(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146005
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02C 7/00 20060101AFI20241004BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20241004BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20241004BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20241004BHJP
【FI】
G02C7/00
G02C7/02
G02C7/10
G02B1/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058667
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川路 宗矩
(72)【発明者】
【氏名】植田 恭輔
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
【Fターム(参考)】
2H006BA03
2H006BE05
2K009AA03
2K009AA09
2K009BB02
2K009BB11
2K009CC03
2K009CC06
2K009DD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】視認性が良好な眼鏡レンズを提供すること。
【解決手段】レンズ基材と、上記レンズ基材の物体側表面上及び物体側表面上にそれぞれ位置する多層膜と、を含む眼鏡レンズ。眼鏡レンズの物体側表面又は眼球側表面の380nm~780nmの波長帯域における極大値が2.00%を超え、上記極大値が2.00%を超える表面を面1、他方の表面を面2として、各面の指定波長域の反射率が、別に定める条件式を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、前記レンズ基材の物体側表面上及び物体側表面上にそれぞれ位置する多層膜と、を含み、
眼鏡レンズの物体側表面又は眼球側表面の380nm~780nmの波長帯域における極大値が2.00%を超え、
前記極大値が2.00%を超える表面を面1、他方の表面を面2として、
Rb1を面1の420~440nmの波長帯域における平均反射率、
Rb2を面2の420~440nmの波長帯域における平均反射率、
Rg1を面1の530~540nmの波長帯域における平均反射率、
Rg2を面2の530~540nmの波長帯域における平均反射率、
Rr1を面1の440~460nm及び560~580nmの波長帯域における平均反射率、
Rr2を面2の440~460nm及び560~580nmの波長帯域における平均反射率として、
Rb2、Rg2及びRr2は、2.00%以下であり、且つ
下記式1~3をすべて満たす眼鏡レンズ。
式1:Rb1*Rb2<2.0
式2:Rg1*Rg2<2.0
式3:Rr1*Rr2<2.0
【請求項2】
面1と面2との主波長の差が70nm以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
一度も反射せずに透過した光を除き、多重反射した積算ゴースト光強度を3刺激値XYZで各々評価したときに、X、Y及びZの値がいずれも1.50E-02以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記X、Y及びZの値がいずれも5.00E-03以下である、請求項3に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
面2側の多層膜は、屈折率が1.20以上1.38以下の層を1層以上含む、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
面2側の多層膜は、屈折率が2.00以上2.40以下の層を1層以上含む、請求項5に記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
面2側の多層膜は、屈折率が1.44以上1.49以下の層を1層以上含む、請求項6に記載の眼鏡レンズ。
【請求項8】
面2側の多層膜の高屈折率層及び低屈折率層の総層数は7層以上である、請求項7に記載の眼鏡レンズ。
【請求項9】
面1と面2との主波長の差が70nm以下であり、
一度も反射せずに透過した光を除き、多重反射した積算ゴースト光強度を3刺激値XYZで各々評価したときに、X、Y及びZの値がいずれも1.50E-02以下であり、
面2側の多層膜は、屈折率が1.20以上1.38以下の層を1層以上含み、屈折率が2.00以上2.40以下の層を1層以上含み、屈折率が1.44以上1.49以下の層を1層以上含み、且つ
面2側の多層膜の高屈折率層及び低屈折率層の総層数は7層以上である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項10】
前記X、Y及びZの値がいずれも5.00E-03以下である、請求項9に記載の眼鏡レンズ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズ及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、一般に、レンズ基材の表面上に、眼鏡レンズに所望の機能をもたらすための機能性膜を形成することにより製造される。そのような機能性膜として、レンズ基材の表面上に多層膜を設けることが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、眼鏡レンズの市場では、各種機能を特徴とする様々な製品が提案され、販売されている。市場における付加価値がより高い眼鏡レンズを提供するために望ましい事項としては、視認性が良好であることが挙げられる。
【0005】
本発明の一態様は、視認性が良好な眼鏡レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来の眼鏡用の多層膜は、青色光カットの機能や個人の嗜好に合わせた色に反射調整されていることが一般的であった。そのような多層膜を有する眼鏡レンズは、一部分の波長帯域で高い反射率を有さざるを得ないため、眼鏡レンズ内で複数回反射した光(ゴースト光)が、その光強度を保ったまま眼鏡装用者の目に入射してしまい、視認性を低下させる原因となっていた。
これに対し、特許第6073355号明細書(特許文献1)には、刺激値Yによって評価されるゴースト光強度が所定値以下である眼鏡レンズが開示されている。具体的には、特許第6073355号明細書(特許文献1)に開示されている眼鏡レンズでは、眼鏡レンズの一方の面が反射の極大値を取る波長近傍において他方の面の反射が極小値を取るようにすることによってゴースト光強度の低減を図っている。
しかし、特許第6073355号明細書(特許文献1)では、刺激値Yについてのみゴースト光強度を規定し、色覚の観点では、装用評価は主に緑色光に対しての評価(蛍光灯照明によるゴースト光の評価)を行うに留まっている。
これに対し本発明者は、色覚の観点からは人の錐体細胞に応じたゴースト光を低減させるべきであるため、XYZの3刺激値のゴースト光強度を低減させることが眼鏡レンズの視認性向上のために望ましいと考えた。そして本発明者は更に鋭意検討を重ねた結果、片面で可視光域の反射率極大値が2.00%を超える眼鏡レンズについて、下記式1~3をすべて満たすように眼鏡レンズ各面の反射特性を多層膜の設計により制御することによって、XYZの3刺激値におけるゴースト光強度を低く抑えることが可能となることを新たに見出した。
【0007】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]レンズ基材と、上記レンズ基材の物体側表面上及び物体側表面上にそれぞれ位置する多層膜と、を含み、
眼鏡レンズの物体側表面又は眼球側表面の380nm~780nmの波長帯域における極大値が2.00%を超え、
上記極大値が2.00%を超える表面を面1、他方の表面を面2として、
Rb1を面1の420~440nmの波長帯域における平均反射率、
Rb2を面2の420~440nmの波長帯域における平均反射率、
Rg1を面1の530~540nmの波長帯域における平均反射率、
Rg2を面2の530~540nmの波長帯域における平均反射率、
Rr1を面1の440~460nm及び560~580nmの波長帯域における平均反射率、
Rr2を面2の440~460nm及び560~580nmの波長帯域における平均反射率として、
Rb2、Rg2及びRr2は、2.00%以下であり、且つ
下記式1~3をすべて満たす眼鏡レンズ。
式1:Rb1*Rb2<2.0
式2:Rg1*Rg2<2.0
式3:Rr1*Rr2<2.0
[2]面1と面2との主波長の差が70nm以下である、[1]に記載の眼鏡レンズ。
[3]一度も反射せずに透過した光を除き、多重反射した積算ゴースト光強度を3刺激値XYZで各々評価したときに、X、Y及びZの値(以下、「ゴースト光のXYZ刺激値」とも記載する。)がいずれも1.50E-02以下である、[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズ。
[4]上記X、Y及びZの値がいずれも5.00E-03以下である、[3]に記載の眼鏡レンズ。
[5]面2側の多層膜は、屈折率が1.20以上1.38以下の層を1層以上含む、[1]~[4]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[6]面2側の多層膜は、屈折率が2.00以上2.40以下の層を1層以上含む、[1]~[5]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[7]面2側の多層膜は、屈折率が1.44以上1.49以下の層を1層以上含む、[1]~[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[8]面2側の多層膜の高屈折率層及び低屈折率層の総層数は7層以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[9]面1と面2との主波長の差が70nm以下であり、
一度も反射せずに透過した光を除き、n回反射した積算ゴースト光強度を3刺激値XYZで各々評価したときに、X、Y及びZの値がいずれも1.50E-02以下であり、
面2側の多層膜は、屈折率が1.20以上1.38以下の層を1層以上含み、屈折率が2.00以上2.40以下の層を1層以上含み、屈折率が1.44以上1.49以下の層を1層以上含み、且つ
面2側の多層膜の高屈折率層及び低屈折率層の総層数は7層以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[10]上記X、Y及びZの値がいずれも5.00E-03以下である、[9]に記載の眼鏡レンズ。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、XYZの3刺激値におけるゴースト光強度が低く抑えられた眼鏡レンズを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】極大値を求めるための包絡線の具体例を示す。
【
図2】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図3】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図4】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図5】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図6】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図7】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図8】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図9】実施例1及び実施例2の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図10】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図11】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図12】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図13】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図14】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図15】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図16】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図17】実施例3及び実施例4の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図18】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図19】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図20】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図21】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図22】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図23】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図24】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【
図25】比較例1の眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本明細書における用語の定義及び/又は測定方法を、以下に説明する。
【0011】
「物体側表面」とは、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面である。「眼球側表面」とは、その反対側の表面、即ち、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。
【0012】
眼鏡レンズの表面について測定される反射率は、その表面に向かって直入射する光に対する反射率である。反射率測定時の光の入射角は、反射率測定器において設定することができる。測定対象表面に入射する光の入射角度に関して、直入射光の入射角度は、厳密には0°である。ただし、測定光学系の観点から、反射率測定器によっては入射角度0°~5°程度の入射光を直入射光として用いている場合もある。そのような場合も本発明および本明細書における「直入射」に包含されるものとする。
反射率の測定は、例えば1~5nmピッチで行うことができる。
ある波長帯域における平均反射率とは、その波長帯域において求められた反射率の算術平均である。
また、反射率測定器によっては、測定対象表面と対向する表面との間の多重反射の影響を受ける場合があり得る。そのような場合は、光線を吸収または散乱させるための処理(例えば黒塗り処理等)を対向する表面に施すことによって多重反射を抑制してもよい。
【0013】
以下、「極大値」について説明する。
レンズ基材と後述するハードコート層との組み合わせによっては、レンズ基材とハードコート層との屈折率差及びハードコート層の厚みの影響によって5~30nm程度の周期をもつ反射率のリップルが発生することがある。本発明及び本明細書において、380nm~780nmの波長帯域における「極大値」とは、380nm~780nmの波長帯域において、上に凸である点における反射率の値(極値又は反射率極値)の中の最大値であって且つマクロ的に上に凸である点をいうものとする。
極値を見出すために、算術的な処理を行う場合もある。一例として、ハードコート層由来の反射率リップルの周期は、通常5~30nm程度であるから、5~30nm程度の前後の波長幅で算術移動平均をとることでリップル波形をある程度なだらかにして極値及び極大値を見出してもよい。
また、リップルのピーク値を結ぶ包絡線から極大値を求めてもよい。リップルのピーク値を結ぶ包絡線から極大値を求める方法の具体例を以下に説明する。後述の実施例及び比較例については、以下の方法によって極大値を求めた。
ある波長間隔で上に凸である点(極値)を割り出し、その極値を結ぶ線(即ち分光反射率の包絡線)から極大値を見出す。変数を次のように定義する。
極値を評価する単一波長をλ0とし、評価波長間隔をΔλとしたとき、λ0よりも短い波長をλs=λ0-Δλ、長い波長をλl=λ0+Δλとする。
波長における反射率をR(λ)とする。
符号関数SING(x)を定義し、xがプラスの場合をSING(X)=+1、マイナスの場合をSING(X)=-1、同値の場合をSING(X)=0とする。
上記において、±Δλの間で、λ0が最大である場合、その点は凸であるから、次式:
SING(R(λ0)-R(λs))-SING(R(λl)-R(λ0))>0
となる波長λ0におけるR(λ0)が極値となる。
このように得られた波長λ0は、リップルを含む凸となる点である。
また、このときの波長間隔Δλは、測定対象表面で確認されるリップル周期よりも短いことが好ましく、λ0±1nmをλs、λlとすることがより好ましい。後述の実施例及び比較例については、λ0±1nmをλs、λlとした。
次に、得られた凸となる点を結ぶ包絡線をとる。
包絡線から得られた最も反射率が高くなる点を確認し、その点がマクロ的に凸である点であれば、その点が極大値である。この極大値の反射率は、リップルを除去した平均的な反射率値ではなく、反射率の実測値である。
また、上記数値解析を行ったときに、最も反射率が高くなる点が、得られた包絡線の一番端であった場合、数値解析を行う前の測定結果である元の反射率波形と照らし合わせ、その点がマクロ的に凸であるか確認するものとする。
図1には、極大値を求めるための包絡線の具体例が示されている。
図1には、説明のために、380nm~780nmの波長帯域の一部の波長帯域について包絡線を示す。
図1(a)では、丸を付した極値が極大値である。
図1(b)では、包絡線の一番右端の極値が包絡線上で最も反射率が高い点であるが、この点は、より長波長側の波長帯域も含めるとマクロ的に凸ではないため、極大値には該当しない。
上記数値解析において測定データに大きなノイズが含まれるとピークが誤検出されるため、測定ノイズは平滑化してもよい。
また、上記定義にて極値又は極大値がなかった場合は、極大値なしと判定する。
【0014】
一度も反射せずに透過した光を除き、多重反射した積算ゴースト光強度を3刺激値XYZで各々評価したときのX、Y及びZの値は、以下のように求められる。
ゴースト光強度は、以下の式によって定義される。
ゴースト光強度=T1*T2*R1*R2*Ti
3*((1-r
n)/(1-r))
式中、
Ti:眼鏡レンズのレンズ基材の内部透過率(%)、
R1:面1の表面反射率(%)、
R2:面2の表面反射率(%)、
T1:面1の表面透過率(%)、
T2:面2の表面透過率(%)、
r=(R1*R2)*Ti
2、
である。nは、眼鏡レンズ内部での多重反射の回数である。多重反射が起こるためnは無限大(∞)である。各表面反射率は100%未満であると見做す。したがって、|r|<1であるため、
ゴースト光強度=T1*T2*R1*R2*Ti
3*(1/(1-(R1*R2)*Ti
2)、
となる。
面1及び面2の各表面の380nm~780nmにおける光損失は無視できるものと見做す。したがって、面1及び面2の各表面においては、T1+R1=100%、T2+R2=100%であるから、結果的に、ゴースト光強度は以下の式によって求められる。
ゴースト光強度=(1-R1)(1-R2)R1*R2*Ti
3/(1-R1*R2*Ti
2)
上記式からゴースト光強度を各波長で計算し、得られた分光特性からCIE(国際照明協会)1931表色系(XYZ表色系)のD65-CIE2°視野XYZ表色系による、XYZ刺激値を計算することができる。
R1、R2及びTiは、一般的な分光測定器によって測定することができる。
表面反射率R1及びR2は、例えば、オリンパス社製レンズ反射率測定器USPM-RUや、日立ハイテク社製分光光度計UH4150等の反射率測定器を用いることによって直接測定することができる。
内部透過率Tiの算出方法の一例としては、以下の方法を挙げることができる。
レンズ基材の表面反射率R0及びレンズ基材の両面全光透過率Tを測定し、次の式から算出する。
【数1】
Tiは、レンズ基材の厚みに依存するパラメータである。測定対象の眼鏡レンズに含まれるレンズ基材ではなく、そのレンズ基材と同じ材料からなる同じ厚みdの並行平板を用いて吸収係数αを求め、ランベルトの法則(Ti=exp(αd))からTiを算出し、このTiをレンズ基材の内部透過率の値としてもよい。
上記のような算出方法は一般的な方法である。ここに挙げた方法はごく一例であり、他の方法を採用してもよい。
また、レンズ基材が染色されておらず且つ可視光を吸収する添加剤が含まれていない一般的な眼鏡用レンズ基材であれば、内部透過率Tiは100%となるため、ゴースト光強度を以下の式によって求めることができる。
ゴースト光強度=(1-R1)(1-R2)R1*R2/(1-R1*R2)
上記式からゴースト光強度を各波長で計算し、得られた分光特性からCIE(国際照明協会)1931表色系(XYZ表色系)のD65-CIE2°視野XYZ表色系による、XYZ刺激値を計算してもよい。
【0015】
本明細書に記載の「膜厚」は、物理膜厚である。膜厚は、公知の膜厚測定法によって求めることができる。例えば膜厚は、光学式膜厚測定器によって測定された光学膜厚を物理膜厚に換算することにより求めることができる。
【0016】
[眼鏡レンズ]
以下、本発明の一態様にかかる眼鏡レンズについて更に詳細に説明する。
【0017】
<多層膜>
上記眼鏡レンズは、レンズ基材の物体側表面上及び物体側表面上にそれぞれ多層膜を有する。多層膜は、レンズ基材の表面上に直接位置してもよく、1層以上の他の層を介して間接的にレンズ基材の表面上に位置してもよい。レンズ基材と多層膜との間に形成され得る層としては、例えば、偏光層、調光層、ハードコート層等を挙げることができる。ハードコート層を設けることにより眼鏡レンズの耐久性(強度)を高めることができる。ハードコート層は、例えば硬化性組成物を硬化した硬化層であることができる。ハードコート層の詳細については、例えば特開2012-128135号公報の段落0025~0028、0030を参照できる。また、レンズ基材と上記多層膜との間には、密着性向上のためのプライマー層を形成してもよい。プライマー層の詳細については、例えば特開2012-128135号公報の段落0029~0030を参照できる。
【0018】
多層膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された積層構造を有することができる。本発明及び本明細書において、高屈折率層及び低屈折率層に関する「高」、「低」とは、眼鏡レンズに含まれるレンズ基材の屈折率に対する相対的な表記である。高屈折率層とは、レンズ基材よりも屈折率が高い層をいう。低屈折率層とは、レンズ基材よりも屈折率が低い層をいう。屈折率が異なる3種以上の層が多層膜に含まれていてもよい。本発明及び本明細書において、「屈折率」とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。眼鏡レンズのレンズ基材の屈折率は、1.50~1.76程度であることが一般的であり、低屈折率層は屈折率が1.50以下の層であることができ、高屈折率層は屈折率が1.76以上の層であることができる。
高屈折率層の屈折率は、例えば2.00以上2.40以下であることができ、2.00以上2.20以下であることもできる。
低屈折率層について、面2側の多層膜においては、1層以上の低屈折率層の屈折率が1.20以上1.38以下であることが好ましい。以下において、1.20以上1.38以下の屈折率の低屈折率層を「超低屈折率層」と呼ぶ。面1側の多層膜及び面2側の多層膜に含まれる超低屈折率層の層数は、0層以上2層以下であることができ、0層以上1層以下であることが好ましく、面2については1層であることがより好ましく、面1については0層であることがより好ましい。一形態では、上記低屈折率層は、面2側の多層膜の最外層に位置することができる。
超低屈折率層を含む多層膜は、超低屈折率層以外の低屈折率層を1層以上含むこともできる。そのような低屈折率層の屈折率は、例えば1.44以上1.49以下であることができる。
また、超低屈折率層を含まない多層膜は、低屈折率層として、屈折率が1.44以上1.49以下の層を1層以上含むことができる。
ただし、上記の通り、高屈折率層及び低屈折率層に関する「高」、「低」の表記はレンズ基材の屈折率に対する相対的な表記であるため、高屈折率層及び低屈折率層の屈折率は、上記範囲に限定されるものではない。
【0019】
高屈折率層を構成する高屈折率材料及び低屈折率層を構成する低屈折率材料としては、無機材料、有機材料又は有機・無機複合材料を用いることができ、成膜性等の観点からは無機材料が好ましい。即ち、多層膜は、無機多層膜であることが好ましい。具体的には、高屈折率層を構成する高屈折率材料としては、ジルコニウム酸化物(例えばZrO2)、タンタル酸化物(例えばTa2O5)、チタン酸化物(例えばTiO2)、アルミニウム酸化物(例えばAl2O3)、イットリウム酸化物(例えばY2O3)、ハフニウム酸化物(例えばHfO2)及びニオブ酸化物(例えばNb2O5)からなる群から選ばれる酸化物の一種又は二種以上の混合物を挙げることができる。一方、低屈折率層を構成する低屈折率材料としては、ケイ素酸化物(例えばSiO2)、フッ化マグネシウム(例えばMgF2)及びフッ化バリウム(例えばBaF2)からなる群から選ばれる酸化物又はフッ化物の一種又は二種以上の混合物を挙げることができる。上記の例示では、便宜上、酸化物及びフッ化物を化学量論組成で表示したが、化学量論組成から酸素又はフッ素が欠損もしくは過多の状態にあるものも、高屈折率材料又は低屈折率材料として使用可能である。
【0020】
好ましくは、高屈折率層は高屈折率材料を主成分とする膜であり、低屈折率層は低屈折率材料を主成分とする膜である。ここで主成分とは、膜において最も多くを占める成分であって、通常は膜の質量に対して50質量%程度~100質量%、更には90質量%程度~100質量%を占める成分である。上記高屈折率材料又は低屈折率材料を主成分とする成膜材料(例えば真空蒸着源、スパッタリングターゲット等)を用いて成膜を行うことにより、そのような膜(例えば蒸着膜)を形成することができる。成膜材料に関する主成分についても、上記と同様である。膜及び成膜材料には、不可避的に混入する不純物が含まれる場合があり、また、主成分の果たす機能を損なわない範囲で他の成分、例えば他の無機物質や成膜を補助する役割を果たす公知の添加成分が含まれていてもよい。
【0021】
多層膜の成膜方法としては、公知の成膜方法を用いることができる。成膜の容易性の観点からは、成膜は蒸着により行うことが好ましい。即ち、多層膜に含まれる各層は、蒸着膜であることが好ましい。蒸着膜とは、蒸着によって成膜された膜を意味する。本発明及び本明細書における「蒸着」には、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が含まれる。真空蒸着法では、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。スパッタリング法としては、DC(Direct Current)法、RF(Radio Frequency)法等を用いてもよい。超低屈折率層に関して、本発明者の検討によって、真空蒸着法とDCスパッタリング法との同時成膜を行うことは、超低屈折率層を成膜するために好ましいことが新たに見出された。真空蒸着法による成膜時の電流値、DCスパッタリング法による成膜時のガス流量及び投入電力等を調整することによって、超低屈折率層の屈折率を制御することができる。
【0022】
面1側の多層膜及び面2側の多層膜は、例えば、高屈折率層と低屈折率層とが交互に合計7層以上の層数で積層された多層膜であることができる。高屈折率層及び低屈折率層の総層数は、例えば11層以下であることができる。高屈折率層の膜厚及び低屈折率層の膜厚は、層構成に応じて決定することができる。詳しくは、多層膜に含まれる層の組み合わせ及び各層の膜厚は、高屈折率層及び低屈折率層を形成するための成膜材料の屈折率と、多層膜を設けることにより眼鏡レンズにもたらしたい各種物性に基づき、公知の手法による光学的シミュレーションにより決定することができる。
【0023】
超低屈折率層は、ケイ素酸化物を含む層であることができ、ケイ素酸化物を主成分とする層であることが好ましい。かかる超低屈折率層を含む多層膜は、超低屈折率層以外のケイ素酸化物を含む層の1層以上を低屈折率層として含むことができる。そのような低屈折率層は、ケイ素酸化物を主成分とする層であることが好ましい。
多層膜に含まれる高屈折率層としては、ジルコニウム酸化物を含む層、ニオブ酸化物を含む層及びタンタル酸化物を含む層を挙げることができ、これらの層は上記酸化物を主成分とする層であることが好ましい。
多層膜では、高屈折率層と低屈折率層とが直接接してもよく、高屈折率層と低屈折率層との間に後述する導電性酸化物層が存在する積層構造が少なくとも1つ含まれてもよい。
【0024】
多層膜に含まれる高屈折率層及び低屈折率層の各層の膜厚は、例えば1~500nmであることができ、多層膜の総厚は、例えば100~900nm(導電性酸化物層が含まれる場合は導電性酸化物層の層厚も含む。)であることができる。
【0025】
多層膜は、以上説明した高屈折率層及び低屈折率層に加えて、導電性酸化物を含む層(「導電性酸化物層」とも記載する。)の1層以上を、多層膜の任意の位置に含むこともできる。導電性酸化物層は、導電性酸化物を主成分とする層であることができ、好ましくは導電性酸化物を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された導電性酸化物の蒸着膜であることができる。
導電性酸化物層としては、眼鏡レンズの透明性の観点から、膜厚10nm以下の酸化インジウムスズ(tin-doped indium oxide;ITO)層、膜厚10nm以下のスズ酸化物層、及び膜厚10nm以下のチタン酸化物層が好ましい。酸化インジウムスズ(ITO)層とは、ITOを主成分として含む層である。この点は、スズ酸化物層、チタン酸化物層についても同様である。本発明及び本明細書において、多層膜に含まれる「高屈折率層」及び「低屈折率層」としては、膜厚10nm以下の酸化インジウムスズ(ITO)層、膜厚10nm以下のスズ酸化物層、及び膜厚10nm以下のチタン酸化物層は考慮されないものとする。即ち、これらの層の1層以上が多層膜に含まれる場合であっても、これらの層は、「高屈折率層」又は「低屈折率層」とは見做さないものとする。膜厚10nm以下の上記の導電性酸化物層の膜厚は、例えば0.1nm以上であることができる。
【0026】
更に、多層膜上には、更なる機能性膜を形成することもできる。そのような機能性膜としては、撥水性又は親水性の防汚膜、防曇膜等の各種機能性膜を挙げることができる。これら機能性膜については、いずれも公知技術を適用することができる。
【0027】
<眼鏡レンズ表面の各種物性>
(反射特性)
上記眼鏡レンズは、物体側表面又は眼球側表面のいずれか一方の表面の380nm~780nmの波長帯域における反射率の極大値が2.00%を超える。他方の表面は、380nm~780nmの波長帯域における反射率の極大値が2.00%以下であるか又は380nm~780nmの波長帯域に極大値を持たない。
380nm~780nmの波長帯域における極大値が2.00%を超える眼鏡レンズ表面を「面1」と呼ぶ。面1において、上記極大値は、例えば、2.10%以上、2.50%以上、3.00%以上、3.50%以上または4.00%以上であることができる。また、上記極大値は、例えば、10.00%以下、9.00%以下、8.00%以下、7.00%以下又は6.00%以下であることができる。
眼鏡レンズの面1の他方の表面を「面2」と呼ぶ。380nm~780nmの波長帯域における極大値は、2.00%以下であることができ、1.50%以下、1.00%以下、0.80%以下又は0.60%以下であることもできる。面2の380nm~780nmの波長帯域における極大値は、例えば、0.10%以上又は0.20%以上であることができる。
面1は、一形態では眼鏡レンズの物体側表面であり、他の一形態では眼鏡レンズの眼球側表面である。したがって、面2は、一形態では眼鏡レンズの眼球側表面であり、他の一形態では眼鏡レンズの物体側表面である。眼鏡装用者の後方から眼鏡レンズ眼球側表面に入射してこの表面で反射して眼鏡装用者の目に入射する反射光量を低く抑える観点からは、眼鏡レンズの眼球側表面の反射率が低いことは好ましい。この点からは、眼鏡レンズの眼球側表面が面2であることが好ましい。
【0028】
XYZの3刺激値のゴースト光強度を低減させる観点から、上記眼鏡レンズは、下記式1~3をすべて満たす。面1側の多層膜及び面2側の多層膜の設計によって、式1~3を満たす眼鏡レンズを得ることができる。
式1:Rb1*Rb2<2.0
式2:Rg1*Rg2<2.0
式3:Rr1*Rr2<2.0
【0029】
式中、
Rb1:面1の420~440nmの波長帯域における平均反射率、
Rb2:面2の420~440nmの波長帯域における平均反射率、
Rg1:面1の530~540nmの波長帯域における平均反射率、
Rg2:面2の530~540nmの波長帯域における平均反射率、
Rr1:面1の440~460nm及び560~580nmの波長帯域における平均反射率、
Rr2:面2の440~460nm及び560~580nmの波長帯域における平均反射率、
である。Rb2、Rg2及びRr2は、2.00%以下である。
【0030】
Rb1、Rb2、Rg1、Rg2、Rr1及びRr2の単位は「%」であるが、本発明及び本明細書において、「Rb1*Rb2」、「Rg1*Rg2」及び「Rg1*Rg2」は無単位で表記するものとする。
【0031】
「Rb1*Rb2」、「Rg1*Rg2」及び「Rg1*Rg2」の各値は、2.0未満であり、1.8以下であることが好ましく、1.6以下、1.4以下、1.2以下、1.0以下の順により好ましい。「Rb1*Rb2」、「Rg1*Rg2」及び「Rg1*Rg2」のすべての値が1.8以下であることが更に好ましく、1.6以下であることが一層好ましく、1.4以下であることが更に一層好ましく、1.2以下であることがなお一層好ましく、1.0以下であることがなおより一層好ましい。また、「Rb1*Rb2」、「Rg1*Rg2」及び「Rg1*Rg2」の各値は、0.0であることもでき、0.0以上又は0.1以上であることもできる。
【0032】
(ゴースト光のXYZ刺激値)
上記眼鏡レンズは、面1の反射特性と面2の反射特性とが式1~3を満たす。このように反射特性を制御することによって、XYZの3刺激値のゴースト光強度を低減させることができる。
上記眼鏡レンズでは、一度も反射せずに透過した光を除き、多重反射した積算ゴースト光強度を3刺激値XYZで各々評価したときに、X、Y及びZの値(ゴースト光のXYZ刺激値)がいずれも1.50E-02以下であることが好ましく、X、Y及びZの値の1つ以上が5.00E-03以下であることがより好ましく、X、Y及びZの値の2つ以上が5.00E-03以下であることがより好ましく、X、Y及びZの値がいずれも5.00E-03以下であることがより好ましい。このようにゴースト光強度が低い眼鏡レンズは、視認性に優れるため好ましい。
上記のX、Y及びZの各値は、例えば5.00E-06以上であることができるが、各値は低いほど眼鏡レンズの視認性向上の観点から好ましいため、ここに例示した範囲を下回ることもできる。
【0033】
ところで、眼鏡レンズの外観品質向上の観点からは、眼鏡レンズの一方の面の反射色と他方の面の反射色とが大きく異ならないことが好ましい。しかし、先に示した特許第6073355号明細書(特許文献1)に開示されている眼鏡レンズでは、眼鏡レンズの一方の面が反射の極大値を取る波長近傍において他方の面の反射が極小値を取るようにすることによってゴースト光強度の低減を図っているため、眼鏡レンズの一方の面と他方の面とで反射色に大きな違いが生じ易い。
これに対し、上記眼鏡レンズは、面1の反射特性と面2の反射特性とが式1~3を満たすことによって、面1と面2との反射色を大きく相違させなくてもXYZの3刺激値のゴースト光強度を低減させることができる。
また、上記眼鏡レンズでは、青色光カットの機能や個人の嗜好に合わせた色に反射調整を行いつつ式1~3を満たすように面1の反射特性及び面2の反射特性を制御することによって、所望の機能や個人の嗜好に合わせた色を実現しつつXYZの3刺激値のゴースト光強度を低減させることも可能である。
【0034】
(主波長)
「主波長」とは、人の眼で感じる光の色の波長を数値化した指標であり、本発明及び本明細書において、「主波長」とは、眼鏡レンズの測定対象表面側から、JIS Z 8781-3:2016の附属書JAにしたがって測定される値である。
先に記載したように、上記眼鏡レンズでは、面1と面2との反射色を大きく相違させなくてもXYZの3刺激値のゴースト光強度を低減させることができる。このような眼鏡レンズでは、面1と面2との主波長の差は、70nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましく、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下の順により好ましい。面1と面2との主波長の差は、0nm以上、0nm超又は1nm以上であることができる。面1と面2との主波長の差は小さいほど眼鏡レンズの外観品質向上の観点からは好ましい。
上記の面1と面2との主波長の差とは、面1の主波長と面2の主波長との差の絶対値である。面1の主波長と面2の主波長とは、どちらの値がより大きくてもよい。面1の主波長及び面2の主波長は、例えば420nm以上650nm以下であることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0035】
<レンズ基材>
上記眼鏡レンズに含まれるレンズ基材は、プラスチックレンズ基材又はガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難いという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。硬化性組成物は、重合性組成物ともいうことができる。レンズ基材には、公知の添加剤が含まれ得る。添加剤の一例としては、紫外線吸収剤を挙げることができる。紫外線吸収剤を含むレンズ基材によれば、物体側表面から入射して眼鏡装用者の眼に入射する紫外線量を低減することができる。
【0036】
レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.76程度であることができる。ただし、レンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0037】
上記眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、通常、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材の表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材及び眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0038】
[眼鏡]
本発明の更なる態様は、上記の本発明の一態様にかかる眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、良好な視認性を実現できる。フレーム等の眼鏡の構成については、特に制限はなく、公知技術を適用することができる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0040】
[多層膜の成膜方法]
実施例1~4及び比較例1では、眼球側、物体側とも、多層蒸着膜は、レンズ基材側(ハードコート側)から眼鏡レンズ表面側に向かって、後掲の表の上方に示す蒸着源から下方に示す蒸着源を順次用いて、第1層、第2層…の順に積層し、眼鏡レンズ表面側最外層が各表の最下欄に示す蒸着源により形成された層となるように形成した。これら実施例及び比較例では、不可避的に混入する可能性のある不純物を除けば表に示す酸化物からなる蒸着源を使用し、表に示す膜厚の各層を順次形成した。膜厚は物理膜厚であり、単位はnmである。後掲の表中、「超低屈折率層」と記載された層は、後述の方法で測定された屈折率が1.20以上1.38以下の層である。
【0041】
実施例1~4及び比較例1において、両面が光学的に仕上げられ予めハードコート(後掲の表中、「HC」)が施された、物体側表面が凸面、眼球側表面が凹面であるプラスチックレンズ基材(無色レンズ)の凸面側(物体側)及び凹面側(眼球側)のそれぞれのハードコート表面に、後掲の表に示す層構成の多層蒸着膜を形成した。
超低屈折率層に該当しない各層は、アシストガスとして酸素ガス及びアルゴンガスを用いて、イオンビームアシスト法により形成した。
実施例1~4において、超低屈折率層であることが確認された層は、真空蒸着法と酸素ガス及びアルゴンガスを用いたDCスパッタリング法との同時成膜によって形成した。イオンビームアシスト法による成膜時の電流値は250mAとし、DCスパッタリング法による成膜時のガス流量は酸素ガス:500sccm、アルゴンガス:1000sccmとし、投入電力は500Wとした。
【0042】
以下において、超低屈折率層に該当しない層であって、SiO2蒸着源を使用して形成された層を「SiO2層」、ZrO2蒸着源を使用して形成された層を「ZrO2層」と記載する。SnO2蒸着源を使用して形成された層は、導電性酸化物層である。SiO2蒸着源を使用して形成された、超低屈折率層であることが確認された層を「SiO2超低屈折率層」と記載する。
【0043】
[各層の屈折率]
各層の屈折率は、以下の方法によって求めた。
多層膜の各層と同じ成膜条件でガラス基板上に単層膜を成膜し、ガラス基板と単層膜との積層体を得た。
オリンパス社製レンズ反射率測定器USPM-RUにて、上記積層体の単層膜が形成された面の表面反射率を測定し、得られた分光反射率の光学薄膜解析によって屈折率を求めた。実施例及び比較例で作製された多層膜における超低屈折率層以外の各層の屈折率は以下の値であった。
SiO2層:1.47
ZrO2層:2.08
【0044】
実施例1~4で作製された多層膜におけるSiO2超低屈折率層の上記方法で求めた屈折率は1.23であった。
【0045】
[眼鏡レンズ表面の反射特性]
実施例1~4及び比較例1の各眼鏡レンズの物体側表面及び眼球側表面の各表面において、光学中心における直入射反射特性を測定した。測定は、オリンパス社製レンズ反射率測定器USPM-RUを用いて行った(測定ピッチ:1nm、測定条件を直入射に設定)。
上記で測定された実施例1~4及び比較例1の各眼鏡レンズの各波長における物体側表面の反射率及び眼球側表面の反射率を
図2~
図25に示す。
上記の反射特性の測定結果から、先に記載した方法によって極大値を求めた。
更に、上記の反射特性の測定結果から、主波長、Rb1,Rb2、Rg1、Rg2、Rr1及びRr2を求めた。求められたRb1,Rb2、Rg1、Rg2、Rr1及びRr2から、式1~3の左辺の値を求めた。
【0046】
[ゴースト光のXYZ刺激値]
実施例1~4及び比較例1の各眼鏡レンズについて、先に記載した方法によって、一度も反射せずに透過した光を除き、多重反射した積算ゴースト光強度を3刺激値XYZで各々評価したときのX、Y及びZの値を求めた。
【0047】
以下の表に示すように、実施例1~4の各眼鏡レンズは式1~3を満たし、比較例1の眼鏡レンズは式1及び式3を満たさない。
以下の表に示すゴースト光強度のXYZ刺激値から、実施例1~4の各眼鏡レンズでは、XYZの3刺激値におけるゴースト光強度が低いのに対し、比較例1ではXZ刺激値におけるゴースト光強度が高いことを確認できる。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
本明細書に記載の各種態様は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。