(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145812
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 47/06 20060101AFI20241004BHJP
D05B 47/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
D05B47/06
D05B47/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058325
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100143960
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 早百合
(72)【発明者】
【氏名】岳 斉也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅史
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA01
3B150CB03
3B150CB27
3B150CD01
3B150CE09
3B150CE27
3B150LA51
3B150LB01
3B150NA47
3B150QA06
3B150QA07
(57)【要約】
【課題】縫製開始直後に動作する上糸保持機構を備えるミシンにおいて、上糸保持機構が上糸を保持できたかを判断できるミシンを提供すること。
【解決手段】ミシンは、針棒、針板、釜、天秤、上糸保持機構、張力検出機構を備える。上糸保持機構は、縫製開始時に上糸の上糸端部を針板の下方で保持できる。張力検出器は、上糸の張力である上糸張力を検出する。ミシンは、針棒、釜、及び天秤を駆動して、布に縫目を形成する。ミシンは、針棒、釜、及び天秤の駆動に伴い、針棒が一往復する一周期毎に変動する、張力検出機構の検出結果に基づき、縫製開始後二針目の縫製において変動する変動上糸張力と、一周期毎に変動する基準となる上糸張力である基準張力とを比較することで、上糸保持機構が上糸端部を保持できなかった上糸保持不良が発生したかを判断する(S35、S41、S46)。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫針を装着する上下動可能な針棒と、
前記縫針を挿通可能な針穴が形成された針板と、
前記針板の下方に設けられ、前記縫針に挿通する上糸を捕捉して下糸と絡める釜と、
前記釜が前記下糸と絡めた前記上糸を引き上げる天秤と、
縫製開始時に前記上糸の上糸端部を前記針板の下方で保持可能な上糸保持機構と、
前記上糸の張力である上糸張力を検出する張力検出機構と、
前記針棒、前記釜、及び前記天秤を駆動して、布に縫目を形成する縫製制御部と、
前記張力検出機構の検出結果に基づき、前記縫製制御部による前記針棒、前記釜、及び前記天秤の駆動に伴い、前記針棒が一往復する一周期毎に変動する変動上糸張力を得る張力入手部と、
前記張力入手部により得た縫製開始後二針目の縫製において変動する前記変動上糸張力と、前記一周期毎に変動する前記上糸張力の基準値である基準張力とを比較することで、前記上糸保持機構が前記上糸端部を保持できなかった上糸保持不良が発生したかを判断する判断部と
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記判断部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期のうち、前記釜が前記上糸を捕捉する釜捕捉期間における前記変動上糸張力が、前記釜捕捉期間における前記基準張力以下となる時に、前記上糸保持不良が発生したと判断することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記判断部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期のうち、前記天秤が前記上糸を引き上げる天秤引上期間における前記変動上糸張力が、前記天秤引上期間における前記基準張力以下となる時に、前記上糸保持不良が発生したと判断することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項4】
前記判断部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期のうち、前記釜が前記上糸を捕捉する釜捕捉期間における前記変動上糸張力のピークが、前記釜捕捉期間における前記基準張力のピークよりも所定量以上異なる時期に出現した時に、前記上糸保持不良が発生したと判断することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項5】
縫製開始後三針目以降の前記一周期において取得された前記上糸張力に基づき、前記基準張力を設定する基準設定部
を更に備えることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のミシン。
【請求項6】
前記張力入手部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期に前記張力検出機構が検出した前記検出結果と、縫製開始後一針目の前記一周期に前記張力検出機構が検出した前記検出結果との差分を算出し、算出された前記差分を前記変動上糸張力として得ることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のミシン。
【請求項7】
前記判断部の判断結果を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記判断部の前記判断結果を報知する報知部と
を更に備えること特徴とする請求項1~4の何れかに記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、上糸の張力である上糸張力を検出する張力検出機構を備え、張力検出機構が検出した上糸張力に基づき、縫製不良が発生したかを判断する機能を有する。ミシンは、上糸張力が、周期的な変動を繰返すことを利用し、N周期目において変動する上糸張力と、(N-1)周期目において変動する上糸張力とを、各縫製不良に対応して予め設定した複数種類の閾値を用いて比較することで、縫製不良が発生したかを判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上糸保持機構を備えるミシンにおいて、縫製開始直後に動作する上糸保持機構が上糸を保持できたかどうかを確認し難い。
【0005】
本発明の目的は、縫製開始直後に動作する上糸保持機構を備えるミシンにおいて、上糸保持機構が上糸を保持できたかを判断できるミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1のミシンは、縫針を装着する上下動可能な針棒と、前記縫針を挿通可能な針穴が形成された針板と、前記針板の下方に設けられ、前記縫針に挿通する上糸を捕捉して下糸と絡める釜と、前記釜が前記下糸と絡めた前記上糸を引き上げる天秤と、縫製開始時に前記上糸の上糸端部を前記針板の下方で保持可能な上糸保持機構と、前記上糸の張力である上糸張力を検出する張力検出機構と、前記針棒、前記釜、及び前記天秤を駆動して、布に縫目を形成する縫製制御部と、前記張力検出機構の検出結果に基づき、前記縫製制御部による前記針棒、前記釜、及び前記天秤の駆動に伴い、前記針棒が一往復する一周期毎に変動する変動上糸張力を得る張力入手部と、前記張力入手部により得た縫製開始後二針目の縫製において変動する前記変動上糸張力と、前記一周期毎に変動する前記上糸張力の基準値である基準張力とを比較することで、前記上糸保持機構が前記上糸端部を保持できなかった上糸保持不良が発生したかを判断する判断部とを備える。ミシンの判断部は、縫製開始直後に動作する上糸保持機構を備えるミシンにおいて、作業者の負担を増やすこと無く、上糸保持機構が上糸を保持できたかを判断することに貢献する。
【0007】
本発明の請求項2のミシンの前記判断部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期のうち、前記釜が前記上糸を捕捉する釜捕捉期間における前記変動上糸張力が、前記釜捕捉期間における前記基準張力以下となる時に、前記上糸保持不良が発生したと判断する。針棒が一往復する一周期のうち、釜捕捉期間における上糸張力は比較的大きい。ミシンの判断部は、上糸張力が比較的小さい期間の上糸張力を用いて判断部による判断を行う時に比べ、誤判断することを回避することに貢献する。
【0008】
本発明の請求項3のミシンの前記判断部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期のうち、前記天秤が前記上糸を引き上げる天秤引上期間における前記変動上糸張力が、前記天秤引上期間における前記基準張力以下となる時に、前記上糸保持不良が発生したと判断する。針棒が一往復する一周期のうち、天秤引上期間における上糸張力は比較的大きい。ミシンの判断部は、上糸張力が比較的小さい期間の上糸張力を用いて判断部による判断を行う時に比べ、誤判断することを回避することに貢献する。
【0009】
本発明の請求項4のミシンの前記判断部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期のうち、前記釜が前記上糸を捕捉する釜捕捉期間における前記変動上糸張力のピークが、前記釜捕捉期間における前記基準張力のピークよりも所定量以上異なる時期に出現した時に、前記上糸保持不良が発生したと判断する。針棒が一往復する一周期のうち、釜捕捉期間における上糸張力は比較的大きい。上糸保持不良が発生した時の釜捕捉期間における変動上糸張力のピークは、上糸保持不良が発生していない時のピークに比べて遅れて出現する傾向にある。故にミシンの判断部は、上糸保持不良が発生した時の釜捕捉期間における変動上糸張力のピークと、基準張力のピークとを比較することで、上糸保持不良の発生を検出することに貢献する。
【0010】
本発明の請求項5のミシンは、縫製開始後三針目以降の前記一周期において取得された前記上糸張力に基づき、前記基準張力を設定する基準設定部を更に備える。ミシンは基準張力を設定する際の作業者の手間を省くことに貢献する。ミシンは実際の上糸張力に基づき基準張力を設定するので、使用する上糸、布等の条件を含む縫製条件に合わせた基準張力を比較的簡単な処理で設定することに貢献する。
【0011】
本発明の請求項6のミシンの前記張力入手部は、前記縫製開始後二針目の前記一周期に前記張力検出機構が検出した前記検出結果と、縫製開始後一針目の前記一周期に前記張力検出機構が検出した前記検出結果との差分を算出し、算出された前記差分を前記変動上糸張力として得る。ミシンの張力入手部は、張力検出機構の校正精度によらず、上糸保持不良が発生したかを適切に判断することに貢献する。
【0012】
本発明の請求項7のミシンは、前記判断部の判断結果を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記判断部の前記判断結果を報知する報知部とを更に備える。ミシンの報知部は、ミシンで縫製不良が発生した時に、原因を究明するのに有用な情報を報知することに貢献する。作業者は報知部が報知した情報に基づき、ミシンの保守を適切に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】切断機構60及び上糸保持機構80の斜視図である。
【
図4】切断機構60の一部及び上糸保持機構80の一部の分解斜視図である。
【
図5】切断機構60の一部及び上糸保持機構80の一部の底面図である。
【
図7】モータ59、カム板70、及びリンク機構72の一部であるリンク73、74の底面図である。
【
図12】(A)は上糸57が上糸保持機構80により保持された時の主軸角度と上糸張力との関係を表すグラフであり、(B)は上糸57が上糸保持機構80により保持されない上糸保持不良の時の主軸角度と上糸張力との関係を表すグラフである。
【
図13】第一判断、第二判断、及び第三判断を記憶するテーブルRの説明図である。
【
図14】(A)は第二保持部材82が待機位置Q1にある時の、切断機構60の一部及び上糸保持機構80の一部の底面図であり、(B)は第二保持部材82が保持位置Q2にある時の、切断機構60の一部及び上糸保持機構80の一部の底面図であり、(C)は第二保持部材82が上糸切断位置Q3にある時の、切断機構60の一部及び上糸保持機構80の一部の底面図である。
【
図15】(A)は
図14(A)のG1-G1線における矢視方向断面図であり、(B)は
図14(B)のG2-G2線における矢視方向断面図であり、(C)
図14(C)のG3-G3線における矢視方向断面図である。
【
図16】(A)は
図14(A)のF1-F1線における矢視方向断面図であり、(B)は
図14(B)のF2-F2線における矢視方向断面図であり、(C)
図14(C)のF3-F3線における矢視方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する。以下説明は、図中に矢印で示す左右、前後、及び上下を使用する。ミシン1の左右方向、前後方向、及び上下方向は夫々、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向である。
【0015】
図1を参照し、ミシン1の構造を説明する。ミシン1は縫針15に対し、X軸方向とY軸方向に縫製物19を送ることで360度方向に縫製できる。縫製物19は、例えば布、革等である。ミシン1は、ベッド部2、脚柱部3、腕部4、布送り装置5、制御部10(
図9参照)、及び操作面板18を備える。ベッド部2は、ミシン机6上に設置する。ベッド部2は上面前側に作業台7を備える。作業台7は略中央に針板11を備える。針板11の略中央には、針穴12が形成される。ミシン1は、ベッド部2の内部に下軸48と釜47を備える。釜47は、針板11の下方に配置した揺動垂直釜であり、下軸48は前後方向に延びる。下軸48の前端部は釜47と連結する。釜47は下糸64(
図16参照)を巻いたボビンを収容し下軸48を中心に往復揺動する。釜47は、針棒14の上下動と同期して回動し、縫針15に挿通する環状の上糸57(
図2参照)を捕捉して下糸64と絡め取ることで縫目を形成する。
【0016】
脚柱部3はベッド部2の後方部から上方に延びる。腕部4は脚柱部3の上部から前方に延び、主軸29(
図2参照)を内部で回転可能に支持する。主軸29は前後方向に延び、腕部4の内部後側に設けた主モータ17(
図9参照)と連結する。連桿は脚柱部3の内部で上下方向に延びる。主軸29は連桿を介して下軸48に連結する。故に主モータ17が駆動すると主軸29が回転し、主軸29の回転に伴い釜47が駆動する。ミシン机6は上面右側に操作面板18を設ける。操作面板18は例えばタッチパネルであり、表示部13と入力部16を備える。表示部13は各種情報を表示し、入力部16は縫製開始の指示等の各種情報の入力を受け付ける。
【0017】
図2に示す如く、腕部4は内部に針棒機構30を備える。針棒機構30は、下端に縫針15を装着可能な針棒14を有し、主軸29の回転に応じて、針棒14を上下方向に揺動させる。腕部4は前端部に先端部8を備える。先端部8は案内機構50、針棒14、及び押え棒20等を備える。案内機構50は先端部8右側面に設け、上糸57を案内する。案内機構50は副糸調子器39、主糸調子器40、糸案内38、張力検出器26、天秤27、及び糸案内28を含む。上糸57は糸駒から副糸調子器39、主糸調子器40、糸案内38、張力検出器26、天秤27、及び糸案内28を経由し、縫針15の目孔111に挿通する。天秤27は、釜47が下糸64(
図16参照)と絡めた上糸57を引上げる。主糸調子器40はソレノイド128(
図9参照)を有する。主糸調子器40はソレノイド128の動作に伴い上糸57に付与する張力(以下、上糸張力と称す)を変更することで、糸調子を調節する。上糸張力は上糸57と下糸64の張力バランスを考慮して設定する。主モータ17(
図9参照)は主軸29を回転駆動する。針棒機構30は主軸29の回転駆動に伴い針棒14を上下動する。
【0018】
押え棒20は針棒14左方で先端部8の下端から下方へ延びる。押え足9は押え棒20の下端部に装着し、下端部131を備える。下端部131は上下方向に貫通した円筒状であり、縫針15が通過できる。押え足9は縫針15が縫製物19から抜ける時に上方から縫製物19を針板11に押えることで、針板11からの縫製物19の浮き上がりを防止する。縫針15は下端部131の内側を通り布に刺さる。縫針15は針穴12を通り上下方向に移動する。
【0019】
張力検出器26は先端部8の右面、且つ、副糸調子器39と主糸調子器40の間の上下位置で糸案内38と天秤27の間の経路に在る。張力検出器26は、前後方向154に延びる板79、磁石、磁力センサを備える。磁石は板79の左面に配置され、磁力センサは、磁石と左右方向に対向する位置に配置される。上糸57は、板79に右側から接するように、張力検出器26に案内される。上糸張力が増大する程、上糸57は板79を左方に付勢する。磁気センサは、ホール素子であり、上糸張力に依り左右方向に撓む板79の左右位置に応じた電圧を出力する。ミシン1は磁気センサの出力電圧に依り上糸張力を取得できる。
【0020】
図1の如く、布送り装置5は、針棒機構30に対して縫製物19を相対的に少なくとも一方向に送る。布送り装置5はXモータ21(
図9参照)、布保持体22、支持部23、軸部24、Yモータ25(
図9参照)等を備える。布送り装置5は、非図示のXレール、X移動板、Yレール、及びY移動板を備える。Xモータ21はベッド部2の内部後側に設ける。Xレールはベッド部2内部且つXモータ21前方でX軸方向に延びる。X移動板はXレールに左右動可能に連結し且つXモータ21と連結する。X移動板はXモータ21の駆動力でXレールに沿って左右動する。YレールはX移動板の上面に固定し、Y軸方向に延びる。YレールはX移動板と一体的に左右動する。Y移動板はYレールに対して前後動可能に連結する。布保持体22はY移動板の上面に固定する。布保持体22はX移動板とY移動板と一体的に左右動し、Y移動板と一体的に前後方向に移動する。故に布保持体22は水平方向に移動できる。支持部23は布保持体22の押え腕32後部に連結する。支持部23は布保持体22と共に左右動できる。軸部24は支持部23から脚柱部3の内部迄後方に延び、且つ前後動できる。軸部24の前端部はスライダを介して支持部23に接続する。Yモータ25は脚柱部3の内部に設け、軸部24に連結する。軸部24がYモータ25の駆動力で前後動すると、支持部23、布保持体22、Y移動板は一体的に前後動する。
【0021】
布保持体22は送り板31、押え腕32、一対の連結部33、押え枠34、及び一対のエアシリンダ35(
図1では一方のみを図示)等を備える。送り板31はY移動板の上面から前方に延び、前端部に挟み枠36を備える。挟み枠36は平面視矩形枠状であり、縫製物19を支持できる。押え腕32は送り板31後端部から上側に延び、更に前側へ屈曲して延びる。押え腕32は送り板31後端をY移動板の上面との間で挟んで固定する。押え腕32の先端部37は正面視略矩形状である。一対の連結部33は先端部37にて左右方向に並び、上下動できる。一対の連結部33は押え枠34を支持する。押え枠34は平面視略矩形枠状であり、挟み枠36と上下方向に対向する。一対のエアシリンダ35は押え腕32の左部と右部に設ける。一対のエアシリンダ35は夫々一対の連結部33と連結する。一対のエアシリンダ35が駆動して一対の連結部33を上下動すると、押え枠34は挟持位置と離隔位置の間を上下動する。挟持位置は挟み枠36で支持した縫製物19を上方から押える位置である。離隔位置は縫製物19から上方に離れる位置である。ミシン1は縫針15に対し、縫製物19を保持した布保持体22をX軸方向とY軸方向に移動することで360度方向に縫製できる。
【0022】
図3の如く、ミシン1は針板11の下面側に切断機構60と上糸保持機構80を備える。切断機構60は、モータ59の動力で駆動し、縫製動作終了時に上糸57と下糸64の切断動作を行う。上糸保持機構80は、モータ59の動力で駆動し、針板11の下側で縫針15に通された上糸57の上糸端部U(
図15参照)を解除可能に保持する。上糸保持機構80は縫製開始時の一針目で縫製物19の下方に通過した上糸57を屈曲して保持する。故に上糸保持機構80は縫針15からの糸抜けを防止する。ミシン1はベッド部2の背面側にモータ59を固定する。モータ59はパルスモータであり、切断機構60と上糸保持機構80の駆動源である。
【0023】
図3~
図6の如く、切断機構60は、固定刃61、可動刃62、付勢部材65、支軸69、及び移動部67を備える。図の如く、固定刃61は、ミシン1の縫針15を挿通する針穴12が形成された針板11の下側に固定される。固定刃61は平面視略L字状で且つ針板11の下面に二つの螺子611で固定する。固定刃61は刃部612を備える。刃部612は、固定刃61の右後部に設けられ、針穴12の左方から針穴12の前方に向かって延びる。
【0024】
可動刃62は、固定刃61に対して水平に回動可能に設けられる。可動刃62は、糸捌き部621、刃部622、糸係合部623、糸案内部624、糸捕捉部625、糸挟持部66、及び糸解放部68等を有する。糸捌き部621は後方に向かって尖った先端部を有し、上糸57が形成する上糸環内に進入する部分である。刃部622は可動刃62を上下方向に貫通する、底面視円状の貫通穴の端部である。糸係合部623は上糸環のうち縫針15から延びる側を引掛ける部分である。糸案内部624は支軸69に対し、リンク76のピン763とは反対側において、糸捌き部621と糸捕捉部625の間で湾曲する部分である。糸案内部624は上糸環のうち縫製物19から延びる側を糸捕捉部625に案内する。糸捕捉部625は上糸環を捕捉する部分である。
【0025】
糸挟持部66は、可動刃62の下面の内の、可動刃62により切断後の下糸64の下糸端部D(
図16(A)参照)を付勢部材65との間で挟持できる部分である。糸解放部68は、可動刃62の下面の内の、下糸端部Dを付勢部材65との間で挟持不能な部分である。糸解放部68は、糸捌き部621と糸捕捉部625とによって挟まれる部分の可動刃62の下面の内、糸捕捉部625と接する部分、且つ、糸挟持部66に隣接して設けられた上方に向かって凹んだ凹部である。つまり、糸挟持部66は糸解放部68よりも下方に位置する。
【0026】
可動刃62は、挿通部626、627が形成される。挿通部626は、可動刃62の長手方向の内、糸捌き部621が設けられた側とは反対側の端部(
図4の位置では可動刃62の後端部)に設けられた上下方向に貫通する孔である。挿通部626は、後述のリンク76のピン763を挿通する。挿通部627は、可動刃62の長手方向の中心部に設けられた上下方向に貫通する孔である。支軸69は、挿通部627に挿通され、針板11の下面に固定し、可動刃62を針板11に平行な水平方向に往復回動可能に支持する。可動刃62の回動中心である支軸69は、針板11と平行な面のモータ59から針穴12へと向かう方向において、本実施形態では前方向において、針穴12に対し、モータ59側とは反対側に設けられる。支軸69は螺子611の右方に位置する。
【0027】
図5の如く、付勢部材65は、二つの螺子651により針穴12よりも前方において、針板11の下側に固定される。付勢部材65は、屈曲した板バネである。付勢部材65は、固定部652、押圧部653、及び案内部654、655を備える。固定部652は、針穴12の前方から右後方に延びる針板11と平行な板状であり、二つの螺子651により針板11に固定される。押圧部653は、固定部652の左後端部から下方に折り曲げられた後、後方に折り曲げられた、底面視U字状の部分である。押圧部653は、後下側に向かって緩やかに傾斜する。
図16(A)の如く、案内部654は、押圧部653の後部において、後方ほど下方になるように傾斜した部分である。案内部655は、案内部654の左端から上方に屈曲した部分である。案内部654、655は、可動刃62が付勢部材65と針板11との間に配置されるように移動するのを案内する。付勢部材65は可動刃62の糸挟持部66を上方に付勢できる。
【0028】
図3の如く、移動部67は、モータ59を有し、モータ59の動力で可動刃62を水平方向に回動する。移動部67は、モータ59、カム板70、及びリンク機構72を備える。モータ59は、パルスモータであり、出力軸98を下向きにした姿勢でベッド部2の背面下部(
図1参照)に固定する。カム板70は、モータ59の出力軸98の回転力を、リンク機構72を駆動する動力に変換する。リンク機構72はカム板70の回転方向と角度に応じて切断機構60の可動刃62を駆動し、上糸57と下糸64を切断する。リンク機構72はカム板70の回転方向と角度に応じて、上糸保持機構80の第二保持部材82を駆動し縫製開始時の所定時期の上糸端部Uを保持する。
【0029】
図7の如く、カム板70はモータ59の下方に配置し、モータ59の出力軸98の先端部に固定する。カム板70は底面視略半円形状に形成し、中央に軸穴701が形成される。モータ59の出力軸98の先端部は軸穴701に挿入固定する。カム板70は出力軸98と一体的に回転する。カム板70は軸穴701を中心とする約180度の範囲に溝カム71を備える。溝カム71は平面視半円弧状で且つカム板70の下面を厚み方向に凹ませた溝状である。
【0030】
図3及び
図7の如く、リンク機構72は、リンク73~76、コロ部材77を備える。リンク73~76は各々、モータ59側から切断機構60側に向かって順に並ぶ。リンク73は平面視略L字板状であり、カム板70の下方に配置する。リンク73は一端部731の上側にコロ部材77を回転可能に固定する。コロ部材77は、上下方向に延びる回転軸を備える。コロ部材77はカム板70の溝カム71と係合する。リンク73は一端部731と他端部732の間の鋭角に屈曲する中央部733に軸穴734を設ける。支軸735は軸穴734に挿入するので、リンク73は支軸735を中心に回動できる。コロ部材77はカム板70の溝カム71と係合する。リンク73の他端部732はピン736を介してリンク74の一端部741と回動可能に連結する。
【0031】
リンク74は、前後方向に延びる棒状である。リンク74の他端部742は螺子743でリンク75の一端部751と固定する。リンク75は、正面視右方が開放するC状の板部材である。リンク75の他端部752は一端部751の上方に位置し、螺子744でリンク76の一端部761と固定する。リンク75のうち上下方向に延びる中心部753は、上下方向に延びる支軸754を挿通する。リンク75は支軸754を中心に回動できる。リンク76は、前後方向に延びる。
図4及び
図5の如く、リンク76の他端部762は、右方に略円弧状に膨出する。リンク76の他端部762は、上方に突出するピン763、764を有する。ピン763は、リンク76の前端部に設け、可動刃62の挿通部626に挿通される。可動刃62はリンク76のピン763によりリンク76と連結する。ピン764は、ピン763よりも後方に設け、後述の上糸保持機構80の第二保持部材82の挿通部861に挿通される。第二保持部材82はリンク76のピン764により、リンク76と連結する。リンク76は、第二保持部材82及び可動刃62の下方に位置する。
【0032】
移動部67は、モータ59の動力で、リンク76を前後方向に移動させることで可動刃62を支軸69を中心に、針板11に平行な水平方向に回動できる。移動部67は、モータ59の駆動に応じて、可動刃62を
図6に示す刃待機位置P1、解放位置P2、糸捕捉位置P3、切断位置P4、及び可動位置P5の各々に移動できる。
図6では、固定刃61、可動刃62、及びリンク76以外の部材の図示を省略し、可動刃62の位置を、刃部622の位置で示している。
【0033】
刃待機位置P1は、可動刃62が固定刃61から離れた位置にあり、且つ、可動刃62の糸挟持部66が針板11と付勢部材65との間で、付勢部材65に対向して配置され、糸挟持部66が下糸端部Dを付勢部材65と共に挟持可能な位置である。解放位置P2は、可動刃62の糸解放部68が針板11と付勢部材65との間で、付勢部材65に対向して配置される位置である。糸捕捉位置P3は、可動刃62が針穴12近傍にある上糸57を捕捉する位置である。底面視において、糸捕捉位置P3は、針穴12と、解放位置P2との間に位置する。切断位置P4は、可動刃62が固定刃61と交差して上糸57と下糸64を切断する位置である。可動位置P5は、切断位置P4に対して刃待機位置P1とは反対側の位置である。つまり、可動位置P5は、切断位置P4に対して支軸69中心に底面視反時計回りの方向にあり、刃待機位置P1は、切断位置P4に対して支軸69中心に底面視時計回りの方向にある。可動刃62の移動軌道J1上において、切断位置P4は、刃待機位置P1と可動位置P5との間にあり、解放位置P2は、刃待機位置P1と、切断位置P4との間にある。ミシン1が可動刃62を各位置に移動させる主処理については後述する。
【0034】
図3~
図5及び
図8の如く、上糸保持機構80は、第一保持部材81、第二保持部材82、及び移動部67を備える。本実施形態の上糸保持機構80は更に、固定メス97を備える。移動部67は、前述の切断機構60と共通である。第一保持部材81は、ミシン1の縫針15を挿通する針穴12が形成された針板11の下方に設けられる。第一保持部材81は、針板11と平行な水平方向に延びる、左右方向に長い板状の部材である。第一保持部材81は、可動刃62の糸案内部624よりも下方において水平方向に延びる。第一保持部材81は、針穴12に対し左方に配置され、前後一対の螺子811によって針板11の下側に固定される。第一保持部材81の右端部は、右側ほど後方に傾斜する。
図15(A)の如く、第二保持部材82の第一保持部86は、可動刃62と同一水平面上に配置されている。ここで同一水平面とは、第一保持部86と可動刃62との両者を通過する任意の仮想的な水平面を意味し、第一保持部86の上下方向の延設範囲と、可動刃62との上下方向の延設範囲とは、少なくとも一部が重なる。
【0035】
図3~
図5及び
図8の如く、第二保持部材82は、第一保持部材81と協働して上糸57の上糸端部Uを保持する。第二保持部材82は、第一保持部86、第二保持部87、及び支持部84を備える。第一保持部86は、針板11よりも下方、且つ、第一保持部材81よりも上方に設けられる。第一保持部86は、前後方向に長い板状であり、第一保持部86には、第二保持部材82が
図8の待機位置Q1に位置する時に縫針15の通過を許容する挿通部88が形成されている。第一保持部86は、挿通部861、863、一対の螺子孔862が形成される。挿通部861は、第一保持部86の端部に設けられた上下方向に貫通する孔である。挿通部861には、リンク76のピン764が挿通される。挿通部863は、挿通部861の前方に設けられた上下方向に貫通する孔である。第二保持部材82は、第一保持部86の挿通部863に挿通された支持部84により、針板11に平行な水平方向に回動可能に支持される。支持部84は針板11に垂直に設けられたピン部材である。第二保持部材82は、第一保持部86に挿通された支持部84により、針板11に平行な水平方向に回動可能に支持される。支持部84は、針穴12の後方に設けられる。つまり、支持部84は、針板11と平行な面のモータ59から針穴12へと向かう方向及び其の逆方向において、本実施形態では前後方向において、針穴12に対し、モータ59側に設けられる。支軸69の中心と、ピン764の中心との間の距離は、支持部84の中心と、ピン764の中心との間の距離よりも短い。故に、リンク76の移動量に対する可動刃62の回動量は、リンク76の移動量に対する第二保持部材82の回動量よりも大きい。
【0036】
第二保持部87は、前後方向に長い板状であり、第一保持部材81よりも下方に設けられる。第二保持部87の前後方向の長さは、第一保持部86の前後方向の長さよりも短い。第二保持部87には、第二保持部材82が待機位置Q1に位置する時に縫針15の通過を許容する挿通部89が形成されている。第二保持部87は、上下方向に貫通する二つ孔872が形成される。第二保持部87は、第一保持部86に重ね合わされた状態で、孔872に挿通された螺子871により、第一保持部86の下面に固定される。この時、第二保持部87は、支持部84よりも前方に位置する。本実施形態の挿通部88、89は、左方に開放する切欠きであり、挿通部88、89の平面視の輪郭は互いに重なる。挿通部88、89は、第二保持部材82の内、支持部84に対し挿通部861側とは反対側に形成されている。第二保持部87は、第一保持部86に対して移動不能であり、第一保持部86と共に水平方向に移動する。
図15(A)の如く、第一保持部86及び第二保持部87の厚みは、第一保持部材81の厚みよりも大きい。第一保持部86の厚みは、第二保持部87の厚みよりも大きい。
【0037】
図4の如く、固定メス97は、縫針15を挿通する針穴12が形成された針板11の下側に固定される。固定メス97は刃部96を備える。刃部96は、固定メス97の右部に設けられ、針穴12の左方に配置される。
図15(A)の如く、刃部96の右端は右下方に向けて傾斜する。固定メス97は上下方向に貫通する前後一対の孔971を備える。固定メス97は、第一保持部材81よりも上方に位置する。固定メス97は一対の孔971に挿通された螺子811によって、第一保持部材81と共に針板11の下側に固定される。
【0038】
移動部67は、リンク76のピン764を第二保持部材82の挿通部861に挿通することで、第二保持部材82と連結する。移動部67は、モータ59の動力で、リンク76を前後動させることで、第二保持部材82を支持部84を中心に、針板11に平行な水平方向に回動できる。即ち、移動部67は可動刃62と、第二保持部材82との各々を移動できる。具体的には移動部67は、
図8に示す、待機位置Q1と、保持位置Q2と、上糸切断位置Q3と、切断時位置Q4と、可動端時位置Q5とに第二保持部材82を移動する。
図8では、第一保持部86、第二保持部87、支持部84、固定メス97、及びリンク76以外の部材の図示を省略し、第二保持部材82の位置を、挿通部89の円弧状の右端部分に内接する仮想円の位置で示している。
【0039】
待機位置Q1は、水平方向において、第一保持部材81と第二保持部材82との間に、針穴12が配置された位置である。保持位置Q2は、水平方向において第二保持部材82が針穴12から離隔し、且つ、第二保持部材82が第一保持部材81と上下方向に重なる位置である。上糸切断位置Q3は、第一保持部材81と第二保持部材82とで保持する上糸端部Uを固定メス97で切断する位置である。第二保持部材82の移動軌道J2上において、保持位置Q2は、待機位置Q1と、上糸切断位置Q3との間に位置する。切断時位置Q4と、可動端時位置Q5とは各々、可動刃62の切断位置P4と、可動位置P5とに対応する位置である。ミシン1が第二保持部材82を各位置に移動させる主処理については後述する。
【0040】
図9を参照しミシン1の電気的構成を説明する。ミシン1の制御部10はCPU41、ROM42、RAM43、記憶装置45、I/Oインターフェース(以下I/Oと呼ぶ)46、駆動回路51~56等を備える。CPU41はミシン1の動作を制御する。CPU41はROM42、RAM43、記憶装置45、I/O46と接続する。ROM42は後述の主処理(
図10参照)等、各種処理を実行する為のプログラム等を記憶する。RAM43は各種情報を一時的に記憶する。記憶装置45は不揮発性であり、縫製情報等を記憶する。縫製情報とは、針落ち点を含む情報である。
【0041】
I/O46は駆動回路51~56、入力部16に接続する。駆動回路51は主モータ17に接続する。駆動回路52はXモータ21に接続する。駆動回路53はYモータ25に接続する。駆動回路56はモータ59に接続する。Xモータ21、Yモータ25、モータ59はパルスモータである。駆動回路54は一対のエアシリンダ35と接続する。駆動回路55は表示部13に接続する。CPU41は駆動回路51~54を制御することで主モータ17、Xモータ21、Yモータ25、一対のエアシリンダ35を駆動制御する。CPU41は駆動回路55を制御することで表示部13を制御する。CPU41は駆動回路56を制御することでモータ59を制御する。入力部16は作業者が入力した情報を検出し、検出結果をI/O46を介してCPU41に出力する。張力検出器26は上糸張力に応じた出力電圧を制御部10に出力する。CPU41はソレノイド128の動作制御を行う。
【0042】
エンコーダ91~93は夫々、主モータ17、Xモータ21、Yモータ25と接続する。エンコーダ91は主モータ17の出力軸の回転位置を検出する。エンコーダ92はXモータ21の出力軸の回転位置を検出する。エンコーダ93はYモータ25の出力軸の回転位置を検出する。エンコーダ91~93は検出結果をI/O46を介してCPU41に出力する。
【0043】
図10~
図16を参照して、IDが0027で示される縫製物19の縫製時に、
図12(A)に示す、上糸張力の周期的な変動の検出結果が取得される具体例1と、IDが0041で示される縫製物19の縫製時に
図12(B)に示す上糸張力の周期的な変動の検出結果が取得される具体例2とを用い、ミシン1で実行される主処理を説明する。主処理では、縫製パターンに従って縫製物19に縫目を形成する処理が実行される。ミシン1の電源がONになった時、CPU41は主処理を起動する。CPU41はミシン1の電源がONになると、ROM42のプログラム記憶エリアに記憶された主処理を実行する為のプログラムを、RAM43に読み出す。CPU41は、RAM43に読み出したプログラムに含まれる指示に従って、以下のステップを実行する。以下ではステップをSと略記する。主処理を実行するのに必要な各種パラメータは、記憶装置45に記憶されている。主処理の過程で得られた各種データは、適宜RAM43に記憶される。具体例1、2の主処理は、互いに異なる時機に実行されるが、以下では説明を簡単にするために両者を並列に説明する。
【0044】
図10の如く、CPU41は原点検出指示を検出したかを判断する(S1)。作業者は、入力部16を操作して原点検出指示を入力する。原点検出指示を未検出時(S1:NO)、CPU41は処理をS1に戻す。原点検出指示を検出時(S1:YES)、CPU41は原点検出を実行し(S2)、押え足9を上昇する(S3)。
【0045】
作業者は縫製する縫製物19を布保持体22の間に設置し、入力部16を操作して、押え足9の下降指示を入力する。CPU41は押え足9の下降指示を検出したかを判断する(S4)。下降指示を未検出時(S4:NO)、CPU41は処理をS4に戻す。下降指示を検出時(S4:YES)、CPU41は押え足9を下降する(S5)。
図14(A)の如く、切断機構60の可動刃62は刃待機位置P1に位置し、上糸保持機構80の第二保持部材82は待機位置Q1に位置する。つまり、第二保持部材82が待機位置Q1に在る時、可動刃62は刃待機位置P1に在る。底面視において、第一保持部材81と、第二保持部材82とは一部が上下方向に重なる。底面視において、針穴12は、第一保持部材81と、第二保持部材82とによって囲まれる。可動刃62の刃部622は、案内部654と押圧部653との境界付近に位置する。
図15(A)の如く、上糸保持機構80の第二保持部材82は上糸端部Uから離隔する。第一保持部材81と第二保持部材82とで、針穴12の下方に位置する上糸端部Uは囲まれている。
図16(A)の如く、切断機構60の可動刃62の糸挟持部66は、付勢部材65と共に下糸端部Dを上下方向に挟持する。付勢部材65の押圧部653の上端部は、可動刃62の糸挟持部66と当接する。
【0046】
CPU41は縫製指示を検出したかを判断する(S6)。作業者は入力部16を操作して縫製指示を入力する。縫製指示を未検出時(S6:NO)、CPU41は処理をS6に戻す。縫製指示を検出時(S6:YES)、CPU41は主モータ17により、針棒14、釜47、及び天秤27を駆動して、縫製物19に縫目を形成する縫製を開始する(S7)。CPU41は、張力検出器26からの上糸張力の取得を開始する。CPU41は、エンコーダ91の検出結果に基づき、上糸保持時機かを判断する(S8)。本実施形態のミシン1の上糸保持時機は、一針目を縫製後、且つ、二針目を縫製前に設定される。縫製開始後、一針目に縫針15が縫製物19に刺さる。釜47の剣先が上糸57を捕捉し、上糸57を飲み込み、上糸端部Uが針板11の下方、且つ、釜47の前面に垂れる。
【0047】
上糸保持時機ではない時(S8:NO)、CPU41は処理をS8に戻す。上糸保持時機である時(S8:YES)、CPU41は、
図11の上糸処理を起動し、上糸保持機構80により上糸端部を保持する処理を行う。CPU41は、上糸処理で、針棒14、釜47、及び天秤27の駆動に伴い、針棒14が一往復する一周期毎に変動する、張力検出器26の検出結果のうち、縫製開始後二針目の縫製において変動する変動上糸張力(以下、単に「上糸張力」ともいう。)を取る。CPU41は、更に一周期毎に変動する上糸張力の基準値である基準張力と、変動上糸張力とを比較することで、上糸保持機構80が上糸端部Uを保持できなかった上糸保持不良が発生したかを判断する処理を行う。上糸保持機構80が上糸端部Uを保持できた時、上糸保持機構80が上糸57を保持することによる抵抗が、二針目の上糸張力に現れる。上糸保持機構80が上糸端部Uを保持できたなかった時、上糸保持機構80が上糸57を保持することによる抵抗が、二針目の上糸張力に現れない。故に、CPU41は、縫製開始後二針目の上糸張力に基づき上糸保持不良を発生したかを判断する。上糸処理は主処理と並列に実行される。
【0048】
図11の如く、CPU41は、上糸処理において、第二保持部材82を待機位置Q1から保持位置Q2に移動する(S31)。具体的には、CPU41は、モータ59を駆動させ、モータ59の出力軸98を底面視時計回りに回転させる。コロ部材77は、溝カム71の左端部から相対的に底面視反時計回りに回転した位置に移動する。リンク73は、支軸735を中心に底面視反時計回りに回転し、リンク74~76を移動させる。
図14(B)の如く、切断機構60の可動刃62は刃待機位置P1の後方に移動し、上糸保持機構80の第二保持部材82は待機位置Q1から保持位置Q2に移動する。水平方向において第二保持部材82が針穴12から離隔し、且つ、第二保持部材82が第一保持部材81と上下方向に重なる。
図15(B)の如く、上糸保持機構80は上糸端部Uを第一保持部材81と第二保持部材82との間で側面視S字状に屈曲させた状態で保持する。
図16(B)の如く、切断機構60の可動刃62の糸挟持部66は、付勢部材65と共に下糸端部Dを上下方向に挟持した状態を維持する。
【0049】
CPU41は、エンコーダ91の検出結果に基づき、一針目の上糸張力を張力検出器26から取得し、記憶する(S32)。縫製時、上糸張力は主軸角度に応じて縫製期間を単位周期として周期的に変動する。縫製期間は一針分の縫製を行う期間である。
図12(A)及び
図12(B)において、縦軸は上糸張力の相対値を示す。横軸は、主軸角度を示す。主軸角度は、例えば、針棒14の位置が最も高い位置(上死点)に在る時を0度とした時の角度で表される。黒三角で示す凡例J1、K1が縫製開始後一針目の上糸張力である。白抜きの四角で示す凡例J2、K2が縫製開始後二針目の上糸張力である。黒丸の凡例J3、K3が縫製開始後三針目の上糸張力である。主軸角度がH1、H2の時、縫針15の下端は針板11の上面に載置する縫製物19の上面と同じ高さ位置になる。即ち、主軸角度がH1からH2迄の期間は縫針15が縫製物19に刺さる貫通期間T3である。主軸角度がH1未満の期間とH2より大きい期間は縫針15が縫製物19よりも上方にある非貫通期間T4である。縫製期間は、天秤引上期間T1、釜捕捉期間T2を含む。本実施形態の天秤引上期間T1は、上死点とH1との間の所定時機から、H1と下死点との間の所定時機までの期間である。本実施形態の釜捕捉期間T2は、下死点とH2との間の所定時機から、H2と上死点との間の所定時機までの期間である。上糸張力は縫製期間の内、天秤引上期間T1と釜捕捉期間T2との各々にピークを有する。本実施形態のCPU41はエンコーダ91の検出結果に依る主軸角度に基づいて、上糸張力の検出時機を判断する。
【0050】
CPU41は、エンコーダ91の検出結果に基づき、縫製開始後二針目の一周期のうち、天秤27が上糸57を引き上げる天秤引上期間T1における張力検出器26の検出結果を取得する(S33)。縫製開始後二針目の縫針15が縫製物19に刺さる時期前、天秤27が上昇する動きに従って上糸端部Uが回収される。上糸端部Uが上糸保持機構80により保持されている時、
図12(A)の凡例K2の如く、天秤引上期間T1には、上糸張力にピークが現れる。上糸端部Uが上糸保持機構80により保持されていない時、
図12(B)の凡例J2の如く、天秤引上期間T1には、上糸張力にピークが現れない。本実施形態のCPU41は、天秤引上期間T1の複数組の上糸張力と、主軸角度との対応を取得し、ノイズ除去のためそれぞれ数点の移動平均により平滑化する。
【0051】
CPU41は、縫製開始後二針目の一周期に張力検出器26が検出した検出結果と、縫製開始後一針目の一周期に張力検出器26が検出した検出結果との差分を算出し、算出された差分を変動上糸張力として得る(S34)。具体的には、CPU41は、S33で取得された二針目の天秤引上期間T1の上糸張力から、S32で取得された一針目の上糸張力を差し引いた第一差分を算出する。CPU41は、S32で取得された複数の一針目の上糸張力の平均値を縫製開始後一針目の平均値を、主軸角度によらず一針目の上糸張力として用いてもよい。CPU41は、主軸角度に応じた、二針目の天秤引上期間T1の上糸張力と、一針目の上糸張力との差分を算出してもよい。
【0052】
CPU41は、S34で算出された第一差分が第一閾値よりも大きいかを判断する(S35)。第一閾値は、縫製開始後二針目の天秤引上期間T1の上糸張力の基準となる上糸張力(「基準張力」という。)である。本実施形態の第一閾値は、後述のS14の処理において、前回実行された主処理で設定される。S14の処理が実行されていない一回目の主処理では、第一閾値は予め設定された初期値である。CPU41は、複数組の第一差分の平均値と、第一閾値とを比較してもよい。CPU41は、複数組の第一差分の各々について、主軸角度に応じた、第一差分と、第一閾値とを比較してもよい。具体例1では、第一差分が第一閾値よりも大きいので(S36:YES)、CPU41は、
図13のテーブルRのように、具体例1のID「0027」に対応する第一判断に上糸保持不良が発生していないことを示す「適」を設定し、記憶装置45に記憶する(S36)。
【0053】
具体例2では、第一差分が第一閾値以下であり、即ち、天秤引上期間T1における変動上糸張力が、天秤引上期間T1における基準張力である第一閾値以下であるので(S35:NO)、CPU41は、上糸保持不良が発生したと判断する(S37)。この時CPU41は、テーブルRのように、具体例2のID「0041」に対応する第一判断に上糸保持不良が発生したことを示す「不良」を設定し、記憶装置45に記憶する。CPU41は、S37で記憶装置45に記憶された判断結果を報知する(S38)。判断結果の報知方法は適宜設定されればよい。本実施形態のCPU41は、表示部13に上糸保持不良が発生したことを示すメッセージを表示する。上糸保持不良が発生した時、上糸保持不良が発生していない時に比べ、上糸抜け等の縫製不良が生じる可能性が高まるが、縫製不良が必ず発生するわけではない。このため、CPU41は、上糸保持不良が発生したと判断した時にも、縫製を停止することはせず、ミシン1の作業者に注意を喚起する。作業者は、表示部13に表示されたメッセージを確認することで、縫製不良が発生するかを注意して確認できる。
【0054】
S36又はS38の処理の次に、CPU41は、S33と同様に、エンコーダ91の検出結果に基づき、縫製開始後二針目の一周期のうち、釜47が上糸57を捕捉する釜捕捉期間T2における張力検出器26の検出結果を取得する(S39)。上糸端部Uが上糸保持機構80により保持されている時、
図12(A)の凡例K2の如く、釜捕捉期間T2には、凡例K3で示す縫製開始後三針目のピークと同時期に、同程度のピークが現れる。上糸端部Uが上糸保持機構80により保持されていない時、
図12(B)の凡例J2の如く、釜捕捉期間T2には、凡例J3で示す縫製開始後三針目のピークの出現時期から遅れて、縫製開始後三針目のピークの半分程度のピークが現れる。釜捕捉期間T2におけるピークは、釜捕捉期間T2の後半に出現するため、CPU41は、釜捕捉期間T2の内の後半において上糸張力を取得することが好ましい。
【0055】
CPU41は、S34と同様に、S39で取得された二針目の釜捕捉期間T2の上糸張力から、S32で取得された一針目の上糸張力を差し引いた第二差分を算出する(S40)。CPU41は、S35と同様に、第二差分が釜捕捉期間T2における基準張力である第二閾値よりも大きいかを判断する(S41)。具体例1では、第二差分が第二閾値よりも大きいので(S42:YES)、CPU41は、テーブルRの如く、ID「0027」に対応する第二判断に「適」を設定し、記憶装置45に記憶する(S42)。具体例2では、第二差分が第二閾値以下であり、即ち釜捕捉期間T2における変動上糸張力が、釜捕捉期間T2における基準張力以下となるので(S41:NO)、CPU41は、上糸保持不良が発生したと判断する(S43)。この時、CPU41は、テーブルRの如く、ID「0041」に対応する第二判断に「不良」を設定し、記憶装置45に記憶する。CPU41は、S38と同様にアラートを報知する(S44)。
【0056】
CPU41は、S40で算出された第二差分のピークを特定する(S45)。CPU41は、S40で算出された第二差分の最大値をピークとし、ピークに対応する主軸角度を特定する。CPU41は、S45で特定されたピークの出現時期と、所定時期との差が所定量より大きいかを判断する(S46)。所定時期は、基準張力のピークの出現時期である。S45で特定されたピークの出現時期と、所定時期との差は、主軸角度の差で表される。具体例1では、S45で特定されたピークの出現時期と、所定時期との差が所定量より大きくはないので(S46:NO)、CPU41は、テーブルRの如く、ID「0027」に対応する第三判断に「適」を設定し、記憶装置45に記憶する(S47)。
【0057】
具体例1では、ピークの出現時期と、所定時期との差が所定量より大きい即ち、釜捕捉期間T2における基準張力のピークよりも所定量以上異なる時期に出現しているので(S46:YES)、CPU41は、上糸保持不良が発生したと判断する(S48)。この時、CPU41は、テーブルRの如く、ID「0041」に対応する第三判断に「不良」を設定し、記憶装置45に記憶する。CPU41は、S38と同様にアラートを報知する(S49)。CPU41は、以上で上糸処理を終了する。
【0058】
主処理において、上糸処理を起動後、CPU41は、エンコーダ91の検出結果に基づき、上糸切断時機かを判断する(S10)。本実施形態のミシン1の上糸切断時機は、S9後となる時機に設定されればよい。上糸切断時機は、上糸保持制御処理後、且つ、二針目の針落ち後の所定時機に設定される。上糸切断時機ではない時(S10:NO)、CPU41は処理をS10に戻す。
【0059】
上糸保持時機である時(S10:YES)、CPU41は、モータ59を制御して、S9後に第二保持部材82を保持位置Q2から上糸切断位置Q3に移動する(S12)。CPU41は、モータ59を制御して、可動刃62を
図14(B)の位置から解放位置P2に移動させて、前回の主処理のS17の処理で挟持した下糸端部Dを解放する(S12)。具体的には、CPU41は、モータ59を駆動させ、モータ59の出力軸98を、底面視時計回りに回転させる。リンク73は、支軸735を中心に底面視反時計回りに回転し、リンク74~76を移動させる。
図14(C)の如く、切断機構60の可動刃62は解放位置P2に移動し、上糸保持機構80の第二保持部材82は保持位置Q2から上糸切断位置Q3に移動する。水平方向において第二保持部材82が針穴12から離隔し、且つ、第二保持部材82が第一保持部材81と上下方向に重なった状態が維持される。第二保持部材82が固定メス97の刃部96と上下に重なる。切断機構60の可動刃62が刃待機位置P1から解放位置P2迄の範囲の位置に在る時、可動刃62の糸捌き部621は針穴12よりも前方に位置する。
【0060】
図15(C)の如く、上糸保持機構80は上糸端部Uを第一保持部材81と第二保持部材82との間で側面視S字状に屈曲させた状態を維持しつつ、第二保持部材82の第一保持部86が固定メス97と上下方向に重なる。これにより、上糸端部Uは、固定メス97により切断される。第二保持部材82が保持位置Q2から上糸切断位置Q3に移動した時、第一保持部材81と第二保持部材82とは上糸端部Uの保持を継続している。故に、上糸端部Uは、第一保持部材81と第二保持部材82とにより保持された状態で固定メス97により切断される。固定メス97により切断される上糸57を切断する位置は、第一保持部材81と第二保持部材82とが上糸57を保持する位置より上糸57の上流側、つまり上方の部分である。
図16(C)の如く、切断機構60の可動刃62の糸解放部68が付勢部材65の押圧部653と上下方向に離隔して対向する。糸挟持部66は、付勢部材65の押圧部653から退避した状態に移動され、付勢部材65と共に下糸端部Dを上下方向に挟持した状態が解除される。これにより、縫製開始時に上糸保持機構80により保持されていた上糸端部Uが針穴12付近で切断後に解放され、切断機構60により挟持されていた下糸端部Dが解放される。
【0061】
CPU41は、モータ59を駆動させ、切断機構60の可動刃62を刃待機位置P1に移動させ、上糸保持機構80の第二保持部材82を待機位置Q1に移動させる(S12)。CPU41は、縫製開始後三針目以降の一周期において取得された上糸張力を取得する(S13)。CPU41は、S13で取得された上糸張力に基づき、基準張力として、S35で用いる第一閾値、及びS41で用いる第二閾値を設定し、及びS46で用いるピークの所定時期を設定する(S14)。CPU41は、例えば、縫製開始後三針目以降の天秤引上期間T1に取得された上糸張力に所定の係数を乗じて、第一閾値を算出してもよい。CPU41は、例えば、縫製開始後三針目以降の釜捕捉期間T2に取得された上糸張力に所定の係数を乗じて、第二閾値を算出してもよい。CPU41は、第一差分、第二差分と同様に、製開始後三針目以降の一周期において取得された上糸張力について、縫製開始後一針目の上糸張力との差分を算出し、算出された差分に基づき第一閾値、第二閾値を設定してもよい。
【0062】
CPU41は縫針15の次の針落ち動作が縫製動作の最終針か否かを判断する(S15)。CPU41は現在縫製中の縫製パターンの針落ち数を計数してRAM43に記憶する。故にCPU41はROM42に記憶する縫製パターンの縫製情報を参照することで、次の針落ち動作が最終針か否かを判断できる。最終針でない時(S15:NO)、CPU41はS15に戻り、縫製動作を継続する。最終針の時(S15:YES)、CPU41は、主モータ17を停止する(S16)。
【0063】
CPU41は、モータ59を駆動して、可動位置P5に移動後、可動刃62を切断位置P4に移動し、上糸57と下糸64とを切断する(S17)。CPU41は、モータ59を制御して、可動刃62を切断位置P4から刃待機位置P1に移動させて、S17の処理で切断した下糸端部Dを付勢部材65と糸挟持部66とで挟持する(S18)。CPU41は、モータ59を駆動させ、モータ59の出力軸98を底面視反時計回りに回転させ、可動刃62を切断位置P4から刃待機位置P1に移動させる。リンク73は、支軸735を中心に底面視時計回りに回転し、リンク74~76を移動させる。可動刃62は、切断位置P4から刃待機位置P1に移動する過程で、S17で切断された下糸端部Dを糸挟持部66上に配置しながら、付勢部材65の案内部654、655に案内されて、糸挟持部66が付勢部材65と針板11との間に配置される。これにより
図16(A)の如く、可動刃62が切断位置P4から刃待機位置P1に移動された時、下糸端部Dは、可動刃62の糸挟持部66と、付勢部材65の押圧部653とにより挟持される。下糸端部Dは、次回の主処理のS12が実行される迄、可動刃62の糸挟持部66と、付勢部材65の押圧部653とにより挟持される。本実施形態では、S17、S18において可動刃62の可動位置P5から刃待機位置P1への移動は連続して行われ、上糸57と下糸64の切断と、下糸端部Dの挟持は一連の動きの中で実行される。CPU41は以上で主処理を終了する。上記主処理で記憶装置45に記憶された判断結果は、作業者からの指示に応じて表示部13に一覧表示されてもよい。例えば、ミシン1で縫製不良が発生した時、作業者は、表示部13に表示された判断結果を参照することで、ミシン1で縫製不良が発生した原因を究明しやすい。
【0064】
上記実施形態において、ミシン1、針板11、針穴12、針棒14、表示部13、縫針15、縫製物19、張力検出器26、天秤27、記憶装置45、釜47、上糸57、下糸64、及び上糸保持機構80は各々、本発明のミシン、針板、針穴、針棒、報知部、縫針、布、張力検出機構、天秤、記憶部、釜、上糸、下糸、及び上糸保持機構の一例である。S7の処理を実行するCPU41は、本発明の縫製制御部の一例である。S35、S41、S46の処理を実行するCPU41は、本発明の判断部の一例である。S13、S14の処理を実行するCPU41は、本発明の基準設定部の一例である。S32、S33、S34、S39、S40の処理を実行するCPU41は、本発明の張力入手部の一例である。第一差分、第二差分は、本発明の変動上糸張力の一例である。S36、S37、S42、S43、S47、S48の処理を実行するCPU41は、本発明の記憶部の一例である。S38、S44、S49の処理を実行するCPU41は、本発明の報知部の一例である。
【0065】
上記実施形態のミシン1は、針棒14、針板11、釜47、天秤27、上糸保持機構80、張力検出器26、及びCPU41を備える。針棒14は、縫針15を装着する上下動可能である。針板11は、縫針15を挿通可能な針穴12が形成される。釜47は、針板11の下方に設けられ、縫針15に挿通する上糸57を捕捉して下糸64と絡める。天秤27は、釜47が下糸64と絡めた上糸57を引き上げる。上糸保持機構80は、縫製開始時に上糸57の上糸端部Uを針板11の下方で保持できる。張力検出器26は、上糸57の張力である上糸張力を検出する。CPU41は、針棒14、釜47、及び天秤27を駆動して、縫製物19に縫目を形成する(S7)。CPU41は、張力検出器26の検出結果に基づき、S7で開始した縫製による針棒14、釜47、及び天秤27の駆動に伴い、針棒14が一往復する一周期毎に変動する上糸変動張力を得る(S32、S33、S34、S39、S40)。CPU41は、得た縫製開始後二針目の縫製において変動する変動上糸張力と、一周期毎に変動する上糸張力の基準値である基準張力とを比較することで、上糸保持機構80が上糸端部Uを保持できなかった上糸保持不良が発生したかを判断する(S35、S41、S46)。ミシン1のS35、S41、S46を行うCPU41は、縫製開始直後に動作する上糸保持機構80を備えるミシン1において、作業者の負担を増やすこと無く、上糸保持機構80が上糸57を保持できたかを判断することに貢献する。
【0066】
CPU41は、縫製開始後二針目の一周期のうち、釜47が上糸57を捕捉する釜捕捉期間T2における変動上糸張力が、釜捕捉期間T2における基準張力以下となる時に、上糸保持不良が発生したと判断する(S41、S43)。針棒14が一往復する一周期のうち、釜捕捉期間T2における上糸張力は比較的大きい。ミシン1のS41、S43を行うCPU41は、上糸張力が比較的小さい期間の上糸張力を用いて判断を行う時に比べ、誤判断することを回避することに貢献する。
【0067】
CPU41は、縫製開始後二針目の一周期のうち、天秤27が上糸57を引き上げる天秤引上期間T1における変動上糸張力が、天秤引上期間T1における基準張力以下となる時に、上糸保持不良が発生したと判断する(S35、S37)。針棒14が一往復する一周期のうち、天秤引上期間T1における上糸張力は比較的大きい。ミシン1のS35、S37を行うCPU41は、上糸57の張力が比較的小さい期間の上糸張力を用いて判断を行う時に比べ、誤判断することを回避することに貢献する。
【0068】
CPU41は、縫製開始後二針目の一周期のうち、釜47が上糸57を捕捉する釜捕捉期間T2における変動上糸張力のピークが、釜捕捉期間T2における基準張力のピークよりも所定量以上異なる時期に出現した時に、上糸保持不良が発生したと判断する(S46、S48)。針棒14が一往復する一周期のうち、釜捕捉期間T2における上糸張力は比較的大きい。上糸保持不良が発生した時の釜捕捉期間T2における変動上糸張力のピークは、上糸保持不良が発生していない時のピークに比べて遅れて出現する傾向にある。故にミシン1の判断部は、上糸保持不良が発生した時の釜捕捉期間T2における変動上糸張力のピークと、基準張力のピークとを比較することで、上糸保持不良を好適に判断する貢献する。
【0069】
CPU41は、縫製開始後三針目以降の一周期において取得された上糸張力に基づき、基準張力を設定する(S13、S14)。ミシン1は基準張力を設定する際の作業者の手間を省くことに貢献する。ミシン1は実際の上糸張力に基づき基準張力を設定するので、使用する上糸57、布等の条件を含む縫製条件に合わせた基準張力を比較的簡単な処理で設定することに貢献する。
【0070】
CPU41は、縫製開始後二針目の一周期に張力検出器26が検出した検出結果と、縫製開始後一針目の一周期に張力検出器26が検出した検出結果との差分を算出し、算出された差分を変動上糸張力として得る(S34、S40)。CPU41は、S34、S40で算出した差分と基準張力とを比較することで、上糸保持不良が発生したかを判断する(S35、S41、S46)。ミシン1のS34、S40を行うCPU41は、張力検出器26の校正精度によらず、上糸保持不良が発生したかを適切に判断することに貢献する。
【0071】
ミシン1は、上糸保持不良かの判断結果を記憶する記憶装置45を有する(S36、S37、S42、S43、S47、S48)。CPU41は、記憶装置45に記憶された上糸保持不良かの判断結果を報知する(S38、S44、S49)。ミシン1のS38、S44、S49を行うCPU41は、ミシン1で縫製不良が発生した時に、原因を究明するのに有用な情報を報知することに貢献する。作業者は報知された情報に基づき、ミシン1の保守を適切に実行できる。
【0072】
本発明のミシンは上記実施形態の他に種々変更できる。ミシン1の構成は適宜変更されてよく、例えば、ミシン1は切断機構60、固定メス97、入力部16、表示部13の少なくとも何れかを備えなくてもよい。上糸保持機構80の構成は適宜変更されてよい。第一保持部材81、第二保持部材82の構成、形状、大きさ、配置等は適宜変更されてよい。第一保持部86と、第二保持部87は一体の部材であってもよいし、第二保持部材82は第二保持部87を備えず、第一保持部材81と第二保持部材82とで、上糸端部Uを上下に挟持してもよい。挿通部88、89は省略されてもよいし、挿通部88、89の平面形状は、例えば、上下方向に貫通する任意の形状の孔であってもよい。挿通部88、89は互いに同じ形状であってもよいし、互いに異なる形状であってもよい。第一保持部材81は、縫針15の通過を許容する、切欠き及び貫通孔等の挿通部が形成されてもよい。第一保持部86は、可動刃62と同一水平面上に設けられなくてもよい。第二保持部材82の位置は、待機位置Q1、保持位置Q2は適宜変更されてよい。第二保持部材82が待機位置Q1にある時、水平方向において、第二保持部材82は針穴12及び第一保持部材81と離隔してもよい。張力検出器26は、上糸57の張力に応じた検出結果を出力できればよく、構成及び配置は適宜変更されてよい。
【0073】
ミシン1が主処理を行う為の指令を含むプログラムはCPU41がプログラムを行う迄に、記憶装置45に記憶されればよい。従って、プログラムの取得方法、取得経路、プログラムを記憶する機器の夫々は適宜変更してもよい。CPU41が行うプログラムはケーブル又は無線通信を介して、他の装置から受信し、不揮発性の記憶装置に記憶してもよい。他の装置は例えば、PC、ネットワーク網を介して接続されるサーバを含む。
【0074】
ミシン1が行う処理の一部又は全部はCPU41とは別の電子機器(例えば、ASIC)が行ってもよい。ミシン1が行う処理は複数の電子機器(例えば、複数のCPU)が分散処理してもよい。ミシン1が行う処理の各ステップは必要に応じて順序の変更、ステップの省略、追加ができる。本発明の範囲はミシン1上で稼動しているオペレーティングシステム(OS)等が、CPU41の指令で各処理の一部又は全部を行う態様も含む。
【0075】
CPU41は、第一判断、第二判断、及び第三判断の中から選択された一又は二の判断を行ってもよい。CPU41は、天秤引上期間T1及び釜捕捉期間T2以外の期間の上糸張力に基づき、上糸保持不良かを判断してもよい。CPU41は、基準張力としての第一閾値、第二閾値を設定してもよく、S13、S14の処理は変更されてよい。CPU41はS32、S34の処理を省略し、S35では、S33で取得された上糸張力と、第一閾値とを比較して、上糸保持不良かを判断してもよい。同様にCPU41はS32、S40の処理を省略し、S41では、S39で取得された上糸張力と、第二閾値とを比較して、上糸保持不良かを判断してもよい。或いは、S32に代えて、張力検出器26の検出精度の個体差を是正する補正値が予めROM42や記憶装置45に記憶されており、その補正値を取り込むようにし、S34やS40ではその補正値との差分を取るようにしても良い。CPU41は、S45では、S39で取得された上糸張力のピークを特定し、S46では、S45で特定された釜捕捉期間T2の上糸張力のピークが、釜捕捉期間T2における基準張力のピークよりも所定量以上異なる時期に出現した時に、上糸保持不良が発生したと判断してもよい。CPU41は、上糸保持不良が発生したかの判断結果を記憶しなくてもよく、S38、S44、S49判断結果を報知する処理を行わなくてもよい。CPU41は、第一判断、第二判断、及び第三判断の判断結果の内の、二又は三の判断結果が不良であった時に、上糸保持不良が発生した判断結果を報知してもよい。
【0076】
ミシン1が固定メス97を備えない時、S10では、CPU41は上糸端部Uを解放する解放時機かを判断し、解放時機である時に、上糸保持機構80による上糸端部Uの保持を解放してもよい。この時CPU41は、上糸端部Uの保持を解放する処理として、第二保持部材82を待機位置Q1に移動させてもよい。切断機構60が下糸端部Dを解放する時機と、上糸端部Uを解放又は切断する時機とは互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0077】
上記の変形例は矛盾がない範囲で適宜組み合わされてもよい。本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ミシンの制御方法、上記方法を実現する為のコンピュータプログラム、及びそのコンピュータプログラムを記録した非一時的記録媒体等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 :ミシン
11 :針板
12 :針穴
14 :針棒
15 :縫針
26 :張力検出器
27 :天秤
45 :記憶装置
47 :釜
57 :上糸
64 :下糸
80 :上糸保持機構
T1 :天秤引上期間
T2 :釜捕捉期間