(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145804
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】リニアガイド
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20241004BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20241004BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F16C29/06
F16C33/76
F16J15/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058316
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 草太
【テーマコード(参考)】
3J043
3J104
3J216
【Fターム(参考)】
3J043AA11
3J043CA02
3J043CA10
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA09
3J104AA03
3J104AA23
3J104AA24
3J104AA36
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104AA77
3J104BA62
3J104CA01
3J104CA13
3J104DA04
3J104DA13
3J104DA17
3J104EA01
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA16
3J216AB48
3J216BA25
3J216BA30
3J216CA01
3J216CB12
3J216CC70
3J216DA01
3J216DA02
3J216DA11
(57)【要約】
【課題】異物がスライダの内部に浸入することを防止できるとともに、スライダ本体とアンダーシールとの密着性が低下することを防止することができ、これによりスライダの走行精度等の低下を抑制することができるリニアガイドを提供する。
【解決手段】リニアガイド1は、案内レール3と、案内レール3に対して軸方向に相対移動可能なスライダ20と、案内レール3とスライダ20との間に配置される複数のボール34と、スライダ20と案内レール3との間の隙間を覆うアンダーシール44と、を有する。スライダ20は、その軸方向両端部に一対のエンドキャップ31を有する。一対のエンドキャップ31には、アンダーシール44の端部が挿入される溝42が形成されており、この溝42は、アンダーシール44の先端に近づくにしたがってその先端がエンドキャップ31の底面側に近づくようにアンダーシール44を保持する構造を有する。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、
前記案内レールを跨ぐように取り付けられ、前記案内レールに対して軸方向に相対移動可能なスライダと、
前記案内レールと前記スライダとの間に配置され、前記スライダの移動に伴って転動する複数の転動体と、
前記案内レールに摺接し、前記スライダと前記案内レールとの間の隙間を覆うアンダーシールと、
を有するリニアガイドであって、
前記スライダは、スライダ本体と前記スライダ本体の軸方向の両端部に取り付けられた一対のエンドキャップとを有し、
前記一対のエンドキャップには、前記アンダーシールの端部が挿入される溝が形成されており、
前記溝は、前記アンダーシールの先端に近づくにしたがって前記先端が前記エンドキャップの底面側に近づくように前記アンダーシールを保持する構造を有し、
前記アンダーシールの長手方向中央部における少なくとも一部は、前記スライダ本体の底面に接触していることを特徴とする、リニアガイド。
【請求項2】
前記溝は、前記エンドキャップの底面側に位置する溝下面と、前記溝下面に対向する溝上面とを有し、
前記溝下面に下面側突起が設けられているとともに、前記溝上面に上面側突起が設けられ、前記上面側突起は、前記下面側突起よりも前記スライダの軸方向端面側に形成されており、前記アンダーシールは前記下面側突起及び前記上面側突起により支持されていることを特徴とする、請求項1に記載のリニアガイド。
【請求項3】
前記上面側突起及び前記下面側突起の少なくとも一方は、前記スライダの幅方向に延びる形状を有することを特徴とする、請求項2に記載のリニアガイド。
【請求項4】
前記溝は、前記エンドキャップの底面側に位置する溝下面と、前記溝下面に対向する溝上面とを有し、
前記溝上面は、前記スライダの軸方向端面側に近づくにしたがって前記エンドキャップの底面側に近づくように傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載のリニアガイド。
【請求項5】
前記溝下面に下面側突起が設けられており、前記アンダーシールは、前記溝上面と前記下面側突起により支持されていることを特徴とする、請求項4に記載のリニアガイド。
【請求項6】
前記下面側突起は、前記スライダの幅方向に延びる形状を有することを特徴とする、請求項5に記載のリニアガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復直線運動する物体をその移動方向に案内し、工作機械などで用いられるリニアガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械等で用いられるリニアガイドは、一般に、レール側転動溝が左右の側面に設けられた案内レールと、案内レールのレール側転動溝と対向する位置にスライダ側転動溝が設けられたスライダと、スライダ内部に設けられた転動路を転動可能な多数の転動体と、を有している。スライダの軸方向両端部にはエンドキャップが装着されており、エンドキャップ内には転動体を方向転換させる方向転換路が形成されている。そして、転動路を転動体が転動することで、案内レールに対してスライダが軸方向に沿って相対移動する。転動路を転動する転動体は、エンドキャップ内で方向転換した後、スライダ内に形成された転動体戻し路を通って元の位置に戻る。
【0003】
このように構成されたリニアガイドにおいて、案内レールの上面や側面の転動溝には、切削粉や塵埃などの異物が堆積しやすい。これを放置すると、スライダ内に異物が侵入して、転動路における転動体の円滑な転動が阻害される。これにより、スライダの走行精度及び停止位置精度が低下するおそれがある。
【0004】
そこで、従来より、スライダ内への上記異物の侵入を防止することができるリニアガイド装置として、案内レールとスライダとの隙間を塞ぐアンダーシールを有するリニアガイド装置が開示されている。
【0005】
例えば特許文献1には、リップ部を備え、嵌合穴が形成されるシール本体と、開口が形成される嵌合凸部を備え、シール本体を保持するシールカバーとを有するアンダーシールが開示されている。そして、嵌合穴に嵌合凸部が嵌合し、嵌合凸部がスライダの固定面に当接した状態で、開口を貫通する締結部材を直動案内装置のスライダに締結することにより、アンダーシールがスライダに取り付けられる。また、特許文献2には、スライダの下端面に、ねじによってアンダーシールを取り付けたリニアガイド装置が開示されている。
【0006】
上記特許文献1及び2に記載の直動案内装置によると、アンダーシールとスライダ本体との接触面積が大きくなるため、密封性を高めることができる。
【0007】
しかし、上記特許文献1及び2に記載の直動案内装置においては、スライダ及びアンダーシールがともに大きくなるため、比較的小型のリニアガイドに適用しようとすると、設計の自由度が制限されてしまう。
【0008】
さらに、特許文献3には、アンダーシール溝が設けられたエンドキャップと、ガイドレールに当接させるためのリップ部と前記アンダーシール溝に挿入される保持部とを有するアンダーシールと、を備えたリニアガイド装置が開示されている。上記リニアガイド装置において、保持部に突起が設けられているとともに、アンダーシール溝に突起と係合可能な凹部が設けられており、アンダーシールの各端部は、対応するアンダーシール溝にそれぞれ挿入保持されいる。
【0009】
上記特許文献3には、ベアリングブロックをガイドレールに組み付けた状態であっても、アンダーシールの各端部を、対応するアンダーシール溝に簡単かつ迅速に挿入或いは取り外することができるため、簡単かつ迅速にアンダーシールの組み付け・交換等を行なうことができることが記載されている。
【0010】
しかし、特許文献3に記載のリニアガイド装置によると、アンダーシールの端部のみでアンダーシールを保持するため、リニアガイド装置を使用している間に、アンダーシールが自重によって変形し、シール性が低下するおそれがある。
【0011】
そこでさらに、特許文献4には、アンダーシールの変形によるシール性の低下を抑制することができるリニアガイド装置が開示されている。
図7及び
図8に示すように、リニアガイド装置51は、不図示のガイドレールの上に係合する袖部52を有する支持体53と、支持体53の長手方向の両端部に配置されたエンドキャップ54とを有する。アンダーシール55は、無負荷状態では、中央部が袖部52側(上側)に向かって凸となるように円弧状に湾曲しており、両端部がエンドキャップ54のポケット56に係合されている。したがって、アンダーシール55は、両方の袖部52の下面を押し付けるように設置されるため、アンダーシール55のたるみが原因となって、スライダ内に異物が混入することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2019-100499号公報
【特許文献2】実開平4-124328号公報
【特許文献3】特開2007-303620号公報
【特許文献4】独国特許公報DE102013209294B3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、円弧状に湾曲するように形成されたアンダーシール55を、エンドキャップ54に組み込む場合に、アンダーシール55の両端部をポケット56に挿入するためには、アンダーシール55が直線状となるように、その両端部に力をかける必要がある。これは、アンダーシール55に予め付与された湾曲方向とは逆方向であるため、アンダーシール55の取り付け時や、リニアガイド装置の長期間の使用によって、アンダーシール55に付与した湾曲が直線形状に戻ってしまう懸念がある。そうすると、特許文献3と同様に、アンダーシール55と袖部52との間等に隙間が発生し、シール性が低下するおそれがある。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、スライダ本体とアンダーシールとの密着性が低下することを防止でき、これにより、異物がスライダの内部に浸入することが防止され、スライダの走行精度等の低下を抑制することができるリニアガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 案内レールと、
前記案内レールを跨ぐように取り付けられ、前記案内レールに対して軸方向に相対移動可能なスライダと、
前記案内レールと前記スライダとの間に配置され、前記スライダの移動に伴って転動する複数の転動体と、
前記案内レールに摺接し、前記スライダと前記案内レールとの間の隙間を覆うアンダーシールと、
を有するリニアガイドであって、
前記スライダは、スライダ本体と前記スライダ本体の軸方向の両端部に取り付けられた一対のエンドキャップとを有し、
前記一対のエンドキャップには、前記アンダーシールの端部が挿入される溝が形成されており、
前記溝は、前記アンダーシールの先端に近づくにしたがって前記先端が前記エンドキャップの底面側に近づくように前記アンダーシールを保持する構造を有し、
前記アンダーシールの長手方向中央部における少なくとも一部は、前記スライダ本体の底面に接触していることを特徴とする、リニアガイド。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スライダ本体とアンダーシールとの密着性が低下することを防止でき、これにより、異物がスライダの内部に浸入することが防止され、スライダの走行精度等の低下を抑制することができるリニアガイドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るリニアガイドを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すリニアガイドの上面の一部を切除した上面模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すリニアガイドにおけるエンドキャップを示す裏面図である。
【
図4A】
図4Aは、アンダーシールを説明するためのスライダを示す側面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係るリニアガイドにおけるエンドキャップの一部を拡大して示す裏面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3実施形態に係るリニアガイドにおけるエンドキャップの一部を拡大して側面側から示す断面図である。
【
図7】
図7は、従来のリニアガイド装置の構造を底面側から示す斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す従来のリニアガイド装置の構造を側面側から示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るリニアガイドの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るリニアガイドを示す斜視図であり、
図2は、その上面の一部を切除した上面模式図、
図3は、エンドキャップを示す裏面図である。
図1~
図3に示すように、第1実施形態に係るリニアガイド1は、軸方向に延びる案内レール3と、案内レール3を跨ぐように取り付けられ、この案内レール3に対して軸方向に相対移動可能な断面C字状のスライダ20と、案内レール3とスライダ20との間に配置され、スライダ20の移動に伴って転動する複数のボール(転動体)34と、案内レール3に摺接し、スライダ20と案内レール3との間の隙間を覆うアンダーシール44と、を備えている。
【0020】
なお、本願明細書において、軸方向(前後方向ともいう)とは、スライダ20が案内レール3に沿って移動する方向を表し、左右方向とは、案内レール3に取り付けられたスライダ20の幅方向を表し、上下方向とは、上記軸方向と左右方向との両方に直交する方向を表す。上下方向は、案内レール3を固定する方向によって上側と下側が入れ替わるが、本願明細書においては、案内レール3を固定する被取付面側を下側又は下方といい、その反対側を上側又は上方という。
【0021】
案内レール3は金属製で、その左右の側面3bには、レール側転動溝(レール側軌道面)5が案内レール3の軸方向に沿って二条ずつ形成されている。案内レール3は案内レール3の高さ方向に貫通する複数のレール取付孔4を有しており、これらのレール取付孔4には、案内レール3を不図示の被取付面に固定するレール固定用ボルト6が挿入される。
【0022】
スライダ20は、案内レール3の左右両側に袖部22を有するスライダ本体21と、スライダ本体21の前後方向の一端と他端に装着された一対のエンドキャップ31、31と、これらのエンドキャップ31、31内に組み込まれた複数のリターンガイド17と、を備える。スライダ本体21の袖部22には、案内レール3のレール側転動溝5と対向するスライダ側転動溝(スライダ側軌道面)10が二条ずつ形成されている。
【0023】
スライダ本体21は、スライダ側転動溝10と、転動体戻し路28とを有している。スライダ側転動溝10は、スライダ本体21の両方の袖部22の内側面に形成され、レール側転動溝5と対向しており、レール側転動溝5とスライダ側転動溝10により負荷転動路24が構成されている。転動体戻し路28は、両方の袖部22の肉厚部分を案内レール3の軸方向に貫通している。また、スライダ本体21の上面には、スライダ20にテーブル等の被駆動体を固定するボルトを挿通させる被駆動体固定用ねじ挿通孔33が設けられている。
【0024】
スライダ本体21の前後両端にそれぞれ接合されるエンドキャップ31は、スライダ本体21と同様に、案内レール3の左右両側に袖部30を有し、横断面がほぼC字状をなす。エンドキャップ31の左右の袖部30には、スライダ本体21の端面に対向する面に、半円盤状凹部15が上下2段に形成されている。そして、半円盤状凹部15と半円柱状のリターンガイド17とにより、半ドーナツ状の方向転換路29が形成される。
【0025】
方向転換路29は負荷転動路24と転動体戻し路28とを連通させるものであり、負荷転動路24、転動体戻し路28及び方向転換路29によって、転動体転動路27が構成される。転動体転動路27内には、例えば、転動体としての鋼製の複数のボール34が装填されており、これら複数のボール34は、スライダ20の相対移動に伴って、転動体転動路27内を転動しながら無限循環する。
【0026】
次に、アンダーシール44について詳細に説明する。
図4Aは、アンダーシール44を説明するためのスライダ20を示す側面図であり、
図4Bは、
図4Aのエンドキャップの一部を拡大して示す側面図である。
【0027】
図4Aに示すように、スライダ20には、スライダ20と案内レール3との間の隙間を覆うアンダーシール44が取り付けられている。具体的に、エンドキャップ31の袖部30には、一対のエンドキャップ31同士が対向する面及び案内レール3に対向する面に開口した溝42が形成されている。そして、一対のエンドキャップ31における溝42にアンダーシール44の両端部が挿入されることにより、アンダーシール44はスライダ20に取り付けられている。アンダーシール44は、その長手方向に延びる不図示のリップ部を有し、リップ部が案内レール3に当接することにより、スライダ本体21の内部がアンダーシール44によって封止される。
【0028】
図4Bに示すように、溝42は、エンドキャップ31の底面31a側に位置する溝下面42aと、この溝下面42aに対向する溝上面42bとを有しており、溝下面42a及び溝上面42bには、それぞれ略半球状の下面側突起43a及び上面側突起43bが形成されている。なお、上面側突起43bは、下面側突起43aよりも、スライダ20の軸方向端面20b側に形成されている。
【0029】
上記のように、下面側突起43a及び上面側突起43bを有する溝42にアンダーシール44の端部を挿入すると、アンダーシール44の先端側が上面側突起43bによって下方(エンドキャップ31の底面31a側)に押圧される。また、エンドキャップ31におけるスライダ本体21に対向する面31b側では、アンダーシール44は下面側突起43aによって上方(スライダ20の上面20a側)に押圧される。すなわち、アンダーシール44は、その先端に近づくにしたがってエンドキャップ31の底面31a側に近づくように、溝42の内部の下面側突起43a及び上面側突起43bによって保持される。これにより、アンダーシール44の長手方向中央部における少なくとも一部が、スライダ本体21の底面に接触している。なお、
図4A及び
図4Bにおいて、スライダ本体21の底面よりもエンドキャップ31の溝上面42bの方が上方に位置している。これは、スライダ本体21の袖部が、案内レール3側において窪んだ形状になっているからである。本実施形態において、スライダ本体21の底面とは不図示の窪んだ部分を表し、この窪んだ部分にアンダーシール44が接触するように構成されている。
【0030】
このように構成されたリニアガイド1においては、アンダーシール44の両端部に力が印加されて、その中央部が上方に向かって凸形状となるため、アンダーシール44とスライダ20との優れた密着性が保持される。従って、案内レール3の側面に付着した異物がスライダ20の内部に侵入することを防止することができ、スライダ20の走行精度等の低下を抑制することができる。また、本実施形態においては、予めアンダーシール44に湾曲形状を付与するのではなく、溝42の構造によって、常にアンダーシール44の中央部が上側に凸となるように構成されている。したがって、リニアガイド1を長期間使用した場合であっても、アンダーシール44を直線状に変形させる力が働くことはなく、スライダ本体21とアンダーシール44との密着性が低下することを防止することができる。
【0031】
本実施形態において、アンダーシール44は、エラストマやプラスチックス等の樹脂材料のみで構成されていてもよいし、金属製の芯金表面にゴム等の弾性材料を固着したものでもよい。具体的に、アンダーシール44を構成する材料としては、リップ部を案内レール3に当接させて所望のシール性を確保するのに十分な強度(剛性)を有する材料であれば特に限定されない。ただし、アンダーシール44は、エンドキャップ31に設けられた溝42に差し込まれる際に、撓ませることができる程度の弾性を有することが好ましい。弾性を有する材料の一例としては、ニトリルゴム、フッ素ゴム等の耐油性を有するゴム材料、又は、熱可塑性のポリエステルエラストマー等が挙げられる。
【0032】
エンドキャップ31の溝42における溝下面42aと溝上面42bとの距離(溝の高さH)と、アンダーシール44の厚さTと、下面側突起43aの高さPa及び上面側突起43bの高さPbとの関係は、以下の条件(a)~(c)のうち少なくとも一つを満足することが好ましく、いずれか二つを満足することがより好ましく、全てを満足することがさらに好ましい。
【0033】
(a)溝の高さH≧アンダーシールの厚さT×1.2
溝の高さHがアンダーシールの厚さTの1.2倍以上であると、溝の中でアンダーシールの端部を充分に傾斜させることができ、スライダの底面側にアンダーシールの端部を十分に押圧することができる。したがって、アンダーシールの湾曲量を確保することができ、アンダーシールとスライダ本体との密着性を十分に得ることができる。したがって、溝の高さHは、アンダーシールの厚さTの1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましい。
【0034】
また、溝の高さHがアンダーシールの厚さTの3.0倍以下であると、溝内におけるアンダーシールの傾斜が大きくなり過ぎることを抑制し、スライダ本体の全長に渡って、アンダーシールを密着させることができる。すなわち、スライダ本体の軸方向端面の近傍において、アンダーシールとスライダ本体との間に隙間が生じて、密封性が低下することを抑制することができる。したがって、溝の高さHは、アンダーシールの厚さTの3.0倍以下であることが好ましい。
【0035】
(b)下面側突起の高さPa≧アンダーシールの厚さT×0.2
上面側突起の高さPb≧アンダーシールの厚さT×0.2
下面側突起の高さPa及び上面側突起の高さPbの少なくとも一方が、アンダーシールの厚さTの0.2倍以上であると、溝の中でアンダーシールの端部を充分に傾斜させることができ、スライダの底面側にアンダーシールの端部を十分に押圧することができる。したがって、アンダーシールの湾曲量を確保することができ、アンダーシールとスライダ本体との密着性を十分に得ることができる。したがって、下面側突起の高さPa及び上面側突起の高さPbの少なくとも一方が、アンダーシールの厚さTの0.2倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましい。
【0036】
また、下面側突起の高さPa及び上面側突起の高さPbの少なくとも一方が、アンダーシールの厚さTの1.0倍以下であると、溝内におけるアンダーシールの傾斜が大きくなり過ぎることを抑制し、スライダ本体の全長に渡って、アンダーシールを密着させることができる。したがって、下面側突起の高さPa及び上面側突起の高さPbの少なくとも一方が、アンダーシールの厚さTの1.0倍以下であることが好ましい。
なお、下面側突起の高さPa及び上面側突起の高さPbの両方が上記範囲を満足していることがさらに好ましい。
【0037】
(c)アンダーシールの厚さT+(下面側突起の高さPa+上面側突起の高さPb)≧溝の高さH
アンダーシールの厚さTと、下面側突起の高さPaと上面側突起の高さPbとの合計を溝の高さHより大きくすることで、溝に挿入されたアンダーシールを所望の湾曲量で保持することが出来る。
【0038】
なお、溝の高さHと、アンダーシールの厚さTと、下面側突起の高さPa及び上面側突起の高さPbとの関係が、上記条件を満たせば、下面側突起の高さPaと上面側突起の高さPbとが互いに異なっていてもよい。
【0039】
また、スライダ本体21の底面と、エンドキャップ31の溝上面42bとが面一であると、アンダーシール44の全長にわたって隙間なくスライダ本体21とアンダーシール44との間をシールすることができるため、より好ましい。
【0040】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係るリニアガイドにおけるエンドキャップの一部を拡大して示す裏面図である。第2実施形態において、上記第1実施形態と異なる点は、下面側突起43a及び上面側突起43bの形状のみである。したがって、
図5において、上記
図3に示す第1実施形態のエンドキャップと同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略又は簡略化する。なお、
図5において、アンダーシールの記載は省略している。
【0041】
図5に示すように、第2実施形態では、下面側突起43cと上面側突起43dは、溝42の一端部から他端部まで幅方向に延びる形状を有する。下面側突起43cと上面側突起43dとの位置関係は、
図4Bに示す下面側突起43aと上面側突起43bと同様であり、上面側突起43dの方が、下面側突起43cよりも、スライダの軸方向端面側に形成されている。
【0042】
このように構成された第2実施形態においては、アンダーシール44は幅方向に延びる線状に支持されるため、第1実施形態と比較してより一層、アンダーシール44を支持する力が向上し、スライダ本体21とアンダーシール44との間の密着性をより一層安定して得ることができる。
【0043】
なお、第2実施形態において、下面側突起43a及び上面側突起43bの両方が溝42の幅方向に延びる形状を有していたが、下面側突起43a及び上面側突起43bの一方のみが溝42の幅方向に延びる形状を有し、他方は略半球状としてもよい。
【0044】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係るリニアガイドにおけるエンドキャップの一部を拡大して側面側から示す断面図である。第3実施形態において、上記第1実施形態と異なる点は、溝42の構造のみである。したがって、
図6において、上記
図4Bに示すものと同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0045】
図6に示すように、エンドキャップ31に形成された溝42の溝上面42cは、スライダの軸方向端面20b側に近づくにしたがってエンドキャップ31の底面31a側に近づくように傾斜している。また、本実施形態における溝42には、第1実施形態に示す上面側突起43bが形成されておらず、下面側突起43aのみが形成されている。
【0046】
このように構成された第3実施形態においては、上面側突起の代わりに溝上面42cが傾斜しており、アンダーシール44は、溝上面42cの少なくとも一部及び下面側突起43aに接触することにより支持されている。したがって、第1実施形態と同様に、アンダーシール44の中央部が上側に凸となるように常に保持されるため、スライダ本体とアンダーシール44との間において優れた密着性を得ることができる。また、アンダーシール44をエンドキャップ31に組み込む際に、傾斜した溝上面42cに沿って溝42に挿入することができるため、組み込み作業を容易にすることができる。
【0047】
なお、第3実施形態において、下面側突起43aは、上記第1実施形態に示すように半球状であっても、上記第2実施形態に示すようにスライダ20の幅方向に延びる形状であってもよい。
【0048】
また、第3実施形態においては溝上面42cが傾斜した構造を有するが、変形例として、溝下面42aが、スライダの軸方向端面20b側に近づくにしたがってエンドキャップ31の底面31a側に近づくように傾斜していてもよい。この場合に、溝42は下面側突起43aを有さず、上面側突起43bのみが形成されていればよい。さらに、溝上面42c及び溝下面42aのいずれもが、スライダの軸方向端面20b側に近づくにしたがってエンドキャップ31の底面31a側に近づくように傾斜していてもよい。
【0049】
次に、本発明の実施形態に係るリニアガイドにおいて、特にアンダーシールの組付け方法の例について、
図2、
図3、
図4A及び
図4Bを参照して具体的に説明する。
【0050】
(組付け方法例1)
まず、スライダ本体21の両端にエンドキャップ31を取り付けた後に、スライダ20の転動体転動路27内にボール34を組み込む。次に、アンダーシール44の一方の端部を一方のエンドキャップ31の溝42に挿入する。その後、アンダーシール44を湾曲させながらアンダーシール44の他方の端部を他方のエンドキャップ31の溝42に挿入する。
【0051】
(組付け方法例2)
まず、スライダ本体21の両端にエンドキャップ31を取り付けた後に、スライダ20の転動体転動路27内にボール34を組み込む。次に、アンダーシール44を、その中央部が上側に凸形状となるように湾曲させながら、両端部をエンドキャップ31の両側の溝42に同時に挿入する。
【0052】
上記第1~第3実施形態に係るリニアガイドにおけるアンダーシールの組付け方法としては、上記組付け方法例1又は2を使用することが好ましい。
【0053】
なお、上記第1~第3実施形態に係るリニアガイドにおいては、転動体としてボール34を使用しているが、本発明はころを使用したものにも適用できる。
【0054】
以上のように本明細書には以下の事項が開示されている。
【0055】
(1)案内レールと、
前記案内レールを跨ぐように取り付けられ、前記案内レールに対して軸方向に相対移動可能なスライダと、
前記案内レールと前記スライダとの間に配置され、前記スライダの移動に伴って転動する複数の転動体と、
前記案内レールに摺接し、前記スライダと前記案内レールとの間の隙間を覆うアンダーシールと、
を有するリニアガイドであって、
前記スライダは、スライダ本体と前記スライダ本体の軸方向の両端部に取り付けられた一対のエンドキャップとを有し、
前記一対のエンドキャップには、前記アンダーシールの端部が挿入される溝が形成されており、
前記溝は、前記アンダーシールの先端に近づくにしたがって前記先端が前記エンドキャップの底面側に近づくように前記アンダーシールを保持する構造を有し、
前記アンダーシールの長手方向中央部における少なくとも一部は、前記スライダ本体の底面に接触していることを特徴とする、リニアガイド。
【0056】
この構造によれば、アンダーシールの中央部が常に上側に凸となるように保持されるため、リニアガイドを長期間使用した場合であっても、スライダ本体とアンダーシールとの密着性が低下することを防止することができ、異物がスライダの内部に浸入することを防止することができる。
【0057】
(2)前記溝は、前記エンドキャップの底面側に位置する溝下面と、前記溝下面に対向する溝上面とを有し、
前記溝下面に下面側突起が設けられているとともに、前記溝上面に上面側突起が設けられ、前記上面側突起は、前記下面側突起よりも前記スライダの軸方向端面側に形成されており、前記アンダーシールは前記下面側突起及び前記上面側突起により支持されていることを特徴とする、(1)に記載のリニアガイド。
【0058】
この構造によれば、簡単な溝の構造によって、アンダーシールの先端に近づくにしたがって、その先端がエンドキャップの底面側に近づくように、アンダーシールを保持することができる。
【0059】
(3)前記上面側突起及び前記下面側突起の少なくとも一方は、前記スライダの幅方向に延びる形状を有することを特徴とする、(2)に記載のリニアガイド。
【0060】
この構造によれば、アンダーシールを支持する力を向上させることができ、スライダ本体とアンダーシールとの間の密着性をより一層安定して得ることができる。
【0061】
(4)前記溝は、前記エンドキャップの底面側に位置する溝下面と、前記溝下面に対向する溝上面とを有し、
前記溝上面は、前記スライダの軸方向端面側に近づくにしたがって前記エンドキャップの底面側に近づくように傾斜していることを特徴とする、(1)に記載のリニアガイド。
【0062】
この構造によれば、溝上面でアンダーシールを支持するため、アンダーシールを支持する力をより一層向上させることができる。また、アンダーシールをエンドキャップに組み込む際に、傾斜した溝上面に沿って溝に挿入することができるため、組み込み作業を容易にすることができる。
【0063】
(5)前記溝下面に下面側突起が設けられており、前記アンダーシールは、前記溝上面と前記下面側突起により支持されていることを特徴とする、(4)に記載のリニアガイド。
【0064】
この構造によれば、溝上面と下面側突起によりアンダーシールを支持するため、アンダーシールを所望の方向に支持する力をより一層向上させることができる。
【0065】
(6)前記下面側突起は、前記スライダの幅方向に延びる形状を有することを特徴とする、(5)に記載のリニアガイド。
【0066】
この構造によれば、アンダーシールを所望の方向に支持する力をより一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 リニアガイド
3 案内レール
5 レール側転動溝
10 スライダ側転動溝
20 スライダ
21 スライダ本体
22,30,52 袖部
24 負荷転動路
27 転動体転動路
31,54 エンドキャップ
34 ボール
42a 溝下面
42b,42c 溝上面
42 溝
43a,43c 下面側突起
43b,43d 上面側突起
44,55 アンダーシール
51 リニアガイド装置
56 ポケット