(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145798
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】衣料用積層体および感染防止衣料
(51)【国際特許分類】
B32B 5/24 20060101AFI20241004BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20241004BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20241004BHJP
A41D 13/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B32B5/24 101
B32B27/34
B32B27/40
A41D13/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058302
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省消防庁、「感染防止性・夏季における冷却性等に優れた能力を有する感染防止衣の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 武史
(72)【発明者】
【氏名】樋口 眞矢
(72)【発明者】
【氏名】高月 珠里
【テーマコード(参考)】
3B211
4F100
【Fターム(参考)】
3B211AB09
3B211AC18
4F100AK45D
4F100AK45E
4F100AK46A
4F100AK46C
4F100AK51B
4F100AK51D
4F100AK51E
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CB00D
4F100CB00E
4F100DG13A
4F100DG13C
4F100DJ00B
4F100EH46
4F100EJ98
4F100GB72
4F100JB07
4F100JD04
4F100JK08
4F100JL12D
4F100JL12E
4F100YY00A
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】透湿防水性に加え、十分なストレッチ性と軽量性を有する衣料用積層体を提供する。また、前記積層体を用いて、血液やウイルスをバリアする防水性に優れ、着用した際の蒸れ感を軽減し、十分なストレッチ性と軽量性を有することにより動きやすく、着用快適性に優れた感染防止衣料を提供する。
【解決手段】表地用編物、微多孔膜および裏地用編物をこの順に積層してなる積層編物であって、表地用編物および裏地用編物はポリアミド繊維を主体として構成され、微多孔膜はポリウレタン樹脂を主体として構成され、目付けが100g/m2以下、かつJIS L 1099 A-1法(塩化カルシウム法)により測定する透湿度が8000g/m2/24h以上である衣料用積層体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地用編物、微多孔膜および裏地用編物をこの順に積層してなる積層編物であって、表地用編物および裏地用編物はポリアミド繊維を主体として構成され、微多孔膜はポリウレタン樹脂を主体として構成され、
目付けが100g/m2以下、かつJIS L 1099 A-1法(塩化カルシウム法)により測定する透湿度が8000g/m2/24h以上である衣料用積層体。
【請求項2】
表地用編物および裏地用編物がトリコット組織の編物である、請求項1に記載の衣料用積層体。
【請求項3】
JIS L 1096 B法により測定するタテ方向の伸長率が5~15%、かつヨコ方向の伸長率が10~30%である、請求項1に記載の衣料用積層体。
【請求項4】
80%エタノール水溶液に25時間浸漬し乾燥した後、JIS L 1092(2009)B法(高水圧法)により測定する耐水圧が100kPa以上である、請求項1に記載の衣料用積層体。
【請求項5】
前記表地用編物と前記微多孔膜の間、および前記微多孔膜と前記裏地用編物の間に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を主体として構成される接着剤層を有する請求項1に記載の衣料用積層体。
【請求項6】
請求項1に記載の衣料用積層体を用いた感染防止衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液やウイルスに対するバリア性を有し、かつ透湿性やストレッチ性、軽量性にも優れる衣料用積層体および感染防止衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、メディカル分野においては、ウイルスなどから身体を守るために、感染防護衣が医療現場で用いられている。感染防護衣には高いウイルスバリア性や血液バリア性を有するだけでなく、着用快適性の観点から、発汗に伴って発生する熱・蒸れを布帛外へ効率的に放出できる高い透湿性も求められる。ここで、高いウイルスバリア性や血液バリア性を有するためには、それに見合うだけの高い防水性能を有することが求められる。所望の防水性が達成されない場合、血液、体液などが浸透しやすくなり、ひいては細菌、ウイルスなどに接触する機会も増えることになる。そして、ウイルスバリア性や血液バリア性を達成する防水性と、透湿性を併せ持つ衣料用素材としては、基材、樹脂膜および接着層が積層された血液・ウイルスバリア性積層体が従来から知られている。
例えば、特許文献1には、ポリエステル系繊維からなる織物を表地用繊維布帛とし、ポリエステル系繊維からなる編物を裏地用繊維布帛とし、前記表地用繊維布帛と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなる微多孔膜および接着剤層と、前記裏地用繊維布帛とをこの順に積層した積層体が記載されている。また、特許文献2には、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を主成分とするフィルムの両面にポリエステルフィラメントからなるトリコット編地が接着樹脂を介して積層された医療用途に使用できる積層体が記載されている。また、特許文献3には、表地、第一接着剤層、透湿性を有する微多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム、第二接着剤層および裏地の順に積層一体化されてなる積層体で、前記表地および裏地がいずれもポリエステル繊維を用いた織編物である、洗濯耐久性に優れた血液バリア性積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-46576号公報
【特許文献2】特開2012-076273号公報
【特許文献3】特開2014-121858号公報
【0004】
ところで、従来より感染防護衣等の感染防止衣料としては、使い捨てを前提とするディスポーザブルタイプのものと、使用の都度消毒や洗濯を行いながら複数回利用することを前提とするリユーザブルタイプのものがある。そしてこれらの感染防止衣料には特にウイルスバリア性や血液バリア性に優れることが要求されており、このため、特にリユーザブルタイプの感染防護衣においては、消毒等への洗濯耐久性が要求されることから生地の厚みが厚く、また、ストレッチ性に劣るものであった。このような感染防護衣は、着用時に感染防護衣の重量の重さやストレッチ性の低さが原因となって疲労を感じやすくなったり、また夏場の着用においては蒸れが生じやすくなるため、着用感や作業性に劣るものであった。
近年、地球温暖化により気温が上昇している中で、夏場の着用における蒸れを防ぎ、さらに長時間着用する場合であっても動きやすく、不快感の少ない、着用感をより向上させた感染防護衣への要望が高まっている。
【0005】
特許文献1に開示された積層体は、透湿性を付与することにより着用快適性を付与することを考慮したものではあるが、十分ではなく、夏場の着用においては蒸れが生じやすく、また表地用繊維布帛として織物を使用しているためストレッチ性にも劣り、着用感にも劣るものであった。
また、特許文献2に開示された積層体は、フィルムの両面にトリコット編地を使用しているためストレッチ性には優れるものの、トリコット編地がポリエステルフィラメントで構成されるため軽量性に劣り、またフィルムの透湿性を考慮していなかった為に夏場の着用においては、蒸れが生じやすく、着用感に劣るものであった。
また、特許文献3に開示された血液バリア性積層体は、微多孔フィルムとしてとしてPTFEフィルムを使用したものであるため、ストレッチ性に劣り、また軽量性にも劣るものであるため、夏場の着用においては、蒸れが生じやすく、動きやすさや着用感に劣るものであった。
夏場の着用における蒸れを防ぎ、着用感を向上させるには、構成する生地に十分なストレッチ性や軽量性を付与することが求められるが、十分なストレッチ性と軽量性、および透湿防水性のすべての性能を満足する感染防止衣料は未だ提案されていない。
【0006】
また、昨今の社会的情勢から、感染防止衣料においては耐薬品性の中でも特に、殺菌、消毒に用いるエタノール製剤(アルコール)に対しての耐久性が強く要求されるようになってきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、リユーザブルタイプの感染防止衣料に好適な素材であって、感染防止衣料に要求されるウイルスバリア性や血液バリア性に優れる防水性を有することはもちろんのこと、夏場の着用において蒸れが生じにくい透湿性を有し、従来品よりも軽量でかつ十分なストレッチ性を有する衣料用積層体を提供することにある。また、前記積層体を用いて、血液やウイルスをバリアする防水性や、アルコールに対する耐久性に優れ、着用した際の蒸れ感を軽減し、動作をする際にも軽量で十分なストレッチ性を有することにより動きやすく、着用快適性に優れた感染防止衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の(イ)~(ヘ)を要旨とするものである。
(イ) 表地用編物、微多孔膜および裏地用編物をこの順に積層してなる積層編物であって、表地用編物および裏地用編物はポリアミド繊維を主体として構成され、微多孔膜はポリウレタン樹脂を主体として構成され、
目付けが100g/m2以下、かつJIS L 1099 A-1法(塩化カルシウム法)により測定する透湿度が8000g/m2/24h以上である衣料用積層体。
(ロ) 表地用編物および裏地用編物がトリコット組織の編物である、(イ)に記載の衣料用積層体。
(ハ) JIS L 1096 B法により測定するタテ方向の伸長率が5~15%、かつヨコ方向の伸長率が10~30%である、(イ)に記載の衣料用積層体。
(ニ) 80%エタノール水溶液に25時間浸漬し乾燥した後、JIS L 1092(2009)B法(高水圧法)により測定する耐水圧が100kPa以上である、(イ)に記載の衣料用積層体。
(ホ) 前記表地用編物と前記微多孔膜の間、および前記微多孔膜と前記裏地用編物の間に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を主体として構成される接着剤層を有する(イ)に記載の衣料用積層体。
(ヘ) (イ)に記載の衣料用積層体を用いた感染防止衣料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衣料用積層体は、ウイルスバリア性や血液バリア性に優れる防水性と夏場の着用において蒸れが生じにくい透湿性を有し、かつ軽量でストレッチ性にも優れるものである。そして、これらの性能は消毒剤として用いるアルコールに対する耐久性も有しているため、特にリユーザブルタイプの感染防止衣料に好適な素材である。
そして、本発明の衣料用積層体を用いて得られる感染防止衣料は、夏場の着用においても、蒸れが生じにくく、着用感や作業性にも優れる感染防止衣料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の衣料用積層体は、表地用編物、ポリウレタン樹脂を主体として構成された微多孔膜、および裏地用編物をこの順に積層したものである。なお、本発明では、衣料用積層体を「本発明積層体」と称することがある。
【0012】
本発明者らは透湿防水性に加え、十分な軽量性とストレッチ性とを有する衣料用積層体を得るにあたり、衣料用積層体の表地および裏地の両面にポリアミド繊維を主体として構成される編物を用いることが重要であると考えた。すなわち、後述するがポリマーの比重が小さいポリアミド系繊維を用いることで目付けが特定範囲以下と軽量性に大きく優れたものとなり、さらに表地および裏地の両面を特定の編物で構成することでストレッチ性にも優れたものとできる。そのため、本発明積層体を用いて感染防止衣料とすることで、例えば医療従事者が着用して救急活動を行う際には動きやすく、また暑さを軽減することも可能となる。また、着脱も容易に行えるなど、着用快適性に優れたものとできる。
本発明積層体を透湿防水性、軽量性およびストレッチ性にも優れるものとするためには、ポリアミド繊維を主体として構成される表地用編物および裏地用編物が、具体的に後述するような構成を有するものとすることが重要である。
【0013】
以下に、本発明における表地用編物と裏地用編物について説明する。
[表地用編物・裏地用編物]
本発明において、表地用編物および裏地用編物はポリアミド繊維を主体として構成される。ポリアミド系繊維としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン56、ナイロンMXD(ポリメタキシリレンアジパミド)などのホモポリマーおよびこれらを主体とする共重合体もしくは混合物からなるものが好ましく用いられる。中でもナイロン6からなる繊維が好ましい。ポリアミド系ポリマーは、ポリエステル系ポリマーと比較して、そのポリマー特性として比重が20%程度軽く、本発明の訴求点のひとつである軽量性という観点から好適である。そのため、本発明においては、表地用編物および裏地用編物を構成する繊維にポリアミド系繊維を用いる。
【0014】
なお、軽量性や透湿防水性の効果を損なわない範囲であれば、ポリアミド系繊維以外の繊維、例えば、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系繊維、ポリアクリルニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの合成繊維、トリアセテートなどの半合成繊維、綿、麻、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテートなどのセルロース系繊維が編物に含まれていてもよい。また、表地用編物および裏地用編物には導電糸などの繊維を必要に応じて適宜含有させることができる。
ただし、表地用編物および裏地用編物を構成する繊維として、ポリアミド系繊維は90質量%以上含まれることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0015】
ポリアミド系繊維としては、長繊維、短繊維、ステープルヤーンのいずれであってもよく、マルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよい。フィラメントとしては、フラットヤーン(生糸) や、仮撚加工糸、エアー交絡糸等の糸加工された糸を用いることができる。本発明積層体を薄くし、表面の平滑性を優れたものとする観点からは生糸を用いることが好ましく、本発明積層体のストレッチ性をさらに向上させる観点では仮撚加工糸を用いることがより好ましい。
【0016】
ポリアミド系繊維の単糸繊度は、0.7~10dtexであることが好ましく、1.0~6dtexがより好ましい。単糸繊度が0.7dtex未満になると、単糸繊度が細すぎて透湿性が低下する恐れがある。一方、単糸繊度が10dtexを超えると、単糸繊度が太すぎて編物の目が粗くなることで肌触りが低下したり、微多孔膜が編地表面から露出することで、積層体の耐久性が低下する恐れがある。
【0017】
ポリアミド系繊維の総繊度は、10~80dtexであることが好ましく、20~60dtexがより好ましい。総繊度が10dtex未満になると、表地用編物または裏地用編物と微多孔膜との接着性が低下したり、貼合せ時に接着剤として使用する樹脂が編物表面から漏出する場合があり、一方、80dtexを超えると、編物の重量が重くなり、軽量性に劣るものとなる。
【0018】
表地用編物および裏地用編物に用いる編物は、後述する編物の構成や特性値が同じものを使用してもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0019】
表地用編物の編密度は、40~150コース/2.54cmかつ25~100ウェール/2.54cmであることが好ましく、中でも、45~150コース/2.54cmかつ28~100ウェール/2.54cmであることが好ましい。一方、裏地用編物の編密度は40~100コース/2.54cmかつ25~80ウェール/2.54cmであることが好ましく、中でも、45~150コース/2.54cmかつ28~100ウェール/2.54cmであることが好ましい。コース密度、ウェール密度がそれぞれ上記の範囲を下回ると組織点の粗い編物となり、編物内に空隙が増える傾向となり、その結果、該空隙から微多孔膜が編地表面に露出したり、血液やウイルスをバリアする防水性が低下しやすくなる。一方、コース密度、ウェール密度がそれぞれ上記の範囲を上回ると組織点による拘束が強まり、編物としての引裂強力や破裂強力が低下したり、編物の重量が重くなり、軽量性に劣るものとなったり、積層体の透湿性が低下しやすくなる。
【0020】
表地用編物および裏地用編物の目付けは、それぞれ、20~80g/m2であることが好ましく、20~50g/m2がより好ましい。表地用編物および裏地用編物の目付けをそれぞれ20g/m2以上とすることで、本発明積層体が薄すぎるものとならず、引張強度や破裂強度、耐水圧性に優れたものとなる。一方、編物の目付を80g/m2以下とすることで、本発明積層体を感染防止衣料などにした場合、感染防止衣料がより軽量となり、着用感が向上する。
また、本発明では表地用編物と裏地用編物の目付けの合計が40~95g/m2であることが好ましく、40~90g/m2がより好ましく、45~90g/m2であることがさらに好ましい。表地用編物と裏地用編物の目付けの合計が上記範囲を満足することで、本発明積層体は重量が十分に軽いものとなり、感染防止衣料として使用した際に、動きやすく、また暑さを軽減することができるものとなる。
【0021】
本発明における編物は、経編物または緯編物のいずれであってもよい。経編物としては、例えば、デンビー編、コード編、アトラス編などが挙げられ、緯編物としては、例えば、平編、ゴム編、パール編、スムース編などが挙げられる。とりわけ、トリコット編地は、それ以外の組織を有する編地と比較すると伸縮性が抑えられており、編目空隙が大きくなり過ぎないので好ましい。また、トリコット編地は製編時に編地丈方向に長い生機を得られ、繋ぎ目を少なくすることができるため、本発明積層体を形成する際に微多孔膜上に均一に編地を積層することができる点でも好ましい。中でも、軽量性や耐久性、形態安定性の観点からハーフトリコット編が好ましい。
【0022】
[微多孔膜]
次に、本発明における微多孔膜について説明する。
【0023】
本発明では、優れたストレッチ性を付与する観点から、微多孔膜はポリウレタン樹脂を主体として構成される。中でも、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、それ自体が耐熱性および耐加水分解性などに優れ、洗濯に対する耐久性を有するものとできるため好ましく使用される。
微多孔膜には微多孔を有する平面状の素材が使用でき、例えば湿式凝固膜や乾式膜、発泡材(フォーム)が使用できるが、本発明においては防水性や耐久性の点で、フィルム状の乾式ポリウレタン膜を用いることが好ましい。そして、フィルム状の乾式ポリウレタン膜を後述するラミネート法により表地用編物および裏地用編物と積層することが好ましい。
【0024】
ポリウレタン樹脂としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる従来公知のものを採用しうる。ポリイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等が単独でまたは混合して用いられる。具体的には、トリレン-2,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサンジイソシアネートまたは1,4-シクロヘキサンジイソシアネート等を主成分として用い、必要に応じ3官能以上のポリイソシアネートを使用してもよい。一方、ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール等が用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリテトラエチレングリコール等が用いられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコールやプロピレングリコール等のジオールと、アジピン酸やセバチン酸等の二塩基酸との反応生成物、またまたはカプロラクトン等の開環重合物を用いることができ、その他、オキシ酸モノマーあるいはそのプレポリマーの重合物も用いることができる。なお、ポリウレタン樹脂単独で高度の透湿性能を得るには、ポリオール成分として、ポリエチレングリコールやポリオキシプロピレンポリオキシエチレン共重合体等のポリオキシエチレン基を相対的に多くしたものを用いることが好ましい。
【0025】
本発明における微多孔膜は、孔径1μm以下の微多孔のみを持つものであることが好ましい。孔径が1μm以下であれば、本発明積層体の表面からの血液等の浸透を抑えることができるため、血液によって媒介されるウイルスや菌に対するバリア性を高めることが可能になる。
【0026】
なお、本発明の積層体は、繰り返しの洗濯や消毒が想定されるため、微多孔膜内に洗剤等が残留して耐水圧が低下することを抑制するために、微多孔膜中にフッ素系撥水剤および油溶性のフッ素系界面活性剤が含有されていることが好ましい。
【0027】
含有されるフッ素系撥水剤としては、従来公知のものが用いられるが、中でも側鎖に炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有するアクリレート化合物を重合して得られたものであることが好ましい。具体的には、旭硝子株式会社製「アサヒガード AG-E061」、ダイキン工業株式会社製「ユニダイン TG-5521」、日華化学株式会社製「NKガード SCH-02」、クラリアントジャパン株式会社製「NUVA N2114 LIQ」等が挙げられる。
【0028】
フッ素系撥水剤は、微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂(組成物)の固形分中において、1~9質量%含有されていることが好ましい。フッ素系撥水剤の含有量が上記範囲であれば、均一な微多孔膜を形成させやすく、また洗濯を繰り返した場合も微多孔膜に洗剤が吸着にくくなるため、耐水圧の洗濯耐久性を向上させることができる。
【0029】
微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂(組成物)中に含有されるフッ素系界面活性剤としては、油溶性のものを用いることが好ましく、パーフルオロアルキル基よりなる疎水基と、ポリオキシアルキレン基、スルホン酸基またはカルボン酸基等の親水基とを有し、界面活性能のあるものを用いることが好ましい。ここで、油溶性とは、トルエンに対して50質量%以上溶解または相溶するという意味である。すなわち、トルエン100質量部に対してフッ素系界面活性剤50質量部を混合攪拌したとき、1時間経過後においても、相分離を起こさないということである。本発明では、油溶性のフッ素系界面活性剤を用いることで、フッ素系撥水剤を均一に微多孔膜中に存在させることができる。油溶性のフッ素系界面活性剤としては、AGCセイミケミカル株式会社製「SURFLON S-651」、「SURFLON S-611」、「SURFLON S-386」および「SURFLON S-243」等が用いられる。
【0030】
フッ素系界面活性剤は、微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂(組成物)の固形分中において、0.1~2質量%含有されていることが好ましい。フッ素系界面活性剤の含有量が上記範囲であれば、微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂の塗布性を高め、また耐水圧や、耐水圧の洗濯耐久性を向上させることができる。
【0031】
また、フッ素系撥水剤/フッ素系界面活性剤の使用比率としては、固形分比で3/1~30/1質量部程度であることが好ましく、5/1~20/1質量部の範囲がより好ましい。使用比率が上記範囲であれば、微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂の塗布性を高め、また耐水圧や、耐水圧の洗濯耐久性を向上させることができる。
【0032】
本発明では、さらに透湿防水性能に優れた微多孔膜とするために、微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂(組成物)中に、フッ素系撥水剤、およびフッ素系界面活性剤と共にシリカ微粉末を配合することが好ましい。シリカ微粉末としては、二酸化珪素微粉末であれば、従来公知のものを用いることができる。一般的に、一次粒子径が7~40nm程度の二酸化珪素よりなる微粉末が用いられる。一次粒子径が上記範囲であれば、微多孔膜の微孔の径が大きくなりすぎず、積層体の耐水圧の低下を抑えることができる。本発明においては、アモルファスのガラス状で細孔のない球状一次粒子からなる、粒子径7~40nmのフュームドシリカ微粉末を用いることが好ましい。具体的には、親水性フュームドシリカ微粉末または疎水性フュームドシリカ微粉末が用いられるが、本発明では、特に疎水性フュームドシリカ微粉末を用いることが好ましい。かかるシリカ微粉末は市販されているものであり、たとえば、日本アエロジル株式会社製「AEROSIL 90」、「AEROSIL 130」、「AEROSIL 200」、「AEROSIL 300」といった親水性フュームドシリカ微粉末、「AEROSIL NX90G」、「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RX300」、「AEROSIL R972」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL R976」といった疎水性フュームドシリカ微粉末が用いられる。また、フュームドシリカとフュームド酸化アルミニウムを混合させた微粉末である「AEROSIL COK84」も用いることができる。
【0033】
シリカ微粉末の含有量は、微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂(組成物)の固形分中において、3~45質量%程度であればよく、15~45質量%が好ましく、20~40質量%が特に好ましい。特に、シリカ微粉末の含有量が15~45質量%の範囲であれば、微多孔膜中に孔径1μm以下のナノオーダーの孔を多数形成させることができ、また、ポリウレタン特有の長孔の形成を抑えることができる。その結果、本願積層体を透湿性能と共に防水性能も大幅に向上したものとすることが可能となる。シリカ微粉末は、ポリウレタン樹脂(組成物)中に均一に分散した状態で含有されていることが好ましく、均一に分散するためには、予め、3本ロールミル機、ニーダー機またはサンドミル機等の混合機を用いて、ポリウレタン樹脂と混合し、調製すればよい。
【0034】
微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂(組成物)中には、およびさらに架橋性イソシアネート化合物が含有されていることが好ましい。架橋性イソシアネート化合物を含有させることでポリウレタン樹脂を架橋させ、微多孔膜の強度の向上や、微多孔膜と表地用編地および/または裏地用編地との接着力の向上を図ることができる。架橋性イソシアネート化合物はポリウレタン樹脂(組成物)の固形分中に1~10質量%程度含有していることが好ましい。
【0035】
架橋性イソシアネート化合物としては、トリレン2,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が用いられる。また、これらのジイソシアネート類3モルと、活性水素を含有する化合物1モルとの付加反応によって得られるトリイソシアネート類も用いられる。なお、活性水素を含有する化合物としては、たとえば、トリメチロールプロパン、グリセリン等を用いることができる。架橋性イソシアネート化合物のうち、特にブロックイソシアネートを用いると、ポリウレタン樹脂(組成物)の安定性およびポットライフの点で有利である。ブロックイソシアネートとしては、熱処理によって解離するタイプが好ましく、具体的には、フェノール、ラクタム、メチルケトオキシム等で付加ブロック体を形成させたものが好適である。
【0036】
本発明では、微多孔膜中に透湿防水性の効果を損なわない範囲でポリウレタン樹脂以外の樹脂が少量、たとえば固形分中に20質量%以下程度含有されていてもよい。かかる樹脂としては、たとえば、ポリアクリル酸、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアミノ酸、ポリカーボネート等の重合体または共重合体が用いられる。また、これらの重合体または共重合体をフッ素やシリコン等で変成したものも用いられる。その他にも、第三成分として、顔料、フィラーなどの各種添加剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤等の各種機能材を含有させてもよい。
【0037】
微多孔膜を形成するポリウレタン樹脂(組成物)の溶媒としては、ポリウレタン樹脂に対する親溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドを主体として用いるのが好ましく、ポリウレタン樹脂(組成物)の固形分含有量は、概ね15~35質量%程度が好ましい。15質量%未満では、200デシテックス以上の太繊度で凹凸性の強い離型布に対して、多量の溶液を要すると共に完全に離型布表面を覆うことが困難となりやすく、また、35質量%を超えると、レベリング性が低下して微多孔膜を得る際の塗布厚コントロールが難しくなる等の問題点があるので好ましくない。
【0038】
ポリウレタン樹脂(組成物)は、離型材の離型面にコンマコーターやナイフコーター等の公知の手段で塗布した後、湿式凝固液に浸漬させることにより、微多孔膜として形成される。湿式凝固浴としては、N,N-ジメチルホルムアミドが30質量%以下の水溶液が用いられる。凝固液の温度は5~35℃程度が好ましく、凝固時間は30秒~5分間程度である。湿式凝固液にてポリウレタン樹脂(組成物)を凝固させ、微多孔膜を得た後、N,N-ジメチルホルムアミドを除去するため、35~80℃の温度下で1~10分間湯洗する。湯洗後、50~150℃の温度下で1~10分間乾燥することにより、離型材の片面に微多孔膜が形成される。そして、離型材を剥離することによって、本発明積層体に用いる微多孔膜が得られる。
【0039】
微多孔膜は、厚みとして5~45μmの範囲であることが好ましく、15~35μmがより好ましい。厚みが5μm未満になると、防水性能が低減する傾向にあり、一方、45μmを超えると、積層体の重量が重くなり軽量性に劣るとともに、透湿性にも劣るものとなるため、いずれも好ましくない。
【0040】
本発明積層体において、表地用編物および裏地用編物は微多孔膜と直接積層されていてもよく、また接着剤層を介して積層されていてもよい。中でも後述するラミネーション法を用いる場合は、編物の上に接着剤層を設ける、つまり、編物と微多孔膜とは接着剤層を介して積層されることが好ましい。
【0041】
本発明積層体において、編物と微多孔膜とを接着剤層を介して積層する際には、編物に直接に接着剤である樹脂溶液を塗布するコーティング法や、微多孔膜を加圧や加熱することで編物に貼り合せるラミネート法が挙げられる。本発明では中でも、ポリウレタン樹脂の防水性や耐久性の/編物と微多孔膜の間の剥離強度を優れたものとする観点から、ラミネート法により微多孔膜を編物に積層することが好ましい。ラミネーションの方法としては、編物の上に塗布、乾燥により後述の接着剤層を設けた後、予めフィルム状に成形したポリウレタン樹脂からなる微多孔膜を加熱ロールで加圧しながら、接着剤層上に貼り合わせるドライラミネーションで編物上に微多孔膜を積層することが、編物と微多孔膜の間の剥離強度を優れたものとしたり、優れた透湿性を備えさせるという観点で好ましい。
【0042】
また、ラミネーションする際は、編物および微多孔膜に張力が極力掛からないようにして行うのがよい。張力が掛かり過ぎると、編物および微多孔膜が歪みを内在し、本発明積層体が後に洗濯収縮し易いものとなる。
【0043】
接着剤層に使用される接着剤の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂などが挙げられる。中でも微多孔膜との相溶性に優れるものであることが好ましいため、微多孔膜を構成するポリウレタン樹脂と同様に、ポリウレタン系接着剤からなる接着剤層を採用することが好ましい。
【0044】
接着剤層は、微多孔膜上に全面状に形成されてもよいが、衣料用積層体の透湿性、風合いなどの観点からパターン状に形成されていてもよい。パターン状の形態としては、特に限定されないが、点状、線状、格子状、市松模様、亀甲模様などがあげられ、基本的に全体に均一に配置されていることが好ましい。
【0045】
また、微多孔膜もしくは編物に対する接着剤層の占有面積としては、全面積に対し25~90%程度が好ましく、40~70%がより好ましい。接着剤層の塗布面積が著しく低いと、耐剥離性が低下し透湿性が向上する傾向となり、一方、接着剤層の塗布面積が著しく高いと、耐剥離性が向上し透湿性が低下する傾向となるが、両者のバランスの為に、上記の範囲とすることが好ましい。
【0046】
接着剤層の厚みとしては、一般に5~100μmが好ましく、10~70μmがより好ましく、20~50μmが特に好ましい。厚みが5μm未満になると、接着剤の占有面積を広くしても、耐久性ある積層体が得られ難く、一方、100μmを超えると、製造コストがかさむうえに透湿性能が低下したり、風合いが硬化したりすることがあるので、いずれも好ましくない。
【0047】
[衣料用積層体の特性]
次に、本発明の衣料用積層体の特性について説明する。
【0048】
本発明積層体は、軽量性の観点から、なるべく薄いほうが好ましく、目付けが100g/m2以下であることが必要であり、特に感染防止衣料に使用する際には90g/m2以下であることが好ましく、85g/m2以下であることがさらに好ましい。目付けが100g/m2よりも大きいと、本発明積層体を感染防止衣料などにした場合に、感染防止衣料の軽量性が十分でないため、疲労を感じやすくなるなど着用感に劣るものとなる。一方で、目付けが小さすぎる場合には、引張強度や破裂強度や耐水圧性が低下しやすくなるため、目付けは40g/m2以上であることが好ましい。
【0049】
本発明積層体は、透湿性に優れる特性値として、JIS L 1099 A-1法(塩化カルシウム法)に従って測定する透湿度が8000/m2/24h以上であり、中でも、8000~12000g/m2/24hであることが好ましい。また、本発明積層体は、JIS L 1099 B-1法(酢酸カリウム法)に従って測定する透湿度が15000~50000g/m2/24hであることが好ましく、20000~40000g/m2/24hであることがより好ましい。いずれの測定法であっても透湿度の範囲が上記範囲を下回ると、透湿性が不十分であるため微多孔膜表面が結露しやすく、本発明積層体を感染防止衣料などとした際に蒸れ感が生じて着用快適性が低下する。一方で上記範囲を上回ると、血液やウイルスへのバリア性に関わる所望の防水性が得られない恐れがある。
【0050】
本発明積層体がストレッチ性に優れることを示す特性値として、JIS L 1096 B法に従って測定するタテ方向の伸長率が5~20%、かつヨコ方向の伸長率が10~35%であることが好ましい。タテ方向の伸長率は中でも8~15%であることが好ましく、ヨコ方向の伸長率は中でも15~25%であることが好ましい。本発明積層体のタテ方向およびヨコ方向の伸長率が前記範囲を満足するものであると、積層体を用いて感染防止衣料などとした際に、着用者の身体の動きに合わせて積層体が十分に伸びるため、より動きやすく、着用快適性に優れるものとなる。積層体のタテ方向の伸長率が20%以下、かつヨコ方向の伸長率が35%以下であれば、感染防止衣料の着用者の動作時などに積層体に力が加わり、微多孔膜が伸びても、微多孔膜の孔が過度に広がることを抑制でき、血液やウイルスが微多孔膜を透過することを防止することができるため好ましい。
【0051】
さらに、本発明積層体がストレッチ性に優れることを示す特性値として、JIS L 1096 B-1法に従って測定するタテ方向およびヨコ方向の除重後1時間後の伸長回復率が70%以上であり、中でも着用快適性の観点から80%以上であることが好ましい。伸長回復率が70%以上であれば、実用上十分な伸縮性を有するといえる。なお、測定方法の詳細については、後述する。
【0052】
本発明積層体は、アルコールに対する耐久性の指標として、80%エタノール水溶液に25時間浸漬し乾燥した後、JIS L 1092(2009)B法(高水圧法)により測定する耐水圧が100kPa以上であり、120kPa以上が好ましい。エタノール水溶液に浸漬後の耐水圧が上記範囲内であれば、本発明積層体はアルコールへの優れた耐久性を示すものとなる。そのため、本発明積層体を感染防止衣料などとして使用する際に、除菌などの目的でアルコールを用いて衣料の表面を複数回拭くなどした場合であっても、血液やウイルスへの優れたバリア性を維持できるものとなる。
本発明積層体がアルコールに対する耐久性に優れる理由は明らかでないが、微多孔膜として使用するポリウレタン樹脂による特性と推定される。
【0053】
本発明積層体は、防水性の指標として、JIS L 1092(2009)B法(高水圧法)により測定する初期の耐水圧が100kPa以上であり、120kPa以上が好ましい。初期の耐水圧を上記範囲内のものにすることによって、本発明積層体は優れた防水性を示し、血液やウイルスへの優れたバリア性を有するものとなる。また、微多孔膜の貫通孔を適当数設けることができるため透湿性にも優れたものとできる。なお、本発明において、初期の耐水圧とは、上記80%エタノール水溶液に25時間浸漬する前の耐水圧を意味する。
【0054】
本発明積層体の血液バリア性は、ASTM F1670-08B法に記載の試験に合格するものであることが好ましい。上記試験の判定が合格であれば、実用する上で十分な血液バリア性を有するものであり、好ましいと評価できる。
【0055】
本発明積層体のウイルスバリア性は、ASTM F1671-07B法に記載の試験に合格するものであることが好ましい。上記試験の判定が合格であれば、実用する上で十分なウイルスバリア性を有するものであり、好ましいと評価できる。
【0056】
[衣料用積層体の製造方法]
次に、本発明の衣料用積層体の製造方法について、編物の片方の面に微多孔膜を形成する方法としてラミネート法を用いた場合の積層体の製造方法を一例として説明する。
【0057】
ラミネート法において、まず、微多孔膜形成用樹脂組成物(例えば、微多孔膜を形成する樹脂と有機溶剤とを含む樹脂組成物)を、離型材(離型紙、離型布または離型フィルム等)の表面にクリアランスを設け、厚みを調節しながら微多孔膜を形成し熱処理することで完全に反応させフィルムを得る。離型材は、貼合わせた後または熟成した後に、適宜に取り除くことができる。
【0058】
次いで、表地用編物または微多孔膜の上に、接着剤層を形成する。接着剤層の形成には樹脂溶液を用いた方法、またはホットメルトによる方法を採用することができる。例えば、樹脂溶液を用いた方法であれば、二液硬化型であって粘度を500~5000mPa・sの範囲に調製したポリウレタン樹脂溶液を全面、またはパターン状に塗布する。その後乾燥して接着剤層形成し、接着剤層を介して編物と微多孔膜とを貼り合わせ、両者を圧着もしくは熱圧着することで、表地用編物と微多孔膜の積層体を得ることができる。
【0059】
一方、ホットメルトの場合には、空気中の水分と反応する湿気硬化型樹脂を用いることが好適であり、実用上は80~150℃程度の温度域で溶融するものがより好ましい。この場合、まず、樹脂の融点および溶融時の粘性などを考慮しながらホットメルト樹脂を溶融させる。その後、編物または微多孔膜の上に溶融した樹脂を塗布し常温で冷却しながら熟成させて接着剤層を形成する。その後、接着剤層を介して編物と微多孔膜とを貼り合わせ、圧着することで、表地用編物と微多孔膜の積層体を得ることができる。
【0060】
その後、上記表地用編物における方法と同様の手法を用いて、微多孔膜に裏地用編物を積層することができる。
【0061】
以上のように、本発明の衣料用積層体は、表地用編物の上に微多孔膜および裏地用編物がこの順に積層されている。すなわち、本発明では、微多孔膜が編物に挟まれた構造をなしている。本発明積層体に表地用編物と裏地用編物の2枚を用いる理由としては、微多孔膜の一方の面を露出させた状態で使用すると、その露出している微多孔膜が物体と接触した時に摩擦による剥離が生じるなど劣化が進みやすくなるため、微多孔膜を保護する目的がある他、本発明積層体を用いた衣料として着用した際に生じうる、微多孔膜と肌面との直接接触や透湿性能不足による不快感を防ぐ目的がある。
【0062】
また本発明の衣料用積層体は、医療用途に使用される衣料に好適であり、血液やウイルスをバリアする防水性に優れ、着用した際の蒸れ感を軽減し、動作をする際にも十分なストレッチ性を有することにより動きやすく、着用快適性に優れた衣料などを提供することができる。なお、本発明にいう医療用途とは、病院を対象とするメディカル分野に限定されるものではなく、その周囲に位置する介護、看護、製薬分野なども包含するものである。
【実施例0063】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。各種の特性値などの測定、評価方法は次の通りである。
【0064】
(a)伸長率
得られた衣料用積層体を60mm×300mmに切り出したものを試験片として用いて、JIS L1096(2010)の8.16.1に記載のB法に規定されている方法に従って伸長率を測定した。つかみ間隔を200mm、引っ張り速度20cm/分の条件で引張荷重14.7Nまで伸長させたときの伸長率をタテ方向およびヨコ方向についてそれぞれ求めた。
(b)伸長回復率
得られた衣料用積層体を60mm×300mmに切り出したものを試験片として用いて、JIS L1096(2010)の8.16.2に記載のB-1法(定荷重法)に規定されている方法に従って伸長回復率を測定した。試験片を上部クランプに固定し、初荷重をかけた後、下部クランプを固定し、次いで200mmの間隔(L0)に印をつけ14.7Nの荷重をかけ、1時間放置後、印間の長さ(L1)を計測した。次いで除重し、1時間後に初荷重をかけ、再度印間の長さ(L2)を計測し、次式で伸長回復率を算出した。
伸長回復率(%)=[(L1-L2)/(L1-L0)]×100
(c)透湿性
得られた衣料用積層体を試験片として用いて、JIS L1099 A-1法(塩化カルシウム法)およびB-1法(酢酸カリウム法)に規定されている方法に従って透湿度を測定し、透湿性を評価した。
(d)防水性
得られた衣料用積層体を試験片として用いて、JIS L 1092(2009)B法(高水圧法)に規定されている方法に従って耐水圧を測定し、防水性を評価した。
(e)アルコールへの耐久性
得られた衣料用積層体を試験片として用いて、80%エタノール水溶液に25時間浸漬し乾燥した後、JIS L 1092(2009)B法(高水圧法)に規定されている方法に従って耐水圧を測定し、防水性を評価した。
(f)血液バリア性
得られた衣料用積層体の血液バリア性は、ASTM F1670-08B法に規定されている方法に従って、合否判定により評価した。
(g)ウイルスバリア性
得られた衣料用積層体のウイルスバリア性は、ASTM F1671-07B法に規定されている方法に従って、合否評価により評価した。
(h)微多孔膜の厚み、断面形状の観察
(株)日立製作所製、S-4000形電界放射形走査電子顕微鏡を用いて、倍率2000倍の断面写真を撮影し、微多孔膜の厚みを測定すると共に断面形状を観察した。
(i)着用快適性
衣料用積層体を用いて長袖上衣とパンツからなる感染防止衣料を作成し、医療従事者にこれを着用してもらい、真夏日の環境下(気温30℃以上)で通常の医療従事時と同様の作業を1日行った際の着用感を、快適性(蒸れ感を感じないこと)および動作のしやすさの観点から判断し、以下の2段階評価を行った。
○:快適性、動作のしやすさともに良好である
×:快適性、動作のしやすさともに不良である
【0065】
(実施例1)
〔表地用編物の作製〕
28ゲージトリコット編機を用い、ナイロン6マルチフィラメント生糸22dtex/7fを用いて、編組織がフロント筬:1-2/1-0、バック筬:1-0/2-3のハーフトリコット編地生機を編立した。
得られた生機を公知の条件で染色加工を実施し、生地の編密度が46コース/2.54cm×30ウェール/2.54cmの編物を得た。
【0066】
〔裏地用編物の作製〕
上記、表地用編物と同様の生地の編密度が46コース/2.54cm×30ウェール/2.54cmの編物を用いた。
【0067】
[微多孔膜形成用樹脂組成物の調製]
N,N-ジメチルホルムアミドを溶媒とするエステル型ポリウレタン樹脂溶液(セイコー化成株式会社製「ラックスキン UJ8517」、固形分25質量%)30質量部、フュームドシリカ微粉末(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL R974」、平均一次粒子径12nm)10質量部、およびN,N-ジメチルホルムアミド10質量部を混合、粗練り後、3本ロールミル機を用いて均一練りを行い、樹脂溶液Aを50質量部準備した。
次に、油溶性かつ水溶性のフッ素系界面活性剤(AGCセイミケミカル株式会社製「SURFLON S-386」)0.1質量部をN,N-ジメチルホルムアミド35質量部に溶解させた後、フッ素系撥水剤エマルジョン(クラリアントジャパン株式会社製「NUVA N2114 LIQ」)5質量部を混合分散させて、樹脂溶液Bを40.1質量部準備した。
続いて、下記<処方1>にて混合後、ディスパー型攪拌機を用いて、真空脱泡しながら攪拌し、微多孔膜形成用のポリウレタン樹脂組成物を調液した。このポリウレタン樹脂組成物は、固形分濃度が23質量%で粘度が10000mPa・s/25℃であり、固形分中のフッ素系撥水剤含有量が5質量%、油溶性かつ水溶性のフッ素系界面活性剤含有量が0.3質量%、シリカ微粉末含有量が30質量%であった。
<処方1>
エステル型ポリウレタン樹脂溶液 50質量部
(セイコー化成株式会社製「ラックスキン UJ8517」、固形分25質量%)
樹脂溶液A 50質量部
樹脂溶液B 40.1質量部
イソシアネート化合物 1.5質量部
(大日精化工業株式会社製「レザミンX架橋剤」)
【0068】
[微多孔膜の製造]
続いて、離型布のカレンダー面を塗布面として、コンマコーターにて塗布量100g/m2で、<処方1>のポリウレタン樹脂組成物を塗布後、濃度15質量%のN,N-ジメチルホルムアミド水溶液(20℃)の凝固浴に2分間浸漬することにより、ポリウレタン樹脂組成物を凝固後、50℃で5分間の湯洗を行った。その後、マングルで絞って水分を取り、続いて、130℃で2分間の乾燥を行って、離型布表面に微多孔膜を形成させた。引き続き、170℃で1分間のセット加工を行い、常態になってから離型布を剥離して微多孔膜を得た。
【0069】
得られた微多孔膜の平均厚さは30μmで目付けは25g/m2であり、全体にわたって1μm以下の孔径の微孔が多数形成されていた。
【0070】
次いで、表地用編物と微多孔膜とを貼り合わせた。
上述した表地用編物に、ドット柄が彫刻されたグラビアロール(20メッシュ)を用いて、120℃で溶融させた湿気硬化型ポリウレタンホットメルト接着剤(三井武田ケミカル株式会社製「タケメルトMA3229」)を塗布量10g/m2にて塗布した。そして、塗布面に上述した透湿防水膜を積層し、圧力300kPaで圧着した後、40℃×80%RHの環境下で3日間エージングし、「表地用編物/接着剤/微多孔膜」の積層体を得た。
この「表地用編物/接着剤/微多孔膜」の微多孔膜面に、同様の手法で裏地用編物を積層し、「表地用編物/接着剤/微多孔膜/接着剤/裏地用編物」の積層構造を持つ本発明の衣料用積層体を得た。
【0071】
(比較例1)
〔織物の作製〕
ウォータジェットルーム(WJL)織機を用い、経糸および緯糸にナイロン6マルチフィラメント仮撚加工糸22dtex/14fを用いて、リップストップ組織の織物生機を製織した。
得られた生機に対して、精練剤を用いて80℃で20分間精練し、分散染料を用いて130℃で30分間染色した。続いて、170℃で1分間ファイナルセットし、経糸密度227本/2.54cm、緯糸密度167本/2.54cmの織物を得た。
得られた織物を実施例1の表地用編物に代えて使用した以外は実施例1と同様にして微多孔膜の製造及び表地織物・裏地用編地と微多孔膜との積層加工を行い、衣料用積層体を得た。
【0072】
(比較例2)
実施例1の微多孔膜に代えて、厚さ35μmで目付けが37g/m2のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして表地用編地・裏地用編地とPTFEフィルムとの積層加工を行い、衣料用積層体を得た。
【0073】
(比較例3)
〔表地用編物の作製〕
28ゲージトリコット編機を用い、ナイロン6マルチフィラメント生糸33dtex/6fを用いて、編組織がフロント筬:1-0/2-3,バック筬:1-2/1-0のハーフトリコット編地生機を編立した。
得られた生機を公知の条件で染色加工を実施し、生地の編密度が50コース/2.54cm×30ウェール/2.54cmの編物を得た。
得られた編物を実施例1の表地用編物及び裏地用編物に代えて使用した以外は実施例1と同様にして表地用編地・裏地用編地とPTFEフィルムとの積層加工を行い、衣料用積層体を得た。
【0074】
実施例1および比較例1~3で用いた表地、裏地、透湿膜の構成を表1に、得られた衣料用積層体の特性値や評価結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
表2から明らかなように、実施例1の衣料用積層体は、血液バリア性やウイルスバリア性に優れ、また十分な透湿性、ストレッチ性、軽量性を有するものであった。このため、着用した際の動きやすさに優れ、蒸れ感が低減されたものであった。さらにアルコールに対する耐久性にも優れ、リユーザブルタイプの感染防止衣料に好適な素材であった。
【0078】
一方、比較例1では織物を表地に使用していたため、衣料用積層体の伸長率が小さすぎるものであり、ストレッチ性に劣り、着用時に動きにくさを感じるものであった。また比較例2では、ボリウレタン微多孔膜に代えてPTFEフィルムを使用したため、衣料用積層体を伸ばした際に伸びたままの状態で戻らず、感染防止衣料としての使用に不十分なものであった。比較例3では、表地用編地および裏地用編地の目付けが大きいものであったために得られた衣料用積層体の重量も重くなり、着用した際に重さで疲労を感じやすくなるなど、着用感に劣るものとなった。