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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145714
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】容積型圧縮機及び冷凍機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20241004BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20241004BHJP
   F16K 3/26 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F04C18/02 311Y
F04C18/02 311W
F04C29/02 321A
F16K3/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058187
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】外山 俊之
【テーマコード(参考)】
3H039
3H053
3H129
【Fターム(参考)】
3H039AA06
3H039AA12
3H039BB11
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC27
3H039CC41
3H053AA21
3H053BA02
3H053BA04
3H053DA01
3H129AA02
3H129AA14
3H129AA21
3H129AB03
3H129CC12
3H129CC22
3H129CC32
(57)【要約】
【課題】摺動面への油の供給不足を抑制する。
【解決手段】容積型圧縮機は、ケーシングと、固定部と可動部の摺動面との間に形成された圧縮室と、可動部に連結された駆動軸と、油を貯留する貯留部と、圧縮室を形成する摺動面に、油を供給する複数の給油路と、流路を開閉する開閉機構と、を備え、複数の給油路は、第1給油路と、第2給油路とを有し、開閉機構は、前記第2給油路に設けられ、開閉機構は、駆動軸の回転数が基準値以下の範囲において、運転差圧によらず第2給油路の流路を開放し、圧縮室への油の流入量は、複数の給油路を流れる油の流量の合計で規定され、圧縮室への油の流入量は、駆動軸の回転数が基準値を超える場合に、第1流入量であり、圧縮室への油の流入量は、駆動軸の回転数が基準値以下の場合に、第1流入量より多い第2流入量である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内において、固定部と可動部の摺動面との間に形成された圧縮室と、
前記ケーシング内に収容され、前記可動部に連結された駆動軸と、
前記ケーシング内に形成され、油を貯留する貯留部と、
前記圧縮室を形成する前記摺動面に、前記油を供給する複数の給油路と、
前記複数の給油路の1つに設けられ、流路を開閉する開閉機構と、を備え、
前記複数の給油路は、第1給油路と、第2給油路とを有し、
前記開閉機構は、前記第2給油路に設けられ、
前記開閉機構は、前記駆動軸の回転数が基準値以下の範囲において、運転差圧によらず前記第2給油路の流路を開放し、
前記圧縮室への前記油の流入量は、前記複数の給油路を流れる前記油の流量の合計で規定され、
前記圧縮室への前記油の流入量は、前記駆動軸の回転数が前記基準値を超える場合に、第1流入量であり、
前記圧縮室への前記油の流入量は、前記駆動軸の回転数が前記基準値以下の場合に、前記第1流入量より多い第2流入量である、容積型圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮室は、冷凍サイクルにおける冷媒を圧縮する圧縮室であり、
前記油の流入量は、前記冷媒の循環質量流量に対する前記油の質量流量の割合に基づいて決定されている、請求項1に記載の容積型圧縮機。
【請求項3】
前記開閉機構は、前記駆動軸の任意の回転数において開閉可能である、請求項1又は2に記載の容積型圧縮機。
【請求項4】
前記開閉機構は、
弁体と、
前記弁体を付勢するバネと、を備え、
前記弁体の挙動は、クランク室と前記弁体の背面との間の圧力差による駆動力と、前記バネによる力とに応じて規定されている、請求項1又は2に記載の容積型圧縮機。
【請求項5】
前記クランク室と前記弁体の背面との間の圧力差は、前記駆動軸の回転数に応じて規定されている、請求項4に記載の容積型圧縮機。
【請求項6】
前記弁体は、円柱状を成し、
前記弁体には、
前記弁体の軸線方向に延びる第1穴と、
前記第1穴と連通し、前記弁体の径方向に延びる第2穴と、
前記第2穴と連通し、前記弁体の外周面に形成され周方向に連続する溝と、が形成され、
前記弁体の背面側には、前記弁体を付勢する前記バネが配置され、
前記弁体を収容する弁収容部を有するハウジングには、前記弁体の背面側の空間と、前記圧縮室の出口側の空間とを連通する連通穴が形成されている、請求項4に記載の容積型圧縮機。
【請求項7】
前記駆動軸の一端は、前記貯留部の内部に配置され、
前記駆動軸の他端には、偏心軸が設けられ、
前記可動部は、前記偏心軸に嵌るボス部を有する可動スクロールであり、
前記駆動軸の内部には、当該駆動軸の軸方向に延びる第1油流路及び第2油流路が形成され、
前記第1油流路は、前記ボス部と前記偏心軸との間の摺動部に供給された前記油を、前記貯留部に戻す排油流路であり、
前記第2油流路は、前記貯留部の前記油を前記摺動部に供給する給油流路である、請求項1又は2に記載の容積型圧縮機。
【請求項8】
前記開閉機構は、運転回転数30rps以下で開閉し、
前記油の流入量は、1wt%以上である、請求項1又は2に記載の容積型圧縮機。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の容積型圧縮機と、
前記容積型圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器と、
前記凝縮器で凝縮された前記冷媒を膨張させる膨張弁と、
前記膨張弁で膨張した前記冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備えた冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、容積型圧縮機及び冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば空気調和装置に適用される冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器を備える。圧縮機として、容積型圧縮機が利用される場合がある(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、容積型圧縮機として、スクロール圧縮機が開示されている。特許文献1に記載のスクロール圧縮機は、固定スクロール及び旋回スクロールを有する。固定スクロール及び旋回スクロールは、互いに対向し摺動する摺動面を含む。固定スクロール及び旋回スクロールの摺動面の間には、油が供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7104360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容積型圧縮機は、運転中において駆動軸の回転数が変化する。例えば、所定の回転数において、圧縮室を形成する摺動面への油の供給が不足するおそれがある。本開示は、摺動面への油の供給不足を抑制することが可能な容積型圧縮機及び冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る容積型圧縮機は、ケーシングと、ケーシング内において、固定部と可動部の摺動面との間に形成された圧縮室と、ケーシング内に収容され、可動部に連結された駆動軸と、ケーシング内に形成され、油を貯留する貯留部と、圧縮室を形成する摺動面に、油を供給する複数の給油路と、複数の給油路の1つに設けられ、流路を開閉する開閉機構と、を備え、複数の給油路は、第1給油路と、第2給油路とを有し、開閉機構は、前記第2給油路に設けられ、開閉機構は、駆動軸の回転数が基準値以下の範囲において、運転差圧によらず第2給油路の流路を開放し、圧縮室への油の流入量は、複数の給油路を流れる油の流量の合計で規定され、圧縮室への油の流入量は、駆動軸の回転数が基準値を超える場合に、第1流入量であり、圧縮室への油の流入量は、駆動軸の回転数が基準値以下の場合に、第1流入量より多い第2流入量である。
【0006】
本態様の容積型圧縮機では、駆動軸の回転数が基準値以下の範囲において、運転差圧によらず、開閉機構は第2給油路の流路を開放する。このとき、圧縮室への油の流入量は、複数の給油路を流れる油の流量の合計で規定される。駆動軸の回転数が基準値を超える場合には、圧縮室への油の流量は、第1流入量である。駆動軸の回転数が基準値以下の場合には、圧縮室への油の流量は、第1流入量よりも多い第2流入量である。これにより、圧縮室への油の流入量を増やし、摺動面への油の供給不足を抑制することができる。
【0007】
本開示の一態様に係る容積型圧縮機は、圧縮室は、冷凍サイクルにおける冷媒を圧縮する圧縮室であり、油の流入量は、冷媒の循環質量流量に対する油の質量流量の割合に基づいて決定されている。これにより、冷凍サイクルにおいて冷媒を圧縮する圧縮室に油を供給することができる。本態様の容積型圧縮機によれば、冷凍サイクルにおける冷媒の循環質量流量に応じて適切な油の流入量が決定されることにより、摺動面への油の供給不足を抑制することができる。
【0008】
本態様の容積型圧縮機において、開閉機構は、駆動軸の任意の回転数において開閉可能である。駆動軸が任意の回転数となった場合に、開閉機構は、第2給油路の流路を開放又は閉鎖できる。
【0009】
本開示の一態様に係る容積型圧縮機において、開閉機構は、弁体と、弁体を付勢するバネと、を備え、弁体の挙動は、クランク室と弁体の背面との間の圧力差による駆動力と、バネによる力とに応じて規定されている。なお、ここでいう「弁体の挙動」とは、弁体の移動でもよい。容積型圧縮機では、クランク室と弁体の背面との間の圧力差による駆動力と、バネによる力とに応じて、弁体の挙動が規定されることにより、摺動面への油の供給不足を抑制することができる。
【0010】
本態様の容積型圧縮機において、クランク室と弁体の背面との間の圧力差は、駆動軸の回転数に応じて規定されている。本態様の容積型圧縮機では、駆動軸の回転数に応じて、クランク室と弁体の背面との圧力差が規定されることにより、この圧力差による駆動力と、バネによる力とに応じて、弁体の挙動が規定される。
【0011】
本開示の一態様に係る容積型圧縮機において、弁体は、円柱状を成し、弁体には、弁体の軸線方向に延びる第1穴と、第1穴と連通し、弁体の径方向に延びる第2穴と、第2穴と連通し、弁体の外周面に形成され周方向に連続する溝と、が形成され、弁体の背面側には、弁体を付勢するバネが配置され、弁体を収容する弁収容部を有するハウジングには、弁体の背面側の空間と、圧縮室の出口側の空間とを連通する連通穴が形成されている。
【0012】
この容積型圧縮機では、弁体の背面側の空間と、圧縮室の出口側の空間とが連通しているので、圧縮室の出口側の圧力を、弁体の背面側に作用させることができる。この容積型圧縮機では、圧縮室の出口側の圧力を弁体の背面側に作用させることにより、弁体の背面側に作用する圧力と、弁体を付勢するバネによる力とに応じて、弁体の挙動が規定される。この容積型圧縮機では、弁体を移動させることにより、摺動面へ油を適切に供給することができ、油の供給不足を抑制することができる。
【0013】
本開示の一態様に係る容積型圧縮機において、駆動軸の一端は、貯留部の内部に配置され、駆動軸の他端には、偏心軸が設けられ、可動部は、偏心軸に嵌るボス部を有する可動スクロールであり、駆動軸の内部には、当該駆動軸の軸方向に延びる第1油流路及び第2油流路が形成され、第1油流路は、ボス部と偏心軸との間の摺動部に供給された油を、貯留部に戻す排油流路であり、第2油流路は、貯留部の油を摺動部に供給する給油流路である、
【0014】
本態様の容積型圧縮機では、第1油流路及び第2油流路が、駆動軸の内部において軸方向に形成されている。貯留部の油は、第2油流路を流れて、ボス部と偏心軸との間の摺動部に供給される。ボス部と偏心軸との間の摺動部に供給された油は、第1油流路を流れて、貯留部に戻る。本態様の容積型圧縮機では、貯留部と摺動部との間で油を循環させることができる。
【0015】
本開示の一態様に係る容積型圧縮機において、開閉機構は、運転回転数30rps以下で開閉し、油の流入量は、1wt%以上である。
【0016】
本開示の一態様に係る冷凍機は、上記の容積型圧縮機と、容積型圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器と、凝縮器で凝縮された冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張弁で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係るスクロール圧縮機を備える冷凍機を示す概略図である。
図2】第1実施形態に係るスクロール圧縮機を示す縦断面図である。
図3】スクロール圧縮機の要部を示す縦断面図である。
図4】固定スクロールの底面図である。
図5】弁機構を拡大して示す断面図であり、第2給油路が開放されている状態を示す図である。
図6】弁機構を拡大して示す断面図であり、第2給油路が閉鎖されている状態を示す図である。
図7】弁機構の弁体を示す斜視図である。
図8】弁機構の弁体を示す断面図である。
図9】弁機構が開状態である場合の第1給油路及び第2給油路の等価回路を示す図である。
図10】弁機構が閉状態である場合の第1給油路及び第2給油路の等価回路を示す図である。
図11】弁機構の弁体を示す正面図であり、弁体の寸法及び面積Shの範囲を示す図である。
図12】弁機構の弁体を示す側面図であり、弁体の寸法を示す図である。
図13】運転回転数Nとクランク室差圧ΔPcrとの関係を示すグラフである。
図14】従来技術に係るスクロール圧縮機における弁開閉領域を示すグラフである。
図15】一実施形態に係るスクロール圧縮機における弁開放領域を示すグラフである。
図16】第2実施形態に係るスクロール圧縮機の要部を示す縦断面図である。
図17】第2実施形態に係るスクロール圧縮機の駆動軸の下端部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照しながら、本発明の限定的でない実施例について説明する。なお、添付図面では同一又は対応する部材又は部品には同一又は対応する参照符号が付される。また、以下では同一又は対応する部材又は部品の重複する説明を省略する。また、図面では部材又は部品は必ずしも縮尺通りには描かれていない。従って、当業者は、以下の限定的でない実施例を参照して具体的な寸法を任意に決定できる。また、以下の実施例は発明を限定するものではなく例示するものである。また、実施例に記述される特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
[第1実施形態に係る冷凍機の概要]
図1を参照して、第1実施形態に係るスクロール圧縮機10を備える冷凍機100について説明する。図1に示される冷凍機は、例えば、空気調和装置、冷凍機器、及び冷蔵機器に利用される。冷凍機100は、その他の機器に利用されてもよい。冷凍機100は冷凍サイクルを実行する。冷凍機100の冷凍サイクルは、蒸気圧縮式冷凍サイクルである。冷凍機100は、スクロール圧縮機10、凝縮器2、膨張弁3、及び蒸発器4を備える。スクロール圧縮機10は、容積型圧縮機の一例である。
【0020】
冷凍機100の作動流体である冷媒は、特に限定されない。スクロール圧縮機10は、冷媒ガスを圧縮する。凝縮器2は、スクロール圧縮機10によって圧縮された冷媒ガスを凝縮する。膨張弁3は、凝縮器2によって凝縮された冷媒を膨張させる。蒸発器4は、膨張弁3によって膨張された冷媒を蒸発させる。蒸発器4で蒸発した冷媒ガスは、スクロール圧縮機10に吸入される。
【0021】
スクロール圧縮機10は、冷媒ガスを可逆断熱圧縮する。凝縮器2に供給された冷媒ガスは、定圧で放熱して液化する。液化した冷媒は、膨張弁3でエンタルピー一定で不可逆膨張して、冷媒の一部が蒸発する。冷媒は、蒸発器4において定圧で吸熱する。
【0022】
冷凍機100は、冷媒が流れる配管L11~L14を備える。配管L11は、蒸発器4とスクロール圧縮機10とを接続する吸入配管である。配管L12は、スクロール圧縮機10と凝縮器2とを接続する。配管L13は、凝縮器2と膨張弁3とを接続する。配管L14は、膨張弁3と蒸発器4と接続する。
【0023】
冷媒ガスは、配管L11を流れて、スクロール圧縮機10に吸入される。スクロール圧縮機10で圧縮された冷媒ガスは、配管L12を流れて、凝縮器2に供給される。凝縮器2で液化した冷媒液は、配管L13を流れて、膨張弁3に流入する。膨張弁3で膨張した冷媒は、配管L14を流れて、蒸発器4に供給される。蒸発器4で吸熱した冷媒ガスは、配管L11を流れて、スクロール圧縮機10に供給される。
【0024】
[第1実施形態に係るスクロール圧縮機]
次に、図2図4を参照して、スクロール圧縮機10について説明する。スクロール圧縮機10は、ケーシング20、電動機30、駆動軸11、圧縮機構40、及びハウジング50を備える。ケーシング20は、電動機30、駆動軸11、圧縮機構40、及びハウジング50を収容する。本明細書において、「上」及び「下」を用いるが、これは、スクロール圧縮機10を平坦面に配置した状態における「上」及び「下」である。
【0025】
[ケーシング]
ケーシング20は、円筒状の密閉容器である。ケーシング20は、貯留部21を含む。貯留部21は、ケーシング20の底部に形成されている。貯留部21は、潤滑油を貯留する。潤滑油は、冷凍機油である。ケーシング20には、吸入管12及び吐出管13が接続されている。吸入管12は、ケーシング20の上部に接続されている。吐出管13は、ケーシング20の中間部に接続されている。ケーシング20の中間部は、ケーシング20の底部と上部との間に配置されている。
【0026】
[電動機]
電動機30には、インバータを介して電力が供給される。電動機30の周波数(回転数)は可変である。電動機30は、固定子31及び回転子32を備える。固定子31は、ケーシング20の内壁に固定されている。回転子32は、ケーシング20の径方向において、固定子31の内側に配置されている。回転子32は、駆動軸11に固定されている。回転子32は、駆動軸11と共に回転する。
【0027】
[駆動軸]
駆動軸11は、上下方向に延びる。駆動軸11は、ハウジング50を貫通する。ハウジング50は、ケーシング20の中間部に配置されている。駆動軸11は、ケーシング20の中心軸に沿って配置されている。駆動軸11は、主軸14及び偏心軸15を有する。主軸14は、電動機30の回転軸である。偏心軸15は圧縮機構40の偏心軸である。偏心軸15は、ハウジング50よりも上方に配置され、主軸14は、ハウジング50よりも下方に配置されている。偏心軸15の外径は、主軸14の外径よりも小さい。偏心軸15の軸心は、駆動軸11の径方向において、主軸14の軸心に対して偏心している。
【0028】
スクロール圧縮機10は、下部軸受22及び上部軸受51を有する。下部軸受22及び上部軸受51は、ケーシング20の内部に配置されている。上部軸受51は、ケーシング20の内壁に固定されている。下部軸受22は、主軸14を回転可能に支持する。下部軸受22は、固定子31及び回転子32の下方に配置されている。
【0029】
ハウジング50は、上部軸受51を含む。主軸14の上部は、上部軸受51に回転可能に支持されている。
【0030】
図3に示されるように、偏心軸15の上端部には、軸側凹部17が形成されている。駆動軸11の軸方向に見て、軸側凹部17の中心は、偏心軸15の軸心と同じ位置でもよい。ここでいう同じ位置は、略同じ位置を含む。軸側凹部17は、駆動軸11の軸方向において内側(下側)に凹む。
【0031】
[ハウジング]
図2に示されるように、ハウジング50は、ケーシング20の内壁に固定されている。ハウジング50の下方に、電動機30が配置されている。ハウジング50の上方に、圧縮機構40が配置されている。ハウジング50は、圧縮機構40を下方から支持する。ハウジング50は、圧縮機構40を下方から覆う。吐出管13の流入端は、ケーシング20の内部において、ハウジング50と電動機30との間に配置されている。
【0032】
ハウジング50は、偏心軸15を収容する部分、及び、駆動軸11を回転可能に支持する軸受として機能する部分を含む。ハウジング50は、軸受を収容する部分を含んでもよい。
【0033】
ハウジング50は、例えば円筒状を成す。ハウジング50は、ケーシング20の軸方向において所定の長さを有する。ハウジング50の上部の外径は、ハウジング50の下部の外径よりも大きい。ハウジング50の上部の内径は、ハウジング50の下部の内径よりも大きい。
【0034】
図2に示されるように、ハウジング50は、上部軸受51、環状部52、及び凹部53を含む。環状部52は、筒状を成す。環状部52は、ケーシング20の内周面に沿って配置されている。凹部53は、ケーシング20の径方向において、環状部52の内側に形成されている。凹部53は、下方に凹むように形成されている。上部軸受51は、ケーシング20の軸方向において、凹部53よりも電動機30に近い方に配置されている。凹部53は、ケーシング20の軸方向において、上部軸受51よりも圧縮機構40に近い位置に配置されている。上部軸受51は、例えば滑り軸受でもよい。上部軸受51は、ハウジング50と一体として形成されていてもよく、ハウジング50とは別体として形成されていてもよい。ハウジング50は、ハウジング50とは別体である軸受を保持してもよい。
【0035】
凹部53は、図3に示すクランク室54を形成する。クランク室54は、圧縮機構40の旋回スクロール70のボス部73を収容する。凹部53は、偏心軸15が移動可能な空間を形成する。
【0036】
ハウジング50は、ケーシング20の内部に圧入されている。ハウジング50の環状部52の外周面は、ケーシング20の内周面に密着している。ケーシング20の内部は、上部空間23と下部空間24に仕切られている。ハウジング50は、ケーシング20の内部を、上部空間23と、下部空間24とに仕切る。上部空間23には圧縮機構40が配置されている。下部空間24には電動機30が配置されている。ケーシング20のうち、上部空間23を形成する部分は、圧縮機構40を収容する。ケーシング20のうち、下部空間24を形成する部分は、電動機30を収容する。
【0037】
圧縮機構40は、固定スクロール60及び旋回スクロール70を備える。固定スクロール60は、ハウジング50に固定されている。固定スクロール60は、ハウジング50の環状部52の上部開口を閉じるように配置されている。固定スクロール60及びハウジング50によって囲まれた空間は、気密性が確保されている。旋回スクロール70は、固定スクロール60とハウジング50によって囲まれた空間内に配置されている。固定スクロール60及び旋回スクロール70は、ケーシング20の中心軸方向に噛み合っている。固定スクロール60は、固定部の一例である。旋回スクロール70は、可動部の一例である。
【0038】
[固定スクロール]
図2及び図4に示されるように、固定スクロール60は、固定側鏡板61、固定側ラップ62、及び外周壁63を備える。固定側鏡板61は、円板状を成す。固定側鏡板61の板厚方向は、ケーシング20の中心軸方向に沿う。固定側ラップ62は、インボリュート曲線を描く渦巻き壁状(板状)に形成されている。固定側ラップ62の厚さ方向は、駆動軸11の軸方向と交差する方向である。固定側ラップ62は、固定側鏡板61の下面(前面)から下方に突出している。外周壁63は、固定側ラップ62の外周側を囲むように、略筒状に形成されている。外周壁63は、固定側鏡板61の下面から下方に突出している。固定側ラップ62の先端面(下面)と外周壁の先端面(下面)とは、概ね同じ高さに位置している。
【0039】
[旋回スクロール]
旋回スクロール70は、旋回側鏡板71、旋回側ラップ72、及びボス部73を備える。旋回側鏡板71は、円板状を成す。旋回側ラップ72は、インボリュート曲線を描く渦巻き壁状(板状)に形成されている。旋回側ラップ72の厚さ方向は、駆動軸11の軸方向と交差する方向である。旋回側ラップ72は、旋回側鏡板71の上面(前面)から上方に突出している。旋回スクロール70は、旋回側ラップ72が固定スクロール60の固定側ラップ62と噛み合うように配置されている。旋回側ラップ72の側面は、固定側ラップ62と接触可能な摺動面を含む。旋回側ラップ72の二つの側面(内面及び外面)は、旋回側ラップ72の厚さ方向に対向する面である。旋回側ラップ72の側面は、固定側ラップ62と対向する面を含む。旋回側ラップ72の側面は、可動部の摺動面の一例である。可動部の摺動面は、旋回側ラップ72の側面に限定されない。可動部の摺動面は、可動部が移動する際に固定部と接触する面を含む。可動部の摺動面は、例えば、旋回側鏡板71の面、及びボス部73の面を含んでもよい。
【0040】
ボス部73は、旋回側鏡板71の下面における中心部に形成されている。ボス部73は、筒状を成す。ボス部73には、駆動軸11の偏心軸15が挿入されている。ボス部73に偏心軸15が挿入されることにより、旋回スクロール70は、駆動軸11と連結されている。ハウジング50の上部には、オルダム継手(図示省略)が設けられている。オルダム継手は、旋回スクロール70が自転することを阻止する。
【0041】
[吸入ポート]
図4に示されるように、固定スクロール60の外周壁63には、吸入ポート64が形成されている。吸入ポート64は、外周壁63を上下方向に貫通する。吸入ポート64の上流には、吸入管12が接続されている。吸入ポート64は、吸入管12に連通する。冷媒ガスは、吸入管12の内部を流れ、吸入ポート64を通り、固定スクロール60と旋回スクロール70との間の隙間に供給される。
【0042】
[流体室]
圧縮機構40は、複数の流体室Rを有する。複数の流体室Rは、固定スクロール60と旋回スクロール70との間の隙間を含む。複数の流体室Rは、第1流体室及び第2流体室を有する。第1流体室は、固定側ラップ62の内面と旋回側ラップの外面との間に形成される。第2流体室は、固定側ラップ62の外面と旋回側ラップ72の内面との間に形成される。第1流体室には、旋回側ラップ72の外端の外側から冷媒が流入する。第2流体室には、旋回側ラップ72の外端の内側から冷媒が流入する。
【0043】
固定側ラップ62の内面は、駆動軸11の径方向において、駆動軸11の軸心に近い方の面である。固定側ラップ62の外面は、駆動軸11の径方向において、駆動軸11から遠い方の面である。固定側ラップ62の内面及び外面は、固定側ラップ62の厚さ方向に対向する。
【0044】
旋回側ラップ72の内面は、駆動軸11の径方向において、駆動軸11の軸心に近い方の面である。旋回側ラップ72の外面は、駆動軸11の径方向において、駆動軸11から遠い方の面である。旋回側ラップ72の内面及び外面は、旋回側ラップ72の厚さ方向に対向する。
【0045】
各流体室Rは、旋回スクロール70の偏心回転に伴って、吸入室R1から圧縮室R2へと変わる。具体的には、吸入室R1は、低圧の冷媒が吸入される空間である。圧縮室R2は、低圧の冷媒を圧縮する空間である。吸入室R1は、吸入ポート64と連通している。旋回スクロール70の偏心回転に伴って、吸入室R1が吸入ポート64から遮断されると、吸入室R1だった空間が圧縮室R2となる。流体室R(吸入室R1及び圧縮室R2)は、固定部と可動部の摺動面との間に形成された圧縮室の一例である。
【0046】
[吐出口、高圧チャンバ]
図2に示すように、固定スクロール60の固定側鏡板61の中央には、吐出口65が形成されている。固定スクロール60の固定側鏡板61の上面には、吐出口65が開口する高圧チャンバ66が形成されている。高圧チャンバ66は、固定スクロール60の固定側鏡板61及びハウジング50に形成された通路を介して下部空間24に連通している。圧縮機構40で圧縮された高圧冷媒は、下部空間24に流出する。ケーシング20の内部では、下部空間24が高圧雰囲気に構成されている。
【0047】
[給油孔]
駆動軸11の内部には、給油孔16が形成されている。給油孔16は、駆動軸11の軸方向に貫通する。給油孔16は、駆動軸11の下端から上端にわたって上下方向に延びる。駆動軸11の下端部は、貯留部21に貯留されている油に浸漬されている。貯留部21に貯留されている油は、給油孔16を流れて、下部軸受22及び上部軸受51に供給される。給油孔16を流れた油は、駆動軸11の上端部の開口から流れ出し、ボス部73と偏心軸15との間の隙間に供給される。給油孔16の開口は、駆動軸11の軸側凹部17に連通する。軸側凹部17に貯留する油は、ボス部73と偏心軸15との間の隙間に供給される。
【0048】
図3に示されるように、給油孔16は、旋回スクロール70のボス部73の内部を経由して、ハウジング50の凹部53に連通している。ボス部73と偏心軸15との間の隙間を流れた油は、凹部53に流れ落ちる。凹部53には、圧縮機構40の吐出圧力に相当する圧力が作用する。凹部53の内部の油を「高圧の油」と記載する場合がある。旋回スクロール70の旋回側鏡板71の底面には、凹部53の内部の圧力が作用する。旋回スクロール70は、凹部53の内部の圧力により、上方に押し付けられる。旋回スクロール70は、固定スクロール60に押し付けられる。
【0049】
[第1給油路]
図2及び図3に示されるように、スクロール圧縮機10は、第1給油路81及び第2給油路82を有する。第1給油路81は、ハウジング50及び固定スクロール60に形成されている。第2給油路82は、ハウジング50及び固定スクロール60に形成されている。ハウジング50の内部には、第1給油路81及び第2給油路82が形成されている。固定スクロール60の内部には、第1給油路81及び第2給油路82が形成されている。
【0050】
第1給油路81は、クランク室54の内部の高圧の油を、旋回スクロール70の旋回側鏡板71と固定スクロール60の外周壁63との摺動面に供給する通路である。第1給油路81は、ハウジング溝55、第1油路81a、第2油路81b、第3油路81c、第4油路81d、及び第5油路81eを含む。これらのハウジング溝55、第1油路81a、第2油路81b、第3油路81c、第4油路81d、及び第5油路81eは、互いに連通する。
【0051】
ハウジング溝55、第1油路81a、及び第2油路81bは、ハウジング50の内部に形成されている。第3油路81c、第4油路81d、及び第5油路81eは、固定スクロール60の外周壁63に形成されている。
【0052】
ハウジング溝55は、ハウジング50の凹部53の底部に形成されている。ハウジング溝55は、軸方向に見て、駆動軸11の周囲を囲むように環状に形成されている。ハウジング溝55には、第1油路81aの流入端が連通している。第1油路81aは、ハウジング50の内部において、内周側から外周側に向かって斜め上方に延びている。第1油路81aの外周寄りの部分には、第2油路81bの流入端が連通している。第2油路81bは、ハウジング50の内部を上下方向に延びる。第2油路81bの上端部には、第3油路81cの流入端が連通している。
【0053】
第3油路81cは、外周壁63の内部を上下方向に延びている。第3油路81cには、その上端側から第1抵抗体86が挿入されている。第1抵抗体86の先端側の外周面は、螺旋状に連続する溝が形成されている。第1抵抗体86は、第1給油路81を流れる油に対して抵抗となる。第3油路81cの上端は、第1抵抗体86の頭部86aによって閉塞される。第3油路81cの途中には、第4油路81dの流入端が連通している。第1抵抗体86はスパイラルシャフトとも呼ばれる。
【0054】
第4油路81dは、固定スクロール60の外周壁63の内部を径方向に延びる。第4油路81dの流出端は、第5油路81eの流入端に連通する。第5油路81eは、外周壁63の内部を外周側から内周側に向かって斜め下方に延びる。第5油路81eは、旋回スクロール70の旋回側鏡板71に向かって延びる。第5油路81eの流出端は、給油溝41に連通する。第5油路81eの流出端は、給油溝41を介して、旋回スクロール70の旋回側鏡板71と固定スクロール60の外周壁63との摺動面に開口している。
【0055】
[第2給油路]
第2給油路82は、第1給油路81と同様に、クランク室54の高圧の油を、旋回スクロール70の旋回側鏡板71と固定スクロール60の外周壁63との摺動面に供給する通路である。第2給油路82は、第1油路82a、第2油路82b、第3油路82c、第4油路82d、及び第5油路82eを含む。クランク室54、第1油路82a、第2油路82b、第3油路82c、第4油路82d、及び第5油路82eは、互いに連通する。第2給油路82は、ケーシング20の径方向において、駆動軸11に対して、第1給油路81とは反対側に配置されている。
【0056】
第1油路82a及び第2油路82bは、ハウジング50の内部に形成されている。第3油路82c、第4油路82d、及び第5油路82eは、固定スクロール60の外周壁63に形成されている。
【0057】
第1油路82aの流入端は、クランク室54に連通する。第1油路82aは、ハウジング50の内部を径方向に延びる。第1油路82aは、拡大油路83を含む。拡大油路83は、第1油路82aの流出側に形成されている。拡大油路83は、ケーシング20の径方向において、クランク室54と離れて形成されている。拡大油路83は、第1油路82aの流入側よりも断面積が大きい。拡大油路83の断面形状は、円形を成す。拡大油路83には、弁機構90が配置されている。
【0058】
第1油路82aには、第2油路82bの流入端が連通する。第2油路82bは、ハウジング50の内部を上下方向に延びる。第2油路82bの上端部には、第3油路82cの流入端が連通する。
【0059】
第3油路82cは、外周壁63の内部を上下方向に延びている。第3油路82cには、その上端側から第2抵抗体87が挿入されている。第2抵抗体87の先端側の外周面は、螺旋状に連続する溝が形成されている。第2抵抗体87は、第2給油路82を流れる油に対して抵抗となる。第3油路82cの上端は、第2抵抗体87の頭部87aによって閉塞される。第2抵抗体87は、スパイラルシャフトとも呼ばれる。
【0060】
第3油路82cには、第4油路82dの流入端が連通している。第4油路82dは、固定スクロール60の外周壁63の内部を径方向に延びる。第4油路82dの流出端には、第5油路82eの流入端が連通する。第5油路82eは、外周壁63の内部を外周側から内周側に向かって斜め下方に延びている。第5油路82eは、旋回スクロール70の旋回側鏡板71に向かって延びている。第5油路82eの流出端は、給油溝41を介して、旋回スクロール70の旋回側鏡板71と固定スクロール60の外周壁63との摺動面に開口している。
【0061】
[給油溝]
図4に示されるように、固定スクロール60の外周壁63の下面には、給油溝41が形成されている。外周壁63の下面は、旋回側鏡板71と対向する面を含む。外周壁63の下面は、旋回側鏡板71に対して摺動する摺動面を含む。給油溝41は、上方に凹むように形成されている。駆動軸11の軸方向に見た場合に、外周壁63の内周面に沿うように略円弧状に延びている。
【0062】
[弁機構]
図5は、弁機構90を拡大して示す断面図であり、第2給油路82が開放されている状態を示す図である。図6は、弁機構90を拡大して示す断面図であり、第2給油路82が閉鎖されている状態を示す図である。図3図5及び図6に示されるように、スクロール圧縮機10は、弁機構90を備える。弁機構90は、第2給油路82に配置されている。弁機構90は、拡大油路83に配置されている。弁機構90は、第2給油路82を開閉する。
【0063】
弁機構90は、弁体92、バネ93、及び弁座91を備える。ケーシング20の径方向において、クランク室54に近い方から順に、弁体92、バネ93、及び弁座91が配置されている。
【0064】
[弁座]
弁座91は、円柱状を成す。弁座91は、基部91a及び凸部91bを有する。凸部91bの外径は、基部91aの外径よりも小さい。凸部91bは、弁座91の軸方向において、基部91aから突出する。弁座91の軸方向は、駆動軸11の径方向に沿う。駆動軸11の径方向において、凸部91bは、基部91aよりもクランク室54に近い方に配置されている。
【0065】
[バネ]
バネ93は、例えば圧縮コイルバネである。バネ93は、弁座91の凸部91bに装着され、弁体92に向かって張り出している。バネ93は、弁座91と弁体92との間に配置されている。バネ93は、弁体92をクランク室54に近い方へ付勢する。バネ93は、駆動軸11の径方向に、収縮又は伸長可能である。バネ93は、圧縮コイルバネに限定されない。バネ93は、例えば板バネでもよく、その他の弾性体でもよい。
【0066】
[弁体]
図7は、弁機構90の弁体92を示す斜視図である。図8は、弁機構90の弁体92を示す断面図である。図7及び図8に示されるように、弁体92は、円柱状を成す。弁体92は、弁体92の軸線方向に対向する正面92a及び背面92bを有する。弁体92の軸線方向は、駆動軸11の径方向に沿う。
【0067】
弁体92には、第1穴94、第2穴95、及び溝96が形成されている。第1穴94は、正面92aから弁体92の軸線方向に延びる。第2穴95は、第1穴94に連通し、弁体92の径方向に延びる。第2穴95は、弁体92を径方向に貫通する。溝96は、弁体92の外周面92cに形成されている。溝96は、全周にわたって形成されている。溝96は、第2穴95と連通する。第2穴95及び溝96は、弁体92の軸線方向における中央に形成されている。第1穴94は、弁体92の軸線方向に貫通していない。背面92bには開口は形成されていない。
【0068】
[弁機構の開状態]
次に、図5を参照して、弁機構90の開状態について説明する。図5では、弁機構90の開状態が示されている。弁機構90の開状態において、弁体92は、弁体92の軸線方向において、拡大油路83内でクランク室54に近い位置に配置され、図6に示す閉状態において、弁体92は、拡大油路83内で弁座91に近い位置に配置されている。
【0069】
弁機構90の開状態では、図5に示されるように、弁体92の軸線方向において、溝96は、第2油路82bと同じ位置に配置されている。弁機構90の開状態において、第2給油路82は開放されている。弁機構90の開状態において、クランク室54、第1油路82a、第1穴94、第2穴95、溝96、第2油路82bは、互いに連通している。
【0070】
弁機構90の開状態において、クランク室54の油は、第1油路82a、第1穴94、第2穴95、及び溝96を流れて、第2油路82bに流入する。第2油路82bに流入した油は、上述したように、第3油路82c、第4油路82d、第5油路82e、及び給油溝41を流れて、旋回スクロール70の旋回側鏡板71と固定スクロール60の外周壁63との摺動面に供給される。第2給油路82を流れた油は、流体室Rを形成する摺動面に供給される。
【0071】
弁機構90は、開閉機構の一例である。弁機構90は、駆動軸11の回転数が基準値以下の範囲において、運転差圧によらず第2給油路82の流路を必ず開放する。流体室Rへの油の流入量は、第1給油路81及び第2給油路82の合計で規定される。流体室Rへの油の流入量は、駆動軸11の回転数が基準値を超える場合(弁機構90の閉状態)に、第1流入量である。流体室Rへの油の流入量は、駆動軸11の回転数が基準値以下の場合(弁機構90の開状態)に、第1流入量より多い第2流入量である。
【0072】
[弁機構の閉状態]
次に、図6を参照して、弁機構90の閉状態について説明する。図6では、弁機構90の閉状態が示されている。弁機構90の閉状態において、弁体92は、拡大油路83内で弁座91に近い位置に配置されている。
【0073】
弁機構90の閉状態では、弁体92の軸線方向において、溝96は、第2油路82bと同じ位置に配置されていない。弁機構90の閉状態において、第2給油路82は、閉鎖されている。弁体92の外周面92cが、第2油路82bの開口を閉じるように配置されている。溝96は、弁体92の軸線方向において、第2油路82bと異なる位置に配置されている。溝96は、第2油路82bと連通しない位置に配置されている。弁体92の外周面92cは、全周にわたって、拡大油路83の内周面に密着している。溝96は、全周にわたって、拡大油路83の内周面によって覆われている。弁機構90の閉状態において、クランク室54、第1油路82a、第1穴94、第2穴95、及び溝96と第2油路82bとは、連通していない。弁機構90の閉状態において、クランク室54の油は、第2油路82bに流入できない。
【0074】
[スクロール圧縮機の動作]
次に、スクロール圧縮機10の動作について説明する。電動機30は、電力の供給を受けて、回転駆動される。電動機30は、駆動軸11を回転させる。電動機30による回転駆動力を受けた駆動軸11の回転によって、圧縮機構40の旋回スクロール70が回転する。旋回スクロール70は、偏心軸15の回転に伴って、偏心回転する。
【0075】
旋回スクロール70が偏心回転することにより、図4に示されるように、流体室Rは、吸入室R1と圧縮室R2とに区画される。固定側ラップ62と旋回側ラップ72との間には、複数の圧縮室R2が形成される。旋回スクロール70の偏心回転に伴って、複数の圧縮室R2は吐出口65に徐々に近づくとともに、各圧縮室R2の容積が小さくなる。吐出口65は、ケーシング20の中心軸方向に見て、中心に配置されている。これにより、圧縮室R2の内部の冷媒ガスが圧縮される。
【0076】
容積が最小となった状態の圧縮室R2は、吐出口65に連通する。圧縮室R2の内部の圧縮後の冷媒ガスは、吐出口65を通り、高圧チャンバ66の内部に吐出される。高圧チャンバ66の内部の高圧の冷媒ガスは、固定スクロール60及びハウジング50に形成された流路を流れて、下部空間24の内部に流出する。下部空間24の内部の高圧の冷媒ガスは、吐出管13の内部を流れて、ケーシング20の外部へ吐出される。
【0077】
[給油動作]
次に、スクロール圧縮機10における油の給油動作について、図2及び図3を参照しながら説明する。
【0078】
スクロール圧縮機10の下部空間24に高圧の冷媒ガスが流入することにより、下部空間24は高圧雰囲気となる。これにより、下部空間24に連通する貯留部21の内部の油も高圧状態となる。貯留部21の高圧の油は、駆動軸11内の給油孔16を上方へ流れる。給油孔16を流れた油は、偏心軸15における上端の開口からボス部73の内部へ流出する。
【0079】
ボス部73に供給された油は、駆動軸11の偏心軸15の外周面とボス部73の内周面との間の隙間に供給される。これにより、ハウジング50の凹部53の内部は、圧縮機構40の吐出圧力に相当する高圧雰囲気となる。
【0080】
凹部53に溜まった高圧の油は、第1給油路81及び第2給油路82に流入する。凹部53の内部の油の一部は、第1給油路81の内部に流入する。凹部53の底部の油は、ハウジング溝55の内部に流入し、第1給油路81に流入する。
【0081】
第1給油路81の内部に流入した油は、第1油路81a、第2油路81b、第3油路81c、第4油路81d、及び第5油路81eを順に流れ、給油溝41へ流出する。第1給油路81の内部を流れた油は、流体抵抗により、圧力が低下する。そのため、給油溝41には、圧縮機構40の吐出圧力よりも低下した圧力の油が供給される。
【0082】
この圧力低下分(圧縮機構40のドーム圧(吐出圧力)Hpと給油溝41に供給される油の圧力Gpとの差)は、第1給油路81を流れる油の流量Q1と第1抵抗体86の抵抗値RAとの積に相当する(Hp-Gp=Q1×RA)。
【0083】
第2給油路82では、クランク室54を形成する凹部53に溜まった高圧の油が、第1油路82aに流入し、弁機構90に到達する。ここで、弁体92がクランク室54に近い位置に配置されている場合に、弁機構90は開状態であり、第2給油路82が開放されている。
【0084】
油は、弁体92の第1穴94、第2穴95、及び溝96を流れて第2油路82bへ流入する。第2油路82bに流入した油は、第3油路82c、第4油路82d、第5油路82eを順に流れ、給油溝41へ供給される。給油溝41内の油は、旋回スクロール70の旋回側鏡板71と固定スクロール60の外周壁63との摺動面に供給される。
【0085】
一方、弁機構90の弁体92が、弁座91に近い配置されている場合に、弁機構90は閉状態であり、第2給油路82は閉鎖されている。弁体92の外周面92cと拡大油路83の内周面とが接触した状態となり、第2給油路82が閉塞される。これにより、油は、給油溝41へ供給されない。
【0086】
第1給油路81及び第2給油路82から給油溝41に流入した油は、固定スクロール60及び旋回スクロール70の摺動面の潤滑に利用される。固定スクロール60の摺動面に供給された油の一部は、給油溝41の圧力より低い圧力の空間(具体的には、吸入室R1及び圧縮室R2に流入する。固定スクロール60の摺動面に供給された油のうち残りの油は、旋回側鏡板71の外縁空間(低圧と高圧の中間圧力に保持される、いわゆる中間圧室)に流入する。
【0087】
なお、この中間圧室は圧縮室R2と連通するので、第1給油路81及び第2給油路82から給油溝41に流入した油の全ては、最終的に吸入室R1及び圧縮室R2に流入する。言い換えると、第1給油路81及び第2給油路82を通過する油は、ハウジング50の凹部53から流入し、最低圧力となる吸入室R1へ向かって流れる。
【0088】
[第1給油路及び第2給油路の等価回路]
次に図9及び図10を参照して、第1給油路81及び第2給油路82の等価回路について説明する。図9は、弁機構90が開状態である場合の第1給油路81及び第2給油路82の等価回路を示す図である。図10は、弁機構90が閉状態である場合の第1給油路81及び第2給油路82の等価回路を示す図である。
【0089】
第2給油路82の大きさ(内径)はmmオーダーであり、弁体92の第1穴94、第2穴95、及び溝96を流れて第2油路82bへ流入する経路の流路抵抗(RP)は、第1給油路81に配置された現行の第1抵抗体(スパイラルシャフト)86(抵抗RA)、および、第2給油路82に配置された第2抵抗体(スパイラルシャフト)87(抵抗RB)、および、旋回スクロール70の旋回側鏡板71と固定スクロール60の外周壁63との摺動面流路抵抗(Rth)に比べて、ほぼ無視できる(RP≒0)。拡大油路83の内周面83aと弁体92の外周面92cとの間の隙間は、数μmオーダーである。「拡大油路83の内径」に対する「拡大油路83の内周面83aと弁体92の外周面92cとの間の隙間」の比は、例えば1/1000である。そのため、拡大油路83の内周面83aと弁体92の外周面92cとの間の隙間を通過する油の流体抵抗(RP')は、第1給油路81に設置された第1抵抗体(スパイラルシャフト)86(抵抗RA)、および、第2給油路82に配置された第2抵抗体(スパイラルシャフト)87(抵抗RB)と比較して桁違いに大きい。(RP'≒∞)
【0090】
図10に示す閉状態において、拡大油路83の内周面83aと弁体92の外周面92cとの間の隙間を油が流れることはない。換言すると、弁機構90の閉状態において、クランク室54内の油は、第2給油路82を流れず、第1給油路81を流れる。第2給油路82を流れる油の流量QBは、「0」である。
【0091】
弁体92の背面空間SBと高圧チャンバ66とは、連通穴97を通じて連通されている。弁体92の背面空間SBは、弁体92の背面92bと接する空間である。弁体92の背面空間SBの圧力は、高圧チャンバ66の内部の圧力であるドーム圧Hpと等しい。
【0092】
弁体92の正面側の空間である第1油路82aの内部には、クランク室54の圧力(Hp+ΔPcr)が作用している。弁体92の背面側の背面空間SBには、常にドーム圧Hpが作用している。弁駆動力Fvは、下記式(1)を用いて算出できる。式(1)中、「Sh」は、図11においてハッチングされている領域の面積である。「ΔPcr」は、クランク室54の圧力と、ドーム圧Hpとの差圧である。弁体92は、この弁駆動力Fvとバネ93の力との関係のみで開閉される。バネ93の力とは、バネ93を軸線方向に圧縮するために必要な力である。
【0093】
【数1】
【0094】
弁体92の開閉は、弁体内流路(第1穴94、第2穴95、及び溝96)を流れる流量QRP(=QB)には依存せず、ΔPcrのみで規定される。油が弁体内流路を流れることによって発生する抗力は、非常に小さい。
【0095】
因みに、弁機構90が開状態である場合において、油が第2給油路82を流れるときの圧縮室への流量QA+QBは、下記式(2)となる。「Lp」は、吸入室R1の圧力である。「RA」は、第1抵抗体86による流体抵抗、「RB」は、第2抵抗体87の流体抵抗である。「Rth」は、スラスト摺動面による流体抵抗である。
【0096】
【数2】
【0097】
クランク室54とドーム圧Hpとのクランク室差圧ΔPcrが上昇して、弁機構90が閉状態となったときの圧縮室への流量QA+QBは、下記式(3)となる。
【0098】
【数3】
【0099】
[弁体の寸法及び面積Sh]
次に、図11及び図12を参照して、弁体92の寸法及び弁駆動力Fvの算出に利用される面積Shについて説明する。図11は、弁機構90の弁体92を示す正面図であり、弁体92の寸法及び面積Shの範囲を示す図である。図12は、弁機構90の弁体92を示す側面図であり、弁体92の寸法を示す図である。
【0100】
図11に示される面積Shは、弁駆動力Fvの算出に利用される面積である。面積Shの範囲は、図11において、ハッチング(平行斜線)で示されている。面積Shは、軸線方向に弁体92を見た場合に、第2穴95の面積Sh1と、溝96の側面96bの面積Sh2との合計の面積でもよい。上述したように、弁駆動力Fvは、上記式(1)を用いて算出でき、面積ShとΔPcrとの積である。
【0101】
[運転回転数とクランク室差圧との関係]
例えば、給油ポンプ量に対してクランク室54からの排油流路が小さい場合、又は、排油しにくい機構である軸内給油構造(特開2021-14801号公報、本件の後述する第2実施形態)の場合には、クランク室54の内部は、油で密封されやすい。クランク室54の内部が油で密封される場合は、凹部53は油で満たされている。
【0102】
このような場合における、運転回転数Nとクランク室差圧ΔPcrとの関係について、図13を参照して、説明する。図13は、三つの異なる運転差圧が生じている場合における運転回転数Nとクランク室差圧ΔPcrとの関係を示すグラフである。図13では、横軸に運転回転数Nを示し、縦軸にクランク室差圧ΔPcrを示す。運転回転数Nは、駆動軸11の回転数である。クランク室差圧ΔPcrは、クランク室54の圧力とドーム圧との差圧である。
【0103】
図13では、運転差圧が異なる場合について示されている。図13に示されるように、運転差圧が異なってもクランク室差圧ΔPcrは、ほとんど変わらない。クランク室差圧ΔPcrは、運転回転数Nのみで規定される。
【0104】
図13に示すグラフにおいて、クランク室圧力(Hp+ΔPcr)のΔPcr成分は、運転回転数Nの2乗で効く特性がある。運転回転数Nは、例えば、駆動軸11の回転数である。運転回転数Nの2乗で効くとは、運転回転数Nの2乗に比例することを含む。
【0105】
クランク室54が油で密封される場合には、弁機構90の開閉は、運転回転数Nのみで規定されることになる。
【0106】
[従来技術に係るスクロール圧縮機における弁開閉領域]
次に、図14を参照して、従来技術に係るスクロール圧縮機における弁開閉領域について説明する。図14は、従来技術に係るスクロール圧縮機における弁開閉領域を示すグラフである。図14では、横軸に運転回転数を示し、縦軸に運転差圧を示す。運転差圧とは、従来技術に係るスクロール圧縮機における運転差圧であり、吐出圧力と吸入圧力との差圧である。従来技術に係るスクロール圧縮機は、特許第7104360号明細書に記載のスクロール圧縮機である。図14では、従来技術に係るスクロール圧縮機における弁開閉領域を示す。従来技術に係るスクロール圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールとの間に油を供給する給油路に弁開閉機構を備える。この弁開閉機構は、スクロール圧縮機10とは異なる構造の弁体を有する。図14では、この弁体が開閉するときの運転回転数と運転差圧との関係を示す。
【0107】
グラフP101は、弁閉鎖ラインを示す。弁閉鎖ラインは、従来技術に係るスクロール圧縮機における弁機構が閉鎖するときの運転差圧を示す。グラフP101は、弁変位全開時、すなわち、弁体を通過する量が最大の状態で、弁駆動力と弁体を付勢するバネ力とがバランスする運転差圧をプロットしたものであり、このラインを越えた運転差圧(弁閉鎖ラインの右上領域)では弁駆動力は必ずバネ力を上回り、弁はやがて閉鎖する。
【0108】
グラフP102は、弁開放ラインを示す。弁開放ラインは、弁変位が0μmである全閉時、すなわち、弁体を通過する流量がない状態で、弁駆動力とバネ力とがバランスする運転差圧をプロットしたものであり、このライン以下の運転差圧(弁開放ラインの左下領域)では、弁駆動力は必ずバネ力を下回り、弁はやがて開放する。
【0109】
図14に示されるように、従来技術では、弁体の開閉は、運転差圧と運転回転数で規定される。従来技術では、運転回転数よりも運転差圧の方の影響が大きい。
【0110】
[実施形態に係るスクロール圧縮機における弁開放領域]
次に図15を参照して実施形態に係るスクロール圧縮機10における弁開放領域について説明する。図15は、一実施形態に係るスクロール圧縮機における弁開放領域を示すグラフである。図15では、横軸に運転回転数を示し、縦軸に運転差圧を示す。図15では、弁体92が開閉するときの運転回転数Nと運転差圧との関係を示す。
【0111】
グラフP103は、弁閉鎖ラインを示す。弁閉鎖ラインは、弁機構90の弁体92が閉状態となるときの運転回転数と運転差圧との関係を示す。グラフP103の弁閉鎖ラインは、運転差圧によらず、同じ運転回転数である。弁体92は、運転回転数がN1となると、運転差圧によらず、閉状態となる。スクロール圧縮機10では、運転回転数がN1以上となると、弁機構90は閉状態となる。
【0112】
グラフP104は、弁開放ラインを示す。弁開放ラインは、弁機構90の弁体92が開状態となるときの運転回転数と運転差圧との関係を示す。グラフP104の弁開放ラインは、運転差圧によらず、同じ運転回転数である。弁体92は、運転回転数がN2となると、運転差圧によらず、開状態となる。スクロール圧縮機10では、運転回転数がN2以下となると、弁機構90は開状態となる。運転回転数N2は、運転回転数N1よりも低い回転数である。
【0113】
図15では、領域P105が示されている。この領域P105は、運転差圧が図14の弁閉鎖ライン以上であり、運転回転数がN2以下の領域である。スクロール圧縮機10では、この領域P105において、弁機構90が開状態となり、第2給油路82内を油が流れて、固定スクロール60と旋回スクロール70との摺動面に油が供給される。
【0114】
一方、図14に示す従来技術の場合には、この領域P105において、弁は閉状態であり、第2給油路に油は流入しない。
【0115】
[第1実施形態に係るスクロール圧縮機の作用効果]
第1実施形態に係るスクロール圧縮機10は、ケーシング20と、ケーシング20内において、固定スクロール(固定部)60と旋回スクロール(可動部)70の摺動面との間に形成された流体室(圧縮室)Rと、ケーシング20内に収容され、旋回スクロール70に連結された駆動軸11と、ケーシング20内に形成され、油を貯留する貯留部21と、流体室を形成する摺動面に、油を供給する複数の給油路である第1給油路81及び第2給油路82と、第2給油路82に設けられ、第2給油路82を開閉する弁機構(開閉機構)90と、を備える。複数の給油路は、第1給油路81と、第2給油路82とを有し、弁機構90は、第2給油路82に設けられ、弁機構90は、駆動軸11の回転数が基準値(運転回転数N2)以下の範囲において、運転差圧によらず第2給油路82の流路を開放する。流体室Rへの油の流入量は、複数の給油路である第1給油路81及び第2給油路82を流れる油の流量の合計で規定される。流体室Rへの油の流入量は、駆動軸11の回転数が運転回転数N2を超える場合に、第1流入量である。流体室Rへの油の流入量は、駆動軸11の回転数が運転回転数N2以下の場合に、第1流入量より多い第2流入量である。
【0116】
なお、弁機構90は、駆動軸11の回転数が基準値(運転回転数N2)以下の範囲において、運転差圧によらず必ず第2給油路82の流路を開放する。また、旋回スクロール70の摺動面への油の流入量、すなわち、流体室Rへの流入量は、第1給油路81及び第2給油路82を流れる油の流量の合計で規定される。
【0117】
本態様のスクロール圧縮機10では、駆動軸11の回転数が運転回転数N2以下の範囲において、運転差圧によらず、弁機構90は第2給油路82の流路を開放する。このとき、流体室Rへの油の流入量は、複数の給油路である第1給油路81及び第2給油路82を流れる油の流量の合計で規定される。駆動軸11の回転数が運転回転数N2を超える場合には、流体室Rへの油の流量は、第1流入量である。このとき、弁機構90は閉状態であり、第2給油路82は、閉鎖されているので、第1給油路81から流体室Rに供給される油の流量は、第1流入量である。駆動軸11の回転数が運転回転数N2以下の場合には、流体室Rへの油の流量は、第1流入量よりも多い第2流入量である。このとき、弁機構90は、開状態であり、第2給油路82は、開放されている。第1給油路81及び第2給油路82から流体室Rに供給される油の流量は、第1流入量よりも多い第2流入量である。スクロール圧縮機10では、駆動軸11の回転数が運転回転数N2以下の場合に、流体室Rへの油の流入量を増やし、摺動面への油の供給不足を抑制することができる。
【0118】
スクロール圧縮機10において、流体室Rは、冷凍サイクルにおける冷媒を圧縮する圧縮室であり、油の流入量は、冷媒の循環質量流量に対する油の質量流量の割合に基づいて決定されている。これにより、冷凍サイクルにおいて冷媒を圧縮する流体室Rに油を供給することができる。本態様のスクロール圧縮機10によれば、冷凍サイクルにおける冷媒の循環質量流量に応じて適切な油の流入量が決定されることにより、摺動面への油の供給不足を抑制することができる。
【0119】
本態様のスクロール圧縮機10において、弁機構90は、駆動軸11の任意の回転数において開閉可能である。スクロール圧縮機10では、駆動軸11の運転回転数が予め設定された任意の運転回転数N1以上となった場合に、弁機構90は、第2給油路82を閉鎖できる。スクロール圧縮機10では、駆動軸11の運転回転数が任意の運転回転数N2以下となった場合に、弁機構90は、第2給油路82を開放できる。
【0120】
スクロール圧縮機10において、弁機構90は、弁体92と、弁体92を付勢するバネ93と、を備え、弁体92の挙動は、クランク室54における圧力と弁体92の背面92bにおける圧力との間の圧力差による駆動力と、バネ93による力とに応じて規定されている。なお、ここでいう「弁体92の挙動」とは、弁体92の移動でもよい。スクロール圧縮機10では、クランク室54における圧力と弁体92の背面92bにおける圧力との間の圧力差による駆動力と、バネ93による力とに応じて、弁体92の挙動が規定されることにより、摺動面への油の供給不足を抑制することができる。
【0121】
スクロール圧縮機10において、弁体92は、円柱状を成し、弁体92には、弁体92の軸線方向に延びる第1穴94と、第1穴94と連通し、弁体92の径方向に延びる第2穴95と、第2穴95と連通し、弁体92の外周面92cに形成され周方向に連続する溝96と、が形成され、弁体92の背面92b側には、弁体92を付勢するバネ93が配置され、弁体92を収容する弁収容部を有するハウジング50には、弁体92の背面92b側の空間と、流体室Rの出口側の空間である高圧チャンバ66とを連通する連通穴97が形成されている。
【0122】
このスクロール圧縮機10では、弁体92の背面92b側の空間と、流体室Rの出口側の空間とが連通しているので、圧縮室の出口側の高圧チャンバ66の圧力を、弁体92の背面92b側に作用させることができる。このスクロール圧縮機10では、流体室Rの出口側の圧力を弁体92の背面92b側に作用させることにより、弁体92の背面92b側に作用する圧力と、弁体92を付勢するバネ93による力とに応じて、弁体92の挙動が規定される。このスクロール圧縮機10では、弁体92を移動させることにより、摺動面へ油を適切に供給することができ、油の供給不足を抑制することができる。
【0123】
[第2実施形態に係るスクロール圧縮機]
次に図16及び図17を参照して、第2実施形態に係るスクロール圧縮機10Bについて説明する。図16は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機10Bの要部を示す縦断面図である。図17は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機10Bの駆動軸11の下端部を示す縦断面図である。図16及び図17に示すスクロール圧縮機10Bが、第1実施形態に係るスクロール圧縮機10と違う点は、駆動軸11の内部に、給油路45及び排油路46が形成されている点、駆動軸11の下端部の構造が異なる点である。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同様の説明は省略する。
【0124】
図16及び図17に示されるように、駆動軸11の内部には、給油路45及び排油路46が形成されている。排油路46は、軸内排油路であり、第1油流路の一例である。給油路45は、軸内給油路であり、第2油流路の一例である。駆動軸11は、二重管構造を有する。駆動軸11の内部には、軸方向に貫通する縦穴11aが形成されている。縦穴11aの内部には、内管42が配置されている。
【0125】
内管42の内部の空間は、排油路46である。縦穴11aの内周面と内管42の外周面との間の空間は、給油路45である。
【0126】
駆動軸11の内部には、給油路45に連通し、径方向に延びる給油穴45a,45b,45cが形成されている。給油穴45a,45b,45cの一方の端部は、給油路45に連通する。給油穴45a,45b,45cの他方の端部は、駆動軸11の外周面に開口する。
【0127】
給油穴45aは、偏心軸15に設けられている。給油穴45aは、偏心軸15とボス部73との間の隙間に連通する。給油路45を流れた油は、給油穴45aを通り、偏心軸15とボス部73との間の隙間に供給される。偏心軸15とボス部73との間には、滑り軸受73aが設けられていてもよい。滑り軸受73aは、ボス部73と偏心軸15との間の摺動部の一例である。
【0128】
給油穴45bは、駆動軸11の軸方向において、上部軸受51に対応する位置に配置されている。給油穴45bは、駆動軸11の外周面と上部軸受51の軸受面との間の隙間に連通する。給油路45を流れた油は、給油穴45bを通り、駆動軸11の外周面と上部軸受51の軸受面との間の隙間に供給される。
【0129】
図17に示されるように、給油穴45cは、駆動軸11の軸方向において、下部軸受22に対応する位置に配置されている。給油穴45cは、駆動軸11の外周面と下部軸受22の軸受面との間の隙間に連通する。給油路45を流れた油は、給油穴45cを通り、駆動軸11の外周面と下部軸受22の軸受面との間の隙間に供給される。
【0130】
スクロール圧縮機10Bは、下部軸受22を保持する軸受保持部172、及び軸受保持部172を支持する支持部170を備える。軸受保持部172は、筒状を成す。下部軸受22は、軸受保持部172の開口部内に嵌っている。
【0131】
支持部170は、ケーシング20の径方向に延びる。支持部170は、軸受保持部172をケーシング20に固定する。
【0132】
軸受保持部172は、筒状の下部172aを有する。下部172aは、下部軸受22よりも下方に張り出す。下部172aは、駆動軸11の下端部を収容する。下部172aの内部には、排油路46の下端部に連通し、駆動軸11の径方向に延びる排油路46aが形成されている。排油路46aは、駆動軸11の外周面と下部172aの内周面との間の隙間に連通する。排油路46を流れた油は、排油路46aを流れて、駆動軸11の外周面と下部172aの内周面との間の隙間に流入して、貯留部21に戻る。
【0133】
[ポンプ]
スクロール圧縮機10Bは、駆動軸11の下端に設けられたポンプ180を備える。ポンプ180は、貯留部21に貯留する油を吸い上げて、給油路45に移送する。ポンプ180の吐出口180aは、給油路45に連通する。貯留部21の油は、給油路45の下端部に供給されて、給油路45を流れて、駆動軸11の軸方向に上昇する。給油路45に供給された油は、上述したように、給油穴45a,45b,45c内を流れて、滑り軸受73a,上部軸受51、及び下部軸受22に供給される。
【0134】
滑り軸受73a及び上部軸受51に供給された油は、クランク室54に流入する。クランク室54に流入した油は、上述したように、第1給油路81又は第2給油路82を流れて、固定スクロール60と旋回スクロール70との摺動面に供給される。換言すると固定スクロール60と旋回スクロール70との間に形成された流体室Rに流入する。
【0135】
下部軸受22に供給された油は、駆動軸11の外周面と軸受保持部172の内周面との間の隙間を流れ落ち、貯留部21に流入する。
【0136】
[排油側連通路]
スクロール圧縮機10Bは、排油側連通路47を有する。排油側連通路47は、流体室Rと駆動軸11の内部の排油路46とを連通する流路である。排油側連通路47は、旋回側鏡板71の内部において、径方向に延びる。旋回側鏡板71の上面には、排油側連通路47と連通する開口が形成されている。
【0137】
旋回側鏡板71の下面には、排油路46と連通する開口が形成されている。旋回側鏡板71の下面に形成された開口は、駆動軸11の軸方向に見た場合に、排油路46と重なる位置に配置されている。排油路46は、例えば駆動軸11の軸心に形成されている。旋回側鏡板71の下面に形成された開口は、駆動軸11の軸方向において、ボス部73と偏心軸15の上端面との間の隙間に連通する
【0138】
固定スクロール60と旋回スクロール70との間の流体室Rに供給された油は、排油側連通路47を流れて、排油路46に供給される。排油路46に流入した油は、駆動軸11の内部を流れて落ちて、貯留部21に戻る。
【0139】
[第2実施形態に係るスクロール圧縮機の作用効果]
第2実施形態に係るスクロール圧縮機10Bにおいて、駆動軸11の一端は、貯留部21の内部に配置され、駆動軸11の他端には、偏心軸15が設けられている。スクロール圧縮機10Bは、可動部として旋回スクロール(可動スクロール)70を備える。駆動軸11の内部には、駆動軸11の軸方向に延びる排油路(第1油流路)46及び給油路(第2油流路)45が形成されている。排油路46は、ボス部73と偏心軸15との間の摺動部(滑り軸受73a)に供給された油を、貯留部21に戻す排油流路である。給油路45は、貯留部21の油を摺動部に供給する給油流路である。
【0140】
本態様のスクロール圧縮機10Bでは、給油路45及び排油路46が、駆動軸11の内部において軸方向に形成されている。貯留部21の油は、給油路45を流れて、ボス部73と偏心軸15との間の摺動部に供給される。ボス部73と偏心軸15との間の摺動部に供給された油は、クランク室54、第1給油路81又は第2給油路82、流体室R、排油側連通路47、及び排油路46を流れて、貯留部21に戻る。本態様のスクロール圧縮機10Bでは、駆動軸11の内部に形成された給油路45及び排油路46を用いて、貯留部21と摺動部との間で油を循環させることができる。
【0141】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に制限されることはない。上述した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形、置換等が適用され得る。また、別々に説明された特徴は、技術的な矛盾が生じない限り、組み合わせが可能である。
【0142】
上記の実施形態では、容積型圧縮機としてスクロール圧縮機10を例示しているが、容積型圧縮機は、スクロール圧縮機に限定されない。容積型圧縮機は、回転式圧縮機でもよく、往復式圧縮機でもよい。容積型圧縮機は、ロータリ圧縮機でもよく、その他のものでもよい。
【0143】
上記の実施形態では、容積型圧縮機を備えた冷凍機100について例示しているが、容積型圧縮機の用途は、冷凍機100に限定されない。容積型圧縮機は冷凍サイクルの実行に利用されるものに限定されない。
【0144】
上記の実施形態では、複数の給油路として、第1給油路81及び第2給油路82を有するスクロール圧縮機10について例示しているが、スクロール圧縮機10は、3つ以上の複数の給油路を有するものでもよい。
【0145】
本発明の一態様は、以下のとおりでもよい。
【0146】
<1>
ケーシングと、
前記ケーシング内において、固定部と可動部の摺動面との間に形成された圧縮室と、
前記ケーシング内に収容され、前記可動部に連結された駆動軸と、
前記ケーシング内に形成され、油を貯留する貯留部と、
前記圧縮室を形成する前記摺動面に、前記油を供給する複数の給油路と、
前記複数の給油路の1つに設けられ、流路を開閉する開閉機構と、を備え、
前記複数の給油路は、第1給油路と、第2給油路とを有し、
前記開閉機構は、前記第2給油路に設けられ、
前記開閉機構は、前記駆動軸の回転数が基準値以下の範囲において、運転差圧によらず前記第2給油路の流路を開放し、
前記圧縮室への前記油の流入量は、前記複数の給油路を流れる前記油の流量の合計で規定され、
前記圧縮室への前記油の流入量は、前記駆動軸の回転数が前記基準値を超える場合に、第1流入量であり、
前記圧縮室への前記油の流入量は、前記駆動軸の回転数が前記基準値以下の場合に、前記第1流入量より多い第2流入量である、容積型圧縮機。
【0147】
<2>
前記圧縮室は、冷凍サイクルにおける冷媒を圧縮する圧縮室であり、
前記油の流入量は、前記冷媒の循環質量流量に対する前記油の質量流量の割合に基づいて決定されている、上記<1>に記載の容積型圧縮機。
【0148】
<3>
前記開閉機構は、前記駆動軸の任意の回転数において開閉可能である、上記<1>又は<2>に記載の容積型圧縮機。
【0149】
<4>
前記開閉機構は、
弁体と、
前記弁体を付勢するバネと、を備え、
前記弁体の挙動は、クランク室と前記弁体の背面との間の圧力差による駆動力と、前記バネによる力とに応じて規定されている、上記<1>~<3>の何れか一つに記載の容積型圧縮機。
【0150】
<5>
前記クランク室と前記弁体の背面との間の圧力差は、前記駆動軸の回転数に応じて規定されている、上記<4>に記載の容積型圧縮機。
【0151】
<6>
前記弁体は、円柱状を成し、
前記弁体には、
前記弁体の軸線方向に延びる第1穴と、
前記第1穴と連通し、前記弁体の径方向に延びる第2穴と、
前記第2穴と連通し、前記弁体の外周面に形成され周方向に連続する溝と、が形成され、
前記弁体の背面側には、前記弁体を付勢する前記バネが配置され、
前記弁体を収容する弁収容部を有するハウジングには、前記弁体の背面側の空間と、前記圧縮室の出口側の空間とを連通する連通穴が形成されている、上記<4>又は<5>に記載の容積型圧縮機。
【0152】
<7>
前記駆動軸の一端は、前記貯留部の内部に配置され、
前記駆動軸の他端には、偏心軸が設けられ、
前記可動部は、前記偏心軸に嵌るボス部を有する可動スクロールであり、
前記駆動軸の内部には、当該駆動軸の軸方向に延びる第1油流路及び第2油流路が形成され、
前記第1油流路は、前記ボス部と前記偏心軸との間の摺動部に供給された前記油を、前記貯留部に戻す排油流路であり、
前記第2油流路は、前記貯留部の前記油を前記摺動部に供給する給油流路である、上記<1>~<6>の何れか一つに記載の容積型圧縮機。
【0153】
<8>
前記開閉機構は、運転回転数30rps以下で開閉し、
前記油の流入量は、1wt%以上である、上記<1>~<7>の何れか一つに記載の容積型圧縮機。
【0154】
<9>
上記<1>~<8>の何れか一つに記載の容積型圧縮機と、
前記容積型圧縮機で圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器と、
前記凝縮器で凝縮された前記冷媒を膨張させる膨張弁と、
前記膨張弁で膨張した前記冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備えた冷凍機。
【符号の説明】
【0155】
10,10B スクロール圧縮機(容積型圧縮機)
2 凝縮器
3 膨張弁
4 蒸発器
11 駆動軸
20 ケーシング
21 貯留部
45 給油路(第2油流路)
46 排油路(第1油流路)
50 ハウジング
54 クランク室
60 固定スクロール(固定部)
66 高圧チャンバ(圧縮室の出口側の空間)
70 旋回スクロール(可動部、可動スクロール)
81 第1給油路(給油路)
82 第2給油路(給油路)
83 拡大油路(弁収容部)
90 弁機構(開閉機構)
92 弁体
92b 背面
92c 外周面
93 バネ
94 第1穴
95 第2穴
96 溝
97 連通穴
100 冷凍機
R 流体室(圧縮室)
R1 吸入室(圧縮室)
R2 圧縮室
図1
図2
図3
図4
図5
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