特開 2024-145808 縫製装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024145808

(43)【公開日】2024-10-15

(54)【発明の名称】縫製装置

(51)【国際特許分類】

   D05B 65/06 20060101AFI20241004BHJP

   D05B 65/02 20060101ALI20241004BHJP

【ＦＩ】

D05B65/06 B

D05B65/02 C

D05B65/02 Z

【審査請求】未請求

【請求項の数】8

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023058321

(22)【出願日】2023-03-31

(71)【出願人】

【識別番号】000005267

【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100104178

【弁理士】

【氏名又は名称】山本 尚

(74)【代理人】

【識別番号】100143960

【弁理士】

【氏名又は名称】藤田 早百合

(72)【発明者】

【氏名】岳 斉也

(72)【発明者】

【氏名】岡野 雄一郎

【テーマコード（参考）】

3B150

【Ｆターム（参考）】

3B150AA01

3B150CD07

3B150CE01

3B150CE05

3B150CE09

3B150CE24

3B150CE27

3B150FH02

3B150FH03

3B150FH06

3B150FH09

3B150FH14

3B150FH15

3B150FH20

3B150GD11

3B150GD13

3B150GD27

3B150GG01

3B150GG04

3B150JA03

3B150JA07

3B150LA52

3B150LB01

3B150NB18

3B150NC03

3B150NC06

3B150QA06

3B150QA07

(57)【要約】

【課題】糸を掴んで保持する糸保持機構が、糸を保持しているかを判断可能な縫製装置を提供すること。
【解決手段】縫製装置は、糸を掴んで保持する糸保持機構、検出部、及び判断部を備える。糸保持機構は、糸を保持する保持位置と、糸を解放する解放位置とに変位可能な第一保持部と、保持位置にある第一保持部と共に、糸を挟んで保持する第二保持部と、第一保持部を保持位置と解放位置とに移動する移動部とを有する。検出部は、第二保持部の変位に応じた物理量を検出する（Ｓ２１）。判断部は、検出部の検出結果に基づき、第一保持部と、第二保持部との間に糸が保持されているかを判断する（Ｓ２２）。
【選択図】図１２

【特許請求の範囲】

【請求項1】

糸を掴んで保持する糸保持機構であって、
前記糸を保持する保持位置と、前記糸を解放する解放位置とに変位可能な第一保持部と、
前記保持位置にある前記第一保持部と共に、前記糸を挟んで保持する第二保持部と、
前記第一保持部を前記保持位置と前記解放位置とに移動する移動部と
を有する前記糸保持機構と、
前記第二保持部の変位に応じた物理量を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づき、前記第一保持部と、前記第二保持部との間に前記糸が保持されているかを判断する判断部と
を備えることを縫製装置。

【請求項2】

前記判断部の判断結果に基づき、縫製時における縫製不良の発生が予測される場合、前記縫製不良の発生が予測されたことを報知する報知部を更に備えることを特徴とする請求項１に記載の縫製装置。

【請求項3】

前記報知部は、縫製開始後の所定の時期に前記検出部によって検出された前記検出結果に基づき、前記縫製不良として、糸絡み不良の発生が予測されたことを報知することを特徴とする請求項２に記載の縫製装置。

【請求項4】

縫針を挿通する針穴が形成された針板と、
前記針板の下側に固定される固定刃と
を更に備え、
前記糸は下糸であり、
前記第一保持部は、前記針板の下方において前記固定刃に対して水平方向に回動可能に設けられ、切断後の前記下糸の下糸端部を前記第二保持部との間で挟持可能である糸挟持部と、前記下糸端部を前記第二保持部との間で挟持不能な糸解放部とを有する可動刃であり、
前記第二保持部は、前記針板の下側に固定された付勢部材であり、
前記移動部は、モータを有し、前記モータの動力で前記可動刃を前記水平方向に回動することを特徴とする請求項１から３の何れかに記載の縫製装置。

【請求項5】

縫針を挿通する針穴が形成された針板を更に備え、
前記糸は上糸であり、
前記第二保持部は、前記針板の下方に設けられ、
前記第一保持部は、前記針板の下方において前記第二保持部に対して移動可能に設けられ、
前記糸保持機構は、縫製開始時の数針分の縫目形成に際して、前記移動部の駆動により、前記上糸の上糸端部を前記針板の下側で保持することを特徴とする請求項１から３の何れかに記載の縫製装置。

【請求項6】

前記第二保持部は、前記糸と接触する第一面と、前記第一面とは反対側の第二面を有し、
前記検出部は、前記第二保持部の前記第二面に配置された磁石と、前記磁石の磁束密度の変化を検出する磁気センサとを有することを特徴とする請求項１から３の何れかに記載の縫製装置。

【請求項7】

前記第二保持部は、前記糸と接触する第一面と、前記第一面とは反対側の第二面を有し、
前記検出部は、前記第二保持部の前記第二面に配置されたひずみゲージを有し、前記第二保持部の変位に応じたひずみを検出することを特徴とする請求項１から３の何れかに記載の縫製装置。

【請求項8】

縫針を装着する上下動可能な針棒と、
前記縫針に挿通する上糸を捕捉して下糸と絡める釜と、
前記検出部の前記検出結果に基づき、前記糸の太さを取得する太さ取得部と、
前記糸の太さに基づき、前記針棒と前記釜とによる縫製動作を制御する縫製制御部を更に備えることを特徴とする請求項１から３の何れかに記載の縫製装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は縫製装置に関する。

【背景技術】

【0002】

従来の縫製装置は、糸掴み部材と、糸押え部材とを備える。糸掴み部材は、針板の下側に水平に回動可能に設け、上糸が通る糸穴を第一端部に有し、縫製開始時に糸穴を針穴の下方に位置する準備位置と、準備位置に対し糸穴を針穴から離れた位置に位置する離間位置との間で移動する。糸押え部材は、針板の下側に水平に回動可能に設け、糸掴み部材の第一端部との間に上糸を挟んで保持可能な第二端部を有し、糸掴み部材に従動し、第二端部が糸穴と上下方向に重なる位置に移動して上糸を挟む。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２０１７－０９９６５７号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

従来の縫製装置では、糸掴み部材と、糸押え部材とによる糸の保持は確実なものではなく、保持が失敗する場合もある。縫製装置では、糸掴み部材と、糸押え部材とが、糸の保持に失敗した状態のまま縫製を開始すると、縫い始めの縫製不良が発生する可能性が高まる。

【0005】

本発明の目的は、糸を掴んで保持する糸保持機構が、糸を保持しているかを判断可能な縫製装置を提供することである。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明の請求項１の縫製装置は、糸を掴んで保持する糸保持機構であって、前記糸を保持する保持位置と、前記糸を解放する解放位置とに変位可能な第一保持部と、前記保持位置にある前記第一保持部と共に、前記糸を挟んで保持する第二保持部と、前記第一保持部を前記保持位置と前記解放位置とに移動する移動部とを有する前記糸保持機構と、前記第二保持部の変位に応じた物理量を検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づき、前記第一保持部と、前記第二保持部との間に前記糸が保持されているかを判断する判断部とを備える。請求項１の縫製装置は、作業者の手間を増やすことなく、検出部の検出結果に基づき、糸保持機構の第一保持部と第二保持部との間に保持された糸の状態を判断することに貢献する。

【0007】

本発明の請求項２の縫製装置は、前記判断部の判断結果に基づき、縫製時における縫製不良の発生が予測される場合、前記縫製不良の発生が予測されたことを報知する報知部を更に備える。縫製装置の報知部は、判断部の判断結果に基づき、縫製時における縫製不良の発生を報知することに貢献する。縫製装置の作業者は、報知部が報知した情報に基づき、縫製時に縫製不良が発生する可能性を把握でき、必要な対応をとることができる。

【0008】

本発明の請求項３の縫製装置の前記報知部は、縫製開始後の所定の時期に前記検出部によって検出された前記検出結果に基づき、前記縫製不良として、糸絡み不良の発生が予測されたことを報知する。縫製装置の報知部は、判断部の判断結果に基づき、縫製時における縫製不良として、糸絡み不良の発生が予測されたことを報知することに貢献する。縫製装置の作業者は、報知部が報知した情報に基づき、縫製時に糸絡み不良が発生する可能性を把握でき、必要な対応をとることができる。

【0009】

本発明の請求項４の縫製装置は、縫針を挿通する針穴が形成された針板と、前記針板の下側に固定される固定刃とを更に備え、前記糸は下糸であり、前記第一保持部は、前記針板の下方において前記固定刃に対して水平方向に回動可能に設けられ、切断後の前記下糸の下糸端部を前記第二保持部との間で挟持可能である糸挟持部と、前記下糸端部を前記第二保持部との間で挟持不能な糸解放部とを有する可動刃であり、前記第二保持部は、前記針板の下側に固定された付勢部材であり、前記移動部は、モータを有し、前記モータの動力で前記可動刃を前記水平方向に回動する。針下に設けられ、下糸を保持する糸保持機構では、下糸が第一保持部と第二保持部とにより保持されているかを確認し難い。請求項４の縫製装置の判断部は、検出部の検出結果に基づき、糸保持機構の第一保持部と第二保持部とで下糸を保持しているかを自動で判断することに貢献する。

【0010】

本発明の請求項５の縫製装置は、縫針を挿通する針穴が形成された針板を更に備え、前記糸は上糸であり、前記第二保持部は、前記針板の下方に設けられ、前記第一保持部は、前記針板の下方において前記第二保持部に対して移動可能に設けられ、前記糸保持機構は、縫製開始時の数針分の縫目形成に際して、前記移動部の駆動により、前記上糸の上糸端部を前記針板の下側で保持する。針下に設けられ、上糸を保持する糸保持機構では、上糸が第一保持部と第二保持部とにより保持されているかを確認し難いが、縫製装置の判断部は、検出部の検出結果に基づき、糸保持機構の第一保持部と第二保持部とで上糸を保持しているかを自動で判断することに貢献する。

【0011】

本発明の請求項６の縫製装置の前記第二保持部は、前記糸と接触する第一面と、前記第一面とは反対側の第二面を有し、前記検出部は、前記第二保持部の前記第二面に配置された磁石と、前記磁石の磁束密度の変化を検出する磁気センサとを有する。縫製装置の検出部は、比較的簡単な構成で第二保持部の変位に応じた物理量を検出することに貢献する。

【0012】

本発明の請求項７の縫製装置の前記第二保持部は、前記糸と接触する第一面と、前記第一面とは反対側の第二面を有し、前記検出部は、前記第二保持部の前記第二面に配置されたひずみゲージを有し、前記第二保持部の変位に応じたひずみを検出する。縫製装置の検出部は、ひずみゲージにより第二保持部の変位に応じたひずみを検出する、部品間の取付精度によらず、第二保持部の変位に応じた物理量を検出することに貢献する。

【0013】

本発明の請求項８の縫製装置は、縫針を装着する上下動可能な針棒と、前記縫針に挿通する上糸を捕捉して下糸と絡める釜と、前記検出部の前記検出結果に基づき、前記糸の太さを取得する太さ取得部と、前記糸の太さに基づき、前記針棒と前記釜とによる縫製動作を制御する縫製制御部を更に備える。縫製装置の縫製制御部は、第一保持部と第二保持部とが保持する糸の太さに応じて縫製動作を制御することに貢献する。縫製装置は、縫製制御部を備えない場合に比べ、糸の太さに合わせた適切な条件で縫製を行うことに貢献する。

【図面の簡単な説明】

【0014】

【図1】縫製装置１の全体斜視図である。

【図2】切断機構６０及び上糸保持機構８０の斜視図である。

【図3】切断機構６０の一部及び上糸保持機構８０の一部の分解斜視図である。

【図4】切断機構６０の一部及び上糸保持機構８０の一部の底面図である。

【図5】切断機構６０の一部の底面図である。

【図6】モータ５９、カム板７０、及びリンク機構７２の一部であるリンク７３、７４の底面図である。

【図7】上糸保持機構８０の一部の底面図である。

【図8】（Ａ）は図１５（Ａ）のＧ１－Ｇ１線における矢視方向断面図であり、（Ｂ）は図１５（Ｂ）のＧ２－Ｇ２線における矢視方向断面図であり、（Ｃ）図１５（Ｃ）のＧ３－Ｇ３線における矢視方向断面図である。

【図9】（Ａ）は図１５（Ａ）のＦ１－Ｆ１線における矢視方向断面図であり、（Ｂ）は図１５（Ｂ）のＦ２－Ｆ２線における矢視方向断面図であり、（Ｃ）図１５（Ｃ）のＦ３－Ｆ３線における矢視方向断面図である。

【図10】縫製装置１の電気的構成を示すブロック図。

【図11】縫製装置１の主処理の流れ図である。

【図12】下糸処理の流れ図である。

【図13】針板下上糸処理の流れ図である。

【図14】テーブルＲの説明図である。

【図15】（Ａ）は第一保持部材８６が待機位置Ｑ１にある時の、切断機構６０の一部及び上糸保持機構８０の一部の底面図であり、（Ｂ）は第一保持部材８６が保持位置Ｑ２にある時の、切断機構６０の一部及び上糸保持機構８０の一部の底面図であり、（Ｃ）は第一保持部材８６が上糸切断位置Ｑ３にある時の、切断機構６０の一部及び上糸保持機構８０の一部の底面図である。

【図16】変形例の切断機構６０の一部及び上糸保持機構８０の一部の底面図である。

【発明を実施するための形態】

【0015】

本発明の実施形態を説明する。以下説明は、図中に矢印で示す左右、前後、及び上下を使用する。縫製装置１の左右方向、前後方向、及び上下方向は夫々、Ｘ軸方向、Ｙ軸方向、及びＺ軸方向である。

【0016】

図１を参照し、縫製装置１の構造を説明する。縫製装置１は縫針１５に対し、Ｘ軸方向とＹ軸方向に縫製物１９を送ることで３６０度方向に縫製できる。縫製物１９は、例えば布、革等である。縫製装置１は、ベッド部２、脚柱部３、腕部４、布送り装置５、制御部１０（図１０参照）、及び操作面板１８を備える。ベッド部２は、ミシン机６上に設置する。ベッド部２は上面前側に作業台７を備える。作業台７は略中央に針板１１を備える。針板１１の略中央には、針穴１２が形成される。縫製装置１は、ベッド部２の内部に下軸４８と釜４７を備える。釜４７は針板１１の下方に配置した揺動垂直釜であり、下軸４８は前後方向に延びる。下軸４８の前端部は釜４７と連結する。釜４７は下糸を巻いたボビンを収容し下軸４８を中心に往復揺動する。

【0017】

脚柱部３はベッド部２の後方部から上方に延びる。腕部４は脚柱部３の上部から前方に延び、主軸を内部で回転可能に支持する。主軸は前後方向に延び、腕部４の内部後側に設けた主モータ１７（図１０参照）と連結する。連桿は脚柱部３内部で上下方向に延びる。主軸は連桿を介して下軸４８に連結する。故に主モータ１７が駆動すると主軸が回転し、主軸の回転に伴い釜４７が駆動する。ミシン机６は上面右側に操作面板１８を設ける。操作面板１８は例えばタッチパネルであり、表示部１３と入力部１６を備える。表示部１３は各種情報を表示し、入力部１６は縫製開始の指示等の各種情報の入力を受け付ける。

【0018】

腕部４は内部に針棒機構３０（図１０参照）を備える。針棒機構３０は、下端に縫針１５を装着可能な針棒１４を有し、主軸の回転に応じて、針棒１４を上下方向に揺動させる。腕部４は前端部に先端部８を備える。先端部８の下端部は針板１１の上面と対向する。先端部８は針棒１４及び押え棒２０を上下動可能に支持する。針棒１４は上下方向に延び、先端部８から下方に突出する。針棒１４は下端に縫針１５を装着する。縫針１５は目孔を有し、目孔に上糸を通すことで上糸を保持する。針棒１４は主軸と連結する。針棒１４が主軸の回転で上下動すると、縫針１５は上下動して針穴１２を通過する。上下動する縫針１５は釜４７と協働して縫製物１９に縫目を形成する。押え棒２０は針棒１４の左方で上下方向に延び、先端部８から下方に突出する。押え棒２０は下端に押え足９を装着する。押え足９は、間欠的に縫製物１９を下方に押さえる。

【0019】

布送り装置５は、針棒機構３０に対して縫製物１９を相対的に少なくとも一方向に送る。布送り装置５はＸモータ２１（図１０参照）、布保持体２２、支持部２３、軸部２４、Ｙモータ２５（図１０参照）等を備える。布送り装置５は、非図示のＸレール、Ｘ移動板、Ｙレール、及びＹ移動板を備える。Ｘモータ２１はベッド部２の内部後側に設ける。Ｘレールはベッド部２の内部且つＸモータ２１の前方でＸ軸方向に延びる。Ｘ移動板はＸレールに左右動可能に連結し且つＸモータ２１と連結する。Ｘ移動板はＸモータ２１の駆動力でＸレールに沿って左右動する。ＹレールはＸ移動板上面に固定し、Ｙ軸方向に延びる。ＹレールはＸ移動板と一体的に左右動する。Ｙ移動板はＹレールに対して前後動可能に連結する。布保持体２２はＹ移動板の上面に固定する。布保持体２２はＸ移動板とＹ移動板と一体的に左右動し、Ｙ移動板と一体的に前後方向に移動する。故に布保持体２２は水平方向に移動できる。支持部２３は布保持体２２の押え腕３２の後部に連結する。支持部２３は布保持体２２と共に左右動できる。軸部２４は支持部２３から脚柱部３の内部迄後方に延び、且つ前後動できる。軸部２４の前端部はスライダを介して支持部２３に接続する。Ｙモータ２５は脚柱部３の内部に設け、軸部２４に連結する。軸部２４がＹモータ２５の駆動力で前後動すると、支持部２３、布保持体２２、及びＹ移動板は一体的に前後動する。

【0020】

布保持体２２は送り板３１、押え腕３２、一対の連結部３３、押え枠３４、及び一対のエアシリンダ３５（図１では一方のみを図示）等を備える。送り板３１はＹ移動板の上面から前方に延び、前端部に挟み枠３６を備える。挟み枠３６は平面視矩形枠状であり、縫製物１９を支持できる。押え腕３２は送り板３１の後端部から上側に延び、更に前側へ屈曲して延びる。押え腕３２は送り板３１の後端をＹ移動板の上面との間で挟んで固定する。押え腕３２の先端部３７は正面視略矩形状である。一対の連結部３３は先端部３７にて左右方向に並び、上下動できる。一対の連結部３３は押え枠３４を支持する。押え枠３４は平面視略矩形枠状であり、挟み枠３６と上下方向に対向する。一対のエアシリンダ３５は押え腕３２の左部と右部に設ける。一対のエアシリンダ３５は夫々一対の連結部３３と連結する。一対のエアシリンダ３５が駆動して一対の連結部３３を上下動すると、押え枠３４は挟持位置と離隔位置の間を上下動する。挟持位置は挟み枠３６で支持した縫製物１９を上方から押える位置である。離隔位置は縫製物１９から上方に離れる位置である。縫製装置１は縫針１５に対し、縫製物１９を保持した布保持体２２をＸ軸方向とＹ軸方向に移動することで３６０度方向に縫製できる。

【0021】

図２の如く、縫製装置１は針板１１の下方に切断機構６０と上糸保持機構８０を備える。切断機構６０は、モータ５９の動力で駆動し、縫製動作終了時に上糸と下糸の切断動作を行う。切断機構６０は、切断動作により切断した下糸の下糸端部Ｄ（図９参照）を解放可能に保持する。上糸保持機構８０は、モータ５９の動力で駆動し、針板１１の下側で縫針１５に通された上糸の上糸端部Ｕ（図８参照）を解放可能に保持する。上糸保持機構８０は縫製開始時の一針目で縫製物１９の下方に通過した上糸を屈曲して保持する。故に上糸保持機構８０は縫針１５からの糸抜けを防止する。縫製装置１はベッド部２の背面側にモータ５９を固定する。モータ５９はパルスモータであり、切断機構６０と上糸保持機構８０の駆動源である。

【0022】

図２～図５の如く、切断機構６０は、固定刃６１、可動刃６２、付勢部材６５、支軸６９、及び移動部６７を備える。図３の如く、固定刃６１は、縫製装置１の縫針１５を挿通する針穴１２が形成された針板１１の下側に固定される。固定刃６１は平面視略Ｌ字状で且つ針板１１の下面に二つの螺子６１１で固定する。固定刃６１は刃部６１２を備える。刃部６１２は、固定刃６１の右後部に設けられ、針穴１２の左方から針穴１２の前方に向かって延びる。

【0023】

可動刃６２は、固定刃６１に対して水平に回動可能に設けられる。可動刃６２は、糸捌き部６２１、刃部６２２、糸係合部６２３、糸案内部６２４、糸捕捉部６２５、糸挟持部６６、及び糸解放部６８等を有する。糸捌き部６２１は後方に向かって尖った先端部を有し、上糸が形成する上糸環内に進入する部分である。刃部６２２は可動刃６２を上下方向に貫通する、底面視円状の貫通穴の端部である。糸係合部６２３は上糸環のうち縫針１５から延びる側を引掛ける部分である。糸案内部６２４は支軸６９に対し、リンク７６のピン７６３とは反対側において、糸捌き部６２１と糸捕捉部６２５の間で湾曲する部分である。糸案内部６２４は上糸環のうち縫製物１９から延びる側を糸捕捉部６２５に案内する。糸捕捉部６２５は上糸環を捕捉する部分である。

【0024】

糸挟持部６６は、可動刃６２の下面の内の、可動刃６２により切断後の下糸の下糸端部Ｄ（図９（Ａ）参照）を付勢部材６５との間で挟持できる部分である。糸解放部６８は、可動刃６２の下面の内の、下糸端部Ｄを付勢部材６５との間で挟持不能な部分である。糸解放部６８は、糸捌き部６２１と糸捕捉部６２５とによって挟まれる部分の可動刃６２の下面の内、糸捕捉部６２５と接する部分、且つ、糸挟持部６６に隣接して設けられた上方に向かって凹んだ凹部である。つまり、糸挟持部６６は糸解放部６８よりも下方に位置する。

【0025】

可動刃６２は、挿通部６２６、６２７が形成される。挿通部６２６は、可動刃６２の長手方向の内、糸捌き部６２１が設けられた側とは反対側の端部（図３の位置では可動刃６２の後端部）に設けられた上下方向に貫通する孔である。挿通部６２６は、後述のリンク７６のピン７６３を挿通する。挿通部６２７は、可動刃６２の長手方向の中心部に設けられた上下方向に貫通する孔である。支軸６９は、挿通部６２７に挿通され、針板１１の下面に固定し、可動刃６２を針板１１に平行な水平方向に往復回動可能に支持する。可動刃６２の回動中心である支軸６９は、針板１１と平行な面のモータ５９から針穴１２へと向かう方向において、本実施形態では前後方向において、針穴１２に対し、モータ５９側とは反対側に設けられる。支軸６９は螺子６１１の右方に位置する。

【0026】

図４の如く、付勢部材６５は、二つの螺子６５１により針穴１２よりも前方において、針板１１の下側に固定される。付勢部材６５は、屈曲した板バネである。付勢部材６５は、固定部６５２、押圧部６５３、及び案内部６５４、６５５を備える。固定部６５２は、針穴１２の前方から右後方に延びる針板１１と平行な板状であり、二つの螺子６５１により針板１１に固定される。押圧部６５３は、固定部６５２の左後端部から下方に折り曲げられた後、後方に折り曲げられた、底面視Ｕ字状の部分である。押圧部６５３は、後下側に向かって緩やかに傾斜する。図９（Ａ）の如く、案内部６５４は、押圧部６５３の後部において、後方ほど下方になるように傾斜した部分である。案内部６５５は、案内部６５４の左端から上方に屈曲した部分である。案内部６５４、６５５は、可動刃６２が付勢部材６５と針板１１との間に配置されるように移動するのを案内する。付勢部材６５は可動刃６２の糸挟持部６６を上方に付勢できる。

【0027】

図４及び図９（Ａ）の如く、付勢部材６５は、下糸と接触する第一面６３と、第一面６３とは反対側の第二面６４を有する。第一面６３は、付勢部材６５の上面であり、第二面６４は、付勢部材６５の下面である。付勢部材６５の下方には、検出部８９が配置される。検出部８９は、付勢部材６５の変位に応じた物理量を検出する。検出部８９は、付勢部材６５の第二面６４に配置された磁石１０１と、磁石１０１の磁束密度の変化を検出する磁気センサであるホール素子１０２とを有する。磁石１０１は、付勢部材６５の後端部の左右方向の中心付近に固定される。ホール素子１０２は、磁石１０１の下方において台座１００に固定される。

【0028】

図２の如く、移動部６７は、モータ５９を有し、モータ５９の動力で可動刃６２を水平方向に回動する。移動部６７は、モータ５９、カム板７０、及びリンク機構７２を備える。モータ５９は、パルスモータであり、出力軸９８を下向きにした姿勢でベッド部２の背面下部（図１参照）に固定する。カム板７０は、モータ５９の出力軸９８の回転力を、リンク機構７２を駆動する動力に変換する。リンク機構７２はカム板７０の回転方向と角度に応じて切断機構６０の可動刃６２を駆動し、上糸と下糸を切断する。リンク機構７２はカム板７０の回転方向と角度に応じて切断機構６０の可動刃６２を駆動し、上糸と下糸を切断後に、下糸端部Ｄを保持する。リンク機構７２はカム板７０の回転方向と角度に応じて、上糸保持機構８０の第一保持部材８６を駆動し縫製開始時の所定時期の上糸端部Ｕを保持する。

【0029】

図６の如く、カム板７０はモータ５９の下方に配置し、モータ５９の出力軸９８の先端部に固定する。カム板７０は底面視略半円形状に形成し、中央に軸穴７０１が形成される。モータ５９の出力軸９８の先端部は軸穴７０１に挿入固定する。カム板７０は出力軸９８と一体的に回転する。カム板７０は軸穴７０１を中心とする約１８０度の範囲に溝カム７１を備える。溝カム７１は平面視半円弧状で且つカム板７０の下面を厚み方向に凹ませた溝状である。

【0030】

図２及び図６の如く、リンク機構７２は、リンク７３～７６、コロ部材７７を備える。リンク７３～７６は各々、モータ５９側から切断機構６０側に向かって、つまりモータ５９から前方に向かって順に並ぶ。リンク７３は平面視略Ｌ字板状であり、カム板７０の下方に配置する。リンク７３は一端部７３１の上側にコロ部材７７を回転可能に固定する。コロ部材７７は、上下方向に延びる回転軸を備える。コロ部材７７はカム板７０の溝カム７１と係合する。リンク７３は一端部７３１と他端部７３２の間の鋭角に屈曲する中央部７３３に軸穴７３４を設ける。支軸７３５は軸穴７３４に挿入するので、リンク７３は支軸７３５を中心に回動できる。コロ部材７７はカム板７０の溝カム７１と係合する。リンク７３の他端部７３２はピン７３６を介してリンク７４の一端部７４１と回動可能に連結する。

【0031】

リンク７４は、前後方向に延びる棒状である。リンク７４の他端部７４２は螺子７４３でリンク７５の一端部７５１と固定する。リンク７５は、正面視右方が開放するＣ状の板部材である。リンク７５の他端部７５２は一端部７５１の上方に位置し、螺子７４４でリンク７６の一端部７６１と固定する。リンク７５のうち上下方向に延びる中心部７５３は、上下方向に延びる支軸７５４を挿通する。リンク７５は支軸７５４を中心に回動できる。リンク７６は、前後方向に延びる。図３及び図４の如く、リンク７６の他端部７６２は、右方に略円弧状に膨出する。リンク７６の他端部７６２は、上方に突出するピン７６３、７６４を有する。ピン７６３は、リンク７６の前端部に設け、可動刃６２の挿通部６２６に挿通される。可動刃６２はリンク７６のピン７６３によりリンク７６と連結する。ピン７６４は、ピン７６３よりも後方に設け、後述の上糸保持機構８０の第一保持部材８６の挿通部８６１に挿通される。第一保持部材８６はリンク７６のピン７６４により、リンク７６と連結する。リンク７６は、第一保持部材８６及び可動刃６２の下方に位置する。

【0032】

移動部６７は、モータ５９の動力で、リンク７６を前後方向に移動させることで可動刃６２を支軸６９を中心に、針板１１に平行な水平方向に回動できる。移動部６７は、モータ５９の駆動に応じて、可動刃６２を図５に示す刃待機位置Ｐ１、解放位置Ｐ２、糸捕捉位置Ｐ３、切断位置Ｐ４、及び可動位置Ｐ５の各々に移動できる。図５では、固定刃６１、可動刃６２、及びリンク７６以外の部材の図示を省略し、可動刃６２の位置を、刃部６２２の位置で示している。

【0033】

刃待機位置Ｐ１は、可動刃６２が固定刃６１から離れた位置にあり、且つ、可動刃６２の糸挟持部６６が針板１１と付勢部材６５との間で、付勢部材６５に対向して配置され、糸挟持部６６が下糸端部Ｄ（図９（Ａ）参照）を付勢部材６５と共に挟持可能な位置である。解放位置Ｐ２は、可動刃６２の糸解放部６８が針板１１と付勢部材６５との間で、付勢部材６５に対向して配置される位置である。糸捕捉位置Ｐ３は、可動刃６２が針穴１２近傍にある上糸を捕捉する位置である。底面視において、糸捕捉位置Ｐ３は、針穴１２と、解放位置Ｐ２との間に位置する。切断位置Ｐ４は、可動刃６２が固定刃６１と交差して上糸と下糸を切断する位置である。可動位置Ｐ５は、上糸と離隔し、切断位置Ｐ４に対して刃待機位置Ｐ１とは反対側の位置である。つまり、可動位置Ｐ５は、切断位置Ｐ４に対して支軸６９中心に底面視反時計回りの方向にあり、刃待機位置Ｐ１は、切断位置Ｐ４に対して支軸６９中心に底面視時計回りの方向にある。可動刃６２の移動軌道Ｊ１上において、切断位置Ｐ４は、刃待機位置Ｐ１と可動位置Ｐ５との間にあり、解放位置Ｐ２は、刃待機位置Ｐ１と、切断位置Ｐ４との間にある。縫製装置１が可動刃６２を各位置に移動させる主処理については後述する。

【0034】

図２～図４及び図７の如く、上糸保持機構８０は、第二保持部材８１、第一保持部材８６、及び移動部６７を備える。本実施形態の上糸保持機構８０は更に、固定メス９７を備える。移動部６７は、前述の切断機構６０と共通である。第二保持部材８１は、縫製装置１の縫針１５を挿通する針穴１２が形成された針板１１の下方に設けられる。第二保持部材８１は、針板１１と平行な水平方向に延びる、左右方向に長い板状の部材である。第二保持部材８１は、可動刃６２の糸案内部６２４よりも下方において水平方向に延びる。第二保持部材８１は、針穴１２に対し左方に配置され、前後一対の螺子８１１によって針板１１の下側に固定される。第二保持部材８１の右端部は、右側ほど後方に傾斜する。図９（Ａ）の如く、第一保持部材８６は、可動刃６２と同一水平面上に配置されている。ここで同一水平面とは、第一保持部材８６と可動刃６２との両者を通過する任意の仮想的な水平面を意味し、第一保持部材８６の上下方向の延設範囲と、可動刃６２との上下方向の延設範囲とは、少なくとも一部が重なる。

【0035】

図４及び図８（Ａ）の如く、第二保持部材８１は、上糸と接触する第一面８２と、第一面８２とは反対側の第二面８３を有する。第一面８２は、第二保持部材８１の上面であり、第二面８３は、第二保持部材８１の下面である。第二保持部材８１の下方には、検出部９９が配置される。検出部９９は、第二保持部材８１の変位に応じた物理量を検出する。検出部９９は、第二保持部材８１の第二面８３に配置された磁石２０２と、磁石２０２の磁束密度の変化を検出する磁気センサであるホール素子２０１とを有する。磁石２０２は、第二保持部材８１の第二面８３の内の右部の前後方向の中心付近に固定される。ホール素子２０１は、磁石２０２の下方において台座２００に固定される。

【0036】

図２～図４及び図７の如く、第一保持部材８６は、第二保持部材８１と協働して上糸の上糸端部Ｕを保持する。第一保持部材８６は、支持部８４を備える。第一保持部材８６は、針板１１よりも下方、且つ、第二保持部材８１よりも上方に設けられる。第一保持部材８６は、前後方向に長い板状であり、第一保持部材８６には、第一保持部材８６が図７の待機位置Ｑ１に位置する時に縫針１５の通過を許容する挿通部８８が形成されている。第一保持部材８６は、挿通部８６１、８６３が形成される。挿通部８６１は、第一保持部材８６の端部に設けられた上下方向に貫通する孔である。挿通部８６１には、リンク７６のピン７６４が挿通される。挿通部８６３は、挿通部８６１の前方に設けられた上下方向に貫通する孔である。第一保持部材８６は、第一保持部材８６の挿通部８６３に挿通された支持部８４により、針板１１に平行な水平方向に回動可能に支持される。支持部８４は針板１１に垂直に設けられたピン部材である。第一保持部材８６は、第一保持部材８６に挿通された支持部８４により、針板１１に平行な水平方向に回動可能に支持される。支持部８４は、針穴１２の後方に設けられる。つまり、支持部８４は、針板１１と平行な面のモータ５９から針穴１２へと向かう方向及び其の逆方向において、本実施形態では前後方向において、針穴１２に対し、モータ５９側に設けられる。支軸６９の中心と、ピン７６４の中心との間の距離は、支持部８４の中心と、ピン７６４の中心との間の距離よりも短い。故に、リンク７６の移動量に対する可動刃６２の回動量は、リンク７６の移動量に対する第一保持部材８６の回動量よりも大きい。

【0037】

図３の如く、固定メス９７は、縫針１５を挿通する針穴１２が形成された針板１１の下側に固定される。固定メス９７は刃部９６を備える。刃部９６は、固定メス９７の右部に設けられ、針穴１２の左方に配置される。図８（Ａ）の如く、刃部９６の右端は右下方に向けて傾斜する。固定メス９７は上下方向に貫通する前後一対の孔９７１を備える。固定メス９７は、第二保持部材８１よりも上方に位置する。固定メス９７は一対の孔９７１に挿通された螺子８１１によって、第二保持部材８１と共に針板１１の下側に固定される。

【0038】

移動部６７は、リンク７６のピン７６４を第一保持部材８６の挿通部８６１に挿通することで、第一保持部材８６と連結する。移動部６７は、モータ５９の動力で、リンク７６を前後動させることで、第一保持部材８６を支持部８４を中心に、針板１１に平行な水平方向に回動できる。即ち、移動部６７は可動刃６２と、第一保持部材８６との各々を移動できる。具体的には移動部６７は、図７に示す、待機位置Ｑ１と、保持位置Ｑ２と、上糸切断位置Ｑ３と、切断時位置Ｑ４と、可動端時位置Ｑ５とに第一保持部材８６を移動する。図７では、第一保持部材８６、支持部８４、固定メス９７、及びリンク７６以外の部材の図示を省略し、第一保持部材８６の位置を、挿通部８８の円弧状の右端部分に内接する仮想円の位置で示している。

【0039】

待機位置Ｑ１は、水平方向において、第二保持部材８１と第一保持部材８６との間に、針穴１２が配置された位置である。保持位置Ｑ２は、水平方向において第一保持部材８６が針穴１２から離隔し、且つ、第一保持部材８６が第二保持部材８１と上下方向に重なる位置である。上糸切断位置Ｑ３は、第二保持部材８１と第一保持部材８６とで保持する上糸端部Ｕを固定メス９７で切断する位置である。第一保持部材８６の移動軌道Ｊ２上において、保持位置Ｑ２は、待機位置Ｑ１と、上糸切断位置Ｑ３との間に位置する。切断時位置Ｑ４と、可動端時位置Ｑ５とは各々、可動刃６２の切断位置Ｐ４と、可動位置Ｐ５とに対応する位置である。縫製装置１が第一保持部材８６を各位置に移動させる主処理については後述する。

【0040】

図１０を参照し縫製装置１の電気的構成を説明する。縫製装置１の制御部１０はＣＰＵ４１、ＲＯＭ４２、ＲＡＭ４３、記憶装置４５、Ｉ／Ｏインターフェース（以下Ｉ／Ｏと呼ぶ）４６、駆動回路５１～５６等を備える。ＣＰＵ４１は縫製装置１の動作を制御する。ＣＰＵ４１はＲＯＭ４２、ＲＡＭ４３、記憶装置４５、Ｉ／Ｏ４６と接続する。ＲＯＭ４２は後述の主処理（図１１参照）等、各種処理を実行する為のプログラム等を記憶する。ＲＡＭ４３は各種情報を一時的に記憶する。記憶装置４５は不揮発性であり、縫製情報等を記憶する。縫製情報とは、針落ち点を含む情報である。

【0041】

Ｉ／Ｏ４６は駆動回路５１～５６、入力部１６、検出部８９、９９に接続する。駆動回路５１は主モータ１７に接続する。駆動回路５２はＸモータ２１に接続する。駆動回路５３はＹモータ２５に接続する。駆動回路５６はモータ５９に接続する。Ｘモータ２１、Ｙモータ２５、モータ５９はパルスモータである。駆動回路５４は一対のエアシリンダ３５と接続する。駆動回路５５は表示部１３に接続する。ＣＰＵ４１は駆動回路５１～５４を制御することで主モータ１７、Ｘモータ２１、Ｙモータ２５、一対のエアシリンダ３５を駆動制御する。ＣＰＵ４１は駆動回路５５を制御することで表示部１３を制御する。ＣＰＵ４１は駆動回路５６を制御することでモータ５９を制御する。入力部１６は作業者が入力した情報を検出し、検出結果をＩ／Ｏ４６を介してＣＰＵ４１に出力する。検出部８９は、付勢部材６５の変位に応じた物理量をＩ／Ｏ４６を介してＣＰＵ４１に出力する。検出部９９は、第二保持部材８１の変位に応じた物理量をＩ／Ｏ４６を介してＣＰＵ４１に出力する。

【0042】

エンコーダ９１～９３は夫々、主モータ１７、Ｘモータ２１、Ｙモータ２５と接続する。エンコーダ９１は主モータ１７の出力軸の回転位置を検出する。エンコーダ９２はＸモータ２１の出力軸の回転位置を検出する。エンコーダ９３はＹモータ２５の出力軸の回転位置を検出する。エンコーダ９１～９３は検出結果をＩ／Ｏ４６を介してＣＰＵ４１に出力する。

【0043】

図１１～図１５を参照して、縫製装置１で実行される主処理を説明する。主処理では、縫製パターンに従って縫製物１９に縫目を形成する処理が実行される。縫製装置１の電源がＯＮになった場合、ＣＰＵ４１は主処理を起動する。ＣＰＵ４１は縫製装置１の電源がＯＮになると、ＲＯＭ４２のプログラム記憶エリアに記憶された主処理を実行する為のプログラムを、ＲＡＭ４３に読み出す。ＣＰＵ４１は、ＲＡＭ４３に読み出したプログラムに含まれる指示に従って、以下のステップを実行する。以下ではステップをＳと略記する。主処理を実行するのに必要な各種パラメータは、記憶装置４５に記憶されている。主処理の過程で得られた各種データは、適宜ＲＡＭ４３に記憶される。

【0044】

図１１の如く、ＣＰＵ４１は原点検出指示を検出したかを判断する（Ｓ１）。作業者は、入力部１６を操作して原点検出指示を入力する。原点検出指示を未検出時（Ｓ１：ＮＯ）、ＣＰＵ４１は処理をＳ１に戻す。原点検出指示を検出時（Ｓ１：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は原点検出を実行し（Ｓ２）、押え足９を上昇する（Ｓ３）。

【0045】

作業者は縫製する縫製物１９を布保持体２２の間に設置し、入力部１６を操作して、押え足９の下降指示を入力する。ＣＰＵ４１は押え足９の下降指示を検出したかを判断する（Ｓ４）。下降指示を未検出時（Ｓ４：ＮＯ）、ＣＰＵ４１は処理をＳ４に戻す。下降指示を検出時（Ｓ４：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は押え足９を下降する（Ｓ５）。図１５（Ａ）の如く、切断機構６０の可動刃６２は刃待機位置Ｐ１に位置し、上糸保持機構８０の第一保持部材８６は待機位置Ｑ１に位置する。つまり、第一保持部材８６が待機位置Ｑ１に在る時、可動刃６２は刃待機位置Ｐ１に在る。底面視において、第二保持部材８１と、第一保持部材８６とは一部が上下方向に重なる。底面視において、針穴１２は、第二保持部材８１と、第一保持部材８６とによって囲まれる。可動刃６２の刃部６２２は、案内部６５４と押圧部６５３との境界付近に位置する。図８（Ａ）の如く、上糸保持機構８０の第一保持部材８６は上糸端部Ｕから離隔する。第二保持部材８１と第一保持部材８６とで、針穴１２の下方に位置する上糸端部Ｕは囲まれている。図９（Ａ）の如く、切断機構６０の可動刃６２の糸挟持部６６は、付勢部材６５と共に下糸端部Ｄを上下方向に挟持して、保持する。下糸端部Ｄは、付勢部材６５の第一面６３と接する。付勢部材６５の押圧部６５３の上端部は、可動刃６２の糸挟持部６６と当接する。

【0046】

ＣＰＵ４１は下糸処理を実行する（Ｓ６）。ＣＰＵ４１は、下糸処理では、切断機構６０の可動刃６２と付勢部材６５との間に下糸が保持されているかを判断する。図１２の如く、ＣＰＵ４１は、検出部８９の検出結果を取得する（Ｓ２１）。ＣＰＵ４１は、Ｓ２１で取得された検出結果に基づき、切断機構６０の可動刃６２と付勢部材６５との間に下糸が保持されているかを判断する（Ｓ２２）。Ｓ２１で取得された検出結果に基づき、可動刃６２と付勢部材６５との間の距離が閾値以上であると判断される場合（Ｓ２２：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は、下糸保持可否に、下糸が保持されていると判断されたことを示す「可」を設定する（Ｓ２３）。閾値は、下糸の太さを考慮して予め設定された値であってもよいし、作業者により設定された値でもよい。ＣＰＵ４１は、図１４の如く、下糸保持可否の設定を縫製物１９のＩＤと対応付けて、記憶装置４５のテーブルＲに記憶する。

【0047】

ＣＰＵ４１は、Ｓ２１で取得された検出結果に基づき、可動刃６２と付勢部材６５との間に保持された下糸の太さを取得し、図１４の如く、下糸の太さを縫製物１９のＩＤと対応付けて、記憶装置４５のテーブルＲに記憶する（Ｓ２４）。Ｓ２１で取得された検出結果に基づき、下糸の太さを設定する方法は適宜設定されればよく、本実施形態では、記憶装置４５は、検出結果と下糸の太さとの対応を記憶し、ＣＰＵ４１は、２１で取得された検出結果と、記憶装置４５に記憶された検出結果と下糸の太さとの対応とに基づいて、下糸の太さを取得する。

【0048】

ＣＰＵ４１は、Ｓ２４で取得された下糸の太さに応じて縫製条件を設定する（Ｓ２５）。縫製条件は、例えば、縫目の長さ、縫製速度、及び糸調子等から選択された一以上の条件である。Ｓ２４で取得された下糸の太さに基づき、縫製条件を設定する方法は適宜設定されればよく、本実施形態では、記憶装置４５は、下糸の太さと縫製条件との対応を記憶装置４５に記憶しており、ＣＰＵ４１は、記憶装置４５に記憶された対応を参照して、Ｓ２４で取得された下糸の太さに応じて縫製条件を設定する。下糸の太さと縫製条件との対応は、作業者により設定され、記憶装置４５に記憶されてもよいし、予め設定されてもよい。

【0049】

Ｓ２１で取得された検出結果に基づき、可動刃６２と付勢部材６５との間の距離が閾値より小さいと判断される場合（Ｓ２２：ＮＯ）、ＣＰＵ４１は、下糸保持可否に、下糸が保持されていないと判断されたことを示す「否」を設定し、下糸保持可否の設定を縫製物１９のＩＤと対応付けて、記憶装置４５に記憶する（Ｓ２６）。ＣＰＵ４１は、Ｓ２２の判断結果を表示部１３に表示して報知する（Ｓ２７）。具体的には、ＣＰＵ４１は、「下糸保持不良のため縫製不良発生の虞あり」と表示部１３に表示する。作業者は、報知結果を参照し、必要に応じて縫製装置１の保守を行う。Ｓ２５又はＳ２７の次に、ＣＰＵ４１は以上で下糸処理を終了し、処理を主処理に戻す。

【0050】

Ｓ６の次にＣＰＵ４１は縫製指示を検出したかを判断する（Ｓ７）。作業者は入力部１６を操作して縫製指示を入力する。縫製指示を未検出時（Ｓ７：ＮＯ）、ＣＰＵ４１は処理をＳ７に戻す。縫製指示を検出時（Ｓ７：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は、主モータ１７を駆動して、Ｓ２５で設定された縫製条件に従って、縫製パターンの縫製を開始する（Ｓ８）。Ｓ２５が実行されていない場合、ＣＰＵ４１は、予め設定された縫製条件に従って、縫製パターンの縫製を行ってもよい。ＣＰＵ４１は、エンコーダ９１の検出結果に基づき、上糸保持時機かを判断する（Ｓ９）。本実施形態の縫製装置１の上糸保持時機は、一針目を縫製後、且つ、二針目を縫製前に設定される。上糸保持時機ではない時（Ｓ９：ＮＯ）、ＣＰＵ４１は処理をＳ９に戻す。上糸保持時機である時（Ｓ９：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は、針板下上糸処理を実行する（Ｓ１０）。ＣＰＵ４１は、針板下上糸処理では、上糸保持機構８０を駆動して、第一保持部材８６と第二保持部材８１との間に上糸を保持した後、第一保持部材８６と第二保持部材８１との間に上糸が保持されているかを判断する。

【0051】

図１３の如く、ＣＰＵ４１は、第一保持部材８６を待機位置Ｑ１から保持位置Ｑ２に移動する（Ｓ３１）。具体的には、ＣＰＵ４１は、モータ５９を駆動させ、モータ５９の出力軸９８を底面視時計回りに回転させる。コロ部材７７は、溝カム７１の左端部から相対的に底面視反時計回りに回転した位置に移動する。リンク７３は、支軸７３５を中心に底面視反時計回りに回転し、リンク７４～７６を移動させる。図１５（Ｂ）の如く、切断機構６０の可動刃６２は刃待機位置Ｐ１の後方に移動し、上糸保持機構８０の第一保持部材８６は待機位置Ｑ１から保持位置Ｑ２に移動する。水平方向において第一保持部材８６が針穴１２から離隔し、且つ、第一保持部材８６が第二保持部材８１と上下方向に重なる。図８（Ｂ）の如く、上糸保持機構８０は上糸端部Ｕを第二保持部材８１と第一保持部材８６との間で屈曲させた状態で保持する。図９（Ｂ）の如く、切断機構６０の可動刃６２の糸挟持部６６は、付勢部材６５と共に下糸端部Ｄを上下方向に挟持した状態を維持する。

【0052】

ＣＰＵ４１は、検出部９９の検出結果を取得する（Ｓ３２）。Ｓ２２と同様に、ＣＰＵ４１は、Ｓ３２で取得された検出結果に基づき、第一保持部材８６と第二保持部材８１との間に上糸が保持されているかを判断する（Ｓ３３）。上糸が保持されていると判断される場合（Ｓ３３：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は、上糸保持可否に、上糸が保持されていると判断されたことを示す「可」を設定し、図１４の如く、上糸保持可否の設定を縫製物１９のＩＤと対応付けて、記憶装置４５のテーブルＲに記憶する（Ｓ３４）。ＣＰＵ４１は、Ｓ３２で取得された検出結果に基づき、第一保持部材８６と第二保持部材８１との間に保持された上糸の太さを取得し、上糸の太さを縫製物１９のＩＤと対応付けて、記憶装置４５のテーブルＲに記憶する（Ｓ３５）。

【0053】

ＣＰＵ４１は、Ｓ３５で取得された上糸の太さに応じて縫製条件を設定する（Ｓ３６）。縫製条件は、例えば、送り量、縫製速度、及び糸調子等から選択された一以上の条件である。Ｓ３６で設定される縫製条件は、Ｓ２５で設定される縫製条件と互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。Ｓ３５で取得された上糸の太さに基づき、縫製条件を設定する方法は適宜設定されればよく、本実施形態では、記憶装置４５は、上糸の太さと縫製条件との対応を記憶装置４５に記憶しており、ＣＰＵ４１は、記憶装置４５に記憶された対応を参照して、Ｓ３５で取得された上糸の太さに応じて縫製条件を設定する。上糸の太さと縫製条件との対応は、作業者により設定され、記憶装置４５に記憶されてもよい。上糸の太さと縫製条件との対応は、Ｓ２４で取得された下糸の太さ毎に設定されてもよい。ＣＰＵ４１は、Ｓ３６で設定された縫製条件で縫製制御を行う。

【0054】

上糸が保持されていないと判断される場合（Ｓ３３：ＮＯ）、ＣＰＵ４１は、上糸保持可否に、上糸が保持されていないと判断されたことを示す「否」を設定し、上糸保持可否の設定を縫製物１９のＩＤと対応付けて、記憶装置４５に記憶する（Ｓ３７）。ＣＰＵ４１は、Ｓ３３の判断結果を表示部１３に表示して報知する（Ｓ３８）。Ｓ３８の処理で、表示部１３は、縫製開始後の所定の時期に検出部９９によって検出された検出結果に基づき、縫製不良として、糸絡み不良の発生が予測されたことを報知する。具体的には、ＣＰＵ４１は、「上糸保持不良のため糸絡み不良発生の虞あり」と表示部１３に表示する。縫製開始後の所定の時期は、上糸保持時機と、上糸切断時機との間である。Ｓ３６又はＳ３８の次に、ＣＰＵ４１は以上で針下上糸処理を終了し、処理を主処理に戻す。

【0055】

Ｓ１０の次に、ＣＰＵ４１は、エンコーダ９１の検出結果に基づき、上糸切断時機かを判断する（Ｓ１１）。本実施形態の縫製装置１の上糸切断時機は、Ｓ９後となる時機に設定されればよい。上糸切断時機はＳ３１の処理後、且つ、二針目の針落ち前であってもよいし、Ｓ３１の後、且つ、二針目の針落ち後の所定時機でもよい。上糸切断時機ではない時（Ｓ１１：ＮＯ）、ＣＰＵ４１は処理をＳ１１に戻す。

【0056】

上糸切断時機である時（Ｓ１１：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は、モータ５９を制御して、Ｓ９後に第一保持部材８６を保持位置Ｑ２から上糸切断位置Ｑ３に移動する（Ｓ１２）。ＣＰＵ４１は、モータ５９を制御して、可動刃６２を図１５（Ｂ）の位置から解放位置Ｐ２に移動させて、前回の主処理のＳ１７の処理で挟持した下糸端部Ｄを解放する（Ｓ１２）。具体的には、ＣＰＵ４１は、モータ５９を駆動させ、モータ５９の出力軸９８を、底面視時計回りに回転させる。リンク７３は、支軸７３５を中心に底面視反時計回りに回転し、リンク７４～７６を移動させる。図１５（Ｃ）の如く、切断機構６０の可動刃６２は解放位置Ｐ２に移動し、上糸保持機構８０の第一保持部材８６は保持位置Ｑ２から上糸切断位置Ｑ３に移動する。水平方向において第一保持部材８６が針穴１２から離隔し、且つ、第一保持部材８６が第二保持部材８１と上下方向に重なった状態が維持される。第一保持部材８６が固定メス９７の刃部９６と上下に重なる。切断機構６０の可動刃６２が刃待機位置Ｐ１から解放位置Ｐ２迄の範囲の位置に在る時、可動刃６２の糸捌き部６２１は針穴１２よりも前方に位置する。

【0057】

図８（Ｃ）の如く、上糸保持機構８０は上糸端部Ｕを第二保持部材８１と第一保持部材８６との間で屈曲させた状態を維持しつつ、第一保持部材８６が固定メス９７と上下方向に重なる。これにより、上糸端部Ｕは、固定メス９７により切断される。第一保持部材８６が保持位置Ｑ２から上糸切断位置Ｑ３に移動した時、第二保持部材８１と第一保持部材８６とは上糸端部Ｕの保持を継続している。故に、上糸端部Ｕは、第二保持部材８１と第一保持部材８６とにより保持された状態で固定メス９７により切断される。固定メス９７により切断される上糸を切断する位置は、第二保持部材８１と第一保持部材８６とが上糸を保持する位置より上糸の上流側、つまり上方の部分である。固定メス９７により切断されることにより、第二保持部材８１と第一保持部材８６とにより保持されていた上糸端部Ｕが解放される。図９（Ｃ）の如く、切断機構６０の可動刃６２の糸解放部６８が付勢部材６５の押圧部６５３と上下方向に離隔して対向する。糸挟持部６６は、付勢部材６５の押圧部６５３から退避した状態に移動され、付勢部材６５と共に下糸端部Ｄを上下方向に挟持した状態が解除される。これにより、縫製開始時に上糸保持機構８０により保持されていた上糸端部Ｕが針穴１２付近で切断後に解放され、切断機構６０により挟持されていた下糸端部Ｄが解放される。

【0058】

ＣＰＵ４１は、モータ５９を駆動させ、切断機構６０の可動刃６２を刃待機位置Ｐ１に移動させ、上糸保持機構８０の第一保持部材８６を待機位置Ｑ１に移動させる（Ｓ１３）。ＣＰＵ４１は縫針１５の次の針落ち動作が縫製動作の最終針か否かを判断する（Ｓ１４）。ＣＰＵ４１は現在縫製中の縫製パターンの針落ち数を計数してＲＡＭ４３に記憶する。故にＣＰＵ４１はＲＯＭ４２に記憶する縫製パターンの縫製情報を参照することで、次の針落ち動作が最終針か否かを判断できる。最終針でない時（Ｓ１４：ＮＯ）、ＣＰＵ４１はＳ１４に戻り、縫製動作を継続する。最終針の時（Ｓ１４：ＹＥＳ）、ＣＰＵ４１は、主モータ１７を停止する（Ｓ１５）。

【0059】

ＣＰＵ４１は、モータ５９を駆動して、可動刃６２を可動位置Ｐ５に移動後、切断位置Ｐ４に移動し、上糸と下糸とを切断する（Ｓ１６）。ＣＰＵ４１は、モータ５９を制御して、可動刃６２を切断位置Ｐ４から図１５（Ａ）の刃待機位置Ｐ１に移動させて、Ｓ１６の処理で切断した下糸端部Ｄを付勢部材６５と糸挟持部６６とで挟持する（Ｓ１７）。ＣＰＵ４１は、モータ５９を駆動させ、モータ５９の出力軸９８を底面視反時計回りに回転させ、可動刃６２を切断位置Ｐ４から刃待機位置Ｐ１に移動させる。リンク７３は、支軸７３５を中心に底面視時計回りに回転し、リンク７４～７６を移動させる。可動刃６２は、切断位置Ｐ４から刃待機位置Ｐ１に移動する過程で、Ｓ１６で切断された下糸端部Ｄを糸挟持部６６上に配置しながら、付勢部材６５の案内部６５４、６５５に案内されて、糸挟持部６６が付勢部材６５と針板１１との間に配置される。これにより図９（Ａ）の如く、可動刃６２が切断位置Ｐ４から刃待機位置Ｐ１に移動された時、下糸端部Ｄは、可動刃６２の糸挟持部６６と、付勢部材６５の押圧部６５３とにより挟持される。下糸端部Ｄは、次回の主処理のＳ１２が実行される迄、可動刃６２の糸挟持部６６と、付勢部材６５の押圧部６５３とにより挟持される。本実施形態では、Ｓ１６、Ｓ１７において可動刃６２の刃待機位置Ｐ１への移動は連続して行われ、上糸と下糸の切断と、下糸端部Ｄの挟持は一連の動きの中で実行される。ＣＰＵ４１は以上で主処理を終了する。

【0060】

上記実施形態において、縫製装置１、針板１１、針穴１２、表示部１３、針棒１４、縫針１５、釜４７、モータ５９、糸挟持部６６、移動部６７、及び糸解放部６８は各々、本発明の縫製装置、針板、針穴、表示部、針棒、縫針、釜、モータ、糸挟持部、移動部、及び糸解放部の一例である。切断機構６０、及び上糸保持機構８０は各々、本発明の糸保持機構の一例である。可動刃６２、及び第一保持部材８６は各々、本発明の第一保持部の一例である。付勢部材６５、及び第二保持部材８１は各々、本発明の第二保持部の一例である。第一面６３、８２は各々、本発明の第一面の一例である。第二面６４、８３は各々、本発明の第二面の一例である。検出部８９、９９は各々、本発明の検出部の一例である。磁石１０１、２０２は各々、本発明の磁石の一例である。ホール素子１０２、２０１は各々、本発明のホール素子の一例である。Ｓ２２、Ｓ３３の処理を実行するＣＰＵ４１は、本発明の判断部の一例である。Ｓ２７、Ｓ３８の処理を実行するＣＰＵ４１は、本発明の報知部の一例である。Ｓ２４、Ｓ３５の処理を実行するＣＰＵ４１は、本発明の太さ取得部の一例である。Ｓ２５、Ｓ８、Ｓ３６の処理を実行するＣＰＵ４１は、本発明の縫製制御部の一例である。刃待機位置Ｐ１、保持位置Ｑ２は各々、本発明の保持位置の一例である。解放位置Ｐ２、上糸切断位置Ｑ３は各々、本発明の解放位置の一例である。

【0061】

上記実施形態の縫製装置１は、上糸を掴んで保持する上糸保持機構８０及び検出部９９を備える。上糸保持機構８０は、第一保持部材８６、第二保持部材８１、及び移動部６７を有する。第一保持部材８６は、上糸を保持する保持位置Ｑ２と、上糸を解放する上糸切断位置Ｑ３とに変位可能である。第二保持部材８１は、保持位置Ｑ２にある第一保持部材８６と共に、上糸を挟んで保持する。移動部６７は、第一保持部材８６を保持位置Ｑ２と、上糸切断位置Ｑ３とに移動する。検出部９９は、第二保持部材８１の変位に応じた物理量を検出する。ＣＰＵ４１は、検出部９９の検出結果に基づき、第一保持部材８６と、第二保持部材８１との間に上糸が保持されているかを判断する。縫製装置１は、作業者の手間を増やすことなく、検出部９９の検出結果に基づき、上糸保持機構８０の第一保持部材８６と第二保持部材８１との間に上糸が保持されているかを判断することに貢献する。

【0062】

上記実施形態の縫製装置１は、下糸を掴んで保持する切断機構６０及び検出部８９を備える。切断機構６０は、可動刃６２、付勢部材６５、及び移動部６７を有する。可動刃６２は、下糸を保持する刃待機位置Ｐ１と、下糸を解放する解放位置Ｐ２とに変位可能である。付勢部材６５は、刃待機位置Ｐ１にある可動刃６２と共に、下糸を挟んで保持する。移動部６７は、可動刃６２を刃待機位置Ｐ１と解放位置Ｐ２とに移動する。検出部８９は、付勢部材６５の変位に応じた物理量を検出する。ＣＰＵ４１は、検出部８９の検出結果に基づき、可動刃６２と、付勢部材６５との間に下糸が保持されているかを判断する。縫製装置１は、作業者の手間を増やすことなく、検出部８９の検出結果に基づき、切断機構６０の可動刃６２と、付勢部材６５との間に下糸が保持されているかを判断することに貢献する。

【0063】

ＣＰＵ４１は、Ｓ２２、Ｓ３３の判断結果に基づき、縫製時における縫製不良の発生が予測される場合、縫製不良の発生が予測されたことを報知する（Ｓ２７、Ｓ３８）。縫製装置１のＣＰＵ４１は、Ｓ２２、Ｓ３３の判断結果に基づき、縫製時における縫製不良の発生を報知することに貢献する。縫製装置１の作業者は、表示部１３が報知した情報に基づき、縫製時に縫製不良が発生する可能性を把握でき、必要な対応をとることができる。

【0064】

ＣＰＵ４１は、縫製開始後の所定の時期に検出部９９によって検出された検出結果に基づき、縫製不良として、糸絡み不良の発生が予測されたことを報知する（Ｓ３８）。縫製装置１のＣＰＵ４１は、Ｓ３３の判断結果に基づき、縫製時における縫製不良として、糸絡み不良の発生が予測されたことを報知することに貢献する。縫製装置１の作業者は、表示部１３で報知した情報に基づき、縫製時に糸絡み不良が発生する可能性を把握でき、必要な対応をとることができる。

【0065】

縫製装置１は、縫針１５を挿通する針穴１２が形成された針板１１と、針板１１の下側に固定される固定刃６１とを備える。可動刃６２は、針板１１の下方において固定刃６１に対して水平方向に回動可能に設けられ、切断後の下糸の下糸端部Ｄを第二保持部材８１との間で挟持可能である糸挟持部６６と、下糸端部Ｄを第二保持部材８１との間で挟持不能な糸解放部６８とを有する。移動部６７は、モータ５９を有し、モータ５９の動力で可動刃６２を水平方向に回動する。針板１１の下方に設けられ、下糸を保持する切断機構６０では、下糸が第一保持部材８６と第二保持部材８１とにより保持されているかを確認し難いが、縫製装置１のＳ２２の処理は、検出部９９の検出結果に基づき、切断機構６０の可動刃６２と付勢部材６５とで下糸を保持しているかを自動で判断することに貢献する。

【0066】

縫製装置１は、縫針１５を挿通する針穴１２が形成された針板１１を備える。第二保持部材８１は、針板１１の下方に設けられる。第一保持部材８６は、針板１１の下方において第二保持部材８１に対して移動可能に設けられる。上糸保持機構８０は、縫製開始時の数針分の縫目形成に際して、移動部６７の駆動により、上糸の上糸端部Ｕを針板１１の下側で保持する。針板１１の下に設けられ、上糸を保持する上糸保持機構８０では、上糸が第一保持部材８６と第二保持部材８１とにより保持されているかを確認し難いが、縫製装置１のＳ３３の処理は、検出部９９の検出結果に基づき、上糸保持機構８０の第一保持部材８６と第二保持部材８１とで上糸を保持しているかを自動で判断することに貢献する。

【0067】

第二保持部材８１は、上糸と接触する第一面８２と、第一面８２とは反対側の第二面８３を有する。検出部９９は、第二保持部材８１の第二面８３に配置された磁石２０２と、磁石２０２の磁束密度の変化を検出する磁気センサであるホール素子２０１とを有する。縫製装置１の検出部９９は、比較的簡単な構成で第二保持部材８１の変位に応じた物理量を検出することに貢献する。付勢部材６５は、下糸と接触する第一面６３と、第一面６３とは反対側の第二面６４を有する。検出部８９は、付勢部材６５の第二面６４に配置された磁石１０１と、磁石１０１の磁束密度の変化を検出する磁気センサであるホール素子１０２とを有する。縫製装置１の検出部８９は、比較的簡単な構成で付勢部材６５の変位に応じた物理量を検出することに貢献する。

【0068】

縫製装置１は、縫針１５を装着する上下動可能な針棒１４と、縫針１５に挿通する上糸を捕捉して下糸と絡める釜４７とを備える。ＣＰＵ４１は、検出部８９の検出結果に基づき、下糸の太さを取得する（Ｓ２４）。ＣＰＵ４１は、下糸の太さに基づき縫製条件を設定し（Ｓ２５）、針棒１４と釜４７とによる縫製動作を制御する（Ｓ８）。ＣＰＵ４１は、検出部９９の検出結果に基づき、上糸の太さを取得する（Ｓ３５）。ＣＰＵ４１は、上糸の太さに基づき、針棒１４と釜４７とによる縫製動作を制御する（Ｓ３６）。縫製装置１は、第一保持部材８６と第二保持部材８１とが保持する上糸の太さに応じて縫製動作を制御することに貢献する。縫製装置１は、可動刃６２と付勢部材６５とが保持する下糸の太さに応じて縫製動作を制御することに貢献する。縫製装置１はＳ２５、Ｓ３６、Ｓ８を実行しない場合に比べ、上糸及び下糸の太さに合わせた適切な条件で、縫製を行うことに貢献する。

【0069】

本発明の縫製装置は上記実施形態の他に種々変更できる。縫製装置１の構成は適宜変更されてよく、例えば、縫製装置１は上糸保持機構８０、固定メス９７、入力部１６、表示部１３の少なくとも何れかを備えなくてもよい。上糸保持機構８０の構成は適宜変更されてよい。第二保持部材８１、第一保持部材８６の構成、形状、大きさ、配置等は適宜変更されてよい。挿通部８８は省略されてもよいし、挿通部８８の平面形状は、例えば、上下方向に貫通する任意の形状の孔であってもよい。第二保持部材８１は、縫針１５の通過を許容する、切欠き及び貫通孔等の挿通部が形成されてもよい。第一保持部材８６は、可動刃６２と同一水平面上に設けられなくてもよい。第一保持部材８６の位置は、待機位置Ｑ１、保持位置Ｑ２は適宜変更されてよい。第一保持部材８６が待機位置Ｑ１にある時、水平方向において、第一保持部材８６は針穴１２及び第二保持部材８１と離隔してもよい。縫製装置１は、上糸保持機構８０に替えて、針板１１の上方に設けられた上糸保持機構を備えてもよい。この場合、上糸保持機構は、縫製開始後、２、３針上糸を保持しておくことで、適切な上糸の長さを確保し、縫製物１９の縫い始めに、上糸端部Ｕを縫製物１９の上方に出すことができる。この場合は、針板下上糸処理と同様な針板上上糸処理を、Ｓ５とＳ７との間に実行してもよい。

【0070】

切断機構６０の構成は適宜変更されてよい。切断機構６０は、付勢部材６５、糸挟持部６６、糸解放部６８の少なくとも何れかを備えなくてもよく、Ｓ１６で上糸と下糸とを切断後に下糸端部Ｄを付勢部材６５との間で保持できなくてもよい。切断機構６０は、上糸保持機構８０のモータ５９とは別のモータの動力で動作してもよいし、モータ５９の動力により、リンク機構７２とは別の動力伝達部材を介して可動刃６２を動かしてもよい。切断機構６０の可動刃６２の位置と、上糸保持機構８０の第一保持部材８６の位置との対応関係は、適宜変更されてよい。付勢部材６５は、コイルバネ等の板バネ以外の構成でもよい。支軸６９は、針穴１２に対しモータ５９側、即ち後方に固定されてもよい。

【0071】

検出部８９、９９の取り付け位置及び構成は適宜変更されてよい。図１６の如く、縫製装置１は、検出部８９に替えて、検出部１１０を備えてもよいし、検出部９９に替えて、検出部２１０を備えてもよい。具体的には、第二保持部材８１は、上糸と接触する第一面８２と、第一面８２とは反対側の第二面８３を有し、検出部２１０は、第二保持部材８１の第二面８３に配置されたひずみゲージ２１１を有し、第二保持部材８１の変位に応じたひずみ量を電圧として検出してもよい。縫製装置１の検出部２１０は、ひずみゲージ２１１を利用して第二保持部材８１の変位に応じた物理量を検出する為、第二保持部材８１、第一保持部材８６間の取付精度によらず、第二保持部材８１の変位に応じた物理量を検出することに貢献する。同様に、付勢部材６５は、下糸と接触する第一面６３と、第一面６３とは反対側の第二面６４を有し、検出部１１０は、付勢部材６５の第二面６４に配置されたひずみゲージ１１１、１１２を有し、付勢部材６５の変位に応じたひずみ量を電圧として検出してもよい。縫製装置１の検出部１１０は、ひずみゲージ１１１、１１２を利用して付勢部材６５の変位に応じた物理量を検出する為、付勢部材６５、可動刃６２間の取付精度によらず、付勢部材６５の変位に応じた物理量を検出することに貢献する。

【0072】

縫製装置１が主処理を行う為の指令を含むプログラムはＣＰＵ４１がプログラムを行う迄に、記憶装置４５に記憶されればよい。従って、プログラムの取得方法、取得経路、プログラムを記憶する機器の夫々は適宜変更してもよい。ＣＰＵ４１が行うプログラムはケーブル又は無線通信を介して、他の装置から受信し、不揮発性の記憶装置に記憶してもよい。他の装置は例えば、ＰＣ、ネットワーク網を介して接続されるサーバを含む。

【0073】

縫製装置１が行う処理の一部又は全部はＣＰＵ４１とは別の電子機器（例えば、ＡＳＩＣ）が行ってもよい。縫製装置１が行う処理は複数の電子機器（例えば、複数のＣＰＵ）が分散処理してもよい。縫製装置１が行う処理の各ステップは必要に応じて順序の変更、ステップの省略、追加ができる。本発明の範囲は縫製装置１上で稼動しているオペレーティングシステム（ＯＳ）等が、ＣＰＵ４１の指令で各処理の一部又は全部を行う態様も含む。

【0074】

ＣＰＵ４１は、Ｓ２７、Ｓ３８の少なくとも何れかを省略してもよいし、縫製装置１が有する報知部の構成に応じて、音声で報知する、ＬＥＤの点灯状態で報知する等、表示部１３に表示する以外の態様で、縫製不良の発生が予測されたことを報知してもよい。ＣＰＵ４１は、Ｓ２４、Ｓ２５、Ｓ３５、Ｓ３６の少なくとも何れかの処理を省略してもよい。ＣＰＵ４１は、Ｓ２４を実行する場合、Ｓ２４で取得された下糸太さと、縫製装置１に登録された使用予定の下糸の太さとを比較し、Ｓ２４で取得された下糸太さと、使用予定の下糸の太さとが所定値以上異なる場合に、アラートを報知してもよいし、縫製を停止してもよい。同様にＣＰＵ４１は、Ｓ３５を実行する場合、Ｓ３５で取得された上糸太さと、縫製装置１に登録された使用予定の上糸の太さとを比較し、Ｓ３５で取得された上糸太さと、使用予定の上糸の太さとが所定値以上異なる場合に、アラートを報知してもよいし、縫製を停止してもよい。ＣＰＵ４１は、下糸処理、針下上糸処理、及び上述の針上上上糸処理の何れかのみを実行してもよい。また、ＣＰＵ４１は、Ｓ６の下糸処理及びＳ１０の針板下上板処理において、それぞれ下糸の保持及び上糸の保持を確認しているが、これに加えて、Ｓ１３の動作後で最終針の縫製動作前のタイミング、例えば、四針目の針落ち後の時期に、検出部８９の検出結果及び検出部９９の検出結果を取得して下糸及び上糸の有無を確認するものであっても良い。これは、下糸及び上糸の解放が適切に行われていれば、四針目の針落ち以降ではそれぞれ下糸無し、上糸無しの判断となる。逆に、このタイミングで下糸若しくは上糸の何れかが有るとの判断結果が出る場合、下糸及び上糸の解放が適切に行われていないことを意味し、縫製不良の発生が予測若しくは縫製装置１の故障が検出される。この場合、ＣＰＵ４１は、Ｓ２７やＳ３８と同様に、判断結果を表示部１３に表示して報知するものであってよい。

【0075】

可動刃６２の刃待機位置Ｐ１、解放位置Ｐ２、糸捕捉位置Ｐ３、切断位置Ｐ４、及び可動位置Ｐ５は適宜変更されてよい。切断位置Ｐ４は、可動位置Ｐ５と、刃待機位置Ｐ１との間になくてもよく、切断位置Ｐ４に対して、刃待機位置Ｐ１から切断位置Ｐ４に向かう方向に可動位置Ｐ５が位置してもよい。固定刃６１、可動刃６２の形状及び可動刃６２を移動させる構成は、可動位置Ｐ５と切断位置Ｐ４との位置関係を考慮して適宜変更されてよい。同様に、待機位置Ｑ１、保持位置Ｑ２、上糸切断位置Ｑ３、切断時位置Ｑ４、及び可動端時位置Ｑ５は、適宜変更されてよい。

【0076】

縫製装置１が固定メス９７を備えない場合、Ｓ１１では、ＣＰＵ４１は上糸端部Ｕを解放する解放時機かを判断し、解放時機である場合に、上糸保持機構８０による上糸端部Ｕの保持を解放してもよい。この場合ＣＰＵ４１は、上糸端部Ｕの保持を解放する処理として、第一保持部材８６を待機位置Ｑ１に移動させてもよい。切断機構６０が下糸端部Ｄを解放する時機と、上糸端部Ｕを解放又は切断する時機とは互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。

【0077】

縫製装置１は、布送り装置５の代わりに、若しくは追加で、針棒機構３０及び釜４７が前後左右に移動する構成を搬送機構として有し、搬送機構が縫製物１９に対して相対的に移動して縫製しても良い。

【0078】

上記の変形例は矛盾がない範囲で適宜組み合わされてもよい。本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、縫製装置の制御方法、上記方法を実現する為のコンピュータプログラム、及びそのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。

【符号の説明】

【0079】

１ ：縫製装置
１１ ：針板
１２ ：針穴
１３ ：表示部
１４ ：針板
１５ ：縫針
４１ ：ＣＰＵ
４７ ：釜
５９ ：モータ
６０ ：切断機構
６１ ：固定刃
６２ ：可動刃
６３、８２ ：第一面
６４、８３ ：第二面
６５ ：付勢部材
６６ ：糸挟持部
６７ ：移動部
６８ ：糸解放部
８０ ：上糸保持機構
８１ ：第二保持部材
８６ ：第一保持部材
８９、９９ ：検出部
１０１、２０２ ：磁石
１０２、２０１ ：ホール素子

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】