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特開2024-146036電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146036
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20241004BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20241004BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241004BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20241004BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20241004BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241004BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/88 K
C01B32/00
B01J23/89 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058701
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 一三
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 純
(72)【発明者】
【氏名】駒野谷 将
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AC04B
4G146AC09B
4G146AD11
4G146AD35
4G146CB20
4G146CB34
4G169AA03
4G169AA08
4G169BB02B
4G169BC68B
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EC27
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB05
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB00
5H018DD05
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE16
5H018EE17
5H018EE19
5H018HH04
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】従来よりも触媒活性の高い電極触媒を提供すること。また、そのような電極触媒を容易に製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】電極触媒は、メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含む。少なくとも一部のメソ細孔内に、線状体の少なくとも一部が位置している。線状体の直径が炭素担体のメソ細孔径よりも小さいことが好ましい。炭素担体のメソ細孔径に対する線状体の直径の比が0.05以上1.00未満であることが好ましい。線状体が少なくとも白金族元素を含むことも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含み、
少なくとも一部の前記メソ細孔内に、前記線状体の少なくとも一部が位置している、電極触媒。
【請求項2】
前記線状体の直径が前記炭素担体の前記メソ細孔径よりも小さい、請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記炭素担体の前記メソ細孔径に対する前記線状体の直径の比が0.05以上1.00未満である、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項4】
前記線状体が少なくとも白金族元素を含む、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項5】
前記線状体が少なくとも白金を含む、請求項4に記載の電極触媒。
【請求項6】
前記炭素担体の前記メソ細孔径が2.0nm以上30.0nm以下である、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項7】
前記炭素担体の表面に、イオン液体が存在している、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項8】
前記イオン液体が非プロトン性イオン液体である、請求項7に記載の電極触媒。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の電極触媒を備える燃料電池用電極触媒。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の電極触媒と、アイオノマーとを含む、電極触媒層。
【請求項11】
請求項9に記載の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池。
【請求項12】
メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含む分散液に超音波を照射して、前記炭素担体の表面に、前記線状体の少なくとも一部を配置させる、電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極触媒及びその製造方法に関する。また本発明は燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池や水の電気分解装置などの電気化学セルにおいては、白金等の貴金属触媒を担体に担持した触媒担持担体が電極触媒として用いられている。触媒の有効利用の観点から、触媒の担体としては比表面積の大きな材料である炭素質材料が用いられることが多い。
【0003】
例えば特許文献1及び2には、触媒の担体として多孔質炭素材料を用い、該多孔質炭素材料の細孔内に触媒の粒子を担持させることが提案されている。細孔内に触媒の粒子を担持させることで、触媒がアイオノマーと接触しづらくなり、アイオノマーによる触媒の被毒が抑制されると、特許文献2には記載されている。
【0004】
非特許文献1には、白金ナノワイヤが酸素還元反応に対して著しく高い触媒活性を示すことが記載されている。白金ナノワイヤは、アスペクト比が小さい球状の粒子と比較して相対的に触媒活性が高いと同文献には記載されている。
【0005】
特許文献3には、触媒の担体としてカーボン担体を用い、貴金属触媒として白金を含み、且つオレイルアミンによって表面が修飾されたナノワイヤ粒子を用いることで、オレイルアミンが該ナノワイヤ粒子の凝集を防ぎつつ、該カーボン担体の表面に該ナノワイヤ粒子を高密度に担持させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/175099号パンフレット
【特許文献2】特開2018-98198号公報
【特許文献3】特開2021-190418号文献
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Li, et al., Science, 2016, Vol 354, Issue 6318, pp.1414-1419.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気化学セルの性能を高めるためには電極触媒の性能を高めることが重要であるところ、特許文献1及び2に記載の電極触媒では、触媒活性を高めるには限りがある。
非特許文献1に記載の白金ナノワイヤは、該白金ナノワイヤどうしが凝集してしまうことから、触媒反応に利用できるナノワイヤの表面積が減少し、高い触媒活性を引き出せないという課題があった。
特許文献3に記載の技術によれば、ナノワイヤどうしの凝集は一応抑制されるものの、触媒活性の向上には改良の余地があった。
したがって本発明の課題は、従来よりも触媒活性の高い電極触媒及びその製造方法並びにそれを用いた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく本発明者らが炭素担体にナノワイヤを担持させた電極触媒について検討したところ、炭素担体が有するメソ細孔内にナノワイヤを存在させることで、該ナノワイヤどうしの凝集を一層抑制することができ、それによってナノワイヤの触媒活性が一層向上することを見出した。
【0010】
本発明は、前記知見に基づきなされたものであり、メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含み、
少なくとも一部の前記メソ細孔内に、前記線状体の少なくとも一部が位置している電極触媒を提供することにより前記課題を解決したものである。
【0011】
また本発明は、メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含む混合液に超音波を照射して、前記炭素担体の表面に、前記線状体の少なくとも一部を配置させる、電極触媒の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも触媒活性の高い電極触媒が提供される。また、本発明によれば、そのような電極触媒を容易に製造し得る方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、電極触媒に関するものである。本発明の電極触媒は、メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含むものである。本発明の電極触媒においては、多数のメソ細孔のうちの少なくとも一部のメソ細孔内に、線状体の少なくとも一部が位置している。
【0014】
本発明における炭素担体は、メソ細孔を有している。メソ細孔の大きさはメソスケール、すなわち細孔径が直径2.0nm以上50.0nm以下である。炭素担体がメソスケールの細孔を有することで、炭素担体の表面積が大きくなり、メソ細孔内に線状体を首尾よく配置させることが可能となる。この利点を一層顕著なものとする観点から、炭素担体のメソ細孔径は3.0nm以上であることが好ましく、3.5nm以上であることがより好ましく、4.0nm以上であることが更に好ましい。また、炭素担体のメソ細孔径は30.0nm以下であることが好ましく、25.0nm以下であることがより好ましく、20.0nm以下であることが更に好ましく、15.0nm以下であることが一層好ましい。メソ細孔径の測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0015】
メソ細孔は、連通孔構造であってもよく、連通孔構造でなくてもよい。本発明の電極触媒の触媒活性を高くする観点から、メソ細孔は連通孔構造であることが好ましい。すなわち、メソ細孔は、炭素担体の表面において開口し、炭素担体の内部に向けて延在し、且つ他端が炭素担体の表面において開口していることが好ましい。メソ細孔は、炭素担体の内部において分岐していてもよい。またメソ細孔は、炭素担体の内部において他の細孔と交わっていてもよい。メソ細孔が連通孔構造であることで、炭素担体における複数の開口部から、メソ細孔内に位置する触媒金属の線状体により多くの反応物、例えば酸素を供給することができる。その結果、本発明の電極触媒の触媒活性を従来よりも高くすることができる。
【0016】
炭素担体のメソ細孔内に線状体を首尾よく配置させる観点から、炭素担体のメソ細孔容積は、該炭素担体の単位質量当たり0.05mL/g以上3.00mL/g以下であることが好ましく、0.10mL/g以上2.50mL/g以下であることがより好ましく、0.20mL/g以上2.20mL/g以下であることが更に好ましい。「メソ細孔容積」とは、窒素吸脱着等温線を解析することにより算出される2nm以上50nm以下の範囲における細孔容積をいう。
【0017】
本発明における炭素担体は、本発明の効果を損なわない範囲で、マクロ細孔及び/又はミクロ細孔を有していてもよい。「マクロ細孔」とは、直径50.0nm超である細孔をいう。「ミクロ細孔」とは、直径2.0nm未満である細孔をいう。
【0018】
炭素担体はそのBET比表面積が250m/g以上2000m/g以下であることが好ましく、400m/g以上1800m/g以下であることがより好ましく、500m/g以上1500m/g以下であることが更に好ましい。BET比表面積の測定は、例えば以下のようにして行うことができる。炭素担体をマイクロトラック・ベル株式会社製の前処理装置「BELPREP-vacII」を用いて、真空中で、400℃、3時間加熱する。その後、マイクロトラック・ベル株式会社製の比表面積測定装置「BELSORP-miniII」を用いて、液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量からBET(Brunauer-Emmett-Teller)法で計算し、比表面積を求める。
【0019】
炭素担体としては、炭素が主成分である担体を用いることが好ましい。「炭素が主成分である」とは、炭素担体に占める炭素の割合が50質量%以上であることをいう。炭素が主成分である担体を用いることで、該担体の導電性が向上し、電気抵抗が低下するので好ましい。したがって、炭素担体に含まれる炭素は導電性炭素であることが好ましい。
【0020】
炭素担体は、例えばカーボンブラックと呼ばれる一群の炭素質材料、活性炭、グラファイト、メソポーラスカーボン、グラフェン等の炭素材料を含むことができる。本発明においては、炭素材料の種類は特に限定されるものでなく、いずれの炭素材料を用いた場合であっても所期の効果が奏される。また、導電性を向上させる観点や、炭素担体と触媒金属の線状体との相互作用を向上させる観点から、窒素やホウ素等の元素でドープされた炭素材料を含むこともできる。
【0021】
本発明の電極触媒における線状体は、触媒金属を構成材料とするものである。線状体は、典型的には一方向に延びている。線状体が一方向に延びる状態は、該線状体の観察した時の状態によって様々である。例えば、線状体は、直線状に延びているか、又は曲線状に蛇行しながら一方向に延びている。また、線状体は、例えば、直径がその全長にわたってほぼ一様である形態や、直径が一様ではなく数珠状である形態をとり得る。本明細書において線状体とは、直径に対する長さの比率が3.0以上である形状を有するものである。
【0022】
線状体は、その直径が炭素担体のメソ細孔径よりも小さいことが好ましい。これによって、炭素担体のメソ細孔内に線状体を首尾よく配置させることが可能となる。同様の観点から、線状体の直径は、メソ細孔径よりも小さいことを条件として、0.2nm以上10.0nm以下であることが好ましく、0.5nm以上7.5nm以下であることがより好ましく、0.7nm以上6.0nm以下であることが更に好ましく、1.0nm以上5.0nm以下であることが一層好ましく、1.0nm以上3.0nm以下であることが更に一層好ましい。
【0023】
線状体は、その直径と炭素担体のメソ細孔径との差が小さいことが好ましい。線状体とメソ細孔径とがこのような関係にあることで、メソ細孔内に過度に多くの線状体が位置することが抑制されるので、例えばメソ細孔内においても、線状体が凝集することを抑制できる。その結果、本発明の電極触媒の触媒活性を従来よりも高くすることができる。この理由から、炭素担体のメソ細孔径に対する線状体の直径の比が0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.12以上であることが更に好ましい。線状体の凝集を抑制する観点のみを考慮すれば、前記比の上限値は1.00である。一方、メソ細孔内に線状体を容易に位置させる観点、及び該メソ細孔内に物質が移動する余地をもたせる観点も考慮すると、炭素担体のメソ細孔径に対する線状体の直径比が1.00未満であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましく、0.60以下であることが更に好ましく、0.40以下であることが一層好ましく、0.20以下であることが更に一層好ましい。
【0024】
線状体の直径は、例えば後述する電極触媒の製造方法において線状体を得るときに、用いる触媒金属源の量を調整したり、還元剤の濃度を調整したり、界面活性剤等の添加物を添加したり、加熱温度を調整したり、反応雰囲気を変更したりすることによって調整することができる。
【0025】
本発明の電極触媒において、線状体の長さは特に制限されないが、取扱い性の容易さ、用いる炭素担体の大きさの観点から、好ましくは0.6nm以上10000nm以下、より好ましくは2.0nm以上1000nm以下、更に好ましくは5.0nm以上500nm以下、一層好ましくは10.0nm以上100nm以下である。線状体の長さがいずれの場合であっても、本発明の効果は十分に奏される。
【0026】
線状体の長さは、例えば後述する電極触媒の製造方法において線状体を得るときに、用いる触媒金属源の量を調整したり、還元時間を調整したり、加熱温度を調整したりすることによって調整することができる。
【0027】
線状体は、そのアスペクト比(線状体の平均長さ[m]/線状体の直径[m])が3以上1000以下であることが好ましく、5以上500以下であることがより好ましく、5以上100以下であることが更に好ましく、8以上50以下であることが一層好ましく、8以上30以下であることが更に一層好ましい。線状体のアスペクト比がこの範囲にあることで、線状体の形状に起因して触媒活性を従来よりも高くすることができる。更に、例えば後述する電極触媒の製造方法において、メソ細孔内に線状体を配置させるときに、分散液に線状体が分散しやすくなるとともに、該線状体が該メソ細孔内に配置されやすくなる。
【0028】
線状体の直径は、線状体の電子顕微鏡像から少なくとも10本の直径を読み取り算術平均して得る。
線状体の直径がその全長にわたって一定でない場合、例えば線状体が直径d1を有する部位f1と直径d2を有する部位f2からなる場合、部位f1が線状体の全長の60%超を占めるときは直径d1を線状体の直径とし、部位f2が線状体の全長の60%超を占めるときは直径d2を線状体の直径とする。
線状体がその全長の60%超を占める領域を有しない場合、該線状体の最も太い値及び最も細い値を読み取り、これらを算術平均して得る。
線状体の長さは、線状体の電子顕微鏡像から20本の長さを読み取り算術平均値を得る。
【0029】
線状体を構成する触媒金属の種類に特に制限はなく、各種の電極反応に対して触媒活性を有する種々の金属を用いることができる。本発明の電極触媒は、特に燃料電池の電極反応に対して触媒活性を有する金属を用いることが好ましい。触媒金属としては、例えば白金、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、金、銀又はそれらの金属を含有する合金等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
線状体は、少なくとも白金族元素を含むことが好ましい。線状体が白金族元素を含むことによって、触媒活性が高く、且つ電気化学的に安定な電極触媒を得ることができる。特に、本発明の電極触媒を例えば燃料電池の電極に用いる場合、高い酸素還元活性を得ることができる。この理由から、線状体は少なくとも白金族元素又はそれらの金属を含有する合金を含むことが好ましく、白金族元素又はそれらの金属含有する合金からなることが好ましい。本明細書において「白金族元素」とは、白金、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム、オスミウムをいう。
【0031】
線状体は、前記白金族元素の中では、少なくとも白金を含むことが好ましい。白金は、触媒活性、とりわけ酸素の還元に対する触媒活性が高いことが知られている。したがって、線状体が白金を含むことによって、本発明の電極触媒を例えば固体高分子形燃料電池等の作動温度が比較的低い燃料電池の電極に用いる場合に、触媒活性を従来よりも一層高くすることができる。この理由から、線状体は少なくとも白金又は白金を含有する合金を含むことが好ましく、白金又は白金を含有する合金からなることが好ましい。
【0032】
線状体は、金属からなるコア部と、該コア部の表面に配置され且つ該金属以外の金属からなるシェル部とからなっていてもよい。換言すれば線状体は、異なる種類の金属が積層されてなっていてもよい。
コア部は線状体の主たる部位をなすものである。シェル部は、コア部の表面の全体に配置されていてもよい。あるいはシェル部は、コア部の表面一部を被覆するように存在していてもよい。
また、コア部とシェル部との境界は明瞭であってもよく、コア部とシェル部とを区別し得る範囲において境界に一部不明瞭な部分が存在していてもよい。
コア部又はシェル部を構成する金属としては、各種の電極反応に対して触媒活性を有する種々の金属を用いることができる。特に燃料電池の電極反応に対して触媒活性を有する金属を用いることが好ましい。シェル部を構成する金属としては、白金、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、金、銀又はそれらの金属を含有する合金等が挙げられる。コア部を構成する金属としては、シェル部を構成する金属と異なる種類の金属、又はシェル部を構成する合金と異なる組成の合金等であれば特に制限はなく、例えば白金、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、金、銀、鉄、チタン、銅、亜鉛又はそれらの金属を含有する合金等が挙げられる。触媒活性を一層高くする観点から、シェル部を構成する金属が白金族元素又はそれらの金属を含有する合金を含むことが好ましく、電気化学的な安定性の観点から、コア部及びシェル部を構成する金属の両方が白金族元素又はそれらの金属を含有する合金を含むことがより好ましく、コア部及びシェル部を構成する金属の両方が白金族元素からなることが更に好ましい。
コア部及びシェル部を構成する金属の両方が白金族元素を含む場合、該コア部を構成する白金族元素の量は、該シェル部を構成する白金族元素の量に比べて少ないことが好ましい。このような構造にすることによって、電極触媒の触媒活性を高いものとした上で、白金族元素の使用量を低減することができ、経済性に優れたものとできる。
【0033】
線状体は、その表面が金属以外の物質によって被覆されていてもよい。ここでいう「被覆」とは、線状体を構成する触媒金属と金属以外の物質とを化学結合させる場合と、線状体を構成する金属と金属以外の物質とを物理的に吸着させる場合とを含む。線状体は、いずれか一方の被覆状態でもよく、あるいは両方の被覆状態でもよい。
線状体に被覆される物質としては、例えば酸化物、硫化物、有機物、炭素材料等が挙げられる。
【0034】
本発明の電極触媒は、炭素担体のメソ細孔の一部又は全部に、触媒金属の線状体の一部又は全部が位置していることを特徴の一つとしている。
電極触媒は、電気化学セルの性能を高めるために、触媒活性が高いものが要望されている。しかしながら、従来用いられている粒子よりも相対的に触媒活性が高いとされる線状体を電極触媒に用いた場合、該線状体が凝集して表面積が減少していまい、線状体が本来有する高い触媒活性を十分に引き出せない場合があった。
この点を改善することに関し本発明者が鋭意検討したところ、線状体とメソ細孔を有する炭素担体を用い、且つ該メソ細孔内に該線状体を位置させて該線状体を区画することで、意外にも、線状体が凝集することを抑制できることがわかった。それによって、線状体が本来有する高い触媒活性を引き出し、電極触媒の触媒活性を従来よりも高くできることを見出した。
【0035】
本発明の電極触媒において、炭素担体のメソ細孔内に線状体が位置していることは、透過型電子顕微鏡による観察で確認することができる。
【0036】
本発明の電極触媒においては、炭素担体のメソ細孔内に加えて、メソ細孔外に線状体が位置していることは妨げられない。例えば炭素担体の表面の一部に線状体が位置していてもよく、あるいは炭素担体の表面の全域に線状体が位置していてもよい。また、炭素担体がマクロ細孔及び/又はミクロ細孔を有する場合、いずれかの細孔内に線状体が位置していてもよく、あるいは両方の細孔内に線状体が位置していてもよい。炭素担体のメソ細孔内に線状体を位置させて該線状体が凝集することを抑制し、電極触媒の触媒活性を従来よりも高くする観点からは、線状体は、主としてメソ細孔内に位置していることが好ましい。
【0037】
本発明の電極触媒において、線状体の担持量は、電極触媒の質量に対して1質量%以上70質量%以下であることが好ましく、3質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上50質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以上40質量%以下であることが一層好ましい。電極触媒における線状体の担持量がこの範囲にあることで、電極触媒の触媒活性を従来よりも高くすることができる。
【0038】
本発明の電極触媒において、線状体の担持量は、以下に述べる全溶解誘導結合プラズマ発光分光分析法又は全溶解誘導結合プラズマ質量分析法で確認することができる。具体的には、まず、所定量の電極触媒の粉末を、強酸等を用いて全溶解し、溶液を得る。次いで、溶液に含まれる線状体を構成する元素量(質量%)を前記分析法で測定し、該線状体の量を算出する。全溶解した電極触媒の粉末の質量と、算出した線状体の量とに基づき、電極触媒における線状体の担持量を算出できる。電極触媒の粉末を全溶解して得られる溶液に含まれる線状体の元素の種類は、誘導結合プラズマ発光分光分析法又は誘導結合プラズマ質量分析法により分析できる。
【0039】
本発明の電極触媒においては、炭素担体の表面に、イオン液体が存在していることが好ましい。「炭素担体の表面」とは、炭素担体の外表面と細孔内表面との両方を包含するものである。炭素担体の少なくとも一部のメソ細孔内に、イオン液体が存在していることがより好ましい。イオン液体は、カチオン及びアニオンからなり、常温常圧で液体の塩である。イオン液体としては、非プロトン性イオン液体又はプロトン性イオン液体のいずれかを単独で用いてもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。
【0040】
非プロトン性イオン液体としては、例えばヘキサフルオロリン酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム([BMIM][PF6])等が挙げられる。非プロトン性イオン液体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
プロトン性イオン液体としては、例えば7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等が挙げられる。プロトン性イオン液体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明の電極触媒において、炭素担体の表面に、イオン液体が存在していることで、例えば本発明の電極触媒とアイオノマーとを用いて電極触媒層を形成する場合、該イオン液体が白金族元素等を含む線状体の表面に選択的に吸着できる。それによって、アイオノマーによる電極触媒の被毒が抑制され、その結果、電極触媒の触媒活性を高いまま維持することができると考えられる。また、詳細な原因は明らかになっていないが、用いるイオン液体が非プロトン性イオン液体であることで、電極触媒の触媒活性を高いまま効果的に維持することができる。更に、用いるイオン液体が非プロトン性イオン液体である場合、アイオノマーの量が多いほど電極触媒の触媒活性が高くなるという、従来知られている電極触媒とは全く異なる意外な効果があることを本発明者は見出した。
電極触媒の触媒活性を高いまま効果的に維持する観点から、非プロトン性イオン液体として、例えばヘキサフルオロリン酸1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムを用いることが好ましい。
【0043】
本発明の電極触媒において、電極触媒に対するイオン液体の質量比が0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.015以上であることが更に好ましい。また、電極触媒に対するイオン液体の質量比が1.00以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましく、0.80以下であることが更に好ましい。電極触媒に対するイオン液体の質量比がこの範囲にあることで、炭素担体の表面全体に、十分量のイオン液体を存在させることができるので、特に、例えば電極触媒とアイオノマーとを用いて電極触媒層を形成する場合、アイオノマーによる電極触媒の被毒が抑制され、その結果、電極触媒の触媒活性を高いまま維持することができる。
【0044】
本発明の電極触媒において、電極触媒に対するイオン液体の質量比は、例えば、イオン液体に含まれるカチオン中の窒素成分を定量することで確認することができる。窒素成分の定量は常法に従って行うことができ、例えば元素分析計(CHN計)、X線光電子分光法(XPS)やエネルギー分散型X線分析法(EDX)によって行うことができる
【0045】
また、本発明の電極触媒において、線状体に対するイオン液体の質量比が0.017以上3.3以下であることが好ましく、0.03以上3.0以下であることがより好ましく、0.05以上2.7以下であることが更に好ましい。線状体に対するイオン液体の質量比がこの範囲にあることで、線状体の全体に、十分量のイオン液体を存在させることができるので、特に、例えば電極触媒とアイオノマーとを用いて電極触媒層を形成する場合、アイオノマーによる電極触媒の被毒が抑制され、その結果、電極触媒の触媒活性を高いまま維持することができる。
【0046】
本発明の電極触媒において、線状体に対するイオン液体の質量比は、前述の電極触媒に対するイオン液体の質量比と同様の方法で確認することができる。
【0047】
電極触媒に対するイオン液体の質量比又は線状体に対するイオン液体の質量比は、例えば得られた電極触媒とイオン液体とを混合するときに、用いる電極触媒の量を調整したり、イオン液体の量を調整したりすることによって調整することができる。
【0048】
本発明の電極触媒において、炭素担体のメソ細孔内にイオン液体が存在していることを直接確認することは、非常に困難である。しかしながら、以下の理由から、電極触媒がイオン液体を含む場合、イオン液体のほとんどがメソ細孔内に存在していると発明者は推測している。メソ細孔を有する炭素担体の表面は、細孔内部の表面と炭素担体外表面とに分けることができる。メソ細孔の細孔径は非常に微細であるため、炭素担体の表面の大部分がメソ細孔内部の表面である。イオン液体は電極触媒の表面、すなわち炭素担体の表面に吸着する形で存在するため、イオン液体の大部分はメソ細孔内部に存在すると考えることが自然である。
【0049】
次に、本発明の電極触媒の好適な製造方法について説明する。
まず、電極触媒の原料の一つである炭素担体、すなわちメソ細孔を有する炭素担体を用意する。
炭素担体とともに、電極触媒の原料の一つである線状体を用意する。線状体の製造方法に特に制限はなく、湿式還元法(無電解還元法)や電解法によって製造できるが、好適には湿式還元法によって製造される。
【0050】
湿式還元法においては、線状体における触媒金属源として、例えばビス(アセチルアセトナト)白金(II)、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)等の金属元素含有化合物を用いることができる。これらの触媒金属源は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、粉末の状態で又は有機溶媒に溶解した溶液の状態で用いることができる。
【0051】
湿式還元法における還元剤としては、当該技術分野においてこれまで知られているものを特に制限なく用いることができる。還元剤としては、例えば還元糖等の有機化合物、遷移金属カルボニル化合物、オレイルアミン、グルコース等が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらは粉末の状態で又は水溶液の状態で用いることができる。線状体の還元を容易に行う観点から、還元能が比較的高い有機化合物を用いることが好ましい。有機化合物としては、例えばグルコースを用いることが好ましい。
【0052】
触媒金属源及び還元剤に加えて、必要に応じて添加剤を用いることもできる。添加剤としては、例えば遷移金属のカルボニル化合物、第四級アンモニウム塩等を用いることができる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらは、粉末の状態で又は有機溶媒に溶解した溶液の状態で用いることができる。本発明における線状体のように、比較的細い直径を有する線状体を容易に得る観点から、添加剤として遷移金属のカルボニル化合物又は第四級アンモニウム塩を用いることが好ましい。遷移金属のカルボニル化合物としては、例えばモリブデンヘキサカルボニル、タングステンヘキサカルボニル等を用いることができる。第四級アンモニウム塩としては、例えばヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を用いることができる。
【0053】
上述した触媒金属源、還元剤及び添加剤に加えて、これらの物質を溶解させる溶媒も用意する。溶媒としては、例えばアルキルアミン等のアミン類;ケトン類;芳香族炭化水素類等の各種有機溶媒が挙げられる。
具体的には、オレイルアミン、アセトン、ベンゼン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、オレイルアミンを用いることが、取扱い性の容易さ及び溶解性の高さのバランスがとれている点から好ましい。更に、オレイルアミンは還元剤としても機能するので、線状体を効率よく製造する観点からも好ましい。
【0054】
以上の原料が用意できたら、これらを混合して溶液を得る。溶液に含まれる触媒金属源の濃度は、1.0×10-4mol/L以上0.5mol/L以下であることが好ましく、1.0×10-3mol/L以上0.1mol/L以下であることがより好ましく、2.0×10-3mol/L以上5.0×10-2mol/L以下であることが更に好ましく、5.0×10-3mol/L以上2.5×10-2mol/L以下であることが一層好ましい。二種以上の触媒金属源を組み合わせて用いる場合、溶液に含まれる触媒金属源の合計の濃度がこの範囲にあることが好ましい。触媒金属源の濃度がこの範囲にあることで、所望の直径を有する線状体が溶媒中に分散した分散液を比較的容易に得ることができる。
【0055】
溶液に含まれる還元剤の濃度は、1.0×10-2mol/L以上0.5mol/L以下であることが好ましく、2.0×10-2mol/L以上0.4mol/L以下であることがより好ましく、3.0×10-2mol/L以上0.3mol/L以下であることが更に好ましく、4.0×10-2mol/L以上0.2mol/L以下であることが一層好ましい。二種以上の還元剤を組み合わせて用いる場合、溶液に含まれる還元剤の合計の濃度がこの範囲にあることが好ましい。還元剤の濃度がこの範囲にあることで、触媒金属源が首尾よく還元されて線状体を得ることができる。
【0056】
また、添加剤を用いる場合、溶液に含まれる該添加剤の濃度は、1.0×10-3mol/L以上0.2mol/L以下であることが好ましく、2.0×10-3mol/L以上0.1mol/L以下であることがより好ましく、5.0×10-3mol/L以上5.0×10-2mol/L以下であることが更に好ましく、1.0×10-2mol/L以上4.0×10-2mol/L以下であることが一層好ましい。二種以上の添加剤を組み合わせて用いる場合、溶液に含まれる添加剤の合計の濃度がこの範囲にあることが好ましい。添加剤の濃度がこの範囲にあることで、所望のアスペクト比を有する線状体を容易に得ることができる。
【0057】
その後、溶液の加熱を行う。この加熱によって、触媒金属源が還元剤によって還元され、該触媒金属源から触媒金属の線状体が生成する。特に添加剤を用いる場合、触媒金属源が還元され、金属原子が集合して集合体を形成するときに、該添加剤の作用に起因して特定の金属結晶面の成長が抑制されることで、本発明における線状体のように、細い直径を有する線状体が生成する。
【0058】
溶液の加熱温度は、触媒金属源の還元が生じる程度であれば特に制限されないが、好ましくは60℃以上300℃以下、より好ましくは80℃以上280℃以下、更に好ましくは100℃以上260℃以下である。
溶液の加熱時間も、触媒金属源の還元が生じる程度であれば特に制限されないが、好ましくは0.1時間以上10時間以下、より好ましくは0.5時間以上6時間以下、更に好ましくは1時間以上4時間以下である。
なお、必要に応じて、溶液を還流させながら加熱してもよい。
【0059】
このようにして線状体が生成したら、溶液を固液分離し、固形分を回収して洗浄し乾燥する。固形分の洗浄には、例えばエタノール及びシクロヘキサンの混合物等を用いることができる。このようにして目的とする線状体が得られる。
【0060】
また、必要に応じて、線状体を得た後、それを電極として全体に金属めっきをすることで、該線状体の表面を異なる種類の金属で被覆することもできる。
【0061】
炭素担体と線状体の用意ができたら、炭素担体、線状体及び分散媒を混合した分散液を調製する。分散媒としては、例えばエタノール及びシクロヘキサンの混合物を用いることができる。
【0062】
分散液に含まれる炭素担体に対する線状体の質量比は、0.01以上2.40以下であることが好ましく、0.03以上1.50以下であることがより好ましく、0.05以上1.00以下であることが更に好ましい。炭素担体に対する線状体の質量比がこの範囲にあることで、炭素担体のメソ細孔内に、線状体を首尾よく配置させることができる。
分散液に対する炭素担体の質量は、分散液1mL当たり、0.01mg以上0.4mg以下であることが好ましく、0.02mg以上0.3mg以下であることがより好ましく、0.03mg以上0.2mg以下であることが更に好ましい。分散液に対する炭素担体の質量がこの範囲にあることで、炭素担体のメソ細孔内に、線状体を首尾よく配置させることができる。
【0063】
その後、メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含む分散液に超音波を照射する。これによって、少なくとも一部のメソ細孔内に、線状体の少なくとも一部を配置させる。炭素担体と線状体とを含む分散液に対して超音波を照射することで、該炭素担体が有するメソ細孔内に、意外にも、線状体を配置できることは、本発明者らが初めて見出したことである。なお、超音波の照射に起因する混合液の温度上昇を抑制する観点から、分散液を冷却しながら行うことが好ましい。冷却する温度は10℃以下であることが好ましく、0℃付近であることがより好ましい。例えば超音波の照射を氷浴中で行うことが好ましい。
【0064】
分散液に対する超音波の照射は、30W以上1000W以下で行うことが好ましく、50W以上500W以下で行うことがより好ましく、100W以上400W以下で行うことが更に好ましい。超音波の出力がこの範囲にあることで、炭素担体のメソ細孔内に、線状体を首尾よく配置させることができる。
分散液に対する超音波の照射時間は、0.5時間以上10時間以下で行うことが好ましく、1時間以上8時間以下で行うことがより好ましく、2時間以上6時間以下で行うことが更に好ましい。超音波の照射時間がこの範囲にあることで、炭素担体のメソ細孔内に、線状体を首尾よく配置させることができる。
【0065】
このようにして炭素担体のメソ細孔内に線状体を配置させたら、分散液を固液分離し、固形分を回収して洗浄し乾燥させる。固形分の洗浄には、例えばエタノール及びシクロヘキサンの混合物等を用いることができる。このようにして目的とする電極触媒が得られる。
【0066】
本発明の電極触媒において、炭素担体の表面にイオン液体を存在させる場合、すなわち炭素担体のメソ細孔内にイオン液体を配置させる場合、メソ細孔内に予めイオン液体を配置させた炭素担体と、線状体とを用いればよい。
詳細には、まず、炭素担体、イオン液体及び分散媒を混合した混合分散液を調製する。分散媒としては、例えばエタノール及びシクロヘキサンの混合物を用いることができる。次いで、混合分散液に超音波を照射し、炭素担体のメソ細孔内に、イオン液体を配置させる。なお、超音波の照射に起因する混合液の温度上昇を抑制する観点から、混合分散液を冷却しながら行うことが好ましい。例えば超音波の照射を氷浴中で行うことが好ましい。
混合分散液に対する超音波の照射は、炭素担体のメソ細孔内にイオン液体が配置される程度であれば特に制限されないが、好ましくは30W以上1000W以下、より好ましくは50W以上500W以下、更に好ましくは100W以上400W以下である。
混合分散液に対する超音波の照射時間も、炭素担体のメソ細孔内にイオン液体が配置される程度であれば特に制限されないが、好ましくは0.1時間以上3時間以下、より好ましくは0.2時間以上2.5時間以下、更に好ましくは0.5時間以上2時間以下である。
その後、混合分散液に線状体を添加し、該混合分散液に超音波を照射して、炭素担体のメソ細孔内に、線状体を配置させる。このときの各種条件は、上述のとおりである。
このようにして炭素担体の表面、すなわち炭素担体のメソ細孔内にイオン液体及び線状体を配置させたら、混合分散液を固液分離し、固形分を回収して洗浄し乾燥させる。固形分の洗浄には、例えばエタノール及びシクロヘキサンの混合物等を用いることができる。
【0067】
分散液に含まれる炭素担体に対するイオン液体の質量比は、0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.15以上であることが更に好ましい。また、炭素担体に対するイオン液体の質量比は、2.00以下であることが好ましく、1.50以下であることがより好ましく、1.00以下であることが更に好ましい。炭素担体に対するイオン液体の質量比がこの範囲にあることで、炭素担体の表面に、イオン液体を首尾よく存在させることができる。
【0068】
このようにして得られた電極触媒を用いて燃料電池における電極触媒層を形成できる。電極触媒層には、電極触媒に加え、必要に応じて電極触媒どうしを結合する結着剤や、アイオノマーなど、当該技術分野においてこれまで知られている材料と同様の材料を含有させてもよい。
【0069】
アイオノマーはプロトン伝導性を有することが好ましい。電極触媒層にアイオノマーが含まれることで、該触媒層の性能が一層向上する。アイオノマーとしては、例えば、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロエーテルペンダント側鎖が、ポリテトラフルオロエチレン主鎖と結合した構造を有する高分子材料を用いることができる。そのようなアイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、フミオンF(登録商標)などが挙げられる。
【0070】
電極触媒層は、例えば次の方法で好適に形成される。まず電極触媒を含む分散液を調製する。分散液の調製のためには、電極触媒と分散媒とを混合する。混合に際しては必要に応じてアイオノマーも添加する。
【0071】
分散媒としては、例えばアルコール類、トルエンやベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、その他ケトン類やエステル類、エーテル類などの有機溶媒や、水を用いることができる。
【0072】
電極触媒層の形成にアイオノマーを用いる場合、電極触媒に含まれる炭素担体に対するアイオノマーの質量比は、0.10以上4.00以下であることが好ましく、0.20以上3.00以下であることがより好ましく、0.30以上2.30以下であることが更に好ましい。炭素担体に対するアイオノマーの質量比がこの範囲にあることで、触媒活性を従来よりも高くすることができる。
【0073】
分散液が得られたら、この分散液から電極触媒層を形成する。電極触媒層の形成は、例えば各種の塗布装置を用いて分散液を塗布対象物に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで行われる。塗布対象物としては、例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂のフィルム等を用いることができる。塗布対象物上に形成された電極触媒層を、例えば固体電解質膜と重ね合わせて熱プレスすることで、電極触媒層を固体電解質膜の表面に転写する。この転写によって、固体電解質膜の一面に電極触媒層が配置されてなる触媒被覆膜(CCM)が得られる。
【0074】
このようにして形成された電極触媒層は、固体高分子形燃料電池のアノード及び/又はカソードの電極触媒層として好適に用いられる。アノード及びカソードは、電極触媒層と、ガス拡散層とを含んでいることが好ましい。ガス拡散層は、集電機能を有する支持集電体として機能するものである。更にガス拡散層は、電極触媒層にガスを十分に供給する機能を有するものである。
ガス拡散層としては、例えば多孔質材料であるカーボンペーパー、カーボンクロスを用いることができる。具体的には、例えば表面をポリテトラフルオロエチレンでコーティングした炭素繊維と、当該コーティングがなされていない炭素繊維とを所定の割合とした糸で織成したカーボンクロスにより形成することができる。
【0075】
固体電解質膜としては、例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン伝導体膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。
【0076】
電極触媒層と、固体電解質膜と、ガス拡散層とからなる膜電極接合体(MEA)は、その各面にセパレータが配されて固体高分子形燃料電池となされる。セパレータとしては、例えばガス拡散層との対向面に、一方向に延びる複数個の凸部(リブ)が所定間隔をおいて形成されているものを用いることができる。隣り合う凸部間は、断面が矩形の溝部となっている。この溝部は、燃料ガス及び空気等の酸化剤ガスの供給排出用流路として用いられる。燃料ガス及び酸化剤ガスは、燃料ガス供給手段及び酸化剤ガス供給手段からそれぞれ供給される。膜電極接合体の各面に配されるそれぞれのセパレータは、それに形成されている溝部が互いに直交するように配置されても良いし、互いに平行に配置されても良い。以上の構成が燃料電池の最小単位を構成しており、この構成を数十個~数百個並設してなるセルスタックから燃料電池を構成することができる。
【0077】
前記実施形態に関し、更に以下の電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池を開示する。
〔1〕 メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含み、
少なくとも一部の前記メソ細孔内に、前記線状体の少なくとも一部が位置している、電極触媒。
【0078】
〔2〕 前記線状体の直径が前記炭素担体の前記メソ細孔径よりも小さい、〔1〕に記載の電極触媒。
〔3〕 前記炭素担体の前記メソ細孔径に対する前記線状体の直径の比が0.05以上1.00未満である、〔1〕又は〔2〕に記載の電極触媒。
〔4〕 前記線状体が少なくとも白金族元素を含む、〔1〕ないし〔3〕のいずれか一に記載の電極触媒。
〔5〕 前記線状体が少なくとも白金を含む、〔4〕に記載の電極触媒。
〔6〕 前記炭素担体の前記メソ細孔径が2.0nm以上30.0nm以下である、〔1〕ないし〔5〕のいずれか一に記載の電極触媒。
【0079】
〔7〕 前記炭素担体の表面に、イオン液体が存在している、〔1〕ないし〔6〕のいずれか一に記載の電極触媒。
〔8〕 前記イオン液体が非プロトン性イオン液体である、〔7〕に記載の電極触媒。
〔9〕 〔1〕ないし〔8〕のいずれか一に記載の電極触媒を備える燃料電池用電極触媒。
〔10〕 〔1〕ないし〔8〕のいずれか一に記載の電極触媒と、アイオノマーとを含む、電極触媒層。
〔11〕 〔9〕に記載の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池。
〔12〕 メソ細孔を有する炭素担体と、触媒金属の線状体とを含む分散液に超音波を照射して、前記炭素担体の表面に、前記線状体の少なくとも一部を配置させる、電極触媒の製造方法。
【実施例0080】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0081】
〔実施例1-1〕
(1)溶液の調製
触媒金属源として0.025mmolのビス(アセチルアセトナト)白金(II)及び0.025mmolのビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)を用い、溶媒としてオレイルアミンを5mL用い、添加剤として0.075mmolのモリブデンヘキサカルボニル及び0.031mmolのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドを用い、還元剤として0.33mmolのグルコースを用いた。これらを混合し、溶液を調製した。
【0082】
(2)溶液の加熱・洗浄・乾燥
空気雰囲気下に、溶液を160℃で2時間加熱して、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)及びビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)を還元し、線状体が生成した溶液を得た。次いで、エタノールとシクロヘキサンとが体積比8:2で含まれる混合物(以下、「混合溶媒」ともいう)を、溶液に添加して遠心分離を繰り返して洗浄した。得られた固形分を乾燥させて線状体を得た。得られた線状体の直径及びアスペクト比を上述の方法で測定した。
得られた線状体の組成を全溶解誘導結合プラズマ質量分析法によって分析したところ、該線状体には白金が95atm%及びニッケルが5atm%含まれていた。また、線状体において、白金とニッケルは合金化していた。
【0083】
(3)炭素担体への線状体の担持
少なくともメソ細孔を有する炭素担体(メソ細孔径14nm、メソ細孔容積1.8mL/g、BET比表面積1007m/g)を用意した。炭素担体のメソ細孔径は後述する方法で測定した。また、炭素担体のメソ細孔容積を上述の方法で測定した。次いで、電極触媒における線状体の担持量が30%となるように、炭素担体を4.9mg、線状体を2.1mg、及び混合溶媒を50mL混合した混合液を調製した。混合液を氷浴中に置き、該混合液に対して220Wで4時間超音波を照射して、炭素担体のメソ細孔内に線状体を配置した分散液を得た。超音波の照射には、アイワ医科工業社製の超音波洗浄器AU-80Cを用いた。分散液に混合溶媒を添加して遠心分離を繰り返して洗浄し、得られた固形分を真空乾燥させ、電極触媒を得た。
【0084】
〔実施例1-2〕
(1)混合分散液の調製
実施例1-1と同様のメソ細孔を有する炭素担体を用意した。また、表1に示すイオン液体を用意した。炭素担体の質量(C)に対するイオン液体の質量(IL)の比であるIL/Cの値が表1に示す値となるように、炭素担体を4.9mg、イオン液体を4.9mg、及び混合溶媒を50mL混合した混合分散液を調製した。
【0085】
(2)炭素担体へのイオン液体の担持
混合分散液を氷浴中に置き、該混合分散液に対して220Wで1時間超音波を照射して、炭素担体の表面にイオン液体を配置した。
(3)炭素担体への線状体の担持
実施例1と同様にして得た線状体を用いた。前記混合分散液に線状体を2.1mg添加した。この混合分散液を氷浴中に置き、該混合分散液に対して220Wで4時間超音波を照射して、炭素担体のメソ細孔内に線状体を配置した。混合分散液に混合溶媒を添加して遠心分離を繰り返して洗浄し、得られた固形分を真空乾燥させ、電極触媒を得た。
【0086】
〔比較例1-1〕
細孔を有する炭素担体に代えて、中実の炭素担体(直径200nm)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして電極触媒を得た。炭素担体の直径は、炭素担体の透過型電子顕微鏡像から10個の直径を読み取り算術平均して得た。
【0087】
〔比較例1-2〕
細孔を有する炭素担体に代えて、比較例1-1と同様の中実の炭素担体(直径200nm)を用いた以外は、実施例1-2と同様にして電極触媒を得た。
【0088】
〔比較例1-3〕
電極触媒として、白金粒子を炭素担体に担持した燃料電池用触媒(田中貴金属工業株式社製 TEC10V30E)を用いた。
【0089】
〔評価〕
実施例1-1で得られた電極触媒について、触媒金属が主として炭素担体のどこに位置しているかを、透過型電子顕微鏡による3D-TEMトモグラフィーによって確認した。具体的には、3D-TEMトモグラフィーによって得られた電極触媒の三次元再構築像のスライス断面に基づき、炭素担体の粒子の内部に白金を含む線状体が存在することを確認した。実施例1-2で得られた電極触媒は、イオン液体が用いたこと以外は実施例1-1と同じ製造方法によって得られたため、炭素担体における線状体の存在位置は実施例1-1と同じであると考えられる。比較例1-1及び1-2は、メソ細孔が粒子内部に存在しない中実の炭素担体を用いたため、線状体は炭素担体の表面にのみ存在する。比較例1-3はナノ粒子が炭素担体の表面に存在する。
【0090】
〔炭素担体の細孔径〕
窒素吸脱着等温線を解析することにより測定した。窒素吸脱着測定にはマイクロトラック・ベル株式会社製のガス吸着量測定装置「BELSORP-miniII」を用いた。炭素担体をマイクロトラック・ベル株式会社製の前処理装置「BELPREP-vacII」を用いて、真空中で、400℃、3時間加熱した。その後、「BELSORP-miniII」を用いて、液体窒素温度下(77K)で窒素吸脱着等温線を測定した。得られた吸着等温線を、BJH法を用いて解析し、2nm以上50nm以下における炭素担体のメソ細孔径を算出した。比較例1-1及び1-2で用いた炭素担体は、メソ細孔が粒子内部に存在しない中実の炭素担体であることから、表1中の記載を「-」とした。
【0091】
【表1】
【0092】
〔実施例2-1ないし2-6並びに比較例2-1ないし2-4〕
実施例1-1及び1-2並びに比較例1-1ないし1-3で得られた電極触媒を用い、以下の方法で酸素還元活性を評価した。
(1)インク製造工程
電極触媒1.4mg、純水1.6mL、2-プロパノール0.9mL及びアイオノマー(Nafionポリマー分散液 DE520)5μLを混合撹拌することで実施例2-1の触媒インクを調製した。撹拌は、氷浴中で2時間の超音波撹拌により行った。実施例2-2ないし2-6、並びに比較例2-1ないし2-4の触媒インクは、アイオノマーと炭素担体との質量比(I/C)の値が表2に記載の値となるように調製した。
【0093】
(2)薄膜電極形成工程
Glassy carbon(GC)電極を組み込んだ回転ディスク電極(RDE)チップを回転リングディスク電極(Pine Research社製、AFMSRCE)に取り付け、700rpmで回転させながら、調製した触媒インク20μLをGC電極上に滴下した。このときの金属担持量は17μg/cmであった。更に、乾燥を行うことで触媒をGC電極上に均一に固定した。その後、RDEチップからGC電極を一度取り出し、大気雰囲気下で145℃ 5分間の加熱処理を行った後、再びGC電極をRDEチップに組み込んだ。
【0094】
〔評価〕
回転ディスク電極法によって酸素還元活性を評価した。3電極式の電気化学セルを用いた。作用極としてグラッシーカーボン製ディスク電極を用い、対極として白金メッシュを用い、作用極として可逆水素電極を用いた。電解液として0.1mol/Lの過塩素酸水溶液を用い、室温で測定した。アルゴンガスを予めバブリングしながらサイクリックボルタンメトリーによる電位変動サイクルを施すことで電極表面をクリーニングし、水素の脱着波に基づき電気化学的活性表面積(ECSA)を算出した。その後、電解液中に酸素をバブリングして飽和させた後、液面に酸素をフローさせながら電極を回転させ、リニアスイープボルタンメトリーを行うことで、電位0.9Vにおける酸素還元活性を評価した。酸素還元活性値はKoutecky-Levichプロットから算出した。その結果を以下の表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示す結果から明らかなとおり、実施例2-1ないし2-6は、比較例2-1ないし2-4に比べて、高い触媒活性を示すことがわかる。
また、炭素担体のメソ細孔内に線状体が位置している電極触媒を用いた中では、メソ細孔内にイオン液体及び触媒金属である線状体が位置する実施例2-4は、メソ細孔内に触媒金属である線状体が位置するもののイオン液体が存在しない実施例2-2に比べ、特に高い触媒活性を示すことがわかる。この理由は、メソ細孔内にイオン液体が存在することで、アイオノマーによる電極触媒の被毒が抑制されたからだと考えられる。