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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145866
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】溶接方法及び圧力容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20241004BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20241004BHJP
   B23K 15/00 20060101ALI20241004BHJP
   B23K 101/12 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/04
B23K15/00 501A
B23K101:12
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058411
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206405
【弁理士】
【氏名又は名称】岸 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮竹 俊明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正敏
【テーマコード(参考)】
4E066
4E168
【Fターム(参考)】
4E066BA01
4E066BA11
4E066CA06
4E066CA08
4E066CA16
4E168BA30
4E168BA58
4E168CB18
4E168DA36
4E168DA37
4E168DA39
4E168EA08
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】板厚差のある突合せ継手で溶接する場合の製造コストの低減を図る。
【解決手段】板厚差のある第1部材1と第2部材2とを突合せ継手で溶接する溶接方法であって、キーホール溶接する際の高エネルギービームの焦点位置を、第1部材1の面12と第2部材2の面22との間にある突き合わせ面3から、第1部材1の面12と第2部材2の面22を突き合わせたときに生じる段差73の高エネルギービームの照射ヘッド4に近い面の側に所定量補正して溶接する、溶接方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚差のある第1部材と第2部材とを突合せ継手で溶接する溶接方法であって、
キーホール溶接する際の高エネルギービームの焦点位置を、前記第1部材の面と前記第2部材の面との間にある突き合わせ面から、当該第1部材の面と当該第2部材の面を突き合わせたときに生じる段差の当該高エネルギービームの照射ヘッドに近い面の側に所定量補正して溶接する、
溶接方法。
【請求項2】
前記所定量は、前記焦点位置の集光径の90%以下である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記所定量は、前記焦点位置の集光径の50%以下である、
請求項2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記キーホール溶接による溶融量は、前記第1部材と前記第2部材のうち前記照射ヘッドに近い面のいずれか一方が他方よりも多い、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記キーホール溶接は、前記焦点位置の補正が行われる主レーザと当該主レーザの周囲に配置する補助レーザにより行われる、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記キーホール溶接は、レーザ溶接又は電子ビーム溶接である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記キーホール溶接の溶け込み深さYに対する溶接条件は、
である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記第1部材と前記第2部材との間の隙間裕度範囲GAPは、

である、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項9】
請求項1に記載の溶接方法を用いて、圧力容器をキーホール溶接する、
圧力容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接方法及び圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、少なくとも2つの溶接層により結合され、かつ6mmより大きな肉厚を有する厚肉金属加工品を溶接によって結合し、少なくとも2つの溶接層用の溶接領域にて溶接する前に全面的な接続のために、溶接対象の横断面に開先加工部を設ける方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5519494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、板厚差のある突合せ継手で溶接する場合、開先加工に付随してテーパー加工を行うと加工部の精度管理が必要になり、製造コストを低減することが難しい。また、溶接した部分に対する追加溶接や切削といった外観性向上のための後処理を行う場合、製造コストを低減することがさらに難しくなる。
【0005】
本開示は、板厚差のある突合せ継手で溶接する場合の製造コストの低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の溶接方法は、板厚差のある第1部材と第2部材とを突合せ継手で溶接する溶接方法であって、キーホール溶接する際の高エネルギービームの焦点位置を、前記第1部材の面と前記第2部材の面との間にある突き合わせ面から、当該第1部材の面と当該第2部材の面を突き合わせたときに生じる段差の当該高エネルギービームの照射ヘッドに近い面の側に所定量補正して溶接する、溶接方法である。この場合、板厚差のある突合せ継手で溶接する場合の製造コストの低減を図ることが可能になる。
ここで、前記所定量は、前記焦点位置の集光径の90%以下であるとしてよい。この場合、照射ヘッドに近い面の部材の溶融量を増やすことができる。
また、前記所定量は、前記焦点位置の集光径の50%以下であるとしてよい。この場合、照射ヘッドに近い面の部材の溶融量を増やすことができる。
さらに、前記キーホール溶接による溶融量は、前記第1部材と前記第2部材のうち前記照射ヘッドに近い面のいずれか一方が他方よりも多いとしてよい。この場合、第1部材と第2部材との間の隙間をより確実に充填することができる。
また、前記キーホール溶接は、前記焦点位置の補正が行われる主レーザと当該主レーザの周囲に配置する補助レーザにより行われるとしてよい。この場合、広範囲に溶融させることが可能になる。
さらにまた、前記キーホール溶接は、レーザ溶接又は電子ビーム溶接であるとしてよい。この場合、高いエネルギーで溶接することが可能になる。
またさらに、前記キーホール溶接の溶け込み深さYに対する溶接条件は、
であるとしてよい。この場合、キーホール溶接の溶け込み深さを確保することができる。
さらに、前記第1部材と前記第2部材との間の隙間裕度範囲GAPは、
であるとしてよい。この場合、第1部材と第2部材との隙間をより確実に充填することができる。
【0007】
他の観点から捉えると、本開示の圧力容器の製造方法は、上記記載の溶接方法を用いて、圧力容器をキーホール溶接する、圧力容器の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施の形態における溶接方法を説明する図である。
図2】補正量を説明する図であり、(a)は補正量が0%である場合、(b)は補正量が50%である場合、(c)は補正量が90%である場合を例示する。
図3】複数の高エネルギービームを用いる応用例を説明する図であり、(a)は、照射ヘッド側から第1部材及び第2部材を見た場合の図であり、(b)は、(a)の線IIIb-IIIbによる断面図である。
図4】主ビーム及び補助ビームにより形成された突合せ継手の溶接部を説明する図である。
図5】第2の実施の形態における溶接方法を説明する図である。
図6】複数の高エネルギービームを用いる応用例を説明する図であり、(a)は、照射ヘッド側から第1部材及び第2部材を見た場合の図であり、(b)は、(a)の線VIb-VIbによる断面図である。
図7】主ビーム及び補助ビームにより形成された突合せ継手の溶接部を説明する図である。
図8】第3の実施の形態における溶接方法を説明する図である。
図9】照射ヘッドを説明する図であり、(a)は第1の実施の形態及び第2の実施の形態における照射ヘッドを示す平面図、(b)は、第1変形例における照射ヘッドを示す平面図である。
図10】第2変形例における溶接方法を説明する図であり、(a)は、照射ヘッド側から第1部材及び第2部材を見た場合の図であり、(b)は、(a)の線Xb-Xbによる断面図である。
図11】溶接条件を説明する図であり、(a)は、照射ヘッド側から第1部材及び第2部材を見た場合の図であり、(b)は(a)の線XIb-XIbによる断面図であり、(c)はキーホール溶接により形成された溶接部を示す。
図12】圧力容器に本実施の形態を適用する場合の適用例を説明する図であり、(a)及び(b)は、圧力容器の隔壁の厚さが異なる各例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施の形態について詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態における溶接方法を説明する図である。
図1に示す第1の実施の形態は、第1部材1と第2部材2とを突合せ継手で溶接する場合である。この場合の溶接は、高いパワー密度により金属の蒸発を発生させて表面にくぼみができることを利用したキーホール溶接である。
【0010】
第1部材1の端面11及び第2部材2の端面21に対向して、レーザ溶接用の照射ヘッド4が配設されている。照射ヘッド4は、発振器8から光ファイバ81により伝送されたレーザ光を集光する集光レンズ(不図示)を備え、キーホール溶接するための高エネルギービーム41を照射方向Aに照射する。
【0011】
さらに説明すると、第1部材1の端面11と第2部材2の端面21との突き合わせ部に、一点鎖線で示す仮想の突き合わせ面3が位置する。すなわち、突き合わせ面3は、第1部材1の端面11と第2部材2の端面21との間に位置する。
【0012】
ここで、第1部材1は板厚t1で、第2部材2は板厚t2である。板厚t1、t2の各値は同じではなく、第1部材1と第2部材2には板厚差がある。より詳細には、第1の実施の形態では、第1部材1の板厚t1が第2部材2の板厚t2よりも薄い(t1<t2)。
【0013】
また、第2部材2には、第1部材1側に延びる段部23が形成されている。段部23は、第1部材1の内面13に対向する底面24を有する。このように、段部23は、端面21及び底面24により、断面略L状の形状部を有する。なお、ここにいう内面13は、第1部材1の面12とは反対側に位置する。また、第1部材1の端面11と内面13とを互いに接続する部分に面取り部14が形成されている。
さらに説明すると、第2部材2の段部23は、照射方向Aに関し、第1部材1の面22から遠い側に位置する。
なお、第1部材1及び第2部材2は、平板状であっても円筒状であってもよい。
【0014】
次に、第1部材1と第2部材2とを突き合わせした場合の照射ヘッド4に対する第1部材1の面12と第2部材2の面22との位置関係について説明する。
第1部材1の面12及び第2部材2の面22は、照射方向Aに関し、照射ヘッド4に対する位置が異なる。すなわち、第1部材1の端面11と第2部材2の端面21を突き合わせたときに第2部材2に段差部73が生じる。かかる段差部73は、第2部材2の端面21と面22とが互いに接続する角部である。
より詳細には、第1の実施の形態の場合には、第2部材2の面22が第1部材1の面12よりも照射ヘッド4に近い。言い換えると、板厚の厚い第2部材2の面22が照射ヘッド4に近く、板厚の薄い第1部材1の面12が照射ヘッド4から遠い。
【0015】
そして、照射ヘッド4の高エネルギービーム41は、照射ヘッド4から遠い面である第1部材2の面12ではなく、照射ヘッド4に近い面である第2部材2の面22に焦点を合わせている。
かかる高エネルギービーム41の焦点位置は、突き合わせ面3に位置するものではなく、照射ヘッド4に近い面の側である第2部材2の面22の方向にずれている。
焦点位置のずれ量は、所定量71である。かかるずれ量は、第1部材1と第2部材2により生じた段差に対応するために、高エネルギービーム41の焦点位置を突き合わせ面3の位置から第2部材2の側に補正している。ずれ量を補正量ということができる。
【0016】
このように、第1の実施の形態では、キーホール溶接する際の高エネルギービーム41の焦点位置を、突き合わせ面3から第2部材2の面22の側に所定量71ずらして溶接する。
なお、第1部材1の端面11と第2部材2の端面21との突き合わせ部における隙間72は、予め定められている範囲内である。かかる範囲を隙間裕度という。詳細は後述する。
【0017】
なお、図1では、高出力レーザ光を用いるレーザ溶接でキーホール溶接を実施する概略構成例を示す。キーホール溶接を、ビーム溶接の一つである上述のレーザ溶接ではなく、電子ビーム溶接でキーホール溶接を実施してもよい。
かかる電子ビーム溶接は、例えば真空管から放出された電子を加速して高めた高エネルギーを用いるものである。電子ビーム溶接の概略構成例を説明すると、フィラメント(陰極)、アノード(陽極)及びウェーネルト電極(グリット)を備える電子銃を有し、高真空の状態において、加熱電源により加熱されたフィラメントの先端から放出された熱電子は、ウェーネルト電極で絞られアノードで加速される。そして、熱電子が電磁収束コイルにより電磁界の作用を利用して収束することにより、高エネルギービーム41である電子ビームが発生する。
【0018】
図2は、補正量を説明する図であり、(a)は補正量が0%である場合、(b)は補正量が50%である場合、(c)は補正量が90%である場合を例示する。
図2(a)に示す例では、高エネルギービーム41の焦点位置は突き合わせ面3を狙った場合であり、補正していない場合である。より詳細には、高エネルギービーム41(図1参照)は、集光位置90を中心とする集光領域91として集光され、集光径70であるとする。
【0019】
図2(b)に示す例では、高エネルギービーム41の焦点位置が突き合わせ面3から第2部材2の側に所定量71ずらした場合であり、補正量が50%の場合である。より詳細には、同図(b)では、高エネルギービーム41は、集光位置90を中心とする集光領域92に集光され、その集光径は同図(a)と同じである。
【0020】
ここで、図2(b)では、補正量を説明するために、同図(a)に示す集光領域91を、所定量71ずらした集光領域92と対比する形の破線で示している。所定量71は、集光径70に対する割合であり、補正量としての50%である。すなわち、図2(b)の集光領域92は、同図(a)の集光領域91の集光径70の半分の量を第2部材2の方向にずらしたものである。
【0021】
図2(c)に示す例では、高エネルギービーム41の焦点位置が突き合わせ面3から第2部材2の側に所定量71ずらした場合であり、同図(b)の例よりもさらに第2部材2の方向にずらしており、補正量は90%の場合である。より詳細には、同図(c)では、高エネルギービーム41は、第2部材2の面22において集光位置90を中心とする集光領域93に集光され、その集光径は同図(a)及び(b)と変わらない。
【0022】
図2(c)でも、同図(a)に示す集光領域91を、所定量71ずらした集光領域93と対比する形の破線で示している。同図(c)の集光領域93は、集光領域91の集光径70の90%の量を第2部材2の方向にずらしたものである。
【0023】
このように、補正量としての所定量71を大きくしていくと、第2部材2の面22に照射される高エネルギービーム41の量が増加し、第2部材2の溶融領域がより広くなり、段差部73(図1参照)を有する第2部材2の溶融量が増える。そして、所定量71は、焦点位置の集光径の90%以下である。
その一方で、補正量としての所定量71が大きくなり過ぎると、第1部材1の面12に照射される高エネルギービーム41の量が減少し、第1部材1の溶融量が少なくなることから、溶接強度が低下するおそれがある。そこで、所定量71は、より好ましくは、50%以下である。
【0024】
次に、第1の実施の形態における応用例について図3を用いて説明する。
図3は、複数の高エネルギービーム41、51を用いる応用例を説明する図であり、(a)は、高エネルギービーム41、51側から第1部材1及び第2部材2を見た場合の図であり、(b)は、(a)の線IIIb-IIIbによる断面図である。図3(b)は、図1に対応する。なお、(a)及び(b)では、突き合わせ面3を示す一点鎖線を連続して示し、対応する位置関係を明確にしている。
図3(a)に示すように、第1の実施の形態における応用例では、高エネルギービーム41の周囲に、別の高エネルギービーム51が配設されている。
高エネルギービーム41及び高エネルギービーム51は一体化されており、溶接方向Bに一緒に移動する。
【0025】
そして、図3(b)に示すように、照射ヘッド4から高エネルギービーム41を照射し、また、別の高エネルギービーム51を照射する。高エネルギービーム51の照射領域は、高エネルギービーム41の照射領域を除く回りの領域であり、いわゆるドーナツ形状である。
なお、以下、照射ヘッド4からの高エネルギービーム41を主ビーム41といい、高エネルギービーム51を補助ビーム51ということがある。主ビーム41は、補助ビーム51よりも高出力である。
【0026】
図3(b)に示すように、主ビーム41は、第2部材2の面22に照射され、補助ビーム51は、第1部材1の面12及び第2部材2の面22の双方に照射される。補助ビーム51の照射量は、照射ヘッド4のずれにより、第1部材1の面12よりも第2部材2の面22の方が多い。
また、高エネルギービーム41、51の焦点を第2部材2の面22に合わせることで、第2部材2に対し第1部材1よりも高いエネルギーの高エネルギービーム41、51を照射することができる。
【0027】
図4は、主ビーム41及び補助ビーム51により形成された突合せ継手の溶接部6を説明する図である。なお、図4は、溶融後の状態を示し、上述の図3は、溶融前の状態を示す。
図4に示すように、段差部73を含む部分が主ビーム41及び補助ビーム51により溶融する。溶融した金属は第1部材1側に移動して隙間72に入り込み、これにより、面取り部14により広がった空間を含む隙間72が充填され、突合せ面継手の溶接部6が形成される。隙間72は、第1部材1と第2部材2の両方の溶融により充填される。さらに説明すると、隙間72を充填する第2部材2の溶融量は、第1部材1の溶融量よりも多い。
【0028】
このように、主ビーム41の焦点位置を突き合わせ面3の位置ではなく、照射ヘッド4に近い面の側である第2部材2の面22の方向に所定量ずらして溶接するという溶接方法を採用することで、隙間72があっても充填されることで溶接部6が形成される。また、第1部材1と第2部材2とを突合せ継手で溶接する際の開先加工やテーパー加工を省略することが可能になる。
なお、主ビーム41及び補助ビーム51によるキーホール溶接の例を説明したが、補助ビーム51を用いずに主ビーム41のみによるキーホール溶接も同様であり、その図示および詳細な説明を省略する。
【0029】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態は、上述した第1の実施の形態と共通する構成を備えることから、共通する構成については同じ符号を図面に付すが、明細書ではその説明を省略することがある。
図5は、第2の実施の形態における溶接方法を説明する図であり、第1の実施の形態を説明する図1に対応する。
図5に示す第2の実施の形態は、第1部材1と第2部材2とを突合せ継手で溶接する溶接方法を示すものであり、また、照射ヘッド4は、高エネルギービーム41を照射する点で、第1の実施の形態(図1参照)の場合と同じである。
【0030】
ここで、第1部材1の板厚t1は、第2部材2の板厚t2よりも薄い点で(t1<t2)、第1の実施の形態の場合(図1参照)と同じである。
その一方で、第1部材1の面12は、第2部材2の面22よりも照射ヘッド4に近い点で、第2部材2の面22が照射ヘッド4に近い第1の実施の形態の場合(図1参照)とは異なる。
【0031】
第2の実施の形態では、照射ヘッド4の高エネルギービーム41は、照射ヘッド4に近い面である第1部材1の面12に焦点を合わせており、また、高エネルギービーム41の焦点位置は、照射ヘッド4から遠い面の側である第2部材2の面22の方向ではなく、照射ヘッド4に近い面の側である第1部材1の面12の方向にずれている。かかる点で、第1の実施の形態の場合(図1参照)とは異なる。
なお、第1部材1及び第2部材2は、第1の実施の形態の場合と同じく、平板状であっても円筒状であってもよい。
【0032】
次に、第2の実施の形態における応用例について図6を用いて説明する。
図6は、複数の照射ヘッドを用いる応用例を説明する図であり、(a)は、照射ヘッド4、5側から第1部材1及び第2部材2を見た場合の図であり、(b)は、(a)の線VIb-VIbによる断面図である。図6は、第1の実施の形態を説明する図3に対応する。
図6(a)に示す第2の実施の形態における応用例は、高エネルギービーム41の周囲に、高エネルギービーム41と共に溶接方向Bに移動する高エネルギービーム51が配設されている点で、第1の実施の形態の場合と同じである。
【0033】
図6(b)に示すように、主ビーム41は、第1部材1の面12に照射され、補助ビーム51は、第1部材1の面12及び第2部材2の面22の双方に照射される点で、第1の実施の形態の場合とは異なる。
また、補助ビーム51の照射量は、主ビーム41のずれにより、第2部材2の面22よりも第1部材1の面12の方が多い点で、第1の実施の形態の場合とは異なる。
このように、第1部材1に対し第2部材2よりも高いエネルギーの高エネルギービーム41、51を照射することができる点で、第1の実施の形態の場合とは異なる。
【0034】
図7は、主ビーム41及び補助ビーム51により形成された突合せ継手の溶接部6を説明する図であり、第1の実施の形態を説明する図4に対応する。
図7に示すように、段差部73を含む部分が主ビーム41及び補助ビーム51により溶融する。溶融した金属は第2部材2側に移動して隙間72に入り込み、これにより、面取り部14により広がった空間を含む隙間72が充填され、突合せ面継手の溶接部6が形成される。
【0035】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第3の実施の形態は、上述した第1の実施の形態と共通する構成を備えることから、共通する構成については同じ符号を図面に付すが、明細書ではその説明を省略することがある。
図8は、第3の実施の形態における溶接方法を説明する図であり、第1の実施の形態を説明する図1に対応する。
図8に示す第3の実施の形態は、第1部材1と第2部材2とを突合せ継手で溶接する溶接方法を示すものであり、また、照射ヘッド4は、高エネルギービーム41を照射する点で、第1の実施の形態の場合(図1参照)と同じである。
【0036】
ここで、第1部材1の板厚t1は、第2部材2の板厚t2よりも厚い点で(t1>t2)、第1の実施の形態(図1参照)とは異なり、第2の実施の形態の場合(図5参照)とも異なる。
その一方で、第1部材1の面12は、第2部材2の面22よりも照射ヘッド4に近い点で、第1の実施の形態の場合(図1参照)とは異なり、第2の実施の形態の場合(図5参照)と同じである。
【0037】
第3の実施の形態では、照射ヘッド4の高エネルギービーム41は、照射ヘッド4から遠い面である第2部材2の面22ではなく、照射ヘッド4に近い面である第1部材1の面12に焦点を合わせている。また、第3の実施の形態では、高エネルギービーム41の焦点位置は、照射ヘッド4から遠い面の側である第2部材2の面22の方向ではなく、照射ヘッド4に近い面の側である第1部材1の面12の方向にずれている。かかる点で、第1の実施の形態の場合(図1参照)とは異なり、第2の実施の形態の場合(図5参照)と同じである。
なお、第3の実施の形態について応用例の図示及び説明を省略するが、第1の実施の形態及び第2の実施の形態についての応用例(図3図6参照)と同様の構成を採用することが可能である。
【0038】
[変形例]
図9は、高エネルギービーム41、51を説明する図であり、(a)は第1の実施の形態及び第2の実施の形態における高エネルギービーム41、51を示す平面図、(b)は、第1変形例における高エネルギービーム41、51A、51Bを示す平面図である。
図9(a)に示すように、高エネルギービーム41の周囲を連続して囲むように円周状に延びる1つの高エネルギービーム51が配設されている。上述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態の応用例(図3(a)、図6(a))と同じである。
【0039】
図9(b)に示す第1変形例では、同図(a)の場合とは異なり、高エネルギービーム41の周囲を2つの高エネルギービーム51A、51Bで囲んでいる。言い換えると、第1変形例は、外径を違えた2つの高エネルギービーム51A、51Bを、高エネルギービーム41を中心として配設したものである。高エネルギービーム51Aは大径であり、高エネルギービーム51Bは小径である。すなわち、高エネルギービーム51Bは、高エネルギービーム41と高エネルギービーム51Aとの間に位置する。
なお、高エネルギービーム51A、51Bからそれぞれ照射される高エネルギービームの幅を同じものとしてもよく、また、幅が異なるものとしてもよい。また、第1変形例は、上述した第1の実施の形態、第2の実施の形態及び第3の実施の形態のいずれについても適用可能である。
【0040】
図10は、第2変形例における溶接方法を説明する図であり、(a)は、照射ヘッド側から第1部材1及び第2部材2を見た場合の図であり、(b)は、(a)の線Xb-Xbによる断面図である。
図10に示す第2変形例は、高エネルギービーム41が、突き合わせ面3に対して、照射ヘッド4に近い面の側である第2部材2の面22の方向に所定量71ずらして配設されている。かかる点は、上述した第1の実施の形態と共通する。
【0041】
その一方で、第2変形例では、高エネルギービーム41のほかに、高エネルギービーム51Cと高エネルギービーム51Dとが配設されている。高エネルギービーム41を間に挟むように、高エネルギービーム51C及び高エネルギービーム51Dが位置する。言い換えると、高エネルギービーム51Cと高エネルギービーム51Dとの間に高エネルギービーム41が位置する。
【0042】
高エネルギービーム51Cは、第1部材1の面12に照射し、高エネルギービーム51Dは、第2部材2の面22に照射する。
さらに説明すると、高エネルギービーム51C、51Dは、上述した応用例(図3(b)、図6(b)参照)に示す補助ビーム51とは異なり、ドーナツ形状ではなく、中心部も含まれる円形状である。
【0043】
また、高エネルギービーム51Cと高エネルギービーム51Dの照射領域は、外径が互いに異なり、高エネルギービーム51Cの照射領域よりも高エネルギービーム51Dの照射領域の方が大きい外径であり、広い。このため、段差部73を有する第2部材2には、より多くの高エネルギーが入力され、第2部材2の溶融量が増える。
このように、第2変形例によれば、厚い方の第2部材に照射するエネルギーを高出力又は広範囲にすることができる。
【0044】
なお、上述した第1の実施の形態等では、高エネルギービーム41及び高エネルギービーム51、51C~51Dが面12、22に対して垂直方向に照射する例を示すが、これに限られない。すなわち、照射角度が垂直である溶接方法のほか、照射角度が斜めであるようにしてもよい。
【0045】
図11は、溶接条件を説明する図であり、(a)は、照射ヘッド4から第1部材1及び第2部材2を見た場合の図であり、(b)は(a)の線XIb-XIbによる断面図であり、(c)はキーホール溶接により形成された溶接部6を示す。なお、図11(a)は、例えば図5に対応し、(b)は図6(b)に対応し、(c)は図7に対応する。
【0046】
図11(b)に示すように、第1部材1と第2部材2のうち薄い方の第1部材1が板厚t、その面取り部14が面取り長c、主ビーム41が補正量pの位置であるとする。また、主ビーム41がビーム出力wであるとする。
また、同図(a)に示すように、溶接する際に主ビーム41が溶接方向Bに速度sで移動するものとする。
そして、同図(c)に示す溶け込み深さYは、以下の数式で算出できる。
【0047】
【数1】
【0048】
また、図11(b)に示すように、主ビーム41の集光径がDであるとすると、第1部材1及び第2部材2の溶融された溶融体により隙間72が充填される場合の隙間72の許容値である隙間裕度範囲GAPは、以下の式で算出できる。
なお、隙間72が隙間裕度範囲GAPよりも大きい場合には、充填された溶接部6(例えば図4参照)は形成され難くなる。
【0049】
【数2】
【0050】
[適用例]
図12は、圧力容器100に本実施の形態を適用する場合の適用例を説明する図であり、(a)及び(b)は、圧力容器100の隔壁の厚さが異なる各例を示す。なお、圧力容器100は胴体パイプ及び天板を含む構成であり、説明の便宜のために以下、天板を第1部材1、胴体パイプを第2部材2という。
図12(a)に示す圧力容器100は、第2部材2の外径が第1部材1より大きく、第2部材2が段差部73を有する。このため、上述した第1の実施の形態(例えば図1参照)による溶接方法を適用する。すなわち、高エネルギービーム41の焦点位置を第2部材2の側にずらしている。これにより、圧力容器100をキーホール溶接することができる。
【0051】
図12(b)に示す圧力容器100は、第2部材2の外径が第1部材1より小さく、第1部材1が段差部73を有する。このため、上述した第2の実施の形態(例えば図5参照)による溶接方法を適用する。すなわち、高エネルギービーム41の焦点位置を第1部材1の側にずらしている。これにより、圧力容器100をキーホール溶接することができる。
【0052】
以上、実施の形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0053】
1…第1部材、11、21…端面、12、22…面、2…第2部材、3…突き合わせ面、…、4、5…照射ヘッド、41、51…高エネルギービーム、6…溶接部、70…集光径、73…段差部、…、71…所定量、100…圧力容器
図1
図2
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図5
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図10
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図12