した第2の実施形態の身体組成計測装置1によれば、第1の実施形態の効果に加えて下記の効果を奏する。
【0133】
身体組成計測装置1は、本計測において測定された電圧Vp、電流Ibが適切か否かに応じて計測条件を変更するので、被験者の体格、体動、腕と脇との接触の有無、両足の太もも同士の接触の有無などの要因により、被験者の身体組成の計測結果がばらつくことを抑制できる。
【0134】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、本計測時において、制御部10は、本計測の動作を複数回実施すると共に、制御部10は計測結果除外部としても機能し、複数回の本計測それぞれにおいてインピーダンス軌跡算出部110によって算出された、プローブ電流の周波数が∞であるときのレジスタンスR∞と、プローブ電流の周波数が0であるときのレジスタンスR0のうち不適切なもの(以下、「外れ値」ともいう)を除外する場合について説明する。不適切な計測結果を除外するのは、次の理由からである。例えば、むくんだ被験者は身体全体が低抵抗のため、最適な計測条件が定まりにくく、体動などで変動しやすい。そのため、身体組成計測を複数回行い、不適切な計測結果を除外し、残った適切な計測結果で平均化することが有用である。なお、説明の重複を避けるため、第1の実施形態と同じ構成については詳細な説明を省略する。
【0135】
図12は、第3の実施形態における本計測(S103)の処理の詳細を例示するサブルーチンフローチャートである。
図12に示すサブルーチンフローチャートの処理は、CPU11が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0136】
制御部10は、例えば、下記(a)~(c)のいずれかの方法を使用して外れ値を除去することができる。
【0137】
<(a)V-POWER、I-POWER、異常性指標を使用して外れ値を除去する方法>
まず、ステップS601において、制御部10は、予備計測により設定された計測条件を設定する。次に、ステップS602において本計測を実施する。この本計測は予め設定された回数(L回)繰り返す。回数に制限はないが、例えば3~5回に設定しても良い。複数回実施する本計測の、1回1回の本計測は、第1の実施形態の
図7A、
図7BにおけるステップS301~S324の処理と同じであるので詳細な説明を省略する。なお、
図12におけるステップS603およびS604は、
図7AにおけるステップS313およびS314と同じである。
図12におけるステップS605およびS608は、
図7BにおけるステップS318およびS320と同じである。また、
図12におけるステップS606とS607でプローブ電流の周波数が∞であるときのレジスタンスR∞と、プローブ電流の周波数が0であるときのレジスタンスR0を算出するが、これも
図7BにおけるステップS319と同様にして、算出されたインピーダンス軌跡から求められる。
【0138】
次に、ステップS609において、計測結果除外部は、L回測定した本計測のうち、不適切な測定であると判定された本計測から得られたR∞およびR0を外れ値として除外する。そして、ステップS610で、残ったR∞およびR0を用いて、R∞およびR0、それぞれの平均値を算出する。そして、そのR∞およびR0の平均値を用いて、身体組成の算出を行う。計測結果除外部は、V-POWER、I-POWER、および異常性指標、の少なくとも1つに基づいて、複数回実施した本計測のうち不適切なものを除外する。例えば、計測結果除外部は、RAM13に保存されているL回分の計測結果について、異常性指標が規定値(例えば、0.004)を超えている本計測で得られたR∞およびR0は、外れ値として除外する。
【0139】
次に、ステップS611において、制御部10は、ステップS610で得られた身体組成の計測結果と、外れ値の有無、およびR0とR∞の変動誤差を表示する。外れ値の有無は、設定した本計測のループ回数に対して、外れ値を含まなかった本計測の回数で示しても良い。すなわち、L=5で設定した計測において、外れ値と判定される計測が2回含まれた場合、3/5の様に表示してもよい。また、R0とR∞の変動誤差は、身体組成計測に用いたR∞およびR0の変動誤差を用いて算出してもよい。
<(b)計測結果の平均値μと標準偏差σを使用して外れ値を除去する方法>
制御部10は、計測回数分得られたR0およびR∞の計測結果それぞれについて、平均値μおよび標準偏差σを算出する。
【0140】
(b-1)制御部10は、複数回にわたるR0およびR∞の計測結果のうち、K回目の計測結果を除外し、残りの計測結果から平均値μ、および標準偏差σを算出する。
【0141】
(b-2)制御部10は、R0およびR∞それぞれに対し、K回目の計測結果と、上記(b-1)において算出した平均値μとを比較し、測定データが平均値μから標準偏差σの値の3倍(すなわち3σ)以上離れている場合、外れ値と判断する。
【0142】
(b-3)制御部10は、上記(b-1)、(b-2)の処理を、K=1~計測回数分、順番に実施する。
<(c)計測結果の四分位点を使用して外れ値を除去
(c-1)制御部10は、R0およびR∞それぞれの計測結果を大きい方から順番に並べ、全体の四分の一(上側四分位点)と、四分の三(下側四分位点)にあたる計測結果を定める。
【0143】
(c-2)この2つの四分位点の差の1.5倍を上側四分位点に足して、それよりも大きな計測結果は外れ値と判断する。
【0144】
(c-3)同様に、差の1.5倍を下側四分位点から引いて、それよりも小さな計測結果を外れ値と判断する。
【0145】
このように、本実施形態では、被験者の身体組成の1度の計測において本計測を連続で複数回実施し、身体組成計測部150は、計測結果除外部によって不適切な算出結果が除外され、残った身体組成に関する1つ以上の計測結果を用いて、被験者の身体組成の最終的な計測結果を算出する。
【0146】
以上では、制御部10が上記(a)~(c)のいずれかの方法を使用して外れ値を除去する場合について説明したが、このような場合に限定されない。制御部10は、上記(a)~(c)のうち複数の方法を組み合わせて使用して外れ値を除去するように構成されてもよい。また、制御部10は、上記(a)~(c)以外の方法を使用して外れ値を除去するように構成されてもよい。
【0147】
さらに、以上では、R0およびR∞それぞれに対して外れ値か否かを判定するための計算を実施する場合について説明したが、本計測の繰り返し計測の実施回数(L回)分だけ、身体組成の算出結果を複数算出し、これらに対して平均値μと標準偏差σを使用して外れ値となる身体組成結果を除去し、残った身体組成結果を用いて、被験者の身体組成の最終的な計測結果を算出しても良い。同様に、身体組成の算出結果を複数算出し、四分位点を使用して外れ値を除去し、残った身体組成結果を用いて、被験者の身体組成の最終的な計測結果を算出しても良い。さらにこれらの方法を組合わせても良い。
【0148】
このように、制御部10は、被験者の身体組成の1度の計測において本計測を連続で複数回実施することができる。この場合、計測条件決定部180は、1度の計測中における本計測中の計測条件と、次の本計測における計測条件とが同じとなるように計測条件を維持する。
【0149】
<計測精度の検証実験>
図13は、ブタを使用した計測精度の検証実験における身体組成計測装置1の使用状態を表す概念図である。
【0150】
本発明者らは、極端にむくんでいる被験者を模した評価系として、全身の抵抗値が低いブタを使用して、計測精度について検証実験を行った。
【0151】
検証実験においては、ブタの右前足と臀部とに各々表面電極Hp、Hcと、表面電極Lp、Lcとを貼り付け、身体組成計測装置1と表面電極Hp、Hc、Lp、Lcとを各々ケーブルにより接続して、ブタの電気インピーダンスを測定した。予備計測によって計測条件を設定する機能を有していない従来の身体組成計測装置の測定では、ゲインGdが8倍であったが、予備計測によって計測条件を最適化する機能を有する、本実施形態の身体組成計測装置では、計測時のゲインGdが12倍となった。
【0152】
なお、本検証実験においては、従来の身体組成計測装置と本実施形態の身体組成計測装置1のいずれにおいても、本計測を5回繰り返して行い、結果を比較した。なお、本実施形態の身体組成計測装置1においては、本計測を繰り返し実施する機能によって本計測を5回繰り返して行った。本計測の繰り返し機能を有していない従来の身体組成計測装置においては、計測条件を固定して身体組成計測を連続で5回実施することで代替した。
【0153】
下記表1に、従来の身体組成計測装置と、本実施形態の身体組成計測装置1について、R0、R∞、および異常性指標の平均値、偏差、および誤差率の比較結果を示す。表1において、R0、R∞、および異常性指標の平均は、同じ計測条件において5回測定を行って平均した結果である。また、本実施形態の身体組成計測装置1については、同じ条件下で、3回評価を行った。
【0154】
【0155】
本実施形態の身体組成計測装置1については、R0の誤差率、R∞の誤差率、および異常性指標の平均いずれも良好な結果が得られた。
【0156】
一方、従来の身体組成計測装置では、R0、R∞の誤差率は低いが、異常性指標の平均が1.0を超えているので、インピーダンス軌跡上の測定データのフィッティングが十分ではない。
【0157】
このように、上記検証実験の結果から、本実施形態の身体組成計測装置1は、従来の身体組成計測装置よりも計測精度が高いことが確認された。
【0158】
<計測時間の検証実験>
図14Aは計測時間の検証実験においてV-POWERを確認した結果を例示するグラフであり、
図14Bは計測時間の検証実験においてI-POWERを確認した結果を例示するグラフである。また、
図15Aは計測時間の検証実験においてR0の変動誤差(%)を確認した結果を例示するグラフであり、
図15Bは計測時間の検証実験においてR∞の変動誤差(%)を確認した結果を例示するグラフである。また、
図15Cは、計測時間の検証実験において異常性指標の平均値を確認した結果を例示するグラフである。
【0159】
本発明者らは、極端にむくんでいる被験者を模した評価系として、全身の抵抗値が低いブタを使用して、計測時間について検証実験を行った。表面電極Hp、Hc、Lp、Lcの取り付け位置は、計測精度の検証実験(
図13)と同じである。
【0160】
計測時間は、通常モード(平均化回数、すなわち同期加算の繰り返し回数が合計128回×40回)において、59.71±0.08秒であった。一方、2/3モード(平均化回数を通常モードの概ね2/3である合計128回×27回(通常モードの平均化回数を100%とした場合に67%))における計測時間は、39.00±0.07秒(65.3%)であった。また、同様に、1/2モード(平均化回数を通常モードの1/2である合計128回×20回(通常モードの平均化回数を100%とした場合に50%))における計測時間は、28.67±0.05秒(48.0%)であった。
【0161】
また、計測時間の検証実験においてV-POWERを確認した結果、測定した電圧信号Vpに異常が無いことを確認した。具体的には、
図14Aに示すように、通常モード、2/3モード(2/3時間)、1/2モード(1/2時間)について、それぞれ5回計測を実施し、V-POWERを測定した結果、いずれも30~40の範囲に収まった。なお、より平均化回数を減らしたことから、精度への悪影響が懸念される1/2モード(1/2時間)については、再度同じ評価を実施したが(
図14A中1/2時間丸2)、1回目(
図14A中1/2時間丸1)と同じ結果が得られた。この結果より、2/3モード(2/3時間)、1/2モード(1/2時間)のいずれにおいても、V-POWERは問題ないことが明らかとなった。
【0162】
また、計測時間の検証実験においてI-POWERを確認した結果、測定した電流信号Ibに異常が無いことを確認した。
図14Bに示すように、通常モード、2/3モード(2/3時間)、1/2モード(1/2時間)について、それぞれ5回計測を実施し、I-POWERを測定した結果、いずれも30~40の範囲に収まった。なお、精度への悪影響が懸念される1/2モード(1/2時間)については、再度同じ評価を実施したが(
図14B中1/2時間丸2)、1回目(
図14B中1/2時間丸1)と同じ結果が得られた。この結果より、2/3モード(2/3時間)、1/2モード(1/2時間)のいずれにおいても、I-POWERは問題ないことが明らかとなった。
【0163】
また、計測時間の検証実験においてR0の変動誤差(%)を確認した結果、算出したR0の変動誤差に異常が無いことを確認した。具体的には、
図15Aに示すように、通常モード(
図15A中「無し」と表記)、2/3モード(
図15A中「2/3倍」と表記)、1/2モード(
図15A中「1/2倍」と表記)について、それぞれ5回計測を2度ずつ実施し、R0の変動誤差(誤差率)を算出した結果、いずれも基準値として設定した2%を下回った。この結果より、2/3モード(2/3時間)、1/2モード(1/2時間)のいずれにおいても、R0の計測精度は問題ないことが明らかとなった。
【0164】
また、計測時間の検証実験においてR∞の変動誤差(%)を確認した結果、算出したR∞の変動誤差に異常が無いことを確認した。具体的には、
図15Bに示すように、通常モード(
図15B中「無し」と表記)、2/3モード(
図15B中「2/3倍」と表記)、1/2モード(
図15B中「1/2倍」と表記)について、それぞれ5回計測を2度ずつ実施し、R∞の変動誤差(誤差率)を算出した結果、いずれも基準値として設定した2%を下回った。この結果より、2/3モード(2/3時間)、1/2モード(1/2時間)のいずれにおいても、R∞の計測精度は問題ないことが明らかとなった。
【0165】
また、計測時間の検証実験において異常性指標の平均値を確認した結果、算出した異常性指標の平均値に異常が無いことを確認した。具体的には、
図15Cに示すように、通常モード(
図15C中「無し」と表記)、2/3モード(
図15C中「2/3倍」と表記)、1/2モード(
図15C中「1/2倍」と表記)について、それぞれ5回計測を2度ずつ実施し、異常性指標の平均値を算出した結果、いずれも基準値として設定した0.004を下回った。この結果より、2/3モード(2/3時間)、1/2モード(1/2時間)のいずれにおいても、インピーダンス軌跡の算出精度は問題ないことが明らかとなった。
【0166】
このように、上記検証実験の結果から、本実施形態の身体組成計測装置1は、従来の身体組成計測装置と同等の計測精度を保った状態で、計測時間を大きく短縮可能であることが確認された。
【0167】
<第3の実施形態における作用効果>
以上で説明した第3の実施形態の身体組成計測装置1によれば、第1および第2の実施形態の効果に加えて下記の効果を奏する。
【0168】
身体組成計測装置1は、計測結果の外れ値を除外して最終的な計測結果を算出するので、被験者の身体組成の計測精度を向上できる。
【0169】
以上のように、実施形態において、本発明の身体組成計測装置、制御方法、および制御プログラムについて説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0170】
例えば、電気インピーダンス、インピーダンス軌跡の代わりに、あるいは電気インピーダンス、インピーダンス軌跡に加えて、電気アドミッタンス、アドミッタンス軌跡を算出するように構成してもよい。また表面電極の取付箇所は、手や足には限定されない。
【0171】
また、制御プログラムは、USBメモリ、フレキシブルディスク、CD-ROMなどのコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネットなどのネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、メモリやストレージなどに転送され記憶される。また、この制御プログラムは、例えば、単独のアプリケーション・ソフトウェアとして提供されてもよいし、サーバーの一機能としてその各装置のソフトウェアに組み込んでもよい。
【0172】
また、実施形態において制御プログラムにより実行される処理の一部または全部を回路などのハードウェアに置き換えて実行されうる。
【0173】
また、同期加算の繰り返し回数について、通常モードとして、1周期前のM系列信号の同期加算データと、次の1周期分のM系列信号との同期加算処理を合計128回×40回実施することについて説明したが、これに限定されない。矩形波による疑似ノイズをキャンセルするために実施される128回の処理についても、自由に設定することができる。また、この矩形波による疑似ノイズをキャンセルするために実施される処理回数について、信号出力部のM系列発生器や矩形波発生器に合わせて設定してもよく、本実施形態においては、32回×40回と設定することや、(32回×A倍)×40回といった様に、32回の倍数の回数に設定してもよい。さらに、測定モード間で、矩形波による疑似ノイズをキャンセルするために実施される同期加算処理の繰り返し回数を増減するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0174】
1 身体組成計測装置、
10 制御部、
20 電流測定部、
21 A/D変換器、
22 BPF、
23 I/V変換器、
24 電流検出部、
30 信号出力部、
31 測定信号発生器、
32 出力バッファ、
40 電圧測定部、
41 A/D変換器、
42 BPF、
43 差動増幅器、
44 電圧検出部、
50 電気インピーダンス測定部、
62 記録部、
63 入力部、
64 スピーカー、
65 表示部、
66 メモリ、
110 インピーダンス軌跡算出部、
120 電気インピーダンス算出部、
130 判断部、
140 報知部、
150 身体組成計測部、
160 異常性判定部、
170 電圧電流算出部、
180 計測条件決定部、
190 モード制御部。