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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145872
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】水性塗料組成物及び塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20241004BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20241004BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/08
C09D7/65
C09D5/02
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058420
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 勲
(72)【発明者】
【氏名】白戸 克典
(72)【発明者】
【氏名】金山 京平
(72)【発明者】
【氏名】田中 正俊
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG002
4J038CG131
4J038DG002
4J038HA186
4J038HA436
4J038KA05
4J038KA20
4J038MA10
4J038NA03
4J038PB05
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であり、且つ、得られる塗膜の外観、耐食性及び耐ブロッキング性が良好である水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の水性塗料組成物は、
塗膜形成樹脂(A)、防錆顔料(B)及び樹脂ビーズ(C)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)を含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、コア部とシェル部とを有するコアシェル型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)は、単層型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、30℃以上50℃以下であり、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、-20℃以上0℃以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)、防錆顔料(B)及び樹脂ビーズ(C)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)を含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、コア部とシェル部とを有するコアシェル型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)は、単層型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、30℃以上50℃以下であり、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、-20℃以上0℃以下である、
水性塗料組成物。
【請求項2】
前記コアシェル型アクリル樹脂エマルションのシェル部のガラス転移温度は、前記コアシェル型アクリル樹脂エマルションのコア部のガラス転移温度よりも高い、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記アクリル樹脂エマルション(A1)の固形分と前記アクリル樹脂エマルション(A2)の固形分との比は、90:10~50:50である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記防錆顔料(B)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記樹脂ビーズ(C)の平均粒子径は、1μm以上である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記樹脂ビーズ(C)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
造膜助剤(D)を更に含み、前記造膜助剤(D)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
被塗物を60℃以上110℃以下に予熱すること、及び、
前記予熱後の被塗物の表面に、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗布し、成膜して塗膜を得ること、を含む、塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性塗料組成物及び塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用外装、建築用資材、橋梁、船舶、車両、産業機械、建設機械、自動車等、種々の分野において、被塗物である素材の保護と美粧のため、塗料組成物を用いてその表面に塗膜が形成されている。
【0003】
近年、環境問題の深刻化とともに、塗料分野においても環境負荷の低減が望まれており、種々の検討がなされている。塗料分野における重要な課題としては、有機溶媒の使用量の低減化がある。このような観点から、有機溶媒が低減された塗料として水性塗料が使用されており、様々な分野において使用量が拡大している。このうち、建築資材、土木資材、機械用途には鋼材が用いられており、屋外環境での長期の使用に耐えるため、耐食性の良好な塗膜が求められている。
【0004】
鋼材のうち、軽量形鋼等の製造ラインでは、成型された鋼材を脱脂処理した後、その鋼材を60~110℃程度の温度でプレヒートし、プレヒート後の鋼材に水性塗料組成物をエアレス塗装する工程が一般的に行われている。更に、塗装された鋼材は、結束され、積み重ねられて搬送される。
【0005】
前記一連の工程は5分程度の短時間で行われるため、水性塗料組成物には速乾性が要求され、更に、得られる塗膜には、良好な仕上り外観と、耐ブロッキング性、耐クラック性等が要求される。特に、JIS K 5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)の規格を満足するためには、30μm以上の厚膜が要求され、耐ブロッキング性及び耐クラック性が顕著な課題となる。また、工業生産品において、製品の適用市場拡大には低コストであることが極めて重要となる。
【0006】
水性塗料として、特許文献1には、ガラス転移温度(Tg)28~50℃のアクリル樹脂エマルション、及びアクリル樹脂ディスパージョンを固形分として1~5質量%含み、成膜助剤の含有量が1~5質量%であり、最低造膜温度が25~45℃である水性塗料が記載されている。
特許文献2には、重量平均分子量が10万~500万で、ガラス転移温度が30~100℃であるウレタン樹脂粒子及びガラス転移温度が-20~30℃であるアクリル樹脂粒子を含有し、ウレタン樹脂粒子及びアクリル樹脂粒子の固形分総量に対する固形分含有量が、ウレタン樹脂粒子40~80質量%、アクリル樹脂粒子20~60質量%である水性塗料組成物が記載されている。
特許文献3には、2種類の異相構造エマルション粒子からなるバインダーを含む水性塗料用樹脂組成物が記載され、前記異相構造エマルション粒子の一方は、最外相を形成する乳化重合体のガラス転移温度が-50~10℃、該最外相よりも内側にある少なくとも一相を形成する乳化重合体のガラス転移温度が30~110℃であり、他方は、最も外相を形成する乳化重合体のガラス転移温度が60~80℃、該最外相よりも内側にある少なくとも一相を形成する乳化重合体のガラス転移温度が-50~0℃であることなどが記載されている。
特許文献4には、最低造膜温度80~100℃のスチレン/アクリル共重合体合成樹脂エマルジョンと最低造膜温度20℃以下のアクリル酸エステル共重合体合成樹脂エマルジョンを質量比で2~4:8~6の割合で含む合成樹脂エマルジョンを主成分とする歴青系制振シート用エマルジョン塗料が記載されている。
特許文献5には、ガラス転移温度(Tg)が異なる2種類以上の重合性単量体を用いて重合したガラス転移温度(Tg)が50℃以上の高Tg樹脂成分と、ガラス転移温度が40℃以下の低Tg樹脂成分からなる水性樹脂分散体が記載され、該水性樹脂分散体の最低造膜温度(MFT)は、水性樹脂分散体全体のガラス転移温度(Tg)より10℃以上低いことなどが記載されている。
特許文献6には、水、有機溶剤、顔料、樹脂を含む塗料組成物において、顔料体積濃度(PVC)が0.1~35%の範囲内であり、樹脂は、損失正接(tanδ)ピークの少なくとも1つが45℃以上180℃以下にあることなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-002330号公報
【特許文献2】特開2020-002327号公報
【特許文献3】特開2003-128981号公報
【特許文献4】特開平09-087572号公報
【特許文献5】特開2008-063567号公報
【特許文献6】特開2022-154462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来から知られる水性塗料組成物は、1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合において、指触乾燥性や、得られる塗膜、外観、耐食性、耐ブロッキング性が十分に満足できるものではなかった。
【0009】
本開示は、1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であり、且つ、得られる塗膜の外観、耐食性及び耐ブロッキング性が良好である水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]
塗膜形成樹脂(A)、防錆顔料(B)及び樹脂ビーズ(C)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)を含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、コア部とシェル部とを有するコアシェル型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)は、単層型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、30℃以上50℃以下であり、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、-20℃以上0℃以下である、
水性塗料組成物。
[2]
前記コアシェル型アクリル樹脂エマルションのシェル部のガラス転移温度は、前記コアシェル型アクリル樹脂エマルションのコア部のガラス転移温度よりも高い、[1]に記載の水性塗料組成物。
[3]
前記アクリル樹脂エマルション(A1)の固形分と前記アクリル樹脂エマルション(A2)の固形分との比は、90:10~50:50である、[1]または[2]に記載の水性塗料組成物。
[4]
前記防錆顔料(B)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[5]
前記樹脂ビーズ(C)の平均粒子径は、1μm以上である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[6]
前記樹脂ビーズ(C)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[7]
造膜助剤(D)を更に含み、前記造膜助剤(D)の含有量は、前記塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物。
[8]
被塗物を60℃以上110℃以下に予熱すること、及び、
前記予熱後の被塗物の表面に、[1]~[7]のいずれか1つに記載の水性塗料組成物を塗布し、成膜して塗膜を得ること、を含む、塗膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示の水性塗料組成物は、1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であり、且つ、得られる塗膜の外観、耐食性及び耐ブロッキング性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の水性塗料組成物は、
塗膜形成樹脂(A)、防錆顔料(B)及び樹脂ビーズ(C)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)を含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、コア部とシェル部とを有するコアシェル型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)は、単層型アクリル樹脂エマルションを含み、
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、30℃以上50℃以下であり、
前記アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、-20℃以上0℃以下である。
【0013】
本開示の水性塗料組成物は、1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であり、且つ、得られる塗膜の外観、耐食性及び耐ブロッキング性が良好である。
【0014】
本開示は、特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、本開示の水性塗料組成物がかかる効果を奏する理由は、以下のように考えられる。すなわち、本開示の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂として、2種類のアクリル樹脂エマルションを含み、一方のアクリル樹脂エマルション(A1)は、コアシェル型アクリル樹脂エマルションを含み、且つ、アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、30℃以上50℃以下である。これにより、水性塗料組成物を塗装した際の造膜性が良好であり、得られる塗膜の耐ブロッキング性が良好になり得る。また、他方のアクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、-20℃以上0℃以下である。そのため、水性塗料組成物から1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であるとともに、造膜性が良好になり得ると考えられる。更に、本開示の水性塗料組成物は、前記アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)の両方を含むため、防錆顔料及び樹脂ビーズを含んでいても、得られる塗膜のクラックを抑制でき、外観が良好である。そのため、樹脂ビーズによる耐ブロッキング性向上効果、及び、防錆顔料による耐食性向上効果を発揮することができると考えられる。その結果、1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であり、且つ、得られる塗膜の外観、耐食性及び耐ブロッキング性が良好な水性塗料組成物を提供し得ると考えられる。
【0015】
(A)塗膜形成樹脂
前記塗膜形成樹脂(A)は、後述する指触乾燥性、塗膜外観及び耐食性に優れた塗膜が得られる観点から、アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)を含む。アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)は、コストの観点からも利点がある。
【0016】
アクリル樹脂エマルション(A1)
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、アクリル樹脂を含む水分散体であり、より詳細には、粒子状となって媒体に分散しているアクリル樹脂を意味する。前記アクリル樹脂は、例えば、エチレン性モノマーを含むモノマー混合物の重合体であり得る。
【0017】
前記エチレン性モノマーとしては、水酸基含有モノマー;ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマー;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物をε-カプロラクトン変性したもの;カルボキシ基含有モノマー及びその他のモノマーを混合したものを使用できる。
【0018】
前記水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3-ジヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルシクロヘキシル等のヒドロキシアルキル基含有モノマー;前記ヒドロキシアルキル基含有モノマーをε-カプロラクトン変性したモノマー等が挙げられる。ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル社製のプラクセルFA-1、プラクセルFA-2、プラクセルFA-3、プラクセルFA-4、プラクセルFA-5、プラクセルFM-1、プラクセルFM-2、プラクセルFM-3、プラクセルFM-4及びプラクセルFM-5等が挙げられる。
なお、本開示において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸を意味する。
【0019】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、2-エチルプロペン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボン酸モノマー又はこれらのジカルボン酸モノエステルモノマー等を挙げることができる。カルボキシ基含有モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0020】
その他のエチレン性モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n、i及びt-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のジカルボン酸モノエステルモノマー;(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等の脂環基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ブチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステルモノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノアルキル(メタ)アクリルアミドモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のその他のN-置換(メタ)アクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステルモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、メトキシブチル(メタ)アクリルアミド、N-アルコキシ(メタ)アクリルアミド、N-アルキロール(メタ)アクリルアミド(例えば、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等)、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドモノマー;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有(メタ)アクリルアミドモノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジルキ含有モノマー;(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル等のアルコキシシリル基含有モノマー、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸エチレングリコール等の2官能モノマー;等を挙げることができる。
エチレン性モノマーは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
アクリル樹脂水分散体(A1)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、好ましくは30℃以上50℃以下、より好ましくは35℃以上45℃以下である。アクリル樹脂のガラス転移温度が前記範囲にあることにで、得られる塗膜の外観及び耐ブロッキング性が良好である。
なお、本開示において、アクリル樹脂水分散体のアクリル樹脂全体等という場合、該アクリル樹脂水分散体に含まれるアクリル樹脂の全体を意味する。
【0022】
本開示において、アクリル樹脂エマルション中のアクリル樹脂(重合体)のガラス転移温度(Tg)は、該アクリル樹脂(重合体)を構成する各モノマーの質量分率を、各モノマーから誘導される単独重合体(ホモポリマー)のTg(K:ケルビンで表す。)値で割ることによって得られる、それぞれの商の合計の逆数として計算することができる。
【0023】
より詳細には、本開示において、アクリル樹脂エマルション中のアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、Foxの式(T.G.Fox;Bull.Am.Phys.Soc.,1(3),123(1956))によって算出できる。
【0024】
例えば、微粒子が、複数のアクリルモノマーの重合体である場合、下記一般式
1/Tg=w/Tg+w/Tg+・・・+w/Tg
で表されるTgを微粒子のTgとする。
Tg:モノマーAのホモポリマーのガラス転移温度(K)、W:モノマーAの質量分率
Tg:モノマーBのホモポリマーのガラス転移温度(K)、W:モノマーBの質量分率
Tg:モノマーNのホモポリマーのガラス転移温度(K)、W:モノマーNの質量分率
(W+W+・・・+W=1)
【0025】
アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂全体の酸価は、好ましくは10mgKOH/g以上150mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以上120mgKOH/g以下である。アクリル樹脂の酸価が前記範囲にあることで、得られる塗膜の外観及び耐食性がより良好になる等の利点がある。
なお、本開示において、酸価及び水酸基価は、いずれも固形分換算値を示し、JIS K 0070に準拠した方法により測定された値である。
【0026】
アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは50,000超10,000,000以下、より好ましくは100,000超2,000,000以下であり得る。アクリル樹脂の重量平均分子量が前記範囲にあることで、得られる塗膜の強度が良好となり得る。
本開示において、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定される、ポリスチレン換算値である。
【0027】
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂の平均粒子径は、好ましくは50nm以上200nm以下、より好ましくは75nm以上180nm以下、更に好ましくは80nm以上150nm以下であり得る。アクリル樹脂の平均粒子径が前記範囲内であることによって、得られる塗膜の外観及び耐食性がより良好になる利点がある。
本開示において、平均粒子径は、動的光散乱法によって決定される平均粒子径であり、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELSZシリーズ(大塚電子社製)等を使用して測定できる。
【0028】
前記アクリル樹脂エマルション(A1)のアクリル樹脂全体の溶解性パラメータ(SP値)は、好ましくは9.5以上10.9以下、より好ましくは9.8以上10.7以下、更に好ましくは10.0以上10.7以下である。アクリル樹脂のSP値が前記範囲内であることによって、得られる塗膜の外観が向上する利点がある。
なお、本開示において、溶解性パラメータ(SP値)の単位は、[(cal/cm1/2]である。
【0029】
前記SP値は、solubility parameter(溶解性パラメーター)の略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0030】
SP値は、次の方法によって実測できる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967)]。
サンプルとして、単量体0.5gを100mLビーカーに秤量し、アセトン10mLを、ホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解したものを使用する。このサンプルに対して測定温度20℃で、50mLビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。貧溶媒は、高SP貧溶媒としてイオン交換水を用い、低SP貧溶媒としてn-ヘキサンを使用して、それぞれ濁点測定を行う。
単量体のSP値δ[(cal/cm1/2]は下記計算式によって与えられる。
δ=(Vml1/2δml+Vmh1/2δmh)/(Vml1/2+Vmh1/2
Vm=V/(φ+φ
δm=φδ+φδ
:溶媒の分子容(mL/mol)
φ:濁点における各溶媒の体積分率
δ:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0031】
なお、アクリル樹脂エマルション(A1)が2種以上のアクリル樹脂を含む場合、アクリル樹脂水分散体(A1)のアクリル樹脂全体のSP値は、各単量体のSP値を用いて、アクリル樹脂水分散体(A1)成分中における固形分質量比を元に平均値を算出することによって求めることができる。
また本開示において、樹脂の固形分量は、JIS K 5601-1-2(2008)に準拠し、加熱残分(105℃で180分間加熱した後の残渣の質量)を測定することによって求めることができる。
【0032】
前記アクリル樹脂エマルション(A1)は、コアシェル型アクリル樹脂エマルションを含む。コアシェル型アクリル樹脂エマルションは、粒子形態であり、粒子内部のコア部と、そのコア部の少なくとも一部を覆うシェル部とを有するアクリル樹脂エマルションである。
【0033】
前記コアシェル型アクリル樹脂エマルションのシェル部(以下、単に「シェル部」ともいう)のガラス転移温度は、前記コアシェル型アクリル樹脂エマルションのコア部(以下、単に「コア部」ともいう)のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。これにより、得られる塗膜の耐ブロッキング性がより良好になり得る利点がある。
【0034】
前記コア部のガラス転移温度(Tgc)は、好ましくは80℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは0℃以上30℃以下、いっそう好ましくは5℃以上30℃以下であり得る。コア部のガラス転移温度がかかる範囲にあることで、造膜性が良好であり、得られる塗膜の外観がより良好になり得る。
【0035】
前記シェル部のガラス転移温度(Tgs)は、好ましくは10℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは60℃以上150℃以下、いっそう好ましくは60℃以上100℃以下であり得る。シェル部のガラス転移温度がかかる範囲にあることで、得られる塗膜の耐ブロッキング性がより良好になり得る。
【0036】
前記シェル部のガラス転移温度(Tgs)と前記コア部のガラス転移温度(Tgc)との差(Tgs-Tgc)は、好ましくは-60℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは40℃以上130℃以下、いっそう好ましくは45℃以上70℃以下、よりいっそう好ましくは50℃以上60℃以下であり得る。前記差(Tgs-Tgc)がかかる範囲にあることで、得られる塗膜の外観と耐ブロッキング性がより良好になり得る。
【0037】
なお、コアシェル型アクリル樹脂エマルション中のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、該コアシェル型アクリル樹脂エマルション中のアクリル樹脂を構成するコア及びシェルの質量分率を、それぞれコア及びシェルのTg(K:ケルビンで表す。)値で割ることによって得られる、それぞれの商の合計の逆数として計算できる。
【0038】
前記コアシェル型アクリル樹脂エマルションの固形分の含有率は、アクリル樹脂エマルション(A1)の固形分の総量100質量%中、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、更に好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0039】
アクリル樹脂エマルション(A1)は、前記エチレン性モノマーを含むモノマー混合物を水性媒体中で重合させることにより調製できる。重合反応は、乳化重合で実施されることが好ましく、具体的に、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等により実施されることが好ましい。
【0040】
乳化重合は、前記モノマー混合物を、水性液中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下でかくはん下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30~100℃程であるのが好ましく、反応時間は例えば1~10時間程であるのが好ましい。前記反応温度は、例えば、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって調節することができる。
【0041】
前記ラジカル重合開始剤として、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤を用いることができる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩を、水溶液の形で使用することができる。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とが組み合わされた、いわゆるレドックス系開始剤を水溶液の形で使用することができる。
【0042】
前記乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステル等の親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系の乳化剤を用いることができる。このうちアニオン乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテル等が挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系等の基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤等も適宜、単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0043】
また、乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコール等の分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
【0044】
乳化重合法としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコアシェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法等、いずれの乳化重合法も用いることができる。
【0045】
重合において、モノマー混合物の供給は連続的であってもよく、逐次供給であってもよく、段階的に供給してもよい。例えば、2種又はそれ以上のモノマー混合物を段階的に供給することによって、コア部とシェル部とを有するコアシェル型アクリル樹脂エマルションを調製できる。
【0046】
得られたアクリル樹脂エマルションに対し、必要に応じて有する酸基の一部又は全量を中和してアクリル樹脂エマルションの安定性を保つため、塩基性化合物を添加することができる。塩基性化合物として、例えば、アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属等を用いることができる。
【0047】
アクリル樹脂エマルション(A1)の固形分の含有率は、塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量部中、好ましくは30質量%以上99質量%以下、より好ましくは40質量%以上90質量%以下、更に好ましくは50質量%以上80質量%以下である。
【0048】
アクリル樹脂エマルション(A2)
前記アクリル樹脂エマルション(A2)は、アクリル樹脂を含む水分散体であり、より詳細には、粒子状となって媒体に分散しているアクリル樹脂を意味する。前記アクリル樹脂は、例えば、エチレン性モノマーを含むモノマー混合物の重合体であり得る。
【0049】
アクリル樹脂エマルション(A2)に用いられるエチレン性モノマーとしては、前記アクリル樹脂エマルション(A2)に用いられるエチレン性モノマーとして例示したモノマーを用いることができる。かかるエチレン性モノマーをアクリル樹脂エマルション(A1)と同様の方法により重合することで、アクリル樹脂エマルション(A2)を製造できる。
アクリル樹脂水分散体(A2)のアクリル樹脂全体のガラス転移温度は、好ましくは-20℃以上0℃以下、より好ましくは-18℃以上-5℃以下である。アクリル樹脂のガラス転移温度が前記範囲にあることにで、造膜性がより向上し、得られる塗膜の外観及び指触乾燥性が良好である。
【0050】
アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂全体の酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上150mgKOH/g以下、より好ましくは5mgKOH/g以上120mgKOH/g以下である。アクリル樹脂の酸価が前記範囲にあることで、得られる塗膜の外観及び耐食性がより良好になる等の利点がある。
【0051】
アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは50,000超10,000,000以下、より好ましくは100,000超2,000,000以下であり得る。アクリル樹脂の重量平均分子量が前記範囲にあることで、得られる塗膜の強度が良好となり得る。
【0052】
前記アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂の平均粒子径は、好ましくは50nm以上250nm以下、より好ましくは75nm以上230nm以下、更に好ましくは100nm以上200nm以下であり得る。アクリル樹脂の平均粒子径が前記範囲内であることによって、得られる塗膜の外観及び耐食性がより良好になる利点がある。
【0053】
前記アクリル樹脂エマルション(A2)のアクリル樹脂全体の溶解性パラメータ(SP値)は、好ましくは9.0以上10.3以下、より好ましくは9.3以上10.0以下、更に好ましくは9.3以上9.7以下である。アクリル樹脂のSP値が前記範囲内であることによって、得られる塗膜の外観が向上する利点がある。
【0054】
前記アクリル樹脂エマルション(A2)は、単層型アクリル樹脂エマルションを含み、好ましくは単層型アクリルエマルションである。これにより、水性塗料組成物の造膜性が良好となり、且つ指触乾燥性及び得られる塗膜の外観が良好になる利点がある。
【0055】
前記アクリル樹脂エマルション(A1)の固形分とアクリル樹脂エマルション(A2)の固形分との比((A1):(A2))は、好ましくは97:3~50:50、より好ましくは90:10~50:50、更に好ましくは80:20~50:50、いっそう好ましくは75:25~55:45である。前記比((A1):(A2))がかかる範囲にあることで、得られる塗膜の外観、耐ブロッキング性及び指触乾燥性がより良好になる利点がある。
【0056】
前記塗膜形成樹脂(A)の固形分の総量100質量部中、前記アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)の固形分の合計含有率は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下であり得る。
【0057】
前記塗膜形成樹脂(A)は、アクリル樹脂エマルション(A1)及びアクリル樹脂エマルション(A2)以外の樹脂を含んでいてもよい。かかる樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション等が挙げられる。
【0058】
前記水性塗料組成物において、塗膜形成樹脂(A)の固形分の含有率は、水性塗料組成物の固形分の合計100質量部中、好ましくは40質量%以上90質量%以下、より好ましくは45質量%以上80質量%以下、更に好ましくは50質量%以上75質量%以下であり得る。
【0059】
(B)防錆顔料
前記防錆顔料(B)は、代表的には、塗膜中に存在して、被塗物における錆の発生を抑制する作用を発揮し得る。防錆顔料(B)を含むことで、得られる塗膜の耐食性が良好になり得る。前記防錆顔料(B)は、代表的には、被塗物よりもイオン化傾向の大きい金属を含み、被塗物における錆の発生を抑制し得る性質;被塗物に被膜を形成することで、被塗物と錆の原因となる物質との接触を抑制し、被塗物における錆の発生を抑制し得る性質;塩基性物質を放出し得る性質等から選ばれる1又は2以上を有し得る。
【0060】
かかる防錆顔料(B)としては、無機系防錆顔料が挙げられる。前記無機系防錆顔料としては、例えば、リン酸系防錆顔料、酸化亜鉛系防錆顔料、モリブデン系防錆顔料、ホウ酸系防錆顔料、珪酸系防錆顔料、バナジン酸系防錆顔料、タングステン酸系防錆顔料等が挙げられる。これらの防錆顔料は、1種を単独で用いてもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。
【0061】
前記リン酸系防錆顔料としては、リンのオキシ酸金属塩が挙げられる。金属として、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn又はAlから選ばれる1種又は2種以上の金属が挙げられる。リンのオキシ酸塩として、例えば、亜リン酸塩、リン酸塩及び/又はポリリン酸塩等が挙げられる。リン酸系防錆顔料の具体例として、亜リン酸金属塩としては、例えば、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸バリウム、亜リン酸ストロンチウム、亜リン酸亜鉛、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛カルシウム、亜リン酸亜鉛カリウム等が挙げられる。リン酸金属塩としては、例えば、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸ストロンチウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛カリウム、リン酸亜鉛カリウム等が挙げられる。ポリリン酸金属塩としては、例えば、ピロリン酸アルミニウム、ポリリン酸カルシウム、ポリリン酸マグネシウム、ポリリン酸亜鉛及びポリリン酸アルミニウム等が挙げられる。これらの化合物は、必要に応じて、シリカ等で変性されていてもよい。
【0062】
前記酸化亜鉛系防錆顔料としては、例えば、酸化亜鉛及び変性酸化亜鉛等が挙げられる。変性酸化亜鉛として、例えば、亜硝酸金属塩等の金属塩で変性された酸化亜鉛が挙げられる。
【0063】
前記モリブデン系防錆顔料としては、例えば、モリブデン酸金属塩が挙げられる。モリブデン酸金属塩としては、例えば、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸亜鉛カルシウム等及びモリブデン酸亜鉛カリウム等が挙げられる。リンモリブデン酸塩としては、例えば、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸ストロンチウム及びモリブデン酸亜鉛カリウム等が挙げられる。
【0064】
前記ホウ酸系防錆顔料としては、例えば、ホウ酸金属塩及びメタホウ酸金属塩が挙げられる。ホウ酸金属塩としては、例えば、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸ストロンチウム、ホウ酸亜鉛カルシウム及びホウ酸亜鉛カリウム等が挙げられる。メタホウ酸金属塩として、例えば、メタホウ酸バリウム等が挙げられる。
【0065】
前記珪酸系防錆顔料としては、例えば、ホウ珪酸金属塩が挙げられる。ホウ珪酸金属塩としては、例えば、珪酸、ホウ珪酸亜鉛、ホウ珪酸カルシウム、ホウ珪酸バリウム、ホウ珪酸アルミニウム、ホウ珪酸マグネシウム、ホウ珪酸ストロンチウム、ホウ珪酸亜鉛カリウム、ホウ珪酸亜鉛カルシウムストロンチウム及びホウ珪酸カルシウムストロンチウム亜鉛、リン珪酸亜鉛、リン珪酸カルシウム、リン珪酸バリウム、リン珪酸アルミニウム、リン珪酸マグネシウム、リン珪酸ストロンチウム、リン珪酸亜鉛カリウム、リン珪酸亜鉛カルシウム及びリン珪酸カルシウムストロンチウム亜鉛等が挙げられる。
【0066】
前記金属塩は、正塩、塩基性塩、複合塩のいずれであってもよく、また、含水又は無水物のいずれであってもよい。
【0067】
無機系防錆顔料として、前記以外にも、例えば、バナジン酸系防錆顔料、タングステン酸系防錆顔料等を挙げることができる。他にも、例えば、シアナミド亜鉛カルシウム系防錆顔料、カルシウム、亜鉛、コバルト、鉛、ストロンチウム、バリウム等の金属カチオンを多孔質シリカ粒子に結合させた変性シリカ系防錆顔料等を挙げることができる。
【0068】
前記防錆顔料(B)として市販品を用いてもよい。市販品として例えば、リン酸系防錆顔料であるLFボウセイPM-300C、LFボウセイP-W-2(キクチカラー社製)、K-ホワイト#140W(テイカ社製)等、珪酸系防錆顔料であるSHIELDEX CS-311(GRACE社製)、モリブデン系防錆顔料であるLFボウセイM-PSN(キクチカラー社製)、酸化亜鉛系防錆顔料である酸化亜鉛2種(堺化学工業社製)等が挙げられる。
【0069】
前記防錆顔料(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種又はそれ以上を併用してもよい。前記防錆顔料(B)は、リン酸系防錆顔料、酸化亜鉛系防錆顔料及びモリブデン系防錆顔料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、リン酸系防錆顔料及び酸化亜鉛系防錆顔料からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。また、珪酸系防錆顔料を含んでもよい。
【0070】
前記水性塗料組成物における防錆顔料(B)の含有量は、前記水性塗料組成物に含まれる塗膜形成樹脂(A)の固形分の総量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上50質量部以下、より好ましくは5質量部以上30質量部以下である。防錆顔料(B)の含有量が前記範囲内にあることで、得られる塗膜の防食性が良好になるという利点がある。
【0071】
(C)樹脂ビーズ
樹脂ビーズ(C)は、微粒子状の樹脂粒子である。樹脂ビーズ(C)を含むことで、得られる塗膜の耐ブロッキング性が良好になり得る。
【0072】
前記樹脂ビーズ(C)を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等が挙げられ、硬度やコストの観点から、好ましくはアクリル樹脂が挙げられる。また、前記微粒子状とは、粒子状、球状又は中空球状であることを表す。前記樹脂ビーズは、球状であることが好ましい。なお、前記球状は、真球状に限定されず、略球状等の形状も含み得る。
【0073】
前記樹脂ビーズ(C)の平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上150μm以下、更に好ましくは20μm以上100μm以下、いっそう好ましくは40μm以上80μm以下である。
【0074】
なお、本明細書中において、樹脂ビーズ(C)の平均粒子径は、体積平均粒子径(D50)を意味し、レーザードップラー式粒度分析計(例えば、日機装社製のマイクロトラックUPA150等)を用いて測定することができる。
【0075】
前記樹脂ビーズ(C)としては、アクリル樹脂粒子としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、ガンツパール GM-0801、GM-4003(アイカ工業社製)、タフチックAM、AR750MXQ、AR750MLQ2(日本エクスラン工業社製)、テクポリマーMBX-40、MBX-80(積水化成品工業社製)等が挙げられる。ウレタン樹脂粒子としては、ART PEARL C-80T、C-100T(根上工業製)等が挙げられる。
【0076】
前記水性塗料組成物における樹脂ビーズ(C)の含有量は、前記水性塗料組成物に含まれる樹脂固形分の総量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは5質量部以上25質量部以下である。
【0077】
(D)造膜助剤
本開示の水性塗料組成物は、必要に応じて造膜助剤(D)を含んでいても良い。造膜助剤を配合することによって、水が蒸発してエマルション樹脂粒子が融着して塗膜を形成する場合に、塗膜のフロー性を向上させ、その結果、塗膜の仕上がり外観が向上する。
【0078】
造膜助剤(D)としては、特に限定はされないが、たとえば、ベンジルアルコール等のアルコール系;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のセロソルブ系;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のカルビトール系;トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のトリグリコールエーテル系;アセチルアセトン等のケトン系;トリエチルアミン、ジエタノールアミン等のアミン系;2,2,4-トリメチルペンタンジオール-1,3-モノイソブチレート(商品名「テキサノール」、イーストマンケミカルジャパン社製)等の少なくとも1種を用いることができる。造膜助剤は、二種以上を併用してもよい。
【0079】
造膜助剤(D)の含有量は、水性塗料組成物の固形分の総量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上40質量部以下、より好ましくは4質量部以上30質量部以下、更に好ましくは8質量部以上20質量部以下である。造膜助剤(D)の含有量がかかる範囲にあることで、得られる塗膜の外観がより良好になり得る。
【0080】
(その他成分)
前記水性塗料組成物は、前記成分に加えて、目的、用途に応じて、他の成分を必要に応じて含んでもよい。他の成分としては、例えば、硬化剤、体質顔料、着色顔料、樹脂粒子、硬化触媒、粘性剤、pH調整剤、造膜助剤、そして水性塗料組成物において通常用いられる添加剤(例えば、分散安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤、有機系防錆剤等)等が挙げられる。これらの成分は、本開示の水性塗料組成物が有する諸物性を損なわない態様で適宜添加することができる。
【0081】
前記顔料としては、例えば、着色顔料、体質顔料等が挙げられる。着色顔料としては、無機着色顔料及び有機着色顔料が挙げられる。前記無機着色顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、黄色酸化鉄等が挙げられる。前記有機着色顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料;アゾレッド、アゾイエロー、アゾオレンジ等のアゾ系顔料;キナクリドンレッド、シンカシャレッド、シンカシャマゼンタ等のキナクリドン系顔料;ペリレンレッド、ペリレンマルーン等のペリレン系顔料;カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、アントラキノンレッド、ジケトピロロピロール等が挙げられる。前記体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルク等が挙げられる。
【0082】
前記着色顔料を用いる場合、水性塗料組成物の樹脂固形分に対する着色顔料の顔料質量濃度は、好ましくは5質量%以上60質量%以下である。
【0083】
前記体質顔料を用いる場合、水性塗料組成物の樹脂固形分に対する体質顔料の顔料質量濃度は、好ましくは0質量%以上60質量%以下、より好ましくは0質量部%上40質量%以下である。体質顔料の量がこのような範囲内であることにより、得られる塗膜の耐水性が向上するという利点がある。
【0084】
(水性塗料組成物の調製方法)
水性塗料組成物は、前記塗膜形成樹脂(A)、防錆顔料(B)、樹脂ビーズ(C)及び必要に応じた他の成分を、当業者に知られた方法によって混合することによって調製することができる。水性塗料組成物の調製方法は、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。例えば、ニーダー又はロール等を用いた混練混合手段、又は、サンドグラインドミル又はディスパー等を用いた分散混合手段等の、当業者において通常用いられる方法を用いることができる。
【0085】
(被塗物)
前記被塗物としては、例えば、鉄、亜鉛、錫、銅、チタン、ブリキトタン等の金属基材が挙げられる。これらの金属基材には、亜鉛、銅、クロム等のメッキが施されていてもよく、また、クロム酸、リン酸亜鉛又はジルコニウム塩等の表面処理剤を用いた表面処理が施されていてもよい。
【0086】
本開示の水性塗料組成物は、金属基材、特に、条鋼、鋼板、鋼管等の鋼材や鉄塔、鉄柱、鉄扉、車両本体への塗装に適している。前記鋼材として更に具体的には、リップみぞ形鋼、軽みぞ形鋼、異形軽みぞ形鋼等のC形鋼、等辺軽山形鋼、不等辺軽山型形鋼等のLアングル、角型鋼管及びデッキプレート等の軽量形鋼、鋳鉄管等;及びこれらの鋼材に燐酸塩処理などの化成処理及び/又は金属溶射処理を施した鋼材を挙げることができる。
【0087】
(塗膜の形成方法)
被塗物の表面に、前記水性塗料組成物を塗布し、成膜して塗膜を得ることにより、塗膜を製造し得る。
【0088】
前記水性塗料組成物を塗装する方法は特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。これらは建材の種類等に応じて適宜選択することができる。水性塗料組成物は、乾燥膜厚として30~100μmとなるように塗装することが好ましく、40~80μmとなるように塗装することがより好ましい。
【0089】
乾燥工程では、前記塗装膜を乾燥させる。これにより、塗膜が形成される。
一態様において、乾燥温度は、5~35℃であってよく、乾燥時間は1~10日であってよい。別の態様において、乾燥温度は、例えば50~100℃、更に60~80℃であってよく、この場合の乾燥時間は、15~60分であってよい。
【0090】
好ましい態様において、予め被塗物を予備加熱(予熱)してから塗装してもよい。予備加熱(予熱)温度は、塗装時の被塗物温度が60~110℃となるように実施してよい。かかる予備加熱(予熱)を実施する場合、例えば、塗膜の製造方法は、被塗物を60℃以上110℃以下に予熱すること、及び、前記予熱後の被塗物の表面に、前記水性塗料組成物を塗布し、成膜して塗膜を得ること、を含み得る。
【0091】
加熱方法は特に限定されず、例えば、ガス炉や電気炉などの加熱炉を用いて行われる。
被塗物の加熱温度は、特に限定されず、被塗物の形状や厚みによる蓄熱量と予備加熱から塗装までのインターバルを考慮し、前記被塗物温度を維持できる範囲で行う必要がある。一般的には前記塗装時温度より10~30℃程高めに設定する場合が多く、好ましくは90℃以上である。
【実施例0092】
以下の実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0093】
製造例(A1-1)
アクリル樹脂エマルション(A1-1)の調製例
ステンレス容器に、メタクリル酸メチル61.5質量部、メタクリル酸1.8質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル36.7質量部をかくはん混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS-180A、花王社製)2.5質量部と水60.0質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分かくはんし、第1反応前乳化混合物を得た。
【0094】
かくはん機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を取り付けた反応容器に、水60.0質量部を入れ、反応容器中の温度を80℃に上げてから、前記第1反応前乳化混合物91.8質量部と、反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液5.5質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で30分間維持し、アクリル樹脂エマルションを得た。
別容器にて、メタクリル酸メチル85.9質量部、メタクリル酸1.8質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル12.3質量部をかくはん混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS-180A、花王社製)2.5質量部と水60.0質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分かくはんし、第2反応前乳化混合物を得た。
【0095】
先に得られたアクリル樹脂エマルションを含む容器に、前記第2反応前乳化混合物91.8質量部と反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液5.5質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で1時間維持した後、30℃まで冷却し、コアシェル型アクリル樹脂エマルション(A1-1)(固形分濃度:45質量%)を得た。
【0096】
製造例(A1-2)~(A1-5)、(a1-1)、(a1-2)
モノマー種及び量を表1のとおり変更した以外は、前記と同様にして、塗膜形成樹脂(A1-2)~(A1-5)、(a1-1)及び(a1-2)を調製した。各塗膜形成樹脂におけるガラス転移温度等の特数値を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
製造例(A2-1)
アクリル樹脂エマルション(A2-1)の調製例
ステンレス容器に、メタクリル酸メチル34.0質量部、アクリル酸1.0質量部、スチレン5.0質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル60.0質量部をかくはん混合後、乳化剤としてスルホコハク酸ジエステルアンモニウム塩(ラテムルS-180A、花王社製)2.5質量部と水60.0質量部を添加し、ホモミキサーを用いて、室温で15分かくはんし、第1反応前乳化混合物を得た。
【0099】
かくはん機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を取り付けた反応容器に、水30.0質量部を入れ、反応容器中の温度を80℃に上げてから、前記第1反応前乳化混合物91.8質量部と、反応開始剤として過硫酸アンモニウムの1.5質量%水溶液5.5質量部を別々の滴下ロートから、同時に2時間かけて滴下した。滴下が終了してから反応容器中の温度を80℃で30分間維持し、アクリル樹脂エマルション(A2-1)(固形分濃度:45質量%)を得た。
【0100】
製造例(A2-2)、(A2-3)、(a2-1)~(a2-3)
モノマー種及び量を表1のとおり変更した以外は、前記と同様にして、塗膜形成樹脂(A2-2)、(A2-3)、(a2-1)~(a2-3)を調製した。各塗膜形成樹脂におけるガラス転移温度等の特数値を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
<顔料分散ペースト1の製造例>
分散剤としてDisperbyk190 1.63質量部、消泡剤としてSN-477T 0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料としてTi-Pure R-706 31.4質量部及び防錆顔料(B-1)としてLFボウセイP-W-2 33.8質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペースト1を得た。
【0103】
<顔料分散ペースト2の製造例>
分散剤としてDisperbyk190 1.63質量部、消泡剤としてSN-477T 0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料としてTi-Pure R-706 31.4質量部、防錆顔料(B-1)としてLFボウセイP-W-2 16.9質量部及び防錆顔料(B-2)としてSHIELDEX CS-311 16.9質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペースト1を得た。
【0104】
<顔料分散ペースト3の製造例>
分散剤としてDisperbyk190 1.63質量部、消泡剤としてSN-477T 0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料としてTi-Pure R-706 31.4質量部、防錆顔料(B-1)としてLFボウセイP-W-2 16.9質量部および防錆顔料(B-3)として酸化亜鉛2種16.9質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペースト1を得た。
【0105】
<顔料分散ペースト4の製造例>
分散剤としてDisperbyk190 1.63質量部、消泡剤としてSN-477T 0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料としてTi-Pure R-706 64.7質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペースト1を得た。
【0106】
<顔料分散ペースト5の製造例>
分散剤としてDisperbyk190 1.63質量部、消泡剤としてSN-477T 0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料としてTi-Pure R-706 31.4質量部及び防錆顔料(B-1)としてLFボウセイP-W-2 7.7質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペースト1を得た。
【0107】
<顔料分散ペースト6の製造例>
分散剤としてDisperbyk190 1.63質量部、消泡剤としてSN-477T 0.05質量部、イオン交換水 32.9質量部及び顔料としてTi-Pure R-706 31.4質量部及び防錆顔料(B-1)としてLFボウセイP-W-2 61.3質量部を予備混合した後、SGミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、1,600rpmで、顔料粗粒の最大粒子径が5μmになるまで分散し、顔料分散ペースト1を得た。
【0108】
(実施例1)水性塗料組成物1の調製
顔料分散ペースト1 20.8質量部に、アクリル樹脂水分散体(A1-1) 46.0質量部、アクリル樹脂水分散体(A2-1) 25.0質量部、樹脂ビーズ(C-1) 7.0質量部及び造膜助剤(D-1) 6.0質量部を加え、ディスパーでかくはん、混合し、水性塗料組成物1を得た。
【0109】
(実施例2~23、比較例1~7)
各成分の種類及び量を、表3~5に記載のように変更したこと以外は、水性塗料組成物1と同様にして塗料組成物を調製した。表3~5に示す防錆顔料(B)の量は、顔料分散ペーストに含まれる防錆顔料(B)の量を表す。また、塗膜形成樹脂(A)の代わりに(a)を用いた例について、(A)の量は(a)の量に読み換えたものである。なお、各成分の量は、溶媒等の揮発分を含む有り姿の量を意味する。
【0110】
水性塗料組成物の調製に用いた各成分は、以下のとおりである。
(1)使用する材料
(B)防錆顔料;
(B-1)LFボウセイP-W-2(リン酸系防錆顔料、キクチカラー社製)
(B-2)SHIELDEX CS-311(珪酸系防錆顔料、GRACE社製)
(B-3)酸化亜鉛2種(酸化亜鉛系防錆顔料、堺化学工業社製)

(C)樹脂ビーズ;
(C-1)タフチックAR750MXQ(アクリル系樹脂ビーズ、日本エクスラン工業社製)、粒子径:40μm
(C-2)テクポリマーMBX-80(アクリル系樹脂ビーズ、積水化成品工業社製)、粒子径:80μm
(C-3)ART PEARL C-100T(ウレタン系樹脂ビーズ、根上工業製)、粒子径:50μm

(D)造膜助剤;
(D-1)ベンジルアルコール(ランクセス社製)
(D-2)ジエチレングリコールモノブチルエーテル(日本乳化剤製)

その他;
・着色顔料:Ti-Pure R-706(二酸化チタン、DuPont社製)
・分散剤:Disperbyk190(ビックケミー社製)、有効成分濃度:40質量%
・消泡剤:SN-477T(鉱物油系消泡剤、サンノプコ社製)、有効成分濃度:100質量%
【0111】
試験板の作製
実施例又は比較例で得た水性塗料組成物を、NK2カップアネスト岩田製で30秒(25℃)となるよう水で希釈した後、溶剤で脱脂して60℃に予熱したJIS G 3141(SPCC-SD)冷間圧延鋼板(0.8×70×150mm)に、乾燥膜厚が80μmとなるようにエアースプレー塗装し、室温で7日間養生し、試験板を得た。
【0112】
1)指触乾燥性
実施例又は比較例で得た水性塗料組成物を、NK2カップアネスト岩田製で30秒(25℃)となるよう水で希釈した後、溶剤で脱脂して60℃に予熱したJIS G 3141(SPCC-SD)冷間圧延鋼板(0.8×70×150mm)に8MILのドクターブレードを用いて塗装した。
塗装により得られた塗膜が、温度23度、湿度50%の条件下でJIS K 5600-1-1の規定に基づく「指触乾燥」状態に至るまでに要した時間を測定し、以下の基準により評価した。評点△以上を合格とした。
○:指触乾燥が90秒以内である
△:指触乾燥が90秒を超え120秒未満である
×:指触乾燥が120秒以上である
【0113】
2)耐クラック性
実施例及び比較例で得られた試験板の塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準により評価した。評点△以上を合格とした。
○:塗膜にひびなどの外観異常が認められない
△:塗膜の一部にひび割れが認められる
×:塗膜の全面にひび割れが認められる
【0114】
3)耐ブロッキング性
実施例及び比較例で得られた試験板を、ブロッキング試験機(加美機工社製)を用いて、以下の手順により、耐ブロッキング性の評価を行なった。
試験板2枚の塗装面を重ねて設置し、板温50℃、積載荷重3kg/cmで10分間試験を行い、試験板を引き離したときの塗膜の外観を目視で観察し、以下の基準により評価した。評点△以上を合格とした。
○:塗膜面に変化が無い
△:塗膜の一部に損傷が認められる
×:塗膜の全面に損傷が認められる
【0115】
4)耐食性
実施例及び比較例で得られた試験板の塗膜に、基材に達するようにカッターナイフで長さ10cmのクロスカット傷を入れ、JIS K 5600-7-1(JIS Z 2371)記載の耐中性塩水噴霧性試験法に従い、塩水噴霧試験機ST-11L(スガ試験機社製)で120時間、塩水噴霧試験(SST)を行った。試験終了後、クロスカット部からの錆及びフクレの発生状態より、塗膜の耐食性を、以下の基準により目視で評価した。評点△以上を合格とした。
○:発生した錆又はフクレの最大幅がクロスカット部より2mm未満である
△:発生した錆又はフクレの最大幅がクロスカット部より2mm以上3mm未満である
×:発生した錆又はフクレの最大幅がクロスカット部より3mm以上である
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
実施例1~23は、本開示の実施例であり、1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であり、且つ、得られる塗膜の外観、耐食性及び耐ブロッキング性が良好であった。
【0120】
比較例1は、塗膜形成樹脂の一であるコアシェル型アクリル樹脂エマルションの樹脂全体のガラス転移温度が30℃に満たない材料を用いた例であり、得られた塗膜の耐ブロッキング性が十分に満足できるものではなかった。
比較例2は、塗膜形成樹脂の一であるコアシェル型アクリル樹脂エマルションの樹脂全体のガラス転移温度が50℃を超える材料を用いた例であり、得られた塗膜の耐クラック性及び耐食性が十分に満足できるものではなかった。
比較例3は、塗膜形成樹脂の一である単層型アクリル樹脂エマルションの樹脂全体のガラス転移温度が-20℃に満たない材料を用いた例であり、得られた塗膜の耐ブロッキング性及び耐食性が十分に満足できるものではなかった。
比較例4は、塗膜形成樹脂の一である単層型アクリル樹脂エマルションの樹脂全体のガラス転移温度が0℃を超える材料を用いた例であり、得られた塗膜の耐クラック性が十分に満足できるものではなかった。
比較例5は、塗膜形成樹脂としてコアシェル型アクリル樹脂エマルション(A1)を含まない例であり、得られた塗膜の耐クラック性及び耐ブロッキング性が十分に満足できるものではなかった。
比較例6は、防錆顔料(B)を含まない例であり、得られた塗膜の耐食性が十分に満足できるものではなかった。
比較例7は、樹脂ビーズ(C)を含まない例であり、得られた塗膜の耐ブロッキング性が十分に満足できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本開示の水性塗料組成物は、1回の塗装で塗膜形成し、常温乾燥した場合においても、指触乾燥性が良好であって、且つ、得られる塗膜の外観、耐食性及び耐ブロッキング性が良好であり、建築用外装、建築用資材、橋梁、船舶、車両、産業機械、建設機械、自動車等、種々の分野において、好適に用いられ得る。