(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145873
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】空気電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058423
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 克幸
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】西 実紀
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA01
5H032AS03
5H032AS11
5H032BB04
5H032CC07
5H032CC11
5H032CC13
5H032CC14
5H032EE01
5H032EE13
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】組立てる時の部品間のずれや部品の歪みの発生を抑制した空気電池モジュールを提供する。
【解決手段】空気電池モジュール1は、複数の空気電池セル2が直列接続され、空気電池セルは、負極集電板19、負極極板17、セパレータ16、空気極14を支持する正極集電板15、撥水膜13、流路板12が積層されて構成される。正極集電板は、空気極を支持して電気的に接続される導電性の枠体15Aと、枠体と一体的に形成されて、枠体の枠面と交差する方向であって負極集電板とは反対側に延びる導電性の接続片部15Cとを有する。接続片部は、枠体に支持された空気極を跨いで互いに対向するように2つ形成される。電池セルの正極側に隣接する電池セルの負極側を連結するとき、電池セルの正極集電板の接続片部が、隣接する電池セルの負極集電板と接触して電気的に接続される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空気電池セルが一方向に沿って直列に接続されて構成される空気電池モジュールであって、
前記複数の空気電池セルの各々は、前記一方向に沿って、負極集電板、負極極板、セパレータ、空気極を支持する正極集電板、撥水膜、流路板が積層されて構成され、
前記正極集電板は、
前記空気極を支持して前記空気極と電気的に接続される導電性の枠体と、
前記枠体と一体的に形成されて、前記枠体の枠面と交差する方向であって前記負極集電板とは反対側に延びる導電性の接続片部とを有し、
前記接続片部は、前記枠体に支持された前記空気極を跨いで互いに対向するように少なくとも2つ形成され、
前記複数の空気電池セルのうち、第1空気電池セルの正極側に第2空気電池セルの負極側を連結するときに、前記第1空気電池セルの正極集電板の接続片部が、前記第2空気電池セルの負極集電板と接触して電気的に接続される、空気電池モジュール。
【請求項2】
前記空気極は、前記正極集電板の枠体に抵抗溶接されている、請求項1記載の空気電池モジュール。
【請求項3】
前記空気極の前記枠体への溶接部は、互いに対向する前記接続片部の内側に位置する、請求項2記載の空気電池モジュール。
【請求項4】
前記負極集電板と前記負極極板との間に挟み込まれた発泡金属からなる部材をさらに有する、請求項1記載の空気電池モジュール。
【請求項5】
前記負極集電板、前記正極集電板の枠体、前記流路板の各々は、周縁部に切欠部及び突起部の少なくとも一方を有し、前記切欠部及び前記突起部の少なくとも一方を用いて、前記負極集電板に対し、前記正極集電板の枠体及び前記流路板が位置合わせされる、請求項1記載の空気電池モジュール。
【請求項6】
直列に接続された前記複数の空気電池セルの正極側及び負極側にそれぞれに取り付けられる2枚の締付板をさらに有し、
前記負極集電板、前記正極集電板の枠体、前記流路板の各々は、前記切欠部を有し、
前記締付板の一方に固定され且つ弾性チューブで被覆された棒状の取付け具をガイドとして、1の空気電池セル毎に、前記負極集電板、前記負極極板、前記セパレータ、前記正極集電板、前記撥水膜、前記流路板が積層される、請求項5記載の空気電池モジュール。
【請求項7】
前記正極集電板の枠体の厚さは、0.1~0.3mmである、請求項1記載の空気電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池モジュールに関し、特に空気中の酸素を利用する空気電池を複数直列接続した組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、大気中の酸素を正極活物質とする電池であり、エネルギー密度が高く、小型化・軽量化が容易である等の利点を有する。このような空気電池としては、亜鉛空気一次電池が補聴器等で実用化されている。さらに、負極をLi、Zn、Al、Mg等の金属で作製した空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える新しい二次電池として開発が期待されている。
【0003】
また、空気二次電池を実用化するためには、電池電圧や電池容量を増やすために、電池セルを直列や並列に接続した組電池化が必要になる。空気電池は、放電反応に空気(酸素)を必要とするため、組電池(モジュール)にする場合、組電池は、各セルに対し空気を供給する供給路を設ける構造が必要になる。そこで、空気電池モジュールの一例として、一の筐体内部に複数の空気電池を並べて接続する構成が提案されている(特許文献1)。
【0004】
さらに、組電池の一例として、バイポーラー型の空気電池モジュールが提案されている(特許文献2)。バイポーラー型の空気電池モジュールでは、一つの空気電池セルの負極と、このセルに隣接する空気電池セルの正極とが、両空気電池セルを隔離する壁材を通しての電気的に接続されるように構成されている。この構成では、セル間の接続抵抗が低く、実際のセルベースにおいても高いエネルギー密度が実現可能であり、筐体サイズに関係なく電池容量を自由に設計できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-084650号公報
【特許文献2】特開2014-194920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一の筐体内部に複数の空気電池を並べてモジュール化すると、モジュール内で筐体や電池のフレーム等の構造体の割合が大きくなり実際のエネルギー密度が大きく低下したり、各電池セルに供給される空気の流量が不均一になる傾向があった。このように、電池セルの集約に限界があって大型モジュールの組立ては難しいこと、または、筐体のサイズが決まっているため設計自由度が低いこと、などの欠点が存在する。
【0007】
また、バイポーラー型電池モジュールでは、異常が発生した電池セルのみを取り出して交換することができないため、電極等の部品には高い品質が求められる。特に、部品のゆがみやモジュールに組立てる時の部品配置のズレは、各電池セルの容量ばらつきや電解液の漏液の原因となっていた。さらに、電池セルの積層数の増加は、充放電の不安定さを引き起こすことがあった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造が簡単でありながらも、部材間の接続抵抗が低く、組立て時の部品間のずれや部品の歪みの発生を抑制可能な空気電池モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の空気電池モジュールは、複数の空気電池セルが一方向に沿って直列に接続されて構成される空気電池モジュールであって、前記複数の空気電池セルの各々は、前記一方向に沿って、負極集電板、負極極板、セパレータ、空気極を支持する正極集電板、撥水膜、流路板が積層されて構成され、前記正極集電板は、前記空気極を支持して前記空気極と電気的に接続される導電性の枠体と、前記枠体と一体的に形成されて、前記枠体の枠面と交差する方向であって前記負極集電板とは反対側に延びる導電性の接続片部とを有し、前記接続片部は、前記枠体に支持された前記空気極を跨いで互いに対向するように少なくとも2つ形成され、前記複数の空気電池セルのうち、第1空気電池セルの正極側に第2空気電池セルの負極側を連結するときに、前記第1空気電池セルの正極集電板の接続片部が、前記第2空気電池セルの負極集電板と接触して電気的に接続される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の空気電池モジュールによれば、接続片部により正極集電板の剛性が高くなるために、空気極を枠体に取り付けた後の正極集電板の歪みの発生を抑制できる。また、第1空気電池セルの正極側に第2空気電池セルの負極側を連結するときの正極集電板の歪みが軽減され、組立精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る空気電池モジュールを示す斜視図。
【
図3】正極集電板に溶接された空気極の一例を示す平面図。
【
図4】積層方向に隣り合う2つの電池セルにおいて、一方の電池セルの正極集電板と、他方の電池セルの負極集電板との電気的接続を説明する図であって、(a)は分解図、(b)は断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係る空気電池モジュールを、図面を参照して説明する。
1.電池セルの構成
図1に、空気電池モジュールを示す。空気電池モジュール(以下、「電池モジュール」ともいう)1は、60個の空気二次電池セル2(以下、「電池セル」ともいう)を一方向Aに沿って一列に配列させて直列に接続した電池組3と、電池組3の両端を挟み込む一対の締付板4、5と、からなる。
【0013】
各電池セル2は、一方向Aに沿って、正極側から負極側に向けて、ガスケットA11、流路板12、撥水膜13、空気極14を支持する正極集電板15、セパレータ16、負極極板17、ガスケットB18、負極集電板19が順に積層されている。
【0014】
流路板12は、導電性を呈する矩形の平板からなり、電池モジュール1の外部から取り込まれて空気極14と反応する空気が流れる流路を有する。流路は、電池モジュール1の外部から空気を導入する空気供給口20と連通し、流路を流れた空気を外部に導出する空気排出口21と連通する。例えば、流路は、金属板のプレス成型による波板化や、樹脂材料のモールドプレスによる凹凸、多孔体材料によるガス拡散層として流路板12に形成される。流路板12における流路の形態は、空気極14全体に空気を供給できるような適宜の形態をとる。また、流路板12を囲むように、ガスケットA11が取り付けられる。
【0015】
撥水膜13は、流路板12と空気極14の間に位置して充放電時に空気の受け渡しを行うと共に、電池セル2内の電解液が流路に漏出しないように流路を閉塞する。撥水膜13は、液密通気膜として、例えばPTFEなどの撥水性微多孔膜からなる。撥水性微多孔膜は、流路側から空気極14に向けて空気を通過させると共に、空気極14側に存在する電解液の流路への漏出を防止する。
【0016】
空気極14は、導電性の基体と、基体に保持される空気極合剤(正極合剤)からなる空気極合剤層とを有し、撥水膜13に密着して配置される。空気極合剤は、酸素還元・酸素発生反応を利用するための酸化還元触媒と、導電材料、バインダー、撥水材を含む。酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものが用いられ、パイロクロア型のビスマスルテニウム酸化物を用いるのが好ましい。空気極14は、放電時は、撥水膜13を通して供給される空気から酸素を還元する反応を起こし、充電時は、水から酸素を生成する反応を行い、生じた酸素は、撥水膜13を通過して流路に排出される。空気極14で生じた電子は、正極集電板15に集められる。空気極14の抵抗値を低減するために、基体は、正極集電板15に溶接接続されることが好ましい。空気極14の作製については後述する。
【0017】
正極集電板15は、表面が耐食加工された金属板を用いて作製され、矩形の枠体15Aを有する。枠体15Aは、金属板を空気極14の基体の形状に合わせて内側を抜き加工して形成され、枠体15Aの各辺はそれぞれ所定の幅を有する。枠体15Aの内側縁部には、空気極14の基体の外縁部14Aが溶接されて、枠体15Aは空気極14を支持する。正極集電板15の膜厚は、加工の容易さ、電池セル2のエネルギー密度、内部抵抗を考慮して、0.1mm~0.3mmとすることが好ましい。
【0018】
また、正極集電板15の枠体15Aは、電池セル2のサイズが大きい場合や空気極14の面積が大きい場合に、
図2に示すように、空気極14からの集電性を上げるために、枠体15Aの中央部に導電性の梁15Bを一体的に形成する。この梁15Bによって枠内は2つに分割されて2つの開口15Dを有し、各開口15Dに空気極14を収容する。開口15Dは、梁15Bの縁部及び内側縁部をそれぞれ長辺15D
Lとし、長辺15D
Lと直交する枠体15Aの内側縁部をそれぞれ短辺15D
Sとする長方形である。枠体15Aの開口15Dに収容された空気極14は、正極集電板15の枠体15Aに抵抗溶接されて正極集電板15と電気的に接続される。
【0019】
さらに、正極集電板15は、枠体15Aの外周縁部に一体的に、梁15Bを跨いで互いに対向する接続片部15Cを有する。接続片部15Cは、枠体15Aの外周縁部を、枠体15Aの枠面と交差する方向であって同じ方向に折曲して形成される。本実施形態では、接続片部15Cは、
図3に示すように、空気極14の基体が溶接される枠体15Aの辺の外側の外縁部を、幅1mmに亘り枠体15Aの面内方向に対して60度の角度に折り曲げ加工することによって形成される。
【0020】
セパレータ16は、空気極14と負極極板17との間に配置されて空気極14と負極極板17とを電気的に絶縁する。セパレータ16は、例えば、ポリアミド繊維製の不織布又はポリオレフィン繊維製の不織布にて作成され、KOH溶液などのアルカリ電解液を内部に含む。本実施形態において、セパレータ16は、全体として矩形状をなす。また、
図2に示されるように、セパレータ16は、親水化処理したPP微多孔膜16Aの両面を不織布16Bで挟み込んだ3層構造を取ることもできる。
【0021】
負極極板17は、多数の空孔を有する導電性の負極芯体と、負極芯体の空孔内及び表面に保持される負極合剤とからなる。負極芯体としては、例えば、発泡ニッケルが用いられる。負極合剤は、負極活物質としての水素吸蔵合金粉末と、導電剤と、結着剤とを含む。導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック等を用いることができる。負極極板17の作製については後述する。
【0022】
負極集電板19は、表面が耐食加工された導電性の金属板を用いて矩形に作製される。負極集電板19は、負極極板17に当接されて電子を集電する。セパレータ16と負極極板17とは、筒状のガスケットB18の内側に収容される。
【0023】
さらに、負極極板17と負極集電板19との間に、発泡ニッケルからなるプレート22を、集電性向上と充放電に伴う電極板の膨張及び収縮の寸法緩和材として挟み込むことが好ましい。
【0024】
また、流路板12、正極集電板15及び負極集電板19を積層するときの位置合わせを容易とするために、
図2に示すように、正極集電板15の梁15Bの長手方向における両端部と、積層したときに正極集電板15の両端部に対応する流路板12及び負極集電板19の周縁部近傍に、切込Cを有している。本実施形態では、流路板12、正極集電板15及び負極集電板19の各々にU字型の切込Cを4か所に設けている。
【0025】
さらに、切込Cを用いて積層されて位置決めされたガスケットA11、流路板12、撥水膜13、空気極14を支持する正極集電板15、ガスケットB18および負極集電板19からなる電池セル2を、積層方向に貫通する空気供給口20と、空気排出口21とが形成される。空気供給口20は、電池モジュール1の一端側に取り付けられる一方の締付板4の空気供給口4Aに連通する。空気排出口21は、電池モジュール1の他端側に取り付けられる他方の締付板5の空気排出口5Aに連通する。
このような構成を電池セル2は有する。
【0026】
2.電池セル及び電池モジュール1の製造
電池セル2と、複数の電池セル2を直列接続した電池モジュール1との製造について以下に説明する。
【0027】
(1)空気極の作製
空気極14は、空気極合剤に含まれる酸素還元・酸素発生二元活性触媒として、パイロクロア型の金属酸化物Bi2Ru2O7-Zを使用した。
【0028】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを、モル濃度比で0.75:1.00となるように、75℃の希硝酸水溶液中に投入し撹拌して、Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を作製した。この混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を加えた。この時の浴温度を75℃とし、NaOH水溶液を加えた混合水溶液を、酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を吸引ろ過にて回収し、乾燥させて前駆体粉末を得た。得られた前駆体を、空気雰囲気下で540℃に加熱し、3時間保持する熱処理を施して焼成物を得た。得られた焼成物を、75℃の蒸留水、2mol/Lの硝酸水溶液、75℃の蒸留水の順に吸引ろ過して副生成物を洗浄除去した。吸引ろ過で焼成物を回収した後、120℃に加熱して乾燥させて、水素空気二次電池用の空気極触媒(ビスマスルテニウム酸化物触媒)を得た。SEMにより観察した空気極触媒の一次粒子径は10~50nmであった。
【0029】
このビスマスルテニウム酸化物触媒を、湿式ビーズミル(アシザワファインテック製、ラボスターミニ、DMS65)を用いて粉砕処理した。ビスマスルテニウム酸化物触媒の重量あたりの固形分比が20wt%となるように粉砕したビスマスルテニウム酸化物触媒にイオン交換水を添加した。更に、触媒重量に対して2wt%の分散剤(サンノプコ社、SNディスパーサント5468)を添加して触媒分散液を作製した。この触媒分散液を、ポンプを用いてビーズミル装置内に所定流量で送液し、ジルコニア製のビーズ(ビーズ径φ0.1mm)と共に周速8m/sで粉砕した。そして、排出された処理液を再びビーズミル装置内に送液し、粉砕処理と排出とを合計5回繰り返して(5パス)、ビスマスルテニウム酸化物濃度20wt%の分散液を得た。
【0030】
この分散液を、ビスマスルテニウム酸化物の重量あたりで50質量部となるように秤量した。秤量した分散液に、炭素材料として高純度天然黒鉛(SNO-1T、平均粒子径1~2μm、SECカーボン株式会社製)を30質量部、フッ素樹脂としてFEPディスパージョン(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、120-JRB、平均粒子径0.2μm、三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製)を固形分比率換算で30質量部、粘度調整材としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)1質量部を投入し、その後、更に、粘度調整としてイオン交換水を添加した。この時、スラリー全体の水分量は、追加したイオン交換水に加えて、分散液に含まれるイオン交換水とFEPディスパージョンに含まれる水分量の合算値となり、その合計は385質量部であった。これらを自転公転ミキサーで混合・撹拌した結果、得られたスラリーのイオン交換水及びFEPディスパージョンに含まれる水分量を除いた固形分重量比は、スラリー全体の21.4%であった。また、固形分中に含まれるビスマスルテニウム酸化物、黒鉛、フッ素樹脂、HPC及び分散剤の重量比率は、それぞれ44.9%、26.9%、26.9%、0.9%、0.4%であった。
【0031】
基体としてのロール状の発泡ニッケル(厚み1.6mm、平均孔径580μm、目付575g/m2)を、予めロール圧延にて厚みを0.45mmに調整し、充填部幅80mmとし、正極合剤層を作製するために両端に無塗工部を設けて上記のスラリーを充填した。次に、スラリーが充填された発泡ニッケルを60℃で1時間乾燥させた後、ロール圧延で0.20mmに圧延した。得られた空気極は、長尺を125mm幅で裁断した後、無塗工部の幅が2mmとなるように短尺を84mm幅に裁断した。
【0032】
得られた空気極は、電気炉にて1L/minの流量で窒素ガスをフローさせながら250℃で13分間焼成した。得られた空気極の重量と基体である発泡ニッケルの重量との差から、発泡ニッケルに塗工された乾燥スラリー(空気極合剤)の重量を算出し、更に、投入量の重量割合からビスマスルテニウム酸化物の単位面積あたりの触媒量を求めた。その結果、この空気極の触媒量は7.5mg/cm2であった。
【0033】
(2)負極極板の作製
Nd,Mg,Ni,Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合してから、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させた。得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0034】
次に、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を行い、その後、25℃の室温まで冷却した。冷却したインゴットをアルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は65μmであった。
【0035】
この水素吸蔵合金粉末を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.23Al0.17であった。
【0036】
次に、負極活物質としての水素吸蔵合金粉末0.25gとニッケル粉末0.75gとを混合し、成型後10mmφのペレット電極を作製した。円筒形の容器内に、8mol/LのKOH水溶液100mLと、中央部にペレット電極と酸化水銀参照電極とを挿入し、容器の縁に合わせて負極に対し電気容量が大きい水酸化ニッケル対極を配置した。この負極容量規制の電池にて、合金容量を300mAh/gと仮定して計算した負極容量を1Itとして、0.5It×200分の充電と、0.5Itにて酸化水銀参照電極に対して負極電位が-0.3Vまでの放電とからなる充放電試験を行い、電気化学的合金容量を求めた。得られた電気化学容量は350mAh/gであった。
【0037】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対して、ポリアクリル酸ナトリウム0.2質量部、カルボキシメチルセルロース0.04質量部、カーボンブラック0.3重量部、および水22.4重量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを作成した。
【0038】
負極合剤ペーストを、負極芯体としてのシート状のニッケルフォームに充填した。ニッケルフォームの厚みは1.6mm、目付は300g/m2であった。負極合剤を保持したニッケルフォームを乾燥させた後、ロール圧延して単位体積当たりの合金量を増やした。その後、裁断し、80mm×125mmの負極極板17を得た。負極合金の充填量は、前記合金容量で計算した容量が15.6Ahとなるように調整した。
【0039】
(3)電池セルを構成する部材の作製
流路板12は、厚み0.1mmのSUS316L鋼材に対し、金型プレス加工で波板状に成型して流路を形成した。流路板12に形成された流路の深さは0.4mm、ピッチは2mmであり、板厚と合わせた流路板12の高さは0.5mmである。成型後にレーザーカットで空気供給口20及び空気排出口21、U字型切込Cを作製した。流路板12のサイズは180mm×180mmである。
【0040】
撥水膜13は、PTFEの微多孔膜に対し、トムソン加工で供給口及び排出口、U字型切込Cを作製した。サイズは180mm×180mmである。
【0041】
正極集電板15は、Niメッキされた厚み0.2mmのSPCC鋼材に対し、レーザーカットで枠形に加工して枠体15Aを作製し、枠体15Aの枠部に空気供給口20及び空気排出口21、U字型切込Cを作製した。レーザーカット後の正極集電板15のサイズは、180mm×182mmである。182mmの辺を、それぞれ幅1mmで面内方向に対し約60度の角度で同じ方向に折り曲げて、接続片部15Cを形成した。接続片部15Cが起立する枠体15Aの面とは反対側の面に、空気極14の外縁部14Aを抵抗溶接した。
【0042】
負極集電板19は、Niメッキされた厚み0.1mmのSPCC鋼材に対し、レーザーカットで空気供給口20及び空気排出口21と、電解液注液のための連通孔(不図示)と、U字型切込Cとを作製した。負極集電板19のサイズは180mm×182mmである。
【0043】
ガスケットA11は、厚み0.3mmのSPCC鋼板の両面にゴムをコートしてレーザーカットで作製した。ガスケットA11は、流路板12に形成された溝に係合可能な形状を有する。
【0044】
ガスケットB18は、厚み1mmのPTFE系ジョイントシート材に対し、トムソン加工で空気供給口20及び空気排出口21と、負極極板17を収容する空洞部と、U字型切込Cとを作製した。ガスケットB18のサイズは180mm×180mmである。本実施形態では、ガスケットB18には2つの空洞部が設けられ、各空洞部のサイズは82mm×130mmである。
【0045】
締付板4、5は、厚さ12mmのステンレス板を加工して作製した。電池モジュール1の正極側に取り付けられる締付板4には、空気供給口4Aが板厚方向に貫通するよう形成されている。一方、負極側に取り付けられる締付板5には、空気排出口5Aが板厚方向に貫通するよう形成されている。
【0046】
(4)空気極の正極集電板への取付
上述のように、空気極14は、正極集電板15の枠体15Aの枠内部に収容され、空気極14の基体の外縁部14Aが枠体15Aの内縁部に溶接される。空気極14は、溶接によって枠体15Aに支持される。正極集電板15による空気極14の支持構造の一例を
図3に示す。
【0047】
本実施形態では、触媒塗布部分が80mm×125mmの電極(導電性支持体のサイズは84mm×125mmであり、長尺方向に2mmずつの無塗工部を設けて溶接個所とした)を2枚横に並べて配置し、中央には幅4mmの梁15Bを設けた。
【0048】
より詳細には、
図3に示すように、サイズが横182mm×縦180mmの正極集電板15において、中心に幅4mmの梁15Bが残るように、正極集電板15の外縁部と梁15Bとの間を矩形に抜いて、枠体15Aの内側に2つの開口15D、15Dを形成する。この開口15Dに空気極14が取り付けられる。空気極14の基体は、サイズが横84mm×縦125mmである。空気極14の基体は、長尺方向に幅2mmに亘り正極合剤が無い無塗工部14A、すなわち外縁部14Aを有する。この無塗工部14Aを枠体15Aの対向する開口の長辺15D
L近傍と梁15B側の長辺15D
L近傍とに抵抗溶接により溶接して、空気極14を枠体15Aに固定する。このようにして、空気極14は正極集電板15に支持される。
【0049】
さらに、梁15Bを跨いで互いに対向する枠体15Aの外周縁部を、それぞれ幅1mmに亘り空気極14が固定された枠体15Aの面とは反対側に折り曲げて接続片部15Cを設ける。一般的に、板状部材は、一面全体が平坦であるよりも、外周縁部が面内方向と交差する方向に折曲されることにより、その物理的強度が増える。従って、正極集電板15の接続片部15Cの近傍に、空気極14と枠体15Aとの溶接個所が位置するので、溶接による正極集電板15の歪みや撓みが抑制される。
【0050】
(5)電池モジュールの組立
2枚の締付板4、5のうち、一方の締付板4に、締付板の主面とほぼ直交するようにFEPチューブで被覆したガイド用ネジ30をセットし、このネジ30に切込Cを合せるようにして、順に負極集電板19、ガスケットB18を重ねた。なお、ガイド用ネジ30は、棒状の取付け具の一例である。FEPチューブは、弾性チューブの一例である。
【0051】
ガスケットB18の空洞部に、厚み0.3mmの発泡ニッケルのプレートと、負極極板17とを順に配置した。さらに、セパレータ16と、空気極14が溶接された正極集電板15を重ねた。正極集電板15は、枠体15Aの接続片部15Cの起立方向が負極極板17に向かう方向とは反対になるように、セパレータ16に対し重ねられた。さらに、撥水膜13、流路板12、ガスケットA11と重ねた。正極集電板15、撥水膜13、流路板12、ガスケットA11の位置合わせは、各々に形成された切込Cとガイド用ネジ30との係合を利用して行われる。
【0052】
このように、負極集電板19から順にガスケットA11まで重ねて構成される積層構造物を1セットとし、60セットを一方向に順に積み重ねた。この1セットにおいて、正極(空気極)と負極極板17とがセパレータ16を間に挟んで対向するので、1セットは単一の電池セル2を構成する。
【0053】
60個の電池セル2を、ガイド用ネジ30を利用して一方向に沿って積み重ねて60個の電池セル2を直列接続させ、さらに一枚の負極集電板19を重ねて他方の締付板5を重ねた。なお、最後に重ねた負極集電板19は、電池セル2を構成しない。
【0054】
次に、垂直プレスで8tの荷重をかけてからネジ30を介して締付板4、5同士を締め付けて電池モジュール1を組み立てた。組み立てられた電池モジュール1は、内部に電解液を封入可能とする。
【0055】
最初に積層した電池セル2の負極集電板19を電池モジュール1の負極端子とし、最後に積層した電池セル2の正極集電板15とこの正極集電板15に接触する負極集電板19とが接続により一体化した部材を電池モジュール1の負極端子とする。電池モジュール1のリークチェックを行った後、電解液として5mol/LのKOH水溶液の1.2kgを電池モジュール1内に注入した。
【0056】
また、電池モジュール1では、各電池セル2が有する空気供給口20及び空気排出口21がそれぞれ連通するので、正極側の締付板4の空気供給口4Aから電池モジュール1内部に空気が導入され、60個の電池セル2を通過した後、負極側の締付板5の空気排出口5Aから排出される。すなわち、60個の電池セル2の全てに空気が供給される。
【0057】
電池モジュール1に対し60℃で12時間のエージング処理を行って負極を活性化させた後、室温まで冷却し、その後6.2L/minでCO2を除去した空気を電池モジュール1に供給しながら電池モジュール1を充放電させた。充放電条件は、負極の設計容量の80%に相当する25Ahを1Itとし、0.1It×10時間の充電を行い、0.05Itでの放電(放電終止電圧E.V.は42V)を行った。
【0058】
(6)電池セル同士の直列接続
次に、上述の電池モジュール1の組立てにおいて、積層方向に上下に隣り合う2つの電池セル2の電気的接続について説明する。電池モジュール1において、積層される電池セル2同士を直列接続するために、ガイド用ネジ30により既に積層を終えたi番目(iは1≦i≦59の自然数)電池セル2の正極集電板15を、その電池セル2の上に積層されて隣接する(i+1)番目電池セル2の負極集電板19と電気的に接続させる必要がある。
図4(a)に示すように、i番目電池セル2の正極集電板15と、(i+1)番目電池セル2の負極集電板19との間には、i番目電池セル2の撥水膜13と流路板12とが存在する。
【0059】
しかしながら、i番目電池セル2の正極集電板15の接続片部15Cは、(i+1)番目電池セル2の負極集電板19に向けて延びているので、締付板4、5による締め付けにより、
図4(b)に示すように、i番目電池セル2の撥水膜13と流路板12とを超えて、(i+1)番目電池セル2の負極集電板19と接触して電気的に接続される。なお、i番目電池セル2は、第1電池セルの一例であり、(i+1)番目電池セル2は、第2電池セルの一例である。
【0060】
正極集電板15は、内側に空気極14を支持するために、内側が空気極14の形状に切り取られた枠形を有する。枠形状の枠体15Aは、加工前の形状に比較すると剛性が低くなる。しかし、溶接部近傍に、枠体15Aの枠面と直交する方向に枠体15Aから一体的に起立する接続片部15Cを有するために、枠体15Aの剛性が補強される。したがって、空気極14の溶接による正極集電板15の歪みや撓みの発生を抑制することができる。
【0061】
3.正極集電板の形状による効果
接続片部15Cによる正極集電板15の歪みや撓みの抑制について説明する。
【0062】
上記のように、接続片部15Cは、正極集電板15の枠体15Aにおいて、空気極14が溶接される個所よりも外側に位置する辺を、1mmの幅で折り曲げることにより形成される。この接続片部15Cに対し、溶接される枠体15Aを跨いで対向する辺を折り曲げない正極集電板15を用意する。正極集電板15の枠体15Aを枠面が水平方向と平行になるように配置した後、接続片部15Cのない辺を固定端とし且つ接続片を有する辺を自由端としたときの自重による正極集電板15の鉛直方向の撓みを計測する。撓みは、自由端を固定端と同じ高さに保持し、保持を解除して自在に移動したあとの自由端の鉛直方向における移動の長さとして測定する。
【0063】
接続片部15Cを有して板厚0.1mm、0.2mm、0.3mmと異なる3種類の一辺180mmの矩形正極集電板を、順に実施例1、実施例2、実施例3とした。比較のために、接続片を有さず板厚を0.1mm、0.2mm、0.3mmと異なる一辺180mmの矩形正極集電板を、それぞれ比較例1、比較例2、比較例3とした。
【0064】
空気極14の溶接による正極集電板15の開口15Dの短辺15D
S方向における溶接前後の長さ変位、すなわち正極集電板15の開口15Dの歪み量を以下のようにして調べた。例えば、
図3に示すように、枠体15Aの内側縁部15D
Lに溶接された空気極14の基体の外縁部14A側から梁15Bの縁部、すなわち開口15Dの長辺15D
Lまで、開口15Dの短辺15D
Sと平行に延びる線分Lを、空気極14が溶接される長辺15D
Lの両端及び中央から3本想定する。各線分Lに対し、長さ方向の一端を固定端、他端を自由端とする片持ちばねで、線分Lの中点を含めた3か所の、溶接の前後における長さ変位(開口15Dの歪み量)を調べた。その結果を表1に示すように標準偏差で表した。
【0065】
【0066】
表1から分かるように、接続片部15Cを有する実施例では、「溶接前の撓み」は、実施例1では1.8mm、実施例2では1.1mm、実施例3では0.2mmとなり、膜厚が増えるに従い撓みが小さくなっている。接続片部15Cのない比較例では、比較例1は7.3mm、比較例2は3.0mm、比較例1.5mmと同様に膜厚が増えるに従い撓みは小さくなっている。実施例と比較例とを比べると、接続片部15Cを有する実施例1-3は、同じ膜厚の比較例に比較して、溶接前の撓みは、半分以下になっていて、いずれの膜厚でも撓みの程度は小さい。
【0067】
次に、溶接の前後での「枠体内縁部の固定端側の端、中央、自由端側の端の長さ変位の標準偏差」は、実施例1では0.11mm、実施例2では0.04mm、実施例3では0.01mmとなり、膜厚が増えるに従い枠体内縁部の変位量は小さくなっている。接続片部15Cのない比較例では、比較例1は0.15mm、比較例2は0.13mm、比較例0.03mmと同様に膜厚が増えるに従い枠体内縁部の変位量は小さくなっている。
【0068】
このように、溶接前の撓み、溶接後の枠体15Aの枠体内縁部の変位の標準偏差をみると、正極集電板15が接続片部15Cを有するほうが自重や溶接による撓みや溶接時の歪みの発生を抑制できる。また、正極集電板15の板厚が厚くなるにつれて、撓み量又は歪み量が小さくなる。
【0069】
正極集電板15の板厚を増やすことによって剛性が上がって撓みが抑制されるが、空気極14及び負極の電極以外の部品の重量や体積を増やすので、電池セル2のエネルギー密度が低下する。また、板厚を0.4mm以上にすると、枠体15Aの外縁部の折曲加工が難しくなり接続片部15Cを精度良く作製することができなかった。したがって、正極集電板15の膜厚は0.1~0.3mmが最適であり、0.2~0.3mmがより好ましい。
【0070】
正極集電板15の枠体15Aの外縁部を幅1mmで折り曲げて接続片部15Cを形成することにより、枠体15Aへの空気極溶接による変形を抑制することができる。
【0071】
本実施例では、枠体15Aの外縁部を幅1mmで面内方向に対し60度の角度で折り曲げて接続片部15Cとした。例えばi番目の電池セル2の正極集電板15の接続片部15Cの高さは、1mmに満たない。しかしながら、接続片の積層方向における長さは、i番目の電池セル2の正極集電板15と、隣接する(i+1)番目の電池セル2の負極集電板19のとの間に挟み込まれる、i番目の電池セル2の流路板12及び撥水膜13の厚みの合計よりも長いために、(i+1)番目の電池セル2の負極集電板19と確実に接触して、i番目の電池セル2を(i+1)番目の電池セル2に直列接続させる。本実施形態の接続片部15Cを有する正極集電体の構成により、互いに隣合う電池セル2同士を直列接続させることができる。
【0072】
このように、正極集電板15の接続片部15Cにより剛性が向上するので、正極集電板15の板厚の増加や梁15Bの大型化を不要にできる。したがって、電池モジュール1のエネルギー密度を維持することができる。
【0073】
また、正極集電板15の歪み発生が抑制されているので、各電池セル2を積層して締付板4、5で締め付けるときの位置ずれが抑制される。
【0074】
上記のように、本実施形態では60個の電池セル2を積層するため、各電池セル2に2種類のガスケットA,Bがあり、全部で120個のガスケットを一列に並べて封止する。正極集電板15の歪みや撓みが少ないため、ガスケットが均一に圧縮されるので、流路板12の流路に圧力損失が生じにくくなる。したがって、各電池セル2に均等に空気を分配供給することができ、電池セル2の電圧差や容量差の発生を抑制する。これにより、電池の寿命を損なう原因を減らすことができる。
【0075】
さらに、流路板12、負極集電板19、正極集電板15に、U字型の切込Cを設け、弾性チューブで被覆したネジ30をガイドとして各電池セル2の積層を行った。切込CをU字型とすることで、各電池セル2を構成する部材の積み上げを円滑に行うことができる。また、空気極14が溶接された正極集電板15の歪みや撓みが小さいため、電池モジュール1を組み立てる際に各電池セル2を精度良く重ねることできる。
【0076】
4.電池特性の評価
電池モジュール1の活性化後のDC抵抗は、電池セル2あたり3mΩと小さかった。電池セル2の小さい内部抵抗は、以下に起因すると考えられる。
【0077】
(a)空気極14の基体が正極集電板15の枠体15Aに溶接されて導通が正確に取れていること。
(b)i番目の電池セル2の正極集電板15が、この正極集電板15の隣に位置する(i+1)番目の電池セル2の負極集電板19と、接続片部15Cにより精度良く接触して電気的に接続されていること。
(c)負極集電板19と負極極板17との間に、発泡ニッケルからなるプレートを差し込むことにより、電池セル2の積層方向における寸法変化を吸収して負極集電板19と負極極板17との接触を良好に維持していること。
【0078】
また、電池モジュール1において、充放電時に、直列接続された60個の電池セル2のうち、5セル毎の電池電圧をモニタしたが、電気容量のばらつきは、接続片部15Cのない正極集電板15からなる電池セル2の電池モジュール1に比較して抑制されており、Ah効率99.4%の非常に安定した充放電特性を実現した。
【符号の説明】
【0079】
1 空気電池モジュール
2 空気電池セル
12 流路板
13 撥水膜
14 空気極
15 正極集電板
15A 枠体
15C 接続片部
16 セパレータ
17 負極極板
19 負極集電板