(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145775
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム照射システム
(51)【国際特許分類】
G21K 5/04 20060101AFI20241004BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20241004BHJP
G21K 1/093 20060101ALI20241004BHJP
G21K 5/10 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G21K5/04 A
A61N5/10 H
G21K1/093 D
G21K1/093 S
G21K5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058267
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】金井 芳治
(72)【発明者】
【氏名】和智 良裕
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC05
4C082AC06
4C082AE02
4C082AG12
4C082AG60
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビームを照射する装置において、駆動機構の大型化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム照射システムは、荷電粒子ビームを偏向する走査電磁石を含み、走査電磁石が偏向した荷電粒子ビームを照射する照射部と、湾曲面に沿って照射部を移動させる第1駆動機構と、照射部の湾曲面に沿った移動を補助するように、照射部に張力を加える第2駆動機構と、を備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを偏向する走査電磁石を含み、前記走査電磁石が偏向した荷電粒子ビームを照射する照射部と、
湾曲面に沿って前記照射部を移動させる第1駆動機構と、
前記照射部の前記湾曲面に沿った移動を補助するように、前記照射部に張力を加える第2駆動機構と、を備える、
荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記照射部は、前記走査電磁石が偏向した荷電粒子ビームを照射する照射ノズルと、前記照射ノズルを収容する収容部と、をさらに含み、
前記第1駆動機構は、前記収容部に接続されており、
前記第2駆動機構は、前記収容部に張力を加えるように構成されている、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
前記第1駆動機構は、前記照射部に配置された第1モータと、前記湾曲面に沿って配置された移動ガイド部と、前記移動ガイド部と係合する係合部と、前記湾曲面に沿って配置された位置情報部と、前記位置情報部から位置情報を取得する取得部と、を有し、
前記係合部は、前記第1モータに固定され、前記第1モータの駆動に応じて回転し、その回転に応じて前記移動ガイド部に沿って移動するように構成されており、
前記照射部の位置は、前記取得部が取得した前記位置情報に基づき測定される、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記第2駆動機構は、前記照射部に張力を加えるように配置された牽引部材と、前記牽引部材を牽引する牽引装置と、前記牽引部材をガイドするように前記湾曲面に沿って配置された牽引ガイド部と、前記牽引装置が前記牽引部材から受ける荷重を測定する荷重測定部と、を有し、
前記牽引装置は、第2モータを有し、前記第2モータの駆動に応じて前記牽引部材を牽引する、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の駆動を制御する駆動制御装置をさらに備え、
前記第1駆動機構は、前記照射部を前記湾曲面に沿って目標位置に移動させるものであり、
前記駆動制御装置は、前記目標位置を設定し、前記第2駆動機構が前記照射部に加える張力を制御する、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
所定の方向に荷電粒子ビームを出射する固定ポートをさらに備え、
前記走査電磁石は、前記固定ポートから出射された荷電粒子ビームを偏向するように配置されている、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
回転軸を中心に回転するように構成されており、荷電粒子ビームを出射する回転ポートをさらに備え、
前記走査電磁石は、前記回転ポートから出射された荷電粒子ビームを偏向するように配置されている、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
荷電粒子ビームを偏向して、荷電粒子ビームの進行方向をアイソセンタに向かう方向に変えるように構成された収束電磁石をさらに備え、
前記走査電磁石は、前記収束電磁石によって偏向された荷電粒子ビームをさらに偏向するように配置されている、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項9】
前記照射部から出射される荷電粒子ビームの標的となる患者が座る座位面を有する治療台と、
前記治療台を治療室に固定する固定部と、
前記座位面を平行移動および/または回転移動させ、前記座位面の姿勢を調整する姿勢調整部と、をさらに備え、
前記収束電磁石および前記照射部は、回転軸を中心に一体的に回転するように構成されている、
請求項8に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
前記照射部が標的に前記荷電粒子ビームを照射する前または照射する間に、前記標的の画像情報を生成するように構成された画像撮影装置をさらに備える、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療では、荷電粒子ビーム自身が持つエネルギーに応じた深さで局所的に線量が付与される。このため、荷電粒子ビームの経路上に存在する正常組織への被曝は、X線治療より低減される。
【0003】
また、粒子線治療では、局所的に線量を付与する位置を変えながら、3次元的に病巣を照射するスキャニング照射方法が利用されている。スキャニング照射では、異なる2方向の磁場を発生させて荷電粒子を偏向させる走査電磁石を用いて、2次元的に荷電粒子ビームを走査し、加速器から取り出される荷電粒子のエネルギーを変える、あるいは、飛程損失を起こすエネルギー吸収体を荷電粒子ビームの経路上に挿入することによって、走査深さを変更して3次元的に荷電粒子ビームを照射する。
【0004】
照射野を形成する装置として、走査電磁石の他に、荷電粒子ビームを精鋭化するコリメータ、飛程調整のレンジシフタなどのエネルギー吸収体、照射野形成したビームが正しい位置に正しい量照射されているかを監視するモニタ(位置モニタおよび線量モニタ)などが挙げられる。これら装置は、荷電粒子ビームをアイソセンタに照射する照射ノズルに内包され得る。
【0005】
粒子線治療では、体表から照射の標的となる病巣までの間に存在する正常組織への被曝を低減させるために、多方向から荷電粒子ビームが照射される。主流の方法としては、走査電磁石を含むビームを調整する機構ごと回転躯体に搭載し、躯体を回転することで360度の照射が可能である回転ガントリが挙げられる。
【0006】
回転ガントリについて、照射ノズルを湾曲面に沿って精度良く駆動させる機構として、特許文献1に記載されているカウンターウェイトが提案されている。一方、特許文献2および特許文献3では、回転しないガントリによる多方向照射を実現するために、照射角度に応じて移動する照射ノズルが提案されている。
【0007】
照射ノズルに収容される走査電磁石は、2次元的に荷電粒子ビームを走査するため、2台の偏向電磁石で構成される。これらの偏向電磁石を直列に並べると、照射ノズル部が大型化する。特許文献4には、2台の偏向電磁石を並列に並べて、照射ノズル部を照射中心から近い位置に集約することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6158334号
【特許文献2】特許6387476号
【特許文献3】特許6775860号
【特許文献4】特許6613466号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~4において、走査電磁石のような重量物を精度良く駆動させる駆動機構を大型化せずに、装置全体を小型に維持できる方法は開示されていない。例えば、特許文献4では、照射ノズルを構成する装置において、走査電磁石の重量が大きく、照射ノズルを駆動させるには、その駆動装置が大型化する。
【0010】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、荷電粒子ビームを照射する装置において、駆動機構の大型化を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様の荷電粒子ビーム照射システムは、荷電粒子ビームを偏向する走査電磁石を含み、走査電磁石が偏向した荷電粒子ビームを照射する照射部と、湾曲面に沿って照射部を移動させる第1駆動機構と、照射部の湾曲面に沿った移動を補助するように、照射部に張力を加える第2駆動機構と、を備える。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、荷電粒子ビームを照射する装置において、駆動機構の大型化を抑制する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射システムのブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係るビーム照射装置および駆動機構の概略的な模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る照射部が配置された治療室の模式図である。
【
図4】照射角度に応じた駆動機構の荷重変化の一例を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係る第1駆動機構を説明するための模式図である。
【
図6】第1実施形態に係る第1駆動機構を説明するための模式図である。
【
図7】第1実施形態に係る第2駆動機構を説明するための模式図である。
【
図8】
図8(a)は、第1実施形態に係る収容部(台車)を示す図であり、
図8(b)は、台車に照射ノズルを収容した様態を示す図である。
【
図9】駆動機構へ取り付けた台車の一例を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、照射部を荷電粒子ビームの出射側から見た図であり、
図10(b)は、照射部を側面側から見た図であり、
図10(c)は、照射部を天井面側から見た図である。
【
図11】荷電粒子ビーム照射システムの動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】第2実施形態に係るビーム照射装置を説明するための模式図である。
【
図13】第3実施形態に係るビーム照射装置を示す模式図である。
【
図14】第3実施形態に係るビーム照射装置による照射の仕組みを説明するための図である。
【
図15】第4実施形態に係るビーム照射装置を示す模式図である。
【
図16】第5実施形態に係る照射システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム照射システム(以下、単に「照射システム」とも称する。)1のブロック図である。本実施形態に係る照射システム1は、ビーム照射装置10、駆動機構20、治療制御装置40および駆動制御装置42を備える。
【0017】
ビーム照射装置10は、荷電粒子ビームを生成し、その荷電粒子ビームを照射する。ビーム照射装置10の構成は、
図2を参照して後述する。
【0018】
駆動機構20は、ビーム照射装置10が備える、荷電粒子ビームを照射する照射部(詳細は後述する。)が湾曲面に沿って移動できるように構成されている。駆動機構20は、それぞれ機能が異なる第1駆動機構22および第2駆動機構24を有する。駆動機構20の構成の詳細は、
図5~
図7を参照して後述する。
【0019】
治療制御装置40は、ビーム照射装置10の動作を制御する。駆動制御装置42は、駆動機構20の第1駆動機構22および第2駆動機構24の駆動を制御する。治療制御装置40および駆動制御装置42のそれぞれは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、各種の通信装置および各種の入出力装置などを備えてよい。なお、
図1では、治療制御装置40および駆動制御装置42が別体であるものとして示されているが、これらの装置は一体的に設けられてよい。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態に係るビーム照射装置10および駆動機構20の概略的な模式図である。ビーム照射装置10は、主として、加速器11、荷電粒子ビーム輸送系12および照射部14を備える。
図2では、水平方向をX軸、X軸方向に垂直である鉛直方向をZ軸、X軸およびZ軸に垂直な方向をY軸で示している。
【0021】
加速器11は、荷電粒子ビームを加速する装置であり、例えばシンクロトロン、サイクロトロンまたは線形加速器などである。本実施形態に係る加速器11は、イオン源(図示しない。)で生成された荷電粒子(すなわちイオン)が入射し、その荷電粒子を加速する。加速器11で加速された荷電粒子ビームは、荷電粒子ビーム輸送系12を通じて、照射部14に導かれる。ここで、荷電粒子は、例えば陽子線、アルファ粒子、重粒子または電子などであってよい。
【0022】
荷電粒子ビーム輸送系12は、真空ダクト123で互いに接続される複数のビーム調整部122を有する。ビーム調整部122は、荷電粒子ビームのビーム形状および/または線量を調整するためのビームスリット、荷電粒子ビームの進行方向を調整するための電磁石、荷電粒子ビームのビーム形状を調整するための四極電磁石、並びに、荷電粒子ビームのビーム位置を微調整するためのステアリング電磁石などを、仕様に応じて適宜備えてよい。固定ポート124,126,128のそれぞれは、固定された位置から荷電粒子ビームをアイソセンタと呼ばれる照射中心32に向けて照射する。
【0023】
本実施形態では、各々の照射角度に応じた固定ポート124,126,128がビームラインに設けられる。荷電粒子ビームは、湾曲面34に沿って移動する照射部14とアイソセンタ32の一直線状に位置する固定ポート124,126,128から出射される。例えば、X軸に平行な方向に対して0度、45度、90度などの不連続な照射角度で荷電粒子ビームが出射されるよう、偏向起点31より下流側に配置されたビーム調整部122(ここでは偏向電磁石)の1つまたは複数が、予め設定された電流値に設定され励磁される。これにより、荷電粒子ビームが意図した照射角度の固定ポートから出射され、照射部14に入射する。
【0024】
照射部14は、荷電粒子ビームを偏向する走査電磁石を含み、走査電磁石が偏向した荷電粒子ビームを照射する。本実施形態では、治療室30にある照射中心32に向けて荷電粒子ビームは、選択された照射角度に応じて固定ポート124,126,128から出射され、照射部14の走査電磁石は、標的の照射野に応じて荷電粒子ビームを走査する。
【0025】
ここで、固定ポート124,126,128のそれぞれについて、走査電磁石を含む照射部を配置する場合、走査電磁石がビームラインの数だけ必要となる。この場合、これらの走査電磁石を作動させるための大電流の電源を必要とし、走査電磁石自体と電源および制御の数が増え、導入費用が高コストとなる。またさらに、アライメントおよびメンテナンスの工数と維持費用が増え非効率となる。
【0026】
本実施形態では、照射部14が湾曲面34に沿って移動することにより、一つの照射部14によって選択された照射角度で荷電粒子ビームを照射できる。このため、本実施形態では、走査電磁石を有する照射部14が1台で済み、コストの低減を実現し、導入期間およびメンテナンスの期間を短縮できる。
【0027】
図3は、本実施形態に係る照射部14が配置された治療室30の模式図である。アイソセンタ(照射中心32)は、治療台302上の患者300の治療の標的に位置する。照射部14が照射した荷電粒子ビーム100は、アイソセンタに向かって照射されることとなる。照射部14には、重量物である走査電磁石を含み、荷電粒子ビームを出射する照射ノズルおよびモニタ(
図3には図示しない。)などが設けられており、これらと一体的に移動する。
【0028】
X軸から任意の角度θに傾いた方向からアイソセンタに荷電粒子ビーム100を照射する場合は、
図3に示すように、湾曲面34に沿って角度θの位置に照射部14が移動する。本実施形態では、照射部14がアイソセンタを中心とした等距離の位置を円弧状に移動することが想定されているが、照射部14は、円弧状の軌道に限らず楕円等の湾曲している軌道を動いてよい。照射部14は、駆動機構20により軌道上を駆動するが、駆動機構20の詳細は後述する。
【0029】
図4は、照射角度θに応じた照射部14の駆動機構に加わる荷重の変化を表している。なお、照射角度θは、水平方向を0度としている。
【0030】
図4に示す例では、駆動機構の荷重分担の変化が水平方向をピークに大きく変化するため、例えば照射部を一定速度で駆動させたり、照射角度に依らず位置精度(確度)および位置再現性を担保したりすることは、照射部の駆動制御を複雑化させることとなる。また、照射部が自走型の駆動機構のみで駆動する場合、安全性および機能(スピード)を考えると、駆動機構が大型化してしまう。また、照射部14を湾曲面に沿って移動させるためには、牽引タイプの駆動機構のみで駆動する場合、その駆動機構が複雑化する。例えば上述の特許文献1に示されるように、牽引するワイヤをループさせる場合には、照射部が回転する軸(Z軸)に対して垂直方向に駆動機構全体が大型化する。
【0031】
本実施形態では、上記不都合を改善し、かつ駆動機構の大型化を抑制するために、機能が互いに異なる第1駆動機構22および第2駆動機構24を有する駆動機構20により照射部14を移動させる。
【0032】
図5および
図6は、本実施形態に係る第1駆動機構22を説明するための模式図である。第1駆動機構22は、照射部14が円弧状の軌道上を自走するための自走デバイスである。第1駆動機構22は、湾曲面34に沿って照射部14を目標位置に移動させる。この目標位置は、例えば駆動制御装置42によって設定されてよい。
【0033】
本実施形態に係る第1駆動機構22は、照射部14に配置された第1モータ220、移動ガイド部230、移動ガイド部230と係合する係合部222、移動ガイド部230をガイドするベースガイド232、湾曲面34に沿って配置された位置情報部234、および照射部14に取り付けられた取得部236を有する。
【0034】
第1モータ220は、例えばサーボモータであり、減速機および変速機などを備える。本実施形態に係る第1モータ220は、照射部14内に設けられる。第1モータ220は、係合部222が取り付けられる回転軸221を有する。
【0035】
移動ガイド部230は、湾曲面34に沿って配置され、照射部14の移動をガイドするように設けられる。移動ガイド部230の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態に係る移動ガイド部230は、ラックギアで構成される。
【0036】
係合部222は、第1モータ220に固定され、移動ガイド部230と係合するように構成される。係合部222の構成は特に限定されるものではないが、係合部222は、例えば歯車などを有してよく、本実施形態に係る係合部222は、ピニオンギアで構成される。係合部222は、第1モータ220の駆動に応じて、回転軸221と一体的に回転する。
【0037】
係合部222は、その回転に応じて、移動ガイド部230に沿って滑ることなく移動できる。これにより、照射部14が湾曲面34に沿って移動できる。なお、照射部14が滑らかに動くよう、ベースガイド232にガイドレールが設けられてもよい。複数のガイドレールを用いる場合、荷電粒子ビームの経路を挟んで複数のガイドレールを配置することにより、荷電粒子ビームが進行する経路付近のスペースを駆動機構が邪魔することが抑制され、照射部14を目標の照射角度に移動させることができる。
【0038】
ベースガイド232は、湾曲面34に沿って配置されており、照射部14の駆動する軌道と同様の形状を有する。ベースガイド232には、位置情報部234が設置される。位置情報部234は、その位置情報を示すように構成されてよく、本実施形態に係る位置情報部234は、その位置に応じた値を示すリニアスケールで構成される。
【0039】
取得部236は、位置情報部234から位置情報を取得するように構成される。本実施形態では、取得部236は、位置情報部234を構成するリニアスケールから値を読み取る各種の公知のリーダーで構成される。取得部236は、位置情報部234の値を読み取り、その値に基づき照射部14の現在位置を測定できる。また、取得部236は、各種の通信装置を備え、読み取った値を例えば駆動制御装置42に送信してよい。取得部236の読み取り方法は、一例として光学式が挙げられる。照射部14が、位置制御により、任意の照射角度、例えば指令角度に対して±0.1度の位置再現性が要求される場合、取得部236の読み取り方法は、0.1度以下の検出能を有すれば、他の方法でもよい。
【0040】
図7は、本実施形態に係る第2駆動機構24を説明するための模式図である。第2駆動機構24は、照射部14の湾曲面34に沿った移動を補助するように、照射部14に張力を加えるものであり、具体的には、照射部14を円弧状の軌道(湾曲面34)に沿って牽引するための牽引デバイスである。
【0041】
第2駆動機構24は、例えば、照射部14の両側を牽引できるように、2つの牽引部材(例えばワイヤなど)でそれぞれ独立したモータで牽引したり、照射部14の中央部を1個の牽引部材およびモータで牽引したりするように構成されてよい。複数の牽引部材を用いる場合、荷電粒子ビームの経路を挟んで複数の牽引部材を配置してよい。これにより、荷電粒子ビームが進行する経路付近のスペースを駆動機構が邪魔することを抑制しつつ、照射部14を目標位置に移動させることができる。
【0042】
本実施形態に係る第2駆動機構24は、主として、第2モータ242を有する牽引装置240、荷重測定部244、牽引部材250、シーブ252,254(滑車)および複数の牽引ガイド部256を有する。
【0043】
牽引部材250の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態に係る牽引部材250は、ワイヤで構成される。牽引部材250は、照射部14に張力を加えるように配置されており、その一端は、照射部14に取り付け、その他端は、牽引装置240に取り付けられる。
【0044】
牽引装置240は、牽引部材250を牽引するように構成される。牽引装置240の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態に係る牽引装置240は、ウインチで構成される。牽引装置240は、その内部に有する第2モータ242の駆動に応じて牽引部材250を牽引し、具体的には、牽引部材250を巻き取るように回転動作を行う。牽引部材250を巻き取る力(張力)を調整することにより、湾曲面34に沿って、照射部14を上下に駆動させることができる。牽引装置240が有する第2モータ242は、例えばサーボモータであり、減速機および変速機などを有してよい。
【0045】
荷重測定部244は、牽引装置240が牽引部材250から受ける荷重を測定するように構成される。荷重測定部244の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態に係る荷重測定部244は、ロードセルを有する。荷重測定部244は、牽引装置240に取り付けられており、牽引部材250を介して牽引装置240にかかる荷重を測定する。荷重測定部244は、通信装置を備え、測定結果を例えば駆動制御装置42に送信してよい。牽引部材250の張力は、荷重測定部244の測定結果に基づき、例えば駆動制御装置42によって制御される。また、荷重測定部244は、通信装置以外に出力ケーブルを用いて、直接的に駆動制御装置に測定結果を出力し、測定結果に応じた演算処理および制御が行われてよい。
【0046】
本実施形態に係る第2駆動機構24は、牽引部材250を牽引する方向を変える機構としてシーブ252,254を備え、牽引部材250の一部は、シーブ252,254の外側に渡って配置されている。なお、
図7において、第2駆動機構24は、2つのシーブ252,254を有しているが、シーブの数は1つであってもよいし、シーブがなくてもよい。
【0047】
複数の牽引ガイド部256は、牽引部材250をガイドするように湾曲面34に沿って配置される。牽引ガイド部256の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態に係る牽引ガイド部256は、ローラーで構成される。複数の牽引ガイド部256は、照射部14を円弧状の軌道(湾曲面34)に沿わせるため、湾曲面34に沿ってベースガイド232に取り付けられる。牽引部材250は、牽引ガイド部256で押さえつけられることによりガイドされる。これにより、牽引部材250が大きなループを描く必要がなく、即ち、主として照射部14の軌道上に設けられれば十分となる。
【0048】
第1駆動機構22が主として照射部14の位置を制御するのに対し、第2駆動機構24は、照射部14に張力を加える。重量物である照射部14が円弧状などの湾曲面34の軌道上を一定速度で駆動する場合、照射部14の位置に応じて第1駆動機構22にかかる荷重が変化し、第1モータ220の減速機への負荷が大きくなる。しかしながら、第2駆動機構24が牽引部材250で補助的に照射部14を牽引することにより、照射部14の位置に応じた第1駆動機構22にかかる荷重の変化量を軽減することで、照射部14を精度よく駆動させることが可能である。
【0049】
また、第1駆動機構22および第2駆動機構24は、ベースガイド232を共通の構成要素としている。第1駆動機構22では、ベースガイド232に設けられた移動ガイド部230に係合部222が噛み合い、第2駆動機構24では、ベースガイド232に設けられた牽引ガイド部256で牽引部材250を押さえる。以上のように構成した第1駆動機構22および第2駆動機構24は、重量のある照射部14を支持する機構としてそれぞれ独立している。このため、片方の駆動機構が不具合を起こした場合も、照射部14が急速に落下することなどが抑制される。
【0050】
また、本実施形態に係る第1駆動機構22および第2駆動機構24を用いることで、照射部14の回転軸に垂直な方向に巨大化するカウンターウェイトを用いずに、小型の駆動機構20を実現しつつ、多方向からのスキャニング照射が可能となる。また、本実施形態では、第2駆動機構24の牽引部材250がループとならないため、牽引部材250の動く範囲を最小限とすることができ、荷電粒子ビーム照射システム1全体の小型化が可能となる。さらに、第1駆動機構22および第2駆動機構24を独立した機構とすることにより、患者300付近を駆動する照射部14の安全性を向上させることが可能である。このため、より安全性を確保した荷電粒子ビーム照射システム1を提供できる。
【0051】
照射部14には、第1駆動機構22の係合部222が接続された第1モータ220が設けられ、第2駆動機構24の牽引部材250が接続される。仮に、照射部14の照射ノズル202に対してこれらが直接接続されると、メンテナンスおよびアライメントに際して、照射ノズル内の走査電磁石を取り外しおよび照射ノズルのアライメントが不便となり得る。そこで、本実施形態では、
図8(a)および
図8(b)を参照して説明する台車260(収容部)を介して、第1駆動機構22および第2駆動機構24を照射ノズル202に接続する。
【0052】
図8(a)は、本実施形態に係る台車260を示す図であり、
図8(b)は、台車260に照射ノズル202を収容した照射部14を示す図である。本実施形態に係る照射部14は、
図8(b)に示す照射ノズル202および台車260を有する。照射ノズル202は、台車260に収容され、この台車260を介して、第1駆動機構22および第2駆動機構24が照射ノズル202に接続される。このため、第2駆動機構24は、台車260に張力を加えることができる。
【0053】
台車260は、荷電粒子ビーム100の進行を妨げない構成となっており、台車260の剛性を維持する構造を有する。台車260は、特に限定されないが、例えば六面で構成されてよい。本実施形態に係る台車260は、矩形状の天井面262、矩形状の床面264、天井面262の一辺と床面264の一辺とを接続する側面260a、天井面262の反対側の辺と床面264の反対側の辺とを接続する側面260b、および蓋266を有する。蓋266は、天井面262、側面260a、側面260bおよび床面264の荷電粒子ビームの出射側を覆うように配置されている。
【0054】
図9は、駆動機構20へ取り付けた台車260の一例を示す図である。
図9に示すように、台車260の側面(側面260aおよび側面260b)には、ネジおよびブロック224などを取り付けることができ、これらを介して照射部14に必要な第1駆動機構22および第2駆動機構24の部分を台車260に接続できる。ブロック224は、ベースガイド232をまたいで牽引ガイド部256を覆うように配置されてよい。ブロック224は、内側に取り付け機構を有し、牽引部材250の一端は、その取り付け機構に取り付けられてよい。
【0055】
例えば、第1駆動機構22について、台車260の天井面262で、第1モータ220と台車260とをネジで接続してよい。照射部14が大型化しないよう、天井面262を省略し、第1モータ220と側面260a,260bとを接続してもよい。このように照射部14を覆う台車を小型化することにより、患者が台車260で圧迫されることが抑制される。この場合、台車260の蓋266に対向する側に補強板(渡板)を設置したり、蓋266の形状を工夫したりすることで剛性を向上させることができる。また、補強板には、第1モータ220を直接取り付けることもできる。
【0056】
また、第2駆動機構24について、台車260の側面(側面260aまたは側面260b)に牽引部材250の付け根の固定部分を接続し、牽引部材250が台車260から容易に外れないよう、さらにブロック224で固定部分を覆ってよい。
【0057】
照射部14の位置精度および位置再現性を担保するために、取得部236を台車260に接続してよい。取得部236は、ベースガイド232に設けられた照射部14の位置を示す位置情報部234の目盛りの値を読み取り、読み取った値を用いて、照射部14の位置を精度よく調整できる。
【0058】
また、第1駆動機構22、第2駆動機構24および照射ノズル202が有する走査電磁石およびモニタの信号線および受電ケーブルなどを整線して、これらのケーブルを照射部14とともに駆動させてよい。例えば、ケーブルガイド機構を台車260に接続することによって、これらのケーブルを照射部14とともに湾曲面34に沿って移動させることができる。
【0059】
本実施形態に係る台車260を介して、照射部14と第1駆動機構22および第2駆動機構24とを接続することで、容易に照射ノズル202から走査電磁石だけを取り外したり、第1駆動機構22および第2駆動機構24の要素を照射部14から取り外したりできる。
【0060】
湾曲面34の軌道上を駆動する照射部14から出射される荷電粒子ビームの軸(以下、単に「ビーム軸」ともいう。)のアライメント作業は、多くの工数を要する。例えば、荷電粒子ビームを任意の照射角度からビーム出射軸(中心位置)に照射したとき、アイソセンタの位置が任意の位置精度以内の球内(例えば、Φ1mm)に収まっている必要がある。このとき、複数の照射角度で荷電粒子ビームを照射しながらアイソセンタでのビーム軸を調整することとなり、アライメントに時間を要する。そのため、走査電磁石の据え付け作業時に機械的な設置精度(確度)を担保することで、アイソセンタでのビーム軸の調整の作業量を減らすことができる。任意の照射角度からアイソセンタに荷電粒子ビームが収束するために、据え付け作業時に最も調整が必要となる要素は、荷電粒子ビームの進行方向に対する垂直面に対する傾きである。走査電磁石などの重量物の位置・姿勢を調整することは容易ではない。
【0061】
本実施形態に係る台車260は、
図10(a)~
図10(c)を参照して説明する調整機構を有する。
図10(a)は、照射部14を荷電粒子ビームの出射側から見た図であり、
図10(b)は、照射部14を側面260a側から見た図であり、
図10(c)は、照射部14を天井面262側から見た図である。
【0062】
本実施形態に係る台車260は、調整機構を有し、これらの調整機構は、台車260の蓋266に設けられている。調整機構のそれぞれは、蓋266の表裏に設けられたL字型ブロック270、取付ブロック272,274、第1調整ネジ280、第2調整ネジ282および第3調整ネジ284を有する。
図10(a)~
図10(c)に示すように、複数のL字型ブロック270を介して、台車260の側面260a,260bの内側および蓋266が接続される。各調整ネジの設置本数は、
図10(a)~
図10(c)に示す限りではない。
【0063】
図10(a)~(c)に示す第1調整ネジ280は、L字型ブロック270に挿入され、L字型ブロック270を蓋266に締め付けるように配置される。第1調整ネジ280の締め付け具合いを調整することにより、照射部14のビーム進行方向に垂直な断面に対する傾きを調整可能である。具体的には、第1調整ネジ280を用いて蓋266を押し込めたり緩めたりすることにより、照射ノズル202のビーム進行方向に垂直な断面に対する傾きを調整可能である。
【0064】
第2調整ネジ282は、蓋266の表側に配置された取付ブロック272に挿入される。第2調整ネジ282の締め付け具合いを調整することにより、蓋266ごと照射ノズル202を上下方向に押し、照射ノズル202を位置調整できる。
【0065】
第3調整ネジ284は、蓋266の裏側に配置された取付ブロック274に挿入される。第3調整ネジ284の締め付け具合いを調整することにより、蓋266ごと、照射ノズル202を左右方向(患者の体軸方向)の押し、照射ノズル202を位置調整できる。
【0066】
さらに、蓋266には、据え付け作業を効率化するため、仮位置決めするレベル調整可能な複数の粗調整ネジ(図示しない。)が付いていてもよい。
【0067】
本実施形態に係る調整機構により、湾曲面34における走査電磁石など重量物を据付時に、位置および姿勢の調整を容易に行うことができる。
【0068】
図11は、荷電粒子ビーム照射システム1の動作の一例を説明するためのフローチャートである。以下、
図11に示すフローチャートを用いて、第1駆動機構22および第2駆動機構24の駆動を制御し、照射部14が所望の照射角度を実現する目標位置に移動する例を説明する。
【0069】
まず、治療制御装置40は、患者治療情報として、駆動制御装置42に目標位置を送信する(S101)。目標位置は、所望の照射角度を実現する照射部14の位置である。駆動制御装置42は、送信された目標位置を受信する。目標位置が送信されると、S111~S123の処理とS131~143の処理とが並列的に実施されるが、以下では、第1駆動機構22に関わるS111~S123の処理を説明したあと、第2駆動機構24に関わるS131~143の処理を説明する。
【0070】
駆動制御装置42は、S101において目標角度を受信すると、目標角度に応じた第1駆動機構22の出力を決定する(S111)。例えば、駆動制御装置42は、目標位置に応じた第1モータ220が出力するトルクを決定してよい。次いで、駆動制御装置42は、S111において決定した出力を第1駆動機構22が行うように、第1駆動機構22を制御する(S113)。これにより、第1駆動機構22が駆動を開始する。例えば、駆動制御装置42は、第1モータ220の駆動を制御してよい。このとき、照射部14の移動速度は、例えば第1モータ220のサーボシステムによって制御される。
【0071】
以降、照射部14は、第1駆動機構22の位置情報部234の値に基づく位置を絶対位置として、第1駆動機構22の駆動により目標位置まで自走する。取得部236は、一定周期で駆動制御装置42に、読み取った位置情報部234の位置情報を送信する(S115)。次いで、駆動制御装置42は、位置情報部234の位置情報を受信し、その位置情報に基づいて、照射部14が目標位置に達したか否かを判定する(S117)。駆動制御装置42が照射部14が目標位置に達していないと判定した場合には、S115の処理が再度行われる。一方、駆動制御装置42が照射部14が目標位置に達したと判定した場合には、S119の処理に進む。
【0072】
駆動制御装置42は、第1駆動機構22によって照射部14が目標位置に達すると、照射部14の位置を保持するため、位置情報部234の位置情報に基づき、照射部14の位置と目標位置との差分が許容値以下であるか否かを判定する(S119)。許容値は、例えば目標角度に対し±0.1度程度の値であってよい。駆動制御装置42が当該差分が許容値以下であると判定すると、S121の処理に進み、駆動制御装置42が当該差分が許容値を超えていると判定すると、S123に進む。
【0073】
S119において照射部14の位置と目標位置との差分が許容値以下であると判定されると、駆動制御装置42は、照射部14の位置の設定を完了する(S121)。例えば、駆動制御装置42は、第1駆動機構22による照射部14の移動が停止するよう、第1駆動機構22を制御してよい。以降、取得部236は、位置情報部234の位置情報を常時読み取り、その位置情報を駆動制御装置42に送信してよい。
【0074】
S119において照射部14の位置と目標位置との差分が許容値を超えていると判定されると、駆動制御装置42は、異常信号を送信する(S121)。例えば、駆動制御装置42は、第1駆動機構22に異常信号を送信し、第1駆動機構22を停止させる。具体的には、駆動制御装置42は、第1モータ220の駆動を停止してよい。あるいは、駆動制御装置42は、異常信号を治療制御装置40などの上位の装置へ送信してよい。
【0075】
以上、第1駆動機構22に関わるS111~S123の処理について説明した。本実施形態では、位置情報部234の位置情報に基づき照射部14を設定値で示される位置に移動させる例を説明した。これに限らず、位置情報部234の位置情報とは別に、第1モータ220に図示しないロータリエンコーダー(回転数計)を設置し、その演算値に基づき位置情報が取得されてよい。この場合、所定の設定値までのロータリエンコーダーの回転数を演算することによって、照射部14の移動距離を割り出し、演算値で示される位置まで照射部14を移動させてよい。この方式を加えることで、万一、位置情報部234の位置情報に何らかの支障が生じた場合でも、何ら問題なく、所定の位置まで照射部14を移動させることが可能となり、機器異常に対する二重化安全対策を講じることができる。
【0076】
以下、S131~S141の処理について説明する。駆動制御装置42は、S101において目標位置が送信されると、その目標位置に応じた第2駆動機構24の出力を決定する(S131)。
【0077】
駆動制御装置42は、S131において決定した出力を第2駆動機構24が行うように、第2駆動機構24を制御する(S133)。これにより、第2駆動機構24が駆動を開始する。具体的には、駆動制御装置42は、目標位置の荷重に応じた張力で牽引装置240が牽引部材250を引っ張るように第2駆動機構24を制御する。これにより、第2駆動機構24は、第1駆動機構22により自走する照射部14の位置による荷重変化に対し、照射部14に接続した牽引部材250を巻き取り、あるいは巻き出しを行い、第1駆動機構22による照射部14の移動を補助する。
【0078】
次いで、荷重測定部244は、牽引装置240にかかる荷重の測定値を一定周期で駆動制御装置42に送信する(S135)。これに応じて、駆動制御装置42は、一定周期で荷重測定部244の測定値を受信する。
【0079】
次いで、駆動制御装置42は、荷重測定部244の測定値に基づいて、牽引部材250の張力が目標張力に達したか否かを判定する(S137)。目標張力は、照射部14が目標位置に達したときに必要な張力である。駆動制御装置42が牽引部材250の張力が目標張力に達していないと判定すると、S135の処理が再度行われる。一方、駆動制御装置42が牽引部材250の張力が目標張力に達していると判定すると、S139の処理に進む。
【0080】
S137において牽引部材250の張力が目標張力に達していると判定されると、駆動制御装置42は、荷重測定部244の測定値に基づいて、牽引部材250の張力を保持するため、牽引部材250の張力と目標張力との差分が許容値以下であるか否かを判定する(S139)。駆動制御装置42が当該差分が許容値を超えていると判定すると、S143の処理に進む。一方、駆動制御装置42が当該差分が許容値以下であると判定すると、S141の処理に進む。
【0081】
S139において当該差分が許容値以下であると判定されると、駆動制御装置42は、張力の設定を完了する(S141)。この場合、以降、荷重測定部244は、常時の牽引装置240にかかる荷重を測定し、駆動制御装置42に測定値を送り続ける。駆動制御装置42は、例えば、取得部236が測定する照射部14の位置に対応する荷重に応じた張力を所定の時間間隔で計算し、計算値に対する荷重測定部244による測定値を監視してもよい。例えば、駆動制御装置42は、測定値に応じて、第2駆動機構24が照射部14の位置を保持する張力を制御してよい。
【0082】
S139において牽引部材250の張力と目標張力との差分が許容値を超えていると判定されると、駆動制御装置42は、その状態を異常と判断して、異常信号を送信する(S143)。例えば、駆動制御装置42は、異常信号を第2駆動機構24に送信し、第2駆動機構24(具体的には、第2モータ242)の駆動を停止させてよい。あるいは、駆動制御装置42は、異常信号を上位の装置(例えば、治療制御装置40)に送信してよい。
【0083】
照射部14からの照射は、安全に行われる必要がある。照射部14の駆動制御と照射系制御連携(例えば治療制御装置40との連携)について、例えば、荷電粒子ビームの照射中にも、第1駆動機構22の位置情報部234の値および第2駆動機構24の荷重測定部244からの測定値は、駆動制御装置42へ送信され続ける。
【0084】
万が一照射中に照射部14が動いた場合、駆動制御装置42は、上位の制御装置(図示しない。)に許容値の超過を示す異常信号を送信してもよい。この異常信号を基に、上位の制御装置および照射に関する制御装置(例えば治療制御装置40)で、異常の重篤さを判断し、照射続行または照射停止などの照射制御を行うことも可能である。これにより、指定された照射角度以外から照射されることなく、照射の安全性が担保される。また、軽異常の場合は、照射を止めることなく照射が継続され、長時間患者を拘束することなく、負担を軽減できる。
【0085】
なお、本実施形態では、第2駆動機構24は、1つの牽引部材250を用いて照射部14を牽引する例を説明した。これに限らず、第2駆動機構24の複数の牽引部材で照射部14を牽引してよい。この場合、駆動制御装置42は、各々の牽引部材に対応する荷重測定部で牽引部材の張力を検知し、バランスを保つよう、第2駆動機構を制御してもよい。
【0086】
荷電粒子ビームの多方向の照射を実現するため、患者近くの位置に照射野形成装置を集約して設置した照射ノズルを湾曲した面で駆動させる場合、牽引時、または走行時に駆動系に加わる荷重が大きく変化する。そのため、所望の位置に精度良く駆動し、その位置を保持し、安全に照射するためには、駆動制御が複雑化する。その結果、照射ノズルも巨大化し、患者周りのスペースを圧迫し、治療に支障を来たすだけでなく患者の心理的負担も増長させることとなる。
【0087】
重量物を精度良く駆動させるために、重量物と同等のカウンターウェイトを使用することが知られている(特許文献1)。しかしながら、照射ノズルが回転する軸に対して垂直方向に大型化し、その結果、治療装置そのものが大型化することになる。
【0088】
本実施形態に係る照射システム1によれば、重量物である走査電磁石を内包した照射ノズル202が、湾曲面34に沿って駆動するために、自走デバイス(第1駆動機構22)と牽引デバイス(第2駆動機構24)を用いた複数の駆動機構により制御する。この結果、照射ノズルなどの重量物の位置精度および位置再現性を担保しつつ、安全に照射部14を駆動できるようになり、重量物を患者近傍に設置した場合にも多方向から照射が可能となる。
【0089】
また、本実施形態に係る照射システム1によれば、照射部14の駆動機構20にカウンターウェイトなどの大型の機構を用いる必要がないため、ビーム照射装置10の小型化を維持しつつ、多方向からのスキャニング照射が可能となる。
【0090】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る荷電粒子ビームシステムは、回転ガントリを有する点で第1実施形態と異なる。
図12は、第2実施形態に係るビーム照射装置50を説明するための模式図である。
図12には、
図2に示す構成と実質的に同一の機能を有する構成には同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0091】
第2実施形態に係る照射装置は、ビーム照射装置50および駆動機構58を有し、ビーム照射装置50は、加速器11、荷電粒子ビーム輸送系13、回転ガントリ52および照射部14を備える。照射部14は、第1実施形態に係る第1駆動機構22および第2駆動機構24と同様の機能を有する駆動機構58に接続されている。
【0092】
荷電粒子ビーム輸送系13は、互いに真空ダクト123で互いに接続された複数のビーム調整部122を有する。ビーム輸送系13において、偏向起点31より下流側を回転ガントリ52とする。
【0093】
回転ガントリ52は、偏向起点31より下流側に配置されたビーム調整部122ごとX軸を中心に回転し、その結果、照射角度(回転角ω)に応じた軌道から照射可能である。ビーム調整部122は、荷電粒子ビームのビーム形状および/または線量を調整するためのビームスリット、荷電粒子ビームの進行方向を調整するための電磁石、荷電粒子ビームのビーム形状を調整するための四極電磁石、並びに、荷電粒子ビームのビーム位置を微調整するためのステアリング電磁石などを、仕様に応じて適宜配置してよい。回転ポート56から出射される荷電粒子ビームは、照射部14に入射する。なお、回転ガントリは360度回転してよいし、360度未満で回転してよい。
【0094】
照射部14は、荷電粒子ビームを偏向する走査電磁石を含み、走査電磁石が偏向した荷電粒子ビームを照射する。本実施形態では、選択された照射角度によって、回転ポート56から治療室30にある照射中心32に向けて荷電粒子ビームが出射される。照射部14の走査電磁石は、標的の照射野に応じて荷電粒子ビームを走査する。
【0095】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に第1駆動機構22および第2駆動機構24と同様の機能を有する機構が配置される。このとき、例えば、荷電粒子ビームの出射口を挟んで複数のガイドレールおよび複数の牽引部材などが配置されてよい。これにより、荷電粒子ビームが進行する出射口付近のスペースを駆動機構58が邪魔することなく、照射部14を目標の照射角度を実現する位置に移動させることができる。
【0096】
従来、数百tの回転ガントリについて、ビーム下流の位置で必要な位置精度および位置再現性が求められていた。例えばガントリの回転角度について、±0.1度の位置再現性が要求される場合、回転ガントリは1mmより大きな位置再現性を有すればよく、最下流に位置するモニタなどを含む照射部14は、1mm以下の位置再現性を求められる。また、装置の据付時の設置精度など様々なエラーが積み重なる。よって、大きく重量の異なる回転ガントリと照射部14の駆動機構をそれぞれ独立させることで、位置精度および位置再現性を管理しやすくなる。
【0097】
(第3実施形態)
図13は、第3実施形態に係るビーム照射装置60を示す模式図である。第3実施形態に係るビーム照射装置60は、加速器11、荷電粒子ビーム輸送系13、回転しないガントリ62および照射部14を備えた、小型の荷電粒子ビーム照射装置である。
図13には、
図2または
図12に示す第1実施形態または第2実施形態に係る構成と実質的に同一の機能を有する構成には同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0098】
回転しないガントリ62は、第2実施形態に係る回転ガントリ52と異なり、回転しない。回転しないガントリ62は、第1偏向電磁石64(振分電磁石)、扇形ダクト66および第2偏向電磁石68(収束電磁石)を有する。
【0099】
ビーム照射装置60は、偏向起点Qを経由して輸送される荷電粒子ビームを、アイソセンタに向けて出射する。ビーム照射装置60から出射される荷電粒子ビームは、複数の軌道のいずれかを通過してアイソセンタに照射される。本実施形態では、この複数の軌道は、主として第1偏向電磁石、扇形ダクト66および第2偏向電磁石68によって形成される。
【0100】
第1偏向電磁石64は、真空ダクト123を通じてビーム調整部122から入射する荷電粒子ビームを偏向する。第2偏向電磁石68は、荷電粒子ビームを偏向して、荷電粒子ビームの進行方向をアイソセンタに向かう方向に変えるように構成されている。つまり、第1偏向電磁石64と第2偏向電磁石68との組み合わせにより、荷電粒子ビームの進行方向を連続的に広い角度範囲から1つのアイソセンタに収束させる。回転しないガントリの一例は、例えば特許第6364141号に記載されている。第2偏向電磁石68から出射された荷電粒子ビームは、照射部14に入射する。
【0101】
回転しないガントリ62では、入射する荷電粒子ビームのエネルギーおよび照射角度に応じて第1偏向電磁石64および第2偏向電磁石68の磁場を変更し、ビーム軌道をアーチ型に偏向する。まず、第1偏向電磁石64で偏向した荷電粒子ビームが扇形ダクト66を進行する。その後、荷電粒子ビームが所望の照射角度に収束するアーチ軌道を進行するよう、第2偏向電磁石68の磁場領域を荷電粒子ビームに通過させ、荷電粒子ビームを偏向する。第2偏向電磁石68を格納した真空容器の中を荷電粒子ビームが進行することにより、連続的な照射角度での荷電粒子ビームの照射が可能となる。
【0102】
図14を参照しながら、第3実施形態に関わる回転しないガントリ62による荷電粒子ビームの照射の仕組みについて、一例を簡単に説明する。尚、
図14において、照射部14は省略されている。
図14(a)は、回転しないガントリ62が有する第1偏向電磁石64と第2偏向電磁石68を側面から見た荷電粒子ビームの経路を模式的に示した模式図である。
【0103】
図14(a)には偏向角φ及び収束角(照射角)θごとに異なる複数のビーム経路も描かれている。ここで、荷電粒子ビームの進行方向をX軸、第1偏向電磁石64が生成する磁場の方向をZ軸、X軸及びZ軸に直交する方向をY軸とする。第1偏向電磁石64は、XY面において、X軸に対する偏向角φの広い範囲から入射する荷電粒子ビームを、アイソセンタOに収束させるよう構成されている。なお、
図14においては、照射部14は省略し、説明を簡単にするために、アイソセンタOをXYZ空間の原点とし、上流側(加速器側)をX軸の正の方向としている。
【0104】
第1偏向電磁石64により偏向され、第2偏向電磁石68に入射する荷電粒子ビームの偏向角φの範囲は、プラスの最大偏向角(φ=φmax)からマイナスの最大偏向角(φ=-φmax)の範囲であり、プラスの最大偏向角φmaxは、10度以上90度未満の角度であり、マイナスの最大偏向角-φmaxは、-90度超-10度以下の角度である。偏向角φ及び後述する照射角θは、XY面において、X軸に対する荷電粒子ビームの経路の角度である。また、プラス(+Y軸方向)の偏向角範囲とマイナス(-Y軸方向)の偏向角範囲は異なっていてもよい(非対称)。例えば、プラス側の最大偏向角(φ=φmax)を10度、15度、20度、25度、30度、35度、40度、45度、50度、60度、70度、80度、及び85度のうちのいずれかとし、マイナス側の最大偏向角(φ=-φmax)を-10度、-15度、-20度、-25度、-30度、-35度、-40度、-45度、-50度、-60度、-70度、-80度、及び-85度のうちのいずれかとしてもよい。
【0105】
第2偏向電磁石68は、1組以上のコイル対を備え、該コイル対は、荷電粒子ビームの進行方向と荷電粒子ビームの偏向角φの広がり方向に直交する方向(図中Z軸方向)を向いた一様な磁場を生成し(有効磁場領域681a、681b)、荷電粒子ビームの経路を挟むように配置されている。第2偏向電磁石68の1組のコイル対が生成する有効磁場領域は、
図14(a)に示すようにXY平面において三日月様の形状を有し、その詳細については後述する。なお、荷電粒子ビームが通過する、対向するコイル対間の隙間は(Z軸方向の距離)、XY面における荷電粒子ビームが広がる範囲に比べて十分に小さいため、ここでは荷電粒子ビームのZ軸方向の広がりについては考慮しない。
【0106】
図14(b)は、第2偏向電磁石68のA-A線断面図である。第1偏向電磁石64は、好ましくは少なくとも二組のコイル対684a、684bを備える。コイル684a、684bの内部にはそれぞれ磁極685a、685bが組み込まれ、磁極685a、685bにはヨーク686が接続されている。第2偏向電磁石68には電源装置(不図示)が接続されており、電源装置からコイル対684a、684bに電流(励磁電流)が供給されることで、第2偏向電磁石68が励磁し、有効磁場領域681a、681b(総称して有効磁場領域681ともいう。)が形成される。
【0107】
なお、有効磁場領域681aの範囲と有効磁場領域681bの範囲は、異なっていてもよい(非対称)。例えば、プラス(+Y軸方向)の偏向角φの範囲とマイナス(-Y軸方向)の偏向角φの範囲が非対称であれば、それに応じて有効磁場領域681a、681bも非対称に形成することで、使用されない有効磁場領域を削減できる。
【0108】
プラスの偏向角範囲(φ=0超~φmax)で入射した荷電粒子ビームは、第2偏向電磁石68の第1のコイル対684aの有効磁場領域681aにより偏向され、照射部14を通りアイソセンタOに照射される。マイナスの偏向角範囲(φ=0未満~-φmax)で入射した荷電粒子ビームは、第2のコイル対684bの有効磁場領域681bにより偏向され、照射部14を通りアイソセンタOに照射される。有効磁場領域681aと有効磁場領域681bの磁場の向きは互いに反対の方向である。なお、第1偏向電磁石64から偏向角φ=0で第2偏向電磁石68に入射する荷電粒子ビームは、有効磁場領域681a、681bのいずれか又は両領域681a、681bの間を通過し、照射部14(不図示)を通じてアイソセンタOに収束する。
【0109】
第2偏向電磁石68に入射する荷電粒子ビームの偏向角φは、第1偏向電磁石64により制御される。第1偏向電磁石64は、加速器11から供給される荷電粒子ビームの進行方向(図中X軸)に直交する方向(図中Z軸)を向いた磁場を生成し、通過する荷電粒子ビームを偏向する電磁石と、該磁場の強度及び向きを制御する制御部とを備える(いずれも不図示)。第1偏向電磁石64は、磁場の強度及び向き(Z軸方向)を制御することで、XY面において荷電粒子ビームを偏向し、偏向起点Qにて偏向角φで偏向した荷電粒子ビームを第2偏向電磁石68に出射する。ここで、偏向起点QとアイソセンタOはX軸上にある。
【0110】
図14(c)を参照して、第2偏向電磁石68の有効磁場領域681aを形成するための計算式について説明する。なお、本実施形態では、Z軸方向への荷電粒子ビームの偏向は考慮しないので、XY面における有効磁場領域の形成について説明する。第2偏向電磁石68の有効磁場領域681aについて説明するが、有効磁場領域681bについても同じであるため、説明は省略する。
【0111】
まず、第2偏向電磁石68の荷電粒子ビームの出射側683の有効磁場領域681aの境界は、アイソセンタOから等距離r1の位置にある範囲となるように決める。次に、第2偏向電磁石68の荷電粒子ビームの入射側682の有効磁場領域681aの境界は、後述する関係式(1)~(5)に基づき、アイソセンタOから所定の距離Lの位置にある仮想上の偏向起点Qにて偏向角φで偏向し、入射する荷電粒子ビームが、アイソセンタOに収束するように決められる。ここで、仮想上の偏向起点Qは、第1偏向電磁石64の中心で荷電粒子ビームが偏向角φのキックを極短距離の間に受けると仮定した点である。
【0112】
偏向角φで輸送されてきた荷電粒子ビームは、入射側682の有効磁場領域681aの境界上の任意の点P1から入り、有効磁場領域681a内で曲率半径r2の円運動を行い(このときの中心角は(φ+θ)となる。)、出射側683の有効磁場領域681aの境界上の点P2から出て、アイソセンタOに向けて照射される。つまり、点P1と点P2とは半径r2及び中心角(φ+θ)の円弧上にある。
【0113】
XY面においてアイソセンタOを原点とするXY座標系を想定する。出射側683の点P2とアイソセンタOとを結ぶ直線とX軸とがなす角度を照射角θとすると、入射側682の点P1の座標(x,y)、偏向角φ、及び点Qと点P1との間の距離Rは、以下の関係式(1)~(4)から求まる。
【数1】
【0114】
ここで、有効磁場領域681aには一様な磁束密度Bの磁場が生じており、荷電粒子ビームの運動量をp(およそ加速器に依存する)、電荷をqとすると、磁場中で偏向される荷電粒子ビームの曲率半径r2は、式(5)で表される。
【数2】
【0115】
上記関係式(1)~(5)に基づき、第2偏向電磁石68のコイル対684a及び磁極685aの形状及び配置を調整し、コイル対684aに流す電流を調整することで、有効磁場領域681aの境界の形状を調整できる。すなわち、出射側683の有効磁場領域681aの境界上の任意の点P2とアイソセンタOとの間の距離が等距離r1となるように境界を定め、有効磁場領域681aの磁束密度Bを調整して式(5)からr2を決め、入射側682の有効磁場領域681aの境界上の点P1と偏向起点Qとの間の距離Rが式(4)の関係を有するように、入射側682の有効磁場領域681aの境界を定める。式(3)のφの極大値が、最大偏向角φmaxとなる。なお、限定されるものではないが、偏向起点Qを通過する荷電粒子ビームが第2偏向電磁石68による偏向を受けなくともアイソセンタOに収束するように、偏向起点Q、第2偏向電磁石68、及びアイソセンタOの配置を調整しておくと、装置構成をよりシンプルにできるため好ましい。
【0116】
上記のようにして求まる第2偏向電磁石68の有効磁場領域681a、681bの境界は、荷電粒子ビームをアイソセンタOに収束させるための理想的な形状である。なお実際には、この理想的な形状からのずれや磁場分布の不均一性があったとしても、第2偏向電磁石68の励磁量(磁束密度B)を偏向角φごとに予め微調整し、その情報を電源装置に記憶させておき、偏向角φと第2偏向電磁石68の電流量とが連動するようにそれらを制御することで、荷電粒子ビームをアイソセンタOに合わせて偏向させることができる。また、事前に磁場分布の不均一性を予測できる場合には、第2偏向電磁石68のコイル対684a、684b及び磁極685a、685bの形状及び配置を補正することで、荷電粒子ビームの軌道を微調整することも可能である。
【0117】
これにより、患部(アイソセンターO)に対して、所望の照射角度で荷電粒子ビームを照射することができる。2台の偏向電磁石(第1偏向電磁石64および第2偏向電磁石68)により所望の照射角度に偏向された後、照射部14の走査電磁石に入射する。よって、照射精度を担保するためには、照射部14の位置精度および位置再現性を担保し、走査電磁石の中心にビームを精度良く入射させ、ビームの走査位置にずれが生じないようにする必要がある。
【0118】
第3実施形態に係る照射システムは、2台の偏向電磁石で軌道を偏向した荷電粒子ビームがアイソセンタに収束するために、照射部14が湾曲面35を走行するための駆動機構69を備える。この駆動機構69は、少なくとも、第1実施形態に係る第1駆動機構22および第2駆動機構24と同様の機能を有する。
【0119】
照射部14を駆動する駆動機構69において、走行位置に応じた荷重の変化が伴なう。このため、仮に、駆動機構に精度の良いカウンターウェイト方式を採用する場合は、駆動機構の走行軌道と軸対象に、カウンターウェイト部も湾曲軌道にする必要がある。その結果、カウンターウェイトを
図13のX軸方向に設置することとなり、振分電磁石および扇形ダクトの設置スペースを確保する必要があるため、X軸方向とZ軸方向に装置が大型化することになる。
【0120】
これに対し、本実施形態に係る駆動機構69は第1駆動機構22および第2駆動機構24と同様の機能を有するため、カウンターウェイト方式のように装置が大型化することが抑制される。この結果、本実施形態に係る照射システムによれば、連続した照射角度の位置精度および位置再現性を担保でき、回転しないガントリの小型化を維持しつつ、照射精度を担保できる。また、本実施形態に係る駆動機構69を回転しないガントリに適用することで、従来の固定ポートからのビーム照射方式では得られない角度からの照射においても、ビーム照射装置60は何ら不都合なく固定ポートと同等のアイソセンタの位置精度で照射野を形成できる。したがって、本実施形態に係るビーム照射装置60は、従来の回転ガントリと同様、多門照射が可能である。
【0121】
(第4実施形態)
図15は、第4実施形態に係るビーム照射装置70を示す模式図である。
図15には、
図2または
図12に示す第1実施形態または第2実施形態に係る構成と実質的に同一の機能を有する構成には同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0122】
第4実施形態に係る照射システムは、ビーム照射装置70および駆動機構79を有し、ビーム照射装置70は、加速器11、荷電粒子ビーム輸送系13、回転しないガントリ72および照射部14を備える。第4実施形態に係る回転しないガントリ72および照射部14は、X軸を中心に回転角ωで一体的に回転するように構成される。回転しないガントリ72は、第1偏向電磁石74(振分電磁石)および第2偏向電磁石76(収束電磁石)を有する。駆動機構79は、少なくとも、第1実施形態に係る第1駆動機構22および第2駆動機構24と同様の機能を有する。
【0123】
第4実施形態に係る第2偏向電磁石76は、第3実施形態において説明した
図13に示す上下の第2偏向電磁石68のうちの1つの収束電磁石(第2偏向電磁石68)のみで構成される。回転しないガントリ72をX軸のまわりで回転させることで、任意の立体角(X軸周りの回転角ωとXY平面の照射角θとの組み合わせ)の範囲からアイソセンタにビームを照射できる。一例として、第1偏向電磁石74、第2偏向電磁石76および駆動機構79をX軸を中心に回転する第3駆動機構(図示しない。)に搭載することで、
図15に示すように任意の立体角でアイソセンタに対し荷電粒子ビームを照射できる。
【0124】
本実施形態では、照射部14は、任意の立体角に応じて移動できる。よって、本実施形態に係る照射システムによれば、治療台を動かすことなく非同一面からも治療ビーム(荷電粒子ビーム)を照射するノンコプラナ照射が可能となる。従来、ノンコプラナ照射をする場合、治療台をアイソセントリック回転するが、治療台の移動精度が影響するため、治療台が移動した後、治療台の移動精度により照射目標位置とずれていないか、X線撮影して患者の体内位置情報を確認する必要があった。本実施形態では、治療台を動かすことがないため、位置確認用のX線撮影が不要となり、その分、X線撮影による被曝量を低減でき、位置決め時間を省略することができるため、治療のスループットを向上することに資する。
【0125】
立体角で照射可能になることにより、第3駆動機構の構造体(図示しない。)によって患者周りのスペースが制限される場合には、治療台を挿入するために収束電磁石の有効磁場領域の出射側からアイソセンタまでの距離を広く取る必要がある。また、体幹部などの照射では、患者が横たわった状態でアイソセンタ付近に挿入されると、立体角回転が難しい。そこで、座位の治療台(図示せず)と組み合わせることで治療台の設置範囲を小さくすることができ、第2偏向電磁石76の有効磁場領域の出射側からアイソセンタまでの距離を変更することなく照射装置の小型化を維持することが出来る。
【0126】
治療室30には、座位の治療台が配置される。治療台は、荷電粒子ビームの標的となる患者が座ることのできる座位面を有する。座位面は、患者の姿勢を調整するために、並進移動および/または回転移動できるよう、例えばロボットアームなどで構成された姿勢調整部が設けられてよい。さらに、治療室30にて患者の姿勢を調整できるよう、座位の治療台には、治療室に治療台を固定するための固定部が設けられてよい。座位の治療台は、治療室に固定されるものでもよく、治療室および他の部屋を往来可能な搬送されるものでもよい。
【0127】
(第5実施形態)
図16は、第5実施形態に係る照射システム80を示す模式図である。
図16では、
図2または
図12に示す第1実施形態または第2実施形態に係る構成と実質的に同一の機能を有する構成には同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。第5実施形態に係る照射システム80は、第3実施形態で説明した回転しないガントリを有するビーム照射装置60に加えて、アイソセンタに位置する標的を挟むように設けられた画像撮影装置を有する。第5実施形態に係る照射システム80は、加速器11、荷電粒子ビーム輸送系13、ビーム調整部122、第1偏向磁石84(振分電磁石)、真空ダクト86、第2偏向電磁石88(収束電磁石)、治療台814および画像撮影装置820を備える。
【0128】
画像撮影装置820は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)を利用した装置およびX線画像装置などであってよい。画像撮影装置820は、標的に荷電粒子ビームを照射する前または照射する間に、標的の画像情報を生成する。患者内部の悪性腫瘍などの標的の形状を確認するためにX線画像装置を用いてよいが、MRIを用いることにより、X線撮影装置のような被爆が生じることを抑制できる。
【0129】
例えば、スプリット型電磁石を備えたMRIの場合、照射部14(
図16には図示しない。)はスプリット型電磁石の中央のギャップを照射ノズルが通過することとなる。しかしながら、照射部を駆動させるために大規模な駆動装置を備え付けると、照射ノズルを駆動させるために、スプリット型電磁石間の距離が離れることになり、結果、画質が悪化し、治療中の標的確認が困難になる。
【0130】
上記実施形態に係る第1駆動機構22および第2駆動機構24を有する駆動機構を用いることにより、重量物を駆動させる第1駆動機構の第1モータを小型に維持でき、台車260により第1モータを容易に取り付けることができる。高磁場を発生する画像診断装置を併用する場合は、その磁場が第1駆動機構の第1モータに影響を及ぼす。しかしながら、駆動機構の正常動作を行うため、当然ながらモータ周りに磁気シールドなどの対策を講じることで、何ら支障なく照射ヘッドの駆動を行うことができる。このため、ビーム軸方向およびギャップ間隔方向に広がらないように、照射部を設置できる。また、第2駆動機構は、牽引ガイド部により牽引部材をベースガイドに沿って押し付けるため、ビーム軸方向やギャップ間隔方向に広がらないように設置することができる。大規模な駆動装置を備える必要がないため、スプリット型磁石間のギャップを拡げることなく照射ノズルを駆動させることが可能となる。
【0131】
(補足)
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0132】
例えば、荷電粒子ビーム装置は、ビームラインを並進移動および回転させる構成を有してよい。このような構成は、例えば特許第6527168号、特許第6726357号に開示される。また、荷電粒子ビーム照射装置は、加速器がアイソセンタの周りをビームラインと一体的に回転できる構成を有してよい。そのような構成は、例えば特許第5221669号に開示される。
【符号の説明】
【0133】
1 荷電粒子ビーム照射システム、10 ビーム照射装置、14 照射部、20 駆動機構、22 第1駆動機構、24 第2駆動機構、40 治療制御装置、42 駆動制御装置、220 第1モータ、222 係合部、230 移動ガイド部、234 位置情報部、236 取得部、240 牽引装置、242 第2モータ、244 荷重測定部、252,254 シーブ、256 牽引ガイド部、260 台車(収容部)、820 画像撮影装置。