(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145738
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ、眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズのインサート成型用フィルム
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20241004BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20241004BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241004BHJP
C08F 18/24 20060101ALI20241004BHJP
C08F 218/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G02C7/10
G02C7/00
C08L29/04 A
C08F18/24
C08F218/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058220
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 良夫
(72)【発明者】
【氏名】大西 智文
【テーマコード(参考)】
2H006
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA03
2H006BE05
2H006DA01
4J002BE021
4J002EU176
4J002FD056
4J002GP01
4J100AG68Q
4J100AH07P
4J100BA02P
4J100BC43Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA23
4J100DA52
4J100DA62
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA33
(57)【要約】
【課題】紫外線吸収機能を備え、更に基材の材質に依存せず安定的に製造することのできる眼鏡レンズ、眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズのインサート成型用フィルムに関する。
【解決手段】物体側表面を形成する第1のレンズ要素部と、眼球側表面を形成する第2のレンズ要素部と、前記第1のレンズ要素部と前記第2のレンズ要素部との間に設けられたフィルムと、を備え、前記フィルムが、紫外線吸収剤を含有する、眼鏡レンズ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側表面を形成する第1のレンズ要素部と、
眼球側表面を形成する第2のレンズ要素部と、
前記第1のレンズ要素部と前記第2のレンズ要素部との間に設けられたフィルムと、
を備え、
前記フィルムが、紫外線吸収剤を含有する、眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記フィルムが、ポリビニルアルコールを含有する、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記フィルムの厚みが、10μm~90μmである、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記第1のレンズ要素部の最小厚みに対する、前記フィルムの最小厚みの比率が、0.10~1.25である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記第2のレンズ要素部の最小厚みに対する、前記フィルムの最小厚みの比率が、0.002~0.06である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記フィルムの偏光度が、40%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
前記第1のレンズ要素部及び前記第2のレンズ要素部が、付加重合体を含有する、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項8】
前記付加重合体が、
(i)ジエチレングリコールビスアリルカーボネートの重合体、及び
(ii)ジエチレングリコールビスアリルカーボネートとジビニルベンゼンジカルボキシルエステルとの共重合体
から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項9】
前記第1のレンズ要素部及び前記第2のレンズ要素部に含まれる樹脂のガラス転移温度が、75℃~85℃である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項10】
前記眼鏡レンズの波長400nmの光の透過率は、40%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項11】
前記眼鏡レンズの視感透過率は、80%以上である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項12】
紫外線吸収剤を含有するフィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意すること、
当該キャビティに硬化性組成物を注入すること、及び
当該硬化性組成物を硬化させることにより内部にフィルムが配置された眼鏡レンズを得ること、
を含む、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項13】
フィルムに対して紫外線吸収剤を含侵させて、紫外線吸収剤を含有するフィルムを得ること、
を更に含む、請求項12に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項14】
紫外線吸収剤を含有する、眼鏡レンズのインサート成型用フィルム。
【請求項15】
前記フィルムが、レンズ球面状曲面を有する、請求項14に記載のフィルム。
【請求項16】
前記フィルムが、ポリビニルアルコールを含有する、請求項14に記載のフィルム。
【請求項17】
前記フィルムの厚みが、10μm~90μmである、請求項14に記載のフィルム。
【請求項18】
前記フィルムの偏光度が、40%以下である、請求項14に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ、眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズのインサート成型用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズ等の光学部材において、太陽光からの紫外線(400nm以下の波長域)をカットし、目を保護することが求められる。加えて、眼鏡レンズ等の光学部材において、青色領域(380~500nmの波長域)の光線をカットすることにより、眩しさが低減され、視認性、コントラストが向上する。また、目の健康に対して、青色領域(380~500nm)の光線はエネルギーが強いため、網膜などの損傷の原因になるとされている。青色光による損傷を「ブルーライトハザード」といい、特に低波長側の420nm付近の光が危険であり、この領域の光をカットすることが望ましいとされている。
【0003】
特許文献1では、機械的な特性すなわち強度の低下や安定剤による素材自体の着色の抑制を課題として、紫外線吸収剤が含浸又は転写されていることを特徴とする高耐光性プラスチックレンズ及びその製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、眼鏡レンズに紫外線吸収機能を付与する方法として、硬化する前の樹脂に紫外線吸収剤を添加し、モールド内で成型重合することで、紫外線吸収剤を含有する眼鏡レンズの基材を得る方法が挙げられる。
【0006】
しかしながら、基材の樹脂と紫外線吸収剤の相性により、溶解させて均一な樹脂を得ることが難しい、あるいは成形重合中に紫外線吸収剤が反応して変質する等の課題が生じることがあった。
【0007】
そこで、本開示の一実施形態は、紫外線吸収機能を備え、更に基材の材質に依存せず安定的に製造することのできる眼鏡レンズ、眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズのインサート成型用フィルムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、紫外線吸収剤を含有するフィルムを眼鏡レンズの基材に導入することで、上述の課題が解決できることを見出した。
【0009】
本開示に係る一実施形態は、
物体側表面を形成する第1のレンズ要素部と、
眼球側表面を形成する第2のレンズ要素部と、
前記第1のレンズ要素部と前記第2のレンズ要素部との間に設けられたフィルムと、
を備え、
前記フィルムが、紫外線吸収剤を含有する、眼鏡レンズに関する。
【0010】
本開示に係る一実施形態は、
紫外線吸収剤を含有するフィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意すること、
当該キャビティに硬化性組成物を注入すること、及び
当該硬化性組成物を硬化させることにより内部にフィルムが配置された眼鏡レンズを得ること、
を含む、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【0011】
本開示に係る一実施形態は、
紫外線吸収剤を含有する、眼鏡レンズのインサート成型用フィルムに関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一実施形態によれば、紫外線吸収機能を備え、更に基材の材質に依存せず安定的に製造することのできる眼鏡レンズ、眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズのインサート成型用フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態の眼鏡レンズ100の断面図である。
【
図2】
図2は、マイナス度数を有する本実施形態の眼鏡レンズ100aの断面図である。
【
図3】
図3は、プラス度数を有する本実施形態の眼鏡レンズ100bの断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法の概要を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、球面の成形面を有する雄型を備える曲面加工台の概略構成図である。
【
図6】
図6は、上型モールド16、乾燥後のフィルム14、及び下型モールド18の概略断面図である。
【
図7】
図7は、上型モールド16にフィルム14を保持するための接着剤からなる保持部材20が形成された状態を示す平面図である。
【
図8】
図8は、上型モールド16にフィルム14を保持するための接着剤からなる保持部材20が形成された状態のA-A’線の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本開示の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
[眼鏡レンズ]
本実施形態に係る眼鏡レンズは、物体側表面を形成する第1のレンズ要素部と、眼球側表面を形成する第2のレンズ要素部と、前記第1のレンズ要素部と前記第2のレンズ要素部との間に設けられたフィルムと、を備え、前記フィルムが、紫外線吸収剤を含有する。上述の実施形態によれば、紫外線吸収機能を備え、更に基材の材質に依存せず安定的に製造することのできる眼鏡レンズ、眼鏡レンズの製造方法、及び眼鏡レンズのインサート成型用フィルムを提供することができる。
【0016】
本開示において、各種用語の意味は以下のとおりである。
「物体側表面」とは、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面であり、「眼球側表面」とは、その反対、即ち眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。面形状に関して、一態様では、物体側表面は凸面であり、眼球側表面は凹面である。ただし、この態様に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本実施形態の眼鏡レンズ100の断面図である。
図1に示すように、本実施形態の眼鏡レンズ100は、メニスカス形状を有するプラスチックレンズであり、第1のレンズ要素部110と、第2のレンズ要素部120と、その両レンズ要素部の間に、曲面加工されたフィルム14とを有するレンズ基材を備える。第1のレンズ要素部110は、フィルム14に対して眼鏡レンズ100の物体側表面111(凸面側)に設けられ、第2のレンズ要素部120は、眼鏡レンズ100の眼球側表面121(凹面側)に設けられている。また、第1のレンズ要素部110及び第2のレンズ要素部120は、ともにメニスカス形状を有しており、第1のレンズ要素部110において、物体側が眼鏡レンズ100の物体側表面111であり、眼球側がフィルム14に当接する面である。同様に、第2のレンズ要素部120において、眼球側が眼鏡レンズ100の眼球側表面121であり、物体側がフィルム14に当接する面である。
【0018】
眼鏡レンズ100内部に埋設されるフィルム14としては、例えば、市販のヨウ素系フィルムをプレス成形によって所定の曲率に曲面加工してレンズ形状に対応させて、外形が円形にカットされたフィルムを使用することができる。曲面加工の詳細については、後述する。
【0019】
眼鏡レンズ100の物体側表面111とフィルム14との距離の最小値W1は、好ましくは、0.3mm以上0.7mm以下である。最小値W1となる位置は、レンズの処方等に基づく眼鏡レンズの形状よって異なる。つまり、マイナス度数のレンズの場合は中心から外周に向かう方向に従って、レンズ厚が厚くなり、プラス度数のレンズの場合はこの逆である。
【0020】
図2は、マイナス度数を有する本実施形態の眼鏡レンズ100aの断面図である。
図2に示される眼鏡レンズ100aは、ベースカーブが2ベース、フィルム14の曲率が3ベースで、処方度数がマイナス度数の単焦点レンズである。マイナス度数を有する眼鏡レンズ100aにおいては、物体側表面111の中心の頂点Tがフィルム14との距離が、上述の最小値W1であり、頂点Tとフィルム14との距離が、0.05mm以上2.0mm以下である。頂点Tは、球面設計の場合では幾何学中心であり、また、光学中心である。
【0021】
一般的にフィルムを有する眼鏡レンズは、全体として厚くなりやすい。例えば、
図2に示す眼鏡レンズ100aは、眼球側表面121に曲面を設け、眼鏡レンズの光学中心の肉厚が最も薄く、周縁部が厚い構造を有する。眼鏡レンズ100aでは、物体側表面111からフィルムの位置までの厚みよりも薄くすることはできない。つまり、眼鏡レンズ100aの最薄となる光学中心の肉厚は、物体側表面111からフィルム14の位置までの厚みに制限されてしまう。さらには光学中心の肉厚に伴い周縁部の厚みが顕著になり、眼鏡レンズ全体として厚い印象を与えることとなってしまう。このような観点から、フィルム14は、眼鏡レンズの物体側の表面に可能な限り近い位置に配置されることが好ましい。そこで、フィルムを曲面加工することで、眼鏡レンズの中心部においても、物体側の表面に可能な限り近い位置に配置され、中心部の肉厚を薄くすることができる。
【0022】
図3は、プラス度数を有する本実施形態の眼鏡レンズ100bの断面図である。
図3に示される眼鏡レンズ100bは、ベースカーブが10ベース、フィルム14の曲率が8ベースで処方度数がプラス度数の単焦点レンズである。プラス度数を有するレンズ100bにおいては、フィルム14と外周部との距離が、上述の最小値W1であり、外周部とフィルム14との距離が、0.05mm以上2.0mm以下である。当該最小値W1は、好ましくは0.1mm以上1.0mm以下であり、より好ましくは0.3mm以上0.7mm以下であり、更に好ましくは0.2mm以上0.6mm以下である。
【0023】
図1に示すような、フィルムを2枚のレンズ要素部で挟み込むタイプの眼鏡レンズでは、第1のレンズ要素部110の物体側表面111の屈折面は回転対称面であることが好ましく、特に球面であることが好ましい。モールド製造やフィルムの曲面創成が容易になるからである。
【0024】
<フィルム>
本実施形態におけるフィルムは、紫外線吸収剤を含有する。紫外線吸収剤は、好ましくは、クロロホルム溶液中において、345nm以上の極大吸収波長を有する。
【0025】
本願明細書において説明するように、当該フィルムは、眼鏡レンズのインサート成型用フィルムである。フィルムは、眼鏡レンズの基材にインサート成型するために、眼鏡レンズの形状にあわせて、レンズ球面状曲面を有していてもよい。
【0026】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジベンゾイルメタン、4-tert-ブチル-4’-メトキシベンゾイルメタン等が挙げられる。
【0027】
ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホニックアシッド、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン及び2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0028】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2-エチルヘキシル 2-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール及び2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
紫外線吸収剤の添加量は、フィルムの合計重量に対し、好ましくは0.01質量%~5質量%であり、より好ましくは0.05質量%~3質量%であり、更に好ましくは0.1質量%~2質量%であり、更に好ましくは0.3質量%~2質量%であり、更に好ましくは0.5質量%~2質量%であり、更に好ましくは0.8質量%~2質量%以下である。
【0030】
当該フィルムは、ポリビニルアルコール(以下、単に「PVA」ともいう)、ポリエチレンテレフタレート(以下、単に「PET」ともいう)等の樹脂とを含んでいてもよい。なお、これらの樹脂の中でもPVAが好ましい。PVAは、透明性、及び耐熱性に優れるため、フィルムの材料として好ましい。フィルムは、例えば、フィルムの樹脂中に紫外線吸収剤を含浸させたフィルム、又は、樹脂中に紫外線吸収剤を練りこんだフィルムを用いることができる。
【0031】
PVAの含有量は、フィルム全質量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。PVAの含有量は、その上限は特に限定されないが例えば、フィルム全質量に対して、100質量%以下であってもよい。
【0032】
フィルムは、片面又は両面に保護層を備えていてもよい。保護層としては、例えば、トリアセチルセルロースフィルム(以下、「TAC」ともいう)を含有するフィルムが挙げられる。
【0033】
フィルムの偏光度は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下であり、より更に好ましくは5%以下である。フィルムの偏光度は、その下限値は特に限定されないが、例えば、0%以上である。偏光度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
フィルムの厚さは、フィルムの曲面加工が可能であることが好ましいが、特に限定されず、好ましくは10μm~90μmであり、より好ましくは15μm~80μmであり、更に好ましくは18μm~60μmであり、より更に好ましくは20μm~50μmである。厚さが10μm以上であることで、剛性が強く、取り扱いが容易であり、90μm以下であることで、フィルムの曲面加工が容易になる。
【0035】
第1のレンズ要素部110の最小厚みに対する、フィルムの最小厚みの比率(フィルムの最小厚み/第1のレンズ要素部の最小厚み)は、好ましくは0.10~1.25であり、より好ましくは0.15~1.00であり、更に好ましくは0.20~0.85である。このような関係とすることで、眼鏡レンズを弾性変形させた場合であっても、フィルムの追従性が高くなり、フィルムの白化を防ぐことができる。
【0036】
第2のレンズ要素部120の最小厚みに対する、フィルムの最小厚みの比率(フィルムの最小厚み/第1のレンズ要素部の最小厚み)が、好ましくは0.002~0.060であり、より好ましくは0.005~0.055であり、更に好ましくは0.02~0.05である。このような関係とすることで、眼鏡レンズを弾性変形させた場合であっても、フィルムの追従性が高くなり、フィルムの白化を防ぐことができる。
【0037】
眼鏡レンズとしては、フィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズのいずれであってもよい。
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。例えば、一例として、累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が、前述の下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
眼鏡レンズとしては、通常無色のものが使用されるが、透明性を損なわない範囲で着色したものを使用することもできる。
【0038】
眼鏡レンズの基材の厚さ及び直径は、特に限定されるものではないが、厚さは通常1~30mm程度、直径は通常50~100mm程度である。
眼鏡レンズ基材の屈折率neは、好ましくは1.50以上であり、より好ましくは1.50~1.80であり、更に好ましくは1.53~1.70であり、更に好ましくは1.55~1.67であり、更に好ましくは1.55~1.60である。
【0039】
本実施形態に係る眼鏡レンズにおける第1のレンズ要素部110及び第2のレンズ要素部120に含まれる樹脂は、好ましくはガラス転移温度を有する。当該ガラス転移温度は、好ましくは75℃~85℃であり、より好ましくは75℃~83℃であり、更に好ましくは78℃~83℃である。樹脂のガラス転移温度が当該範囲にあることで、眼鏡レンズが弾性変形しやすくなるが、本実施形態に係る眼鏡レンズでは、ポリビニルアルコールなどの材質のフィルムを用いることで、眼鏡レンズの弾性変形に追従して、白化などの問題を防ぐことができる。
【0040】
本実施形態におけるガラス転移温度は、以下の熱機械分析法(TMA法)により測定することができる。
(熱機械分析法)
針入プローブ(先端径0.5~1.0mm)に、98mNの荷重を加えて試料の変位を測定することでガラス転移温度を測定する。測定はφ5mm×3mmの試料を室温から10℃/分の割合で昇温させて、熱機械分析装置で試料の変位を測定することで行う。通常試料は昇温に伴う熱膨張により大きくなる。ところがガラス転移温度付近では測定値は試料が膨張から収縮に転じることを示すことがある。これは試料が荷重に耐え切れなくなり針入プローブが試料にめり込んだ時に起こる現象であり、このピークトップ温度をガラス転移温度Tgとする。ピークトップが明確でない場合はピークトップ付近の測定値前後の接線が交差する点の温度をガラス転移温度とする。
【0041】
本実施形態に係る眼鏡レンズにおける第1のレンズ要素部110及び第2のレンズ要素部120に含まれる樹脂は、重合などにより硬化する反応型硬化性組成物であっても、溶融状態の熱可塑性樹脂を含む組成物であって冷却することで相転移型硬化性組成物であってもよい。
【0042】
硬化性組成物としては、例えば、樹脂のモノマーを含む組成物が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリチオウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂等のポリウレタン系樹脂;ポリスルフィド樹脂等のエピチオ系樹脂;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等の付加重合樹脂;が挙げられる。相転移型硬化性組成物としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0043】
(付加重合樹脂)
第1のレンズ要素部110及び第2のレンズ要素部120が、付加重合体を含有することが好ましい。
付加重合体は、
(i)ジエチレングリコールビスアリルカーボネートの重合体、及び
(ii)ジエチレングリコールビスアリルカーボネートとジビニルベンゼンジカルボキシルエステルとの共重合体
から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
なお、付加重合体は、例えば下記の付加重合性組成物の硬化物である。
【0044】
付加重合性組成物は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジビニルベンゼンジカルボキシルエステルのほか、各種単量体を含んでいてもよい。
単量体は、三次元架橋された光学用樹脂を得るために、好ましくは重合性不飽和結合を分子内に2以上有する単量体を含む。
重合性不飽和結合としては、例えば、(メタ)アクリレート基、アリル基、ビニル基等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレート基とは、メタクリレート基、及びアクリレート基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
これらの中でも、好ましくは、メタアクリレート基及びアリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0045】
重合性不飽和結合を分子内に2以上有する単量体としては、好ましくは、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートを含み、より好ましくは、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ベンジルメタクリレート、ジアリルフタレート及びアルキル基の炭素数が1~4のアルキルメタクリレートを含む。
【0046】
ジエチレングリコールビスアリルカーボネートの配合量は、単量体全量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0047】
ベンジルメタクリレート、ジアリルフタレート及びアルキル基の炭素数が1~4のアルキルメタクリレートと組み合わせて使用する場合、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートの配合量は、単量体全量に対して、より好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0048】
ベンジルメタクリレートの配合量は、単量体全量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、好ましくは40
質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0049】
ジアリルフタレートとしては、ジアリルイソフタレート及びジアリルテレフタレートからなる群から選ばれる1種又は2種が挙げられる。
【0050】
ジアリルフタレートの配合量は、単量体全量に対して、好ましくは14質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは88質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0051】
アルキル基の炭素数が1~4のアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、iso-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、及びtert-ブチルメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0052】
アルキルメタクリレートの配合量は、単量体全量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0053】
重合に用いられるラジカル開始剤としては、1,1-アゾビスシクロヘキサンカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、1,1’-アゾビスシクロヘキサンナイトレート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0054】
ラジカル開始剤の配合量は、単量体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0055】
本実施形態に係る眼鏡レンズ全体における視感透過率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。眼鏡レンズ全体における視感透過率は、その上限は特に限定されないが、例えば100%以下であってもよく、98%以下であってもよい。眼鏡レンズ全体における視感透過率とは、機能層を有する場合には、機能層を含めた全体の視感透過率を意味する。視感透過率は、JIS T7333:2005に従って測定する。
【0056】
本実施形態に係る眼鏡レンズ全体における偏光度は、40%以下であってもよい。眼鏡レンズ全体における偏光度は、30%以下であってもよく、20%以下であってもよく、10%以下であってもよく、5%以下であってもよい。偏光度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0057】
本実施形態に係る眼鏡レンズ全体における400nmの光の透過率は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは30%以下であり、更に好ましくは20%以下である。
【0058】
本実施形態に係る眼鏡レンズ全体における波長410nmの光の透過率は、ブルーライトハザードを低減する観点から、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、更に好ましくは1.0%以下である。眼鏡レンズ全体における波長410nmの光の透過率は、その下限値は特に限定されないが、例えば、0.0%以上である。
【0059】
眼鏡レンズ全体における各波長の光の透過率は、機能層を有する場合には、機能層を含めた全体の透過率を意味する。各波長の光の透過率は、分光光度計「U-4100」(商品名、株式会社日立製作所製)を用いて測定する。
【0060】
<機能層>
眼鏡レンズは、機能層を有していてもよい。上述の機能層としては、例えば、ハードコート層、下地層、反射防止層、赤外線吸収層、フォトクロミック層、帯電防止層、防曇層が挙げられる。これらの機能層は、1種を単独又は2種以上を組合せて用いてもよい。これらの機能層については、眼鏡レンズに関する公知技術を適用することができる。これらの中でも、ハードコート層、下地層、及び反射防止層を有することが好ましい。
【0061】
(ハードコート層)
ハードコート層は、例えば、無機酸化物とケイ素化合物とを含むハードコート組成物による硬化膜である。ハードコート組成物は、好ましくは多官能エポキシ化合物を更に含む。
【0062】
無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、これらのうち2種以上の無機酸化物による複合酸化物が挙げられる。これらは、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの無機酸化物の中でも、酸化ケイ素が好ましい。なお、無機酸化物として、コロイダルシリカを用いてもよい。
【0063】
無機酸化物の含有量は、ハードコート組成物の固形分中、好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは25質量%以上70質量%以下であり、更に好ましくは25質量%以上50質量%以下である。
【0064】
ケイ素化合物は、例えば、アルコキシ基などの加水分解性基を有するケイ素化合物である。ケイ素化合物は、好ましくは、ケイ素原子に結合する有機基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤である。ケイ素原子に結合する有機基は、好ましくは、グリシドキシ基などのエポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等の官能基を有する有機基であり、より好ましくはエポキシ基を有する有機基である。なお、ケイ素化合物は、ケイ素に結合するアルキル基を有していてもよい。
【0065】
上述のシランカップリング剤の市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製、製品名、KBM-303、KBM-402、KBM-403、KBE-402、KBE-403、KBM-1403、KBM-502、KBM-503、KBE-502、KBE-503、KBM-5103、KBM-602、KBM-603、KBM-903、KBE-903、KBE-9103、KBM-573、KBM-575、KBM-9659、KBE-585、KBM-802、KBM-803、KBE-846、KBE-9007が挙げられる。
【0066】
ケイ素化合物の含有量は、ハードコート組成物の固形分中、好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上75質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以上75質量%以下である。
【0067】
多官能エポキシ化合物は、一分子中に2つ以上のエポキシ基を含む多官能エポキシ化合物であり、より好ましくは一分子中に2つ又は3つのエポキシ基を含む多官能エポキシ化合物である。多官能エポキシ化合物の市販品としては、ナガセケムテックス株式会社製、製品名「デナコール」シリーズのEX-201,EX-211,EX-212,EX-252,EX-313,EX-314,EX-321,EX-411,EX-421,EX-512,EX-521,EX-611,EX-612,EX-614,EX-614Bが挙げられる。
【0068】
多官能エポキシ化合物の含有量は、ハードコート組成物の固形分中、好ましくは0質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以上30質量%以下である。
【0069】
上述のハードコート組成物は、以上説明した成分の他、必要に応じて、有機溶剤、レベリング剤、硬化触媒等の任意成分を混合して調製することができる。
上述のハードコート層は、硬化性組成物を基材上に塗布し、硬化処理(熱硬化、光硬化等)を施すことにより形成することができる。硬化性組成物の塗布手段としては、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法を適用することができる。硬化処理は、多官能エポキシ化合物を含む硬化性組成物については、通常、加熱により行われる。加熱硬化処理は、例えば上述の硬化性組成物を塗布したレンズを50~150℃の雰囲気温度の環境下に30分~3時間程度配置することで行うことができる。
【0070】
(下地層)
上述の下地層としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びエポキシ樹脂等からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂粒子を含む水系樹脂組成物により形成することができる。
【0071】
上述の水系樹脂組成物としては、市販されている水性ポリウレタンをそのまま、又は必要に応じて水系溶媒で希釈して使用することも可能である。市販されている水性ポリウレタンとしては、例えば、日華化学株式会社製の製品名「エバファノール」シリーズ、第一工業製薬株式会社製の製品名「スーパーフレックス」シリーズ、株式会社ADEKA製の製品名「アデカボンタイター」シリーズ、三井化学株式会社製の製品名「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業株式会社製の製品名「ボンディック」シリーズ、製品名「ハイドラン」シリーズ、バイエル社製の製品名「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン株式会社製の製品名「ソフラネート」シリーズ、花王株式会社製の製品名「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業株式会社製の製品名「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業株式会社製の製品名「アイゼラックス」シリーズ、ゼネカ株式会社製の製品名「ネオレッツ」シリーズが挙げられる。
【0072】
下地層は、例えば、上述の水系樹脂組成物を基材の表面に塗工及び乾燥させることによりを形成することができる。
【0073】
(反射防止層)
反射防止層は、例えば、交互に配置された低屈折率層及び高屈折率層を有する。反射防止層が有する層数は、好ましくは4~11層であり、より好ましくは5~8層である。
【0074】
低屈折率層の屈折率は、波長500~550nmにおいて、好ましくは1.35~1.80であり、より好ましくは1.45~1.50である。低屈折率層は、無機酸化物からなり、好ましくは酸化ケイ素からなる。
【0075】
高屈折率層の屈折率は、波長500~550nmにおいて、好ましくは1.90~2.60であり、より好ましくは2.00~2.40である。高屈折率層は、例えば、無機酸化物からなる。高屈折率層に用いられる無機酸化物は、好ましくは、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化チタニウム、酸化ニオブ及び酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは酸化ジルコニウム及び酸化タンタルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0076】
反射防止層は、真空蒸着法にて、低屈折率層及び高屈折率層を交互に積層することで、反射防止層を形成することができる
【0077】
[眼鏡レンズの製造方法]
次に、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法について、図面を参照し、説明する。
【0078】
図4は、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法の概要を示すフローチャートである。
本実施形態の眼鏡レンズ100の製造方法は、紫外線吸収剤を含有するフィルム14を調製する工程、フィルム14を曲面に加工する工程、フィルム14が内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意する工程、キャビティに硬化性組成物を注入する工程、硬化性組成物を硬化させることにより内部にフィルム14が配置された眼鏡レンズ100を得る工程、及び、眼鏡レンズ100をアニーリングする工程を含む。本実施形態の眼鏡レンズ100の製造方法は、上記の順に上述の工程を含むことが好ましい。
なお、図示しないが、セミレンズを製造する場合には、アニーリング後の眼鏡レンズ100の眼球側表面121を、処方にあわせて研削及び研磨してもよい。その後、眼鏡レンズ100の表面に機能層を形成する工程を有していてもよい。また、眼鏡レンズは、所望のフレーム形状に縁摺りし、枠入れされる。
【0079】
<紫外線吸収剤を含有するフィルムの調製>
紫外線吸収剤を含有するフィルムは、フィルムへの紫外線吸収剤の含侵、又は、フィルムへの紫外線吸収剤の練り込みにより、製造することができる。
【0080】
(フィルムへの紫外線吸収剤の含浸)
フィルムに対して紫外線吸収剤を含侵させて、紫外線吸収剤を含有するフィルムを得ることができる。
フィルムへの含侵は、紫外線吸収剤を含む含浸液にフィルムを浸す工程を有する方法により行ってもよい。含浸液は、例えば、紫外線吸収剤、分散剤、及び水を含んでいてもよい。分散剤として用いられる市販品としては、例えば、「ニッカサンソルト7000」商品名、日華化学株式会社等が挙げられる。
【0081】
(フィルムへの紫外線吸収剤の練り込み)
フィルムに対して紫外線吸収剤を練り込み、紫外線吸収剤を含有するフィルムを得ることができる。
フィルムへの練り込みは、紫外線吸収剤と、熱可塑性樹脂とを混錬する工程、及び混錬した樹脂をフィルムに成形する工程を含む方法により行ってもよい。熱可塑性樹脂としては上述のポリビニルアルコール、及びポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0082】
<フィルムの曲面加工>
フィルムの曲面加工は、フィルム形状を、所望の曲面形状にすることができる方法であれば、いずれの方法を採用することもできる。好ましい方法としては、プレス成形法が挙げられる。例えば、凸面型の上にフィルムを配置した状態で押圧することにより、凸面形状をフィルムに転写し、曲面形状を有するフィルム14が得られる。
【0083】
フィルムの曲面加工を行う前にフィルムを湿潤させてもよい。湿潤は、例えば、恒湿恒温装置にフィルムを所定時間放置する、水をミスト状にしてフィルムに噴霧する、等の方法で行うことができるが、フィルムの含水率を高めることができれば、方法は特に限定されるものではない。湿潤は、通常、50~90℃程度の加熱雰囲気中で行われる。
【0084】
湿潤させたフィルムは、吸水した水の多くがフィルムに保持された状態で曲面加工するために、冷却することが好ましい。例えば、恒湿恒温装置から取り出したフィルムを、そのまま室温(20~25℃程度)に放置することで、フィルムを冷却することができる。
【0085】
フィルムの曲面加工として、より具体的には、例えば、温度調整部(ヒ-ター、冷却媒体等)と加圧部とを備え、球面の成形面を有する雄型と雌型とが一対となった成形型を有するプレス成形装置に、平面シート状フィルムを挟み込んで、押圧して、フィルムを成形面の形状に曲面加工する。
【0086】
図5は、球面の成形面を有する雄型を備える曲面加工台の概略構成図である。曲面加工台60は、加工基台部60aと、球面の成形面を有する第1の雄型部61aと、第2の雄型部61bとを備える。図中、雄型部が2つ示してあるが、その数は特に限定されない。第1の雄型部61a及び第2の雄型部61bは、左右眼の眼鏡レンズ用として構成されたものであってもよい。
【0087】
加工基台部60aに平面シート状フィルム10を載置させ、図示しない雌型を押し当てて、例えば室温(20~25℃程度)にてプレスすることで、曲面形状をフィルムに転写し、フィルム14の曲面加工が行われる。
【0088】
フィルム14は、好ましくは、物体側表面111の形状に対応させて曲面加工する。フィルム14の曲面の曲率は、製造される眼鏡レンズ100の物体側表面111のベースカーブに対応して形成されることが好ましい。処方レンズが累進レンズや非球面レンズなど、球面以外の面形状を有する場合には、曲面は物体側表面111の形状に合わせた面形状としてもよい。なお、フィルム14の曲面の曲率は、眼鏡レンズ100のベースカーブと異なっていてもよいが、セミフィニシュレンズの場合、眼球側表面121の研削又は研磨が可能な範囲で眼鏡レンズ100の物体側表面111のベースカーブと異なっていてもよい。
【0089】
フィルム14は、例えば、1.0ベース以上10.0ベース以下のベースカーブを有する。ベースカーブは、例えば、2.0ベース以上8.0ベース以下であってもよい。
フィルム14のベースカーブと、眼鏡レンズ100の物体側表面111のベースカーブとの差の絶対値は、好ましくは2.0ベース以下であり、より好ましくは1.5ベース以下であり、更に好ましくは1.0ベース以下である。
【0090】
<フィルムの乾燥>
本実施形態の製造方法では、曲面加工後のフィルム100を乾燥する。乾燥温度T1は、好ましくは120℃超え160℃以下である。温度T1を120℃超えとすることで、フィルムの変形を防ぐことができ、160℃以下とすることで、フィルムに変色やクラックが発生することを防ぐことができる。温度T1は、好ましくは125℃以上155℃以下であり、より好ましくは130℃以上150℃以下であり、更に好ましくは135℃以上145℃以下である。
【0091】
なお、本実施形態において、乾燥温度T1とは、乾燥のための加熱処理を行う雰囲気の温度をいうものとする。本実施形態においては、フィルムの視感透過率を高く維持するため、フィルムの収縮率を低くするので、フィルムの変形が顕著になるが、温度T1を後述の式(1)の条件を満たすように設定することで、フィルムの変形を防ぐことができる。上記の乾燥は、大気中で行うことができる。
【0092】
乾燥方法としては、種々の方法が採用できるが、上記温度T1に加熱した熱風循環式オーブンにフィルムを載置し、熱風を当てる方式を用いることができる。乾燥時間としては、特に制限はない。乾燥では、フィルムは、曲面加工を行った型から外して乾燥させてもよく、型にはめたままの状態で乾燥させてもよい。
【0093】
<成形型の準備>
本実施形態の製造方法は、フィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意することを含む。本実施形態の製造方法は、眼鏡レンズを、例えば、注型重合法(キャスティング法)を用いて製造する。キャスティング法は、上型モールドと、下型モールドと、上型モールド及び下型モールド間の距離を調整し、レンズ厚を決定するシール部材とにより形成されるキャビティ内で、硬化性組成物を硬化させることで、眼鏡レンズを得る方法である。
【0094】
図6は、上型モールド16、乾燥後のフィルム14、及び下型モールド18の概略断面図である。乾燥後のフィルム14は、上型モールド16及び下型モールド18よりも、約2mm小さい直径を有することが好ましい。これにより、後述する硬化性組成物の注入において、フィルム14の両側に硬化性組成物が回り込むことができるようになり、キャビティへの硬化性組成物の注入をスムーズに行うことができる。
【0095】
図7は、上型モールド16にフィルム14を保持するための接着剤からなる保持部材20が形成された状態を示す平面図である。
図8は、上型モールド16にフィルム14を保持するための接着剤からなる保持部材20が形成された状態のA-A’線の概略断面図である。
【0096】
上型モールド16は、周縁に平面形状のフランジ部16aを有していてもよい。
図7において、上型モールド16のフランジ部16aのキャビティ側面に90°間隔で4カ所に、フィルム14を保持するための保持部材20a、20b、20c、20dが配設されている。この保持部材20a、20b、20c、20dは、フィルムを接着、支持するためのもので、フィルムがこれら保持部材20a、20b、20c、20dに載置されたとき、上型モールド16のキャビティ側面に接触しないように、所定のクリアランス(間隔)を維持しながらフィルムを保持できるように接着剤柱の高さ及び位置が制御されている。なお、眼鏡レンズは、枠入れする眼鏡フレームの玉型形状300に併せてカットされるため、保持部材20は、枠入れ加工後は、眼鏡レンズ内に残らないように構成されている。保持部材を用いることで、フィルム14表面と上型モールド16のキャビティ側面とが接触せず、所定の間隔(以下、「クリアランス」という。)を保ちながら、フィルム14が保持される。なお、保持部材の数は特に限定されない。
【0097】
上型モールド16のキャビティ側面とフィルム14との距離の最小値は、好ましくは0.05mm以上2.0mm以下である。当該最小値は、好ましくは0.1mm以上1.0mm以下であり、より好ましくは0.3mm以上0.7mm以下であり、更に好ましくは0.2mm以上0.6mm以下である。
【0098】
保持部材は接着剤である。接着剤は、好ましくは、柱状(円柱、立方体等)又は塊状に、好ましくは柱状に、上型モールドのキャビティ側面の周縁部上、又はフィルムの物体側表面の周縁部上に、載せられる。
【0099】
上型モールド及び下型モールドの材料としては、例えば、ガラス、セラミック、金属、樹脂が挙げられる。これらの中でも、ガラスであることが好ましい。
【0100】
上型モールドは、通常、キャビティ側に配置される面(成形面)が凹面であって、この凹面の面形状が転写されることにより、重合硬化により得られるレンズの凸面の屈折面が形成される。上型モールドの成形面は、上型モールドがガラスモールドの場合、通常、荒摺り、砂かけ、研磨等の鏡面加工された面となっている。
【0101】
一方、下型モールドは、通常、成形面が凸面であって、この凸面の面形状が転写されることにより、重合硬化により得られるレンズの凹面の屈折面が形成される。下型モールドにも、通常、上述の上型モールドと同様の加工が施される。
【0102】
シール部材としては、ガスケット、片面に接着剤層を有するテープ(以下、「粘着テープ」という)を使用することができる。ガスケットを使用する場合には、通常、バネ等の弾性体からなるクランプ部材で上型モールド及び下型モールドを挟持して固定してもよい。一方、粘着テープの場合には、通常、クランプ部材は必要とされない。
【0103】
粘着テープの基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン、ABSなどのポリスチレン系フィルム、ポリイミド、アセテート、紙、布、金属が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート又はポリプロピレンが好ましい。
【0104】
また、粘着テープの形状は、上型モールド及び下型モールドの周囲に巻回できるものであればよい。粘着テープの厚さは、成形型を組み立てた際、座屈が起こらない程度の厚さであればよいが、通常、200μm未満であることが好ましい。
【0105】
粘着テープの粘着剤としては、例えば、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤が挙げられる。硬化性組成物への溶け出し、耐熱性の観点からは、粘着成分として、シリコーン系粘着剤が好ましい。
【0106】
また、粘着テープを使用した成形型の組み付けについては、眼鏡用プラスチックレンズの注型重合法に用いられている各種の組み付け方法を採用することができる。例えば、上型モールド16、フィルム14、及び下型モールド18をこの順にそれぞれ間隔をもって配置して、上型モールド16と下型モールド18との間隔をシール部材により閉塞することが好ましい。より詳細には、例えば、特開2001-330806号公報を参照できる。
【0107】
<硬化性組成物の注入>
図10は、組付け後の成形型の概略断面図である。成形型48に、硬化性組成物を注入する。硬化性組成物は、注入孔より注入器を用いて、上型モールド16と下型モールド18と粘着テープ46とで形成されたキャビティ50内に、気泡が残らないように充填することが好ましい。注入孔は、上型モールド16とフィルム14との間、及び下型モールド18とフィルム14との間のいずれに形成されていてもよい。
【0108】
<硬化性組成物の硬化>
硬化性組成物を注入した成形型48を加熱炉に入れて加熱することにより、硬化性組成物を硬化させることができる。ここで、加熱条件は、硬化性組成物の種類により決定することができ、好ましくは0℃以上150℃以下、より好ましくは10℃以上130℃以下、好ましくは5時間以上50時間以下、より好ましくは10時間以上25時間以下かけて昇温し、硬化を行う。硬化後、基材の内部にフィルム14が配置された眼鏡レンズ100が得られる。
【0109】
<眼鏡レンズのアニーリング>
得られた眼鏡レンズ100を、アニーリングしてもよい。眼鏡レンズのアニーリングにおいては、通常、硬化性組成物に硬化によって生じた内部ひずみが取り除かれる。なお、上記のアニーリングは、大気中で行うことができる。
【0110】
アニーリング温度T2は、好ましくは100℃以上130℃以下であり、より好ましくは110℃以上125℃以下であり、更に好ましくは115℃以上125℃以下である。温度T2が当該範囲であることで、非点収差がより低く抑えられた眼鏡レンズが得られる。なお、本実施形態において、アニーリング温度T2とは、眼鏡レンズのアニーリングのための加熱処理を行う雰囲気の温度をいうものとする。
【0111】
アニーリングの方法としては、種々の方法が採用できるが、上記温度T2に加熱した加熱炉内で処理する方式を用いることができる。アニーリング時間としては、特に制限はない。アニーリングは、眼鏡レンズは、硬化性組成物を硬化させた後、成形型48から外してアニーリングしてもよく、成形型48にはめたままの状態でアニーリングしてもよい。
【0112】
成形型48を加熱炉より取り出し、粘着テープ46を剥離し、上型モールド16及び下型モールド18から離型させて、眼鏡レンズを得ることができる。
【0113】
得られた眼鏡レンズがセミフィニシュレンズの場合には、その後、眼鏡レンズ100の眼球側表面121をカーブジェネレーター及び研磨装置にて研削/研磨加工して、処方度数に合致した視力補正用眼鏡レンズを得ることができる。
【0114】
(機能層の形成)
眼鏡レンズは、上述の機能層が形成されていてもよい。各層の形成方法は、上述の方法等の公知の方法が用いられる。
【0115】
以上説明した本開示の実施形態によれば、視感透過率及び偏光度が高く、非点収差が低く抑えられた眼鏡レンズが得られる。
【0116】
以上、本明細書においては以下の実施形態を開示する。
<1>
物体側表面を形成する第1のレンズ要素部と、
眼球側表面を形成する第2のレンズ要素部と、
前記第1のレンズ要素部と前記第2のレンズ要素部との間に設けられたフィルムと、
を備え、
前記フィルムが、紫外線吸収剤を含有する、眼鏡レンズ。
<2>
前記フィルムが、ポリビニルアルコールを含有する、<1>に記載の眼鏡レンズ。
<3>
前記フィルムの厚みが、10μm~90μmである、<1>又は<2>に記載の眼鏡レンズ。
<4>
前記第1のレンズ要素部の最小厚みに対する、前記フィルムの最小厚みの比率が、0.10~1.25である、<1>~<3>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<5>
前記第2のレンズ要素部の最小厚みに対する、前記フィルムの最小厚みの比率が、0.002~0.06である、<1>~<4>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<6>
前記フィルムの偏光度が、40%以下である、<1>~<5>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<7>
前記第1のレンズ要素部及び前記第2のレンズ要素部が、付加重合体を含有する、<1>~<6>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<8>
前記付加重合体が、
(i)ジエチレングリコールビスアリルカーボネートの重合体、及び
(ii)ジエチレングリコールビスアリルカーボネートとジビニルベンゼンジカルボキシルエステルとの共重合体
から選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<7>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<9>
前記第1のレンズ要素部及び前記第2のレンズ要素部に含まれる樹脂のガラス転移温度が、75℃~85℃である、<1>~<8>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<10>
前記眼鏡レンズの波長400nmの光の透過率は、40%以下である、<1>~<9>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<11>
前記眼鏡レンズの視感透過率は、80%以上である、<1>~<10>のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
<12>
紫外線吸収剤を含有するフィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意すること、
当該キャビティに硬化性組成物を注入すること、及び
当該硬化性組成物を硬化させることにより内部にフィルムが配置された眼鏡レンズを得ること、
を含む、眼鏡レンズの製造方法。
<13>
フィルムに対して紫外線吸収剤を含侵させて、紫外線吸収剤を含有するフィルムを得ること、
を更に含む、<12>に記載の眼鏡レンズの製造方法。
<14>
紫外線吸収剤を含有する、眼鏡レンズのインサート成型用フィルム。
<15>
前記フィルムが、レンズ球面状曲面を有する、<14>に記載のフィルム。
<16>
前記フィルムが、ポリビニルアルコールを含有する、<14>又は<15>に記載のフィルム。
<17>
前記フィルムの厚みが、10μm~90μmである、<14>~<16>のいずれかに記載のフィルム。
<18>
前記フィルムの偏光度が、40%以下である、<14>~<17>のいずれかに記載のフィルム。
【実施例0117】
以下、本実施形態を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0118】
[測定方法]
<視感透過率>
視感透過率は、JIS T7333:2005に従って測定した。
【0119】
<波長400nm及び410nmにおけるカット率>
試料を分光光度計「U-4100」(製品名、株式会社日立製作所製)により波長400nm及び410nmにおける光のカット率を測定した。
【0120】
<偏光度>
偏光度(Peff)は、ISO8980-3に従って、紫外可視近赤外分光光度計「V-660」(日本分光株式会社製)を使用し、直線偏光光に対して偏光素子の透過軸が平行方向のときの視感透過率(T//)及び偏光素子の透過軸が直行方向のときの視感透過率(T⊥)を求め、次式により算出した。視感透過率(T//)及び視感透過率(T⊥)は、可視分光光度計と偏光子(グラントムソンプリズム)を用いて測定した。測定光は、眼鏡レンズの物体側表面から入射させた。
Peff(%)=〔(T//-T⊥)/(T//+T⊥)〕×100
【0121】
<耐衝撃性>
耐衝撃性は、食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)によって発行された落球試験により評価した。高さ127cmより16gの鉄球を落下させて、眼鏡レンズに衝撃を与えた。破損がなかったときは、Aとし、破損があったときにはBとした。
【0122】
<実施例1:眼鏡レンズの製造>
1.フィルム
厚さ40μmのポリビニルアルコールのフィルム(以下、「PVAフィルム」ともいう)を、紫外線吸収剤として、2-エチルヘキシル 2-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート5.0g、分散剤(「ニッカサンソルト7000」商品名、日華化学株式会社)を50mL、を水1Lに溶解させた含侵液に80℃で30分含侵させた。
得られたフィルムを恒湿恒温装置内に配置し湿潤処理し、曲面加工開始時の含水率が約4%となるよう湿潤させた。湿潤させたフィルムを、室温(20~25℃)に2分程度放置した。その後、
図5に基づき説明した前述の方法により曲面加工した。曲面加工も、同様に室温で行った。
次いで、型から外した曲面加工したフィルムを、市販の熱風循環式オーブンを用い、140℃で65分間加熱した。加熱後、上型モールドのキャビティ側面の周縁部の4ヶ所に接着剤柱を設けた。その後、接着剤柱上にフィルムを介在させて、上型モールド及び下型モールドを、これらの間隔をシール部材として粘着テープを用いて、閉塞し成形型を組み立てた。上型モールド及び下型モールドの表面形状は球面とし、内径は80mm、曲率半径は130.4mmとした。
【0123】
2.注型重合法によるレンズの成形、離型
眼鏡レンズ用基材の原料として、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート100質量部、内部離型剤としてポリエーテル変性シリコーンオイル「DOWSIL L-7604」(製品名、ダウ・東レ社製)0.010質量部、混合した後、十分に撹拌して、完全に分散又は溶解させた眼鏡レンズ用基材の原料中に、触媒としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを5質量部添加し、室温で十分に撹拌して均一液とし、その組成物を5mmHgに減圧して攪拌しながら30分間脱気を行い、硬化性組成物を調製した。
調製した硬化性組成物を、上述の曲面加工したフィルムが内部に配置された成形型48(ベースカーブ2.50ベース)に注入した。
その後、成形型を加熱炉に配置し、30℃で7時間保持し、その後30℃から120℃まで10時間かけて昇温し、加熱硬化を行った。
加熱硬化後、成形型を加熱炉より取り出し、粘着テープを剥離し、上型モールド及び下型モールドから眼鏡レンズを離型させて、眼鏡レンズを得た。得られた眼鏡レンズを加熱炉に配置し、120℃で2時間アニーリングした。
得られた眼鏡レンズについて、上述の測定方法により、各種物性を測定した。なお、眼鏡レンズの物体側表面は球面設計であり、物体側表面幾何学中心とは、眼鏡レンズを平面視でみた円の中心を通る垂線と眼球側表面との交点である。更に得られた眼鏡レンズについて、落球試験を行った。表1に結果を示す。
波長410nmの光のカット率を測定したところ、0.1%であった。
【0124】
<実施例2:眼鏡レンズの製造>
紫外線吸収剤として、2-エチルヘキシル 2-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレート0.5gとポリビニルアルコール30gとを混錬し、厚さが40μのフィルムを成形し、得られたフィルムを恒湿恒温装置内に配置し湿潤処理し、曲面加工開始時の含水率が約4%となるよう湿潤させ、当該フィルムを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、眼鏡レンズを得た。得られた眼鏡レンズについて、上述の測定方法により、各種物性を測定した。更に得られた眼鏡レンズについて、落球試験を行った。表1に結果を示す。
波長410nmの光のカット率を測定したところ、0.1%であった。
【0125】
<比較例1の製造>
眼鏡レンズ用基材の原料中に紫外線吸収剤として、2-エチルヘキシル 2-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)2H-ベンゾトリアゾール-5-カルボキシレートを0.50質量部添加したこと以外実施例1と同様の方法により、眼鏡レンズを得た。波長410nmの光のカット率を測定したところ、30%であった。得られた眼鏡レンズについて、上述の測定方法により、各種物性を測定した。更に得られた眼鏡レンズについて、落球試験を行った。表1に結果を示す。
【0126】
14…フィルム、16…上型モールド、16a…フランジ部、18…下型モールド、20a、20b、20c、20d…保持部材、46…粘着テープ、48…成形型、50…キャビティ、100…眼鏡レンズ、110…第1のレンズ要素部、111…物体側表面、120…第2のレンズ要素部、121…眼球側表面、
300…玉型形状、W1…最小値