(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145746
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】排水処理剤とその製造方法及び排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20241004BHJP
【FI】
C02F1/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058230
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】593036888
【氏名又は名称】日進工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】岩田 在博
(72)【発明者】
【氏名】半明 桂子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 翔伍
(72)【発明者】
【氏名】宮本 美里
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 正明
(72)【発明者】
【氏名】清水 和夫
(57)【要約】
【課題】化学工場などから排水される工場排水に含まれる有害な水溶性有機化合物に対し、入手及び管理が容易で環境に対する負荷が小さな天然由来の素材を用いることで分解可能な排水処理剤とその製造方法並びに排水処理方法を提供する。
【解決手段】排水処理剤の製造方法は、青パパイヤの表皮、果肉、種、葉、茎又は根のうち少なくとも1つを切断又は粉砕して液汁を採取する採取工程と、液汁のpHを2~9に調整し、温度を10℃~50℃に保温する保持工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青パパイヤの液汁を主剤とすることを特徴とする排水処理剤。
【請求項2】
青パパイヤの表皮、果肉、種、葉、茎又は根のうち少なくとも1つを切断又は粉砕して液汁を採取する採取工程と、前記液汁のpHを2~9に調整し、温度を10℃~50℃に保温する保持工程と、を有することを特徴とする排水処理剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の排水処理剤を用いて2-メチルピロリドンを含む排水を処理することを特徴とする排水処理方法。
【請求項4】
納豆の水溶性成分を主剤とすることを特徴とする排水処理剤。
【請求項5】
納豆と水を混合し固形の大豆を除去して水溶性成分を抽出する抽出工程と、前記水溶性成分のpHを2~9に調整し、温度を10℃~50℃に保温する保持工程と、を有することを特徴とする排水処理剤の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の排水処理剤を用いて2-メチルピロリドンを含む排水を処理することを特徴とする排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工場などからの工場排水に含まれる有害な有機化合物を分解するための排水処理剤とその製造方法及び排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青パパイヤに含まれるパパイン酵素は、タンパク質や脂質を分解する作用を有しており、食品、化粧品などの分野において活用されている。例えば、特許文献1には、青パパイヤ液汁、アルコール水溶液、補酵素を主とした溶液にタンパク濃縮物を調合したペースト状で低温環境での酵素活性の抑止、タンパク質の安定な変性状態、加熱過程でのプロテアーゼ酵素の活性に有効な耐冷性を有する無添加のタンパク濃縮物合成ペースト類加工方法が開示されている。
また、納豆は、水煮した大豆を納豆菌により発酵させた食品である。納豆菌は大豆のタンパク質を種々のアミノ酸に加水分解することが広く知られている。
一方、化学工場などで使用される有機化合物には、例えばラクタムである2-メチルピロリドン(以下、NMPという。)などがあり、これらは毒性を有することが知られており、人間や動植物を含めて広く環境に悪影響を及ぼすことが危惧されており、その処理や管理も含めて厳しい規制が課されている。
そこで、化学工場などからの排水中に含まれるこれらの有機化合物の分解方法に関する技術がこれまで開発されてきており、具体的には、活性汚泥法、長時間エアレーション法などが挙げられる。
活性汚泥法は、反応タンク(エアレーションタンク)内で下水と活性汚泥と呼ばれる微生物とをエアレーションによって混合し、その後、最終沈殿池で活性汚泥を沈殿させて、上澄みの水を処理水として流出させる方法である。
長時間エアレーション法は、活性汚泥法の一つの処理方式であり、反応タンク内で下水と活性汚泥と呼ばれる微生物の混合液を長時間対流させて、微生物の増殖する条件を変化させることにより、余剰汚泥をできるだけ少なくさせる処理方法である。
これらの活性汚泥法を用いて、特許文献2には、水溶性の有機化合物であるラクタム及びラクトンはグルコンアセトバクター属またはマイクロバクテリウム属の微生物群によって分解できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6631892号公報
【特許文献2】特開2021-175389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に開示されている発明では対象の有機化合物の分解には1週間程度で180mg/Lから80mg/Lに低減できるものの、その分解速度が遅く、化学工場などで排出される有機化合物を分解するための時間が長くかかってしまうという課題があった。
また、特許文献2に開示される発明では、ラクタム及びラクトンを分解できる微生物群としてグルコンアセトバクター属又はマイクロバクテリウム属の微生物群を用いることが開示されているが、これらを単独で用いる場合には入手や管理などが煩雑であるという課題もあった。
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、化学工場などから排水される工場排水に含まれる有害な水溶性有機化合物に対し、入手及び管理が容易で環境に対する負荷が小さな天然由来の素材を用いることで分解可能な排水処理剤とその製造方法並びに排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、第1の発明である排水処理剤は、青パパイヤの液汁を主剤とすることを特徴とするものである。
本願において青パパイヤとは、パパイヤ(学名:Carica papaya)の未完熟のものをいい、青パパイア、グリーンパパイヤ、グリーンパパイアなどの呼称がある。品種はとくに限定しないが、フルーツタワー、甘泉DX、洛陽、ベジキング、ドリームフルーツ、台農2号、グランデなどを挙げることができる。未完熟の度合いは、表皮が緑色乃至黄緑色の状態を保っていればとくに限定されない。果実の大きさ(重さ)は限定しないが、0.2kg以上3.5kg以下のものであることが望ましい。
青パパイヤには前述のとおりパパイン酵素が含まれており、青パパイヤが熟すとそのパパイン酵素が含まれなくなることから、青パパイヤであることが必要である。
この青パパイヤに含まれるパパイン酵素が排水に含まれる有害な化学物質であるNMPを分解するように作用する。
【0006】
また、第2の発明である排水処理剤の製造方法は、青パパイヤの表皮、果肉、種、葉、茎又は根のうち少なくとも1つを切断又は粉砕して液汁を採取する採取工程と、前記液汁のpH(水素イオン濃度)を2~9に調整し、温度を10℃~50℃に保温する保持工程と、を有することを特徴とするものである。
【0007】
第3の発明である排水処理方法は、第1の発明の排水処理剤を用いてNMPを含む排水を処理することを特徴とするものである。
【0008】
第4の発明である排水処理剤は、納豆の水溶性成分を主剤とすることを特徴とするものである。
納豆は、市販のものや自作のものに限らず使用することが可能であるが、市販のものの方が品質が安定しており入手が容易で管理も容易であるので、好適に使用することができる。
この納豆の水溶性成分に含まれる納豆由来の納豆菌が排水に含まれる有害な化学物質であるNMPを分解するように作用する。
【0009】
第5の発明である排水処理剤の製造方法は、納豆と水を混合し固形の大豆を除去して水溶性成分を抽出する抽出工程と、前記水溶性成分のpHを2~9に調整し、温度を10℃~50℃に保温する保持工程と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
第6の発明である排水処理方法は、第4の発明の排水処理剤を用いてNMPを含む排水を処理することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係る排水処理剤では、青パパイヤの液汁に含まれるパパイン酵素がぺプチド結合を分断することでNMPを分解することができる。
また、この排水処理剤は、入手が容易な青パパイヤの液汁を主剤としており、管理も容易であるという効果を有している。さらに、青パパイヤの液汁は天然素材であり、環境負荷が小さく環境に優しいという優れた効果も有している。
【0012】
第2の発明に係る排水処理剤の製造方法では、実質的には青パパイヤの液汁のpHと温度管理のみを行うことで、排水処理剤を容易かつ短期間で製造することが可能である。
【0013】
第3の発明に係る排水処理方法では、第1の発明の排水処理剤を用いて化学工場などから放出されるNMPを含む排液を処理することが可能である。
【0014】
第4の発明に係る排水処理剤では、水溶性成分に含まれる納豆由来の納豆菌がNMPを分解することができる。また、この排水処理剤は、入手が容易な納豆の水溶性成分を主剤としており、管理も容易であるという効果を有している。さらに、納豆の水溶性成分は天然素材であり、環境負荷が小さく環境にも優しいという優れた効果も有している。
【0015】
第5の発明に係る排水処理剤の製造方法では、実質的には納豆の水溶性成分のpHと温度管理のみを行うことで、排水処理剤を容易かつ短期間で製造することが可能である。
【0016】
第6の発明に係る排水処理方法では、第4の発明の排水処理剤を用いて化学工場などから放出されるNMPを含む排液を処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施の形態に係る排水処理剤の製造方法の工程フロー図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る青パパイヤ液汁に由来する排水処理剤のNMPに対する分解能力を試験した結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例1に対する比較例1として青パパイヤの液汁なしでNMPに対する分解能力を試験した結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例1に対する比較例2として青パパイヤの生育土壌の上澄み液を用いてNMPに対する分解能力を試験した結果を示すグラフである。
【
図5】第2の実施の形態に係る排水処理剤の製造方法の工程フロー図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る納豆の水溶性成分に由来する排水処理剤のNMPに対する分解能力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施の形態に係る排水処理剤と排水処理剤の製造方法及び排水処理方法について
図1を参照しながら説明する。
図1は第1の実施の形態に係る排水処理剤の製造方法の工程フロー図である。
第1の実施の形態では青パパイヤの液汁を用いて排水処理剤を製造するものであるが、
図1のステップS1は青パパイヤの液汁を採取する工程である。
液汁の採取箇所は、表皮、果肉、種、葉、茎、根などのいずれでもよく、青パパイヤの部位に限定されないが、特に表皮及び果肉から効率よく液汁を採取することができる。
また、採取方法としては、表皮、果肉、種、葉、茎、根などを切断、粉砕によって液汁を抽出するが、その作業の過程で白色から薄緑色の懸濁液として液汁を得ることができる。
ステップS2は液汁に水を加えて液汁水溶液とする希釈工程である。この希釈工程は必ずしも必要ではないが、被処理排水の量に応じて希釈してもよく、本実施の形態においてはステップS2として液汁の希釈工程(選択的構成要素)を設けている。
ステップS3は希釈された青パパイヤの液汁水溶液の保持工程であり、このステップS3を経て排水処理剤が製造される。
保持の具体的な内容としては、液汁水溶液のpHを2~9(望ましくは3~8.5)の範囲及び温度を10~50℃(望ましくは15~40℃)の範囲とするものである。また、このpH条件と温度条件下で、青パパイヤの液汁に含まれるパパイン酵素の拡散と酵素反応の活性化を目的として0~50時間撹拌工程を設けること(選択的構成要素)が望ましい。このような撹拌工程を設けることでパパイン酵素とNMPの複合体のようなものが反応液中で形成されるものと考えられる。但し、撹拌作業中には除菌や滅菌等の処理は不要であり、撹拌は大気中で行うことが望ましく細菌などの微生物が増殖することを妨げるものではない。むしろ、Aminobacter属などの微生物が増殖することが好ましい。
【0019】
また、青パパイヤの液汁のpHは7であるが、排水処理剤が保持されるpHの範囲も2~9であるので、被処理排水のpHがこの範囲であれば排水処理剤を添加した後もpHはこの範囲内に保持され、pHに関しては処理能力に影響を与えるものではない。
第1の実施の形態に係る排水処理剤は、青パパイヤ液汁に含まれるパパイン酵素が、排水に含まれる環状アミドに分類される化合物であるNMPのアミド結合を加水分解によって開環させ、アミノ基とカルボキシル基を両末端に持つ分子を生成させることで分解する(下記の化学反応式参照)。なお、下記化学反応式における「Me」はメチル基を表している。
【0020】
【0021】
しかしながら、このときカルボキシル基の酸性よりもアミノ基の塩基性が強いため、NMPの分解が進行するにつれて被処理排水のpHが大きくなり、pHが8.5を超えると分解速度が遅くなるため、8.5までとすることが望ましい。なお、9を超えるようなpHとなった場合には、塩酸等の酸を用いて中和させ中性に戻すことで再び分解能力が発揮される。また、pHが3未満の場合は酵素反応が遅くなってしまうので3以上とすることが望ましい。また、基質であるNMPはアミノ基やカルボキシル基等、その反応性がpHに左右されやすい構造を持っているので基質の方が影響を受ける可能性もある。
また、排水処理剤に対する10~50℃の温度範囲は、この温度範囲を外れると青パパイヤのパパイン酵素が失活し、排水に含まれる化学物質(NMP)に対する分解能力が著しく低下するため、これを避けるために保持すべき範囲である。したがって、温度範囲は15~40℃とすることが望ましい。
なお、化学工場の排水等に含まれる水溶性有機化合物には、NMPの他、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類、ε-カプロラクタムなどの環状アミドなどが挙げられる。
【0022】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る排水処理剤は、天然素材で入手も容易な青パパイヤの液汁を主剤とするものであり、排水処理剤としての管理も基本的にはpHと温度条件のみであるため容易である。しかも短時間でNMPを分解可能である。青パパイヤの液汁を主剤とする排水処理剤のNMPに対する具体的な分解能力については実施例1で説明する。
また、この排水処理剤の製造方法も
図1を用いて説明したとおり、青パパイヤの切断や粉砕といった加工も容易であり、pH条件や温度条件を満足させることにも困難性はないので、各工程を容易に実行して排水処理剤を容易かつ短期間で製造することが可能である。
さらに、第1の実施の形態に係る青パパイヤの液汁を主剤とする排水処理剤を用いる排水処理方法は、NMPを含んだ排水処理剤を被処理排水に添加するだけでよく、排水処理剤添加後の被処理排水のpH濃度が2~9であり、また、温度が10~50℃であれば処理可能である。被処理排水のpHと温度が極端にこれらのpH範囲と温度範囲から外れている場合は、これらの範囲に入るような処理が必要と考えられるものの、排水処理剤を加えた後の被処理排水が、これらの範囲を満足するのであれば容易にNMPを分解することが可能である。
次に、第1の実施の形態に係る排水処理剤を用いた実施例1について説明する。
【実施例0023】
市販の青パパイヤ(1.0kg)の表皮を刃物によって切断し、流れ出る液汁2.0gを白色懸濁液として得た。液汁2.0gに5.0kgの水を加え、pH7、25℃で50時間攪拌し、排水処理剤を調製した。被分解物質としてNMPを1.25g加え、NMPの濃度を攪拌時間との関係で測定した結果を
図2に示す。
図2において、横軸は撹拌時間[h]であり、縦軸はNMPの濃度[mg/L]である。
図2に示されるとおり、NMPの濃度は徐々に低下し、21時間後には0mg/Lとなった。排水処理剤の微生物を観察したところ、Aminobacter属の微生物が増殖していることが確認された。
なお、本実施例1ではNMPに対してその分解に青パパイヤ液汁を主剤とする排水処理剤を用いたが、アミド結合の切断にパパイン酵素が関与していると考えられることから、同じアミド結合を有するε-カプロラクタムなどの環状アミドに対してもこの排水処理剤は有効であると考えられる。
(比較例1)
【0024】
水5.0kgにNMPを1.25g加え、pH7、25℃で30時間攪拌した場合のNMPの濃度を攪拌時間との関係で測定した結果を
図3に示す。
図3において、NMPの濃度は250mg/Lのまま変化しなかった。本液を観察したが、微生物の増殖は確認されなかった。
したがって、青パパイヤ液汁がなければNMPは分解されないことが理解できる。
(比較例2)
【0025】
実施例1で使用した青パパイヤと同じ生産者の土壌100gと精製水200gを混合攪拌し、上澄みを取り、さらに水を加えて5.0kgとし、pH7、25℃で50時間攪拌した。NMPを1.25g加え、pH7、25℃で30時間攪拌した場合のNMPの濃度を攪拌時間との関係で測定した結果を
図4に示す。
図4において、NMPの濃度は238mg/Lとあまり変化がなかった。本液を観察したが、微生物の増殖は確認されなかった。
青パパイヤの生育土壌には青パパイヤの果実と同じ微生物が存在していると考えられるものの、青パパイヤの液汁が含まれない場合には微生物の増殖は僅かしか確認できなかったことから、単に微生物だけではNMPの加水分解反応は進行しないものと考えられる。
【0026】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る排水処理剤と排水処理剤の製造方法及び排水処理方法について
図5を参照しながら説明する。
図5は第2の実施の形態に係る排水処理剤の製造方法の工程フロー図である。
第2の実施の形態では納豆の水溶性成分を用いて排水処理剤を製造するものであり、
図5のステップS1は納豆の水溶性成分を抽出する工程である。
ステップS1では納豆と水を混合し、固形の大豆をろ別またはデカンテーションにより除去した液体を水溶性成分としている。
ステップS2は水溶性成分の希釈工程である。この希釈工程は必ずしも必要ではないが、青パパイヤの場合と同様に被処理排水の量に応じて希釈してもよく、本実施の形態においてはステップS2として納豆の水溶性成分の希釈工程(選択的構成要素)を設けている。ステップS1で納豆と混合させた水とは別の水で希釈することになる。
ステップS3は希釈された納豆の水溶性成分の保持工程であり、このステップS3を経て排水処理剤が製造される。
保持の具体的な内容としては、青パパイヤの液汁水溶液と同様に、水溶性成分pHを2~9(望ましくは3~8.5)の範囲及び温度を10~50℃(望ましくは15~40℃)の範囲とするものである。また、青パパイヤと同様にこのpH条件と温度条件下で、水溶性成分の拡散と納豆菌による分解能力の活性化を目的として0~50時間撹拌すること(選択的構成要素)が望ましい。但し、撹拌作業中には除菌や滅菌等の処理は不要であり、撹拌は大気中で行うことが望ましく細菌などの微生物が増殖することを妨げるものではない。むしろ、Bacillus Subtilis var. natto、Duganella属、Pseudoxanthomonas属、Arthrobacter属などの微生物が増殖することが好ましい。
【0027】
また、納豆の水溶性成分のpHも7であり、排水処理剤が保持されるpHの範囲も2~9であるので、被処理排水のpHがこの範囲であれば排水処理剤を添加した後もpHはこの範囲内に保持され、pHに関しては処理能力に影響を与えるものではない。
第2の実施の形態に係る排水処理剤の主剤となる納豆の水溶性成分は、納豆菌を含んでおり、この納豆菌はタンパク質を分解することが知られており、その反応形態もアミド結合の一種であるペプチド結合の加水分解であり、窒素とカルボニル炭素の単結合を切断する反応である。したがって、NMPの他、前述のε-カプロラクタムなどの環状アミドの分解に有効であると考えられる。
また、ステップS3における納豆の水溶性成分のpHの2~9という範囲及び10~50℃の温度範囲の保持は、これらのpH範囲と温度範囲を外れると納豆菌が失活し、排水に含まれる化学物質(NMP)に対する分解能力が著しく低下するため、これを避けるために必要である。したがって、納豆の水溶性成分のpHは3~8.5であることが望ましく、温度範囲も15~40℃であることが望ましい。
【0028】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る排水処理剤は、天然素材で入手も容易な納豆の水溶性成分を主剤とするものであり、排水処理剤としての管理も基本的にはpHと温度条件のみであるため容易である。しかも短時間でNMPを分解可能である。納豆の水溶性成分を主剤とする排水処理剤のNMPに対する具体的な分解能力については実施例2で説明する。
また、この排水処理剤の製造方法も
図5を用いて説明したとおり、納豆の水溶性成分の抽出も容易であり、pH条件や温度条件を満足させることにも困難性はないので、各工程を容易に実行して排水処理剤を容易かつ短期間で製造することが可能である。
さらに、第2の実施の形態に係る納豆の水溶性成分を主剤とする排水処理剤を用いる排水処理方法は、NMPを含んだ排水処理剤を被処理排水に添加するだけでよく、排水処理剤添加後の被処理排水のpH濃度が2~9であり、また、温度が10~50℃であれば処理可能であり、被処理排水のpHと温度が極端にこれらのpH範囲及び温度範囲から外れている場合は、これらの範囲に入るような処理が必要と考えられるものの、排水処理剤を加えた後の被処理排水が、これらの範囲を満足するのであれば容易にNMPを分解することが可能である。
次に、第2の実施の形態に係る排水処理剤を用いた実施例2について説明する。