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特開2024-145773二酸化炭素電解セル及び二酸化炭素電解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145773
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解セル及び二酸化炭素電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/08 20060101AFI20241004BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20241004BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20241004BHJP
   C25B 9/73 20210101ALI20241004BHJP
【FI】
C25B15/08 302
C25B3/26
C25B9/23
C25B9/73
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058261
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】及川 博
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AC02
4K021AC04
4K021CA05
4K021CA08
4K021CA09
4K021DA04
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】原料の液供給型の二酸化炭素電解セルにおいて、原料をガス拡散層に強制的に侵入させ、還元の効率を向上させた二酸化炭素電解セルを提供することである。
【解決手段】本発明の二酸化炭素電解セル10は、原料の液供給型の二酸化炭素電解セルであって、カソード側液流路を有するカソード部20と、アノード側液流路を有するアノード部30と、カソード部20とアノード部30との間に配置する隔膜40とを備え、カソード部20は、カソード21と、カソード21との間にカソード側液流路22を形成するカソード側液流路形成部材24とを有し、アノード部30は、アノード31と、アノード31との間にアノード側液流路32を形成するアノード側液流路形成部材34とを有し、カソード側液流路形成部材24は、カソード側液流路22を流れるカソード側液の流れを妨げる流れ阻止凸部を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の液供給型の二酸化炭素電解セルであって、
カソード側液流路を有するカソード部と、アノード側液流路を有するアノード部と、前記カソード部と前記アノード部との間に配置する隔膜とを備え、
前記カソード部は、ガス拡散層とカソード触媒層とを含むカソードと、前記カソードとの間にカソード側液流路を形成するカソード側液流路形成部材とを有し、
前記アノード部は、アノードと、前記アノードとの間にアノード側液流路を形成するアノード側液流路形成部材とを有し、
前記カソード側液流路形成部材は、前記カソード側液流路を流れるカソード側液の流れを妨げるように、前記カソード側液流路の側に突出し、かつ前記カソード側液の流れ方向に対して交差する方向に延在する流れ阻止凸部を有する、二酸化炭素電解セル。
【請求項2】
前記カソード側液流路形成部材は、前記流れ阻止凸部の手前の上流側に、前記突出の方向と逆方向に突出する凹部を有する、請求項1に記載の二酸化炭素電解セル。
【請求項3】
前記アノードは、ガス拡散層とアノード触媒層とを含み、前記アノード側液流路形成部材、前記アノード側液流路を流れるアノード側液の流れを妨げるように、前記アノード側液流路の側に突出し、かつ前記アノード側液の流れ方向に対して交差する方向に延在する流れ阻止凸部を有する、請求項1に記載の二酸化炭素電解セル。
【請求項4】
前記アノード側液流路形成部材は、前記流れ阻止凸部の手前の上流側に、前記突出の方向と逆方向に突出する凹部を有する、請求項1に記載の二酸化炭素電解セル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解セルと、第1給電体と、第2給電体と、電源装置とを備える、二酸化炭素電解装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解セルを複数備え、さらに第1給電体と、第2給電体と、電源装置とを備える、二酸化炭素電解装置。
【請求項7】
前記複数の二酸化炭素電解セルのうち、1つの二酸化炭素電解セルが備えるカソード側液流路形成部材と、前記1つの二酸化炭素電解セルと隣接する二酸化炭素電解セルが備えるアノード側液流路形成部材が共通する部材であり、前記共通する部材のおもて側と裏側でそれぞれ、液流路を形成している、請求項6に記載の二酸化炭素電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素電解セル及び二酸化炭素電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガスや大気中の二酸化炭素を電気化学的に還元して有価物を得る技術は、カーボンニュートラルを達成する可能性のある有望な技術であるが、経済性が最大の課題である。経済性を改善するためには、できるだけ損失を低減し、高いエネルギー効率で二酸化炭素を電解することが重要である。
【0003】
二酸化炭素を電気化学的に還元する技術としては、ガス拡散層の電解液と接する側に二酸化炭素還元触媒を用いて触媒層を形成したカソードに対し、ガス拡散層の触媒層とは反対側から二酸化炭素ガスを供給して電気化学的に還元する技術が知られている(特許文献1)。
また、二酸化炭素を電気化学的に還元する技術として、カソードに二酸化炭素を供給するためのガス供給流路を備え、原料である二酸化炭素をガスで供給して電気化学的に還元する技術が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/232515号
【特許文献2】特開2022-141239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二酸化炭素を電気化学的に還元する技術として、原料である二酸化炭素がイオン状態(CO 3-)で含まれる電解液をカソードに供給する、原料の液供給型の二酸化炭素電解が考えられる。原料の液供給型の二酸化炭素電解セルにおいては、電解液が流れる流路構造が原料の反応場への供給に対して大きく影響する。圧力損失が少ない流路構造である場合、原料がガス拡散層に侵入せずにそのまま通過して未反応のままセルを出ていき、還元の効率が十分に高くないと考えられる。また、この場合、反応場に原料が供給されないことに起因して二酸化炭素の電解が起きづらく副生物発生が優位になることが懸念される。
【0006】
本発明は、原料の液供給型の二酸化炭素電解セルにおいて、原料をガス拡散層に強制的に侵入させ、還元の効率を向上させた二酸化炭素電解セル及び二酸化炭素電解装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を採用した。
本発明の態様1は、原料の液供給型の二酸化炭素電解セルであって、カソード側液流路を有するカソード部と、アノード側液流路を有するアノード部と、前記カソード部と前記アノード部との間に配置する隔膜とを備え、前記カソード部は、ガス拡散層とカソード触媒層とを含むカソードと、前記カソードとの間にカソード側液流路を形成するカソード側液流路形成部材とを有し、前記アノード部は、アノードと、前記アノードとの間にアノード側液流路を形成するアノード側液流路形成部材とを有し、前記カソード側液流路形成部材は、前記カソード側液流路を流れるカソード側液の流れを妨げるように、前記カソード側液流路側に突出し、かつ前記カソード側液の流れ方向に対して交差する方向に延在する流れ阻止凸部を有する、二酸化炭素電解セルである。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の二酸化炭素電解セルにおいて、前記カソード側液流路形成部材は、前記流れ阻止凸部の手前の上流側に、前記突出の方向と逆方向に突出する凹部を有する。
【0009】
本発明の態様3は、態様1又は態様2の二酸化炭素電解セルにおいて、前記アノードは、ガス拡散層とアノード触媒層とを含み、前記アノード側液流路形成部材、前記アノード側液流路を流れるアノード側液の流れを妨げるように、前記アノード側液流路側に突出し、かつ前記アノード側液の流れ方向に対して交差する方向に延在する流れ阻止凸部を有する。
【0010】
本発明の態様4は、態様3の二酸化炭素電解セルにおいて、前記側液流路形成部材は、前記流れ阻止凸部の手前の上流側に、前記突出の方向と逆方向に突出する凹部を有する。
【0011】
本発明の態様5は、態様1~態様4のいずれか一つの二酸化炭素電解セルと、第1給電体と、第2給電体と、電源装置とを備える、二酸化炭素電解装置である。
【0012】
本発明の態様6は、態様1~態様4のいずれか一つの二酸化炭素電解セルを複数備え、さらに第1給電体と、第2給電体と、電源装置とを備える、二酸化炭素電解装置である。
【0013】
本発明の態様7は、態様3の二酸化炭素電解装置において、前記複数の二酸化炭素電解セルのうち、1つの二酸化炭素電解セルが備えるカソード側液流路形成部材と、前記1つの二酸化炭素電解セルと隣接する二酸化炭素電解セルが備えるアノード側液流路形成部材が共通する部材であり、前記共通する部材のおもて側と裏側でそれぞれ、液流路を形成している。
【発明の効果】
【0014】
態様1~態様7によれば、原料の液供給型の二酸化炭素電解セルにおいて、原料をガス拡散層に強制的に侵入させ、還元の効率を向上させた二酸化炭素電解セル及び二酸化炭素電解装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る二酸化炭素電解セルの断面模式図である。
図2図1に示した二酸化炭素電解セルのカソード側液流路形成部材をカソード側から見た平面模式図である。
図3】流れ阻止凸部の作用を説明するための概念図であり、(a)は流れ阻止凸部を備えるカソード側液流路形成部材の図であり、(b)流れ阻止凸部を備えないカソード側液流路形成部材の図である。
図4図2で示したカソード側液流路形成部材の一部をX-X’線で切った断面を模式的に示す図である。
図5図1に示した二酸化炭素電解セルのアノード側液流路形成部材をアノード側から見た平面模式図である。
図6】カソード側液流路形成部材の他の例の模式図であり、(a)は波型流路構造を平面模式図であり、(b)は(a)で示した波型流路構造を有するカソード側液流路形成部材において流れ阻止凸部を備える場合の平面模式図であり、(c)は一条の波型部の一部の断面模式図である。
図7図6(b)で示した流れ阻止凸部及び拡厚凹部の近傍について、溶液の流れ方向Fに沿って切った断面模式図である。
図8】実施形態に係る二酸化炭素電解セルの単セルを備えた二酸化炭素電解装置の断面模式図である。
図9】実施形態に係る二酸化炭素電解セルを複数備えた二酸化炭素電解装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
図1は、実施形態に係る二酸化炭素電解セルの断面模式図である。
図1に示す二酸化炭素電解セル10は、原料の液供給型の二酸化炭素電解セルであって、カソード側液流路を有するカソード部20と、アノード側液流路を有するアノード部30と、カソード部20とアノード部30との間に配置する隔膜40とを備える。
【0018】
カソード部20は、カソード21と、カソード21との間にカソード側液流路22を形成するカソード側液流路形成部材24とを有する。
【0019】
カソード21は、二酸化炭素(CO)を還元して炭素化合物を生成し、また水を還元して水素を生成する電極(還元電極)である。二酸化炭素の還元反応によって生成する炭素化合物としては、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、エチレングリコール(C)等がある。
例えば、以下の反応で、ガス状生成物として一酸化炭素及びエチレンが生成する。カソード21では以下の反応で水素も生成する。
CO+HO→CO+2OH
2CO+8HO→C+8OH+2H
2HO→H+2OH
【0020】
カソード21は例えば、ガス拡散層21Aとカソード触媒層21Bとを有する。カソード触媒層は、一部がガス拡散層中に入り込んでいてもよい。ガス拡散層とカソード触媒層の間には、ガス拡散層よりも緻密な多孔質層を配置してもよい。
【0021】
カソード触媒層を形成するカソード触媒としては、二酸化炭素の還元を促進する公知の触媒を使用できる。カソード触媒の具体例としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、チタン、カドミウム、亜鉛、インジウム、ガリウム、鉛、錫等の金属、それらの合金や金属間化合物、ルテニウム錯体、レニウム錯体等の金属錯体を例示できる。なかでも、二酸化炭素の還元が促進される点から、銅、銀が好ましく、銅がより好ましい。カソード触媒としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
カソード触媒としては、金属粒子が炭素材料(カーボン粒子、カーボンナノチューブ、グラフェン等)に担持された担持触媒を用いてもよい。
【0022】
カソード21のガス拡散層としては、特に限定されず、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロスを例示できる。
カソード21の製造方法は、特に限定されず、例えば、ガス拡散層のカソード側液流路形成部材24とは反対の面に、カソード触媒を含む液状組成物を塗布して乾燥する方法を例示できる。
【0023】
COの還元反応は、カソード21のガス拡散層とカソード触媒層(あるいはカソード触媒)との境界近傍で生ずると考えられる。
【0024】
アノード部30は、アノード31と、アノード31との間にアノード側液流路32を形成するアノード側液流路形成部材34とを有する。
【0025】
アノード31は、水酸化物イオンを酸化して酸素を生成するための電極である。アノード31は例えば、ガス拡散層とカソード触媒層とを有する。
【0026】
アノード触媒層を形成するアノード触媒としては、特に限定されず、公知のアノード触媒を使用できる。具体的には、例えば、白金、パラジウム、ニッケル等の金属、それらの合金や金属間化合物、酸化マンガン、酸化イリジウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ルテニウム、酸化リチウム、酸化ランタン等の金属酸化物、ルテニウム錯体、レニウム錯体等の金属錯体を例示できる。アノード触媒としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
アノード31のガス拡散層としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロスを例示できる。また、ガス拡散層としては、メッシュ材、パンチング材、多孔体、金属繊維焼結体等の多孔質体を用いてもよい。多孔質体の材質としては、例えば、チタン、ニッケル、鉄等の金属、これらの合金(例えばSUS)を例示できる。
【0028】
隔膜40は、アノード部とカソード部との間でイオンを移動させることができ、かつアノード部とカソード部とを分離することが可能な公知のセパレータを用いることができる。代表的なものとしては、アニオン交換膜、カチオン交換膜、プロトン交換膜、バイポーラ膜などのイオン交換膜が挙げられる。また、イオン交換膜以外にもアノード部とカソード部との間でイオンを移動させることが可能な材料であれば、各種多孔質膜などのセパレータを適用してもよい。
【0029】
隔膜40の厚さは、0.03~0.5mmが好ましく、0.05~0.1mmがより好ましい。隔膜40の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、機械的強度及び耐久性が得られる。隔膜40の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、イオン移動抵抗が低く抑えられる。
【0030】
図2は、図1に示した二酸化炭素電解セル10のカソード側液流路形成部材24をカソード側から見た図である。カソード側液流路形成部材としては、公知の任意の流路構造パターンを形成するものを用いることができる。図2は、その一例であり、流路が平行に並ぶパラレルパターンの流路構造を形成可能とするカソード側液流路形成部材である。後で他の例も示す。
【0031】
図2に示すように、カソード側液流路形成部材24のカソード部21側の面には6本の直線状の溝24aが互いに平行して形成されている。各々の溝24aにおけるカソード側液流路形成部材24とカソード部21に囲まれた部分がカソード側液流路22となっている。各々のカソード側液流路22の長さ方向の一方の側には、二酸化炭素がイオン状態(CO 3-)で流れる電解液を各々のカソード側液流路22に分配する入口側流路22aが形成されている。各々のカソード側液流路22の長さ方向の他方の側には、カソード部21での還元反応によって生成する生成物を各々のカソード側液流路22から集約して排出する出口側流路22bが形成されている。
【0032】
二酸化炭素電解セル10が有するカソード側液流路22の数は、6本には限定されず、二酸化炭素電解セル10の寸法等に応じて適宜設定でき、例えば、5~1000本とすることができる。
【0033】
図2に示すカソード側液流路形成部材24は、カソード側液流路22を流れるカソード側液の流れを妨げる(阻止する)ように、カソード側液流路22に突出し、かつカソード側液の流れ方向D1に対して交差する方向に延在する流れ阻止凸部24Aを有する。
【0034】
図3は、流れ阻止凸部24Aの作用を説明するための概念図である。図3(a)は、流路に流れを阻止する行き止まり(壁)を備える場合を概念的に示す図であり、図3(b)は、流れを阻止する行き止まり(壁)を備えない通常の流路を概念的に示す図である。図4は、図2で示したカソード側液流路形成部材24の一部をX-X’線で切った断面を模式的に示す図である。
【0035】
原料の液供給型の二酸化炭素電解セルにおいて、流路構造は原料の反応場への供給に対し影響があるという点で非常に重要である。圧力損失が少ない流路構造の場合、原料がそのまま通過をして未反応のまま電解セルを出ていくことと、反応場での反応後、流体滞留のため、狙いの反応が起きづらく副生物発生が優位になることが懸念される。そこで、本実施形態に係る二酸化炭素電解セルでは、流路を実質的に袋小路にすることで強制的に原料がガス拡散層を通り、触媒に接触する状況あるいは触媒層を通過する状況を作り出すために、カソード側液流路形成部材24が流れ阻止凸部24Aを備える構造としたものである。この構造によって、二酸化炭素の還元反応の選択率が上がる。
【0036】
図3(b)に示すように電解液の流れを阻止する壁がない場合、電解液中のイオン状態の二酸化炭素(炭酸イオン)はガス拡散層を通らずに流れやすい。これに対して、図3(a)に示すように電解液の流れを阻止する壁がある場合、イオン状態の二酸化炭素(炭酸イオン)を含む電解液は壁によって流れを阻止されるため、強制的にガス拡散層を通るため、二酸化炭素は還元されやすい。
【0037】
図4は、図2に示した流れ阻止凸部24Aの具体的な構造の一例を示す断面模式図である。
図4に示す流れ阻止凸部24Aは例えば、金属からなるカソード側液流路形成部材24を金属プレス加工することによって作製することができる。この場合、金属プレスで押されていない部分が流路として機能する。この場合、金属プレス加工によって流れ阻止凸部を有するカソード側液流路形成部材を作製できるため、量産に適している。
【0038】
図4に示す流れ阻止凸部24Aを備えたカソード側液流路22では、矢印の方向に流れてきた電解液(カソード側液)は、流れ方向に交差する方向に延在する流れ阻止凸部24Aによって流れが阻止される。流路が実質的に袋小路になっていれば、電解液はカソード21のガス拡散層を通り、二酸化炭素が還元されやすくなる。
図2に示した流れ阻止凸部24Aは流れ方向に直交する方向に延在する例を示したが、流れ阻止凸部24Aが延在する方向は流れ方向に直交する方向に限らず、流れ方向に対して交差する方向であって、圧力損失が高くして流路を実質的に袋小路にする方向であればよい。
【0039】
図5は、図1に示した二酸化炭素電解セル10のアノード側液流路形成部材34をアノードから見た図である。
図5に示すように、アノード側液流路形成部材34のアノード31側の面には6本の直線状の溝34aが互いに平行して形成されている。各々の溝34aにおけるアノード側液流路形成部材34とアノード31に囲まれた部分がアノード側液流路32となっている。各々のアノード側液流路32の長さ方向の一方の側には、少なくとも水(HO)を含む溶液を各々のアノード側液流路32に分配する入口側流路32aが形成されている。各々のアノード側液流路32の長さ方向の他方の側には、アノード31での酸化反応によって生成する生成物を各々のアノード側液流路32から集約して排出する出口側流路32bが形成されている。
【0040】
二酸化炭素電解セル10が有するアノード側液流路32の数は、6本には限定されず、二酸化炭素電解セル10の寸法等に応じて適宜設定でき、例えば、5~1000本とすることができる。
【0041】
図5に示すように、アノード側液流路形成部材34についても、カソード側液流路形成部材24と同様に、流れ阻止凸部34Aを備える構成とすることができる。
【0042】
図6を用いて、カソード側液流路形成部材の他の例を説明する。図6(a)~図6(c)において、本実施形態に係る二酸化炭素電解セルが備えるカソード側液流路形成部材は図6(b)であり、図6(a)及び図6(c)は図6(b)に示すカソード側液流路形成部材を説明するための図である。
上述した通り、カソード側液流路形成部材としては、公知の任意の流路構造パターンを形成可能とする部材を用いることができるが、金属プレスによって作製することができるものは量産に適しており、望ましい。
【0043】
金属プレスによって作製可能なカソード側液流路形成部材の材料としては、金属製の薄板例えば、耐食性と導電性を有する金属としてステンレス鋼、チタン、チタン合金などの薄板を用いることができる。例えば、金めっきなどの防食処理を施した金属薄板を用いることもできる。
【0044】
図6(a)は、カソード側液流路形成部材の一部の平面模式図である。
図6(a)に示すカソード側液流路形成部材は、いわゆる波型(Wave)流路を形成可能とする部材であり、金属プレスによって作製可能である。
図6(a)に示すカソード側液流路形成部材124は、上方(+Z)から視て凸部(山部)124aと凹部(谷部)124bが交互に形成され、X方向に延在する一条の波型部が複数条(124-1、124-2、124-3、124-4、・・・)並列に配置されたものであって、複数条の波型部(124-1、124-2、124-3、124-4、・・・)は、溶液が流れる方向Fに対して交互に逆向きに傾斜している。
【0045】
図6(c)は、一条の波型部の一部の断面模式図である。
図6(c)に示すように、カソード側液流路形成部材124は、プレス時に押されていない平面部分(基準面)124cに対して、凸部124aはプレス時に押された凸部分であり、また、凹部124bはプレス時に押された凹部分である。
【0046】
図6(b)は、カソード側液流路形成部材の一部の平面模式図である。
図6(b)に示すカソード側液流路形成部材24-1は、流れ阻止凸部24Aを備え、さらに溶液の流れ方向Fにおいて、流れ阻止凸部24Aの手前の上流側に、流れ阻止凸部24Aの突出の方向と逆方向に突出する拡厚凹部と24Bを備える。拡厚凹部と24Bを備えることによって、強制的に電解液をガス拡散層に通す作用が大きくなる。
【0047】
図7は、流れ阻止凸部24A及び拡厚凹部24Bの近傍について、溶液の流れ方向Fに沿って切った断面模式図である。
流れ阻止凸部24Aと拡厚凹部と24Bとは180°回転したときに対称になる同様な形状とすることができる。
後述するように、カソード側液流路形成部材を、流れ阻止凸部と拡厚凹部を有する構造とすると、本実施形態に係る二酸化炭素電解セルを複数個積層した二酸化炭素電解セルスタックを作製する際に、一つの二酸化炭素電解セルのカソード側液流路形成部材の裏側を、隣接する二酸化炭素電解セルのアノード側液流路形成部材として用いることができる。すなわち、1個の液流路形成部材のおもて側と裏側とを隣接する二酸化炭素電解セル同士のカソード側液流路形成部材及びアノード側液流路形成部材として用いることができる。
【0048】
図8は、二酸化炭素電解セル10を備えた二酸化炭素電解装置100の断面模式図である。
図8に示す二酸化炭素電解装置100は、二酸化炭素電解セル10と、第1給電体51と、第2給電体52と、電源装置60とを備え、図示しない一対の支持板で挟み込まれ、さらにボルト等で締め付けられている。
【0049】
第1給電体51及び第2給電体52の材質としては例えば、銅、金、チタン、SUS等の金属、カーボンを例示できる。第1給電体51及び第2給電体52としては、銅基材の表面に金メッキ等のメッキ処理を施したものを使用してもよい。
カソード側液流路形成部材24とアノード側液流路形成部材34は導体であり、電源装置60からカソード21とアノード31の間に電圧が印加される。
電源60は、通常の系統電源や電池等に限られるものではなく、太陽電池、風力発電、地熱発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給する電力源であってもよい。
【0050】
図9は、複数の二酸化炭素電解セル10を備えた二酸化炭素電解装置200の断面模式図である。
図9に示す二酸化炭素電解装置200は、複数(N個)の二酸化炭素電解セル10と、複数の二酸化炭素電解セル10を挟むように配置する第1給電体151及び第2給電体152と、電源装置60とを備える。
図9に示す二酸化炭素電解装置200はさらに、第1給電体151及び第2給電体152の外側に、絶縁板71、72を介して支持板81、82を備え、図示しないボルト等で締め付けられている。
【0051】
図9に示す例では、隣接する二酸化炭素電解セル10のカソード側液流路形成部材24とアノード側液流路形成部材34とは共通の部材のおもて側と裏側である。
N個の二酸化炭素電解セル10はそれぞれ、第1給電体151側から順に、二酸化炭素電解セル10-1、二酸化炭素電解セル10-2、・・・二酸化炭素電解セル10-(N-1)、二酸化炭素電解セル10-Nである。二酸化炭素電解セル10-1が備えるアノード側液流路形成部材34と二酸化炭素電解セル10-2が備えるカソード側液流路形成部材24とは共通する部材のおもて側と裏側でそれぞれ、液流路を形成している。
【符号の説明】
【0052】
10…二酸化炭素電解セル、20…カソード部、21…カソード、22…カソード側液供給流路、24、24-1…カソード側液流路形成部材、24A…流れ阻止凸部、24B…拡厚凹部、30…アノード部、31…アノード、32…アノード側液供給流路、34…アノード側液流路形成部材、34A…流れ阻止凸部、40…隔膜、100、200…二酸化炭素電解装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9