(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146026
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】突き合わせ継ぎ手構造、および圧縮機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20241004BHJP
B23K 15/00 20060101ALI20241004BHJP
B23K 33/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B23K26/21 W
B23K15/00 501A
B23K33/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058689
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206405
【弁理士】
【氏名又は名称】岸 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮竹 俊明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正敏
【テーマコード(参考)】
4E066
4E168
【Fターム(参考)】
4E066AA06
4E066AB06
4E066AB07
4E066CA02
4E066CA03
4E066CA08
4E066CA13
4E066CB05
4E168BA02
4E168BA22
4E168BA58
4E168BA83
(57)【要約】
【課題】キーホール溶接における高温割れのリスクを低減化させる。
【解決手段】キーホール溶接される2以上の部材において、熱源である高エネルギービーム100が照射される反対側に湯流れの逃げ部173を有し、逃げ部173がキーホール溶接により埋められている、突き合わせ継ぎ手構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キーホール溶接される2以上の部材において、熱源が照射される反対側に湯流れの逃げ部を有し、
前記逃げ部が溶接により埋められていることを特徴とする、
突き合わせ継ぎ手構造。
【請求項2】
前記2以上の部材に、他方と嵌合する嵌合部と、当該他方と接触する接触部との少なくとも一方が設けられており、
前記嵌合部と前記接触部との各々の干渉を避けるための前記逃げ部が、前記2以上の部材のいずれかに形成されていることを特徴とする、
請求項1に記載の突き合わせ継ぎ手構造。
【請求項3】
前記逃げ部を形成する空間の断面積が1mm2を超えないことを特徴とする、
請求項1または2に記載の突き合わせ継ぎ手構造。
【請求項4】
前記2以上の部材が円周を有する部材であり、
前記逃げ部が前記円周の方向に形成されていることを特徴とする、
請求項1に記載の突き合わせ継ぎ手構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の突き合わせ継ぎ手構造を有することを特徴とする、
圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、突き合わせ継ぎ手構造、および圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミニウム又はアルミニウム合金材のレーザ溶接において、溶接時に発生する金属蒸気及び水素等を外部に排出させる溝が設けられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キーホール溶接では、溶融金属が凝固する過程で生じ得る欠陥が原因となる、いわゆる「高温割れ」のリスクを伴う。また、高温割れのリスクは、溶融金属の溶け込みが深くなるほど高くなることが知られている。
本開示は、キーホール溶接における高温割れのリスクを低減化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成する本開示の突き合わせ継ぎ手構造は、キーホール溶接される2以上の部材において、熱源が照射される反対側に湯流れの逃げ部を有し、前記逃げ部が溶接により埋められていることを特徴とする、突き合わせ継ぎ手構造である。この場合、キーホール溶接における高温割れのリスクを低減化させることができる。
ここで、前記2以上の部材に、他方と嵌合する嵌合部と、当該他方と接触する接触部との少なくとも一方が設けられており、前記嵌合部と前記接触部との各々の干渉を避けるための前記逃げ部が、前記2以上の部材のいずれかに形成されていてもよい。この場合、溶融金属の湯流れの逃げ部を設ける位置に幅があるため、加工負担が軽減される。
また、前記逃げ部を形成する空間の断面積が1mm2を超えないようにしてもよい。湯流れの逃げ部を形成する空間の断面積が大き過ぎると溶け込み不良が生じやすくなる。これに対して、湯流れの逃げ部を形成する空間の断面積が1mm2を超えない場合には、溶け込み不良が生じ難くなるので、高温割れのリスクを低減化できる。
また、前記2以上の部材が円周を有する部材であり、前記逃げ部が前記円周の方向に形成されていてもよい。この場合、矩形の板材や角材のみならず管状の部材にも適用できる。
また、上記の目的を達成する本開示の突き合わせ継ぎ手構造は、キーホール溶接される2以上の部材において、熱源が照射される反対側に湯流れの逃げ部を有し、前記逃げ部が当該溶接により埋められている突き合わせ継ぎ手構造を有することを特徴とする圧縮機である。この場合、キーホール溶接における高温割れのリスクを低減化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】(A)乃至(D)は、本実施の形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造の具体例を示す図である。
【
図2】(A)乃至(C)は、本実施の形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造の具体例を示す図である。
【
図3】(A)および(B)は、本実施の形態にかかるキーホール溶接が行われた箇所の具体例を示す図である。
【
図4】(A)および(B)は、溶接欠陥の一例である高温割れの具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照して、実施の形態について詳細に説明する。
<キーホール溶接>
まず、キーホール溶接について説明する。キーホール溶接とは、2以上の部材を同一平面で接合する突き合わせ溶接を、レーザ光や電子ビームなどの高エネルギービームを照射することにより行う溶接(以下、「高エネルギービーム溶接」と呼ぶ。)のことをいう。高エネルギービーム溶接は、具体的には、溶接対象の金属に向けて高エネルギービームを照射し、金属を局部的に融解させ、その後凝固させることで金属を接合する溶接の手法のことをいう。
【0008】
キーホール溶接は、いわゆる深溶込み型の高エネルギービーム溶接であり、エネルギー密度が高いレーザ光や電子ビームなどの高エネルギービームを金属に照射することで金属を融解および蒸発させ、金属に深い窪み(キーホール)を形成させる。金属にキーホールが形成されると、照射された高エネルギービームが金属の内部まで届く。このため、キーホール溶接によれば、溶込みの深い溶接、換言すると、高エネルギービームの照射により部材が溶融した部分の最も深い位置と溶接面の表面との距離が長い溶接が可能となる。キーホール溶接は、例えば、平板同士の接合や配管の接合等に用いられる。
【0009】
キーホール溶接は、溶接対象の部材にいわゆる裏当て金となる金属やセラミック等の部材(以下、「裏当て材」と呼ぶ。)を当てて行う場合と、溶接対象の部材に裏当て材を当てることなく行う場合とがある。このうち、溶接対象の部材に裏当て材を当ててキーホール溶接を行う場合には、溶接部における部材同士の干渉を避けるため、あるいは、溶接部の強度や品質を確保するために、溶接部に簡易な加工を施したうえで溶接を行うのが一般的である。溶接部に施される簡易な加工としては、例えば、いわゆるバリなどの凸部を除去する面取り加工や、溶接部となる部材の端部を溶接に適した形状に削ったり切断したりする開先加工などが挙げられる。
【0010】
キーホール溶接として、溶接対象の部材に裏当て材を当てて高エネルギービーム溶接を行う場合、溶接する部材を貫通させない非貫通溶接になるため、溶接欠陥が生じるリスクがある。これに対して、溶接する部材を貫通させる貫通溶接は、高エネルギービームが部材を貫通するため、スパッタ(溶接時に生じる火花に含まれる溶融した金属の粒)が飛散して部材に付着するなどの不具合が生じるリスクがある。このように、キーホール溶接は、非貫通溶接と貫通溶接とがあり、それぞれリスクを伴うが、非貫通溶接が選択されることが多い。
【0011】
キーホール溶接として非貫通溶接を選択した場合に生じ得る溶接欠陥として、高温割れやブローホールなどが挙げられる。「高温割れ」とは、溶接部の金属が凝固する過程で発生する割れのことをいう。
図4(A)および(B)には、溶接欠陥の一例である高温割れの具体例が示されている。
図4(A)および(B)の各々に示す枠200は、いずれも従来のキーホール溶接時に発生した高温割れの位置を示している。高温割れが生じると、溶接継手の性能の低下を招く。また、手直しのための溶接を行う場合にはコストが増大する。「ブローホール」とは、溶接金属内で発生したガス、または溶接金属内に侵入したガスが、溶融金属が凝固する際、大気中へ放出されずに溶接金属内に閉じ込められることをいう。ブローホールが生じた状態で部材に負荷がかかると、破断や断裂の原因になるおそれがある。
【0012】
溶接欠陥が発生する要因として溶融金属の湯流れの悪さが挙げられる。「湯流れ」とは、高エネルギービームの熱により溶融した金属がキーホール内に充満する流れのことをいう。湯流れは、残留応力、材料成分、開先形状、溶接入熱量などの影響により態様が変化する。残留応力とは、部材に加えられた外力を取り除いた後に残留した、外力に反発する内力のことをいう。開先形状とは、開先加工が施された部位の形状のことをいう。溶接入熱量とは、溶接の際に外部から溶接部に与えられる熱量のことをいう。
【0013】
例えば、残留応力、材料成分、開先形状、溶接入熱量などの影響により溶融金属の温度が意図したものよりも低くなると、湯流れの途中で溶融金属が凝固して高温割れが生じたり、溶融金属内にガスが巻き込まれてブローホールが生じたりする場合がある。キーホール溶接では、溶け込みが深いほど高温割れのリスクが高くなる。
【0014】
<突き合わせ継ぎ手構造>
図1(A)乃至(D)、および
図2(A)乃至(C)は、本実施の形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造の具体例を示す図である。なお、以下の説明において、熱源である高エネルギービーム100が照射される側を「照射側」と呼び、高エネルギービーム100が照射される反対側を「反照射側」と呼ぶ。また、本実施の形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造の対象となる2以上の部材は、アルミニウム合金材以外の金属を採用できる。この場合、例えば、鉄と炭素の合金であるSB410などが採用される。
【0015】
本実施の形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造は、キーホール溶接される2以上の部材のうち少なくとも1の部材における反照射側に湯流れの逃げ部が設けられている。「湯流れの逃げ部」とは、溶融金属を逃がすための空間のことをいう。反照射側に湯流れの逃げ部が設けられていることにより、溶接欠陥が発生し得る位置の近傍の湯流れが改善する。その結果、高温割れやブローホール等の溶接欠陥が発生するリスクが低減化する。
【0016】
本実施の形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造において、反照射側に設けられた湯流れの逃げ部は、キーホール溶接に伴う金属の溶融により埋められる。すなわち、逃げ部としての空間に溶融金属が充填されてその空間が消失する。このため、湯流れの逃げ部が溶接前に形成されたとしても、溶接後における溶接部の強度を低減化させる要因にはならない。
【0017】
図1(A)の左図は、キーホール溶接される2以上の部材のうち第1部材11の外観構成を示す図である。また、
図1(A)の右図は、第1部材11と、第1部材11にキーホール溶接される第2部材12とを突き合わせた状態を示す図である。
図1(A)の左図に示すように、第1部材11は、第1面111と、第2面112と、第3面113と、第4面114と、第5面115と、第6面116とを有する金属製の板材である。また、
図1(A)の右図に示すように、第2部材12は、第1面121と、第2面122と、第3面123と、第4面124と、第5面125と、第6面126とを有する金属製の板材である。
【0018】
第1部材11の第1面111と第5面115とには嵌合部117が形成されている。嵌合部117は、溶接面171と、裏当部172と、逃げ部173とを有する。溶接面171は、第2部材12の第5面125に溶接される部位であり、第2部材12の第5面125とともに溶接部を構成する。裏当部172は、キーホール溶接における裏当て材として機能し、第2部材12の第2面122と溶接される部位である。
【0019】
逃げ部173は、第1部材11と第2部材12とを突き合わせたときに空間を形成するように溝加工した部位である。
図1(A)に示す逃げ部173の断面は、一部が欠けた略円形状である。また、逃げ部173の断面積は、1mm
2を超えない大きさであることが好ましい。逃げ部173は、キーホール溶接時に溶融金属を逃がし、湯流れを改善させるための空間として機能する。
【0020】
溶接部の照射側の端部に向けて高エネルギービーム100を照射すると、溶接部がキーホール溶接される。このとき、反照射側に形成された逃げ部173に溶融金属を逃がすことで湯流れが改善する。逃げ部173に逃がされた溶融金属は、逃げ部173の空間を埋めるように充填される。
【0021】
図1(B)の左図は、キーホール溶接される2以上の部材のうち第1部材21の外観構成を示す図である。また、
図1(B)の右図は、第1部材21と、第1部材21にキーホール溶接される第2部材22と、裏当て材としての第3部材23とを突合せた状態を示す図である。
図1(B)の左図に示すように、第1部材21は、第1面211と、第2面212と、第3面213と、第4面214と、第5面215と、第6面216とを有する金属製の板材である。また、
図1(B)の右図に示すように、第2部材22は、第1面221と、第2面222と、第3面223と、第4面224と、第5面225と、第6面226とを有する金属製の板材である。また、第3部材23は、第1面231と、第2面232と、第3面233と、第4面234と、第5面235と、第6面236とを有する金属製の板材である。
【0022】
第1部材21の第5面215は溶接面を構成し、第2面212と第5面215とには逃げ部273が形成されている。第5面215は、第2部材22の第5面225に溶接される部位であり、第2部材22の第5面225とともに溶接部を構成する。逃げ部273は、第1部材21と第2部材22と第3部材23とを突き合わせたときに空間を形成するように切欠き加工した部位である。
図1(B)に示す逃げ部273の断面は三角形状である。また、逃げ部273の断面積は、1mm
2を超えない大きさであることが好ましい。逃げ部273は、キーホール溶接時に溶融金属を逃がし、湯流れを改善させるための空間として機能する。
【0023】
溶接部の照射側の端部に向けて高エネルギービーム100を照射すると、溶接部がキーホール溶接される。このとき、反照射側に形成された逃げ部273に溶融金属を逃がすことで湯流れが改善する。逃げ部273に逃がされた溶融金属は、逃げ部273の空間を埋めるように充填される。
【0024】
図1(C)の左図は、キーホール溶接される2以上の部材のうち第1部材31の外観構成を示す図である。また、
図1(C)の右図は、第1部材31と、第1部材31にキーホール溶接される第2部材32と、裏当て材としての第3部材33とを突き合わせた状態を示す図である。
図1(C)の左図に示すように、第1部材31は、第1面311と、第2面312と、第3面313と、第4面314と、第5面315と、第6面316とを有する金属製の板材である。また、
図1(C)の右図に示すように、第2部材32は、第1面321と、第2面322と、第3面323と、第4面324と、第5面325と、第6面326とを有する金属製の板材である。また、第3部材33は、第1面331と、第2面332と、第3面333と、第4面334と、第5面335と、第6面336とを有する金属製の板材である。
【0025】
第1部材31の第5面315は溶接面を構成し、第2面312と第5面315とには逃げ部373が形成されている。第5面315は、第2部材32の第5面325に溶接される部位であり、第2部材32の第5面325とともに溶接部を構成する。逃げ部373は、第1部材31と第2部材32と第3部材33とを突き合わせたときに空間を形成するように曲面加工した部位である。
図1(C)に示す逃げ部373の断面は、曲線を有する略三角形状である。また、逃げ部373の断面積は、1mm
2を超えない大きさであることが好ましい。逃げ部373は、キーホール溶接時に溶融金属を逃がし、湯流れを改善させるための空間として機能する。
【0026】
溶接部の照射側の端部に向けて高エネルギービーム100を照射すると、溶接部がキーホール溶接される。このとき、反照射側に形成された逃げ部373に溶融金属を逃がすことで湯流れが改善する。逃げ部373に逃がされた溶融金属は、逃げ部373の空間を埋めるように充填される。
【0027】
図1(D)の左図は、キーホール溶接される2以上の部材のうち第1部材41の外観構成を示す図である。また、
図1(D)の右図は、第1部材41と、第1部材41にキーホール溶接される第2部材42と、裏当て材としての第3部材43とを突き合わせた状態を示す図である。
図1(D)の左図に示すように、第1部材41は、第1面411と、第2面412と、第3面413と、第4面414と、第5面415と、第6面416とを有する金属製の板材である。また、
図1(D)の右図に示すように、第2部材42は、第1面421と、第2面422と、第3面423と、第4面424と、第5面425と、第6面426とを有する金属製の板材である。また、第3部材43は、第1面431と、第2面432と、第3面433と、第4面434と、第5面435と、第6面436とを有する金属製の板材である。
【0028】
第1部材41の第5面415は溶接面を構成し、第2面412と第5面415とには逃げ部473が形成されている。第5面415は、第2部材42の第5面425と溶接される部位であり、第2部材42の第5面425とともに溶接部を構成する。逃げ部473は、第1部材41と第2部材42と第3部材43とを突き合わせたときに空間を形成するように切欠き加工した部位である。
図1(D)に示す逃げ部473の断面は四角形状である。また、逃げ部473の断面積は、1mm
2を超えない大きさであることが好ましい。逃げ部473は、キーホール溶接時に溶融金属を逃がし、湯流れを改善させるための空間として機能する。
【0029】
溶接部の照射側の端部に向けて高エネルギービーム100を照射すると、溶接部がキーホール溶接される。このとき、反照射側に形成された逃げ部473に溶融金属を逃がすことで湯流れが改善する。逃げ部473に逃がされた溶融金属は、逃げ部473の空間を埋めるように充填される。
【0030】
図2(A)の左図は、キーホール溶接される2以上の部材のうち裏当て材としての第3部材53の外観構成を示す図である。また、
図2(A)の右図は、第1部材51と、第1部材51にキーホール溶接される第2部材52と、第3部材53とを突き合わせた状態を示す図である。
図2(A)の右図に示すように、第1部材51は、第1面511と、第2面512と、第3面513と、第4面514と、第5面515と、第6面516とを有する金属製の板材である。また、第2部材52は、第1面521と、第2面522と、第3面523と、第4面524と、第5面525と、第6面526とを有する金属製の板材である。また、
図2(A)の左図に示すように、第3部材53は、第1面531と、第2面532と、第3面533と、第4面534と、第5面535と、第6面536とを有する金属製の板材である。
【0031】
第1部材51の第5面515、および第2部材52の第5面525は、キーホール溶接される溶接部を構成する。第3部材53の第1面531には逃げ部573が形成されている。逃げ部573は、第1部材51と第2部材52と第3部材53とを突き合わせたときに空間を形成するように溝加工した部位である。
図2(A)に示す逃げ部573の断面は四角形状である。また、逃げ部573の断面積は、1mm
2を超えない大きさであることが好ましい。逃げ部573は、キーホール溶接時に溶融金属を逃がし、湯流れを改善させるための空間として機能する。
【0032】
溶接部の照射側の端部に向けて高エネルギービーム100を照射すると、溶接部がキーホール溶接される。このとき、反照射側に形成された逃げ部573に溶融金属を逃がすことで湯流れが改善する。逃げ部573に逃がされた溶融金属は、逃げ部573の空間を埋めるように充填される。
【0033】
図2(B)の左図は、キーホール溶接される2以上の部材のうち裏当て材としての第3部材63の外観構成を示す図である。また、
図2(A)の右図は、第1部材61と、第1部材61にキーホール溶接される第2部材62と、第3部材63とを突き合わせた状態を示す図である。
図2(B)の右図に示すように、第1部材61は、第1面611と、第2面612と、第3面613と、第4面614と、第5面615と、第6面616とを有する金属製の板材である。また、第2部材62は、第1面621と、第2面622と、第3面623と、第4面624と、第5面625と、第6面626とを有する金属製の板材である。また、
図2(B)の左図に示すように、第3部材63は、第1面631と、第2面632と、第3面633と、第4面634と、第5面635と、第6面636とを有する金属製の板材である。
【0034】
第1部材61の第5面615、および第2部材62の第5面625は、キーホール溶接される溶接部を構成する。第3部材63の第1面631には逃げ部673が形成されている。逃げ部673は、第1部材61と第2部材62と第3部材63とを突き合わせたときに空間を形成するように溝加工した部位である。
図2(B)に示す逃げ部673の断面は半月形状である。また、逃げ部673の断面積は、1mm
2を超えない大きさであることが好ましい。逃げ部673は、キーホール溶接時に溶融金属を逃がし、湯流れを改善させるための空間として機能する。
【0035】
溶接部の照射側の端部に向けて高エネルギービーム100を照射すると、溶接部がキーホール溶接される。このとき、反照射側に形成された逃げ部673に溶融金属を逃がすことで湯流れが改善する。逃げ部673に逃がされた溶融金属は、逃げ部673の空間を埋めるように充填される。
【0036】
図2(C)の左図は、キーホール溶接される2以上の部材のうち第1部材71の外観構成を示す図である。また、
図2(C)の右図は、第1部材71と、第1部材71にキーホール溶接される第2部材72とを突合せた状態を示す図である。
図2(C)の左図に示すように、第1部材71は、第1面711と、第2面712と、第3面713と、第4面714と、第5面715と、第6面716とを有する金属製の板材である。また、
図2(C)の右図に示すように、第2部材72は、第1面721と、第2面722と、第3面723と、第4面724と、第5面725と、第6面726とを有する金属製の板材である。
【0037】
第1部材71の第1面711と第5面715とには嵌合部717が形成されている。嵌合部717は、溶接面741と、裏当部742とを有する。溶接面741は、第2部材72の第5面725に溶接される部位であり、第2部材72の第5面725とともに溶接部を構成する。裏当部742は、キーホール溶接における裏当て材として機能し、第2部材72の逃げ部773とともに空間を形成する部位である。
【0038】
第2部材72の第5面725は溶接面を構成し、第2面722と第5面725とには逃げ部773が形成されている。逃げ部773は、第1部材71と第2部材72とを突き合わせたときに空間を形成するように切欠き加工した部位である。
図2(C)に示す逃げ部773の断面は三角形状である。また、逃げ部773の断面積は、1mm
2を超えない大きさであることが好ましい。逃げ部773は、キーホール溶接時に溶融金属を逃がし、湯流れを改善させるための空間として機能する。
【0039】
溶接部の照射側の端部に向けて高エネルギービーム100を照射すると、溶接部がキーホール溶接される。このとき、反照射側に形成された逃げ部773に溶融金属を逃がすことで湯流れが改善する。逃げ部773に逃がされた溶融金属は、逃げ部773の空間を埋めるように充填される。
【0040】
図3(A)および(B)は、本実施の形態にかかるキーホール溶接が行われた箇所の具体例を示す図である。
図3(A)および(B)に示すように、本実施の形態にかかるキーホール溶接を行うことで、キーホール内で凝固した金属に高温割れやブローホールなどの溶接欠陥が生じることが抑制される。なお、本実施の形態にかかるキーホール溶接では、例えば、8mm(ミリメートル)乃至16mm(ミリメートル)程度の溶接が想定される。
<他の実施の形態>
また、上記で説明した各構成は、上記の実施形態及びその変形例に限られるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で変更できる。言い換えると、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解される。
上記にて説明した構成に限らず、上記にて説明した各構成の一部を省略したり、上記にて説明した各構成に対して他の機能を付加したりしてもよい。
また、上記では、複数の実施形態を説明したが、一の実施形態に含まれる構成と他の実施形態に含まれる構成とを入れ替えたり、一の実施形態に含まれる構成を他の実施形態に付加したりしてもよい。
【0041】
例えば、
図1(A)乃至(D)、および
図2(A)乃至(C)に示す具体例には、キーホール溶接される2以上の部材として、金属製の板材を溶接する場合の具体例が示されているが、キーホール溶接される2以上の部材は板材に限定されない。例えば、キーホール溶接される2以上の部材は、円周を有する部材であってもよい。この場合、湯流れの逃げ部が円周の方向に形成されていてもよい。「円周を有する部材」としては、例えば、金属製の配管などが挙げられる。
【0042】
また、上述の実施形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造の用途は特に限定されない。例えば、空気調和機の冷媒回路に設けられて、流体としての冷媒を圧縮する圧縮機に採用してもよい。上述の実施形態にかかる突き合わせ継ぎ手構造を有する圧縮機としては、例えば、図示はしないが、電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する電動機と、流体としての冷媒を圧縮する圧縮機構と、電動機および圧縮機構を収容するケーシングとしての胴体パイプと、低圧の冷媒を取り込む吸入管と、圧縮機構で圧縮された冷媒を外部に送り出す吐出管とを有する圧縮機などが挙げられる。
【0043】
ここで、上記にて説明した実施形態の各々は、以下のように捉えることができる。
すなわち、本開示の突き合わせ継ぎ手構造は、キーホール溶接される2以上の部材(例えば、
図1(A)の第1部材11および第2部材12)において、熱源としての高エネルギービーム100が照射される反対側に湯流れの逃げ部(例えば、
図1(A)の逃げ部173)を有し、湯流れの逃げ部がキーホール溶接により埋められている。この場合、キーホール溶接における高温割れのリスクを低減化させることができる。
【0044】
ここで、キーホール溶接される2以上の部材に、他方と嵌合する嵌合部(例えば、
図1(A)の嵌合部117)と、他方と接触する接触部(例えば、
図1(A)の第5面115)との少なくとも一方が設けられており、嵌合部と接触部との各々の干渉を避けるための湯流れの逃げ部が、キーホール溶接される2以上の部材のいずれかに形成されていてもよい。この場合、溶融金属の湯流れの逃げ部を設ける位置に幅があるため、加工負担が軽減される。
【0045】
また、湯流れの逃げ部を形成する空間の断面積が1mm2を超えないようにしてもよい。湯流れの逃げ部を形成する空間の断面積が大き過ぎると溶け込み不良が生じやすくなる。これに対して、湯流れの逃げ部を形成する空間の断面積が1mm2を超えない場合には、溶け込み不良が生じ難くなるので、高温割れのリスクを低減化できる。
【0046】
また、キーホール溶接される2以上の部材が円周を有する部材であり、湯流れの逃げ部が円周の方向に形成されていてもよい。この場合、矩形の板材や角材のみならず管状の部材にも適用できる。
【0047】
また、上記の目的を達成する本開示の圧縮機は、キーホール溶接される2以上の部材(例えば、
図1(A)の第1部材11および第2部材12)において、熱源としての高エネルギービーム100が照射される反対側に湯流れの逃げ部(例えば、
図1(A)の逃げ部173)を有し、湯流れの逃げ部がキーホール溶接により埋められている突き合わせ継ぎ手構造を有する。この場合、キーホール溶接における高温割れのリスクを低減化させることができる。
【符号の説明】
【0048】
11,21,31,41,51,61,71…第1部材、12,22,32,42,52,62,72…第2部材、23,33,43,53,63…第3部材、100…高エネルギービーム、173…逃げ部