(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145964
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電力制御装置、移動体および電力制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 9/04 20060101AFI20241004BHJP
B64D 27/24 20240101ALI20241004BHJP
H02P 101/25 20150101ALN20241004BHJP
H02P 103/20 20150101ALN20241004BHJP
【FI】
H02P9/04 F
B64D27/24
H02P101:25
H02P103:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058599
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】堤 大昂
(72)【発明者】
【氏名】細野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】北 章徳
【テーマコード(参考)】
5H590
【Fターム(参考)】
5H590AA03
5H590AB05
5H590CA08
5H590CC01
5H590CD03
5H590CE05
5H590EA01
5H590FA01
5H590FC12
5H590GB05
5H590HA06
5H590JA02
5H590JB02
5H590KK04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エンジンを再始動するための電力をバッテリから供給させるのみならず、当該バッテリから電気負荷に対しても電力を供給させる。
【解決手段】本開示に係る電力制御装置は、過度の出力電圧降下を招くことなくバッテリから出力可能な電力の最大値である最大電力値を示す情報と要求電力値を示す情報とを取得する取得部54と、停止した内燃機関を始動する際にバッテリから始動機構に供給可能な電力を示す供給可能電力値を最大電力値と要求電力値との差分に基づいて決定する決定部56と、決定部により決定された供給可能電力値に応じた電力を用いて内燃機関を始動させる制御部58と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に備えられる電気負荷に電力を供給する電力システムを制御する電力制御装置であって、
前記電力システムは、発電機を駆動する内燃機関と、前記発電機から出力される電力によって充電されるバッテリと、前記内燃機関を始動する始動機構と、を備え、前記移動体に備えられる移動体制御部からの出力要求によって示される要求電力値に応じた電力を出力し、
前記電力制御装置は、
前記バッテリから出力可能な電力の最大値である最大電力値を示す情報と、前記要求電力値を示す情報とを取得する取得部と、
停止した前記内燃機関を始動する際に前記バッテリから前記始動機構に供給可能な電力を示す供給可能電力値を、前記最大電力値と前記要求電力値との差分に基づいて決定する決定部と、
前記決定部により決定された前記供給可能電力値に応じた電力を用いて前記内燃機関を始動させる制御部と、
を備える、電力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力制御装置において、
前記最大電力値は、前記バッテリの残容量に応じた値である、電力制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力制御装置において、
前記最大電力値は、前記バッテリの残容量と、前記バッテリの内部抵抗とに応じた値である、電力制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電力制御装置において、
前記バッテリの残容量が大きいほど前記最大電力値が大きい、電力制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力制御装置において、
前記発電機は前記始動機構を兼ねる、電力制御装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電力制御装置を備える、移動体。
【請求項7】
移動体に備えられる電気負荷に電力を供給する電力システムを制御する電力制御方法であって、
前記電力システムは、発電機を駆動する内燃機関と、前記発電機から出力される電力によって充電されるバッテリと、前記内燃機関を始動する始動機構と、を備え、前記移動体に備えられる移動体制御部からの出力要求によって示される要求電力値に応じた電力を出力し、
前記電力制御方法は、
前記バッテリから出力可能な電力の最大値である最大電力値を示す情報と、前記要求電力値を示す情報とを取得する取得ステップと、
停止した前記内燃機関を始動する際に前記バッテリから前記始動機構に供給可能な電力を示す供給可能電力値を、前記最大電力値と前記要求電力値との差分に基づいて決定する決定ステップと、
前記決定ステップにより決定された前記供給可能電力値に応じた電力を用いて前記内燃機関を始動させる制御ステップと、
を有する、電力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力制御装置、移動体および電力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に係る航空機には、電池(バッテリ)を具備する非再充電不可の一次電気貯蔵ユニットと、エンジン(内燃機関)とが備えられている。一次電気貯蔵ユニットは、内燃機関が停止した緊急時等において活性化され、内燃機関を迅速に再始動させるべく電力を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンが再始動される場合は、エンジンによって駆動される発電機から電気負荷に電力を供給することはできない。したがって、エンジンが再始動される場合は、バッテリから電気負荷に電力を供給することが考えられる。しかしながら、特許文献1に係る一次電気貯蔵ユニットは、エンジンを再始動するための電力供給と、電気負荷に対する電力供給とを両立できない。この場合は、電気負荷に対する電力供給を実現するために、一次電気貯蔵ユニットとは別のバッテリを用いることが考えられるが、移動体に備えられるバッテリの数が増加することにより、当該移動体の重量が増加する。移動体の重量が増加することで、当該移動体の燃費が悪化する。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、移動体に備えられる電気負荷に電力を供給する電力システムを制御する電力制御装置であって、前記電力システムは、発電機を駆動する内燃機関と、前記発電機から出力される電力によって充電されるバッテリと、前記内燃機関を始動する始動機構と、を備え、前記移動体に備えられる移動体制御部からの出力要求によって示される要求電力値に応じた電力を出力し、前記電力制御装置は、前記バッテリから出力可能な電力の最大値である最大電力値を示す情報と、前記要求電力値を示す情報とを取得する取得部と、停止した前記内燃機関を始動する際に前記バッテリから前記始動機構に供給可能な電力を示す供給可能電力値を、前記最大電力値と前記要求電力値との差分に基づいて決定する決定部と、前記決定部により決定された前記供給可能電力値に応じた電力を用いて前記内燃機関を始動させる制御部と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る電力制御装置を備える、移動体である。
【0008】
本発明の第3の態様は、移動体に備えられる電気負荷に電力を供給する電力システムを制御する電力制御方法であって、前記電力システムは、発電機を駆動する内燃機関と、前記発電機から出力される電力によって充電されるバッテリと、前記内燃機関を始動する始動機構と、を備え、前記移動体に備えられる移動体制御部からの出力要求によって示される要求電力値に応じた電力を出力し、前記電力制御方法は、前記バッテリから出力可能な電力の最大値である最大電力値を示す情報と、前記要求電力値を示す情報とを取得する取得ステップと、停止した前記内燃機関を始動する際に前記バッテリから前記始動機構に供給可能な電力を示す供給可能電力値を、前記最大電力値と前記要求電力値との差分に基づいて決定する決定ステップと、前記決定ステップにより決定された前記供給可能電力値に応じた電力を用いて前記内燃機関を始動させる制御ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エンジンを再始動するための電力をバッテリから供給させるのみならず、当該バッテリから電気負荷に対しても電力を供給させることができる。その結果、バッテリの数の増加が抑制されるので、移動体の燃費の悪化も抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る移動体の模式図である。
【
図2】
図2は、電力システムの一部を示す模式図である。
【
図3】
図3は、移動体制御部と電力制御装置とを示すブロック図である。
【
図4】
図4は、制御マップの一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、供給可能電力値の決定方法を示すブロック線図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る電力制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
内燃機関が停止した際には、内燃機関を始動させる始動機構にバッテリから電力を供給しつつ、始動機構以外の電気負荷にもバッテリから電力が供給される。始動機構に供給する電力が比較的大きいため、単に再始動を行った場合には、バッテリに過度な電圧降下が生じるおそれがある。バッテリに過度な電圧降下が生じると、電気負荷の動作に不具合が生じるおそれがある。このような課題を踏まえ、以下に一実施形態が説明される。
【0012】
(一実施形態)
図1は、本実施形態に係る移動体10の模式図である。
【0013】
移動体10は、例えば、人を乗せて移動する乗り物である。本実施形態では、移動体10がeVTOL(electronic Vertical Take-Off and Landing aircraft)である場合を説明するが、これに限定されない。
【0014】
移動体10は、機体(ボディ)12と、前翼14と、後翼16とを備える。また、移動体10には、後述する電力システム24、移動体制御部46等がさらに備えられる。
【0015】
機体12には不図示のコクピット、キャビン等が設けられる。コクピットにはパイロットが搭乗する。キャビンには乗客等が搭乗する。
【0016】
前翼14と後翼16との各々は、機体12に取り付けられる固定翼である。前翼14は後翼16に対して前方に位置する。固定翼は機体12が前進することに応じて揚力を発生させる。
【0017】
移動体10は、複数のロータ18をさらに備える。複数のロータ18の各々は電動ロータである。複数のロータ18には、複数の揚力ロータ20(201~208)と、複数の巡航ロータ22(221、222)とが含まれる。
【0018】
揚力ロータ20は、鉛直方向に沿った推力(揚力)を発生させるためのロータ18である。複数の揚力ロータ20は、前後方向に延びる機体12の中心線LAを対称の中心として、線対称に設けられる。複数の揚力ロータ20は、例えば、機体12に備えられた左右一対のブーム26に設置される。移動体10は、揚力ロータ20が発生させる揚力によって、鉛直方向に浮上することができる。
図1に示されている揚力ロータ20の数は8つであるが、移動体10に備えられ得る揚力ロータ20の数はこれに限定されない。
【0019】
巡航ロータ22は、水平方向に沿った推力を発生させるためのロータ18である。移動体10は、巡航ロータ22が発生させる推力によって、前進することができる。巡航ロータ22は、例えば機体12の後部に取り付けられる。
図1に示されている巡航ロータ22の数は2つであるが、移動体10に備えられ得る巡航ロータ22の数はこれに限定されない。
【0020】
上述した複数のロータ18は、電力システム24から供給される電力を用いて、駆動される。電力システム24は、移動体10に備えられている。
【0021】
図2は、電力システム24の一部を示す模式図である。
【0022】
電力システム24には、第1系統24Aと第2系統24Bとが含まれる。第1系統24Aと第2系統24Bとの各々は、移動体10に備えられている電気負荷28に電力を供給する。なお、上述した複数のロータ18の各々が電気負荷28に該当するが、これに限定されない。移動体10に備えられる冷却システム、ECU(Electronic Control Unit)等も、電気負荷28に該当する。
【0023】
第1系統24Aは、複数のインバータ30(301)と、2つのバッテリ32(321)と、発電モジュール34(341)と、スイッチ36(361)とを備える。第1系統24Aには2つのスイッチ361が備えられている。
【0024】
上述した揚力ロータ201と、揚力ロータ202と、巡航ロータ221とは、互いに異なるロータ用電動機60によって駆動される。これらのロータ用電動機60は、互いに異なるインバータ301によって駆動される。これらのインバータ301には、2つのバッテリ321のうちの一方からの電力が供給される。
【0025】
また、上述した揚力ロータ203と、揚力ロータ204と、巡航ロータ222とは、互いに異なるロータ用電動機60によって駆動される。これらのロータ用電動機60は、互いに異なるインバータ301によって駆動される。これらのインバータ301には、2つのバッテリ321のうちの他方からの電力が供給される。
【0026】
インバータ301は、当該インバータ301に入力された直流の電力を、交流の電力に変換する。また、インバータ301は、直流の電力を変換して得られた交流の電力を、ロータ用電動機60に供給する。これにより、ロータ用電動機60が駆動される。なお、インバータ301に入力される直流の電力は、バッテリ321、PCU381等から出力される。
【0027】
発電モジュール341は、PCU38(381)と、発電機40(401)と、内燃機関44(441)とを備える。PCU38は、パワーコントロールユニットである。複数のバッテリ321は、互いに異なるスイッチ361を介してPCU381に接続される。発電機401は、PCU381を介して2つのバッテリ321と接続される。内燃機関441は、発電機401を介してPCU381と接続される。
【0028】
2つのスイッチ361の各々は、スイッチング素子、ダイオード等を備える。2つのスイッチ361のうちの一方は、2つのバッテリ321のうちの一方と、PCU381との間に挿入される。2つのスイッチ361のうちの他方は、2つのバッテリ321のうちの他方と、PCU381との間に挿入される。スイッチ361がオン状態である場合には、当該スイッチ361に対応するバッテリ321から発電機401への電力供給が許容される。スイッチ361がオフ状態である場合には、当該スイッチ361に対応するバッテリ321から発電機401への電力供給は許容されない。
【0029】
内燃機関441は、例えばガスタービンエンジンである。内燃機関441には、不図示の回転軸(出力軸)が備えられている。当該回転軸は発電機401に接続されている。
【0030】
発電機401は、例えばモータジェネレータを備える。発電機401は、バッテリ321から供給される電力を用いて、内燃機関441に対するモータリングを行う。すなわち、発電機401は、バッテリ321から電力供給されることで、内燃機関441を始動する始動機構42(421)として機能する。
【0031】
発電機40が始動機構42を兼ねているのは、始動機構と発電機とを別個に設ける場合と比較して、移動体10に備えられる部品の点数を抑制し得るためである。その結果、移動体10の重量の増加が抑制されるので、移動体10の燃費を向上させることができる。
【0032】
内燃機関441が始動された後には、内燃機関441が発電機401を駆動する。内燃機関441によって駆動される発電機401は、PCU381を介して、複数の電気負荷28に電力を供給することができる。また、内燃機関441によって駆動される発電機401は、PCU381を介して、充電のための電力をバッテリ321に供給することができる。なお、発電機401から電気負荷28、バッテリ321等への電力供給は、スイッチ361のオンオフ状態に関わらず許容される。
【0033】
発電機401から出力される電力は、交流の電力である。したがって、PCU381には、発電機401から交流の電力が入力される。
【0034】
PCU381は、不図示のインバータ、コンバータ等を備える。PCU381は、発電機40が出力した交流の電力を、直流の電力に変換する。これにより、上述したように、バッテリ321、インバータ301等に直流の電力が供給される。
【0035】
第2系統24Bは、基本的には第1系統24Aと同様の構成を有する。これを踏まえ、第1系統24Aと同様の事項については、適宜説明を省略する。
【0036】
第2系統24Bは、複数のインバータ30(302)と、2つのバッテリ32(322)と、発電モジュール34(342)と、2つのスイッチ36(362)とを備える。発電モジュール342は、PCU38(382)と、発電機40(402)と、内燃機関44(442)とを備える。発電機402は、内燃機関442を始動させる始動機構42(422)を兼ねる。
【0037】
上述した揚力ロータ205と、揚力ロータ206と、巡航ロータ221とは、互いに異なるロータ用電動機60によって駆動される。これらのロータ用電動機60は、互いに異なるインバータ302によって駆動される。これらのインバータ302には、2つのバッテリ322のうちの一方からの電力が供給される。
【0038】
また、上述した揚力ロータ207と、揚力ロータ208と、巡航ロータ222とは、互いに異なるロータ用電動機60によって駆動される。これらのロータ用電動機60は、互いに異なるインバータ302によって駆動される。これらのインバータ302には、2つのバッテリ322のうちの他方からの電力が供給される。
【0039】
インバータ302には、バッテリ322、PCU382等から直流の電力が入力される。インバータ302は、当該インバータ302に入力された直流の電力を、交流の電力に変換する。また、インバータ302は、直流の電力を変換して得られた交流の電力を、ロータ用電動機60に供給する。これにより、ロータ用電動機60が駆動される。
【0040】
図2に示した電力システム24によれば、前後方向に隣り合う任意の2つの揚力ロータ20のうちの一方の揚力ロータ20は第1系統24Aに接続されるとともに、他方の揚力ロータ20は第2系統24Bに接続される(
図1も参照)。また、左右方向に隣り合う任意の2つの揚力ロータ20のうちの一方の揚力ロータ20は第1系統24Aに接続されるとともに、他方の揚力ロータ20は第2系統24Bに接続される。このようにすれば、仮に第1系統24Aと第2系統24Bとのうちの一方が失陥した場合であっても、移動体10の姿勢を安定させやすい。
【0041】
図2に示した電力システム24によれば、複数の巡航ロータ22の各々は、第1系統24Aと第2系統24Bとの両方に接続される。このようにすれば、仮に第1系統24Aと第2系統24Bとのうちの一方が失陥した場合であっても、複数の巡航ロータ22の両方を駆動させ続けることができる。
【0042】
図3は、移動体制御部46と電力制御装置48とを示すブロック図である。
【0043】
電力システム24は、移動体制御部46と電力制御装置48とによって制御される。移動体制御部46は、例えばeVTOL(航空機)である移動体10の空中姿勢を制御するためのフライトコントローラである。移動体制御部46は、例えばプロセッサ、メモリ等を備える。移動体制御部46のプロセッサは、メモリによって記憶されたプログラムに基づいて、電力システム24に出力要求を出力する。この出力要求は、電力システム24に要求されている電力の値である要求電力値を示す。電力システム24は、要求電力値に応じた電力を出力することができる。
【0044】
電力制御装置48は、電力システム24を制御するコンピュータ(一以上の処理回路)である。
図3に示すように、電力制御装置48は、電力システム24に備えられ得る。例えば、電力制御装置48は、上述したPCU38に備えられる。後述する電力制御装置48の少なくとも一部は、移動体制御部46に備えられてもよい。
【0045】
電力制御装置48は、記憶部50と演算部52とを備える。
【0046】
記憶部50は、例えば1以上のメモリを有する。より具体的には、記憶部50は、例えば、RAM(Random Access Memory)等の不揮発性メモリと、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の揮発性メモリとを有する。不揮発性メモリは、例えば、コンピュータ実行可能なプログラムを記憶する。揮発性メモリは、例えば、後述するプロセッサ(演算部52)がプログラムに基づいて演算を行う際に一時的に必要なデータ等を記憶する。
【0047】
演算部52は、所定の処理回路(Processing circuitry)を有する。この処理回路は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサを1以上備える。上記の処理回路の少なくとも一部が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の所定の集積回路によって実現されてもよい。
【0048】
演算部52は、取得部54と、決定部56と、制御部58とを備える。取得部54と、決定部56と、制御部58とは、例えば、記憶部50のメモリが記憶しているプログラムを演算部52のプロセッサが実行することによって、実現される。上述した集積回路等によって、取得部54と、決定部56と、制御部58とのうちの少なくとも一部が実現されてもよい。
【0049】
取得部54は、要求電力情報と最大バッテリ出力情報とを取得する。
【0050】
要求電力情報は、上述した要求電力値を示す情報である。取得部54は、例えば上述した移動体制御部46から、要求電力情報を取得することができる。この場合には、例えば、上述した出力要求が、要求電力情報として取得される。
【0051】
最大バッテリ出力情報は、バッテリ32の最大電力値を示す情報である。バッテリ32の最大電力値は、過度の出力電圧降下を招くことなくバッテリ32から出力可能な電力の最大値でもよい。上述したような最大電力値は、実験に基づいて得ることができる。出力電圧降下は、バッテリ32が電力を出力する際にバッテリ32に生じる電圧降下である。この出力電圧降下の量があらかじめ決められた電圧降下閾値を超える場合には、過度の出力電圧降下が生じると判断される。バッテリ32の最大電力値は、バッテリ32の残容量(SOC: State Of Charge)に応じて、あらかじめ決められている。換言すれば、過度の出力電圧降下が生じないバッテリ32の出力の上限値は、バッテリ32の残容量に応じて、あらかじめ決められている。バッテリ32の残容量が大きいほど、最大電力値は大きく設定される。
【0052】
記憶部50には、上述したバッテリ32の最大電力値と、バッテリ32の残容量との対応関係を示す制御マップMPが、あらかじめ記憶され得る。
図4は、制御マップMPの一例を示すグラフである。
図4の縦軸は、バッテリ32の最大電力値を示す。
図4の横軸は、バッテリ32の残容量を示す。このような制御マップMPは、例えば実験に基づいて作成され得る。取得部54は、バッテリ32の残容量を示す情報を取得するとともに、上記制御マップに基づいて、バッテリ32の最大電力値を特定することができる。これにより、取得部54は、上述した最大バッテリ出力情報を取得することができる。より好ましくは、バッテリ32の最大電力値は、バッテリ32の残容量のみならず、バッテリ32の内部抵抗に応じて決められる。バッテリ32の内部抵抗は、バッテリ32の温度、通電時間等に依存して変化する。バッテリ32の残容量のみならずバッテリ32の内部抵抗に応じて最大電力値を算出することで、最大電力値の算出精度が向上し、上述した電圧降下が生じる可能性等をより一層抑制することができる。なお、上述した制御マップMPによって、バッテリ32の残容量と内部抵抗とに応じた最大電力値が特定されるようにしてもよい。
【0053】
なお、上述した移動体制御部46が、上記制御マップMPを用いて、バッテリ32の最大電力値を特定してもよい。その場合には、取得部54は、移動体制御部46から最大バッテリ出力情報を取得してもよい。
【0054】
決定部56は、最大電力値と要求電力値との差分に基づいて、供給可能電力値を決定する。供給可能電力値は、停止した内燃機関44を始動する際にバッテリ32から始動機構42に供給可能な電力を示す値である。
【0055】
図5は、供給可能電力値の決定方法を示すブロック線図である。
図5に示すように、供給可能電力値は、最大電力値から要求電力値を減算することにより決定され得る。
【0056】
制御部58は、決定部56により決定された供給可能電力値に応じた電力を用いて内燃機関44を始動させる。この場合に、制御部58は、始動機構42の消費電力を制御して、バッテリ32から出力される電力が供給可能電力を超過しないようにする。制御部58は、内燃機関44に備えられている不図示の回転軸(出力軸)の回転数が所定の目標回転数に達するまで、始動機構42の消費電力を制御する。例えば、制御部58は、停止状態にあった内燃機関44が定常状態に遷移するまで、バッテリ32から出力される電力が供給可能電力を超過しないように、始動機構42の消費電力を制御する。
【0057】
内燃機関44を再始動させる際にバッテリ32から発電機40に供給される電力を供給可能電力値に基づいて制限する理由の1つは、次のとおりである。上述したように、移動体10には複数の電気負荷28が備えられている。複数の電気負荷28には、上述した複数のロータ18、ECU等が含まれている。仮に、移動体10が移動している際に内燃機関44を再始動する必要が生じた場合には、始動機構42に対する電力供給と、複数のロータ18、ECU等に対する電力供給とを、バッテリ32を用いて達成する必要がある。内燃機関44が再始動される際にも複数のロータ18、ECU等への電力供給を継続するのは、移動体10の移動状態(例えば飛行状態)を維持するためである。しかしながら、上述した過度の出力電圧降下がバッテリ32に生じると、発電機40、電気負荷28等の駆動に悪影響が及ぼされるおそれがある。そこで、本実施形態では、上述したように、内燃機関44を再始動させる際にバッテリ32から発電機40に供給される電力が、供給可能電力値に基づいて制限されるようにした。決定部56は、バッテリ32の残容量に基づいて、過度の出力電圧降下がバッテリ32に生じない供給可能電力値を決定することができる。この供給可能電力値に基づいて制御部58が電力システム24を制御することで、発電機40、電気負荷28等の駆動に悪影響が及ぼされることを抑制しつつ内燃機関44を始動させることが可能となる。
【0058】
なお、バッテリ32の残容量は、発電機40、電気負荷28等に電力を出力することで減少する。これを踏まえ、決定部56は、内燃機関44が始動されるまでの間に、バッテリ32の残容量の変動に応じて、供給可能電力値を逐次再決定してもよい。これにより、発電機40、電気負荷28等の駆動に悪影響が及ぼされることをより確実に抑制しつつ、内燃機関44を始動させることが可能となる。
【0059】
本実施形態によれば、発電機40(始動機構42)に対する電力供給と、電気負荷28に対する電力供給とが、同一のバッテリ32によって行われ得る。したがって、例えば発電機40(始動機構42)に対する電力供給を行うためのバッテリ32と、複数の電気負荷28に対する電力供給を行うためのバッテリ32とを別々に用意する必要がない。これにより、移動体10に備えられる部品の点数の増加が抑制される。その結果、移動体10の重量の増加が抑制されるので、移動体10の燃費を向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、バッテリ32の残容量が大きいほど、バッテリ32から出力可能な電力の最大値は大きい。すなわち、バッテリ32の残容量が比較的大きい場合には、供給可能電力値も比較的大きい。制御部58は、比較的大きい供給可能電力値に基づいて始動機構42の消費電力を制御することで、バッテリ32に過度の出力電圧降下等を生じさせることなしに、内燃機関44の出力軸の回転数を比較的速やかに上昇させることができる。その結果、発電機40、電気負荷28等の駆動に悪影響が及ぼされない範囲内で、内燃機関44を始動させるために要する時間を最大限に短縮することが可能となる。
【0061】
また、内燃機関44の出力軸の回転数が比較的速やかに上昇されることにより、内燃機関44が始動した後におけるバッテリ32の充電に要する時間も短縮される。その理由の1つは、次のとおりである。実際の内燃機関44には、不図示のコンプレッサが備えられ得る。例えば、ガスタービンエンジンである内燃機関44には、不図示のエアコンプレッサが備えられ得る。このコンプレッサは、バッテリ32から始動機構42に供給される電力の一部を、空気圧縮、機械損等のために消費する。換言すれば、内燃機関44のコンプレッサは、内燃機関44の出力軸の回転数を維持および上昇させるためにバッテリ32から始動機構42に供給されるエネルギの一部に損失を発生させる。内燃機関44を始動するためにバッテリ32から始動機構42に電力が供給されている期間においてコンプレッサに起因して発生するエネルギ損失量は、当該期間の長さに応じて増大する。ただし、上述したように、制御部58は、内燃機関44の出力軸の回転数を比較的速やかに上昇させることができる。これにより、内燃機関44を始動するためにバッテリ32から始動機構42に電力が供給される期間の長さが最低限に抑制されるので、コンプレッサによって消費されるバッテリ32の出力も最低限に抑制される。その結果、内燃機関44を始動するためにバッテリ32から始動機構42に電力が供給される期間におけるバッテリ32の消費量が、最低限に抑制される。そのため、内燃機関44が始動した後におけるバッテリ32の充電に要する時間は最低限で済む。
【0062】
図6は、一実施形態に係る電力制御方法を示すフローチャートである。
【0063】
電力制御装置48は、
図6に示す電力制御方法を実行することができる。この電力制御方法は、例えば、電力制御装置48が記憶部50(メモリ)に記憶されているプログラムを実行することで、実現され得る。電力制御方法は、取得ステップS1と、決定ステップS2と、制御ステップS3とを有する。
【0064】
図6に示す電力制御方法は、例えば、移動体10が移動している際に、内燃機関44を再始動させる必要が生じた場合に、開始される。
【0065】
取得ステップS1では、取得部54が、要求電力情報(要求電力値)と最大バッテリ出力情報(最大出力値)とを取得する。
【0066】
決定ステップS2では、決定部56が、最大電力値と要求電力値との差分に基づいて、供給可能電力値を決定する。
【0067】
制御ステップS3では、決定部56により決定された供給可能電力値に応じた電力を用いて内燃機関44が始動される。制御ステップS3において、制御部58は、始動機構42の消費電力を制御して、バッテリ32から出力される電力が供給可能電力を超過しないようにする。
【0068】
こうして、
図6に示す電力制御方法は終了する。なお、上述したように、決定部56は、内燃機関44が始動されるまでの間に、バッテリ32の残容量の変動に応じて、供給可能電力値を逐次再決定してもよい。この場合には、
図6に示す電力制御方法は、内燃機関44が始動されるまでの間に繰り返し実行され得る。
【0069】
上記実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0070】
(付記1)
本開示に係る電力制御装置(48)は、移動体(10)に備えられる電気負荷(28)に電力を供給する電力システム(24)を制御する電力制御装置であって、前記電力システムは、発電機(40)を駆動する内燃機関(44)と、前記発電機から出力される電力によって充電されるバッテリ(32)と、前記内燃機関を始動する始動機構(42)と、を備え、前記移動体に備えられる移動体制御部(46)からの出力要求によって示される要求電力値に応じた電力を出力し、前記電力制御装置は、前記バッテリから出力可能な電力の最大値である最大電力値を示す情報と、前記要求電力値を示す情報とを取得する取得部(54)と、停止した前記内燃機関を始動する際に前記バッテリから前記始動機構に供給可能な電力を示す供給可能電力値を、前記最大電力値と前記要求電力値との差分に基づいて決定する決定部(56)と、前記決定部により決定された前記供給可能電力値に応じた電力を用いて前記内燃機関を始動させる制御部(58)と、を備える。これにより、エンジンを再始動するための電力をバッテリから供給させるのみならず、当該バッテリから電気負荷に対しても電力を供給させることができる。
【0071】
(付記2)
付記1に記載の電力制御装置において、前記最大電力値は、前記バッテリの残容量に応じた値でもよい。これにより、バッテリの劣化抑制と、バッテリの発熱抑制とを実現し得る。すなわち、電気負荷の駆動に支障を及ぼす恐れが生じる程にバッテリが大きな出力を行なうことが防止されるので、当該バッテリの発熱と、そのような大きな出力が繰り返し行われることに起因するバッテリ劣化とを抑制することが可能である。
【0072】
(付記3)
付記2に記載の電力制御装置において、前記最大電力値は、前記バッテリの残容量と、前記バッテリの内部抵抗とに応じた値でもよい。これにより、最大電力値の算出精度が向上し、上述した電圧降下の生じる可能性がより一層抑制される。
【0073】
(付記4)
付記2または付記3に記載の電力制御装置において、前記バッテリの残容量が大きいほど前記最大電力値が大きくてもよい。これにより、バッテリに過度の出力電圧降下が生じない範囲内で、内燃機関を速やかに始動させることができる。
【0074】
(付記5)
付記1~付記4のいずれか1つに記載の電力制御装置において、前記発電機は前記始動機構を兼ねてもよい。これにより、移動体に備えられる部品点数の増加が抑制される。
【0075】
(付記6)
本開示に係る移動体(10)は、付記1~付記6のいずれか1つに記載の電力制御装置を備える。
【0076】
(付記7)
本開示に係る電力制御方法は、移動体(10)に備えられる電気負荷(28)に電力を供給する電力システム(24)を制御する電力制御方法であって、前記電力システムは、発電機(40)を駆動する内燃機関(44)と、前記発電機から出力される電力によって充電されるバッテリ(32)と、前記内燃機関を始動する始動機構(42)と、を備え、前記移動体に備えられる移動体制御部(46)からの出力要求によって示される要求電力値に応じた電力を出力し、前記電力制御方法は、前記バッテリから出力可能な電力の最大値である最大電力値を示す情報と、前記要求電力値を示す情報とを取得する取得ステップ(S1)と、停止した前記内燃機関を始動する際に前記バッテリから前記始動機構に供給可能な電力を示す供給可能電力値を、前記最大電力値と前記要求電力値との差分に基づいて決定する決定ステップ(S2)と、前記決定ステップにより決定された前記供給可能電力値に応じた電力を用いて前記内燃機関を始動させる制御ステップ(S3)と、を有する。これにより、エンジンを再始動するための電力をバッテリから供給させるのみならず、当該バッテリから電気負荷に対しても電力を供給させることができる。
【0077】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本開示の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0078】
10…移動体
24…電力システム
28…電気負荷
32…バッテリ
40…発電機
42…始動機構
44…内燃機関
46…移動体制御部
48…電力制御装置
54…取得部
56…決定部
58…制御部