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特開2024-145896水性塗料組成物、塗装方法、塗膜および塗装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145896
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、塗装方法、塗膜および塗装体
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/14 20060101AFI20241004BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D133/14
C09D175/04
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058474
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】谷口 康人
(72)【発明者】
【氏名】東本 光広
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038CH121
4J038DG121
4J038DG191
4J038DG261
4J038JC30
4J038KA05
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA03
4J038NA11
4J038NA12
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】金属基材に対する優れた付着性及び防錆性と、優れた塗膜外観(光沢)及び塗膜硬度(鉛筆硬度)とを有する塗膜を形成できる水性塗料組成物、塗装方法、塗膜および塗装体を提供する。
【解決手段】水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、とくに、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)の比率((A):(B))が、10:1~10:4である、水性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)の比率((A):(B))が、10:1~10:4である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記水性塗料組成物が、シラン化合物(D)および防錆剤(E)のうちの一方又は双方をさらに含む、請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物を塗装する、塗装方法。
【請求項5】
水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物を塗布し乾燥させて形成される、塗膜。
【請求項6】
基材と、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物を塗布し乾燥させて形成される塗膜とを少なくとも有する、塗装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、塗装方法、塗膜および塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輛産機などに使用される金属基材への塗装については、防食性および付着性に優れる下塗り塗料を塗装した後に、塗膜外観及び塗膜硬度に優れる上塗り塗料を塗装する2コート塗装により行われる場合が多い。
しかし、昨今、塗装工程の短縮化および効率化が望まれるようになってきた。このため、下塗り塗料と上塗り塗料の特性を備える1コート塗装を可能にする塗料が求められている。
【0003】
金属基材への1コート塗装を実現する技術としては、例えば、特許文献1は、水酸基含有樹脂とオルガノシリケート、金属錯体およびイソシアネート化合物等を含有する2液型ウレタン塗料について、プライマーがなくても密着性が高く、雨だれに対する耐汚染性、防錆性及び耐候性に優れた塗膜を形成することを記載しているものの、適用できる基材に限りがあった。
また、この問題を解決するために、特許文献2では、アルミニウム、ステンレス等多種の基板を対象とすることができる塗料として、(A)水酸基含有樹脂、(B)(A)よりも水酸基価が小さくかつTgが低い水酸基含有樹脂、(C)アミノ基含有シランカップリング剤、および(D)硬化剤とを含有する2液型ウレタン塗料組成物を提案している。
【0004】
しかし、特許文献1、特許文献2は、主に溶剤系塗料に関する発明である。昨今は2コート仕様を1コート仕様とする上述の省行程化に関する要望の他、溶剤系塗料を水系塗料とする、環境への配慮の要望があることから、金属に適用できる1コート仕様の水系塗料が求められているものの、水系塗料では光沢や金属への付着性に関する技術ハードルが高く、十分な検討がなされていなかった。
水系塗料としては、例えば特許文献3に水性主剤(I)及び水分散性硬化剤(II)を含む水性塗料組成物について、水性主剤(I)は水酸基含有樹脂水分散体(A)を含み、水分散性硬化剤(II)は水分散性ポリイソシアネート(B)を含み、水酸基含有樹脂水分散体(A)は、アクリル樹脂ディスパージョン(A1)、及び炭素数4~6の疎水性直鎖アルキル基、分枝状アルキル基又は脂環状アルキル基を有するアクリル樹脂エマルション(A2)を含むことで、塗装作業性及び仕上り外観が良好なことを記載している。
【0005】
特許文献3は上塗り塗料としては優れた発明であるものの、金属に直接塗装した際の基材への付着性や塗膜硬度について改善の余地があった。下塗り塗料と上塗り塗料に求められる性能を1つの塗料で実現するためには、金属基材への付着性および防錆性といった下塗り塗料の性能と、光沢を含む塗膜外観、塗膜硬度といった上塗り塗料の性能を兼ね備えることが求められる。しかしながら、これまでの水系塗料は、1つの塗料で下塗り塗料と上塗り塗料の性能を両立するとともに、1コートで求められる仕上がり外観と機能を達成することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-159622号公報
【特許文献2】特開2021-050265号公報
【特許文献3】国際公開2020/149169号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、金属基材に対する優れた付着性及び防錆性と、優れた塗膜外観(光沢)及び塗膜硬度(鉛筆硬度)とを有する塗膜を形成できる水性塗料組成物、塗装方法、塗膜および塗装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、本発明の特徴を列記する。
(1)水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物。
(2)前記水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と前記ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)の比率((A):(B))が、10:1~10:4である、(1)に記載の水性塗料組成物。
(3)前記水性塗料組成物が、シラン化合物(D)および防錆剤(E)のうちの一方又は双方をさらに含む、(1)に記載の水性塗料組成物。
【0009】
(4)水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物を塗装する、塗装方法。
(5)水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物を塗装する水性塗料組成物を塗布し乾燥させて形成される、塗膜。
(6)基材と、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と、硬化剤(C)とを含む、水性塗料組成物を塗布し乾燥させて形成される塗膜とを少なくとも有する、塗装体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属基材に対する優れた付着性及び防錆性と、優れた塗膜外観(光沢)及び塗膜硬度(鉛筆硬度)とを有する塗膜を形成できる水性塗料組成物、塗装方法、塗膜および塗装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1つの態様は、水分散性樹脂と硬化剤を含む水性塗料組成物である。以下、本発明の水性塗料組成物を詳細に説明する。なお、本発明の水性塗料組成物は、以下の記載から様々の態様を導くことができ、記載内容に限定されるものではない。
【0012】
本発明の水性塗料組成物は、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と硬化剤(C)とを含む。
【0013】
(水性塗料組成物)
本発明の水性塗料組成物は、水性塗料であることが好ましい。本発明における「水性塗料」とは、主溶媒として水を含有する水系塗料である。本発明の水性塗料組成物は、水性塗料でも十分に乾燥して塗膜が形成された後は、付着性に優れ、塗膜外観として光沢があり、高い塗膜硬度が得られる。
本発明の水性塗料組成物に用いる水は、特に制限されるものではないが、水道水やイオン交換水、蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明の水性塗料組成物において、水の量は、20~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましい。
【0014】
(水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A))
本発明の水酸基含有樹脂とは、一分子中に少なくとも1個の水酸基(OH基)を有する樹脂である。水酸基の量は水酸基価で表され、本発明の水酸基含有樹脂の水酸基価は、5~200mgKOH/gであることが好ましく、50~150mgKOH/gの範囲のものがより好ましい。水酸基価が5mgKOH/g以上となることで、金属基材への付着性が向上するとともに、硬化剤と反応して、塗膜の架橋密度を向上し、塗膜の耐水性、防錆性を向上することに繋がる。水酸基価を200mgKOH/g以下とすることで、塗膜の耐水性を低下することなく、付着性、防錆性に優れた塗膜が得られやすくなる。また、これら塗膜の性能は後述する硬化剤(C)との当量比によっても影響を受けるが、水酸基価が大きくなり過ぎると、それに伴って硬化剤量が増加し、塗膜の収縮応力が大きくなって基材への付着性が低下する場合がある。水酸基価の測定は、水酸化カリウムの分子量を56.1として、JIS K-5601-2-1(1999)に準拠して行う。
【0015】
さらに、酸価は、1~20mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは5~15mgKOH/gの範囲である。酸価が1mgKOH/g未満では、水中媒体中における樹脂の分散安定性が低下し、塗膜外観が低下したり、他の成分との混合性が低下することがある。また、酸価を、20mgKOH/g以下とすることで、塗膜の耐水性や防錆性が向上しやすくなる。酸価の測定は、水酸化カリウムの分子量を56.1として、JIS K-5601-2-1(1999)に準拠して行う。
【0016】
本発明の水性塗料組成物に用いる水分散性樹脂としては、水中に分散されている樹脂である。水分散性樹脂を用いることで、樹脂の分子量を高くすることができ、成膜後の塗膜の耐水性や防錆性が良好になりやすい。水中における分散の状態としては、エマルション状態、ディスパージョン状態のいずれの樹脂でも用いることができる。それぞれの状態の樹脂は、エマルション樹脂とは、水分散性樹脂のうち、乳化重合によって得られる樹脂を指す。また、ディスパージョン樹脂は、相転換や強制乳化や自己乳化、各種重合法によって得られる樹脂の内、水中に自己分散された状態や分散状態で存在する乳化重合以外の樹脂を指す。本発明の水性塗料組成物に用いる水分散性樹脂としては、樹脂が水中に分散しているものであれば特に限定されないが、ディスパージョン樹脂を含むことがより好ましい。これにより、光沢を有する塗膜外観を得ることができる。
【0017】
アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらのエステル、アミド、及びニトリル等から選択されるアクリル成分の1種又は複数種を重合させることにより調製でき、必要に応じて、スチレン、ビニル基含有エステル化合物(アクリル成分を除く)等の重合性不飽和モノマーを加えることもできる。また、これらモノマーは上述のように各種重合法によって調製できるが、硬化剤と反応し、防食性に優れる塗膜を得る観点や、光沢に優れる塗膜が得られやすくなる観点より、ディスパージョン樹脂を含むことが好ましい。水酸基含有アクリル樹脂中に含まれるディスパージョン樹脂の割合は40質量部~100質量部であることが好ましく、50質量部~100質量部であることがより好ましく、60質量部~100質量部であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の水性塗料組成物における水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)は、重量平均分子量は、1,000~300,000の範囲が好ましく、特に、2,000~200,000、さらには3,000~100,000の範囲であることが好ましい。金属基材に塗布して塗膜を形成した時に、重量平均分子量が300,000未満であることで、硬化剤との反応性に優れるとともに形成された塗膜の光沢が高くなりやすく、金属基材と塗膜との密着性についても高くなりやすい。また、重量平均分子量が1,000以上の樹脂を含むことで、塗膜の耐水性、特には防錆性が高くなりやすい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出することができる。
【0019】
また、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)のガラス転移点(Tg)は、0~70℃であることが好ましく、より好ましくは、20~60℃の範囲内である。ガラス転移点を0℃以上とすることで、金属基材に塗布して形成した塗膜の硬度を高くできるとともに、耐水性や防錆性等の塗膜性能が得られる。また、ガラス転移点70℃以下の樹脂を含むことで、塗膜の柔軟性が得られ、塗装後の塗膜の割れを防止することができる。特に、本発明においては塗膜の割れは防錆性の低下に繋がることから、硬度が確保されているとともに割れにくい塗膜を形成することは非常に重要である。ガラス転移点は、示差走査熱量計を用いて、実測により求めることもできる。塗膜は均層構造であっても異相構造であっても良く、異相構想である場合はその層を構成する少なくとも一層、より好ましくは最外層がガラス転移点0℃~70℃、特には20℃~60℃であることが好ましい。
【0020】
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B))
本発明の水性塗料組成物は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含有する。
ポリウレタンは、その内部にウレタン結合、ウレア結合等を有することから、強固な水素結合により強く凝集したハードセグメントと、ポリエステル又はポリオール部分からなるフレキシブルなソフトセグメントから構成される。ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂とは、ソフトセグメントを形成するポリオールがポリカーボネートポリオールを含むポリウレタンを意味する。
【0021】
ソフトセグメントを形成するポリカーボネートポリオールは、例えば、ジアルキルカーボネート類等のカーボネート類とグリコールとの反応によって得ることができ、分子量500~3,000の分子鎖中にカーボネート基と水酸基をそれぞれ2つ以上有するポリオールをいう。カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロプルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート、ジアミルカーボネート、ジへキシルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ジヘプチルカーボネート、ジオクチルカーボネート、ジシクロプロピルカーボネート等が挙げられる。グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2,2´-ビス-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、p-キシレンジオール、p-テトラクロロキシレンジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、(3(4),8(9)-ビス-(ヒドロキシメチル)-トリシクロデカンジメチロール、ビス-ヒドロキシメチルテトラヒドロフラン、ジ(2-ヒドロキシエチル)ジメチルヒダントイン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0022】
ポリカーボネート系ポリウレタンは、0.01~0.1μm、好ましくは0.015~0.07μm、より好ましくは0.02~0.05μmの平均粒子径を有する分散粒子として存在することが好ましい。平均粒子径が上記範囲内であれば、水中での分散状態が安定している。平均粒子径は、動的光散乱法、レーザー回折法などによって測定することができる。
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)は、硬度に優れることから、上述の水酸基含有アクリル樹脂(A)とあわせて用いることで硬度と光沢に優れるとともに、塗膜表面からの水の侵入を防止し、防食性にも優れる塗膜を得ることができる。
【0023】
本発明の水性塗料組成物におけるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)は、分子構造中に水酸基(OH基)を含有することもできる。水酸基は水酸基価で表され、本発明の水酸基含有樹脂の水酸基価は、1~200mgKOH/gであることが好ましく、5~100mgKOH/gの範囲のものがより好ましい。水酸基価を1mgKOH/g以上とすることで、基材への付着性が向上しやすくなるとともに防錆性等の塗膜性能を向上できる。水酸基価を200mgKOH/g以下とすることで、耐水性や防錆性に優れた塗膜が得られやすくなる。
さらに、酸価を有していてもよく、その場合の酸価は、30~300mgKOH/g、より好ましくは50~150mgKOH/gの範囲である。酸価を30mgKOH/g以上とすることで、水性媒体中における樹脂の分散安定性が良好になりやすくなり、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と混合して用いた際の相溶性が向上することから、塗膜外観(光沢)、塗膜硬度、防錆性に優れる塗膜が得られやすくなる。
【0024】
本発明の水性塗料組成物におけるポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)は、重量平均分子量は、1,000~200,000の範囲が好ましく、特に、2,000~100,000の範囲であることが好ましく、4,000~80,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量を200,000以下とすることで、金属基材に塗布して塗膜を形成した時に、金属基材と塗膜との付着性を高めることができるとともに、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と混合した際に分散安定性、塗膜形成性が高くなりやすく、重量平均分子量を1,000以上とすることで、耐水性や防錆性に優れた塗膜が得られやすくなる。
また、ガラス転移点(Tg)は、30~170℃、より好ましくは、40~160℃の範囲がより好ましい。ガラス転移点が30℃以上のポリカーボネート系ウレタン樹脂(B)を含むことで、金属基材に塗布して形成した塗膜の硬度を高くし、傷つきにくい塗膜を得ることができる。ガラス転移点を170℃以下とすることで、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とブレンドして使用した際の塗膜が割れにくくなる。
【0025】
また、本発明の水性塗料組成物は、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)との比率((A):(B))が、10:1~10:4であることが好ましい。
本発明の水性塗料組成物は、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と両方を用いる。ここでは、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を一定量添加することで塗膜硬度が向上し、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とあわせて用いることで、光沢と硬度に優れる塗膜が得られる。また、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含む塗膜は靭性に優れ、金属基材との付着性が高いことから、防錆性及び耐食性に優れている。
特に、比率((A):(B))が、10:1よりもポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)の量が多い場合には、塗膜硬度が良好になりやすく、より好ましい。また、比率((A):(B))が、10:4よりもポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)の量が少ない場合には、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と後述する硬化剤(C)の反応によって得られる塗膜の架橋密度が高くなり、塗膜の耐水性、防錆性に優れる塗膜が得られやすくなるとともに、塗膜の光沢についても良好になる傾向がある。
【0026】
<硬化剤(C)>
本発明の水性塗料組成物は、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)に加えて、硬化剤(C)を含む水性塗料組成物である。
硬化剤(C)は、イソシアネートやカルボジイミド、オキサゾリン、メラミン等、通常使用される硬化剤であれば特に限定されるものではなく、従来公知の硬化剤を広く使用することができるが、中でも、水酸基含有樹脂と反応して架橋密度を高くし、光沢と硬度に優れた塗膜を得る観点より、イソシアネート、カルボジイミドを含むことがより好ましい。本発明の塗料組成物は1液型でも2液型でも多液型でもよいが、塗料の安定性等の観点より、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)を含む主剤と硬化剤(C)を含む硬化剤よりなる、2液以上の多液型塗料であることがより好ましい。また、硬化剤(C)はイソシアネートを含むことが特に好ましい。
【0027】
水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含有する主剤と、硬化剤(C)を含む硬化剤とを別々に調製し、使用直前に混合して使用する場合には、当量比について考慮し、特に、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と硬化剤(C)の配合量は当量比を基に適正な範囲で混合して使用することが好ましい。水酸基(OH)含有水分散性アクリル樹脂(A)とイソシアネート基(NCO)を含む硬化剤(C)の当量比(NCO/OH)は0.6~2.2であることが好ましく、0.8~2.0であることがより好ましく、1.0~1.8であることが特に好ましい。当量比をこの範囲内とすることで、塗膜内に架橋が形成されるとともに、架橋に用いられない耐水性を劣化させる部分が少なくなり、耐水性と防錆性に優れる塗膜が得られやすくなる。水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含有する主剤と硬化剤(C)の混合比率は上記の当量比が確保されていれば特に限定されるものではないが、主剤100質量部に対して、硬化剤5~50質量部の範囲とすることが好ましく、7~30質量部とすることがより好ましい。硬化剤(C)が5質量部未満では、混合時に主剤と硬化剤を作業者が均一に撹拌することや、計量が困難になりやすく、反応が局所的となり、塗料の塗装作業性が低下したり、硬化の遅延、塗膜外観の低下、塗膜硬度の低下に繋がる場合がある。また、50質量部を超えると塗膜の隠ぺい性が不足する場合がある。
【0028】
なお、本発明の水性塗料組成物は、2液混合型または多液混合型の塗料組成物であることが好ましい。本発明の水性塗料組成物は、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)とポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含む主剤と、硬化剤(C)を含む硬化剤とから構成される2液型とし、塗装時に主剤と硬化剤とを混合することで調製することができる。硬化剤(C)を含む硬化剤には、塗装作業性や粘度、貯蔵安定性等を考慮して各種有機溶剤等の媒体や硬化促進剤、硬化遅延剤等の各種調整剤や後述するその他の添加剤等を含むこともできる。
【0029】
本発明の水性塗料組成物は、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)の他にも水分散性樹脂や水溶性樹脂を含むことができる。このような水分散性樹脂としては、水中に安定して分散されている樹脂であれば、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。この中でも、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、又はアクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂や他のポリウレタン樹脂が好ましい。本発明の水性塗料組成物は、水性塗料であり、主溶媒として水を含有する水系塗料である。本発明の水性塗料組成物は、水性塗料でも十分に乾燥して塗膜が形成された後は高い付着性と防食性、塗膜外観として光沢、塗膜硬度が得られる。
【0030】
<シラン化合物(D)>
また、本発明の水性塗料組成物は、シラン化合物(D)および防錆剤(E)のうちの一方又は双方をさらに含むことが好ましい。配合形態としては、主剤や硬化剤(C)と共に用いるか、または、これらとは別で第三の成分として配合することもできる。
シラン化合物(D)は、金属基材に対する塗膜の付着性を向上する機能を有するとともに、塗膜強度を向上し、腐食の要因となる水を塗膜中に呼び込みにくくする効果を有する。シラン化合物(D)は、化学式X-R-Si-Y、Xは有機官能基を示す。Rはアルキレン基を示す。Yは加水分解基(メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が一般的)を示す。式中、Xは有機官能基であり、配合中の樹脂成分(A)または(B)と結合し塗膜強度を向上させる。中でも、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基及びアルキレングリコール基のような反応性官能基や、ビニル基、メタクリル基、アクリル基及びスチリル基のような重合性官能基が含まれていることが好ましく、その中でも、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基及びアルキレングリコール基がより好ましい。特には、メルカプト基を含むことがより好ましい。Yは加水分解基であり、金属基材表面に配向する水酸基と結合し、塗膜の付着性を向上させる。しかし、水性塗料組成物に配合する場合、組成物中の水分と反応して塗料組成物の安定性を損なう場合があるため、その官能基を保護(末端の官能基を疎水性のメチル基にする等)したシラン化合物を使用することがより好ましい。また、シラン化合物(D)はアルコキシシランオリゴマーの構造でも良い。
【0031】
<防錆剤(E)>
防錆剤(E)は、金属基材と塗膜との間に水が浸入し、腐食部が形成された際の腐食の広がりを効果的に抑制することができるとともに、腐食部を形成しにくくする効果を有する。防錆剤(E)としては、塗料分野で公知の防錆剤成分を使用可能であり、無機化合物であっても有機化合物であってもよく、単独化合物、複合化合物、これら化合物を複数併用した組成物等その形態に制限はない。具体的には、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸水素アルミニウム等のリン酸系金属化合物;亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、次亜リン酸カルシウム等の亜リン酸系金属化合物;ケイ酸カルシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸バリウム等のケイ酸金属塩;モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム等のモリブデン酸系金属化合物;シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ系化合物;または、トリアゾール化合物、チオール化合物、チアジアゾール化合物、チアゾール化合物等の含硫黄有機化合物;を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0032】
特に、他の樹脂成分との混合性に優れ、防錆性に優れる塗膜が得られやすくなる観点や、塗膜の光沢を確保する観点から、常温で液状の防錆剤を含むことが好ましく、シラン化合物およびまたは、アゾール化合物を含むことがより好ましい。防錆剤としてのシラン化合物はアミノシランを含むことが好ましい。アミノシランは、アミノ基を有するシラン化合物であり、具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランやビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン等のビスアルコキシシリル型アミンを挙げることができる。
アミノシランとしては、塗料作成時の安定性の観点から、γ-アミノプロピルトリエトキシシランを好適に使用することができる。
【0033】
アゾール化合物は、窒素を1個以上含む複素5員環化合物であり、具体的には、ピロールのような1個の窒素原子を有する環状化合物、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール及びペンタゾールのような2個以上の窒素原子を有する環状化合物、オキサゾール、イソキサゾールのような1個の窒素原子と1個の酸素原子を有する環状化合物、及びチアゾール、イソチアゾールのような1個の窒素原子と1個のイオウ原子を有する環状化合物等を挙げることができる。
アゾール化合物としては、金属との相互作用点及び作用力の観点から、トリアゾール及びチアゾールを好適に使用することができる。
アゾール化合物としてより具体的には、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、アミノトリアゾール、メルカプトベンゾオキサゾール、メルカプトベンズイミダゾール等を挙げることができる。これらのうち、特に、ベンゾトリアゾール及びメルカプトベンゾチアゾールを好適に使用することができる。
【0034】
防錆剤(E)の含有量は、塗膜中において1~10質量%が好ましく、1~7質量%がより好ましく、特には2~5質量%がさらに好ましい。
【0035】
<顔料(F)>
本発明の水性塗料組成物は、顔料(F)を含有することがある。顔料(F)としては、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニン等の着色顔料(F1)を含有し、さらに必要に応じて、体質顔料(F2)、光輝顔料等を含むことができる。着色顔料(F1)は塗膜を着色する顔料であり、体質顔料(F2)は、白色ないし無色の顔料である。体質顔料(F2)は屈折率が低いため、展色剤に混和しても隠蔽性にほとんど影響を与えないことから、着色力や光沢、塗膜硬度などの調整に使われる。体質顔料(F2)は、公知の材料が使用でき、例えば、沈降性硫酸バリウム、シリカ、クリストバライト、炭酸カルシウム、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、および酸化マグネシウムなどが挙げられる。また、体質顔料(F2)は、箔のような薄く平らな形状をした顔料(鱗片状顔料)であってもよく、その具体例としては、ガラスフレーク、アルミフレーク、タルク、マイカ、カオリンクレーなどが挙げられる。
本発明の水性塗料組成物は、顔料(F)を含むことが好ましく、特に、光沢と着色力のある塗膜を形成する観点から酸化チタン等の着色顔料(F1)を含むことが好ましい。光沢があり、かつ高い塗膜硬度を有する塗膜を形成する観点より、塗膜中の顔料(F)の含有量は、1~40%であることが好ましく、5~30%であることが、特には、10~25%であることがより好ましい。
【0036】
(その他の成分(G))
さらに、本発明の水性塗料組成物は、その他の成分として、顔料、他の樹脂(水溶性樹脂を含む)、有機溶剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、粘性調整剤、レオロジーコントロール剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、抗ウイルス剤、中和剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、フラッシュラスト防止剤、ラジカル捕捉剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0037】
<pH調整剤(G4)>
本発明の水性塗料組成物は、分散剤(G1)、消泡剤(G2)、粘性調整剤(G3)を用いることが好ましい。その他に、pH調整剤(G4)を用いることがある。pH調整剤(G4)としては、アンモニアやアルカリ性の無機化合物及びアルカリ性の有機化合物よりなる群から選ばれるpH調整剤(G4)が好ましい。pH調整剤(G4)として使用できるアルカリ性の無機化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩を例示することができ、水酸化ナトリウムが好ましい。pH調整剤(G4)として使用できるアルカリ性の有機化合物としては、例えばアミン化合物、具体的には酸基とイオン対を形成可能なアミン化合物である。pH調整剤(G4)の量は、特に制限されるものではないが、例えば、アクリル樹脂エマルションや塗料組成物のpHが好ましい範囲となるように、あるいは、各種成分を混合した際の分散安定性を確保するためにpH調整剤(G4)を用いることが好ましい。
【0038】
<成膜助剤(G5)>
本発明の水性塗料組成物は、成膜助剤(G5)を含むことがある。成膜助剤(G5)は、一般に、成膜性の付与を目的として配合される有機溶剤であり、塗膜形成成分に該当しない。成膜助剤(G5)は、樹脂を柔らかくし、成膜性を向上させる効果を有する。本発明の水性塗料組成物によれば、沸点150℃~260℃の成膜助剤(G5)を含有することで、塗装後の塗膜の乾燥、融着が促進され、塗膜外観(光沢)が向上するとともに、塗膜硬度(鉛筆硬度)が向上し、付着性・防食性等の塗膜性能が向上する。成膜助剤(G5)としては、例えば、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テキサノール等が挙げられる。成膜助剤(G5)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
以上説明したように、本発明の水性塗料組成物は、主な樹脂成分として、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含んでいる。水酸基含有水分散性とポリカーボネートとの組み合わせにより、金属基材に対する付着性と防食性に優れ、塗膜硬度(鉛筆硬度)が高く、光沢のある塗膜外観を得ることができる。
さらに、金属基材との付着性を高め、金属基材の防食性を高めるために防錆剤を用いると、塗膜外観の光沢が低下することがある。しかし、本発明の水性塗料組成物は、防錆剤を用いても、付着性と耐食性を高めると同時に、優れた塗膜硬度(鉛筆硬度)、塗膜外観(光沢)を維持することができる。
【0040】
また、本発明の水性塗料組成物は、プライマー(下塗り)層を設けることなく、金属基材に直接塗装する観点や、優れた塗膜外観(光沢)を維持したまま、さらに、1層の塗布層で優れた防食性を維持する観点から、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と硬化剤(C)を含む。特に、優れた防食性を得るためには液状の防錆剤を含むことが好ましい。さらに、塗装後の塗膜の金属基材への付着性を高めるために、シラン化合物を含むことが好ましい。これらによって、塗膜の付着性と防食性に優れ、かつ、塗膜硬度(鉛筆硬度)、塗膜外観(光沢)に優れた塗膜を得ることができる。
【0041】
(塗装方法)
本発明は、金属基材上に、上記に記載の水性塗料組成物を塗装する、塗装方法である。本発明における水性塗料組成物の塗装方法は、特に制限されず、公知の塗布方法、例えば、刷毛、ローラー、エアースプレー、エアレススプレーの他、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、ブレードコート法及びエアーナイフコート法等が挙げられる。
本発明の水性塗料組成物の塗布量は、塗布される基材の種類や用途に応じて変えることができる。
【0042】
(塗膜)
また、本発明は、基材、または基材に設けられた塗膜上に、上記に記載の水性塗料組成物を塗布し乾燥させて形成される、塗膜である。本発明の塗料は、下塗り塗料と上塗り塗料の特性を有することから、プライマー(下塗り)層を設けることなく、下塗り層と上塗り層を、単層にして形成することもできる。
形成された塗膜は、60°鏡面光沢度の好ましい範囲は75以上であり、より好ましくは80以上にある。これによって、優れた塗膜外観(光沢)を得ることができる。なお、鏡面光沢度は、「JIS K 5600-4-7(1999):鏡面光沢度」(60度)に準じて各塗面の光沢度を測定した。
また、形成された塗膜は、鉛筆引っかき硬度(傷跡法)により、好ましい範囲はB以上が合格であり、より好ましくはF以上の合格であることが好ましい。
なお、塗膜硬度は「JIS K5600-5-4 引っかき硬度(鉛筆法)」により評価を行った。
【0043】
(塗装体)
本発明の塗装体は、基材と、前記基材上に上記に記載の水性塗料組成物を塗布し乾燥させて形成される塗膜とを有する。基材の種類は特に限定されるものではないが、金属基材である場合にも防錆性に優れた塗装体が得られる。また、基材に直接塗装し、1コートの塗装体とすることもできるが、2コート以上の塗装体とすることもできるし、別の下塗り層や中塗り層、上塗り層等とあわせて用いても良い。
金属基材は、特に限定されるものではなく、例えば、鉄鋼、亜鉛めっき鋼(例えばトタン板)、スズめっき鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属又は合金を少なくとも一部に含む金属基材が挙げられる。本発明の塗料は、金属基材に直接塗装した際にも防錆性に優れる特徴を有する一方で、硬度や光沢に優れることから、木材等の木質基材、石膏、珪酸カルシウム、ガラス、セラミック、コンクリート、セメント、モルタル、スレート等の無機系基材、プラスチック基材等の他の基材にも塗装できる。また、金属基材には、各種表面処理、例えば酸化処理が施された基材も含まれる。また、その表面が無機物で被覆されているようなプラスチック基材(例えば、ガラス質で被覆されたプラスチック基材)は、無機系基材に含まれる。なお、本発明の塗装体の塗膜の表面には撥水性などを付与するための撥水コート層や親水性を付与するための親水コート層などを設けてもよい。
【実施例0044】
本発明を以下の実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1~13、比較例1~5の調製>
表1に示す配合(数値は質量部である)によって、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)とその他の原料を用いて水性塗料の主剤を調製した。調製した各主剤塗料を、塗装前に硬化剤(C)と混合して実施例1~13、比較例1~4の水性塗料組成物を得た。比較例5については表1に示した配合に従って塗料組成物を得た。これら塗料組成物について、エアースプレー塗装で金属基材上に塗装し、JIS K5600-1-6:1999:養生並びに試験の温度及び湿度において気温23±2℃、湿度50±5%の標準条件で1週間乾燥し、塗装体(実施例1~13、比較例1~5)を得た。
NV(Non-Volatile Content)とは、塗料組成物中における不揮発分(%)のことである。なお、不揮発分は、塗料組成物を、測定条件:130℃、40分で乾燥させた際に残存する成分をいう。
水酸基価は、試料1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量(mg)を表している。
ガラス転移点(Tg)は、樹脂のガラス転移温度を示している。
【0046】
使用した原料の詳細および配合例を表1に示す。
(1)水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)
(A-1)アクリル樹脂:水酸基を持つアクリルディスパージョン(NV:45%、水酸基価:100,Tg:40℃)
(A-2)アクリル樹脂:水酸基を持つアクリルエマルション(NV:50%、水酸基価:100、Tg:50℃)
(A-3)アクリル樹脂:水酸基を持つアクリルディスパージョン(NV:47%、水酸基価:26.4,Tg:80℃)
【0047】
(2)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)
(B-1)ウレタン樹脂:ポリカーボネート系ウレタンディスパージョン(NV:30%、Tg:92℃)
(B-2)ウレタン樹脂:ポリカーボネート系ウレタンディスパージョン(NV:30%、Tg:136℃)
【0048】
(3)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂以外のウレタン樹脂(B‘)
(B-3)ウレタン樹脂:ポリエステル系ウレタンディスパージョン(NV:33%、Tg:135℃)
(B-4)ウレタン樹脂:ポリエーテル系ウレタンディスパージョン(NV:30%、Tg:120℃)
【0049】
(4)硬化剤(C)
(C-1)硬化剤:イソシアネート硬化剤
実施例1~13、比較例1~4の塗料について、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)との当量比が1.8となるようにイソシアネート硬化剤を混合した。
【0050】
(5)シラン化合物(D)
(D-1)シラン化合物:メルカプト基含有シラン
(D-2)シラン化合物:アルキレングリコール基含有シラン
(D-3)シラン化合物:アミノ基含有シラン
【0051】
(6)防錆剤(E)
(E-1)液状防錆剤
【0052】
(7)顔料(F)
(F-1)着色顔料:酸化チタン
【0053】
(8)その他(G)
(G1)分散剤
(G2)消泡剤
(G3)粘性調整剤
(G4)pH調整剤
(G5)成膜助剤
【0054】
(9)水(イオン交換水)
【0055】
表1は、配合処方に従って調製した実施例1~13、比較例1~5を示している。
【表1】
【0056】
(水性塗料組成物による塗膜性能の測定結果)
本発明の水性塗料組成物を用いた実施例1~13および比較例1~5の水性塗料組成物による塗膜性能を測定した。塗膜性能を以下の基準により評価した。その結果を表2に示している。
判定が「◎」、「〇」、「△」であれば本発明の目的を達成し得るレベルを表している。「×」であれば実用上の問題があるレベルを表している。
【0057】
<防食性>
JIS G3141冷間圧延鋼板を#180の耐水ペーパーで表面を研磨し、キシレン等の溶剤で表面を脱脂、清浄したものを用いて、乾燥膜厚が50±10μmとなるようにエアースプレー塗装を行った後、上記した標準条件で乾燥し、得られた塗膜にカッターナイフでクロスカットを入れて、試験板を作製した。作製した試験板を、JIS K5600-7-1:1999に準じた試験機に入れて、240時間塩水を噴霧した。試験後の試験板を以下の評価基準に基づいて評価した。また、クロスカットを入れていない塗膜部分を一般部、クロスカットを入れた塗膜部分をカット部とする。
「◎」:一般部に錆・膨れがなく、カット部には切り込みから片側3mm未満の個所にしか膨れがない。
「〇」:一般部に錆・膨れがなく、カット部の切り込みから片側3mm以上で5mm未満の個所にしか膨れがない。
「△」:一般部に錆・膨れがなく、カット部の切り込みから片側5mm以上10mm未満の個所にしか膨れがない。
「×」:一般部に錆・膨れがあり、カット部の切り込みから片側10mm以上の部分にも膨れが生じている。
【0058】
<付着性>
上記防食性の試験板と同様に得た塗膜をJIS K 5600-5-6:1999(クロスカット法:1mm×100マス、素材:SPCC-SB)を行うことにより付着性を評価した。評価基準は以下の通りである。
「◎」:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれが認められない。
「〇」:カットの交差部における塗膜の小さなはがれが認められるものの、塗膜面積に占める剥離した面積の割合が5%未満である。
「△」:クロスカットにより、塗膜面積に占める剥離した面積の割合が5%以上である。
「×」:クロスカットにより、塗膜全面にわたり剥離して、塗膜が剥がれていることが認められる。
【0059】
<塗膜外観(光沢)>
上記防食性の試験板と同様に得た塗膜をJIS K5600-4-7:1999 に準じた反射率計を用いて鏡面光沢度(60度)を測定した。測定した光沢度を下記基準により評価した。
「◎」:鏡面光沢度が85以上の場合。
「〇」:鏡面光沢度が80以上85未満の場合。
「△」:鏡面光沢度が75以上80未満の場合。
「×」:鏡面光沢度が75未満の場合。
【0060】
<塗膜硬度(鉛筆硬度)>
上記防食性の試験板と同様に得た塗膜の硬度を「JIS K5600-5-4:1999 引っかき硬度(鉛筆法)」により評価を行った。
「◎」:鉛筆硬度がF以上の場合
「〇」:鉛筆硬度がHB以上F未満の場合
「△」:鉛筆硬度がB以上HB未満の場合
「×」:鉛筆硬度がB未満の場合
【0061】
実施例1~13、比較例1~5の評価結果を示している。
【表2】
【0062】
表2に示す結果から、実施例1~13の水性塗料組成物は、防食性、付着性、光沢(塗膜外観)、塗膜硬度のいずれも評価が「◎」または「〇」または「△」で実用上の問題はなかった。
【0063】
比較例1の水性塗料組成物は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含有しないために、防食性と塗膜硬度が劣っており、金属基材に直接塗装して使用する際には防食性が不十分であった。
【0064】
比較例2、3は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)と異なるそれぞれポリエステル系、ポリエーテル系ウレタン樹脂を用いた実験例であるが、比較例1と同様に防食性と塗膜硬度に劣っており、金属基材に直接塗装して使用する際には防食性が不十分であった。
【0065】
比較例4の水性塗料組成物は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含有しないことで、防食性と塗膜硬度に劣っており、金属基材に直接塗装して使用する際には防食性が不十分であった。
【0066】
比較例5の水性塗料組成物は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(B)を含むことから塗膜硬度には優れるものの、水酸基含有水分散性アクリル樹脂(A)と硬化剤を含有しないことで、防食性に劣っていた。
【0067】
これらの実施例1~13および比較例1~5の結果から、本発明の水性塗料組成物は、防食性、付着性、塗膜外観、塗膜硬度に優れていることが分かった。