IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2024-145778ナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラム
<>
  • 特開-ナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラム 図1
  • 特開-ナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラム 図2
  • 特開-ナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145778
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B82B 3/00 20060101AFI20241004BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241004BHJP
   G01N 21/27 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
B82B3/00
B82Y40/00
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058271
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】漆原 誠
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮
(72)【発明者】
【氏名】軽部 允也
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB09
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH02
2G059JJ01
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM10
(57)【要約】
【課題】所望の光学特性を有するナノ粒子の設計を支援する。
【解決手段】ナノ粒子スクリーニングシステムは、所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する材料選定部と、組合せ最適化を用いてコアおよび複数層のシェルの構造を選定し材料選定部によって選定された複数の材料をコアと複数層のシェルのそれぞれとに適用する組み合わせ処理部とを備え、材料選定部は光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって作成される予測モデルを用いて複数の材料を選定し、組み合わせ処理部は複数の材料等とコアおよび複数層のシェルの構造ならびにコアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習を行い、材料選定部による選定と組み合わせ処理部による処理とが交互に繰り返し行われる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する材料選定部と、
組合せ最適化を用いることによって、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、前記材料選定部によって選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する組み合わせ処理部とを備え、
前記材料選定部は、光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルを作成し、前記予測モデルを用いて複数の材料を選定し、
前記組み合わせ処理部は、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習を行い、
前記材料選定部による選定と、前記組み合わせ処理部による処理とが交互に繰り返し行われ、
前記材料選定部による選定の2回目以降の実行時には、前記組み合わせ処理部による処理の結果が前記第1学習データに追加された機械学習が行われ、
前記材料選定部の2回目以降の機械学習に用いられる前記第1学習データには、前記組み合わせ処理部によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理部によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性を示す情報が含まれ、
前記材料選定部の2回目以降の機械学習では、前記第1学習データとして、前記組み合わせ処理部によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理部によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であって前記所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子を構成する複数の材料との組が用いられる、
ナノ粒子スクリーニングシステム。
【請求項2】
前記組み合わせ処理部によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理部によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに、前記材料選定部によって選定された複数の材料が適用されたナノ粒子である評価対象ナノ粒子が有する光学特性の評価を行う性能評価部を備え、
前記性能評価部は、前記評価対象ナノ粒子が有する光学特性の分光スペクトルと、前記所望の光学特性の分光スペクトルとの差異を、1次元の値によって評価した値である性能指数を算出する性能指数算出部を備える、
請求項1に記載のナノ粒子スクリーニングシステム。
【請求項3】
前記性能指数算出部は、
透過スペクトル図において、前記透過スペクトル図の横軸と、前記評価対象ナノ粒子が有する光学特性の透過スペクトル曲線とによって囲まれる部分の面積に基づいて前記性能指数を算出する、
請求項2に記載のナノ粒子スクリーニングシステム。
【請求項4】
前記材料選定部は、
説明変数として、前記材料選定部によって選定される複数の材料のそれぞれの光学定数を用い、
前記性能評価部によって光学特性の評価が行われる波長範囲を5~20分割し、
5~20分割された波長範囲毎に値が異なる光学定数を組み合わせて説明変数とする、
請求項2に記載のナノ粒子スクリーニングシステム。
【請求項5】
前記材料選定部は、
説明変数として、前記材料選定部によって選定される複数の材料のそれぞれの光学定数を用い、
前記性能評価部によって光学特性の評価が行われる波長範囲内の各波長の光学定数の値の平均値を説明変数とする、
請求項2に記載のナノ粒子スクリーニングシステム。
【請求項6】
前記組み合わせ処理部は、FM(Factorization Machine)を用いた組合せ最適化を行う、
請求項1に記載のナノ粒子スクリーニングシステム。
【請求項7】
所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する材料選定ステップと、
組合せ最適化を用いることによって、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、前記材料選定ステップにおいて選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する組み合わせ処理ステップとを備えるナノ粒子スクリーニング方法であって、
前記材料選定ステップでは、光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成され、前記予測モデルを用いて複数の材料が選定され、
前記組み合わせ処理ステップでは、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習が行われ、
前記材料選定ステップにおける選定と、前記組み合わせ処理ステップにおける処理とが交互に繰り返し行われ、
前記材料選定ステップにおける選定の2回目以降の実行時には、前記組み合わせ処理ステップにおける処理の結果が前記第1学習データに追加された機械学習が行われ、
前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習に用いられる前記第1学習データには、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性を示す情報が含まれ、
前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習では、前記第1学習データとして、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であって前記所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子を構成する複数の材料との組が用いられる、
ナノ粒子スクリーニング方法。
【請求項8】
コンピュータに、
所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する材料選定ステップと、
組合せ最適化を用いることによって、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、前記材料選定ステップにおいて選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する組み合わせ処理ステップとを実行させるためのプログラムであって、
前記材料選定ステップでは、光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成され、前記予測モデルを用いて複数の材料が選定され、
前記組み合わせ処理ステップでは、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習が行われ、
前記材料選定ステップにおける選定と、前記組み合わせ処理ステップにおける処理とが交互に繰り返し行われ、
前記材料選定ステップにおける選定の2回目以降の実行時には、前記組み合わせ処理ステップにおける処理の結果が前記第1学習データに追加された機械学習が行われ、
前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習に用いられる前記第1学習データには、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性を示す情報が含まれ、
前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習では、前記第1学習データとして、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であって前記所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子を構成する複数の材料との組が用いられる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラムに関する。
特には、本発明は、構成物質や構造で光学特性を調整できるナノ粒子で、所望の光学特性をもつナノ粒子を構成する材料・構造を効率的にスクリーニングするための手法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が数十~数百ナノメートルの粒子(以降「ナノ粒子」あるいは「ナノシェル粒子」と称する)は、紫外~可視~近赤外域の光に応答する材料として、特にプラズモン共鳴を利用して特定の波長で強く光を吸収する用途等で、利用されている。用途に応じて要求される光学特性(波長ごとの吸収、散乱、透過)が異なるために、用途毎に所望の光学特性を持つ材料が種々開発され、用いられている。
特許文献1には、波長550nmの光の透過率が低く、波長365nmの光の透過率が高いナノ粒子の製造方法について記載されている。
【0003】
近年、機械学習技術が、材料開発に広く用いられるようになっている。例えば、材料開発の課題において、ガラスの組成と物性に対してガウス過程回帰を用いた機械学習モデルで物性を予測する技術が特許文献2に記載されている。
【0004】
材料開発の課題を組合せ最適化問題として扱い、量子アニーリングを用いてより良い組合せの材料を探索する方法が、例えば非特許文献1において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-180036号公報
【特許文献2】特開2022-065466号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Kitai et al., Designing metamaterials with quantum annealing and factorization machines, Physical Review Research, Vol.2, 013319 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された技術では、ナノ粒子が光学材料として利用されている。ナノ粒子は、更に外層に異なる物質を1層以上コーテイングすることで、用途に応じた更に優れた光学特性を持った材料とすることもできる。そのような材料を見出す際には、従来からの経験を基にして、粒子の設計・選定を行う。しかし、従来に取り扱ったことがないような光学特性、ナノ粒子構造、原料を対象とする場合は、候補となる組み合わせが多くなり、所望とする光学特性をもつナノ粒子を、効率的に設計できない、といった問題があった。また、光学特性は通常波長依存性を持つが、その評価方法として特定の波長のみ(例えば代表波長2点における光学特性の比)に注目して評価が行われていたため、対象とする波長域全体に対して、最適な光学特性をもったナノ粒子の選定が、十分に行われていなかった。
【0008】
特許文献2に記載された技術では、取得済みのデータを基に、未取得な材料の特性を予測できる機械学習モデルを作り、ベイズの理論に基づいて、最適な材料を効率的に探索する方法が用いられる。特許文献2に記載された方法では、候補となる材料すべてに対して予測モデルを使った特性予測を行う必要がある。一方、候補対象の数が膨大な場合、特許文献2に記載された方法では、予測に時間がかかりすぎてしまうといった問題があった。また、予測に基づきデータを取得した場合、再度モデルを作り直すことが一般的であり、候補材料が膨大な場合は、このプロセスに膨大な時間を要するといった課題があった。
【0009】
非特許文献1に記載された技術では、FM(Factorization machine)と呼ばれる回帰手法を使うことで、量子アニーリングやシミュレーテッドアニーリングと呼ばれる解法を利用し、候補とする材料の数が膨大な場合も組合せ最適化問題として材料設計ができるようになった。しかし、FMによる機械学習モデルは、課題によってはモデルの精度が十分ではなく、効率的に材料の探索が行えないといった課題があった。また、非特許文献1に記載された手法は、データベースからのスクリーニングには適していない手法であった。
【0010】
上述した点に鑑み、本発明は、所望の光学特性を有するナノ粒子の設計を支援することができるナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する材料選定部と、組合せ最適化を用いることによって、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、前記材料選定部によって選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する組み合わせ処理部とを備え、前記材料選定部は、光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルを作成し、前記予測モデルを用いて複数の材料を選定し、前記組み合わせ処理部は、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習を行い、前記材料選定部による選定と、前記組み合わせ処理部による処理とが交互に繰り返し行われ、前記材料選定部による選定の2回目以降の実行時には、前記組み合わせ処理部による処理の結果が前記第1学習データに追加された機械学習が行われ、前記材料選定部の2回目以降の機械学習に用いられる前記第1学習データには、前記組み合わせ処理部によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理部によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性を示す情報が含まれ、前記材料選定部の2回目以降の機械学習では、前記第1学習データとして、前記組み合わせ処理部によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理部によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であって前記所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子を構成する複数の材料との組が用いられる、ナノ粒子スクリーニングシステムである。
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムによれば、材料選定部において、材料候補を選定する問題に絞り、機械学習モデル(予測モデル)を使ったベイズ最適化を行うことで、効率的に材料候補を選定することができる。さらにナノ粒子の構造(コア径やシェル厚み)の候補、ならびに材料選定部において選定された構成材料をコアとシェルに適用する、という多くの組み合わせの中から、もっとも所望の光学特性に近い光学特性を有するナノ粒子を選定する際には、組合せ最適化を用いることで効率的に、所望の光学特性を持つナノ粒子の構造の選定および構成材料の適用を実行することができる。
【0012】
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムは、前記組み合わせ処理部によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理部によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに、前記材料選定部によって選定された複数の材料が適用されたナノ粒子である評価対象ナノ粒子が有する光学特性の評価を行う性能評価部を備え、前記性能評価部は、前記評価対象ナノ粒子が有する光学特性の分光スペクトルと、前記所望の光学特性の分光スペクトルとの差異を、1次元の値によって評価した値である性能指数を算出する性能指数算出部を備えてもよい。
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムでは、前記性能指数算出部は、透過スペクトル図において、前記透過スペクトル図の横軸と、前記評価対象ナノ粒子が有する光学特性の透過スペクトル曲線とによって囲まれる部分の面積に基づいて前記性能指数を算出してもよい。
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムがそのように構成される場合には、特定の波長のみではなく、対象とする波長域全体に対して、最適な光学特性をもったナノ粒子の設計を支援することができる。
【0013】
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムでは、前記材料選定部は、説明変数として、前記材料選定部によって選定される複数の材料のそれぞれの光学定数を用い、前記性能評価部によって光学特性の評価が行われる波長範囲を5~20分割し、5~20分割された波長範囲毎に値が異なる光学定数を組み合わせて説明変数としてもよい。
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムでは、前記材料選定部は、説明変数として、前記材料選定部によって選定される複数の材料のそれぞれの光学定数を用い、前記性能評価部によって光学特性の評価が行われる波長範囲内の各波長の光学定数の値の平均値を説明変数としてもよい。
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムがそのように構成される場合には、材料選定部の予測モデルを作る際に、ナノ粒子の光学特性に強く影響すると思われる候補材料の光学定数を組み合わせた量を説明変数として利用することで、評価したい波長域において複数利用した機械学習モデル(予測モデル)を作成できるので、予測精度に優れる予測モデルを作成することができ、効率的な探索が可能である。説明変数が多すぎると予測モデルが複雑になり予測精度が落ちてしまうが、少なすぎても表現力が無くなるので、説明変数の数は10~40程度が適している。
【0014】
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムでは、前記組み合わせ処理部は、FM(Factorization Machine)を用いた組合せ最適化を行ってもよい。
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニングシステムがそのように構成される場合、組合せ最適化の方法としては、現在組合せ最適化として汎用な問題へ適用可能なことから注目を集めている量子アニーリングやシミュレーテッドアニーリングという方法やイジングマシン、アニーリングマシンに対して、どのような問題であっても広く適用が可能な Factorization Machineを使った材料探索手法を利用することによって、より効率的に膨大な組み合わせの中から最良のナノ粒子を効率的に見つけ出すことができる。
【0015】
本発明の一態様は、所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する材料選定ステップと、組合せ最適化を用いることによって、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、前記材料選定ステップにおいて選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する組み合わせ処理ステップとを備えるナノ粒子スクリーニング方法であって、前記材料選定ステップでは、光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成され、前記予測モデルを用いて複数の材料が選定され、前記組み合わせ処理ステップでは、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習が行われ、前記材料選定ステップにおける選定と、前記組み合わせ処理ステップにおける処理とが交互に繰り返し行われ、前記材料選定ステップにおける選定の2回目以降の実行時には、前記組み合わせ処理ステップにおける処理の結果が前記第1学習データに追加された機械学習が行われ、前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習に用いられる前記第1学習データには、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性を示す情報が含まれ、前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習では、前記第1学習データとして、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であって前記所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子を構成する複数の材料との組が用いられる、ナノ粒子スクリーニング方法である。
本発明の一態様のナノ粒子スクリーニング方法によれば、材料選定ステップにおいて、材料候補を選定する問題に絞り、機械学習モデル(予測モデル)を使ったベイズ最適化を行うことで、効率的に材料候補を選定することができる。さらにナノ粒子の構造(コア径やシェル厚み)の候補、ならびに材料選定ステップにおいて選定された構成材料をコアとシェルに適用する、という多くの組み合わせの中から、もっとも所望の光学特性に近い光学特性を有するナノ粒子を選定する際には、組合せ最適化を用いることで効率的に、所望の光学特性を持つナノ粒子の構造の選定および構成材料の適用を実行することができる。
【0016】
本発明の一態様は、コンピュータに、所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する材料選定ステップと、組合せ最適化を用いることによって、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、前記材料選定ステップにおいて選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する組み合わせ処理ステップとを実行させるためのプログラムであって、前記材料選定ステップでは、光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成され、前記予測モデルを用いて複数の材料が選定され、前記組み合わせ処理ステップでは、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習が行われ、前記材料選定ステップにおける選定と、前記組み合わせ処理ステップにおける処理とが交互に繰り返し行われ、前記材料選定ステップにおける選定の2回目以降の実行時には、前記組み合わせ処理ステップにおける処理の結果が前記第1学習データに追加された機械学習が行われ、前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習に用いられる前記第1学習データには、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性を示す情報が含まれ、前記材料選定ステップにおける2回目以降の機械学習では、前記第1学習データとして、前記組み合わせ処理ステップにおいて選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、前記組み合わせ処理ステップにおいてコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であって前記所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子を構成する複数の材料との組が用いられる、プログラムである。
本発明の一態様のプログラムによれば、材料選定ステップにおいて、材料候補を選定する問題に絞り、機械学習モデル(予測モデル)を使ったベイズ最適化を行うことで、効率的に材料候補を選定することができる。さらにナノ粒子の構造(コア径やシェル厚み)の候補、ならびに材料選定ステップにおいて選定された構成材料をコアとシェルに適用する、という多くの組み合わせの中から、もっとも所望の光学特性に近い光学特性を有するナノ粒子を選定する際には、組合せ最適化を用いることで効率的に、所望の光学特性を持つナノ粒子の構造の選定および構成材料の適用を実行することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所望の光学特性を有するナノ粒子の設計を支援することができるナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1の一例を示す図である。
図2】第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】実施例において得られたナノ粒子の透過スペクトル曲線などを示す透過スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、本発明のナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラムの第1実施形態について説明する。
【0020】
図1は第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1の一例を示す図である。
図1に示す例では、ナノ粒子スクリーニングシステム1が、材料選定部11と、組み合わせ処理部12と、性能評価部13とを備えている。
材料選定部11は、所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する。
図1に示す例では、材料選定部11が4種類の材料を選定するが、他の例では、材料選定部11が4以外の任意の複数種類の材料を選定してもよい。
【0021】
図1に示す例では、材料選定部11が、光学特性と複数の材料との組(詳細には、既知の光学特性を有するナノ粒子を構成する複数の材料を示すデータ)を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルを作成する。材料選定部11は、ガウス過程回帰を予測モデルの関数に用いてベイズ最適化を行う。
ベイズ最適化プログラムとしては、例えば、下記の文献Aに記載されたプログラムであって、下記のURLが示すwebサイトにおいて利用可能なプログラムであるPHYSBOが用いられる。
文献A:Y.Motoyama et al Bayesian optimization package: PHYSBO Computer Physics Communications 278, 108405 (2022)
https://issp-center-dev.github.io/PHYSBO/manual/master/ja/index.html
他の例では、上記のプログラムとは異なるプログラムや回帰モデルを用いることによって、材料選定部11が複数の材料を選定してもよい。
【0022】
図1に示す例では、予測モデルが作成された後(つまり、第1学習データを用いた機械学習が行われた後)、例えばナノ粒子スクリーニングシステム1の利用者によって所望の光学特性が材料選定部11に入力されると、材料選定部11は、予測モデルを用いることによって、材料選定部11に入力された所望の光学特性を有するナノ粒子を実現するために必要な、ナノ粒子を構成する複数の材料を選定し出力する。
【0023】
組み合わせ処理部12は、組合せ最適化を用いることによって、材料選定部11に入力された所望の光学特性を有するナノ粒子を実現するために必要な、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、材料選定部11に入力された所望の光学特性を有するナノ粒子を実現するために、材料選定部11によって選定された複数の材料(材料選定部11から出力された複数の材料)を、コアと複数層のシェルのそれぞれとに適用する。
組み合わせ処理部12は、FM(Factorization Machine)を用いた組合せ最適化を行う。組合せ最適化に関しては、例えば、非特許文献1に記載されたプログラムであって、下記のURLが示すwebサイトにおいて利用可能なプログラムであるFMQAが用いられる。
https://github.com/tsudalab/fmqa
他の例では、上記のプログラムとは異なるプログラムを用いることによって、組み合わせ処理部12が、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、材料選定部11によって選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用してもよい。
【0024】
図1に示す例では、組み合わせ処理部12が、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組(詳細には、既知の複数の材料によって構成されるナノ粒子(既知の光学特性を有するナノ粒子)のコアおよび複数層のシェルの構造と、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用とを示すデータ)を第2学習データとして用いた機械学習を行う。
第2学習データを用いた機械学習が行われた後、例えばナノ粒子スクリーニングシステム1の利用者によって、材料選定部11から出力された複数の材料(つまり、材料選定部11によって選定された複数の材料)および光学特性(例えば材料選定部11に入力された所望の光学特性)が組み合わせ処理部12に入力されると、組み合わせ処理部12は、材料選定部11に入力された所望の光学特性を有するナノ粒子を実現するために必要な、コアおよび複数層のシェルの構造(例えばコアの半径、コアの周りのシェルの層の数、シェルの各層の厚み等)と、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用(材料選定部11によって選定された複数の材料と、コアおよび複数層のシェルとの対応関係)とを出力する。
【0025】
性能評価部13は、組み合わせ処理部12によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、材料選定部11によって選定された複数の材料が、コアと複数層のシェルのそれぞれとに組み合わせ処理部12によって適用されたナノ粒子である評価対象ナノ粒子が有する光学特性の評価を行う。性能評価部13は、データ取得部13Aと、吸収効率係数算出部13Bと、散乱効率係数算出部13Cと、透過スペクトル算出部13Dと、性能指数算出部13Eとを備えている。
データ取得部13Aは、ナノ粒子を構成し得る材料(材料選定部11によって選定され得る材料)の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を、例えば下記のURLが示す材料の光学定数のデータベースのwebサイト「RefractiveIndex.INFO」等から取得する。
https://refractiveindex.info/
【0026】
吸収効率係数算出部13Bは、例えば下記の文献Bに記載されたプログラムであって、下記のURLが示すwebサイトにおいて利用可能なプログラムであるscattnlayプログラムを用いることによって、真空中に評価対象ナノ粒子が1つ存在する場合における所定の波長の光に対する吸収効率係数QabsをMie理論に基づいて算出する。
文献B:O. Pena and U. Pal, Scattering of electromagnetic radiation by a multilayered sphere, Computer Physics Communications, vol. 180, Nov. 2009, pp. 2348-2354.
https://github.com/ovidiopr/scattnlay
【0027】
散乱効率係数算出部13Cは、例えば上記のscattnlayプログラムを用いることによって、真空中に評価対象ナノ粒子が1つ存在する場合における所定の波長の光に対する散乱効率係数QscaをMie理論に基づいて算出する。
透過スペクトル算出部13Dは、評価対象ナノ粒子が均一に分散していると仮定した上で、吸収効率係数算出部13Bによって算出された吸収効率係数Qabsと、散乱効率係数算出部13Cによって算出された散乱効率係数Qscaと、下記の(1)式とに基づいて透過スペクトルTを算出する。
T=exp[-1×(Qabs+Qsca)×S×C×L]…(1)
【0028】
(1)式において、Sは評価対象ナノ粒子の直径から求まる断面積、Cは評価対象ナノ粒子の数密度、Lは光を透過させる評価対象ナノ粒子が分散している領域の光路長である。
【0029】
性能指数算出部13Eは、評価対象ナノ粒子が有する光学特性の分光スペクトル(透過スペクトル)と、所望の光学特性の分光スペクトル(透過スペクトル)との差異を、1次元の値によって評価した値である性能指数FOMを算出する。
例えば、性能指数算出部13Eは、横軸を波長、縦軸を透過率0~1で表した透過スペクトル図(後述する図3参照)において、透過スペクトル図の横軸と、評価対象ナノ粒子が有する光学特性の透過スペクトル曲線(図3中の「実施例」で示す曲線)(つまり、透過スペクトル算出部13Dによって算出される評価対象ナノ粒子の透過スペクトルTを示す曲線)とによって囲まれる部分の面積S1、S2に基づいて性能指数FOMを算出する。詳細には、性能指数算出部13Eは、下記の(2)式に基づいて性能指数FOMを算出する。
FOM=-1×[S1/w1-S2/w2]…(2)
【0030】
(2)式において、S1は透過率を1としたい波長範囲幅w1における評価対象ナノ粒子の透過スペクトル曲線と透過スペクトル図の横軸とによって囲まれる部分の面積であり、S2は透過率を0としたい波長範囲幅w2における評価対象ナノ粒子の透過スペクトル曲線と透過スペクトル図の横軸とによって囲まれる部分の面積である。
【0031】
図1に示す例では、例えばナノ粒子スクリーニングシステム1の利用者が所望の光学特性を有するナノ粒子を設計する時に、材料選定部11による複数の材料の選定と、組み合わせ処理部12による処理(ナノ粒子の構造の選定、コアおよび複数層のシェルに対する材料の適用)とが交互に繰り返し行われる。
詳細には、図1に示す例では、材料選定部11による複数の材料の選定、および、組み合わせ処理部12による処理(ナノ粒子の構造の選定、コアおよび複数層のシェルに対する材料の適用)が実行される毎に、性能評価部13は、組み合わせ処理部12によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、材料選定部11によって選定された複数の材料が、コアと複数層のシェルのそれぞれとに組み合わせ処理部12によって適用されたナノ粒子(評価対象ナノ粒子)が有する光学特性の評価を行う。
【0032】
材料選定部11による複数の材料の選定の2回目以降の実行時には、組み合わせ処理部12による処理(ナノ粒子の構造の選定、コアおよび複数層のシェルに対する材料の適用)の結果が第1学習データに追加された機械学習が行われる。
詳細には、材料選定部11の2回目以降の機械学習に用いられる第1学習データには、組み合わせ処理部12によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、組み合わせ処理部12によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性を示す情報(性能指数算出部13Eによって算出された性能指数FOMの値)が含まれる。
材料選定部11の2回目以降の機械学習では、第1学習データとして、組み合わせ処理部12によって選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、組み合わせ処理部12によってコアと複数層のシェルのそれぞれとに複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であって所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子を構成する複数の材料との組が用いられる。
【0033】
つまり、材料選定部11による(N+1)回目(Nは1以上の整数)の機械学習時には、性能評価部13によるN回目の評価時に所望の光学特性に最も近い光学特性と評価された光学特性を有するナノ粒子を実現するために必要な、材料選定部11によるN回目の選定時に選定された複数の材料を示すデータが、第1学習データに追加される。
その結果、材料選定部11の2回目以降の機械学習が行われることによって、所望の光学特性に最も近い光学特性を実現する複数の材料が、2回目以降の学習済の予測モデルから出力されるようになる。
【0034】
すなわち、図1に示す例では、材料選定部11による複数の材料の選定と、組み合わせ処理部12による処理(ナノ粒子の構造の選定、コアおよび複数層のシェルに対する複数の材料の適用)とが交互に繰り返し行われることによって、良質な第1学習データを用いた材料選定部11の機械学習と、第2学習データを用いた組み合わせ処理部12の機械学習とが繰り返し行われることになる。その結果、例えばナノ粒子スクリーニングシステム1の利用者は、所望の光学特性を有するナノ粒子を容易に設計することができる。
【0035】
図2は第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1において実行される処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図2に示す例では、ステップS11において、材料選定部11が、所望の光学特性を有するナノ粒子を構成するコアおよび複数層のシェルの材料として用いられる複数の材料をベイズ最適化により選定する。詳細には、ステップS11において、材料選定部11は、光学特性と複数の材料との組を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルを作成し、予測モデルを用いて複数の材料を選定し出力する。
ステップS12では、組み合わせ処理部12が、組合せ最適化を用いることによって、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、ステップS11において選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する。詳細には、ステップS12において、組み合わせ処理部12は、光学特性および複数の材料と、コアおよび複数層のシェルの構造、ならびに、コアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用との組を第2学習データとして用いた機械学習を行う。また、組み合わせ処理部12は、学習済の機械学習モデルを用いて、コアおよび複数層のシェルの構造を選定すると共に、ステップS11において選定された複数の材料を、コアと、複数層のシェルのそれぞれとに適用する。
ステップS13では、性能評価部13が、ステップS12において選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、ステップS11において選定された複数の材料が、コアと複数層のシェルのそれぞれとにステップS12において適用されたナノ粒子である評価対象ナノ粒子が有する光学特性の評価を行う。
詳細には、後述するステップS14が実行される前に、上述したステップS12およびステップS13が複数回(例えば100回)繰り返し実行される。繰り返し実行されるステップS12における第2学習データを用いた機械学習では、ステップS13において得られた評価結果が第2学習データに追加される。
【0036】
ステップS14では、ステップS11と同様の材料選定部11による複数の材料の選定と、ステップS12と同様の組み合わせ処理部12による処理(コアおよび複数層のシェルの構造の選定ならびにコアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用)とが交互に繰り返し実行される。
詳細には、ステップS14では、ステップS11と同様の材料選定部11による複数の材料の選定と、ステップS12と同様の組み合わせ処理部12による処理(コアおよび複数層のシェルの構造の選定ならびにコアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用)と、ステップS13と同様の性能評価部13による評価とが実行される。具体的には、ステップS11と同様の材料選定部11による複数の材料の選定の実行時に、ステップS13において得られた評価結果のうちの最良の評価結果が第1学習データに追加される。ステップS12と同様の組み合わせ処理部12による処理の実行時には、第2学習データが一度リセットされる。ステップS12と同様の組み合わせ処理部12による処理およびステップS13と同様の性能評価部13による評価は、繰り返し実行されたステップS12およびステップS13と同様に、複数回(例えば100回)繰り返し実行される。更に、上述したステップS11と同様の材料選定部11による複数の材料の選定と、ステップS12と同様の組み合わせ処理部12による処理およびステップS13と同様の性能評価部13による評価の複数回(例えば100回)の繰り返しとのセットが、複数回(例えば350回)繰り返される。
【0037】
すなわち、ステップS14において材料選定部11による複数の材料の選定が実行される時には、ステップS12における組み合わせ処理部12による処理(コアおよび複数層のシェルの構造の選定ならびにコアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用)の結果に対してステップS13において行われた性能評価部13による評価の結果が反映されたデータ(性能評価部13による評価が良い光学特性と複数の材料との組)が第1学習データに追加された機械学習が行われる。
つまり、ステップS14における材料選定部11の予測モデルの機械学習に用いられる第1学習データには、ステップS12において選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、ステップS12においてコアと複数層のシェルのそれぞれとに、ステップS11において選定された複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性(ステップS13において評価された光学特性)を示す情報が含まれる。
詳細には、ステップS14における材料選定部11の予測モデルの機械学習では、第1学習データとして、ステップS12において選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、ステップS12においてコアと複数層のシェルのそれぞれとに、ステップS11において選定された複数の材料が適用されたナノ粒子が有する光学特性であってステップS11において材料選定部11に入力された所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子(所望の光学特性に最も近い光学特性を有するナノ粒子)を構成する複数の材料との組が用いられる。
【0038】
例えば、ステップS14において材料選定部11による複数の材料の選定が2回目に実行される時には、ステップS14における組み合わせ処理部12による1回目の処理(コアおよび複数層のシェルの構造の選定ならびにコアおよび複数層のシェルのそれぞれに対する複数の材料の適用)の結果に対してステップS14において1回目に行われた性能評価部13による評価の結果が反映されたデータ(性能評価部13による評価が良い光学特性と複数の材料との組)が第1学習データに追加された機械学習が行われる。
つまり、ステップS14における材料選定部11の予測モデルの2回目の機械学習に用いられる第1学習データには、ステップS14において組み合わせ処理部12により1回目に選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、ステップS14において材料選定部11により1回目に選定された複数の材料が、コアと複数層のシェルのそれぞれとに対してステップS14において組み合わせ処理部12により1回目に適用されたナノ粒子が有する光学特性(ステップS14において性能指数算出部13Eにより1回目に評価された光学特性)を示す情報が含まれる。
詳細には、ステップS14における材料選定部11の予測モデルの2回目の機械学習では、第1学習データとして、ステップS14において組み合わせ処理部12により1回目に選定されたコアおよび複数層のシェルの構造を有し、かつ、ステップS14において材料選定部11により1回目に選定された複数の材料が、コアと複数層のシェルのそれぞれとに対してステップS14において組み合わせ処理部12により1回目に適用されたナノ粒子が有する光学特性であってステップS11において材料選定部11に入力された所望の光学特性に最も近い光学特性と、そのナノ粒子(所望の光学特性に最も近い光学特性を有するナノ粒子)を構成する複数の材料との組が用いられる。
【0039】
[実施例]
第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1を使用し、波長355~375nmの光は透過し、400~830nmの光は透過しないナノ粒子の選定(設計)を行った。つまり、材料選定部11に入力される所望の光学特性として「波長355~375nmの光は透過し、400~830nmの光は透過しない」を設定した。ナノ粒子の選定(設計)を行う際の条件は、下記とした。
・ナノ粒子の構造は、コアの周りに4層シェルを持つ粒子構造。
・コアの半径は20,50,75,100nmのいずれかとし、シェル1層あたりの厚みは2,4,6,8nmのいずれかとした。
・ナノ粒子のコアやシェルを構成する材料の候補は下記の表1に示す70種類とした。
・ベイズ最適化により70種類から4種(重複を許す)の材料を選定し、その4種を使ってコア径、シェル厚み、材料適用をFMを用いた組合せ最適化法により最適化した。材料や構造の組み合わせ数は数十億通りであるが、その中から性能に優れる組合せ(ナノ粒子)を選択した。
【0040】
【表1】
【0041】
以下に、実施の具体的な方法について述べる。
<1>選定(設計)される粒子の性能は、性能指数FOMにより評価した。具体的には、上述した(2)式を用いた。
ただし、S1:355~375nmでの面積、波長範囲幅w1=(375-355=)20、S2:400~830nmでの面積、波長範囲幅w2=(830-400=)430。候補となるナノ粒子に対して、透過スペクトル算出部13Dが透過スペクトルTを計算し、性能指数算出部13Eが、その透過スペクトルTを基にして、性能指数FOMを計算する。
透過スペクトル算出部13Dは、候補となるナノ粒子の透過スペクトルTを下記の手順で算出した。吸収効率係数算出部13Bは、真空中に対象のナノ粒子が1つ存在する場合の、波長355~830nmの光に対する吸収効率係数QabsをMie理論に基づいて算出した。散乱効率係数算出部13Cは、真空中に対象のナノ粒子が1つ存在する場合の、波長355~830nmの光に対する散乱効率係数QscaをMie理論に基づいて算出した。具体的には、吸収効率係数算出部13Bおよび散乱効率係数算出部13Cは、上述したscattnlayプログラムを用いた。データ取得部13Aは、吸収効率係数算出部13Bによる吸収効率係数Qabsの算出時および散乱効率係数算出部13Cによる散乱効率係数Qscaの算出時に必要なナノ粒子を構成する材料の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を上述した光学定数のデータベースから取得し、表2および表3に示す「光学定数の元の論文リスト」中の文献1~文献31が示す値を基にするデータを用いた。
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
文献1.W. S. M. Werner, K. Glantschnig, C. Ambrosch-Draxl. Optical constants and inelastic electron-scattering for 17 elemental metals, J. Phys Chem Ref. Data, 38, 1013-1092 (2009)
文献2.H.-J. Hagemann, W. Gudat, and C. Kunz. Optical constants from the far infrared to the x-ray region: Mg, Al, Cu, Ag, Au, Bi, C, and Al2O3, J. Opt. Soc. Am. 65, 742-744 (1975)
文献3.M. R. Querry. Optical constants, Contractor Report CRDC-CR-85034 (1985)
文献4.A. D. Rakic and M. L. Majewski. Modeling the optical dielectric function of GaAs and AlAs: Extension of Adachi’s model, J. Appl. Phys. 80, 5909-5914 (1996)
文献5.S. Adachi. Optical dispersion relations for AlSb from E=0 to 6.0 eV, J. Appl. Phys. 67, 6427-6431 (1990)
文献6.J. I. Larruquert, A. P. Perez-Marin, S. Garcia-Cortes, L. Rodriguez-de Marcos, J. A. Aznarez, J. A. Mendez. Self-consistent optical constants of sputter-deposited B4C thin films, J. Opt. Soc. Am. A 29, 117-123 (2012)
文献7.M. R. Querry. Optical constants of minerals and other materials from the millimeter to the ultraviolet, Contractor Report CRDEC-CR-88009 (1987)
文献8.A. D. Rakic, A. B. Djurisic, J. M. Elazar, and M. L. Majewski. Optical properties of metallic films for vertical-cavity optoelectronic devices, Appl. Opt. 37, 5271-5283 (1998)
文献9.A. Kumar, R. C. Rai, N. J. Podraza, S. Denev, M. Ramirez, Y.-H. Chu, L. W. Martin, J. Ihlefeld, T. Heeg, J. Schubert, D. G. Schlom, J. Orenstein, R. Ramesh, R. W. Collins, J. L. Musfeldt and V. Gopalan. Linear and nonlinear optical properties of BiFeO3, Appl. Phys. Lett. 92, 121915 (2008)
文献10.S. Ninomiya and S. Adachi. Optical properties of wurtzite CdS, J. Appl. Phys. 78, 1183-1190 (1995)
【0045】
文献11.S. Ninomiya and S. Adachi. Optical properties of cubic and hexagonal CdSe, J. Appl. Phys. 78, 4681-4689 (1995)
文献12.S. Adachi, T. Kimura, N. Suzuki. Optical properties of CdTe: Experiment and modeling, J. Appl. Phys. 74, 3435-3441 (1993)
文献13.P. B. Johnson and R. W. Christy. Optical constants of transition metals: Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, and Pd, Phys. Rev. B 9, 5056-5070 (1974)
文献14.S. Adachi. Optical dispersion relations for GaP, GaAs, GaSb, InP, InAs, InSb, AlxGa1-xAs, and In1-xGaxAsyP1-y, J. Appl. Phys. 66, 6030-6040 (1989)
文献15.T. Kawashima, H. Yoshikawa, S. Adachi. Optical properties of hexagonal GaN, J. Appl. Phys. 82, 3528-3535 (1997)
文献16.T. N. Nunley, N. S. Fernando, N. Samarasingha, J. M. Moya, C. M. Nelson, A. A. Medina, S. Zollner, Optical constants of germanium and thermally grown germanium dioxide from 0.5 to 6.6 eV via a multi-sample ellipsometry investigation, J. Vac. Sci. Technol. B 34, 061205 (2016)
文献17.M. Rasigni and G. Rasigni. Optical constants of lithium deposits as determined from the Kramers-Kronig analysis, J. Opt. Soc. Am. 67, 54-59 (1977)
文献18.S. Garcia-Cortes, L. Rodriguez-de Marcos, J. I. Larruquert, J. A. Aznarez, J. A. Mendez, L. Poletto, F. Frassetto, A. M. Malvezzi, A. Giglia, N. Mahne and S. Nannarone. Transmittance and optical constants of Lu films in the 3-1800 eV spectral range, J. Appl. Phys. 108, 063514 (2010)
文献19.K. J. Palm, J. B. Murray, T. C. Narayan, J. N. Munday. Dynamic optical properties of metal hydrides, ACS Photonics 5, 4677-4686 (2018)
文献20.M. Vos, B. Macco, N. F. W. Thissen, A. A. Bol, W. M. M. Kessels. Atomic layer deposition of molybdenum oxide from (NtBu) 2 (NMe2) 2Mo and O2 plasma, J. Vac. Scia. Technol. A 34, 01A103 (2016)
【0046】
文献21.A. R. Beal and H. P. Huges. Kramers-Kronig analysis of the reflectivity spectra of 2H-MoS2, 2H-MoSe2, and 2H-MoTe2, J. Phys. C 12, 881 (1979)
文献22.V. V. Nemoshkalenko, V. N. Antonov, VI. N. Antonov, M. M. Kirillova, A. E. Krasovskii, L. V. Nomerovannaya. The structure of the energy bands and optical absorption in osmium, Sov. Phys. JETP. 63, 115-119 (1968)
文献23.N. Suzuki, K. Sawai, S. Adachi. Optical properties of PbSe, J. Appl. Phys. 77, 1249-1255 (1995)
文献24.J. H. Weaver, C. G. Olson, and D. W. Lynch. Optical investigation of the electronic structure of bulk Rh and Ir, Phys. Rev. B 15, 4115 (1977)
文献25.A. Belosludtsev, K. Juskevicius, L. Ceizaris, R. Samuilovas, S. Stanionyte, V. Jasulaitiene, S. Kicas. Correlation between stoichiometry and properties of scandium oxide films prepared by reactive magnetron sputtering, Appl. Surf. Sci. 427, 312-318 (2018)
文献26.A. Ciesielski, L. Skowronski, W.Pacuski, T. Szoplik. Permittivity of Ge, Te and Se thin films in the 200-1500 nm spectral range. Predicting the segregation effects in silver, Mat. Sci. Semicond. Process. 81, 64-67 (2018)
文献27.M. A. Green. Self-consistent optical parameters of intrinsic silicon at 300K including temperature coefficients, Sol. Energ. Mat. Sol. Cells 92, 1305-1310 (2008)
文献28.J. I. Larruquert, A. P. Perez-Marin, S. Garcia-Cortes, L. Rodriguez-de Marcos, J. A. Aznarez, J. A. Mendez. Self-consistent optical constants of SiC thin films, J. Opt. Soc. Am. A 28, 2340-2345 (2011)
文献29.Luis V. Rodriguez-de Marcos, Juan I. Larruquert, Jose A. Mendez, and Jose A. Aznarez, Self-consistent optical constants of SiO2 and Ta2O5 films, Optical Materials Express, 6, 11, pp.3622-3637 (2016)
文献30.J. Pfluger, J. Fink, W. Weber, K. P. Bohnen, G. Crecelius. Dielectric properties of TiCx, TiNx, VCx, and VNx from 1.5 to 40 eV determined by electron-energy-loss spectroscopy, Phys. Rev. B 30, 1155-1163 (1984)
文献31.T. Siefke, S. Kroker, K. Pfeiffer, O. Puffky, K. Dietrich, D. Franta, I. Ohlidal, A. Szeghalmi, E.-B. Kley, A. Tunnermann., Materials Pushing the Application Limits of Wire Grid Polarizers further into the Deep Ultraviolet Spectral Range, Adv. Opt. Mater., 4, 1780-1786 (2016)
【0047】
透過スペクトル算出部13Dは、ナノシェル粒子が均一に分散していると仮定した上で、scattnlayプログラムで得られた吸収効率係数Qabsと散乱効率係数Qscaと上述した(1)式とに基づいて透過スペクトルTを算出した。詳細には、透過スペクトル算出部13Dは、ナノシェル粒子の体積密度が5vol%になるようにナノシェル粒子の数密度Cを設定し、光を透過させるナノシェル粒子が分散している領域の光路長Lを1μmと設定して、各波長における透過スペクトルTを算出した。
なお、この性能指数FOMは、後述する<2>の手順および<3>の手順のどちらでも、性能を表す指標として用いている。
【0048】
<2>材料選定部11による複数の材料の選定において70種の中から材料を4種類選定する際は、予測モデルの関数としてガウス過程回帰を用いてベイズ最適化を行った。具体的には、上述したPHYSBOプログラムを用いて実施した。予測モデルで用いる説明変数は、選定される候補材料の300~900nmの50nm間隔での屈折率n、消衰係数kを用いており(つまり、評価対象の300~900nmの波長範囲が11(=(900-300)/50)分割されている)、選択される4種の材料における各波長での平均値を用いた。予測モデルで用いる目的変数は、選択された4種の材料を用いてナノ粒子を構成した場合に、後述する<3>の手順で最も良い構造、材料適用を決めたときの性能指数FOMの値である。つまり、4種の材料を決めた際に、その材料4種を使ってナノ粒子を構成した際に、今回の課題設定した条件範囲で最もよい性能指数FOMを予測するモデルである。予測モデルを作るためには、上述した第1学習データが必要である。ナノ粒子スクリーニングシステム1がスクリーニングを開始する際は、ランダムに4種類の材料を選んだケースを10ケース用意し(つまり、その10ケースを、材料選定部11の予測モデルの1回目の機械学習用の第1学習データとして用意し)、それぞれに対して下記の<3>で組み合わせ処理部12が組合せ最適化を行い、性能評価部13が性能指数FOMを得て、材料選定部11が、その10ケースを第1学習データとして用いた機械学習を実行する。材料選定部11は、得られた予測モデルを基に、ベイズ最適化により、最も良い性能指数FOMと予測される材料4種の組み合わせを上述した「複数の材料」として1つ選定した。
【0049】
<3>組み合わせ処理部12は、4種の材料、コア半径の選択肢20,50,75,100nm、シェルの厚みの選択肢2,4,6,8nmから構成されるナノシェル粒子の中で、性能評価部13によって最も性能指数FOMに優れると評価された構造を組合せ最適化により選定した。組合せ最適化に関しては上述したFMQAプログラムを用いた。FMQAを用いた組み合わせ最適化では、課題を0と1のバイナリで表現する必要がある。今回は、コア、各シェルの材料やサイズそれぞれを2桁のバイナリで表現し、ナノシェル粒子全体は、コア材料、シェル材料、コア半径、シェルの厚みの順で表現した。具体的にはコア半径の選択肢20,50,75,100nm、シェルの厚みの選択肢2,4,6,8nm、4種の材料に対してそれぞれ00,01,10,11を割り当てた。例えば00000000001100011011であれば、最初の8桁が材料を表すが全て00なので、4種の材料のうち00に割り当てられた材料をコア、シェル全てに用いおり、コア半径は11なので50nm、シェルは内側から00,01,10,11なので2nm,4nm,6nm,8nmのナノシェル粒子を表現している。FMQAでは組合せ最適化を行う際にFM(Factorization Machine)と呼ばれる機械学習モデルを用いており、学習用のデータが必要である。まず初めにランダムなバイナリ(ナノ粒子)を10個生成して、性能評価部13がそれぞれの性能指数FOMを求め、組み合わせ処理部12が、その10個のバイナリと性能指数FOMを基にしてFMを用いた組合せ最適化を行い、より良い性能指数FOMを持つバイナリを提案し、性能評価部13が、そのバイナリにおける性能指数FOMを求め、組み合わせ処理部12が、それをさらにFM用の学習データとして機械学習を行い、最適化を繰り返した。100回繰り返したところで最良の性能指数FOMを持つバイナリ(ナノ粒子)と性能指数FOMを求めた。
【0050】
<4>材料選定部11によって選定された4種の材料に対して、<3>で性能評価部13によって得られた最良の性能指数FOMの値を、<2>の材料選定部11の予測モデルのガウス過程回帰用の学習データに追加して、材料選定部11が材料の選定を再度実行した。その結果から(材料選定部11によって選定された材料を用いて)更に<3>の組み合わせ処理部12による処理を実行する手順を350回繰り返した。
【0051】
<5>350回繰り返した中で、最良の性能指数FOMを持つナノシェル粒子を選定(設計)した。
【0052】
<6>上記<1>~<5>の手順を3回繰り返して、最も良い性能指数FOMを持つナノシェル粒子をスクリーニング結果として選定(設計)した。
【0053】
実施例と比較される比較例としてランダム探索によるナノシェル粒子の最適化も実施した。70種の材料からランダムに4種の材料を選択し、4種の材料を基にしてナノシェル粒子の構造をランダムに決定した。コア半径やシェル厚みの選択肢、試行回数を実施例と同じ条件に設定して実施した。実施例と比較例との比較結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例では、比較例に比べて、より小さな性能指数FOMとなっており、性能が高いナノ粒子をスクリーニングできていることが分かる。実施例において得られたナノ粒子のコア半径は20nm、シェルの層数は4、シェル厚みが内側から2,4,4,2nmで、コアの材料がGeO2、最も内側のシェルの材料がGeO2、内側から2番目のシェルの材料がMgH2、内側から3番目のシェルの材料がGeO2、最も外側のシェルの材料がMgになった。
【0056】
図3は実施例において得られたナノ粒子の透過スペクトル曲線などを示す透過スペクトル図である。図3において、横軸は波長を示しており、縦軸は透過率を示している。「実施例」で示す実線の曲線は、実施例において得られたナノ粒子の透過スペクトル曲線であり、「目標」で示す破線の折れ線は、実施例においてナノ粒子を得るためにナノ粒子スクリーニングシステム1の材料選定部11に入力された「所望の光学特性」に相当する「目標」のスペクトルである。
図3に示すように、実施例においては「目標」のスペクトルを反映したナノ粒子を選定(設計)できたことがわかる。
【0057】
<第2実施形態>
以下、本発明のナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラムの第2実施形態について説明する。
第2実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1と同様に構成されている。従って、第2実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1と同様の効果を奏することができる。
【0058】
図3に示すように、第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1では、所望の光学特性として、透過スペクトルが材料選定部11に入力され、透過スペクトルと複数の材料との組(詳細には、既知の透過スペクトルを有するナノ粒子を構成する複数の材料を示すデータ)を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成される。
第2実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1の第1例では、所望の光学特性として、散乱スペクトルが材料選定部11に入力され、散乱スペクトルと複数の材料との組(詳細には、既知の散乱スペクトルを有するナノ粒子を構成する複数の材料を示すデータ)を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成されてもよい。
第2実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1の第2例では、所望の光学特性として、反射スペクトルが材料選定部11に入力され、反射スペクトルと複数の材料との組(詳細には、既知の反射スペクトルを有するナノ粒子を構成する複数の材料を示すデータ)を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成されてもよい。
第2実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1の第3例では、所望の光学特性として、透過、散乱および反射の組み合わせのスペクトルが材料選定部11に入力され、透過、散乱および反射の組み合わせのスペクトルと複数の材料との組(詳細には、既知の透過、散乱および反射の組み合わせのスペクトルを有するナノ粒子を構成する複数の材料を示すデータ)を第1学習データとして用いた機械学習を行うことによって予測モデルが作成されてもよい。
【0059】
<第3実施形態>
以下、本発明のナノ粒子スクリーニングシステム、ナノ粒子スクリーニング方法およびプログラムの第3実施形態について説明する。
第3実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1と同様に構成されている。従って、第3実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1と同様の効果を奏することができる。
【0060】
上述したように第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1では、材料選定部11が、説明変数として、材料選定部11によって選定される複数の材料のそれぞれの光学定数(屈折率n、消衰係数k)を用いる。更に、材料選定部11は、性能評価部13によって光学特性の評価が行われる波長範囲を11分割し、その波長範囲内の各波長の光学定数(屈折率n、消衰係数k)の値の平均値を説明変数とする。
第3実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1では、材料選定部11が、第1実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1と同様に、説明変数として、材料選定部11によって選定される複数の材料のそれぞれの光学定数(屈折率n、消衰係数k)を用いる。更に、第3実施形態のナノ粒子スクリーニングシステム1では、材料選定部11が、性能評価部13によって光学特性の評価が行われる波長範囲を5~20分割(詳細には、11以外の数に分割)し、5~20分割された波長範囲毎に値が異なる光学定数(屈折率n、消衰係数k)を組み合わせて説明変数としてもよい。
【0061】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0062】
なお、上述した実施形態におけるナノ粒子スクリーニングシステム1が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0063】
1…ナノ粒子スクリーニングシステム、11…材料選定部、12…組み合わせ処理部、13…性能評価部、13A…データ取得部、13B…吸収効率係数算出部、13C…散乱効率係数算出部、13D…透過スペクトル算出部、13E…性能指数算出部
図1
図2
図3