(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145731
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A63B37/00 326
A63B37/00 316
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058211
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 雄宣
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、少なくとも1層のゴム製コアと、該コアを被覆する少なくとも1層のカバーを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの少なくとも1層は、下記(I)及び(II)成分
(I)ポリウレタン又はポリウレア
(II)(メタ)アクリル系ブロック共重合体
を含有した樹脂組成物により形成されると共に、下記式(1)
CS1=(CV50-CV12)/38 ・・・(1)
〔上記式において、CV50は入射速度50.0m/sにおける反発係数の値を示し、CV12は入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
で計算されるCS1値が-4.08×10-3より大きいことを特徴とするゴルフボールを提供する。
【効果】本発明のゴルフボールは、アプローチショット時のコントロール性に優れると共に、耐擦過傷性と成型性とを良好に維持できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のゴム製コアと、該コアを被覆する少なくとも1層のカバーを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの少なくとも1層は、下記(I)及び(II)成分
(I)ポリウレタン又はポリウレア
(II)(メタ)アクリル系ブロック共重合体
を含有した樹脂組成物により形成されると共に、下記式(1)で計算されるCS1値が-4.08×10-3より大きいことを特徴とするゴルフボール。
CS1=(CV50-CV12)/38 ・・・(1)
〔上記式において、CV50は入射速度50.0m/sにおける反発係数の値を示し、CV12は入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
【請求項2】
下記式(2)で計算されるCS2値が-5.23×10-3より大きい請求項1記載のゴルフボール。
CS2=(1.0-CV12/45)/33 ・・・(2)
〔上記式において、CV12/45は、入射速度45.0m/sにおける反発係数の値を1.0としたときの入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
【請求項3】
上記(II)成分の(メタ)アクリル系ブロック共重合体の配合量は、上記(I)成分100質量部に対して30質量部未満である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記(II)成分のメルトフローレート(MFR)値が、230℃、2.16kgf荷重の測定条件(ISO1133)で20g/10min以上である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記(II)成分のブロック共重合体は、ハードセグメントを構成するブロック2個以上とソフトセグメントとを構成するブロック1個以上を有する請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項6】
上記(II)成分のブロック共重合体において、ハードセグメントは、メタクリル酸メチル単位を主体として構成されると共に、ソフトセグメントは、アクリル酸n-ブチル単位またはアクリル酸n-ブチル/アクリル酸2-エチルヘキシル単位を主体として構成されるものである請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項7】
上記(II)成分のブロック共重合体に占めるメタクリル酸メチル単位の含有量が20~50質量%である請求項6記載のゴルフボール。
【請求項8】
上記(II)成分のtanδの温度依存性は、-10~30℃の間の10℃刻みで測定したtanδがいずれも0.1以上であり、且つ、-10~30℃の間の10℃刻みで測定した5つの温度でのtanδの標準偏差が0.26以下であって、変動係数CV1(標準偏差/平均値)が0.5以下である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項9】
上記(II)成分のtanδの温度依存性は、0~30℃の間の10℃刻みで測定したtanδがいずれも0.1以上であり、且つ、0~30℃の間の10℃刻みで測定した4つの温度でのtanδの標準偏差が0.2以下であって、変動係数CV2(標準偏差/平均値)が0.42以下である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項10】
上記(II)成分の溶解度パラメータ(SP値)が9以上である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項11】
上記樹脂組成物には、更に、(III)成分として、ショアD硬度20~50及びJIS-K 6255規格の測定による反発弾性率50~80%を有する熱可塑性ポリエステルエラストマーを含有する請求項1又は2記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1層のコアと、少なくとも1層のカバーを有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの要求特性は、主に飛距離の増大であるが、そのほかには、アプローチショット時にはボールが良く止まる性能や耐擦過傷性がある。即ち、今までは、ドライバー打撃時はよく飛び、アプローチショット時にはバックスピンが好適にかかるゴルフボールが多く開発されている。最近では、プロや上級者向きとして、アイオノマー樹脂材料に代わるものとしてウレタン樹脂材料を採用するものが多くなっている。
【0003】
ウレタン樹脂材料をベース樹脂して他の樹脂材料を混合させたポリマーブレンドのカバー材料がいくつか提案されている。本発明者は先に、特開2019-107401号公報(特許文献1)において、ウレタン樹脂材料のポリマーブレンドとして、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂を採用し、カバーの主材として用いることを提案している。この技術は、ドライバーショット時に高初速化を実現できるとともに、アプローチショット時に低初速化を実現できるゴルフボールを提供するものではあるが、アクリル樹脂又はメタクリル樹脂は基本的に硬い樹脂材料であるため、アプローチコントロール性を充分に満足できるものとは言えなかった。アプローチコントロール性は、アプローチショット時のクラブの操作性が要因の一つであり、クラブの操作性の良否は、ボールのスピン量の高低に加えて、低反発性に起因するボールとクラブフェースとの接触時間の長さが影響する。接触時間が長い場合は操作性が良くなり、短い場合は操作性が悪くなる。即ち、特許文献1に記載のゴルフボールよりも、更にアプローチコントロール性に優れたゴルフボールを改良することが望まれていた。
【0004】
また、特許文献1に記載のカバーの樹脂材料では、ウレタン樹脂材料がアクリル樹脂の混合により溶融粘度が上がり流動性が悪くなるため、成型温度を上げる必要がある。このため、成型後は、カバー表面全体が焼け等の不良が生じるおそれがあり、ゴルフボールの成型性や耐擦過傷性の点で改善の余地があった。
【0005】
また、特開2019-88770号公報(特許文献2)には、熱可塑性ポリマーと、アクリル系共重合体(MMAコポリマー)とを有する混合物から形成されるゴルフボール用樹脂材料が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載されたアクリル系共重合体は、コア-シェル型の特殊な化学構造を有するポリマーであり、このアクリル系共重合体をウレタン樹脂材料とブレンドした場合、アプローチコントロール性が充分に優れ、耐擦過傷性や成型性も優れることについて特許文献1は開示しておらず、本発明の上記課題を解決できる技術であるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-107401号公報
【特許文献2】特開2019-88770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、従来のウレタン製カバーを有するゴルフボールに比べて、アプローチショット時のコントロール性に優れると共に、耐擦過傷性及び成型性を十分に満足できるゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため、コアとカバーとを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの材料として、ポリウレタン又はポリウレアを主成分として用いる樹脂材料のポリマーブレンドとして、(メタ)アクリル系ブロック共重合体を配合すると共に、下記式(1)
CS1=(CV50-CV12)/38 ・・・(1)
〔上記式において、CV50は入射速度50.0m/sにおける反発係数の値を示し、CV12は入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
で計算されるCS1値が-4.08×10-3より大きくなるように上記樹脂材料の成形物をカバーとするゴルフボールを作製したところ、このゴルフボールは、アプローチショット時のコントロール性に優れると共に、耐擦過傷性と成型性とが共に良好であることを知見し、本発明をなすに至った。即ち、本発明は、ポリウレタン又はポリウレアを主成分として用いる樹脂組成物において、添加する樹脂として、ショアD硬度が比較的低く、且つ反発弾性が比較的低い、(メタ)アクリル系ブロック共重合体を採用することにより、アプローチショット時のコントロール性が充分に高いものである。また、上記の(メタ)アクリル系ブロック共重合体をポリウレタン等の主材に混合しても成型時に溶融粘度が上がらないため、成型性(生産性)は全く問題がなく、耐擦過傷性及び成型性の点で十分に満足できるゴルフボールを得ることができ、本発明の課題を解決することができる。
【0009】
更に言えば、本発明者は、ウレタン樹脂材料に上記の特定(メタ)アクリル系ブロック共重合体を含むことにより、低初速域ではCOR値が下がり、高初速域では下がらず、アプローチコントロール性に効果的であることを知見した。上記の特定(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、SP値が高く、ポリウレタンとの相溶性が良く、tanδの温度依存性の変動係数が低いことから、この樹脂成分をウレタン樹脂材料に配合することにより、アプローチショット時に、広い温度領域で安定した低反発効果が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.少なくとも1層のゴム製コアと、該コアを被覆する少なくとも1層のカバーを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの少なくとも1層は、下記(I)及び(II)成分
(I)ポリウレタン又はポリウレア
(II)(メタ)アクリル系ブロック共重合体
を含有した樹脂組成物により形成されると共に、下記式(1)で計算されるCS1値が-4.08×10-3より大きいことを特徴とするゴルフボール。
CS1=(CV50-CV12)/38 ・・・(1)
〔上記式において、CV50は入射速度50.0m/sにおける反発係数の値を示し、CV12は入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
2.下記式(2)で計算されるCS2値が-5.23×10-3より大きい上記1記載のゴルフボール。
CS2=(1.0-CV12/45)/33 ・・・(2)
〔上記式において、CV12/45は、入射速度45.0m/sにおける反発係数の値を1.0としたときの入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
3.上記(II)成分の(メタ)アクリル系ブロック共重合体の配合量は、上記(I)成分100質量部に対して30質量部未満である上記1又は2記載のゴルフボール。
4.上記(II)成分のメルトフローレート(MFR)値が、230℃、2.16kgf荷重の測定条件(ISO1133)で20g/10min以上である上記1又は2記載のゴルフボール。
5.上記(II)成分のブロック共重合体は、ハードセグメントを構成するブロック2個以上とソフトセグメントとを構成するブロック1個以上を有する上記1又は2記載のゴルフボール。
6.上記(II)成分のブロック共重合体において、ハードセグメントは、メタクリル酸メチル単位を主体として構成されると共に、ソフトセグメントは、アクリル酸n-ブチル単位またはアクリル酸n-ブチル/アクリル酸2-エチルヘキシル単位を主体として構成されるものである上記1又は2記載のゴルフボール。
7.上記(II)成分のブロック共重合体に占めるメタクリル酸メチル単位の含有量が20~50質量%である上記6記載のゴルフボール。
8.上記(II)成分のtanδの温度依存性は、-10~30℃の間の10℃刻みで測定したtanδがいずれも0.1以上であり、且つ、-10~30℃の間の10℃刻みで測定した5つの温度でのtanδの標準偏差が0.26以下であって、変動係数CV1(標準偏差/平均値)が0.5以下である上記1又は2記載のゴルフボール。
9.上記(II)成分のtanδの温度依存性は、0~30℃の間の10℃刻みで測定したtanδがいずれも0.1以上であり、且つ、0~30℃の間の10℃刻みで測定した4つの温度でのtanδの標準偏差が0.2以下であって、変動係数CV2(標準偏差/平均値)が0.42以下である上記1又は2記載のゴルフボール。
10.上記(II)成分の溶解度パラメータ(SP値)が9以上である上記1又は2記載のゴルフボール。
11.上記樹脂組成物には、更に、(III)成分として、ショアD硬度20~50及びJIS-K 6255規格の測定による反発弾性率50~80%を有する熱可塑性ポリエステルエラストマーを含有する上記1又は2記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴルフボールは、従来のウレタン製カバーを有するゴルフボールに比べて、アプローチショット時のコントロール性がより一層優れると共に、耐擦過傷性を良好に維持でき、成型性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のゴルフボール及び従来品における入射速度とCOR値との関係を説明するためのグラフである。
【
図2】各実施例において使用した(II)成分のtanδの温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル系ブロック共重合体」の用語は、アクリル系のブロック共重合体及びメタクリル系のブロック共重合体の両方を意味するものとして用いられる。
【0014】
本発明のゴルフボールは、下記式(1)で計算されるCS1値が-4.08×10-3より大きいことを要する。
CS1=(CV50-CV12)/38 ・・・(1)
〔上記式において、CV50は入射速度50.0m/sにおける反発係数の値を示し、CV12は入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
【0015】
図1に示すように、本発明のゴルフボールは、通常のボール製品と比べると、入射速度の速い場合にはCOR値はあまり変わらないが、入射速度が遅くなるほど、COR値が低くなり、直線グラフの傾きが小さくなる。CS
1=(CV
50-CV
12)/38は、この直線グラフの傾きを意味する。即ち、CS
1の値が-4.08×10
-3より大きいと、低初速域ではCOR値が下がり、高初速域では下がらず、そのためアプローチコントロール性に効果的である。なお、上記式(1)において、CV
12(入射速度12.0m/s)を用いたのは、ヘッドスピード(HS)11~13m/s付近が15yardのアプローチショット時の打撃条件に相当し、CV
50(入射速度50.0m/s)を用いたのは、トッププロや上級者がドライバー(W#1)打撃したときの条件に相当するものである。
【0016】
また、本発明のゴルフボールは、上記の条件に加えて、下記式(2)で計算されるCS2値が-5.23×10-3より大きいことを好適である。
CS2=(1.0-CV12/45)/33 ・・・(2)
〔上記式において、CV12/45は、入射速度45.0m/sにおける反発係数の値を1.0としたときの入射速度12.0m/sにおける反発係数の値を示す。〕
なお、上記式(2)において、CV12(入射速度12.0m/s)を用いたのは、ヘッドスピード(HS)11~13m/s付近が15yardのアプローチショット時の打撃条件に相当し、CV45(入射速度45.0m/s)を基準として用いたのは、一般的な男性アマチュアゴルファーがドライバー(W#1)打撃したときの条件に相当するものである。
【0017】
本発明のゴルフボールは、少なくとも1層からなるコアに、少なくとも1層のカバー、即ち、単層又は複数層のカバーが被覆されるボール構造を有する。
【0018】
上記コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。
【0019】
また、ポリブタジエンは、Nd触媒の希土類元素系触媒,コバルト触媒及びニッケル触媒等の金属触媒により合成することができる。
【0020】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤,ジクミルパーオキサイドや1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0021】
上記コアは、上記各成分を含有するゴム組成物を加硫硬化させることにより製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形又は射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、100~200℃、好ましくは140~180℃、10~40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させて製造することができる。
【0022】
本発明のゴルフボールは、コアに単層又は複数層のカバーが被覆される。このようなゴルフボールの態様としては、例えば、コアに単層のカバーを有するゴルフボールや、コアと、該コアを被覆する中間層と、該中間層を被覆する最外層を有するゴルフボールが挙げられる。
【0023】
本発明では、上記カバーの少なくとも1層の樹脂材料として、下記(I)及び(II)成分
(I)ポリウレタン又はポリウレア
(II)(メタ)アクリル系ブロック共重合体
を含有した樹脂組成物により形成される。
【0024】
(I)ポリウレタンまたはポリウレア
ポリウレタンまたはポリウレアは、上記カバー材料(樹脂組成物)の主材またはベース樹脂となり得るものである。この成分であるポリウレタン(I-a)またはポリウレア(I-b)の詳細は以下のとおりである。
【0025】
(I-a)ポリウレタン
ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びポリイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、従来からポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではない。例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールを採用することができる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記高分子ポリオールとしては、ポリエーテル系ポリオールを用いることが好適である。
【0027】
上記の長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,000~5,000の範囲内であることが好ましい。かかる数平均分子量を有する長鎖ポリオールを使用することにより、上記した反発性や生産性などの種々の特性に優れたポリウレタン組成物からなるゴルフボールを確実に得ることができる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,500~4,000の範囲内であることがより好ましく、1,700~3,500の範囲内であることが更に好ましい。
【0028】
なお、上記の数平均分子量とは、JIS-K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である(以下、同様。)。
【0029】
鎖延長剤としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が2,000以下である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールを好適に使用することができる。
【0030】
ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。
【0031】
また、上記ポリウレタン形成反応における活性水素原子:イソシアネート基の配合比は適宜好ましい範囲にて調整することができる。具体的には、上記の長鎖ポリオール、ポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を反応させてポリウレタンを製造するに当たり、長鎖ポリオールと鎖延長剤とが有する活性水素原子1モルに対して、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基が0.95~1.05モルとなる割合で各成分を使用することが好ましい。
【0032】
ポリウレタンの製造方法は特に限定されず、長鎖ポリオール、鎖延長剤及びポリイソシアネート化合物を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0033】
上述したポリウレタンとしては、熱可塑性ポリウレタン材料を用いることが好ましく、特にエーテル系熱可塑性ポリウレタン材料であることが好適である。熱可塑性ポリウレタン材料としては、市販品を好適に用いることができ、例えば、ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」や、大日精化工業社製の商品名「レザミン」などを挙げることができる。
【0034】
(I-b)ポリウレア
ポリウレアは、(i)イソシアネートと(ii)アミン末端化合物との反応により生成するウレア結合を主体にした樹脂組成物である。この樹脂組成物について以下に詳述する。
【0035】
(i)イソシアネート
イソシアネートは、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はなく、上記ポリウレタン材料で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0036】
(ii)アミン末端化合物
アミン末端化合物は、分子鎖の末端にアミノ基を有する化合物であり、本発明では、以下に示す長鎖ポリアミン及び/又はアミン系硬化剤を用いることができる。
【0037】
長鎖ポリアミンは、イソシアネート基と反応し得るアミノ基を分子中に2個以上有し、かつ数平均分子量が1,000~5,000であるアミン化合物である。本発明では、より好ましい数平均分子量は1,500~4,000であり、更に好ましくは1,900~3,000である。上記長鎖ポリアミンの具体例としては、アミン末端を持つ炭化水素、アミン末端を持つポリエーテル、アミン末端を持つポリエステル、アミン末端を持つポリカーボネート、アミン末端を持つポリカプロラクトン、及びこれらの混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの長鎖ポリアミンは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
一方、アミン系硬化剤は、イソシアネート基と反応し得るアミノ基を分子中に2個以上有し、かつ数平均分子量が1,000未満であるアミン化合物である。本発明では、より好ましい数平均分子量は800未満であり、更に好ましくは600未満である。上記アミン系硬化剤の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1-メチル-2,6-シクロヘキシルジアミン、テトラヒドロキシプロピレンエチレンジアミン、2,2,4-及び2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジシクロヘキシルメタン、1,4-ビス-(sec-ブチルアミノ)-シクロヘキサン、1,2-ビス-(sec-ブチルアミノ)-シクロヘキサン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジシクロヘキシルメタンの誘導体、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサン-ビス-(メチルアミン)、1,3-シクロヘキサン-ビス-(メチルアミン)、ジエチレングリコールジ-(アミノプロピル)エーテル、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、プロピレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピレントリアミン、イミド-ビス-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス-(2-クロロアニリン)、3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン、3,5-ジエチルチオ-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジエチルチオ-2,6-トルエンジアミン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジフェニルメタン及びその誘導体、1,4-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ベンゼン、1,2-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ベンゼン、N,N’-ジアルキルアミノ-ジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、トリメチレングリコール-ジ-p-アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート、4,4’-メチレンビス-(3-クロロ-2,6-ジエチレンアニリン)、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジエチルアニリン)、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及びこれらの混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。これらのアミン系硬化剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(iii)ポリオール
ポリウレアには、必須成分ではないが、上述した(i)成分及び(ii)成分に加えて更にポリオールを配合することができる。このポリオールとして、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はないが、具体例として、以下に示す長鎖ポリオール及び/又はポリオール系硬化剤を例示することができる。
【0040】
長鎖ポリオールとしては、従来からポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,000~5,000であることが好ましく、より好ましくは1,700~3,500である。この数平均分子量の範囲であれば、反発性及び生産性等がより一層優れるものとなる。
【0042】
ポリオール系硬化剤としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が1000未満である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールを好適に使用することができる。また、上記ポリオール系硬化剤の、好ましい数平均分子量は800未満であり、より好ましくは600未満である。
【0043】
上記ポリウレアの製造方法については、公知の方法を採用し得、プレポリマー法、ワンショット法等の公知の方法を適宜選択すればよい。
【0044】
上記(I)成分の材料硬度については、ゴルフボールとして得られるスピン特性や耐擦過傷性の点から、ショアD硬度で52以下であることが好ましく、より好ましくはショアD硬度で50以下、更に好ましくは48以下である。また、その下限値としては、成型性の点からショアD硬度で38以上が好ましく、より好ましくはショアD硬度で40以上である。
【0045】
上記(I)成分の反発弾性率は、打撃時の初速性能やスピン性能などのゴルフボールとしての総合的な点から、55%以上であることが好ましく、より好ましくは57%以上、更に好ましくは59%以上である。上記の反発弾性率は、JIS-K 6255:2013規格に基づいて測定される。
【0046】
上記(I)成分は樹脂組成物の主材であり、ウレタン樹脂が有する耐擦過傷性を十分に付与する点から、樹脂組成物の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0047】
本発明では、上記(I)成分に下記に詳述する(II)成分を配合することにより、アプローチショット時のコントロール性、耐擦過傷性及び成型性に優れるものである。
【0048】
(II)(メタ)アクリル系ブロック共重合体
(II)成分の(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、ハードセグメントを構成するブロック2個以上とソフトセグメントとを構成するブロック1個以上を有するブロック共重合体であることが好適である。即ち、本発明で用いる(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、ブロックポリマーA,Bを含むポリマーであり、A-BまたはA-B-Aの化学構造で表すことができる。なお、本発明で用いる(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、特許文献2に記載されような、一般的なコアシェル型を有するアクリル系共重合体とは化学構造が異なる。
【0049】
ブロックポリマーAはハードセグメントを構成する部位であり、モノマー単位として具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステルが挙げられ、メタクリル酸メチル(MMA)を主体として用いることが好ましい。ブロックポリマーAは、上記のモノマー単位の中から単独または2種以上を併用して構成することができる。
【0050】
一方、ブロックポリマーBはソフトセグメントを構成する部位であり、モノマー単位として具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-メトキシエチル等のアクリル酸エステルが挙げられ、アクリル酸n-ブチル(nBA)を主体として用いることが好ましい。ブロックポリマーBは、上記のモノマー単位の中から単独または2種以上を併用して構成することができる。
【0051】
ハードセグメントを示す上記ブロックポリマーAのガラス転移温度(Tg)は80~140℃であることが好ましく、より好ましくは100~120℃である。一方、ソフトセグメントを示す上記ブロックポリマーBのガラス転移温度(Tg)は-80~-20℃であることが好ましく、より好ましくは-60~-40℃である。
【0052】
上記(メタ)アクリル系ブロック共重合体において、ハードセグメントとソフトセグメントとの含有割合は、質量比で、5:95~40:60であることが好適であり、より好ましくは10:90~30:70である。ソフトセグメントの割合が多くなるほど、樹脂組成物を軟化させて所望のアプローチコントロール性が得られることが期待できるが、ハードセグメントの割合が少なすぎると、基材であるポリウレタン樹脂等との相溶が低下し、成型性が悪化する場合がある。
【0053】
ハードセグメントとしては、メタクリル酸メチル単位を主体として構成する場合、上記(II)成分のブロック共重合体に占めるメタクリル酸メチル単位の含有量が20~50質量%であることが好適である。この値が低すぎると、流動性が非常に高くなってしまい成形材料として不向きであり、一方、この値が高すぎると、得られる成形物が硬くなりすぎる場合がある。
【0054】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、上記各モノマー単位を重合して得ることができ、その重合方法としては、例えば、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。重合の形態としては、例えば、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法等を例示することができる。
【0055】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体の重量平均分子量は、特に制限されるものではないが、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは30,000以上、さらに好ましくは45,000以上であり、上限値としては、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらに好ましくは100,000以下である。この重量平均分子量が高い程、低反発性の効果を有した上で、スピン量も高くなり、アプローチショット時のコントロール性に優れるものとなる。この重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0056】
本発明で用いる(メタ)アクリル系ブロック共重合体としては、ハードセグメントに、メタクリル酸メチル単位を主体として構成されると共に、ソフトセグメントに、アクリル酸n-ブチル単位を主体として構成されるポリマーであることが好適である。このような(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、市販品を採用することができ、例えば、クラレ社製の“クラリティ”を挙げることができ、具体的には、商品名「クラリティLA2114」「クラリティLA2140」「クラリティLA2250」「クラリティLA2270」「クラリティLA2330」及び「クラリティLA4285」等を例示することができる。
【0057】
上記(II)成分については、tanδの温度依存性は、-10~30℃の間の10℃刻みで測定したtanδがいずれも0.1以上であり、且つ、-10~30℃の間の10℃刻みで測定した5つの温度でのtanδの標準偏差が0.26以下であって、変動係数CV1(標準偏差/平均値)が0.5以下であることが好適である。即ち、この樹脂成分は、室温付近のtanδが高いことで優れた制振性を有し、また、この樹脂成分のtanδの温度依存性は、ゴルフのプレー温度の領域では変動係数が小さく安定している。そのため、ゴルフのプレー温度の領域では、アプローチショット時には、確実に安定したボール低反発性能を付与することができる。
【0058】
また、上記と同様の理由から、上記(II)成分のtanδの温度依存性は、よりゴルフのプレー環境に近い温度の領域である0~30℃の間の10℃刻みで測定したtanδがいずれも0.1以上であり、且つ、0~30℃の間の10℃刻みで測定した4つの温度でのtanδの標準偏差が0.2以下であって、変動係数CV2(標準偏差/平均値)が0.42以下であることが好適である。
【0059】
また、上記(II)成分の材料硬度については、アプローチスピン量の向上の点から、ショアD硬度で38以下であることが好適であり、より好ましくはショアD硬度で35以下、更に好ましくは32以下である。また、その下限値としては、好ましくは、ショアD硬度で4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。
【0060】
(II)成分の反発弾性率は、アプローチスピン量を維持且つアプローチでの反発性を低く抑えてコントロール性を得る点から、50%以下であることが好ましく、より好ましくは45%以下、更に好ましくは42%以下である。また、上記反発弾性率の下限値は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。上記の反発弾性率は、JIS-K 6255:2013規格に基づいて測定される。
【0061】
(II)成分のメルトフローレート(MFR)は、高い値に設定することにより、ポリウレタン樹脂材料の流動性を向上させ、成形時の成形温度を低下させ、ウレタン分子の切断や劣化を抑制し、更に耐擦過傷性を向上させることができる。具体的には、ISO1133の規格、試験温度230℃、試験荷重21.18N(2.16kgf)条件下での測定値で、20g/10min以上が好ましく、より好ましくは30g/10min以上、さらに好ましくは40g/10min以上である。
【0062】
更に、(II)成分の溶解度パラメータ(SP値)が9以上であることが好適であり、より好ましくは10以上である。この値が高ければ高いほど、基材であるウレタン樹脂との相溶性が高くなり、本発明のゴルフボールの諸物性の高品質が見込まれる。
【0063】
(II)成分の配合量については、上記(I)成分100質量部に対して、30質量部未満であることが好ましく、より好ましくは20質量部以下であり、好ましくは15質量部以下であり、この値を超えると、耐擦過性が低下するおそれがある。なお、上記の配合量の下限値は、上記(I)成分100質量部に対して、0.5質量部以上であり、好ましく1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であることが好適である。
【0064】
上記(I)及び(II)を含有する樹脂組成物には、上述した樹脂成分以外には、他の樹脂材料を配合してもよい。その目的は、ゴルフボール用樹脂組成物の更なる流動性の向上や反発性、割れ耐久性などの諸物性を高めるなどの点からである。
【0065】
上記(I)及び(II)成分を含有した樹脂組成物には、更に、(III)熱可塑性ポリエステルエラストマーを含有することができる。(III)熱可塑性ポリエステルエラストマーの説明については以下のとおりである。
【0066】
(III)熱可塑性ポリエステルエラストマー
本発明の所望の効果を得ると共に、更なる打感の改良効果のために、樹脂組成物に特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーを配合することができる。即ち、この特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、樹脂組成物に一定以上の反発性を付与し、この反発性付与と相まってアプローチショット時のスピン量を一定以上に高く維持できるものである。また、樹脂組成物に特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーを配合することにより、ベース樹脂である上記(I)成分との相溶性が良く、その結果、耐擦過傷性を良好に付与し得る。さらに、樹脂組成物に特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーを配合することにより、一定以上の溶融粘度を有することで、樹脂組成物の成型後に固化性を付与し、即ち、ベース樹脂である上記(I)成分が軟らかいことにより樹脂組成物全体の粘度が下がることを抑制し、成型性(生産性)低下や、成型後のゴルフボールの外観不良増加の防止、冷却時間の増大による生産コスト高を抑制することができる。このような熱可塑性ポリエステルエラストマーとして以下に説明する。
【0067】
(III)成分の熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、
(b-1)ポリエステルブロック共重合体と(b-2)硬質樹脂とからなる樹脂組成物である。更に、上記(b-1)成分は、(b-1-1)高融点結晶性重合体セグメントと、(b-1-2)低融点重合体セグメントとを構成成分とする。
【0068】
上記(b-1)成分のポリエステルブロック共重合体を構成する(b-1-1)高融点結晶性重合体セグメントは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体、ジオール又はそのエステル形成性誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上で形成されるポリエステルである。
【0069】
まず、芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、及び3-スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。本発明においては、芳香族ジカルボン酸を主に用いるが、必要に応じてこの芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、及び4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、及びダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。また、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の具体例としては、上述したジカルボン酸の低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル及び酸ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0070】
次に、ジオールとしては、分子量400以下のジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びデカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、及びトリシクロデカンジメタノール等の脂環族ジオール、キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、及び4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニル等の芳香族ジオールを例示することができる。また、ジオールのエステル形成性誘導体の具体例としては、上述したジオールのアセチル体、アルカリ金属塩等を挙げることができる。
【0071】
上記の芳香族ジカルボン酸、ジオール、並びにこれらの誘導体は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0072】
上記(b-1-1)成分としては、特にテレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4-ブタジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるものや、イソフタル酸及び/又はジメチルイソフタレートと1,4ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるもの、更には、その両者の共重合体を好適に用いることができる。
【0073】
上記(b-1-2)低融点重合体セグメントは、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルである。
【0074】
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール等が挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。本発明では、弾性特性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、及びポリエチレンアジペート等を好適に使用することができる。更には、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、及びエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールを使用することが推奨される。また、これらのセグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0075】
上記(b-1)成分は公知の方法で製造することができる。具体的には、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール及び低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下でエステル交換反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法や、ジカルボン酸と過剰量のグリコール及び低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下でエステル化反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法等を採用することができる。
【0076】
(b-1)成分において上記(b-1-2)成分が占める割合は30~60質量%である。この場合、好ましい下限値は35質量%以上とすることができ、好ましい上限値は55質量%以下とすることができる。(b-1-2)成分の割合が少なすぎると、(特に低温時における)耐衝撃性や相溶性が不足するおそれがある。一方、(b-1-2)成分の割合が多すぎると、樹脂組成物(及び成形体)の剛性が不足することがある。
【0077】
(b-2)成分の硬質樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ABS樹脂やポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、及び変性ポリフェニレンエーテルよりなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、相溶性の点からポリエステル樹脂を好適に使用することができ、更に好ましくは、ポリブチレンテレフタレート及び/又はポリブチレンナフタレートを使用することが推奨される。
【0078】
上記の(b-1)成分及び(b-2)成分の配合比率((b-1):(b-2))は、特に制限されるものではないが、質量比で50:50~90:10とすることが好ましく、より好ましくは55:45~80:20である。(b-1)成分の割合が少なすぎると、(低温時における)耐衝撃性が不足するおそれがある。一方、(b-1)成分の割合が多すぎると、組成物(及び成形体)の剛性及び成形加工性が不足するおそれがある。
【0079】
このような(III)ポリエステル系エラストマーとしては、市販品を用いることができ、具体例としては、東レ・デュポン社製の“ハイトレル”を挙げることができる。
【0080】
上記(III)成分の材料硬度については、アプローチスピン量の向上の点から、ショアD硬度で50以下であることが好ましく、より好ましくはショアD硬度で43以下である。また、その下限値としては、ショアD硬度で20以上が好ましく、より好ましくはショアD硬度で30以上である。
【0081】
(III)成分の反発弾性率は、アプローチスピン量の向上の点から、50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上であり、上限値は、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。上記の反発弾性率は、JIS-K 6255:2013規格に基づいて測定される。
【0082】
(III)成分の溶融粘度は、0.3×104dPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは0.4×104dPa・s以上であり、上限値は、好ましくは1.5×104dPa・s以下であり、より好ましくは1.0×104dPa・s以下である。この溶融粘度を有することにより、樹脂組成物の成型後に固化性を付与し、成型性(生産性)低下を抑制することができる。この溶融粘度は、ISO 11443:1995に準じて、温度条件200℃にてキャピログラフで測定したとき、せん断速度243(1/sec)における溶融粘度を示す。
【0083】
(III)成分の配合割合については、樹脂組成物100質量に対して、30質量部以下であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。この下限値は、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部である。この値を超えると、成型性や擦過傷性低下のおそれがある。
【0084】
上記(I)成分、(II)成分、必要により(III)成分を含有する樹脂組成物には、上述した樹脂成分以外には、他の樹脂材料を配合してもよい。その目的は、ゴルフボール用樹脂組成物の更なる流動性の向上や反発性、割れ耐久性などの諸物性を高めるなどの点からである。
【0085】
他の樹脂材料としては、具体的には、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、エチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体又はその変性物、ポリアセタール、ポリエチレン、ナイロン樹脂、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド及びポリアミドイミドから選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。
【0086】
また、上記樹脂組成物には、更に、活性のあるイソシアネート化合物を含むことができる。この活性イソシアネート化合物は、主成分であるポリウレタン又はポリウレアと反応して、樹脂組成物全体の耐擦過傷性を更に向上させることができるほか、イソシアネートの可塑化効果により流動性を向上させて成型性を向上させることができる。
【0087】
上記のイソシアネート化合物としては、通常のポリウレタンに使用されているイソシアネート化合物であれば特に制限なく用いることができ、例えば芳香族イソシアネート化合物としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート又はこれら両者の混合物、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ビフェニルジイソシアネートなどが挙げられ、これら芳香族イソシアネート化合物の水添物、例えばジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを用いることもできる。また、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、オクタメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。更に、末端に2個以上のイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基と活性水素を有する化合物とを反応させたブロックイソシアネート化合物や、イソシアネートの二量化によるウレチジオン体などが挙げられる。
【0088】
上記のイソシアネート化合物の配合量は、(I)成分であるポリウレタンまたはポリウレア樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、上限値としては、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。この配合量が少なすぎると、十分な架橋反応が得られず、物性の向上が認められない場合がある。一方、この配合量が多すぎると、経時、熱や紫外線による変色が大きくなり、あるいは、熱可塑性を失ってしまったり、反発の低下等の問題が生じる場合がある。
【0089】
更に、上記樹脂組成物には、任意の添加剤を用途に応じて適宜配合することができる。例えば、本発明のゴルフボール用材料をカバー材として用いる場合、上記成分に、充填剤(無機フィラー)、有機短繊維、補強剤、架橋剤、顔料,分散剤,老化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤などの各種添加剤を加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量としては、基材樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0090】
上記樹脂組成物の反発弾性率については、低反発性及びアプローチスピン量の向上のために、JIS-K 6255:2013規格の測定で48%以上であることが必要とされ、好ましくは50%以上、さらに好ましくは52%以上であり、上限値は72%以下であり、好ましくは70%以下、より好ましくは68%以下である。
【0091】
また、上記樹脂組成物の材料硬度については、耐擦過傷性や適切なアプローチスピン量の付させる点から、ショアD硬度で50以下であることが好適であり、より好ましくは48以下、より好ましくはショアD硬度で45以下である。その下限値としては、成型性の点から、ショアD硬度で30以上が好ましく、より好ましくは35以上、さらに好ましくは37以上である。
【0092】
上記樹脂組成物の各成分の調製方法については、例えば、混練型(単軸又は)二軸押出機,バンバリー,ニーダー,ラボプラストミル等の各種の混練機を用いて混合することができ、或いは、樹脂組成物の射出成形時にドライブレンドにより各成分を混合しても良い。更に、上記の活性イソシアネート化合物を用いる場合には、各種混練機を用いて樹脂混合時に含有させてもよく、または、予め活性イソシアネート化合物やその他の成分を含有したマスターバッチを別途用意し、樹脂組成物の射出成形時にドライブレンドすることにより、各成分を混合しても良い。
【0093】
例えば、上記樹脂組成物によりカバーを成形する方法としては、例えば、射出成形機に上述の樹脂組成物を供給し、コアの周囲に溶融した樹脂組成物を射出することによりカバーを成形することができる。この場合、成形温度としては、主成分である(I)ポリウレタン又はポリウレア等の種類によって異なるが、通常150~270℃の範囲である。
【0094】
カバーの厚さは、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.6mm以上であり、上限として、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。
【0095】
上記コアと上記との間に少なくとも1層の中間層を介在させる場合、中間層の材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂、特にアイオノマー樹脂を採用することが好適であり、アイオノマー樹脂としては市販品を用いることができる。この場合、中間層の厚さは、上記カバーの厚さと同様の範囲内で設定することができる。
【0096】
本発明のゴルフボールには、空気力学的性能の点から、最外層の表面に多数のディンプルが設けられる。上記最外層表面に形成されるディンプルの個数については、特に制限はないが、空気力学的性能を高め飛距離を増大させる点から、好ましくは250個以上、より好ましくは270個以上、さらに好ましくは290個以上、最も好ましくは300個以上であり、上限値として、好ましくは400個以下、より好ましくは380個以下、さらに好ましくは360個以下である。
【0097】
本発明では、カバー表面には塗膜層が形成される。この塗膜層を形成する塗料としては、2液硬化型ウレタン塗料を採用することが好適である。具体的には、この場合、上記2液硬化型ウレタン塗料は、ポリオール樹脂を主成分とする主剤と、ポリイソシアネートを主成分とする硬化剤とを含むものである。
【0098】
カバー表面に上記の塗料を塗装して塗膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、エアガン塗装法や静電塗装法等、所望の方法を用いることができる。
【0099】
塗膜層の厚さについては、特に制限はないが、通常、8~22μm、好ましくは10~20μmである。
【0100】
なお、本発明のゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径は42.672mm内径のリングを通過しない大きさで42.80mm以下、質量は好ましくは45.0~45.93gに形成することができる。
【実施例0101】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0102】
〔実施例1~13、比較例1~3〕
共通するコア
表1に示す配合により、全ての例に共通するコア用のゴム組成物を調製・加硫成形することにより直径38.6mmのコアを作製した。
【0103】
【0104】
上記コア材料の詳細は下記のとおりである。
・「cis-1,4-ポリブタジエン」JSR社製、商品名「BR01」
・「アクリル酸亜鉛」日本触媒社製
・「酸化亜鉛」堺化学工業社製
・「硫酸バリウム」堺化学工業社製
・「老化防止剤」商品名「ノクラックNS6」(大内新興化学工業社製)
・「有機過酸化物(1)」ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・「有機過酸化物(2)」1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物、商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
・「ステアリン酸亜鉛」日油社製
【0105】
共通する中間層
直径38.6mmのコアの周囲に中間層用の樹脂材料を射出成形し、厚さ1.25mmの中間層を有する中間層被覆球体を作製した。この中間層用の樹脂材料は、全ての例に共通する樹脂配合であり、酸含量18質量%のエチレン-不飽和カルボン酸共重合体のナトリウム中和物50質量部と、酸含量15質量%のエチレン-不飽和カルボン酸共重合体の亜鉛中和物50質量部との合計100質量部とするブレンド物である。
【0106】
カバー(最外層)の樹脂組成物
各例のカバーの樹脂組成物については、(I)成分であるベース樹脂として、「TPU」ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、芳香族系エーテルタイプの熱可塑性ポリウレタン(ショアD硬度「40」)を用い、これに、(II)成分またはそれに相当する樹脂成分を適宜配合して調製した。(II)成分の詳細は下記表2のとおりである。
【0107】
【0108】
表2の樹脂成分の詳細は、以下の通りである。
・「LA2140」「LA2330」「LA2250」「LA2270」及び「LA4285」は、いずれも、クラレ社の商品名「クラリティLA」シリーズの(メタ)アクリル系ブロック共重合体(ハードセグメントPMMA/ソフトセグメントPBA)、SP値9以上)である。
・「S.O.E.S1611」旭化成社製の水添芳香族ビニル系エラストマー(スチレン含有量60質量%)
【0109】
樹脂組成物の物性
(1)ショアD硬度
上記の各樹脂を厚さ2mmのシート状に成形し、23±2℃の温度下にて2週間放置した。測定時には3枚のシートが重ね合わされる。ASTM D2240規格に準拠したショアD硬度計にて、樹脂の材料硬度を計測した。硬度の測定には、はショアD型硬度計を取り付けた高分子計器(株)製の自動ゴム硬度計「P2」を用いる。
(2)反発弾性率
JIS-K 6255:2013規格に基づいて測定した各樹脂の反発弾性率を表2に示す。
(3)流動性(MFR)
230℃、2.16kgf荷重の測定条件(ISO1133)で20 g/10min以上
【0110】
tanδの測定
ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製品の粘弾性測定装置「DMAQ800」を用いて、-10~30℃までの10℃間隔でtanδを測定した。試験条件は下記のとおりである。
・試験片:プレスシート
・測定モード:引張
・周波数:11Hz
・昇温速度:2℃/分
そして、上記により得られた各温度におけるtanδの値を上記表2に示した。また、これらの値により
図2に示すように、各温度におけるtanδの値をプロットし、温度依存性のグラフを作成した。なお、表2中のCV1、CV2は、変動係数(CV)を示し、「変動係数(CV)=標準偏差/平均値」で計算される。
【0111】
カバー(最外層)
次に、上記カバー樹脂組成物を中間層被覆球体の周囲に射出成形し、厚さ0.8mmの最外層を有する直径42.7mmのスリーピースゴルフボールを作製した。この際、各実施例、比較例のカバー表面には、特に図示してはいないが、共通するディンプルが形成された。
【0112】
各例で作製したゴルフボールの反発係数、アプローチショット時のスピン量、アプローチコントロール性、打感、耐擦過傷性及び成型性を下記の方法で評価する。その結果を表3及び表4に示す。
【0113】
ボールの反発係数(COR値)
米国Automated Design CORporation製のADC Ball COR Durability Testerにより、ゴルフボールのCOR値を測定した。ゴルフボールを空気圧により、12~50m/sの初速で発射する。約0.8メートルの距離に速度計測センサーが配置されており、約1.2メートル離れて配置された板金にゴルフボールがぶつかると、ゴルフボールは速度計測センサーを通過するようにはね返る。COR値は、戻り速度を初速で除算した値である。
【0114】
アプローチショット時のスピン量
ゴルフ打撃ロボットにサンドウェッジ(SW)を装着し、ヘッドスピード(HS)20m/sで打撃した直後の初速及びバックスピン量を初期条件計測装置により測定する。また、比較例1のアプローチショット時のバックスピン量を基準として、各実施例と比較例1とのスピン量の差を調べた。
【0115】
アプローチコントロール性
また、アプローチショット時のボールのコントロール性についての官能評価を下記の方法により行った。使用したクラブは、上記と同様のサンドウェッジ(SW)製品名「ブリヂストン ツアーステージ TW-03(ロフト角57°)」であり、ゴルファーが実際で打撃したとき下記の基準で評価した。
〔判定評価〕
◎ ・・・ 操作性に非常に優れる。
○ ・・・ 操作性に優れる。
× ・・・ 操作性にやや劣る。
なお、操作性が優れるか否かの判定には、ボールのスピン量の高低に加えて、低反発性に起因するボールとクラブフェースとの接触時間の長さが影響する。接触時間が長い場合は操作性が良くなり、短い場合は操作性が悪くなる。ここでは、スピン量と接触時間の長さとを含めたコントロール性(操作性)を判定する。
【0116】
打感
下記のように打感に関するアプローチ官能評価を行った。使用したクラブは、上記と同様のサンドウェッジ(SW)である。
〔判定評価〕
○ ・・・ クリッキーな音がせず、打感が良好である。
△ ・・・ ややクリッキーな音がするため、やや不快な打感が感じられる。
× ・・・ クリッキーな音がするため、不快な打感が感じられる。
【0117】
耐擦過傷性の評価
ボールを23℃に保温するとともに、スウィングロボットマシンを用い、クラブはピッチングウェッジ(PW)を使用して、ヘッドスピード33m/sで各ボールを各5球ずつ打撃し、打撃傷を以下の基準で目視にて評価する。
○ ・・・ 傷が付いていない。
△ ・・・ やや傷が付いているが、傷はあまり目立たない。
【0118】
成型性
カバー射出成形時の成形温度を、比較例1を基準にしてその温度差を調べた。比較例1を基準として温度が低いほど、成形温度が低くなるので、生産性が良いと評価した。
【0119】
【0120】
【0121】
表3及び表4の結果に示されるように、比較例1~3のゴルフボールは、本発明品(実施例)に比べて以下の点で劣る。
比較例1は、樹脂組成物に(II)成分が含まれておらず、CS1の値が小さいため、アプローチコントロール性が劣る。
比較例2は、樹脂組成物に(II)成分が含まれておらず、打感及び耐擦過傷性が十分ではない。
比較例3は、樹脂組成物に(II)成分が含まれておらず、打撃時にクリッキー音が生じ、打感が良くない。