(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145800
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】導水構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/38 20060101AFI20241004BHJP
E01D 19/08 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
E21D11/38 A
E01D19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058308
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】大久保 教典
【テーマコード(参考)】
2D059
2D155
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059AA03
2D059GG37
2D059GG43
2D059GG55
2D155AA02
2D155BB03
2D155CA04
2D155HA01
2D155LA02
2D155LA03
(57)【要約】
【課題】コンクリート躯体の壁面や表層部を流れ伝う水が導水路の下方に漏水することを防ぎ、流れ伝う水を導水路に確実に回収して導水できる。
【解決手段】コンクリート躯体100に斜め上向きに切り込まれ、略水平方向に延設されたスリット溝1と、前壁21と底板22と取付壁23とから構成され、取付壁23がコンクリート壁面103に取り付けられ、コンクリート壁面103と対向する前壁21と底板22とで略水平方向に延びる導水用空間CSを形成する水切りカバー2と、一方の端部31がスリット溝1に差し込まれ、他方の端部32の先端縁321が前壁21の上端部211に近接配置され、導水用空間CSに断面視略U字状に敷設され略水平方向に延設される水切りシート3と、前壁21の上端部211に近接配置された水切りシート3の他方の端部32の先端縁321の位置を保持する保持部である折返し部44を備える導水構造。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体にコンクリート壁面から斜め上向きに切り込まれ、略水平方向に延設されたスリット溝と、
前壁と、前記前壁の下端から前記コンクリート壁面に向かって延びる底板と、前記底板のコンクリート壁面側の端部から下方に延びる取付壁とから構成され、前記取付壁が前記コンクリート壁面に取り付けられ、前記コンクリート壁面と対向する前記前壁と前記底板とで略水平方向に延びる導水用空間を形成する水切りカバーと、
幅方向の一方の端部がスリット溝に差し込まれ、他方の端部の先端縁が前記前壁の上端部に近接配置され、前記導水用空間に断面視略U字状に敷設され且つ前記導水用空間に沿って略水平方向に延設される水切りシートと、
前記前壁の上端部に近接配置された前記水切りシートの他方の端部の前記先端縁の位置を保持する保持部とを備えることを特徴とする導水構造。
【請求項2】
前記水切りシートの一方の端部に前記スリット溝の壁面に係止される係止突起が形成されていることを特徴とする請求項1記載の導水構造。
【請求項3】
前記スリット溝が水平方向に対して10度~30度の傾斜角度で設けられることを特徴とする請求項1記載の導水構造。
【請求項4】
前記水切りカバーの前記前壁の上端部の高さが前記スリット溝の口元の高さと略対応する位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の導水構造。
【請求項5】
トンネル覆工コンクリートの前記コンクリート躯体において、上半コンクリートより下側の位置に前記スリット溝、前記水切りカバー及び前記水切りシートが設けられることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の導水構造。
【請求項6】
請求項1記載の導水構造の構築方法であって、
前記コンクリート躯体に取付アンカーを打設し、帯状平板のカッターガイドを前記取付アンカーに取り付けて略水平方向に仮設する第1工程と、
コンクリートカッターに設けられたベースプレートを前記カッターガイドに載置し、前記カッターガイドに沿って略水平方向に移動させるようにして、斜め上向きに切り込まれる前記スリット溝を略水平方向に形成する第2工程と、
前記カッターガイドを前記取付アンカーから取り外す第3工程と、
前記取付アンカーに前記取付壁を固定して前記水切りカバーを設置する第4工程と、
前記水切りシートの一方の端部を前記スリット溝に差し込み、他方の端部の先端縁を前記前壁の上端部に近接配置して前記保持部で位置を保持する第5工程とを備えることを特徴とする導水構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば上下方向に打ち継がれたコンクリートの打ち継ぎ目からの漏水のようなコンクリート表面を流れ伝う水を導水する導水構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表面を流れ伝う漏水や雨水のような水を導水樋で受け、水平方向に導水を行う構造として、コンクリート壁面側に弾力性の高い止水板が設けられた取付部材をコンクリートに打設されたアンカーでコンクリート壁面に固定し、アンカーの固定によって止水板をコンクリート壁面に押し付けると共に、取付部材に連結してアンカーと取付部材の下方にコンクリート壁面から離間する導水樋を設け、コンクリート表面を流れ伝う水を取付部材の湾曲部で導水樋に導水する特許文献1の導水構造がある。そして、コンクリート表面は粗面(不陸)であることが多く、止水板をコンクリート壁面に密着させるのが難しい場合もあることから、特許文献1の導水構造では、取付部材の上端部に止水シール部材を設け、止水シール部材をコンクリート壁面に弾発的に当接させ、コンクリート壁面に止水シール材と止水板の双方を押し付けることによって、流れ伝う水が導水樋の下側に流れ落ちることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば地下に設置されるトンネルのようなコンクリート躯体では、躯体表面が湾曲して平面でなく、更に常時地山に湧水がある。そのため、特許文献1の導水構造を設けても、コンクリートの打ち継ぎ目等から染み出してきた水が、止水シール材や止水板とコンクリート躯体の壁面との間を通って導水樋の下方に回り込み、導水樋の下から漏水することが懸念される。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、コンクリート躯体の壁面や表層部を流れ伝う水が導水路の下方に漏水することを防ぎ、流れ伝う水を導水路に確実に回収して導水することができる導水構造及びその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の導水構造は、コンクリート躯体にコンクリート壁面から斜め上向きに切り込まれ、略水平方向に延設されたスリット溝と、前壁と、前記前壁の下端から前記コンクリート壁面に向かって延びる底板と、前記底板のコンクリート壁面側の端部から下方に延びる取付壁とから構成され、前記取付壁が前記コンクリート壁面に取り付けられ、前記コンクリート壁面と対向する前記前壁と前記底板とで略水平方向に延びる導水用空間を形成する水切りカバーと、幅方向の一方の端部がスリット溝に差し込まれ、他方の端部の先端縁が前記前壁の上端部に近接配置され、前記導水用空間に断面視略U字状に敷設され且つ前記導水用空間に沿って略水平方向に延設される水切りシートと、前記前壁の上端部に近接配置された前記水切りシートの他方の端部の前記先端縁の位置を保持する保持部とを備えることを特徴とする。
これによれば、コンクリート壁面やその表層部を伝ってきた漏水が斜めのスリット溝に差し込まれた水切りシート上を伝って流れ、導水用空間の断面視略U字状の水切りシート上に集められ、水平方向に導水される。また、導水路を構成する部材の上側にアンカー打設等の取付構造が設けられると、そこからコンクリート表層部に水みちができてしまうが、水切りカバーの取付壁を導水用空間の下方に配置してコンクリート壁面に取り付けることにより、このような表層漏水も防止することができる。即ち、コーキング等の後処理を行わなくても、コンクリート躯体の壁面や表層部を流れ伝う水が回り込んで導水路の下方に漏水することを防ぐことができ、流れ伝う水を導水路に確実に回収して導水することができる。
【0007】
本発明の導水構造は、前記水切りシートの一方の端部に前記スリット溝の壁面に係止される係止突起が形成されていることを特徴とする。
これによれば、水切りシートの一方の端部をスリット溝に確実に定置することができ、例えば柔らかい材質の水切りシートを用いても水切りシートの一方の端部がスリット溝からずり落ちることを防止できる。
【0008】
本発明の導水構造は、前記スリット溝が水平方向に対して10度~30度の傾斜角度で設けられることを特徴とする。
これによれば、コンクリート躯体の欠けの発生や水切りシートのスリット溝からのずり落ちを確実に防止することができる。即ち、斜め上向きのスリット溝の傾斜角度が45度を超えるとコンクリート躯体が欠けやすくなったり、水切りシートがスリット溝から落ちやすくなるが、このような事態が発生することを確実に防止することができる。
【0009】
本発明の導水構造は、前記水切りカバーの前記前壁の上端部の高さが前記スリット溝の口元の高さと略対応する位置に配置されていることを特徴とする。
これによれば、斜め上向きのスリット溝から勢いよく水が出てきてしまった場合でも、水切りカバーの前壁で受け止め、導水路に導水することができる。また、水切りカバーの前壁の上端部の高さを上げ過ぎてしまうと、施工時やメンテナンス時に作業者の手が入らなくなって施工性が低下するが、水切りカバーの前壁の上端部の高さをスリット溝の口元の高さと略対応する位置に配置することにより、このような施工性の低下を防止することができる。
【0010】
本発明の導水構造は、トンネル覆工コンクリートの前記コンクリート躯体において、上半コンクリートより下側の位置に前記スリット溝、前記水切りカバー及び前記水切りシートが設けられることを特徴とする。
これによれば、上半コンクリートと下半コンクリートの打ち継ぎ目からの漏水を効果的に集め、導水路で確実に防止することができる。
【0011】
本発明の導水構造の構築方法は、本発明の導水構造を構築する方法であって、前記コンクリート躯体に取付アンカーを打設し、帯状平板のカッターガイドを前記取付アンカーに取り付けて略水平方向に仮設する第1工程と、コンクリートカッターに設けられたベースプレートを前記カッターガイドに載置し、前記カッターガイドに沿って略水平方向に移動させるようにして、斜め上向きに切り込まれる前記スリット溝を略水平方向に形成する第2工程と、前記カッターガイドを前記取付アンカーから取り外す第3工程と、前記取付アンカーに前記取付壁を固定して前記水切りカバーを設置する第4工程と、前記水切りシートの一方の端部を前記スリット溝に差し込み、他方の端部の先端縁を前記前壁の上端部に近接配置して前記保持部で位置を保持する第5工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、コンクリートカッターのベースプレートを仮設されたカッターガイドに載置して、カッターガイドに沿って略水平方向に移動させることにより、斜め上向きで略水平方向に延びるスリット溝を的確に形成することができる。また、コンクリート壁面に取付アンカーを打設して物を設置するとき、アンカー打設には墨出し、穿孔、打設、という煩雑な作業があるため時間を要するが、カッターガイドの仮設用に用いた取付アンカーをそのまま使って水切りカバーの取付壁を固定することにより、導水構造の施工作業の効率性を格段に高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンクリート躯体の壁面や表層部を流れ伝う水が導水路の下方に漏水することを防ぎ、流れ伝う水を導水路に確実に回収して導水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による実施形態の導水構造が設置されたトンネルの斜視図。
【
図3】実施形態の導水構造が設置されたトンネルの部分縦断面図。
【
図4】実施形態の導水構造における水切りカバーの斜視図。
【
図5】(a)は実施形態の導水構造における水切りシートの斜視図、(b)はその係止突起周辺の拡大断面図。
【
図6】実施形態の導水構造における水切りカバーを巻いた状態の模式斜視図。
【
図7】実施形態の導水構造における形状保持具の斜視図。
【
図8】(a)は実施形態の導水構造における排水体として用いる落し樋の正面斜視図、(b)は排水体として用いる枡部の正面斜視図。
【
図9】トンネルのコンクリート壁面にカッターガイドを仮設した状態の説明図。
【
図10】(a)はトンネルのコンクリート壁面に架設されたカッターガイドの正面図、(b)は架設されたカッターガイドが撤去されたトンネルのコンクリート壁面の正面図。
【
図11】トンネルのコンクリート躯体にスリット溝を形成する工程を説明する説明図。
【
図12】トンネルのコンクリート壁面からカッターガイドを撤去した状態の説明図。
【
図13】トンネルのコンクリート壁面に水切りカバーを設置した状態の説明図。
【
図14】トンネルのコンクリート壁面に水切りシートを設置した状態の説明図。
【
図15】第1変形例の導水構造が設置されたトンネルの部分縦断面図。
【
図16】第2変形例の導水構造が設置されたトンネルの部分縦断面図。
【
図17】第3変形例の導水構造が設置されたトンネルの部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態の導水構造〕
本発明による実施形態の導水構造は、
図1~
図3に示すように、例えば地山200に施工されるトンネルTの覆工コンクリートがコンクリート躯体100である場合に、このコンクリート躯体100で導水する導水構造として設けられ、好適には、上半コンクリート101と下半コンクリート102とで構成されるトンネルTの覆工コンクリートのうち、下半コンクリート102のコンクリート壁面103に設置される。
【0015】
実施形態の導水構造は、コンクリート躯体100に略水平方向に延設されたスリット溝1を有する。スリット溝1は、コンクリート躯体100にコンクリート壁面103から斜め上向きに切り込まれ、より詳細には、コンクリート壁面103の直交方向からコンクリート躯体100の奥側に向かって断面視で斜め上向きとなるように切り込まれて設けられる。本実施形態におけるスリット溝1は、上半コンクリート101より下側の位置である下半コンクリート102のコンクリート壁面103に設けられる。斜め上向きに形成されるスリット溝1の傾斜角度は本発明の趣旨の範囲内で適宜であるが、水平方向に対して10度~30度の傾斜角度で斜め上向きにスリット溝1を設けると好適である。
【0016】
更に、実施形態の導水構造は、水切りカバー2と、水切りシート3と、形状保持具4を備える。本実施形態では、トンネルTの覆工コンクリートのコンクリート躯体100において、上半コンクリート101より下側の位置に、スリット溝1が設けられると共に、後述する水切りカバー2、水切りシート3及び形状保持具4が設けられる。
【0017】
水切りカバー2は、
図1~
図4に示すように、前壁21と、前壁21の下端からコンクリート壁面103に向かって延びる底板22と、底板22のコンクリート壁面103側の端部から下方に延びる取付壁23とから構成される。水切りカバー2は、本実施形態においては硬質樹脂等の形状維持可能な硬質材料で側面視略S字状に形成されていると共に、側面視略S字状が長手方向或いは略水平方向に延設される細長板状になっている。水切りカバー2を硬質樹脂で形成する場合の樹脂材料には、例えばJIS-A(JIS K 7112)硬度95前後のポリ塩化ビニル樹脂又はポリプロピレン樹脂等を用いることができ、又、リサイクル性向上の観点からポリ塩化ビニル樹脂の再生材又はポリプロピレン樹脂の再生材等を用いてもよい。さらに、導水構造に用いる水切りカバー2という性質上、錆に強いステンレス等の耐食性金属製としてもよい。
【0018】
水切りカバー2の取付壁23はコンクリート壁面103に取り付けられるようになっており、本実施形態では、取付壁23の所定位置に形成された取付穴231に、コンクリート壁面103からコンクリート躯体100に打設して固定される取付アンカー51が挿入され、取付アンカー51の後端部に取付ナット52が螺合されて緊締されることにより、取付壁23がコンクリート壁面103に取り付けられている。コンクリート壁面103と、コンクリート壁面103に取り付けられた水切りカバー2のコンクリート壁面103と対向する前壁21と底板22は、断面視略コ字状の導水用空間CSを形成し、断面視略コ字状の導水用空間CSがコンクリート壁面103に沿って略水平方向に延びるように設けられる。また、コンクリート壁面103に取り付けられた水切りカバー2の前壁21の上端部211の高さは、スリット溝1の口元11の高さと略対応する位置に配置される。
【0019】
水切りシート3は、水切りカバー2のトンネル延長方向長さ何本分かの延長方向長さを有する柔軟な細長帯状のシート材で構成され、軟質樹脂等の形状変更可能な軟質材料で形成されている(
図3、
図5、
図6参照)。細長帯状で所定長さで形成された水切りシート3は、
図6に示すように、ロール状に巻かれた状態にすることが可能であり、例えば水切りシート3を巻き取りロール状態でトンネル施工等の施工現場に運搬し、巻き取りロールを解くようにして水切りシート3を使用することができる。水切りシート3を軟質樹脂で形成する場合の樹脂材料には、例えばJIS-A(JIS K 7112)硬度80前後のポリ塩化ビニル樹脂又はポリプロピレン樹脂等を用いることができ、又、リサイクル性向上の観点からポリ塩化ビニル樹脂の再生材又はポリプロピレン樹脂の再生材等を用いてもよい。
【0020】
実施形態の導水構造において、水切りシート3の幅方向の一方の端部31はスリット溝1に差し込まれ、幅方向の他方の端部32の先端縁321は水切りカバー2の前壁21の上端部211に近接配置される。水切りシート3の一方の端部31には、スリット溝1の壁面12に係止される係止突起33が形成されており、図示例では、一方の端部31の先端縁側と逆側に返された鉤状の係止突起33が一方の端部31の上面に形成されていると共に、水切りシート3の幅方向に離間して複数個所の2箇所に形成され、スリット溝1の上側の壁面12に係止されている。係止突起33は細長帯状の水切りシート3の長手方向に延設された係止突条とすると、スリット溝1の壁面12と係止される領域が大きくなって好適であるが、細長帯状の水切りシート3の長手方向に所定間隔で離間して点状に設けることも可能である。
【0021】
水切りシート3の一方の端部31の根元の下面には、水切りシート3の長手方向に延びる溝状の折り目34が形成されている。折り目34は、断面視略く字状に折り曲げられた一方の端部31の折り曲げ状態を維持し易くしており、スリット溝1に差し込まれた一方の端部31のスリット溝1内部での定置状態を、係止突起33の壁面12への係止と共に高めている。
【0022】
水切りシート3は、導水用空間CSに断面視略U字状に湾曲して敷設され、導水用空間CSに沿って略水平方向に延設される。そして、水切りシート3の断面視略U字状に湾曲した凹側は、上半コンクリート101と下半コンクリート102との間の打ち継ぎ目104から染み出した水等を集水して略水平方向に導水する導水路HRを構成する。
【0023】
形状保持具4は、
図3及び
図7に示すように、前壁41と、前壁41の下端からコンクリート壁面103に向かって延びる底板42と、底板42のコンクリート壁面103側の端部から下方に延びる取付壁43と、前壁41の上端部からコンクリート壁面103に向かって略U字状に折り返された折返し部44とから構成される。形状保持具4は、ステンレス材等の硬質材料で側面視略S字状に形成され、略水平方向の幅が短い板状になっている。前壁41と底板42と取付壁43は、それぞれ水切りカバー2の前壁21と底板22と取付壁23に倣う角度と長さで形成され、それぞれコンクリート壁面103に取り付けられた水切りカバー2の前壁21と底板22と取付壁23の外側に倣うように配置される。
【0024】
形状保持具4の取付壁43には、水切りカバー2の取付壁23の取付穴231と対応する所定位置に取付穴431が形成されており、取付穴231と共に取付穴431にも、コンクリート躯体100に打設して固定される取付アンカー51が挿入される。取付アンカー51の後端部に螺合される取付ナット52は、形状保持具4の取付壁43の外側から螺合されて緊締され、取付壁43が取付壁23と共にコンクリート壁面103に取り付けられ、形状保持具4がコンクリート壁面103に固定される。
【0025】
コンクリート壁面103に固定された形状保持具4の折返し部44は、水切りカバー2の前壁21の上端部211に近接配置された水切りシート3の他方の端部32の先端縁321周辺に導水路HR側から当接し、水切りカバー2の前壁21の上端部211と水切りシート3の他方の端部32の先端縁321周辺とを挟持する。この挟持により、水切りカバー2の前壁21の上端部211に近接配置された水切りシート3の他方の端部32の先端縁321の位置が所定位置に保持される。即ち、形状保持具4の折返し部44は、前壁21の上端部211に近接配置された水切りシート3の他方の端部32の先端縁321の位置を保持する保持部或いは保持構造部になっている。
【0026】
そして、実施形態の導水構造における所定長の細長板状の水切りカバー2・2の連結部61では、水切りカバー2・2の長手方向の端部が当接配置され、導水用空間CSが連設される(
図2参照)。なお、実施形態における水切りシート3は、柔軟な細長帯状のシート材で構成され、巻き取りロール状態でトンネル施工等の施工現場に運搬されるものを使用することによって、巻き長さ即ちトンネル延長方向への長さを水切りカバー2より長く設定し、例えば水切りカバー2の長さが2mであるとき水切りシート3を10m程度の長さにしておくことが出来、これによって、水切りカバー2・2の連結部61では水切りシート3を接続することなく、左右方向に隣接する水切りカバー2・2に架け渡すように水切りシート3を連結部61を跨がせて設置することが出来る。これにより、施工性を向上させるとともに、連結部61からの漏水を防ぐことが出来る。
【0027】
また、実施形態の導水構造における略水平方向の所要箇所には、略水平方向に延びる両側の水切りシート3・3の間に隙間を設けて落し樋式の排水体71(
図2、
図8(a)参照)が設けられ、さらには必要に応じ、左右方向に並ぶ水切りカバー2・2の間に隙間をあけて枡式の排水体72(
図2、
図8(b)参照)が設けられる。落し樋711を有する排水体71は、垂直方向に伸びる排水筒の上部開口の上方に、水切りシート3、3の隙間を配置させることにより導水された水を縦方向に落とし、トンネルの下半の下部にある排水路に排水するもので、さらに必要に応じカバーを設置することもある。枡式の排水体72は、コンクリート壁面103側に取り付けられる取付壁721と、取付壁721から突出して上面開口函状に設けられる枡部722から構成され、取付壁721に形成された取付穴723に取付アンカー51を挿通する等でコンクリート壁面103に取付壁721が取り付けられる。左右両側の水切りカバー2・2のそれぞれの端部は枡部722の上面開口部分に配置するよう設置され、ここを通過する水切りシート3の枡部722の位置に現場で穴があけられる。排水体72の枡部722の底面には、ドレンホース8が接続され、排水体72に隣接する水切りカバー2及び水切りシート3で構成される導水路HRで導水される水が枡部722から排水されるようになっている。
【0028】
次に、本実施形態の導水構造の構築方法について説明する。先ず、
図9及び
図10(a)に示すように、例えば下半コンクリート102のコンクリート躯体100に取付アンカー51を打設し、略水平方向において所定間隔で離間するようにして複数の取付アンカー51を打設する。打設した取付アンカー51には、長手方向に所定間隔を開けて取付穴が形成された帯状平板のカッターガイド91の取付穴を外挿して、カッターガイド91をコンクリート壁面103に沿い且つ略水平方向に延びるように配置し、取付アンカー51の後端部に取付ナット52を螺合、緊締してカッターガイド91を取付アンカー51に取り付け、カッターガイド91を略水平方向に仮設する。カッターガイド91は略水平方向に複数連設され、隣り合うカッターガイド91・91は接続プレート911を用いて接続される。
【0029】
そして、コンクリート壁面103に倣うように立設するベースプレート921と、ベースプレート921の立設方向に対して切削方向が斜め上向きになるように設けられた円盤状の切削刃922とを有するコンクリートカッター92を用い、コンクリートカッター92に設けられたベースプレート921をカッターガイド91に載置し、カッターガイド91に沿って略水平方向に移動させるようにして、コンクリート躯体100にスリット溝1を斜め上向きに切り込むと共に略水平方向に延びるように形成する(
図9、
図11参照)。
【0030】
スリット溝1の形成後には、接続プレート911を取り外すと共に、カッターガイド91を固定している取付ナット52を外し、カッターガイド91を取付アンカー51から取り外して、カッターガイド91をコンクリート壁面103から離脱させる(
図12、
図10(b)参照)。カッターガイド91が取り外された取付アンカー51はコンクリート躯体100への打設状態が維持される。
【0031】
カッターガイド91が外された取付アンカー51には、水切りカバー2の取付壁23の取付穴231と、形状保持具4の取付壁43の取付穴431とを順に外挿し、形状保持具4の取付壁43の外側から取付アンカー51の後端部に取付ナット52を螺合、緊締し、取付アンカー51に取付壁23、43を固定して水切りカバー2とその外側の形状保持具4を設置する(
図12、
図13、
図3、
図4、
図7参照)。
【0032】
更に、
図14及び
図3に示すように、水切りシート3を幅方向に曲げて、水切りシート3の一方の端部31をスリット溝1に差し込み、係止突起33をスリット溝1の壁面12に係止すると共に、水切りシート3の幅方向の中間部から他方の端部32にかけて略U字状に折り曲げ、幅方向の他方の端部32の先端縁321を水切りカバー2の前壁21の上端部211に近接配置する。取付アンカー51に取り付けられた形状保持具4の折返し部44は、水切りシート3の他方の端部32の先端縁321周辺に導水路HR側から当接し、水切りカバー2の前壁21の上端部211と水切りシート3の他方の端部32の先端縁321周辺とを挟持して、水切りカバー2の前壁21の上端部211に近接配置された水切りシート3の他方の端部32の先端縁321の位置を保持部或いは保持構造部として保持する。これにより、本実施形態の導水構造が構築される。
【0033】
なお、上記した実施様態においては、水切りカバー2のトンネル延長方向長さ何本分かの延長方向長さを有する水切りシート3を用いることを前提として、水切りカバー2・2の連結部61には水切りシート3を架け渡す一方、水切りシート3・3の隙間をあけて、樋式の排水体71を設置する例を述べたが、左右方向に隣接する水切りシート3・3は突き当てて設置しても良いし、端部同士を重ね合わせて設置する場合には、片側の係止突起33を削って重ね合わせても良い。
【0034】
本実施形態によれば、コンクリート壁面103やその表層部を伝ってきた漏水が斜めのスリット溝1に差し込まれた水切りシート3上を伝って流れ、導水用空間CSの断面視略U字状の水切りシート3、即ち断面視略U字状の導水路HR上に集められ、水平方向に導水される。また、導水路HRを構成する部材の上側にアンカー打設等の取付構造が設けられると、そこからコンクリート表層部に水みちができてしまうが、水切りカバー2の取付壁23を導水用空間CSの下方に配置してコンクリート壁面103に取り付けることにより、このような表層漏水も防止することができる。即ち、コーキング等の後処理を行わなくても、コンクリート躯体100の壁面103や表層部を流れ伝う水が回り込んで導水路HRの下方に漏水することを防ぐことができ、流れ伝う水を導水路HRに確実に回収して導水することができる。
【0035】
また、水切りシート3の一方の端部31にスリット溝1の壁面12に係止される係止突起33を形成することにより、水切りシート3の一方の端部31をスリット溝1に確実に定置することができ、例えば柔らかい材質の水切りシート3を用いても水切りシート3の一方の端部31がスリット溝1からずり落ちることを防止することができる。
【0036】
また、スリット溝1を水平方向に対して10度~30度の傾斜角度で設けることにより、コンクリート躯体100の欠けの発生や水切りシート3のスリット溝1からのずり落ちを確実に防止することができる。即ち、斜め上向きのスリット溝1の傾斜角度が45度を超えるとコンクリート躯体100が欠けやすくなったり、水切りシート3がスリット溝1から落ちやすくなるが、このような事態が発生することを確実に防止することができる。
【0037】
また、水切りカバー2の前壁21の上端部211の高さをスリット溝1の口元11の高さと略対応する位置に配置することにより、斜め上向きのスリット溝1から勢いよく水が出てきてしまった場合でも、水切りカバー2の前壁21で受け止め、導水路HRに導水することができる。また、水切りカバー2の前壁21の上端部211の高さを上げ過ぎてしまうと、施工時やメンテナンス時に作業者の手が入らなくなって施工性が低下するが、水切りカバー2の前壁21の上端部211の高さをスリット溝1の口元11の高さと略対応する位置に配置することにより、このような施工性の低下を防止することができる。
【0038】
また、トンネル覆工コンクリートのコンクリート躯体100において、上半コンクリート101より下側の位置にスリット溝1、水切りカバー2及び水切りシート3を設けることにより、トンネルTの上半コンクリート101と下半コンクリート102の打ち継ぎ目104からの漏水を効果的に集め、導水路HRで確実に防止することができる。従って、導水路HRの下側の覆工コンクリートが漏水で濡れていることがないため、トンネルTが道路トンネルである場合にはここに視線誘導やトンネルを明るく見せる等のための内装シートを接着剤で設置したり粘着内装材を貼付することも可能となる。
【0039】
また、上記例の実施形態の導水構造の構築方法によれば、コンクリートカッター92のベースプレート921を仮設したカッターガイド91に載置して、カッターガイド91に沿って略水平方向に移動させることにより、斜め上向きで略水平方向に延びるスリット溝1を的確に形成することができる。また、コンクリート壁面103に取付アンカー51を打設して物を設置するとき、アンカー打設には墨出し、穿孔、打設、という煩雑な作業があるため時間を要するが、カッターガイド91の仮設用に用いた取付アンカー51をそのまま使って水切りカバー2の取付壁23等を固定することにより、導水構造の施工作業の効率性を格段に高めることができる。
【0040】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0041】
例えば水切りカバー2の前壁21の上端部211と水切りシート3の他方の端部32の先端縁321との近接配置の位置を保持する保持部或いは保持構造部は、上記実施形態における形状保持具4の折返し部44に限定されず本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、近接配置された水切りカバー2の前壁21の上端部211と水切りシート3の他方の端部32の先端縁321とを挟持する略U字形部材のクリップ等とすることも可能である。
【0042】
また、
図15に示すように、水切りシート3の他方の端部32の先端縁321を、水切りカバー2の前壁21の上端部211を上側から覆うように巻き込んで設け、折返し部44が設けられていない形状保持具4aの前壁41aと水切りカバー2の前壁21とで挟持し、この挟持する形状保持具4aの前壁41aと水切りカバー2の前壁21とで保持部或いは保持構造部を構成してもよい。
【0043】
また、
図16に示すように、形状保持具4を用いずに、水切りカバー2bの前壁21の上端部211からコンクリート壁面103に向かって略U字状に折り返された保持部或いは保持構造部に相当する折返し部24bを設け、水切りカバー2bの折返し部24bにより、水切りカバー2bの前壁21の上端部211と水切りシート3の他方の端部32の先端縁321との近接配置の位置を保持するようにしてもよい。この折返し部24bは、水切りカバー2bと一体的に形成する構成、或いは別体の折返し部24bを水切りカバー2bに固定する構成とすることが可能であり、又、折返し部24bは、水切りカバー2bの長手方向の全長に亘って設ける構成、或いは長手方向の一部に断続的に設ける構成とすることが可能である。
【0044】
また、水切りカバー2とこれが形成する導水用空間CS、導水路HRの断面形状は適宜であり、例えば
図17に示すように、前壁21cと底板22cと取付壁23cとが側面視略Z字状に配置される水切りカバー2cとし、この水切りカバー2cの断面視略コ字状の導水用空間CSに略沿うように水切りシート3を断面視略コ字状に敷設し、導水路HRの断面視面積を増やして導水量を増やすようにしても好適である。
【0045】
また、本発明の導水構造が対象とするコンクリート躯体は、上半コンクリート101と下半コンクリート102で構成されるトンネルTのコンクリート躯体100に限定されず、これ以外の構造のトンネルのコンクリート躯体、或いはトンネル以外のコンクリート躯体にも本発明の導水構造は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、例えば上半コンクリートと下半コンクリートで構成されるトンネルのコンクリート躯体の導水構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…スリット溝 11…口元 12…壁面 2、2b、2c…水切りカバー 21、21c…前壁 211…上端部 22、22c…底板 23、23c…取付壁 231…取付穴 24b…折返し部 3…水切りシート 31…一方の端部 32…他方の端部 321…先端縁 33…係止突起 34…折り目 4、4a…形状保持具 41、41a…前壁 42…底板 43…取付壁 431…取付穴 44…折返し部 51…取付アンカー 52…取付ナット 61…連結部 71、72…排水体 711…落し樋 721…取付壁 722…枡部 723…取付穴 8…ドレンホース 91…カッターガイド 911…接続プレート 92…コンクリートカッター 921…ベースプレート 922…切削刃 100…コンクリート躯体 101…上半コンクリート 102…下半コンクリート 103…コンクリート壁面 104…打ち継ぎ目 200…地山 CS…導水用空間 HR…導水路 T…トンネル