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特開2024-145914インクジェットインク組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145914
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20241004BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241004BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241004BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20241004BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20241004BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B29C64/112
B29C64/314
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058508
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】太田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】伏見 賢
(72)【発明者】
【氏名】前田 夏以人
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4F213
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC02
2H186FB04
2H186FB11
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB46
4F213AA43
4F213AB04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL96
4J039AD21
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE22
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA04
4J039EA41
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクジェットプリンタのフィルター詰まりを生じ難く、安定的に連続吐出できる活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも2種のエチレン性不飽和単量体と、少なくとも1種の光重合開始剤とを含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、10以上のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)と、10未満のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)とを含み、
該組成物に含まれるエチレン性不飽和単量体の中で、最も高いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)のSP値と最も低いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)のSP値との差が1以上であり、
前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量が、前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量より少なく、
前記インクジェットインク組成物100mlを、長径30mm以上の撹拌子を用いて1500rpmで12時間撹拌した後、孔径1μmの親水性PTFEメンブランフィルターを用いて0.8MPaのろ過圧でろ過したとき、100ml中はじめの20mlが通液する時間T1と、100ml中おわりの20mlが通液する時間T2との比が0.5以上である、インクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種のエチレン性不飽和単量体と、少なくとも1種の光重合開始剤とを含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、10以上のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)と、10未満のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)とを含み、
該組成物に含まれるエチレン性不飽和単量体の中で、最も高いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)のSP値と最も低いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)のSP値との差が1以上であり、
前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量が、前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量より少なく、
前記インクジェットインク組成物100mlを、長径30mm以上の撹拌子を用いて1500rpmで12時間撹拌した後、孔径1μmの親水性PTFEメンブランフィルターを用いて0.8MPaのろ過圧でろ過したとき、100ml中はじめの20mlが通液する時間T1と、100ml中おわりの20mlが通液する時間T2との比が0.5以上である、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和単量体(A)は窒素原子含有エチレン性不飽和単量体を含む、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和単量体(A)は(メタ)アクリルアミド類を含む、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量に対する前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量の質量比(エチレン性不飽和単量体(A)/エチレン性不飽和単量体(B))は0.03~0.9である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
最も高いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)のSP値との差が1未満であるSP値を有するエチレン性不飽和単量体の総含有量が、前記最も高いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)の含有量より少ない、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、
1~49質量%のエチレン性不飽和単量体(A)、
5~90質量%のエチレン性不飽和単量体(B)、および
0.1~15質量%の光重合開始剤
を含む、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
着色剤の含有量がインク組成物の総質量に基づいて0.1質量%以下のクリアインク組成物である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
マテリアルジェット光造形法において使用されるモデル材組成物である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
光重合開始剤、および、SP値が互いに1以上異なる、10以上のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)と10未満のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)とを含み、前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量が、前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量より少ない活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の製造方法であって、
前記エチレン性不飽和単量体(A)のホモポリマーを凝集させる工程、および、
前記工程で得られたホモポリマーの凝集物を除去する工程
を含む、方法。
【請求項10】
前記ホモポリマーを凝集させる工程を、前記エチレン性不飽和単量体(A)と前記エチレン性不飽和単量体(B)とを3時間以上撹拌することにより行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ホモポリマーを凝集させる工程を、前記インクジェットインク組成物を構成する全成分を3時間以上撹拌することにより行う、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ホモポリマーを凝集させる工程を5~45℃で行う、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記凝集物を除去する工程をフィルターろ過により行う、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記フィルターろ過においてガラス繊維フィルターを用いる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記フィルターのろ過精度が0.8μm以下である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを用いたインクジェット方式による画像形成法は、簡易にかつ安価に、種々の被記録媒体上に高速で画像を形成し得る方法として各種印刷分野で用いられている。近年では、二次元の画像形成のみならず、三次元の立体造形物を作製するための技術においてもインクジェット方式が活用されており、インクジェットノズルから活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを吐出して、所定の形状を有する硬化層を積層することにより立体造形物を自由に作製することができる。
【0003】
活性エネルギー線硬化型インクジェットインクは、典型的には、活性エネルギー線により硬化する重合性化合物と光重合開始剤とを含み、インクの用途や所望する性能等に応じて構成成分が決定される。例えば、特許文献1~3には、それぞれの目的に応じて、数種類のエチレン性不飽和単量体と重合開始剤とを含む活性エネルギー線硬化型のインクジェットインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/182509号
【特許文献2】特開2013-79383号公報
【特許文献3】特開2016-14144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット方式による画像や立体造形物の形成においては、用いるインク組成物をインクジェットプリンタによって安定的に吐出できることが重要である。しかしながら、インク組成物を構成する成分によっては、該インク組成物の保管中にその成分に由来する異物が発生することがあり、発生した異物に起因してインクジェットヘッドやインクジェットプリンタ内のインク供給経路に設けられたフィルターが詰まって、吐出不良を生じることがある。
【0006】
本発明は、インクジェットプリンタのフィルター詰まりを生じ難く、安定的に連続吐出できる活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]少なくとも2種のエチレン性不飽和単量体と、少なくとも1種の光重合開始剤とを含む活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物であって、
前記エチレン性不飽和単量体が、10以上のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)と、10未満のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)とを含み、
該組成物に含まれるエチレン性不飽和単量体の中で、最も高いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)のSP値と最も低いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)のSP値との差が1以上であり、
前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量が、前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量より少なく、
前記インクジェットインク組成物100mlを、長径30mm以上の撹拌子を用いて1500rpmで12時間撹拌した後、孔径1μmの親水性PTFEメンブランフィルターを用いて0.8MPaのろ過圧でろ過したとき、100ml中はじめの20mlが通液する時間T1と、100ml中おわりの20mlが通液する時間T2との比が0.5以上である、インクジェットインク組成物。
[2]前記エチレン性不飽和単量体(A)は窒素原子含有エチレン性不飽和単量体を含む、前記[1]に記載のインクジェットインク組成物。
[3]前記エチレン性不飽和単量体(A)は(メタ)
アクリルアミド類を含む、前記[1]または[2]に記載のインクジェットインク組成物。
[4]前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量に対する前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量の質量比(エチレン性不飽和単量体(A)/エチレン性不飽和単量体(B))は0.03~0.9である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のインクジェットインク組成物。
[5]最も高いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)のSP値との差が1未満であるSP値を有するエチレン性不飽和単量体の総含有量が、前記最も高いSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)の含有量より少ない、前記[1]~[4]のいずれかに記載のインクジェットインク組成物。
[6]インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、
1~49質量%のエチレン性不飽和単量体(A)、
5~90質量%のエチレン性不飽和単量体(B)、および
0.1~15質量%の光重合開始剤
を含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載のインクジェットインク組成物。
[7]着色剤の含有量がインク組成物の総質量に基づいて0.1質量%以下のクリアインク組成物である、前記[1]~[6]に記載のインクジェットインク組成物。
[8]マテリアルジェット光造形法において使用されるモデル材組成物である、前記[1]~[7]のいずれかに記載のインクジェットインク組成物。
[9]光重合開始剤、および、SP値が互いに1以上異なる、10以上のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)と10未満のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)とを含み、前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量が、前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量より少ない活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の製造方法であって、
前記エチレン性不飽和単量体(A)のホモポリマーを凝集させる工程、および、
前記工程で得られたホモポリマーの凝集物を除去する工程
を含む、方法。
[10]前記ホモポリマーを凝集させる工程を、前記エチレン性不飽和単量体(A)と前記エチレン性不飽和単量体(B)とを3時間以上撹拌することにより行う、前記[9]に記載の方法。
[11]前記ホモポリマーを凝集させる工程を、前記インクジェットインク組成物を構成する全成分を3時間以上撹拌することにより行う、前記[9]に記載の方法。
[12]前記ホモポリマーを凝集させる工程を5~45℃で行う、前記[9]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]前記凝集物を除去する工程をフィルターろ過により行う、前記[9]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]前記フィルターろ過においてガラス繊維フィルターを用いる、前記[13]に記載の方法。
[15]前記フィルターのろ過精度が0.8μm以下である、前記[13]または[14]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期間保管した場合であっても、インクジェットプリンタのフィルター詰まりを生じ難く、安定的に連続吐出できる活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0010】
<インクジェットインク組成物>
本発明のインクジェットインク組成物は、少なくとも2種のエチレン性不飽和単量体と、少なくとも1種の光重合開始剤とを含む。本発明において、前記少なくとも2種のエチレン性不飽和単量体は、10以上のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)(以下、「単量体(A)」ともいう)と、10未満のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)(以下、「単量体(B)」ともいう)とを含み、本発明のインクジェットインク組成物に含まれるエチレン性不飽和単量体の中で、最も高いSP値を有する単量体(A)のSP値と最も低いSP値を有する単量体(B)のSP値との差は1以上である。また、本発明のインクジェットインク組成物において、単量体(A)の含有量は単量体(B)の含有量よりも少ない。
【0011】
本発明者等は、SP値が互いに1以上異なる単量体(A)および単量体(B)を含むインク組成物をある程度の期間以上(例えば1か月~1年などの長期間)保管した後、該インク組成物をインクジェットプリンタで用いると、プリンタ内のインク供給経路においてフィルター詰まりを生じることがあり、その原因が、インク組成物を構成する単量体に由来する凝集物であることを見出した。このような現象は、必ずしも明らかではないが、以下のようにして生じ得るものと推定される。インクジェットインク組成物を構成し得る成分として一般的に用いられるエチレン性不飽和単量体の多くは液状である。液状モノマーであるエチレン性不飽和単量体の製造過程において、また場合によっては製品としての流通過程や保管中において、該単量体のホモポリマーが自然発生的に生じることがあり、しばしば、その単量体のホモポリマーが単量体中に溶け込んでわずかに存在する。インクジェットインク組成物を構成する成分の一部としてそのような単量体を使用する場合に、該単量体に対する貧溶媒となり得る成分を他に含むと、単量体とともにわずかに存在していた前記単量体のホモポリマーが徐々に析出する。さらにこれが経時的に凝集することによってこの凝集物がプリンタ内のフィルターに詰まると考えられる。
【0012】
例えば、単量体(A)に対してSP値が1以上異なる単量体(B)は、前記単量体(A)とともにわずかに存在する単量体(A)のホモポリマーに対する貧溶媒となり得る。貧溶媒となる単量体(B)の含有量が多い場合には、単量体(A)のホモポリマーがインク組成物中に徐々に析出しやすくなる。インク組成物中に単量体(A)のホモポリマーが析出すると、析出したホモポリマー同士が経時的に凝集し得る。このため、このような組成のインク組成物は、インクジェットプリンタにおいてフィルター詰まりを生じやすくなる。
【0013】
本発明は、上記のような単量体(A)のホモポリマーに由来する凝集物によるフィルター詰まりが生じやすい成分で構成されるインクジェットインク組成物において、特定の条件下で該インク組成物を撹拌した後フィルターろ過する際のろ過速度を特定の範囲に制御することによって、フィルター詰まりを生じ難くするものである。具体的には、本発明のインクジェットインク組成物は、該組成物100mlを、長径30mm以上の撹拌子を用いて1500rpmで12時間撹拌した後、孔径1μmの親水性PTFEメンブランフィルターを用いて0.8MPaのろ過圧でろ過したとき、100ml中はじめの20mlが通液する時間T1と、100ml中おわりの20mlが通液する時間T2との比(T1/T2)が0.5以上である。
【0014】
上記T1/T2値の測定において、インクジェットインク組成物の撹拌を行う容器としては、容器底面が平で、撹拌子が干渉しない素材の容器であればよい。例えばビーカー、ガラス瓶などが挙げられる。測定対象のインク組成物に対する適切な撹拌処理の観点から、容器の容量は通常250~600mlであり、300mlビーカーを用いることが好ましい。
【0015】
撹拌に用いる撹拌子としては、長径30mm以上であってインク組成物を上記条件下で十分に撹拌し得るものを用いる。撹拌子の形状は、テーパー型、オーバル型、シリンダー型、ラグビーボール型などであってよい。長径が30mm以上ある撹拌子であれば、前記撹拌条件下100mlのインク組成物において、経時的に凝集物を生じ得る単量体のホモポリマーの存在を確認することができる。インク組成物に対する十分な撹拌および撹拌のしやすさの観点から、30~70mmの長径を有する撹拌子が好ましく、長径30~50mm、かつ、直径Φ5~20mmを有する撹拌子がより好ましい。なお、本開示において、撹拌子における長径とは撹拌子において最も長い方向の長さを意味する。また、撹拌子における直径とは、長径と直交する方向の長さを意味し、テーパー型など長径と直交する方向の長さが一つに定まらない場合、最も長い直径が上記範囲内であることが好ましい。
【0016】
本発明において、インクジェットインク組成物の撹拌は、例えばマグネチックスターラーを用いて、前記撹拌子により1500rpmで12時間撹拌することによって行う。撹拌時の温度は、好ましくは25℃±5℃の範囲である。T1/T2値の測定における撹拌操作は、詳細には、例えば後述する実施例に記載の方法に従い行うことができる。
【0017】
上記条件下で撹拌後、孔径1μmの親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブランフィルターを用いて0.8MPaのろ過圧でろ過し、100ml中はじめの20mlが通液する時間T1と、100ml中おわりの20mlが通液する時間T2とを測定する。孔径1μmの親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブランフィルターとしては、例えば、ADVANTEC社製の親水性PTFEメンブレンフィルター(孔径:1.00μm)、メルクミリポア社製のオムニポアメンブレンフィルター(孔径:1.00μm)等を用いることができる。ろ過方法としては、ろ過圧を0.8MPaに調整可能であれば特に限定されないが、ろ過圧の制御や操作の容易性の観点から、減圧ろ過が好ましい。
【0018】
測定対象とする100mlのインクジェットインク組成物の通液開始後20mlまでが流れる時間T1、および、通液終了前の20mlが流れる時間T2は、例えば、以下のようにして測定できる。減圧ろ過鍾に減圧ろ過用のフィルターホルダーを取り付け、前記ろ過フィルターをセットする。T1およびT2を測定するインク組成物を20ml計量しながら、ろ過圧0.8MPaの減圧下にてろ過を開始する。インク組成物がフィルターを通過した瞬間からストップウォッチで時間の計測を開始して、フィルター上から20mlのインク組成物がフィルターを通過し切った瞬間までの時間をT1とする。次にそのままフィルターに60mlのインク組成物を通過させた後、残り20mlを計量しながら、T1と同じ手順でT2を計測する。T2は、残り20mlのインク組成物のフィルター通過が開始した瞬間から20mlのインク組成物すべてがフィルターを通過し切った瞬間までの時間である。
【0019】
T1およびT2の測定時のインクジェットインク組成物の液温は、25℃±1.0℃の範囲に調整することが好ましい。
【0020】
本発明において解決すべきインクジェットプリンタにおけるフィルター詰まりは、インクジェットインク組成物を構成する単量体(A)中に溶け込んでわずかに存在する単量体(A)のホモポリマーに起因する。この単量体(A)のホモポリマーは、極めて小さなサイズ(分子量)で単量体(A)中に溶け込んで存在していると考えられるため、例えば、単量体(A)をインク組成物の一成分として用いる前にフィルターろ過をしても除去することは困難である。このため、単量体(A)をその貧溶媒となり得る単量体(B)とともにインク組成物の構成成分として用いた場合、単量体(A)のホモポリマーに由来する凝集物の発生を抑制することは難しい。本発明においては、単量体(A)と単量体(B)とが含まれるインク組成物の状態において、上記特定の条件で撹拌することによって、自然条件下では経時的に徐々に生じ得る単量体(A)のホモポリマーの凝集を加速度的に生じさせることができる。すなわち、上記特定の条件下で撹拌した後、上記特定のろ過操作を行った場合にT1/T2の値が小さい(0.5未満である)インク組成物には、ろ過の妨げになる単量体(A)のホモポリマーの凝集物が多く生じているといえる。言い換えると、このようなインク組成物には、自然条件下で保管した場合に、フィルター詰まりの原因となり得る単量体(A)のホモポリマーが単量体(A)中に溶け込んだ状態で存在していると推測される。一方、T1/T2の値が0.5以上であるインク組成物には、経時的に凝集を生じてフィルター詰まりの原因となるような単量体(A)のホモポリマーが存在していない、または、ほとんど存在していないといえる。言い換えると、このようなインク組成物は、長期間保管した場合であっても、インクジェットプリンタ内のフィルター詰まりを生じ難いと考えられる。したがって、前記T1/T2の値を指標として、フィルター詰まりを生じ難いインクジェットインク組成物を得ることができる。
【0021】
T1/T2の値が0.5以上であると、単量体(A)のホモポリマーに由来する凝集物によるフィルター詰まりを生じ難く、連続的に吐出可能なインク組成物を得ることができる。また、T1/T2の値が前記範囲内であるインクジェットインク組成物には、経時的な凝集物の発生の要因となる単量体(A)のホモポリマーが溶け込んで存在していないと考えられ、経時的な凝集物の発生を抑制して、長期間安定的に保管することができる。凝集物の発生を抑え、フィルター詰まりを防止する効果をより一層高める観点から、本発明のインクジェットインク組成物におけるT1/T2の値は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上、さらに好ましくは0.7超、特に好ましくは0.75以上、とりわけ好ましくは0.8以上である。T1/T2の前記測定方法において、100mlのインク組成物が通液する速度が初めから最後まで変わらないことが望ましいため、T1/T2の値は1.0に近いほど好ましい。測定誤差を考慮して、T1/T2の値は、通常0.5~1.1であり、0.5~1.0の範囲であることが好ましい。
【0022】
100mlのインクジェットインク組成物の通液開始後20mlまでが流れる時間T1は、インクジェットインク組成物の組成、粘度、濡れ性、その用途等によって異なり得る。インクジェットプリンタによる画像形成や立体造形の速度や得られる画像や造形物の精度、特性等の観点から、T1は、通常1800秒以下であり、好ましくは1500秒以下、より好ましくは1200秒以下である。T1の下限は特に限定されるものではないが、インクジェットプリンタからの吐出に適する粘度等を考慮すると、通常60秒以上である。なお、上記T1の値は、直径2.5cmのフィルターを用いた場合に想定される時間である。フィルター径と通液時間とは、通常反比例の関係にあり、前記フィルター径より大きな直径のフィルターを用いれば、その直径に反比例して好ましいT1の範囲は短くなる。これは、後述のT2においても同じである。
【0023】
100mlのインクジェットインク組成物の通液終了前の20mlが流れる時間T2は、インクジェットインク組成物の組成、粘度、濡れ性、その用途等によって異なり得る。インクジェットプリンタにおけるフィルター詰まりの抑制効果、画像形成や立体造形の速度や得られる画像や造形物の精度、特性等の観点から、例えば直径2.5cmのフィルターを用いた場合にT2は、通常3600秒以下であり、好ましくは3000秒以下、より好ましくは1200秒以下である。T2の下限は特に限定されるものではないが、フィルター詰まりの抑制効果やインクジェットプリンタからの吐出に適する粘度等を考慮すると、通常60秒以上である。
【0024】
T1/T2の値は、インクジェットインク組成物を構成する単量体(A)および単量体(B)の種類、その組み合わせおよびそれらの量を適宜決定した上で、インクジェットインク組成物を構成する単量体(A)中に溶け込んでわずかに存在する単量体(A)のホモポリマーを強制的に析出および凝集させて、それを除去することによって所望の範囲に制御することができる。具体的には、例えば、後述する本発明のインクジェットインク組成物における単量体(A)、単量体(B)、およびその他の重合性化合物等の好ましい態様等に基づき、インクジェットインク組成物における各成分の種類、それらの組合せや量を適宜調整できる。また、特に、後述の本発明のインクジェットインク組成物の製造方法における、単量体(A)のホモポリマーの析出および凝集方法や条件に従って、単量体(A)中に溶け込んでわずかに存在する単量体(A)のホモポリマーを効率的に除去することによって、T1/T2を上記所望の範囲に制御できる。
【0025】
本発明のインクジェットインク組成物は、少なくとも2種のエチレン性不飽和単量体を含む。エチレン性不飽和単量体は、エネルギー線により硬化する特性を有するエチレン性二重結合を分子内に少なくとも1個有する重合性のモノマーである。エチレン性不飽和単量体は、分子内にエチレン性二重結合を1個有する単官能エチレン性不飽和単量体であってもよいし、分子内にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能エチレン性不飽和単量体であってもよい。
【0026】
本発明のインクジェットインク組成物は、前記エチレン性不飽和単量体として、SP値が10以上であるエチレン性不飽和単量体(A)と、SP値が10未満であるエチレン性不飽和単量体(B)とを含む。本発明のインクジェットインク組成物を構成するエチレン性不飽和単量体の中で最も高いSP値を有する単量体(A)のSP値は、最も低いSP値を有する単量体(B)のSP値と1以上異なる。すなわち、本発明のインクジェットインク組成物は、SP値の差が1以上である少なくとも1つの単量体(A)と単量体(B)との組み合わせを含む。例えば、単量体(A)および単量体(B)としてそれぞれ1つの単量体を含む場合にこれらの単量体のSP値が互いに1以上異なると、単量体(B)が単量体(A)のホモポリマーに対する貧溶媒として機能することにより、単量体(A)中に溶け込んで存在する単量体(A)のホモポリマーを析出させることができる。
【0027】
ここで、SP値は溶解度パラメータ(Solubility Parameter)を意味し、これは物質に固有の値である。SP値は、例えば実験的に測定すること、および分子構造をもとに計算によって求めることが可能である。本明細書における各単量体のSP値は、分子構造をもとに推算する手法の一つであるFedorsの方法(原崎勇次著,「コーティングの基礎科学」、第3章、35頁、1977年、槙書店発行)に従って得られる25℃での値を意味する。なお、SP値の単位としては、従来慣用的に使用される(cal/cm1/2を用いる。また、SI単位に変換する場合は、約2.0455倍すると(J/cm1/2となる。
【0028】
本発明のインクジェットインク組成物において、最も高いSP値を有する単量体(A)のSP値と最も低いSP値を有する単量体(B)とにおけるSP値の差は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上である。SP値の差が最も大きい単量体(A)のSP値と単量体(B)のSP値との差が上記下限以上であると、単量体(A)のホモポリマーを除去しやすくなることからT1/T2の値を所望の範囲に制御することができ、インクジェットプリンタにおけるフィルター詰まりをより効果的に抑制し得るインクジェットインク組成物を得ることができる。SP値の差が最も大きい単量体(A)と単量体(B)との組み合わせにおけるSP値の差の上限は、単量体同士の相溶性の観点から、通常7以下であり、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4.5以下である。本発明の一実施態様において、SP値の差が最も大きい単量体(A)と単量体(B)との組み合わせにおけるSP値の差は、好ましくは1以上7以下、より好ましくは1.1以上6以下、さらに好ましくは1.2以上5以下、特に好ましくは1.3以上4.5以下である。
【0029】
本発明のインクジェットインク組成物においては、全単量体(A)の総質量に基づき、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90%以上、とりわけ好ましくは95%以上の単量体(A)に対して、SP値が1以上異なる単量体(B)が存在することが好ましい。インクジェットインク組成物を構成する単量体(A)に対して単量体(B)が上記下限値以上の量で存在する場合、T1/T2の値を所望の範囲に制御しやすく、インクジェットプリンタにおけるフィルター詰まりが生じ難く、安定的に吐出可能なインクジェットインク組成物を得ることができる。前記効果を得る観点から、本発明の好適な一実施態様において、インク組成物を構成する全ての単量体(A)(すなわち、全単量体(A)の総質量に基づき100質量%)に対して、それぞれ、少なくとも1つのSP値の差が1以上ある単量体(B)が存在することが好ましい。インクジェットインク組成物が2つ以上の単量体(A)を含む場合、単量体(B)は1つであっても、2つ以上であってもよい。例えば、2つ以上の単量体(A)の全てとの関係においてSP値が1以上異なる1つの単量体(B)を1つ含んでいてもよく、2つ以上の単量体(A)に対して、SP値が1以上異なる別々の単量体(B)を含んでいてもよい。このようなSP値の差が1以上である単量体(A)と単量体(B)との組み合わせにおけるSP値の差は、好ましくは1以上7以下、より好ましくは1.1以上6以下、さらに好ましくは1.2以上5以下、特に好ましくは1.2以上4.5以下である。本発明の一実施態様において、SP値の差が1以上である単量体(A)と単量体(B)との全ての組み合せにおいてSP値の差が上記範囲内であることが好ましい。
【0030】
本発明のインクジェットインク組成物において、単量体(A)の含有量は、単量体(B)の含有量よりも少ない。単量体(A)に対する貧溶媒として機能し得る単量体(B)が多く存在することにより、T1/T2の値を所望の範囲に制御して、インクジェットプリンタにおけるフィルター詰まりを生じ難く、安定的に吐出可能なインクジェットインク組成物を得ることができる。
【0031】
本発明の一実施態様において、単量体(B)の含有量に対する単量体(A)の含有量の質量比(単量体(A)/単量体(B))は、好ましくは0.03~0.9である。単量体(A)と単量体(B)との含有量比が上記範囲内であると、T1/T2の値を所望の範囲に制御しやすく、インクジェットプリンタにおけるフィルター詰まりを生じ難く、安定的に吐出可能なインクジェットインク組成物を得ることができる。単量体(A)のホモポリマーが除去しやすいことから、単量体(A)と単量体(B)との含有量比は、場合によって例えば0.03~0.8、0.03~0.7または0.03~0.65であってもよく、特に好適な一実施態様においては0.03以上0.6未満である。なお、単量体(A)および/または単量体(B)が複数含まれる場合、前記含有量比は、インクジェットインク組成物を構成する全単量体(A)と全単量体(B)の含有量比を意味する。しかし、特に、SP値の差が1以上である単量体(A)と単量体(B)(1つの単量体(A)に対してSP値が1以上異なる単量体(B)が複数存在する場合には相当する全単量体(B))との含有量比が上記範囲内であると、本発明の前記効果の向上が期待できる。
【0032】
本発明の一実施態様において、最も高いSP値を有する単量体(A)のSP値との差が1未満であるSP値を有するエチレン性不飽和単量体(以下、「SP値1未満の単量体」ともいう)の総含有量は、前記最も高いSP値を有する単量体(A)の含有量より少ないことが好ましい。最も高いSP値を有する単量体(A)に対して、SP値の差が小さいエチレン性不飽和単量体の含有量が少ないと、T1/T2の値を所望の範囲に制御しやすくなる。特に、単量体(B)の含有量に対する単量体(A)の含有量の質量比が高くなる(1に近くなる)ほど、SP値1未満の単量体の含有量を低くすることで、SP値1未満の単量体の含有量が多い場合と比較してフィルター詰まりの抑制効果を向上できる傾向にある。最も高いSP値を有する単量体(A)100質量部に対するSP値1未満の単量体の含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下であり、例えば20質量部以下または10質量部以下であってよい。本発明の一実施態様において、本発明のインクジェットインク組成物は、最も高いSP値を有する単量体(A)のSP値と差が1未満であるエチレン性不飽和単量体を実質的に含まず、0質量部であってもよい。なお、前記「実質的に含まない」とは、最も高いSP値を有する単量体(A)100質量部に対するSP値1未満の単量体の含有量が1質量部以下であることを意味する。以下、本明細書において「実質的に含まない」とは、前記と同様に、基準に対する含有量が1質量部以下であることを意味する。また、前記「SP値1未満の単量体」には、単量体(A)および単量体(B)のいずれもが含まれ得る。
【0033】
インクジェットインク組成物が2つ以上の単量体(A)を含む場合、最も高いSP値を有する単量体(A)以外の単量体(A)のSP値との差が1未満であるエチレン性不飽和単量体の総含有量も、それぞれ、前記最も高いSP値を有する単量体(A)以外の単量体(A)の含有量より少ないことが好ましい。これにより、T1/T2の値を所望の範囲により一層制御しやすい。本発明の一実施態様においてその含有量は、前段落に記載の最も高いSP値を有する単量体(A)に対するSP値1未満の単量体の含有量における好適な範囲と同様である。
【0034】
また、本発明の一実施態様において、単量体(A)の総量に対して最も含有量が多い単量体(A)のSP値との差が1未満であるエチレン性不飽和単量体の総質量が、最も含有量が多い単量体(A)の含有量より少ないことが好ましい。その一実施態様として、単量体(A)の総量に対して、最も高いSP値を有する単量体(A)の含有量が最も多いことが好ましい場合がある。インクジェットインク組成物が2つ以上の単量体(A)を含む場合、単量体(A)の総量(100質量%)に対する最も高いSP値を有する単量体(A)の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上であり、例えば70質量%以上、80質量%以上または90質量%以上であってもよい。全単量体(A)に対する最も高いSP値を有する単量体(A)の含有量が上記下限値以上であると、T1/T2の値を所望の範囲により一層制御しやすい。
【0035】
本発明において、単量体(A)および単量体(B)としては特に限定されるものではなく、インクジェットインク組成物の用途、所望の物性や特性にあわせて、当該分野で公知のエチレン性不飽和単量体から適宜選択することができる。そのようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-コハク酸等の直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等の脂環式構造を有する(メタ)アクリレート;
フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-フタル酸、ネオペンチルグリコール-アクリル酸-安息香酸エステル等の芳香環構造を有する(メタ)アクリレート;
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジオキソラン等の複素環構造を有する(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリルアミド類、N-ビニルラクタム類、N-ビニルホルムアミド等の前記(メタ)アクリレートとは異なる、窒素原子を含有する単官能エチレン性不飽和単量体、等の単官能エチレン性不飽和単量体;
1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-nブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ-またはトリ-(メタ)アクリレート;
シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート等の環状構造含有ジ-またはトリ-(メタ)アクリレート;
二官能以上のアミノアクリレート類、等の多官能エチレン性不飽和単量体
が挙げられる。単量体(A)および単量体(B)は、SP値が上記関係になる組み合わせである限り、これらから広く選択でき、組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの双方またはいずれかを表し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミドおよびメタクリルアミドの双方またはいずれかを表す。
【0036】
単量体(A)は、SP値が10以上である限り、例えば、上記単官能または多官能のエチレン性不飽和単量体から広く選択できる。具体的には例えば、
ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート(SP値:10.12)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー;
N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値:13.33)、N,N-アクリロイルモルホリン(SP値:11.21)等の(メタ)アクリルアミド類;N-ビニルカプロラクタム(SP値:10.80)等のN-ビニルラクタム類等
が挙げられる。単量体(A)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明の一実施態様において、単量体(A)は窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体を含むことが好ましい。以下、SP値が10以上であり、かつ、窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体を「単量体(A1)」ともいう。単量体(A1)としては、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリルアミド、N,N-アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド類、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のN-ビニルラクタム類、N-ビニルホルムアミド等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリルアミド類を含むことが好ましく、アクリロイルモルホリンを含むことがより好ましい。窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(A1)、特に(メタ)アクリルアミド類を含む場合、インク組成物の粘度を適正に保ちながら、硬度および強度が高い印刷塗膜や造形物を得られやすい。
【0038】
本発明のインクジェットインク組成物における単量体(A)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましくは49質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。単量体(A)の含有量が上記範囲内であると、単量体(A)がインクジェットインク組成物の一成分として機能し得る量でありながら、単量体(A)のホモポリマーに由来するフィルター詰まりの抑制効果に優れるインクジェットインク組成物を得ることができる。T1/T2の値を所望の範囲に制御しやすいことから、単量体(A)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づき、場合により例えば40質量%以下、35質量%以下、または30質量%以下であり得る。本発明の一実施態様において、単量体(A)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づき、好ましくは1~49質量%、より好ましくは2~45質量%であり、例えば2~40質量%、2~35質量%または3~30質量%であってもよい。
【0039】
単量体(B)は、SP値が10未満である限り、上記単官能または多官能のエチレン性不飽和単量体から広く選択できる。具体的には例えば、ヘキサンジオールジメタクリレート(SP値:9.56)、トリプロピレングリコールジアクリレート(SP値:9.21)、2-エチルヘキシルアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ラウリルアクリレート等の直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニルアクリレート(SP値:9.28)、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(SP値:9.97)、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノールアクリレート(SP値:8.73)、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート等の脂環式構造を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。単量体(B)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明において、単量体(B)は、用いる単量体(A)に応じて適宜選択すればよい。本発明の一実施態様において、単量体(B)は、脂環式構造を有するエチレン性不飽和単量体を含むことが好ましい。以下、SP値が10未満であり、かつ、脂環式構造を有するエチレン性不飽和単量体を「単量体(B1)」ともいう。単量体(B1)としては、先に記載の脂環式構造を有する(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。脂環式構造を有する単量体(B1)を含む場合、印刷塗膜や造形物の硬度や強度を高くすることができる。
【0041】
本発明のインクジェットインク組成物における単量体(B)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上、とりわけ好ましくは40質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。単量体(B)の含有量が上記範囲内であると、T1/T2の値を制御しやすく、単量体(A)のホモポリマーに由来するフィルター詰まりの抑制効果に優れるインクジェットインク組成物を得ることができる。T1/T2の値を所望の範囲に制御しやすいことから、単量体(B)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づき、場合により例えば50質量%以上または55質量%以上であり得る。本発明の一実施態様において、単量体(B)の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づき、好ましくは5~90質量%、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは20~90質量%、特に好ましくは30~90質量%、とりわけ好ましくは40~90質量%であり、例えば50~85質量%、または55~85質量%であってもよい。
【0042】
本発明のインクジェットインク組成物における単量体(A)および単量体(B)の含有量は、インクジェットインク組成物に含まれる重合性化合物の総質量に基づき、好ましくは65~99質量%、より好ましくは70~99質量%、さらに好ましくは75~99質量%であり、例えば65~95質量%、70~90質量%または70~85質量%であり得る。単量体(A)および単量体(B)の含有量が前記範囲内であると、T1/T2の値を所望の範囲に制御しやすく、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0043】
本発明のインクジェットインク組成物は、単量体(A)および単量体(B)以外の重合性化合物を含んでもよい。単量体(A)および単量体(B)以外の重合性化合物としては、例えば、オリゴマー等が挙げられる。オリゴマーは、活性エネルギー線の照射により重合して硬化する特性を有する成分である。オリゴマーを配合することにより、印刷塗膜や造形物の脆さを低減しながら、強度および硬度を向上できる。これにより、曲げても割れにくい印刷塗膜や造形物を得ることができる。
ここで、本明細書において「オリゴマー」とは、重量平均分子量(M)が500~10,000のものをいう。オリゴマーの好ましい重量平均分子量(M)は800以上であり、より好ましくは1,000を超える。重量平均分子量(M)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。オリゴマーは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
オリゴマーとしては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。オリゴマーとしては、二官能以上の多官能オリゴマーが好ましく、二官能オリゴマーがより好ましい。
【0045】
材料選択の幅が広く、様々な特性を有する材料を選択できる観点から、本発明のインクジェットインク組成物を構成するオリゴマーとしては、ウレタン基を有するオリゴマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーがより好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、具体的には例えば、ジシクロヘキシルメタン構造を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、イソホロン構造を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、シクロヘキシルメタン構造を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0046】
本発明のインクジェットインク組成物がオリゴマーを含む場合、その含有量は、インクジェットインク組成物に含まれる重合性化合物の総質量に基づき、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~25質量%、さらに好ましくは5~23質量%である。オリゴマーの含有量が前記上限下限の範囲内にあると、単量体(A)および単量体(B)によるT1/T2の制御に影響を及ぼすことなく、インク組成物の強度や硬度を調整しやすい。
【0047】
本発明のインクジェットインク組成物における重合性化合物の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、好ましくは80~99.9質量%であり、例えば85~99質量%、または、90~98質量%であり得る。
【0048】
本発明のインクジェットインク組成物は、光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、紫外線、近紫外線または可視光領域の波長の光を照射するとラジカル反応を促進する化合物であれば、特に限定されない。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物〔例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等〕、アセトフェノン化合物〔例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等〕、アントラキノン化合物〔例えば、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン等〕、チオキサントン化合物〔例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等〕、ケタール化合物〔例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等〕、ベンゾフェノン化合物〔例えば、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノン等〕、アシルフォスフィンオキサイド化合物〔例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス-(2、6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド〕、および、これらの化合物の混合物等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、光重合開始剤としては、市販されている製品を用いてもよい。そのような市販品としては、例えば、BASF社のDAROCURE TPO、IRGACURE184、IRGACURE907等が挙げられる。
【0049】
インクジェットインク組成物における光重合開始剤の含有量は、用いる重合性化合物の種類、その含有量等に応じて適宜決定すればよい。本発明の一実施態様において、光重合開始剤の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.1~15質量%であり、より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~8質量%である。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であると、未反応の重合成分を低減させて、インクジェットインク組成物の硬化性を十分に高めることができるとともに、未反応の光重合開始剤が残存することによる造形物への経時的な影響(例えば、黄変などの変色)を抑制することができる。
【0050】
インクジェットインク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、保存安定化剤、表面調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、充填剤、希釈溶媒、増粘剤、着色剤等が挙げられる。
【0051】
表面調整剤は、インクジェットインク組成物の表面張力を適切な範囲に調整する成分であり、その種類は特に限定されない。インクジェットインク組成物の表面張力を適切な範囲にすることで、吐出性を安定化させることができるとともに、画像形成や立体造形の際に界面混じりを抑制することができる。
【0052】
表面調整剤としては、例えば、シリコーン系化合物等が挙げられる。シリコーン系化合物としては、例えば、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物等が挙げられる。具体的には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリアラルキル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。これらとして、商品名でBYK-300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-310、BYK-315、BYK-320、BYK-322、BYK-323、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-344、BYK-370、BYK-375、BYK-377、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3570(以上、ビックケミー社製)、TEGO-Rad2100、TEGO-Rad2200N、TEGO-Rad2250、TEGO-Rad2300、TEGO-Rad2500、TEGO-Rad2600、TEGO-Rad2700(以上、デグサ社製)、グラノール100、グラノール115、グラノール400、グラノール410、グラノール435、グラノール440、グラノール450、B-1484、ポリフローATF-2、KL-600、UCR-L72、UCR-L93(共栄社化学社製)等を用いてもよい。また、シリコーン系化合物以外の表面調整剤(例えば、フッ素系表面調整剤等)を用いてもよい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
インクジェットインク組成物が表面調整剤を含有する場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。表面調整剤の含有量が上記の範囲内である場合、インクジェットインク組成物の表面張力を適切な範囲に調整しやすい。
【0054】
保存安定化剤は、インクジェットインク組成物の保存安定性を高めることができる成分である。また、熱エネルギーにより重合性化合物が重合することで生じるヘッド詰まりを防止することができる。保存安定化剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物(HALS)、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。具体的には、ハイドロキノン、メトキノン、ベンゾキノン、p-メトキシフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンモノブチルエーテル、TEMPO、4-ヒドロキシ-TEMPO、TEMPOL、クペロンAl、IRGASTAB UV-10、IRGASTAB UV-22、FIRSTCURE ST-1(ALBEMARLE社製)、t-ブチルカテコール、ピロガロール、BASF社製のTINUVIN 111 FDL、TINUVIN 144、TINUVIN 292、TINUVIN XP40、TINUVIN XP60、TINUVIN 400等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
インクジェットインク組成物が保存安定化剤を含有する場合、上記効果を得やすい観点から、その含有量はインクジェットインク組成物の総質量に基づいて、0.01~5質量%であることが好ましい。
【0056】
本発明のインクジェットインク組成物は、着色剤を含まない、またはブルーイング剤等の顔料および/または染料を少量含むのみであるクリアインク組成物であってもよく、着色剤を含むカラーインク組成物であってもよい。本発明のインクジェットインク組成物がクリアインク組成物である場合、着色剤の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、通常0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下であり、その下限は0質量%以上である。
【0057】
インクジェットインク組成物が着色剤を含む場合、その構成は特に限定されないが、好ましくはシアン、マゼンタおよびイエローを含み、より好ましくはホワイトおよび/またはブラックをさらに含む。着色剤は顔料であっても、染料でであってもよい。
【0058】
シアンとしては、例えばC.I.Pigment Blue15:3およびC.I.Pigment Blue15:4が挙げられる。マゼンタとしては、例えば、C.I.Pigment Red122、C.I.Pigment Red202およびC.I.Pigment Violet19が挙げられる。イエローとしては、例えば、C.I.Pigment Yellow150およびC.I.Pigment Yellow155が挙げられる。ホワイトとしては、例えば、酸化チタンが挙げられる。また、ブラックとしては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。
【0059】
インクジェットインク組成物が着色剤を含む場合、その含有量は、インクジェットインク組成物の所望される色味や、用いる着色剤の種類に応じて適宜設定すればよいが、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、通常0.1~5質量%、より好ましくは0.2~3質量%である。
【0060】
本発明のインクジェットインク組成物は、インクジェットプリンタにおいて用いるため、25℃で1mPa・s以上500mPa・s以下の粘度を有することが好ましい。インクジェットプリンタのノズルからの吐出性を良好にする観点から、25℃における粘度が10~400mPa・sであることが好ましく、20~300mPa・sであることがより好ましい。上記粘度の測定は、JIS Z 8803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。インクジェットインク組成物の粘度は、重合性化合物の種類およびその配合比率、希釈溶媒や増粘剤の種類およびその添加量等を調整することにより制御することができる。
【0061】
本発明のインクジェットインク組成物の表面張力は、好ましくは24~36mN/mであり、より好ましくは26~32mN/mである。表面張力が上記範囲内であると、インクジェットプリンタからの高速吐出時においてもノズルからの吐出液滴を正常に形成することができ、適切な液滴量を確保しやすく、造形精度が向上しやすくなる。本発明においてインクジェットインク組成物の表面張力は、表面調整剤の種類およびその配合量等を調整することにより制御することができる。
【0062】
本発明において、インクジェットインク組成物の組成は、所望のインク物性および特性、インクの用途、印刷物の物性および特性、造形物の物性および特性等に応じて、単量体(A)、単量体(B)および光重合開始剤、並びに必要に応じて他の成分の種類、その組み合わせや量、を適宜選択することで決定し得る。本発明の一実施態様において、本発明のインクジェットインク組成物は、インクジェットインク組成物の総質量に基づいて、好ましくは、
1~40質量%の単量体(A)、
5~90質量%の単量体(B)、および、
0.1~15質量%の光重合開始剤
を含む。
【0063】
本発明のインクジェットインク組成物は、インクジェットプリンタにおけるフィルター詰まりを抑制する効果に優れることから、安定的かつ高速で連続吐出することが望まれるマテリアルジェット光造形法(インクジェット光造形法ともいう)において用いるモデル材組成物として好適である。特に、(メタ)アクリルアミド類やN-ビニルラクタム類などの窒素原子を含有する単量体(A1)は、例えば立体造形物の硬度や強度の向上に有効である。一方、本発明者等によれば、単量体(A1)には経時的に凝集物を生じる原因となるホモポリマーが該単量体中に溶け込んだ状態で存在する場合が多く、インクジェットプリンタにおける安定的な連続吐出を妨げる原因になり得る。本発明においては、T1/T2を特定の範囲に制御することにより、単量体(A)のホモポリマーに由来するフィルター詰まりを効果的に抑制し、安定的な連続吐出が可能である。このため、経時的に凝集物を生じやすい単量体(A)、特に単量体(A1)を比較的多く含むことができ、高速吐出による高い製造効率のもと、硬度や強度に優れる立体造形物を得ることができる。
【0064】
本発明のインクジェットインク組成物をモデル材組成物として用いる場合、単量体(A)および単量体(B)としては、例えば、国際公開第2021/182509号等に記載のモデル材組成物を構成する重合性化合物を用いることができ、本明細書の先の記載に従って、各化合物のSP値をもとに単量体(A)と単量体(B)との組み合わせや配合量等を決定することができる。
【0065】
<インクジェットインク組成物の製造方法>
本発明のインクジェットインク組成物は、例えば、
単量体(A)のホモポリマーを凝集させる工程、および、
前記工程で得られたホモポリマーの凝集物を除去する工程
を含む、方法によって製造することができる。本発明のインクジェットインク組成物は、SP値が互いに1以上異なる、10以上のSP値を有する単量体(A)と10未満のSP値を有する単量体(B)とを含むものである。上述した通り、このような組成からなるインク組成物においては、単量体(A)に対してSP値が1以上異なる単量体(B)が、前記単量体(A)とともにわずかに存在する単量体(A)のホモポリマーに対する貧溶媒となって、単量体(A)のホモポリマーがインク組成物中に徐々に析出しやすくなる。本発明の製造方法においては、通常、インク組成物の製造直後には存在せず、経時的に析出して生じ得る単量体(A)のホモポリマーに由来する凝集物を、インクジェットインク組成物の調製時に強制的に生じさせて除去する。これにより、単量体(A)中に溶け込んでわずかに存在した単量体(A)のホモポリマーを取り除くことができる。単量体(A)中のホモポリマーを強制的に凝集させて除去してしまえば、その後インクジェットインク組成物において再度凝集物を生じることはなく、このようなインク組成物はインクジェットプリンタで使用する場合に、フィルター詰まりを生じ難く、安定的に連続吐出することができる。
【0066】
したがって、本発明は、光重合開始剤、および、SP値が互いに1以上異なる、10以上のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(A)と10未満のSP値を有するエチレン性不飽和単量体(B)とを含み、前記エチレン性不飽和単量体(A)の含有量が、前記エチレン性不飽和単量体(B)の含有量より少ない活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の製造方法であって、
前記エチレン性不飽和単量体(A)のホモポリマーを凝集させる工程、および、
前記工程で得られたホモポリマーの凝集物を除去する工程
を含む、方法も対象とする。
【0067】
本発明の製造方法において、単量体(A)のホモポリマーを凝集させる工程(以下、「凝集工程」ともいう)は、単量体(A)と単量体(B)とを3時間以上撹拌することにより行うことが好ましい。単量体(A)と単量体(B)とを3時間以上撹拌することにより、単量体(B)が単量体(A)とともにわずかに存在する単量体(A)のホモポリマーに対する貧溶媒として機能して、単量体(A)のホモポリマーを析出、凝集させることができる。なお、本発明の製造方法におけるインクジェットインク組成物を構成する単量体(A)および単量体(B)の種類、その組み合わせや配合量等は、本発明のインクジェットインク組成物において好適なものとして先に記載したものと同様である。これらを本発明のインクジェットインク組成物として好適とした範囲内で適宜選択することによって、単量体(A)のホモポリマーをより効果的に除去することができる。
【0068】
本発明の一実施態様において、単量体(A)と単量体(B)との撹拌は、インクジェットインク組成物を構成する単量体(A)および単量体(B)のみからなる混合物で行うことができる。インクジェットインク組成物が2つ以上の単量体(A)および/または単量体(B)を含む場合、単量体(A)および単量体(B)のみからなる混合物に含まれる単量体(A)および/または単量体(B)は、それぞれ1つであっても、2つ以上であってもよい。単量体(A)のホモポリマーの析出および凝集を効果的に行う観点から、SP値の差が最も大きい単量体(A)と単量体(B)との組み合わせを含むことが好ましい。凝集工程を、単量体(A)と単量体(B)とのみからなる混合物で行うことにより、単量体(B)が単量体(A)のホモポリマーに対する貧溶媒として作用しやすくなり、単量体(A)のホモポリマーの析出および凝集を効率よく行うことができる。
【0069】
本発明の別の一実施態様において、単量体(A)と単量体(B)との撹拌は、インクジェットインク組成物を構成する単量体(A)と単量体(B)に加えて、他の成分を含む混合物で行うことができる。他の成分を含む混合物としては、インクジェットインク組成物を構成する単量体(A)および単量体(B)以外の成分の一部であっても全部であってもよい。単量体(A)および単量体(B)に加えて他の成分の一部を含む場合、単量体(A)と単量体(B)とが主成分となる混合物が好ましい。「主成分」とは、混合物の総質量に対して単量体(A)および単量体(B)が50質量%以上占める状態を意味し、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。このような混合物で凝集工程を行うことにより、単量体(A)のホモポリマーの析出および凝集を効率よく行うことができる。一方、凝集工程を、単量体(A)および単量体(B)に加えて他の成分、特に他の全成分を含む混合物で行う場合、インクジェットインク組成物を調製する工程を減らすことができ、製造効率の点において有利である。
【0070】
凝集工程に用いる混合物は、単量体(A)および単量体(B)等の必要な成分を、例えば混合撹拌装置等を用いて混合することにより調製できる。
【0071】
凝集工程における撹拌時間は、凝集工程に用いる混合物の組成、温度、撹拌条件、各成分の混合性や溶解性等によって適宜決定できる。本発明の一実施態様において、撹拌時間は、好ましくは3時間以上である。撹拌時間を3時間以上とすると、単量体(A)のホモポリマーを十分に析出、凝集させることができ、経時的に凝集物を生じる原因となり得る単量体(A)のホモポリマーを十分に取り除くことが可能である。撹拌時間の上限は特に限定されるものではないが、製造効率の観点から、通常24時間以下、好ましくは12時間以下である。なお、凝集工程における撹拌は、凝集工程に供する混合物を調製するための撹拌条件と同じであっても、異なっていてもよいが、本発明の製造方法における撹拌時間は、混合物を構成する成分が均一に混合された後の撹拌時間をいう。
【0072】
凝集工程における撹拌温度は、好ましくは5~45℃である。撹拌温度が前記範囲内であると単量体(A)のホモポリマーを析出、凝集させやすい。単量体(A)のホモポリマーの析出および凝集をより一層効率的に行う観点から、撹拌温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。本発明の特に好適な一実施態様において、撹拌温度は25℃である。
【0073】
凝集工程における撹拌条件は、撹拌する混合物の組成や用いる機器、装置等によって適宜決定できる。単量体(A)のホモポリマーの析出物同士が接触して凝集する機会を増やすために、乱流となっていることが好ましい。乱流による撹拌は、例えば、ディスパー、マグネチックスターラー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー等の撹拌機を用いて行うことができる。撹拌の容易性、効率面から、ディスパー、マグネチックスターラーが好ましい。撹拌速度等は、乱流撹拌が生じるよう、用いる撹拌機、撹拌する溶液の粘度、液量および容器サイズ等に応じて適宜決定することができる。
【0074】
本発明の製造方法は、前記凝集工程の後、単量体(A)のホモポリマーの凝集物を除去する工程(以下、「除去工程」ともいう)を含む。前記凝集工程において得られた単量体(A)のホモポリマーの凝集物を除去することにより、T1/T2を所望の範囲に制御することができ、経時的に単量体(A)のホモポリマーの凝集物を生じ難い本発明のインクジェットインク組成物を得ることができる。
【0075】
凝集物の除去は、操作が簡便であり、凝集物の除去力にも優れることから、フィルターろ過が好ましい。
【0076】
フィルターろ過に用いるフィルターは、除去すべき凝集物の大きさや性状、通液する液体(単量体の混合物またはインク組成物)の性状、粘度、圧力、流量、液量などに応じて適宜選択できる。フィルターとしては、デプスフィルター、スクリーンフィルターが挙げられ、デプスフィルターは、例えば、多孔質フィルター、不織布・繊維積層フィルター、焼結金属フィルター、焼結金網フィルターなどが挙げられる。スクリーンフィルターは、例えば、メンブレンフィルター、ろ紙・ろ布フィルター、中空糸フィルター、メッシュ金網フィルターなどが挙げられる。また、前記フィルターの材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ウレタン、アクリル、レーヨン、ナイロン、セルロース、ガラス、SUS、銅、ニッケル等が挙げられる。フィルターろ過には、前記材料をディスク状、カートリッジ状、カプセル状に集積したものを用いることができる。本発明の一実施態様において、生産性とろ過性の観点から、フィルターろ過においてカートリッジまたはカプセル状のガラス繊維フィルターを用いることが好ましい。
【0077】
除去工程に用いるフィルターのろ過精度は、除去すべき凝集物の大きさや量、性状などに応じて適宜選択できる。本発明の一実施態様において、フィルターのろ過精度は、好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。ろ過精度が上記上限以下であれば、単量体(A)のホモポリマーの微細な凝集物も十分に除去することが可能である。通液性の観点から、ろ過精度は、通常0.1μm以上である。
【0078】
ろ過方法としては、例えば、真空ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過等が挙げられる。ろ過条件は、除去すべき凝集物の大きさや性状、通液する液体(単量体の混合物またはインク組成物)の性状、粘度、圧力、流量、液量などに応じて適宜決定できる。例えば、ポンプによる送液が挙げられる。
【0079】
インクジェットインク組成物を構成する一部の成分のみに凝集工程を施した場合、該凝集工程を施した混合物のみを除去工程に供して、混合物中の凝集物を除去してもよい。また、凝集工程終了後に、凝集工程を施した混合物にインクジェットインク組成物を構成する残りの成分の一部または全部を加えたものを除去工程に供してもよい。インクジェットインク組成物を構成する一部の成分のみを凝集工程および/または除去工程に供した場合、除去工程終了後に残りの成分を混合することにより、本発明のインクジェットインク組成物が得られる。残りの成分を混合した後、ゴミ・不純物等の異物を除去するために再度ろ過を行ってもよい。その場合のろ過条件は特に限定されず、前記除去工程におけるろ過条件と同じであっても、異なっていてもよい。
【0080】
本発明のインクジェットインク組成物は、T1/T2が特定の範囲に制御されており、単量体(A)のホモポリマーに由来する経時的な凝集物の発生抑制効果に優れる。このため、インクジェットプリンタ内のインク供給経路においてフィルター詰まりを生じ難く、安定的に連続吐出することができる。本発明のインクジェットインク組成物は、インクジェットプリンタで用いるための画像形成用インク、三次元立体造形物形成用インクとして好適である。本発明のインクジェットインク組成物を用いての画像形成または立体造形物の形成は、従来公知の方法により行うことができる。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%および質量部である。
【0082】
1.インクジェットインク組成物の調製
実施例および比較例において用いたインクジェットインク組成物を構成する成分の詳細を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
(1)実施例1
表2に示す組成に従い、インクジェットインク組成物を構成する成分を、それぞれ以下の調製手順1~8に従って混合、撹拌した。得られた混合物を、ろ過精度0.3μmのガラス繊維フィルターでろ過することにより、実施例1-1~1-8のインクジェットインク組成物を得た。
【0085】
<調製手順>
(i)調製手順1
SP値が1以上異なる関係にある全ての単量体(A)と単量体(B)とを1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、25℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過した。ろ過後のろ液に、インクジェットインク組成物を構成する残りの成分を添加し、均一になるまで撹拌混合し、最後にゴミ・不純物などの異物を除去するために再度ろ過を行うことによってインクジェットインク組成物1-1を得た。
(ii)調製手順2
インクジェットインク組成物を構成する全成分を1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、25℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過し、インクジェットインク組成物1-2を得た。
(iii)調製手順3
SP値が1以上異なる関係にある全ての単量体(A)と単量体(B)とを1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、25℃で6時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過した。ろ過後のろ液に、インクジェットインク組成物を構成する残りの成分を添加し、均一になるまで撹拌混合し、最後にゴミ・不純物などの異物を除去するために再度ろ過を行うことによってインクジェットインク組成物1-3を得た。
(iv)調製手順4
インクジェットインク組成物を構成する全成分を1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、25℃で6時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過し、インクジェットインク組成物1-4を得た。
(v)調製手順5
SP値が1以上異なる関係にある全ての単量体(A)と単量体(B)とを1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、40℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過した。ろ過後のろ液に、インクジェットインク組成物を構成する残りの成分を添加し、均一になるまで撹拌混合し、最後にゴミ・不純物などの異物を除去するために再度ろ過を行うことによってインクジェットインク組成物1-5を得た。
(vi)調製手順6
インクジェットインク組成物を構成する全成分を1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、40℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過し、インクジェットインク組成物1-6を得た。
(vii)調製手順7
SP値が1以上異なる関係にある全ての単量体(A)と単量体(B)とを1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、10℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過した。ろ過後のろ液に、インクジェットインク組成物を構成する残りの成分を添加し、均一になるまで撹拌混合し、最後にゴミ・不純物などの異物を除去するために再度ろ過を行うことによってインクジェットインク組成物1-7を得た。
(viii)調製手順8
SP値が1以上異なる関係にあるインクジェットインク組成物を構成する全成分を1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、10℃で3時間撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過し、インクジェットインク組成物1-8を得た。
【0086】
(2)実施例2~8
表2に示す各組成に従い、インクジェットインク組成物を構成する成分および/または含有量を変更した以外は、実施例1と同様の調製手順1~8に従ってインクジェットインク組成物2-1~8-8を調製した。なお、調製手順1、3、5および7において、2種の単量体(A)を含む実施例7および8では、2種の単量体(A)それぞれは少なくとも1種の単量体(B)との組み合わせにおいてSP値が1以上異なる関係にあるため、全ての単量体(A)および(B)を混合した。また、単量体(A)に対してSP値が1以上異なる関係にない単量体(B)(TPGDA)を含む実施例6においては、TPGDAは残りの成分とともに添加した。
【0087】
【表2】
【0088】
(3)比較例1
表3に示す組成に従い、インクジェットインク組成物を構成する成分を、それぞれ以下の調製手順9~14に従って混合、撹拌した。得られた混合物を、ろ過精度0.3μmのガラス繊維フィルターでろ過することにより、比較例1-9~1-14のインクジェットインク組成物を得た。
【0089】
<調製手順>
(i)調製手順9
SP値が1以上異なる関係にある単量体(A)と単量体(B)とを1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、25℃で1時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過した。ろ過後のろ液に、インクジェットインク組成物を構成する残りの成分を添加し、均一になるまで撹拌混合し、最後にゴミ・不純物などの異物を除去するために再度ろ過を行うことによってインクジェットインク組成物1-9を得た。
(ii)調製手順10
インクジェットインク組成物を構成する全成分を1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、25℃で1時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過し、インクジェットインク組成物1-10を得た。
(iii)調製手順11
SP値が1以上異なる関係にある単量体(A)と単量体(B)とを1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、50℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過した。ろ過後のろ液に、インクジェットインク組成物を構成する残りの成分を添加し、均一になるまで撹拌混合し、最後にゴミ・不純物などの異物を除去するために再度ろ過を行うことによってインクジェットインク組成物1-11を得た。
(iv)調製手順12
インクジェットインク組成物を構成する全成分を1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、50℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過し、インクジェットインク組成物1-12を得た。
(v)調製手順13
SP値が1以上異なる関係にある単量体(A)と単量体(B)とを1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、3℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過した。ろ過後のろ液に、インクジェットインク組成物を構成する残りの成分を添加し、均一になるまで撹拌混合し、最後にゴミ・不純物などの異物を除去するために再度ろ過を行うことによってインクジェットインク組成物1-13を得た。
(vi)調製手順14
インクジェットインク組成物を構成する全成分を1000mlビーカーに計350g計量し、1.4インチ径のディスパー翼を取り付けたディスパーにて1500rpmの回転数で、3℃で3時間乱流撹拌した。撹拌後、得られた混合物を前記ろ過条件に従いろ過し、インクジェットインク組成物1-14を得た。
【0090】
(4)比較例2~8
表3に示す各組成に従い、インクジェットインク組成物を構成する成分および/または含有量を変更した以外は、比較例1と同様の調製手順9~14に従ってインクジェットインク組成物2-9~8-14を調製した。なお、調製手順9、11および13において、2種の単量体(A)を含む比較例7および8では、2種の単量体(A)それぞれは少なくとも1種の単量体(B)との組み合わせにおいてSP値が1以上異なる関係にあるため、全ての単量体(A)および(B)を混合した。また、単量体(A)に対してSP値が1以上異なる関係にない単量体(B)(TPGDA)を含む比較例6においては、TPGDAは残りの成分とともに添加した。
【0091】
【表3】
【0092】
(5)参考例1
表4に示す各組成に従い、インクジェットインク組成物を構成する成分および/または含有量を変更し、実施例1と同様の調製手順1~8に従ってインクジェットインク組成物参考1-1~1-8を調製した。なお、調製手順1、3、5および7における単量体(A)と単量体(B)との混合物の撹拌およびろ過は、単量体(B)のみで行った。
【0093】
(6)参考例2
表4に示す各組成に従い、インクジェットインク組成物を構成する成分および/または含有量を変更した以外は、実施例1と同様の調製手順1~8に従ってインクジェットインク組成物参考2-1~2-8を調製した。
【0094】
【表4】
【0095】
2.インクジェットインク組成物の物性
インクジェットインク組成物のT1/T2の測定
以下の方法に従い、上記実施例および比較例において調製したインクジェットインク組成物のT1/T2の値をそれぞれ測定した。
100mlのインクジェットインク組成物をガラス瓶に入れ、マグネチックスターラーを用いてテーパー型攪拌子(長径50mm、Φ7.5mm)により、1500rpmで12時間攪拌した。撹拌後のインクジェットインク組成物を、ADVANTEC社製親水性PTFEメンブランフィルター(孔径1μm)を用いて、0.8MPaのろ過圧にてろ過し、100ml中はじめの20mlが通液する時間T1と、100ml中おわりの20mlが通液する時間T2をそれぞれ測定した。測定したT1およびT2から、T1/T2の値を計算した。T1/T2の値が0.7を超えたものをA、0.5以上0.7以下のものをB、0.5未満のものをCと評価した。結果を表2~4に示す。
【0096】
3.インクジェットインク組成物の評価
(1)吐出試験
(i)調製直後
調製手順1~8で調製した実施例1~8のインクジェットインク組成物、調製手順9~14で調製した比較例1~8のインクジェットインク組成物、および、調製手順1、2で調製した参考例1および2のインクジェットインク組成物について、それぞれ、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置を用いて、上記調製直後のインク組成物のIJ吐出性を評価した。このインクジェット記録装置はインク供給系として、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、およびピエゾヘッドを備えている。また、インクタンクとヘッド直前の前室インクタンクとの間には、インクのゴミを除去するフィルター(PPカプセル、孔径8μm)を備えている。更に、インクの吐出に際しては、インクの粘度がヘッドでの適した吐出粘度8~25mPa・sとなるように、インクジェット記録装置内の温調システムによりインクを加熱した。また、液滴サイズを約7pl、解像度を600×600dpiでインク吐出できるよう、駆動周波数10kHzでインクジェット記録装置を駆動した。その際に以下の基準によりインクのIJ吐出性を評価した。なお、全てのインクジェットインク組成物は、吐出試験に用いたインクジェット記録装置のインクジェットノズルからの吐出に適する粘度を有していた。
[吐出性評価基準]
A:30Lの吐出が可能であった
B:30Lまでに吐出できなくなった
【0097】
(ii)180日保管後
調製手順1~8で調製した実施例1~8のインクジェットインク組成物、調製手順9~14で調製した比較例1~8のインクジェットインク組成物、および、調製手順1、2で調製した参考例1および2のインクジェットインク組成物について、それぞれ25℃180日保管した後、上記(i)の手順と同様にしてインク組成物のIJ吐出性を評価した。
【0098】
調製手順1~8で調製した全ての実施例1~8のインクジェットインク組成物について、調製直後および180日保管後の吐出性評価はいずれも「A」であった。これに対して、調製手順9~14で調製した比較例1~8のインクジェットインク組成物では、調製直後および180日保管後の吐出性評価がいずれも「B」であった。なお、単量体(A)を含まない参考例1、および、単量体(A)の量が単量体(B)の量より多い参考例2では、単量体(A)のホモポリマーがフィルター詰まりを生じるようなレベルでは発生しないと考えられ、吐出評価はいずれも「A」であった。