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特開2024-145895水性塗料組成物、塗膜および建築塗装材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145895
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、塗膜および建築塗装材
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20241004BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20241004BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241004BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20241004BHJP
   B05D 7/24 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/62
B05D5/00 H
B05D7/00 L
B05D7/24 301F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058473
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山東 磨司
(72)【発明者】
【氏名】草野 真治
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CA32
4D075DB02
4D075DB13
4D075DB43
4D075DC03
4D075EA10
4D075EA13
4D075EC47
4J038CD091
4J038CG001
4J038CJ291
4J038HA216
4J038KA12
4J038KA15
4J038MA14
4J038NA03
4J038NA19
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】無機酸化物系の紫外線吸収剤を含む塗膜において、無機酸化物系の紫外線吸収剤の分散性に優れていることにより可視光透過率(透明性)に優れるとともに、無機酸化物系の紫外線吸収剤の金属成分の酸性環境下における耐溶出性に優れ、加えて、長期にわたって優れた紫外線吸収性を維持できる塗膜の形成に好適な水性塗料組成物、塗膜および建築塗装材を提供する。
【解決手段】水分散性樹脂と無機酸化物を含有する水性塗料組成物であって、基材に前記水性塗料組成物を塗って乾燥させ、乾燥膜厚15μmの塗膜を形成させた試験片を、JIS K5658:2010に規定される耐酸性の試験に準拠して、5g/Lの硫酸水溶液中に24時間浸漬した後に、前記塗膜中に含まれる前記無機酸化物から前記硫酸水溶液中へ溶け出した金属成分の溶出量をICP分析法で測定するとき、前記金属成分の溶出量が15ppm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性樹脂と無機酸化物を含有する水性塗料組成物であって、
基材に前記水性塗料組成物を塗って乾燥させ、乾燥膜厚15μmの塗膜を形成させた試験片を、JIS K 5658:2010に規定される耐酸性の試験に準拠して、5g/Lの硫酸水溶液中に24時間浸漬した後に、前記塗膜中に含まれる前記無機酸化物から前記硫酸水溶液中へ溶け出した金属成分の溶出量をICP分析法で測定するとき、前記金属成分の溶出量が15ppm以下である、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記基材が透光性材料からなり、前記試験片は、波長365nmの光の透過率が15%以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記塗膜中に占める前記無機酸化物の含有量が5質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記水性塗料組成物は、酸価とアミン価の差の絶対値が35以下であり、かつ酸価とアミン価の合計が120以下である分散剤をさらに含有する、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記無機酸化物は、Ti、ZnおよびCeの群から選択される少なくとも1種の金属成分を含む、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記無機酸化物の二次粒子の体積平均粒子径が、20nm以上で200nm以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
前記無機酸化物は、表面が疎水性被膜で被覆されている、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
基材上に、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗って乾燥させて形成される塗膜。
【請求項9】
建築基材と、前記建築基材上に、請求項1~7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗って乾燥させて形成される塗膜とを有する建築塗装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、塗膜および建築塗装材に関する。
【背景技術】
【0002】
外装向け建築板においては、基材に着色塗料を塗装して意匠層を形成した後、クリアー塗料を塗装して表面保護層(クリアー層)を形成する塗装仕様が一般的である。ここで使用される着色塗料やクリアー塗料は、環境面の観点から水性塗料が用いられる場合が多くなっている。外装向け建築板には、長期の耐候性が求められるため、クリアー層には、意匠層に紫外線が到達することを防ぐことが求められる。そのため、クリアー層を形成する塗料には、紫外線吸収剤を配合することが多い。紫外線吸収剤には有機系と無機系のものがあるが、無機系の方が一般的に耐候性に優れる。無機系紫外線吸収剤としては、酸化チタンや酸化亜鉛や酸化セリウムなどの無機酸化物が知られている。
【0003】
しかしながら、無機酸化物系の紫外線吸収剤を用いた場合、クリアー層における紫外線吸収剤の分散性が不十分であると、クリアー層が白濁したり着色する場合がある。また、酸性雨等の酸性液体に長時間曝された場合には、クリアー層における紫外線吸収剤の金属成分が溶出して、クリアー層の紫外線吸収性が低下する問題がある。
【0004】
そこで、これらの従来の問題を解決するために、例えば、特許文献1は、紫外線カット材を配合して成る塗料組成物であって、ポリシロキサンを主成分とし、紫外線カット材は酸化亜鉛又は酸化セリウムが無機質材で被覆されて形成された塗料組成物が開示されている。
また、特許文献2は、(a)少なくとも1つの硬化性シリコーン樹脂材料、(b)コーティングシステムを硬化させた後のフィルムの乾燥重量を基づき、約1重量%から約50重量%の少なくとも1つの無機UV吸収材料、および(c)約1ppmから約75ppmの少なくとも1つの触媒を含む、コーティングシステムが開示されている。
また、特許文献3は、(a)所定のシラノール基含有ポリオルガノシロキサン、(b)所定のシランカップリング剤、(c)三級アミン化合物およびスズ含有化合物からなる群から選択される硬化触媒、(d)無機紫外線吸収剤を含有する、無機クリヤー塗料組成物を開示している。
【0005】
しかし、特許文献1の紫外線カット材は、塗料組成物中での平均粒子径が200~400μmであるから、塗膜中では凝集体を形成し、塗膜中に均一に分散されていないものと推察される。特許文献2、3についても、耐酸性に優れる無機系紫外線吸収剤含有クリアー塗料は記載されていない。したがって、特許文献1~3のいずれも、無機紫外線吸収剤の分散性に優れ、且つ酸性液体に長時間曝された場合においても無機系紫外線吸収剤の金属成分が溶出しないクリアー層は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-159668号公報
【特許文献2】特表2020-517754号公報
【特許文献3】特開2014-009304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、無機酸化物系の紫外線吸収剤を含む塗膜において、無機酸化物系の紫外線吸収剤の分散性に優れていることにより可視光透過率(透明性)に優れるとともに、無機酸化物系の紫外線吸収剤の金属成分の酸性環境下における耐溶出性に優れ、加えて、長期にわたって優れた紫外線吸収性を維持できる塗膜の形成に好適な水性塗料組成物、塗膜および建築塗装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、本発明の特徴を列記する。
(1)水分散性樹脂と無機酸化物を含有する水性塗料組成物であって、
基材に前記水性塗料組成物を塗って乾燥させ、乾燥膜厚15μmの塗膜を形成させた試験片を、JIS K 5658:2010に規定される耐酸性の試験に準拠して、5g/Lの硫酸水溶液中に24時間浸漬した後に、前記塗膜中に含まれる前記無機酸化物から前記硫酸水溶液中へ溶け出した金属成分の溶出量をICP分析法で測定するとき、前記金属成分の溶出量が15ppm以下である、水性塗料組成物。
(2)前記基材が透光性材料からなり、前記試験片は、波長365nmの光の透過率が15%以下である、(1)に記載の水性塗料組成物。
(3)前記塗膜中に占める前記無機酸化物の含有量が5質量%以上40質量%以下である、(1)に記載の水性塗料組成物。
(4)前記水性塗料組成物は、酸価とアミン価の差の絶対値が35以下であり、かつ酸価とアミン価の合計が120以下である分散剤をさらに含有する、(1)に記載の水性塗料組成物。
(5)前記無機酸化物は、Ti、ZnおよびCeの群から選択される少なくとも1種の金属成分を含む、(1)に記載の水性塗料組成物。
(6)前記無機酸化物の二次粒子の体積平均粒子径が、20nm以上で200nm以下である、(1)に記載の水性塗料組成物。
(7)前記無機酸化物は、表面が疎水性被膜で被覆されている、(1)に記載の水性塗料組成物。
(8)基材上に、(1)~(7)のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗って乾燥させて形成される塗膜。
(9)建築基材と、前記建築基材上に、(1)~(7)のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗って乾燥させて形成される塗膜とを有する建築塗装材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無機酸化物系の紫外線吸収剤を含む塗膜(例えばクリアー層)において、無機酸化物系の紫外線吸収剤の分散性に優れていることにより可視光透過率(透明性)に優れるとともに、無機酸化物系の紫外線吸収剤の金属成分の酸性環境下における耐溶出性にも優れ、加えて、長期にわたって優れた紫外線吸収性を維持できる塗膜の形成に好適な水性塗料組成物、塗膜および建築塗装材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の1つの態様は、水分散性樹脂と無機酸化物を含む水性塗料組成物である。以下、本発明の水性塗料組成物を詳細に説明する。なお、本発明の水性塗料組成物は、以下の記載から様々の態様を導くことができ、記載内容に限定されるものではない。
【0011】
(水性塗料組成物)
本発明の水性塗料組成物は、水性塗料であることが好ましい。本発明における「水性塗料」とは、主溶媒として水を含有する水系塗料である。本発明の水性塗料組成物は、水性塗料でも十分に乾燥して塗膜が形成された後は高い耐水性が得られる。
【0012】
本発明の水性塗料組成物に用いる水は、特に制限されるものではないが、水道水やイオン交換水、蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、水性塗料組成物を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明の水性塗料組成物において、水の量は、20~90質量%であることが好ましい。
【0013】
(水分散性樹脂)
本発明の水性塗料組成物に用いる水分散性樹脂としては、水中に安定して分散されている樹脂であれば、特に限定されない。例えば、樹脂としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂等が挙げられ、耐候性の観点から、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、又はアクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂がより好ましい。
【0014】
水分散性樹脂は、樹脂が水中に安定して分散している乳濁液の状態で使用することが好ましく、必要に応じて乳化剤等の添加剤を含むことができる。樹脂が水に分散した乳濁液を調製する方法としては、例えば、水を媒体とし、水中で乳化重合を行うことによってエマルションを調製する方法が挙げられる。より好ましくは、乳化重合によって得られる均一構造を有するエマルション、多段階の乳化重合法によって得られる異相構造を有するエマルション等が挙げられ、これらの両方を一緒に用いてもよい。或いは、樹脂が水中に安定して分散している乳濁液を以下のように調製することもできる。例えば、高速攪拌機等を使用することにより強制的なせん断力を加えながら、樹脂を水中で自己乳化させることによって調製してもよい。或いは、有機溶剤媒体中にて重合してなる樹脂に対して、水中への相転換を行うことによって樹脂の乳濁液を調製し、必要に応じて蒸留等によって乳濁液中に含まれる有機溶剤を除去してもよい。
【0015】
乳化剤としては、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、更には、スルホン酸基または硫酸エステル基と重合性の炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、またはこれらの化合物の骨格と重合性の炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;(変性)ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0016】
アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらのエステル、アミド、及びニトリルから選択されるアクリル成分の1種又は複数種を重合させることにより調製でき、必要に応じて、スチレン、ビニル基含有エステル化合物(アクリル成分を除く)等の重合性不飽和モノマーを加えることもできる。
シリコーン樹脂は、主骨格にポリシロキサン結合を有するポリマーであり、例えば、1種又は複数種のアルコキシシリル基含有モノマーやポリシロキサン結合を有するオリゴマーを重合させて得ることができる。
アクリルシリコーン樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらのエステル、アミド、及びニトリルから選択されるアクリル成分の1種又は複数種と、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマーとを重合させて調製することができる。或いは、アルコキシシリル基含有モノマー等を用いて重合反応とシロキサン縮合反応を競合させる方法や、主骨格にポリシロキサン結合を有するポリマー(シリコーン部分)を合成し、次いで、該ポリマーに、上述のアクリル又はメタクリルモノマーをグラフト重合させたり又はアクリル樹脂を結合させたりする方法によって製造してもよい。
フッ素樹脂としては、フッ素含有モノマーに基づく単位を有する重合体、または、フッ素含有モノマーに基づく単位と該フッ素含有モノマーと共重合可能な他のモノマーに基づく単位とを有する共重合体が挙げられる。フッ素含有モノマーとしては、例えば、フルオロオレフィンまたは含フッ素(メタ)アクリル酸エステルに基づく単位等が挙げられる。フルオロオレフィンとしては、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等が挙げられ、含フッ素(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロプロビル、(メタ)アクリル酸ペルフルオロシクロヘキシル等)等が挙げられる。
【0017】
(無機酸化物)
本発明の水性塗料組成物は、無機酸化物を含有する。無機酸化物は紫外線吸収性を有するものであり、Ti、ZnおよびCeの群から選択される少なくとも1種の金属成分を含有することが好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム及びこれらの複合体からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。また、透明性の観点から、酸化チタン、酸化亜鉛またはこれらの複合体であることが更に好ましい。
無機酸化物は、分散安定性と透明性の双方をバランスよく満たす観点から、一次粒子の平均粒子径が1~200nmの範囲であることが好ましく、5nm以上150nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましい。本発明における「無機酸化物の一次粒子の平均粒子径」は、透過型電子顕微鏡にて観察し、50個の粒子を無作為に選び出し、それらの粒子径を測定し、平均した値である。水系塗料組成物において、無機酸化物粒子の平均粒子径が200nmを超えると、透明性が低下する。また、一次粒子の平均粒子径が1nm未満では分散安定性が低下する。また、水系塗料組成物に含まれる無機酸化物の含有量は、1質量%以上で、35質量%以下であることが好ましく、2質量%以上で25質量%以下であることが好ましい。1質量%未満では、紫外線吸収剤としての作用を発現させるためには不十分な量であり、35質量%を超えると水系塗料組成物中での長期分散安定性が低下しやすい。また、水系塗料組成物の不揮発分(塗膜中)に対する無機酸化物の含有量は、5質量%以上で40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上で35質量%以下であることが好ましく、12質量%以上で30質量%以下であることが更に好ましい。含有量が5質量%未満では紫外線吸収剤としての作用が不十分であり、40質量%を超えると金属成分の溶出量が多くなるほか、塗膜の透明性が低下する。
【0018】
さらに、本発明の水性塗料組成物における無機酸化物は、反応性表面処理剤で表面が疎水性被膜で被覆された無機微粒子であることが好ましい。表面疎水性被膜は例えばハイドロゲンジメチコン、フルオロアルキルシラン、アルコキシシラン、シラン系カップリング剤及びオルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物などから選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0019】
(分散剤)
本発明の水性塗料組成物は、無機酸化物の分散のために、分散剤を含有する。分散剤は、分散剤が有する酸価とアミン価の差(酸価-アミン価)の絶対値が35以下であり、かつ酸価とアミン価の合計(酸価+アミン価)が120以下の値を有することが好ましい。酸価とアミン価の差(酸価-アミン価)の絶対値及び酸価とアミン価の合計(酸価+アミン価)が上記範囲であれば、無機酸化物の分散安定性に優れるだけでなく、無機酸化物の金属成分の酸性環境下における耐溶出性にも優れるため、長期にわたって優れた紫外線吸収性を維持することができる。酸価とアミン価の差の絶対値が35を超える場合、塗膜形成後に酸性環境下に曝された場合に無機酸化物から金属成分が溶出し耐酸性が悪くなる。したがって、酸価とアミン価の差の絶対値が35以下であることが好ましく、15以下がより好ましい。
また、酸価とアミン価の合計が120を超える場合、塗膜形成後に酸性環境下に曝された場合に無機酸化物から金属成分が溶出し耐酸性が悪くなる。したがって、酸価とアミン価の合計が120以下であることが好ましく、50~110がより好ましい。
【0020】
酸価は、試料1gに含まれる遊離脂肪酸等を中和するのに要するKOHのmg数として定義している。分散剤の酸価は、分散剤の有効成分(不揮発分)として好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは70mgKOH/g以下である。 酸価が100mgKOH/g以下であれば、酸性環境下における無機酸化物の金属成分が溶出しにくくなる。酸価は、JIS K0070:1992に準拠して測定できる。
アミン価は、試料1g中に含まれる全塩基性窒素を中和するのに要する過塩素酸と,当量の水酸化カリウムのmg数として定義している。分散剤のアミン価は、分散剤の有効成分(不揮発分)として好ましくは100mgKOH/g以下、より好ましくは70mgKOH/g以下である。アミン価が100mgKOH/g以下であれば、酸性環境下における無機酸化物の金属成分が溶出しにくくなる。アミン価は、JIS K7237:1995に準拠して測定できる。
【0021】
本発明の水性塗料組成物における分散剤は、具体的には、BYK185(不揮発分90質量%以上、酸価0mgKOH/g、アミン価17mgKOH/g(不揮発分換算の酸価0mgKOH/g、アミン価17mgKOH/g))、BYK187(不揮発分70質量%、酸価35mgKOH/g、アミン価35mgKOH/g(不揮発分換算の酸価50mgKOH/g、アミン価50mgKOH/g))、BYK190(不揮発分40質量%、酸価10mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g(不揮発分換算の酸価25mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g))、BYK191(不揮発分98質量%、酸価30mgKOH/g、アミン価20mgKOH/g(不揮発分換算の酸価31mgKOH/g、アミン価20mgKOH/g))、BYK192(不揮発分98質量%以上、酸価0mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g(不揮発分換算の酸価0mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g))、BYK193(不揮発分40質量%、酸価0mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g(不揮発分換算の酸価0mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g))、BYK2012(不揮発分40質量%、酸価7mgKOH/g、アミン価7mgKOH/g(不揮発分換算の酸価17.5mgKOH/g、アミン価17.5mgKOH/g))、BYK2013(不揮発分98.5質量%以上、酸価8mgKOH/g、アミン価18mgKOH/g(不揮発分換算の酸価8mgKOH/g、アミン価18mgKOH/g))、BYK2060(不揮発分95質量%以上、酸価5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g(不揮発分換算の酸価5mgKOH/g、アミン価0mgKOH/g))、BYK2061(不揮発分100質量%、酸価0mgKOH/g、アミン価3mgKOH/g)、フローレンG-700DMEA(不揮発分70質量%、酸価38mgKOH/g、アミン価38mgKOH/g(不揮発分換算の酸価54mgKOH/g、アミン価54mgKOH/g))、アジスパーPB821(不揮発分100質量%、酸価10mgKOH/g、アミン価17mgKOH/g)、アジスパーPB822(不揮発分100質量%、酸価17mgKOH/g、アミン価14mgKOH/g)、アジスパーPB824(不揮発分100質量%、酸価17mgKOH/g、アミン価21mgKOH/g)、アジスパーPB881(不揮発分100質量%、酸価17mgKOH/g、アミン価17mgKOH/g)、アジスパーPN411(不揮発分100質量%、酸価0mgKOH/g、アミン価6mgKOH/g)、Dispex Ultra FA4420(不揮発分100質量%、酸価22mgKOH/g、アミン価35mgKOH/g)などが挙げられる。
【0022】
(無機酸化物分散体)
分散処理によって得られた無機酸化物の分散体は、分散安定性と透明性の双方をバランスよく満たす観点から、二次粒子の体積平均粒子径が20~200nmの範囲であることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。ここで、二次粒子とは、一次粒子同士がファンデルワールス力等により自然に凝集したものを指し、水系塗料組成物において、無機酸化物は二次粒子の状態で存在する。
特に、分散安定性を重視する場合には、二次粒子の体積平均粒子径は、20nm以上であることが好ましい。また、透明性を重視する場合には、二次粒子の体積平均粒子径は、200nm以下とすることが好ましい。
【0023】
(その他)
本発明の水性塗料組成物は、その他に、塗膜の成膜性を確保し、塗膜乾燥性を向上させる観点から、有機溶剤を配合してもよい。有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、塗料業界において通常使用されている有機溶剤を用いることができる。溶媒としては、水と混合し得る極性を持つ有機溶剤が好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。
本発明の水性塗料組成物において、有機溶剤の量は、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましい。有機溶剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(金属成分の溶出量)
本発明においては、基材に本発明の水性塗料組成物を塗って乾燥させ、乾燥膜厚15μmの塗膜を形成させた試験片を、JIS K5658:2010に規定される耐酸性の試験に準拠して、5g/Lの硫酸水溶液中に24時間浸漬した後に、塗膜中に含まれる無機酸化物から硫酸水溶液中へ溶け出した金属成分の溶出量をICP分析法で測定するとき、金属成分の溶出量が15ppm以下である。
【0025】
本発明において、耐酸性は酸による塗膜変質に耐える性質であり、具体的には、水性塗料組成物から得られる塗膜において、特定の耐酸性の試験を行った際に、塗膜に含まれる紫外線吸収剤の無機酸化物から、経時的に無機金属成分が溶出することを抑制する性質をいう。耐酸性が低い場合、金属成分が溶出し、紫外線吸収性が低下する。本発明の水性塗料組成物は、塗装して乾燥させた塗膜の膜厚を15μmにおける塗膜の吸光度測定において、波長365nmの透過率が15%以下である。ここでは、測定波長を365nmとし、膜厚を15μmに規定している。
なお、紫外線透過率は、波長365nmの紫外線を透過する基材(透光性材料)の上に、所定の膜厚になるようバーコーターを用いて、水性塗料組成物を塗布し、成膜させることにより、試験片を作製した後に、試験片の波長365nmにおける透過率を紫外可視分析光度計を用いて測定することができる。ここで、波長365nmの紫外線を透過する透光性材料としては、例えば、ガラスや石英を挙げることができる。尚、波長365nmの紫外線を透過する透光性材料を用いた場合の「波長365nmにおける試験片の透過率」は、「波長365nmにおける塗膜の透過率」として読み替えることができる。
【0026】
JIS K5658:2010に規定される耐酸性の試験に準拠して、5g/Lの硫酸水溶液中に24時間浸漬した後に、前記塗膜中に含まれる前記無機酸化物から前記硫酸水溶液中へ溶け出した金属成分の溶出量をICP分析法で測定するとき、前記金属成分の溶出量が15ppm以下であり、10ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。前記金属成分の溶出量が15ppm以下であれば、長期にわたって優れた紫外線吸収性を維持することができる。塗膜の紫外線吸収性を優れたものにするためには、紫外線吸収剤を所定量配合する必要があり、本発明では、水系塗料組成物の不揮発分(塗膜中)に対する無機酸化物の含有量が5質量%以上であっても、前記金属成分の溶出量を15ppm以下に抑えることができる。
【0027】
(その他の成分)
さらに、本発明の水性塗料組成物は、その他の成分として、顔料、他の樹脂(水溶性樹脂を含む)、有機溶剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、粘度調整剤、レオロジーコントロール剤、レベリング剤、消泡剤、乾燥剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、抗ウイルス剤、中和剤、ラジカル捕捉剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。
【0028】
(中和剤)
中和剤は、水性塗料組成物のpHが7~10となるように中和剤を用いることが好ましい。中和剤としては、例えば、アルカリ性の化合物が挙げられる。中和剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
中和剤として使用できるアルカリ性の無機化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、アンモニアなどを例示することができる。アルカリ性の有機化合物としては、例えばアミン化合物、具体的には酸基とイオン対を形成可能なアミン化合物であり、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、t-ブチルアミン、ヘキシルアミン、ベンジルアミン、エタノールアミン、イソプロパノールアミン、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、ピロリジン及びモルホリン等の第1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-ブチルイソプロパノールアミン、N-t-ブチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン及びピペラジン等の第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチルジエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、N-t-ブチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N,N-ジ-t-ブチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルジイソプロパノールアミン、N-エチルジイソプロパノールアミン、N-ブチルジイソプロパノールアミン、N-t-ブチルジイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン、N,N-ジブチルイソプロパノールアミン及びN,N-ジ-t-ブチルイソプロパノールアミン等の第3級アミンが挙げられる。
【0029】
(ラジカル捕捉剤)
塗膜の光安定性を向上させる点から、ラジカル捕捉剤を含むことが好ましい。また、フリーラジカルと反応し、重合反応が起こることを防止する機能を有する物質(いわゆる重合禁止剤)も、ラジカル捕捉剤に含まれる。ラジカル捕捉剤を用いることは、クラックの発生を防止する観点からも好ましい。ラジカル捕捉剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、フェノール系化合物、フェノチアジン系化合物、ニトロソ系化合物、N-オキシル系化合物等が挙げられ、特にヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)が好ましい。
【0030】
(増粘剤)
本発明の水性塗料組成物は、塗装作業性、特には厚膜塗装時の作業性の観点から、その他の添加剤として増粘剤を用いることが好ましく、塗料業界において通常使用されている増粘剤を使用することができる。増粘剤としては、脂肪酸アマイド、ポリエチレン、脂肪酸エステル、ポリウレタン、変性ウレア、ひまし油誘導体、有機ベントナイトや有機変性セピオライト等の有機変性粘土鉱物、親水性シリカ等の増粘剤が挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン、変性ウレタンよりなる群から選ばれる増粘剤が好ましい。これにより、タレ切れ性、貯蔵安定性をさらに向上させることができる。本発明の水性塗料組成物において、増粘剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(塗膜)
また、本発明の1つの態様は、上述した水性塗料組成物で形成されるクリアー層を有する塗膜である。以下、本発明の塗膜を詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の塗膜は、本発明の水性塗料組成物を用いるクリアー層を形成している。このクリアー層によって、紫外線による意匠層の顔料劣化による塗膜劣化を抑える。
【0032】
(基材)
基材は、特に限定されるものではなく、例えば、鉄鋼、亜鉛めっき鋼(例えばトタン板)、スズめっき鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属又は合金を少なくとも一部に含む金属基材、木材等の木質基材、石膏、珪酸カルシウム、ガラス、セラミック、コンクリート、セメント、モルタル、スレート等の無機系基材、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等のプラスチック基材が挙げられる。また、他にも、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・珪酸カルシウム板等の複合基材も例示できる。金属基材には、各種表面処理、例えば酸化処理が施された基材も含まれる。また、その表面が無機物で被覆されているようなプラスチック基材(例えば、ガラス質で被覆されたプラスチック基材)は、無機系基材に含まれる。なお、基材は、プライマー処理が施されていてもよいし、基材表面の少なくとも一部に旧塗膜(塗装を行う際に既に形成されている塗膜)が存在していてもよい。また、基材表面の少なくとも一部に下塗り膜が存在していても適用できる。
【0033】
(シーラー層)
基材は、プライマー処理が施されていてもよいし、シーラー層を設けることがある。シーラー層は、他の樹脂を混合して用いることができる。混合する樹脂としては、通常使用されている樹脂が用いられる。例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、スチレンアクリル共重合樹脂のようなアクリル樹脂を用いることが、塗料性能として貯蔵安定性、塗膜性能として塗膜外観、耐水性、耐溶剤性をさらに優れたものとすることができる。
【0034】
(意匠層)
意匠層を構成する材料としては、通常使用されている意匠層形成用塗料を使用でき、水系塗料が好ましく使用できる。また、意匠層形成用塗料に変えて、意匠膜を予めシート化したものを、粘着剤などを用いて基材に貼付して、意匠層を形成してもよい。また、予めシート化された意匠膜の表面に本発明の水系塗料を塗装して、「意匠膜/本発明の塗膜」のシートを作成し、本発明の塗膜が表面側になるように(意匠膜は基材側)、粘着剤などを用いて基材に貼付してもよい。意匠層形成用塗料は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などのバインダー樹脂に、光輝顔料、着色顔料または染料等の着色剤を配合して調製することができる。また、意匠層形成用塗料には、必要に応じて、防錆顔料、体質顔料等の塗料業界において通常使用されている顔料を配合してもよい。これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的には、着色顔料としては、カーボンブラック、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料、又は染料を挙げることができ、光輝顔料としては、例えば、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等を挙げることができる。また、アルミニウム、クロム、金、銀、銅等を用いて蒸着、スパッタリング、または、箔転写等することによって設けた金属薄膜を意匠層としてもよい。
【0035】
(その他の層)
本発明の塗膜の表面に親水性や撥水性などを付与するために、撥水コート層などを設けてもよい。
【0036】
(水性塗料組成物の製造方法)
本発明の水性塗料組成物は、例えば、水分散性樹脂、無機酸化物及び水と、必要に応じて適宜選択される各種添加剤とを混合することにより調製できる。
(塗布方法)
本発明の水性塗料組成物を塗布する方法としては、特に制限されず、公知の塗布方法、例えば、刷毛、ローラー、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ブレードコート法及びエアーナイフコート法等が挙げられる。
本発明の水性塗料組成物の塗布量は、塗布される基材の種類や用途に応じて変えることができる。
【0037】
(建築塗装材)
本発明の建築塗装材は、本発明の水性塗料組成物を用いて紫外線を吸収するクリアー層を形成するため、意匠層の色あせがなく、また、透明性にも優れ、かつ、耐候性を有している。本発明の建築塗装材に形成される塗膜は、厚さが10~50μmであることが好ましい。
【0038】
(建築塗装材の用途)
本発明の建築塗装材は、例えば、塗装対象として建築物や構築物等の構造物の建築塗装材以外にも、車両(自動車等)、家具、建具、電子機器(家電機器等)やそれらの部品の表面に塗膜を有するものが挙げられる。
【実施例0039】
本発明を以下の実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0040】
<1.無機酸化物分散液の調製>
表1には、無機酸化物分散液の調製に用いる分散剤の酸価(mgKOH/g)、アミン価(mgKOH/g)、(酸価-アミン価)(mgKOH/g)、(酸価+アミン価)(mgKOH/g)を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に記載されている分散剤の詳細は以下のとおりである。
(1)分散剤1:顔料に親和性のある共重合物、商品名BYK-191(ビッグケミー社製)
(2)分散剤2:脂肪酸メチルエステル、商品名Dispex Ultra FA4420(BASF社製)
(3)分散剤3:カルボキシル基含有ポリマー変性物、商品名BG700DMEA(共栄社化学社製)
(4)分散剤4:コントロール重合のアクリル系共重合物、商品名BYK-2012(ビッグケミー社製)
(5)分散剤5:顔料に親和性のあるノニオン系共重合物、商品名BYK-192(ビッグケミー社製)
(6)分散剤6:中性ポリマー、商品名アジスパーPN411(味の素ファインテクノ社製)
(7)分散剤7:顔料親和性基を有する構造制御されたコポリマー、商品名BYK-2013(ビッグケミー社製)
(8)分散剤8:顔料に親和性のある共重合物、商品名BYK-194N(ビッグケミー社製)
(9)分散剤9:酸基を含む共重合物のアルキロールアンモニウム塩、商品名BYK-180(ビッグケミー社製)
(10)分散剤10:高分子量ポリマーのアルキロールアンモニウム塩、商品名ANT1-TERRA250(ビッグケミー社製)
【0043】
次に、表1に記載された分散剤1~10と疎水性処理酸化亜鉛(一次粒子径:25nm、シリコーンオイル表面処理酸化亜鉛、製品名:MZY-505S、テイカ社製)と水を配合し予め混合した後に、ビーズミルにて分散処理を行い、無機酸化物分散液1~10を調製した。
表2には、無機酸化物分散液1~10の組成を示す。
【0044】
【表2】
【0045】
次に、表1に記載された分散剤1~10と疎水性処理酸化チタン(一次粒子径:20nm、Al(OH)/ステアリン酸表面処理酸化チタン、製品名:TTO-51(C)、石原産業社製)と水を配合し予め混合した後に、ビーズミルにて分散処理を行い、無機酸化物分散液11~20を調製した。
表3には、無機酸化物分散液11~20の組成を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
<2.水性塗料組成物の調製>
表2に記載された無機酸化物分散液1~10と、樹脂の水分散液、ラジカル捕捉剤、成膜助剤、その他の添加剤と水とを混合し、高速撹拌機にて十分に撹拌することにより、実施例1~21、比較例1~9の水性塗料組成物を調製した。
表4~6には、実施例1~21、比較例1~9の水性塗料組成物の組成を示す。
【0048】
表4には、樹脂の水分散液(A)として、フッ素樹脂エマルション(樹脂の水分散液1)を用いた実施例1~7、比較例1~3を示す。
【表4】
【0049】
表5には、樹脂の水分散液(A)として、アクリルシリコーン樹脂エマルション(樹脂の水分散液2)を用いた実施例8~14、比較例4~6を示す。
【表5】
【0050】
表6には、樹脂の水分散液(A)として、アクリルエマルション(樹脂の水分散液3)を用いた実施例15~21、比較例7~9を示す。
【表6】
【0051】
表3に記載された無機酸化物分散液11~20と、フッ素樹脂エマルション(樹脂の水分散液1)、ラジカル捕捉剤、成膜助剤、その他の添加剤と水とを混合し、高速撹拌機にて十分に撹拌することにより、実施例22~28、比較例10~12の水性塗料組成物を調製した。
【0052】
表7には、実施例22~28、比較例10~12の水性塗料組成物の組成を示す。
【表7】
【0053】
使用した原料の詳細を以下に示す。
(1)樹脂の水分散液1:フッ素樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、商品名:ルミフロン FE4300(AGC社製)
(2)樹脂の水分散液2:アクリルシリコーン樹脂エマルション、不揮発分:44質量%、商品名:ユーダブル EF-002(日本触媒社製)
(3)樹脂の水分散液3:アクリルエマルション、不揮発分:43質量%、商品名:アクリセット EX-41(日本触媒社製)
(4)ラジカル捕捉剤:ヒンダードアミン、不揮発分:100%、商品名Tinuvin292(BASF社製)
(5)成膜助剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテル、不揮発分:0%、商品名ハイソルブ DB(東邦化学工業社製)
(6)その他(中和剤、増粘剤)
(7)水(イオン交換水)
【0054】
<3.水性塗料組成物の塗装物(試験片)の作製>
ガラス板(50mm×50mm×厚み1mm)上に、実施例1~28、比較例1~12の水性塗料組成物を、乾燥膜厚が15μmになるようバーコーターを用いて塗布し、130℃にて3分間乾燥させることにより、実施例1~28、比較例1~12の水性塗料組成物が塗装されたそれぞれの試験片を作製した。
【0055】
<4.水性塗料組成物、試験片の特性評価>
<4-1:粒径分布測定(分散性評価)>
実施例1~28、比較例1~12の水性塗料組成物における無機酸化物の粒度分布については、動的光散乱法粒度分布測定装置(商品名:NANOTRAC WAVE II、マイクロトラック・ベル株式会社)を用いた。測定条件としては、測定時間を60秒とし、試料粒子屈折率を1.95(酸化亜鉛)、2.55(酸化チタン アナターゼ型)、2.62(酸化チタン ルチル型)、2.20(酸化セリウム)とし、分散媒を水とし、分散媒屈折率を1.33とした。測定用試料(水性塗料組成物の水希釈液)の体積粒度分布を測定し、測定結果から累積体積分布における小粒子径側からの累積体積が50%になる粒子径を無機酸化物の二次粒子の体積平均粒子径(nm)として算出した。測定は3回行い、平均値を無機酸化物の二次粒子の体積平均粒子径(nm)とした。
分散性については、以下の基準により判定した。その結果を表8~11に示す。尚、判定が「〇」、「△」であれば実用上の問題は発生しないレベルを表している。「×」であれば実用上の問題があり、実際の活用はできないレベルを表している。
[分散性の判定基準]
「〇」:二次粒子の体積平均粒子径が30~150nmであり分散性が優れている。
「△」:二次粒子の体積平均粒子径が150超200nm以下で分散性が実用上問題ない範囲である。
「×」:二次粒子の体積平均粒子径が200nmより大きいことで分散性が劣っている。
【0056】
<4-2:紫外線透過率測定(紫外線吸収性評価)>
得られた試験片について、波長365nmにおける紫外線透過率を、紫外可視近赤外分析光度計UV3100PC(島津製作所社製)を用いて測定した。紫外線透過率の測定値から、紫外線吸収性を評価した。その結果を表8~11に示す。尚、判定が「〇」、「△」であれば実用上の問題は発生しないレベルを表している。「×」であれば実用上の問題があり、実際の活用はできないレベルを表している。
[判定基準]
「〇」:紫外線透過率が5%以下である。
「△」:紫外線透過率が5%より大きく15%以下である。
「×」:紫外線透過率が15%より大きい。
【0057】
<4-3:金属成分の溶出量測定(耐酸性評価)>
得られた試験片について、JIS K5658:2010に規定される耐酸性の試験に準拠して、5g/Lの硫酸水溶液中に24時間浸漬した後に、前記塗膜中に含まれる前記無機酸化物から前記硫酸水溶液中へ溶け出した金属成分の溶出量をICP分析法(測定装置:ICPE-9820、島津製作所社製)で測定した。
ICP分析法で測定した金属成分の溶出量から、塗膜の耐酸性を評価した。その結果を表8~11に示す。尚、判定が「〇」、「△」であれば実用上の問題は発生しないレベルを表している。「×」であれば実用上の問題があり、実際の活用はできないレベルを表している。
[判定基準]
「〇」:金属成分の溶出量が5ppm以下である。
「△」:金属成分の溶出量が5ppm超え15ppm以下である。
「×」:金属成分の溶出量が15ppm超えである。
【0058】
<4-4:可視光透過性(透明性評価)>
得られた試験片について、目視で透明性(可視光透過性)を評価した。その結果を表8~11に示す。尚、判定が「〇」、「△」であれば実用上の問題は発生しないレベルを表している。「×」であれば実用上の問題があり、実際の活用はできないレベルを表している。
[判定基準]
「〇」:下地(基材表面)が明確に観察できる。
「△」:塗膜にわずかに白濁感があるが、下地が明確に観察できる。
「×」:塗膜に白濁感があり、下地が明確に観察できない。
【0059】
表8に、実施例1~7、比較例1~3の評価結果を示す。
【表8】
【0060】
表9に、実施例8~14、比較例4~6の評価結果を示す。
【表9】
【0061】
表10に、実施例15~21、比較例7~9の評価結果を示す。
【表10】
【0062】
表11に、実施例22~28、比較例10~12の評価結果を示す。
【表11】
【0063】
表8~11に示す結果から、実施例1~28の水性塗料組成物は、分散性、透明性、紫外線吸収性、耐酸性のいずれも評価が「〇」または「△」で実用上の問題はなかった。
【0064】
比較例1、4、7、10の水性塗料組成物は、(酸価-アミン価)の絶対値が35を超えていることから、耐酸性が「×」であった。
【0065】
比較例2、5、8、11の水性塗料組成物は、(酸価+アミン価)の絶対値が120を超えていることから、分散性、透明性、耐酸性のいずれもが「×」であった。
【0066】
比較例3、6、9、12の水性塗料組成物は、(酸価+アミン価)が120を超えていることから、分散性、透明性、耐酸性のいずれもが「×」であった。
【0067】
これらの実施例1~28および比較例1~12の結果から、本発明の水性塗料組成物は、分散性、透明性、耐酸性に優れ、長期にわたり紫外線吸収性を有し、いずれについても実用上問題がないことが分かった。