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特開2024-145916荷電粒子ビーム照射システム、オフセット装置、制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145916
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム照射システム、オフセット装置、制御方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/04 20060101AFI20241004BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20241004BHJP
   G21K 1/093 20060101ALI20241004BHJP
   H05H 13/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G21K5/04 Z
A61N5/10 H
G21K5/04 A
G21K1/093 D
H05H13/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058513
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】皿谷 有一
(72)【発明者】
【氏名】益田 大志
(72)【発明者】
【氏名】竹下 英里
【テーマコード(参考)】
2G085
4C082
【Fターム(参考)】
2G085AA03
2G085AA11
2G085AA13
2G085BA14
2G085BA15
2G085BC04
2G085CA20
2G085EA07
4C082AA01
4C082AC04
4C082AE03
4C082AG12
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビーム照射装置にアイソセンタに荷電粒子ビームを向かわせる目的で配される電磁石の後に、四極電磁石を備えることなくアイソセンタにおいて荷電粒子ビームに分散関数の発生を抑制することができる荷電粒子ビーム照射システムを提供する。
【解決手段】加速器と、加速器から出射された荷電粒子ビーム荷電粒子ビームを偏向し得る電磁石と、アイソセンタに対して複数の方向から荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム照射装置と、電磁石により発生する分散関数がアイソセンタにおいて抑制されるように制御するオフセット部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器と、
前記加速器から出射された荷電粒子ビーム荷電粒子ビームを偏向し得る電磁石と、
アイソセンタに対して複数の方向から荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム照射装置と、
前記電磁石により発生する分散関数が前記アイソセンタにおいて抑制されるように制御するオフセット部を備える
荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記オフセット部は、
第1偏向電磁石と、
四極電磁石と、
第2偏向電磁石と、
前記電磁石により発生する分散関数が抑制されるように、前記オフセット部に入力される荷電粒子ビームに対して分散関数を発生させる制御部と、を備え、
前記第1偏向電磁石と、前記四極電磁石と、前記第2偏向電磁石とは、前記荷電粒子ビームの経路上に、この順に配列される
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
前記荷電粒子ビーム照射装置は、前記電磁石として、前記荷電粒子ビームを鉛直方向で偏向し得る振分電磁石及び偏向電磁石を含み、
前記オフセット部の前記第1偏向電磁石及び前記第2偏向電磁石は、前記荷電粒子ビームを鉛直方向で偏向し得る
ことを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記荷電粒子ビーム照射装置は、前記荷電粒子ビームを偏向し得る偏向電磁石を含み、前記アイソセンタに対して荷電粒子ビームを照射する照射ノズルが回転する回転ガントリーであり、
前記オフセット部として、
前記荷電粒子ビームを鉛直方向で偏向し得る第1偏向電磁石及び第2偏向電磁石を備え、間に四極電磁石が挿入されている第1オフセット部と、
前記荷電粒子ビームを水平方向で偏向し得る第3偏向電磁石及び第4偏向電磁石を備え、間に四極電磁石が挿入されている第2オフセット部と、を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記分散関数の値が0になるように前記オフセット部を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
前記加速器から前記アイソセンタに至るまでの前記荷電粒子ビームが通過する経路において、前記電磁石以降に四極電磁石が配されていない
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
加速器から出射した荷電粒子ビームの経路上に配されてアイソセンタにおける荷電粒子ビームの分散関数を抑制するためのオフセット装置であって、
第1偏向電磁石と、
四極電磁石と、
第2偏向電磁石と、
前記第2偏向電磁石を経由した荷電粒子ビームが振分電磁石と、偏向電磁石とを経由してアイソセンタに照射される荷電粒子ビームの分散関数を抑制するように、前記第2偏向電磁石により前記荷電粒子ビームに分散関数を発生させる制御部と、を備え、
前記第1偏向電磁石と、前記四極電磁石と、前記第2偏向電磁石とは、この順に配列される
オフセット装置。
【請求項8】
加速器と、前記加速器から出射された荷電粒子ビーム荷電粒子ビームを偏向し得る電磁石と、アイソセンタに対して複数の方向から荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム照射装置と、前記電磁石により発生する分散関数が前記アイソセンタにおいて抑制されるように制御するオフセット部を備える荷電粒子ビーム照射システムにおける前記オフセット部のコンピュータによる制御方法であって、
前記電磁石における偏向に関する偏向情報の入力を受け付ける受付ステップと、
前記偏向情報に基づいて、前記電磁石により発生する分散関数が前記アイソセンタにおいて抑制されるように制御する制御ステップと、
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームがアイソセンタに到達した際の分散関数を抑制する荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、がん治療の一つとして、荷電粒子ビームを用いた粒子線治療が行われている。粒子線治療においては、病巣に対して、線量集中性を高めつつ、周囲の正常組織への影響を極力抑制するために、複数の方向から荷電粒子ビームを照射する手法が一般的である。このような照射装置として、患者の病巣を全方向から照射する回転ガントリーが知られている。
【0003】
加速器により生成された荷電粒子ビームは、荷電粒子ビームの進行方向を変更するための偏向電磁石や、荷電粒子ビームに対して収束や発散と言った作用を与える四極電磁石、荷電粒子ビームの進行方向を微調整するためのステアリング電磁石等を含む輸送路を通って、治療照射部である回転ガントリーに輸送される。回転ガントリーに輸送された荷電粒子ビームは、走査電磁石により走査され、病巣を荷電粒子ビームの進行方向に複数の層に区分して三次元的に治療照射が行われる。
【0004】
粒子線治療では、治療室内のアイソセンタにおいて、荷電粒子ビームの高い照射位置精度と、所望のビーム形状で安定した治療照射することが要求される。ところで、加速器から取り出された荷電粒子ビームは、アイソセンタに到達するまでに、ある分散関数を持つ。分散関数とは、荷電粒子ビームを構成する個々の荷電粒子の運動量のずれに起因する設計軌道からの位置ずれの相関を表す係数のことである。この分散関数は、荷電粒子ビームが偏向電磁石を通過することによって発生し、その結果、荷電粒子ビームの照射位置のアイソセンタからの位置ずれが発生したり、荷電粒子ビームの形状が所望の形状から崩れたりする。そのため、荷電粒子ビームの分散関数は、アイソセンタにおいて極力0にする必要があり、四極電磁石を用いることで、この分散関数を調整できることが一般に知られている。
【0005】
特許文献1には、荷電粒子ビームの照射装置として、固定された垂直方向の固定ポートを用いる例が開示されており、水平面から傾斜した面において偏向電磁石と四極電磁石とを設けて分散関数を調整する技術が開示されている。
【0006】
一方、回転ガントリーの場合、多方向からの荷電粒子ビームの照射を実現するために偏向電磁石を用いることにより実現している。回転ガントリーにおいて複数の偏向電磁石を設置して荷電粒子ビームの進行方向を調整している都合上、各偏向電磁石において荷電粒子ビームを偏向する方向に分散関数が発生する。よって、回転ガントリーにあっては、回転ガントリー内で荷電粒子ビームの分散関数を調整する。特許文献2には、回転ガントリーに複数の四極電磁石を設けることで、分散関数を調整する技術が開示されている。
【0007】
回転ガントリーを用いずに多方向から荷電粒子ビームを病巣に対して照射する手法としては、特許文献3に記載の技術がある。特許文献3では、荷電粒子ビームの輸送路の末端に偏向電磁石を設けることで多方向からの照射を実現しているが、当該偏向電磁石により垂直方向の分散関数が発生する。しかしながら、特許文献3において、この分散関数をアイソセンタにおいて0にする目的で四極電磁石を配することは照射装置の大型化を招くという問題がある。これは、特許文献2においても同様であり、四極電磁石を配したことで、回転ガントリーの肥大化を招いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開第2015-000090号公報
【特許文献2】特許第2019-082389号公報
【特許文献3】特許第6387476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて成されたものであり、偏向電磁石により発生する分散関数を、荷電粒子ビーム照射装置の照射部に四極電磁石を配することなく調整できる荷電粒子ビーム照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題に対応するために、本発明の一態様に係る荷電粒子ビーム照射システムは、加速器と、加速器から出射された荷電粒子ビームを偏向し得る電磁石と、アイソセンタに対して複数の方向から荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム照射装置と、電磁石により発生する分散関数がアイソセンタにおいて抑制されるように制御するオフセット部を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る荷電粒子ビーム照射システムによれば、照射部に四極電磁石を備えることなく、照射部に設けられる偏向電磁石の影響による分散関数をアイソセンタにおいて抑制することができる。また、照射部に四極電磁石を設けないことで、照射部の肥大化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態1に係る荷電粒子ビーム照射システムの構成例を示す模式図である。
図2図2は、オフセット部の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、荷電粒子ビーム照射装置による荷電粒子ビームの照射の仕組みを説明する図である。
図4図4は、実施の形態1に係る荷電粒子ビーム照射システムの構成例の天面図である。
図5図5(a)は、オフセット部を用いない場合の分散関数の例を模式的に示し、図5(b)は、オフセット部を用いた場合の分散関数の例を模式的に示している図である。
図6図6は、回転ガントリーを用いた場合の実施の形態2に係る荷電粒子ビーム照射システムの構成例である。
図7図7(a)、(b)は、オフセット部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る荷電粒子ビーム照射システムについて、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0014】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係る荷電粒子ビーム照射システムの構成例を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、実施の形態1に係る荷電粒子ビームを照射する照射装置が患者の周囲を回転はしないものの、病巣に対して多方向(およそ半円の範囲内)から照射可能である例を説明する。
【0015】
図1に示すように、荷電粒子ビーム照射システムは、加速器1と、オフセット部100と、振分電磁石70と、偏向電磁石80を含む荷電粒子ビーム照射装置50と、を備える。図1に示すように、荷電粒子ビーム照射システムにおいては、図示するように、加速器1、オフセット部100、振分電磁石70、荷電粒子ビーム照射装置50が、この順に接続され、治療室30内において、自動車両10の治療台15に載せられた患者の病巣(アイソセンタ)まで、加速器1から荷電粒子ビームが輸送されて照射される。本実施の形態1においては、荷電粒子ビームが加速器1からアイソセンタOまで輸送される経路において、加速器1側を上流、アイソセンタ側を下流と呼称することがある。また、荷電粒子ビーム照射装置50において荷電粒子ビームは、照射ノズル11からアイソセンタに向けて照射されることとしてよい。
【0016】
加速器1は、荷電粒子を加速させて荷電粒子ビームを生成する機能を有する装置である。加速器1は、例えば、シンクロトロン、サイクロトロン、線形加速器などにより実現されてよいが、これらに限定するものではない。加速器1は、生成した荷電粒子ビームをオフセット部100に伝達する。
【0017】
加速器1とオフセット部100の間には、荷電粒子ビームを輸送する伝送路としての輸送路が設けられてもよい。この輸送路は、加速器1から取り出された荷電粒子ビームを、必要に応じて偏向させて、所望の位置、即ち、オフセット部100の入射口まで伝達する。このような、輸送路には、必要に応じて、偏向電磁石や四極電磁石、ステアリング電磁石などが含まれてもよい。
【0018】
オフセット部100は、照射装置において発生する分散関数を抑制するために設けられた装置であり、照射装置において発生する分散関数がアイソセンタにおいてなるべく0になるように、予め荷電粒子ビームに分散関数を故意に発生させるための装置である。前述したように、分散関数とは、荷電粒子ビームを構成する個々の荷電粒子の運動量のずれに起因する設計軌道からの位置ずれの相関を表す係数のことであり、偏向電磁石により荷電粒子ビームを偏向させると、所望の位置から位置ずれを起こし、その位置ずれの値を示すものである。この位置ずれは、当然ながら少なければ少ないほどよく、0であることが好ましい。したがって、分散関数を抑制するとは、分散関数の持つ値をなるべく0に近づける(即ち、アイソセンタを通る際の荷電粒子ビームのアイソセンタからの位置ずれを小さくする)ことを意味する。オフセット部100には、加速器1からの荷電粒子ビームが、適宜必要に応じて輸送路を経由して、入射する。
【0019】
図2は、オフセット部100の詳細構成例を示すブロック図である。図2に示すように、オフセット部100は、第1偏向電磁石101と、四極電磁石102と、第2偏向電磁石103と、オフセット制御部110と、を備える。オフセット部100においては、図2に示すように、加速器1からの荷電粒子ビームはオフセット部100の第1偏向電磁石101に入射する。第1偏向電磁石101により偏向された荷電粒子ビームは、四極電磁石102により、調整される。そして、四極電磁石102により調整された荷電粒子ビームは、第2偏向電磁石103により再度偏向される。オフセット部100において発生させる分散関数は、図2に示すように、オフセット部100を制御可能なオフセット制御部110により、第1偏向電磁石101と、四極電磁石102と、第2偏向電磁石103は、制御される。オフセット制御部110は、四極電磁石102の励磁量を、振分電磁石70及び偏向電磁石80における偏向角及び照射角に基づいて計算し、四極電磁石102に励磁量を指示するコンピュータシステムであってよく、図示しないメモリ等に記憶されたプログラム等により当該処理を実行するものであってよいし、当該制御を実行する専用回路によって実現されるものであってもよい。また、更には、オフセット制御部110は、第1偏向電磁石101、第2偏向電磁石103も制御することとしてもよい。
【0020】
一般的に、荷電粒子ビームを輸送するにあたって、加速器から出力された荷電粒子ビームを第1の偏向電磁石と四極電磁石と第2の偏向電磁石とがこの順に配列された構成を挿入し、目的位置まで輸送することがある。この場合、上流側の偏向電磁石、即ち、第1の偏向電磁石において荷電粒子ビームが偏向されると分散関数及び勾配が発生する。ここで、四極電磁石の励磁量によっては、下流側の偏向電磁石、即ち、第2の偏向電磁石の通過後に0、即ち、ダブルアクロマートな条件にすることで、分散関数を発生させていない状態の荷電粒子ビームにして、輸送することができる。
【0021】
しかしながら、本実施形態に係るオフセット部100にあっては、荷電粒子ビームが輸送される経路においてその下流側(後段)に振分電磁石70及び偏向電磁石80を備える。そのため、振分電磁石70及び偏向電磁石80において荷電粒子ビームを偏向させる場合に発生する分散関数を考慮する必要がある。即ち、オフセット部100のオフセット部制御部は、オフセット部100と振分電磁石70、偏向電磁石80全てを含んで、アクロマートな条件にする必要がある。
【0022】
具体的には、オフセット部100を通過後の荷電粒子ビームの分散関数を敢えて0にしないようにし、振分電磁石70の偏向起点Qにおいて分散関数が既に所定の値を持つように四極電磁石102の励磁量を調整する。即ち、オフセット制御部110は、振分電磁石70及び偏向電磁石80において、どの程度荷電粒子ビームを偏向させるかについての情報を予め取得し、取得した情報に基づいて、逆算することで、オフセット部100通過後の荷電粒子ビームに発生させるべき分散関数の値となるように四極電磁石102の励磁量を制御する。
【0023】
当該制御にあっては、オフセット制御部110は、予め、振分電磁石70及び偏向電磁石80による偏向角及び照射角の複数の組み合わせそれぞれに対して、発生させるべき分散関数の値に応じた四極電磁石102の励磁量をシミュレーションにより計算し、制御テーブルとして各組み合わせを記憶して、制御することで、適宜、四極電磁石102の励磁量を制御することとしてもよい。また、あるいは、オフセット制御部110は、振分電磁石70における偏向角及び偏向電磁石80における照射角を入力して、四極電磁石102の励磁量を求めるための関数を保持し、当該関数から求まる励磁量を四極電磁石102に印加するよう制御することとしてもよい。また、あるいは、振分電磁石70及び偏向電磁石80における偏向角及び照射角の組み合わせと、それに対して望ましい四極電磁石102の励磁量との関係を学習した学習済みモデルを用い、当該学習済みモデルに対して、偏向角及び照射角を入力して、励磁量を得るように構成してもよい。なお、偏向起点Q、振分電磁石70における偏向角及び偏向電磁石80における照射角の詳細については、後述する。
【0024】
オフセット部100により、分散関数を発生させた荷電粒子ビームは、振分電磁石70、偏向電磁石80を経由して、アイソセンタに到達する。なお、荷電粒子ビームを直進させる場合には、オフセット部100においては、第2偏向電磁石103から出力された時点で分散関数が発生しない(0になる)ように制御し、振分電磁石70に入射する時点で分散関数のない荷電粒子ビームが入射する。
【0025】
ここで、図3を用いて、振分電磁石70及び偏向電磁石80による荷電粒子ビームの偏向の詳細について説明する。
【0026】
図3は、振分電磁石70及び偏向電磁石80についての詳細を説明するための図である。図3(a)は、荷電粒子ビーム照射システムの荷電粒子ビーム照射装置50を側面から見た荷電粒子ビームの経路を模式的に示した模式図である。図3(a)に示すように、荷電粒子ビーム照射装置50は、振分電磁石70と、偏向電磁石80を備える。荷電粒子ビーム照射装置50の一部は、図1に示されるように、治療室30内に露出するとともに、他の一部は、治療室30の壁面内や地下に埋設される。同図1に示すように、荷電粒子ビーム照射装置50の偏向電磁石は、一部が壁面内、地下に埋設されており、振分電磁石70も治療室30外に設けられている。
【0027】
図3(a)には偏向角φ及び収束角θごとに異なる複数のビーム経路の例を示している。ここで、荷電粒子ビームの進行方向をX軸、偏向電磁石80が生成する磁場の方向をZ軸、X軸及びZ軸に直交する方向をY軸とする。偏向電磁石80は、XY面において、X軸に対する偏向角φの広い範囲から入射する荷電粒子ビームを、アイソセンタOに収束させるよう構成されている。つまり、荷電粒子ビームを振分電磁石及び偏向電磁石80により偏向させない場合には、荷電粒子ビームは振分電磁石及び偏向電磁石80を直進して通過し、アイソセンタに至る。なお、図3(a)においては、照射ノズル11は省略し、説明を簡単にするために、アイソセンタOをXYZ空間の原点とし、上流側(加速器側、図3(a)の紙面左側)をX軸の正の方向としている。
【0028】
図3(a)に示すように、振分電磁石70は、入射する荷電粒子ビームを必要に応じて偏向させる。振分電磁石70は、入射する荷電粒子ビームを偏向させずに直進させる場合もある。
【0029】
偏向角φの範囲は、-90度超~+90度未満の範囲にあり、プラス(+Y軸方向)の偏向角範囲とマイナス(-Y軸方向)の偏向角範囲は異なっていてもよい(非対称)。例えば、プラス側の最大偏向角(φ=φMAX)を10度、15度、20度、25度、30度、35度、40度、45度、50度、60度、70度、80度、及び85度のうちのいずれかとし、マイナス側の最大偏向角(φ=-φMAX)を-10度、-15度、-20度、-25度、-30度、-35度、-40度、-45度、-50度、-60度、-70度、-80度、及び-85度のうちのいずれかとしてもよい。なお、偏向角φは、これらの角度に限定するものではない。荷電粒子ビームは、振分電磁石70による偏向並びに偏向電磁石80による偏向により、図3(a)にも示されるように、様々な軌道を描いて、アイソセンタに入射する。即ち、荷電粒子ビームは、荷電粒子ビーム照射装置50により、複数の軌道のいずれかを通り、荷電粒子ビームを複数の方向からアイソセンタに照射することができる。なお、図3(a)においては振分電磁石70において即座に所望の偏向角φで偏向する様子を示しているが、これは、図面の見やすさを考慮してのものであり、実際には、振分電磁石70にあっては、荷電粒子ビームは、偏向起点Qにおいて、徐々に偏向を開始し、結果的に、X軸に対して、偏向角φで出射する点に留意されたい。
【0030】
偏向電磁石80は、1組以上のコイル対を備え、該コイル対は、荷電粒子ビームの進行方向と荷電粒子ビームの偏向角φの広がり方向に直交する方向(図中Z軸方向)を向いた一様な磁場を生成し(有効磁場領域81a、81b)、荷電粒子ビームの経路を挟むように配置されている。偏向電磁石80の1組のコイル対が生成する有効磁場領域は、図3(a)に示すようにXY平面において三日月状の形状を有し、その詳細については後述する。なお、荷電粒子ビームが通過する、対向するコイル対間の隙間は(Z軸方向の距離)、XY面における荷電粒子ビームが広がる範囲に比べて十分に小さいため、ここでは荷電粒子ビームのZ軸方向の広がりについては考慮しない。
【0031】
図3(b)は、偏向電磁石80のA-A線断面図である。偏向電磁石80は、好ましくは少なくとも二組のコイル対84a、84bを備える。コイル84a、84bの内部にはそれぞれ磁極85a、85bが組み込まれ、磁極85a、85bにはヨーク86が接続されている。偏向電磁石80には電源装置(不図示)が接続されており、電源装置からコイル対84a、84bに電流(励磁電流)が供給されることで、偏向電磁石80が励磁し、有効磁場領域81a、81b(総称して有効磁場領域81ともいう。)が形成される。
【0032】
なお、有効磁場領域81aの範囲と有効磁場領域81bの範囲は、異なっていてもよい(非対称)。例えば、プラス(+Y軸方向)の偏向角φの範囲とマイナス(-Y軸方向)の偏向角φの範囲が非対称であれば、それに応じて有効磁場領域81a、81bも非対称に形成することで、使用されない有効磁場領域を削減できる。
【0033】
振分電磁石70により偏向され、偏向電磁石80に入射する荷電粒子ビームの偏向角φの範囲は、プラスの最大偏向角(φ=φMAX)からマイナスの最大偏向角(φ=-φMAX)の範囲であり、プラスの最大偏向角φMAXは、10度以上90度未満の角度であり、マイナスの最大偏向角-φMAXは、-90度超-10度以下の角度である。偏向角φ及び後述する照射角θは、XY面において、X軸に対する荷電粒子ビームの経路の角度である。
【0034】
プラスの偏向角範囲(φ=0超~φMAX)で入射した荷電粒子ビームは、第1のコイル対84aの有効磁場領域81aにより偏向され、照射ノズル11を通りアイソセンタOに照射される。マイナスの偏向角範囲(φ=0未満~-φMAX)で入射した荷電粒子ビームは、第2のコイル対84bの有効磁場領域81bにより偏向され、照射ノズル11を通りアイソセンタOに照射される。有効磁場領域81aと有効磁場領域81bの磁場の向きは互いに反対の方向である。なお、振分電磁石70から偏向角φ=0で偏向電磁石80に入射する荷電粒子ビームは、有効磁場領域81a、81bのいずれか又は両領域81a、81bの間を通過し、照射ノズル(不図示)を通じてアイソセンタOに収束する。
【0035】
偏向電磁石80に入射する荷電粒子ビームの偏向角φは、振分電磁石70により制御される。振分電磁石70は、加速器(不図示)から供給される荷電粒子ビームの進行方向(図中X軸)に直交する方向(図中Z軸)を向いた磁場を生成し、通過する荷電粒子ビームを偏向する電磁石と、該磁場の強度及び向きを制御する制御部とを備える(いずれも不図示)。振分電磁石70は、磁場の強度及び向き(Z軸方向)を制御することで、XY面において荷電粒子ビームを偏向し、偏向起点Qにて偏向角φで偏向した荷電粒子ビームを偏向電磁石80に出射する。ここで、偏向起点QとアイソセンタOはX軸上(同一水平面上)にある。
【0036】
図3(c)を参照して、偏向電磁石80の有効磁場領域81aを形成するための計算式について説明する。なお、本実施形態では、Z軸方向への荷電粒子ビームの偏向は考慮しないので、XY面における有効磁場領域の形成について説明する。偏向電磁石80の有効磁場領域81aについて説明するが、有効磁場領域81bについても同じであるため、説明は省略する。
【0037】
まず、偏向電磁石80の荷電粒子ビームの出射側83の有効磁場領域81aの境界は、アイソセンタOから等距離r1の位置にある範囲となるように決める。次に、偏向電磁石80の荷電粒子ビームの入射側82の有効磁場領域81aの境界は、後述する関係式(1)~(5)に基づき、アイソセンタOから所定の距離Lの位置にある仮想上の偏向起点Qにて偏向角φで偏向し、入射する荷電粒子ビームが、アイソセンタOに収束するように決められる。ここで、仮想上の偏向起点Qは、振分電磁石70の中心で荷電粒子ビームが偏向角φのキックを極短距離の間に受けると仮定した点である。
【0038】
偏向角φで輸送されてきた荷電粒子ビームは、入射側82の有効磁場領域81aの境界上の任意の点P1から入り、有効磁場領域81a内で曲率半径r2の円運動を行い(このときの中心角は(φ+θ)となる。)、出射側83の有効磁場領域81aの境界上の点P2から出て、アイソセンタOに向けて照射される。つまり、点P1と点P2とは半径r2及び中心角(φ+θ)の円弧上にある。
【0039】
図3(c)に示すように、XY面においてアイソセンタOを原点とするXY座標系を想定する。出射側83の点P2とアイソセンタOとを結ぶ直線とX軸とがなす角度を照射角θとすると、入射側82の点P1の座標(x,y)、偏向角φ、及び点Qと点P1との間の距離Rは、以下の関係式(1)~(4)から求まる。
【0040】
【数1】
【0041】
ここで、有効磁場領域81aには一様な磁束密度Bの磁場が生じており、荷電粒子ビームの運動量をp(およそ加速器に依存する)、電荷をqとすると、磁場中で偏向される荷電粒子ビームの曲率半径r2は、式(5)で表される。
【0042】
【数2】
【0043】
上記関係式(1)~(5)に基づき、偏向電磁石80のコイル対84a及び磁極85aの形状及び配置を調整し、コイル対84aに流す電流を調整することで、有効磁場領域81aの境界の形状を調整できる。すなわち、出射側83の有効磁場領域81aの境界上の任意の点P2とアイソセンタOとの間の距離が等距離r1となるように境界を定め、有効磁場領域81aの磁束密度Bを調整して式(5)からr2を決め、入射側82の有効磁場領域81aの境界上の点P1と偏向起点Qとの間の距離Rが式(4)の関係を有するように、入射側82の有効磁場領域81aの境界を定める。式(3)のφの極大値が、最大偏向角φMAXとなる。なお、限定されるものではないが、偏向起点Qを通過する荷電粒子ビームが偏向電磁石80による偏向を受けなくともアイソセンタOに収束するように、偏向起点Q、偏向電磁石80、及びアイソセンタOの配置を調整しておくと、装置構成をよりシンプルにできるため好ましい。
【0044】
上記のようにして求まる偏向電磁石80の有効磁場領域81a、81bの境界は、荷電粒子ビームをアイソセンタOに収束させるための理想的な形状である。なお実際には、この理想的な形状からのずれや磁場分布の不均一性があったとしても、偏向電磁石80の励磁量(磁束密度B)を偏向角φごとに予め微調整し、その情報を電源装置に記憶させておき、偏向角φと偏向電磁石80の電流量とが連動するようにそれらを制御することで、荷電粒子ビームをアイソセンタOに合わせて偏向させることができる。また、事前に磁場分布の不均一性を予測できる場合には、偏向電磁石80のコイル対84a、84b及び磁極85a、85bの形状及び配置を補正することで、荷電粒子ビームの軌道を微調整することも可能である。
【0045】
これにより、荷電粒子ビームを患部(アイソセンタO)に対して所望の角度で照射を行うことができる。
【0046】
図4は、荷電粒子ビーム照射システムを模式的に示す天面図である。図4に示すように、荷電粒子ビーム照射システムにおいては、少なくとも、オフセット部100と、振分電磁石70と、偏向電磁石80とは、直線状に配される。即ち、振分電磁石70及び偏向電磁石80により偏向される荷電粒子ビームの偏向方向は、鉛直方向となる。なお、荷電粒子ビーム照射システムにおいて、加速器1は、オフセット部100と、振分電磁石70と、偏向電磁石80と、直線状に配されてもよいし、配されなくてもよい。
【0047】
<分散関数>
図5を用いて、分散関数について説明する。図5(a)は、オフセット部100がない場合の分散関数について説明する図であり、図5(b)は、オフセット部100がある場合の分散関数について説明する図である。
【0048】
図5(a)の上段は、オフセット部100を設けていない荷電粒子ビーム照射システムの構成を示す略図であり、振分電磁石70と、偏向電磁石80と、これらを経由してアイソセンタに照射される荷電粒子ビームの軌道の一例を示している。ここで、図5(a)の下段は、荷電粒子ビームの分散関数の例を示しており、振分電磁石70と偏向電磁石80、アイソセンタとの対応関係の例を示している。図5(a)の下段の分散関数のグラフに示されるように、荷電粒子ビームにおいては、振分電磁石70を経由して偏向されることで分散関数が発生する。また、同様に、振分電磁石70により偏向された荷電粒子ビームは、偏向電磁石80においても偏向され、アイソセンタOに向かう。このとき、偏向電磁石80により偏向されることで、荷電粒子ビームには、更に分散関数が発生する。その結果、図5(a)下段に図示するように、分散関数はアイソセンタにおいて0にならない、即ち、値を持つ可能性がある。分散関数が値を持つということは、加速器1から出射される荷電粒子ビームの運動量の変動により位置変動が生じる可能性があり、荷電粒子ビームが病巣に照射されない可能性がある。なお、図5(a)下段の分散関数は、鉛直方向における荷電粒子ビームの分散関数の値の変動を示している。
【0049】
一方で、図5(b)の上段は、オフセット部100を設けていない荷電粒子ビーム照射システムの構成を示す略図であり、オフセット部100と、振分電磁石70と、偏向電磁石80と、これらを経由してアイソセンタに照射される荷電粒子ビームの軌道の一例を示している。また、図5(b)の下段は、荷電粒子ビームの分散関数の例を示しており、振分電磁石70と偏向電磁石80、アイソセンタとの対応関係の例を示している。図5(b)の下段の分散関数のグラフに示されるように、荷電粒子ビームにおいては、オフセット部100に設けられている第1偏向電磁石101と第2偏向電磁石103とにより偏向されることで分散関数が発生する。
【0050】
図5(b)の上段のオフセット部100の後段において、振分電磁石70及び偏向電磁石80により荷電粒子ビームを偏向させてアイソセンタに向かわせる場合に、当然に分散関数が発生する。この分散関数は、振分電磁石70及び偏向電磁石80において荷電粒子ビームをどの程度偏向させるかによって、生じる値は異なるものの、予め、振分電磁石70及び偏向電磁石80の特性をシミュレートしておくことによって、算出することが可能である。そして、オフセット部100においては、振分電磁石70及び偏向電磁石80において発生する分散関数がアイソセンタにおいて0になるように、予め分散関数を発生させておく。即ち、図5(b)に示されるように、振分電磁石70に入射するタイミングにおいて、荷電粒子ビームの分散関数は所定の値を持っている。このようにオフセット部100において分散関数を持たせた荷電粒子ビームを出射し、振分電磁石70に入射させることで、結果として、荷電粒子ビーム照射装置50においてアイソセンタOに照射される荷電粒子ビームの分散関数を抑制し、好適には0にすることができる。
【0051】
<まとめ>
本実施形態1に示したように、荷電粒子ビーム照射装置50に配される振分電磁石70や偏向電磁石80を用いて荷電粒子ビームを偏向させた場合に発生する分散関数を、予め振分電磁石70の前段に配したオフセット部100において、故意に分散関数を発生させた荷電粒子ビームを生成し、振分電磁石70に入射させることで、結果的に、アイソセンタOにおける分散関数を0にすることができる。したがって、荷電粒子ビーム照射装置50において、即ち、治療室30内に、分散関数を0にするための四極電磁石を配することなく、アイソセンタOに荷電粒子ビームを収束させる(アイソセンタOにおいて荷電粒子ビームの分散関数を抑制し、好適には0にする)ことができる。したがって、四極電磁石を配さないことで、荷電粒子ビーム照射装置50の肥大化を防止することができる。その結果、治療室30をコンパクトにすることができる。
【0052】
<実施の形態2>
実施の形態2においては、荷電粒子ビームの照射装置が、患者の周囲を回動する回転ガントリーの場合について説明する。
【0053】
図6は、実施の形態2に係る荷電粒子ビーム照射システムの構成を模式的に示すブロック図である。図6に示すブロック図の、図1に示すブロック図からの変更点は、荷電粒子ビーム照射装置の相違にあり、それ以外の構成については、実施の形態1と同様である。図6に示すように、荷電粒子ビーム照射システムは、加速器1と、第1オフセット部100aと、第2オフセット部100bと、回転ガントリー500と、を備える。回転ガントリー500は、本実施の形態2における荷電粒子ビーム照射装置に相当する。本実施の形態2において、回転ガントリー500は、照射ノズル91(照射部)が患者の周囲を回転することで、複数の方向から、アイソセンタに向けて荷電粒子ビームを照射することが可能となる。図6において、回転ガントリー500に対して荷電粒子ビームが入射する入射経路601は、同時に、回転ガントリー500の回転軸を示している。
【0054】
本実施の形態2においては、加速器1については、実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
また、第1オフセット部100aも上記実施の形態1におけるオフセット部100と同様であり、第1オフセット部100aは、第1偏向電磁石101aと、四極電磁石102aと、第2偏向電磁石103aとからなり、荷電粒子ビームを鉛直方向で偏向させて、所望の分散関数を鉛直方向に発生させた荷電粒子ビームを出射する。
【0056】
第2オフセット部100bは、第1オフセット部100aと同様に二つの偏向電磁石の間に四極電磁石を配した構成であり、第3偏向磁石101bと、四極電磁石102bと、第4偏向電磁石103bとが、この順に配された構成をしており、荷電粒子ビームの経路上に配される。ただし、第2オフセット部100bは、第1オフセット部100aに対して、当該構成全体を90度回転させた構成となっている。即ち、第1オフセット部100aが、荷電粒子ビームを鉛直方向に偏向させて、鉛直方向の分散関数を発生させるのに対して、第2オフセット部100bは、荷電粒子ビームを水平方向に偏向させて、水平方向の分散関数を発生させる。即ち、第1オフセット部100aは垂直オフセット部と言い換えることができ、第2オフセット部100bは、水平オフセット部と言い換えることもできる。これにより、回転ガントリー500が、患者に対してどの向きに傾いていようとも、アイソセンタ0における分散関数を鉛直方向並びに水平方向の双方に対して抑制する(好適には0にする)よう調整することができる。
【0057】
この場合、第1オフセット部100aによる垂直方向の荷電粒子ビームの制御について、オフセット制御部110aは、一例として、軸601を中心とし、例えば、水平方向を基準とした回転ガントリー500の様々な回転角に対して、発生させるべき分散関数の値に応じた四極電磁石102aの励磁量をシミュレーションにより計算し、制御テーブルとして組み合わせを記憶して、制御することで、適宜四極電磁石102aの励磁量を制御することとしてよい。これにより、第1オフセット部100aは、鉛直方向の分散関数を制御することができる。また、あるいは、軸601の回転角と、それに対して望ましい四極電磁石102の励磁量との関係を学習した学習済みモデルを用い、当該学習済みモデルに対して、回転ガントリー500の基準位置からの回転角を入力して、四極電磁石102bの励磁量を得るように構成してもよい。なお、ここでは、回転角を用いているが、これは、例えば、回転ガントリー500の照射ノズル91の座標値などによって代替されてもよい。
【0058】
同様に、第2オフセット部100bによる垂直方向の荷電粒子ビームの制御について、オフセット制御部110bは、一例として、軸601を中心とし、例えば、鉛直方向(水平方向でもよい)を基準とした回転ガントリー500の様々な回転角に対して、発生させるべき分散関数の値に応じた四極電磁石102bの励磁量をシミュレーションにより計算し、制御テーブルとして組み合わせを記憶して、制御することで、適宜四極電磁石102aの励磁量を制御することとしてよい。これにより、第2オフセット部100bは、水平方向の分散関数を制御することができる。また、あるいは、軸601の回転角と、それに対して望ましい四極電磁石102bの励磁量との関係を学習した学習済みモデルを用い、当該学習済みモデルに対して、回転ガントリー500の基準位置からの回転角を入力して、四極電磁石102bの励磁量を得るように構成してもよい。なお、ここでは、回転角を用いているが、これは、例えば、回転ガントリー500の照射ノズル91の座標値などによって代替されてもよい。
【0059】
即ち、実施の形態2においては、オフセット部制御部(図示せず)は、第1オフセット部100aと第2オフセット部100bとを制御する。オフセット制御部110a、110bは、回転ガントリー500における回転軸601の回転角及び回転ガントリー500に設けられる複数の偏向電磁石によって発生する分散関数について、鉛直方向成分と水平方向成分とが共にアイソセンタにおいて抑制される(好適には0となる)ように予め回転ガントリー500に入射するタイミングで既に分散関数を発生させた荷電粒子ビームが入射するよう、第1オフセット部100a及び第2オフセット部100bの四極電磁石の励磁量を制御する。
【0060】
これによって、回転ガントリーを用いる場合でも照射ノズル91に四極電磁石を配することなく、アイソセンタにおいて、分散関数を0にした荷電粒子ビームを照射することができる。
【0061】
<まとめ>
実施の形態2に示すように、偏向電磁石を含む回転ガントリーを照射装置とする荷電粒子ビーム照射システムにあっても、鉛直方向と水平方向とで偏向を行う2つのオフセット部を設けることで、実施の形態1と同様に、照射装置に四極電磁石を配することなく、アイソセンタにおいて荷電粒子ビームの分散関数を抑制し、好適には0にすることができる。したがって、照射装置の肥大化を抑制することができる。
【0062】
<変形例>
上記実施形態に示す荷電粒子ビーム照射システム及びオフセット部100は、上記実施形態に示した態様に限定するものではない。適宜、当業者の知見内で変更することが可能である。以下、各種変形例について説明する。
【0063】
(1) 上位実施形態においては、オフセット部100の基本構成として、四極電磁石が二つの偏向電磁石により挟まれる態様で構成される旨を説明したが、オフセット部100の構成は、上記実施形態に示した態様に限定するものではない。
【0064】
オフセット部100は、図7(a)に示すように、第2偏向電磁石103の後段(荷電粒子ビーム照射装置側)にも四極電磁石104、105を備える構成としてもよい。ここでは、二つの四極電磁石104、105を備える例を示しているが、四極電磁石の数は2つに限定するものではなく、1つであってもよいし、3つ以上あってもよい。
【0065】
四極電磁石104、105の輸送路における役目は、第2偏向電磁石103において分散関数を持たせた荷電粒子ビームが発散し、輸送中のロスが大きくなるのを抑制し、荷電粒子ビームを調整するために用いられる。
【0066】
なお、図7(a)においては、オフセット部100を加速器1と振分電磁石70との間に配するものとして示しているが、図7(a)に示す構成は、もちろん、上記実施の形態2におけるオフセット部100a、100bとして使用することもできることは言うまでもない。
【0067】
(2) 上記実施形態においては、オフセット部100を一つ配した構成としている。これにより、荷電粒子ビームの高さ方向を調整し、荷電粒子ビーム照射装置に入射させることができる。一方で、荷電粒子ビームの高さを変更せず、かつ、オフセット部としての機能、即ち、アイソセンタにおける荷電粒子ビームの分散関数を0にするように、オフセット部100から出射する荷電粒子ビームに分散関数を持たせたい場合もある。
【0068】
このような場合には、図7(b)に示す構成のようにすることで、当該構成を実現することができる。
【0069】
即ち、第1オフセット部100aと同じ構成であって、荷電粒子ビームの進行方向において、第1オフセット部100aと対称になるように配した第2オフセット部100cを設ける構成としてよい。第1オフセット部100aは、第1偏向電磁石101aと、四極電磁石102aと、第2偏向電磁石103aとから成り、当該構成は、実施の形態1に示すオフセット部100と同様である。
【0070】
一方、第2オフセット部100cは、図7(b)に示されるように、第1オフセット部100aと紙面中央で対称になるように構成されており、第2偏向電磁石103aに対向するように、第1偏向電磁石101c、四極電磁石102c、第2偏向電磁石103cが設けられた構成となっている。
【0071】
オフセット部においては、二つの偏向電磁石を用いる関係上、どうしても入射時と出射時とで、荷電粒子ビームの上下方向(鉛直方向)の入射位置がずれることになるが、図7(b)の構成であれば、荷電粒子ビームの上下方向のずれを生じることなく、かつ、アイソセンタOにおいて、荷電粒子ビームの分散関数を0になるように制御することができる。なお、図7(b)の場合、オフセット制御部は、第1オフセット部100aと第2オフセット部100cとの双方の四極電磁石102a、102cの励磁量を制御する。
【0072】
(3) 上記実施の形態1、2において、オフセット部100、100a、100bは、加速器1からアイソセンタまで荷電粒子ビームが輸送されるまでの経路において、オフセット部100以降において、荷電粒子ビームが電磁石(振分電磁石、偏向電磁石等)により偏向されて、荷電粒子ビームに分散関数が発生する場合であって、偏向後にこの分散関数を調整するための四極電磁石を配さない、あるいは、配することができない、配するのが難しい場合に、当該電磁石の前の経路上に設けられる。そして、オフセット部100、100a、100bは、加速器1から荷電粒子ビーム照射装置50あるいは回転ガントリー500まで荷電粒子ビームが輸送される経路の最終段(最も下流となる位置)に設けられることが好ましい。
【符号の説明】
【0073】
1 加速器
10 移動車両
11 照射ノズル
30 治療室
15 治療台
50 荷電粒子ビーム照射装置
70 振分電磁石
80 偏向電磁石
100 オフセット部
101 第1偏向電磁石
102 四極電磁石
103 第2偏向電磁石
104 四極電磁石
105 四極電磁石
110 オフセット制御部
100a 第1オフセット部
101a 第1偏向電磁石
102a 四極電磁石
103a 第2偏向電磁石
100b 第2オフセット部
101b 第1偏向電磁石
102b 四極電磁石
103b 第2偏向電磁石
100c 第2オフセット部
101c 第1偏向電磁石
102c 四極電磁石
103c 第2偏向電磁石
500 回転ガントリー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7