(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145991
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】たんぱく質含有食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/17 20160101AFI20241004BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20241004BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20241004BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20241004BHJP
A23L 29/244 20160101ALI20241004BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20241004BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20241004BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20241004BHJP
【FI】
A23L33/17
A23L33/18
A23L29/256
A23L29/231
A23L29/244
A23L29/269
A23L29/238
A23L33/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058643
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬鳥 裕史
【テーマコード(参考)】
4B018
4B041
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018MD09
4B018MD14
4B018MD19
4B018MD20
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4B041LK07
4B041LK13
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4B041LK18
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4B041LK50
4B041LP17
(57)【要約】
【課題】 良質なたんぱく質を高濃度で含有し、味及び風味にも優れ、食の細くなりがちな嚥下困難者用の食品としても好適なたんぱく質含有食品を提供する。
【解決手段】 本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、コラーゲンペプチドと、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン及びバリンから選択される1種以上の必須アミノ酸と、水とを含有する。上記たんぱく質含有食品において、上記水の含有率は35質量%以下であり、上記コラーゲンペプチドの含有率は30質量%以上である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンペプチドと、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン及びバリンから選択される1種以上の必須アミノ酸と、水とを含有し、前記水の含有率が35質量%以下であり、前記コラーゲンペプチドの含有率が30質量%以上であるたんぱく質含有食品。
【請求項2】
前記コラーゲンペプチド由来のたんぱく質の含有率が30質量%以上である請求項1に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項3】
前記コラーゲンペプチドの含有率が30質量%以上70質量%未満の範囲内である請求項1に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項4】
前記水の含有率が10質量%乃至33質量%以下の範囲内である請求項1に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項5】
アミノ酸スコアが100である請求項1に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項6】
1種以上の非必須アミノ酸を更に含有し、前記非必須アミノ酸としてチロシン又はシスチンを少なくとも含有する請求項1に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項7】
ゲル化剤を含有し、硬さが5.0×104N/m2以下の嚥下障害者用食品である請求項1に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項8】
付着性が1.5×103J/m3以下である請求項7に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項9】
前記ゲル化剤として、カラギーナン、アルギン酸又はその塩、ペクチン、寒天、こんにゃく、カードラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、及びゼラチンから選択される1種以上を含有する請求項7に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項10】
ババロア、ムース、ゼリー、プリン、杏仁豆腐及び羊羹を含むゲル状食品である請求項7に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項11】
液状油脂を更に含有する請求項1に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項12】
前記液状油脂として、植物油及び乳化油脂から選択される1種以上を含有する請求項11に記載のたんぱく質含有食品。
【請求項13】
水とコラーゲンペプチドとを混合し、前記コラーゲンペプチドが溶解した第1溶液を得ることと、
前記第1溶液にヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン及びバリンから選択される1種以上の必須アミノ酸を加え、必須アミノ酸が分散した第2溶液を得ることと、
前記第2溶液を加熱殺菌することと
を含んだたんぱく質含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たんぱく質含有食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者などの咀嚼又は嚥下困難者向けの介護用食品として、柔らかく且つ付着性の低い飲み込みやすい物性の食品、いわゆる嚥下食の需要が高まっている。食の細くなりがちな嚥下困難者は、通常の食品から栄養成分を摂取しづらいため、嚥下食から質の良い栄養成分を容易に摂取できることが求められる。特に、たんぱく質は筋力の維持・強化に不可欠であり、また、たんぱく質の不足により寝たきりの患者における褥瘡(床ずれ)が発症しやすいことがわかっている。このようにたんぱく質は栄養成分として重要であり、たんぱく質成分を高濃度で含有する嚥下食のニーズが高くなってきている。
【0003】
栄養補給を目的とする食品において、たんぱく質成分は栄養学的に良好なアミノ酸組成であることが好ましい。例えば、良好なアミノ酸組成について、1985年に国連食料農業機構(FAO)、世界保健機構(WHO)及び国連大学(UNU)は合同でその基準を示している。これは、食品中のたんぱく質成分あたりの必須アミノ酸量を上記FAO/WHO/UNUの合同委員会により提供された基準のアミノ酸評点パターンと比較し、最も不足するアミノ酸に関して、その割合を百分率で示すアミノ酸スコアとして評価するものである。必須アミノ酸をバランスよく摂取できる良質なたんぱく質成分としては、アミノ酸スコアが80以上であることが好ましく、100であることがより好ましいとされる。アミノ酸スコアが100とは、上記アミノ酸評点パターンに対し不足するアミノ酸がないことを意味する。
【0004】
特許文献1には、たんぱく質含有率の高いゲル状食品を得るために、ホエイタンパク、大豆たんぱく等のたんぱく質成分にコラーゲンペプチドを添加する技術が開示されている。しかしながら、コラーゲンペプチドは含有するアミノ酸に偏りがあり、アミノ酸スコアが低いため、たんぱく質含有率を高めることはできても必須アミノ酸をバランスよく摂取することは困難であった。
【0005】
特許文献2には、コラーゲンペプチドにおけるアミノ酸バランスの偏りを補うために、コラーゲンペプチドに特定の卵白ペプチドを添加する技術が開示されている。しかしながら、風味や味に問題がある。このような状況の中、嚥下困難者のQOL(Quality of Life(生活の質))を向上させるために、良質なたんぱく質を高濃度で含有し、味及び風味にも優れた嚥下食の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-065547号公報
【特許文献2】特開2015-151378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、良質なたんぱく質を高濃度で含有し、味及び風味にも優れ、嚥下困難者用食品としても好適なたんぱく質含有食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、コラーゲンペプチドと、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン及びバリンから選択される1種以上の必須アミノ酸と、水とを含有し、上記水の含有率が35質量%以下であり、上記コラーゲンペプチドの含有率が30質量%以上であるたんぱく質含有食品が提供される。
【0009】
本発明の他の側面によると、上記コラーゲンペプチド由来のたんぱく質の含有率が30質量%以上である上記側面に係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、上記コラーゲンペプチドの含有率が30質量%以上70質量%未満の範囲内である上記側面の何れかに係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、上記水の含有率が10質量%乃至33質量%以下の範囲内である上記側面の何れかに係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、アミノ酸スコアが100である上記側面の何れかに係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0013】
1種以上の非必須アミノ酸を更に含有し、上記非必須アミノ酸としてチロシン又はシスチンを少なくとも含有する上記側面の何れかに係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、ゲル化剤を含有し、硬さが5.0×104N/m2以下の嚥下障害者用食品である上記側面の何れかに係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によると、付着性が1.5×103J/m3以下である上記側面の何れかに係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によると、上記ゲル化剤として、カラギーナン、アルギン酸又はその塩、ペクチン、寒天、こんにゃく、カードラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、及びゼラチンから選択される1種以上を含有する上記側面に係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、ババロア、ムース、ゼリー、プリン、杏仁豆腐及び羊羹を含むゲル状食品である上記側面に係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によると、液状油脂を更に含有する上記側面の何れかに係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0019】
本発明の更に他の側面によると、上記液状油脂として、植物油及び乳化油脂から選択される少なくとも1種を含有する上記側面に係るたんぱく質含有食品が提供される。
【0020】
本発明の更に他の側面によると、
水とコラーゲンペプチドとを混合し、上記コラーゲンペプチドが溶解した第1溶液を得ることと、
上記第1溶液にヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン及びバリンから選択される1種以上の必須アミノ酸を加え、必須アミノ酸が分散した第2溶液を得ることと、
上記第2溶液を加熱殺菌することと
を含んだたんぱく質含有食品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良質なたんぱく質を高濃度で含有し、味及び風味にも優れ、嚥下困難者用食品としても好適なたんぱく質含有食品及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0023】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が 規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0024】
本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、水とコラーゲンペプチドとを含有する水性溶液に、1種以上の必須アミノ酸を配合してなる水性食品である。コラーゲンペプチドは、水への溶解限界が常温(例えば、20℃)及び常圧下において100%以上であるため、本実施形態に係る食品は、コラーゲンペプチドをその全質量に対し30質量%以上という高濃度において含有する。このため本実施形態に係る食品は、コラーゲンペプチド由来のたんぱく質を高濃度において含有し、一形態において、たんぱく質の含有率がその全質量に対し30質量%以上である。
【0025】
従来において、食品中のたんぱく質含有率を高めるために乳たんぱく質又は大豆たんぱく質を添加することがあるが、これらたんぱく質は水への溶解限界が10%前後と低い。このためその濃度を超えたたんぱく質を含有する水性食品を製造することは困難であった。本実施形態では、上記の通り、水への溶解限界が高いコラーゲンペプチドを使用したことにより、このようにたんぱく質を30質量%以上という高濃度において水性食品中に配合することを可能とした。なお、本明細書に示す「水性食品」と「たんぱく質含有食品」は、何れも本実施形態に係るたんぱく質含有食品を意味し、単に「食品」いうこともある。
【0026】
本実施形態において用いられるコラーゲンペプチドは、例えば、豚、鶏、魚等の動物由来のコラーゲンを酵素等により加水分解し、低分子化したものであってよい。コラーゲンペプチドの重量平均分子量は、特に限定されるものではなく、例えば1000以上10000以下であってよい。コラーゲンペプチドは市販品であってもよい。
【0027】
たんぱく質含有食品中のコラーゲンペプチドの含有率は、上記のとおり、食品の全質量を基準として30質量%以上であり、好ましくは30質量%以上70質量%未満の範囲内であってよく、30質量%以上65質量%以下の範囲内であってよく、35質量%以上60質量%以下の範囲内であってよい。
【0028】
本実施形態に係る水性食品は、1種以上の必須アミノ酸を含有している。ここで必須アミノ酸とは、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン(リシン)、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン及びバリンを意味している。上述したとおり、コラーゲンペプチドを構成するアミノ酸には偏りがある。水性食品にコラーゲンペプチドを配合することによりたんぱく質濃度が30質量%以上の高濃度を実現できても、コラーゲンペプチドのみではアミノ酸スコアが低く、体内でのたんぱく質の利用効率が悪い。一方、鋭意検討する中で、コラーゲンペプチドを含有する水性食品中に、乳たんぱく質や大豆たんぱく質などの水への溶解限界が低いたんぱく質を添加すると、溶液は急速に流動性を失い、所望とする嚥下障害者用食品は得られないことがわかっている。これに対し本実施形態に係る食品は、コラーゲンペプチドを含有する水性食品中に不足している必須アミノ酸を配合することにより、食品中に含有されるたんぱく質のアミノ酸バランスを改善している。具体的には、上述したアミノ酸評点パターンとの対比において不足している必須アミノ酸を配合し、アミノ酸スコアを改善している。本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、アミノ酸スコアが好ましくは100である。
【0029】
アミノ酸スコアとは、上記のとおり、1985年にFAO/WHO/UNUの合同委員会により提案されたアミノ酸組成に基づくたんぱく質の栄養評価法であり、食品に含まれる必須アミノ酸が必要量を満たしているか否かの基準を示す。これは、食品中のたんぱく質成分あたりの必須アミノ酸量を、上記FAO/WHO/UNUの合同委員会により提供された基準のアミノ酸評点パターンと対比し、最も不足するアミノ酸に関して、その割合を百分率で示すアミノ酸スコアとして評価するものである。不足する必須アミノ酸がない場合、換言すると各必須アミノ酸について算出された百分率の最低値が100を上回る場合は、アミノ酸スコアは100とする。必須アミノ酸をバランスよく摂取できる良質なたんぱく質成分としては、アミノ酸スコアが80以上であることが好ましく、100であることがより好ましいとされる。
【0030】
ここでは、アミノ酸スコアは、FAO/WHO/UNUによる上記アミノ酸評点パターン(2007年改訂)の年齢区分のうち、18歳以上のアミノ酸評点パターンを用いて算出している。例えば、豚由来のコラーゲンペプチドは、必須アミノ酸の中で特にトリプトファンが少なく、アミノ酸評点パターンとの対比において最も低い。この場合、アミノ酸評点パターンのトリプトファン(mg/たんぱく質)に対するコラーゲンペプチドに含有されるトリプトファン(mg/たんぱく質)の割合を百分率で示したものがコラーゲンペプチドのアミノ酸スコアとなる。後述する[実施例]の試験例1で算出したコラーゲンペプチドのアミノ酸スコアは、1.7であった。
【0031】
本実施形態に係る食品において配合される必須アミノ酸としては、アミノ酸評点パターンとコラーゲンペプチドとの対比において、コラーゲンペプチドに不足しているトリプトファン等の必須アミノ酸が挙げられる。後述する試験例3では、上記必須アミノ酸の中から、豚由来のコラーゲンペプチドに不足していなかったトレオニンを除くすべての必須アミノ酸、すなわち、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン及びバリンを添加している。ただし、不足していない必須アミノ酸、あるいは必須アミノ酸ではないアミノ酸(非必須アミノ酸)を配合することを排除するものではない。また、配合される各必須アミノ酸の配合率は、所望とするアミノ酸スコアが得られるよう決定される。例えば、本実施形態において配合される各必須アミノ酸の配合率は、本実施形態に係る食品のアミノ酸スコアが100となるよう決定される。
【0032】
必須アミノ酸には苦味を主な呈味特性とする特有の臭味がある。コラーゲンペプチドに不足している必須アミノ酸を配合することにより、必須アミノ酸をバランスよく含むアミノ酸スコアが100のたんぱく質含有食品を得る場合、必須アミノ酸に特有の臭味が問題となる。この必須アミノ酸に由来する望ましくない臭味を抑制できなければ、必須アミノ酸をバランスよく摂取できる良質なたんぱく質を高濃度で含んだ食品は提供することはできない。そこで、必須アミノ酸の臭味を抑制するための手段を鋭意検討する中で、たんぱく質含有食品に含まれる水の含有率を抑えることで必須アミノ酸由来の臭味がマスキングされることを見出した。
【0033】
本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、水の含有率をその全質量に対して35質量%以下とすることにより、必須アミノ酸由来の臭味を効果的に抑制している。一方、コラーゲンペプチドの水に対する溶解度、又は後述する任意成分であるゲル化剤の水に対する溶解度等の観点から、水の含有率は10質量%以上であることが好ましい。このように本実施形態に係る食品において、水の含有率は10質量%以上35質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上33質量%以下の範囲内であることがより好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0034】
本実施形態に係る食品は、液状油脂を更に含有することが好ましい。液状油脂を配合することにより、必須アミノ酸由来の臭味に対するマスキング効果が向上する。液状油脂は、少なくとも室温で液状の食用油であればよく、具体例としては、サラダ油、ひまわり油、菜種油、大豆油、ゴマ油、綿実油、米油、オリーブ油、アマニ油、コーン油、パーム油等の植物油、乳化油脂等が挙げられる。乳化油脂は、乳化剤等を加えて乳化させたものであればよく、例えば、「ARホワイト」(日油株式会社製)等の市販品を用いてもよい。一形態において、液状油脂として植物油と乳化油脂とを併用することが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る食品は、一形態において、ゲル化剤を更に含んでいる。本実施形態に係る食品は、コラーゲンペプチドを高含有率において含有し、且つ、水分含有率が低く抑えられている。このため製造過程において多量のコラーゲンペプチドと少量の水とを混合した場合、溶液の粘度は上昇し、得られる食品は付着性が高く、嚥下障碍者において嚥下しにくい食品となりやすい。この場合、ゲル化剤を配合することにより、硬さや付着性を嚥下障碍者用食品として好適な範囲に調整することが容易となり、柔らかく且つ付着性の低い飲み込みやすい物性の食品を得ることができる。また、ゲル化剤を配合することにより、必須アミノ酸由来の特有の臭味に対するマスキング効果が向上し、食品の味及び風味が更に改善される。本実施形態に係る食品は、例えば、ババロア状、ムース状、ゼリー状、プリン状又は羊羹状等のゲル状食品であってよい。
【0036】
ゲル化剤としては、食品分野で使用されているものならいずれも使用することができる。ゲル化剤には、2価の金属イオンによりゲル化するゲル化剤、加熱もしくは加熱後の冷却によりゲル化するゲル化剤が包含される。ゲル化剤の具体例としては、カラギーナン、アルギン酸又はその塩、ペクチン、寒天、こんにゃく、カードラン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、ゼラチン、及び乾燥卵白(乾燥卵白)等が挙げられ、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。2種を併用する例としては、カラギーナンとローカストビーンガムとの組み合わせ、キサンタンガムとローカストビーンガムとの組み合わせが挙げられる。また、付着性をより低くする観点からは、上述した具体例の中から乾燥卵白以外のゲル化剤を使用することが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、一例によれば、嚥下障害者用食品として提供される。
【0038】
日本介護食品協議会によるユニバーサルデザインフード(UDF)基準によると、食品は硬さ等に応じて4つの区分、即ち、「容易にかめる」、「歯ぐきでつぶせる」、「舌でつぶせる」、及び「かまなくてよい」へ分類される。区分「容易にかめる」の食品には硬さが5×105N/m2以下であることが要求され、区分「歯ぐきでつぶせる」の食品には硬さが5×104N/m2以下であることが要求され、区分「舌でつぶせる」の食品には硬さが2×104N/m2以下であることが要求され、区分「かまなくてよい」の食品には硬さが5×103N/m2以下であることが要求される。
【0039】
本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、例えば、5×104N/m2以下の硬さを有していることが好ましい。
【0040】
消費者庁の「えん下困難者用食品たる表示の許可基準」によると、食品は、付着性等に応じて3つの規格、即ち、評価基準I、II及びIIIへ分類される。評価基準Iの食品には付着性が4×102J/m3以下であることが要求され、評価基準IIの食品には、付着性が1×103J/m3以下であることが要求され、評価基準IIIの食品には、付着性が1.5×103J/m3以下であることが要求される。
【0041】
本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、例えば、1.5×103J/m3以下の付着性を有していることが好ましい。
【0042】
なお、本実施形態に係る食品の硬さ及び付着性は、以下の方法により測定する。測定装置としては、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いる。直径40mmの容器に試料を15mmの高さに充填し、直径が20mmのプランジャでこれを圧縮して、圧縮応力を測定する。この測定は、20±2℃の温度で、圧縮速度を10mm/秒とし、容器の底面とプランジャとのクリアランスが5mmになるまで行う。試料が不定形である場合などには、クリアランスを試料の厚さの30%として測定してもよい。この測定を5回行い、最大値及び最小値を除いた3回の値の平均を測定値とする。
【0043】
本実施形態に係る食品は、例えば、ババロア、ムース、ゼリー、プリン、杏仁豆腐及び羊羹等のゲル状食品であってよい。本実施形態に係る食品は、ゲル化剤又は液状油脂に加えて、上記食品に通常使用される成分を必要に応じて含有してよい。本実施形態に係る食品は、例えば、甘味料、果汁、フレーバー粉末、香料、酸味料、澱粉、防腐剤、着色料、分散剤、炭水化物、脂質、水溶性食物繊維などの成分を含み得る。
【0044】
本実施形態に係るたんぱく質含有食品は、例えば以下の方法により調製することができる。即ち、
(1)水とコラーゲンペプチドとを撹拌下において混合し、コラーゲンペプチドが溶解した第1溶液を得る工程、
(2)上記第1溶液に各種必須アミノ酸を撹拌下において加え、必須アミノ酸が分散した第2溶液を得る工程、及び
(3)上記第2溶液を加熱殺菌する工程
を含む方法により調製する。液状油脂を使用する場合は、例えば、工程(1)において液状油脂を添加してよい。ゲル化剤を使用する場合は、例えば、工程(1)と工程(2)の間、又は工程(2)と工程(3)の間にゲル化剤を添加してよい。また、コラーゲンペプチドと各種必須アミノ酸の使用順序を入れ替えてもよい。
【実施例0045】
以下に本発明に関連して行った試験の結果を記載する。
(試験例1)コラーゲンペプチドのアミノ酸スコア
豚由来のコラーゲンペプチドのアミノ酸組成と、アミノ酸評点パターンを表1に示す。ここで、豚由来のコラーゲンペプチドの必須アミノ酸組成は、日本食品標準成分表2020年版(八訂)を参照した。このコラーゲンペプチド中のたんぱく質の含有率は87.6質量%である。また、アミノ酸評点パターンは、1985年にFAO/WHO/UNUが発表したアミノ酸評点パターン(mg/gN)を、たんぱく質当たりの必須アミノ酸量(mg/gたんぱく質)に換算した値(2007年改訂)を使用した。
【0046】
【0047】
上記コラーゲンペプチドにおいて、アミノ酸評点パターンとの対比で最も不足している必須アミノ酸はトリプトファンである。アミノ酸評点のトリプトファン6mg/gたんぱく質に対し、上記コラーゲンペプチドに含まれるトリプトファンは0.1mg/gたんぱく質であるから、上記コラーゲンペプチドのアミノ酸スコアは(0.1/6.0)×100≒1.7となる。
【0048】
なお、表1に示すとおり、アミノ酸評点パターンでは、メチオニンが非必須アミノ酸であるシスチンとの合計量として示され、フェニルアラニンが非必須アミノ酸であるチロシンとの合計量として示されている。
【0049】
(試験例2)必須アミノ酸の配合率の決定方法
上記コラーゲンペプチドを含む食品に対し、アミノ酸スコアを100にするために必要な必須アミノ酸の種類及び配合量(M2)を表2に示す。ここに示す「アミノ酸スコアを100にするために不足しているアミノ酸量[M2]」は、コラーゲンペプチドの含有率が40g(40質量%)である食品100gにおける配合量である。
【0050】
【0051】
(試験例3)
3-1.例1
下記方法により、ゲル状食品を製造した。ここで使用した材料とその配合比(質量%)は、表3に示すとおりである。
【0052】
撹拌器に水と植物油(サラダ油)とデキストリンを注入し混合した。この混合溶液にコラーゲンペプチド(「ROUSSELOT PEPTAN P 2000HD」、Rousselot BV社製)を添加し、撹拌した。ここで使用したコラーゲンペプチドは豚由来のコラーゲンペプチドであり、試験例1及び2に記載のコラーゲンペプチドと同様のアミノ酸組成を有している。次いで、ゲル化剤として乾燥卵白(ゲル化剤1)と、酸味料としてクエン酸と、甘味料としてアセスルファムカリウムと、着色料としてカラメル色素とを添加し、撹拌した。
【0053】
次いで、各種アミノ酸を添加し、撹拌した。添加するアミノ酸の種類及びその量は、表2に記載の「アミノ酸スコアを100にするために不足しているアミノ酸量[M2]」に基づき、アミノ酸スコアが100となるよう表3に示すとおりに決定した。次いで、香料としてチョコレートフレーバーを添加し、撹拌した。得られた溶液を充填機に移し、充填機から100mLのカップに50gを充填した。上面をフィルムで密封し、加熱殺菌した。加熱条件は90℃で30分間とした。粗熱をとってから冷蔵庫に移し、5℃で1時間冷却することによりゲル状食品を得た。
【0054】
3-2.例2乃至15、及び、比較例1乃至2
例1に対し、水とコラーゲンペプチドの配合率を表3に記載のとおりに変更した以外は、例1と同様の方法でゲル状食品を製造した。なお、水とコラーゲンペプチドの配合率を変更するに際し、植物油又はデキストリンの配合率を変更して調整している場合がある。
【0055】
3-3.例16
液状油脂として植物油(サラダ油)に加え、乳化油脂(「ARホワイト」;日油株式会社製)を併用したこと以外は、例9と同様の方法でゲル状食品を製造した。なお、乳化油脂の追加に際し、デキストリンの配合率を変更した。
【0056】
3-4.例17
ゲル化剤として、乾燥卵白(ゲル化剤1)に替えて、カラギーナン(ゲル化剤2)とローカストビーンガム(ゲル化剤3)を使用したこと以外は、例9と同様の方法でゲル状食品を製造した。
【0057】
【0058】
【0059】
3-5.評価
3-5-1.アミノ酸由来の臭味の抑制能評価(1)
例1乃至15、及び、比較例1乃至2の各ゲル状食品について、訓練されたパネラーが必須アミノ酸に特異的な苦みを主な呈味特性とする臭味を評価した。評価基準は、次のように判定した。結果を表4に示す。
<風味の評価基準>
A:必須アミノ酸に特異的な臭味を感じない。
B:必須アミノ酸に特異的な臭味が微かに存在するが、殆ど気にならない程度である。
C:必須アミノ酸に特異的な臭味を気になる程度に感じる。
【0060】
【0061】
表4より、水分含有率を抑えることにより必須アミノ酸由来の臭味がマスキングされることがわかる。更に、コラーゲンペプチドの含有率を調整することにより更なるマスキング効果が得られることがわかる。
【0062】
3-5-2.アミノ酸由来の臭味の抑制能評価(2)
例16のゲル状食品について、上記と同様の評価方法により必須アミノ酸由来の臭味を評価した。結果を表5に示す。なお、表5は表4に対し例16の評価結果を加えたものである。
【0063】
【0064】
上記のとおり、例16は、例9に対し液状油脂として植物油(サラダ油)に加え、乳化油脂(「ARホワイト」;日油株式会社製)を併用した例である。表5に記載の例9と例16との対比から、乳感を有する乳化油脂を植物油と併用することにより、アミノ酸由来の臭味のマスキング効果が向上することがわかる。
【0065】
3-5-3.硬さ及び付着性評価
例9及び例17のゲル状食品について、硬さと付着性を測定した。測定装置として(「Tensipresser My Boy II System」、(有)タケトモ電気製)を使用し、測定方法は上述した方法を用いた。結果を表6に示す。
【0066】
【0067】
上記のとおり、例17は、例9に対し、ゲル化剤として乾燥卵白(ゲル化剤1)に替えて、カラギーナン(ゲル化剤2)とローカストビーンガム(ゲル化剤3)を使用した例である。表6から、ゲル化剤の選択により付着性を低減できることがわかる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。