(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145790
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ピストンリング、ピストンリング複合体及び往復動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20241004BHJP
F16J 9/28 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F04B39/00 107J
F16J9/28
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058288
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘高
(72)【発明者】
【氏名】村田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】北山 巧
(72)【発明者】
【氏名】兼井 直史
【テーマコード(参考)】
3H003
3J044
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AC04
3H003AD03
3H003BC03
3H003CB02
3H003CB08
3H003CE04
3J044AA02
3J044AA20
3J044BA06
3J044BC06
3J044DA16
(57)【要約】
【課題】無給油環境下において水素ガス圧縮機に用いられるとともに、熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分とし、耐熱性と耐摩耗性に優れるピストンリングを提供する。
【解決手段】ピストンリング66は、水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機50に用いられるピストンリングであって、熱可塑性ポリイミドを主成分とし、カーボンファイバーおよび/またはグラファイトを添加剤として含み、引張強さ度が90MPa以上、かつ、曲げ強さ度が150MPa以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機に用いられるピストンリングであって、
熱可塑性ポリイミドを主成分とし、カーボンファイバーおよび/またはグラファイトを添加剤として含み、
引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上である、ピストンリング。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレンを含まず、
引張強さが110MPa以上、かつ、曲げ強さが160MPa以上である、請求項1に記載のピストンリング。
【請求項3】
請求項2に記載のピストンリングと、
前記ピストンリングの高圧側に配置され、前記ピストンリングの引張強さよりも低い引張強さを有し、前記ピストンリングの曲げ強さよりも低い曲げ強さを有するシールリングと、
を備える、ピストンリング複合体。
【請求項4】
請求項1または2に記載のピストンリングを備える、水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを圧縮する往復動圧縮機に用いられるピストンリング、ピストンリング複合体及び往復動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境を考慮して、水素を発電や自動車等の燃料として用いることが考えられており、水素の需要が増大している。ところで、特許文献1には、水素ガスを圧縮する圧縮機に用いられるものではないが、耐熱性、摩擦磨耗特性、シール特性が良好であるピストンリングが開示されており、このピストンリングは、熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分としている。
【0003】
また、特許文献2には、無潤滑で往復動するピストンと、このピストンに装着する圧縮リングとの組合せが開示されている。圧縮リングはフッ素樹脂:5-15%、炭素繊維:3-15%、グラファイト:5-15%、残部:ポリイミド樹脂の組成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-192242号公報
【特許文献2】特開平11-82741号公報
【特許文献3】特開2023-25840号公報
【特許文献4】特開2023-25841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素ステーションなどで用いられる、水素ガス圧縮用の往復動圧縮機では、不純物の混入を避けるため無給油式のものが必要とされることがある。無給油式の往復動圧縮機では、ピストンリングが高温環境下で利用されることがあるため、耐熱性と耐摩耗性に優れた材料として熱可塑性ポリイミド樹脂の利用が検討されている。しかし、特許文献1ではオイル潤滑下での摺動試験が行われており、無給油環境下での耐摩耗性についての評価はされていない。加えて、水素環境下での摩耗試験は行われていないため、水素環境下で摩耗性に影響を与える因子について示唆されているとはいえない。すなわち、熱可塑性ポリイミドを主成分とするピストンリングは、水素雰囲気下においては空気中とは異なる摩耗挙動を示す可能性があるため、大気中での摩耗試験のみでは、水素ガス圧縮用の往復動圧縮機としての実機での採用可否を判断するための指標が示唆されているとはいえない。また、特許文献2でも、水素環境下での摺動試験が行われていないため、水素環境下で摩耗性に影響を与える因子について示唆されているとはいえない。特許文献3,4についても同様である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、無給油環境下において水素ガス圧縮機に用いられるとともに、熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分とし、耐熱性と耐摩耗性に優れるピストンリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るピストンリングは、水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機に用いられるピストンリングであって、熱可塑性ポリイミドを主成分とし、カーボンファイバーおよび/またはグラファイトを添加剤として含み、引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上である。
【0008】
本発明に係るピストンリングでは、ピストンリングが水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機に用いられる場合においても、当該ピストンリングの耐熱性及び耐摩耗性を向上することができる。したがって、効率的な水素ガスの供給に資する。
【0009】
前記ピストンリングは、ポリテトラフルオロエチレンを含まなくてもよい。この場合、引張強さが110MPa以上、かつ、曲げ強さが160MPa以上であってもよい。
【0010】
この態様では、ピストンリングが水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機に用いられる場合においても、耐熱性をさらに向上することができる。
【0011】
本発明に係るピストンリング複合体は、前記ピストンリングと、前記ピストンリングの高圧側に配置され、前記ピストンリングの引張強さよりも低い引張強さを有し、前記ピストンリングの曲げ強さよりも低い曲げ強さを有するシールリングと、を備える。
【0012】
本発明に係るピストンリング複合体では、ピストンリングが水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機に用いられる場合においても、シール性を向上することができる。
【0013】
本発明に係る水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機は、前記ピストンリングを備える。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、無給油環境下において水素ガス圧縮機に用いられるとともに、熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分とし、耐熱性と耐摩耗性に優れるピストンリングが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る往復動圧縮機を概略的に示す断面図である。
【
図2】その他の実施形態に係る往復動圧縮機の一部を概略的に示す断面図である。
【
図3】摩耗特性を評価するために用いられた摺動試験装置を概略的示す図である。
【
図4】実施例及び比較例についての引張強さ及び曲げ強さの関係を示す図である。
【
図5】実施例及び比較例についての室温環境下及び高温環境下での圧縮強さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係る往復動圧縮機は、水素ステーションにおいて水素ガスを所定の圧力まで(例えば、0.7MPaから82MPaまで)昇圧するために用いられる。往復動圧縮機により圧縮された水素ガスは、蓄圧器(図示しない)において貯留され、プレクーラ(図示しない)においてブライン等との熱交換を介して冷却された後、ディスペンサ(図示しない)により燃料電池車のタンクに充填される。なお、往復動圧縮機は、水素ガスを圧縮するために用いられる無給油式の圧縮機であれば、水素ステーション用途に限られるものではない。
【0018】
図1に示すように、往復動圧縮機50は、クランク機構52と、クランク機構52によって駆動されるピストンロッド54と、ピストンロッド54に接続されたピストン56と、ピストン56を収容するシリンダ部58と、を備えている。
【0019】
シリンダ部58には、シリンダ部58内の空間に水素ガスを吸入させるための吸入口58aと、この空間内で圧縮された水素ガスを吐出させるための吐出口58bとが設けられている。吸入口58a及び吐出口58bには、それぞれ図略の弁が設けられている。シリンダ部58内の空間のうち、吸入口58a及び吐出口58bが開口する空間は圧縮室60として機能する。
【0020】
往復動圧縮機50は、ピストン56の外周面に装着されるとともにシリンダ部58の内周面に摺接するように配置された複数のピストンリング複合体65も備えている。ピストンリング複合体65が設けられることにより、圧縮室60がシリンダ部58内の他の空間から仕切られることになる。この「他の空間」は、圧縮室60としては機能しない空間であってもよく、あるいは、往復動圧縮機50がタンデムタイプの圧縮機によって構成される場合には、圧縮室60に導入される前段階で水素ガスを圧縮する低圧側の他の圧縮室であってもよい。
【0021】
各ピストンリング複合体65は、ピストンリング66と、ピストンリング66に対して高圧側に配置されたシールリング67とを有する。すなわち、各ピストンリング複合体65では、シールリング67がピストンリング66に対して圧縮室60側に位置している。
【0022】
なお、本実施形態の往復動圧縮機50は、複数のピストンリング複合体65を備えているが、1つのピストンリング複合体65のみを備えた構成であってもよい。また、
図2に示すようにシールリング67が省略されてもよい。
【0023】
ピストンリング66は、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、カーボンファイバーおよび/またはグラファイトを添加剤として含む樹脂によって構成されている。この樹脂には、ポリテトラフルオロエチレンが含まれていてもよい。この樹脂では、引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上である。このため、強度が高く、割れにくい。グラファイトは、摩擦発熱による耐熱性(=高温強度等)の劣化を防ぐために熱伝導性を向上する目的で添加される。
【0024】
より好ましくは、ピストンリング66を構成する樹脂は、引張強さが110MPa以上、かつ、曲げ強さが160MPa以上であればよい。この場合、樹脂には、ポリテトラフルオロエチレンが含まれない。
【0025】
シールリング67は、ピストンリング66の引張強さよりも低い引張強さを有し、ピストンリング66の曲げ強さよりも低い曲げ強さを有している。
【0026】
ここでいう「引張強さ」は、JIS K7161-1(プラスチック-引張特性の求め方 第1部:通則)に基づいて測定される引張強さの値である。また、「曲げ強さ」は、JIS K7171(プラスチック-曲げ特性の求め方)に基づいて測定される曲げ強さの値である。
【0027】
シールリング67には、シール性が必要であるため、ピストンリング66を構成する樹脂よりも強度の低い樹脂が用いられる。シールリング67が圧縮時に変形(外側に向けて張り出してシリンダ部58の内周面に密着)することにより、ピストンリング複合体65によるシール性が確保される。これにより、圧縮室60内での圧縮を可能にする。一方で、バックアップリングとしての機能を果たすピストンリング66には、強度が高く割れにくい樹脂が用いられる。これにより、高寿命化を得ることができる。
【0028】
シールリング67には、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、ポリテトラフルオロエチレンおよびカーボンファイバーを添加剤として含む樹脂によって構成されている。なお、シールリング67には、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂によって構成されていてもよい。
【0029】
本実施形態のピストンリング66は、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、カーボンファイバーおよび/またはグラファイトを添加剤として含む樹脂によって構成され、しかも、引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上である。したがって、ピストンリング66が水素ガスを圧縮する無給油式の往復動圧縮機50に用いられる場合においても、ピストンリング66の耐熱性及び耐摩耗性を向上することができる。
【実施例0030】
本実施形態のピストンリング66が水素ガス雰囲気においても耐摩耗性及び高温特性を有することを確認するための試験を行ったので、その結果について説明する。
【0031】
まず、実施例1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2及び比較例1-1,1-2の樹脂で構成された試験片を用いて摩耗特性の評価を行った。
【0032】
実施例1-1,1-2では、組成、引張強さ、曲げ強さが同じ樹脂P1が用いられる。樹脂P1は、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、添加剤としてカーボンファイバーおよびグラファイトを含み、ポリテトラフルオロエチレンは含有されていない。
【0033】
実施例2-1,2-2では、樹脂P1とは組成、引張強さ、曲げ強さが異なる樹脂P2が用いられる。樹脂P2は、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、添加剤としてカーボンファイバーおよびグラファイトを含み、ポリテトラフルオロエチレンは含有されていない。
【0034】
実施例3-1,3-2では、樹脂P1及びP2とは組成、引張強さ、曲げ強さが異なる樹脂P3が用いられる。樹脂P3は、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、添加剤としてカーボンファイバーおよびグラファイトを含み、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が添加剤として含有されている。
【0035】
比較例1-1,1-2では、樹脂P1、P2及びP3とは組成、引張強さ、曲げ強さが異なる樹脂P4が用いられる。樹脂P4は、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、添加剤としてカーボンファイバーおよびグラファイトを含む。樹脂P4では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が添加剤として含有されている。比較例1-1,1-2に係る樹脂P4は、後述するように引張強さ及び曲げ強さが実施例1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2に係る樹脂P1、P2及びP3よりも劣るものである。
【0036】
なお、引張特性は、JIS K7161-1(プラスチック-引張特性の求め方 第1部:通則)に基づく測定により、引張強さを求めることにより行った。また曲げ特性は、JIS K7171(プラスチック-曲げ特性の求め方)に基づく測定により、曲げ強さを求めることにより行った。
【0037】
摩耗特性について
図3に示す摺動試験装置を用いた測定で評価した。摺動試験装置は、ピンオンディスク式の摺動試験装置であり、水素ガスを導入可能に構成されたチャンバー1を有しており、チャンバー1には、水素ガスを導入するためのガス導入口2と、チャンバー1内からガスを流出させるガス排出口3と、が設けられている。チャンバー1内には、試験片7を固定する固定部8と、固定ネジ6によって金属板5が取り付けられるとともに当該金属板5を回転させる回転台4と、が設けられている。固定部8に取り付けられた試験片7は、押し当て機構15により、金属板5に押し当てられるようになっている。押し当て機構15は、支点部11を中心として揺動可能に設けられた圧力印加棒10と、圧力印加棒10の基端にワイヤ12を介して取り付けられた錘13と、圧力印加棒10の先端に設けられた固定部8と、を有する。なお、圧力印加棒10には、ロードセル9が取り付けられている。
【0038】
試験片7は、圧力印加棒10の固定部8に固定される。固定部8に固定された試験片7は、錘13の重みによって所定の荷重で金属板5に押し当てられることになる。この状態で回転台4が金属板5を所定の回転速度で回転することにより、試験片7は金属板5に対して所定速度で摺動する。
【0039】
試験片7は、φ5.0、長さ10.0mmのピン形状に加工するとともに、摺動面の表面粗さRaが1.0μm以下になるように調整されたものを用いた。金属板5は、クロムモリブデン鋼(SCM435)を円盤上に加工するとともに、表面の粗さRaが0.2μmに調整されたものを用いた。
【0040】
金属板5への試験片7の押付け荷重は、9.66MPaであり、チャンバー1内が水素ガスで満たされた状態として、摺動速度を2.0m/sとし、摺動距離を20000mとして、室温下で試験を行った。そして、摺動試験前後での試験片7の重量差及び試験片7の材料密度から試験片7の摩耗量(mm3)を算出し、また、単位荷重、単位距離当たりの摩耗量を比摩耗量(mm3/N・m)とした。
【0041】
実施例1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2及び比較例1-1,1-2の樹脂P1~P3の引張特性、曲げ特性及び摩耗特性の試験結果を下記の表1に示す。
【0042】
【0043】
次に、試験片7の高温特性について、大気中での常温(23℃)及び高温(150℃)における圧縮特性により評価した。なお、高温の水素ガス雰囲気での試験は危険を伴うため、空気中での評価としている。
【0044】
試験片7(φ5.0、長さ10.0mmのピン形状)について、万能試験機を用い、常温(23℃)及び高温(150℃)環境下において、試験速度1mm/minで圧縮破断試験を行った。そして、この試験で得られた応力(荷重)及びひずみ(試験機のクロスヘッド変位)線図から得られた最大応力を圧縮強さと定義した。
【0045】
実施例1-3,1-4,1-5,2-3,2-4,2-5,3-3,3-4,3-5及び比較例1-3,1-4,1-5の樹脂で構成された試験片7について実施した大気中での常温(23℃)における高温特性の試験結果を下記の表2に示す。
【0046】
実施例1-3,1-4,1-5では、実施例1-1,1-2と同じ樹脂P1が用いられる。実施例2-3,2-4,2-5では、実施例2-1,2-2と同じ樹脂P2が用いられる。実施例3-3,3-4,3-5では、実施例3-1,3-2と同じ樹脂P3が用いられる。比較例1-3,1-4,1-5では、比較例1-1,1-2と同じ樹脂P4が用いられる。
【0047】
【0048】
実施例1-6,1-7,1-8,2-6,2-7,2-8,3-6,3-7,3-8及び比較例1-6,1-7,1-8の樹脂で構成された試験片7について実施した高温(150℃)における高温特性の試験結果を下記の表3に示す。
【0049】
実施例1-6,1-7,1-8では、実施例1-1,1-2と同じ組成の樹脂P1が用いられる。実施例2-6,2-7,2-8では、実施例2-1,2-2と同じ組成の樹脂P2が用いられる。実施例3-6,3-7,3-8では、実施例3-1,3-2と同じ組成の樹脂P3が用いられる。比較例1-6,1-7,1-8では、比較例1-1,1-2と同じ組成の樹脂P4が用いられる。
【0050】
【0051】
表1に示すように、比較例1-1,1-2は、実施例1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2に対して摩耗量及び比摩耗量が大きい結果となっている。すなわち、
図4に示すように、実施例1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2の樹脂は、引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上である一方、比較例1-1,1-2の樹脂では、引張強さ及び曲げ強さがそれよりも低い値となっている。この結果から、熱可塑性ポリイミド(TPI)を主成分とし、カーボンファイバーおよび/またはグラファイトを添加剤として含む樹脂とするだけでなく、引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上を有する樹脂を選定することにより、水素ガス雰囲気での摩耗特性を向上できることが理解される。
【0052】
また、
図5は表2,3に基づき実施例1-3,1-4,1-5,2-3,2-4,2-5,3-3,3-4,3-5及び実施例1-6,1-7,1-8,2-6,2-7,2-8,3-6,3-7,3-8、並びに、比較例1-3,1-4,1-5及び比較例1-6,1-7,1-8の圧縮強さの値をプロットした図である。
【0053】
図5では、樹脂P1に関する実施例1-3,1-4,1-5及び実施例1-6,1-7,1-8の線形近似LAを示している。樹脂P2に関する実施例2-3,2-4,2-5及び実施例2-6,2-7,2-8の線形近似LBを示している。樹脂P3に関する実施例3-3,3-4,3-5及び3-6,3-7,3-8の線形近似LCを示している。樹脂P4に関する比較例1-3,1-4,1-5及び比較例1-6,1-7,1-8の線形近似LDを示している。
【0054】
常温(23℃)環境下及び高温(150℃)環境下のそれぞれにおいて、実施例1-3,1-4,1-5,2-3,2-4,2-5,3-3,3-4,3-5及び実施例1-6,1-7,1-8,2-6,2-7,2-8,3-6,3-7,3-8の圧縮強さが比較例1-3,1-4,1-5及び比較例1-6,1-7,1-8の圧縮強さよりも高くなっている。このことから、引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上を有するように樹脂を選定することにより、高温特性も優れたものとすることができることが分かる。
【0055】
特に、線形近似LAの傾きが他の線形近似LB2~LDよりも傾きが小さいことから、実施例1-3,1-4,1-5及び実施例1-6,1-7,1-8で使用された樹脂P1(すなわち、引張り強さ110MPa以上130MPa以下、かつ、曲げ強さが160MPa以上180MPa以下のもの)は、高温特性により優れたものであると考えられる。
【0056】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、本実施形態の各ピストンリング66は、引張強さが90MPa以上、かつ、曲げ強さが150MPa以上である樹脂によって構成されており、シールリング67が重ね合わされている。これに代え、実施例に係る何れかの樹脂P1~P3で構成された2以上(典型的には2つ)のピストンリング66が重ね合わされることによって、ピストンリング複合体が構成されてもよい。さらに、このピストンリング複合体では、ピストンリング66にシールリング67がさらに重ね合わされてもよい。