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特開2024-145917眼内レンズおよび眼内レンズ挿入器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145917
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】眼内レンズおよび眼内レンズ挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058515
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100184550
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 珠美
(72)【発明者】
【氏名】長坂 信司
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 響子
(72)【発明者】
【氏名】中畑 義弘
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA25
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097EE03
4C097MM09
(57)【要約】
【課題】眼内レンズ挿入器具のノズルの通路内を押出部材によって押し出される際に、より小さく折り畳まれ易い眼内レンズ、および、前記眼内レンズが装填された眼内レンズ挿入器具を提供する。
【解決手段】レンズ部2のレンズ面に対して垂直であり、且つ、レンズ部2の幾何中心Oから外側の任意の方向に延びる仮想部分断面を想定する。眼内レンズ1では、仮想部分断面を想定する方向に応じて、仮想部分断面におけるレンズ部2の断面積が変化する。眼内レンズ1がノズルによって折り畳まれる際に、幾何中心Oから押出軸に沿って後方に延びる仮想部分断面である軸上後方断面PS1の断面積が、他の方向の仮想部分断面における断面積以下となる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状のレンズ部と、前記レンズ部から外側に湾曲して延びる1つまたは複数の支持部とを備え、眼内レンズ挿入器具の内部の通路を通じて前記眼内レンズ挿入器具の前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入される、変形可能な眼内レンズであって、
前記眼内レンズ挿入器具は、
前記通路の軸である押出軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記レンズ部から後方に延びる前記支持部である後方支持部に接触して前記後方支持部を前記レンズ部上に折り畳んだ状態で、前記眼内レンズを前方に押し出す押出部材と、
前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記押出部材によって前記眼内レンズが前記通路内を前方に押し出される過程で、前記眼内レンズを折り畳んだ後、前記挿入口から前記眼内レンズを排出するノズルと、
を備え、
前記レンズ部のレンズ面に対して垂直であり、且つ、前記レンズ部の幾何中心から外側の任意の方向に延びる仮想部分断面を想定した場合に、
前記仮想部分断面を想定する方向に応じて、前記仮想部分断面における前記レンズ部の断面積が変化すると共に、
前記眼内レンズが前記ノズルによって折り畳まれる際に、前記幾何中心から前記押出軸に沿って後方に延びる前記仮想部分断面である軸上後方断面の断面積が、他の方向の前記仮想部分断面における断面積以下となることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の眼内レンズであって、
前記軸上後方断面における前記レンズ部の屈折力が、他の方向の前記仮想部分断面における前記レンズ部の屈折力以上となることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項3】
請求項1に記載の眼内レンズであって、
前記幾何中心から前記押出軸に対して垂直に延びる前記仮想部分断面である一対の垂直部分断面のうち、少なくとも一方の断面積が、他の方向の前記仮想部分断面における断面積以下となることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項4】
請求項1に記載の眼内レンズであって、
前記レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、前記レンズ部の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する複数の分節領域が形成されており、
前記軸上後方断面が、前記複数の分節領域のうち、屈折力が最も大きい領域を通過することを特徴とする眼内レンズ。
【請求項5】
請求項4に記載の眼内レンズであって、
前記一対の垂直部分断面の少なくとも一方が、前記複数の分節領域のうち、屈折力が最も大きい領域を通過することを特徴とする眼内レンズ。
【請求項6】
円盤形状のレンズ部と、前記レンズ部から外側に湾曲して延びる1つまたは複数の支持部とを備えた変形可能な眼内レンズが予め装填されており、前記眼内レンズを内部の通路を通じて前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記通路の軸である押出軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記レンズ部から後方に延びる前記支持部である後方支持部に接触して前記後方支持部を前記レンズ部上に折り畳んだ状態で、前記眼内レンズを前方に押し出す押出部材と、
前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記押出部材によって前記眼内レンズが前記通路内を前方に押し出される過程で、前記眼内レンズを折り畳んだ後、前記挿入口から前記眼内レンズを排出するノズルと、
を備え、
前記レンズ部のレンズ面に対して垂直であり、且つ、前記レンズ部の幾何中心から外側の任意の方向に延びる仮想部分断面を想定した場合に、
前記仮想部分断面を想定する方向に応じて、前記仮想部分断面における前記レンズ部の断面積が変化すると共に、
前記眼内レンズが前記ノズルによって折り畳まれる際に、前記幾何中心から前記押出軸に沿って後方に延びる前記仮想部分断面である軸上後方断面の断面積が、他の方向の前記仮想部分断面における断面積以下となることを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼内レンズ挿入器具によって折り畳まれて眼内に挿入される眼内レンズ、および、眼内レンズが予め装填された眼内レンズ挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障の手術方法の一つとして、摘出された水晶体の代わりに折り曲げ可能な軟性の眼内レンズを眼内に挿入する手法が用いられている。また、眼の屈折力を矯正するために、水晶体よりも前側に眼内レンズが挿入される場合もある。眼内レンズの眼内への挿入には、インジェクターと呼ばれる眼内レンズ挿入器具が用いられる場合がある。
【0003】
眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズの支持部を変形させてレンズ部(光学部)上に位置させた状態(所謂「タッキング」が行われた状態)で、眼内レンズを折り畳む場合がある。タッキングを行うことで、支持部の破損等が生じる可能性が低下する。特許文献1に記載の眼内レンズ挿入器具では、棒状の押出部材が押出軸に沿って前方に移動することで、押出軸方向の後方へ延びる後方支持部がタッキングされた状態で、眼内レンズがノズル内の通路を通過して眼内に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-19608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ノズルの通路内で眼内レンズを折り畳んで押し出す際の負荷が大きくなると、例えば、手術の難易度が上昇してしまう可能性や、眼内レンズの破損等が生じてしまう可能性が高まる場合がある。また、眼内レンズを患者眼の眼内に挿入する際には、患者眼に掛かる負担を低下させるために、眼内レンズ挿入器具のノズルを眼内に差し込むための切開創を極力小さくすることが望ましい。ノズルの径を小さくする程、小さい切開創を通じてノズルを眼内に差し込むことが容易になる。ノズルの通路内で眼内レンズを小さく折り畳むことができれば、眼内レンズをノズルの通路内で押し出す際の負荷が減少し、且つ、ノズルの径を小さくすることも容易となる。
【0006】
ここで、本願発明の発明者は、種々の試行および検討を繰り返すことで、後方支持部がタッキングされた状態の眼内レンズを押出部材によってノズル内で押し出す際に、より小さく眼内レンズを折り畳むための新たな技術を見出した。
【0007】
本開示の典型的な目的は、眼内レンズ挿入器具のノズルの通路内を押出部材によって押し出される際に、より小さく折り畳まれ易い眼内レンズ、および、前記眼内レンズが装填された眼内レンズ挿入器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズは、円盤形状のレンズ部と、前記レンズ部から外側に湾曲して延びる1つまたは複数の支持部とを備え、眼内レンズ挿入器具の内部の通路を通じて前記眼内レンズ挿入器具の前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入される、変形可能な眼内レンズであって、前記眼内レンズ挿入器具は、前記通路の軸である押出軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記レンズ部から後方に延びる前記支持部である後方支持部に接触して前記後方支持部を前記レンズ部上に折り畳んだ状態で、前記眼内レンズを前方に押し出す押出部材と、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記押出部材によって前記眼内レンズが前記通路内を前方に押し出される過程で、前記眼内レンズを折り畳んだ後、前記挿入口から前記眼内レンズを排出するノズルと、を備え、前記レンズ部のレンズ面に対して垂直であり、且つ、前記レンズ部の幾何中心から外側の任意の方向に延びる仮想部分断面を想定した場合に、前記仮想部分断面を想定する方向に応じて、前記仮想部分断面における前記レンズ部の断面積が変化すると共に、前記眼内レンズが前記ノズルによって折り畳まれる際に、前記幾何中心から前記押出軸に沿って後方に延びる前記仮想部分断面である軸上後方断面の断面積が、他の方向の前記仮想部分断面における断面積以下となる。
【0009】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入器具は、円盤形状のレンズ部と、前記レンズ部から外側に湾曲して延びる1つまたは複数の支持部とを備えた変形可能な眼内レンズが予め装填されており、前記眼内レンズを内部の通路を通じて前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、前記通路の軸である押出軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記レンズ部から後方に延びる前記支持部である後方支持部に接触して前記後方支持部を前記レンズ部上に折り畳んだ状態で、前記眼内レンズを前方に押し出す押出部材と、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記押出部材によって前記眼内レンズが前記通路内を前方に押し出される過程で、前記眼内レンズを折り畳んだ後、前記挿入口から前記眼内レンズを排出するノズルと、を備え、前記レンズ部のレンズ面に対して垂直であり、且つ、前記レンズ部の幾何中心から外側の任意の方向に延びる仮想部分断面を想定した場合に、前記仮想部分断面を想定する方向に応じて、前記仮想部分断面における前記レンズ部の断面積が変化すると共に、前記眼内レンズが前記ノズルによって折り畳まれる際に、前記幾何中心から前記押出軸に沿って後方に延びる前記仮想部分断面である軸上後方断面の断面積が、他の方向の前記仮想部分断面における断面積以下となる。
【0010】
本開示に係る眼内レンズおよび眼内レンズ挿入器具によると、眼内レンズ挿入器具のノズルの通路内で、眼内レンズが小さく折り畳まれ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】眼内レンズ1の平面図である。
図2】眼内レンズ挿入器具100を右斜め上方から見た斜視図である。
図3】プランジャー300を右斜め上方から見た斜視図である。
図4】眼内レンズ1の移動および変形が適切に行われた状態を示す概略説明図である。
図5】複数の分節領域20が形成された眼内レンズ1の一例を示す平面図である。
図6】遠用領域20Aと近用領域20Bについて、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つレンズ部2のレンズ面に対して垂直な断面の断面図を模式的に比較した図である。
図7】遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を変えた4つの眼内レンズ1のMTF曲線を比較した図である。
図8】遠用領域と近用領域の間に移行部を形成しない場合と移行部を形成する場合の眼内レンズ1のMTF曲線を比較した図である。
図9図5に示す眼内レンズ1において、特定の仮想断面および仮想部分断面の位置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概要>
本開示で例示する眼内レンズは、円盤形状のレンズ部と、レンズ部から外側に湾曲して延びる1つまたは複数の支持部を備え、変形可能である。本開示で例示する眼内レンズは、眼内レンズ挿入器具の内部の通路を通じて、眼内レンズ挿入器具の前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入される。眼内レンズ挿入器具は、押出部材とノズルを備える。押出部材は、眼内レンズ挿入器具の通路の軸である押出軸に沿って通路内を前方に移動することで、レンズ部から後方に延びる支持部である後方支持部に接触して後方支持部をレンズ部上に折り畳んだ状態で、眼内レンズを前方に押し出す。ノズルは、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に挿入口を有し、押出部材によって眼内レンズが通路内を前方に押し出される過程で、眼内レンズを折り畳んだ後、挿入口から眼内レンズを排出する。レンズ部のレンズ面に対して垂直であり、且つ、レンズ部の幾何中心から外側の任意の方向に延びる仮想部分断面を想定する。本開示で例示する眼内レンズでは、仮想部分断面を想定する方向に応じて、仮想部分断面におけるレンズ部の断面積が変化する。眼内レンズがノズルによって折り畳まれる際に、幾何中心から押出軸に沿って後方に延びる仮想部分断面である軸上後方断面の断面積が、他の方向の仮想部分断面における断面積以下となる。
【0013】
前述したように、ノズルの通路内で眼内レンズを小さく折り畳むことができれば、眼内レンズをノズルの通路内で押し出す際の負荷が減少し、且つ、ノズルの径を小さくすることも容易となる。ここで、本願発明の発明者は、レンズ部の幾何中心を通り、且つ押出軸に対して垂直な断面(以下、「垂直断面」という)の断面積が小さくなるように眼内レンズを設計すれば、ノズル内で眼内レンズが小さく折り畳まれると考えた。しかし、発明者が試行を繰り返したところ、前述した垂直断面における眼内レンズの断面積を小さくしても、後方支持部がタッキングされた状態の眼内レンズを押出部材によってノズル内で押し出すと、後方支持部の基端部近傍がノズルを通過する際に負荷が増加する場合があった。これは、後方支持部の基端部が折り曲げられることで増加する基端部近傍の体積に、後方支持部に接触しつつ眼内レンズを押し出す押出部材の体積がさらに加わることで、後方支持部の基端部近傍が小さく折り曲げられ難くなることが原因であると判明した。
【0014】
これに対し、本開示の眼内レンズでは、レンズ部のうち、幾何中心から押出軸に沿って後方に延びる軸上後方断面の断面積が、他の方向の仮想部分断面における断面積以下となる。その結果、押出部材に近接する後方支持部の基端部近傍の体積の増加が抑制されるので、後方支持部の基端部近傍が小さく折り曲げられ易くなる。よって、本開示の眼内レンズは、眼内レンズ挿入器具のノズルの通路内を押出部材によって押し出される際に、より小さく折り畳まれ易くなる。
【0015】
なお、本開示では、先端が自由端となっているループ形状(湾曲形状)の支持部を2つ備えた眼内レンズを例示する。しかし、ループ形状の支持部を3つ以上備えた眼内レンズにおいても、軸上後方断面の断面積を軸上前方断面の断面積よりも小さくすることで、後方支持部の基端部近傍の体積の増加を抑制することが可能である。
【0016】
軸上後方断面におけるレンズ部の屈折力が、他の方向の仮想部分断面におけるレンズ部の屈折力以上となるように、眼内レンズが設計されてもよい。レンズ部では、屈折力が大きい部位の曲率半径は、屈折力が小さい部位の曲率半径よりも小さくなる。換言すると、レンズ部では、屈折力が大きい部位のレンズ面のカーブは、屈折力が小さい部位のレンズ面のカーブよりも急になる。ここで、レンズ部の幾何中心に段差を設けることは光学的に望ましくないので、想定される仮想部分断面の方向に関わらず、各々の仮想部分断面が通過する幾何中心におけるレンズ部の厚みは同一とされる。その結果、屈折力が大きい部位(レンズ面のカーブが急な部位)のレンズ部側面(コバ部)の厚みは、屈折力が小さい部位(レンズ面のカーブが緩やかな部位)のレンズ部側面の厚みよりも小さくなる。従って、幾何中心から外側に向けて延びる仮想部分断面における屈折力が大きくなる程、仮想部分断面におけるレンズ部の断面積は小さくなる。よって、軸上後方断面におけるレンズ部の屈折力が、他の方向の仮想部分断面におけるレンズ部の屈折力以上となるように、眼内レンズが設計されることで、軸上後方断面におけるレンズ部の断面積が適切に小さくなる。その結果、押出部材に近接する後方支持部の基端部近傍の体積の増加が抑制されるので、後方支持部の基端部近傍が小さく折り曲げられ易くなる。
【0017】
なお、軸上後方断面におけるレンズ部の構成の規定方法を変更することも可能である。例えば、軸上後方断面におけるレンズ部の曲率半径が、他の方向の仮想部分断面におけるレンズ部の曲率半径以下となるように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合でも、押出部材に近接する後方支持部の基端部近傍の体積の増加が適切に抑制される。
【0018】
また、眼内レンズが、装用者の乱視を矯正するトーリック眼内レンズである場合には、レンズ部に強主経線と弱主経線が存在する。強主経線とは、任意の経線のうち、曲率半径が小さく屈折力が最大となる経線を示す。また、弱主経線とは、曲率半径が大きく屈折力が最小となる経線を示す。トーリック眼内レンズでは、軸上後方断面の位置が、レンズ部の強主経線に一致するように、眼内レンズが設計されてもよい。つまり、トーリック眼内レンズでは、レンズ部の強主経線が、眼内レンズの押出軸と一致してもよい。この場合も、押出部材に近接する後方支持部の基端部近傍の体積の増加が適切に抑制される。
【0019】
幾何中心から押出軸に対して垂直に延びる一対の仮想部分断面(以下、「一対の垂直部分断面」という)のうち、少なくとも一方の断面積が、他の方向の仮想部分断面における断面積以下となるように、眼内レンズが設計されてもよい。換言すると、一対の垂直部分断面の少なくとも一方の断面積が、軸上後方断面の断面積と一致してもよい。眼内レンズの全体がノズルの通路内を通過する際の負荷を考慮すると、押出軸に垂直な方向におけるレンズ部の断面積の最大値も、極力小さくすることが望ましい。一対の垂直部分断面の少なくとも一方の断面積を、他の方向の仮想部分断面における断面積以下とすることで、押出軸に垂直な方向におけるレンズ部の断面積の最大値も減少する。その結果、後方支持部の基端部近傍がノズルを通過する際の負荷に加えて、レンズ部の幾何中心がノズルを通過する際の負荷も適切に減少する。よって、本開示の眼内レンズは、ノズルの通路内を押出部材によって押し出される際に、より小さく折り畳まれ易くなる。
【0020】
前述したように、幾何中心から外側に向けて延びる仮想部分断面における屈折力が大きくなる程、仮想部分断面におけるレンズ部の断面積は小さくなる。従って、一対の垂直部分断面のうちの少なくとも一方におけるレンズ部の屈折力が、他の方向の仮想部分断面におけるレンズ部の屈折力以上となるように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合、押出軸に垂直な方向におけるレンズ部の断面積の最大値が適切に減少する。
【0021】
また、幾何中心から外側に向けて延びる仮想部分断面における曲率半径が小さくなる程、仮想部分断面におけるレンズ部の断面積は小さくなる。従って、一対の垂直部分断面のうちの少なくとも一方におけるレンズ部の曲率半径が、他の方向の仮想部分断面におけるレンズ部の曲率半径以下となるように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合でも、押出軸に垂直な方向におけるレンズ部の断面積の最大値は適切に減少する。
【0022】
レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、複数の分節領域が形成されていてもよい。複数の分節領域は、レンズ部の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有していてもよい。軸上後方断面が、複数の分節領域のうち屈折力が最も大きい領域を通過してもよい。
【0023】
複数の分節領域を有する眼内レンズでは、複数の領域が同心円上に配置された眼内レンズとは異なり、装用者の瞳孔が小さくなった場合でも、複数の分節領域の各々を光が通過して網膜に集光する。よって、装用者の瞳孔の大きさに関わらず、多焦点眼内レンズの効果が適切に得られ易くなる。また、複数の分節領域は、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。従って、分節領域に微小プリズム群等を形成する場合に比べて、意図しない方向に散乱する光の量が減少する。その結果、網膜に至る光のロスが生じにくくなり、より良好な視野が得られ易くなる。また、高い精度で加工し易く、且つ、眼内への挿入時に破損が生じる可能性も低い。
【0024】
さらに、前述したように、眼内レンズにおけるレンズ部の各部位では、屈折力が大きくなる程(曲率半径が小さくなる程)、レンズ部の断面積は小さくなる。従って、軸上後方断面が、複数の分節領域のうち屈折力が最も大きい領域を通過するように眼内レンズが設計されることで、押出部材に近接する後方支持部の基端部近傍の体積の増加が抑制される。よって、後方支持部の基端部近傍が小さく折り曲げられ易くなる。
【0025】
一対の垂直部分断面の少なくとも一方が、複数の分節領域のうち屈折力が最も大きい領域を通過するように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合、押出軸に垂直な方向におけるレンズ部の断面積の最大値も減少する。その結果、後方支持部の基端部近傍がノズルを通過する際の負荷に加えて、レンズ部の幾何中心がノズルを通過する際の負荷も適切に減少する。
【0026】
ただし、前述したように、本開示で例示した技術は、複数の分節領域が形成されていない眼内レンズ(例えば、トーリック眼内レンズ等)に適用することも可能である。また、複数の分節領域と、装用者に乱視を矯正するトーリック面の両方がレンズ部に形成されていてもよい。なお、レンズ面の前面および後面のうち、分節領域が形成される面と、トーリック面が形成される面は、同一の面であってもよいし異なる面であってもよい。
【0027】
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の眼内レンズ1は、眼内レンズ挿入器具100によって患者眼の眼内に挿入される。以下の説明では、眼内レンズ1のうち、眼内レンズ挿入器具100によって先に眼内に挿入される側の方向(図1の左側)を、眼内レンズ1の前方とする。
【0028】
(眼内レンズの概略構成)
図1を参照して、本実施形態における眼内レンズ1の概略構成について説明する。眼内レンズ1は、レンズ部2と支持部3を備える。本実施形態の眼内レンズ1は、レンズ部2と支持部3が一体成型された、所謂ワンピース型の眼内レンズである。ただし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、レンズ部2と支持部3が別部材で形成された、所謂3ピース型の眼内レンズにも適用できる。眼内レンズ1は変形することができる。眼内レンズ1の材料には、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の材料を採用できる。
【0029】
レンズ部2は、眼内レンズ1を装用した装用者の眼(つまり、患者眼)に所定の屈折力を与える。レンズ部2に付与される屈折力の詳細については後述する。レンズ部2の形状は円盤形状である。本実施形態で例示するレンズ部2の光軸は、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つ、レンズ部2のレンズ面に垂直な方向(上下方向)に延びる。ただし、レンズ部2の光軸は、レンズ部の幾何中心Oと一致していなくてもよい。
【0030】
本実施形態の眼内レンズ1は、一対の支持部3(前方支持部3A、および後方支持部3B)を備える。一対の支持部3の基端部4(つまり、前方支持部3Aの基端部4Aと、後方支持部3Bの基端部4B)は、レンズ部2の外周部の側面の異なる部位(本実施形態では、円盤形状であるレンズ部2の外周部における正反対の部位の各々)に接続されている。眼内レンズ1が患者眼の眼内に装用されると、一対の支持部3は、患者眼の眼内でレンズ部2を支持する。
【0031】
詳細は後述するが、本実施形態では、眼内レンズ挿入器具100のノズル180(図2および図4参照)の通路内を眼内レンズ1が進行する際の、眼内レンズ1の進行方向Dが、予め想定されている。つまり、眼内レンズ1がノズル180の通路内を進行する際に、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dは、ノズル180の通路の軸である押出軸A(図2および図4参照)に一致する。
【0032】
前方支持部3Aは、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100の設置部130に設置された状態で、レンズ部2の外周部の側面から眼内レンズ挿入器具100の前方に向けて湾曲して延び出す(図4参照)。つまり、前方支持部3Aは、周方向に湾曲したループ形状であり、前方支持部3Aの先端部は自由端とされている。後方支持部3Bは、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100の設置部130に設置された状態で、レンズ部2の外周部から眼内レンズ挿入器具100の後方に向けて湾曲して延び出す(図4参照)。つまり、後方支持部3Bは、周方向に湾曲したループ形状であり、後方支持部3Bの先端部も自由端とされている。ただし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、ループ形状の支持部を3つ以上備えた眼内レンズにも適用することが可能である。
【0033】
(眼内レンズ挿入器具)
眼内レンズ挿入器具100について説明する。以下の説明では、眼内レンズ挿入器具100における本体部101のノズル180側の方向(図2の紙面左下側)を眼内レンズ挿入器具100の前方、プランジャー300の押圧部370の方向(図2の紙面右上側)を眼内レンズ挿入器具100の後方とする。また、図2の紙面上側を眼内レンズ挿入器具100の上方、図2の紙面下側を眼内レンズ挿入器具100の下方、図2の紙面右下側を眼内レンズ挿入器具100の右方、図2の紙面左上側を眼内レンズ挿入器具100の左方とする。
【0034】
まず、図2を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100の全体構成について説明する。前述したように、眼内レンズ挿入器具100は、変形可能な眼内レンズ1を眼内に挿入するために使用される。眼内レンズ挿入器具100は、本体部101とプランジャー300を備える。本体部101は略筒状であり、本体部101の内部の通路を通じて眼内レンズ1が眼内に挿入される。プランジャー300は棒状であり、本体部101の内部の通路を前後方向に移動することができる。プランジャー300は、押出軸(通路の軸)Aに沿って前方に移動することで、本体部101の内部に装填された眼内レンズ1を押し出す。
【0035】
本実施形態の本体部101およびプランジャー300は、樹脂材料で形成されている。眼内レンズ挿入器具100は、モールド成型、樹脂の削り出しによる切削加工等によって形成されてもよい。眼内レンズ挿入器具100が樹脂材料で形成されることで、使用者は、使用済みの眼内レンズ挿入器具100を容易に廃棄することができる。
【0036】
本実施形態では、粘着性を有する軟性の眼内レンズ1を円滑に眼内に挿入するために、本体部101の内壁に潤滑コーティング処理が行われている。また、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100は、無色透明または無色半透明で形成されている。従って、使用者は、眼内レンズ挿入器具100の内部に充填されている眼内レンズ1の変形状態等を、眼内レンズ挿入器具100の外側から容易に視認することができる。
【0037】
図2を参照して、本体部101について説明する。本体部101は、本体筒部110と、設置部130と、ノズル(挿入部)180を備える。
【0038】
本体筒部110は、前後方向に延びる筒状に形成されており、本体部101の後端側(基端側)に位置する。本体筒部110の後端よりもやや前方の外周には、使用者によって把持される張り出し部111が形成されている。
【0039】
設置部130は、本体筒部110の前端側に接続されている。設置部130には眼内レンズ1が設置(装填)される。詳細には、設置部130は保持部160とセット部170を備える。保持部160は、眼内レンズ挿入器具100が保管状態とされている場合に眼内レンズ1を保持する。セット部170は、先端部の軸を中心として回動可能に設けられている。セット部170が回動されると、保持部160に保持されている眼内レンズ1が、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動して位置決めされる。
【0040】
ノズル180は、設置部130の前端側に接続されている。ノズル180内の通路面積は、眼内レンズ1を前方に押し進める過程で眼内レンズ1を小さく変形させるために、前方に向かう程小さくなる。つまり、ノズル180には、先細りの内部空間が形成されている。ノズル180の前端には、先端が斜めに切断された円筒状の挿入部182が設けられている。挿入部182は眼内に差し込まれる。挿入部182の前端には、眼内レンズ1を内部の通路から前方に排出するための開口である挿入口183が形成されている。本体部101の内部の通路は、本体筒部110の後端からノズル180の前端の挿入口183まで貫通している。
【0041】
図3を参照して、プランジャー300の概略構成について説明する。本実施形態のプランジャー300は、押出部材310と、軸基部350と、押圧部370を備える。
【0042】
押圧部370は、プランジャー300の後端に形成されている。押圧部370は、押出軸A(図2参照)と直交する方向に延びる板状の部材である。押圧部370には、使用者がプランジャー300を前方へ押し出す際に、使用者の指が接触する。
【0043】
軸基部350は、押圧部370の前端側から前方に延びる棒状の部材である。本実施形態では、軸基部350は、押出軸Aに直交する断面の形状が略H状となるように形成されている。押出軸Aに直交する断面の形状が略矩形である本体筒部110に、軸基部350が挿入されることで、本体部101に対するプランジャー300の押出軸Aの周方向の回転が抑制される。プランジャー300が前方へ移動し、眼内レンズ1の眼内への挿入が完了する位置に到達すると、軸基部350の前端下部の傾斜面が、本体部101の所定箇所に形成された傾斜面に接触する。その結果、プランジャー300の前端が挿入口183(図2参照)から過度に突き出ることが防止される。
【0044】
押出部材310は、棒状の部材であり、押出軸Aの軸方向に沿って軸基部350の前端から前方に延びる。押出部材310は、押出軸Aに直交する断面の形状が略円形となるように形成されている。また、押出部材310の太さは、本体部101の挿入口183を通過できる太さとなっている。押出部材310は、本体部101の通路内を押出軸Aに沿って前方に移動することで、眼内レンズ1を小さく折り畳みながら前方に押し出して、挿入口183から眼内に排出する。
【0045】
図4を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100によって眼内レンズ1を眼内に挿入する際の、眼内レンズ1の移動および変形の状態について説明する。まず、作業者は、セット部170(図2参照)を回転させることで、設置部130の保持部160(図2参照)に保持されている眼内レンズ1を、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動させる。ここで、図4(a)に示すように、保持部160に保持された眼内レンズ1における後方支持部3Bの基端部4Bは、押出軸Aに対して左右のいずれかの方向にずれている。
【0046】
次いで、作業者は、注入器等を用いて潤滑剤(粘弾性物質)を設置部130内に注入し、プランジャー300の前方への移動を開始させる。その結果、図4(a)に示すように、押出部材310が眼内レンズ1の後方支持部3Bに接触する。
【0047】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、図4(b)に示すように、後方支持部3Bは、押出部材310によってレンズ部2に近づく方向に移動する(曲げられる)。その結果、後方支持部3Bはレンズ部2の上方へ変形移動し、後方支持部3Bの先端が前方を向く。図4(b)に示す状態を、後方支持部3Bのタッキングが行われた状態と言う場合もある。なお、本実施形態では、押出部材310が前方に押し進められることで、後方支持部3Bのタッキングが行われる。しかし、押出部材310とは異なる部材によって後方支持部3Bのタッキングが行われた後に、押出部材310によって眼内レンズ1の全体が前方へ移動される場合にも、本開示の技術を適用することが可能である。
【0048】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、押出部材310がレンズ部2に接触し、眼内レンズ1の全体が前方へ移動する。図4(c)に示すように、眼内レンズ1がノズル180に到達すると、先細りとなっているノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触する。その結果、前方支持部3Aがレンズ部2の上方へ変形移動し、前方支持部3Aの先端が後方を向く。つまり、前方支持部3Aのタッキングが行われる。また、先細りとなっているノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触することで、予め想定された眼内レンズ1の進行方向D(図1参照)が、眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致する。
【0049】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、眼内レンズ1のレンズ部2も、先細りとなっているノズル180の内壁に接触する。その結果、図4(d)に示すように、眼内レンズ1のレンズ部2は小さく折り畳まれていく。
【0050】
図4(e)に示すように、眼内レンズ1は、前方に押し進められる程小さく折り畳まれる。ノズル180の通路面積は前方へ向かう程狭くなるので、眼内レンズ1にかかる負荷は徐々に増加し得る。例えば、後方支持部3Bの基端部4Bの近傍では、後方支持部3Bの基端部4Bが折り曲げられることで増加する体積に、押出部材310の体積がさらに加わるので、大きな負荷がかかりやすい。また、押出軸Aに対して垂直な方向のレンズ部2の断面積が最大となる部分(レンズ部2の幾何中心O(図1参照)の近傍の部分)にも、大きな負荷がかかりやすい。しかし、本実施形態の眼内レンズ1は、ノズル180によってより小さく折り畳まれやすくなるように設計されている。この詳細は後述する。
【0051】
(レンズ部の分節領域)
本実施形態の眼内レンズ1のレンズ部2に形成されている分節領域20について説明する。図5に示すように、本実施形態の眼内レンズ1では、円盤形状のレンズ部2の前面および後面の少なくとも一方に、3つ以上の分節領域20(20A,20B,20C)が形成されている。
【0052】
複数の分節領域20は、互いに異なる屈折力を有する。詳細には、本実施形態のレンズ部2には、遠用領域20A、近用領域20B、および中間領域20Cが形成されている。遠用領域20Aは、複数の分節領域20の中で最も小さい屈折力を有する。近用領域20Bは、複数の分節領域20の中で最も大きい屈折力を有する。中間領域20Cは、遠用領域20Aの屈折力と、近用領域20Bの屈折力の間の屈折力を有する。従って、レンズ部2における遠用領域20A、近用領域20B、および中間領域20Cを通過した光が装用者の網膜に集光することで、多焦点の効果が得られる。なお、本開示では、各々の分節領域20は、領域内の部位に関わらず屈折力が略同一となる領域とする。
【0053】
レンズ部2をレンズ面に対して垂直な方向から見た場合に、複数の分節領域20は、レンズ部2の中央部から外側に向けて放射状に広がる。つまり、各々の分節領域20は、レンズ部2の中央部の1点から外側に向けて直線状に延びる境界線によって分節されている。従って、複数の領域が同心円状に配置された眼内レンズとは異なり、装用者の瞳孔が小さくなった場合でも、複数の分節領域20の全てを光が通過し易くなる。その結果、装用者の瞳孔の大きさに関わらず、多焦点の効果が得られ易くなる。なお、分節領域20の境界線は直線に限定されず、曲線等であってもよいし、屈曲していてもよい。
【0054】
詳細には、本実施形態の眼内レンズ1では、レンズ部2の中央部における1つの基準点(本実施形態では、レンズ部2の幾何中心O)から外側に向けて放射状に広がる。つまり、各々の分節領域20のうち、レンズ部2の中央部から外側に向けて延びる直線状の境界線(端部)は、全て同一の基準点を通過する。従って、装用者の瞳孔が小さくなっても、レンズ部2の中央部に一定の領域(例えば円形の領域等)を別途形成する場合に比べて、複数の分節領域20の各々を通過する光の量が確保され易くなる。その結果、装用者の瞳孔の大きさに関わらず、多焦点の効果が得られ易くなるので、装用者の視野が良好になり易くなる。ただし、レンズ部2の中央部に一定の領域を設けることも可能である。この場合でも、複数の領域が同心円状に配置される場合に比べて、装用者の瞳孔の大きさに関わらず多焦点の効果が得られ易くなる。
【0055】
図6は、遠用領域20Aと近用領域20Bについて、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つレンズ部2のレンズ面に対して垂直な断面の断面図を模式的に比較した図である。図6に示すように、本実施形態の眼内レンズ1に形成された複数の分節領域20は、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。なお、各々の分節領域20のレンズ面は、球面でもよいし非球面でもよい。レンズ面が非球面である場合、本開示における「曲率半径」の用語は、非球面のレンズ面に近似させた球面の曲率半径として解釈してもよい。
【0056】
図6に示す例では、屈折力が小さい遠用領域20Aの曲率半径は、屈折力が大きい近用領域20Bの曲率半径よりも大きくなる。換言すると、屈折力が小さい遠用領域20Aのレンズ面のカーブは、屈折力が大きい近用領域20Bのレンズ面のカーブよりも緩やかになる。複数の分節領域20の各々の曲率半径を変えて、各々の分節領域20の屈折力を変えることで、分節領域20の各々に異なる微小プリズム群等を形成して屈折力を変える場合に比べて、意図しない方向に散乱する光の量が減少する。その結果、網膜に至る光のロスが生じにくくなり、より良好な視野が得られ易くなる。また、本実施形態の眼内レンズ1は高い精度で加工し易く、且つ、眼内への挿入時に破損等が生じる可能性も低い。
【0057】
なお、図6に示すように、レンズ部2の幾何中心Oには段差等は設けられていない。従って、屈折力が大きい部位(レンズ面のカーブが急な部位)のレンズ部2の側面(コバ部)の厚みは、屈折力が小さい部位(レンズ面のカーブが緩やかな部位)のレンズ部2の側面の厚みよりも小さくなる。
【0058】
図5に示すように、レンズ部2をレンズ面に対して垂直な方向から見た場合に、レンズ部2における複数の分節領域20の間には移行部21(21A,21B,21C)が形成されている。各々の移行部21は、自身を介して互いに隣接する一対の分節領域20の一方の分節領域20の端部から、他方の分節領域20の端部へかけて曲率半径が連続的に変化することで、一対の分節領域20の端部同士を滑らかに接続する。
【0059】
図5に示す例では、遠用領域20Aの屈折力は0D、近用領域20Bの屈折力は+3.25D、中間領域20Cの屈折力は+2.0Dとされている。従って、遠用領域20Aと近用領域20Bの間に形成された移行部21Aでは、遠用領域20A側の端部から近用領域20B側の端部へ近づくに従って、屈折力が0Dから+3.25Dへ滑らかに変化する。近用領域20Bと中間領域20Cの間に形成された移行部21Bでは、近用領域20B側の端部から中間領域20C側の端部へ近づくに従って、屈折力が+3.25Dから+2.0Dへ滑らかに変化する。中間領域20Cと遠用領域20Aの間に形成された移行部21Cでは、中間領域20C側の端部から遠用領域20A側の端部へ近づくに従って、屈折力が+2.0Dから0Dへ滑らかに変化する。
【0060】
レンズ部2に移行部21が形成されない場合、互いに隣接する一対の分節領域20の境界には段差等が生じる場合があるので、段差等によって光が乱反射して視野が悪化する現象(例えば、ハローまたはグレア等)が生じる場合もある。これに対し、隣接する一対の分節領域20の間に移行部21が形成されることで、段差等による光の乱反射の影響が生じにくくなる。さらに、レンズ部2に移行部21が形成される場合、移行部21内の各領域の屈折力は、隣接する一方の分節領域20の屈折力から、他方の分節領域20の屈折力へと滑らかに移行する。その結果、レンズ部2には、各々の分節領域20の屈折力に加えて、各分節領域20の屈折力の間の屈折力も付与される。よって、レンズ部2に移行部21を形成することで、多焦点眼内レンズの焦点深度拡張(EDOF:Expanded Depth of Focus)の効果も適切に得られる。
【0061】
本実施形態の眼内レンズ1では、分節領域20および移行部21の両方が、レンズ部2の光軸に対して平行にレンズ部2に入射する光を、光軸に近づく方向に屈折させる。その結果、レンズ部2を通過する光のうち、網膜に到達せずにロスする光の量が減少する。よって、より良好な視野が得られ易くなる。
【0062】
レンズ部2の中央部(本実施形態では、基準点である幾何中心O)から外側に広がる各々の移行部21の中心角は、5度以上30度以下に設計されている。この場合、複数の分節領域20による多焦点の効果と、焦点深度拡張効果が共に適切に得られ易くなる。なお、各々の移行部21の中心角は、15度以上20度以下に設計されていることがより望ましい。一例として、図5に例示する眼内レンズ1に形成された3つの移行部21の中心角は、全て20度に設計されている。ただし、複数の移行部21をレンズ部2に形成する場合、各々の移行部21の中心角は同一でなくてもよいことは言うまでもない。
【0063】
レンズ部2の中央部から外側に広がる、遠用領域20A、近用領域20B、および中間領域20Cの各々の中心角は、遠用領域20Aの中心角CAが最も大きく、中間領域20Cの中心角CCが最も小さく設計されている。この場合、遠用領域20Aによる遠方視と、近用領域20Bによる近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなる。
【0064】
詳細には、遠用領域20Aの中心角CAは140度以上、近用領域20Bの中心角CBは90度以上、中間領域20Cの中心角CCは30度以上に設計されている。この場合、遠用領域20Aによる遠方視と、近用領域20Bによる近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなる。一例として、図5に例示する眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角CAは150度、近用領域20Bの中心角CBは100度、中間領域20Cの中心角CCは50度に設計されている。
【0065】
本実施形態の眼内レンズ1では、近用領域20Bの屈折力は+2.5D以上+4.0D以下、中間領域20Cの屈折力は+1.0D以上+2.5D以下に設計されている。この場合、複数の分節領域20による多焦点の効果と、焦点深度拡張効果が共に適切に得られ易くなる。なお、近用領域20Bの屈折力は+3.0D以上+3.5D以下、中間領域20Cの屈折力は+1.5D以上+2.0D以下に設計されていることがより望ましい。一例として、図5に例示する眼内レンズ1では、遠用領域20Aの屈折力は0D、近用領域20Bの屈折力は+3.25D、中間領域20Cの屈折力は+2.0Dに設計されている。
【0066】
レンズ部2の前面および後面の少なくとも一方に、装用者の乱視を矯正するトーリック面を形成することも可能である。この場合、遠方視と近方視が共に得られることに加え、装用者の乱視も矯正できる眼内レンズ1が提供される。なお、複数の分節領域20は、レンズ面における前面(つまり、装用者の眼内に装着された際に、眼の前側(角膜側)を向く面)に形成されていてもよい。この場合、レンズ面の後面の形状が滑らかになり易くなるので、レンズ面の後面と眼の後嚢の間に細胞等が入り込んで後発白内障が発生することが抑制され易くなる。また、レンズ面における前面に、複数の分節領域20とトーリック面が共に形成されてもよい。この場合、レンズ面にトーリック面を形成する場合でも後発白内障の発生が抑制され易くなる。ただし、分節領域20とトーリック面の少なくとも一方を、レンズ面の後面に形成することも可能である。分節領域20が形成される面と、トーリック面が形成される面が異なっていてもよい。
【0067】
図7を参照して、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を変えた場合のMTFの特性について説明する。MTF(Modulation Transfer Function)とは、コントラストを示す指標である。図7のグラフでは、デフォーカス量(焦点ずれ、度数ずれの量)を横軸、MTFを縦軸とする、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線を示す。
【0068】
図7でMTF曲線が示されたA,B,C,Dの4つの眼内レンズ1では、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角が、前述した望ましい条件の範囲内で変更されている。詳細には、Aの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.5Dとし、中間領域20Cの中心角を60度、屈折力を+1.75Dとしている。Bの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.25Dとし、中間領域20Cの中心角を60度、屈折力を+1.75Dとしている。Cの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.25Dとし、中間領域20Cの中心角を60度、屈折力を+2.0Dとしている。Dの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を170度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.25Dとし、中間領域20Cの中心角を70度、屈折力を+2.0Dとしている。図7でMTF曲線が示されたA,B,C,Dの4つの眼内レンズ1では、実際には、中心角が5度の移行部が各領域の間に設けられている。
【0069】
図7に示すように、A,B,C,Dの4つの眼内レンズ1のいずれにおいても、遠方視に対応するデフォーカス量0Dの近傍でMTFが極大値を有すると共に、近方視に対応するデフォーカス量-1.5D~-2.5Dの範囲でも極大値を有する。さらに、いずれの眼内レンズ1においても、遠方視および近方視の各々について焦点深度が適切に拡大されている。以上の結果から、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を、前述した望ましい条件の範囲内に設定することで、遠方視と近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなることが分かる。また、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を適宜調整することで、眼内レンズ1のMTFの特性を調整できることが分かる。
【0070】
図8を参照して、遠用領域と近用領域の間に移行部を形成しない場合と移行部を形成する場合のMTFの特性について説明する。図8のグラフでは、図7のグラフと同様に、デフォーカス量(焦点ずれ、度数ずれの量)を横軸、MTFを縦軸とする、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線を示す。
【0071】
図8では、遠用領域と近用領域の間に移行部を形成していない「移行部なし」の眼内レンズのMTF曲線と、遠用領域と近用領域の間に移行部を形成した「移行部あり」のMTF曲線が示されている。詳細には、「移行部なし」の眼内レンズでは、遠用領域の中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域の中心角を180度、屈折力を+3.0Dとしている。「移行部あり」の眼内レンズでは、遠用領域の中心角を90度、屈折力を0Dとし、近用領域の中心角を90度、屈折力を+3.0Dとしている。また、「移行部あり」の眼内レンズでは、遠用領域と近用領域の間に、中心角を90度とする2つの移行部が形成されている。
【0072】
図8に示すように、「移行部あり」の眼内レンズでは、遠方視に対応するMTFの極大値と、近方視に対応するMTFの極大値が、共に「移行部なし」の眼内レンズに比べて互いに近づいている。また、「移行部あり」の眼内レンズでは、「移行部なし」の眼内レンズに比べて焦点深度の拡大効果が向上している。以上のように、眼内レンズのレンズ部に移行部を形成することで、多焦点眼内レンズの焦点深度拡張(EDOF)の効果が適切に得られることが分かる。
【0073】
(レンズ部の断面積)
本実施形態の眼内レンズ1のレンズ部2の断面積について説明する。図4を参照して説明したように、本実施形態の眼内レンズは、眼内レンズ挿入器具100によって患者眼の眼内に挿入される。詳細には、眼内レンズ1は、押出部材310によって、眼内レンズ挿入器具100の通路内を押出軸Aに沿って前方に移動する。眼内レンズ1がノズル180に到達すると、先細りとなっている(つまり、前方に向かう程通路面積が小さくなる)ノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触することで、予め想定された眼内レンズ1の進行方向D(図1および図4参照)が、眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致する。その後、眼内レンズ1のレンズ部2は、先細りとなっているノズル180の内壁に接触することで小さく折り畳まれる。
【0074】
図4(e)において説明したように、後方支持部3Bがタッキングされた状態の眼内レンズ1を、押出部材310によってノズル180内で押し出すと、後方支持部3Bの基端部4B近傍がノズル180を通過する際に負荷が増加する場合がある。これは、後方支持部3Bの基端部4Bが折り曲げられることで増加する基端部4B近傍の眼内レンズ1の体積に、後方支持部4Bに接触しつつ眼内レンズ1を押し出す押出部材310の体積がさらに加わることで、後方支持部3Bの基端部4Bの近傍が小さく折り曲げられ難くなることが原因であると判明した。以下、後方支持部3Bの基端部4Bの近傍を小さく折り曲げるための眼内レンズ1の構成について説明する。
【0075】
まず、仮想断面について説明する。仮想断面とは、レンズ部2の幾何中心を通り、且つ、レンズ部2のレンズ面に対して垂直となる任意の方向の、レンズ部2の断面である。
【0076】
図5および図9に示すように、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100のノズル180によって折り畳まれる際に、眼内レンズ挿入器具100の押出軸A(図2および図4参照)に沿う方向の仮想断面を、軸上断面S1とする。前述したように、眼内レンズ1がノズル180に到達すると、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dは、押出軸Aと一致する。従って、軸上断面S1は、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つ、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dに沿う方向の仮想断面と表現することも可能である。
【0077】
次に、仮想部分断面について説明する。仮想部分断面とは、レンズ部2のレンズ面に対して垂直であり、且つ、レンズ部2の幾何中心から外側の任意の方向に延びる、レンズ部2の部分断面である。
【0078】
図5および図9に示すように、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100のノズル180によって折り畳まれる際に、レンズ部2の幾何中心Oから眼内レンズ挿入器具100の押出軸A(図2および図4参照)に沿って後方に延びる仮想部分断面を、軸上後方断面PS1とする。軸上後方断面PS1は、レンズ部2の幾何中心Oから、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dの後方に延びる仮想部分断面と表現することも可能である。
【0079】
また、参考として、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100のノズル180によって折り畳まれる際に、レンズ部2の幾何中心Oから眼内レンズ挿入器具100の押出軸A(図2および図4参照)に沿って前方に延びる仮想部分断面を、軸上前方断面PS2とする。軸上前方断面PS2は、レンズ部2の幾何中心Oから、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dの前方に延びる仮想部分断面と表現することも可能である。図5および図9に示すように、軸上断面S1は、軸上後方断面PS1と軸上前方断面PS2によって構成されることとなる。
【0080】
本実施形態の眼内レンズ1では、軸上後方断面PS1におけるレンズ部2の断面積が、他の任意の方向の仮想部分断面における断面積以下となる。その結果、押出部材310に近接する後方支持部3Bの基端部4B近傍の体積の増加が抑制されるので、後方支持部3Bの基端部4B近傍が小さく折り曲げられ易くなる。よって、本実施形態の眼内レンズ1は、眼内レンズ挿入器具100のノズル180の通路内を押出部材310によって押し出される際に、より小さく折り畳まれ易くなる。
【0081】
前述したように、レンズ部2では、屈折力が大きい部位の曲率半径は、屈折力が小さい部位の曲率半径よりも小さくなる。換言すると、レンズ部2では、屈折力が大きい部位のレンズ面のカーブは、屈折力が小さい部位のレンズ面のカーブよりも急になる。ここで、レンズ部2の幾何中心Oに段差を設けることは光学的に望ましくないので、想定される仮想部分断面の方向に関わらず、各々の仮想部分断面が通過する幾何中心Oにおけるレンズ部2の厚みは同一とされる。その結果、屈折力が大きい部位(レンズ面のカーブが急な部位)のレンズ部2の側面(コバ部)の厚みは、屈折力が小さい部位(レンズ面のカーブが緩やかな部位)のレンズ部2の側面の厚みよりも小さくなる。従って、任意の方向の仮想部分断面を想定すると、幾何中心Oから外側に向けて延びる仮想部分断面における屈折力が大きくなる程、仮想部分断面が位置する部位のレンズ部2の断面積は小さくなる。
【0082】
本実施形態の眼内レンズ1では、軸上後方断面PS1の位置におけるレンズ部2の屈折力が、他の任意の方向の仮想部分断面の位置におけるレンズ部2の屈折力以上となるように、レンズ部2が設計されている。従って、軸上後方断面PS1の位置におけるレンズ部2の断面積が適切に小さくなる。その結果、押出部材310に近接する後方支持部3Bの基端部4B近傍の体積の増加が抑制されるので、後方支持部3Bの基端部4B近傍が小さく折り曲げられ易くなる。
【0083】
換言すると、本実施形態の眼内レンズ1では、軸上後方断面PS1におけるレンズ部2の曲率半径が、他の任意の方向の仮想部分断面におけるレンズ部2の曲率半径以下となるように、レンズ部2が設計されている。その結果、押出部材310に近接する後方支持部3Bの基端部4B近傍の体積の増加が適切に抑制される。
【0084】
軸上後方断面PS1とレンズ部2の構成の関係について、さらに説明する。図5に示すように、本実施形態の眼内レンズ1のレンズ部2には、前面および後面の少なくとも一方に、複数の分節領域20(20A,20B,20C)が形成されている。複数の分節領域20は、レンズ部2の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。本実施形態の眼内レンズ1では、軸上後方断面PS1が、複数の分節領域20のうち、屈折力が最も大きい分節領域(図5に示す例では近用領域20B)を通過する。近用領域20Bを通過する仮想部分断面におけるレンズ部2の断面積は、他の領域(遠用領域20A,中間領域20C、および移行部21A,21B,21C)を通過する仮想部分断面におけるレンズ部2の断面積よりも小さくなる。従って、押出部材310に近接する後方支持部3Bの基端部4B近傍の体積の増加が適切に抑制される。つまり、本実施形態の眼内レンズ1では、複数の分節領域20を備えることによる効果(装用者の瞳孔の大きさに関わらず良好な視野を提供できる効果)と、後方支持部3Bの基端部4B近傍を小さく折り畳める効果が適切に両立される。
【0085】
眼内レンズ1の全体がノズル180の通路内を通過する際の負荷を考慮すると、押出部材310に近接する後方支持部3Bの基端部4B近傍の体積の増加を抑制することに加えて、押出軸A(図2および図4参照)に垂直な方向におけるレンズ部2の断面積の最大値も、極力小さくすることが望ましい。以下、押出軸Aに垂直な方向におけるレンズ部2の断面積の最大値を減少させるための構成について説明する。
【0086】
図5および図9に示すように、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100のノズル180によって折り畳まれる際に、レンズ部2の幾何中心Oから押出軸A(図2および図4参照)に対して垂直に延びる一対(2つ)の仮想部分断面を、垂直部分断面PL1,PL2とする。本実施形態では、レンズ部2の幾何中心Oから押出軸Aに対して垂直に左方に延びる仮想部分断面を、垂直部分断面PL1とする。また、レンズ部2の幾何中心Oから押出軸Aに対して垂直に右方に延びる仮想部分断面を、垂直部分断面PL2とする。一対の垂直部分断面PL1,PL2は、レンズ部2の幾何中心Oから、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dに対して垂直に延びる仮想部分断面と表現することも可能である。図5および図9に示すように、垂直断面S2は、一対の垂直部分断面PL1,PL2によって構成されることとなる。
【0087】
本実施形態の眼内レンズ1では、一対の垂直部分断面PL1,PL2のうちの少なくとも一方(本実施形態では、垂直部分断面PL1)におけるレンズ部2の断面積が、他の任意の方向の仮想部分断面におけるレンズ部2の断面積以下となるように、レンズ部2が設計されている。換言すると、一対の垂直部分断面PL1,PL2の少なくとも一方におけるレンズ部2の断面積が、軸上後方断面PS1におけるレンズ部2の断面積と一致している。その結果、押出軸Aに垂直な方向におけるレンズ部2の断面積の最大値も減少する。従って、後方支持部3Bの基端部4B近傍がノズル180を通過する際の負荷に加えて、レンズ部2の幾何中心Oがノズル180を通過する際の負荷も適切に減少する。
【0088】
前述したように、任意の方向の仮想部分断面を想定すると、仮想部分断面における屈折力が大きくなる程、仮想部分断面が位置する部位のレンズ部2の断面積は小さくなる。本実施形態の眼内レンズ1では、一対の垂直部分断面PL1,PL2のうちの少なくとも一方が位置する部位のレンズ部2の屈折力が、他の任意の方向の仮想部分断面が位置する部位のレンズ部2の屈折力以上となるように、眼内レンズ1が設計されている。その結果、押出軸Aに垂直な方向におけるレンズ部2の断面積の最大値が適切に減少する。
【0089】
換言すると、本実施形態の眼内レンズ1では、一対の垂直部分断面PL1,PL2のうちの少なくとも一方におけるレンズ部2の曲率半径が、他の任意の方向の仮想部分断面におけるレンズ部2の曲率半径以下となるように、眼内レンズ1が設計されている。その結果、押出軸Aに垂直な方向におけるレンズ部2の断面積の最大値が適切に減少する。
【0090】
一対の垂直部分断面PL1,PL2とレンズ部2の構成の関係について、さらに説明する。図5に示すように、本実施形態の眼内レンズ1のレンズ部2には複数の分節領域20(20A,20B,20C)が形成されている。本実施形態の眼内レンズ1では、一対の垂直部分断面PL1,PL2の少なくとも一方が、複数の分節領域20のうち、屈折力が最も大きい分節領域(図5に示す例では近用領域20B)を通過する。近用領域20Bを通過する仮想部分断面におけるレンズ部2の断面積は、他の領域(遠用領域20A,中間領域20C、および移行部21A,21B,21C)を通過する仮想部分断面におけるレンズ部2の断面積よりも小さくなる。従って、一対の垂直部分断面PL1,PL2の少なくとも一方が近用領域20Bを通過することで、押出軸Aに垂直な方向におけるレンズ部2の断面積の最大値が適切に減少する。
【0091】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。まず、上記実施形態で例示された複数の技術の一部のみを眼内レンズに採用することも可能である。例えば、一対の垂直部分断面PL1,PL2のうちの少なくとも一方におけるレンズ部2の断面積を、他の任意の方向の仮想部分断面におけるレンズ部2の断面積以下とする技術を採用しなくてもよい。この場合でも、軸上後方断面PS1におけるレンズ部2の断面積を、他の任意の方向の仮想部分断面における断面積以下とすることで、後方支持部3Bの基端部4B近傍が小さく折り曲げられ易くなる。
【0092】
軸上後方断面PS1が、複数の分節領域20のうち、屈折力が最も大きい分節領域(上記実施形態では近用領域20B)の中央部近傍を通過するように、眼内レンズ1が設計されてもよい。この場合、後方支持部3Bの基端部4B近傍が、さらに小さく折り曲げられ易くなる。なお、軸上後方断面PS1を通過させる近用領域20Bの中央部近傍の範囲は適宜設定できる。例えば、扇形である近用領域20Bの中心角をK度とする。また、幾何中心Oを通り、且つ、扇形である近用領域20Bを均等に二分割する線を中心線とする。この場合、中心線に対する軸上後方断面PS1の角度が0.2K度以下となる範囲、より望ましくは0.1K度以下となる範囲に、軸上後方断面PS1が配置されてもよい。この場合、後方支持部3Bの基端部4B近傍が、さらに小さく折り曲げられ易くなる。
【0093】
上記実施形態で例示した技術は、複数の分節領域20が形成されていない眼内レンズ(例えば、トーリック眼内レンズ等)に適用することも可能である。また、複数の分節領域20と、装用者に乱視を矯正するトーリック面の両方がレンズ部2に形成されていてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、先細りとなっているノズル180の内壁に、眼内レンズ1の前方支持部3Aが接触することで、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dが、眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致する。しかし、眼内レンズ1の進行方向Dを眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致させる方法を変更することも可能である。例えば、眼内レンズ1の進行方向Dを押出軸Aと略一致させるためのガイド等が、別途設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 眼内レンズ
2 レンズ部
3 支持部
4 基端部
20 分節領域
20A 遠用領域
20B 近用領域
20C 中間領域
21(21A,21B,21C) 移行部
100 眼内レンズ挿入器具
180 ノズル
183 挿入口
310 押出部材
A 押出軸
D 進行方向
O 幾何中心
S1 軸上断面
S2 垂直断面
PS1 軸上後方断面
PS2 軸上前方断面
PL1,PL2 垂直部分断面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9