(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145737
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】フィリング類用油中水型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20241004BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20241004BHJP
A21D 13/38 20170101ALI20241004BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20241004BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23G3/34
A21D13/38
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058219
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
【テーマコード(参考)】
4B014
4B025
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GG14
4B014GK07
4B014GL07
4B014GP02
4B025LB20
4B025LG14
4B025LG15
4B025LG24
4B025LG27
4B025LK01
4B025LP10
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH01
4B026DH10
4B026DX04
4B032DK09
4B032DK10
4B032DK18
4B032DK67
4B032DP12
4B032DP66
(57)【要約】
【課題】ラウリン酸の含有量を低減し、油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類作製時の作業性が良好であって、得られたフィリング類の保形性と口溶けが良好な、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物を提供すること。
【解決手段】油中水型乳化油脂組成物中に特定の油脂成分を含有させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配合された油脂部が下記(A)~(E)を全て満たす、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30%質量以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
ただし、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
【請求項2】
配合された油脂部が下記(F)を満たす、請求項1に記載のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物。
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類。
【請求項4】
下記(A)~(E)を全て満たす油脂部を含有し、100質量部に対して水相成分を5~30質量部含有させる、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物の製造方法。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30%質量以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
ただし、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
【請求項5】
含有する油脂部が下記(F)を満たす、請求項4に記載のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物の製造方法。
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
【請求項6】
配合された油脂部が下記(A)~(E)を全て満たす、フィリング類。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30%質量以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
ただし、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
【請求項7】
含有する油脂部が下記(F)を満たす、請求項6に記載のフィリング類。
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
菓子のフィリングやサンドクリーム、トッピング等フィリング類には、ショートニングやバター、マーガリン等の油中水型乳化油脂組成物を使用し、これに粉糖、粉末果汁、種子類等の固形物、液糖、果汁等の液体、さらに必要に応じて空気、窒素等の気体を気泡の状態で分散させたものが多く存在する。
【0003】
従来油中水型乳化油脂組成物は、高トランスである水素添加油を使用することで、良好な作業性、口溶け、保形性、風味発現を実現していた。一方で、世界情勢として低トランス化要望により、比較的鎖長の短い飽和脂肪酸であるラウリン酸を5質量%以上含む、いわゆるラウリン系油脂を使用したり、ラウリン系油脂を配合したエステル交換油脂を使ったりして、顧客要望を満たすための取り組みが行われてきた。
しかしながら、ラウリン系油脂は加水分解により石鹸臭の原因になることやコスト面で敬遠される場合があり、ラウリン酸の含有量を低減した、油中水型乳化油脂組成物を望まれる場合がある。
【0004】
ラウリン酸の含有量を低減し、必須成分としてベヘン酸を含有する油脂を利用する、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物が開示されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-189773号公報
【特許文献2】特開2017-176100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ラウリン酸の含有量を低減した、油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類の保形性の向上について考察した。使用する油脂の硬さが形状の維持に影響するが、保形性を向上させるために、使用する油脂の融点を高めたり、かかる油脂の配合量を増加したりすることで保形性を維持させることができる。しかしながら、融点の高い油脂の使用により、フィリング類作製時の作業性の悪化、得られたフィリング類の、口溶けや食感の悪化等の問題を引き起こす場合がある。
したがって、ラウリン酸の含有量を低減した、油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類作製時の作業性が良好であって、保形性と口溶けが良好なフィリング類を作製することは、困難な課題であって、満足する品質は得られていなかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、ラウリン酸の含有量を低減し、油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類作製時の作業性が良好であって、得られたフィリング類の保形性と口溶けが良好な、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果。油中水型乳化油脂組成物中に特定の油脂成分を含有させることで、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
(1) 配合された油脂部が下記(A)~(E)を全て満たす、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30%質量以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
ただし、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
(2) 配合された油脂部が下記(F)を満たす、(1)のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物。
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
(3) (1)又は(2)のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類。
(4) 下記(A)~(E)を全て満たす油脂部を含有し、100質量部に対して水相成分を5~30質量部含有させる、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物の製造方法。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30%質量以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
ただし、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
(5) 含有する油脂部が下記(F)を満たす、(4)のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物の製造方法。
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
(6) 配合された油脂部が下記(A)~(E)を全て満たす、フィリング類。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30%質量以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
ただし、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
(7) 含有する油脂部が下記(F)を満たす、(6)のフィリング類。
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ラウリン酸の含有量を低減し、油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類作製時の作業性が良好であって、得られたフィリング類の保形性と口溶けが良好な、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、ラウリン酸の含有量の低減を志向するため、大豆油、ハイエルシン酸菜種油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、こめ油、ベニバナ油、ハイオレイックベニバナ油、オリーブ油、ゴマ油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂等の植物性油脂、牛脂、豚脂等の動物性油脂、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)ならびに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油等、例示された油脂類を主要成分とすることが望ましい。
ラウリン系油脂に相当する、ヤシ油、パーム核油、乳脂、乳脂を含む、バターやバターオイル等、油脂を構成する脂肪酸にラウリン酸を5質量%以上含有する油脂についても、嗜好に応じて使用しても良い。かかるラウリン酸を含有する油脂を使用しても、本発明の請求する範囲を満たせば、本発明の効果を得ることができる。前記ラウリン酸を含有する油脂類において、嗜好性が高く許容できる油脂類は、乳脂、乳脂を含む、バターやバターオイルである。
なお、ハイエルシン酸菜種油を使用する場合、ハイエルシン酸菜種油に含まれるエルシン酸含量は、構成脂肪酸組成中、30質量%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、配合された油脂部が下記(A)~(E)を全て満たす。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30%質量以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
ただし、S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
【0014】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、配合された油脂部が前記(A)~(E)の何れかを満たさない場合。保形性と口溶けが良好なフィリング類を作製することが困難である。
また、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物が、配合された油脂部が前記(A)~(E)の何れかを満たさない場合。フィリング類作製時において、作業性が悪化する場合がある。
【0015】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、配合された油脂部が前記(A)の油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%未満では、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物が硬くなり、フィリング類の作製が困難になる場合がある。また得られたフィリング類の食感も硬くなる場合がある。46質量%を超えると、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物が軟らかくなり、作業性が悪化する場合がある。また作製したフィリング類の保形性が悪化する場合がある。
【0016】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、配合された油脂部が前記(B)の油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が4を超えると、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物が硬くなり、フィリング類の作製が困難になる場合がある。また得られたフィリング類の食感も硬くなる場合がある。2.5未満の場合、保形性が悪化する場合がある。
【0017】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、配合された油脂部が前記(C)の油脂中のS2U含有量が35質量%を超えると、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物が硬くなり、フィリング類の作製が困難になる場合がある。また得られたフィリング類の食感も硬くなる場合がある。30質量%未満では、作製したフィリング類の保形性が悪化する場合がある。
【0018】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、配合された油脂部が前記(E)の構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%を超えると、本発明で志向する風味が得られない場合がある。好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。
【0019】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、好ましい態様として、配合された油脂部が下記(F)を満たす。0.2質量%を超えると、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物が硬くなり、作業性が悪化したり、作製したフィリング類の食感が硬くなったりする場合がある。
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
【0020】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、また別の好ましい態様として、配合された油脂部のS3(Sが3分子結合しているトリグリセリド)は、10質量%以下、より好ましくは9.5質量%以下、さらに好ましくは9.3質量%以下である。S3の好ましい下限値は、7質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは8.5質量%以上である。
【0021】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物は、また別の好ましい態様として、配合された油脂部のU3(Uが3分子結合しているトリグリセリド)は、15質量%以下、より好ましくは14質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下、さらにより好ましくは12質量%以下である。U3の好ましい下限値は、9質量%以上、より好ましくは9.5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。
【0022】
ランダムエステル交換方法としては、酵素もしくは金属触媒(例えばナトリウムメチラート)を用いた方法が例示できる。
【0023】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物において、油相と水相との質量比は、限定されるものではないが、60:40以上90:10以下であることが好ましく、70:30以上90:10以下であることがより好ましく、80:20以上90:10以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物には、その他、油中水型乳化油脂組成物に一般的に使用される原材料を、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜使用することができる。乳化剤、香料、着色料、酸化防止剤、食塩等が例示できる。
【0025】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物の製造方法を例示する。油相は、油脂を必要に応じて融解し、さらに必要に応じて色素、抗酸化剤、香料等の油溶性成分を添加、溶解及び/または分散させ調製することができる。水相は水溶性成分をそのまま、及び/または必要に応じ水又は温水に溶解させ、さらに必要に応じて食塩、糖類、無機塩類等を添加、溶解及び/または分散させ調製することができる。
これらの油相と水相を攪拌混合することで略油中水型乳化物を調製する。攪拌混合の手段には特に制限はなく、ホモミキサー、プロペラ攪拌が例示できる。略油中水型乳化物をマーガリン製造装置において急冷混捏することで、油中水型乳化油脂組成物を得ることができる。マーガリン製造装置としては、各種の掻き取り式熱交換器を使用することができ、具体的にはコンビネーター、ボテーター、パーフェクターを挙げることができる。
【0026】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物を使用したフィリング類の作製において、使用可能な原材料としては、粉糖、加糖練乳、粉末果汁、コーヒー粉末、チーズ粉末、卵殻粉末、香辛料、粉末調味料、ドライフルーツ、フリーズドライ食品、種子類等の固形物、液糖、果汁等の液体、さらに必要に応じて空気、窒素等の気体を気泡の状態で分散させても良い。
【0027】
本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物を使用して、フィリング類を作製する方法は、油中水型乳化油脂組成物に水相成分を混合することができれば特に制限はないが、例えば、縦型ミキサー等を使用することができ、機器としては、KENMIXミキサー(小平製作所社製)、ケンウッドミキサー(英国ケンウッド社製)、ホバートミキサー(HOBART CORPORATION社製)、縦形ミキサー(例えば、関東混合機工業社製、愛工舎製作所社製など)などが例示できる。
【0028】
フィリング類の作製において、本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物を主成分とし使用するが、フィリング類中に該油中水型乳化油脂組成物を30質量%以上含有することが好ましい、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。
【0029】
本発明のフィリング類は、保形性と口溶けの良好なフィリング類が得られるが、保形性について、25℃において、形状を維持することが可能な状態を意味する。
本発明のフィリング類は、あらゆる食品に使用することができる。クッキー、ハードビスケット、ケーキ、ドーナッツ、シュー、パイ、菓子パン、食パン、デニッシュをはじめとする菓子、パンのフィリングやサンドクリーム、トッピング等が例示できる。
【0030】
別の実施態様として、本発明のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物の油相部のみを使用して、水相を実質的に含有しない形態をとることができる。水相を実質的に含有しない形態としては、水分の含有量が0.5質量%以下であるショートニングに該当し、かかるショートニングを使用して、フィリング類を作製することができる。
【実施例0031】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部はいずれも質量基準を意味する。
【0032】
(分析方法)
(脂肪酸組成)
日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1. 2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に規定の方法に準じて測定した。
(トリグリセリド組成の測定方法)
高速液体クロマトグラフ分析にて対称型、非対称型トリグリセリドの和(例えばStStO含量とStOSt含量の和)として測定した。測定条件は、(カラム;ODS、溶離液;アセトン/アセトニトリル=80/20、液量;0.9ml/分、カラム温度;25℃、検出器;示差屈折計)にて実施した。
【0033】
検討には以下の油脂を使用した。油脂A~油脂Iの脂肪酸組成分析結果を表1に示す。
(油脂A)
パームステアリン(ヨウ素価30)66質量部、パーム油31質量部及びハイエルシン酸菜種極度硬化油3質量部からなる配合油を、ナトリウムメチラートを0.15質量%添加してランダムエステル交換を行いエステル交換油を得た。得られたエステル交換油を常法に従い精製した。
(油脂B)
パームステアリン(ヨウ素価30)49質量部、パーム中融点油(ヨウ素価45)39質量部及び大豆油12質量部からなる配合油を、ナトリウムメチラートを0.15質量%添加してランダムエステル交換を行いエステル交換油を得た。得られたエステル交換油を常法に従い精製した。
(油脂C)
パーム油60質量部、パームステアリン(ヨウ素価30)20質量部およびパーム油極度硬化油20質量部からなる配合油を、ナトリウムメチラートを0.15質量%添加してランダムエステル交換油を得た。得られたエステル交換油をアセトン分別により、ヨウ素価63の低融点部を得た。得られた低融点部を常法に従い精製した。
(油脂D)
パームオレイン(ヨウ素価56)を、ナトリウムメチラートを0.15質量%添加してランダムエステル交換を行いエステル交換油を得た。得られたエステル交換油を常法に従い精製した。
(油脂E) 精製パーム油(ヨウ素価52)
(油脂F) パームオレイン(ヨウ素価56)の精製油
(油脂G) パームオレイン(ヨウ素価67)の精製油
(油脂H) 精製菜種油
(油脂I) パーム油極度硬化油の精製油
【0034】
【0035】
各実施例、比較例のフィリング類用油中水型乳化油脂組成物に配合する油脂部を、表2記載の配合割合で混合して作製した。配合油中のランダムエステル交換油割合を表中に示した。
なおエステル交換後に分別して得られた油脂Cもエステル交換油としてエステル交換油割合を算出した。
また、主要なトリグリセリド組成分析結果を表3に、トリグリセリド組成を用いた演算結果を表4に記載した。なお、ジグリセリド成分の存在により、表4記載の成分の合計は100%にはならない。
なお、表4における表記は下記を意味する。
S:炭素数16以上の飽和脂肪酸 U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
S3:Sが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
(フィリング類用油中水型乳化油脂組成物の作製方法)
1.表5記載の油相部に分類される原材料を混合、溶解して、油相を調製した。
2.表5記載の水相部配合に従い,水に原材料を溶解して水相を調製した。
3.攪拌している油相中へ水相を入れ、略油中水型乳化物とした。
4.3で得られた略油中水型乳化物を、マーガリン製造装置(コンビネーター)に供した。
5.得られた油中水型乳化油脂組成物をケースに充填し、冷蔵保管した。
【0040】
(使用した原材料)
表5で使用した原材料を以下に示す。
乳化剤1として、第一工業製薬株式会社製ショ糖脂肪酸エステル「DKエステルF10」を使用した。
乳化剤2として、理研ビタミン株式会社製プロピレングリコールパルミチン酸エステル「PP100」を使用した。
乳化剤3として、理研ビタミン株式会社製モノグリセリド「エマルジーP100」を使用した。
ホエイパウダーとして、雪印乳業株式会社製「セイカゲンプンI」を使用した。
【0041】
【0042】
(フィリング類の作製方法)
表6の配合に従い、作製した油中水型乳化油脂組成物を室温に調温した後、ミキサーボウルに投入し、卓上ミキサーにセットし、粉糖を加えてビーターにて低速で緩める程度に混合する。
混合した生地を低速で攪拌しながら、加糖練乳を2~3回に分けて加える。
得られたフィリングを以下に記載の方法で評価した。結果を表7に示す。
【0043】
【0044】
(評価方法)
パネラー5名にて評価を行い、合議にて以下の評価基準で評価した。
なお、本評価におけるパネラーは、従前から洋菓子の研究に従事し、熟練したパネラー5名であった。
なおいずれの評価においても△以上を合格と判断した。
(1)作業性
〇良好
△軟らかいが許容できる
×硬くて作業性不可
(2)練乳投入時の作業性
〇良好
△若干ダマになるが許容できる
×ダマになり不可、分離し不可
(3)風味:口溶け
〇良好
△口どけ少し悪いが許容できる、若干ダマがあるが許容できる
×乳味感じられない不可
(4)保形性
作製したフィリング類を、すぐに星金口(8-10)にて絞り20℃で一晩放置して、25℃のインキュベーターで24時間保管し、油浮きの有無、保形性を評価した。
〇良好
△若干油分の分離が発生しているが許容できる
×半溶解又は、溶解しており不可
【0045】
【表7】
表中の、*1はやや硬いが許容される範囲であった。*2は軟らかすぎて作業不可であった。
【0046】
フィリングの評価結果(表7)と、使用した油脂部の組成により、下記(A)~(E)で考察した。
(A)~(E)の判定結果を表8に示す。
(A)油脂中の、SU2+U3合計含有量が42質量%以上46質量%以下
(B)油脂中の、U3に対するSU2の含有質量比が2.5~4
(C)油脂中のS2U含有量が30質量%以上35質量%以下
(D)油脂中のランダムエステル交換油割合が80質量%以上
(E)構成脂肪酸組成中、炭素数12の飽和脂肪酸の含有量が5質量%以下
(F)構成脂肪酸組成中、炭素数22の飽和脂肪酸の含有量が0.2質量%以下
【0047】
【0048】
(表7、表8の考察)
・前記(A)~(E)を満たす油脂を使用した、実施例の油中水型乳化油脂組成物は、フィリング作製時の作業性が良好で、得られたフィリング評価も良好であった。
・好ましい態様として、実施例で使用した油脂は、前記(F)も満たすものであった。
・また、実施例で使用した油脂のS3は10質量%以下、U3は15質量%以下であった。
【0049】
(実施例8)
表9記載に従い、バターを使用して油脂を配合した。配合した混合油を、表5の混合油部に使用して、前記同様に、フィリング類用油中水型乳化油脂組成物を作製して、前記同様に評価した。
使用したバターのラウリン酸含有量は3.3%であった。
なお、5.9部バターを配合した実施例8の油脂部においても、前記前記(A)~(F)を全て満たすものであった。
【0050】
【表9】
バター配合した、実施例8においても、実施例1~7と同様な、良好な評価結果が得られた。