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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145805
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】液晶セル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/133 20060101AFI20241004BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALI20241004BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20241004BHJP
   G02F 1/141 20060101ALI20241004BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G02F1/133 560
G02F1/1337 520
G02F1/13 101
G02F1/141
G02F1/1343
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058317
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重藤 泰大
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
2H193
2H290
【Fターム(参考)】
2H088FA22
2H088GA04
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA06
2H088JA17
2H088MA20
2H092HA04
2H092HA05
2H092NA25
2H092PA02
2H092PA06
2H092QA13
2H193ZE04
2H193ZE16
2H193ZE20
2H193ZG34
2H193ZP03
2H193ZP04
2H193ZQ22
2H290AA63
2H290BA42
2H290BF13
2H290BF62
2H290CA51
(57)【要約】
【課題】液晶分子の配向を安定させることが可能な液晶セル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シール材を介して貼り合わされた第一基板110と第二基板120との間に液晶が充填され、第一基板110と第二基板120の互いに対向する表面のそれぞれに液晶に電圧を印加するための電極(111、121)が形成され、二つの電極の互いに対向する表面のそれぞれに液晶の液晶分子を配向させるための配向膜(112、122)が形成され、二つの配向膜の互いに対向する表面のそれぞれには、液晶の不純物イオン(141、142)が吸着されており、二つの電極は、不純物イオンが二つの配向膜の表面に吸着された状態を一定の状態に維持するための駆動電圧を液晶に印加する、液晶セルである。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール材を介して貼り合わされた第一基板と第二基板との間に液晶が充填され、前記第一基板と前記第二基板の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶に電圧を印加するための電極が形成され、二つの前記電極の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶の液晶分子を配向させるための配向膜が形成された液晶セルであって、二つの前記配向膜の互いに対向する表面のそれぞれには、前記液晶の不純物イオンが吸着されており、
二つの前記電極は、前記不純物イオンが二つの前記配向膜の表面に吸着された状態を一定の状態に維持するための駆動電圧を前記液晶に印加する、
ことを特徴とする液晶セル。
【請求項2】
前記駆動電圧は、二つの前記電極のうち一方に供給される共通電位が基準値からオフセットされることにより生成された電圧である、ことを特徴とする請求項1に記載の液晶セル。
【請求項3】
前記駆動電圧は、前記液晶分子を一方の安定状態から他方の安定状態へスイッチングさせる第一電圧と、前記液晶分子を他方の安定状態から一方の安定状態へスイッチングさせる第二電圧とを含み、前記第一電圧は、前記第二電圧よりも大きい、ことを特徴とする請求項1に記載の液晶セル。
【請求項4】
二つの前記電極は、互いに異なる材料で構成され、二つの前記電極の間には、二つの前記電極の材料の違いにより内部電界E1が発生し、二つの前記配向膜の表面に吸着された前記不純物イオンにより発生する内部電界E2の向きは、前記内部電界E1の向きと同じである、ことを特徴とする請求項1に記載の液晶セル。
【請求項5】
二つの前記配向膜は、互いに異なる材料で構成され、二つの前記配向膜の表面エネルギーの違いにより発生する内部電界E3の向きは、前記内部電界E1及び前記内部電界E2の向きと同じである、ことを特徴とする請求項4に記載の液晶セル。
【請求項6】
前記液晶は、強誘電性液晶である、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の液晶セル。
【請求項7】
シール材を介して貼り合わされた第一基板と第二基板との間に液晶が充填され、前記第一基板と前記第二基板の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶に電圧を印加するための電極が形成され、二つの前記電極の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶の液晶分子を配向させるための配向膜が形成され、二つの前記電極が互いに異なる金属で構成された液晶セルを準備する第一工程と、
前記第一工程により得られた前記液晶セルの前記液晶を第一温度まで加熱した後、前記液晶に電圧を印加しない状態で前記液晶を前記第一温度から第二温度まで冷却することにより、前記液晶の液晶分子を配向させる第二工程と、
前記第二工程により得られた前記液晶セルの前記液晶に、二つの前記電極の材料の違いにより発生する内部電界E1とは逆向きの電界を発生させる電圧を印加することにより、二つの前記配向膜の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶の不純物イオンを吸着させ、当該吸着した不純物イオンにより前記内部電界E1と同じ向きに内部電界E2を発生させる第三工程と、
を有する、ことを特徴とする液晶セルの製造方法。
【請求項8】
二つの前記配向膜は、互いに異なる材料で構成され、二つの前記配向膜の表面エネルギーの違いにより発生する内部電界E3の向きは、前記内部電界E1及び前記内部電界E2の向きと同じである、ことを特徴とする請求項7に記載の液晶セルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶セル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶セルは、薄型で低消費電力である特徴を活かし、幅広い分野において使用されている。近年では、応答時間が早い等の特徴を有する強誘電性液晶(以下、FLCと称する場合がある)を用いた液晶セル(以下、強誘電性液晶セルと称する場合がある)が製品化されている。
【0003】
図1は、強誘電性液晶セルの基本構造を示す断面図である。図1に示すように、強誘電性液晶セル1は、第一基板110と第二基板120とが球状のスペーサ101を含んだシール材102を介して互いに貼り合わされている。この第一基板110と第二基板120との間の狭小な隙間にFLC130が充填されている。
【0004】
第一基板110は透明なガラス基板であり、その内側の表面には、ITO(酸化インジウムスズ)からなるベタ状の透明電極111が形成され、その上に有機配向膜112が形成される。第二基板120はシリコン基板であり、その内側の表面には画素毎にパターン化されたアルミニウム電極121が形成され、その上に有機配向膜122が形成される。なお、アルミニウム電極121が形成された領域の全部又は一部が画像表示領域に相当する。
【0005】
第一基板110と第二基板120との間に充填されたFLC130の液晶分子(図示せず)は、有機配向膜112、122の表面に施された所定の配向処理よって規則正しく配列した状態、即ち配向した状態となっており、液晶分子は、所定の層構造(図示せず)を形成し、液晶層全体としてスメクティックC相(SmC相)を呈している。
【0006】
FLC130の液晶分子の好ましい配向方向は、ディスプレイ用途としては見栄えの良い黒安定となる方向が良い。また、やや白安定の状態では、内部電界の変動の影響をうけてダブルドメインの状態(黒安定の方向と白安定の方向が混在する状態)になりやすい。
【0007】
FLC130の液晶分子の配向方向がダブルドメインの状態では、液晶セルの駆動時に、表示ムラ、すなわち、表示画面の面内均一性(輝度や色味)の低下等の問題が生じて好ましくない。このように、従来の強誘電性液晶セルでは、内部電界の変動等の影響によって、FLC130の液晶分子の配向方向が不安定でダブルドメインになりやすく、表示品質が低下する問題があった。
【0008】
上記課題を解決するために、従来では、完成した強誘電性液晶セルをスメクティックA相乃至等方相に相転移する温度に一定時間保持し、この温度を一定時間保持する間、強誘電性液晶セルに所定の交番電界を印加し、この交番電界を印加した状態で、強誘電性液晶セルを徐々に冷却し、温度を常温まで低下させた後に、所定の交番電界の印加を解除する配向処理方法が提案されていた(特許文献1参照)。
【0009】
また、より安定したFLCの配向方向を得るため、液晶セルを所定の湿度環境に一定時間置く特定環境処理を施す方法が提案されていた(特許文献2参照)。
【0010】
また、配向膜表面に吸着する正負イオンの影響を無くすため、配向膜表面から正イオンおよび負イオンを解離させる方法が提案されていた(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-138463号公報
【特許文献2】特許第7106410号公報
【特許文献3】特開平6-138460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、こうした従来技術による方法で作成された液晶セルは、長期間の時間経過や、液晶セルに電圧が印加され、液晶分子がスイッチングされることにより、正イオンと負イオンが配向膜表面から離れてしまい、イオンの状態を初期の状態に維持することは難しい。
【0013】
このように従来技術では、液晶セル内のイオンの状態を一定の状態に維持することは難しい。すなわち、従来技術では、液晶分子の配向を安定させることは難しい。
【0014】
本発明の目的は、液晶分子の配向を安定させることが可能な液晶セル及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
シール材を介して貼り合わされた第一基板と第二基板との間に液晶が充填され、前記第一基板と前記第二基板の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶に電圧を印加するための電極が形成され、二つの前記電極の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶の液晶分子を配向させるための配向膜が形成された液晶セルであって、二つの前記配向膜の互いに対向する表面のそれぞれには、前記液晶の不純物イオンが吸着されており、二つの前記電極は、前記不純物イオンが二つの前記配向膜の表面に吸着された状態を一定の状態に維持するための駆動電圧を前記液晶に印加する、液晶セルである。
【0016】
前記駆動電圧は、二つの前記電極のうち一方に供給される共通電位が基準値からオフセットされることにより生成された電圧である、液晶セルであっても良い。
【0017】
前記駆動電圧は、前記液晶分子を一方の安定状態から他方の安定状態へスイッチングさせる第一電圧と、前記液晶分子を他方の安定状態から一方の安定状態へスイッチングさせる第二電圧とを含み、前記第一電圧は、前記第二電圧よりも大きい、液晶セルであっても良い。
【0018】
二つの前記電極は、互いに異なる材料で構成され、二つの前記電極の間には、二つの前記電極の材料の違いにより内部電界E1が発生し、二つの前記配向膜の表面に吸着された前記不純物イオンにより発生する内部電界E2の向きは、前記内部電界E1の向きと同じである、液晶セルであっても良い。
【0019】
二つの前記配向膜は、互いに異なる材料で構成され、二つの前記配向膜の表面エネルギーの違いにより発生する内部電界E3の向きは、前記内部電界E1及び前記内部電界E2の向きと同じである、液晶セルであっても良い。
【0020】
前記液晶は、強誘電性液晶である、液晶セルであっても良い。
【0021】
シール材を介して貼り合わされた第一基板と第二基板との間に液晶が充填され、前記第一基板と前記第二基板の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶に電圧を印加するための電極が形成され、二つの前記電極の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶の液晶分子を配向させるための配向膜が形成され、二つの前記電極が互いに異なる金属で構成された液晶セルを準備する第一工程と、前記第一工程により得られた前記液晶セルの前記液晶を第一温度まで加熱した後、前記液晶に電圧を印加しない状態で前記液晶を前記第一温度から第二温度まで冷却することにより、前記液晶の液晶分子を配向させる第二工程と、前記第二工程により得られた前記液晶セルの前記液晶に、二つの前記電極の材料の違いにより発生する内部電界E1とは逆向きの電界を発生させる電圧を印加することにより、二つの前記配向膜の互いに対向する表面のそれぞれに前記液晶の不純物イオンを吸着させ、当該吸着した不純物イオンにより前記内部電界E1と同じ向きに内部電界E2を発生させる第三工程と、を有する、液晶セルの製造方法である。
【0022】
二つの前記配向膜は、互いに異なる材料で構成され、二つの前記配向膜の表面エネルギーの違いにより発生する内部電界E3の向きは、前記内部電界E1及び前記内部電界E2の向きと同じである、液晶セルの製造方法であっても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、液晶分子の配向が安定した状態を維持することが可能な液晶セル及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】強誘電性液晶セルの基本構造を示す断面図。
図2】強誘電性液晶の液晶分子の相と配向状態を模式的に示す図。
図3】強誘電性液晶の液晶分子の動作を示す図。
図4】強誘電性液晶セルの(a)理想的なイオン状態と(b)液晶分子の位置を模式的に示す図。
図5】強誘電性液晶セルの理想的ではないイオン状態を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図2は、強誘電性液晶の液晶分子の相と配向状態を模式的に示す図である。まず、FLCの分子配列、特に表面安定化強誘電性液晶(SSFLC)の分子配列について図2を用いて説明する。
【0026】
図2(a)は、FLCが等方相(ISO相)の状態である。この状態において、強誘電性液晶分子131(以下、FLC分子131と称する)は、それぞれが異なる方向を向いている。このISO相は、たとえば、液晶の温度が+110℃以上の状態である。
【0027】
図2(b)は、FLCがネマティック相(N相)の状態である。この状態において、すべてのFLC分子131は、配向規制力方向(矢印E)に向かって規則的に並んでいる。このN相は、例えば、液晶の温度が+90℃から+110℃の間の状態である。
【0028】
図2(c)は、FLCがスメクティックA相(SmA相)の状態である。この状態において、FLC分子131は、所定の層構造を形成し、各層のFLC分子131は、配向規制力方向(矢印E)に向かって規則的に並んでいる。このSmA相は、例えば、液晶の温度が+80℃から+90℃の間での状態である。
【0029】
図2(d)~図2(f)は、FLCがスメクティックC相(SmC相)の状態であり、この状態において、FLC分子131は、所定の層構造を形成し、各層のFLC分子131は、配向規制力方向(矢印E)に対して所定の傾き(チルト角)を有している。このSmC相は、例えば、液晶の温度が-35℃から+80℃の間の状態である。従って常温環境下では、FLC130はSmC相で使用される。
【0030】
ここで、図2(d)~図2(f)は、SmC相における電圧無印加時でのFLC分子131の傾きの違いを示している。図2(d)は、FLC分子131の傾きが配向規制力方向Eに対して図面上で一様に左であり、表示の見え方が黒安定の場合である。図2(e)は、FLC分子131の傾きが配向規制力方向Eに対して左や右が混在するダブルドメイン(黒安定部分と白安定部分が混在)の場合である。図2(f)は、FLC分子131の傾きが配向規制力方向Eに対して図面上で一様に右であり、表示の見え方が白安定の場合である。
【0031】
ここで、FLC分子131の好ましい配向方向は、ディスプレイ用途としては黒安定(この例では傾きが左)が良い。これは黒安定の方が、ムラが少なく使用者にとって見栄えが良いからである。従って、FLC分子131の配向方向を電圧無印加時に黒安定(図2(d)の状態)にすることが一般的に強誘電性液晶セルに求められる特性である。
【0032】
図3は、強誘電性液晶の液晶分子の動作を示す図である。次に、FLC130の液晶分子の基本動作について図3を用いて説明する。図示するように、強誘電性液晶セル1は、クロスニコルに合わせた第一の偏光板140aと第二の偏光板140bとの間に配置される。
【0033】
FLC130のFLC分子131は、第一の偏光板140aの偏光軸Aと第二の偏光板140bの偏光軸Bのどちらか一方に、FLC分子131の第1の安定状態の分子長軸方向(矢印C)もしくは、第2の安定状態の分子長軸方向(矢印D)のどちらかが、ほぼ平行になるように、配向膜(図示せず)の配向規制力方向(ラビング方向:矢印E)が決められて配置される。図3においては、第一の偏光板140aの偏光軸Aと第1の安定状態のときの分子長軸方向(矢印C)が、ほぼ平行になるように配置されている。
【0034】
ここで、FLC分子131のスイッチング、つまり一方の安定状態から他方の安定状態への転移は、FLC130に印加される駆動電圧の値が閾値以上となるときに起こる。例えば、閾値以上のマイナス電圧が印加されると第1の安定状態(矢印C)が選択され、閾値以上のプラス電圧が印加されると第2の安定状態(矢印D)が選択される。
【0035】
この結果、図3に示すように第一の偏光板140a、第二の偏光板140bを配置した場合、第1の安定状態(矢印C)で黒安定(非透過状態)、第2の安定状態(矢印D)で白安定(透過状態)となる。尚、第一の偏光板140a、第二の偏光板140bの配置を変えることにより、第1の安定状態で白安定(透過状態)、第2の安定状態で黒安定(非透過状態)とすることも出来る。このときの第一の偏光板140a、第二の偏光板140bの配置は、パラレルニコルと呼ばれることがある。
【0036】
FLC分子131は、自発分極を有しているので、液晶セルの内部電界の影響によって配向方向が不安定になりやすいといった問題がある。このFLC分子131の配向方向が不安定になると、黒安定部分と白安定部分が混在するダブルドメイン(図2(e)参照)の状態が生じて好ましくない。
【0037】
図4は、強誘電性液晶セルの(a)理想的なイオン状態と(b)液晶分子の向きを模式的に示す図である。次に、強誘電性液晶セルの内部電界について、図4を用いて説明する。
【0038】
発明の実施例における強誘電液性セル1の基本構造は、前述した図1に示す強誘電性液晶セル1と同様である。具体的には、第一基板110と第二基板120の互いに対向する表面のうち、第一基板110の表面には透明電極111が形成され、第二基板120の表面にはアルミニウム電極121が形成されている。また、透明電極111とアルミニウム電極121の互いに対向する表面のうち、透明電極111の表面には有機配向膜112が形成され、アルミニウム電極121の表面には有機配向膜122が形成されている。また、シール材102で囲まれた第一基板110と第二基板120との間の隙間にはFLC130が充填されている。
【0039】
強誘電性液晶セル1の内部には、透明電極111とアルミニウム電極121の材料の違いにより電界が発生する。ここでは、この電界を内部電界E1と称する。また、FLC130内には、多くの不純物イオン(以下、イオンと称する場合がある)が存在し、これらのイオンは、正イオン141と負イオン142に分けられる。なお、図4では、説明の都合上、正イオン141、負イオン142の数をそれぞれ10個としているが、実際には無数のイオンが存在している。
【0040】
第一基板110と第二基板120との間の隙間にFLC130を充填する際には、FLC130を所定の温度まで加熱し、充填完了後、FLC130を所定の温度まで徐々に冷却する。これにより、FLC130は、液晶分子が配列の規則性を失う等方相(ISO相)の状態から、加熱温度の低下によってスメクティックC相(SmC相)へと相転移する(図2参照)。この相転移に伴い、FLC130に自発分極による極性が発生し、それを打ち消す向きにFLC130内のイオンが移動する。なお、図4(a)では、FLC分子131の自発分極の極性を正の自発分極201と負の自発分極202で示してある。
【0041】
この時、FLC分子131の自発分極の向きは、内部電界E1を打ち消す向きである。すなわち、FLC分子131の向きは、図4(b)に示す黒安定の向きとなる。そして、FLC分子131の自発分極を打ち消す向きにFLC130内のイオンが移動する。例えば、内部電界E1よりもFLC分子131の自発分極が大きい場合、正イオン141は、第一基板110側の透明電極111に引き寄せられて有機配向膜112の表面に吸着され、また、負イオン142は、基板120側のアルミニウム電極121に引き寄せられて有機配向膜122の表面に吸着される。これにより、強誘電性液晶セル1の内部には、配向膜の表面に吸着されたイオンによって電界が発生する。ここでは、この電界を内部電界E2と称する。
【0042】
この結果、強誘電性液晶セル1の内部には、内部電界E1+内部電界E2の電界が発生する。ここでは、この電界を実内部電界ERと称する。
【0043】
内部電界E1の向きと大きさは、互いに対向する二つの電極の材質によって決まるので、ほぼ一定である。しかし、正イオン141と負イオン142が電極に吸着する量および向きは、強誘電性液晶セル1の状態によって変動する。従って、吸着したイオンにより発生する内部電界E2の値は変動し、その結果、実内部電界ERの値も変動する。
【0044】
FLC分子131の配向方向は、実内部電界ERの極性に依存する。すなわち、実内部電界ERの向きが内部電界E1の向きとは反対であれば、FLC分子131の配向方向は、配向規制力方向(矢印E)に対して図面上で右側(白安定)となる。また、実内部電界ERの向きが内部電界E1の向きと同じであれば、FLC分子131の配向方向は、配向規制力方向(矢印E)に対して図面上で左側(黒安定)となる。
【0045】
FLC分子131の好ましい配向方向は、前述したようにディスプレイ用途としては見栄えの良い黒安定(配向規制力方向(矢印E)に対して左側)の方向である。また、やや白安定の状態では、実内部電界ERの変動の影響をうけてダブルドメインの状態になりやすい。
【0046】
図4は、液晶分子を黒安定位置に安定させるための理想的な状態を示している。この状態では、透明電極111とアルミニウム電極121の異種金属間に発生する内部電界E1を打ち消す向きにFLC分子131の自発分極201、202が発生するようにFLC分子131が配向しており、また、液晶セル内のイオンはすべて有機配向膜112、122の表面に吸着され、液晶材料内を浮遊するイオンは無く、有機配向膜112、122の表面に吸着されたイオンにより発生する内部電界E2の向きは、液晶セルの画像表示領域の全面にわたって内部電界E1と一様に同じ向きである。この状態では、FLC分子131の向きが黒安定位置に安定するため、高い画像品質を得られる。
【0047】
図4のような理想的な状態は、例えば、以下の工程1~3により作成が可能である。
【0048】
<工程1>
まず、図1に示すように、シール材102を介して貼り合わされた第一基板110と第二基板120との間にFLC130が充填され、第一基板110と第二基板120の互いに対向する表面に透明電極111(ITO電極)とアルミニウム電極121が形成され、透明電極111とアルミニウム電極121の互いに対向する表面に有機配向膜112、122が形成された、強誘電性液晶セル1を準備する。なお、この強誘電性液晶セル1は、電圧無印加時におけるFLC分子131の向きが黒安定の向きになるように予め設計されている。
【0049】
<工程2>
次に、ヒーターや加熱炉を用いて強誘電性液晶セル1のFLC130をISO相の相転移温度以上の温度(第一温度)まで加熱し、その後、FLC130に電圧を印加しない状態で、FLC130をその温度(第一温度)からSmC相の相転移温度以下の温度(第二温度)にまで冷却することにより、FLC130のFLC分子131を配向させる。なお、この配向処理は、FLC分子131に対する再配向処理(二回目以降の配向処理)であるとも言える。
【0050】
<工程3>
次に、強誘電性液晶セル1のFLC130に、透明電極111とアルミニウム電極121を用いて、所定の電圧を一定時間(例えば、数時間程度)だけ印加する。この時の所定の電圧は、透明電極111とアルミニウム電極121の材料の違いにより発生する内部電界E1とは逆向きで、且つ、内部電界E1よりも大きな電界(後述の「E0+」)を発生させる電圧である。これにより、第一基板110の有機配向膜112の表面には、無数の正イオン141が一様に吸着され、第二基板120の有機配向膜122の表面には、無数の負イオン142が一様に吸着される。そして、吸着された正イオン141と負イオン142とにより、内部電界E1と同じ向きに内部電界E2が発生する。
【0051】
以上のようにして、図4に示すような理想的な状態が得られる。なお、図4に示す状態では、内部電界E1と内部電界E2の合成電界である実内部電界ERよりもFLC分子131の自発分極201、202の極性の方が大きくなるように設計されている。
【0052】
液晶セルは、仮に配向膜表面からイオンが一度解離した場合でも、図4のような理想的なイオン状態に戻り、それを維持することができるのが望ましい。
【0053】
図4のようにFLC分子131が黒安定状態である場合、FLC分子131を白安定状態にスイッチングさせるためには、内部電界E1とは逆向きで且つ少なくとも実内部電界ERよりも大きな電界を外部から印加しなければならない。以下、この外部から印加される電界(外部電界)をE0+と称する。また、外部電界E0+とは逆向きの外部電界をE0-と称し、外部電界E0+と外部電界E0-をまとめて外部電界E0と称する。
【0054】
通常、液晶セルを駆動するためには、外部電界E0+の印加と不印加を繰り返すか、もしくは外部電界E0+と外部電界E0-を交互に印加することになるが、いずれにしても必ず外部電界E0+を印加する時間が必要になる。
【0055】
外部電界E0+が印加されている間、液晶セル内のFLC分子131やイオンはその時の内部電界を打ち消し合うように働くため、FLC分子131は黒安定位置から白安定位置へスイッチングして極性の向きが逆転し、イオンを逆向きに移動させようとする力が働く。
【0056】
この時、イオンを移動させようと働くエネルギーの大きさ、イオンの移動度の大きさ、イオンと配向膜の吸着力の大きさ等により、配向膜に吸着したままのイオン、配向膜から解離して浮遊するイオン、配向膜から解離して対向する側の配向膜に吸着するイオンとが発生する。
【0057】
これにより、イオンの状態は理想の状態ではなくなってしまうが、上記エネルギーがある程度小さければ、すなわち上記エネルギーが印加されている時間が極めて短い場合には、その後、上記エネルギーが印加されなくなれば、イオンの状態は理想の状態に戻る。
【0058】
例えば、強誘電性液晶を用いたフィールドシーケンシャル方式の液晶セルの場合、外部電界E0の正負の切り替え周波数は、カラー表示を考慮するとフレーム周波数が例えば60Hzの3倍の180Hz以上となり、一般的にはFLC分子131のスイッチングは180Hz以上の矩形波により行われるが、この場合、数回のFLC分子131のスイッチングが行われてもイオンの状態は理想の状態を維持できる。しかし、長時間の駆動になると理想の状態を維持できない。
【0059】
ここで長時間のスイッチングが繰り返された場合を考える。通常、外部電界E0を発生させる駆動電圧の波形は、正負の大きさ、印加時間、スイッチングのタイミングについて、さまざまな波形あるが、特に強誘電性液晶セルの場合は、表示焼付きを防ぐために、1フレーム期間内で正負の駆動電圧のDCバランスが保たれた波形、すなわち平均化すると液晶に印加される正負の電気的エネルギーの総和が±0となるような波形、具体的には、例えば、正の駆動電圧(外部電界E0+)の印加時間と負の駆動電圧(外部電界E0-)の印加時間が互いに等しくなるような波形であるのが一般的である。なお、このような駆動は、DCバランス駆動と呼ばれることがある。
【0060】
この場合、FLC分子131は、外部電界E0(駆動電圧)に追従してスイッチングし、極性がプラスとマイナスに変化するが、二つの電極の異種金属間に発生する内部電界E1の極性は変化せずに常に存在するため、液晶セルの駆動中は、液晶セル内にDC電界として内部電界E1が常に印加されているのと同じ状況になる。
【0061】
液晶セル内のイオンのうち、移動度の速いイオンは、FLC分子131のスイッチングに追従して移動するが、移動度の遅いイオンは、FLC分子131のスイッチングには追従できないものの、長時間の駆動により、内部電界E1を打ち消すように移動し、液晶セル中を浮遊または理想とは逆向きに吸着してしまい、理想のイオン状態ではなくなってしまう。
【0062】
図5は、強誘電性液晶セルの理想的ではないイオン状態を模式的に示す図である。理想的ではないイオン状態では、例えば、図5に示すように、有機配向膜112、121の表面に吸着されずに浮遊するイオンが無数に存在したり、有機配向膜112、121の表面に吸着されたイオンの極性が部分的に逆になったりする。このような状態では、イオンにより発生する内部電界が不安定となり、FLC分子131の配向が不安定となる。
【0063】
本発明の実施例における液晶セルでは、図4に示すような理想のイオン状態を維持するために、液晶セルの駆動中の1フレーム期間内において、正の駆動電圧(外部電界E0+)と負の駆動電圧(外部電界E0-)のDCバランスが僅かに崩れた駆動電圧がFLC130に印加される。具体的には、外部電界E0+が内部電界E1よりも大きな電界となり、且つ、外部電界E0+が外部電界E0-よりも相対的に大きな電界となるように、透明電極111又はアルミニウム電極121に供給される共通電位(Vcom)が基準値(例えば、最大電位幅の中間値)から+側又は-側へ僅かにOffset(オフセット)されている。これにより、内部電界E1とは逆向きに作用する電界が相対的に大きくなる。なお、このような駆動電圧の印加は、複数のフレーム期間のそれぞれにおいて行われるのが好ましいが、特定のタイミングのフレーム期間においてのみ行われても良い。
【0064】
FLC130の駆動電圧を上述のようにすることで、駆動中の液晶セル内には内部電界E1とは逆向きのDC電界が印加されているのと同義になり、長時間の駆動を行った場合でも配向膜に吸着されているイオンの状態は理想的な状態に維持される。
【0065】
ただし、移動度の速いイオン、すなわちFLC分子131のスイッチングに追従して移動しているイオンは、駆動の終了のシーケンスによっては、スイッチングが終了した瞬間、液晶セル内を浮遊または理想とは逆向きに吸着する可能性がある。
【0066】
しかし、内部電界E1と吸着されているイオンによる内部電界E2により、駆動が終了した瞬間にFLC分子131は黒安定位置に揃い、そのFLC分子131の極性を打ち消すようにイオンが移動し、理想のイオン状態に戻る。
【0067】
上記を確実にするために、液晶セル内の画像表示領域の全面のFLC分子131を黒安定位置にスイッチングさせた状態で駆動を終了させることが望ましい。
【0068】
本発明の実施例における液晶セルによれば、液晶セル内の理想的なイオン状態を長期間にわたって維持することができるため、FLC分子131の配向を長期間にわたって安定させることができる。
【0069】
第一基板110と第二基板120に形成される電極の材料の組合せは、ITOとアルミニウムとの組合せに限らず、その他の材料の組合せであっても良い。
【0070】
第一基板110と第二基板120に形成される配向膜の材料は、有機材料に限らず、無機材料であっても良い。また、第一基板110と第二基板120に形成される配向膜の材料の組合せは、互いに同じ材料の組合せに限らず、互いに異なる材料の組合せであっても良い。この場合の材料の組合せは、例えば、ポリイミド等の有機材料とSiO等の無機材料との組み合わせであるが、これには限定されない。また、二つの配向膜の材料が互いに異なる場合、二つの配向膜の表面エネルギーの違いにより発生する内部電界(以下、E3と称する)の向きは、内部電界E2の向きと同じであることが好ましい。こうすれば、FLC分子131の配向をより安定させることができる。更に、この場合、前述の共通電位(Vcom)がオフセットされた外部電界E0+は、内部電界E1と内部電界E3の合成電界よりも大きいことが好ましい。こうすれば、FLC分子131の配向を長期間にわたってより安定させることができる。
【0071】
本発明は、強誘電性液晶を用いた液晶セルに限らず、例えばネマティック液晶のようなその他の液晶を用いた液晶セルに適宜適用することも可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 強誘電性液晶セル
101 スペーサ
102 シール材
110 第一基板
111 透明電極
112 有機配向膜
120 第二基板
121 アルミニウム電極
122 有機配向膜
130 強誘電性液晶(FLC)
131 強誘電性液晶分子(FLC分子)
140a 第一の偏光板
140b 第二の偏光板
141 正イオン
142 負イオン
201 自発分極(正極性)
202 自発分極(負極性)

図1
図2
図3
図4
図5