(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145972
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】テアンデロース含水結晶とその製造方法並びに用途
(51)【国際特許分類】
C07H 3/06 20060101AFI20241004BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20241004BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241004BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20241004BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C07H3/06 CSP
A61K8/60
A61K47/26
A23L33/125
A23L2/52
A23L2/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058610
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】ナガセヴィータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野 恵子
(72)【発明者】
【氏名】國武 博文
(72)【発明者】
【氏名】森枝 章子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C057
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD28
4B018ME01
4B018ME11
4B117LC04
4B117LC05
4B117LL02
4B117LL09
4C057AA14
4C057BB04
4C076DD67
4C076FF70
4C083AD211
4C083AD212
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】高湿下でも吸湿し難く、保存安定性の高いテアンデロースの結晶を提供することを課題とする。
【解決手段】テアンデロース含水結晶及び当該テアンデロース含水結晶を含有する組成物、並びにそれらの製造方法及び用途を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源としてCuKα線を用いて得られる粉末X線回折図において、回折角(2θ)6.8°±0.2°、7.4°±0.2°、10.6°±0.2°、22.6°±0.2°及び24.2°±0.2°に回折ピークを示すことを特徴とするテアンデロース含水結晶。
【請求項2】
結晶系が単斜晶であることを特徴とする請求項1に記載のテアンデロース含水結晶。
【請求項3】
結晶の空間群がP21(#4)であり、その格子定数がa=11.9±0.2Å、b=7.5±0.2Å、c=13.1±0.2Å、α=90.0±0.2°、β=96.5±0.2°、γ=90.0±0.2°であることを特徴とする請求項1に記載のテアンデロース含水結晶。
【請求項4】
融点が87℃以上98℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のテアンデロース含水結晶。
【請求項5】
結晶水を9質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のテアンデロース含水結晶。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のテアンデロース含水結晶を含有する食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材又は工業用品素材。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のテアンデロース含水結晶を含有する飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品又は工業用品。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のテアンデロース含水結晶を含有することを特徴とするテアンデロース含水結晶含有組成物。
【請求項9】
飲食品用素材、化粧品用素材、医薬部外品用素材、医薬品用素材又は工業用品用素材である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の組成物を含有する飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品又は工業用品。
【請求項11】
(1)テアンデロース純度が90%以上のテアンデロースの水溶液を調製する工程、
(2)前記水溶液からテアンデロース含水結晶を晶析させる工程、及び、
(3)晶析した前記テアンデロース含水結晶を回収する工程
を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のテアンデロース含水結晶の製造方法。
【請求項12】
種晶としてテアンデロース含水結晶を用いることを特徴とする請求項11に記載のテアンデロース含水結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアンデロース含水結晶とその製造方法並びに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
テアンデロースは、スクロースのグルコース残基にグルコースがα-1,6結合したオリゴ糖の1種である。テアンデロースの化学名は、(2R,3R,4S,5S,6R)-2-{[(2S,3S,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-2,5-ビス(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]オキシ}-6-({[(2S,3R,4S,5S,6R)-3,4,5-トリヒドロキシ-6-(ヒドロキシメチル)オキサン-2-イル]オキシ}メチル)オキサン-3,4,5-トリオールであり、その構造は下記化学式1で表される。
【0003】
【0004】
テアンデロースは、植物、コケ類などにより産生され、また、ハチミツ中にも存在することが知られている天然の糖質である。テアンデロースは、苦み、嫌みが少なく、また、低カロリーな糖質であり、さらには抗う蝕作用や整腸作用を有することから、特に食品素材としての利用が期待されている(非特許文献1、2)。
【0005】
テアンデロースを製造する方法は種々検討されており、例えば、スクロースと、マルトオリゴ糖等のグルコシル供与体にアスペルギルス属又はムコール属に属する微生物由来の糖転移酵素を作用させる方法が知られている(非特許文献1~3)。アスペルギルス属又はムコール属の微生物由来の糖転移酵素の作用により、グルコシル供与体のグルコシル基の1位の炭素がスクロースのグルコース残基の6位の炭素にα-グルコシド結合を介して結合し、テアンデロースが生成する。
【0006】
一方、これらの製造方法は、概して、反応終了液の固形分中のテアンデロース含有量が低いことが知られている。そこで、特許文献1では、テアンデロース含有量を高めるため、スクロースとグルコシル供与体に糖転移酵素を作用させる工程において、さらにインベルターゼ活性を有しないサッカロミセス属に属する酵母を作用させる方法が提案されている。インベルターゼ活性を有しないサッカロミセス属に属する酵母を作用させることにより、テアンデロースおよびスクロースを分解せず、糖転移反応で副生するグルコースを除去することができるので、反応終了液の固形分中のテアンデロース含有量を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】下川久俊、竹田裕彦、和田光一、清水俊雄、日本栄養・食糧学会誌,Vol.46,No.1,pp.69-76(1993)
【非特許文献2】下川久俊、神田健太郎、渡部恂子、竹田裕彦、浜健二、日本栄養・食糧学会誌,Vol.48,No.1,pp.57-60(1995)
【非特許文献3】Barker,S.A.,Bourne,E.J.,Theander,O. Journal of the Chemical Society, 5, 2064-2067(1957)
【非特許文献4】Jurgen Seibel,Roxana Moraru,Sven Gotze,Klaus Buchholz,Shukrallah Na’amnieh,Alice Pawlowski,Hans-Jurgen Hecht,Carbohydrate Research,Vol.341,Issue 14,pp.2335-2349(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のとおりテアンデロースは有用な性質を示し、また、その製造方法は種々検討されているにもかかわらず、本発明者らが知る限りにおいて、依然としてテアンデロースが食品素材等として広く利用されているとは言い難い。本発明者らは、その原因がテアンデロース含有粉末の保存安定性にあると考えた。テアンデロースについては、例えば、非特許文献1、3、4に示されるとおり、融点(分解点)が125℃付近の結晶の存在が知られていた。しかしながら、本発明者らが見出した知見によれば、後述する実験例に示されるとおり、従来知られていたテアンデロースの当該結晶は高湿下で容易に吸湿して固結するため、その保存安定性に問題があるものであった。
【0010】
本発明は従来技術の以上のような課題を解決するために為されたものであり、高湿下でも吸湿し難く、保存安定性の高いテアンデロースの結晶を提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討する中で、特定の晶析条件下、テアンデロースをその水溶液から晶析することにより、テアンデロース1分子あたり約3分子の水を含有する結晶単位を有するテアンデロース含水結晶が得られることを見出した。そして当該テアンデロース含水結晶について更に検討を続けたところ、意外にも当該含水結晶は高湿下においても吸湿し難く、保存安定性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、ある一側面において、テアンデロース含水結晶を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面に係るテアンデロース含水結晶は、高湿下でも吸湿し難く、保存安定性が高いため、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は工業用品の素材として有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実験2で得られたテアンデロース結晶粉末(テアンデロース含水結晶粉末)の結晶の形状を示す顕微鏡写真である。
【
図2】実験2で得られたテアンデロース結晶粉末(テアンデロース含水結晶粉末)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図3】実験2で得られた対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図4】(A)実験2で得られたテアンデロース結晶粉末(テアンデロース含水結晶粉末)の吸熱パターンと、(B)実験2で得られた対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)の吸熱パターンを示す図である。
【
図5】実験2で得られたテアンデロース結晶粉末(テアンデロース含水結晶粉末)のORTEP図を示す。
【
図6】実験2で得られたテアンデロース結晶粉末(テアンデロース含水結晶粉末)と対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)の各相対湿度における質量の増加量(Δ%-Weight)を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<テアンデロース含水結晶>
テアンデロースとは、グルコースがスクロースのグルコース基にα-1,6結合した構造を有する三糖類である。その化学名は(2R,3R,4S,5S,6R)-2-{[(2S,3S,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-2,5-ビス(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]オキシ}-6-({[(2S,3R,4S,5S,6R)-3,4,5-トリヒドロキシ-6-(ヒドロキシメチル)オキサン-2-イル]オキシ}メチル)オキサン-3,4,5-トリオール)であり、化学構造は下記化学式2で表されるとおりである。
【0016】
【0017】
本発明に係るテアンデロース含水結晶は、テアンデロースの含水結晶である。「含水結晶」とは、結晶水を含有する結晶を意味する。すなわち、本発明に係るテアンデロース含水結晶は、結晶水を含有する、テアンデロースの結晶であるということになる。「結晶水」とは、結晶中に一定の比率で含まれている水であって、結晶内で一定の位置を占め、結晶格子の安定化に寄与している当該結晶の構成要素を指す。結晶水は、好ましくは結晶格子の空所を満たすために一定の割合で存在する格子水であってもよい。また、結晶水の位置は、結晶単位の中で一定のゆらぎを有していてもよい。
【0018】
本発明に係るテアンデロース含水結晶は、好ましくはテアンデロース三含水結晶であり得る。テアンデロース三含水結晶とは、テアンデロース1分子あたり、水分子を約3分子含有する、テアンデロースの結晶を意味する。
【0019】
換言すれば、本発明に係るテアンデロース含水結晶は、ある好適な一態様において、結晶水を9質量%以上10質量%以下、より好ましくは9.5質量%以上10質量%以下含み得るということになる。結晶水の含有量は、後述する実験例に示されるとおり、例えば、熱重量分析により測定することができる。
【0020】
本発明に係るテアンデロース含水結晶は、好ましくは、X線源としてCuKα線を用いて得られる粉末X線回折図において、回折角(2θ)6.8°±0.2°、7.4°±0.2°、10.6°±0.2°、22.6°±0.2°及び24.2°±0.2°に回折ピークを示すテアンデロース含水結晶であり得る。後述する実験例に示されるとおり、テアンデロースについて従来報告されていた結晶と同じく125℃付近の融点を示す結晶を、X線源としてCuKα線を用いて粉末X線回折装置で分析しても上記の回折角に特徴的な回折ピークは認められない。このように本発明に係るテアンデロース含水結晶は、テアンデロースについて従来知られていたテアンデロースの結晶とは、明確に区別されるテアンデロースの新規結晶である。
【0021】
本発明に係るテアンデロース含水結晶の結晶系は、好ましくは単斜晶系であり得る。また、テアンデロース含水結晶の空間群は、好ましくはP21(#4)であり得、その格子定数は、a=11.9±0.2Å、b=7.5±0.2Å、c=13.1±0.2Å、α=90.0±0.2°、β=96.5±0.2°、γ=90.0±0.2°であり得る。後述する実験例に示されるとおり、テアンデロース含水結晶の結晶系及び/又は空間郡は、例えば、X線結晶構造解析により同定することができる。
【0022】
本発明に係るテアンデロース含水結晶の融点(融解開始)は、好ましくは85℃以上98℃以下、より好ましくは86℃以上96℃以下、さらに好ましくは87℃以上94℃以下であり得る。これに対して、非特許文献1、3、4に示されるとおり、テアンデロースについて従来知られていた結晶の融点は125℃付近である。このように本発明に係るテアンデロース含水結晶は、テアンデロースについて従来知られていたテアンデロースの結晶とは、明確に区別されるテアンデロースの新規結晶である。なお、結晶の融点は融点測定装置を用いて測定した融点であり得、より好ましくは、融点測定装置を用い1℃/分の昇温速度で測定した融点であり得る。
【0023】
本発明の一側面に係るテアンデロース含水結晶は、高湿下でも吸湿し難く、保存安定性が高いため、例えば、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は工業用品の素材として有利に利用することができる。すなわち、本発明の他の一側面によれば、テアンデロース含水結晶を含有する食品素材、化粧品素材、医薬部外品素材、医薬品素材または工業用品素材が提供される。
【0024】
<テアンデロース含水結晶の製造方法>
本発明は、ある他の一側面において、テアンデロース含水結晶の製造方法を提供するものである。本発明の一側面に係るテアンデロース含水結晶の製造方法は、
(1)テアンデロース純度が90%以上のテアンデロースの水溶液を調製する工程、
(2)前記水溶液からテアンデロース含水結晶を晶析させる工程、及び、
(3)晶析した前記テアンデロース含水結晶を回収する工程
を含み得る。
【0025】
上記工程(1)は、テアンデロースの純度が90%以上の高純度のテアンデロースを水に溶解させ、テアンデロースの水溶液を調製する工程である。従来、テアンデロースの水溶液から結晶が晶析し得ることは一切知られていなかったところ、テアンデロースの水溶液から結晶を晶析させようとする試みは為されてこなかった。これに対して、本発明者らは、驚くべきことに、所定の純度以上の高純度のテアンデロースを溶解させたテアンデロースの水溶液からであれば、テアンデロースの含水結晶が晶析し得ることを見出したのである。本発明者らが見出した知見によれば、本発明の一側面に係るテアンデロース含水結晶を晶出させるには、できるだけ高純度のテアンデロースを用いることが好ましい。上記工程(1)において、上記水溶液の調製に用いられるテアンデロースの純度は、例えば、90%以上であり得るが、92%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、96.8%以上であることがより更に好ましい。後述する実験例に示されるとおり、高純度のテアンデロースを溶解させたテアンデロースの飽和水溶液から晶析させて得られるテアンデロースの結晶は、テアンデロースについて従来知られていなかったテアンデロースの含水結晶である。
【0026】
高純度のテアンデロースは、当業者であれば、適宜の方法で製造したテアンデロースを適宜の方法により精製することで調製することができる。テアンデロースの製造方法に特段の制限はなく、微生物やその抽出物、又は微生物から得られた酵素等を用いた生物学的合成方法によって得られたもの又は有機合成等の化学的合成法によって得られたもののいずれであってもよく、或いは、両者を組み合わせた方法によって得られたものであってもよい。テアンデロースの生物学的合成方法としては、例えば、スクロースとマルトオリゴ糖等のグルコシル基供与体に糖転移酵素を作用させることによりテアンデロースを得る方法が知られている。糖転移酵素としては、例えば、アスペルギルス・ニガ―(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・フォエニシス(Aspergillus phoenicis)などのアスペルギルス属に属する微生物が産生する糖転移酵素(Baker, S.A.,Bourne, E.J. and Theander, O. J. Chem. Soc., 5, 2064, 1957(非特許文献2);特開平8-23990号公報;特開平7-143892号公報)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)などのムコール属に属する微生物が産生する糖転移酵素(下川久俊、竹田裕彦、和田光一、清水俊雄、日本栄養・食糧学会誌 Vol.46、 No.1、 69~76、 1993(非特許文献1))、バチルス属に属する微生物が産生するショ糖転移酵素(特開平4-30796号公報)、オーレオバシディウム属に属する微生物が産生する糖転移酵素(特開2010-159225号公報)等を用いることができるが、これらに限定されない。糖転移酵素は、必ずしも高度に精製されておらずともよい。例えば、当該糖転移酵素を産生する菌体やその抽出物を用いてもよい。
【0027】
上記工程(2)は、上記工程(1)で調製したテアンデロースの水溶液からテアンデロース含水結晶を晶析させる工程である。テアンデロース含水結晶の晶析は、高純度のテアンデロースを溶解させたテアンデロースの飽和水溶液を所定の温度で所定の時間静置又は撹拌することにより行うことができる。すなわち、本発明に係るテアンデロース含水結晶の製造方法は、上記工程(1)で得られたテアンデロースの水溶液を、所定の温度で、所定の時間静置又は撹拌する工程を含んでもよい。所定の温度に特段の制限はなく、適宜の温度を採用し得るが、例えば、15℃~30℃、20~25℃、又は室温であり得る。所定の時間にも特段の制限はないが、例えば、1日~10日であり得る。
【0028】
また、ある好適な一態様においては、本発明に係るテアンデロース含水結晶を晶析させるために、テアンデロース含水結晶を種晶として用いてもよい。テアンデロース含水結晶を種晶として用いる場合、例えば、上記工程(1)で得られたテアンデロースの水溶液に、テアンデロース含水結晶を種晶として添加すればよい。種晶として用いられるテアンデロース含水結晶としては、例えば、後述する実施例に記載の結晶化方法等の結晶化を少なくとも2回、より好ましくは3回以上繰り返して得られたテアンデロース含水結晶を用いることが好ましい。結晶化を繰り返したテアンデロース含水結晶を種晶として用いることにより、テアンデロース含水結晶をより効率良く製造することができる。
【0029】
なお、上記の方法において、テアンデロース含水結晶を晶析させるために用いられるテアンデロースの水溶液は、テアンデロース含水結晶が得られる限りにおいて、さらに他の溶媒を含んでいても良い。例えば、水に加えて、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール等の有機溶媒を含んだ混合溶媒であってもよい。なお、テアンデロースの含水結晶が得られる限りにおいて、水に加えられる有機溶媒の添加量に特段の制限はないが、例えば、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、或いは10質量%以下であり得る。水に加えられる有機溶媒の添加量が多いとテアンデロースの含水結晶が得られない恐れがある。
【0030】
一方、上記工程(3)は、上記工程(2)で晶析した前記テアンデロース含水結晶を回収する工程である。テアンデロース含水結晶の回収方法に特段の制限はなく、当業者であれば適宜の方法を用いることができる。例えば、分蜜法を用いてもよい。分蜜法を用いる場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、テアンデロース含水結晶と蜜(結晶化母液)とを分離し、必要に応じて、当該結晶に、例えば、少量の冷水又は冷エタノール等をスプレーすることにより結晶を洗浄して、テアンデロース含水結晶を回収することができる。分密法はより高い純度のテアンデロース含水結晶を得るために好適に用いられる。一方、とりわけ高い純度のテアンデロース含水結晶を要さない場合には、上記マスキットを噴霧乾燥し、得られた粉末を熟成、乾燥させる噴霧乾燥法によりテアンデロース含水結晶を回収してもよい。また、上記マスキットをブロック化し、ブロック粉砕法によりテアンデロース含水結晶を回収してもよい。なお、テアンデロース含水結晶を回収するという場合、テアンデロース含水結晶が回収されればよく、必ずしもテアンデロース含水結晶のみが回収される必要はない。
【0031】
また、本発明の一側面に係るテアンデロース含水結晶の製造方法は、ある好適な一態様において、さらに上記工程(3)で回収された結晶を乾燥する工程を含んでいてもよい。ここで、結晶を乾燥する方法に特段の制限はないが、例えば、自然乾燥してもよいし、減圧乾燥してもよいし、送風乾燥してもよい。この場合、結晶を乾燥する温度は、テアンデロース含水結晶の融点より十分低いことが好ましく、例えば、60℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下、又は室温であり得る。
【0032】
<テアンデロース含水結晶を含有する組成物>
本発明の他の一側面によれば、テアンデロース含水結晶を含有する組成物が提供される。
【0033】
テアンデロース含水結晶を含有する上記組成物は、テアンデロース含水結晶を含有する限りにおいて基本的にどのような形態にあってもよいが、例えば、粉末状の組成物、すなわち、テアンデロース含水結晶含有粉末であり得る。テアンデロース含水結晶含有粉末は、例えば、以上に説明したテアンデロース含水結晶の製造方法と同様の方法によって得ることができる。
【0034】
テアンデロース含水結晶を含有する上記組成物は、テアンデロース含水結晶を含有する限りにおいて、更に他の成分を含んでいてもよい。当該組成物に含まれ得る他の成分に特段の制限はないが、例えば、テアンデロース含水結晶の製造工程或いは原料に起因する夾雑物や他の糖質、人工甘味料などが含まれる。このような夾雑物としては、例えば、グルコース、スクロース、マルトース、マルトオリゴ糖、その他のマルトオリゴ糖などが挙げられるが、これらに限定されない。他の糖質としては、例えば、イソマルツロース、エリスリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトールやこれらの還元糖などが挙げられるが、これらに限定されない。人工甘味料としては、例えば、アスパルテーム、アセスルファムK、ステビオシドなどが挙げられるが、これらに限定されない。テアンデロース含水結晶を含有する上記組成物に含まれ得る他の成分の含有量は、上記組成物の総質量の1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。一方、テアンデロース含水結晶を含有する上記組成物におけるテアンデロースの含有量に特段の制限はないが、典型的には、上記組成物の総質量の90質量%以上であり、保存安定性の観点からは、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることがより更に好ましい。
【0035】
上述したとおり、本発明に係るテアンデロース含水結晶は、高湿下でも吸湿し難く、保存安定性が高いため、飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品または工業用品の素材として有利に用いられ得る。したがって、本発明の一側面に係る上記組成物は、ある好適な一態様において飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品または工業用品用の組成物であり得る。また、本発明の他の一側面によれば、テアンデロース含水結晶を含有する上記組成物を含有する飲食品、化粧品、医薬部外品、医薬品または工業用品もが提供されるということになる。
【0036】
本発明に係るテアンデロース含水結晶又は組成物が含有され得る「飲食品」に特段の制限はない。飲食品の具体例としては、例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、フリカケ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼き肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガー、漬物の素などの調味料;せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羹、水羊羹、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、月餅、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディーなどの菓子類;アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓;果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類;フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペーストなどのペースト類;ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類;福神漬け、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類;ハム、ソーセージ、ベーコン、ミートボール、サラダチキンなどの畜肉製品類;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、天ぷらなどの魚肉製品;ウニ、イカの塩辛、酢コンブ、さきするめ、ふぐのみりん干し、タラ、タイ、エビなどの田麩などの珍味類;海苔、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類;煮豆、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品;乳製品;魚肉、畜肉、果実、野菜の瓶詰、缶詰類;合成酒、増醸酒、清酒、果実酒、発泡酒、ビールなどの酒類;珈琲、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水;ニアウォーター;プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席しるこ、即席スープ、即席めんなどの即席食品;更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品などの各種飲食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
また、本発明に係るテアンデロース含水結晶又は組成物が含有され得る「化粧品」に特段の制限はない。化粧品の具体例としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、クリーム、日焼け止めクリーム、日焼け止めスプレー、紫外線吸収剤、パック、マスク、ファンデーション、おしろい、マニキュア(例えばベースコート、カラーポリッシュおよびトップコートなど)、浴用剤、制汗剤、ビタミン剤、ボディローション、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、ヘアカラー、整髪料、ヘアトニック、および育毛剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
また、本発明に係るテアンデロース含水結晶又は組成物が含有され得る「化粧品」、「医薬部外品」又は「医薬品」の適用部位に特段の制限はなく、例えば、皮膚用、頭髪用、眼用又は爪用の化粧品、医薬部外品、又は医薬品であってもよい。その用途にも特段の制限はなく、例えば、急性皮膚反応を予防または治療するための、皮膚老化を予防または改善するための、皮膚癌を予防または治療するための、育毛のための、眼病を予防または治療するための、又は白癬を予防または治療するための医薬品、医薬部外品又は化粧品であり得るが、本発明に係るテアンデロース含水結晶又は組成物が含有され得る医薬品、医薬部外品又は化粧品の用途は、これらに限定されない。
【0039】
本発明に係るテアンデロース含水結晶又は組成物が含有され得る「化粧品」、「医薬部外品」又は「医薬品」の形態にも特段の制限はない。例えば、固体、粉末、液体、懸濁液、クリーム、ローション、ペースト、軟膏、エマルジョン(例えば、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョン、多重エマルジョン、ミクロエマルジョン、PET-エマルジョン、ピッカリング・エマルジョン等)、ゲル(例えば、ヒドロゲル、アルコールゲル等)、フォーム、スプレーなどの形態であり得るが、これらの形態に限定されない。また、本発明に係るテアンデロース含水結晶又は組成物が含有され得る「化粧品」、「医薬部外品」又は「医薬品」の剤形にも特段の制限はない。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、注射剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、眼軟膏、外皮用剤、塗布剤または貼付剤などの剤形であり得るが、これらの剤形に限定されない。
【0040】
本発明に係るテアンデロース含水結晶又は組成物が含有され得る「工業用品」に特段の制限はない。工業用品の具体例としては、例えば、農薬、肥料、飼料、紙工品、研磨剤、糊剤、接着剤(バインダー)、ゲル化剤、離水防止剤、賦形剤、保水剤、保湿剤、透湿剤、吸水剤、吸収剤、吸着剤、脱臭剤、増粘剤、粘結剤、潤滑剤、光沢付与剤、滑沢剤、皮膜剤、難燃剤、消泡剤、起泡剤、親水化剤、帯電防止剤、乳化剤、界面活性剤、分散剤、懸濁剤、調整剤、濾過助剤、溶解助剤、溢泥防止剤、製紙用添加剤、安定化剤、分離防止剤、被膜剤、浸透剤、希釈剤、等張化剤、崩壊剤、緩衝剤、増量剤、歩留向上剤、強化剤、撥油剤、耐油剤、保護剤、固化剤、土壌改良剤、充填剤、塗料、染料、顔料、インク、洗浄剤、柔軟剤、トイレタリー製品、生分解性樹脂(バイオプラスチック)、ガスバリアー樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
また、本発明に係るテアンデロース含水結晶又はテアンデロース含水結晶を含有する上記組成物が含有され得る「飲食品」、「化粧品」、「医薬部外品」、「医薬品」、又は「工業用品」は、テアンデロース含水結晶又は上記組成物に加え、その用途に応じて、その他の成分、例えば、多糖類、増量剤、賦形剤、充填剤、増粘剤、界面活性剤、発泡剤、消泡剤、pH調節剤、保湿剤、防湿剤、難燃剤、離形剤、抗菌剤、殺菌剤、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、着香剤、栄養物、嗜好物、呈味物、薬効物質及び生理活性物質等の飲食品、化粧品、医薬品、医薬部外品又は工業用品の分野で使用される成分を含んでいても良い。
【0042】
以下に実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実験例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
<実験1:テアンデロース含有粉末の調製>
従来のテアンデロース含有粉末の製造方法(非特許文献3:Barker,S.A.,Bourne,E.J.,Theander,O. Journal of the Chemical Society, 5, 2064-2067(1957)に準じてテアンデロース含有粉末を調製した。
【0044】
<実験1-1:テアンデロース含有溶液の調製>
マルトース固形物1質量部に対しスクロース固形物1質量部を加え、pHを5.2に、固形物濃度を50%(w/v)に調整し基質溶液とした。これに、α-グルコシダーゼ(商品名:Transglucosidase Lアマノ;天野エンザイム株式会社販売)を、固形物1g当り9.87単位加え、55℃で72時間反応させスクロースへの糖転移を行い、テアンデロースを生成させた。得られた反応液を加熱しα-グルコシダーゼを失活させた。本反応液のテアンデロース含量は固形物当たり16.2質量%であった。
【0045】
<実験1-2:テアンデロース含有粉末の調製>
実験1-1で得た反応液を活性炭で脱色濾過し、濾液をカチオン交換樹脂(H+型)1容量とアニオン交換樹脂(OH-型)2容量の混合物にて脱塩し、濃縮した。さらに、強酸性カチオン交換樹脂(商品名:ダウェックス50WX4;Ca2+型;ダウケミカル社製造)を用いるゲル濾過カラムクロマトグラフィーに供することにより、テアンデロース高含有画分を回収した。これにグルコアミラーゼ剤(ナガセケムテックス株式会社販売;商品名:グルコチーム#20000;20,000単位/g)または(天野エンザイム株式会社販売;商品名:グルクザイムAF6;6,000単位/g)を固形物1g当たり10単位加え、40℃で24時間処理し、混在する夾雑糖質をグルコース、フラクトースにまで分解した。得られた反応液を加熱しグルコアミラーゼ剤を失活させた後、活性炭で脱色濾過した。得られた濾液をカチオン交換樹脂(H+型)1容量とアニオン交換樹脂(OH-型)2容量の混合物にて脱塩し、濃縮した。さらに、強酸性カチオン交換樹脂(商品名:ダウェックス50WX4;Ca2+型;ダウケミカル社製造)を用いるゲル濾過カラムクロマトグラフィーに供することにより、テアンデロース高含有画分を回収した。このテアンデロース含有溶液を常法により真空乾燥し、テアンデロース含有粉末(純度97質量%)を得た。
【0046】
<実験2:テアンデロース含水結晶粉末の調製>
100ml容プラスチック製遠心管に、実験1で得られた上記テアンデロース含有粉末50gと脱イオン水35gを入れ、湯せんにて加熱しつつ攪拌することによりテアンデロースの過飽和水溶液を調製した。この過飽和水溶液に更に脱イオン水を加え、水溶液中のテアンデロースの濃度を59.5%(w/w)に調整した。次いで、この水溶液を入れた遠心管をローラー式撹拌機(商品名:ロー・プロファイル・ローラー、型番:ROLAAUV1S、IBI SCIENTIFIC社製)にて、目盛2の回転数で、室温で、1日間、回転撹拌したところ、柱状の結晶の析出が認められた。更に8日間、同じ条件で回転撹拌を続けた後、ろ紙(商品名:桐山ロートろ紙、型番:No.4、Φ60mm、有限会社桐山製作所製)を用いて、分蜜して結晶を回収した。得られた結晶を超純水で洗浄し、室温で3日間乾燥後、乳鉢粉砕することによりテアンデロース結晶粉末14.7gを得た。
【0047】
一方、上述した手順にて得られたテアンデロース結晶粉末を1g採取し、採取したテアンデロース結晶粉末を脱水剤である酸化リン(V)を敷き詰めたデシケータ内に40日間保管したところ、結晶性粉末0.8g得られた。脱水剤である酸化リン(V)で処理することによる粉末重量の低下は、上記テアンデロース結晶粉末には水分が含まれること、すなわち、上記テアンデロース結晶粉末に含まれるテアンデロースの結晶が含水結晶であることを示唆している。一方、脱水剤で処理した後に残存した粉末も結晶性の粉末であり、後述する実験3-3に示されるように結晶性の回折ピークを示した。詳細な実験データは省略するが、当該結晶性粉末は、その水分含量から、テアンデロースの無水結晶を含有する粉末であると考えられた。また、後述する実験3-5に示されるとおり、当該結晶性粉末に含まれる結晶の融点は120~128℃であり、驚くべきことに、この融点は、従来知られていたテアンデロースの結晶の融点と一致する(非特許文献1、3、4)。このことから、両結晶は同一の結晶であると判断され、また、テアンデロースについて従来知られていた結晶は、テアンデロースの無水結晶であると考えられた。したがって、以下の実験例では、脱水剤で処理した後に残存した上記結晶性粉末を、テアンデロースについて従来知られていた結晶に相当する対照粉末(以下、「テアンデロース無水結晶粉末」ということもある。)として用い、各実験を行った。
【0048】
<実験3:テアンデロース結晶粉末の物性評価>
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末について、その物性を評価した。
【0049】
<実験3-1:顕微鏡観察>
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末の適量を黒ゴムシート(サイズ:4cm×5cm)に載せ、デジタルマイクロスコープ(型式:VHX-2000、株式会社キーエンス製)にて顕微鏡写真を撮影した。得られた顕微鏡写真の一例(倍率:200倍)を
図1に示す。
図1に見られるとおり、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末は柱状結晶であった。これに対して、テアンデロースについて従来知られていた結晶は、ひし形結晶であることが報告されている(非特許文献1)。このことから、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末が含有するテアンデロースの結晶はテアンデロースの新規結晶であることが示唆される。
【0050】
<実験3-2:テアンデロース純度>
次に実験2で得られたテアンデロース結晶粉末におけるテアンデロースの純度を評価した。具体的には、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を、脱イオン水にテアンデロースの濃度が2%(w/v)となるよう溶解し、更にテアンデロースの終濃度が1%(w/v)となるように脱イオン水と等量のアセトニトリルを添加、混合した。得られた混合液をメンブランフィルターにて濾過した後、下記の条件によるHPLC分析に供した。
【0051】
(HPLC分析条件)
HPLC装置:『LC-20AD』(株式会社島津製作所製)
オートサンプラー:『SIL-20AC』(株式会社島津製作所製)
カラムオーブン:『CTO-20A』(株式会社島津製作所製)
デガッサー:『DGU-20A 3R』(株式会社島津製作所製)
カラム:『CapcellPakNH2 SG80』(株式会社資生堂販売)
サンプル注入量:20μl
溶離液:アセトニトリル:超純水=70:30
流 速:0.8ml/分
温 度:35℃
検出器:示差屈折計『RID-10A』(株式会社島津製作所製)
データ処理装置:『LCsolution』(株式会社島津製作所製)
【0052】
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末のテアンデロース純度を、示差屈折計を用いて得られたHPLCクロマトグラムのピーク面積に基づき算出したところ、99.9質量%であった。
【0053】
<実験3-3:粉末X線回折>
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末約50mgをシリコン製無反射板に載せ、市販の反射光方式による粉末X線回折装置(商品名:X´ Pert Pro MPD、スペクトリス株式会社製)を用い、Cu対陰極から放射される特性X線であるCuKα線(X線管電流:40mA、X線管電圧:45kV、波長:1.5405オングストローム)を照射して得られる回折プロファイルに基づく粉末X線回折図を得た。実験2で得られたテアンデロース結晶粉末の粉末X線回折図を
図2に示す。また、比較対照として、同じく実験2で得られた対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)についても同様に粉末X線回折図を得た。対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)の粉末X線回折図を
図3に示す。
【0054】
図2と
図3との対比から明らかなように、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末の粉末X線回折図は、対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)のそれとは全く異なっていた。すなわち、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末の粉末X線回折図は、少なくとも、回折角(2θ)が6.8°(
図2における符号「a」)、7.4°(
図2における符号「b」)、10.6°(
図2における符号「c」)、22.6°(
図2における符号「d」)及び24.2°(
図2における符号「e」)において、対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)の粉末X線回折図(
図3)には認められない特徴的な回折ピークを示した。この結果は、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末がテアンデロース無水結晶とは異なるテアンデロースの新規な結晶を含有する結晶粉末であることを示している。
【0055】
<実験3-4:結晶水含量>
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末10mgをアルミ製容器に入れ、示差熱・熱重量同時測定装置(商品名:STA7200RV、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて窒素ガスを300ml/分の流量で流しながら30℃で3分間保持した後、5℃/分の昇温速度で350℃まで昇温させることにより熱重量分析(TG分析)したところ、加熱に伴い60乃至180℃にかけて9.71質量%の重量減少が認められ、当該テアンデロース結晶粉末が9.71質量%の結晶水を含有していることが判明した。この結果から、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を構成するテアンデロースの新規な結晶は、含水結晶であることが判明した(本明細書において、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を「テアンデロース含水結晶粉末」ということもある。)。因みに、この結晶水の含有量は、当該結晶がテアンデロース三含水結晶、すなわち、C18H32O16・3H2Oであると仮定した場合の水分含量の理論値である9.68質量%と極めてよく一致した。このことから、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を構成するテアンデロースの新規な結晶はテアンデロース三含水結晶であることが示唆された。
【0056】
<実験3-5:融点測定>
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を構成するテアンデロースの新規な結晶の融点を測定した。具体的には、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末の融点を、自動融点測定装置(商品名:MP 70、メトラー・トレド社販売)を用いて昇温速度1℃/分で測定し、また、比較対照として、同じく実験2で得られた対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)についても同様に融点を測定した。
【0057】
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を構成するテアンデロースの新規な結晶は、その融点が87~98℃であったのに対し、対照粉末を構成する結晶(テアンデロース無水結晶)の融点は120~128℃であった。両者の融点は大きく異なることから、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を構成するテアンデロースの結晶がテアンデロース無水結晶とは異なるテアンデロースの新規な結晶であることが示された。
【0058】
<実験3-6:示差走査熱量分析(DSC分析)>
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末1mgをアルミ製容器に入れ、示差走査熱量計(商品名:DSC Q20、TAインスツルメンツ社製)を用いて、窒素ガスを50ml/分の流量で流しながら30℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で150℃まで昇温させ、DSC分析における吸熱パターンを分析した。実験2で得られたテアンデロース結晶粉末(テアンデロース含水結晶粉末)の吸熱パターンを
図4Aに、実験2で得られた対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)の吸熱パターンを
図4Bに示す。
【0059】
図4A、4Bから明らかなように、対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)は125℃付近を吸熱開始点とする単一の吸熱ピークを示したのに対し(
図4B)、実験2で得たテアンデロース含水結晶粉末は、60乃至94℃の範囲に僅かな吸熱を示すとともに、97℃付近で融解にともなう吸熱ピークを示した(
図4A)。このように両者のDSC分析における吸熱パターンは全く相違していた。
【0060】
<実験4:X線結晶構造解析>
実験2で得られたテアンデロース結晶粉末(テアンデロース含水結晶粉末)を構成するテアンデロースの結晶の構造を決定することを目的として、X線結晶構造解析を行った。
詳細には、実験2に示した手順において、調製したテアンデロースの過飽和水溶液を0.45μmメンブランフィルターで濾過した以外は実験2と同様の方法を用いて晶析した単結晶を単結晶X線回折装置(商品名:VariMax with Saturn、株式会社リガク販売)に供し、液体窒素気流下において、Mo対陰極から放射される特性X線であるMoKα線(波長:0.71075オングストローム)を照射し、X線回折データの測定を行った。得られたデータの構造解析は、構造解析ソフトウェア(商品名:Crystal Structure、株式会社リガク販売)を用いて行った。得られたX線回折データの解析値を表1に、結晶構造の原子座標を表2に、ORTEP図を
図5に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
表1に示されるとおり、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を構成する、水溶液から晶析したテアンデロースの結晶は単斜晶形(monoclinic)の結晶であり、その空間群はP2
1(#4)であり、その格子定数はa=11.938(5)Å、b=7.513(3)Å、c=13.051(5)Å、α=90.0°、β=96.537(9)°、γ=90.0°であることが判明した。得られた結晶構造は、構造の信頼性を示す指標であるR値及び重み付きR値(wR値)が、それぞれ3.37%及び7.57%と十分に低かったことから、信頼性の高いものであると判断した。また、表2および
図5に示されるとおり、結晶の非対称単位には、2分子のテアンデロースが確認され、水分子はテアンデロース1分子に対して合計で3分子相当の量が存在することが判明した。以上のことから、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末を構成する、水溶液から晶析したテアンデロースの結晶はテアンデロースの三含水結晶であると同定された。
【0064】
<実験5:吸湿性の評価>
テアンデロース含水結晶について、種々の相対湿度雰囲気下における結晶の質量を測定し、吸湿性の評価を行った。
実験2で得たテアンデロース結晶粉末20mgを温度25℃、相対湿度20%の雰囲気下に重量が安定するまで、最長24時間まで、静置した。その後、相対湿度が80%となるまで相対湿度を10%ずつ段階的に増加させ、各相対湿度において、重量が安定するまで、最長24時間まで、静置した。各相対湿度において、重量が安定するまで静置した又は24時間静置した後の結晶について、高精度分析天びん(動的水分吸脱着測定装置)(商品名:IGAsorp、Hiden Isochema社)を用いて質量を測定し、相対湿度20%時からの質量の増加率(Δ%-Weight)を求めた。また、比較対照として、実験2で得た対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)についても同様に測定を行った。得られた結果を
図6に示す。
【0065】
図6に示されるとおり、対照粉末(テアンデロース無水結晶粉末)は、相対湿度が20%から80%まで段階的に上昇するにつれて、その質量も段階的に増加し、相対湿度80%における相対湿度20%時からの質量の増加率は8.54%に達した。一方、実験2で得られたテアンデロース結晶粉末、すなわち、テアンデロース含水結晶粉末は、相対湿度が20~80%の範囲内において、質量の増加率が0.14%以下であった。このことから、テアンデロース含水結晶は、高湿度下においても実質的に吸湿することがない、保存安定性に優れる結晶であることが判明した。
【0066】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例0067】
<テアンデロース含水結晶高含有粉末>
実験2で得たテアンデロース含水結晶(実験2において「テアンデロース結晶粉末」)を無水物換算で90質量部相当量と、実験2で得たテアンデロース無水結晶(純度99.0質量%、実験2において「テアンデロース無水結晶粉末」)を無水物換算で9質量部相当量とを混合機にとり、室温で均一に攪拌混合して、テアンデロース含水結晶とテアンデロース無水結晶とを含むテアンデロース含水結晶高含有粉末を得た。本発明の一実施態様に係る当該テアンデロース含水結晶高含有粉末は、テアンデロース含水結晶とテアンデロース無水結晶とを、無水物換算で、それぞれ90.8質量%、9.0質量%含むテアンデロース含水結晶高含有粉末である。
【0068】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れたテアンデロース含水結晶高含有粉末である。