(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145848
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/195 20060101AFI20241004BHJP
C03C 10/08 20060101ALI20241004BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20241004BHJP
H01F 17/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B35/195
C03C10/08
H01F17/00 D
H01F17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058383
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梅田 秀信
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 聖樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 香
(72)【発明者】
【氏名】榎本 奈美
【テーマコード(参考)】
4G062
5E070
【Fターム(参考)】
4G062AA11
4G062BB01
4G062MM23
4G062MM27
4G062MM28
4G062MM31
4G062MM34
4G062NN33
4G062NN40
4G062QQ15
4G062QQ16
5E070AA01
5E070AB06
5E070CA06
(57)【要約】
【課題】低誘電率、高強度、高Q値の両立を実現することが可能な電子部品を提供すること。
【解決手段】ガラスセラミックス焼結体を含む電子部品である。ガラスセラミック焼結体は、コージェライト相およびインディアライト相の少なくとも一方を含む主相粒子と、主相粒子を覆うように存在するフォルステライト相を含む被覆層と、を有する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックス焼結体を含む電子部品であって、
前記ガラスセラミック焼結体は、
コージェライト相およびインディアライト相の少なくとも一方を含む主相粒子と、
前記主相粒子を覆うように存在するフォルステライト相を含む被覆層と、を有する電子部品。
【請求項2】
前記主相粒子が、前記インディアライト相である請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記主相粒子の粒子サイズは、0.35μm以上である請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項4】
前記被覆層の厚みは0.02μm以上である請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項5】
前記被覆層はウィレマイト相を含む請求項1または2に記載の電子部品
【請求項6】
前記被覆層におけるフォルステライト相とウィレマイト相との合計面積に対するウィレマイト相の面積割合が、1~73%である請求項5記載の電子部品。
【請求項7】
前記被覆層はCeまたはCuを含有する請求項1または2に記載の電子部品。
【請求項8】
ガラスセラミックス焼結体を含む電子部品であって、
前記ガラスセラミック焼結体は、
Si、MgおよびAlを主成分として含む複合酸化物を含む主相粒子と、
前記主相粒子を覆うように存在し、Mg、SiおよびZnを主成分として含む複合酸化物を含む被覆層と、を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばガラスセラミックス焼結体を含む電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ、インダクタ、あるいは基板などの電子部品に用いられるセラミックにおいては、内部導体と端子間に発生する浮遊容量を低減するため、低誘電率(ε)の材料(たとえば特許文献1などの組成物)を用いることが一般的である。
【0003】
近年の電子部品は、第5世代移動通信システムの発達により高周波特性が求められている。高周波特性が求められている電子部品は、浮遊容量によるノイズか懸念されるため、さらなる低誘電率化が要求されている。また近年では、電気自動車の発達により、低誘電率化と共に部品強度の向上が求められている。しかし、上記の特性を向上させるためコアとなる材料の組成の開発は進んでいるが、セラミック焼結体として用いる場合に、低誘電率、高強度、高Q値の両立は、依然として困難であり、生産化には至っていないことが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、低誘電率、高強度、高Q値の両立を実現することが可能な電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の好ましい態様に係る電子部品は、
ガラスセラミックス焼結体を含む電子部品であって、
前記ガラスセラミック焼結体は、
コージェライト相およびインディアライト相の少なくとも一方を含む主相粒子と、
前記主相粒子を覆うように存在するフォルステライト相を含む被覆層と、を有する。
【0007】
この態様に係る電子部品では、低誘電率、高強度、高Q値の両立を実現することが可能になる。その理由としては必ずしも明らかではないが、たとえば以下のように推測される。一般的に、コージェライト相およびインディアライト相、特にインディアライト相は、フォルステライト相に比較して、熱膨張係数が相対的に低い。したがって、熱膨張率が相対的に低い主相粒子を、熱膨張率が相対的に高い被覆層が覆うことで、主相粒子に応力がかかり続け、外部から応力をかけた際にクラックが進展しにくいため、低誘電率と高強度を両立することができると共に、Q値も高い状態を維持することができると考えられる。
【0008】
また、本発明の好ましい他の態様に係る電子部品は、
ガラスセラミックス焼結体を含む電子部品であって、
前記ガラスセラミック焼結体は、
Si、MgおよびAlを主成分として含む複合酸化物を含む主相粒子と、
前記主相粒子を覆うように存在し、Mg、SiおよびZnを主成分として含む複合酸化物を含む被覆層と、を有する。
【0009】
たとえば、コージェライト相またはインディアライト相となるように、Si、MgおよびAlを主成分として含む複合酸化物は、フォルステライト相となるようにMg、SiおよびZnを主成分として含む複合酸化物に比較して、熱膨張係数が相対的に低い。したがって、熱膨張率が相対的に低い主相粒子を、熱膨張率が相対的に高い被覆層が覆うことで、主相粒子に応力がかかり続け、外部から応力をかけた際にクラックが進展しにくいため、低誘電率と高強度を両立することができると共に、Q値も高い状態を維持することができると考えられる。
【0010】
好ましくは、主相粒子が、インディアライト相である。コージェライトに比較してインディアライトの方がQ値が高いことから、低誘電率と高強度を両立することができると共に、Q値がさらに向上する。
【0011】
好ましくは、主相粒子の粒子サイズは、0.35μm以上である。粒子サイズが大きくなるほど、電子部品の強度が向上する傾向にあるが、粒子サイズが大きすぎる場合には、Q値が低下する傾向にあると共に誘電率が上昇する傾向にある。
【0012】
好ましくは、被覆層の厚みは0.02μm以上である。
【0013】
被覆層の厚み(たとえばフォルステライト量に対応/またはMg、SiおよびZnを主成分として含む複合酸化物の量に対応)が適切な範囲に保たれることで、被覆層から主相粒子への応力が適切な範囲に保たれ、クラックの発生を抑止することができると考えられる。さらに、被覆層の厚みを適正範囲内に保つことで、電子部品の強度が向上する。これは、主相粒子に加わる圧縮応力が適正に保たれ、強度が向上すると考えられる。
【0014】
好ましくは、被覆層は、フォルステライト相(あるいはMg、SiおよびZnを主成分として含み、Znに比較してMgが多い複合酸化物/以下同様)と共に、ウィレマイト相(あるいはMg、SiおよびZnを主成分として含み、Mgに比較してZnが多い複合酸化物/以下同様)を含んでもよい。被覆層の一部をウィレマイト相で構成することで、誘電率を低くし、Q値を高くすることが可能となる。
【0015】
好ましくは、被覆層におけるフォルステライト相とウィレマイト相との合計面積に対するウィレマイト相の面積割合は、好ましくは0~73%、1~73%、あるいは7~70%である。ウィレマイト相が多過ぎると強度が低下するとともに、熱膨張率が低下して電極(たとえばAg)との同時焼成が困難になる傾向にある。
【0016】
好ましくは、前記被覆層はCeまたはCuを含有する。被覆層の一部に、CeまたはCuを含有することで強度が高くなる。これらの元素は、フィラーの粒子として焼結体に含まれるのではなく、被覆層または主相粒子の表面に拡散していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品としてのチップコイルの断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施例に係るガラスセラミックス焼結体の断面の一部をSTEM-EDSで分析した画像である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の比較例に係るガラスセラミックス焼結体の断面の一部をSTEM-EDSで分析した画像である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施例に係るガラスセラミックス焼結体の断面の一部をXRDで分析した画像である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の比較例に係るガラスセラミックス焼結体の断面の一部をXRDで分析した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態のみには限定されない。また、以下に示す構成要素には、当業者が容易に想定できる変形または類似物が含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
(コイル電子部品)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品として、チップコイル1は、セラミックス層2と、内部電極層3とがZ軸方向に交互に積層してあるチップ素体4を有する。
【0020】
各層毎の内部電極層3は、Z軸方向から見てリング状(円形、楕円形または多角形)またはC字形状を有し、隣接するセラミックス層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30を構成している。
【0021】
チップ素体4のY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5が形成してある。各端子電極5には、スパイラル状に連続しているコイル導体30からY軸に沿って相互に反対側に引き出されている引出電極3a、3bの端部が接続してある。すなわち、各端子電極5は、閉磁路コイル(巻線パターン)を構成するコイル導体30の両端に接続される。
【0022】
本実施形態では、セラミックス層2および内部電極層3の積層方向がZ軸に一致し、素子本体4の上下面がXY平面に平行になり、端子電極5が形成されるY軸に沿って対向する端面がXZ平面に平行になる。なお、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
図1に示す積層チップコイル1では、コイル導体30の巻回軸が、Z軸に略一致する。
【0023】
チップ素体4の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、たとえばX軸寸法は0.1~0.8mm、Y軸寸法は0.2~1.6mm、Z軸寸法は0.1~1.0mmである。
【0024】
また、セラミックス層2の電極間厚みおよびベース厚みには特に制限はなく、電極間厚み(内部電極層3および3の間隔)は2~50μm、ベース厚み(コイル導体30のZ軸端からチップ素体4の上下面までの距離)は5~300μm程度で設定することができる。
【0025】
本実施形態では、端子電極5としては、特に限定されず、素体4の外表面にAgやPdなどを主成分とする導電性ペーストを付着させた後に焼付け、さらに電気めっきを施すことにより形成される。電気めっきには、Cu、Ni、Snなどを用いることができる。
【0026】
コイル導体30は、好ましくはAg(Agの合金含む)を含み、たとえばAg単体、Ag-Pd合金などで構成される。また、コイル導体の副成分として、Cu、Zr、Si、Al、Ti、Mgおよびそれらの酸化物を含むことができる。
【0027】
セラミックス層2は、本発明の一実施形態に係るガラスセラミックス焼結体で構成してある。以下、ガラスセラミックス焼結体について詳細に説明する。
【0028】
(ガラスセラミックス焼結体)
図2Aに示すSTEM-EDSの断面画像に示すように、セラミック層2を構成する本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、結晶粒子である主相粒子2a1と、主相粒子2a1を覆うように存在する被覆層2b1および補助被覆層2c1と、を有する。なお、「主相粒子2a1を覆うように存在する」とは、断面画像において、主相粒子2a1を完全に覆うように存在する必要はなく、主相粒子2a1の周囲を50%以上覆うように存在していればよく、あるいは80%以上覆うように存在していてもよい。
【0029】
本実施形態では、主相粒子2a1は、Si、MgおよびAlを主成分として含む複合酸化物で構成してあり、その他の成分として、Zn、Zr、Ce、Cu、B、Ca、Sr、Ba、Li、Na、Kなどの酸化物などを含んでもよい。なお、本実施形態において、「主成分して含まれる元素」とは、主成分として含まれる各元素の酸化物換算の含有割合が、10質量%(またはモル%/以下同様)以上の元素を意味している。
【0030】
本実施形態では、主相粒子2a1は、コージェライト相またはインディアライト相で構成してあり、好ましくはインディアライト相で構成してある。主相粒子2a1が、コージェライト相またはインディアライト相で構成してあるか否かは、たとえばSTEM-EDSの結果(たとえば
図2Aまたは
図2B)とXRDの分析(たとえば
図3Aまたは
図3B)から求めることができる。
【0031】
主相粒子2a1の粒子サイズは、好ましくは0.35μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上、あるいは0.55μm以上であり、好ましくは、2.2μm以下、2.15μm以下、2.0μm以下、あるいは1.9μm以下である。粒子サイズが大きくなるほど、電子部品としてのチップコイル1の強度が向上する傾向にあるが、粒子サイズが大きすぎる場合には、Q値が低下する傾向にあると共に誘電率が上昇する傾向にある。高周波対応のチップコイル1では、誘電率は低いことが好ましい。
【0032】
主相粒子2a1の粒子サイズは、たとえばSEMの断面画像から各主相粒子2a1の面積を求め、その面積を持つ仮想真円の直径を、粒子サイズとし、ランダムに選択した300個以上の主相粒子2a1の平均として求めることができる。なお、SEMの断面画像の観察倍率は、2,000~10,000倍で1視野に主相粒子が300個以上含まれるように適宜調整する。
【0033】
本実施形態では、被覆層2b1は、フォルステライト相で構成してあるが、ウィレマイト相で構成してある補助被覆層2c1を含んでいてもよい。被覆層2b1は、Mg、SiおよびZnを主成分として含み、Znに比較してMgが多い複合酸化物で構成してあると言うこともできる。被覆層2b1は、その他の成分として、Al、Zr、Ce、Cu、B、Ca、Sr、Ba、Li、Na、Kなどの酸化物などを含んでもよい。
【0034】
また、補助被覆層2c1は、Mg、SiおよびZnを主成分として含み、Mgに比較してZnが多い複合酸化物で構成してあると言うこともできる。この補助被覆層2c1は、その他の成分として、被覆層2b1と同様なその他の成分の酸化物を含んでもよい。被覆層2b1(2c1)の一部に、CeまたはCuを含有することで電子部品の強度が高くなる。これらの元素は、フィラーの粒子として焼結体に含まれるのではなく、被覆層2b1(2c1)または主相粒子2a1の表面に拡散していると考えられる。
【0035】
フォルステライト相で構成してある被覆層2b1が、ウィレマイト相で構成してある補助被覆層2c1を含むことで、誘電率を低くし、Q値を高くすることが可能となる。
【0036】
被覆層2b1(補助被覆層2c1も含む/以下同様)の厚みは、好ましくは、0.02μm以上、0.025μm以上、あるいは0.05μm以上であり、好ましくは0.6μm以下、0.55μm以下、あるいは0.5μm以下である。
【0037】
被覆層2b1の厚み(たとえばフォルステライト量に対応/またはMg、SiおよびZnを主成分として含む複合酸化物の量に対応)が適切な範囲に保たれることで、被覆層2b1の熱膨張率が適切な範囲に保たれ、クラックの発生を抑止することができると考えられる。また、たとえば内部電極相(たとえばAg)3との同時焼成も容易になる。さらに、被覆層2b1の厚みを適正範囲内に保つことで、チップコイル1の強度が向上する。これは、主相粒子2a1に加わる圧縮応力が適正に保たれ、強度が向上すると考えられる。
【0038】
なお、被覆層2b1の厚みは、たとえば
図2Aに示すSTEM-EDSで得られた画像から、主相粒子2a1とコントラストが相違して主相粒子2a1を囲むように延びる部分の厚さを50点以上測定し、その平均値を被覆層2b1および補助被覆層2c1の厚さとすることができる。このとき、観察倍率は5,000~20,000倍とし、1視野中に主相粒子が30個以上含まれるように適宜調整する。なお、本実施形態では、被覆層2b1および補助被覆層2c1により周囲が50%以上で覆われている主相粒子2a1は、7.5μm×7.5μmの範囲内のセラミック焼結体の断面画像内に、好ましくは30個以上、あるいは20個以上で存在している。
【0039】
あるいは、たとえば
図2Aと同様にしてSTEM-EDSで測定したMgの元素分布から、主相粒子2a1を被覆している部分のMg層の厚さを50点以上測定し、その平均値を被覆層2b1の厚さとしてもよい。なお、Mgは、フォルステライト相から成る被覆層2b1を構成している主成分の元素の内で、一番多く含まれる元素である。また、ウィレマイト相から成る補助被覆層2c1の厚みに関しては、
図2Aと同様にしてSTEM-EDSで測定したZnの元素分布から、主相粒子2a1を被覆している部分のZn層の厚さを50点以上測定し、その平均値を補助被覆層2c1の厚さとしてもよい。なお、Znは、ウィレマイト相から成る補助被覆層2c1を構成している主成分の元素の内で、一番多く含まれる元素である。
【0040】
図2Aに示すように、セラミック層を構成するセラミック焼結体には、その他の粒子として、第1副相粒子2d1および第2副相粒子2e1などが含まれていてもよい。第1副相粒子2d1は、Ce酸化物および/またはCu酸化物で主として構成してあり、被覆層2b1または補助被覆層2c1の一部として存在していることが好ましい。第1副相粒子2d1におけるCeおよび/またはCuの含有割合は、酸化物換算で、たとえば95質量%以上、あるいは97質量%以上であり、その他の成分として、たとえばSi、ZnおよびAlなどの酸化物が5質量%未満、あるいは3質量%未満で含まれていてもよい。
【0041】
第2副相粒子2e1は、Si酸化物で主として構成してあり、被覆層2b1または補助被覆層2c1の一部として存在していてもよい。第2副相粒子2e1におけるSiの含有割合は、酸化物換算で、たとえば95質量%以上、あるいは97質量%以上であり、その他の成分として、たとえば、Mg、Zn、AlおよびCeなどの酸化物が5質量%未満、あるいは3質量%未満で含まれていてもよい。第2副相粒子2e1は、SiO2単体からなるフィラー、Al2O3単体からなるフィラー、もしくはそれらの複合酸化物からなるフィラーとして含まれていてもよい。
【0042】
本実施形態では、STEM-EDSの1視野内に主相粒子2a1が30個以上含まれる場合における主相粒子2a1の1視野内の面積割合は、好ましくは30~70%、あるいは40~60%である。
【0043】
また、同様な条件で、被覆層2b1と補助被覆層2c1との合計の面積比率(1視野を100%として)は、特に限定されないが、主相粒子2a1の面積比率よりも小さく、好ましくは15~45%、あるいは20~40%程度である。また、被覆層2b1と補助被覆層2c1の合計面積に対する補助被覆層2c1の面積割合は、好ましくは0~73%、1~73%、あるいは7~70%である。ウィレマイト相から成る補助被覆層2c1が多過ぎると強度が低下するとともに、熱膨張率が低下して電極(たとえばAg)との同時焼成が困難になる傾向にある。
【0044】
また、同様な条件で、第1副相粒子2d1の1視野内の面積割合は、好ましくは1%以下、あるいは0.5%以下、あるいは0.3%以下である。また、同様な条件で、第2副相粒子2e1の1視野内の面積割合は、好ましくは15%以下、あるいは13%以下である。
【0045】
(製造方法)
次に、
図1に示すチップコイル1の製造方法について説明する。まず、
図1に示す内部電極層3となるAgなどを含む導体ペーストを準備する。導体ペーストは、公知の方法により作成することができる。
【0046】
導体ペーストとは別に、
図1に示すセラミック層2を構成するガラスセラミック焼結体の原料を含むセラミックペーストを準備する。セラミックペーストには、焼成後に上述した組成と結晶構造を有するガラスセラミック焼結体となる原料が含まれている。ガラスセラミック焼結体となる原料としては、特に限定されないが、たとえば
図2Aに示す主相粒子2a1および被覆層2b1に含まれる金属元素と、必要に応じて、補助被覆層2c1および/または副相粒子2d1、2e1に含まれる金属元素と、を含む各種酸化物、各種化合物、あるいは単一または複数のガラス組成物などが例示される。
【0047】
たとえば原料としての単一種類または複数種類のガラス組成物を粉砕し、その他の酸化物粉末、焼結助剤、フィラーなどを添加し、さらに、バインダーと溶剤とともに混練することで、セラミックペーストを得ることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、ガラス組成物に含まれるZnの量を制御することなどで、
図2Aに示す被覆層2b1と補助被覆層2c1の合計面積に対する補助被覆層2c1の面積割合を制御することができる。たとえばZnの量を増やすことで、補助被覆層2c1の面積割合を大きくすることができる。
【0049】
また、たとえばフィラーとして、比表面積が大きい(たとえばSSAが5m2 /g以上)CeO2 および/またはCuOなどを少量添加することなどで、被覆層2b1や補助被覆層2c1にCeおよび/またはCuを含ませることができる。なお、フィラーの一部は、副相粒子2d1を生成することもある。また、フィラーとしてのシリコン酸化物は、副相粒子2e1を生成することになると共に、一部は、被覆層2b1や補助被覆層2c1に拡散すると考えられる。
【0050】
次に、上述したセラミックペーストと導体ペーストとを、たとえば交互に印刷し、異なる層間の導体ペーストのバターンをスルーホールまたは段差で接続し、スパイラル状の導体パターンをセラミックペースト層の積層体の内部に形成する。次に、必要に応じて、積層体をプレスし、所定サイズに切断して、グリーンチップを得て、グリーンチップを焼成することで、
図1に示すチップ素体4を形成することができる(印刷法)。
【0051】
あるいはセラミックスペーストを用いてグリーンシートを作製し、グリーンシートの表面に内部電極ペーストを印刷し、それらを積層して焼成することでチップ素体4を形成しても良い(シート法)。いずれにしても、チップ素体4を形成した後に、端子電極5を焼き付けあるいはメッキなどで形成すれば良い。
【0052】
セラミックスペースト中のバインダーおよび溶剤の含有量には制限はなく、たとえば、セラミックペースト全体の合計を100質量%として、バインダーの含有量は5~25質量%、溶剤の含有量は30~80質量%程度の範囲で設定することができる。また、ペースト中には、必要に応じて分散剤、可塑剤などを、20質量%以下の範囲で含有させることができる。
【0053】
Agなどを含む導体ペーストも同様にして作製することができる。また、焼成条件などは、特に限定されないが、内部電極層にAgなどが含まれる場合には、焼成温度は、好ましくは960°C以下、920°C以下、あるいは900°C以下、好ましくは870°C以上である。焼成時の最高温度を制御することで、たとえば
図2Aに示す被覆層2b1や補助被覆層2c1の厚みを制御することができる。
【0054】
焼成時間は特に限定はされないが、0.5~10時間程度が好ましい。焼成時間によっても主相粒子2a1の粒子サイズを制御することができ、焼成時間が長くなるほど、粒子サイズが大きくなる傾向にある。焼成時の昇温速度は、特に限定されないが、昇温速度を速くする(たとえば通常の3倍から10倍)ことで、
図2Aに示す主相粒子2a1の粒子サイズを大きくすることもできる。
【0055】
また、焼成時の最高温度で焼成後の熱処理を制御することで、主相粒子2a1の結晶構造などを制御することもできる。たとえば焼成時の最高温度で焼成後に、最高温度よりも低い温度でアニールする時間を長くすることで、コージェライトから成る主相粒子2a1を生成しやすい。また、焼成時の最高温度で焼成後のアニール時間を短くするか、アニールせずに降温すると、インディアライトから成る主相粒子2a1を生成しやすい。
【0056】
(実施形態のまとめ)
本実施形態に係る電子部品としてのチップコイル1では、低誘電率、高強度、高Q値の両立を実現することが可能になる。その理由としては必ずしも明らかではないが、たとえば以下のように推測される。一般的に、コージェライト相およびインディアライト相、特にインディアライト相は、フォルステライト相に比較して、熱膨張係数が相対的に低い。したがって、熱膨張率が相対的に低い主相粒子を、熱膨張率が相対的に高い被覆層が覆うことで、主相粒子に応力がかかり続け、外部から応力をかけた際にクラックが進展しにくいため、低誘電率と高強度を両立することができると共に、Q値も高い状態を維持することができると考えられる。
【0057】
あるいは、コージェライト相またはインディアライト相となるようにSi、MgおよびAlを主成分として含む複合酸化物は、フォルステライト相となるようにMg、SiおよびZnを主成分として含む複合酸化物に比較して、熱膨張係数が相対的に低い。したがって、熱膨張率が相対的に低い主相粒子を、熱膨張率が相対的に高い被覆層が覆うことで、主相粒子に圧縮応力が印加され、低誘電率と高強度を両立することができると共に、Q値も高い状態を維持することができると考えられる。
【0058】
また、本実施形態では、好ましくは、主相粒子2a1が、インディアライト相である。コージェライトに比較してインディアライトの方がQ値が高いことから、低誘電率と高強度を両立することができると共に、Q値がさらに向上する。
【0059】
本実施形態では、被覆層2b1、2c1は、フォルステライト相(あるいはMg、SiおよびZnを主成分として含み、Znに比較してMgが多い複合酸化物/以下同様)と共に、ウィレマイト相(あるいはMg、SiおよびZnを主成分として含み、Mgに比較してZnが多い複合酸化物/以下同様)を含んでいる。被覆層の一部をウィレマイト相で構成することで、誘電率を低くし、Q値を高くすることが可能となる。
【0060】
本実施形態では、被覆層2b1、2c1は、CeまたはCuを含有する。被覆層2b1、2c1の一部に、CeまたはCuを含有することで強度が高くなる。これらの元素は、フィラーの粒子として焼結体に含まれるのではなく、被覆層または主相粒子の表面に拡散していると考えられる。なお、原料として含まれるCeまたはCuは、その一部が、被覆層2b1、2c1の内部に取り込まれる形態で、酸化物粒子(
図2Aに示す第1副相粒子2d1)の形態で存在していてもよい。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0062】
たとえば、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、半導体装置に組み込まれたコイル素子の要素などとして用いることもできる。たとえば、本実施形態のガラスセラミックス焼結体を薄膜化し、半導体装置が形成してある基板に組み込んでもよい。
【0063】
また、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、高周波コイル用層間材料として好適に用いることができる。
【0064】
本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、誘電率が低く、かつ十分な強度を有するため、特に、内部電極層3および3間のセラミックス層2を構成する層間材料としてより好適に用いることができる。
【0065】
本実施形態に係るセラミックス焼結体によれば、誘電率、強度、焼結性をバランスよく改善でき、電子部品として、高周波領域での高いQ値を実現できる。セラミックス焼結体は、特に、1GHz以上の周波数領域で使用される高周波コイル用として特に好適である。
【0066】
また、上記本実施形態では、チップコイル1のセラミックス層2は、同一の材料で形成している例を示しているが、必ずしも同一材料にて形成する必要はない。上述のように、本実施形態に係るガラスセラミックス焼結体は、内部電極層3、3間のセラミックス層2を構成する層間材料として特に好適であり、コイル導体30に接していないセラミックス層2は、他のセラミック材料により構成されていてもよい。
【実施例0067】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0068】
(試料番号1a)
原材料として、Mg、Al、ZnおよびSiを含むガラス粉末(シリカマグネシウムアルミ系ガラスフリット)を83質量部以上と、比表面積(SSA)が6.4m2 /g以上のコージェライト粉末を0.5質量部以下と、セリウム酸化物(CeO2 )を2.0質量部以下と、シリカ(SiO2 )フィラーを15質量部以下と、Bを含む焼結補助剤を1質量部以下を、全体で100質量部となるように用意し、ボールミルにて混合することで、ガラスセラミックペーストを準備した。
【0069】
得られたガラスセラミックペーストをPETフィルム上にコーターによって塗布し、グリーンシートを形成した。また、乾燥後のグリーンシートの上にスクリーン印刷によりAg電極パターンを形成した。PETフィルムを剥離したのち、各シート上の電極パターンが螺旋状に接続されるようにシートを重ねてプレスし、さらに、得られた積層体を切断することにより、グリーンチップを準備した。
【0070】
グリーンチップの焼結は以下の手順で行った。室温から400°Cまで昇温し、脱バイ処理を行った。1000°C/時間の速度で800°Cまで昇温したのち、200°C/時間の速度で900°Cまで昇温した。そして、大気中900°Cで1時間焼結し、アニール処理を行うことなく、200°C/時間の速度で室温まで冷却し、
図1に示すチップ素体4のサンプルを得た。そのチップ素体4のサンプルを切断し、セラミック層2を構成するセラミック焼結体サンプルを得た。得られたセラミック焼結体サンプルとチップ素体のサンプルについて、以下の評価を行った。
【0071】
<断面分析>
STEM-EDSによって焼結体サンプルの断面分析を行ったところ、
図2Aに示すような画像を取得した。多数の主相粒子2a1の回りを被覆層2b1(一部では補助被覆層2c1)が囲んでいることが確認できた。また、副相粒子2d1、2e1も観察された。主相粒子2a1の組成分析を行ったところ、主相粒子2a1には、Siが酸化物換算で45~70質量%、Mgが酸化物換算で15~20質量%、Alが酸化物換算で15~20質量%、Znが酸化物換算で4質量%以下、Ceが酸化物換算で0.1質量%以下、Zrが酸化物換算で0.2質量%以下で含まれていた。
【0072】
また、被覆層2b1には、Siが酸化物換算で30~40質量%、Mgが酸化物換算で30~40質量%、Alが酸化物換算で3質量%以下、Znが酸化物換算で20~30質量%、Ceが酸化物換算で0.1~0.2質量%、Zrが酸化物換算で0.3~0.7モルで含まれていた。
【0073】
さらに、主相粒子2a1および被覆層2b1を含む焼結体サンプルについて、XRD分析を行ったところ、
図3Aに示すように、インディアライトのピーク(黒丸)とフォルステライトのピーク(X)とが観察された。STEM-EDSとXRDの結果から、主相粒子はインディアライト相を含み、被覆層2b1は、フォルステライト相を含むと考えられた。
【0074】
また、同様な分析方法により、被覆層2b1とは画像のコントラストが異なる被覆層2c1には、Siが酸化物換算で20~30質量%、Mgが酸化物換算で3~10質量%、Alが酸化物換算で1質量%以下、Znが酸化物換算で60~70質量%、Ceが酸化物換算で0.1~0.2質量%、Zrが酸化物換算で0.2以下で含まれていることが判明した。その他の観察結果も含めて総合的に判断して、被覆層2c1は、ウィレマイト相を含むと考えられた。
【0075】
さらに、同様な分析方法により、副相粒子2d1には、Ceが酸化物換算で99質量%以上で含まれており、副相粒子2e1には、Siが酸化物換算で99質量%以上含まれていることが確認できた。Ceは、被覆層2b1および2c1にも拡散していることが確認できた。
【0076】
<主相粒子のサイズ>
SEMによって焼結体サンプルの断面分析を行い、
図2Aに示すような画像を取得した。このとき、観察倍率は2,000~10,000倍とし、1視野中に主相粒子が300個以上含まれるようにした。300個以上の主相粒子2a1について断面積から円換算径を求め、この平均値を主相粒子の粒子サイズとした。結果を表1に示す。
【0077】
<被覆層厚み>
STEM-EDSによって焼結体サンプルの断面分析を行い、
図2Aに示すような画像を取得した。このとき、観察倍率は5,000~20,000倍とし、1視野中に主相粒子が30個以上含まれるようにした。主相粒子2a1を被覆している被覆層2b1の厚みを、50個以上の主相粒子2a1の被覆層2b1についてランダムに測定を行い、その平均値を被覆層の厚みとした。結果を表1に示す。
【0078】
<比誘電率>
比誘電率(単位なし)は、ネットワークアナライザー(Agilent Technologies社製PNA N5222A)を用いて、共振法(JIS R 1627)にて測定した。なお、本実施例では、比誘電率が5.8以下、好ましくは5.7以下、あるいは5.6以下を良好とした。なお、表では、誘電率として記載している。結果を表1に示す。
【0079】
<強度>
チップ素体の角柱型サンプル(外径20mm×5mm×2mm)について、INSTRON社製万能材料試験機5543を用い、3点曲げ試験(支点間距離15mm)により焼結体の曲げ強度を測定した。なお、本実施例では185MPa以上、好ましくは200Mpa以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0080】
<Q値>
Q値は、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法(JIS R1627 1996年度)」に従って測定した。具体的には、ガラスセラミック焼結体から成る15mmφ×5mmの円柱(ペレット)を作製し、両端短絡形誘電体共振器法により誘電正接tanδを算出した。さらに、1/tanδ=Qとした。Q値は、630以上であり、好ましくは700以上、800以上、900以上、1000以上と大きい方が好ましい。結果を表1に示す。
【0081】
(試料番号1b)
ガラス組成物として、試料番号1aで用いたガラス組成物よりもZnの含有量が少ないガラス組成物を用いると共に、添加物としてセリウム酸化物を含ませなかった以外は、試料番号1aと同様にして、チップ素体および焼結体サンプルを作製し、試料番号1aと同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
この試料番号1bのガラスセラミック焼結体の断面には、Ceの酸化物から成る副相粒子が観察されないと共に、被覆層2b1は観察されたが、補助被覆層2c1は観察されなかった。
【0083】
(試料番号2)
コージェライト粉末、セリウム酸化物(CeO2 )、シリカ(SiO2 )フィラーを原料粉末に含ませずに、しかも、900°Cで1時間焼結した後に、これを850°Cまで15分かけて冷却し、大気中で850°Cにて60分間アニールを行い、その後、200°C/時間の速度で室温まで冷却した以外は、試料番号1bと同様に、チップ素体および焼結体サンプルを作製し、試料番号1bと同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
また、実施例1aと同様にして、ガラスセラミック焼結体におけるSTEM-EDSの画像を撮像した結果を
図2Bに示す。
【0085】
図2Bに示すように、主相粒子2a2はコージェライト相であることは確認できたが、その表面を覆っている主相表面層2b2は、Siが酸化物換算で45~50質量%、Mgが酸化物換算で15~20質量%、Alが酸化物換算で5~8質量%、Znが酸化物換算で25~30質量%で含まれ、主相粒子2a2よりもZnリッチな主相表面層であり、フォルステライトでもなく、ウィレマイトでもないことが確認された。すなわち、比較例である試料番号2の試料には、実施例である試料番号1a、1bに示すような被覆層2b1、2c1は観察されなかった。表では、観察されなかったことを、被覆層厚みの欄で「-」で表している。
【0086】
比較例である試料番号2のサンプルでは、第3副相粒子2c2、第4副相粒子2d2および非晶質相2e2が観察された。なお、実施例では、非晶質相2e2は観察されなかった。第3副相粒子2c2は、ウィレマイト相から成り、第4副相粒子2d2は、フォルステライト相またはエンスタタイト相から成ることが確認された。
【0087】
(試料番号3)
900°Cで1時間焼結した後に、これを850°Cまで15分かけて冷却し、大気中で850°Cにて60分間アニールを行い、その後、200°C/時間の速度で室温まで冷却した以外は、試料番号1bと同様にして、チップ素体のサンプルと焼結体のサンプルを作製し、試料番号1bと同様な評価を行った。結果を表1に示す。主相粒子は、コージェライト相であることが確認された。
【0088】
(試料番号4)
アニール処理を行わなかった以外は、試料番号2と同様にして、チップ素体のサンプルと焼結体のサンプルを作製し、試料番号2と同様な評価を行った。結果を表1に示す。主相粒子は、コージェライト相であることが確認された。
【0089】
(評価1)
表1に示すように、フォルステライト相の被覆層が形成されている試料番号1a、1bおよび3の実施例では、試料番号2および4の比較例と比較して、高い強度と高いQ値が達成できることが確認できた。特に、主相粒子がインディアライト相から成る実施例では、主相粒子がコージェライト相から成る実施例に比較して、特にQ値や強度が向上することが確認できた。
【0090】
(試料番号5~8)
焼成時間と昇温時間を制御することで、主相粒子のサイズを表2に記載の数値へと調整したこと以外は、試料番号3と同様に、チップ素体のサンプルと焼結体のサンプルを作製し、試料番号3と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、表2においては、被覆層の厚みが0.02μm以上と認められた場合に、被覆層が「有」と記載した。また、焼成時間が長くなるほど、粒子サイズが大きくなる傾向にあり、昇温速度を速くすることでも、粒子サイズを大きくできることが確認できた。
【0091】
(試料番号9~12)
試料番号5~8と同様にして焼成時間と昇温時間を制御することで、主相粒子のサイズを表2に記載の数値へと調整したこと以外は、試料番号1bと同様に、チップ素体のサンプルと焼結体のサンプルを作製し、試料番号1bと同様の評価を行った。なお、表2においては、被覆層の厚みが0.02μm以上と認められた場合に、被覆層が「有」と記載した。結果を表2に示す。
【0092】
(評価2)
表2に示すように、主相粒子サイズの異なる各実施例においても、被覆層が形成され、低誘電率、高強度、高いQ値を実現したセラミック焼結体を得られることが確認できた。また、主相粒子サイズが大きくなると、誘電率が上昇し、強度が上昇し、Q値が低下する傾向が確認できた。特に、主相粒子がインディアライト相から成る実施例では、主相粒子がコージェライト相から成る実施例に比較して、特にQ値が向上することが確認できた。
【0093】
(試料番号13~16)
【0094】
試料番号3と比較して、焼成時の最高温度と保持時間を制御することで、被覆層の厚みを変化させた以外は、試料番号3と同様に、焼結体サンプルを作製し、試料番号3と同様の評価を行った。結果を表3に示す。なお、焼成時の最高温度を高くするほど、被覆層の厚みは、厚くなる傾向にあり、焼成時の最高温度の保持時間を長くするほど、被覆層の厚みは、厚くなることが確認できた。
【0095】
また、以下に示す手順でクラック試験を行った。クラック試験の結果も表3に示す。
【0096】
<クラック試験>
50個のチップ素体のサンプルを用意し、以下に示す試験方法で、クラック試験を行った。
【0097】
各試料番号のチップ素体のサンプルを、基板(ガラスエポキシ基板、大きさ100mm×40mm、厚さ0.08mm)の中央部に試料をはんだ付けした後、試料がはんだ付けされた面とは別の面(基板裏)から1.2mmのたわみ量で5秒間、荷重を加え、荷重印加後の試料について外観および内部におけるクラックの有無を評価した。
【0098】
クラックが観察された個数が少ないほど好ましい。
【0099】
(試料番号17~20)
試料番号1bと比較して、焼成時の最高温度を制御することで、被覆層の厚みを変化させた以外は、試料番号1bと同様に、焼結体サンプルを作製し、試料番号13~16と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0100】
(評価3)
表3に示すように、被覆層の厚みを変量した各実施例においても、低誘電率、高強度、高いQ値を実現したセラミック焼結体を得られることが確認できた。さらに、被覆層厚みが厚くなることにより、誘電率が上昇し、Q値が低下する傾向が確認された。また、被覆層の厚みが厚くなると強度が強くなり内部クラックが減少する傾向にあるが、被覆層の厚みが厚くなりすぎると逆に強度が低下し、内部クラックが増加する傾向があることが確認できた。
【0101】
(試料番号21~25)
ガラス組成物に含まれるZnの量を制御すると共に、焼結温度(焼成時の最高温度)を制御することで、被覆層中におけるウィレマイト相の存在割合(面積割合)を表4に記載の数値となるように調整した以外は、試料番号3と同様に焼結体サンプルを作製し、試料番号13~16と同様の評価を行った。結果を表4に示す。なお、表4においては、視野中のフォルステライトの面積割合が3.5%以上と認められた場合に、フォルステライト「有」と記載した。
【0102】
(試料番号26~30)
ガラス組成物に含まれるZnの量を制御することで、被覆層中におけるウィレマイト相の存在割合(面積割合)を表4に記載の数値となるように調整した以外は、試料番号1bと同様に焼結体サンプルを作製し、試料番号17~20と同様の評価を行った。結果を表4に示す。なお、表4においては、視野中のフォルステライトの面積割合が3.5%以上と認められた場合に、フォルステライト「有」と記載した。
【0103】
(評価4)
表4に示すように、被覆層にウィレマイトを含有する各実施例においても、低誘電率、高強度、高いQ値を実現したセラミック焼結体が得られることが確認できた。また、被覆層中のウィレマイトの存在割合を増やすことにより、誘電率が低下し、強度が低下し、Q値が上昇する傾向が確認された。強度が低下しクラックが増加した原因としては、ウィレマイトの量が増えて熱膨張率が低下したことが考えられる。なお、ガラス組成物に含まれるZnの量を増やすことで、被覆層中におけるウィレマイト相の存在割合が多くなることが確認できた。また、ガラス組成物に含まれるZnの量を増やすことで、焼結温度も低下させることができることが確認できた。
【0104】
(試料番号31~37)
原料に含ませるCeおよび/またはCuの酸化物の量を調整し、表5に記載の数値(質量%)となるように、被覆層におけるCeO2 およびCuOの割合を調整した以外は、試料番号3と同様にして、チップ素体のサンプルと焼結体のサンプルを作製し、試料番号3と同様の評価を行った。結果を表5に示す。なお、表5においては、視野中のフォルステライトの面積割合が3.5%以上と認められた場合に、フォルステライト「有」と記載した。
【0105】
(試料番号38~44)
原料に含ませるCeおよび/またはCuの酸化物の量を調整し、表5に記載の数値(質量%)となるように、被覆層におけるCeO2 およびCuOの質量%割合を調整した以外は、試料番号1bと同様にして、チップ素体のサンプルと焼結体のサンプルを作製し、試料番号1bと同様の評価を行った。結果を表5に示す。なお、表5においては、視野中のフォルステライトの面積割合が3.5%以上と認められた場合に、フォルステライト「有」と記載した。
【0106】
(評価5)
表5に示すように、被覆層にCeまたはCuを含有する各実施例においても、低誘電率、高強度、高いQ値を実現したセラミック焼結体を得られることが確認できた。さらに、被覆層にCeおよびCuを含有しない実施例3と比較して、実施例31~37では、より高い強度およびQ値を達成可能であることが確認できた。また、被覆層にCeおよびCuを含有しない実施例1bと比較して、実施例38~44では、より高い強度およびQ値を達成可能であることが確認できた。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】