(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146047
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】芽胞形成菌の殺芽胞方法
(51)【国際特許分類】
A01N 33/16 20060101AFI20241004BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241004BHJP
A01N 59/08 20060101ALI20241004BHJP
D21H 21/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A01N33/16
A01P3/00
A01N59/08 A
D21H21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058726
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤槻 薫麗
(72)【発明者】
【氏名】小谷 佐知
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幸典
【テーマコード(参考)】
4H011
4L055
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB04
4H011BB18
4L055AC09
4L055AG07
4L055AG34
4L055AG35
4L055AG37
4L055AH21
4L055FA20
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】 本開示は、紙パルプ製造工程等といった工業用水系において、芽胞形成菌の数を低減可能な方法及び組成物を提供する。
【解決手段】 本開示は、一態様として、工業用水系に、下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を存在させることを含む、芽胞形成菌の殺芽胞方法に関する(式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用水系に下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を存在させることを含む、芽胞形成菌の殺芽胞方法。
【化1】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
【請求項2】
前記工業用水系に、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素からなる群から選択される少なくとも一つをさらに存在させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記結合塩素及び結合臭素が、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、N-クロロスルファマート及びN-ブロモスルファマートからなる群から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記工業用水系が、紙パルプ製造工程におけるパルプスラリーである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
紙パルプ製造工程において、下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を添加することにより、芽胞形成菌を殺芽胞することを含む、紙パルプの製造方法。
【化2】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
【請求項6】
さらに、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素からなる群から選択される少なくとも一つを添加することを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記結合塩素及び結合臭素が、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、N-クロロスルファマート及びN-ブロモスルファマートからなる群から選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を含む、芽胞形成菌を殺芽胞するための工業用組成物。
【化3】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
【請求項9】
さらに、下記(1)~(8)からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項8記載の組成物。
(1)次亜塩素酸、
(2)次亜塩素酸塩、
(3)次亜臭素酸
(4)次亜臭素酸塩、
(5)結合塩素、
(6)結合臭素、
(7)次亜塩素酸塩及びアンモニウム化合物、又は次亜塩素酸塩及びスルファミン酸塩
(8)5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン、2-メチル-3-イソチアゾロン、1,2-ベンゾイソチアゾール、4,5-ジクロロ-2-オクチル-3-イソチアゾロン、メチレンビスチオシアネート(MBTC)、α-クロロベンズアルドキシム、α-クロロベンズアルドキシムアセテート、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソアセトヒドロキシモイルクロリド、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド、4,5-ジクロル-3H-1,2-ジオチ-ル-3-オン3,3,4,4-テトラクロロテトラヒドロチオフエン-1,1-ジオキシド、4,5-ジクロロ-3H-1,2-ジチオール-3-オン、ヘキサブロモジメチルスルホン、ムコブロム酸、ムコクロル酸、1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-ブテン、2-ブロモ(ブロモメチル)グルタロニトリル、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオールジアセテート、及び2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)からなる群から選択される工業用殺菌剤。
【請求項10】
紙パルプ製造工程において芽胞形成菌を殺芽胞するための工業用組成物である、請求項8又は9に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、芽胞形成菌を殺芽胞する方法及び芽胞形成菌を殺芽胞するための工業用組成物に関し、特に、紙パルプの製造工程において芽胞形成菌を殺芽胞し、紙製品中の芽胞形成菌の数を低減するための方法及びそれに用いる工業用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から紙パルプ製造工程をはじめとする各種工業用水系には、細菌や真菌等の有害な微生物が繁殖しやすく、その結果、生産品の品質低下や生産効率の低下などの問題を引き起こすことが知られている。このような微生物の繁殖を防止するために、様々な方法及び抗菌剤が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
一方、工業用水系に存在する微生物には、芽胞形成菌(有芽胞菌)が存在する場合がある。芽胞形成菌は、栄養や温度等といった環境が悪い状態に置かれたり、その細菌に対して毒性を示す化合物と接触したりすると、細菌細胞内部に芽胞(細菌胞子)と呼ばれる細胞構造を形成する。芽胞は、乾燥、高温、及び抗菌剤等の薬品に対して極めて強い抵抗性(耐久性)を有している。このため、抗菌剤や熱処理などの通常の細菌が死滅する殺菌処理をおこなっても死滅せずに生き残ることができる。また、その芽胞状態で生き残った芽胞形成菌は、再びその細菌の増殖に適した環境等に置かれると、芽胞が発芽して通常の増殖及び/又は代謝能を有する菌体が作られる。このため、芽胞形成菌は、生産品の品質低下や生産効率の低下といった問題を解決するためには大きな障害となる。
【0004】
芽胞形成菌の処理は、食品業界、医療・保健介護施設及びクリーニング施設において検討がなされている。例えば、オートクレーブのような高圧蒸気で処理する方法、極めて高い温度での処理、ガス滅菌、及びガンマ線滅菌などがある。また、その他には、次亜塩素酸ナトリウムや、微酸性次亜塩素酸水によって処理することも提案されている(例えば、非特許文献1)。またその他には、次亜塩素酸ナトリウムといったハロゲン系の酸化性殺菌剤と、ポリアルキレングアニジン化合物とを併用する方法も提案されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
しかしながら、高圧蒸気や極めて高い温度での処理、ガス滅菌、及びガンマ線滅菌は、工業用水系の処理に適用するのは現実的ではない。また、次亜塩素酸ナトリウム等の薬剤を用いた処理では、工業用水系における芽胞形成菌の数を十分に低減し、生産品の品質低下や生産効率の低下を抑制するには十分な効果が得られない場合がある。
よって、芽胞形成菌の殺芽胞効果の高い新たな方法及び薬剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-100945号公報
【特許文献2】特開平10-036202号公報
【特許文献3】特許第6361766号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】クリーニングと公衆衛生に関する研究報告書 第42巻、平成27年度、第34頁~第38頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、紙パルプ製造工程等といった工業用水系において、芽胞形成菌の数を低減可能な方法及び組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、一態様として、工業用水系に、下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を存在させることを含む、芽胞形成菌の殺芽胞方法に関する。
【化1】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
【0010】
本開示は、その他の態様として、工業用水系に、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物と、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素からなる群から選択される少なくとも一つとを存在させることを含む、芽胞形成菌の殺芽胞方法に関する。
【0011】
本開示は、さらにその他の態様として、紙パルプ製造工程において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を添加することにより、芽胞形成菌を殺芽胞することを含む、紙パルプの製造方法に関する。
【0012】
本開示は、さらにその他の態様として、紙パルプ製造工程において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物と、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素からなる群から選択される少なくとも一つとを添加することにより、芽胞形成菌を殺芽胞することを含む、紙パルプの製造方法に関する。
【0013】
本開示は、さらにその他の態様として、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を含む、芽胞形成菌を殺芽胞するための工業用組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、紙パルプ製造工程等といった工業用水系において、芽胞形成菌の数を低減可能な新たな方法及び組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、紙パルプ製造工程において存在しうる芽胞形成菌に、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を接触させることで、芽胞形成菌の数を低減できること、さらには芽胞形成菌を不活性化(殺滅)して、得られる製品に残存する芽胞形成菌の数を低減できうることを見出した。さらに、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物と、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素の少なくとも一つとを併用することによって、使用するグリオキシム化合物の量を低減しつつ、芽胞形成菌を不活性化して芽胞形成菌の数を低減することができることを見出した。
【0016】
本開示において「芽胞形成菌の殺芽胞」とは、芽胞形成菌の数を低減させることをいう。芽胞形成菌の殺芽胞としては、一又は複数の実施形態において、芽胞形成菌を不活性化及び/又は死滅させて、芽胞状態の芽胞形成菌が発芽できない状態とすること、つまり通常の増殖及び/又は代謝能を有する菌体を形成できない状態とすることを含みうる。「芽胞形成菌の殺芽胞」とは、一又は複数の実施形態において、実施例の記載の方法で測定される芽胞菌の数を低減させることをいう。
芽胞形成菌(有芽胞菌)としては、Bacillus(バチルス)属、Brevibacillus(ブレビバチルス)属、Caldibacillus(カルディバチルス)属、Alicyclobacillus属及びFredinandcohnia属等のBacillaceae(バシラス)科の細菌、並びにClostridium(クロストリジウム)属の細菌等が挙げられる。Brevibacillus(ブレビバチルス)属細菌であるBrevibacillus brevis NBRC 100599では、ペプチドグリカン層の外側を二層の結晶性表層(S-layer)が覆う三層構造を有していることが確認されている。
【0017】
芽胞形成菌の殺芽胞としては、一又は複数の実施形態において、上記する芽胞形成菌のうち少なくとも1つの芽胞形成菌に対して、24時間以内の処理で、少なくとも2対数(常用対数、以下同じ)オーダーの芽胞菌数の減少を提供することが挙げられ、好ましくは、24時間以内の処理で、少なくとも3対数オーダーの芽胞菌数の減少、少なくとも4対数オーダーの芽胞菌数の減少、又は少なくとも5対数オーダーの芽胞菌数の減少を提供することが挙げられる。
【0018】
本開示において「工業用水系に化合物を存在させることとしては、一又は複数の実施形態において、工業用水系に化合物を添加及び/又は接触させること等が挙げられる。
【0019】
本開示における「工業用水系」としては、一又は複数の実施形態において、紙パルプ製造工程における製紙工程水系、ならびに各種工場における工業用の冷却水及び洗浄水等が挙げられる。工場としては、一又は複数の実施形態において、製紙工場、並びに、使用済みのプラスチック、繊維及び紙等に由来するリサイクル原料(リサイクル材)の製造工場等が挙げられる。
リサイクル原料の製造工場の工業用水系としては、一又は複数の実施形態において、使用済みのプラスチック、繊維及び紙等から調製される原料スラリーが挙げられる。リサイクル原料の製造工場では、一又は複数の実施形態において、これらの原料スラリーから製紙用のパルプマットやパルプシート等が製造される。
工業用水系は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、生菌数が1×105個以上又は1×106個以上である工業用水が挙げられる。その他の限定されない一又は複数の実施形態において、生菌数が1×103個程度である食品工場や紙コップ等の食品用途製品の工場の工業用水が挙げられる。生菌数は、工業用水系に含まれる細菌及び真菌の数の合計であって、生菌数は、標準寒天培地を用いた混釈培養法を用いて測定できる。
本開示における「製紙工程水系」としては、一又は複数の実施形態において、パルプスラリー及び白水をはじめ、原質系、原料調成系、白水循環系及び白水回収系といった循環水系の工程水、及び水循環工程水系に供給される工業用水や再利用水を含みうる。
【0020】
パルプとしては、一又は複数の実施形態において、晒化学パルプ、未晒化学パルプ、晒機械パルプ、未晒機械パルプ、古紙パルプ(DIP)及びブロークパルプ等が挙げられる。晒化学パルプ及び未晒化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)及びサルファイトパルプ(SP)等が挙げられる。晒機械パルプ及び未晒機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP)等が挙げられる。
【0021】
紙パルプ製造工程としては、一又は複数の実施形態において、原質工程(パルプ化工程)、原料調成工程、抄紙工程、白水循環系及び白水回収工程を包含するパルプ/紙を製造する工程を意味し、さらには、抄紙マシンにおいてワイヤーパートやプレスパートから排出される水溶液(いわゆる「白水」)の回収系及び再利用系までを含めた水循環工程全体を含みうる。
【0022】
[殺芽胞方法]
本開示は、一態様として、工業用水系に下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を存在させることを含む、芽胞形成菌の殺芽胞方法に関する。本開示の殺芽胞方法によれば、一又は複数の実施形態において、工業用水系中の芽胞形成菌の数を低減することができ、好ましくは工業用水系に存在しうる芽胞形成菌を不活性化(殺滅)して、得られる製品に残存する芽胞形成菌の数を低減することができうる。よって、本開示は、その他の態様として、工業用水系に下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を存在させることを含む、工業用水系における芽胞形成菌の数を低減する方法を含みうる。
【化2】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
【0023】
式(I)で表されるグリオキシム化合物としては、一又は複数の実施形態において、ジクロログリオキシム(ジヒドロキシエタンジイミドイルジクロリド、X=塩素原子)、及びモノクロログリオキシム(ジヒドロキシエタンジイミドイルクロリド、X=水素原子)が挙げられる。グリオキシム化合物は、工業用原料として一般に市販されているものも使用することができる。
【0024】
工業用水系におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、工業用水系の水質、生菌数及び/又は含まれる成分等に応じて適宜決定することができる。
工業用水系におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、5mg/L以上である。グリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、6mg/L以上、8mg/L以上、10mg/L以上、20mg/L以上、30mg/L以上、又は50mg/L以上である。グリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、120mg/L以下、100mg/L以下、80mg/L以下、70mg/L以下、60mg/L以下、又50mg/L以下である。
工業用水系がパルプスラリーであって、その固形分(絶乾パルプ重量)が4重量%である場合、工業用水系におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して100mg/kg以上である。当該態様におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して125mg/kg以上、150mg/kg以上、200mg/kg以上、250mg/kg以上、500mg/kg以上、750mg/kg以上、900mg/kg以上、又は1250mg/kg以上である。また、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して3000mg/kg以下、2500mg/kg以下、2000mg/kg以下、1800mg/kg以下、1750mg/kg以下、500mg/kg以下、又は1250mg/kg以下である。
【0025】
本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、工業用水系におけるグリオキシム化合物の濃度が上記濃度となるように、工業用水系に式(I)で表されるグリオキシム化合物を添加することを含んでいてもよい。式(I)で表されるグリオキシム化合物の添加は、一又は複数の実施形態において、連続的又は間欠的に行うことができる。
【0026】
本開示の殺芽胞方法は、グリオキシム化合物の使用量を低減でき、処理に要するコストを低減する観点から、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物に加えて、ハロゲン系殺菌成分を工業用水系に存在させることを含んでいてもよい。ハロゲン系殺菌剤としては、無機ハロゲン系殺菌成分が好ましく、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素等が挙げられる。設備腐食抑制の観点から、結合塩素が好ましい。
【0027】
上記式(I)で表されるグリオキシム化合物とハロゲン系殺菌剤とは、一又は複数の実施形態において、同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。上記式(I)で表されるグリオキシム化合物とハロゲン系殺菌剤とは、一又は複数の実施形態において、同じ場所に添加してもよいし、異なる場所に添加してもよい。式(I)で表されるグリオキシム化合物及びハロゲン系殺菌剤の添加は、一又は複数の実施形態において、連続的又は間欠的に行うことができる。
【0028】
ハロゲン系殺菌剤と併用する場合の工業用水系におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、50mg/L以下である。グリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、5mg/L以上、10mg/L以上、又は15mg/L以上である。また、一又は複数の実施形態において、40mg/L以下、30mg/L以下、25mg/L以下、又は20mg/L以下である。
工業用水系がパルプスラリーであって、ハロゲン系殺菌剤と併用する場合の工業用水系におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して1250mg/kg以下である。当該態様におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して125mg/kg以上、250mg/kg以上、又は375mg/kg以上である。また、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して1000mg/kg以下、750mg/kg以下、625mg/kg以下、又500mg/kg以下である。
【0029】
本開示において「結合塩素」とは、安定化塩素とも言い、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、N-クロロスルファマート等が挙げられ、芽胞形成菌の殺芽胞の向上の観点から、モノクロラミンが好ましい。
本開示において「結合臭素」とは、安定化臭素とも言い、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、N-ブロモスルファマート等が挙げられ、芽胞形成菌の殺芽胞の向上の観点から、モノブロマミンが好ましい。
【0030】
本開示において「モノクロラミン」とは、結合塩素(結合型残留塩素)の一種であって、NH2Clで表される化合物(アンモニアの水素原子のうち1つを塩素原子で置き換えた化合物)をいう。本開示において「モノブロマミン」とは、結合臭素の一種であって、NH2Brで表される化合物(アンモニアの水素原子のうち1つを臭素原子で置き換えた化合物)をいう。モノクロラミン及びモノブロマミンは、OCl-(Br-)+NH4
+→NH2Cl(Br)+H2Oのような反応で生成される。一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸塩とアンモニウム化合物とを混合することによりモノクロラミンを生成できる。次亜塩素酸塩としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム及び次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。アンモニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及び硝酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。次亜塩素酸塩とアンモニウム化合物とのモル比は、一又は複数の実施形態において、全残留塩素量と窒素とのモル比として、1:1~1:2、1:1.1~1:2、1:1.2~1:2、又は1:1.2~1:1.6である。
【0031】
工業用水系におけるハロゲン系殺菌剤の濃度(複数の薬剤を使用する場合はその合計の濃度)は、有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、10mg/L以上、15mg/L以上、20mg/L以上、30mg/L以上、40mg/L以上、50mg/L以上、70mg/L以上、90mg/L以上、100mg/L以上、120mg/L以上、150mg/L以上、200mg/L以上、250mg/L以上、300mg/L以上、又は400mg/L以上が挙げられる。ハロゲン系殺菌剤の濃度は、一又は複数の実施形態において、600mg/L以下、500mg/L以下、400mg/L以下、300mg/L以下、280mg/L以下、250mg/L以下、又は200mg/L以下である。
工業用水系がパルプスラリーである場合におけるハロゲン系殺菌剤の濃度(複数の薬剤を使用する場合はその合計の濃度)は、固形分(絶乾パルプ重量)に対する有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、250ppm以上、375ppm以上、500ppm以上、750ppm以上、1000ppm以上、1250ppm以上、1750ppm以上、2250ppm以上、2500ppm以上、3000ppm以上、3750ppm以上、5000ppm以上、6250ppm以上、7500ppm以上、又は10000ppm以上が挙げられる。ハロゲン系殺菌剤の濃度は、固形分(絶乾パルプ重量)に対する有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、15000ppm以下、12500ppm以下、10000ppm以下、7500ppm以下、7000ppm以下、6250ppm以下、又は5000ppm以下である。
本開示において、有効塩素は、実施例の記載の方法により測定できる。
【0032】
本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、ハロゲン系殺菌剤の濃度が上記濃度となるように、工業用水系にハロゲン系殺菌剤を添加することを含んでもよい。添加は、一又は複数の実施形態において、連続的又は間欠的に行うことができる。
【0033】
本開示の殺芽胞方法は、グリオキシム化合物の使用量を低減でき、処理に要するコストを低減する観点から、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物に加えて、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物及びハロゲン系殺菌成分以外の他の工業用抗菌成分を工業用水系に存在させることを含んでいてもよい。他の工業用抗菌成分としては、一又は複数の実施形態において、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン、2-メチル-3-イソチアゾロン、1,2-ベンゾイソチアゾール、4,5-ジクロロ-2-オクチル-3-イソチアゾロン、メチレンビスチオシアネート(MBTC)、α-クロロベンズアルドキシム、α-クロロベンズアルドキシムアセテート、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソアセトヒドロキシモイルクロリド、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド、4,5-ジクロル-3H-1,2-ジオチ-ル-3-オン3,3,4,4-テトラクロロテトラヒドロチオフエン-1,1-ジオキシド、4,5-ジクロロ-3H-1,2-ジチオール-3-オン、ヘキサブロモジメチルスルホン、ムコブロム酸、ムコクロル酸、1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-ブテン、2-ブロモ(ブロモメチル)グルタロニトリル、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオールジアセテート、及び2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)等が挙げられる。
【0034】
上記式(I)で表されるグリオキシム化合物及び他の工業用抗菌成分は、一又は複数の実施形態において、同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。上記式(I)で表されるグリオキシム化合物及び他の工業用抗菌成分は、一又は複数の実施形態において、同じ場所に添加してもよいし、異なる場所に添加してもよい。式(I)で表されるグリオキシム化合物及び他の工業用抗菌成分の添加は、一又は複数の実施形態において、連続的又は間欠的に行うことができる。
【0035】
上記式(I)で表されるグリオキシム化合物、ハロゲン系殺菌剤及び他の工業用抗菌成分を併用する場合、これらは、一又は複数の実施形態において、同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。上記式(I)で表されるグリオキシム化合物、ハロゲン系殺菌剤及び他の工業用抗菌成分は、一又は複数の実施形態において、同じ場所に添加してもよいし、異なる場所に添加してもよい。式(I)で表されるグリオキシム化合物、ハロゲン系殺菌剤及び他の工業用抗菌成分の添加は、一又は複数の実施形態において、連続的又は間欠的に行うことができる。
【0036】
本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、処理対象である工業用水系中の芽胞形成菌の数を計測することを含んでいてもよい。芽胞形成菌の数の計測は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0037】
本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、工業用水系に上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を0.25時間以上存在させることを含む。本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、工業用水系に、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物及び上記ハロゲン系殺菌剤を0.25時間以上存在させることを含む。
当該時間は、一又は複数の実施形態において、0.25時間以上、0.5時間以上、0.75時間以上、1時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、20時間以上又は24時間以上である。また、当該時間は、一又は複数の実施形態において、1日以下、20時間以下、12時間以下、6時間以下、3時間以下、2時間以下又は1時間以下である。処理時間は、一又は複数の実施形態において、0.25時間~1日であり、上限下限は上記から選択できる。
【0038】
本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を工業用水系に存在させることにより、24時間以内の処理で、上述する芽胞形成菌のうち少なくとも1つの芽胞形成菌を、少なくとも2対数オーダーの芽胞菌数の減少させることを含む。本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、24時間以内の処理で、少なくとも3対数オーダーの芽胞菌数の減少、少なくとも4対数オーダーの芽胞菌数の減少、又は少なくとも5対数オーダーの芽胞菌数の減少させることを含みうる。
本開示の殺芽胞方法は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を工業用水系に存在させることにより、24時間以内の処理で、当該工業用水系に存在する上述する芽胞形成菌のうち少なくとも1つの芽胞形成菌の数を、1×102未満まで減少させることができうる。
【0039】
本開示の殺芽胞方法における処理温度(工業用水系の温度)は、一又は複数の実施形態において、室温であってよく、或いは25℃~50℃である。
【0040】
本開示の殺芽胞方法において、上記薬剤を存在させた後の工業用水系のpHは、一又は複数の実施形態において、pH5.5~pH8.5である。pHは、実施例に記載の方法により測定できる。
【0041】
[紙パルプの製造方法]
本開示は、さらにその他の態様として、紙パルプ製造工程において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を添加することにより、芽胞形成菌を殺芽胞することを含む紙パルプの製造方法に関する。本開示の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、工業用水系中の芽胞形成菌の数を低減することができ、好ましくは工業用水系に存在しうる芽胞形成菌を不活性化(殺滅)し、得られる紙パルプ製品に残存する芽胞形成菌の数を低減することができうる。
【0042】
グリオキシム化合物の添加濃度は、一又は複数の実施形態において、パルプ製造工程における工業用水系(例えば、パルプスラリー)中の固形分(絶乾パルプ重量)等に応じて適宜決定することができる。
グリオキシム化合物の添加濃度は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)に対して100mg/kg以上である。当該態様におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して125mg/kg以上、150mg/kg以上、200mg/kg以上、250mg/kg以上、500mg/kg以上、750mg/kg以上、900mg/kg以上、又は1250mg/kg以上である。また、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して3000mg/kg以下、2500mg/kg以下、2000mg/kg以下、1800mg/kg以下、1750mg/kg以下、1500mg/kg以下、又は1250mg/kg以下である。
【0043】
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、グリオキシム化合物をパルプスラリーに存在させることを含む。本開示の紙パルプの製造方法において、グリオキシム化合物をパルプスラリーに存在させる時間、すなわち処理時間は、一又は複数の実施形態において、0.25時間以上、0.5時間以上、0.75時間以上、1時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、又は20時間以上であり、30時間以下、25時間以下、20時間以下、12時間以下、6時間以下、3時間以下、又は2時間以下である。処理時間は、一又は複数の実施形態において、0.25時間~30時間であり、上限下限は上記から選択できる。
【0044】
グリオキシム化合物を存在させるパルプスラリーの温度は、一又は複数の実施形態において、室温であってよく、室温であってよく、或いは25℃~50℃である。
【0045】
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、処理対象であるパルプスラリー中の芽胞形成菌の数を計測することを含んでいてもよい。芽胞形成菌の数の計測は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0046】
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を、離解機(パルパー)に添加することもしくは離解機工程前にタンク等を設け前処理を実施することを含んでいてもよい。芽胞形成菌は、一又は複数の実施形態において、パルパーに投入されるパルプ原料(例えば、パルプシート)とともに紙パルプ製造工程に持ち込まれる場合があり、パルプ原料は乾燥状態であることが多いため芽胞を形成しうる。このため、離解機(パルパー)もしくはその前段で処理することにより、後段の工程への芽胞形成菌の持ち込み及び/又は後段の工程に芽胞形成菌が拡散することを低減することができる。
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を、上記濃度となるように原料に添加することを含みうる。
【0047】
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーに、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を存在させることを含む。
【0048】
芽胞形成菌は、一又は複数の実施形態において、添加される糊に混入している場合もある。このため、薬剤を添加する箇所は上記離解機(パルパー)に限られず、一又は複数の実施形態において、マシンチェスト、ミキシングチェスト、原料パルプチェスト及び種箱、白水等が挙げられる。
【0049】
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を、パルプスラリーの形成に用いるパルプ原料と接触させることを含んでいてもよい。本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリー中の上記式(I)で表されるグリオキシム化合物の濃度が上記濃度となるように、当該化合物を、パルプスラリーの形成に用いるパルプ原料と接触させることを含みうる。
パルプ原料としては、一又は複数の実施形態において、木材チップ、パルプシート(乾燥パルプ)、及び古紙等が挙げられる。
【0050】
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、紙パルプ製造工程において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物に加えて、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素からなる群から選択される少なくとも一つのハロゲン系殺菌剤、及び/又は他の工業用抗菌成分を添加することを含む。結合塩素、結合臭素、及び他の工業用抗菌成分については、上記のとおりである。
【0051】
ハロゲン系殺菌剤は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物と同じ場所に添加してもよいし、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物の添加箇所とは異なる場所に添加してもよい。
【0052】
ハロゲン系殺菌剤及び/又は他の工業用抗菌成分と併用する場合のグリオキシム化合物の添加濃度は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)に対して1250mg/kg以下である。当該態様におけるグリオキシム化合物の濃度は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)に対して125mg/kg以上、250mg/kg以上、又は375mg/kg以上である。また、一又は複数の実施形態において、固形分(絶乾パルプ重量)に対して1000mg/kg以下、750mg/kg以下、625mg/kg以下、又500mg/kg以下である。
【0053】
ハロゲン系殺菌剤の添加濃度(複数の薬剤を使用する場合はその合計の濃度)は、有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)に対する有効塩素濃度換算値として、250ppm~15000ppmである。ハロゲン系殺菌剤の添加濃度は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ重量)に対する有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、250ppm以上、375ppm以上、500ppm以上、750ppm以上、1000ppm以上、1250ppm以上、1750ppm以上、2250ppm以上、2500ppm以上、3000ppm以上、3750ppm以上、5000ppm以上、6250ppm以上、7500ppm以上、又は10000ppm以上が挙げられる。ハロゲン系殺菌剤の濃度は、パルプスラリーの固形(絶乾パルプ重量)に対する有効塩素濃度換算値として、一又は複数の実施形態において、15000ppm以下、12500ppm以下、10000ppm以下、7500ppm以下、7000ppm以下、6250ppm以下、又は5000ppm以下である。
【0054】
本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物及びハロゲン系殺菌剤を、離解機(パルパー)もしくは離解機工程前タンク等に添加することを含んでいてもよい。また、本開示の紙パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物及びハロゲン系殺菌剤を、上記濃度となるように離解機(パルパー)もしくは離解機工程前タンク等に添加することを含みうる。添加箇所は、上記離解機(パルパー)に限られず、一又は複数の実施形態において、マシンチェスト、ミキシングチェスト、原料パルプチェスト、種箱、及び白水等が挙げられる。
【0055】
本開示の製造方法における処理温度、処理時間及び添加方法等は、本開示の殺芽胞方法と同様に行うことができる。
【0056】
「殺芽胞するための工業用組成物」
本開示は、さらにその他の態様として、上記式(I)で表されるグリオキシム化合物を含む、芽胞形成菌を殺芽胞するための工業用組成物に関する。本開示の工業用組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示の殺芽胞方法及び本開示の紙パルプの製造方法に用いることができる。
【0057】
本開示の工業用組成物は、一又は複数の実施形態において、下記(1)~(8)からなる群から選択される少なくとも一つを含むさらに含む。
(1)次亜塩素酸、
(2)次亜塩素酸塩、
(3)次亜臭素酸
(4)次亜臭素酸塩、
(5)結合塩素、
(6)結合臭素、
(7)次亜塩素酸塩及びアンモニウム化合物、又は次亜塩素酸塩及びスルファミン酸
(8)5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン、2-メチル-3-イソチアゾロン、1,2-ベンゾイソチアゾール、4,5-ジクロロ-2-オクチル-3-イソチアゾロン、メチレンビスチオシアネート(MBTC)、α-クロロベンズアルドキシム、α-クロロベンズアルドキシムアセテート、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソアセトヒドロキシモイルクロリド、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド、4,5-ジクロル-3H-1,2-ジオチ-ル-3-オン3,3,4,4-テトラクロロテトラヒドロチオフエン-1,1-ジオキシド、4,5-ジクロロ-3H-1,2-ジチオール-3-オン、ヘキサブロモジメチルスルホン、ムコブロム酸、ムコクロル酸、1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-ブテン、2-ブロモ(ブロモメチル)グルタロニトリル、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオールジアセテート、及び2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)からなる群から選択される工業用殺菌剤。
【0058】
本開示の工業用組成物における上記式(I)で表されるグリオキシム化合物の含有量は、一又は複数の実施形態において、0.1重量~50重量%である。グリオキシム化合物の含有量は、一又は複数の実施形態において、0.5重量%以上、1重量%以上、3重量%以上、5重量%以上、7重量%以上、又は10重量%以上である。グリオキシム化合物の含有量は、一又は複数の実施形態において、50重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下又は20重量%以下である。
【0059】
本開示の工業用組成物における(1)~(8)の薬剤の含有量(複数の薬剤を使用する場合はその合計の含有量)は、一又は複数の実施形態において、12重量%~45重量%である。(1)~(8)の薬剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、12重量%以上、又は24重量%以上である。(1)~(8)の薬剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、45重量%以下、又は38重量%以下である。
【0060】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 工業用水系に下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を存在させることを含む、芽胞形成菌の殺芽胞方法。
【化3】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
[2] 前記工業用水系に、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素からなる群から選択される少なくとも一つをさらに存在させることを含む、[1]記載の方法。
[3] 前記結合塩素及び結合臭素が、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、N-クロロスルファマート及びN-ブロモスルファマートからなる群から選択される、[2]記載の方法。
[4] 前記工業用水系が、紙パルプ製造工程におけるパルプスラリーである、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 紙パルプ製造工程において、下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を添加することにより、芽胞形成菌を殺芽胞することを含む、紙パルプの製造方法。
【化4】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
[6] さらに、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸、次亜臭素酸塩、結合塩素及び結合臭素からなる群から選択される少なくとも一つを添加することを含む、[5]記載の方法。
[7] 前記結合塩素及び結合臭素が、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、モノブロマミン、ジブロマミン、トリブロマミン、N-クロロスルファマート及びN-ブロモスルファマートからなる群から選択される、[6]記載の方法。
[8] 下記式(I)で表されるグリオキシム化合物を含む、芽胞形成菌を殺芽胞するための工業用組成物。
【化5】
上記式(I)において、Xは水素原子又は塩素原子である。
[9] さらに、下記(1)~(8)からなる群から選択される少なくとも一つを含む、[8]記載の組成物。
(1)次亜塩素酸、
(2)次亜塩素酸塩、
(3)次亜臭素酸
(4)次亜臭素酸塩、
(5)結合塩素、
(6)結合臭素、
(7)次亜塩素酸塩及びアンモニウム化合物、又は次亜塩素酸塩及びスルファミン酸
(8)5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン、2-メチル-3-イソチアゾロン、1,2-ベンゾイソチアゾール、4,5-ジクロロ-2-オクチル-3-イソチアゾロン、メチレンビスチオシアネート(MBTC)、α-クロロベンズアルドキシム、α-クロロベンズアルドキシムアセテート、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソアセトヒドロキシモイルクロリド、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド、4,5-ジクロル-3H-1,2-ジオチ-ル-3-オン3,3,4,4-テトラクロロテトラヒドロチオフエン-1,1-ジオキシド、4,5-ジクロロ-3H-1,2-ジチオール-3-オン、ヘキサブロモジメチルスルホン、ムコブロム酸、ムコクロル酸、1,4-ビス(ブロモアセトキシ)-2-ブテン、2-ブロモ(ブロモメチル)グルタロニトリル、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオールジアセテート、及び2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール(DBNE)からなる群から選択される工業用殺菌剤。
[10] 紙パルプ製造工程において芽胞形成菌を殺芽胞するための工業用組成物である、[8]又は[9]に記載の組成物。
【0061】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0062】
[試験用試料の調製]
含水量10%以下の古紙パルプ原料を、滅菌水にて固形分濃度が4重量%となるように調整したものを試料とした。
[芽胞菌の確認]
試料に含まれる細菌が芽胞形成菌(細菌胞子)であることは、顕微鏡観察により確認した。調製した試験用試料の芽胞形成菌の数は、1x105(1x10^5)CFU/ml以上であった。なお、観察された芽胞形成菌は、菌体の特徴からBrevibacillus属であると推測される。
【0063】
[芽胞形成菌の測定方法]
4重量%(固形分濃度)に調整した試料を0.85%生理食塩水(滅菌)にて103~107倍希釈し1mlをシャーレに量りとり、標準寒天培地(ニッスイ製)にて混釈培養法で30℃、48時間培養しシャーレ上に観察される菌数(コロニー)をカウントした。
【0064】
[薬剤]
下記の実施例及び比較例では下記の薬剤を使用した。
DCG:ジクロログリオキシム(オキサロヒドロキシモイルクロリド)
MBTC:メチレンビスチオシアネート
DBNPA:2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド
DBNE:2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール
NaClO:次亜塩素酸
NH2Cl:モノクロラミン
【0065】
[モノクロラミン水溶液の調製]
モノクロラミン水溶液は次亜塩素酸塩とアンモニウム化合物を用いて、有効塩素量と窒素とのモル比が1:1となるように混合し作成した。
【0066】
[有効塩素の測定方法]
有効塩素は、DPD法残留塩素計DP-3F(笠原理化工業株式会社製)を用いてDPD試薬発色による吸光光度法を測定し、全塩素濃度を測定した。
【0067】
[pHの測定方法]
pHはガラス電極法により測定した。測定装置は、卓上型pHメーター(Navi:HORIBA社製)を使用し、約25℃のパルプスラリーのpHをオートモードにて測定した。
【0068】
[殺芽胞試験]
乾燥パルプ(含水量10%以下の古紙パルプ原料)を量り取り滅菌水を用いて4重量%パルプスラリー(pH7.2)を作成した。パルプスラリーはスリーワンモーターにて800rpmで10分間攪拌しパルプを分散させた。次いで、得られたパルプスラリー(試料)をポリ容器に25~50gずつ量り取り、薬剤を添加して十分攪拌を行った後、室温(24℃)で処理を行った。
【0069】
(実施例1)
試料に含まれるパルプの重量(g)当たりのDCG濃度(ppm(mg/kg))が下記表1に示す濃度となるように、DCG水溶液を試料(パルプスラリー)に添加し、上記の殺芽胞試験にしたがって試験を行った。その結果を下記表1に示す。表1のpHは、薬剤添加後の試料のpHである。
【0070】
(比較例1)
試料に含まれるパルプの重量(g)当たりのNaClO濃度が下記表1に示す濃度となるように、NaClO水溶液を試料(パルプスラリー)に添加し、実施例1と同様に試験を行った。その結果を下記表1に示す。下記表1に示すNaClO濃度は、上記の測定方法により得られた有効塩素換算濃度(ppm)である。
【表1】
【0071】
上記表1に示すように、NaClOでは、添加濃度に関わらず、試料中の芽胞形成菌を十分に殺芽胞することができなかった。これに対し、上記表1に示すように、DCGは、試料に存在する芽胞形成菌の数を1×102CFU/ml未満にまで低減することができ、芽胞形成菌を殺芽胞することができた。
さらに、DCGを使用した実施例では、薬剤添加から24時間経過後も、芽胞形成菌の数の増加はほとんど見られず1×102CFU/ml以下の低いレベルで維持することができた。
【0072】
(実施例2)
DCGの濃度が試料に含まれるパルプの重量(g)当たり下記表2に示す濃度(ppm(mg/kg))となるように、DCG水溶液を試料(パルプスラリー)に添加し、実施例1と同様に試験を行った。その結果を下記表2に示す。
【0073】
(比較例2)
DBNPAの濃度が試料に含まれるパルプの重量(g)当たり下記表2に示す濃度となるように、DBNPA水溶液を試料(パルプスラリー)に添加し、実施例2と同様に試験を行った。その結果を下記表2に示す。
【0074】
(比較例3)
DBNPA及びDBNEのそれぞれの濃度が、試料に含まれるパルプの重量(g)当たり下記表2に示す濃度となるように、DBNPA及びDBNE含有水溶液を試料(パルプスラリー)に添加し、実施例2と同様に試験を行った。その結果を下記表2に示す。
【0075】
(比較例4)
DBNPA及びMBTCのそれぞれの濃度が、試料に含まれるパルプの重量(g)当たり下記4に示す濃度となるよう、DBNPA及びMBTC含有水溶液を試料(パルプスラリー)に添加し、実施例2と同様に試験を行った。その結果を下記表2に示す。
【0076】
【0077】
上記表2に示すように、公知の殺菌剤(比較例2~4)では添加濃度に関わらず、試料中の芽胞形成菌を十分に殺芽胞することができなかった。これに対し、実施例2-1及び2-2に示すように、DCGを使用することにより、芽胞形成菌を殺芽胞することができた。
【0078】
(実施例3)
薬剤としてDCG水溶液とモノクロラミン水溶液とを用い、実施例1と同様に試験を行った。薬剤はDCG及びモノクロラミンのそれぞれの濃度が下記表3に示す濃度となるように添加した。その結果を下記表3に示す。
【表3】
【0079】
上記表3に示すように、DCGとモノクロラミンとを併用することにより、DCG濃度が750ppm(mg/kg)と少ない濃度で、芽胞形成菌を殺芽胞することができた。
【0080】
(実施例4)
薬剤としてDCG水溶液とモノクロラミン水溶液とを用い、実施例1と同様に試験を行った。薬剤はDCG及びモノクロラミンのそれぞれの濃度が下記表4に示す濃度となるように添加した。その結果を下記表4に示す。
【表4】
【0081】
上記表4に示すように、DCGとモノクロラミンとを併用して24時間の処理を行うことにより、DCG濃度が150ppm(mg/kg)と極めて低濃度で、芽胞形成菌を殺芽胞することができた。
【0082】
(実施例5)
薬剤としてDCG水溶液とNaClOとを用い、実施例1と同様に試験を行った。薬剤は、DCG及びNaClOのそれぞれの濃度が、試料に含まれるパルプの重量(g)当たり下記表5に示す濃度(ppm(mg/kg))となるように添加した。その結果を下記表5に示す。
【表5】
【0083】
上記表5に示すように、DCGとNaClOとを併用することにより、DCGの濃度が750ppm(mg/kg)と少ない濃度で、芽胞形成菌を殺芽胞することができ、優れた殺芽胞効果が得られた。