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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145794
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】薬剤供給装置、及び、その運転方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/02 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B09C1/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058296
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】590002482
【氏名又は名称】株式会社NIPPO
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 貴志
(72)【発明者】
【氏名】関野 英男
(72)【発明者】
【氏名】杉本 憲治
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB05
4D004AC07
4D004CA34
4D004CB42
(57)【要約】
【課題】汚染土壌に対する継続的な薬剤の供給を省エネルギー化できる薬剤供給装置、及び、その運転方法を提供する。
【解決手段】地盤の注入井戸が有する注入器具に、汚染土壌の浄化に用いる薬剤を供給する薬剤供給装置において、筐体内に配置され、薬剤を貯留する薬剤液槽と、薬剤液槽と注入器具を接続する送液配管と、送液配管の途中に接続されて、薬剤液槽から注入器具に薬剤を送液する供給ポンプと、を有し、送液配管の主配管は、一端が供給ポンプの吐出口に接続され、他端が上方に立ち上げられて、筐体を貫通したのち、下方に屈曲して延びて注入器具に接続され、配管最上位部に空気抜き弁を有する、薬剤供給装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の注入井戸が有する注入器具に、汚染土壌の浄化に用いる薬剤を供給する薬剤供給装置において、
筐体内に配置され、前記薬剤を貯留する薬剤液槽と、
前記薬剤液槽と前記注入器具を接続する送液配管と、
前記送液配管の途中に接続されて、前記薬剤液槽から前記注入器具に前記薬剤を送液する供給ポンプと、を有し、
前記送液配管の主配管は、一端が前記供給ポンプの吐出口に接続され、他端が上方に立ち上げられて、前記筐体を貫通したのち、下方に屈曲して延びて前記注入器具に接続され、配管最上位部に空気抜き弁を有する、
薬剤供給装置。
【請求項2】
前記送液配管は、前記供給ポンプをバイパスして前記主配管に接続されるバイパス配管を有し、前記バイパス配管にバイパス配管開閉弁を有する、
請求項1に記載の薬剤供給装置。
【請求項3】
前記主配管は、前記配管最上位部に、配管内部を視認可能な窓部を有する、
請求項1に記載の薬剤供給装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の薬剤供給装置の運転方法において、
前記供給ポンプを駆動して、前記注入器具に薬剤を供給し、前記空気抜き弁を開いて前記主配管が満水となったことを確認したのちに、前記空気抜き弁を閉じ、前記供給ポンプを停止して、サイフォンの原理により前記送液配管を通して前記注入器具に薬剤を供給する、
薬剤供給装置の運転方法。
【請求項5】
請求項2に記載の薬剤供給装置の運転方法において、
前記供給ポンプを駆動して、前記注入器具に薬剤を供給し、前記空気抜き弁を開いて前記主配管が満水となったことを確認したのちに、前記空気抜き弁を閉じ、前記供給ポンプを停止して、サイフォンの原理により前記送液配管を通して前記注入器具に薬剤を供給し、
サイフォンの原理により前記注入器具に薬剤を供給するとき、前記バイパス配管開閉弁を開き、前記バイパス配管を通して薬剤を供給する、
薬剤供給装置の運転方法。
【請求項6】
請求項2に記載の薬剤供給装置の運転方法において、
前記主配管に主配管開閉弁を設け、
前記供給ポンプを駆動して、前記注入器具に薬剤を供給し、前記空気抜き弁を開いて前記主配管が満水となったことを確認したのちに、
前記空気抜き弁を閉じ、前記バイパス配管開閉弁を開き、前記主配管開閉弁を閉じて、前記供給ポンプで吐出された薬剤を前記バイパス配管を通して前記供給ポンプの吸込み側に循環させて、前記バイパス配管内を満水にしたのち、
前記主配管開閉弁を開き、前記供給ポンプを停止させて、サイフォンの原理によって、前記主配管および前記バイパス配管を通して前記注入器具に薬剤を供給する。
薬剤供給装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薬剤供給装置、及び、その運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機化合物等により汚染された土壌を浄化するために、汚染土壌に薬剤を供給する手法が知られている。このような手法は原位置浄化と呼ばれており、汚染土壌を掘り出して浄化する掘削除去に比べて、土壌の輸送のための環境負荷が少ない手法であるとされている。原位置浄化のように土壌に薬剤を供給する技術の例として、例えば、特許文献1には、薬剤を貯留した気密容器内を加圧装置によって加圧し、上昇した圧力によって薬剤を土壌に送液する技術が開示されている。特許文献1の技術によれば、分配装置によって、互いに長さが等しい送液管に気密容器から排液される薬剤を分配することにより、それぞれの送液管における薬剤の供給圧を均一化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-158725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原位置浄化においては、薬剤を汚染土壌の広範囲に浸透させるためには、薬剤を汚染土壌に対して継続的に供給し続けることが重要である。しかし、特許文献1に開示された技術では、薬剤の継続的な供給のためには、加圧装置を継続して作動させる必要があり、薬剤を汚染土壌に供給し続けるためには、加圧装置を作動させるためのエネルギーが必要であった。
本開示は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、汚染土壌に対する継続的な薬剤の供給を省エネルギー化できる薬剤供給装置、及び、その運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一様態は、地盤の注入井戸が有する注入器具に、汚染土壌の浄化に用いる薬剤を供給する薬剤供給装置において、筐体内に配置され、前記薬剤を貯留する薬剤液槽と、前記薬剤液槽と前記注入器具を接続する送液配管と、前記送液配管の途中に接続されて、前記薬剤液槽から前記注入器具に前記薬剤を送液する供給ポンプと、を有し、前記送液配管の主配管は、一端が前記供給ポンプの吐出口に接続され、他端が上方に立ち上げられて、前記筐体を貫通したのち、下方に屈曲して延びて前記注入器具に接続され、配管最上位部に空気抜き弁を有する、薬剤供給装置である。
また、本発明の別の一様態は、上記薬剤供給装置の運転方法において、前記供給ポンプを駆動して、前記注入器具に薬剤を供給し、前記空気抜き弁を開いて前記主配管が満水となったことを確認したのちに、前記空気抜き弁を閉じ、前記供給ポンプを停止して、サイフォンの原理により前記送液配管を通して前記注入器具に薬剤を供給する、薬剤供給装置の運転方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、供給ポンプの停止後においても薬剤を汚染土壌に供給し続けることができる。このため、供給ポンプを作動させ続けるエネルギーが不要となり、汚染土壌に対する継続的な薬剤の供給を省エネルギー化できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態1の薬剤供給装置を工場の建屋に適用した場合の概要を示す図。
図2】実施の形態1の薬剤供給装置の概要を示す図。
図3】実施の形態1の本体装置の概要を示す平面図。
図4】実施の形態1における薬剤の供給を開始する際の薬剤供給装置1の運転方法を示すフローチャート。
図5】薬剤を供給中における薬剤供給装置の動作を示すフローチャート。
図6】異常発生時における薬剤供給装置の動作を示すフローチャート。
図7】実施の形態2における薬剤の供給を開始する際の薬剤供給装置1の運転方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1.実施の形態1]
以下、図面を用いながら、実施の形態1について説明する。
[1-1.構成]
[1-1-1.薬剤供給装置の全体構成]
図1は、本発明を適用した実施の形態1としての薬剤供給装置1を工場の建屋Fに対して適用した場合の概要を示す図である。薬剤供給装置1は、薬剤を地盤Gに供給して土壌の微生物を活性化させ、活性化した微生物によってVOCs(揮発性有機化合物)等を無害化させる、いわゆるバイオレメディエーションに用いられる装置である。バイオレメディエーションは、原位置浄化に分類される。薬剤供給装置1は、稼働中の工場の建屋Fの下の汚染土壌のような、掘削除去による浄化が適さない対象に対しても、その運営に影響を与えずに薬剤を供給することができる。
【0009】
図2は、薬剤供給装置1の概要を示す図である。薬剤供給装置1は、地盤Gに形成された注入井戸Wが有する注入器具90に対して薬剤を供給する本体装置10と、本体装置10に対して薬剤の原液を供給する原液貯留装置70と、を有する。本実施の形態では、薬剤供給装置1は、1つの本体装置10により3つの注入器具90に対して薬剤を供給する。
【0010】
原液貯留装置70は、略直方体の筐体71を有する装置であり、筐体71の内部に格納された原液貯留槽73を有する。原液貯留槽73は、希釈液によって希釈される以前の原液を貯留する容器であり、1.0立方メートルの容積を有する。原液貯留槽73に貯留される原液は、外部のポンプ等を利用して原液貯留槽73に送られる。本実施の形態では、原液は土中の微生物の活性化剤であり、人体に無害な液体である。なお、原液または薬剤として、汚染物質を直接的に分解するための分解剤を使用してもよい。
【0011】
原液貯留槽73の下部には、原液導入管75が接続されている。原液導入管75は、原液貯留槽73から本体装置10に対して原液を送液するための配管である。原液導入管75には、スクイズポンプ77が取り付けられている。スクイズポンプ77は、作動することによって原液貯留槽73から原液を汲み上げ、本体装置10に対して送液する駆動源となるポンプである。
【0012】
本体装置10は、略直方体の筐体20を有する装置であり、筐体20の内部に格納される混合液槽(薬剤液槽)30を有する。筐体20は、地盤Gに対して載置され、アンカーボルトによって地盤Gに固定される。混合液槽30は、原液と希釈液とを混合して薬剤を作成し、貯留する容器であり、0.25立方メートルの容積を有する。また、混合液槽30は完全に密閉されておらず、内圧は大気圧と同等に維持される。混合液槽30は、原液導入管75、および、希釈液を導入する希釈液導入管39に対して接続されている。本実施の形態において、希釈液は水道水であり、希釈液導入管39は、水道管に接続された配管である。
【0013】
筐体20の内部において、原液導入管75には、原液用電動バルブ75a、原液用流量調整弁75b、および、原液用流量計75cが配置されている。同様に、筐体20の内部において希釈液導入管39には、希釈液用電動バルブ39a、希釈液用流量調整弁39b、希釈液用流量計39cが配置されている。電動バルブ39a、75aは電子制御によって作動するバルブであり、希釈液導入管39および原液導入管75を開閉する。流量調整弁39b、75bは、手動によって開度の調整が可能な弁であり、希釈液導入管39を流れる希釈液、および、原液導入管75を流れる原液の流量をそれぞれ調整する。本実施の形態では、流量調整弁39b、75bにより、希釈液の流量は毎分1リットルから20リットルの範囲に、原液の流量は毎分1リットルから8リットルの範囲に、それぞれ設定される。流量計39c、75cは、希釈液導入管39を流れる希釈液、および、原液導入管75を流れる原液の流量をそれぞれ検知する。
【0014】
混合液槽30は、攪拌ミキサ31と、液位センサ33、35と、を有する。攪拌ミキサ31は、モーターの出力軸の先端に取り付けられた攪拌翼を有する装置であり、希釈液と原液とを攪拌させて混合し、薬剤を作成する。2つの液位センサ33、35は、それぞれ混合液槽30内における薬剤の液位Hmを独立に検出する。液位センサ33、35としては、超音波式のセンサや、電極式のセンサなどが好適である。
【0015】
混合液槽30は、筐体20内において、筐体20の底部20fよりも上方に配置されており、混合液槽30の底部30aには、混合液槽30内の薬剤を注入器具90に対して供給するための送液配管40が接続されている。送液配管40は、サイフォンの原理を利用することにより、外部からの動力の供給を受けていない間にも薬剤を供給できる。
送液配管40の主配管41は、送液配管40の途中に接続される供給ポンプ51の吐出口から注入器具90に至るまでの配管である。主配管41は、一端が供給ポンプ51の吐出口に接続され、他端が上方に立ち上げられて、筐体20の上面(天板)20gを貫通したのち、筐体20の側方で下方に屈曲して延び、注入器具90に接続されている。主配管41の上端45a(配管最上位部)には、空気抜き弁57が接続されている。
送液配管40は、後述するようにサイフォンの原理を利用して、外部からの動力の供給を受けていない間にも薬剤を供給できる。送液配管40の上端45aの高さは、地盤Gから7.5mの高さまで高くできるが、あまり高さを高くすると、空気抜き弁57の位置が高くなり、開閉の作業が困難になるため、2~3mの高さが好適である。
【0016】
なお、主配管41は、筐体20の上面(天板)20gを貫通しているが、サイフォンの原理を利用できるほどに、主配管41の上端45aの高さを十分確保できれば、主配管41は、筐体20の側面を貫通させてもよい。何れの場合も、空気抜き弁57は作業性を考慮し筐体20の外側に配置することが望ましい。
【0017】
注入井戸Wは、注入器具90と、地盤Gに掘られた井戸W1と、フィルタ層W2と、を有している。フィルタ層W2は、井戸W1の壁面と、井戸W1内に配置される注入器具90と、の間に配置される。フィルタ層W2は、例えば、砂、珪砂、砂利または玉砂利等である。注入器具90は、中空の円柱形状の器具本体91と、器具本体91の内部に設けられる器具内液位センサ93と、を有している。器具本体91は、地盤G上に設けられた本体装置10内の混合液槽30よりも下方に位置している。器具本体91の側面には多数の孔が形成されており、送液配管40を介して内部に供給される薬剤を、側面の孔からフィルタ層W2に放出する。フィルタ層W2に放出された薬剤は、井戸W1の壁面から地盤Gに浸透し、土壌に拡がっていく。
【0018】
器具内液位センサ93は、器具本体91の内部における薬剤の液位Hwを検知するセンサである。器具本体91内の液位Hwは、送液配管40からの薬剤の供給量、薬剤が地盤Gに浸透する速度等によって変動する。器具内液位センサ93は、このように変動する器具本体91内の液位Hwを所定の範囲内に保つために使用される。
【0019】
[1-1-2.配管の詳細構成]
図3は、本体装置10の概要を示す平面図である。主配管41は、供給ポンプ51の吐出口から下流側に延びるポンプ部43と、ポンプ部43の下流側において3つに分岐し、3つの注入器具90に接続される分岐部45と、を有している。
【0020】
供給ポンプ51は、混合液槽30内の液体をポンプ部43、分岐部45および注入器具90に向けて送り込むポンプであり、耐薬剤性などを考慮して、例えば、マグネットポンプが用いられる。供給ポンプ51は、水没対策のため、台座28に支持されて後述する防液堤23の上端よりも高い位置に配置されている。
【0021】
図3に示すように、ポンプ部43には、2つの戻し配管44の一端がそれぞれ接続される。戻し配管44は、他端を混合液槽30に対して接続されており、主配管41を流れる薬剤の一部を戻し流量調整弁52の開度に応じて混合液槽30に戻すことで、インバータ制御ができない供給ポンプ51の流量を調整する。また、2つの戻し配管44のうち、上流側の戻し配管44には、上流側の戻し配管44内の薬剤の流量を検知する戻し流量計52aが配置されている。なお、戻し配管44を設ける代わりに、インバータ制御が可能な供給ポンプ51を用いてもよい。
【0022】
また、ポンプ部43には、ポンプ部圧力計51aおよびポンプ部流量計51bが設けられている。ポンプ部圧力計51aは配管内の薬剤の圧力を検知する装置である。ポンプ部流量計51bは配管内の薬剤の流量を検知する装置であり、2つの戻し配管44よりも下流側に取り付けられている。すなわち、ポンプ部流量計51bは、分岐部45に流入する薬剤の総流量を検知する。
【0023】
分岐部45は、分岐した位置から上方に延び、筐体20の上面20gを上下に貫通して本体装置10の外部に引き出される。3つの分岐部45にはそれぞれ、上流側から順に、分岐部流量計53と、分岐部流量調整弁54と、分岐部圧力計55と、分岐部電動バルブ(主配管開閉弁)56と、が取り付けられている。分岐部流量計53は、各分岐部45を流れる薬剤の流量を検知する。分岐部圧力計55は、各分岐部45を流れる薬剤の圧力を検知する。分岐部流量調整弁54は、手動での開度の調整が可能な弁であり、各分岐部45を流れる薬剤の流量を個別に調整する。本実施の形態では、分岐部流量調整弁54により、各分岐部45を流れる薬剤の流量は、毎分1リットルから10リットルの範囲にそれぞれ独立に設定される。分岐部電動バルブ56は、各分岐部45の開閉が可能なバルブであり、電子制御によって作動する。
【0024】
また、3つの分岐部45には、それぞれ空気抜き弁57が配置されている。空気抜き弁57は、開くことによって分岐部45内の空気を外部に放出する手動のバルブである。空気抜き弁57は、分岐部45の上端45aに配置されている。上端45aは、分岐部45において薬剤が流れる配管のうち最も高い位置にある配管であり、水平に延びている。分岐部45の上端45aのうち、薬剤の流れの方向が水平方向から下方向に折れ曲がる角部分45a1には、上方に延びて上端が大気に開放された空気抜き配管45a2が分岐している。空気抜き弁57は、この空気抜き配管45a2の中途部に配置されている。
【0025】
空気抜き弁57を開くことにより、上端45aに溜まった空気および薬剤が空気抜き配管45a2に流入する。空気は薬剤よりも比重が小さいため、流入した空気は空気抜き配管45a2内を薬剤よりも早く上昇し、空気抜き配管45a2の上端から大気中に放出される。一方で、薬剤は空気抜き配管45a2内を空気よりもゆっくりと上昇する。薬剤は、上端45a内の空気がすべて空気抜き配管45a2に流入した後に、液面を形成しながら空気抜き配管45a2を上昇していく。この薬剤の液面が空気抜き弁57に到達した後に空気抜き弁57を閉じることにより、分岐部45から空気を抜き、分岐部45を薬剤で満たすことができる。
【0026】
また、送液配管40は、主配管41のポンプ部43に対して、供給ポンプ51をバイパスするように接続されたバイパス配管47を有している。バイパス配管47は、一端をポンプ部43に接続され、他端を供給ポンプ51よりも上流側に接続される。また、バイパス配管47の断面積はポンプ部43の断面積よりも大きく、バイパス配管47を介した送液量が大きくなり易い。バイパス配管47には、電子制御によってバイパス配管47を開閉する電動バルブであるバイパス配管開閉弁58が設けられている。
【0027】
この薬剤供給装置1では、主配管41は、一端が供給ポンプ51の吐出口に接続され、他端が上方に立ち上げられて、筐体20の上面(天板)20gを貫通したのち、筐体20の側方で下方に屈曲して延び、注入器具90に接続され、主配管41の上端45aには、空気抜き弁57が接続されている。そして、後述のように、供給ポンプ51を駆動して、空気抜き弁57を開き、主配管41内が満水となったことを確認したのちに、空気抜き弁57を閉じて、供給ポンプ51を停止する。
これによれば、供給ポンプ51を停止したのちも、サイフォンの原理により注入器具90に薬剤を供給し続けることができる。
【0028】
[1-1-3.本体装置内の構成]
筐体20の底部20fには、各配管や混合液槽30から原液、希釈液、および、それらの混合液である薬剤等の液体が万が一に漏洩した場合に、それらを受け止める防液堤23が設置されている。防液堤23は、平面視で略L字形のトレイ状の容器であり、全面が上方に開口している。防液堤23の容積は混合液槽30の容積よりも大きい0.45立方メートルに設定されており、混合液槽30内の液体が全て流出した場合であっても、防液堤23によってその全量を受け止めることが可能である。
【0029】
防液堤23の内部には、防液堤23内の液位を検知する第1堤内液位センサ24aと第2堤内液位センサ24bとが設けられている。図3に示すように、第1堤内液位センサ24aは、平面視で防液堤23内における端部、より詳細には、隅に設けられている。第2堤内液位センサ24bは、平面視で防液堤23内における第1堤内液位センサ24aの反対側の位置、より詳細には、対角の位置に配置されている。このため、本体装置10の設置状況などにより防液堤23が傾斜した場合であっても、2つの堤内液位センサ24a、24bどちらか一方によって液位を検出し易い。
【0030】
図3に示すように、混合液槽30、および、混合液槽30に繋がる希釈液導入管39、送液配管40、および原液導入管75は、まとめて配置されており、平面視で防液堤23の内側に位置している。より詳細には、これらの各配管39、40、75は、上面20gのうち平面視で防液堤23の内側に位置する引込口20g1から筐体20内に引き込まれており、各配管39、40、75のうち筐体20内に位置する部分の全体は、平面視で防液堤23の内側に位置する。
【0031】
また、送液配管40に取り付けられた供給ポンプ51、戻し流量調整弁52、分岐部流量計53、分岐部流量調整弁54、分岐部圧力計55、分岐部電動バルブ56、バイパス配管開閉弁58等の各機器は、平面視で防液堤23の内側に位置している。同様に、希釈液導入管39および原液導入管75に取り付けられた電動バルブ39a、75a、流量調整弁39b、75b、および、流量計39c、75cは、平面視で防液堤23の内側に位置している。このように、各配管および各機器が平面視で防液堤23の内側に位置しているため、これらの配管や機器から漏洩した液体は、防液堤23によって受け止められる。
【0032】
また、筐体20には、防液堤23の外側に液体が飛散することを防ぐための板である防液板25a、25b、25c、25d、25eが配置されている。防液板25a、25b、25c、25d、25eは、それぞれが平坦な板であり、鉛直方向に立てて配置されている。図3に示すように、防液板25a、25b、25c、25d、25eは、平面視で混合液槽30、供給ポンプ51、および、電動バルブ39a、56、75a等の各機器を取り囲むように配置されている。また、混合液槽30に連通する各配管39、40、75は、筐体20内において、平面視で防液板25a、25b、25c、25d、25eによって囲まれる。さらに、防液板25a、25b、25c、25d、25eは、平面視において防液堤23の内側に配置されている。このため、防液堤23の上方に配置された各配管や各機器から漏洩した液体が飛散した場合には、液体は防液板25a、25b、25c、25d、25eによって受け止められ、防液板25a、25b、25c、25d、25eを伝って防液堤23の内側に落ちる。
【0033】
防液板25eは、筐体20の上面20gに固定され、下方に延びている。防液板25a、25b、25c、25dは、筐体20の4つの側面20a、20b、20c、20dに取り付けられている。より詳細には、筐体20は、4つの側面20a、20b、20c、20dの略全面を開閉可能なメンテナンス用の開閉扉21a、21b、21c、21dを有している。防液板25a、25b、25c、25dは、この開閉扉21a、21b、21c、21dの内面に対して、支柱を介して固定されている。
【0034】
開閉扉21a、21b、21c、21dは、それぞれ両開き扉であり、平面視における筐体20の四隅に対してヒンジによって回動可能に連結されている。開閉扉21a、21b、21c、21dは、例えば本体装置10の各機器のメンテナンス時などに開かれ、薬剤供給装置1の運転中には閉じられる。防液板25a、25b、25c、25dが開閉扉21a、21b、21c、21dの内面に取り付けられることで、開閉扉21a、21b、21c、21dを開いたときに防液板25a、25b、25c、25dも共に開かれるため、各機器のメンテナンスを行い易い。
【0035】
筐体20の外側には、緊急停止ボタン27が配置されている。緊急停止ボタン27は、操作されることによって薬剤供給装置1の動作を停止させる装置である。
【0036】
筐体20内において、防液板25a、25b、25c、25d、25eの外側には、制御盤11および記録計13が配置されている。制御盤11は、箱型の筐体の内部にグラフィックパネル、制御部11a、および、通信装置11bを格納した装置である。グラフィックパネルは、薬剤供給装置1の運転状況をリアルタイムで表示する。
【0037】
制御部11aは、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Random Access Memory)やRAM(Read Only Memory)等のメモリを有する記憶装置、および、薬剤供給装置1の各機器と接続するためのインターフェイスを有する。制御部11aは、記憶装置に記憶されたプログラムに基づいてプロセッサを動作させることにより、インターフェイスを介して接続された薬剤供給装置1の各機器の制御、および、各センサからの検出値の取得を行う。なお、薬剤供給装置1の各機器は、作業者の操作によって動作させることもできる。
【0038】
通信装置11bは、薬剤供給装置1がインターネット等の通信網を介して外部の装置と通信を行うための通信インターフェイス回路やコネクタ等の通信ハードウェアを有する。
【0039】
記録計13は、箱型の筐体の内部にデータロガーを格納した装置である。データロガーは制御部11aに接続されており、各センサによる検出値等を記録する。
【0040】
[1-2.動作]
[1-2-1.供給開始時の運転方法]
図4は、薬剤の供給を開始する際の薬剤供給装置1の運転方法を示すフローチャートである。図4の動作の開始前に、混合液槽30には十分な量の薬剤が貯留された状態である。なお、図4の動作は、作業者が各装置を操作することによって実行されるが、制御部11aの制御によって実行される構成としてもよい。
【0041】
また、図4の動作の開始時点において、供給ポンプ51は停止しており、3つの分岐部流量調整弁54はいずれも開かれている。
【0042】
ステップSA1において、作業者は、分岐部電動バルブ56をすべて開とする。分岐部電動バルブ56が開とされることにより、送液配管40は、混合液槽30から注入器具90に至るまで連通した状態となる。
【0043】
ステップSA2において、作業者により、バイパス配管開閉弁58が閉じられる。バイパス配管開閉弁58が閉とされることにより、薬剤はバイパス配管47を通り抜けることができなくなる。
【0044】
ステップSA3において、作業者は、供給ポンプ51を作動させる。供給ポンプ51の作動により、混合液槽30に貯留された薬剤は、送液配管40の主配管41を介して注入器具90に送液される。すなわち、薬剤は、混合液槽30からポンプ部43に流れ、分岐部45で3つの流路に分岐して、3つの注入器具90に流入する。
【0045】
供給ポンプ51の駆動によって注入器具90内に薬剤が供給され続けると、送液配管40の主配管41内の空気は薬剤によって押し出されていき、やがて主配管41内は、薬剤によって満たされる。
【0046】
ステップSA4において、作業者により、主配管41が薬剤によって満たされているか否かの判定が行われる。主配管41が満水であれば、主配管41の上端45aの空気抜き弁57を開くと、薬剤は空気抜き弁57よりも上方の空気抜き配管45a2に流入する。この状態を目視で確認することで、主配管41が満水であると判定できる。確認後、空気抜き弁57は閉じられる。なお、ここでいう主配管41が満水の状態とは、サイフォンの原理による送液に支障が無い状態のことをいい、主配管41内に少量の空気が残っていてもよい。主配管41が満水の場合(ステップSA4:YES)、ステップSA5に移行する。主配管41が満水でない場合(ステップSA4:NO)、作業者は、主配管41が満水になるまでステップSA4の判定を繰り返し行う。
【0047】
ステップSA5において、作業者は、供給ポンプ51を停止させる。なお、2つの戻し流量調整弁52が開かれている場合、このときに閉じられる。
【0048】
ステップSA6において、作業者は、バイパス配管開閉弁58を開く。バイパス配管47は満水状態であるため、バイパス配管開閉弁58が開かれることにより、供給ポンプ51を停止させた後であっても、バイパス配管47を介したサイフォンの原理による送液が開始される。バイパス配管47には供給ポンプ51による抵抗がかからないため、ポンプ部43において供給ポンプ51を通過する流路よりも抵抗が小さく、送液量を確保することができる。
【0049】
実施の形態1の運転方法によれば、まず、供給ポンプ51を駆動して、所定時間、注入器具90に薬剤を供給する。所定時間は、主配管41を満水にするために要する時間である。所定時間後、空気抜き弁57を開いて、主配管41が満水となったことを確認したのちに、空気抜き弁57を閉じ、供給ポンプ51を停止する。主配管41が満水であれば、薬剤は空気抜き弁57よりも上方の空気抜き配管45a2に流入する。この状態を目視で確認することで、主配管41が満水であると判定する。
混合液槽30は地盤Gよりも上方に設置され、注入器具90は地盤G内に配置されている。したがって、この運転方法によれば、ステップSA5の供給ポンプ51の停止後も、所謂サイフォンの原理によって送液が継続され、汚染土壌に対する継続的な薬剤の供給を省エネルギー化できる。
【0050】
また、この運転方法によれば、サイフォンの原理により注入器具90に薬剤を供給するとき、バイパス配管開閉弁58を開き、バイパス配管47を通して薬剤を供給する。バイパス配管47には、供給ポンプ51による抵抗がないため、バイパス配管47を通して、薬剤の送液量を確保することができる。
【0051】
このため、継続的な送液の省エネルギー化を実現できる。また、バイオレメディエーションにおいては、薬剤の流れが長時間途切れることで、繁殖した微生物によって注入井戸Wが閉塞する場合があるが、本実施の形態ではこれを予防することができる。なお、バイパス配管47や、バイパス配管開閉弁58などは、省略が可能である。これが省略された形態においては、供給ポンプ51の内部流路を介したサイフォンの原理による送液がおこなわれる。
【0052】
また、サイフォンの原理を利用して送液することにより、送液配管40の中途部を混合液槽30よりも上方に配置した場合であっても、供給ポンプ51の駆動なしで注入器具90まで薬剤を送液できる。このため、例えば、単に重力によって薬剤を下方に流して注入器具90に供給する場合よりも、送液配管40の配置の自由度が大きくなる。従って、例えば図1のように稼働中の工場等の施設に薬剤供給装置1を適用する場合において、送液配管40により施設の操業を妨げにくくなる。特に、分岐部45を工場等の建屋Fの建屋の壁面や柱、天井等に沿わせて架空配管とすることができるので、施設内を走行する車両等に干渉させることなく、送液配管40の敷設が可能となる。
【0053】
[1-2-2.供給中の動作]
図5は、薬剤を供給中における薬剤供給装置1の動作を示すフローチャートである。図5の動作は、上述した図4のステップSA6の後に、制御部11aによって行われる。なお、以下の説明および図5において、液位Hm、Hwが特定の液位に到達している状態とは、その特定の液位において液体が存在する状態を言う。
【0054】
ステップSB1において、制御部11aは、混合液槽30内の液位Hmが、制御上限液位Hm2に到達したか否かを判定する。このとき、制御部11aは、液位センサ33、35の検出値を用いた判定をおこなう。薬剤供給装置1の運転時において、制御部11aは液位Hmを目標範囲内に収めるように動作しており、制御上限液位Hm2は、この目標範囲における上限値である。本実施の形態では、混合液槽30内の薬剤の体積が0.12立方メートルから0.18立方メートルの範囲内となる液位Hmを目標範囲としており、制御上限液位Hm2は、混合液槽30内の薬剤の体積が0.18立方メートルのときの液位に対応している。液位Hmが制御上限液位Hm2に到達していると判定された場合(ステップSB1:YES)、ステップSB2に移行する。液位Hmが制御上限液位Hm2に到達していない場合(ステップSB1:NO)、ステップSB3に移行する。
【0055】
ステップSB2において、制御部11aは、電動バルブ39a、75aを閉止し、混合液槽30に対する薬剤および希釈液の供給を停止する。これにより、混合液槽30内の液位Hmは、送液配管40を介した送液分だけ低下していく。電動バルブ39a、75aの閉止後は、ステップSB4に移行する。
【0056】
ステップSB3において、制御部11aは、電動バルブ39a、75aを開き、混合液槽30に対する薬剤および希釈液の供給を開始する。ステップSB4により、混合液槽30内の液位Hmは上昇していく。電動バルブ39a、75aが開かれた後は、ステップSB1に戻る。
【0057】
ステップSB4において、制御部11aは、それぞれの注入器具90の液位Hwが、器具側上限液位Hw2に到達したか否かを判定する。薬剤供給装置1の運転時において、制御部11aはそれぞれの注入器具90内の液位Hwを目標範囲内に収めるように動作しており、器具側上限液位Hw2は、この目標範囲における上限値である。1つ以上の注入器具90において液位Hwが器具側上限液位Hw2に到達したと判定された場合(ステップSB4:YES)、ステップSB5に移行する。全ての注入器具90について液位Hwが器具側上限液位Hw2に到達していないと判定された場合(ステップSB4:NO)、ステップSB6に移行する。
【0058】
ステップSB5において、制御部11aは、液位Hwが器具側上限液位Hw2に到達した注入器具90に対しての薬剤の供給を停止させる。具体的には、制御部11aは、液位Hwが器具側上限液位Hw2に到達した注入器具90につながる分岐部45上の分岐部電動バルブ56を閉じる。これにより、対象の注入器具90内における液位Hwは低下し、やがて器具側上限液位Hw2に到達しなくなる。分岐部電動バルブ56の閉止後は、ステップSB6に移行する。
【0059】
ステップSB6において、制御部11aは、それぞれの注入器具90の液位Hwが、器具側下限液位Hw1に到達したか否かを判定する。器具側下限液位Hw1は、液位Hwの目標範囲の下限値である。1つ以上の注入器具90の液位Hwが器具側下限液位Hw1に到達していないと判定された場合(ステップSB6:NO)、ステップSB7に移行する。全ての注入器具90について液位Hwが器具側下限液位Hw1に到達していると判定された場合(ステップSB6:YES)、ステップSB8に移行する。
【0060】
ステップSB7において、制御部11aは、液位Hwが器具側下限液位Hw1に到達していないと判定された注入器具90に対しての混合液の供給を開始する。具体的には、制御部11aは、液位Hwが器具側下限液位Hw1に到達していない注入器具90につながる分岐部45上の分岐部電動バルブ56を開く。これにより、対象の注入器具90内における液位Hwは上昇し易くなり、やがて器具側下限液位Hw1に到達する。分岐部電動バルブ56が開かれた後は、ステップSB8に移行する。
【0061】
ステップSB8において、制御部11aは、混合液槽30内の液位Hmが、制御下限液位Hm1に到達したか否かを判定する。制御部11aは、液位センサ33、35の検出値を用いて判定を行う。制御下限液位Hm1は、液位Hmの目標範囲の下限値であり、混合液槽30内の薬剤の体積が0.12立方メートルのときの液位に対応する。液位Hmが制御下限液位Hm1に到達していると判定された場合(ステップSB8:YES)、ステップSB4に移行する。液位Hmが制御下限液位Hm1に到達していないと判定された場合(ステップSB8:NO)、ステップSB9に移行する。
【0062】
ステップSB9において、制御部11aは、開いている分岐部電動バルブ56をすべて閉止させる。これにより、混合液槽30から注入器具90に向けての送液は一時停止され、液位Hmはこれ以上低下しなくなる。その後、ステップSB3に戻る。
【0063】
制御部11aは、薬剤の供給中において、図5のステップSB1からステップSB9を繰り返し実行し続けるため、薬剤の供給中は、混合液槽30および注入器具90の液位Hm、Hwはそれぞれ目標範囲に保たれる。このため、液位Hm、Hwが過度に高まって混合液槽30や注入器具90から薬剤が溢れ出ること、および、液位Hmが過度に低下して送液が停止することを抑制できる。なお、図4に示す注入開始時においても、液位Hmを目標範囲内とする動作は実行される。
【0064】
サイフォンの原理により薬剤を供給中において、制御部11aは、所定の間隔毎に供給ポンプ51を所定の時間だけ作動させて、その後停止させる制御を行う。薬剤の供給中には、送液配管40内に空気が溜まる場合があるため、定期的に供給ポンプ51を作動させることにより、送液配管40内に溜まった空気を排出できる。例えば、所定の間隔は1日であり、所定の時間は1分である。
送液配管40内に空気が溜まったか否かは、図2に示すように、主配管41の上端45aに設けた、配管内部を視認可能な窓部157を覗くことにより、目視で確認することができる。窓部157は、望ましくは、空気抜き弁57の上流側に配置される。窓部157を覗いて空気の混入が認められたとき、空気抜き弁57を開いて、空気を排出してもよい。ただし、窓部157を設ける代わりに、上端45aを内部の空気の有無が目視可能な配管によって構成してもよい。
【0065】
[1-2-3.異常発生時の動作]
上述のように、薬剤の供給中等においては、混合液槽30および注入器具90の液位Hm、Hwはそれぞれ目標範囲に保たれる。このため、通常の運転中の薬剤供給装置1において、薬剤、希釈液、または、薬剤は漏洩しにくい。しかし、薬剤供給装置1は、稼働中の施設などに設置される場合も考慮し、更なる漏洩対策のために動作等の異常を検知して自動停止する機能を有している。以下では、このような異常発生に対応するための動作を説明する。
【0066】
図6は、異常発生時における薬剤供給装置1の動作を示すフローチャートである。
ステップSC1において、制御部11aは、薬剤供給装置1において異常が発生しているか否かを判定する。制御部11aは、異常の発生を常に監視しており、いずれかの異常の発生を検知した場合(ステップSC1:YES)、速やかにステップSC2に移行する。ステップSC1での判定に利用される異常の発生を、以下に例示する。
【0067】
制御部11aは、混合液槽30および注入器具90の液位Hm、Hwについての異常をそれぞれ監視している。具体的には、制御部11aは、混合液槽30の液位Hmが自動停止液位HmEに到達する、もしくは、注入器具90の液位Hwが自動停止液位HwEに到達することにより、異常の発生を検知する。換言すれば、制御部11aは、通常は制御上限液位Hm2および器具側上限液位Hw2以下を目標範囲として制御されている液位Hm、Hwが、目標範囲を上回って異常上昇した場合に、異常の発生を検知する。
【0068】
自動停止液位HmEは、制御上限液位Hm2よりも高い液位であり、本実施の形態では、自動停止液位HmEは、混合液槽30内の薬剤の体積が0.21立方メートルのときの液位に対応している。同様に、自動停止液位HwEは器具側上限液位Hw2よりも高い液位である。
【0069】
また、制御部11aは、各配管における流量についての異常を監視している。すなわち、制御部11aは、希釈液用流量計39c、原液用流量計75c、分岐部流量計53の検出値を監視しており、流量計39c、53、75cの検出値と薬剤供給装置1の運転状況との乖離が生じている場合に、異常の発生を検知する。
【0070】
具体的には、制御部11aは、スクイズポンプ77が作動し、原液用電動バルブ75aが開状態とされているときに、原液用流量計75cによる流量の検出ができない場合、異常の発生を検知する。制御部11aは、希釈液用電動バルブ39aが開状態とされているとき、希釈液用流量計39cによる流量の検出ができない場合、異常の発生を検知する。また、制御部11aは、薬剤の送液中に、ポンプ部流量計51b、または、開状態の分岐部電動バルブ56に対応する分岐部流量計53による流量の検出ができない場合、異常の発生を検知する。流量計39c、51b、53、75cによる流量の検出ができない場合とは、具体的には、各流量計39c、51b、53、75cが故障して出力信号が得られなくなった場合、配管内の空気により流量の検出値が得られない場合等の他、流量の検出値が最低流量を下回る場合を含む。最低流量は、各流量計39c、51b、53、75c毎に設定されている値である。最低流量は、例えば、各流量計39c、51b、53、75cが取り付けられた各配管における、薬剤供給装置1の通常運転時での送液中の流量の下限よりも低い値とされる。本実施の形態では、希釈液導入管39、原液導入管75、分岐部45における送液中の液体の流量は毎分1リットル以上とされているため、各配管での最低流量としては、毎分1リットル未満の値が採用される。このように、流量計39c、51b、53、75cによる流量の検出ができないか否かを監視することで、制御部11aは、各配管において液体の漏洩を間接的に監視している。
【0071】
また、制御部11aは、各電動バルブ39a、56、58、75aの制御電流値を監視しており、この制御電流値が急激に上昇して過負荷となった場合に、異常の発生を検知する。制御電流値は、例えば、各電動バルブ39a、56、58、75aに異物等が詰まることによって急激に上昇する。すなわち、制御部11aは、制御電流値を介して、各電動バルブ39a、56、58、75aの詰まりを監視している。
【0072】
また、制御部11aは、防液堤23内に配置された2つの堤内液位センサ24a、24bの検出値に基づき、異常の発生を検知する。具体的には、制御部11aは、堤内液位センサ24a、24bの検出値を常に監視しており、2つの堤内液位センサ24a、24bのうちどちらか一方が液位を検出した場合に、異常の発生を検知する。防液堤23内には、通常の運転時には液体が溜まっていないため、上記のように制御することにより、各配管や装置から液体が漏洩したことを検知できる。
【0073】
なお、ここで例示した異常を検知した場合(ステップSC1:YES)の他に、制御部11aは、緊急停止ボタン27が操作されたことを検知した場合にも、ステップSC2以下の処理を実行する。
【0074】
ステップSC2において、制御部11aは、薬剤供給装置1において作動中の供給ポンプ51およびスクイズポンプ77を停止させる。ステップSC3において、制御部11aは、薬剤供給装置1のすべての電動バルブ39a、56、58、75aを閉じる。ステップSC3においては、ステップSC2に移行した際の各ポンプ51、77の作動状況に応じて各電動バルブ39a、56、58、75aを閉じるまでに待機時間を設け、各電動バルブ39a、56、58、75aでの圧力の上昇を防いでもよい。
【0075】
ステップSC2、SC3により、各配管39、40、75内の液体の流れは停止する。また、全ての電動バルブ39a、56、58、75aが閉じられて配管内の液体が複数に区切られる。このため、各配管39、40、75内のいずれかの場所で液体の漏洩が有ったとしても、漏洩箇所との間に電動バルブ39a、56、58、75aを挟んだ領域の液体は漏洩しない。
【0076】
ステップSC4において、制御部11aは、外部に異常の発生を報知する。制御部11aは、通信装置11bを制御し、予め記憶部に記憶された所定のメールアドレスに対して、警報メールを送信する。警報メールには、異常の発生時刻や、発生した異常の種類等が記載される。また、制御部11aは、薬剤供給装置1に設けられたスピーカやランプを動作させることにより、周囲に対して異常の発生を報知してもよい。
【0077】
ステップSC4の終了により、異常発生時の動作が終了する。その後、報知を受けた作業者等によって異常の原因究明、対策等の処置が行われ、処置の終了後に薬剤供給装置1の通常の運転が再開される。
【0078】
[2.実施の形態2]
以下、実施の形態2における薬剤供給装置1の運転方法について説明する。実施の形態2において、薬剤供給装置1の構成は実施の形態1と同一であるため、各部には同一の符号を付与してその説明は省略する。実施の形態2の薬剤供給装置1は、混合液槽30から注入器具90に対する薬剤の供給開始時の運転方法のみ異なるため、以下ではその運転方法について説明する。
【0079】
図7は、実施の形態2において薬剤供給装置1が薬剤の供給を開始する際の運転方法を示すフローチャートである。なお、ステップSA4までは、実施の形態1における図4を用いた説明と同様であるため、その説明を省略する。なお、実施の形態2において、主配管41が満水である場合(ステップSA4:YES)、ステップSD5に移行する。
【0080】
ステップSD5において、作業者は、バイパス配管開閉弁58を開く。ステップSD6において、作業者は、3つの分岐部電動バルブ56をすべて閉じる。
【0081】
ステップSD5およびステップSD6が実行されることで、供給ポンプ51によって送液された薬剤は、供給ポンプ51の吐出口からバイパス配管47に流入し、バイパス配管47を通って再び供給ポンプ51の吸い込み側に戻される。これにより、バイパス配管47は、より確実に薬剤で満水になる。
【0082】
ステップSD6の実行後、バイパス配管47が薬剤で満たされるまで十分な時間だけ待機してから、ステップSD7に移行する。ステップSD7において、作業者は、分岐部電動バルブ56を開く。これにより、満水のバイパス配管47およびポンプ部43と、満水の分岐部45と、が連通する。ステップSD8において、作業者は、供給ポンプ51を停止させる。このとき、送液配管40は満水であるため、供給ポンプ51の停止後も、サイフォンの原理によって注入器具90に対する送液を継続できる。
【0083】
すなわち、実施の形態2では、注入器具90に薬剤を供給し、空気抜き弁57を開いて主配管41が満水となったことを確認したのちに、空気抜き弁57を閉じ、バイパス配管開閉弁58を開き、分岐部電動バルブ56を閉じて供給ポンプ51で吐出された薬剤を、バイパス配管47を通して供給ポンプ51の吸込み側に循環させて、バイパス配管47内を満水にしたのち、分岐部電動バルブ56を開き、供給ポンプ51を停止させて、サイフォンの原理によって、主配管41およびバイパス配管47を通して注入器具90に薬剤を供給する。これによれば、バイパス配管47をより確実に満水にでき、バイパス配管47を介した送液を行い易くなる。
【0084】
(他の実施の形態)
上記実施形態は本発明を適用した一具体例を示すものであり、発明が適用される形態を限定するものではない。
【0085】
バイパス配管47は、供給ポンプ51の上流側と下流側とを接続し、供給ポンプ51を迂回した薬剤の流路を形成できるものであればよい。このため、供給ポンプ51の一端は主配管41に接続され、他端は混合液槽30に接続される構成としてもよい。
【0086】
上記実施の形態では、薬剤供給装置1は原液貯留装置70を有し、原液貯留装置70に貯留されて原液を希釈液導入管39からの希釈液によって希釈し、薬剤を作成していたが、これは一例である。例えば、薬剤供給装置1は、原液貯留装置70および希釈液導入管39を有さず、混合液槽30に投入される薬剤を注入器具90に対してそのまま供給する構成としてもよい。
【0087】
上記実施の形態では、主配管41が薬剤によって満たされているか否かを、空気抜き弁57を開いて、目視により確認して判定すると説明したが、これは一例である。例えば、供給ポンプ51の作動の開始時からの時間を計測し、この時間が所定の時間を上回ったときに、主配管41が薬剤によって満たされていると判定してもよい。また、分岐部流量計53が計測した薬剤の流量により、送液配管40が薬剤によって満たされているか否かを判定してもよい。
【0088】
上記実施の形態では、各流量調整弁39b、52、54、75bはそれぞれ手動の弁であると説明したが、制御部11aによって開度を制御される電動の弁であってもよい。また、各流量調整弁39b、54、75bは、制御部11aによって制御可能な構成である場合、それぞれ電動バルブ39a、56、75aと統合してもよい。また、空気抜き弁57は、制御部11aによって開閉を制御される電動の弁であってもよい。また、各液位センサ24a、24b、33、35、93は、薬剤供給装置1の制御の閾値となる特定の液位のみを検知可能であってもよく、液位を連続した値として特定可能であってもよい。
【0089】
上記実施の形態では、薬剤供給装置1は、3つの注入井戸Wが有する3つの注入器具90に対して薬剤を供給する構成であると説明したが、注入井戸Wは4つ以上、または、2つ以下であってもよい。また、1つの本体装置10に対して、2つ以上の原液貯留装置70が接続される構成としてもよい。
【0090】
上記実施の形態では、制御盤11のプロセッサの例としてCPUを説明したが、これは一例である。制御盤11のプロセッサは、MPU(Micro Processing Unit)等の、CPU以外のプロセッサであってもよい。なお、プロセッサとして、DSP(digital signal processor)等が用いられてもよい。また、プロセッサとして、LSI(large scale integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programming Gate Array)等の制御回路が用いられてもよい。
【0091】
上記実施の形態では、制御盤11の記憶装置の例として、ROMおよびRAMを有する記憶装置を説明したが、これは一例である。制御盤11の記憶装置は、ハードディスク等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置等を有する構成としてもよい。
【0092】
図4から図7に示す動作のステップ単位は、動作の理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものであり、処理単位の分割の仕方や名称によって、動作が限定されることはない。処理内容に応じて、さらに多くのステップ単位に分割してもよい。また、1つのステップ単位がさらに多くの処理を含むように分割してもよい。また、そのステップの順番は、本開示の趣旨に支障のない範囲で適宜に入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 薬剤供給装置
10 本体装置
20 筐体
30 混合液槽(薬剤液槽)
40 送液配管
41 主配管
43 ポンプ部(主配管)
45 分岐部(主配管)
45a 上端(配管最上位部)
47 バイパス配管
51 供給ポンプ
56 分岐部電動バルブ(主配管開閉弁)
57 空気抜き弁
58 バイパス配管開閉弁
90 注入器具
157 窓部
G 地盤
W 注入井戸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7