(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145750
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】冷媒減少検出装置
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20241004BHJP
H02K 9/24 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H02K9/19 Z
H02K9/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058234
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】古澤 竜之介
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609BB01
5H609BB18
5H609PP09
5H609PP16
5H609QQ04
5H609QQ05
5H609QQ09
5H609RR01
5H609RR50
5H609RR52
5H609RR67
5H609SS17
5H609SS19
(57)【要約】
【課題】モータを冷却する冷媒の減少をできるだけ早く検出する。
【解決手段】ケーシング15内にステータコイル14及びロータ13を備えたモータ10と、モータ10やインバータ3の熱を除熱するために配置された冷却回路1と、冷却回路1を流通する冷媒を貯留するコンデンサタンク20と、ステータコイル14の温度を検出するサーミスタ17と、コンデンサタンク20内の冷媒の温度を検出する冷媒温度センサ30とを備え、サーミスタ17と冷媒温度センサ30との間は金属材料で接続されており、冷媒温度センサ30が冷媒の液面より下にある液中環境と冷媒の液面より上にある気中環境のそれぞれにおいて、サーミスタ17からの出力に対する冷媒温度センサ30の出力の予測領域Bおよび予測領域Aを用意し、サーミスタ17の昇温情報が出力されたときに、冷媒温度センサ30からの出力、液中環境での予測領域B及び気中環境での予測領域Aに基づいて冷媒の減少を認定する冷媒減少検出装置とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のケーシング内にステータコイル及びロータを備えたモータと、
前記モータの熱を除熱するために配置された冷却回路と、
前記冷却回路を流通する冷媒を貯留する金属製のコンデンサタンクと、
前記ステータコイルの温度を検出するサーミスタと、
前記コンデンサタンク内の冷媒の温度を検出する冷媒温度センサと、
を備え、
前記サーミスタと前記冷媒温度センサとの間は金属材料で接続されており、
前記冷媒温度センサが前記冷媒の液面より下にある液中環境と前記冷媒の液面より上にある気中環境のそれぞれにおいて、前記サーミスタからの出力に対する前記冷媒温度センサの出力の予測領域を用意し、
前記サーミスタの昇温情報が出力されたときに、前記冷媒温度センサからの出力、前記液中環境での前記予測領域及び前記気中環境での前記予測領域に基づいて前記冷媒の減少を認定する冷媒減少検出装置。
【請求項2】
前記サーミスタの昇温情報が出力されたときに、前記冷媒温度センサからの出力が、前記液中環境の予測領域に属さず且つ前記気中環境の予測領域に属する状況が所定時間以上継続したときに前記冷媒の減少を認定する請求項1に記載の冷媒減少検出装置。
【請求項3】
前記コンデンサタンクは、少なくとも入水口を備え、前記冷媒温度センサと前記入水口との間に、前記コンデンサタンクの内面から生える形でコンデンサタンクの内部の天面から前記冷媒温度センサの下端に至る壁部を備えている請求項1に記載の冷媒減少検出装置。
【請求項4】
前記コンデンサタンクは、前記冷媒温度センサよりも上方に吸気弁を備えている請求項1に記載の冷媒減少検出装置。
【請求項5】
前記ケーシングと前記コンデンサタンクとは一体に形成された部材で構成されている請求項1に記載の冷媒減少検出装置。
【請求項6】
前記冷媒温度センサは前記サーミスタの上方に位置している請求項5に記載の冷媒減少検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを冷却する冷媒の減少を検出する冷媒減少検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気自動車やハイブリッド車には、走行用の駆動力を供給するモータと、モータを駆動するための交流電力を制御するインバータとが搭載されている。モータとインバータには冷却回路が設けられており、冷却回路には、モータやインバータを冷やすための冷媒として液体(冷却水)が供給されている。以下、冷却回路内に流通する冷媒として冷却水を用いたモータを水冷式モータと称する。
【0003】
水冷式モータでは、冷却回路内を流通する冷却水がコンデンサタンク(リザーブタンク)に貯留されている。コンデンサタンクには、内部の圧力を所定の範囲の圧力にする圧力弁が設けられている。水冷式モータを長期に亘って使用していると、圧力弁の開弁時に発生する蒸発や、冷却回路の破損による漏れ等で、冷却水が著しく減少する場合がある。冷却水が著しく減少すると、ポンプが冷却水を吸い込む際に、空気をも吸い込む確率が上がり、冷却水に空気が混入し始めて実質流量が減少し、モータやインバータが過熱してしまうことや、使用するポンプの方式によっては、ポンプへの悪影響が懸念される。このような場合、構成部品保護のため、冷却水が減少していることを知らせる警告を出したり、モータ出力を抑制して加速や車速を制限したりして、モータやインバータの過熱を防止することとなるが、運転状態によっては構成部品の破損となり得ることも考えられる。特に、電動ウォータポンプ内で回転して水を循環させるインペラ(羽根車)の軸受において、冷却水を用いてインペラの回転を支える方式の軸受を使用している場合は、冷却水に空気が混入すると、電動ウォータポンプが備える軸受の異常摩耗、寿命の短縮につながるので、冷却水の減少をできるだけ早く検出することが求められる。
【0004】
特許文献1には、走行用のモータの電力供給状態、インバータの温度、及び、電動ウォータポンプの制御状態から算出される冷却水の温度上昇率に基づいて、コンデンサタンクに貯留する冷却水の残量を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の技術では、冷却水が減少した際に、冷却水の温度上昇をもとにその冷却水の減少を検出している。このため、冷却水が減少した後、実際に冷却水温度が上昇して冷却水の減少を発見するまでに、ある程度の時間が必要である。特許文献1の技術では、冷却水の温度上昇率に基づいて、コンデンサタンクに貯留する冷却水の残量を推定しているので、冷却水の減少の発見、及び、それに対応して行う制御の開始が遅れる可能性がある。
【0007】
そこで、この発明の課題は、モータを冷却する冷媒の減少をできるだけ早く検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明は、金属製のケーシング内にステータコイル及びロータを備えたモータと、前記モータの熱を除熱するために配置された冷却回路と、前記冷却回路を流通する冷媒を貯留する金属製のコンデンサタンクと、前記ステータコイルの温度を検出するサーミスタと、前記コンデンサタンク内の冷媒の温度を検出する冷媒温度センサと、を備え、前記サーミスタと前記冷媒温度センサとの間は金属材料で接続されており、前記冷媒温度センサが前記冷媒の液面より下にある液中環境と前記冷媒の液面より上にある気中環境のそれぞれにおいて、前記サーミスタからの出力に対する前記冷媒温度センサの出力の予測領域を用意し、前記サーミスタの昇温情報が出力されたときに、前記冷媒温度センサからの出力、前記液中環境での前記予測領域及び前記気中環境での前記予測領域に基づいて前記冷媒の減少を認定する冷媒減少検出装置を採用した(構成1)。
【0009】
構成1において、前記サーミスタの昇温情報が出力されたときに、前記冷媒温度センサからの出力が、前記液中環境の予測領域に属さず且つ前記気中環境の予測領域に属する状況が所定時間以上継続したときに前記冷媒の減少を認定する構成(構成2)を採用できる。
【0010】
また、構成1において、前記コンデンサタンクは、少なくとも入水口を備え、前記冷媒温度センサと前記入水口との間に、前記コンデンサタンクの内面から生える形で前記入水口からの前記冷媒が、直接冷媒温度センサにかからないように、コンデンサタンクの内部の天面から前記冷媒温度センサの下端に至る壁部を備えている構成(構成3)を採用できる。
【0011】
構成1において、前記コンデンサタンクは、前記冷媒温度センサよりも上方に吸気弁を備えている構成(構成4)を採用できる。
【0012】
さらに、構成1において、前記ケーシングと前記コンデンサタンクとは一体に形成された部材で構成されている構成(構成5)を採用できる。
【0013】
構成1に対して、構成2~5の中から選択される複数の要素を付加することもできる。すなわち、構成1に対して、構成2のみ、構成3のみ、構成4のみを付加した上記の各態様に加え、構成1に対して、構成2と3、構成2と4、構成2と5、構成2と3と4、構成2と3と5、構成2と4と5、構成2~5の全てを付加した各態様を採用できる。
【0014】
また、構成5を備えた各態様において、前記冷媒温度センサは前記サーミスタの上方に位置している構成(構成6)を採用できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、モータを冷却する冷媒の減少をいち早く検出できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】この発明の第1の実施形態に係るモータ及びコンデンサタンクを模式的に示す断面図
【
図4】サーミスタ出力、水温センサ出力推定(冷却水有り)及び水温センサ出力推定(冷却水無し)の各温度変化を示すグラフ図
【
図7】ステータコイル及びサーミスタと、コンデンサタンク及び水温センサとの位置関係を模式的に示す断面図
【
図8】この発明の第2の実施形態に係るモータ及びコンデンサタンクを模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施形態の冷媒減少検出装置を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、走行用の駆動源としてモータ(電動機)10を備えた電動車において、そのモータ10を冷却する冷媒(冷却水)の減少を検出する冷媒減少検出装置である。電動車としては、走行用のモータとエンジンを搭載したハイブリッド車や、走行用のモータを搭載しエンジンを搭載しないEV車が挙げられる。以下、この電動車を車両と称する。
【0018】
図1に装置の模式図を示す。モータ10には、バッテリ41からの直流電流が、インバータ3を介して交流電流に変換されて電力が供給される。また、モータ10によって生じた回生電力は、インバータ3を介してバッテリ41に充電される。
【0019】
第1の実施形態を
図1乃至
図3に示す。モータ10は、
図2に示すように、金属製のケーシング15内に、回転自在に支持されたモータ10の出力軸12を軸とするロータ13が設けられ、ロータ13の周囲には、ロータ13とは非接触の状態に配置される環状のステータコイル14を備えている。ステータコイル14はコイル14aとステータコイル鉄心14bを備え(
図7参照)、ケーシング15内に固定されている。インバータ3によってコイル14aへ供給される電流の方向を切り替えることで、ステータコイル14に生じる磁力の向きを制御し、ロータ13の軸である出力軸12を回転させて駆動力を生じさせる。
【0020】
モータ10は大電力を消費するため、インバータ3が備えるスイッチング素子に流れる電流が大きく、スイッチング素子の発熱量は大きい。また、モータ3のステータコイル14は、コイル14aへの通電により発熱する。このため、これらのモータ10及びインバータ3の温度を下げるために冷却回路1が設けられている。
【0021】
冷却回路1は、冷却ファン5を備えたラジエータ4、流通する冷却水を一時貯留するコンデンサタンク20、モータ10、電動ポンプ2、インバータ3を、環状に結ぶ冷媒通路6を備えている。冷媒通路6内に、冷媒として、冷却水を循環させることで、インバータ3のスイッチング素子等や、モータ10のステータコイル14等の熱を除熱する。冷却水としては、LLC(Long Life Coolant)を用いるのが一般的である。
【0022】
電動ポンプ2は、図示しない内蔵モータにより内部のインペラ(羽根車)を回転させて、その回転で生み出される圧力により内部の冷却水を圧送する。内蔵モータは、バッテリ41から供給される電力を利用して駆動されている。
【0023】
ラジエータ4は、冷却水が通過する流路を備えたコアを有する。冷却水は、コア内を流れる間にコアに接する外気と熱交換するが、通常、外気の温度はモータ等の発熱により温度が高くなった冷却水の温度よりも低いので、冷却水の温度は下がる。また、必要に応じて併設する電動の冷却ファン5を稼働させることで、コアに当たる風量を増やし、冷却の効果を高めることができる。
【0024】
モータ10による駆動力の制御や、この冷却回路1が備える電動ポンプ2、インバータ3、冷却ファン5等の各装置の制御は、この車両が備える電子制御ユニット(Electronic Control Unit)の制御部40が行う(
図1参照)。電子制御ユニットは、この車両が備える装置全般を制御している。また、制御部40は、車両が備える各種センサ類からの情報を取得し、その制御に用いている。
【0025】
コンデンサタンク20は、
図2及び
図3に示すように、内部に中空の貯留部を有する容器22で構成されている。コンデンサタンク20には、内部の冷却水の温度を検出する冷媒温度センサ30(水温センサ30と称する)が設けられている。水温センサ30は、感温素子31と、その感温素子31を覆う金属製のカバー32、さらにそのカバー32と一体の、水温センサ30を容器22に固定するためのネジ部を有する金属製のケース33を備えている。ケース33は、冷却水に直接触れる位置に固定され、感温素子31に冷却水の熱が伝導する。また、ケース33は、そのネジ部で、金属製の容器22に触れた状態で固定されている。
【0026】
容器22は水温センサ30よりも上方に開口部を備え、この開口部は着脱自在のキャップによって塞がれている。また、キャップには圧力弁のうち、少なくとも吸気弁21が備えられている。容器22の開口部を塞ぐようにキャップを取り付けた状態で、吸気弁21は通常は閉じている。容器22内の気圧が下がれば、吸気弁21が自動的に開いて外気を取り込み、圧力弁のうち、排気弁も併設する場合は、冷却回路1内部の圧力が高くなる場合に容器22内上部の空気を排気することで、冷却回路1内部の圧力を調整する。また、コンデンサタンク20には、容器22内に冷却水を送り込む入水口24が設けられている。
図3では、容器22に設けた表示窓25に、冷却水が下回ってはならない最低水位ライン(
図3では、Lowと表示)のみを示しているが、表示窓25には、冷却水が上回ってはならない最高水位ライン(Full)も設定されている。
【0027】
入水口24の最上部が水温センサ30の感温部(感温素子31)を覆う金属製のカバー32よりも上に位置する場合、水温センサ30と入水口24の間には、コンデンサタンク20の内面から生える(突出する)形で、コンデンサタンク20の内部の天面から水温センサ30の下端(感温素子31の下端)に至る壁部23が設けられている。すなわち、壁部23の下端23aは、少なくとも水温センサ30の感温素子31の下端と同じ高さに至っていることが必要で、望ましくは、水温センサ30の感温素子31を覆う金属製のカバー32の下端と同じ高さに至っているとよい。さらには、そのカバー32の下端よりもさらに所定距離(例えば、製造ばらつきや冷却水の流れのばらつきを見込んで5mm)低いことが望ましい。
【0028】
モータ10のステータコイル14には、そのステータコイル14(特にコイル14aの銅線)の温度を検出するサーミスタ17が設けられている。サーミスタ17は、熱を感知した際の抵抗値の変化を利用した温度センサである。一般にサーミスタ17は、サーミスタ17に介在する電気回路の抵抗値が大きいほど温度が低く、抵抗値が小さいほど温度は高いことから、その抵抗値に基づいて温度を検出することができる。前述の水温センサ30も、この機構を採用している。なお、冷却回路1に流通する冷却水は、
図2に示すように、ケーシング15内に設けられた冷媒ジャケット16内を通過するようになっている。
【0029】
この実施形態では、モータ10のケーシング15とコンデンサタンク20の容器22とは一体に形成された金属部材で構成されている。すなわち、ケーシング15と容器22とは連続する金属素材で構成され、容器22とケーシング15の外面11は外気(空気)に触れた状態である。このため、サーミスタ17と水温センサ30との間は、金属材料で接続された状態である。
【0030】
この発明では、サーミスタ17の出力と、水温センサ30の出力とを比較し、冷却水の
減少をいち早く検出することで、モータ10やインバータ3が異常な加熱に晒されることを防止する。
【0031】
コンデンサタンク20内の冷却水が減水すると、容器22内が減圧して吸気弁21から外気が入り込む。しかし、仮に、冷却水の減少量が著しく、液面が最低水位ラインよりも下方に設置された水温センサの感温素子31を覆う金属製のカバー32を下回るような減少の場合、水温センサ30の感温素子31を覆う金属製のカバー32の高さまで外気が侵入し、感温部の周囲が空気相となる場合が想定される。このとき、空気相の温度が冷却水の温度と大きく異なる場合、ただちに異常を検出できる可能性がある。しかし、空気相が冷却水の温度と同じような温度の場合は、水温センサ30の出力のみでは異常を検出できない。このため、水温センサ30の周囲の空気相の有無により、ステータコイル14から水温センサ30の感温部までの伝熱度合いに違いが生じることを活用し、その伝熱度合いの違いによって冷却水の減少を検出する。
【0032】
図4は、サーミスタ17の出力に対する水温センサ30の出力を比較するグラフである。符号pで示すように、サーミスタ17の温度が上昇すると、水温センサ30の温度も少し遅れて上昇を開始する。ここで、水温センサ30が冷却水の液面より下にある(液中環境と称する)場合の冷却水の温度変化を符号rに示す。また、水温センサ30が冷却水の液面より上にある(気中環境と称する)場合の冷却水の温度変化を符号qに示す。気中環境における符号qの温度上昇は、液中環境における符号rの温度上昇よりも明らかに大きい数値となっている。
【0033】
液中環境では、水温センサ30は、冷却水からの感温素子31を覆う金属製のカバー32及び金属製のケース33を介して生じる熱伝導の結果を出力する。このため、水温センサ30の出力は冷却水の温度に漸近する。しかし、気中環境となった場合、金属製のカバー32及び金属製のケース33と周囲の空気との間の熱伝達による影響よりも、金属製のカバー32及び金属製のケース33と触れた状態の、金属製の容器22(コンデンサタンク20)との熱伝導による影響の方が上回る。このため、金属性のカバー32および金属製のケース33、モータ10のステータコイル14(ステータコイル14を固定している金属製のケーシング15)との間を金属繋がりとすることで、ステータ14の発熱時の熱を水温センサ30にダイレクトに伝え、水温センサ30の周囲が空気であることを明確に検出する。
【0034】
ここで、冷却水の液面が最低水位ラインを下回っても、冷却回路1の目的であるモータ10やインバータ3の発熱に対する除熱機能はすぐには失われない。従来の技術では、冷却水がかなり減少し、除熱機能が低下してから減水を検出することとなってしまう。これに対して、この発明では、除熱機能が低下していない状態(冷却水の液面が最低水位ラインを少し下回った程度の状態)でもいち早く冷却水の減少を検出できるので、早期に適切な対策を行うことが可能である。このため、水温センサ30の感温部は、容器22の最低水位ラインのすぐ下に設定することが好ましい。
【0035】
ここで、想定される多くの温度条件、多くの冷却水の水量条件(水位条件)で、サーミスタ17の出力とその変化、及び水温センサ30の出力とその変化との関係を事前に測っておき、液中環境の場合の温度の過渡現象(温度変化)と、気中環境の場合の温度の過渡現象(温度変化)を推定できるようにしておく。温度の過渡現象の推定とは、サーミスタ17の温度が上昇した際に、水温センサ30の出力がどのように上昇していくかをモデル化することである。このモデル化した温度変化を予測領域と称する。具体的には、液中環境と気中環境のそれぞれにおいて、サーミスタ17からの出力に対する水温センサ30の出力の予測領域を用意する。予測領域は制御部40にて予測できるよう、必要なデータが制御部40に記憶されている。そして、サーミスタ17の昇温情報が出力されたときに、実際の水温センサ30からの出力と、液中環境での予測領域B、及び、気中環境での予測領域Aに基づいて冷却水の減少を認定する(検出する)。この認定も制御部40が行う。
【0036】
図5は、液中環境での予測領域Bと気中環境での予測領域Aの一例を示している。
【0037】
液中環境での予測領域Bは、実際に実験やシミュレーションで得られた水温センサ30の出力(水温センサ出力e/冷却水あり)に対して、上下に一定の幅の近似範囲を設けて設定されている。
図5では、この一定の幅を水温センサ出力eに対して±3度としているが、この幅の数値は自由に増減できる。また、プラス側の近似範囲の幅とマイナス側の近似範囲の幅を異ならせてもよい。すなわち、水温センサ出力eに対してプラス側の近似範囲を設定した予測領域Bの上限が、図中の水有り上限dである。水温センサ出力eに対してマイナス側の近似範囲を設定した予測領域Bの下限が、図中の水有り下限fである。
【0038】
気中環境での予測領域Aも、同じく、実際に実験やシミュレーションで得られた水温センサ30の出力(水温センサ出力b/冷却水なし)に対して、上下に一定の幅の近似範囲を設けて設定されている。近似範囲の幅については、予測領域Bの場合と同様に任意に設定できる。すなわち、水温センサ出力bに対してプラス側の近似範囲を設定した予測領域Aの上限が、図中の水無し上限aである。水温センサ出力bに対してマイナス側の近似範囲を設定した予測領域Aの下限が、図中の水無し下限cである。
【0039】
実際の水温センサ30の出力が、水中環境(水温センサ30の周囲に冷却水が有る場合)の予測領域Bには属さないが、気中環境(水温センサ30の周囲に冷却水が無い場合)の予測領域Aに属する場合に、冷却水が減少していると判断することができる。
【0040】
ここで、仮に、液中環境の予測領域Bに属さず、且つ、気中環境Aの予測領域に属すると判断された場合であっても、すぐには冷却水の減少を認定せず、少し時間をおいてその状態が継続していることを確認してから、冷却水の減少を認定すると、検出の精度がさらに向上する。すなわち、液中環境の予測領域Bに属さず、且つ、気中環境の予測領域Aに属する状況が所定時間t以上継続したときに前記冷媒の減少を認定する。この所定時間tは、仕様に応じて自由に増減できるが、例えば、10秒(10sec)、20秒(20sec)、30秒(10sec)・・・等とすることができる。
【0041】
冷却水の減少の認定に関する制御例を、
図6A及び
図6Bに示す。
図6Bは
図6Aの要部拡大図である。気中環境の予測領域A、及び、液中環境の予測領域Bは、
図5に準じている。実際の水温センサ30の出力を想定したものが、図中の符号gで示す出力想定例である。出力想定例gは、当初は液中環境の予測領域Bに入っているが、10分(10min)付近の位置xで液中環境の予測領域Bから離脱している。また、10分付近の位置x(時間x’)で、出力想定例gは気中環境の予測領域A内に継続して存在している。そして、出力想定例gが液中環境の予測領域Bに属さず、且つ、出力想定例gが気中環境の予測領域A内に属する状態が所定時間tだけ継続した位置y(時間y’)が、確実に冷却水が減少していると認定できるタイミングである。
【0042】
なお、位置y(時間y’)で冷却水の減少が認定された後の位置z(時間z’)にて、出力想定例gは気中環境の予測領域Aを離脱しているが、一旦、冷却水の減少が認定された後は、所定の対策を行うまでその認定はリセットされない。図中の符号e’は、液中環境の予測領域Bから離脱を示すフラグであり、符号b’は、気中環境の予測領域Aから離脱を示すフラグである。
【0043】
ここで、コンデンサタンク20に固定された水温センサ30と、モータ10のステータコイル14との距離が短いほど、ステータコイル14の熱を水温センサ30に円滑に伝えることができる。
【0044】
図7に、ステータコイル14及びサーミスタ17と、コンデンサタンク20及び水温センサ30との位置関係を示す。熱源であるステータコイル14のコイル14aと水温センサ30の感温素子31を覆う金属製のカバー32との間の距離は、図中に示すステータコイル14における、コイル14aからステータコイル鉄心14bの外側までの幅に相当する距離Lsと、モータ10のケーシング15とコンデンサタンク20の容器22の部材厚さに相当する距離Lh、水温センサ30のケース33の厚さに相当する距離Lwの和で求められる。これらの距離の和であるLs+Lh+Lwが、できる限り小さいことが望ましい。
【0045】
また、コンデンサタンク20の容器22に固定された水温センサ30と、モータ10のステータコイル14との間に存在する接触面の数が少ないほど、ステータコイル14の熱を水温センサ30に円滑に伝えることができる。このため、この実施形態のように、コンデンサタンク20の容器22と、モータ10のケーシング15とを一体の部材で構成することが、検出精度の向上に有効である。なお、一体の部材で構成する場合、コンデンサタンク20の上部に設ける圧力弁(少なくとも吸気弁21を備える)で空気を出し入れするには、圧力弁の外と内が空気であることが必要であるため、水温センサ30は、サーミスタ17の上方に位置することが必要となる。さらに、モータ10のケーシング15と容器22とを結ぶ熱伝達の最短経路上には、冷却水が流通する冷媒ジャケット16が介在しないように設定されていることが望ましい。
【0046】
第2の実施形態を
図8及び
図9に示す。第1の実施形態では、モータ10のケーシング15とコンデンサタンク20の容器22とは一体に形成された部材で構成されていたが、第2の実施形態ではこれを変更して、モータ10のケーシング15とコンデンサタンク20の容器22とを別々に成形された金属部材として、それらをボルト等で組み付けて一体化している。金属製のケーシング15と金属製の容器22とは、金属部材同士が直接接触するメタルタッチの構造となっている。ケーシング15と容器22との固定方法は、ボルト等のファスナーを用いる他、所定のブラケットで両者を緊締する手法等、種々の手法を採用できる。
【0047】
上記の各実施形態では、モータ10として、車両が走行するための駆動源として機能するものを想定したが、この実施形態には限定されず、例えば、発電機として機能する電動機(ジェネレータ)であってもよい。また、冷媒としては冷却水を用いるのが一般的であるが、冷却水に代えて潤滑油(オイル)やその他液体を冷媒として用いる場合も考えられる。
【符号の説明】
【0048】
1 冷却回路
2 電動ポンプ
3 インバータ
4 ラジエータ
5 冷却ファン
6 冷媒通路
10 モータ
13 ロータ
14 ステータコイル
15 ケーシング
17 サーミスタ
20 コンデンサタンク
21 吸気弁
22 容器
23 壁部
23a 壁部下端
24 入水口
25 表示窓
30 冷媒温度センサ(水温センサ)
31 感温素子
32 カバー
33 ケース
40 制御部