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特開2024-145749フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤
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  • 特開-フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145749
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/107 20060101AFI20241004BHJP
   G03G 9/113 20060101ALI20241004BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20241004BHJP
   H01F 1/36 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G03G9/107 321
G03G9/113 352
C01G49/00 A
H01F1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058233
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴志
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 哲也
【テーマコード(参考)】
2H500
4G002
5E041
【Fターム(参考)】
2H500AB01
2H500AB04
2H500CB02
2H500CB09
2H500EA03E
2H500EA31E
2H500EA39E
2H500EA43E
2H500EA46E
2H500FA04
4G002AA06
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE05
5E041AB12
5E041AB19
5E041CA10
5E041NN02
5E041NN06
5E041NN15
(57)【要約】
【課題】帯電特性の環境安定性が高いフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供する。
【解決手段】RZrOの組成式(但し、Rはアルカリ土類金属)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、Zr含有量(PZr)が0.35mol%以上1.0mol%以下であり、R含有量(P)が0.50mol%以上1.30mol%以下であり、前記R含有量(P)と前記Zr含有量(PZr)との比(P/PZr)が1.10以上2.60以下であり、カールフィッシャー滴定法により測定される水分量が30ppm以上70ppm以下のフェライト粒子とする。また、電子写真現像剤用キャリア芯材として、当該フェライト粒子を用いる。また、これを用いて、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を得る。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RZrOの組成式(但し、Rはアルカリ土類金属)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むフェライト粒子であって、
当該フェライト粒子中のZr含有量(PZr)が0.35mol%以上1.00mol%以下であり、
当該フェライト粒子中のR含有量(P)が0.50mol%以上1.30mol%以下であり、
前記R含有量(P)と前記Zr含有量(PZr)との比(P/PZr)が1.10以上2.60以下であり、
カールフィッシャー滴定法により測定される水分量が30ppm以上70ppm以下である、フェライト粒子。
【請求項2】
前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、Ca含有量が0.1mol%未満である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項3】
X線回折パターンのリートベルト解析により当該フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行ったときに、前記ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を0.05質量%以上1.00質量%以下含む請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
溶出法により測定した溶出塩素量が35ppm以上100ppm以下である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
低温低湿環境(10℃相対湿度20%)下で12時間暴露後、30分攪拌後の帯電量(μC/g)を30min値とし、60分攪拌後の帯電量(μC/g)を60min値とし、30min値に対する60min値の経時変動比を下記式で表したとき、当該経時変動比が5%以上10%以下である、請求項1に記載のフェライト粒子。
経時変動比(%)=(60min値-30min値)/30min値×100
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のフェライト粒子を含むことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面に設けられた樹脂被覆層とを備えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項8】
請求項7に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。
【請求項9】
補給用現像剤として用いられる請求項8に記載の電子写真現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナーを感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法をいう。この方法で使用される現像剤は、トナーとキャリアからなる二成分系現像剤と、トナーのみを用いる一成分系現像剤とに分けられる。二成分系現像剤を用いた現像方法としては、古くはカスケード法等が採用されていたが、現在では、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が主流である。
【0003】
磁気ブラシ法では、現像剤が充填されている現像ボックス内においてキャリアとトナーとを攪拌・混合することによって、トナーに電荷を付与する。そして、マグネットを保持する現像ロールによりキャリアを感光体の表面に搬送する。その際、キャリアにより、電荷を帯びたトナーが感光体の表面に搬送される。感光体上で静電的な作用によりトナー像が形成された後、現像ロール上に残ったキャリアは再び現像ボックス内に回収され、新たなトナーと撹拌・混合され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
二成分系現像剤は、一成分系現像剤とは異なり、キャリア自体の磁気特性や電気特性をトナーと分離して設計することができるため、現像剤を設計する際の制御性がよい。そのため、二成分系現像剤は高画質が要求されるフルカラー現像装置及び画像維持の信頼性、耐久性が要求される高速印刷を行う装置等に適している。
【0005】
近年、静電潜像を高精細に現像するためトナーの小粒径化が進められている。トナーの小粒径化に伴い、トナーへの帯電付与の観点からキャリアも小粒径化されている。キャリアの帯電能力が不十分であると、低帯電トナーに起因するカブリや現像領域へのトナー搬送量が低下することでメモリー画像が生じやすくなる。
【0006】
これらのことから、帯電能力の高いキャリアについて様々な検討が行われてきた。例えば特許文献1及び特許文献2では、TiやSrを添加し、表面の凹凸を適度に制御したフェライト粒子をキャリア芯材とすることでトナーへの帯電付与能力が高く、環境安定性の高いキャリアが得られるとされている。また、本出願人らはRZrOの組成式(但し、RはSr等のアルカリ土類金属)を有するペロブスカイト型結晶相を含むフェライト粒子を得ることで、従来よりもさらに良好な帯電付与能力及び環境安定性を有するキャリアを提案してきた(例えば、特許文献3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-106262号公報
【特許文献2】特許第5886336号公報
【特許文献3】国際公開第2022/045097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来のフェライト粒子(特許文献1及び特許文献2)をキャリア芯材としたキャリアでは帯電能力や環境安定性が不十分である。一般に、フェライト粒子の表面には、Fe原料等に起因するCl等の不可避不純物が存在する。これらの不可避不純物は雰囲気中の水分によって容易にイオン化する。そのため、フェライト粒子の表面にこのような不可避不純物が多く存在する場合、高温高湿環境下では抵抗値の低下に伴い帯電量も低下し、カブリなどの画像欠陥が生じやすくなる。
【0009】
一方、上記ペロブスカイト型結晶相を含むフェライト粒子(特許文献3)は、フェライト粒子の表面の水分吸着量を低く抑制することができるため、高温高湿環境下における抵抗値の低下を良好に抑制することができる。しかしながら、フェライト粒子の表面の水分吸着量が低いため、低温低湿環境下ではチャージアップによる画像濃度不足が生じる場合があった。
【0010】
そこで、本件発明の課題は、環境安定性のより高いフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係るフェライト粒子は、RZrOの組成式(但し、Rはアルカリ土類金属)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むフェライト粒子であって、当該フェライト粒子中のZr含有量(PZr)が0.35mol%以上1.00mol%以下であり、当該フェライト粒子中のR含有量(P)が0.50mol%以上1.30mol%以下であり、前記R含有量(PZr)と前記Zr含有量(P)との比(P/PZr)が1.10以上2.60以下であり、カールフィッシャー滴定法により測定される水分量が30ppm以上70ppm以下である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明に係るフェライト粒子において、前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であり、Ca含有量が0.1mol%未満であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るフェライト粒子において、X線回折パターンのリートベルト解析により当該フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行ったときに、前記ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を0.05質量%以上1.00質量%以下含むことが好ましい。
【0014】
本発明に係るフェライト粒子において、溶出法により測定した溶出塩素量が35ppm以上100ppm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るフェライト粒子において、低温低湿環境(10℃相対湿度20%)下で12時間暴露後、30分攪拌後の帯電量(μC/g)を30min値とし、60分攪拌後の帯電量(μC/g)を60min値とし、30min値に対する60min値の経時変動比を下記式で表したとき、当該経時変動比が5%以上10%以下である、ことが好ましい。
経時変動比(%)=(60min値-30min値)/30min値×100
【0016】
上記課題を解決するため、本件発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、上記フェライト粒子を含むことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するため、本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面に設けられた樹脂被覆層とを備えることを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するため、本件発明に係る電子写真現像剤は電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする。
【0019】
本件発明に係る電子写真現像剤は補給用現像剤として用いられてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本件発明によれば、環境安定性のより高いフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】フェライト粒子の断面を模式的に示した図であり、フェライト粒子におけるZrの分散度合いを求める方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本件発明に係るフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の実施の形態を説明する。なお、本明細書において、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤は、特記しない限り、それぞれ個々の粒子の集合体、つまり粉体を意味するものとする。まず、フェライト粒子の実施の形態を説明する。また、以下では、本件発明に係るフェライト粒子は、主として、電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられるものとして説明する。しかしながら、本件発明に係るフェライト粒子は磁性インク、磁性流体、磁性フィラー、ボンド磁石用フィラー及び電磁波シールド材用フィラー等の各種機能性フィラー、電子部品材料等の各種用途に用いることができ、当該フェライト粒子の用途は電子写真現像剤用キャリア芯材に限定されるものではない。
【0023】
1.フェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材
まず、本件発明に係るフェライト粒子の実施の形態を説明する。本件発明に係るフェライト粒子は、RZrOの組成式(但し、Rはアルカリ土類金属)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分(以下、「ペロブスカイト型結晶相成分」と称する。)を含み、当該フェライト粒子中のR含有量、Zr含有量が所定の範囲内であり、R含有量をZr含有量よりも所定の範囲内で多く含有させ、水分量を所定の範囲内とすることで、帯電特性の環境変動を抑制しつつ、高温高湿環境下及び低温低湿環境下における帯電特性の経時変動を良好に抑制可能であることを見出し、本件発明に想到した。
【0024】
1-1.R(アルカリ土類金属)
本件発明において、Rは、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、すなわちアルカリ土類金属をいう。アルカリ土類金属はジルコニウムよりもイオン半径が十分大きく、RZrOの組成式で表され、ペロブスカイト型の結晶構造を有するジルコン酸ペロブスカイト化合物を形成する。本件発明において、Rは、Sr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であることがより好ましい。このとき、Ca含有量及び/又はBa含有量が0.1mol%未満であることも好ましい。これらの元素は所定の温度条件でジルコニウムと固相反応し、上記ジルコン酸ペロブスカイト化合物を形成する。そのため、フェライト粒子の製造工程において焼成温度を所定の温度範囲内において制御することにより、ペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子を得ることができる。特にSrを主たるR成分とすることで、CaやBaと比較すると焼成温度が高くなり過ぎず、ペロブスカイト型結晶相成分を生成する際の熱処理工程に要するエネルギー量を低減することができる他、水分量を所定の範囲内に調整する上でも後述する方法により所定量の塩化物を生成させることも容易になるため好ましい。
【0025】
1-2.ペロブスカイト型結晶相成分
本発明において上記ペロブスカイト型結晶相成分は、RZrOの組成式で表され、且つ、その結晶構造がペロブスカイト型の立方晶系の結晶構造を有するものとする。また、本発明においてペロブスカイト型結晶相成分を含むとは、フェライト粒子の内部に当該ペロブスカイト型結晶相成分が含まれることをいう。ペロブスカイト型結晶相成分を含むことにより、高磁化であり、且つ、帯電能力に優れ、環境安定性の高いフェライト粒子が得られる理由を本発明者らは以下のように推察する。
【0026】
近年、電子写真現像剤用キャリアの芯材として単元フェライトではなく、多元フェライトが用いられることが多くなっている。多元フェライトの方が電子写真現像剤用のキャリアの芯材に適した磁気特性及び帯電特性を実現することが容易であるためである。なお、多元フェライトとは、Feの他に、Mg,Mn,Sr,Ca等の金属元素を含むフェライトをいう。
【0027】
フェライトを製造する際には、目的とする組成の金属元素を含む金属酸化物や金属水酸化物等を原料として用いる。高磁化のフェライト粒子を得るには、原料のフェライト化反応を十分に進行させて、磁性を示さない未反応の原料(以下、「未反応原料」と称する。)がフェライト粒子中に残存しないようにすることが求められる。しかしながら、フェライト反応は原料同士の接触面でしか進行しない。多元フェライトの場合、元素の組み合わせによってフェライトの生成温度や生成速度が異なるため、一般的な焼成条件により、原料を完全にフェライト化することは困難である。そのため、フェライト粒子中には未反応原料が残存する。
【0028】
また、フェライトの原料にはCl等のフェライト反応に関与しない金属又は金属化合物が不可避不純物として含まれる。これらの不可避不純物は磁性を示さない。そのため、高磁化のフェライト粒子を得るには、不可避不純物量を低減する必要がある。しかしながら、どのように純度の高い原料を用いても、原料中に不可避不純物は微量に存在し、不可避不純物を完全に除去することは現実的ではない。
【0029】
さらに、フェライト粒子の組織構造に欠陥があると、フェライト粒子の磁化は低下する。磁化の低下要因となる構造欠陥として、フェライト粒子内の欠陥(例えば、格子欠陥等)が挙げられる。多元フェライトの場合、単元フェライトと比較すると、フェライト反応が複雑になるため、構造欠陥が生じやすい。
【0030】
また、帯電特性についてみると、フェライト粒子は金属酸化物からなるため、一般に高抵抗である。しかしながら、表面に水分が付着すると、抵抗は低下する。また、上記Cl等の不可避不純物は雰囲気中の水分の存在により容易にイオン化する。そのため、フェライト粒子中の不可避不純物量が増加すると、抵抗は低下し、抵抗値が雰囲気湿度によって変動しやすくなる。
【0031】
これらのことから、高抵抗であり、抵抗の環境依存性が小さいフェライト粒子を得るには、フェライト粒子中の不可避不純物量を低減する必要がある。しかしながら、上述のとおり、不可避不純物を完全に除去することは現実的ではない。なお、上記未反応原料(但し、不可避不純物を除く)は、金属酸化物であるため、未反応原料を含むことはフェライト粒子の低抵抗化の要因とはならない。
【0032】
ところで、フェライト粒子は単結晶の集合体である多結晶体である場合が多い。フェライト粒子の組成が同じであっても、フェライト粒子の磁気特性や電気特性はフェライト粒子の組織構造によって変化する。
【0033】
そこで、本件発明者らは、フェライト粒子の組織構造に着目し、高磁化及び高抵抗であり、且つ、抵抗の環境依存性の小さいフェライトを得るには、RZrOの組成式(但し、Rはアルカリ土類金属)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むことが重要であることを見出した。
【0034】
フェライト粒子の粒界には、未反応原料や不可避不純物などのフェライトと固溶しない成分が存在する。また、結晶粒の成長に伴い粒界に押し出されたこれらの成分はフェライト粒子の表面にも存在する。フェライト粒子を構成する結晶粒が大きいと、粒界は、フェライト粒子の表面上の一点と表面上の他の点とを結ぶ流路のようにフェライト粒子内部に連続的に形成される。フェライト粒子の表面や粒界に存在する不可避不純物は容易にイオン化する。そのため、フェライト粒子内において連続的に形成された粒界に、Cl等の不可避不純物が連続的に分布していると、水分がフェライト粒子の表面に付着したときに粒界が導通路のようになり、フェライト粒子の抵抗は低下する。また、このような構造を有するフェライト粒子では、雰囲気湿度の変化によって、抵抗の変動も大きくなると考えられる。また、上述したとおり、フェライト粒子中の未反応原料や不可避不純物を完全に除去することは困難である。
【0035】
一方、上記ペロブスカイト型結晶相成分は、スピネルフェライト相等の構造の異なる他の結晶相と固溶しないため、当該ペロブスカイト型結晶相成分はフェライト粒子の粒界に分散する。従って、当該ペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子は、当該ペロブスカイト型結晶相成分を含まない場合と比較すると、フェライト粒子における粒界体積が相対的に増加する。フェライト粒子に含まれる不可避不純物量が同じである場合、フェライト粒子の粒界体積が相対的に増加すると、粒界における不可避不純物の分布密度は相対的に低下する。粒界には、不可避不純物の他、絶縁性物質である当該ペロブスカイト型結晶相成分が存在する。本件発明に係るフェライト粒子では、粒子内に粒界が複雑に分布すると共に、粒界内に不可避性不純物や当該ペロブスカイト型結晶相成分などの絶縁性物質が不連続に分布する。そのため、粒界が導通路のように機能することを抑制することができる。これらのことから、本件発明に係るフェライト粒子によれば、抵抗の環境依存性を小さくすることができる。すなわち、本件発明によれば帯電特性が雰囲気温度及び湿度によって変動しにくい環境安定性の高いフェライト粒子を得ることができると考えられる。
【0036】
さらに、当該ペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子を得るには、フェライト原料のフェライト化反応と別に、Zrを含む化合物(例えば、ZrO)と、Rを含む化合物とを固相反応させる必要がある。多元フェライト粒子がRを含む組成であれば、他のフェライト原料とともに、Zrを含む化合物を原料として添加し、フェライト粒子中の未反応原料のうちRを含む原料とZrを含む化合物とを固相反応させることでフェライト粒子に残存する上記未反応原料の含有量を低減することができる。そのため、構造欠陥が生じることも防ぐことができ、相対的に帯電特性が良好なフェライト粒子を得ることができる。
【0037】
1-3.各成分含有量
以下、当該フェライト粒子における各成分含有量について説明する。
(1)ジルコニウム(Zr)
当該フェライト粒子において、ジルコニウムの含有量(Zr含有量)(PZr)は0.35mol%以上1.00mol%以下であるものとする。当該Zr含有量(PZr)は、後述するICP元素分析によって定量することができる。また、Zr含有量(PZr)はフェライト成分を100mol%としたときの値を示す。Zr含有量(PZr)が当該範囲内である場合、上記作用効果を得る上で好適な量のペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子を実現することができる。帯電特性の環境変動がより少ないフェライト粒子を得る上で、当該フェライト粒子におけるZr含有量(PZr)は0.38mol%以上であることがより好ましく、0.40mol%以上であることがさらに好ましい。また、Zr含有量(PZr)が多くなり過ぎ、フェライト粒子中の上記ペロブスカイト型結晶相成分の含有量が多くなりすぎる場合がある。この場合磁化が低下し、電子写真現像剤用キャリア芯材に要求される磁性特性を満たすことが困難になる場合があり好ましくない。これらの観点からZr含有割合は0.95mol%以下であることがより好ましく、0.90mol%以下であることがさらに好ましく、0.85mol%以下であることが一層好ましい。
【0038】
(2)アルカリ土類金属
当該フェライト粒子において、アルカリ土類金属(R)の含有量(R含有量)(P)は0.50mol%以上1.30mol%以下であるものとする。R含有量(P)についても、後述するICP元素分析によって定量することができる。また、R含有量(PZr)はフェライト成分を100mol%としたときの値を示す。当該範囲内でアルカリ土類金属(R)を含むことにより、上記作用効果を得る上で好適な量のペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子を実現することができる。帯電特性の環境変動がより少ないフェライト粒子を得る上で、当該フェライト粒子におけるR含有量(P)は0.55mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるR含有量(P)は1.25mol%以下であることがより好ましく、1.20mol%以下であることがさらに好ましく、1.10mol%以下であることが一層好ましい。
【0039】
(3)R含有量(P)とZr含有量(PZr)との比(P/PZr
ここで、当該フェライト粒子は、Zr含有量(PZr)及びR含有量(P)が上記範囲内であり、且つ、R含有量(P)とZr含有量(PZr)との比(P/PZr)が1.10以上2.60以下となるように、アルカリ土類金属(R)及びジルコニウムを含有するものとする。
【0040】
上記ペロブスカイト型結晶相成分を得るには、R原料1molに対して、ZrO1molを要する。上記比(P/PZr)を満たす場合、当該フェライト粒子はペロブスカイト型結晶相成分を構成するアルカリ土類金属とは別に余剰分のアルカリ土類金属を含む。この余剰分のアルカリ土類金属は粒界に押し出され、フェライト粒子の表面にも押し出される。上記比(P/PZr)を満たす場合、後述する方法などで調整した所定の塩素雰囲気下で冷却工程(所定の焼成温度で保持後の冷却工程をいうものとする)、又は、焼成工程(所定の焼成温度で保持する工程をいうものとする)及び冷却工程を行うことにより、フェライト粒子の表面のアルカリ土類金属と雰囲気中の塩素とを結合させて、フェライト粒子の表面に適度な量のアルカリ土類金属の塩化物を生成させることができる。塩化物は雰囲気中の水分に接触すると容易にイオン化して、フェライト粒子の表面に水分を吸着する。上記比(P/PZr)を満たすことで、高温高湿環境下における帯電量の低下を防ぎつつ、低温低湿環境下におけるチャージアップを抑制することが可能な適度な量の水分量をフェライト粒子の表面に保持することができ、各環境下における帯電量の経時変化の少ない環境安定性のより高いフェライト粒子を得ることができる。
【0041】
(4)水分量
当該フェライト粒子は、カールフィッシャー滴定法により測定される水分量が30ppm以上70ppm以下である。当該フェライト粒子の水分量を当該範囲内とすることで、高温高湿環境下における帯電量の低下を抑制しつつ、低温低湿環境下におけるチャージアップを抑制し、環境安定性の極めて高いフェライト粒子を実現することができる。なお、水分量を当該範囲内にするには、上述したとおり、R含有量(P)、Zr含有量(PZr)及び上記比(P/PZr)を上記所定の範囲内になるようにしつつ、所定の塩素雰囲気下で冷却工程、又は、焼成工程及び冷却工程を行えばよい。また、その際にフェライト粒子のBET比表面席が後述する範囲内となるようにすることが好ましい。当該水分量は、ファライト粒子の表面に対して化学的又は物理的に吸着している水分量を示す指標である。フェライト粒子の表面に存在するアルカリ土類金属の塩化物等の、水と化学的に結合する化学種の量を調整することで当該水分量は変動する。またBET比表面積の値を変化させると、フェライト粒子の表面の凹凸形状の変化に起因して物理的に吸着する水分量が変動する。本件発明に係るフェライト粒子は、フェライト粒子の表面におけるアルカリ土類金属の塩化物の生成量や、表面の凹凸形状を製造工程において後述する範囲内となるように制御することで、上記規定範囲内の水分量のフェライト粒子を得ることができる。
【0042】
(5)ペロブスカイト型結晶相成分含有割合
X線回折パターンのリートベルト解析により当該フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行うことで、フェライト粒子中のペロブスカイト型結晶相成分の含有の有無を確認することができる。本発明においてペロブスカイト型結晶相成分の含有割合は特に限定されものではないが、帯電特性の環境変動を抑制する上で、0.05質量%以上であることが好ましく、0.07質量%以上であることがより好ましく、0.08質量%以上であることがさらに好ましく、0.10質量%以上であることが一層好ましく、0.20質量%以上であることがより一層好ましく、0.30質量%以上であることがさらに一層好ましい。また、上限値についても特に限定されるものではないが、電子写真現像剤のキャリア芯材に要求される磁気特性を満たしつつ、低温低湿環境下においてもチャージアップを抑制可能なフェライト粒子を得る上で、ペロブスカイト型結晶相成分の含有割合は1.00質量%以下であることが好ましく、0.99質量%以下であることがより好ましく、0.95質量%以下であることがさらに好ましく、0.90質量%以下であることが一層好ましく、0.85質量%以下であることがより一層好ましく、0.75質量%以下であることがより一層好ましい。
【0043】
ペロブスカイト型結晶相成分の含有割合を上記好ましい範囲内とすれば、当該フェライト粒子の内部に当該ペロブスカイト型結晶相成分を均一に分散させることが容易になり、構造欠陥の発生を抑制したり、抵抗値の環境変動を小さくすることが容易になる。また、ペロブスカイト型結晶相成分の含有割合が上記範囲であるときに、Zr含有量(PZr)、R含有量(P)及び上記比(P/PZr)がそれぞれ上述した範囲内であると、環境安定性がさらに高いフェライト粒子を得ることがより容易になる。
【0044】
1-4.組成
アルカリ土類金属は鉄と固相反応して、マグネトプランバイト型の結晶構造を有するフェライトやその前駆体も形成する。アルカリ土類金属を上記範囲内で含む場合、当該フェライト粒子は、ジルコニウムの原料に起因する二酸化ジルコニウムや、ジルコン酸ペロブスカイト化合物と共に、マグネトプランバイト型の結晶構造を有するフェライトなど結晶構造が異なる種々の成分を副成分として含み得る。当該フェライト粒子がスピネル型結晶相成分を主成分とすれば、スピネル型結晶構造とは異なる結晶構造を有する副成分が粒子の内部に存在すると、主成分は相対的に成長しやすい粒子表面の方向に成長し、粒子表面の凹凸が適切な状態となる。また、これらの副成分を粒子内部に均一に含有させることで、粒子表面の凹凸を均一な状態に制御することができる。なお、後述する焼成条件を採用することで、マグネトプランバイト型の結晶相成分の生成を抑制しつつ、ペロブスカイト型結晶相成分を良好に生成することができる。
【0045】
したがって、当該フェライト粒子はスピネル型フェライト粒子であることが好ましく、特に、Mnを含むスピネル型フェライト粒子であることが好ましい。この場合、当該フェライト粒子はスピネル型結晶相成分を90質量%以上、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上含むことが好ましい。すなわち、当該フェライト粒子は、上記ペロブスカイト型結晶相成分と、不可避不純物或いは未反応原料を除いて、スピネル型結晶相成分からなるスピネル型フェライト粒子であることが好ましい。なお、スピネル型結晶相成分の含有量は原料配合時の金属元素の比率によって決定することができる。一般的にスピネル型フェライトは固相反応により製造される。その際の焼成工程で行われるフェライト化反応では、約850℃から固溶体(スピネル型結晶相)が生成しはじめ、約1250℃にて当該フェライト化反応が完了する。焼成工程における焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気、冷却時間を適宜調整することで選択的にスピネル型結晶相を生成させることができ、それにより当該フェライト粒子におけるスピネル型結晶相の含有割合を決定することができる。
【0046】
さらに、当該フェライト粒子は、(MnO)x(MgO)y(Fe)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とすることがさらに好ましい。上述の組成を従来のフェライト製造方法と組み合わせることでスピネル結晶相成分が50質量%以上のフェライトを得ることができる。
【0047】
Mnを含む組成とすることにより、低磁場側の磁化を高くすることができる。また、Mnを含む組成とすることにより、本焼成後の炉出の際のフェライトの再酸化を防止することができる。特にMnの含有量を15mol%以上とすることで、相対的にFeの含有量が増加するのを抑制し、当該フェライト粒子中のマグネタイト成分の含有割合が大きくなるのを抑制することができる。そのため、低磁場側の磁化の低下を抑制し、キャリア付着の発生を抑制することができる。また、電子写真印刷を行う上で良好な抵抗値に調整することが容易になるため、カブリの発生や階調性の悪化、白抜け等の画像欠陥の発生を抑制することができる。さらに、トナー消費量を適正に保つことができる。Mnの含有量を50mol%以下とすることで抵抗が高くなりすぎ、白抜け等の画像欠陥が発生するのを抑制できる。
【0048】
Mgを含む組成とすることにより、高抵抗のフェライト粒子を得ることができる。また、Mgの含有量を2mol%以上とすることで、Feの含有量に対してMnの含有量が適切になり、フェライト粒子の磁化や抵抗を電子写真印刷を行う上で良好な範囲内に調整することが容易になる。そのため、カブリの発生や階調性の悪化、はけ筋の発生、キャリア飛散等の画像欠陥の発生を抑制することができる。さらに、Mg原料として水酸化マグネシウムを用いたときに、当該フェライト粒子を製造する際の焼成温度が低いと、フェライト粒子に水酸基が残存する場合がある。Mgの含有量を35mol%以下とすることで、原料に起因して存在する残存水酸基の量を低減することができる。そのため、残存水酸基により当該フェライト粒子の帯電量や抵抗といった電気的特性が雰囲気湿度の影響を受けて変動するのを抑制し、当該フェライト粒子の電気的特性の環境依存性をより良好にすることができる。
【0049】
当該フェライト粒子は酸化第二鉄を主成分とする磁性酸化物である。従って、x<zを満たすことが前提となる。Feの含有量を45mol%以上60mol%以下とすることで、フェライト粒子の磁化や抵抗を電子写真印刷を行う上で良好な範囲内に調整することが容易になる。
【0050】
1-5.溶出塩素量
本件発明に係るフェライト粒子は、溶出法により測定した溶出塩素量が35ppm以上100ppm以下であることが好ましい。なお、溶出法による溶出塩素量の測定手順は実施例の欄において述べる。溶出塩素量を当該範囲内とすることでフェライト粒子表面における水分量を適度な量とすることができ、高温高湿環境下における抵抗値の低下を防ぎつつ、低温低湿環境下ではチャージアップを抑制することができ、帯電特性の環境安定性の極めて高いフェライト粒子とすることができる。
【0051】
上述のとおり、原料に含まれるCl等の不可避不純物がフェライト粒子の表面に存在するとこれらは容易にイオン化し、雰囲気中の水分がフェライト粒子の表面に吸着する。フェライト粒子の表面におけるこれらの不可避不純物量が増加すると、例えば、高温高湿環境下では抵抗値が大きく低下し、帯電特性の環境変動も大きくなる。Fe原料として、一般に、鉄鋼生産時に発生する塩酸酸洗工程から副生する酸化鉄が用いられている。そのためFe原料にはClが不可避不純物として含まれる。なお具体的には、フェライト用酸化鉄として用いられる酸化鉄(III)(Fe)の含有量は98.5質量%以上であり、例えば0.15質量%以下のCl等が含まれる(JISK1462-1981)。Fe原料やMn原料、Mg原料にはCl以外にNa、Kも不可避不純物として含まれる。各原料の製造工程において海水や水酸化ナトリウムなどが使用されると、これらの不可避不純物の含有量も多くなる。ClはNa、K等と比較すると、不可避不純物として原料に含まれる総量が多く、溶出法により測定した溶出塩素量が小さいと、他の不可避不純物量も少ない傾向にある。
【0052】
そこで、溶出塩素量を上記範囲内にするには、上記のようにFe含有量が98.5%以上のフェライト用酸化鉄を用いることが考えられる。また、後述する本焼成工程等において高温(例えば、ペロブスカイト型結晶相を成長させるために適した温度と同程度)で熱処理を行うことで粒子内の不可避不純物の大部分を除去することができる。さらに上述のとおり、本件発明に係るフェライト粒子はペロブスカイト型結晶相成分を含むため、相対的に結晶粒を小さく、粒界体積が相対的に大きくなる。そのため、Cl等の不可避不純物含有量が同程度であっても、フェライト粒子内部にこれらの不可避不純物を析出させ、フェライト粒子の表面にこれらの不可避不純物が偏析することを回避することができる。そのため、ペロブスカイト型結晶相成分を含まない場合と比較すると、溶出法による溶出塩素量を小さくすることができ、帯電特性の環境変動が小さくすることができる。
【0053】
一方、ペロブスカイト型結晶相成分を生成させる過程で、不可避不純物の大部分が除去されて溶出塩素量が35ppm未満になると、粒子表面に対する水の化学的吸着量が少なくなる。この場合、高温高湿環境下では良好な帯電特性を維持することができるが、粒子表面における水分量が少なすぎて低温低湿下ではチャージアップを招くなど帯電特性が悪化する。そこで、本発明者らの鋭意研究により、ペロブスカイト型結晶相成分を生成するために適した焼成条件を採用して被焼成物に含まれる不可避不純物の大部分を除去しつつ、被焼成物から雰囲気に放出された塩素ガスを利用して炉内を塩素雰囲気下とすることで、フェライト粒子表面のアルカリ土類金属と塩素とを結合させて塩化物を生成し、フェライト粒子の表面に適度な水分を吸着させることで、高温高湿環境下及び低温低湿環境下の双方で良好な帯電特性を維持可能な環境安定性のより高いフェライト粒子が得られることを見出した。
【0054】
ここで低温低湿環境下におけるチャージアップを抑制する上で、溶出塩素量は40ppm以上であることが好ましく、42ppm以上であることがより好ましく、45ppm以上であることがさらに好ましく、47ppm以上であることが一層好ましい。一方、溶出塩素量が多くなりすぎると、高温高湿環境下における抵抗値の変動が大きくなるおそれがある。そのため、溶出塩素量は95ppm以下であることがより好ましく、90ppm以下であることがさらに好ましく、85ppm以下であることが一層好ましく、80ppm以下であることがより一層好ましい。なお、後述する焼成条件を採用することで、溶出塩素量を上記範囲内に調整することができる。
【0055】
1-6.磁気特性
次に、当該フェライト粒子の磁気特性について述べる。当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリアの芯材として用いる場合、1K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのVSM測定による飽和磁化が50emu/g以上70emu/g以下であることが好ましい。飽和磁化が50emu/g以上になると、芯材の磁力が高く、低磁化に起因するキャリア飛散を良好に抑制することができる。また、飽和磁化と電気抵抗はトレードオフの関係にあるが、フェライト粒子の飽和磁化が当該範囲内であると、両者のバランスが良好になり高画質の電子写真印刷を良好に行うことのできる電子写真現像剤を得ることができる。また、磁化が高くとも抵抗が低いと、低抵抗に起因するキャリア飛散が生じることがある。飽和磁化を70emu/g以下とすることで、低抵抗に起因するキャリア飛散も良好に抑制することができる。
【0056】
1-7.電気的特性
次に、当該フェライト粒子の電気特性について述べる。
電極間距離6.5mm及び印加電圧1000Vで測定したときの、常温常湿環境(23℃相対湿度55%)下での抵抗値Mは、1.0×10(Ω)以上1.0×109.5(Ω)以下であることが望ましい。当該フェライト粒子の抵抗値が当該範囲内であると、当該フェライト粒子を芯材とし、表面に樹脂被覆層を設けてキャリアとしたとき、トナーとの攪拌時に樹脂被覆層が剥離し、芯材が露出したときも電荷注入によるキャリア飛散を抑制することができる。
【0057】
1-8.物性
(1)体積平均粒径(D50
当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリアの芯材として用いる場合、その体積平均粒径(D50)は24μm以上40μm以下であることが好ましい。但し、ここでいう体積平均粒径は、レーザ回折・散乱法によりJIS Z 8825:2013に準拠して測定した値をいう。体積平均粒径が当該範囲内であると、トナーに対する帯電付与性が高く、長期間に亘って当該帯電付与性を維持することができる。そのため、電子写真現像剤の長寿命化を図ることができる。
【0058】
これに対して、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が24μm未満であると、粒径が小さいため、キャリア飛散が生じやすくなる。また、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が24μm未満であると、粒径が小さいため、当該フェライト粒子が凝集しやすくなる。当該フェライト粒子を芯材とし、その表面に樹脂を被覆してキャリアとする際に、当該フェライト粒子が凝集していると、個々のフェライト粒子の表面を良好に樹脂で被覆することができなくなる。その後、現像剤の製造時或いは使用時に、フェライト粒子の凝集がほぐれると、当該現像剤は樹脂が被覆されていない領域の大きいキャリアの含有率が高くなる。そのため、このようなフェライト粒子を芯材とするキャリアを用いて現像剤を製造すると、トナーに対する十分な帯電付与性を得られない場合があるため好ましくない。
【0059】
一方、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が40μmを超えると、当該粉体を構成する一つ一つの粒子の粒径が大きくなる。そのため、体積平均粒径(D50)が小さいフェライト粒子と比較すると、粉体全体としてみたときにトナーとの摩擦帯電に寄与するキャリアの表面積が小さくなる。そのため、トナーに対する十分な帯電付与性が得られなくなる場合がある。これを改善するために、個々のフェライト粒子の表面に凹凸を付与して、個々のフェライト粒子の表面積を増加させると、トナーとの摩擦帯電に寄与するキャリアの表面積を増加させることができる。この場合、トナーに対する帯電付与性は向上するが、トナーとの混合時等にキャリア表面の凸部に機械的ストレスが加わるなどして、キャリアの割れ・欠けが生じやすくなるため好ましくない。すなわち、現像剤使用時におけるキャリアの強度を維持することができない場合があり、好ましくない。
【0060】
上記観点から、体積平均粒径(D50)の下限値は27μmであることがより好ましく、30μmであることがさらに好ましい。また、体積平均粒径(D50)の上限値は38μmであることが好ましく、36μmであることがさらに好ましい。
【0061】
(2)BET比表面積
当該フェライト粒子のBET比表面積は下記式で表される範囲内であることが好ましい。
0.165≦ X ≦ 0.550
但し、上記式においてXは当該フェライト粒子のBET比表面積(m/g)である。
【0062】
ここでいうBET比表面積は、例えば、比表面積測定装置(型式:Macsorb HM model-1208(マウンテック社製))を用いて測定した値とすることができる。ここで、当該フェライト粒子の上記水分量は粒子表面に対する水の化学的吸着量及び物理的吸着量によって変動する。当該フェライト粒子のBET比表面積が大きくなると、粒子表面に対する水の物理的吸着量が一般的には増加する。粒子表面に対する水の物理的吸着量が多くなりすぎると雰囲気湿度の影響によって当該フェライト粒子の水分量が変動しやすくなり、帯電特性が雰囲気湿度の影響を受けやすくなる。BET比表面積が上記式で表される範囲内であると、上記水分量に占める水の物理的吸着量が適正な範囲内となり、雰囲気湿度が変化したときも帯電特性が大きく変動することを抑制することができる。すなわち、粒子表面に対する水の化学的吸着量も適正な範囲内となり、低温低湿環境下においても適度な水分を表面に保持することができ、高温高湿環境下においても過度の水分が表面に保持されることを抑制し、いずれの環境下においても良好な帯電特性を維持することができる。また、BET比表面積が上記範囲内であると、表面の凹凸が適度にあり当該フェライト粒子を芯材としたときに表面を樹脂で良好に被覆することができるため好ましい。
【0063】
これに対して、BET比表面積が上記下限値未満となると粒子表面に対する水の物理的吸着量が少なくなる。また、BET比表面積が上記下限値未満のフェライト粒子は、一般的には、高温で長時間焼成されることで表面の凹凸がなくなったものであると考えられる。この場合、焼成工程においてCl等の不可避不純物が造粒物から除去されており、粒子表面における塩化物の生成量も少なく、粒子表面に対する水の化学的吸着量も低くなる。これらのことから、BET比表面積が上記下限値未満である場合、当該フェライト粒子の水分量自体が本件発明に規定する範囲の下限値未満となる蓋然性が高く、低温低湿環境下におけるチャージアップを抑制することが困難になる。一方、BET比表面積が上記上限値を超えて大きくなると、当該フェライト粒子の水分量が本件発明に規定する範囲の上限値を超えて多くなり、高温高湿環境下における抵抗値の低下が大きくなるおそれがある。或いは、粒子表面に対する水の化学的吸着量が少なくなり、低温低湿環境下において適度な水分を保持することが困難になり、チャージアップが生じて画像濃度不足などの画質低下を招くおそれがある。
なお、BET比表面積が上記下限値未満のフェライト粒子は、一般的には、高温で長時間焼成されることで表面の凹凸がなくなったものであると考えられる。この場合、焼成工程においてCl等の不可避不純物が造粒物から除去されており、粒子表面における塩化物の生成量も少なく、粒子表面に対する水の化学的吸着量も低くなる。
【0064】
上記効果を得る上で、上記式の下限値は0.188であることがより好ましく、0.190であることがさらに好ましく、0.195であることが一層好ましく、0.200であることがより一層好ましい。また、上記式の上限値は0.500であることがより好ましく、0.450であることがさらに好ましく、0.400であることが一層好ましく、0.380であることがより一層好ましい。
【0065】
なお、BET比表面積は、アルカリ土類金属の含有量が多くなるにつれて大きくなる傾向にあり、焼成温度が高くなるにつれて小さくなる傾向にある。これらの条件を調整することで、BET比表面積を上記範囲内となるように制御することができる。
【0066】
(3)見掛密度
当該フェライト粒子の見掛密度は下記式で表される範囲内であることが好ましい。
1.90≦ Y ≦ 2.50
但し、上記式においてYは当該フェライト粒子の見掛密度(g/cm)を表す。
【0067】
ここでいう見掛密度は、漏斗法によりJIS Z 2504:2012に準拠して測定した値をいう。当該フェライト粒子の見掛密度が上記式で表される範囲内であると、流動性が良好であり、且つ、自重が重いため、トナーとの接触頻度及び接触強度を高めることができる。
【0068】
上記効果を得る上で、上記式の下限値は1.95であることがより好ましく、2.00であることがさらに好ましく、2.15であることが一層好ましい。また、上記式の上限値は2.45であることがより好ましい。
【0069】
2.電子写真現像剤用キャリア
次に、本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアについて説明する。本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面に設けられた樹脂被覆層とを備えることを特徴とする。すなわち、上記フェライト粒子は、電子写真現像剤用キャリアの芯材として用いられることを特徴とする。フェライト粒子については上述したとおりであるため、ここでは主として樹脂被覆層について説明する。
【0070】
(1)被覆樹脂の種類
樹脂被覆層を構成する樹脂(被覆樹脂)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。また、シリコーン樹脂等をアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性した変成シリコーン樹脂等を用いてもよい。例えば、トナーとの撹拌混合時に受ける機械的ストレスによる樹脂剥離を抑制するという観点からは、被覆樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。当該被覆樹脂に好適な熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。但し、上述のとおり、被覆樹脂の種類は特に限定されるものではなく、組み合わせるトナーの種類や使用環境等に応じて、適宜適切なものを選択することができる。
【0071】
また、1種類の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよいし、2種類以上の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよい。2種類以上の樹脂を用いる場合は、2種類以上の樹脂を混合して1層の樹脂被覆層を形成してもよいし、複数層の樹脂被覆層を形成してもよい。例えば、フェライト粒子の表面に、フェライト粒子と密着性の良好な第一の樹脂被覆層を設け、当該第一の樹脂被覆層の表面に、当該キャリアに所望の帯電付与性能を付与するための第二の樹脂被覆層を設けることなども好ましい。
【0072】
(2)樹脂被覆量
フェライト粒子の表面を被覆する樹脂量(樹脂被膜量)は、芯材として用いるフェライト粒子に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。当該樹脂被覆量が0.1質量%未満であると、フェライト粒子の表面を樹脂で十分被覆することが困難になり、所望の帯電付与能力を得ることが困難になる。また、当該樹脂被覆量が10質量%を超えると、製造時にキャリア粒子同士の凝集が発生してしまい、歩留まり低下等の生産性の低下と共に、実機内での現像剤の流動性或いは、トナーに対する帯電付与性等の現像剤特性が変動するため好ましくない。
【0073】
(3)添加剤
樹脂被覆層には、導電剤や帯電制御剤等のキャリアの電気抵抗や帯電量、帯電速度をコントロールすることを目的とした添加剤が含まれていてもよい。導電剤としては、例えば、導電性カーボン、酸化チタンや酸化スズ等の酸化物、又は、各種の有機系導電剤を挙げることができる。但し、導電剤の電気抵抗は低いため、導電剤の添加量が多くなりすぎると、電荷リークを引き起こしやすくなる。そのため、導電剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して0.25質量%以上20.0質量%であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0074】
帯電制御剤としては、トナー用に一般的に用いられる各種の帯電制御剤や、シランカップリング剤が挙げられる。これらの帯電制御剤やカップリング剤の種類は特に限定されないが、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、含金属モノアゾ染料等の帯電制御剤や、アミノシランカップリング剤やフッ素系シランカップリング剤等を好ましく用いることができる。帯電制御剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して好ましくは0.25質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
3.電子写真現像剤
次に、本件発明に係る電子写真現像剤の実施の形態について説明する。当該電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。
【0076】
当該電子写真現像剤を構成するトナーとして、例えば、重合法により製造される重合トナー及び粉砕法によって製造される粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。これらのトナーは各種の添加剤を含んでいてもよく、上記キャリアと組み合わせて電子写真現像剤として使用することができる限り、どのようなものであってもよい。
【0077】
トナーの体積平均粒径(D50)は2μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。トナーの体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、高画質な電子写真印刷を行うことができる電子写真現像剤を得ることができる。
【0078】
キャリアとトナーとの混合比、すなわちトナー濃度は、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。トナーを当該濃度で含む電子写真現像剤は、所望の画像濃度が得られやすく、カブリやトナー飛散をより良好に抑制することができる。
【0079】
一方、当該電子写真現像剤を補給用現像剤として用いる場合には、キャリア1質量部に対してトナー2質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0080】
当該電子写真現像剤は、磁気ドラム等にキャリアを磁力により吸引付着させてブラシ状にしてトナーを搬送し、バイアス電界を付与しながら、感光体上等に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像を形成する磁気ブラシ現像法を適用した各種電子写真現像装置に好適に用いることができる。当該電子写真現像剤は、バイアス電界を付与する際に、直流バイアス電界を用いる電子写真現像装置だけでなく、直流バイアス電界に交流バイアス電界を重畳した交番バイアス電界を用いる電子写真現像装置にも用いることができる。
【0081】
4.製造方法
以下では、本件発明に係るフェライト粉、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の製造方法について説明する。
【0082】
4-1.フェライト粉及び電子写真現像剤用キャリア芯材
本件発明に係るフェライト粉及び電子写真現像剤用キャリア芯材は、次のようにして製造することができる。
【0083】
まず、所望のフェライト組成となるように原料を適量秤量した後、ボールミル又は振動ミル等で0.5時間以上、好ましくは1時間以上20時間以下粉砕混合し、仮焼成する。
【0084】
例えば、(MnO)a(MgO)b(Fe)c(但し、a+b+c=100(mol%)、a≠0、0≦b、c≠0)において、所望の組成のスピネル型フェライト粒子を製造するには、a,b,cが所望の値となるように、それぞれの原料を秤量し、粉砕混合する。原料としては、例えば、Feと、Mg(OH)及び/又はMgCOと、MnO、Mn、Mn及びMnCOからなる群から選ばれる1種類以上のマンガン化合物を用いることが好ましい。
【0085】
本件発明に係るフェライト粒子は、RZrOの組成式(但し、Rはアルカリ土類金属)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含む。そのため、アルカリ土類金属(R)については、アルカリ土類金属(R)の酸化物を原料とし、所望の添加量となるように秤量し、他の原料と粉砕混合する。Zrについては、ZrOを原料とすることができる。
【0086】
その際、得られるフェライト粒子中のZr含有量(PZr)が0.50mol%以上1.00mol%以下、R含有量(P)が0.65mol%以上1.29mol%以下、R含有量(P)とZr含有量(PZr)との比(P/PZr)が1.10以上2.58以下となるように、各原料を秤量する。
【0087】
原料としてのZrOは他の原料と粉砕混合される。二酸化ジルコニウムを粒子内部に均一に分散するためには、原料の粉砕混合時に二酸化ジルコニウムを加えることが望ましい。また、ZrO以外の原料を粉砕、混合し、大気下で仮焼成した後に、ZrOを加え、さらに粉砕混合することも好ましい。その場合は、ZrO以外の原料を粉砕混合した粉砕物を加圧成形機等を用いてペレット化した後、大気下で700℃以上1200℃以下の温度で仮焼成した後に、ZrOを加える。
【0088】
ZrOを含め全ての原料を粉砕混合した後、又は、ZrO以外の他の原料を粉砕混合し、仮焼成した後、得られた仮焼物に所定量のZrOを加え、さらにボ-ルミル又は振動ミル等で粉砕する。そして、粉砕混合物に水を加えてビーズミル等を用いて微粉砕し、スラリーを得る。メディアとして使用するビーズの径、組成、粉砕時間を調整することによって、粉砕度合いをコントロールすることができる。原料を均一に分散させる上で、1mm以下の粒径を持つ微粒なビーズをメディアとして使用することが好ましい。また、原料を均一に分散させる上で、粉砕物の体積平均粒径(D50)が2.5μm以下になるように粉砕することが好ましく、2.0μm以下になるように粉砕することがより好ましい。また、異常粒成長を抑制するため、粒度分布の粗目側の粒径(D90)は3.5μm以下になるように粉砕することが好ましい。これらを調整することで、ペロブスカイト型結晶相成分が粒子の表面から内部までより均一に分散させることができ、上記各種の作用効果を得ることができる。
【0089】
次いで、このようにして得られたスラリーに、必要に応じて分散剤、バインダー等を添加し、2ポイズ以上4ポイズ以下に粘度調整することが好ましい。この際、バインダーとしてポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを用いることができる。
【0090】
上記のように調整されたスラリーを、スプレードライヤーを用いてスラリーを噴霧し、乾燥させることで造粒物を得る。この際、造粒条件としては、吐出量を20Hz以上50Hz以下、アトマイザーディスク回転数を11000rpm以上20000rpm以下、乾燥温度を100℃以上500℃以下の範囲とすることが好ましい。例えば、上記見掛密度が上記範囲内のフェライト粒子を得るには、アトマイザーディスク回転数を11000rpm以上16000rpm以下、乾燥温度を150℃以上300℃以下とすることが好ましい。
【0091】
次に、上記造粒物を焼成する前に分級し、当該造粒物に含まれる微細粒子を除去することが粒度の揃ったフェライト粉を得る上で好ましい。造粒物の分級は、既知の気流分級や篩等を用いて行うことができる。
【0092】
次に、分級された造粒物を焼成する。造粒物は、ロータリーキルンのように、造粒物(被焼成物)を流動させながら熱間部を通過させるような形式の焼成炉で一次焼成した後に、本焼成を行うことが好ましい。
【0093】
ロータリーキルン等の造粒物を流動させながら熱間部を通過させるような形式の焼成炉で一次焼成を行うことで、造粒物をコウ鉢などに静置した状態で一次焼成を行う場合と比較すると、相対的に短時間で、且つ、均一に造粒物から造粒時に用いられたバインダー等の有機物を除去することができる。これと同時に一次焼成時にフェライト反応の一部を進めることができ、その後の本焼成時に表面Rzにばらつきが生じるのを抑制することができる。
【0094】
また、上記形式の焼成炉を用いて一次焼成を行う際に、その温度は、例えば750℃以上1050℃以下とすることが好ましい。当該温度範囲で一次焼成を行うことで有機物の除去及びフェライト反応を効率よく行いつつ、異常粒成長を抑制し、上記の通り表面粗さRzのばらつきが生じるのを抑制することがより容易になる。さらに、有機物の除去及びフェライト反応を効率よく行う上で、一次焼成温度は800℃以上で行うことがより好ましく、850度以上で行うことがさらに好ましい。また、異常粒成長を抑制する上では、一次焼成温度は1000℃以下で行うことがより好ましく、980℃以下で行うことがさらに好ましい。
【0095】
また、本焼成は、不活性雰囲気又は弱酸化性雰囲気下で、850℃以上の温度で1.5時間以上24時間以下保持することにより、行うことが好ましい。但し、本焼成温度は、本件発明に係るフェライト粒子が得られる限り、特に限定されるものではない。ここで、不活性雰囲気又は弱酸化性雰囲気下とは、窒素と酸素の混合ガス雰囲気下において酸素濃度が5体積%(50000ppm)以下であることをいい、雰囲気酸素濃度が3.5体積%(35000ppm)以下であることがより好ましく、2.5体積%(25000ppm)以下であることがさらに好ましく、1.0体積%以下(10000ppm)以下であることが一層好ましく、0.5体積%以下(5000ppm)以下であることがより一層好ましい。
【0096】
例えば、スピネル型結晶相の生成に適した温度(850℃以上1150℃以下)で3時間以上保持し、その後、例えば、ジルコン酸ストロンチウムなどのRZrOの組成式で表されるペロブスカイト型結晶相を生成させるために適した温度(例えば、1150℃以上1500℃以下)で1時間以上保持することにより本焼成を行うことで、スピネル型結晶相を十分に生成させつつ、粒界にジルコニウム成分が良好に分散した当該フェライト粒子を得ることができる。また、その際、アルカリ土類金属(R)の種類と、ZrOの配合量に応じて、焼成温度、焼成時間、焼成時の雰囲気酸素濃度を適宜制御することで、BET比表面積、抵抗値、見掛密度、磁化を電子写真現像剤用キャリア芯材に好適な範囲内に制御することができる。また、1200℃以上の温度で2時間以上保持することで溶出塩素量を本件発明に規定する水分量を保持する上で適正な範囲内にすることがより容易になる。
【0097】
例えば、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)の場合、ペロブスカイト型結晶相成分を十分に生成させつつ、見掛密度を本件発明の範囲内とするには、焼成温度を好ましくは1170℃以上1400℃以下、より好ましくは1180℃以上1350℃以下、さらに好ましくは1200℃以上1330℃以下の温度で1時間以上保持することが好ましい。
【0098】
また、例えば、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)やジルコン酸バリウム(BaZrO)の場合、原料を微粉砕すると共に反応促進剤を添加した上で所定の温度下で焼成することが好ましい。ジルコン酸カルシウム(CaZrO)やジルコン酸バリウム(BaZrO)のペロブスカイト型結晶相成分を生成させるには、反応促進剤を添加しない場合には、2000℃以上の高温で焼成する必要がある。一方、原料を数十ナノメートル程度の一次粒径まで微粉砕し、反応促進剤としてアルミニウム化合物(例えば、アルミナ(Al)等)等を添加することで、1500℃以下の温度でもこれらのペロブスカイト型結晶相成分を生成させることができる。このように目的とする組成に応じて、ペロブスカイト型結晶相成分を生成する上で適した温度で保持すると共に、必要に応じてその他の条件を調整することで本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。
【0099】
なお、本焼成を行う際は、一次焼成時とは異なり、ロータリーキルンのように、造粒物(被焼成物)を流動させながら熱間部を通過させるような形式の焼成炉よりも、トンネルキルン或いはエレベータキルン等のように造粒物をコウ鉢等に入れて静置した状態で熱間を通過させるような形式の焼成炉で行うことが好ましい。ロータリーキルン等のように造粒物を流動させながら熱間部を通過させる形式の焼成炉では、焼成雰囲気の酸素濃度が低いと、造粒物が熱間部を通過する際に炉の内面に付着し、その内側を流動しながら通過する造粒物に十分に熱を加えることができない場合がある。その場合、造粒物を十分に焼結することができないまま、造粒物が熱間部を通過するため、得られた焼成物は表面の焼結は十分に行われていても、内部の焼結が不十分であることが多い。そのような焼成物は電子写真現像剤用キャリア芯材として要求される強度を満たさない他、内部におけるフェライト反応が不十分であるため、電子写真現像剤用キャリア芯材として要求される磁気特性及び電気特性を満たさない場合がある。さらに、焼成物の内部の焼結が不十分である場合、焼成工程においてRZrOの組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分を十分に生成させることができない。そのため、本件発明に係るフェライト粒子を得ることが困難になる。
【0100】
一方、造粒物をコウ鉢等に入れて静置した状態で熱間部を通過させる形式の焼成炉で造粒物を焼成すれば、被焼成物の内部を十分に焼結させることができるため、高磁化及び高抵抗であり、且つ、RZrOの組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分が十分に生成されたフェライト粒子を得ることが容易になる。これらの理由から、本焼成工程を行う際には、トンネルキルン、エレベータキルン等を用いることが好ましい。
【0101】
トンネルキルン、エレベータキルン等の連続炉は入口側から出口側に向かって複数の領域を有し、各領域は独立して温度制御可能に構成されている。炉内に設けられた複数の領域を適宜、昇温帯、加熱帯、冷却帯の3つのゾーンに配分し、各ゾーン(又は各領域)の温度制御や、各ゾーン(又は各領域)内をコウ鉢等が通過する速度制御を行うことなどにより、造粒物を所望の温度勾配で熱処理することができるようになっている。
【0102】
ここで、本件発明に係るフェライト粒子を製造するには、炉内雰囲気を調整可能な連続炉(以下、「連続式雰囲気炉」と称する。)を用い、上述の雰囲気制御を行うことが好ましい。さらに、本件発明に係るフェライト粒子を製造するには、冷却工程、又は、焼成工程及び冷却工程を次のように調整した塩素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0103】
まず、上記焼成雰囲気の制御方法について説明する。連続式雰囲気炉には、窒素ガス等を炉内に打ち込む(流入する)ための流入口が上記各領域毎に1又は複数設けられている。また、連続式雰囲気炉では、炉内のガスを外部に排出するための排気口が設けられている。各ゾーンに対する窒素流量や、排気量等を調整することで、炉内の酸素濃度が予め設定した酸素濃度となるように雰囲気制御を行うことができる。また、炉内には出口側から入口側に向かう方向に気流が生じるようにされており、炉内を通過する造粒物に効率よく焼成雰囲気が接触するようにされている。
【0104】
炉内が所定の酸素濃度となるように雰囲気制御する際、通常は、加熱帯に対する窒素流量(窒素の打ち込み量)が最も多く、昇温帯に対する窒素流量が最も少なくなるように、各ゾーンに対する窒素ガスの流入量を制御する。そのため、昇温帯側が加熱帯よりも陰圧となり、炉内には上述のとおり入口側に向かう気流が発生する。造粒物を焼成する際、昇温帯では造粒物の昇温に伴い、有機物の分解ガスや塩素ガスなどが雰囲気中に放出される。これらの造粒物から放出されたガスは、炉内の気流により入口側に向かい、入口側に設けられた排気口から排出される。
【0105】
本発明者らの鋭意検討の末、本件発明に係るフェライト粒子を得る際に、炉内を所定の酸素濃度となるように雰囲気制御を行う際に、昇温帯における窒素流入量が最も多くなるように各ゾーンに窒素ガスを流入し、加熱帯及び冷却帯に対する窒素流入量が昇温帯と比較して少なくなるようにすることで、冷却帯(冷却工程)、又は、加熱帯及び冷却帯(焼成工程及び冷却工程)を所定の酸素濃度を維持しつつ、塩素雰囲気に調整可能であることを見出した。当該方法によれば、昇温帯、加熱帯、冷却帯のそれぞれに対する窒素流入量を調整して、昇温帯を加熱帯よりも陽圧とすることができ、昇温帯又は加熱帯を通過する間に造粒物から雰囲気内に放出される塩素ガスが冷却帯、又は、加熱帯及び冷却帯に滞留し、冷却帯、又は、加熱帯及び冷却帯を所定の酸素濃度を維持しつつ、塩素雰囲気とすることが可能になる。そのため、不可避不純物としてのCl含有量の低いFe原料等を用いつつ、別途、塩素を原料に、或いは、炉内に添加することなく、フェライト粒子の表面にアルカリ土類金属の塩化物を適量生成させて、上記本発明に係るフェライト粒子を得ることができる。このように当該方法によれば、特に塩素含有量の多いFe原料を用いたり、原料又は炉内に別途塩素を添加する必要がないため、窒素流量の配分を変化させるだけで、良好な磁気特性及び帯電特性を有し、且つ、適度な水分量のフェライト粒子を製造することができる。
【0106】
本件発明に係るフェライト粒子を得る上で、昇温帯、加熱帯、冷却帯のそれぞれに対する窒素流入量の配分は、例えば、次のようにすることが好ましい。まず、炉内が所定の酸素濃度となるように炉内に流入すべき全窒素量(以下、全窒素流入量)を100%とする。このとき、昇温帯に対する窒素流入量を全窒素流入量の38~62%、加熱帯に対する窒素流入量を全窒素流入量の19~31%、冷却帯に対する窒素流入量が全窒素流入量の19~31%となるように調整することができる。その際、昇温帯に対する窒素流入量を40~60%、加熱帯に対する窒素流入量を20~30%、冷却帯に対する窒素流入量が20~30%となるように調整することがより好ましい。炉内の酸素濃度が所望の酸素濃度になるように制御しつつ、造粒物が昇温帯又は加熱帯を通過する間に雰囲気内に放出される塩素ガスが冷却帯、又は、加熱帯及び冷却帯に滞留し、少なくとも冷却帯が塩素雰囲気となるようにされていれば、加熱帯及び冷却帯に対する窒素流入量は同量であってもよいし、異なる量であってもよい。また、上記方法に限らず、炉内に出口側から入口側へ向かう気流を発生させて、炉内の雰囲気酸素濃度が所定の濃度となるように制御しつつ、従来一般的に採用される窒素流入速度の3/4以下の速度にして炉内の気流速度を遅くして、造粒物から揮発した塩素ガスを通常よりも加熱帯及び冷却帯に長く留まるようにしてもよい。
【0107】
その後、焼成物を解砕、分級を行ってフェライト粒子を得る。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等が挙げられる。これらの方法を適宜用いて所望の粒子径に粒度調整する。乾式回収を行う場合は、サイクロン等で回収することも可能である。粒度調整を行う際は前述の分級方法を2種類以上選んで実施してもよく、1種類の分級方法で条件を変更して粗粉側粒子と微粉側粒子を除去してもよい。
【0108】
その後、必要に応じて、フェライト粒子の表面を低温加熱することで表面酸化処理を施し、フェライト粒子の表面抵抗を調整することができる。表面酸化処理は、ロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用い、大気等の酸素含有雰囲気下で、400℃以上730℃以下、好ましくは450℃以上650℃以下でフェライト粒子に熱処理を施すことにより行うことができる。表面酸化処理時の加熱温度が400℃よりも低い場合は、フェライト粒子表面を十分に酸化することができず、所望の表面抵抗特性が得られない場合がある。一方、加熱温度が730℃よりも高い場合、マンガン含有フェライトでは、マンガンの酸化が進みすぎ、フェライト粒子の磁化が低下するため好ましくない。フェライト粒子の表面に均一に酸化被膜を形成するには、ロータリー式電気炉を用いることが好ましい。但し、当該表面酸化処理は任意の工程である。
【0109】
4-2.電子写真現像剤用キャリア
本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を設けたものである。樹脂被覆層を構成する樹脂は上述したとおりである。フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を形成する際には、公知の方法、例えば刷毛塗り法、流動床によるスプレードライ法、ロータリドライ方式、万能攪拌機による液浸乾燥法等を採用することができる。フェライト粒子の表面に対する樹脂の被覆面積の割合(樹脂被覆率)を向上させるためには、流動床によるスプレードライ法を採用することが好ましい。いずれの方法を採用する場合であっても、フェライト粒子に対して、1回又は複数回樹脂被覆処理を行うことができる。樹脂被覆層を形成する際に用いる樹脂被覆液には、上記添加剤を含んでいてもよい。また、フェライト粒子表面における樹脂被覆量は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0110】
フェライト粒子の表面に樹脂被覆液を塗布した後、必要に応じて、外部加熱方式又は内部加熱方式により焼き付けを行ってもよい。外部加熱方式では、固定式又は流動式の電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉などを用いることができる。内部加熱方式では、マイクロウェーブ炉を用いることができる。被覆樹脂にUV硬化樹脂を用いる場合は、UV加熱器を用いる。焼き付けは、被覆樹脂の融点又はガラス転移点以上の温度で行うことが求められる。被覆樹脂として、熱硬化性樹脂又は縮合架橋型樹脂等を用いる場合は、これらの樹脂の硬化が十分進む温度で焼き付ける必要がある。
【0111】
4-3.電子写真現像剤
次に、本発明に係る電子写真現像剤の製造方法について説明する。
本発明に係る電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。トナーは上述したとおり、重合トナー及び粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。
【0112】
重合トナーは、懸濁重合法、乳化重合法、乳化凝集法、エステル伸長重合法、相転乳化法等の公知の方法で製造することができる。例えば、界面活性剤を用いて着色剤を水中に分散させた着色分散液と、重合性単量体、界面活性剤及び重合開始剤を水性媒体中で混合撹拌し、重合性単量体を水性媒体中に乳化分散させて、撹拌、混合しながら重合させた後、塩析剤を加えて重合体粒子を塩析させる。塩析によって得られた粒子を、濾過、洗浄、乾燥させることにより、重合トナーを得ることができる。その後、必要により乾燥されたトナー粒子に外添剤を添加してもよい。
【0113】
さらに、この重合トナー粒子を製造するに際しては、重合性単量体、界面活性剤、重合開始剤、着色剤等を含むトナー組成物を用いる。当該トナー組成物には、定着性改良剤、帯電制御剤を配合することができる。
【0114】
粉砕トナーは、例えば、バインダー樹脂、着色剤、帯電制御剤等を、例えばヘンシェルミキサー等の混合機で充分混合し、次いで二軸押出機等で溶融混練して均一分散し、冷却後に、ジェットミル等により微粉砕化し、分級後、例えば風力分級機等により分級して所望の粒径のトナーを得ることができる。必要に応じて、ワックス、磁性粉、粘度調節剤、その他の添加剤を含有させてもよい。さらに分級後に外添剤を添加することもできる。
【0115】
次に、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0116】
(1)フェライト粒子
実施例1では、SrZrOの組成式(R=Sr)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含み、スピネル型結晶相成分を主成分とするスピネル型フェライト粒子を次のようにして製造した。
【0117】
まず、フェライトを生成するための主成分原料として、モル比でFe:51.3、MnO換算:38.3、MgO換算:10.4となるように、Fe原料、MnO原料及びMgO原料をそれぞれ秤量した。また、これらの主成分原料を100mol%としたときに、ZrO換算:0.70mol%、SrO換算:0.95mol%になるようにZrO原料及びSrO原料を秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガン、MgO原料としては酸化マグネシウム、Fe原料として酸化第二鉄(不純物としてClを1100ppmを含む)、SrO原料としては炭酸ストロンチウム、ZrO原料として二酸化ジルコニウムをそれぞれ用いた。
【0118】
次いで、秤量した原料のうち、二酸化ジルコニウム以外の原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターにより約1mm角のペレットにした。得られたペレットを目開き3mmの振動篩により粗粉を除去し、次いで、目開き0.5mmの振動篩により微粉を除去した後、連続式電気炉で800℃で3時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて、平均粒径が約5μmになるまで粉砕した。このとき粉砕時間は6時間とした。
【0119】
得られた粉砕物に、水と、二酸化ジルコニウムを加え、湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて6時間粉砕した。得られたスラリーの粒径(粉砕の一次粒子径)をレーザ回折式粒度分布測定装置(LA-950、株式会社堀場製作所)で測定したところ、D50は約1.9μm、D90は3.3μmであった。
【0120】
さらに、上記のようにして調製したスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を固形分(スラリー中の仮焼成物量)に対して0.4質量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥した。得られた造粒物の粒度調整を行い、その後、ロータリー式電気炉(ロータリーキルン)を用い、大気雰囲気下で950℃、2時間加熱し、一次焼成を行った。
【0121】
その後、トンネル式電気炉により、炉内の酸素濃度を0.0体積%となるように炉内に窒素ガスを流入して雰囲気制御を行った。その際、昇温帯に対する窒素流入量を60%、加熱帯に対する窒素流入量を20%、冷却帯に対する窒素流入量が20%となるように、炉内全体に対する窒素流入量(全窒素流入量)を配分した。また、昇温速度を100℃/時、焼成温度(保持温度)を1219℃、保持時間を3時間、冷却速度を110℃/時とした。
【0122】
そして、得られた焼成物を、ハンマークラッシャーにより解砕し、さらにジャイロシフター(振動篩機)及びターボクラシファイア(気流分級機)により分級して粒度調整を行い、熱間部と、当該熱間部に後続する冷却部とを備えるロータリー式の電気炉により450℃で表面酸化処理を行った後、磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子を得た。実施例1のフェライト粒子の主たる製造条件を表1に示す。
【0123】
(2)電子写真現像剤用キャリア
上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子に対して、以下のようにシリコーン樹脂を被覆して、実施例1のキャリアを得た。
【0124】
まず、シリコーン樹脂(信越シリコーン社製、KR-350)とトルエンとを混合したシリコーン樹脂溶液(樹脂固形分10質量%)を調製した。この樹脂溶液と上記実施例1のフェライト粒子とを万能撹拌機によって混合することによりフェライト粒子の表面を当該樹脂溶液で被覆した。その際、フェライト粒子に対して樹脂固形分が1.0質量%となる量の樹脂溶液を用いた。続いて、樹脂溶液が付着したフェライト粒子を熱交換型撹拌加熱装置により、250℃で3時間撹拌しながら加熱し、樹脂溶液に含まれる揮発成分を揮発させてフェライト粒子を乾燥させた。これにより、フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を備える実施例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【実施例0125】
本実施例では、主成分原料100mol%としたときにZrO換算:0.60mol%、SrO換算:0.70mol%になるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1221℃とした点を除いて実施例1と同様にして、実施例2のフェライト粒子を製造した。実施例2の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【実施例0126】
本実施例では、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:0.90mol%、SrO換算:1.20mol%になるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1217℃とした点を除いて実施例1と同様にして、実施例3のフェライト粒子を製造した。実施例3の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【実施例0127】
主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:0.50mol%、SrO換算:0.65mol%になるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1212℃、昇温帯に対する窒素流入量を40%、加熱帯に対する窒素流入量を25%、冷却帯に対する窒素流入量が35%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、実施例4のフェライト粒子を製造した。実施例4の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【実施例0128】
主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:0.50mol%、SrO換算:1.29mol%になるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1200℃、昇温帯に対する窒素流入量を50%、加熱帯に対する窒素流入量を20%、冷却帯に対する窒素流入量が30%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、実施例5のフェライト粒子を製造した。実施例5の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【実施例0129】
本実施例では、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:1.00mol%、SrO換算:1.10mol%となるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1232℃、昇温帯に対する窒素流入量を55%、加熱帯に対する窒素流入量を25%、冷却帯に対する窒素流入量が20%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、実施例6のフェライト粒子を製造した。実施例6の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【実施例0130】
本実施例では、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:1.00mol%、SrO換算:1.29mol%となるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1225℃、昇温帯に対する窒素流入量を60%、加熱帯に対する窒素流入量を20%、冷却帯に対する窒素流入量が20%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、実施例7のフェライト粒子を製造した。実施例7の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【実施例0131】
本実施例では、R=Caとし、CaZrOの組成式を有するペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子を製造した。その際にSrO原料に変えてCaO原料としてCaCOを用い、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:0.50mol%、CaO換算:0.65mol%となるようにZrO原料及びCaO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1235℃、昇温帯に対する窒素流入量を40%、加熱帯に対する窒素流入量を35%、冷却帯に対する窒素流入量が25%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、実施例8のフェライト粒子を製造した。実施例8の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【比較例】
【0132】
[比較例1]
本比較例では、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:0.50mol%、SrO換算:1.29mol%となるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1215℃、昇温帯に対する窒素流入量を20%、加熱帯に対する窒素流入量を30%、冷却帯に対する窒素流入量が50%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、比較例1のフェライト粒子を製造した。比較例1の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【0133】
[比較例2]
本比較例では、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:0.50mol%、SrO換算:1.29mol%となるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1205℃、昇温帯に対する窒素流入量を20%、加熱帯に対する窒素流入量を45%、冷却帯に対する窒素流入量が35%となるように配分し、雰囲気酸素濃度が0.1体積%になるように雰囲気制御を行った点を除いて実施例1と同様にして、比較例2のフェライト粒子を製造した。比較例2の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【0134】
[比較例3]
本比較例では、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:0.50mol%、SrO換算:1.29mol%となるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、一次焼成を行わず、また、本焼成の際の焼成温度(保持温度)を1200℃、昇温帯に対する窒素流入量を50%、加熱帯に対する窒素流入量を25%、冷却帯に対する窒素流入量が25%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、比較例3のフェライト粒子を製造した。比較例3の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【0135】
[比較例4]
本比較例では、主成分原料100mol%としたときに、ZrO換算:1.00mol%、SrO換算:0.65mol%となるようにZrO原料及びSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1236℃、昇温帯に対する窒素流入量を50%、加熱帯に対する窒素流入量を25%、冷却帯に対する窒素流入量が25%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、比較例4のフェライト粒子を製造した。比較例4の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【0136】
[比較例5]
本比較例では、ZrO原料を添加せず、主成分原料100mol%としたときに、SrO換算:0.80mol%になるようにSrO原料を秤量し、一次焼成温度を970℃、焼成温度(保持温度)を1150℃、昇温帯に対する窒素流入量を50%、加熱帯に対する窒素流入量を25%、冷却帯に対する窒素流入量が25%となるように配分した点を除いて実施例1と同様にして、比較例5のフェライト粒子を製造した。比較例5の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【0137】
[比較例6]
本比較例では、ZrO原料を添加せず、主成分原料100mol%としたときに、SrO換算:0.80mol%になるようにSrO原料を秤量し、焼成温度(保持温度)を1190℃、昇温帯に対する窒素流入量を20%、加熱帯に対する窒素流入量を30%、冷却帯に対する窒素流入量が50%となるように配分し、且つ、雰囲気酸素濃度が0.5体積%となるように雰囲気制御を行った点を除いて実施例1と同様にして、比較例6のフェライト粒子を製造した。比較例6の主たる製造条件を表1に示す。また、当該フェライト粒子を芯材として用いたこと以外は、実施例1と同様にして電子写真現像剤用キャリアを製造した。
【0138】
〈評価〉
以上のようにして得た各実施例及び各比較例のフェライト粒子について、(1)ペロブスカイト型結晶相成分含有量、(2)スピネル型結晶相含有量及び元素組成、(3)Zr元素の分散度合い、(4)水分量、(5)溶出塩素量、(6)体積平均粒径、(7)飽和磁化、(8)BET比表面積を測定した。また、以上のようにして得た各実施例及び各比較例の電子写真現像時用キャリアを用いて電子写真現像剤を調製し(9)帯電特性、(10)画像濃度、(11)カブリに関する評価を行った。
以下、各評価方法/測定方法及び評価結果を述べる。
【0139】
1.評価方法/測定方法
(1)ペロブスカイト型結晶相成分含有量(質量%)
各実施例及び各比較例で製造したフェライト粒子を試料とし、粉末X線回折パターンをリートベルト解析することにより、各フェライト粒子におけるペロブスカイト型結晶相成分含有量を求めた。粉末X線回折パターンの波形分離では各結晶相の同定と定量を行うことが困難な場合があるが、結晶構造モデルに基づいたリートベルト解析により各相の同定と定量が可能になる。
【0140】
X線回折装置として、パナリティカル社製「X’PertPRO MPD」を用いた。X線源としてCo管球(CoKα線)を用いた。光学系として集中光学系及び高速検出器「X’Celarator」を用いた。測定条件は以下のとおりである。
スキャンスピード :0.08°/秒
発散スリット :1.0°
散乱スリット :1.0°
受光スリット :0.15mm
封入管の電圧及び電流値:40kV/40mA
測定範囲 :2θ=15°~90°
積算回数 :5回
【0141】
得られた測定結果を元に、「国立研究開発法人物質・材料研究機構、”AtomWork”(URL:http://crystdb.nims.go.jp/)」に開示の構造より結晶構造を以下の通り同定した。
A相:マンガンフェライト(スピネル型結晶相)
結晶構造: 空間群 F d -3 m (No. 227)
B相:RZrOの組成式で表されるペロブスカイト型結晶相
結晶構造:空間群 P n m a (No. 62)
C相:二酸化ジルコニウム(ジルコニア)
結晶構造:空間群 P -4 2 m (No. 111)
但し、A相に帰属する空間群Fd-3mにおいて各原子のWyckoff位置は8bをMn原子、16cをFe原子、32eをO原子と設定した。
【0142】
次に解析用ソフト「RIETAN-FP v2.83(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)」を用いて同定した結晶構造を精密化することで、質量換算の存在比率を各結晶相の相組成比として算出した。
プロファイル関数はThompson,Cox,Hastingの擬Voigt関数を使用しHowardの方法で非対称化を行った。
フィッティングの正確さを表すRwp値,S値が各々Rwp:2%以下,S値:1.5以下であり、2θ=35~37°に於いてB,C相のメインピークがフィッティングされていることを確認した上で、各パラメータの最適化を行った。
【0143】
以上のようにして行ったX線回折パターンのリートベルト解析結果に基づき、フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行ったときのペロブスカイト型結晶相成分(B相)の含有量(質量%)を求めた。
【0144】
(2)スピネル型結晶相成分含有量(質量%)及び元素組成(質量%)
上記で得たX線回折によるA相、B相、C相の測定結果にFe(D相)、Mn(E相)、ストロンチウムフェライト(F相)を加えて解析を行い、各フェライト粒子におけるスピネル型結晶相成分含有量(質量%)を求めた。
【0145】
また、各フェライト粒子における元素組成はICP分析により次のようにして求めた。まず、各フェライト粒子0.2gを秤量し、これに純水60mlに1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えたものを加熱し、フェライト粒子を完全溶解させた水溶液を準備し、ICP分析装置(島津製作所製ICPS-1000IV)を用いてFe、Mn、Mg、Sr、Zrの含有量(質量%)を測定した。
【0146】
(3)Zr元素の分散度合い
各実施例及び各比較例で製造したフェライト粒子について、以下の式で定義するZr元素の分散度合いを測定した。
Zrの分散度合い=Zr(s)/Zr(c)
但し、
Zr(s):エネルギー分散型X線分析によって測定された粒子断面の表面部におけるZr量(質量%)
Zr(c):エネルギー分散型X線分析によって測定された粒子断面の中心部におけるZr量(質量%)
【0147】
ここで、図1を参照しながら説明する。フェライト粒子の断面(粒子断面)の中心部は、次のように定義する。粒子断面(例えば、SEM画像)における最大直径を線分Dxとしたとき、線分Dxの中点を粒子断面の中心Cとし、線分Dxの端点をそれぞれ点Pとする。そして、当該中心Cをその中心位置とし、一辺の長さが線分Dxの35%の長さである正方形を正方形Sとする。この正方形Sで囲まれた領域を中心部と定義する。
【0148】
また、粒子断面の表面部は、次のように定義する。線分Dx上の点であって、点Pから中心Cに向かって線分Dxの長さの15%の距離の位置を点P’とする。そして、線分Dxの長さの35%の長さを有し、線分Dxに直交し、かつ点P又は点P’を中点とする線分を長辺とし、線分Dxの長さの15%の長さを有する線分を短辺とする長方形を長方形Rとする。本件発明では、フェライト粒子の断面において、この長方形Rで囲まれた領域を表面部と定義する。なお、図1は説明のためにフェライト粒子100の断面形状を簡略化して円形に模して示したものであり、本件発明に係るフェライト粒子の実際の断面形状を示すものではない。
【0149】
このように定義した粒子断面の中心部及び表面部に対して、エネルギー分散型X線分析(EDX分析)を行い、各領域におけるZr元素の含有量を測定する。具体的な測定方法は以下のとおりである。
【0150】
(a)フェライト粒子を樹脂包埋し、イオンミリングによる断面加工を施すことにより、測定用の断面試料を作製する。イオンミリングは、日立ハイテクノジーズ社製のIM4000PLUSを使用し、イオンビームの加速電圧を6.0kVとして、アルゴン雰囲気下で行う。ここで、分析対象とするフェライト単粒子は、当該フェライト単粒子が含まれるフェライト粒子(粉体)の体積平均粒径をD50としたとき、最大直径DxがD50×0.8≦Dx≦D50×1.2の範囲である粒子とする。
【0151】
(b)得られた断面試料に対して、走査電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノジーズ社製SU8020)にて加速電圧を15kV、WDを15mmとして分析対象とするフェライト粒子の断面を観察する。このとき、視野の中に分析対象とするフェライト粒子1つのみが存在し、かつ粒子全体が視野内に収まるように倍率を設定する。
【0152】
(c)そして、フェライト粒子断面の中心部及び表面部(上記定義した領域)に対してEDX分析を行う。EDX分析では、エネルギー分散型X線分析装置(堀場製作所製EMax X-Max50)によって、Fe、Mn、Mg、Sr及びZrを対象としてマッピング収集を行い、得られたX線スペクトルピークから各々の元素量(質量%)を算出する。得られた粒子断面の中心部におけるZr量を「Zr(c)」とし、粒子断面の表面部におけるZr量を「Zr(s)」とする。
【0153】
そして、EDX分析によって得られた粒子断面の中心部におけるZr量(Zr(c))及び粒子断面の表面部におけるZr量(Zr(s))を、上述した式(1)に代入することにより、分析対象としたフェライト粒子のZrの分散度合いを得ることができる。
【0154】
このとき、粒子断面の表面部におけるZr量については、長方形Rと同様に定義された長方形Rと、粒子断面の中心Cをとおり直線Dxに直交する直線Dyについて上記点P,P’と同様に定めた点Q,Q’に基づき定義した長方形R及び長方形Rで囲まれた4つの領域を表面部と定義し、各領域におけるZr量の平均値とした。各長方形R、R、R、Rは、粒子断面の輪郭に沿って略等間隔に配置されるようにした。
【0155】
ここで、一つのフェライト粒子について最大直径である線分Dxが複数存在するときは、線分Dxに対して線分Dy(線分QQ’)が0.5以上の長さを示す関係にあるものをDx,Dyとするものとする。なお、各実施例で製造したフェライト粒子は略球形である。よって、線分Dxに対して線分Dy(線分QQ’)の長さが0.5未満になる場合、そのような粒子は割れや欠けなどが生じた粒子である蓋然性が高い。従って、分析対象とするフェライト単粒子は、線分Dxに対して線分Dy(線分QQ’)の長さが0.5以上のものとする。
【0156】
(4)水分量
電量滴定方式のカールフィッシャー水分計(MKC-510S、京都電子工業株式会社製)を使用し、水分気化装置(ADP-511)により、サンプル2gを230℃に加熱したときに発生した水分量を測定し、その値を各フェライト粒子の水分量とした。測定の際には、事前に常温常湿(23℃相対湿度55%)下に12時間暴露したサンプルを用いるものとする。
【0157】
(5)溶出塩素量
まず、試料を50.000g+0.0002g以内に正確に秤り、150mlガラス瓶に入れた。次に、フタル酸塩(pH4.01)50mlをガラス瓶に添加した。そして、イオン強度調整剤、1mlをガラス瓶に続けて添加し、蓋を閉めた。そして、ペイントシェ-カ-によりガラス瓶内の試料を10分間撹拌した。その後、150mlガラス瓶の底に磁石を当てキャリアが落ちないように注意しながらNo.5Bの濾紙を用いてPP製(50ml)の容器にろ過した。得られた上澄み液を、pHメーターにて電圧を測定した。同様に、検量線用に作成した塩素濃度別の溶液(純水、1ppm、10ppm、100ppm及び1000ppm)を測定し、それらの値から、試料の溶出塩素量を計算した。
【0158】
(6)体積平均粒径(D50
体積平均粒径(D50)は、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320-X100)を用いて、次のようにして測定した。各実施例及び各比較例で製造したフェライト粒子を試料とし、各試料10gと水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴~3滴添加し、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH-150型)を用い、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行い、ビーカー表面にできた泡を取り除くことによりサンプルを調製し、当該サンプルを用いて、上記マイクロトラック粒度分析計によりサンプルの体積平均粒径を測定した。
【0159】
(7)飽和磁化
飽和磁化は、振動試料型磁気測定装置(型式:VSM-C7-10A(東英工業社製))を用いて測定した。具体的な測定手順は次のとおりである。まず、各実施例及び各比較例で製造したフェライト粒子を試料とし、内径5mm、高さ2mmのセルに試料を充填し上記装置にセットした。そして、磁場を印加し、1K・1000/4π・A/m(=1kOe)まで掃引した。次いで、印加磁場を減少させ、記録紙上にヒステリシスカーブを作成した。このカーブのデータより印加磁場が1K・1000/4π・A/mにおける磁化を読み取り、飽和磁化とした。
【0160】
(8)BET比表面積
各実施例及び各比較例で製造したフェライト粒子を試料とし、次の手順により比表面積測定装置(Macsorb HM model-1208、株式会社マウンテック)を用いてBET比表面積を求めた。まず、ガラスシャーレに20g程度の試料を取り分けた後、真空乾燥機で-0.1MPaまで脱気した。脱気し、ガラスシャーレ内の真空度が-0.1MPa以下に到達していることを確認した後、200℃で2時間加熱した。これらの前処理を施した試料を上記比表面積測定装置専用の標準サンプルセルに約5~7g収容した。標準サンプルセルに収容した試料の質量は精密天秤で正確に秤量した。そして、測定ポートに試料を収容した標準サンプルセルをセットし、温度10℃~30℃、相対湿度20%~80%で、1点法によりBET比表面積の測定を行った。測定終了時に試料の質量を入力し、算出された値をBET比表面積の測定値とした。
【0161】
(9)帯電特性
各実施例及び比較例で製造した電子写真用現像剤用キャリアを用いて、以下の方法により電子写真現像剤を調製し、帯電量を求めた。
【0162】
各実施例及び比較例で製造した電子写真現像剤用キャリアとトナーとをターブラミキサーで混合し、50gの現像剤(トナー濃度9.5重量%)を得た。ここで、トナーはフルカラープリンターに使用されている市販の負極性トナー(平均粒径約5.8μm)を用いた。上記現像剤を低温低湿環境(10℃相対湿度20%)下に12時間以上暴露した。その後、現像剤を50ccのガラス瓶に入れ、同低温低湿環境下で100rpmの回転数にて攪拌を行い、攪拌開始から30min後及び60min後に現像剤を抜き取り、帯電量測定用の試料とした。
【0163】
帯電量測定装置として、直径31mm、長さ76mmの円筒形のアルミ素管(以下、スリーブ)の内側に、N極とS極を交互に合計8極の磁石(磁束密度0.1T)を配置したマグネットロールと、該スリーブと5.0mmのGapをもった円筒状の電極を、該スリーブの外周に配置した。
【0164】
このスリーブ上に、上記試料0.5gを均一に付着させた後、外側のアルミ素管を固定したまま、内側のマグネットロールを100rpmで回転させながら、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧2000Vを60秒間印加し、現像剤中のトナーを外側の電極に移行させた。このとき、円筒状の電極にはエレクトロメーター(KEITHLEY社製 絶縁抵抗計model6517A)をつなぎ、移行したトナーの電荷量を測定した。
60秒経過後、印加していた電圧を切り、マグネットロールの回転を止めた後、外側の電極を取り外し、電極に移行したトナーの重量を測定した。
測定された電荷量と移行したトナー重量から、帯電量を計算した。
【0165】
このとき、攪拌時間が30分の試料について測定した帯電量を「30min値(LL)」、攪拌時間が60分の試料について測定した帯電量を「60min値(LL)」とし、以下の計算式に基づいて、帯電量の経時変動比を求めた。
【0166】
経時変動比(%)
=(60min値(LL)-30min値(LL))/30min値(LL)×100
【0167】
また、上記と同様にして高温高湿環境(30℃相対湿度80%)下で12時間以上曝露した後、同高温高湿環境下で上記と同様に攪拌し、攪拌開始から60min後に現像剤を抜き取り、帯電量測定用の試料とし、当該資料について測定した帯電量を「60min値(HH)」として、下記式に基づき抵抗の環境変動比を求めた。
【0168】
環境変動比=60min値(LL)/60min値(HH)
【0169】
(10)画像濃度
各実施例及び比較例で製造した電子写真用現像剤を用いて画像濃度を次のようにして評価した。画像濃度は、低温低湿環境(10℃相対湿度20%)下に雰囲気温度及び湿度が調整された恒温恒湿室内にてフルカラー電子写真現像機(Ricoh社製imagio MP C2500)を用いて、適性露光条件下で1000(1k)試験画像の印刷を行った後、ベタ画像を印刷した。そして、ベタ画像を分光測色濃度計(X-RIte社製「モデル938」)を用いて画像濃度を測定し下記基準で評価した。
【0170】
「◎」:1.3以上
「○」:1.2以上1.3未満
「△」:1.0以上1.2未満
「×」:1.0未満
【0171】
(11)カブリ
各実施例及び比較例で製造した電子写真用現像剤を用いてカブリを次のようにして評価した。カブリは、高温高湿環境(30℃相対湿度80%)下に雰囲気温度及び湿度が調整された恒温恒湿室内にてフルカラー電子写真現像機(Ricoh社製imagio MP C2500)を用いて、印字率10%で10000(10k)試験画像の印刷を行った後、白紙部分のカブリ値を日本電色工業社製色差計Z-300Aを使用して測定した。そして、4か所の平均値を測定値とし、印字していない箇所の白紙濃度との濃度差を以下のように評価した。
【0172】
「◎」:0.05以下
「○」:0.05より大0.1以下
「△」:0.1より大0.3以下
「×」:0.3より大
【0173】
2.評価結果
表2~表4に上記各評価項目の測定結果を示す。
【0174】
(1)ペロブスカイト型結晶相成分含有量及びZr元素の分散度合い
表2に示すように、実施例1~実施例8のフェライト粒子は、原料として、アルカリ土類金属(R)を含む酸化物と、二酸化ジルコニウムとを用いることにより、RZrOの組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分を0.40質量%~0.99質量%含むフェライト粒子が得られることが確認された。また、実施例1~実施例8のフェライト粒子におけるZrの分散度合いは1.0であり、フェライト粒子内にペロブスカイト型結晶相成分が良好に分散していることが確認された。
【0175】
比較例1~比較例4のフェライト粒子についても、当該ペロブスカイト型結晶相成分を0.44質量%~0.52質量%含み、Zrの分散度合いが1.0のフェライト粒子が得られた。一方、比較例5及び比較例6では、「SrO」を原料として用いていないため上記ペロブスカイト型結晶成分を含むフェライト粒子は得られなかった。
【0176】
(2)スピネル型結晶相成分含有量
各実施例及び各比較例のフェライト粒子におけるスピネル型結晶相成分含有量は表2に示すとおりであり、いずれもスピネル型結晶相成分を90質量%以上、より詳細には96質量%以上含むスピネル型フェライト粒子であることが確認された。また、ICP元素分析の測定値に基づき、スピネル型結晶相成分の組成比を求めると、当該組成比は仕込みモル比から変動がみられるものの略同程度となることも確認された。
【0177】
(3)Zr含有量(PZr)、R含有量(P)、比(P/PZr
ICP元素分析の結果から、実施例1~実施例8のフェライト粒子はZr含有量(PZr)が0.39mol%~0.81mol%であり、R含有量としてのSr含有量(P)が0.55mol%~1.05mol%、またR含有量としてのCa含有量(P)が0.56mol%であり、比(P/PZr)が1.22~2.53の範囲内であることが確認された。
【0178】
比較例1~比較例3のフェライト粒子は、Zr含有量(PZr)、Sr含有量(P)及び比(P/PZr)が本件発明の規定範囲内であることが確認された。また、比較例4はZr含有量(PZr)が本件発明の規定範囲内であるが、Sr含有量(P)及び比(P/PZr)が本件発明の規定範囲外であることが確認された。さらに比較例5及び比較例6はSr含有量(P)が本件発明の規定範囲内であるが、Zr原料を用いていないためZr含有量(PZr)及び比(P/PZr)は本件発明の規定範囲を満たさない。
【0179】
(4)水分量及び溶出塩素量
表3に示すように実施例1~実施例8のフェライト粒子の水分量は43.9ppm~66.7ppmであり、本件発明の規定範囲内であった。また、実施例1~実施例8のフェライト粒子の溶出塩素量は46.0ppm~80.0ppmであった。ここで、実施例1~実施例3について比較すると比(P/PZr)の値が大きいほど水分量及び溶出塩素量が大きくなる傾向が見られた。
これに対して、比較例1~比較例6のフェライト粒子の水分量はいずれも本件発明の規定範囲外であり、溶出塩素量についても本件発明の好ましい範囲外であった。
【0180】
比較例1及び比較例2は実施例5と、焼成温度、炉内の雰囲気制御の際の昇温帯、加熱帯、冷却帯に対する窒素流入量の配分が異なる点を除いて、実施例5と同様にして製造したものである。炉内の雰囲気制御の際に、実施例1~実施例8では昇温帯に対する窒素流入量を40~60%とし、加熱帯及び冷却帯に対するそれぞれの窒素流入量を35%~20%とし、昇温帯に対する窒素流入量を他のゾーンと比較して多く、昇温帯側が加熱帯側よりも陽圧になるように制御したのに対し、比較例1及び比較例2では昇温帯に対する窒素流入量が20%と他のゾーンと比較して少なく、昇温帯側が加熱帯側よりも陰圧となっている。このことより各実施例では昇温帯側を陽圧とすることで造粒物から放出した塩素ガスを加熱帯及び冷却帯側に滞留させてこれらのゾーンを塩素雰囲気に調整することができたため、粒子表面に塩化ストロンチウム等の塩化物を適度に生成することができ、各フェライト粒子の水分量が本件発明の規定範囲内となったと考えられる。一方、比較例1及び比較例2では昇温帯側が陰圧となるため、造粒物から放出された塩素ガスが昇温帯側に流れこみ、加熱帯及び冷却帯を塩素雰囲気に調整することができなかったと考えられる。その結果、粒子表面に上記塩化物を適度に生成することができず、水分量及び溶出塩素量が低い値を示したと考えられる。
【0181】
比較例3は、一次焼成を行わなかった点と、炉内の雰囲気制御の際の昇温帯、加熱帯、冷却帯に対する窒素流入量の配分が僅かに異なる点を除いて、実施例5と同様にして製造したものである。比較例3では一次焼成を行わなかったため、本焼成時に造粒物から雰囲気内に放出される塩素ガスが実施例5と比較すると多くなり、加熱帯及び冷却帯における雰囲気中の塩素濃度が実施例5よりも大きくなったと考える。そのため、粒子表面に塩化ストロンチウム等の塩化物が適度な量を超えて生成されてしまい溶出塩素量が実施例1~実施例8と比較すると多くなり、水分量が多くなったと考える。
【0182】
比較例4は雰囲気制御の際の窒素流入量の配分は実施例5とほぼ同じであるが、ジルコニウム含有量(PZr)がストロンチウム含有量(P)よりも多く、比(P/PZr)が本件発明の規定範囲よりも小さい。そのため、加熱帯及び冷却帯を塩素雰囲気に調整することができたものの、ペロブスカイト型結晶相成分を構成するためにSrが消費され、塩化物を生成するためのSr量が不足したため、粒子表面に塩化ストロンチウムを生成することができず、この場合も溶出塩素量が実施例1~実施例8と比較すると少なくなったと考える。
【0183】
比較例5のフェライト粒子はZr含有量(PZr)が「0」であり、ペロブスカイト型結晶相成分を含まない。そのため、比較例5のフェライト粒子に含まれるSrが粒子表面で雰囲気中の塩素と結合して塩化ストロンチウムとなることで溶出塩素量が実施例1~実施例8と比較すると多くなり、水分量が多くなったと考える。一方、比較例6は比較例5よりも焼成温度が高く、BET比表面積が比較例6よりも小さな値を示した。また、比較例6では昇温帯に対する窒素流入量が少なく、加熱帯及び冷却帯が塩素雰囲気となっていないこともあり、溶出塩素量が比較例5よりも小さな値となった。これらのことから、比較例6の水分量は少なくなったと考える。
【0184】
(5)BET比表面積
実施例1~実施例8のフェライト粒子のBET比表面積は0.192(m/g)~0.325(m/g)であった。実施例8はR=Caであり、他の実施例と比較するとBET比表面積が小さい値を示した。実施例1~実施例7ではR=Srである。焼成温度(保持温度)が低い方がBET比表面積が大きな値を示す傾向にあることが確認された。また、実施例5と比較例1及び比較例2では焼成温度が異なるが、これらの対比結果からも焼成温度が低い方がBET比表面積が大きな値を示すことが確認された。
【0185】
(6)水分量と、溶出塩素量及びBET比表面積
粒子表面に吸着する水分量は、粒子表面におけるアルカリ土類金属の塩化物の生成量が多い程、化学的吸着量が増加し、BET比表面積が大きいほど物理的吸着量が増加する。この点に関し、実施例5のBET比表面積は実施例1~実施例8の中で最も大きく、水分量も最も大きな値を示した。ここで、実施例5のBET比表面積は0.325(m/g)であり、比較例3のBET比表面積は0.352(m/g)と略同等である。BET比表面積だけをみれば両者の水分量は略同等であると考えられるが、比較例3の水分量は129.3ppmと大きな値を示しているのに対して、実施例5の水分量は66.7ppmに抑制することができている。すなわち、実施例5と比較例3では水の物理的吸着量は同等であるものの、溶出塩素量の相違(フェライト粒子表面に生成された塩化物量の相違)に基づく水の化学的吸着量に起因して、比較例3の水分量が大きくなったと考える。また比較例6のフェライト粒子は溶出塩素量が56.9ppmであり、例えば実施例3のフェライト粒子の溶出塩素量(55.0ppm)と略同程度である。しかしながら、比較例6のフェライト粒子のBET比表面積は0.151(m/g)と実施例3のBET比表面積(0.249(m/g))と比較すると小さく、その結果水分量も28.9ppmと少なくなったと考えられる。
【0186】
(7)飽和磁化及び体積平均粒径(D50
各実施例及び比較例の飽和磁化及び体積平均粒径(D50)は表3に示すとおりである。なお、実施例1~実施例8のフェライト粒子の飽和磁化は59.8emu/g~62.6emu/gであり、電子写真現像剤のキャリア芯材として好適な範囲であった。
【0187】
(8)帯電特性
次に、表4を参照して帯電特性について述べる。実施例1~実施例8の電子写真現像剤の低温低湿環境下において測定した経時変動比は6.99~11.09であり、環境変動比は1.08~1.19であった。これに対して、比較例1、比較例2及び比較例4の電子写真現像剤では当該経時変動比が12.67~15.38であり、環境変動比は1.24~1.35であり、いずれも各実施例よりも大きな値を示した。また、比較例3及び比較例5の電子写真現像剤では当該経時変動比が2.54~2.56と小さいが、環境変動比が1.45~1.50と大きな値を示した。さらに比較例6の電子写真現像剤は経時変動比は8.71であり実施例1~実施例8の電子写真現像剤と同程度となったが、環境変動比が1.36と大きな値を示した。
【0188】
以上の結果より、実施例1~実施例8の電子写真現像剤は、水分量の多いフェライト粒子を芯材とした比較例3及び比較例5の電子写真現像剤よりも経時変動比が小さく、且つ、水分量の少ないフェライト粒子を芯材とした比較例1、比較例2、比較例4及び比較例6の電子写真現像剤と同等の環境変動比を示すことが確認された。すなわち、本件発明に係るフェライト粒子を芯材として用いることで、低温低湿環境下における帯電量の経時変化が少なくチャージアップを抑制することができ、低温低湿環境から高温高湿環境に変化しても帯電量の低下を防ぎ、要求される帯電量を維持することができることが確認された。すなわち、比較例1~比較例6と比較すると環境安定性のより高い電子現像剤が得られることが確認された。
【0189】
これに対して、比較例3及び比較例5の電子写真現像剤は水分量の多いフェライト粒子を芯材としているため、低温低湿環境下においても帯電量の経時変化を抑制することができるものの、環境変動比が大きく、高温高湿環境下では帯電量が低下することが確認された。また、比較例1、比較例2、比較例4及び比較例6の電子写真現像剤は水分量の少ないフェライト粒子を芯材としているため、比較例3及び比較例5と比較すると環境変動比は小さいものの各実施例と比較すると十分とはいえず、また低温低湿環境下における帯電量の経時変化を抑制することができず、チャージアップが生じる蓋然性が高いことが確認された。
【0190】
(9)画像濃度及びカブリ
表4から、実施例1~実施例8の電子写真現像剤では低温低湿環境下における帯電量の経時変化が少なく、チャージアップが抑制されているため、大量に印刷を行ったときも実用上十分な画像濃度が維持できていることが確認された。また、カブリについてはいずれも良好であり高温高湿環境下において高品質で印刷が可能であることが確認された。なお、評価に「△」は実用上十分な画像濃度であることを意味する。
【0191】
これに対して、水分量の少ないフェライト粒子を芯材とした比較例1、比較例2、比較例4及び比較例6の電子写真現像剤では、画像濃度の評価が「×」となり、低温低湿環境下で大量の印刷を行った場合に画質が低下する蓋然性が高いことが確認された。また、水分量の多いフェライト粒子を芯材とした比較例3及び比較例5の電子写真現像剤では、カブリの評価が「×」となり、高温高湿環境下ではカブリが生じ画質が低下する蓋然性が高いことが確認された。
【0192】
【表1】
【0193】
【表2】
【0194】
【表3】
【0195】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0196】
本件発明によれば、帯電特性の環境安定性のより高いフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することができる。
図1