(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145880
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】医療用具、処理液、及び医療用具の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20241004BHJP
A61M 5/28 20060101ALI20241004BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20241004BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61M5/315 512
A61M5/28
A61L29/08 100
A61L31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058436
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】井上 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】山科 憂佳
【テーマコード(参考)】
4C066
4C081
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066EE14
4C066FF05
4C066LL30
4C066PP01
4C066PP02
4C081AC06
4C081AC08
4C081BB05
4C081CA272
4C081CE09
4C081DA03
4C081DA16
4C081DC03
4C081EA01
(57)【要約】
【課題】優れた摺動性を有するとともに、摺動部位に設けられた被膜の剥離が抑制された、摺動部位を備える医療用具と、当該医療用具の製造に好適に使用される薬液と、当該薬液を用いて被膜を形成することを含む医療用具の製造方法と、を提供すること。
【解決手段】摺動部位を備える医療用具において、摺動部位の表面に、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤を含む組成物の硬化物からなる被膜を形成し、組成物に、シランカップリング剤としての特定の構造のアミノシラン、又はアミノシランに該当しないアミン化合物を含有させるとともに、特定の構造のハロアルキルシランを含有させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜で被覆された摺動部位を備える医療用具であって、
前記被膜が、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤を含む組成物の硬化物からなり、
前記組成物が、前記シランカップリング剤としてのアミノシランを含むか、又は前記アミノシランに該当しないアミン化合物を含み、
前記シランカップリング剤が、下記式(1):
R1Si(OR2)3・・・(1)
(式(1)中、R1は、炭素原子数1以上6以下のハロアルキル基であり、R2は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。)
で表されるハロアルキルシランを含む、医療用具。
【請求項2】
前記組成物が、前記アミノシランを含み、
前記アミノシランが、下記式(2):
(R5-(R3-NR7)a-R4)-Si(OR6)3・・・(2)
(式(2)中、R3は、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基であり、R4は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基であり、R5は、水素原子、又はアミノ基であり、R5としての前記アミノ基は、第一級アミノ基でも、第二級アミノ基でも、第三級アミノ基でもよく、R6は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基であり、R7は、水素原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基であり、aは、0又は1であり、aが0である場合、R5はアミノ基である。)
で表されるシラン化合物を含む、請求項1に記載の医療用具。
【請求項3】
外表面に前記被膜を備える注射針、外表面に前記被膜を備える瓶針、外表面に前記被膜を備える輸液用チューブ、外表面に前記被膜を備えるカテーテル、外表面に前記被膜を備えるガイドワイヤー、外表面又は内表面に前記被膜を備えるシリンジ用バレル、又はガスケットの外表面に前記被膜を備えるシリンジ用プランジャーである、請求項1、又は2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記被膜が、前記シリコーン樹脂と、前記シリコーン樹脂100質量部に対して、11質量部以上150質量部以下の前記シランカップリング剤とが縮合した前記縮合物を含む、請求項1、又は2に記載の医療用具。
【請求項5】
前記ハロアルキルシランの質量と、前記アミノシランの質量との合計に対する、前記ハロアルキルシランの質量の比率が、20質量%以上85質量%以下である、請求項1又は2に記載の医療用具。
【請求項6】
前記R1が、炭素原子数1以上3以下のクロロアルキル基である、請求項1、又は2に記載の医療用具。
【請求項7】
前記aが、1である、請求項1又は2に記載の医療用具。
【請求項8】
バレルと、プランジャーとを備えるシリンジであって、
前記バレルが請求項3に記載される前記医療用具としての前記シリンジ用バレルであるか、前記プランジャーが請求項3に記載される前記医療用具としての前記シリンジ用プランジャーである、シリンジ。
【請求項9】
前記シリンジ用バレル、及び前記シリンジ用プランジャーが備える前記ガスケットが、高分子材料からなる、請求項8に記載のシリンジ。
【請求項10】
シリンジ用バレルと、シリンジ用プランジャーと、封止材と、薬剤と、を備えるプレフィルドシリンジであって、
前記薬剤が、前記バレル内に充填されており、
前記シリンジ用プランジャーがガスケットを備え、
前記シリンジ用バレルの一方の開口が前記ガスケットにより封止され、
前記シリンジ用バレルの他方の開口が前記封止材により封止され、
前記シリンジ用バレルの内表面、及び前記ガスケットの表面の少なくとも一方が、被膜で被覆されており、
前記被膜が、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤とを含む組成物の硬化物からなり、
前記組成物が、前記シランカップリング剤としてのアミノシランを含むか、又は前記アミノシランに該当しないアミン化合物を含み、
前記シランカップリング剤が、下記式(1):
R1Si(OR2)3・・・(1)
(式(1)中、R1は、炭素原子数1以上6以下のハロアルキル基であり、R2は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。)
で表されるハロアルキルシランを含む、プレフィルドシリンジ。
【請求項11】
前記組成物が、前記アミノシランを含み、
前記アミノシランが、下記式(2):
(R5-(R3-NR7)a-R4)-Si(OR6)3・・・(2)
(式(2)中、R3は、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基であり、R4は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基であり、R5は、水素原子、又はアミノ基であり、R5としての前記アミノ基は、第一級アミノ基でも、第二級アミノ基でも、第三級アミノ基でもよく、R6は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基であり、R7は、水素原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基であり、aは、0又は1であり、aが0である場合、R5はアミノ基である。)
で表されるシラン化合物を含む、請求項10に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項12】
摺動部位を備える医療用具において、前記擦動部位に被膜を形成するために用いられる処理液であって、
前記処理液が、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤とを含み、
前記処理液が、前記シランカップリング剤としてのアミノシランを含むか、又は前記アミノシランに該当しないアミン化合物を含み、
前記シランカップリング剤が、下記式(1):
R1Si(OR2)3・・・(1)
(式(1)中、R1は、炭素原子数1以上6以下のハロアルキル基であり、R2は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。)
で表されるハロアルキルシランを含む、処理液。
【請求項13】
前記処理液が、前記アミノシランを含み、
前記アミノシランが、下記式(2):
(R5-(R3-NR7)a-R4)-Si(OR6)3・・・(2)
(式(1)中、R3は、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基であり、R4は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基であり、R5は、水素原子、又はアミノ基であり、R5としての前記アミノ基は、第一級アミノ基でも、第二級アミノ基でも、第三級アミノ基でもよく、R6は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基であり、R7は、水素原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基であり、aは、0又は1であり、aが0である場合、R5はアミノ基である。)
で表されるシラン化合物を含む、請求項12に記載の処理液。
【請求項14】
摺動部位を備える装置医療用具の製造方法であって、
前記装置の前記摺動部位に、請求項12、又は13に記載の処理液を塗布して、被膜を形成すること、を含む、医療用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用具、処理液、及び医療用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンジ(注射器)用のバレル、及びプランジャーや、注射針、瓶針等、摺動性が要求される医療用具は多い。医療用具に摺動性を付与する方法としては、医療用具における摺動性が必要である部位に潤滑剤を塗布する方法が知られている。具体的には、プレフィルドシリンジを構成するプランジャーの先端のストッパー(ガスケット)を被覆するラミネートフィルムに少量のシリコーン化合物を塗布する方法が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療用具が何らかの薬剤によりコーティングされる場合、薬液や人体への悪影響を防ぐために、コーティングが医療用具から剥離しにくいことが望まれる。特許文献1に記載のプレフィルドシリンジでは、ストッパーの表面に少量のシリコーン化合物が塗布されているため、ストッパーの表面からのシリコーン化合物の剥離自体は少ない。しかし、少量のシリコーン化合物しか塗布されていないため、特許文献1に記載のプレフィルドシリンジには、擦動性に改良の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、優れた摺動性を有するとともに、摺動部位に設けられた被膜の剥離が抑制された、摺動部位を備える医療用具と、当該医療用具の製造に好適に使用される薬液と、当該薬液を用いて被膜を形成することを含む医療用具の製造方法と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、摺動部位を備える医療用具において、摺動部位の表面に、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤を含む組成物の硬化物からなる被膜を形成し、組成物に、シランカップリング剤としての特定の構造のアミノシラン、又はアミノシランに該当しないアミン化合物を含有させるとともに、特定の構造のハロアルキルシランを含有させることによって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた摺動性を有するとともに、摺動部位に設けられた被膜の剥離が抑制された、摺動部位を備える医療用具と、当該医療用具の製造に好適に使用される薬液と、当該薬液を用いて被膜を形成することを含む医療用具の製造方法と、を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪医療用具≫
医療用具は、摺動部位を備える。摺動部位は被膜で被覆されている。被膜は、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤とを含む組成物の硬化物からなる。
上記の組成物は、シランカップリング剤としてのアミノシランを含むか、アミノシランン位該当しないアミン化合物を含む。
さらに、上記の組成物は、ハロアルキルシランを含む。
ハロアルキルシランは、下記式(1)で表される化合物である。
R1Si(OR2)3・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素原子数1以上6以下のハロアルキル基である。R2は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。
【0009】
医療用具の具体例としては、外表面に被膜を備える注射針、外表面に被膜を備える瓶針、外表面に被膜を備える輸液用チューブ、外表面に被膜を備えるカテーテル、外表面に被膜を備えるガイドワイヤー、外表面又は内表面に被膜を備えるシリンジ用バレル、及びガスケットの外表面に被膜を備えるシリンジ用プランジャーが挙げられる。
【0010】
上記の組成物の硬化膜からなる被膜は、種々の材質に良好に結合し、剥離しにくい。
シランカップリング剤は、種々の材質の表面に存在する、水酸基やアミノ基のような活性水素原子を有する官能基と結合して共有結合を形成する。また、シランカップリング剤は、水酸基を有するシリコーン樹脂とも結合して、網目状のネットワークを形成する。
上記の理由により、上記の組成物の硬化膜からなる被膜は、シリコーン樹脂に由来する潤滑性を有するとともに、種々の材質に対して強固に結合する。
【0011】
摺動部位の材質としては特に限定されない。摺動部位の材質は、高分子材料であっても、金属であっても、ガラスであってもよい。
【0012】
高分子材料としては、ポリオレフィン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル、及びポリアミド等が挙げられる。
ポリオレフィンの具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ1-ブテン、及びポリ4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
(メタ)アクリル系樹脂の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類から選択される1種以上の(メタ)アクリレートモノマーの重合体が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリ乳酸(PLA)等が挙げられる。
ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ナイロン6,12、及びMXDナイロン等が挙げられる。
また、ノルボルネン等の環状オレフィンの重合体である環状オレフィンポリマー(COP)や、環状オレフィンと、エチレン等のオレフィンとの共重合体である環状オレフィンコポリマー(COC)等も、高分子材料として好ましい。
さらに、種々の弾性材料も高分子材料として好ましい。弾性材料の具体例としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、及びポリオレフィン系エラストマーが挙げられる。
【0013】
金属の具体例としては、種々のステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、及びチタン合金等が挙げられる。
【0014】
上記の組成物の硬化膜からなる被膜を、より強固に摺動部位に結合さるために、被膜が形成される前の摺動部位の表面に、水蒸気プラズマ処理等の方法で水酸基を導入してもよい。摺動部位の表面の水酸基量が増えることにより、被膜と、摺動部位の表面との間に形成される共有結合の量が増える。その結果、被膜がより強固に摺動部位に結合する。
【0015】
以下、被膜の形成に用いられる組成物について説明する。
【0016】
<組成物>
前述の通り、組成物は、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤とを含む。
また、組成物は、シランカップリング剤としてのアミノシランを含むか、アミノシランに該当しないアミン化合物を含む。
さらに、組成物は、ハロアルキルシランを含む。
組成物は、水酸基を有するシリコーン樹脂を1種のみ含んでいてもよく、水酸基を有するシリコーン樹脂を2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
組成物は、アミノシランを1種のみ含んでいてもよく、アミノシランを2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
組成物は、アミノシランに該当しないアミン化合物を1種のみ含んでいてもよく、アミノシランに該当しないアミン化合物を2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
組成物は、ハロアルキルシランを1種のみ含んでいてもよく、ハロアルキルシランを2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0017】
組成物が医療用器具の摺動部位に塗布されることにより、被膜が形成される。このため、典型的には、組成物は、有機溶媒を含む。
【0018】
アミノシラン、及びアミン化合物は、シランカップリング剤同士、又はシランカップリング剤と水酸基を有するシリコーン樹脂との縮合反応を触媒する。このため、組成物が、アミノシラン、又はアミン化合物を含むことにより、組成物が良好に硬化し、摺動部位の表面から剥離しにくい被膜が形成される。
【0019】
以下、組成物が含む、必須、又は任意の成分について説明する。
【0020】
〔水酸基を有するシリコーン樹脂〕
組成物は、水酸基を有するシリコーン樹脂を含む。水酸基を有するシリコーン樹脂は、組成物を用いて形成される被膜に潤滑性を付与するとともに、後述するシランカップリング剤と反応することで、網目状のネットワークを有し、摺動部位に強固に結合する被膜を与える。
【0021】
シリコーン樹脂の分子構造は特に限定されない。シリコーン樹脂の分子構造は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、直鎖状が好ましい。
シリコーン樹脂の分子鎖の構造は、ポリオルガノシロキサン構造であり、ポリジメチルシロキサン構造が好ましい。
シリコーン樹脂における水酸基の位置は特に限定されないが、分子鎖の末端が好ましい。
シリコーン樹脂は、シリコーン樹脂の分子鎖を構成するケイ素原子に結合する水酸基(シラノール基)を有してもよく、水酸基を含む有機基を有してもよい。水酸基を含む有機基としては、ヒドロキシアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上4以下のヒドロキシアルキル基がより好ましく、ヒドロキシエチル基、及びヒドロキシメチル基がさらに好ましく、ヒドロキシメチル基が特に好ましい。
水酸基を有するシリコーン樹脂としては、直鎖状分子の両末端のケイ素原子にそれぞれ水酸基が結合している2官能性のシリコーン樹脂が好ましく、直鎖状分子の両末端のケイ素原子にそれぞれ水酸基が結合している変性ポリジメチルシロキサンがより好ましい。
【0022】
〔シランカップリング剤〕
組成物は、シランカップリング剤を含む。また、組成物は、シランカップリング剤としてのアミノシランを含むか、アミノシランに該当しないアミン化合物を含む。さらに、組成物は、ハロアルキルシランを含む。
つまり、組成物は、アミノシランと、ハロアルキルシランとを組み合わせて含むか、アミノシランに該当しないアミン化合物と、ハロアルキルシランとを組み合わせて含む。
なお、組成物は、アミノシランと、ハロアルキルシランと、アミノシランに該当しないアミン化合物とを組み合わせて含んでいてもよい。
また、組成物は、所望する効果が損なわれない範囲において、アミノシラン、及びハロアルキルシランのいずれにも該当しないシランカップリング剤を含んでいてもよい。
【0023】
(アミノシラン)
アミノシランは、アミノ基を有するシランカップリング剤であれば特に限定されない。アミノシランが有するアミノ基は、第一級アミノ基でも、第二級アミノ基でも、第三級アミノ基でもよい。
また、アミノシランは、2以上のアミノ基を有してもよい。アミノシランが、2以上のアミノ基を有する場合、2以上のアミノ基は、同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
アミノシランとしては、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
(R5-(R3-NR7)a-R4)-Si(OR6)3・・・(2)
式(2)中、R3は、炭素原子数1以上4以下のアルキレン基である。R4は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基である。R5は、水素原子、又はアミノ基である。R5としてのアミノ基は、第一級アミノ基でも、第二級アミノ基でも、第三級アミノ基でもよい。R6は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。R7は、水素原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。aは、0又は1である。aが0である場合、R5はアミノ基である。
【0025】
R3としてのアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基(エチレン基)、エタン-1,1-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、及びブタン-1,4-ジイル基が挙げられる。
【0026】
R4としてのアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基(エチレン基)、エタン-1,1-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、及びヘキサン-1,6-ジイル基が挙げられる。
【0027】
R5としてのアミノ基は第一級アミノ基である場合、R5がアミノ基(-NH2)である。
R5としてのアミノ基が、第二級アミノ基である場合、R5は、モノアルキルアミノ基であるのが好ましい。モノアルキルアミノ基に含まれるアルキル基としては、炭素原子数1以上4以下のアルキル基が好ましい。モノアルキルアミノ基の好適な具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、及びtert-ブチルアミノ基が挙げられる。
R5としてのアミノ基が、第三級アミノ基である場合、R5は、ジアルキルアミノ基であるのが好ましい。ジアルキルアミノ基に含まれるアルキル基としては、炭素原子数1以上4以下のアルキル基が好ましい。ジアルキルアミノ基の好適な具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジ-sec-ブチルアミノ基、ジ-tert-ブチルアミノ基、メチル(エチル)アミノ基、メチル(n-プロピル)アミノ基、及びエチル(n-プロピルアミノ基)が挙げられる。
【0028】
R6としてのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が挙げられる。
【0029】
R7としてのアルキル基の具体例としては、R6としてのアルキル基の具体例と同様である。
【0030】
aは、0、又は1であり、1であるのが好ましい。
【0031】
式(2)で表される化合物の好適な具体例としては、
2-アミノエチルトリメトキシシラン、2-アミノエチルトリエトキシシラン、及び2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等の2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等の3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
4-アミノブチルトリメトキシシラン、4-アミノブチルトリエトキシシラン、及び4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等の4-アミノブチルトリアルコキシシラン;
N-メチル-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N-メチル-2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN-メチル-2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-メチル-2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN-メチル-3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等のN-メチル-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
N-メチル-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-メチル-4-アミノブチルトリエトキシシラン、及びN-メチル-4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-メチル-4-アミノブチルトリアルコキシシラン;
N-エチル-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N-エチル-2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN-エチル-2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-エチル-2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
N-エチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エチル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN-エチル-3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等のN-エチル-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
N-エチル-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-エチル-4-アミノブチルトリエトキシシラン、及びN-エチル-4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-エチル-4-アミノブチルトリアルコキシシラン;
N,N-ジメチル-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N,N-ジメチル-2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN,N-ジメチル-2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等のN,N-ジメチル-2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
N,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等のN,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
N,N-ジメチル-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N,N-ジメチル-4-アミノブチルトリエトキシシラン、及びN,N-ジメチル-4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等のN,N-ジメチル-4-アミノブチルトリアルコキシシラン;
N,N-ジエチル-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N,N-ジエチル-2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN,N-ジエチル-2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等のN,N-ジエチル-2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
N,N-ジエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジエチル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN,N-ジエチル-3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等のN,N-ジエチル-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
N,N-ジエチル-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N,N-ジエチル-4-アミノブチルトリエトキシシラン、及びN,N-ジエチル-4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等のN,N-ジエチル-4-アミノブチルトリアルコキシシラン;
N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
N-(3-アミノプロピル)-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N-(3-アミノプロピル)-2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN-(3-アミノプロピル)-2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(3-アミノプロピル)-2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
N-(4-アミノブチル)-2-アミノエチルトリメトキシシラン、N-(4-アミノブチル)-2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN-(4-アミノブチル)-2-アミノエチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(4-アミノブチル)-2-アミノエチルトリアルコキシシラン;
N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
N-(3-アミノプロピル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-アミノプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN-(3-アミノプロピル)-3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(3-アミノプロピル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
N-(4-アミノブチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(4-アミノブチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN-(4-アミノブチル)-3-アミノプロピルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(4-アミノブチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン;
N-(2-アミノエチル)-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-4-アミノブチルトリエトキシシラン、及びN-(2-アミノエチル)-4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(2-アミノエチル)-4-アミノブチルトリアルコキシシラン;
N-(3-アミノプロピル)-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-(3-アミノプロピル)-4-アミノブチルトリエトキシシラン、及びN-(3-アミノプロピル)-4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(3-アミノプロピル)-4-アミノブチルトリアルコキシシラン;
N-(4-アミノブチル)-4-アミノブチルトリメトキシシラン、N-(4-アミノブチル)-4-アミノブチルトリエトキシシラン、及びN-(4-アミノブチル)-4-アミノブチルトリ-n-プロポキシシラン等のN-(4-アミノブチル)-4-アミノブチルトリアルコキシシランが挙げられる。
【0032】
(ハロアルキルシラン)
ハロアルキルシランは、下記式(1)で表される化合物である。
R1Si(OR2)3・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素原子数1以上6以下のハロアルキル基である。R2は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。
【0033】
R1としてのハロアルキル基に含まれるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子が好ましい。R1としてのハロアルキル基は、1種のハロゲン原子のみを含んでいてもよく、2種以上のハロゲン原子を組み合わせて含んでいてもよい。
【0034】
R1としてのハロアルキル基の具体例としては、
クロロメチル基、ブロモメチル基、及びフルオロメチル基等のモノハロメチル基;
ジクロロメチル基、ジブロモメチル基、及びジフルオロメチル基等のジハロメチル基;
トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、及びトリフルオロメチル基等のトリハロメチル基;
2-クロロエチル基、2-ブロモエチル基、及び2-フルオロエチル基等の2-ハロエチル基;
1-クロロエチル基、1-ブロモエチル基、及び1-フルオロエチル基等の1-ハロエチル基;
2,2-ジクロロエチル基、2,2-ジブロモエチル基、及び2,2-ジフルオロエチル基等の2,2-ジハロエチル基;
1,2-ジクロロエチル基、1,2-ジブロモエチル基、及び1,2-ジフルオロエチル基等の1,2-ジハロエチル基;
2,2,2-トリクロロエチル基、2,2,2-トリブロモエチル基、及び2,2,2-トリフルオロエチル基等の2,2,2-トリハロエチル基;
3-クロロプロピル基、3-ブロモプロピル基、及び3-フルオロプロピル基等の3-ハロプロピル基;
2-クロロプロピル基、2-ブロモプロピル基、及び2-フルオロプロピル基等の2-ハロプロピル基;
2,3-ジクロロプロピル基、2,3-ジブロモプロピル基、及び2,3-ジフルオロプロピル基等の2,3-ジハロプロピル基;
3,3,3-トリクロロプロピル基、3,3,3-トリブロモプロピル基、及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等の3,3,3-トリハロプロピル基;
2,2,3,3-テトラクロロプロピル基、2,2,3,3-テトラブロモプロピル基、及び2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基等の2,2,3,3-テトラハロプロピル基;
2,2,3,3,3-ペンタクロロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタブロモプロピル基、及び2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基等の2,2,3,3,3-ペンタハロプロピル基;
1-クロロ-1-メチルエチル基、1-ブロモ-1-メチルエチル基、及び1-フルオロ-1-メチルエチル基等の1-ハロ-1-メチルエチル基;
2-クロロ-1-メチルエチル基、2-ブロモ-1-メチルエチル基、及び2-フルオロ-1-メチルエチル基等の2-ハロ-1-メチルエチル基;
4-クロロブチル基、4-ブロモブチル基、及び4-フルオロブチル基等の4-ハロブチル基;
5-クロロペンチル基、5-ブロモペンチル基、及び5-フルオロペンチル基等の5-ハロペンチル基;
6-クロロヘキシル基、6-ブロモヘキシル基、及び6-フルオロヘキシル基等の6-ハロヘキシル基が挙げられる。
【0035】
ハロアルキルシランの分子量が小さいことにより、架橋密度の高い被膜を形成しやすかったり、被膜と摺動部位との間に多くの共有結合を形成しやすかったりすることや、ハロアルキルシランの入手が容易であること等から、R1としてのハロアルキル基としては、炭素原子数1以上3以下のクロロアルキル基が好ましい。なお、炭素原子数1以上3以下のクロロアルキル基は、2以上の塩素原子を含んでいてもよい。
【0036】
R6としてのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が挙げられる。
【0037】
式(1)で表されるハロアルキルシランの具体例としては、
クロロメチルトリメトキシシラン、ブロモメチルトリメトキシシラン、フルオロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、ブロモメチルトリエトキシシラン、フルオロメチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリ-n-プロポキシシラン、ブロモメチルトリ-n-プロポキシシラン、及びフルオロメチルトリ-n-プロポキシシラン等のモノハロメチルトリアルコキシシラン;
ジクロロメチルトリメトキシシラン、ジブロモメチルトリメトキシシラン、ジフルオロメチルトリメトキシシラン、ジクロロメチルトリエトキシシラン、ジブロモメチルトリエトキシシラン、ジフルオロメチルトリエトキシシラン、ジクロロメチルトリ-n-プロポキシシラン、ジブロモメチルトリ-n-プロポキシシラン、及びジフルオロメチルトリ-n-プロポキシシラン等のジハロメチルトリアルコキシシラン;
トリクロロメチルトリメトキシシラン、トリブロモメチル、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリクロロメチルトリエトキシシラン、トリブロモメチルトリエトキシシラン、及びトリフルオロメチルトリエトキシシラン、トリクロロメチルトリ-n-プロポキシシラン、トリブロモメチルトリ-n-プロポキシシラン、及びトリフルオロメチルトリ-n-プロポキシシラン等のトリハロメチルトリアルコキシシラン;
2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-ブロモエチルトリメトキシシラン、2-フルオロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン、2-ブロモエチルトリエトキシシラン、2-フルオロエチルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリ-n-プロポキシシラン、2-ブロモエチルトリ-n-プロポキシシラン、及び2-フルオロエチルトリ-n-プロポキシシラン等の2-ハロエチルトリアルコキシシラン;
1-クロロエチルトリメトキシシラン、1-ブロモエチルトリメトキシシラン、1-フルオロエチルトリメトキシシラン、1-クロロエチルトリエトキシシラン、1-ブロモエチルトリエトキシシラン、1-フルオロエチルトリエトキシシラン、1-クロロエチルトリ-n-プロポキシシラン、1-ブロモエチルトリ-n-プロポキシシラン、及び1-フルオロエチルトリ-n-プロポキシシラン等の1-ハロエチルトリアルコキシシラン;
2,2-ジクロロエチルトリメトキシシラン、2,2-ジブロモエチルトリメトキシシラン、2,2-ジフルオロエチルトリメトキシシラン、2,2-ジクロロエチルトリエトキシシラン、2,2-ジブロモエチルトリエトキシシラン、2,2-ジフルオロエチルトリエトキシシラン、2,2-ジクロロエチルトリ-n-プロポキシシラン、2,2-ジブロモエチルトリ-n-プロポキシシラン、及び2,2-ジフルオロエチルトリ-n-プロポキシシラン等の2,2-ジハロエチルトリアルコキシシラン;
1,2-ジクロロエチルトリメトキシシラン、1,2-ジブロモエチルトリメトキシシラン、1,2-ジフルオロエチルトリメトキシシラン、1,2-ジクロロエチルトリエトキシシラン、1,2-ジブロモエチルトリエトキシシラン、1,2-ジフルオロエチルトリエトキシシラン、1,2-ジクロロエチルトリ-n-プロポキシシラン、1,2-ジブロモエチルトリ-n-プロポキシシラン、及び1,2-ジフルオロエチルトリ-n-プロポキシシラン等の1,2-ジハロエチルトリアルコキシシラン;
2,2,2-トリクロロエチルトリメトキシシラン、2,2,2-トリブロモエチルトリメトキシシラン、2,2,2-トリフルオロエチルトリメトキシシラン、2,2,2-トリクロロエチルトリエトキシシラン、2,2,2-トリブロモエチルトリエトキシシラン、2,2,2-トリフルオロエチルトリエトキシシラン、2,2,2-トリクロロエチルトリ-n-プロポキシシラン、2,2,2-トリブロモエチルトリ-n-プロポキシシラン、及び2,2,2-トリフルオロエチルトリ-n-プロポキシシラン等の2,2,2-トリハロエチルトリアルコキシシラン;
3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-ブロモプロピルトリメトキシシラン、3-フルオロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-ブロモプロピルトリエトキシシラン、3-フルオロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリ-n-プロポキシシラン、3-ブロモプロピルトリ-n-プロポキシシラン、及び3-フルオロプロピルトリ-n-プロポキシシラン等の3-ハロプロピルトリアルコキシシラン;
2-クロロプロピルトリメトキシシラン、2-ブロモプロピルトリメトキシシラン、2-フルオロプロピルトリメトキシシラン、2-クロロプロピルトリエトキシシラン、2-ブロモプロピルトリエトキシシラン、2-フルオロプロピルトリエトキシシラン、2-クロロプロピルトリ-n-プロポキシシラン、2-ブロモプロピルトリ-n-プロポキシシラン、及び2-フルオロプロピルトリ-n-プロポキシシラン等の3-ハロプロピルトリアルコキシシラン;
2,3-ジクロロプロピルトリメトキシシラン、2,3-ジブロモプロピルトリメトキシシラン、2,3-ジフルオロプロピルトリメトキシシラン、2,3-ジクロロプロピルトリエトキシシラン、2,3-ジブロモプロピルトリエトキシシラン、2,3-ジフルオロプロピルトリエトキシシラン、2,3-ジクロロプロピルトリ-n-プロポキシシラン、2,3-ジブロモプロピルトリ-n-プロポキシシラン、及び2,3-ジフルオロプロピルトリ-n-プロポキシシラン等の2,3-ジハロプロピルトリアルコキシシラン;
3,3,3-トリクロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリブロモプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリクロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリブロモプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリクロロプロピルトリ-n-プロポキシシラン、3,3,3-トリブロモプロピルトリ-n-プロポキシシラン、及び3,3,3-トリフルオロプロピルトリ-n-プロポキシシラン等の3,3,3-トリハロプロピルトリアルコキシシラン;
2,2,3,3-テトラクロロプロピルトリメトキシシラン、2,2,3,3-テトラブロモプロピルトリメトキシシラン、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルトリメトキシシラン、2,2,3,3-テトラクロロプロピルトリエトキシシラン、2,2,3,3-テトラブロモプロピルトリエトキシシラン、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルトリエトキシシラン、2,2,3,3-テトラクロロプロピルトリエトキシシラン、2,2,3,3-テトラブロモプロピルトリエトキシシラン、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルトリエトキシシラン、2,2,3,3,3-ペンタクロロプロピルトリ-n-プロポキシシラン、2,2,3,3,3-ペンタブロモプロピルトリ-n-プロポキシシラン、及び2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルトリ-n-プロポキシシラン等の2,2,3,3,3-ペンタハロプロピルトリアルコキシシラン;
1-クロロ-1-メチルエチルトリメトキシシラン、1-ブロモ-1-メチルエチルトリメトキシシラン、1-フルオロ-1-メチルエチルトリメトキシシラン、1-クロロ-1-メチルエチルトリエトキシシラン、1-ブロモ-1-メチルエチルトリエトキシシラン、1-フルオロ-1-メチルエチルトリエトキシシラン、1-クロロ-1-メチルエチルトリ-n-プロポキシシラン、1-ブロモ-1-メチルエチルトリ-n-プロポキシシラン、及び1-フルオロ-1-メチルエチルトリ-n-プロポキシシラン等の1-ハロ-1-メチルエチルトリアルコキシシラン;
2-クロロ-1-メチルエチルトリメトキシシラン、2-ブロモ-1-メチルエチルトリメトキシシラン、2-フルオロ-1-メチルエチルトリメトキシシラン、2-クロロ-1-メチルエチルトリエトキシシラン、2-ブロモ-1-メチルエチルトリエトキシシラン、2-フルオロ-1-メチルエチルトリエトキシシラン、2-クロロ-1-メチルエチルトリ-n-プロポキシシラン、2-ブロモ-1-メチルエチルトリ-n-プロポキシシラン、及び2-フルオロ-1-メチルエチルトリ-n-プロポキシシラン等の2-ハロ-1-メチルエチルトリアルコキシシラン;
4-クロロブチルトリメトキシシラン、4-ブロモブチルトリメトキシシラン、4-フルオロブチルトリメトキシシラン、4-クロロブチルトリエトキシシラン、4-ブロモブチルトリエトキシシラン、4-フルオロブチルトリエトキシシラン、4-クロロブチルトリ-n-プロポキシシラン、4-ブロモブチルトリ-n-プロポキシシラン、及び4-フルオロブチルトリ-n-プロポキシシラン等の4-ハロブチルトリアルコキシシラン;
5-クロロペンチルトリメトキシシラン、5-ブロモペンチルトリメトキシシラン、5-フルオロペンチルトリメトキシシラン、5-クロロペンチルトリエトキシシラン、5-ブロモペンチルトリエトキシシラン、5-フルオロペンチルトリエトキシシラン、5-クロロペンチルトリ-n-プロポキシシラン、5-ブロモペンチルトリ-n-プロポキシシラン、及び5-フルオロペンチルトリ-n-プロポキシシラン等の5-ハロペンチルトリアルコキシシラン;
6-クロロヘキシルトリメトキシシラン、6-ブロモヘキシルトリメトキシシラン、及び6-フルオロヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロヘキシルトリエトキシシラン、6-ブロモヘキシルトリエトキシシラン、6-フルオロヘキシルトリエトキシシラン、6-クロロヘキシルトリ-n-プロポキシシラン、6-ブロモヘキシルトリ-n-プロポキシシラン、及び6-フルオロヘキシルトリ-n-プロポキシシラン等の6-ハロヘキシルトリアルコキシシランが挙げられる。
【0038】
(他のシランカップリング剤)
シランカップリング剤は、所望する効果が損なわれない範囲で、アミノシラン、及びハロアルキルシラン以外の他のシランカップリング剤を含んでいてもよい。
シランカップリング剤の質量に対する、他のシランカップリング剤の質量の比率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0質量%が最も好ましい。
【0039】
他のシランカップリング剤の具体例としては、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-ドデシルトリメトキシシラン、n-ドデシルトリエトキシシラン、n-ヘキサデシルトリメトキシシラン、n-ヘキサデシルトリエトキシシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン、n-オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、1-ヘキセニルトリメトキシシラン、1-ヘキセニルトリエトキシシラン、1-オクテニルトリメトキシシラン、1-オクテニルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
組成物を用いて形成される被膜は、水酸基を有するシリコーン樹脂と、水酸基を有するシリコーン樹脂100質量部に対して、11質量部以上150質量部以下のシランカップリング剤とが縮合した縮合物を含むのが好ましい。
シランカップリング剤の使用量は、水酸基を有するシリコーン樹脂100質量部に対して18質量部以上100質量部以下が好ましく、25質量部以上43質量部以下がより好ましい。
このような比率で、水酸基を有するシリコーン樹脂と、シランカップリング剤とが縮合することにより、架橋密度が高く、摺動部位に対して強固に結合した被膜を形成しやすい。
【0041】
シランカップリング剤が、アミノシラン、及びハロアルキルシランを含む場合、ハロアルキルシランの質量と、アミノシランの質量との合計に対する、ハロアルキルシランの質量の比率が、20質量%以上85質量%以下が好ましく、25質量%以上80質量%以下がより好ましく、30質量%以上75質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
〔アミン化合物〕
アミン化合物としては、従来よりシランカップリング剤や、アルコキシ基のような加水分解性基を有するシラン化合物の縮合反応において触媒として使用されているアミン化合物を特に限定なく用いることができる。
【0043】
アミン化合物としては、脂肪族第一級アミン、脂肪族第二級アミン、脂肪族第三級アミン類、芳香族アミン、含窒素複素環式化合物;アミジン構造を有する化合物、グアニジン構造を有する化合物、ビグアニド構造を有する化合物、及びこれらの化合物に該当しないその他のアミン類が挙げられる。
【0044】
アミン化合物の具体例としては、
メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、ラウリルアミン、n-ペンタデシルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、オレイルアミンモノエタノールアミン、3-ヒドロキシプロピルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及び3-メトキシプロピルアミン等の脂肪族第一級アミン;
ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-ペンチルアミン、ジ-n-ヘキシルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、ジ-n-デシルアミン、ジラウリルアミン、ジセチルアミン、ジステアリルアミン、メチルステアリルアミン、エチルステアリルアミン、ブチルステアリルアミン、ジエタノールアミン、及びN,N'-ジメチル-1,3-プロパンジアミン等の脂肪族第二級アミン;
トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-n-ヘキシルアミン、トリ-n-オクチルアミン、トリアリルアミン、及びトリエタノールアミン等の脂肪族第三級アミン;
アニリン、ラウリルアニリン、ステアリルアニリン、及びトリフェニルアミン等の芳香族アミン;
ピリジン、2-アミノピリジン、2-(ジメチルアミノ)ピリジン、4-(ジメチルアミノピリジン)、2-ヒドロキシピリジン、イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、モルホリン、N-メチルモルホリン、ピペリジン、2-ピペリジンメタノール、2-(2-ピペリジノ)エタノール、ピペリドン、1,2-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、及びアジリジン等の含窒素複素環式化合物;
1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(DBU)、6-(ジブチルアミノ)-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(DBA-DBU)、6-(2-ヒドロキシプロピル)-1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(OH-DBU)、及び1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ-5-エン(DBN)等のアミジン構造を有する化合物;
グアニジン、フェニルグアニジン、及びジフェニルグアニジン等のグアニジン構造を有する化合物;
ブチルビグアニド、1-o-トリルビグアニド、及び1-フェニルビグアニド等のビグアニド構造を有する化合物が挙げられる。
【0045】
アミン化合物の使用量は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。
アミン化合物の使用量は、シランカップリング剤100質量部に対して、6質量部以上30質量部以下が好ましく、10質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0046】
〔有機溶媒〕
組成物は、医療用具への塗布性の点で有機溶媒を含むのが好ましい。有機溶媒の種類は、以上説明した有機溶媒の成分が良好に溶解する限り特に限定されない。
【0047】
水酸基を有するシリコーン樹脂の溶解性の点で、有機溶媒としては、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)が挙げられる。ハイドロクロロフルオロフィンの例としては、アモレア(登録商標)AS-300((E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン/(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン、AGC社製)や、セレフィン(登録商標)1233Z(本町化学工業社製)が好ましい。
また、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン、四塩化炭素等のハイドロクロロフルオロオレフィンに該当しない含塩素炭化水素溶媒も、水酸基を有するシリコーン樹脂の溶解性の点で好ましい。
【0048】
また、シランカップリング剤の溶解性の点では、アルカノールが好ましい。アルカノールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、及びn-ヘキサノール等が挙げられる。
【0049】
組成物は、水酸基を有するシリコーン樹脂が、ハイドロクロロフルオロオレフィンや、ハイドロクロロフルオロオレフィンに該当しない含塩素炭化水素溶媒に溶解している溶液と、シランカップリング剤がアルカノールに溶解している溶液とを混合して調製されるのが好ましい。
アミン化合物は、水酸基を有するシリコーン樹脂の溶液に加えられても、シランカップリング剤の溶液に加えられてもよい。また、アミン化合物は、水酸基を有するシリコーン樹脂の溶液と、シランカップリング剤の溶液とが混合された溶液に加えられてもよい。
【0050】
組成物における有機溶媒の含有量は、特に限定されず、組成物を用いて形成される被膜の厚さ等を勘案して、適宜決定される。組成物における、水酸基を有するシリコーン樹脂の含有量と、シランカップリング剤の含有量とが多いほど、厚い被膜を形成しやすい。
【0051】
〔水〕
組成物は、空気中の水分によって硬化し得る。このため、組成物は、水を含んでいなくてもよい。しかし、硬化を速やかに進行させる点で、組成物に水を加えるのが好ましい。
組成物における水の含有量は、シランカップリング剤100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下が好ましく、20質量部以上35質量部以下がより好ましい。
【0052】
<被膜の形成方法>
以上説明した組成物を、医療用具の摺動部位の表面に塗布して、被膜が形成される。塗布方法としては、特に限定されない。塗布方法としては、浸漬法、スプレー法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、及びロールコート法等が挙げられる。これらの塗布方法の中では、複雑な形状の医療用具の表面への組成物の塗布が容易であることから、浸漬法が好ましい。もしくは、有機溶剤の揮発がなく組成物の濃度変化が起こらないスプレー法が好ましい。
医療用具に塗布された組成物を硬化させる方法は特に限定されない。組成物は、室温で硬化されてもよい。また、硬化を早めるために、加熱下に組成物を硬化させてもよい。加熱温度は、医療用具を構成する材料が熱劣化したり変形したりせず、被膜に含まれる成分が分解したり熱劣化したりしない限り、特に限定されない。加熱温度は、例えば、50℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上190℃以下がより好ましく、80℃以上180℃以下が特に好ましい。
加熱時間は、加熱温度等を勘案して適宜決定される。加熱時間は、典型的には、5分以上6時間以下が好ましく、10分以上5時間以下がより好ましく、30分以上2時間以下がさらに好ましい。
【0053】
以上のようにして製造される医療用具は、摺動部位において優れた摺動性を示す。また、以上のようにして製造される医療用具においては、摺動部位に形成された被膜が剥離しにくいため、医療用具の摺動性が長期間にわたり維持されるとともに、剥離した被膜による薬液や、生体への悪影響が少ない。
【0054】
≪シリンジ≫
シリンジは、バレルとプランジャーとを備える。
バレルは、通常、一方の端部に、バレル内に液体を流入させるか、又はバレルから外部に液体を流出させるルアーを備え、他方の端部に開口を有する。ルアーは、液体を流すための開口を有する。
プランジャーは、プランジャーロッドと、ガスケットとからなる。プランジャーは、バレルにおけるルアーとは反対側の開口からバレル内に挿入される。ガスケットは、バレルの内表面に密着することにより、バレル内部の空間をシールする。ガスケットは、プランジャーロッドをバレル内部に押し込むか、又は引くことにより、バレル内部の空間をシールしつつバレル内を移動する。
【0055】
バレル、及びプランジャーが備えるガスケットの材料は、良好に密着した被膜を形成しやすいことや、軽量性や、破損しにくさの点で、高分子材料であるのが好ましい。高分子材料の具体例は、前述した通りである。
【0056】
上記のシリンジにおいて、バレルの内表面、及びガスケットの外表面の少なくとも一方に前述の被膜が形成されている。このため、上記のシリンジでは、プランジャーを小さな力でスムーズに移動させることができる。
【0057】
また、上記のシリンジには、通常、バレル内に種々の薬液や液状の生体試料等が収容される。しかし、上記のシリンジにおいて、バレルの内表面、及びガスケットの外表面からの被膜の剥離が抑制されているため、バレル内に収容される薬液や液状の生体試料等への悪影響が少ない。
【0058】
≪プレフィルドシリンジ≫
プレフィルドシリンジは、シリンジ用バレルと、シリンジ用プランジャーと、封止材と、薬剤と、を備える。薬剤は、バレル内に充填される。プランジャーはガスケットを備える。バレルの一方の開口は、ガスケットにより封止される。バレルの他方の開口は、封止材により封止される。
【0059】
バレルは、一方の端部に、バレル内に液体を流入させるか、又はバレルから外部に液体を流出させるルアーを備え、他方の端部に開口を有する。ルアーは、液体を流すための開口を有する。プレフィルドシリンジにおいて、ルアーの開口が、封止剤により封止される。
【0060】
プランジャーについては、前述の通りである。
【0061】
バレル内に充填される薬剤は、液状の薬剤である。薬剤としては、例えば、生理食塩水、ヘパリン生食、造影剤、ヒアルロン製剤、インスリン製剤、リウマチ治療薬、抗がん剤が挙げられる。
【0062】
プレフィルドシリンジにおいて、バレルの内表面、及びガスケットの外表面の少なくとも一方に前述の被膜が形成されている。このため、上記のプレフィルドシリンジでは、プランジャーを小さな力でスムーズに移動させることができる。
【0063】
また、上記のプレフィルドシリンジにおいて、バレルの内表面、及びガスケットの外表面からの被膜の剥離が抑制されている。このため、バレル内に収容される薬剤への悪影響が少ない。
【実施例0064】
〔実施例1〕
直鎖状の分子鎖の両末端に水酸基を有する変性ジメチルポリシロキサン40質量部を、アモレア(登録商標)AS-300(AGC社製)783質量部に溶解させて水酸基を有するシリコーン樹脂の溶液を得た。
クロロメチルトリメトキシシラン30質量部、及びN-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルトリメトキシシラン30質量部をイソプロパノール783質量部に溶解させて、シランカップリング剤の溶液を得た。
水酸基を有するシリコーン樹脂の溶液をマグネチックスターラーで撹拌しながら、水酸基を有するシリコーン樹脂の溶液に、シランカップリング剤の溶液を滴下した。
シランカップリング剤の溶液の滴下終了後、水酸基を有するシリコーン樹脂の溶液と、シランカップリング剤の溶液とが混合された液に、水17質量部を加えて、被膜形成用の組成物を得た。
2.25mL規格のシリンジ用のプランジャーが備えるガスケットを、得られた組成物に5秒間浸漬して、ガスケットの表面に塗布膜を形成した。
組成物を塗布されたガスケットを室温で風乾した後、ガスケットを145℃で120分間加熱して、被膜を形成した。
【0065】
〔実施例2~16、及び比較例1~7〕
水酸基を有するシリコーン樹脂を表1に記載の量用いることと、表1に記載の種類、及び量のシランカップリング剤を用いることの他は、実施例1と同様にして、組成物を得た。
得られた各実施例、各比較例の組成物を用いて、実施例1と同様にして、2.25mL規格のシリンジ用のプランジャーが備えるガスケットの表面に、組成物の硬化物からなる被膜を形成した。
【0066】
〔実施例17〕
水酸基を有するシリコーン樹脂を表1に記載の量用いることと、表1に記載の種類、及び量のシランカップリング剤を用いることと、組成物に、11質量部のトリエチルアミンをアミン化合物として添加することとの他は、実施例1と同様にして、組成物を得た。
得られた組成物を用いて、実施例1と同様にして、2.25mL規格のシリンジ用のプランジャーが備えるガスケットの表面に、組成物の硬化物からなる被膜を形成した。
【0067】
表1に記載のシランカップリング剤の種類は以下の通りである。
(ハロアルキルシランカップリング剤)
A:クロロメチルトリメトキシシラン
B:3-クロロプロピルトリメトキシシラン
C:3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン
D:3-ブロモプロピルトリメトキシシラン
(アミノシランカップリング剤)
a:N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルトリメトキシシラン
b:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
c:N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
d:N,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
(その他のシランカップリング剤)
I:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
II:メチルトリメトキシシラン
【0068】
各実施例、及び各実施例で得た、表面に被膜を有するガスケットを備えるシリンジを用いて、以下の方法で、バレル内でのガスケットの摺動性を評価した。
また、各実施例、及び各実施例で得た、表面に被膜を備えるガスケットを用いて、ガスケットからの被膜の剥離量の評価を行った。これらの評価結果を、表2に記す。
【0069】
<ガスケットの摺動性評価>
ガスケットを、容量2.25mLのCOP製のバレルに挿入した。次いで、ガスケットの位置を、シリンジの公称容量の位置に合わせた。
バレルのルアー部分から、バレル内に水を注入し、バレル内部を水で満たした。バレルのルアー部分にゴムキャップを取り付けるとともに、ガスケットにプランジャーロッドを取り付け、シリンジを組み立てた。組み立てられた、水が充填されたシリンジを、20~30℃にて、24時間静置した。
その後、ロードセル(SLBL-500N、株式会社島津製作所製)を備えるオートグラフ(AG-X plus、株式会社島津製作所製)を用いて、300mm/分の速度でガスケットがバレルの先端部から5mmの位置に来るまでプランジャーを押し込んで、プランジャーの押し込みによりかかる荷重を測定し、荷重-ストロークチャートを得た。なお、ロードセルによる測定時には、シリンジからゴムキャップを外した。
得られた荷重-ストロークチャートから、初期摺動値(N)と、最大摺動値(N)とを読み取った。荷重-ストロークチャートにおいて、プランジャーの押し込み開始時に荷重が極大を示すピークが現れる。このピークにおける、荷重の極大値が、初期摺動値(N)である。前述のピークに相当する押し込み量の範囲を超えた押し込み量の範囲における、荷重の最大値が、最大摺動値(N)である。
なお、人が、シリンジに備えられるプランジャーを手で押し込む場合、プランジャーを押し込む容易さの感覚について、初期摺動値の影響が、最大摺動値の影響よりも大きい。プランジャーを押し込み、いったんプランジャーが動き始めると、ある程度最大摺動値が大きくても、プランジャーが動き続けるためである。
初期摺動値と、最大摺動値とに基づいて、ガスケットの摺動性を以下の基準に従って判定した。これらの判定結果を、表2に記す。
(初期摺動値)
◎:初期摺動値が6N以下である。
○:初期摺動値が8N以下である。
×:初期摺動値が8N超である。
(最大摺動値)
◎:最大摺動値が10N以下である。
○:最大摺動値が15N以下である。
×:最大摺動値が15N超である。
【0070】
<被膜剥離量の測定>
表面に被膜を備えるガスケット4個を、蓋つきの容量50mLのメスフラスコに入れた後、蓋をした。振盪機(R2200、Argos Technologies, Inc.製)を用いて、40rpmの条件で、メスフラスコ内のガスケットを3時間振盪した。メスフラスコからガスケットを取り出した後、メスフラスコ内にメチルイソブチルケトン2mLを加えて、メスフラスコ内で剥離した被膜を、メチルイソブチルケトンに溶解させた。
メスフラスコに加えられたメチルイソブチルケトンを試料として用いて、ICP発光分光分析を行い、ガスケットから剥離した被膜に由来するケイ素原子の量を定量した。定量されたケイ素原子の量と、被膜を構成する各実施例、及び各比較例の組成物の硬化物の計算上の単位質量当たりのケイ素原子含有量とに基づいて、ガスケット4個から剥離した被膜の量を算出した。算出された4個のガスケットから剥離した被膜の量を4で除し、1個のガスケットから剥離した被膜の量(平均値)を算出した。1個のガスケットから剥離した被膜の量(平均値)を表2に記す。
算出された被膜の剥離量(μg/ガスケット(1個))に基づいて、以下の基準に基づいて、被膜の剥離のしにくさを判定した。これらの判定結果を、表2に記す。
◎:ガスケットから剥離した被膜に由来するケイ素原子の量が、ガスケット1つあたり20μg以下である。
○:ガスケットから剥離した被膜に由来するケイ素原子の量が、ガスケット1つあたり45μg以下である。
×:ガスケットから剥離した被膜に由来するケイ素原子の量が、ガスケット1つあたり45μg超である。
【0071】
【0072】
【0073】
表1、及び表2によれば、前述の所定の条件を満たす組成物を用いて形成された被膜を有する実施例のガスケットを備えるシリンジは、ガスケットの摺動性に優れるとともに、被膜が剥離しにくいことが分かる。
他方、前述の所定の条件を満たさない組成物を用いて形成された被膜を有する比較例のガスケットを備えるシリンジは、ガスケットの摺動性、及び被膜の耐剥離性の少なくとも一方が劣っていた。