(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145886
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】高比重リポタンパク質粒子の機能促進剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058446
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】503449018
【氏名又は名称】株式会社フェニックスバイオ
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】加國 雅和
(72)【発明者】
【氏名】岡田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真生
(72)【発明者】
【氏名】吉川 奈美
(72)【発明者】
【氏名】村上 克洋
(72)【発明者】
【氏名】原田 周
(72)【発明者】
【氏名】有松 祐治
(72)【発明者】
【氏名】河平 順子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ70
4B063QR48
4B063QR56
4B063QR77
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能促進剤のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】肝細胞の培養物又は非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させ、当該培養物又は非ヒト哺乳動物中の高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能が増加したときは、当該被検物質を、高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能促進剤として選択する工程を含む、当該促進剤のスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞の培養物又は非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させ、当該培養物又は非ヒト哺乳動物中の高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能が増加したときは、当該被検物質を、高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能促進剤として選択する工程を含む、当該促進剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
肝細胞が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換された非ヒト哺乳動物由来の肝細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非ヒト哺乳動物が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換されたマウスである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
コレステロール回収機能が、組織中のコレステロールを取り込む能力である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
肝細胞の培養物及び非ヒト哺乳動物に被検物質をそれぞれ接触させる工程と、
前記培養物の培養上清及び前記非ヒト哺乳動物から採取した血清に対し、高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能の測定をそれぞれ行う工程と、
前記コレステロール回収機能の測定結果を比較する工程と、
を含む、前記被検物質の評価方法。
【請求項6】
肝細胞が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換された非ヒト哺乳動物由来の肝細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
非ヒト哺乳動物が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換されたマウスである請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
コレステロール回収機能が、組織中のコレステロールを取り込む能力である請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比重リポタンパク質粒子の機能を促進する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の70%以上がヒトの肝細胞で置換されたキメラマウス(PXBマウス)が知られている(非特許文献1)。PXBマウスでは、ヒト肝細胞が分泌するCholesterol Ester Transport proteinにより、ヒトHDLとヒト低比重リポタンパク(Low Density Lipoprotein:LDL)との間の脂質輸送が行われるため、血中のリポタンパクプロファイルがヒトに類似した構成を示すことが確認されている(非特許文献2)。また、PXBマウスから分離された肝細胞(PXB-cells)も、ヒトの新鮮肝細胞に類似した脂質代謝能を有することが証明されている(非特許文献3)。このようなPXB-cellsの特性に加えて、細胞質内に脂肪滴を多く含む点などを特徴とするPXB-cells LAも株式会社フェニックスバイオによって市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Tateno C, Kawase Y, Tobita Y, Hamamura S, Ohshita H, Yokomichi H, Sanada H, Kakuni M, Shiota A, Kojima Y, Ishida Y, Shitara H, Wada NA, Tateishi H, Sudoh M, Nagatsuka S, Jishage K, Kohara M. Generation of Novel Chimeric Mice with Humanized Livers by Using Hemizygous cDNA-uPA/SCID Mice. PLoS One. 2015 Nov 4;10(11):e0142145. doi: 10.1371/journal.pone.0142145. PMID: 26536627; PMCID: PMC4633119.
【非特許文献2】Papazyan R, Liu X, Liu J, Dong B, Plummer EM, Lewis RD 2nd, Roth JD, Young MA. FXR activation by obeticholic acid or nonsteroidal agonists induces a human-like lipoprotein cholesterol change in mice with humanized chimeric liver. J Lipid Res. 2018 Jun;59(6):982-993. doi: 10.1194/jlr.M081935. Epub 2018 Mar 20. PMID: 29559521; PMCID: PMC5983391.
【非特許文献3】Hata K, Sayaka T, Takahashi M, Sasaki A, Umekawa Y, Miyashita K, Ogura K, Toshima G, Maeda M, Takahashi J, Kakuni M. Lipoprotein profile and lipid metabolism of PXB-cells(登録商標), human primary hepatocytes from liver-humanized mice: proposal of novel in vitro system for screening anti-lipidemic drugs. Biomed Res. 2020;41(1):33-42. doi: 10.2220/biomedres.41.33. PMID: 32092738.
【非特許文献4】Gordon T, Castelli WP, Hjortland MC, Kannel WB, Dawber TR. High density lipoprotein as a protective factor against coronary heart disease. The Framingham Study. Am J Med. 1977 May;62(5):707-14. doi: 10.1016/0002-9343(77)90874-9. PMID: 193398.
【非特許文献5】1: Gordon DJ, Probstfield JL, Garrison RJ, Neaton JD, Castelli WP, Knoke JD, Jacobs DR Jr, Bangdiwala S, Tyroler HA. High-density lipoprotein cholesterol and cardiovascular disease. Four prospective American studies. Circulation. 1989 Jan;79(1):8-15. doi: 10.1161/01.cir.79.1.8. PMID: 2642759.
【非特許文献6】Robins SJ, Collins D, Wittes JT, Papademetriou V, Deedwania PC, Schaefer EJ, McNamara JR, Kashyap ML, Hershman JM, Wexler LF, Rubins HB; VA-HIT Study Group. Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Intervention Trial. Relation of gemfibrozil treatment and lipid levels with major coronary events: VA-HIT: a randomized controlled trial. JAMA. 2001 Mar 28;285(12):1585-91. doi: 10.1001/jama.285.12.1585. PMID: 11268266.
【非特許文献7】Schwartz GG, Olsson AG, Abt M, Ballantyne CM, Barter PJ, Brumm J, Chaitman BR, Holme IM, Kallend D, Leiter LA, Leitersdorf E, McMurray JJ, Mundl H, Nicholls SJ, Shah PK, Tardif JC, Wright RS; dal-OUTCOMES Investigators. Effects of dalcetrapib in patients with a recent acute coronary syndrome. N Engl J Med. 2012 Nov 29;367(22):2089-99. doi: 10.1056/NEJMoa1206797. Epub 2012 Nov 5. PMID: 23126252.
【非特許文献8】HPS2-THRIVE Collaborative Group, Landray MJ, Haynes R, Hopewell JC, Parish S, Aung T, Tomson J, Wallendszus K, Craig M, Jiang L, Collins R, Armitage J. Effects of extended-release niacin with laropiprant in high-risk patients. N Engl J Med. 2014 Jul 17;371(3):203-12. doi: 10.1056/NEJMoa1300955. PMID: 25014686.
【非特許文献9】Barter PJ, Caulfield M, Eriksson M, Grundy SM, Kastelein JJ, Komajda M, Lopez-Sendon J, Mosca L, Tardif JC, Waters DD, Shear CL, Revkin JH, Buhr KA, Fisher MR, Tall AR, Brewer B; ILLUMINATE Investigators. Effects of torcetrapib in patients at high risk for coronary events. N Engl J Med. 2007 Nov 22;357(21):2109-22. doi: 10.1056/NEJMoa0706628. Epub 2007 Nov 5. PMID: 17984165.
【非特許文献10】Rohatgi A, Khera A, Berry JD, Givens EG, Ayers CR, Wedin KE, Neeland IJ, Yuhanna IS, Rader DR, de Lemos JA, Shaul PW. HDL cholesterol efflux capacity and incident cardiovascular events. N Engl J Med. 2014 Dec 18;371(25):2383-93. doi: 10.1056/NEJMoa1409065. PMID: 25404125; PMCID: PMC4308988.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のPXBマウスやPXB-cells LAの特性を生かした新たな用途が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
[1] 肝細胞の培養物又は非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させ、当該培養物又は非ヒト哺乳動物中の高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能が増加したときは、当該被検物質を、高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能促進剤として選択する工程を含む、当該促進剤のスクリーニング方法。
[2] 肝細胞が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換された非ヒト哺乳動物由来の肝細胞である、[1]に記載の方法。
[3] 非ヒト哺乳動物が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換されたマウスである[1]又は[2]に記載の方法。
[4] コレステロール回収機能が、組織中のコレステロールを取り込む能力である[1]に記載の方法。
[5] 肝細胞の培養物及び非ヒト哺乳動物に被検物質をそれぞれ接触させる工程と、
前記培養物の培養上清及び前記非ヒト哺乳動物から採取した血清に対し、高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能の測定をそれぞれ行う工程と、
前記コレステロール回収機能の測定結果を比較する工程
を含む、前記被検物質の評価方法。
[6] 肝細胞が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換された非ヒト哺乳動物由来の肝細胞である、[5]に記載の方法。
[7] 非ヒト哺乳動物が、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換されたマウスである[5]又は[6]に記載の方法。
[8] コレステロール回収機能が、組織中のコレステロールを取り込む能力である[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、PXBマウスやPXB-cells LAの特性を利用した新規の薬剤スクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】PXB-cells LAを用いることによりEPAによるHDL-CUC増加効果が示された図である。
【
図2】PXBマウスを用いることによりPemafibrateによるHDL-CUC増加効果が示された図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.概要
本発明は、高比重リポタンパク質粒子のコレステロール回収機能促進剤のスクリーニング方法に関する。本発明の方法は、肝細胞の培養物又は非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させた後にHDL-CUCを測定する工程を含む。
【0009】
高比重リポタンパク(HDL:High Density Lipoprotein)は、動脈硬化に代表される脂質異常症と関連する循環器系疾患の抑制に深く関係することが報告されている(非特許文献4~6)。このため、血中HDLコレステロール量の制御を目的とした治療薬の開発が進められているが、臨床試験において満足な薬効が得られないケースが報告されている(非特許文献7~9)。近年、HDLコレステロール量よりも、末梢細胞からコレステロールを引き取る能力、いわゆるCholesterol Efflux Capacity(CEC)の方が循環器系疾患のリスク評価において有用であることが明らかになった(非特許文献10)。このことから、高比重リポタンパクによる末梢細胞からのコレステロール引き抜き能力(HDL-CEC)を増加させる事が動脈硬化に代表される脂質異常症と関連する循環器系疾患の予防や治療の重要なポイントとして認識が高まっており、近年はHDLのコレステロール回収機能を回復することが創薬の標的となりつつある。しかしながら、HDLのコレステロール引き抜き能を評価するためには、培養細胞や放射性同位体による標識など煩雑な工程を必要とし、測定現場への応用は困難であった。そこで、応用可能なHDL機能の測定法を確立するため、従来のHDLのコレステロール引き抜き能に代わってHDLがコレステロールを取り込む能力(Cholesterol Uptake Capacity; CUC)を自動で迅速かつ簡便に評価する方法が開発された。
【0010】
そこで本発明においては、ヒトHDL粒子(以下、単に「HDL」ともいう)やヒトHDLと末梢細胞とのコレステロール授受メカニズムを提供するPXB-cells LAとPXBマウス、更にHDL-CUCの測定法を用いてHDLのコレステロール回収機能を増大させることが期待される被検物質を評価した。この評価結果を詳細に解析することにより、被験物質によるHDL-CUC増大効果のメカニズムを明らかにすることが可能となる。
【0011】
2.スクリーニング方法
(1)肝細胞の培養
本発明において培養に使用される肝細胞は、肝臓がヒト化されたキメラ動物由来の肝細胞であってもよい。肝臓がヒト化されたキメラ動物由来の肝細胞は、肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換された非ヒト動物(以下「ヒト肝細胞キメラ動物」という)に由来する肝細胞であることが好ましい。「非ヒト動物」は、哺乳動物であることが好ましく、げっ歯類であることがより好ましい。げっ歯類動物としては、マウス、ラット、モルモット、リス、ハムスターなどが挙げられるが、実験動物として汎用されているマウス又はラットが好ましい。
【0012】
なお、ヒト肝細胞キメラ非ヒト動物は、公知の手法(例えば特開2002-45087号公報)に準じて、肝障害免疫不全非ヒト動物にヒト肝細胞を移植することにより得ることができる。
肝臓の少なくとも70%がヒト肝細胞に置換されたマウスとして、市販品(「PXBマウス」、株式会社フェニックスバイオ)を使用することもできる。当該「PXBマウス」から採取された肝細胞を「PXB-cells」または「PXB-cells LA」ともいう。
【0013】
本発明において、培養の対象となる細胞は、上記ヒト肝細胞キメラ動物から採取された肝細胞、ヒトから採取された肝細胞、又は樹立されたヒト肝細胞である。キメラ非ヒト動物からのヒト肝細胞の回収は、コラゲナーゼ灌流法等の常法に従って行うことができる。回収したヒト肝細胞はそのまま用いることができるが、ヒト肝細胞又は非ヒト動物の肝細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて、ヒト肝細胞を精製してもよい。
【0014】
細胞培養に用いられる培養容器は、接着培養に適したものであれば特に限定されないが、例えば、デッシュ、組織培養用デッシュ、マルチデッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、チューブ、培養バックなどが挙げられる。
本発明において、ヒト肝細胞の培養は、動物細胞の培養に一般的に用いられる培地を使用して行うことができる。このような培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウイリアムス培地E、RPMI-1640培地等が挙げられ、好ましくは、DMEMである。但し、培地はこれらに限定されるものではない。
【0015】
培地には、必要に応じてさらにウシ胎児血清、緩衝剤、抗生物質、インスリン、上皮成長因子、デキサメタゾン、プロリン、アスコルビン酸、ニコチンアミド、pH調整剤等を適宜添加することができる。
肝細胞は、2.1×104 cells/cm2~2.1×106 cells/cm2、好ましくは1.9×105 cells/cm2~2.3×105 cells/cm2の細胞密度で培養容器上に播種する。培養は、CO2インキュベータ中、1~10%、好ましくは約5%のCO2濃度の雰囲気下において、30~40℃、好ましくは約37℃で行うことができる。
【0016】
ヒト肝細胞の培養期間は、細胞がHDLを分泌及び/又は蓄積するのに十分な期間行われればよく、例えば6日~3週間、好ましくは9日~2週間が挙げられる。なお、培地は1~4日ごとに培地の一部又は全部を新鮮培地に交換する。
このようにして、HDLが蓄積された培養物を、後述のスクリーニングに使用する。培養物とは、培養上清、培養細胞、及び培養細胞の破砕物のいずれをも意味するものである。
【0017】
ヒトを含む動物の血液中に含まれるHDLは、多少の差があるもののコレステロールを含むが、ヒト肝細胞キメラ動物由来の肝細胞の培養物の中には、コレステロールを含まないHDLも存在する。この場合、HDLは、表層部がアポタンパク質、リン脂質及び遊離コレステロールから構成される膜であり、内側は、脂溶性ビタミンは含むが、少なくともコレステロールは含まないか、あるいはコレステロール及び中性脂肪の両者は含まない構造となっている。
【0018】
本発明においては、コレステロールの引き抜き能(回収機能)を有する限り、コレステロールや中性脂肪を含むHDLであっても、含まないHDLであっても使用することができる。中性脂肪やコレステロールを「含まない」という用語は、全く含まない(含有率がゼロ)、又は実質的に含まないことを意味し、粒子中の中性脂肪が5%以下、好ましくは1%以下、粒子中のコレステロールが10%以下、好ましくは7%以下であることを意味する。
【0019】
(2)被検物質を接触させる工程
本発明においては、前記の通り肝細胞の培養によって培養物中にHDLが蓄積する。そこで、培養物に被検物質を接触させる。あるいは、非ヒト哺乳動物の例えば血液中にHDLが含まれている。そこで、細胞ではなく非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させることもできる。
【0020】
接触の対象となる被検物質(候補物質)は特に限定されるものではなく、例えば、天然又は人為的に合成された各種ペプチド、タンパク質(酵素や抗体を含む)、核酸(ポリヌクレオチド(DNA、RNA)、オリゴヌクレオチド(siRNA等)、ペプチド核酸(PNA)等)、低分子又は高分子有機化合物等を例示することができる。
【0021】
「接触」とは、HDLまたはHDLと協調する生理活性物質や細胞に被検物質を作用させることを意味し、例えば、HDLに被検物質を添加又は振りかけること、HDLに被験物質を添加又は振りかけた後にHDLのみを抽出して培地に混じて細胞培養すること、HDL及び被検物質を同一溶液又は培地中で静置又は培養すること、非ヒト動物に被検物質を投与すること、非ヒト動物から取り出したHDLまたはHDLと協調する生理活性物質や細胞を被験物質に接触させた後に被験物質を除いて非ヒト動物に戻すこと、あるいは被験物質を投与した後の非ヒト動物からHDLまたはHDLと協調する生理活性物質や細胞を取り出し、別の非ヒト動物に与えることなどを意味する。
【0022】
非ヒト動物に被検物質を投与する方法は、経口投与のほか、非経口投与が挙げられる。非経口投与には、静脈注射、筋肉注射、腹腔内注射、皮下投与、皮内投与、気管内投与等が含まれる。
接触する時間は適宜設定することができ、例えば24時間~6ヶ月間である。
非ヒト動物に投与する場合の投与量は適宜設定することができ、例えば5~20 mL/kgである。
【0023】
(3)コレステロールの取り込み能
細胞又は非ヒト動物と被検物質との接触工程後に、HDLの機能を評価する。「機能」とは、HDLによるコレステロールの取り込み機能、あるいはHDLによるコレステロール回収機能を意味する。
コレステロールの取り込み又は回収能の評価は、タグ付加コレステロールをHDLに接触させた後、HDL捕捉用抗体が固定された磁気ビーズにHDLを捕捉させる。次に磁気ビーズとHDL捕捉用抗体とHDLとの複合体に、コレステロールのタグ部位に特異的に結合し且つ標識物質を有する捕捉体を反応させ、シグナルを検出する。
シグナル量が多ければ多いほど、HDL粒子にコレステロールが取り込まれたことが示される。
【0024】
また、HDLは細胞培養液中に含まれているが、非ヒト動物に被検物質を接触させた場合は、血液(例えば血清中)に含まれるHDLについても上記と同様の手順を用いてコレステロールの取り込み能を評価することが可能である。
【0025】
(4)HDL-CUCの評価
本発明において、HDL-CUCの変化は以下の方法により評価することができる。細胞または非ヒト動物のどちらか一方のみを用いて得られたHDL-CUCを利用して被験物質によるコレステロール取り込み機能への影響を評価する方法(単独評価)、あるいは細胞と非ヒト動物の両方を用いて得られたHDL-CUCを利用して被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能への影響を評価する方法(複合評価)である。
【0026】
単独評価においては、以下の基準により被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能を評価できる。
(a)HDL-CUCが、被験物質の接触前後において接触前と比較して差がない、または減少したとき、あるいはHDL-CUCが対照群すなわち被験物質と接触させていない群との比較において差がない、または減少したときは、被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加がない、または被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の減少と判断できる。
【0027】
例えば、(i)HDL-CUCが被験物質の接触後において接触前と2群間比較し統計学的に有意差を認めない、または接触後に減少したHDL-CUCを被験物質接触前と2群間比較し統計学的に有意差を認めたとき、(ii)被験物質の接触後の数値が接触前の数値から200%未満であるとき、あるいは(iii)対照群と被験物質接触群との2群間または対照群と被験物質接触複数群との多群間比較において統計学的に有意差を認めない、または対照群との比較において被験物質接触群のHDL-CUCが統計学的に有意差を認めて減少したときは、被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加がない、または被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の減少と判断できる。
【0028】
(b)HDL-CUCが、被験物質の接触前後において接触前と比較して増加したとき、あるいはHDL-CUCが対照群すなわち被験物質と接触させていない群との比較において増加したときは、被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加と判断できる。
例えば、(i)HDL-CUCが被験物質の接触後において接触前と2群間比較し統計学的に有意に増加したとき、(ii)被験物質の接触後の数値が接触前の数値から200%以上であるとき、あるいは(iii)対照群と被験物質接触群との2群間または対照群と被験物質接触複数群との多群間比較において統計学的に有意に増加したときは、被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加と判断できる。
【0029】
複合評価においては、以下の基準により被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能への影響を評価できる。
【0030】
(a)細胞と非ヒト動物の両方において、被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加がない、または被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の減少と判断された場合、当該被験物質にはHDLのコレステロール取り込み機能を増加させる可能性が極めて少ない、またはないと判断できる。
【0031】
(b)細胞において被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加と判断され、非ヒト動物においては被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加がない、または被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の減少と判断された場合、当該被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能増加効果は、細胞を利用する条件において限定的に発揮される、または非ヒト動物を利用する条件においてHDLのコレステロール取り込み機能増加効果を抑制または阻害する因子(生理活性物質や肝細胞以外の末梢細胞など)の存在が想定される。
【0032】
このような場合に(i)細胞を利用する条件において限定的にHDLのコレステロール取り込み機能を増加する要因を特定すること、あるいは(ii)非ヒト動物を利用する条件において被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加効果を抑制または阻害する因子(生理活性物質や肝細胞以外の末梢細胞など)を特定することにより、当該被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能増加効果のメカニズムを解明し、更に被験物質のHDL-CUC増加効果の有用性を意味づけることが可能となる。
【0033】
(c)細胞において被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加がない、または被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の減少と判断され、非ヒト動物においては被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加と判断された場合、当該被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能増加効果は、非ヒト動物において限定的に発揮されることが想定される。
【0034】
このような場合に非ヒト動物を利用する条件において被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能発揮に関与する因子(生理活性物質や肝細胞以外の末梢細胞など)を特定することにより、当該被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能増加効果のメカニズムを解明し、更に被験物質のHDL-CUC増加効果の有用性を意味づけることが可能となる。
【0035】
(d)細胞と非ヒト動物の両方において被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能の増加と判断された場合、当該被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能増加効果は、当該被験物質によるHDLのコレステロール取り込み増加機能は極めて広範な条件において発揮されることが想定される。
このような場合に細胞を利用する条件と非ヒト動物を利用する条件の両方に共通する因子(生理活性物質や肝細胞以外の末梢細胞など)を特定することにより、当該被験物質によるHDLのコレステロール取り込み機能増加効果のメカニズムを解明し、更に被験物質のHDL-CUC増加効果の有用性を意味づけることが可能となる。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
PXB-cellsの培養
cDNA-uPAwild/+/SCIDマウスにJFC(Bio reclamation IVT: Caucasian, 1Y, Male)を移植して作製された PXBマウスから、コラゲナーゼかん流法によりヒト肝細胞を分離した。細胞の生存率は80%以上であった。
【0037】
PXB-cellsにDMEM+10% FBSを加えて細胞密度が8×105 cells/mL(2.1×105 cells/cm2)となるように細胞懸濁液を調整し、この細胞懸濁液を24wellプレート(BioCoatTM Collagen I 24 well plate; Corning Japan)に1 wellあたり0.5 mLずつ添加した。細胞懸濁液を添加したプレートを15~30分間室温で静置した。細胞がwell底面に軽く付着したことを確認した後、インキュベーターで培養した(37℃、5%CO2)。培養開始日をDay0とし、培養日数6日(Day6)に1 wellあたり0.5 mLずつ薬理成分を含む培地(2%DMSO含有William’sE + CM-4000)に交換し、10日(Day10)に培養上清を回収してHDL-CUC量を測定した。
【0038】
<対照処理>
Day6に交換した培地には薬理成分を除く0.1%DMSO含有William’sE + CM-4000を用いた。4日後のDay10に培養上清を回収した。回収した上清サンプルをHDL-CUC解析に使用した。(
図1のnullが該当)
【0039】
<Pemafibrate 処理>
Day6に交換した培地にはPemafibrate(LC Laboratories、USA)の 10μMまたは100μMを溶解した0.1%DMSO含有William’sE + CM-4000を用いた。4日後のDay10に培養上清を回収した。回収した上清サンプルをHDL-CUC解析に使用した。(
図1のPemafibrate10μMおよびEPA100μMが該当)
【0040】
<EPA 処理>
Day6に交換した培地にはEPA(富士フィルム和光純薬)の 100μMまたは1000μMを溶解した0.1%DMSO含有William’sE + CM-4000を用いた。4日後のDay10に培養上清を回収した。回収した上清サンプルをHDL-CUC解析に使用した。(
図1のEPA100μMおよびEPA1000μMが該当)
研究用全自動高感度免疫測定装置HI-1000を用いてHDL-CUCを測定した。
【0041】
[実施例2]
PXBマウスの飼育
cDNA-uPAwild/+/SCIDマウスにBD195(Corning Incorporated: Hispanic, 2Y, Female)を移植して作製された PXBマウスを利用した。投与開始前17日または10日時点に測定した血中ヒトアルブミン濃度から算出される予想置換率は95%以上であった。
【0042】
PXBマウス12匹を実験に使用した。対象群として4匹、Pemafibrate群として4匹、EPA群として4匹を利用した。全ての動物はポリカーボネート製マウス用ケージ(株式会社トーヨーラボ)内に単数で収容し、室温設定範囲23±5℃、湿度設定範囲55±25%、照明時間12時間周期 (8:00-20:00)、常時換気(HEPAフィルター濾過)に設定された動物室内で飼育した。床敷には実験動物用床敷ペパークリーン(日本エスエルシー株式会社)、エンリッチメントには7979C.CS Certified-Irradiated Diamond Twists (Envigo、USA)を利用し、主飼料にはCRF-1(げっ歯類用飼料チャールスリバーフォーミュラー、オリエンタル酵母株式会社)、サプリメントにはAS(サル用飼料一般飼育繁殖用、オリエンタル酵母株式会社)を与えた。飲水には東広島市水道局より供給される水道水を、株式会社フェニックスバイオにてオートクレーブ滅菌した後に、次亜塩素酸ナトリウム(120 μL/L,富士フィルム和光純薬株式会社,大阪)を添加した滅菌水道水を与えた。
【0043】
<Vehicle調製>
Vehicle投与群用にはDMSOを10μLずつ21本のマイクロチューブに分注して-30°Cに保管した。用時にDMSO 10μLと生理食塩液990μLを混合した。
【0044】
<Pemafibrate 調製>
PemafibrateをDMSOに溶解して最終濃度が14、70、140 mg/mLとなるように調製し、それぞれの濃度の溶解液を10μLずつ7本のマイクロチューブに分注して-30°Cに保管した。用時に各濃度のPemafibrate溶解液10μLと生理食塩液990μLを混合してPemafibrateの最終濃度がそれぞれ0.14(低用量)、0.7(中間用量)、1.4 mg/mL(高用量)となるよう調製した。
【0045】
<EPA調製>
EPAをDMSOに溶解して最終濃度が300、1500、3000 mg/mLとなるように調製し、それぞれの濃度の溶解液を10μLずつ7本のマイクロチューブに分注して-30°Cに保管した。用時に各濃度のEPA溶解液10μLと生理食塩液990μLを混合してEPAの最終濃度がそれぞれ3(低用量)、15(中間用量)、30 mg/mL(高用量)となるよう調製した。
【0046】
PXBマウスへの投与経路は経口とした。投与量は投与日の体重測定値を基に計算した。投与容量計算の計数は10 mL/kgとした。
投与開始日をDay0とし、対照群にはDay0から20までの21日間Vehicleを1日1回の頻度で動物に強制経口投与した。Pemafibrate群及びEPA群では、Day0から6までの7日間には低用量、Day7から13までの7日間には中間用量、Day14から20までの7日間には高用量をそれぞれ1日1回の頻度で動物に強制経口投与した。投与にはディスポーザブル経口ゾンデ(有限会社フチガミ器械)及び1 mLのディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を使用した。
【0047】
Day0、7と14の投与前、及びDay21に採血を行った。それぞれの採血前に4時間の絶食を施した。各採血では動物にイソフルラン(イソフルラン吸入麻酔液「ファイザー」,マイラン製薬株式会社)麻酔を施し,Intramedic
TM Polyethylene Tubing(0.58×0.965 mm,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いて眼窩静脈叢より95 μLを採血した。採取した血液から血清を分離し,-80°Cで保管した。回収した血清サンプルをHDL-CUC解析に使用した。(
図2が該当)
研究用全自動高感度免疫測定装置HI-1000を用いてHDL-CUCを測定した。
【0048】
[実施例3]
コレステロール取り込み能の測定
実施例1で得られた検体(培養上清)及び実施例2で得られた検体(血清)をPBSを用いてそれぞれ8倍及び480倍に希釈した後、HDL-CUC測定を行った。
【0049】
測定には、研究用全自動高感度免疫測定装置HI-1000(シスメックス社)を用いた。試薬の添加手順及び反応時間は以下の通りである。
・R1試薬(ビオチン付加コレステロールを含む試薬)
・検体 30μL
・42℃で3分反応
・R2試薬(Anti-human ApoAI抗体標識磁気ビーズ) 30μL
・42℃で2分反応
・洗浄(B/F分離)
・アルカリホスファターゼ(ALP)標識ストレプトアビジンを含む試薬) 100μL
・42℃で3分反応
・洗浄(B/F分離)
・R4試薬(緩衝液) 50μL
・R5試薬(発光基質) 100μL
・42℃で5分反応
・発光測定
【0050】
結果を
図1及び
図2に示す。これらの図は、HDL-CUCを試験した結果を示す図である。
図1に示す結果より、PXB-cellsではPemafibrateにHDL-CUCへの効果は認められなかったが、EPAには濃度依存的なHDL-CUCの上昇が確認された。一方
図2に示す結果より、PXBマウスではPemafibrateに濃度依存的なHDL-CUCの上昇が確認されたが、EPAにHDL-CUCへの効果は認められなかった。PXB-cellsにはヒト肝細胞とコレステロールを含まないHDL粒子が含まれるが、PXBマウスにはヒト肝細胞の他にコレステロールを含むHDL粒子に加えてHDL機能に影響を与えることが想定される細胞や生体因子が含まれている。PXB-cellsとPXBマウスはそれぞれ単独でHDL-CUCを変化させる薬理成分の評価が可能であることが示された。更に、PXB-cellsとPXBマウスがそれぞれ提供するHDL-CUCの評価環境の特徴を鑑み、これら2つの評価モデルから得られるHDL-CUC結果を比較解析することによって、薬理成分がHDL-CUCに与える変化の詳細なメカニズム解析や、新しいHDL機能の発見に繋がる可能性が示された。今回の事例では、EPAはコレステロールを含まないHDLに作用する可能性が示され、Pemafibrateはコレステロールを含むHDLまたはHDL機能に影響を与えることが想定される細胞や生体因子に作用する可能性が示された。