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特開2024-145851判定装置、製造装置、プログラム、および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145851
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】判定装置、製造装置、プログラム、および製造方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20241004BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G05B23/02 T
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058390
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206405
【弁理士】
【氏名又は名称】岸 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 要人
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢二
【テーマコード(参考)】
3C223
4F206
【Fターム(参考)】
3C223AA12
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH06
3C223HH08
4F206AP20
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL07
4F206JM06
4F206JP01
4F206JP13
4F206JP14
4F206JQ88
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】設備を安定動作させ続けることで不良削減することを狙っており、製品の製造に用いられる設備のデータから外れ値を除外した安定動作時のデータを用いて、設備の動作状態の良否判定を行うことで、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させる。
【解決手段】判定装置10の制御部11では、取得部101により取得された、製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、製品の良否の判定に利用する物理量データを入力値とする入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、生成部103が、入力値の良否を判定する安定動作モデルを生成し、MT処理部104が、安定動作データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定装置であって、
製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定し、
前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う、
判定装置。
【請求項2】
前記入力値の良否を、前記良否判定比率と前記良否比率とが同様になる様に判定する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記入力値の良否を、当該入力値を平均0、分散1に規格化した値の絶対値に基づいて判定する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項4】
前記入力値の良否を、当該入力値の変化値の大きさを平均0、分散1に規格化した値の絶対値に基づいて判定する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項5】
製品の製造装置であって、
製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定する判定手段と、
前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行うMT処理手段と、
を備える製造装置。
【請求項6】
製品の製造装置に、
前記製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定する機能と、
前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う機能と、
を実現させるプログラム。
【請求項7】
製品の製造方法であって、
前記製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定し、
前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、判定装置、製造装置、プログラム、および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マハラノビス・タグチ法を用いて、良品が成形された際のデータを単位空間としたマハラノビス距離を算出し、その値が閾値を超えている否かに基づいて、成形品の良否判定を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-9841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形機では、加熱筒内に数ショット分の樹脂が滞留するため、設備動作が成形品質に影響を与えるまでにタイムラグが生じることがある。また、設備の運転状態または操作状態の変化の影響がおよぶサイクル数が生産条件や外部環境によって変化することがある。これらの状況から成形品の成形時の設備動作とその品質結果を1対1で対応させても、正しい成形品の良否判定ができてないということ、および運転状態または操作状態の変化の影響が及ぶサイクル数を所定のサイクル数では対応させることができず、正しく保守管理することができないことが分かった。
本開示は、上記で挙げた2点の課題を考慮し、設備を安定動作させ続けることで不良削減することを狙っており、製品の製造に用いられる設備のデータから外れ値を除外した安定動作時のデータを用いて、設備の動作状態の良否判定を行うことで、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成する本開示の判定装置は、製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定し、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う、判定装置である。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。
ここで、前記入力値の良否を、前記良否判定比率と前記良否比率とが同様になる様に判定してもよい。この場合、入力値となる物理量データの良否の判定が、数値基準に基づいて行われるので、公平な判定が実現される。
また、前記入力値の良否を、当該入力値を平均0、分散1に規格化した値の絶対値に基づいて判定してもよい。この場合、規格化された絶対値が上位のデータを、不良率に合わせて外れ値として除外できる。
また、前記入力値の良否を、当該入力値の変化値の大きさを平均0、分散1に規格化した値の絶対値に基づいて判定してもよい。この場合、規格化された絶対値が上位のデータを、不良率に合わせて外れ値として除外できるとともに、変化値を算出できないデータも除外できる。
また、上記の目的を達成する本開示の製造装置は、製品の製造装置であって、製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定する判定手段と、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行うMT処理手段と、を備える製造装置である。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。
また、上記の目的を達成する本開示のプログラムは、製品の製造装置に、前記製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定する機能と、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う機能と、を実現させるプログラムである。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。
また、上記の目的を達成する本開示の製造方法は、製品の製造方法であって、前記製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定し、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う、製造方法である。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施の形態が適用される判定装置および製造装置を含む製造システムの全体構成の一例を示す図である。
図2】判定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】判定装置の制御部の機能構成の一例を示す図である。
図4】製造装置の構成の具体例を示す図である。
図5】(A)は、製造装置のヒーターにより加熱された装置内部の温度の時間変化を表したグラフである。(B)は、製造装置のヒーターにより加熱された装置内部の温度の時間変化の外れ値と、外れ値以外との関係性を表したグラフである。
図6】製造装置としての射出成形機の1日の動作の推移を示すグラフである。
図7】(A)は、判定装置が安定動作データを生成する処理のうち、製品の良否の判定に用いる物理量データを規格化して安定動作データを生成する処理の流れの具体例を示す図である。(B)は、判定装置が安定動作データを生成する処理のうち、製品の良否の判定に用いる物理量データの変化値を規格化して安定動作データを生成する処理の流れの具体例を示す図である。
図8】(A)は、2種類の物理量データを用いてマハラノビス・タグチ法の単位空間を作成するフェーズのイメージを示す図である。(B)は、2種類の物理量データを用いて生成された安定動作モデルを用いた評価を行うフェーズのイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照して、実施の形態について詳細に説明する。
<製造システムの全体構成>
図1は、本実施の形態が適用される判定装置10および製造装置30を含む製造システム1の全体構成の一例を示す図である。
製造システム1は、判定装置10と製造装置30とがネットワーク90を介して接続されることにより構成されている。ネットワーク90は、例えば、LAN(Local Area Network)、インターネット等である。
【0008】
(判定装置)
判定装置10は、製造装置30により製造された製品の良否を判定したデータ(以下、「良否判定データ」と呼ぶ。)に基づき算出された、良品と判定された製品の比率または不良品と判定された製品の比率(以下、「良否判定比率」と呼ぶ。)を取得する。また、判定装置10は、製造装置30により製造された製品の良否の判定に用いる物理量データが入力されると、その物理量データを取得する。
【0009】
判定装置10は、取得した物理量データから、製造装置30の不安定動作時の物理量データを示す外れ値を除外することで、製造装置30の安定動作時の物理量データ(以下、「安定動作データ」と呼ぶ。)を生成する。具体的には、例えば、判定装置10は、取得した物理量データを規格化して絶対値を算出し、算出した絶対値を大きい順に並べ替えて、物理量の変化が大きい外れ値を特定して除外することで安定動作データを生成する。
【0010】
判定装置10は、安定動作データに基づき生成される安定動作モデルを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う。安定動作モデルとは、製造装置30の安定動作時の安定動作データをマハラノビス・タグチ法の単位空間とし、安定動作データのマハラノビス距離の最大値を閾値とするモデルのことをいう。判定装置10は、マハラノビス・タグチ法にかかる処理として、製造装置30の物理量データを安定動作モデルに入力し、安定動作モデルから出力された結果に基づいて、製造装置30が安定動作時にあるのか、それとも不安定動作時にあるのかを判定する。
【0011】
そして、判定装置10は、製造装置30が不安定動作時にあると判定した場合には、不安定動作の原因となる製造装置30のパラメータを特定し、製造装置30を安定動作の状態にさせるためのパラメータ制御情報を製造装置30に向けて送信する。なお、判定装置10の構成や処理の詳細については後述する。
【0012】
(製造装置)
製造装置30は、予め定められたパラメータに基づき製品を製造するための装置である。製造装置30が製造する製品は、複数の工程からなる製品であれば特に限定されない。なお、本実施の形態において、製品は成形品であり、製品としての成形品を製造する製造装置30は射出成形機であるものとする。このため、上述の良否判定データは、製品としての成形品そのものの良否を判定したデータを意味し、製品の良否の判定に用いる物理量データは、製造装置30としての射出成形機から得られる各種のデータを意味する。
【0013】
上述の製造システム1の構成は一例であり、製造システム1全体として上述の処理を実現させる機能を備えていればよい。このため、上述の処理を実現させる機能のうち、一部または全部を製造システム1内で分担してもよいし協働してもよい。すなわち、判定装置10の機能の一部を製造装置30の機能としてもよいし、製造装置30の機能の一部を判定装置10の機能としてもよい。例えば、製造装置30を構成する1つの装置として判定装置10が機能する構成であってもよい。さらには、製造システム1を構成する判定装置10および製造装置30の各々の機能の一部を、図示せぬ他の装置に移譲し、上述の処理の一部を行わせてもよい。これにより、製造システム1全体としての処理が促進され、また、処理を補完し合うことも可能となる。
【0014】
<ハードウェア構成>
(判定装置のハードウェア構成)
図2は、判定装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。
判定装置10は、制御部11と、メモリ12と、記憶部13と、通信部14と、操作部15と、表示部16とを有している。これらの各部は、データバス、アドレスバス、PCI(Peripheral Component Interconnect)バス等で接続されている。
【0015】
制御部11は、OS(基本ソフトウェア)やアプリケーションソフトウェア(応用ソフトウェア)等の各種ソフトウェアの実行を通じて製造装置30の機能の制御を行うプロセッサである。制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)で構成される。メモリ12は、各種ソフトウェアやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、演算に際して作業エリアとして用いられる。メモリ12は、例えばRAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0016】
記憶部13は、各種ソフトウェアに対する入力データや各種ソフトウェアからの出力データ等を記憶する記憶領域である。記憶部13は、例えばプログラムや各種設定データなどの記憶に用いられるHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、半導体メモリ等で構成される。記憶部13には、各種の情報を記憶するデータベースが格納されている。記憶部13に格納されているデータベースとしては、例えば、製品の良否の判定に用いる物理量データが記憶された物理量DB131などが格納されている。
【0017】
通信部14は、ネットワーク90を介して判定装置10および外部との間でデータの送受信を行う。操作部15は、例えばキーボード、マウス、機械式のボタン、スイッチで構成され、入力操作を受け付ける。操作部15には、表示部16と一体的にタッチパネルを構成するタッチセンサが含まれていてもよい。表示部16は、例えば情報の表示に用いられる液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイで構成され、画像(動画像および静止画像)データやテキストデータなどを表示する。
【0018】
(製造装置のハードウェア構成)
製造装置30のハードウェア構成は、図2に示す判定装置10のハードウェア構成と同様の構成を備えている。すなわち、製造装置30は、図2の制御部11、メモリ12、記憶部13、通信部14、操作部15、および表示部16の各々と同様の機能を有する、制御部、メモリ、記憶部、通信部、操作部、および表示部の各々を備えており、図示および説明を省略する。
【0019】
<機能構成>
(判定装置)
図3は、判定装置10の制御部11の機能構成の一例を示す図である。
判定装置10の制御部11では、取得部101と、管理部102と、生成部103と、MT処理部104と、送信制御部105とが機能する。
【0020】
取得部101は、各種の情報を取得する。例えば、取得部101は、製造装置30により製造された製品の良否判定データに基づき算出された良否判定比率を取得する。良否判定データは、製造された製品そのものの良否を判定したデータのことをいう。また、取得部101は、製造装置30により製造された製品の良否の判定に用いる物理量データが入力されると、そのデータを取得する。製品の良否の判定に用いる物理量データは、製造装置30としての射出成形機から取得されるデータ、または、材料から取得されるデータであり、例えば、温度、圧力、流量、位置、変位値、時間、流速、排気量、抵抗値、電流値、電圧値、当たり面積、溶融粘度、成形収縮率、吸水率などが挙げられる。取得部101により取得された物理量データは、記憶部13の物理量DB131(図2参照)に格納される。
【0021】
管理部102は、記憶部13(図2参照)のデータベースに各種の情報を格納して管理する。例えば、管理部102は、製造装置30により製造された製品の良否の判定に用いる物理量データを記憶部13の物理量DB131に記憶して管理する。
【0022】
生成部103は、安定動作データを生成する。具体的には、例えば、生成部103は、製品の良否の判定に用いる物理量データを規格化して絶対値を算出し、算出した絶対値を大きい順に並べ替えて、物理量の変化が大きい外れ値を特定して除外することで安定動作データを生成する。この場合、例えば、生成部103は、物理量データの入力値を平均0、分散1に規格化して絶対値を算出し、算出した絶対値を大きい順に並べ替えることで外れ値を特定して除外する。
【0023】
また、例えば、生成部103は、製品の良否の判定に用いる物理量データにおける変化値を規格化して絶対値を算出し、算出した絶対値を大きい順に並べ替えて、物理量の変化が大きい外れ値を特定して除外することで安定動作データを生成してもよい。この場合、例えば、生成部103は、変化値を平均0、分散1に規格化して絶対値を算出し、算出した絶対値を大きい順に並べ替えることで、外れ値と、変化値自体を算出できない場合とを特定して除外する。
【0024】
MT処理部104は、安定動作モデルを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う。安定動作モデルとは、生成部103により生成された安定動作データをマハラノビス・タグチ法の単位空間とし、安定動作データのマハラノビス距離の最大値を閾値とするモデルのことをいう。MT処理部104は、マハラノビス・タグチ法にかかる処理として、製造装置30の物理量データを安定動作モデルに入力し、安定動作モデルから出力された結果に基づいて、製造装置30が安定動作時にあるのか、それとも不安定動作時にあるのかを判定する。そして、MT処理部104は、製造装置30が不安定動作時にあると判定した場合には、不安定動作の原因となる製造装置30のパラメータを特定し、製造装置30を安定動作の状態にさせるためのパラメータ制御情報を生成する。
【0025】
送信制御部105は、通信部14(図2参照)に各種の情報を送信させるための制御を行う。例えば、送信制御部105は、MT処理部104により生成された、製造装置30を安定動作の状態にさせるためのパラメータ制御情報を、製造装置30に向けて送信させるための制御を行う。これにより、不安定動作時にある製造装置30のパラメータの制御が行われ、製造装置30が安定動作の状態になる。なお、パラメータの制御は、自動で行われてもよいし、作業者の手動により行われてもよい。
【0026】
<具体例>
図4は、製造装置30の構成の具体例を示す図である。
図4に示す製造装置30は、製品としての成形品を製造するための射出成形機である。製造装置30は、成形品の材料となるプラスチックペレットを供給するホッパー31と、ホッパー31から供給されたプラスチックペレットを加熱して溶融させるヒーター34と、溶融樹脂を金型35に送り込むスクリュー33と、スクリュー33を駆動させるモータ32と、金型35の温度を調節する温調器36とを備える。
【0027】
射出成形機の動作と、その動作により製造される成形品の品質との関係は、タイムラグを考慮する必要がある。例えば、成形品の焼け不良は、ヒーター34により加熱された装置内部の温度が高くなり、装置内部で溶融樹脂が焼けることで生じる。焼けた樹脂は装置内部に滞留し、数回のショットの後に金型に充填される。その結果、成形品の焼け不良が生じる。このように、装置内部で溶融樹脂が焼けたタイミングと、焼けた樹脂が金型で成形されるタイミングとが異なるため、射出成形機の動作と成形品の品質とを1対1で対応付けることは困難であった。
【0028】
本実施の形態では、以下の手法により上記の課題を解決する。すなわち、本実施の形態にかかる判定装置10としての射出成形機は、製造装置30としての射出成形機により製造された製品としての成形品の良否判定データと、成形品の良否の判定に用いる物理量データとを取得する。この物理量データには、例えば、ヒーター34により加熱された装置内部の温度、射出圧力、温調器36の内部を流れる冷却水の流量を含む温度、圧力、流量、位置、変位値、時間、流速、排気量、抵抗値、電流値、電圧値、当たり面積、溶融粘度、成形収縮率、吸水率などが挙げられる。なお、本実施の形態では、製造装置30としての射出成形機から得られる物理量データのうち、ヒーター34により加熱された装置内部の温度についての安定動作データを生成する処理、すなわち、パラメータが温度のみである場合における安定動作データを生成する処理を例に挙げて説明する。
【0029】
図5(A)は、製造装置30のヒーター34により加熱された装置内部の温度の時間変化を表したグラフである。図5(B)は、製造装置30のヒーター34により加熱された装置内部の温度の時間変化の外れ値と、外れ値以外との関係性を表したグラフである。
判定装置10は、製造装置30のヒーター34により加熱された内部の温度の時間変化の傾きを算出し、算出した傾きが閾値を超えている物理量データを外れ値として除外する。
【0030】
例えば、図5(A)に示すグラフのうち、温度の時間変化を示すグラフ41の傾きが「2」、グラフ42の傾きが「1.5」、グラフ43の傾きが「0.1」であり、閾値が「1」であったとする。この場合、図5(A)に示すグラフのうちグラフ41および42の各々により示される時間帯の物理量データが外れ値として除外される。外れ値として除外される時間帯は、製造装置30としての射出成形機を立ち上げが行われている時間帯などが想定される。
【0031】
また、判定装置10は、外れ値を除外した後に残った物理量データのうち、平均値から外れている物理量データをさらに外れ値として除外し、外れ値を除外した後に残った物理量データを安定動作データとする。図5(B)には、平均値から外れている物理量データとして、上位10%の物理量データが外れ値51として除外される場合の例が示されている。
【0032】
図6は、製造装置30としての射出成形機の1日の動作の推移を示すグラフである。
図6に示すグラフにおいて、横軸は「時間」を示し、縦軸は「温度」を示している。なお、ここでいう「温度」とは、製造装置30のヒーター34(図4参照)により加熱された内部の温度である。上述の外れ値を除外する処理により生成された安定動作データは、図6の2本の細字破線により示される、「安定動作」と表記された領域の物理量データとなる。これに対して、外れ値として除外された物理量データは、「除外」と表記された領域の物理量データとなる。そして、横軸に直交する太字破線により示されるタイミング以降の時間帯が、安定動作データに基づき生成された安定動作モデルを用いた評価の対象となる時間帯となる。
【0033】
安定動作データに基づき生成された安定動作モデルを用いた評価を行うことで、図6に示すように、「〇」で示される不良品が製造される確率が高い不安定動作時の物理量データが除外される。その結果、製造装置30としての射出成形機の不安定動作を検知し、安定動作させるようにパラメータを制御することが可能となる。
【0034】
図7(A)および(B)は、判定装置10が安定動作データを生成する処理の流れの具体例を示す図である。図7(A)は、判定装置10が安定動作データを生成する処理のうち、製品の良否の判定に用いる物理量データを規格化して安定動作データを生成する処理の流れの具体例を示す図である。図7(B)は、判定装置10が安定動作データを生成する処理のうち、製品の良否の判定に用いる物理量データの変化値を規格化して安定動作データを生成する処理の流れの具体例を示す図である。
【0035】
図7(A)に示すように、判定装置10は、まず、製品の良否の判定に用いる物理量データを取得する。図7(A)には、取得された物理量データとして、1乃至6の物理量データ(図7(A)には「データ」と表記)が示されている。具体的には、物理量データとして、図4のヒーター34により加熱された内部の温度(図7(A)には「温度」と表記)と、図4の温調器36の内部を流れる冷却水の流量(図7(A)には「流量」と表記)とが示されている。
【0036】
次に、判定装置10は、取得した物理量データを規格化する。図7(A)には、1乃至6の物理量データ(温度および流量を示すデータ)の各々が、平均0、分散1に規格化された例が示されている。次に、判定装置10は、規格化した値から絶対値を算出する。図7(A)には、1乃至6の物理量データ(温度および流量を示すデータ)の各々を規格化した値から絶対値が算出された例が示されている。
【0037】
次に、判定装置10は、算出した絶対値を大きい順に並べ替える。図7(A)には、1乃至6の物理量データ(温度および流量を示すデータ)を示す絶対値が大きい順に上から下に向かって並べ替えられた例が示されている。次に、判定装置10は、物理量(温度および流量)の変化が大きい外れ値を特定して除外することで安定動作データを生成する。具体的には、判定装置10は、良否判定データに基づき算出された良否判定比率に合わせて、上位の物理量データを外れ値として特定し、除外する。これにより、安定動作データが生成される。
【0038】
また、図7(B)に示すように、判定装置10は、まず、製品の良否の判定に用いる物理量データを取得する。図7(B)には、取得された物理量データとして、1乃至6の物理量データ(図7(B)には「データ」と表記)が示されている。具体的には、物理量データとして、図4のヒーター34により加熱された内部の温度(図7(B)には「温度」と表記)と、図4の温調器36の内部を流れる冷却水の流量(図7(B)には「流量」と表記)とが示されている。
【0039】
次に、判定装置10は、取得した物理量データから変化値を算出する。変化値は任意の前のデータからの傾きを、最小二乗法を用いて算出したものである。図7(B)には、2乃至6の物理量データ(温度および流量を示すデータ)の各々の1つ前のデータから算出した変化値が算出された例が示されている。なお、1の物理量データ(温度および流量を示すデータ)については1つ前のデータが存在しないため変化値が算出されていない。次に、判定装置10は、算出した変化値を規格化して絶対値を算出し、算出した絶対値を大きい順に並べ替える。次に、判定装置10は、物理量(温度および流量)の変化が大きい外れ値を特定して除外することで安定動作データを生成する。具体的には、判定装置10は、良否判定データに基づき算出された良否判定比率に合わせて、上位の物理量データを外れ値として特定して除外する。さらに、判定装置10は、変化値が算出されなかった1の物理量データ(温度および流量を示すデータ)も除外する。これにより、安定動作データが生成される。
【0040】
図8(A)は、2種類の物理量データを用いてマハラノビス・タグチ法の単位空間を作成するフェーズのイメージを示す図である。
図8(A)には、物理量データとしての「温度」を横軸とし、物理量データとしての「圧力」を縦軸とするグラフが示されている。ここで、「温度」とは、図4の製造装置30のヒーター34により加熱された内部の温度であり、「圧力」とは、図4の製造装置30としての射出成形機の射出圧力である。図8(A)に示すように、プロットされているデータの分布のうち、枠61に囲まれた領域に多くのデータが集まっていることがわかる。この領域に属するデータが安定動作データとなり、安定動作モデルを生成するための根拠データとなる。
【0041】
図8(B)は、2種類の物理量データを用いて生成された安定動作モデルを用いた評価を行うフェーズのイメージを示す図である。
図8(B)には、図8(A)と同様に、物理量データとしての「温度」を横軸とし、物理量データとしての「圧力」を縦軸とするグラフが示されている。ここで、「温度」とは、図4の製造装置30のヒーター34により加熱された内部の温度であり、「圧力」とは、図4の製造装置30としての射出成形機の射出圧力である。図8(B)に示すように、プロットされているデータの分布のうち、枠62に囲まれた領域に多くのデータが集まっていることがわかる。この領域に属するデータは安定動作データとして評価される。
【0042】
<他の実施の形態>
また、上記で説明した各構成は、上記の実施形態及びその変形例に限られるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で変更できる。言い換えると、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解される。
上記にて説明した構成に限らず、上記にて説明した各構成の一部を省略したり、上記にて説明した各構成に対して他の機能を付加したりしてもよい。
また、上記では、複数の実施形態を説明したが、一の実施形態に含まれる構成と他の実施形態に含まれる構成とを入れ替えたり、一の実施形態に含まれる構成を他の実施形態に付加したりしてもよい。
【0043】
例えば、上述の実施の形態では、製品を製造する製造装置として、成形品を製造する射出成形機を対象とする例が示されているが、これに限定されない。製造装置の動作が製品の品質に影響を与えるまでにタイムラグが生じ得る製造装置であればよいので、あらゆる製造装置に本開示の判定装置を適用することができる。
【0044】
また、例えば、上述の実施の形態では、製品の良否の判定に用いる物理量データとして、プラスチックペレットが溶融される装置内部の温度に関するデータが採用されているが、これに限定されない。プラスチックペレットが溶融される装置内部の温度以外の物理量を示すデータを採用してもよい。例えば、射出成形機の射出圧力や、温調器の内部を流れる冷却水の流量などの物理量データが採用されてもよい。さらに、複数の物理量の組み合わせのデータを採用してもよい。
【0045】
ここで、上記にて説明した実施形態の各々は、以下のように捉えることができる。
すなわち、本開示の判定装置は、製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定し、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う、判定装置である。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。また、製造装置の安定動作を判定する際の精度を向上させることができる。また、不安定動作の原因を特定するための工数を削減することができる。また、不良削減による生産時間の短縮や、材料費の削減を図ることができる。
【0046】
ここで、前記入力値の良否を、前記良否判定比率と前記良否比率とが同様になる様に判定してもよい。この場合、入力値となる物理量データの良否の判定が、数値基準に基づいて行われるので、公平な判定が実現される。
【0047】
また、前記入力値の良否を、当該入力値を平均0、分散1に規格化した値の絶対値に基づいて判定してもよい。この場合、規格化された絶対値が上位のデータを、不良率に合わせて外れ値として除外できる。
【0048】
また、前記入力値の良否を、当該入力値の変化値の大きさを平均0、分散1に規格化した値の絶対値に基づいて判定してもよい。この場合、規格化された絶対値が上位のデータを、不良率に合わせて外れ値として除外できるとともに、変化値を算出できないデータも除外できる。
【0049】
また、本開示の製造装置は、製品の製造装置であって、製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定する判定手段と、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行うMT処理手段と、を備える製造装置である。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。また、製造装置の安定動作を判定する際の精度を向上させることができる。また、不安定動作の原因を特定するための工数を削減することができる。また、不良削減による生産時間の短縮や、材料費の削減を図ることができる。
【0050】
また、本開示のプログラムは、製品の製造装置に、前記製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定する機能と、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う機能と、を実現させるプログラムである。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。また、製造装置の安定動作を判定する際の精度を向上させることができる。また、不安定動作の原因を特定するための工数を削減することができる。また、不良削減による生産時間の短縮や、材料費の削減を図ることができる。
【0051】
また、本開示の製造方法は、製品の製造方法であって、前記製品の良否を判定したデータから算出される良否判定比率と、当該製品の良否の判定に用いる物理量データを入力値とする当該入力値の評価値のうち外れ値から順に所定値までを不良データとして処理した時のデータの良否比率とに基づいて、当該入力値の良否を判定し、前記入力値の良データを用いて、マハラノビス・タグチ法にかかる処理を行う、製造方法である。この場合、設備動作状態の異常を検知し発報させ、速やかに作業者が異常原因に対処することができ、不良削減に寄与させることができる。また、製造装置の安定動作を判定する際の精度を向上させることができる。また、不安定動作の原因を特定するための工数を削減することができる。また、不良削減による生産時間の短縮や、材料費の削減を図ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…製造システム、10…判定装置、30…製造装置、101…取得部、102…管理部、103…生成部、104…MT処理部、105…送信制御部
図1
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図8