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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145846
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】拡張具
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/06 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61M25/06 550
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058381
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】小倉 健
(72)【発明者】
【氏名】小磯 智春
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA16
4C267AA28
4C267BB02
4C267BB08
4C267BB09
4C267BB38
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC20
4C267GG34
4C267HH08
(57)【要約】
【課題】血管以外の器官にも複数のガイドワイヤを効果的に挿入できる拡張具等を提供する。
【解決手段】拡張具としてのダイレータは、内視鏡経由で体内に挿入され、少なくとも先端部2Dにおいて造影性を有し、当該先端部2Dにテーパ形状の孔拡張部21が設けられるシャフトと、シャフト内に設けられ、第1ガイドワイヤ51が挿入され、先端に第1開口411を有する第1ルーメン41と、シャフト内に設けられ、第1ガイドワイヤ51と異なる第2ガイドワイヤ52が挿入され、先端に第2開口421を有する第1ルーメン41と異なる第2ルーメン42と、を備え、第2開口421は、第1開口411よりシャフトの基端側に位置する。シャフトと異なる造影性を有し、被造影時に第2開口421の位置を示す造影マーカを備える。造影マーカは、第1開口411と第2開口421の間の位置に設けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡経由で体内に挿入され、少なくとも先端部において造影性を有し、当該先端部にテーパ形状の孔拡張部が設けられるシャフトと、
前記シャフト内に設けられ、第1ガイドワイヤが挿入され、先端に第1開口を有する第1ルーメンと、
前記シャフト内に設けられ、前記第1ガイドワイヤと異なる第2ガイドワイヤが挿入され、先端に第2開口を有する前記第1ルーメンと異なる第2ルーメンと、
を備え、
前記第2開口は、前記第1開口より前記シャフトの基端側に位置する、
拡張具。
【請求項2】
前記シャフトと異なる造影性を有し、被造影時に前記第2開口の位置を示す造影マーカを備える、請求項1に記載の拡張具。
【請求項3】
前記造影マーカは、前記シャフトより高い造影性を有する、請求項2に記載の拡張具。
【請求項4】
前記造影マーカは、前記第1開口と前記第2開口の間の位置に設けられる、請求項2に記載の拡張具。
【請求項5】
前記造影マーカは、前記第1ルーメンに設けられる、請求項2に記載の拡張具。
【請求項6】
前記内視鏡は、消化管に挿入される、請求項1から5のいずれかに記載の拡張具。
【請求項7】
前記第1開口は、前記孔拡張部の先端に位置する、請求項1から5のいずれかに記載の拡張具。
【請求項8】
前記第2開口は、前記第1開口と異なる方向に開口している、請求項1から5のいずれかに記載の拡張具。
【請求項9】
前記第1開口は、前記シャフトの延在方向に開口しており、
前記第2開口は、前記延在方向と鋭角をなす方向に開口している。
請求項8に記載の拡張具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ダイレータとも呼ばれる拡張具等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、血管内への二本のガイドワイヤの挿入を支援するダイレータが開示されている。このダイレータは、穿刺針を通じて予め血管内に挿入されている第1ガイドワイヤが挿入される第1ルーメンと、当該第1ルーメンおよび当該第1ガイドワイヤを通じてダイレータが血管内に挿入された状態で第2ガイドワイヤが挿入される第2ルーメンと、を備える。ダイレータが抜去された後の血管内には、第1ガイドワイヤおよび第2ガイドワイヤの二本のガイドワイヤが残存し、カテーテル等の他の医療器具の血管内への挿入を支援する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-209319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血管は、穿刺によって皮膚から容易にアクセス可能で、かつ、それ自体がダイレータやガイドワイヤを案内するのに適した細い管状であることから、簡素なダイレータを使用できる。しかし、例えば、消化管を含む消化器系内への複数のガイドワイヤの挿入は難易度が高く、特許文献1のダイレータでは適切に行えない恐れがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、血管以外の器官にも複数のガイドワイヤを効果的に挿入できる拡張具等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の拡張具は、内視鏡経由で体内に挿入され、少なくとも先端部において造影性を有し、当該先端部にテーパ形状の孔拡張部が設けられるシャフトと、シャフト内に設けられ、第1ガイドワイヤが挿入され、先端に第1開口を有する第1ルーメンと、シャフト内に設けられ、第1ガイドワイヤと異なる第2ガイドワイヤが挿入され、先端に第2開口を有する第1ルーメンと異なる第2ルーメンと、を備える。第2開口は、第1開口よりシャフトの基端側に位置する。
【0007】
本態様の拡張具は、例えば消化器系内に内視鏡経由で挿入される。シャフトの少なくとも先端部が造影性を有するため、そこに設けられるテーパ形状の孔拡張部を造影または視認しながら、ガイドワイヤの挿入箇所である被拡張部に効果的に挿入できる。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、血管以外の器官にも複数のガイドワイヤを効果的に挿入できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ダイレータの全体的な外観を模式的に示す。
図2】シャフトの先端部の中心軸を含む模式的な断面図である。
図3】シャフトの断面を模式的に示す。
図4】ダイレータを使用した手技の一例としてのEUS-HGSの流れを示す。
図5】ダイレータを使用した手技の一例としてのEUS-HGSの流れを示す。
図6】ダイレータを使用した手技の一例としてのEUS-HGSの流れを示す。
図7】ダイレータを使用した手技の一例としてのEUS-HGSの流れを示す。
図8】ダイレータを使用した手技の一例としてのEUS-HGSの流れを示す。
図9】ダイレータを使用した手技の一例としてのEUS-HGSの流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態とも表す)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、本開示の実施形態に係るダイレータ1の全体的な外観を模式的に示す。ダイレータ1は、例えば、消化器系内への複数のガイドワイヤの挿入を支援する拡張具である。後述するように、本実施形態に係るダイレータ1は、消化器系における消化管としての胃から肝内胆管内への複数のガイドワイヤの挿入を支援するが、本開示に係る拡張具は、他の任意の器官(血管以外の器官が好適である)内への複数のガイドワイヤの挿入を支援するものでもよい。
【0013】
なお、本実施形態において「ダイレータ」という名称は、便宜的かつ広義に使用され、医療分野において一般的に「ダイレータ」と呼ばれている医療器具を包含するが、これに限定されるものではない。後述するように、本実施形態に係るダイレータ1は、主に、ガイドワイヤの挿入箇所(孔)を拡張するという機能と、複数のガイドワイヤを通すという機能と、を有するが、これらの主要な機能を発揮しうる医療器具であれば、名称に関わらず本実施形態における「ダイレータ」に包含される。例えば、カニューラまたはカニューレと呼ばれる管状の医療器具も、以上の主要な機能を発揮する態様で使用される場合には、本実施形態における「ダイレータ」に包含される。
【0014】
ダイレータ1は、管状のシャフト2と、シャフト2の基端部に設けられるポート部3と、を備える。ダイレータ1が体内に挿入されている状態では、シャフト2の先端部2Dは体内にあり、ポート部3(およびシャフト2の基端部2P)は体外にある。
【0015】
シャフト2は、基端部2Pと先端部2Dの間で延在する管(チューブ)である。可撓性を有するシャフト2は、後述する内視鏡や管状の器官(本実施形態の例では胆管)の形状に応じて変形しながら(案内されながら)、それらの内壁に沿って円滑に移動できる。シャフト2の先端部2Dには、テーパ形状の孔拡張部21が設けられる(すなわち、孔拡張部21は先端部2Dの(先端側の)一部を構成する)。孔拡張部21は、先端部2Dの先端(すなわち、シャフト2全体またはダイレータ1全体の先端)に設けられ、基端側から先端側に向かって径またはサイズ(断面積)が漸減する。
【0016】
このように先端が尖った孔拡張部21は、ガイドワイヤの挿入孔(例えば、後述するように、胃と肝内胆管の間に穿刺針によって開けられた孔)に挿入されることで、当該挿入孔を拡張する。シャフト2の先端部2Dは、孔拡張部21によって拡張した挿入孔を通じて、その先の器官内(本実施形態の例では肝内胆管内)に進入できる。このように、孔拡張部21によって拡張した挿入孔の先の器官内に進入可能なシャフト2の部分を、先端部2Dと定義してもよい。
【0017】
後述するように、シャフト2の先端部2Dが挿入孔の先の器官内にある状態で、当該先端部2Dを通じて当該器官内に追加的なガイドワイヤ(第2ガイドワイヤ)が挿入される。更に、このような(複数の)ガイドワイヤおよび孔拡張部21によって拡張された挿入孔を通じて、ステントやカテーテル等の他の医療器具を目的部位に効果的に案内できる。
【0018】
シャフト2の基端部2Pに連結されるポート部3は、後述する第1ガイドワイヤが挿入される第1ポート31と、後述する第2ガイドワイヤが挿入される第2ポート32と、を備える。後述するように、第1ポート31に挿入される第1ガイドワイヤは、当該第1ポート31と連通し、かつ、シャフト2内を基端部2Pから先端部2Dまで貫通する第1ルーメンを通じて、当該先端部2Dに設けられる第1開口まで案内される。また、第2ポート32に挿入される第2ガイドワイヤは、当該第2ポート32と連通し、かつ、シャフト2内を基端部2Pから先端部2Dまで貫通する第2ルーメンを通じて、当該先端部2Dに設けられる第2開口まで案内される。
【0019】
図2は、シャフト2の先端部2Dの中心軸(および、後述する二つのルーメン41、42の中心軸)を含む模式的な断面図である。シャフト2の先端部2Dは、先端側が前述のテーパ形状の孔拡張部21となっており、基端側が略一定の径またはサイズ(断面積)の直管部22となっている。
【0020】
シャフト2内には、基端部2Pおよび先端部2Dの間に亘って、第1ガイドワイヤ51が挿入される第1ルーメン41と、第1ガイドワイヤ51と異なる第2ガイドワイヤ52が挿入される第1ルーメン41と異なる第2ルーメン42と、が延在している。前述のように、第1ルーメン41は、シャフト2の基端部2Pまで延びて第1ポート31と繋がっており、第2ルーメン42は、シャフト2の基端部2Pまで延びて第2ポート32と繋がっている。
【0021】
第1ルーメン41は先端に第1開口411を有する。第2ルーメン42は先端に第2開口421を有する。第1開口411および第2開口421は、シャフト2の先端部2Dに設けられている。第2開口421は、第1開口411よりシャフト2の基端側(図2における右側)に位置する。図示の例では、第1開口411は、前述の孔拡張部21の先端(すなわち、先端部2Dまたはシャフト2全体の先端)に位置する。また、第2開口421は、孔拡張部21の基端部(すなわち、孔拡張部21における直管部22との境界の近傍)または当該基端部より基端側に位置する。
【0022】
第1開口411および第2開口421は、互いに異なる方向に開口している。図示の例では、孔拡張部21の先端に位置する第1開口411は、シャフト2の延在方向(図2における左右方向)に開口している。換言すれば、第1開口411の開口面の法線方向が、シャフト2の延在方向と実質的に一致している。また、孔拡張部21の基端部に位置する第2開口421は、シャフト2の延在方向(すなわち、第1開口411の開口方向)と鋭角θをなす方向に開口している。この鋭角θを実現するために、直管部22においては第1ルーメン41と同様にシャフト2の延在方向に延在する第2ルーメン42が、孔拡張部21と直管部22の境界の近傍において外周側(図2における下側)に曲がる。そして、シャフト2の延在方向(すなわち、第1ルーメン41の延在方向)に対して鋭角θで曲がった第2ルーメン42は、テーパ形状の孔拡張部21または直管部22の側面において開口する(第2開口421)。
【0023】
以上のような構成によって、第1ルーメン41内を通る第1ガイドワイヤ51は、孔拡張部21の先端に位置する第1開口411から、シャフト2の延在方向に沿ってダイレータ1外に出る。また、第2ルーメン42内を通る第2ガイドワイヤ52は、孔拡張部21の基端部の側面に位置する第2開口421から、シャフト2の延在方向と鋭角θをなす方向に沿ってダイレータ1外に出る。
【0024】
なお、第1ガイドワイヤ51および第2ガイドワイヤ52のそれぞれの径(直径)は任意であるが、後述するように、穿刺針を通じて先に体内に挿入される第1ガイドワイヤ51の径を比較的小さく、ダイレータ1を通じて後に体内に挿入される第2ガイドワイヤ52の径を比較的大きくするのが好ましい。例えば、第1ガイドワイヤ51として、医療用として一般的な0.018インチの小径のガイドワイヤが使用され、第2ガイドワイヤ52として、医療用として一般的な0.025インチの大径のガイドワイヤが使用される。なお、第1ガイドワイヤ51の径および第2ガイドワイヤ52の径は等しくてもよいし(例えば、共に0.025インチ)、第1ガイドワイヤ51の径が第2ガイドワイヤ52の径より大きくてもよい。
【0025】
後述するように、内視鏡経由で体内に挿入されるシャフト2は、少なくとも先端部2Dにおいて造影性を有する。ここで、造影性とは、X線撮影、核磁気共鳴画像法(MRI: Magnetic Resonance Imaging)、コンピュータ断層撮影(CT: Computed Tomography)等の任意の医療用の画像構成技術によって構成される画像において、他の物と識別可能な態様で可視化される性質を意味する。例えば、X線撮影における造影性をシャフト2に付与するためには、X線を遮蔽するヨウ素化合物、バリウム化合物、ビスマス化合物、ガドリニウム化合物、金等をシャフト2の構成材料に混ぜればよい。このような造影性は、特に、シャフト2全体の先端に位置する孔拡張部21を所望の箇所(例えば、前述の挿入孔)に導く際に有用である。そこで、造影性は、孔拡張部21の少なくとも一部、好ましくは全体に付与される。一方、シャフト2のうち、孔拡張部21より基端側の直管部22は、最低限の造影性を有することが好ましいものの、必ずしも全体が造影性を有する必要はなく、あるいは、全く造影性を有しなくてもよい。
【0026】
更に、ダイレータ1には、シャフト2と異なる造影性を有し、被造影時に第2開口421の位置を示す造影マーカ6が設けられる。ここで、「造影マーカ6がシャフト2と異なる造影性を有する」とは、任意の医療用の画像構成技術によって構成される画像において、造影マーカ6がシャフト2と識別可能な態様で可視化されることを意味する。画像において第2開口421の位置を強調するために、造影マーカ6はシャフト2より高い造影性を有するのが好ましい。例えば、X線撮影によって造影が行われる場合、造影マーカ6におけるヨウ素化合物、バリウム化合物、ビスマス化合物、ガドリニウム化合物、金、白金イリジウム合金、タングステン等のX線遮蔽物の濃度を、シャフト2より高くすることで高い造影性を造影マーカ6に付与できる。なお、造影マーカ6がシャフト2より低い造影性を有する場合であっても、画像において両者が識別可能であれば問題ない。
【0027】
造影マーカ6は、シャフト2における第1開口411と第2開口421の間の位置に設けられる。前述のように、第2開口421はシャフト2の延在方向と鋭角θをなす方向に開口しているため、第2ガイドワイヤ52の先端が斜め前方にダイレータ1外に出る実質的な位置は、第2開口421の実際の位置より先端側にあるように医師等のダイレータ1の操作者には知覚される。そこで、造影マーカ6の少なくとも先端を第2開口421の実際の位置より敢えて先端側に配置することで、医師等のダイレータ1の操作者が第2ガイドワイヤ52の実質的な先端位置または操作位置を造影マーカ6によって正しく認識できるため、第2ガイドワイヤ52の操作精度または手技精度を高められる。
【0028】
各種の手技精度を高めるために、第2開口421の位置と造影マーカ6の位置の間の延在方向の距離dは、第2開口421の開口方向が延在方向となす鋭角θに応じて設定されるのが好ましい。距離dと鋭角θは概ね逆相関の関係とするのが好ましく、鋭角θが大きくなるほど距離dは小さくなり、鋭角θが小さくなるほど距離dは大きくなる。具体的には、後述するEUS-HGSや同様の手技にとって、鋭角θは、0.5度と10度の間とするのが好ましく、1度と5度の間とするのが更に好ましい。また、この場合の距離dは、第2開口421の基端部から1mmと5mmの間とするのが好ましく、1mmと3mmの間とするのが更に好ましい。
【0029】
鋭角θは、第1開口411から出た直後の第1ガイドワイヤ51の延在方向または接線方向と、第2開口421から出た直後の第2ガイドワイヤ52の延在方向または接線方向がなす角度と解釈されてもよい。すなわち、第1開口411から出た直後の第1ガイドワイヤ51と、第2開口421から出た直後の第2ガイドワイヤ52が鋭角θをなす異なる方向に延在している場合、第1開口411と第2開口421は鋭角θをなす異なる方向に開口していると解釈されうる。ここで、第1ガイドワイヤ51および第2ガイドワイヤ52のなす鋭角θを測定する場合、シャフト2は水平方向または鉛直方向に配置されるのが好ましい。
【0030】
造影マーカ6は、第2開口421から先端側に距離dだけ離れた位置に、任意の態様で設けられる。例えば、造影マーカ6は、第2開口421より先端側に延在する第1ルーメン41の内壁に沿って環状に設けられてもよい。なお、造影マーカ6は、前述のように造影性を有するシャフト2において、他の部分と造影性が異なる部分(好ましくは、他の部分より造影性が高い部分)として構成されてもよい。また、造影マーカ6は、シャフト2の外周面に埋め込まれてもよい。
【0031】
図3は、図2のA-A断面図であり、シャフト2(直管部22)の断面を模式的に示す。シャフト2は、例えば、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、オレフィン系樹脂等によって構成される。ガイドワイヤやステント等の挿入孔を拡張するというダイレータ1の主要な機能を発揮するために、シャフト2の構成材料は比較的高い硬さを有するのが好ましい。例えば、硬さを表すパラメータとしてのショアD硬度の好ましい範囲は50Dと95Dの間であり、より好ましい範囲は63Dと75Dの間であり、更に好ましい範囲は69Dと72Dの間である。
【0032】
シャフト2の断面は略円状であり、径(直径)は例えば2.45mmである。0.018インチ(約0.46mm)の径の第1ガイドワイヤ51が通る第1ルーメン41と、0.025インチ(約0.64mm)の径の第2ガイドワイヤ52が通る第2ルーメン42は、各ガイドワイヤ51、52が適切に通れる限り異なる任意の径を有していてもよいが、本図の例では同じ径(例えば、0.8mm)を有している。
【0033】
第1ルーメン41および第2ルーメン42は、シャフト2の中心軸からずれた位置に設けられる。なお、図2に示されるように、第2ルーメン42の第2開口421より先端側の孔拡張部21では、シャフト2内に第1ルーメン41のみが延在しており、その中心が図3(A-A断面)に比べてシャフト2の中心軸の近くに配置される。
【0034】
シャフト2の中心、第1ルーメン41の中心、第2ルーメン42の中心は、例えば、一直線上(図3における上下方向の一直線上)に配置されている。また、第1ルーメン41および第2ルーメン42は、シャフト2の中心に関して点対称に配置されている。例えば、第1ルーメン41の位置を時計の「0時(12時)」の位置とした場合、第2ルーメン42は「6時」の位置にある。
【0035】
続いて、以上のような構成を有するダイレータ1を使用した手技の一例として、EUS-HGS(EUS-hepaticogastrostomy:超音波内視鏡胃胆管吻合)の流れを示す。EUS-HGSは、超音波内視鏡(endoscopic ultrasound)を使用して、胃と肝内胆管を接続する瘻孔を形成した上でステントを留置する手技である。
【0036】
図4では、消化管としての胃Gに挿入された超音波内視鏡7の先端部から穿刺針71が送り出されている。穿刺針71は、胃Gと肝内胆管Hを接続する瘻孔を開ける。そして、0.018インチの径の第1ガイドワイヤ51が、穿刺針71を通じて肝内胆管H内に挿入される。その後、図5に示されるように穿刺針71が抜去される。この状態では、超音波内視鏡7の先端部から送り出された第1ガイドワイヤ51が、胃Gに開けられた瘻孔を通じて肝内胆管H内まで延びている。
【0037】
図6では、ダイレータ1のシャフト2が、超音波内視鏡7経由で胃Gの内部(体内)に挿入される。シャフト2は、その第1ルーメン41内を既存の第1ガイドワイヤ51が通るように、当該第1ガイドワイヤ51の体外の基端(不図示)から挿入される。換言すれば、シャフト2は、既存の第1ガイドワイヤ51(および超音波内視鏡7)によって案内されて胃Gの内部に入り、更にはダイレータ1による拡張対象である胃Gに開けられた瘻孔に導かれる。そして、ダイレータ1の先端部に設けられたテーパ形状の孔拡張部21が、瘻孔内に進入することによって当該瘻孔が拡張される。本実施形態では、シャフト2の少なくとも孔拡張部21(先端部2D)が造影性を有するため、X線撮影等によって当該孔拡張部21を造影または視認しながら、被拡張部としての瘻孔に効果的に挿入できる。
【0038】
図7では、シャフト2の先端部2Dが、孔拡張部21によって拡張した瘻孔を通じて肝内胆管H内に進入している。この状態で、シャフト2の第2ルーメン42の体外の基端(不図示)から、第2ガイドワイヤ52が挿入される。第2ガイドワイヤ52は、第2ルーメン42によって案内されて、その先端の第2開口421から肝内胆管Hの内部に導かれる。本実施形態では、被造影時に第2開口421の位置を示す造影マーカ6が設けられるため、X線撮影等によって当該第2開口421から第2ガイドワイヤ52が出る位置を造影または視認しながら、肝内胆管H内の適切な位置で第2ガイドワイヤ52を導入できる。
【0039】
その後、図8に示されるようにシャフト2が抜去される。この状態では、超音波内視鏡7の先端部から送り出された第1ガイドワイヤ51および第2ガイドワイヤ52が、胃Gに開けられた瘻孔を通じて肝内胆管H内まで延びている。続く図9では、ステント8が、超音波内視鏡7および既存の二本のガイドワイヤ51、52を通じて、目的部位である胃Gと肝内胆管Hを接続する瘻孔まで導かれる。
【0040】
瘻孔がダイレータ1(孔拡張部21)によって拡張されているため、収縮状態のステント8(不図示)を円滑に瘻孔内に挿入できる。瘻孔内に挿入されたステント8の先端部が肝内胆管H内にあり基端部が胃G内にある状態で、図示のようにステント8を拡張させることによって、胃Gと肝内胆管Hがステント8によって接続される。その後、二本のガイドワイヤ51、52および超音波内視鏡7が体外に抜去されることで、ステント8のみが体内に留置される(不図示)。
【0041】
図9において、二本のガイドワイヤ51、52のうち一方のガイドワイヤがステント8から抜けてしまった場合でも、セーフティワイヤとして機能する他方のガイドワイヤを使用して手技を継続できる。このため、胃への再穿刺を伴う手技のやり直しを回避できる。胃への再穿刺は、胃から腹腔に落ちる胃酸の量の増加に繋がるため、腹膜炎等の合併症を引き起こしうる。従って、複数のガイドワイヤ51、52によって手技の安定性を高めた本実施形態によれば、合併症のリスクを最小限に抑えられる。
【0042】
また、本実施形態に係るダイレータ1は、超音波内視鏡7経由で体内の奥に挿入されるため、例えば、血管用のダイレータと比べて挿入量が大きくなる。更に、造影を通じて、瘻孔等の被拡張部とダイレータ1の位置関係を精緻に把握する必要があるため、血管への単純なアクセスと比較して手技の難易度が非常に高い。本実施形態によれば、ダイレータ1のシャフト2自体が造影性を有すると共に、第2開口421の位置を示す造影マーカ6が設けられるため、上述のように難易度の高い手技の安定性を高められる。
【0043】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0044】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 ダイレータ、2 シャフト、2D 先端部、2P 基端部、6 造影マーカ、7 超音波内視鏡、8 ステント、21 孔拡張部、22 直管部、41 第1ルーメン、42 第2ルーメン、43L、43R 第3ルーメン、51 第1ガイドワイヤ、52 第2ガイドワイヤ、411 第1開口、421 第2開口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡経由で体内に挿入され、少なくとも先端部において造影性を有し、当該先端部にテーパ形状の孔拡張部が設けられるシャフトと、
前記シャフト内に設けられ、第1ガイドワイヤが挿入され、先端に第1開口を有する第1ルーメンと、
前記シャフト内に設けられ、前記第1ガイドワイヤと異なる第2ガイドワイヤが挿入され、先端に第2開口を有する前記第1ルーメンと異なる第2ルーメンと、
を備え、
前記第2開口は、前記第1開口より前記シャフトの基端側に位置
前記シャフトと異なる造影性を有し、被造影時に前記第2開口の位置を示す造影マーカを備え、
前記造影マーカは、前記第1開口と前記第2開口の間であって、当該第2開口から先端側に所定の距離だけ離れた位置に設けられる、
拡張具。
【請求項2】
前記造影マーカは、前記シャフトより高い造影性を有する、請求項に記載の拡張具。
【請求項3】
前記造影マーカは、前記第1ルーメンに設けられる、請求項に記載の拡張具。
【請求項4】
前記造影マーカは、前記シャフトの外周面に埋め込まれる、請求項1に記載の拡張具。
【請求項5】
前記内視鏡は、消化管に挿入される、請求項1からのいずれかに記載の拡張具。
【請求項6】
前記第1開口は、前記孔拡張部の先端に位置する、請求項1からのいずれかに記載の拡張具。
【請求項7】
前記第2開口は、前記第1開口と異なる方向に開口している、請求項1からのいずれかに記載の拡張具。
【請求項8】
前記第1開口は、前記シャフトの延在方向に開口しており、
前記第2開口は、前記延在方向と鋭角をなす方向に開口している
請求項に記載の拡張具。