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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146002
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】摺動部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 5/00 20060101AFI20241004BHJP
   B22F 10/25 20210101ALI20241004BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20241004BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241004BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20241004BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20241004BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B22F5/00 S
B22F10/25
B22F7/04 B
B22F1/00 L
C22C9/02
C22C1/05
B23K35/30 Z
B23K35/30 340
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058664
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃大
(72)【発明者】
【氏名】坂根 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勇人
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018AB05
4K018BA02
4K018BA07
4K018BA08
4K018BA10
4K018BA20
4K018BC12
4K018DA29
4K018DA30
4K018EA51
4K018JA27
4K018KA02
(57)【要約】
【課題】良好な摺動性及び耐摩耗性を有する硫化物分散銅合金からなる摺動層で被覆された摺動部材を提供する。
【解決手段】摺動部材の製造方法は、金属材料からなる基材上に溶加材を供給し、基材の表層部分と溶加材とを溶融してから冷却することにより、基材上に硫化物分散銅合金からなる摺動層を指向性エネルギー堆積法によって積層することを含む。溶加材は、Sn:4.0質量%以上15.0質量%以下、S:0.4質量%以上5.0質量%以下、Fe:1.5質量%以下、残部がCu、脱酸素剤元素及び不可避的不純物からなる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる基材上に溶加材を供給し、前記基材の表層部分と前記溶加材とを溶融してから冷却することにより、前記基材上に硫化物分散銅合金からなる摺動層を指向性エネルギー堆積法によって積層することを含み、
前記溶加材は、Sn:4.0質量%以上15.0質量%以下、S:0.4質量%以上5.0質量%以下、Fe:1.5質量%以下、残部がCu、脱酸素剤元素及び不可避的不純物からなる、
摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記冷却において前記基材の表層部分と前記溶加材からなる溶融池の当該溶融池の液相線温度以下の温度範囲における最大冷却速度が2000℃/sec以上5000℃/sec以下である、
請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物分散銅合金で被覆された摺動部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材の材料として、固体潤滑性能を有する硫化物を銅合金中に分散させた硫化物分散銅合金が知られている。硫化物分散銅合金中において、硫黄は銅や鉄と結合した硫化物として存在している。硫化物分散銅合金は、従来の摺動材料に用いられてきた鉛を主な成分として用いない、いわゆる鉛フリーの材料でありながら高い摺動性を有する。特許文献1では、この種の硫化物分散銅合金が開示されている。
【0003】
特許文献1には、摺動部材用銅合金の鋳造材と焼結材が開示されている。摺動部材用銅合金は、スズ、鉄、硫黄を所定量含有し、残分が銅及び不純物からなり、銅合金中に銅及び鉄と硫黄との化合物である硫化物が分散したものである。鋳造材は、摺動部材用銅合金の材料を鋳造して得られたものである。また、焼結材は、摺動部材用銅合金の材料からアトマイズ法によって作製した合金粉末を鋼板上に散布し、鋼板と共に合金粉末を焼結し、圧延して得られたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-150649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硫化物分散銅合金の鋳造材は、鋳造の凝固過程で生じたデンドライト状の硫化物がマトリックスに分散したものであることが知られている。また、摺動部材用銅合金の焼結材は、焼結過程で生じた片状の硫化物がマトリックスに分散したものであることが知られている。これらの硫化物分散銅合金には、摺動性(即ち、摺動面の摩擦の少なさ)及び耐摩耗性の向上の余地が残されている。
【0006】
以上に鑑み、本開示の目的は、良好な摺動性及び耐摩耗性を有する硫化物分散銅合金からなる摺動層で被覆された摺動部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る摺動部材の製造方法は、
金属材料からなる基材上に溶加材を供給し、前記基材の表層部分と前記溶加材とを溶融してから冷却することにより、前記基材上に硫化物分散銅合金からなる摺動層を指向性エネルギー堆積法によって積層することを含み、
前記溶加材は、Sn:4.0質量%以上15.0質量%以下、S:0.4質量%以上5.0質量%以下、Fe:1.5質量%以下、残部がCu、脱酸素剤元素及び不可避的不純物からなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、良好な摺動性及び耐摩耗性を有する硫化物分散銅合金からなる摺動層で被覆された摺動部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、摺動部材の製造過程における溶融池の温度変化の一例を示す図表である。
図2図2は、硫化物分散銅合金のマトリックス中に分散している硫化物の絶対最大長と対角幅の関係を示す図表である。
図3図3は、実施例1に係る試料の硫化物分散銅合金の断面組織の写真である。
図4図4は、比較例1に係る試料の硫化物分散銅合金の断面組織の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本開示の実施の形態を説明する。本開示に係る摺動部材は、基材と、基材の一部又は全部を覆う摺動層とを有する。つまり、摺動部材の一部又は全部は摺動層で被覆されている。摺動層は、青銅中に金属硫化物が分散した硫化物分散銅合金からなる。硫化物分散銅合金は、青銅の基本的な成分である銅Cu及びすずSnに加えて、硫化物を生成するための硫黄Sと鉄Feを含む。より詳細には、硫化物分散銅合金は、実質的に、4.0質量%以上15.0質量%以下のSn、0.4質量%以上5.0質量%以下のS、0.01質量%以上1.5質量%以下のFe、残部がCu、脱酸素剤元素、及び不可避的不純物からなる。硫化物分散銅合金は、銅合金中の硫化物の分散状況や粒子形状に関する性質に悪影響を及ぼさないその他の元素及び不純物を含有していてもよい。
【0011】
《Sn》
Snは、銅合金のマトリックスに固溶して、マトリックスの耐摩耗性を向上させる。銅合金のSnの含有量が4.0質量%未満であるとSnの機能が不十分となる。このような観点から、銅合金のSnの含有量は、4.0質量%以上、好ましくは、7.0質量%以上である。一方で、銅合金のSnの含有量が15.0質量%を超えると、靭性が著しく低下して割れを引き起こし易い。このような観点から、銅合金のSnの含有量は、15.0質量%以下、好ましくは、13.0質量%以下である。
【0012】
《S》
Sは、銅合金中でSはCuやFeと結合した硫化物として存在し、摺動性に寄与する。銅合金中には硫黄のみが存在することはなく硫化物の状態で存在するので、硫黄の含有量が多くなると、硫化物の含有量も多くなる。銅合金のSの含有量は0.4質量%未満であれば、生成する硫化物が少ないため摺動性向上の効果が小さい。このような観点から、銅合金のSの含有量は0.4質量%以上、好ましくは、2.0質量%以上である。Sの含有量は多いほど摺動性の向上が見込めるが、摺動部材の機械的強度に課題が生じる。このような観点から、銅合金のSの含有量は5.0質量%以下、好ましくは、3.0質量%以下である。
【0013】
《Fe》
Feは、脱酸素剤やその他原料に含まれた状態で銅合金原料に混入する。銅合金中のFFeはSと結合した硫化物として存在する。銅合金中のFeの含有量が過剰となると、銅合金中にFeが単体で析出して、鉄系材料に対する摺動性の低下を招くおそれがある。このような観点から、銅合金中のFeの含有量は、0.01質量%以上、1.5質量%以下である。但し、銅合金中のFeの含有量の下限は0.01質量%未満の検出限界、即ち、検出できる最小量であってもよい。
【0014】
《脱酸素剤元素》
硫化物分散銅合金は、Sn、S、及びFe以外に、Cu、脱酸素剤元素、及び不可避的不純物を含む。脱酸素剤元素は、マンガンMn、亜鉛Zn、マグネシウムMg、カルシウムCa、アルミニウムAl、及びリンPのうち少なくとも1種の元素である。脱酸素剤元素は、製造時に銅合金原料に添加した脱酸素剤の残滓であり、銅合金原料に固溶して溶湯の脱酸をする効果を有する。硫化物分散銅合金は脱酸素剤元素として複数の元素を含有していてもよく、脱酸素剤元素は、合計で数質量%(2乃至3質量%)以下程度の含有が許容される。但し、硫化物分散銅合金は脱酸素剤元素を含有していなくてもよい。この場合の硫化物分散銅合金は、実質的に、4.0質量%以上15.0質量%以下のSn、0.4質量%以上5.0質量%以下のS、0.01質量%以上1.5質量%以下のFe、3.0質量%以下(0を含む)の脱酸素剤元素、残部がCu及び不可避的不純物からなる。脱酸素剤は、少なくともMnを含むのが好ましい。銅合金原料に脱酸素剤としてMnが添加される場合、銅合金中のMnの含有量は0.6質量%以下が好ましい。また、銅合金原料に脱酸素剤としてFeSiが添加される場合、銅合金中のSiの含有量は0.5質量%以下が好ましい。
【0015】
不可避的不純物として含有される元素の含有量は少ないほど好ましい。不可避的不純物としては、Moなどが例示される。なお、本開示に係る硫化物分散銅合金は、JIS H 5120「銅及び銅合金鋳物」に規定されるCAC400番台の青銅材料に相当する組成が適用されたものである。
【0016】
《摺動部材の製造方法》
摺動部材は、基材の表面に硫化物分散銅合金からなる摺動層を積層形成することによって製造される。基材は金属材料からなる。金属材料として、鋳鉄、ステンレス鋼、炭素鋼等の鉄系材料や、ニッケル基合金、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料、チタン系材料、及び、銅系材料等の非鉄系材料が例示される。
【0017】
基材に摺動層を積層形成する方法は、硫化物分散銅合金の原料が基材と共に溶融する工程と、溶融した原料が急冷凝固する工程とを含む。摺動層を形成する手法は、特に限定されないが、指向性エネルギー堆積法が例示される。指向性エネルギー堆積法は、「DED(Directed Energy Deposition)」や「デポジション方式」とも称され、摺動部材の摺動性の必要な部位に的確に摺動層を造形することが可能である。摺動層の形成に、公知の指向性エネルギー堆積方式の造形装置を利用できる。
【0018】
指向性エネルギー堆積法による摺動層の形成方法では、集束させた熱エネルギーを基材に照射して基材の表層部に溶融池を形成し、この溶融池に硫化物分散銅合金の原料からなる溶加材を供給し、基材の表層部と溶加材とが完全に溶融した状態の溶融池となってから当該溶融池を急冷凝固させることで、基材の表面に硫化物分散銅合金からなる肉盛を形成する。ここで、溶融池及びその周囲には不活性ガスからなるシールドガスが供給されて肉盛の酸化が防止される。この肉盛の形成を繰り返すことによって、基材の表面に硫化物分散銅合金からなる摺動層が造形される。熱エネルギーの供給手段として、レーザービーム又はアーク放電が採用される。レーザーとして、半導体レーザー、炭酸ガスレーザ、YAGレーザー等を用いることができる。
【0019】
上記の溶加材として、コアードワイヤが用いられる。コアードワイヤは、U字形の薄い鋼板の中に硫化物分散銅合金の原料の果粒を充填させて被覆し、長尺のワイヤ状に成形したものである。或いは、上記の溶加材として、硫化物分散銅合金の原料の混合粉末が用いられてもよい。混合粉末として、硫化物分散銅合金の各原料の粉末を混合したもの、又は、硫化物分散銅合金の原料を一旦溶融して粉末状に成形したものが用いられる。粉末状に成形された硫化物分散銅合金はアトマイズ粉末であってよい。
【0020】
溶融した溶加材と基材からなる溶融池は、自然冷却又は強制冷却によって急冷されて凝固して肉盛となる。溶融池の強制冷却の方法として、水冷、油冷、及び空冷が例示される。図1に示すように、溶融池の温度は、硫化物分散銅合金の溶融温度以上の最高温度となった後、急速に低下する。急冷において溶融池温度が液相線温度以下の温度範囲にある時の最大冷却速度は2000℃/sec以上5000℃/sec以下である。液相線温度は、溶融池の組成や圧力によって異なり、溶融池の固液相平衡図に基づいて設定できる。
【0021】
上記製造方法によって得られた摺動部材の摺動層では、銅合金のマトリックス中に、固体潤滑剤として機能する硫化物が分散している。硫化物は、略球状であり、銅合金のマトリックス中に概ね均一に分散している。
【0022】
《硫化物の平均円相当径》
硫化物分散銅合金(即ち、摺動層)のマトリックス中に分散している硫化物の平均円相当径は、0.5μm以上3.0μm以下である。円相当径(ECD)は、硫化物の面積に等しい面積を有する円の直径である。硫化物の面積は、硫化物の投影面積であってよい。平均円相当径は、観察範囲に含まれる硫化物の円相当径の平均値である。硫化物が上記の平均円相当径を有することは、鋳造材のようにデンドライト状の硫化物を有する場合と比較して、硫化物が微細であり硫化物分散銅合金の組織が緻密であることを意味する。微細な硫化物は銅合金のマトリックス中に偏在せずに広く分散する。これにより、微細な固体潤滑剤が均一に分散した摺動層が得られ、摺動層の摺動性(即ち、摺動面の摩擦の少なさ)が向上する。また、硫化物分散銅合金の組織が緻密であることにより、硫化物分散銅合金の硬度が向上する。これにより、摺動層の耐摩耗性が向上する。
【0023】
《硫化物の平均アスペクト比》
硫化物分散銅合金(即ち、摺動層)のマトリックス中に分散している硫化物の平均アスペクト比(ここでは、平均針状比)は、1.0以上1.7以下である。アスペクト比は、硫化物の長軸径と短軸径の比である。平均アスペクト比は、観察範囲に含まれる硫化物のアスペクト比の平均値である。硫化物が上記のアスペクト比を有することは、硫化物が等方的であり概ね球状であることを意味する。略球状の硫化物がマトリックス中に分散している硫化物分散銅合金は、切り屑が細かく分断されるため切削加工性が良好であり、加工性に優れる。
【0024】
《硫化物の絶対最大長と対角幅の決定係数》
硫化物分散銅合金(即ち、摺動層)のマトリックス中に分散している硫化物の絶対最大長と対角幅の決定係数は、0.85以上である。硫化物の絶対最大長は、硫化物の長軸径である。対角幅は、硫化物の長軸と平行な二本の線で硫化物を挟んだときの、二本の線の距離である。図2に示すように、絶対最大長を第1軸、対角幅を第2軸にとったグラフに、硫化物の絶対最大長と対角幅の関係をプロットした散布図を作図する。この散布図に最小二乗法に基づき回帰直線を引き、回帰直線の当てはまり度合いを表す決定係数(R2)を求める。決定係数は相関係数を二乗した値であり、決定係数が1に近いほど点が回帰直線上に集まっていることを表す。略球状の硫化物がマトリックス中に分散している硫化物分散銅合金は、デンドライト状や片状の硫化物が偏在している銅合金と比較して、硫化物の絶対最大長と対角幅の決定係数は1に近く、硫化物のアスペクト比が揃っており、硫化物の形状のバラつきが小さい。
【0025】
[実施例]
上記摺動部材の実施例1,2と比較例1の試料を作製し、各試料の組織を観察し、各試料の摺動性能を評価した。
【0026】
《試料の作製》
(1)実施例1
基材として、JIS S55C相当の炭素鋼からなる縦80mm×横40mm×厚さ20mmの板材を用意した。表1に示す銅合金原料からなるコアードワイヤを溶加材として作製した。指向性エネルギー堆積法で基材上に溶加材で摺動層となる肉盛を形成した。この際、基板上に溶加材を供給し、基板の表層部分と溶加材とをレーザービームの熱エネルギーで溶融して溶融池を生成し、溶融池を大気放冷により自然冷却した。熱電対で計測された溶融池の温度は最高で約1700℃であり、溶融池の温度は最高温度まで昇温したのち急速に低下し、急冷時の液相線温度以下の温度範囲における最大冷却速度は5000℃/secであった。
(2)比較例1
表1に示す銅合金原料を鋳造により成形して、直径4.9mm×厚さ2mmの試料片を作製した。鋳造では、硫化物分散銅合金の原料を溶融し、溶湯を鋳型に流し込んだ後、大気放冷により自然冷却した。冷却時の液相線温度以下の温度範囲における最大冷却速度は1℃/secであった。
【0027】
【表1】
【0028】
《観察・試験》
(1)組織観察
各試料の硫化物分散銅合金の断面を研磨処理して、電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製ショットキー走査電子顕微鏡SU5000)で観察した。観察で得られた金属組織を図3及び図4に示す。図3は実施例1に係る試料の硫化物分散銅合金の断面組織であり、図4は比較例1に係る試料の硫化物分散銅合金の断面組織である。
【0029】
各試料の平均円相当径を測定した。詳細には、画像解析及び計測ソフトウェア(三谷商事株式会社製WinROOF)を用いて、20視野の画像データを二値化して計測モードで円相当径を計測し、計測された円相当径の平均値を試料の平均円相当径とした。
【0030】
各試料の平均アスペクト比を測定した。詳細には、画像解析及び計測ソフトウェア(三谷商事株式会社製WinROOF)を用いて、20視野の画像データを二値化して計測モードで針状比を計測し、計測された針状比の平均値を試料の平均アスペクト比とした。
【0031】
各試料の硫化物の絶対最大長と対角幅を測定し、決定係数を求めた。詳細には、画像解析及び計測ソフトウェア(三谷商事株式会社製WinROOF)を用いて、20視野の画像データを二値化して計測モードで絶対最大長及び対角幅を計測した。計測された絶対最大長をyとし、対角幅をxとしたときの決定係数を算出した。
【0032】
実施例及び比較例について、測定した平均円相当径、平均アスペクト比、及び決定係数を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
《評価》
(1)金属組織
実施例に係る試料の硫化物分散銅合金(即ち、摺動層)では、マトリックス中に略球状で微細な硫化物が概ね均等に分散した組織となっていた。このような組織は、実施例では銅合金材料が溶融した後に急冷凝固することによって形成されたものと考えられる。比較例1では、マトリックス中にデンドライト状の粗大な硫化物が偏在していた。
【0035】
(2)摺動性
実施例に係る試料の硫化物分散銅合金(即ち、摺動層)では、比較例1と比較して、固体潤滑剤である硫化物が分散していることから、硫化物分散銅合金は全面的に均一で良好な摺動性を有する。また、実施例に係る試料の硫化物分散銅合金は、比較例1と比較して、組織が緻密であり、硬度が高く、耐摩耗性に優れる。
【0036】
〔総括〕
以上に説明した通り、本開示の第1の項目に係る摺動部材の製造方法は、
金属材料からなる基材上に溶加材を供給し、基材の表層部分と溶加材とを溶融してから冷却することにより、基材上に硫化物分散銅合金からなる摺動層を指向性エネルギー堆積法によって積層することを含み、
溶加材は、Sn:4.0質量%以上15.0質量%以下、S:0.4質量%以上5.0質量%以下、Fe:1.5質量%以下、残部がCu、脱酸素剤元素及び不可避的不純物からなるものである。
【0037】
本開示の第2の項目に係る摺動部材の製造方法は、第1の項目に係る摺動部材の製造方法において、冷却において基材の表層部分と溶加材からなる溶融池の当該溶融池の液相線温度以下の温度範囲における最大冷却速度が2000℃/sec以上5000℃/sec以下であるものである。
【0038】
上記の製造方法より製造された摺動部材の摺動層を形成している硫化物分散銅合金において固体潤滑剤である硫化物が分散しており、硫化物分散銅合金は全面的に均一で良好な摺動性を有する。また、摺動部材の摺動層を形成している硫化物分散銅合金は組織が緻密であり、硬度が高く、耐摩耗性に優れる。よって、本開示によれば、良好な摺動性及び耐摩耗性を有する硫化物分散銅合金からなる摺動層で被覆された摺動部材の製造方法を提供できる。
図1
図2
図3
図4