(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145776
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058268
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 直也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】松崎 有華
(72)【発明者】
【氏名】竹下 英里
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC01
4C082AN02
4C082AN05
(57)【要約】
【課題】放射線治療における治療計画に関する適切な情報を簡便に得るための技術を提供する。
【解決手段】情報処理装置は、放射線治療が行われる治療施設における業務の一部を治療施設に代わってリモートで実施するためのである。情報処理装置は、治療施設において取得された、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像を記憶した記憶部と、複数の第1の断層画像に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像に基づく、新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成する生成部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療が行われる治療施設における業務の一部を前記治療施設に代わってリモートで実施するための情報処理装置であって、
前記治療施設において取得された、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像を記憶した記憶部と、
前記複数の第1の断層画像に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像に基づく、前記新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成する生成部と、を備える、
情報処理装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記第1の断層画像について注意すべき領域を示す注意情報をさらに記憶し、
前記生成部は、前記注意情報に基づいて、前記第2の断層画像について注意すべき領域を示す情報を生成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第1の断層画像について、放射線治療の際に照射されるべき放射線の線量分布を算出する線量算出部と、
前記線量算出部が所定の制約の下で算出した線量分布と前記線量算出部が前記所定の制約無しで算出した線量分布との差分に基づく前記注意情報を取得する注意取得部と、をさらに備える、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記第1の断層画像および前記注意情報のセットを教師データとして学習処理を行い、前記第2の断層画像を入力として前記第2の断層画像について注意すべき領域を示す情報を出力する学習モデルを生成する学習部をさらに備え、
前記生成部は、前記第2の断層画像を前記学習モデルに入力することによって、前記第2の断層画像について注意すべき領域を示す情報を生成する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記第1の断層画像に基づく治療計画情報をさらに記憶し、
前記生成部は、前記第1の断層画像および前記治療計画情報を用いて、前記第2の断層画像に基づく治療計画情報の評価データを生成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記生成部は、前記第1の断層画像に基づく治療計画情報と前記第2の断層画像に基づく治療計画情報との類似度に基づいて、前記第2の断層画像に基づく治療計画情報の前記評価データを生成する、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記治療計画情報は、対応する断層画像の輪郭情報または放射線治療の際に照射されるべき放射線の線量分布情報を含む、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
放射線治療が行われる治療施設における業務の一部を前記治療施設に代わってリモートで実施するための情報処理方法であって、
前記治療施設において取得された、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像を記憶することと、
前記複数の第1の断層画像に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像に基づく、前記新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成することと、を含む、
情報処理方法。
【請求項9】
コンピュータに、放射線治療が行われる治療施設における業務の一部を前記治療施設に代わってリモートで実施するための情報処理方法を実行させるためのプログラムであって、
前記情報処理方法は、
前記治療施設において取得された、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像を記憶することと、
前記複数の第1の断層画像に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像に基づく、前記新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成することと、を含む、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患部にX線または粒子線などの放射線を照射して治療する放射線治療は、放射線の照射条件などを事前に決定した治療計画の下で行われる。たとえば特許文献1には、断層画像の関心領域に照射パラメータを設定し、関心領域に照射される放射線の照射線量を計算する治療計画装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、治療計画立案の十分な経験をもつ人材が治療施設において不足していると、治療計画の妥当性を判断することが難しく、円滑に治療計画を作成できないことがある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、放射線治療における治療計画に関する適切な情報を簡便に得るための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の情報処理装置は、放射線治療が行われる治療施設における業務の一部を治療施設に代わってリモートで実施するためのものである。情報処理装置は、治療施設において取得された、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像を記憶した記憶部と、複数の第1の断層画像に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像に基づく、新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成する生成部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、放射線治療が行われる治療施設における業務の一部を治療施設に代わってリモートで実施するための情報処理方法である。この情報処理方法は、治療施設において取得された、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像を記憶することと、複数の第1の断層画像に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像に基づく、新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成することと、を含む。
【0008】
本発明の別の態様は、コンピュータに、放射線治療が行われる治療施設における業務の一部を治療施設に代わってリモートで実施するための情報処理方法を実行させるためのプログラムである。この情報処理方法は、治療施設において取得された、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像を記憶することと、複数の第1の断層画像に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像に基づく、新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成することと、を含む。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放射線治療における治療計画に関する適切な情報を簡便に得るための技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る治療計画請負施設および治療施設を示す図である。
【
図2】放射線治療における治療計画の作成の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図3】第1実施形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【
図4】
図4(a)は、記憶部に蓄積された断層画像のデータセットを示す図であり、
図4(b)は、断層画像および抽出部が抽出した輪郭情報のセットを含むデータセットを示す図である。
【
図5】
図5(a)は、所定の制約の下で算出された線量分布の一例を示す図であり、
図5(b)は、所定の制約無しで算出された線量分布の一例を示す図である。
【
図6】注意取得部が生成する注意マップの一例を説明するための概念図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、学習モデルを用いて生成された注意マップの一例を説明するための図である。
【
図8】本実施形態に係る情報処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示した学習データの生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態に係る情報処理装置の機能ブロック図である。
【
図11】評価部が評価対象の治療計画情報を評価する一例を説明するための図である。
【
図12】第2実施形態に係る情報処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図12に示すデータセットの作成処理の流れを示すフローチャートである。
【
図14】第1実施形態に係る情報処理装置および第2実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、複数の構成要素の各々に同一符号のみを付する。たとえば、治療施設20aおよび治療施設20bのそれぞれを特に区別しないとき、これらを単に「治療施設20」と称する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る治療計画請負施設(以下、「センター10」とも称する。)および治療施設20を示す図である。センター10には、医師、医学物理士およびドシメトリストなどの専門家が所属し、治療施設20には、医師、医学物理士および放射線技師などの専門家が所属する。
【0014】
センター10は、放射線治療がそれぞれ行われる複数の治療施設20における業務の一部を治療施設20に代わってリモートで実施する。本実施形態では、センター10は、放射線治療における治療計画の立案の依頼を治療施設20から受け、その依頼に応じた治療計画関する情報を治療施設20に提供する。センター10は、たとえば治療計画の立案の依頼の際に、放射線治療の対象となる患部を含むCT(Computed Tomography)画像などの情報を治療施設20から取得し、治療施設20から取得した各種の情報はセンター10において蓄積される。なお、
図1には、2つの治療施設20a,20bを示すが、治療施設20の数は1施設であってよいし、3施設以上であってよい。
【0015】
本実施形態に係るセンター10は、情報処理装置100を有する。情報処理装置100は、放射線治療が治療施設20における業務の一部を治療施設20に代わってリモートで実施するためのものであり、放射線治療のための治療計画に関するデータを生成する。なお、情報処理装置100は、センター10に配置されている必要はなく、センター10の外部にサーバとして配置されてよい。この場合、たとえばセンター10内に配置された端末とサーバとがネットワークで接続され、ネットワークを通じてサーバを利用してよい。
【0016】
図2は、放射線治療における治療計画の作成の流れを説明するためのフローチャートである。以下、
図2に示すフローチャートに沿って、治療計画の作成の流れを説明する。以下で説明するS101~S113の作業は、主としてセンター10の主導で行われる。
【0017】
治療施設20の担当医は、患者の治療方針とともに治療に関わる検査画像などをセンター10に提供しているものとする。検査画像は、たとえばCT画像、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像およびPET(Positron Emission Tomography)画像などである。本明細書では、ある患者の検査画像について、1回の検査で取得された3次元画像を画像シリーズという。また、画像シリーズは、複数の画像で構成され、それぞれの画像を断層画像という。
【0018】
センター10の医師は、新たな放射線治療の対象となる患部を含む断層画像から輪郭を抽出する(S101)。具体的には、患部および臓器などの輪郭が断層画像から抽出される。S101における輪郭の抽出は、治療施設20の担当医によって行われてもよいし、センター10が有する自動輪郭抽出装置(図示しない。)を用いて行われてよい。次いで、医師は、S101において抽出した輪郭などに基づいて、放射線の照射方針を決定する(S103)。次いで、医学物理士は、照射パラメータを設定する(S105)。次いで、医学物理士は、S105において設定した照射パラメータに基づいて、線量分布を計算する(S107)。
【0019】
次いで、医学物理士は、S107において計算した線量分布およびDVH(Dose Volume Histogram)が許容内であるか否かを判断する(S109)。医学物理士が線量分布およびDVHが許容内であると判断した場合にはS111に進み、医学物理士が線量分布およびDVHが許容内でないと判断した場合にはS113に進む。
【0020】
S109において医学物理士が線量分布およびDVHが許容内でないと判断すると、医学物理士は、照射パラメータを修正する(S113)。照射パラメータが修正されると、S107において、修正された照射パラメータに基づき線量分布が計算される。
【0021】
S109において医学物理士が線量分布およびDVHが許容内であると判断すると、治療施設20の担当医は、ここまでの作業で得られた治療計画(たとえば抽出した輪郭、照射方針および線量分布など)を承認するか否かを判断する(S111)。このとき、治療施設20の担当医およびセンター10の医学物理士のやりとりを通じて、治療計画を承認するか否かが判断されてよい。あるいは、センター10内の医師および医学物理士がやりとりを行い、センター10内で臨床的見地に基づき治療計画が承認されたあと、治療施設20の担当医とセンター10内の医学物理士または/および医師とのやりとりを通じて、治療計画を承認するか否かが判断されてよい。治療計画が承認される場合にはS115に進み、治療計画が承認されない場合にはS113に進む。
【0022】
S111において治療施設20の担当医が治療計画を承認すると、医師など患者の治療に関わる医療スタッフなどで構成された治療施設20のカンファレンスは、治療計画を承認するか否かを判断する(S115)。カンファレンスが治療計画を承認する場合にはS117に進み、カンファレンスが治療計画を承認しない場合にはS113に進む。
【0023】
S115以降のフローにおいては、センター10あるいは治療施設20のいずれの医学物理士が作業を行ってもよい。S115においてカンファレンスが治療計画を承認する場合には、医療物理士は、患者QA(Patient specific Quality Assurance)プランを作成する(S117)。次いで、医学物理士は、S117において作成した患者QAプランに基づいて患者QA測定を行う(S119)。
【0024】
次いで、医学物理士は、S119における患者QA測定の結果を確認し、その測定値が許容内であるか否かを判断する(S121)。S121において医学物理士が測定値が許容内であると判断すると治療計画の作成は終了し、作成された治療計画に基づき放射線治療が行われる。S121において医学物理士が測定値が許容内でないと判断するとS123に進む。
【0025】
S121において医学物理士が測定値が許容内でないと判断すると、医学物理士がその測定値の誤差が大きいか否かを判断する(S123)。測定値の誤差が大きいと医学物理士が判断するとS113に進み、測定値の誤差が大きくないと医学物理士が判断するとS125に進む。
【0026】
S123において医学物理士が測定値の誤差が大きくないと判断すると、医学物理士は、患者QA測定における測定条件(測定位置など)を変更する(S125)。測定条件が変更されると、S119において、変更された測定条件で患者QA測定が行われる。
【0027】
以上、治療計画の流れを説明した。この治療計画の作成において、センター10は各種の情報を蓄積することができる。センター10は、たとえば、治療施設20から送られる断層画像、センター10において断層画像から抽出された輪郭および計算された線量分布などの情報を蓄積できる。
【0028】
センター10の医学物理士は、患者QAプランの測定結果をモンテカルロシミュレーションなどで予測してよい。測定条件が不適切な場合(照射野において小照射野および線量勾配の大きい領域などを含む)、センター10の医学物理士は、適切な測定条件で患者QAプランを修正し、そのQAプランを治療施設20に提供できる。治療施設20において放射線治療に対し十分な経験をもつ人材が不足していても、治療計画を代行するだけでなく、要望に応じて安全に治療を開始するサポートが可能である。
【0029】
図3は、第1実施形態に係る情報処理装置100の機能ブロック図である。本実施形態に係る情報処理装置100には、複数の治療施設20から提供された、患部をそれぞれ含む複数の画像シリーズ(以下、「第1の画像シリーズ」とも称する。)が格納されている。情報処理装置100は、その第1の画像シリーズを用いて、治療計画に関する各種のデータを生成する。
【0030】
第1の画像シリーズは、1回の検査で取得された複数の断層画像(以下、「第1の断層画像」とも称する。)で構成されてよい。なお、第1の画像シリーズは、治療施設20のカンファレンスで承認された治療計画情報と紐づく画像シリーズであってよいし、センター10内の医師によって承認された治療計画情報と紐づく画像シリーズであってよい。
【0031】
情報処理装置100の機能は、記憶部120、処理部140および通信部160が協働することにより実現される。
【0032】
記憶部120は、各種の情報を記憶する。記憶部120に記憶された各種の情報は、必要に応じて処理部140によって参照される。記憶部120は、たとえば、複数の治療施設20において取得されてセンター10に送られた、患部をそれぞれ含む複数の第1の断層画像(具体的には、第1の画像シリーズ)を記憶する。また、記憶部120は、記憶した第1の画像シリーズに基づき生成される各種の情報を記憶してよい。また、記憶部120は、処理部140による処理を実現するためのプログラムを記憶する。
【0033】
また、記憶部120は、第1の画像シリーズに基づき生成される治療計画情報を記憶してよい。この治療計画情報は、放射線治療において放射線の照射領域およびその線量などを示す情報であってよい。より具体的には、治療計画情報は、対応する第1の画像シリーズに含まれる患部および臓器などの輪郭を示す輪郭情報、および放射線治療の際に照射されるべき放射線の線量分布を示す線量分布情報などを含んでよい。
【0034】
記憶部120は、第1の断層画像について注意すべき領域を示す注意情報を記憶してよい。注意すべき領域は、一例として、安全な治療をするために線量を下げる必要がある領域である。注意情報は、たとえば、第1の断層画像において注意すべき領域を色付けしたマップ(以下、「注意マップ」ともいう。)であってよい。注意マップは、注意すべき度合いが大きい領域ほど濃くなるように色づけされたものであってよい。また、注意情報および対応する第1の画像シリーズのセットは、教師データとして記憶部120に記憶されてよい。
【0035】
処理部140は、各種の情報処理を行う。本実施形態に係る処理部140は、記憶部120に記憶された第1の画像シリーズを用いて、新たな放射線治療における患部を含む画像シリーズ(以下、「第2の画像シリーズ」とも称する。)に基づく、新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成する。より具体的には、処理部140は、第2の画像シリーズについて、輪郭の抽出、線量分布の算出、注意すべき領域を示す情報の生成などを行うことができる。第2の画像シリーズは、1回の検査で取得された複数の断層画像(以下、「第2の断層画像」とも称する。)で構成されてよい。
【0036】
通信部160は、各種の情報を送受信する。通信部160は、たとえば、処理部140における処理のための情報を治療施設20から受信してよく、具体的には、患部を含む第1の画像シリーズなどを治療施設20から受信してよい。また、通信部160は、たとえば、処理部140が生成した情報を治療施設20に送信してよく、具体的には、第2の画像シリーズについて注意すべき領域を示す情報などを送信してよい。
【0037】
本実施形態に係る処理部140は、抽出部142、線量算出部144、注意取得部146、学習部148および生成部150を生成する。
【0038】
抽出部142は、各種の公知の画像認識技術を用いて、第1の断層画像から各種の領域の輪郭を抽出し、その結果を輪郭情報として記憶部120に伝送する。抽出部142は、たとえば、患部および臓器などの輪郭を抽出し、その輪郭を特定する情報(患部および臓器の名称など)とともに、輪郭情報を記憶部120に伝送してよい。なお、輪郭の抽出は、医師などによって手動で行われてよい。また、抽出部142によって抽出された輪郭は、医師などの判断の下、必要に応じて修正されてよい。
【0039】
線量算出部144は、記憶部120に記憶された複数の第1の画像シリーズのそれぞれについて、放射線治療の際に照射されるべき放射線の線量分布を算出する。算出された線量分布を示す線量分布情報は、記憶部120に伝送される。ここで、センター10内の医学物理士および医師によって、照射方向および線量計算における制約などを検討して得られたパラメータが情報処理装置100に入力され、線量算出部144は、そのパラメータに基づき線量分布を算出してよい。
【0040】
たとえば、線量算出部144は、輪郭情報に基づいて、患部において線量が必要な値となるように、線量分布を算出してよい。また、線量算出部144は、所定の制約の下で線量分布を算出してよいし、その所定の制約無しで線量分布を算出してよい。所定の制約は、たとえば、特定の臓器に対応する輪郭内において線量が所定の閾値以下であることなどであってよい。このような制約の下で線量分布が算出されることで、放射線治療の際に、特定の臓器に放射線が照射されることが抑制される。
【0041】
注意取得部146は、記憶部120に記憶された第1の画像シリーズについて、注意すべき領域を示す注意情報を取得し、取得した注意情報を記憶部120に伝送する。具体的には、注意取得部146は、記憶部120に記憶された第1の画像シリーズについて、線量算出部144が所定の制約の下で算出した線量分布と線量算出部144が所定の制約無しで算出した線量分布との差分に基づく注意情報を取得してよい。たとえば、注意取得部146は、注意情報として注意マップを生成してよい。
【0042】
たとえば、注意取得部146は、
M(i)=ω(i)×|D1(i)-D2(i)|
で表されるマップM(i)を算出してよい。注意取得部146は、マップM(i)の値の大きさに応じた濃淡を有する画像データを注意マップとして生成してよい。ここで、iは第1の断層画像上の位置(3次元)を示し、ωはウェイト関数を示し、D1(i)は所定の制約の下で算出され、放射線治療に実際に使用された線量分布を示し、D2(i)は所定の制約なしで算出された線量分布を示す。ウェイト関数について、たとえば、抽出部142が得た患部および臓器などの輪郭と重複する領域においてω=1、それ以外の領域においてω=0にしてよい。あるいは、患部からの臓器の距離などの相対位置関係により濃淡をウェイト関数に付けてよい。また、ある特定の臓器、たとえば直列臓器についてはω=1、並列臓器については0<ω<1にしてよい。さらに、ウェイト関数は、複数の重み付けを加味したものであってよい。
【0043】
学習部148は、記憶部120に記憶された第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)および注意情報のセットを教師データとして学習処理を行い、第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)を入力としてその第2の断層画像について注意すべき領域を示す情報を出力する学習モデルを生成する。なお、教師データに用いられる第1の断層画像は、特定の臓器(たとえば心臓または肺など)が含まれるように特定される。学習モデルは、たとえば各種のニューラルネットワークなどで構成されてよい。生成された学習モデルに関する情報(たとえば学習パラメータなど)は、記憶部120に伝送されてよい。
【0044】
生成部150は、複数の第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)に基づく、新たな放射線治療のための治療計画に関するデータを生成する。たとえば、生成部150は、第1の画像シリーズの注意情報を用いて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)について、注意すべき領域を示す情報を生成する。
【0045】
たとえば、生成部150は、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)を学習部148によって生成された学習モデルに入力することによって、その第2の断層画像について注意すべき領域を示す情報を生成する。より具体的には、生成部150は、特定の臓器のための学習モデルを用いて、その臓器を含む第2の断層画像について注意すべき領域を示す注意マップを生成してよい。生成された注意マップは、通信部160を通じて、たとえば治療施設20に送信されてよい。
【0046】
図4(a)および
図4(b)を参照して、抽出部142が抽出する輪郭の一例を説明する。
図4(a)は、記憶部120に蓄積された第1の断層画像302のデータセット300を示す図であり、
図4(b)は、第1の断層画像302および抽出部142が抽出した輪郭情報のセット312を含むデータセット310を示す図である。
【0047】
図4(a)に示す、データセット300は、複数の第1の断層画像302を含む。抽出部142は、この第1の断層画像302から輪郭を抽出する。このとき、抽出部142は、複数の第1の断層画像302で構成される第1の画像シリーズ毎に輪郭を抽出してよい。
図4(b)に示すデータセット310は、第1の断層画像302および輪郭情報でそれぞれ構成された複数のセット312を含む。
図4(b)には、第1の断層画像302の上に、抽出部142によって抽出された2つの輪郭314,316が示される。
【0048】
図5(a)および
図5(b)を参照して、線量算出部144が算出する線量分布の一例を説明する。
図5(a)は、所定の制約の下で算出された線量分布の一例を示す図であり、
図5(b)は、所定の制約無しで算出された線量分布の一例を示す図である。
【0049】
図5(a)に示すデータセット320は、第1の断層画像302、輪郭情報および線量分布情報でそれぞれ構成された複数のセット322を含む。第1の断層画像302の輪郭情報は、患部の輪郭314および臓器の輪郭316を含む。ここでは、所定の制約が輪郭316において、放射線の線量が所定の閾値よりも小さくなることであるものとする。
図5(a)に示す例では、照射領域324は、その内部では線量が所定の閾値以上となるように算出され、その外部では線量が所定の閾値より小さくなるように算出される。これにより、輪郭316内の領域では線量が閾値よりも低くなる。この結果、放射線治療において、輪郭316に対応する臓器に不必要に放射線が照射されることを抑制できる。なお、所定の制約における閾値は臓器ごとに定められてよい。たとえば、患部の周囲にある正常臓器のうちの危険臓器に分類される臓器の閾値は、患部の閾値よりも低く定められてよい。このように、危険臓器は、治療計画に影響を及ぼす可能性がある。
【0050】
図5(b)に示すデータセット330は、第1の断層画像302、輪郭情報および線量分布情報でそれぞれ構成された複数のセット332を含む。
図5(b)に示す例では、
図5(a)に示す例で説明した所定の制約無しで線量分布が算出されている。この結果、照射領域334は、輪郭316で囲まれた領域の一部を含むように形成される。このため、照射領域334の一部において、線量が所定の閾値よりも高くなる。
【0051】
図6は、注意取得部146が生成する注意マップ344の一例を説明するための概念図である。
図6に示すデータセット340は、第1の断層画像302および注意マップ344でそれぞれ構成された複数のセット342を含む。
図6には、参考のため、
図5(a)および
図5(b)に示した輪郭314,316を破線で示している。
図6に示す注意マップ344は、所定の制約の下で算出された線量分布と所定の制約無しで算出された線量分布との差分である。
図6に示す例では、輪郭314と輪郭316との間で濃くなるように、注意マップ344が生成され、輪郭314と輪郭316との間が注意すべき領域としてより強調される。
【0052】
学習部148は、このように生成された注意マップ344および第1の断層画像302のセットを教師データとして学習処理を行い、第2の断層画像を入力として注意マップを出力する学習モデルを生成できる。
【0053】
図7(a)~(c)を参照して、学習モデルを用いて生成された注意マップの一例を説明する。ここでは、粒子線スキャニング照射方法で治療を行う治療施設における前立腺がんの症例で説明する。
図7(a)は、教師データの一例を示す図である。
図7(a)に示すデータセット3400(教師データ)は、第1の断層画像3042、注意マップ3440、輪郭3140,3161,3162および線量分布情報(図示せず)などでそれぞれ構成された複数のセット3420を含む。患部である前立腺(輪郭3140)と危険臓器である直腸(輪郭3161)との接する部分を中心に注意マップ3440が示される。ただし、ここでは注意の度合いを示す濃淡は表示していない。
【0054】
図7(b)は、新たな放射線治療における患部を含む複数の第2の断層画像3052を含むデータセット3500を示す図である。生成部150は、第2の断層画像3052(あるいは第2の断層画像3052で構成された第2の画像シリーズ)を学習モデルに入力することによって、その第2の断層画像3052について注意すべき領域を示す注意マップを生成できる。
【0055】
図7(c)では、学習モデルを用いて生成された注意マップ3540が第2の断層画像3052上に示される。第2の断層画像3052では、患部と危険臓器とが比較的離れている。よって、注意マップ3540が示す領域も相対的に小さくなっている。
【0056】
たとえば治療施設20の担当者は、注意マップ3540を参照することにより、第2の断層画像3052において注意すべき領域を確認でき、より正確に輪郭を抽出したり線量分布を計算したりできるようになる。ここで大腿骨頭(輪郭3162)も危険臓器である。しかしながら、粒子線治療などの体内深部で大きな線量付与を生ずる照射方法では、従来の照射方法とは異なり、粒子線のビームの進行方向において、患部前方に位置する危険臓器への注意の度合いが下がる。よって、大腿骨頭部には注意マップは示されていない。照射する線質の違い(たとえば、X線、陽子線、重粒子線など)、照射方法(X線治療における3次元原体照射と強度変調照射法など、粒子線治療におけるスキャニング照射法とパッシブ照射法など)の違いにより、注意マップの表示が切り替えられてもよい。これにより、従来の治療装置から新たな照射法を行う治療装置を導入したばかりの治療施設であっても、計画者の経験値に頼ることなく品質を維持した治療を行うことができる。また、複数の異なる線質、照射法の治療装置を導入している治療施設では、注意マップを確認するだけで、各照射装置で治療した場合の危険臓器への被ばく度合いを直感的に理解できる。
【0057】
図8は、本実施形態に係る情報処理装置100の動作の一例を示すフローチャートである。以下、
図8に示すフローチャートに沿って、情報処理装置100の動作を説明する。
【0058】
まず、処理部140は、学習データの生成処理を行う(S21)。これにより、学習データが生成される。学習データの生成処理の詳細は、
図8を参照して後述する。
【0059】
次いで、学習部148は、S21において生成された学習データを用いて学習処理を行い、学習モデルを生成する(S23)。具体的には、学習部148は、記憶部120に蓄積された第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)および注意情報のセットを教師データとして学習処理を行い、第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)を入力としてその第2の断層画像について注意すべき領域を示す情報を出力する学習モデルを生成する。
【0060】
次いで、生成部150は、S23において生成された学習モデルに、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(具体的には、第2の画像シリーズ)を入力することによって、その第2の断層画像について注意すべき領域を示す情報を生成する(S25)。
【0061】
図9は、
図8に示した学習データの生成処理(S21)の一例を示すフローチャートである。以下、
図9に示すフローチャートに沿って、学習データの生成処理の流れを説明する。
【0062】
まず、抽出部142は、記憶部120に蓄積された複数の第1の断層画像から輪郭を抽出する(S211)。たとえば、抽出部142は、記憶部120に蓄積された第1の画像シリーズのそれぞれについて、第1の画像シリーズを構成する第1の断層画像から輪郭を抽出してよい。このとき、抽出部142は、隣接する第1の断層画像において輪郭が滑らかにつながるように輪郭を抽出してよい。
【0063】
次いで、線量算出部144は、記憶部120に蓄積された複数の第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)について、所定の制約の下で線量分布を算出する(S213)。ここで、線量算出部144は、第1の画像シリーズ毎に線量分布を算出してよい。なお、S211およびS213における処理は、情報処理装置100によらず、医師または医学物理士が外部の装置を用いて手動で行ってよい。
【0064】
次いで、線量算出部144は、記憶部120に蓄積された複数の第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)について、所定の制約無しで線量分布を算出する(S215)。ここで、線量算出部144は、第1の画像シリーズ毎に線量分布を算出してよい。
【0065】
次いで、注意取得部146は、S213において所定の制約の下で算出された線量分布と、S215において所定の制約無しで算出された線量分布との差分に基づき、注意情報を生成する(S217)。生成された注意情報(たとえば注意マップなど)と第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)とのセットは、学習データ(教師データ)として記憶部120に記憶される。S217において注意情報が生成されると、学習データの生成処理は終了する。なお、学習データは、たとえば、治療施設20のカンファレンスで承認された治療計画、もしくはセンター10内の医師によって承認された治療計画に基づくデータセットである。
【0066】
治療施設20では、治療計画の立案の十分な経験をもつ人材が不足していることがある。このような治療施設20では、治療計画が効率的に進められないことが想定される。本実施形態に係るセンター10の情報処理装置100は、放射線治療のための治療計画に関するデータを生成できる。このため、治療施設20において人材不足であっても、治療計画およびその計画に基づく放射線治療を円滑に進めることができる。
【0067】
また、治療施設20では、断層画像から患部およびその患部に隣接する危険臓器などの輪郭の抽出に関して十分な経験をもつ人材が不足していることがある。この場合、治療施設20では、精度の高い輪郭の抽出を効率的に行うことができず、現場の負担が大きくなることがある。
【0068】
本実施形態に係るセンター10の情報処理装置100には、複数の断層画像およびそれらの画像からの線量分布情報が格納されている。本実施形態に係る情報処理装置100は、格納された複数の線量分布情報を用いて、断層画像において注意すべき領域を示す情報を生成するための学習モデルを生成する。また、情報処理装置100は、その学習モデルを用いて断層画像について、注意すべき領域を示す情報を注意マップとして生成する。
【0069】
治療施設20は、注意マップの作成をセンター10に依頼し、依頼に応じて作成されたされた注意マップを参照して、輪郭の抽出の際に注意すべき箇所を明確にすることが可能となる。この結果、人材不足の治療施設20においても、精度の高い輪郭を断層画像から抽出することが可能となる。
【0070】
(第2実施形態)
第2実施形態では、主として、処理部440の機能が第1実施形態と異なる。
図10は、第2実施形態に係る情報処理装置400の機能ブロック図である。第2実施形態に係る情報処理装置400は、記憶部420、処理部440および通信部460を備える。
【0071】
記憶部420は、第1実施形態に係る記憶部120と実質的に同一の機能を有し、第1実施形態に係る記憶部120と実質的に同一の情報を記憶してよい。第2実施形態に係る記憶部420は、複数の第1の画像シリーズのそれぞれについて、治療計画情報を記憶する。治療計画情報は、輪郭情報および線量分布情報を含む。記憶部420に記憶された情報は、必要に応じて処理部440によって参照される。また、記憶部420は、処理部440による処理を実現するためのプログラムを記憶する。
【0072】
第2実施形態に係る処理部440は、蓄積された複数の第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)およびその治療計画情報を用いて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)に基づく治療計画情報を評価し、その評価データを生成する。第2実施形態に係る処理部440は、抽出部442、線量算出部444、類似度算出部446および評価部448を有する。第2実施形態に係る抽出部442および線量算出部444のそれぞれは、第1実施形態に係る抽出部142および線量算出部144のそれぞれと実質的に同一の機能を有してよい。
【0073】
類似度算出部446は、第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)に基づく治療計画情報と、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)に基づく治療計画情報(以下、「評価対象の治療計画情報」とも称する。)との類似度を算出する。類似度算出部446が算出した結果は、評価部448に伝送される。
【0074】
具体的には、類似度算出部446は、データセットから所定の数の第1の画像シリーズおよび治療計画情報のセットを選択し、選択した治療計画情報のそれぞれと評価対象の治療計画情報との類似度を算出する。なお、第1の画像シリーズおよび選択した治療計画情報は、たとえば、治療施設20のカンファレンスで承認された治療計画、もしくはセンター10内の医師によって承認された治療計画に基づくデータセットである。
【0075】
たとえば、類似度算出部446は、同じ症例(たとえば、前立腺がんなど)のデータセットから、危険臓器と患部との相対位置関係および臓器サイズが似た症例を5例(具体的には、5人分)選択する。類似度算出部446は、この選択した5例の第1の画像シリーズのそれぞれから、3次元的に同じ場所の輪郭が描かれている第1の断層画像を取り出す。また、類似度算出部446は、第2の画像シリーズから同じ場所の輪郭が描かれている第2の断層画像を取り出す。類似度算出部446は、輪郭全体またはその輪郭に伴う線量分布全体について、取り出した第1の断層画像と第2の断層画像との類似度を算出する。具体的には、類似度算出部446は、第1および第2の断層画像を構成するボクセルを用いて類似度を算出する。ただし、ボクセルは、断層画像上で考えるとき、断層画像に含まれる最小画素となる。なお、類似度算出部446は、3次元的に輪郭を捉えたとき、断層画像と断層画像と間を補間した仮想的なボクセルを用いて類似度を算出してよい。
【0076】
たとえば、類似度算出部446は、データセットから5例の第1の画像シリーズおよび輪郭情報のセットを選択し、5つの輪郭情報のそれぞれと評価対象の輪郭情報とのDSC(Dice Similarity Coefficient)を算出し、算出した5例のDSCの平均値を輪郭情報の類似度としてよい。
DSCは、2つの集合(輪郭)をA,Bとしたとき、
DSC(A,B)=2|A∩B|/(|A|+|B|)
と表される。すなわち、DSC(A,B)は、2つの集合(輪郭)の重なる領域を2つの集合の領域(輪郭)の平均で割った値である。AおよびBが互いに完全に一致する場合にはDSCは1となり、AおよびBが互いに全く重ならない場合にはDSCは0となる。このDSCが大きいほど、2つの集合(輪郭)はよく似ているといえる。
【0077】
類似度算出部446は、抽出された輪郭の場所に応じたウェイトを付したDSCを算出してよい。具体的には、類似度算出部446は、第1実施形態において説明した注意マップにおいて強調される領域について、他の領域よりも大きいウェイトを付してよい。
【0078】
また、類似度算出部446は、データセットから5例の第1の画像シリーズおよび線量分布情報のセットを選択し、選択した5例の線量分布情報と評価対象の線量分布情報との類似度を算出してよい。具体的には、類似度算出部446は、5つの線量分布情報のそれぞれと評価対象の線量分布情報との正規化相互相関、相互情報量および差分二乗和などを算出し、5つの正規化相互相関、相互情報量および差分二乗和などの平均値を線量分布情報の類似度として算出してよい。
【0079】
正規化相互相関(NCC:Normalized Cross-Correlation)は、2つの線量分布をA(x、y),B(x、y)としたとき、次式で表される。
【数1】
【0080】
ここで、(x、y)は、断層画像におけるスライス位置での2次元座標を示す。分子は、2つの線量分布の内積を示し、両線量分布が似ているほど大きくなる。分母は分子を正規化する。NCCは、2つの線量分布が似ているほど大きくなり、最大で1、最小で0となる。
【0081】
差分二乗和(SSD:Sum of Squared Difference)は、2つの線量分布をA(x、y),B(x、y)としたとき、次式で表される。2つの線量分布が似ているほど、SSDの値は小さくなる。
【数2】
【0082】
評価部448は、新たな放射線治療における患部を含む第2の画像シリーズに関する治療計画情報を評価する。評価部448は、生成部として機能し、第1の断層画像(あるいは第1の画像シリーズ)に基づく治療計画情報と新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)に基づく治療計画情報との類似度に基づいて、新たな放射線治療における患部を含む第2の断層画像(あるいは第2の画像シリーズ)に関する治療計画情報の評価データを生成する。たとえば、評価部448は、輪郭情報の類似度および線量分布の類似度に基づいて、評価対象となる治療計画情報の評価データを生成できる。
【0083】
図11は、評価部448が評価対象の治療計画情報を評価する一例を説明するための図である。
図11では、横軸に輪郭情報の類似度を示し、縦軸に線量分布情報の類似度を示す。
図11には、算出された輪郭情報の類似度および線量分布情報の類似度をプロットしている。
【0084】
評価部448は、輪郭情報の類似度の閾値および線量分布情報の類似度の閾値を用いた評価基準に基づいて、評価対象の治療計画情報を評価できる。具体的には、評価部448は、輪郭情報の類似度が閾値X1以上であり、線量分布情報の類似度が閾値Y1以上である領域Aである治療計画情報P1を合格と評価できる。また、評価部448は、輪郭情報の類似度が閾値X1より低い治療計画情報P2および輪郭分布情報の類似度が閾値Y1より低い治療計画情報P3を不合格と評価してよい。なお、
図11には図示しないが、評価部448は、輪郭情報の類似度が閾値X1より低く、かつ、輪郭分布情報の類似度が閾値Y1より低い治療計画情報を不合格と評価してよい。
【0085】
図12は、第2実施形態に係る情報処理装置400の動作の一例を示すフローチャートである。以下、
図12に示すフローチャートに沿って、第2実施形態に係る情報処理装置400の動作の一例を説明する。
【0086】
まず、処理部440は、データセットの作成処理を行う(S31)。これにより、記憶部420に蓄積された複数の第1の画像シリーズのそれぞれについて、輪郭情報および線量分布情報が生成され、第1の画像シリーズ、輪郭情報および線量分布情報でそれぞれ構成された複数のセットを含むデータセットが生成されてよい。データセットの作成処理の詳細は、
図13を参照して後述する。
【0087】
次いで、類似度算出部446は、データセットの輪郭情報と評価対象となる輪郭情報との類似度を算出する(S33)。たとえば、類似度算出部446は、5例のデータセットから比較する輪郭情報を選択し、選択した評価対象の輪郭情報に対してDSCの平均値を算出してよい。評価対象となる輪郭情報が複数ある場合には、類似度算出部446は、評価対象となる輪郭情報のそれぞれに対して適切な重み付けをして算出したDSCの平均値から類似度を算出してよい。
【0088】
次いで、類似度算出部446は、データセットの線量分布情報と評価対象となる線量分布情報との類似度を算出する(S35)。たとえば、類似度算出部446は、5例のデータセットから比較する線量分布情報を選択し、選択した評価対象の線量分布情報に対して正規化相互相関などの指標の平均値から、類似度を算出してよい。
【0089】
次いで、評価部448は、S33において算出した輪郭情報の類似度およびS35において算出した線量分布情報の類似度に基づいて、評価対象の治療計画情報を評価する(S37)。
【0090】
図13は、
図12に示すデータセットの作成処理(S31)の流れを示すフローチャートである。第2実施形態に係る情報処理装置400は、
図9に示すS211~S213の処理と同様にして、S211~S213の処理を行ってよい。これにより、第1の断層画像(より具体的には、第1の画像シリーズ)について、輪郭情報および線量分布情報が得られ、データセットが生成される。なお、S311およびS313の処理は、医師または医学物理士が、情報処理装置400とは別の装置を用いて第1の画像シリーズから輪郭の抽出および線量分布の計算を行うことで実施されてよい。
【0091】
治療施設20において、断層画像からの輪郭の抽出および線量分布の計算に関して十分な経験をもつ人材が不足していることがある。このような人材不足により、治療施設20において作成した治療計画が放射線治療に耐え得る品質であるかどうかの判断が困難である場合がある。
【0092】
本実施形態に係る情報処理装置400は、蓄積された複数の断層画像とそれぞれの治療計画情報に基づく評価基準を用いて、評価対象となる治療計画情報を評価することができる。また、この評価基準は、各治療施設20に提供することも可能である。その結果、治療施設20は、自施設の医師および医学物理士などの治療計画立案者に対して、治療計画の品質保証についてトレーニングを行うことができる。
【0093】
治療施設20は、センター10に作成した治療計画情報を提供し、その治療計画情報の妥当性の判断を依頼する。センター10は、依頼に応じて情報処理装置400によって評価結果および評価基準を治療施設20に提供できる。これにより、治療施設20は、作成した治療計画が放射線治療に耐え得る品質であるかどうかを容易に判断することが可能となり、人材不足であっても治療計画を短時間で効率的に進めることができる。また、治療計画の評価は、カンファレンスの機能の少なくとも一部を代替し得る。
【0094】
(ハードウェア構成)
図14は、第1実施形態に係る情報処理装置100および第2実施形態に係る情報処理装置400のハードウェア構成の一例を示す図である。情報処理装置100,400は、プロセッサ101、記憶装置102、通信装置103、入力操作を受け付ける入力装置104および情報を出力する出力装置105を備える。
【0095】
プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)およびGPU(Graphical Processing Unit)などを含む。プロセッサ101は、第1実施形態に係る処理部140および第2実施形態に係る処理部440としての機能を実現してよい。
【0096】
記憶装置102は、メモリ、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)などを含む。記憶装置102は、第1実施形態に係る記憶部120および第2実施形態に係る記憶部420としての機能を実現してよい。
【0097】
通信装置103は、外部と情報を送受信するための通信インターフェースである。通信装置103は、第1実施形態に係る通信部160および第2実施形態に係る通信部460としての機能を実現してよい。
【0098】
入力装置104は、たとえば、キーボード、タッチパネル、マウスおよびマイクなどを含む。出力装置105は、たとえば、ディスプレイ、タッチパネルおよびスピーカなどを含む。
【0099】
(補足)
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0100】
上記実施形態では、主として、複数の情報処理装置100が、複数の治療施設20のデータ(具体的には、第1の画像シリーズ、輪郭情報および線量分布情報など)を蓄積することを想定した。これに限らず、情報処理装置100は、単一の治療施設20のデータを蓄積し、そのデータを用いて学習モデルを生成してよい。このカスタマイズされた学習モデルは、当該治療施設20に提供されてよい。あるいは、複数の治療施設20からのデータを情報処理装置100に蓄積し、そのデータを用いて汎用的な学習モデルを生成してよい。その学習モデルは、任意の治療施設20に提供されてよい。
【符号の説明】
【0101】
10 センター、20 治療施設、100,400 情報処理装置、120,420 記憶部、140,440 処理部、160,460 通信部、302 断層画像、314,316 輪郭、324,334 照射領域、344 注意マップ、142,442 抽出部、144,444 線量算出部、146 注意取得部、148 学習部、150 生成部、446 類似度算出部、448 評価部。