(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146054
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】眼鏡レンズおよび眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02C 7/00 20060101AFI20241004BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20241004BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G02C7/00
G02B5/26
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058744
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和敬
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA02
2H006BA03
2H148FA09
2H148FA15
2H148FA22
2H148FA24
2H148GA09
2H148GA23
2H148GA24
2H148GA32
2H148GA61
(57)【要約】
【課題】装用感が良好な眼鏡レンズを提供すること。
【解決手段】レンズ基材と、上記レンズ基材の物体側表面上および物体側表面上にそれぞれ位置する多層膜と、を含み、眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上であり、かつ眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.60%以下である眼鏡レンズ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、前記レンズ基材の物体側表面上および物体側表面上にそれぞれ位置する多層膜と、を含み、
眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上であり、かつ
眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.60%以下である眼鏡レンズ。
【請求項2】
眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上5.0%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上3.0%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.50%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.40%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上3.0%以下であり、かつ眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.40%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズおよび眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、一般に、レンズ基材の表面上に、眼鏡レンズに所望の機能をもたらすための機能性膜を形成することにより製造される。そのような機能性膜として、レンズ基材の表面上に多層膜を設けることが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、眼鏡レンズの市場では、各種機能を特徴とする様々な製品が提案され、販売されている。市場における付加価値がより高い眼鏡レンズを提供するために望ましい事項としては、眼鏡レンズの装用感が良好であることが挙げられる。
【0005】
本発明の一態様は、装用感が良好な眼鏡レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
眼鏡レンズの装用感が良好であることの具体例としては、眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者が眩しさを感じ難いことを挙げることができ、眼鏡の装用者がゴースト(多重像)および/またはフレア(光源およびその周辺が白く曇った像として見える現象)を感じ難いことを挙げることもできる。本発明者は鋭意検討を重ねた結果、レンズ基材と、上記レンズ基材の物体側表面上および物体側表面上にそれぞれ位置する多層膜と、を含み、眼鏡レンズの物体側表面の波長600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上であり、かつ眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.60%以下である眼鏡レンズは、この眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者が、ゴーストやフレアを感じ難く、かつ夕方に眩しさを感じ難いことを新たに見出した。
【0007】
即ち、本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]レンズ基材と、上記レンズ基材の物体側表面上および物体側表面上にそれぞれ位置する多層膜と、を含み、
眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上であり、かつ
眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.60%以下である眼鏡レンズ。
[2]眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上5.0%以下である、[1]に記載の眼鏡レンズ。
[3]眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上3.0%以下である、[1]または[2]に記載の眼鏡レンズ。
[4]眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.50%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[5]眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.40%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[6]眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上3.0%以下であり、かつ眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.40%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、装用感が良好な眼鏡レンズを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例および比較例の眼鏡レンズの装用感評価時の眼鏡装用者(被験者)と太陽との配置図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明および本明細書における用語の定義および/または測定方法を、以下に説明する。
【0011】
「物体側表面」とは、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面である。「眼球側表面」とは、その反対側の表面、即ち、眼鏡レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。
【0012】
眼鏡レンズの表面について測定される反射率は、その表面に向かって直入射する光に対する反射率である。反射率の測定は、例えば1~5nmピッチで行うことができる。また、ある波長領域における平均反射率とは、その波長領域において求められた反射率の算術平均である。したがって、眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率は、600~780nmの波長領域において求められた反射率の算術平均である。測定対象表面に入射する光の入射角度に関して、直入射光の入射角度は、厳密には0°である。ただし、測定光学系の観点から、反射率測定器によっては入射角度0°~5°程度の入射光を直入射光として用いている場合もある。そのような場合も本発明および本明細書における「直入射」に包含されるものとする。また、反射率測定器によっては、測定対象表面と対向する表面との間の多重反射の影響を受ける場合があり得る。そのような場合は、光線を吸収または散乱させるための処理(例えば黒塗り処理等)を対向する表面に施すことによって多重反射を抑制してもよい。
【0013】
「視感反射率Rv」は、JIS T 7334:2011にしたがい測定される値である。眼鏡レンズの眼球側表面について測定される視感反射率Rvは、その表面に向かって直入射する光について求められる視感反射率である。直入射光については、先に記載した通りである。
【0014】
本明細書に記載の「膜厚」は、物理膜厚である。膜厚は、公知の膜厚測定法によって求めることができる。例えば膜厚は、光学式膜厚測定器によって測定された光学膜厚を物理膜厚に換算することにより求めることができる。
【0015】
[眼鏡レンズ]
以下、本発明の一態様にかかる眼鏡レンズについて更に詳細に説明する。
【0016】
<眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率>
上記眼鏡レンズでは、眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率が1.9%以上である。日中の散乱光は可視光の中でも短波長の光が支配的である。これに対し、夕日は長波長の光が支配的であるため、その散乱光も長波長の光が支配的である。上記眼鏡レンズの物体側表面では、可視光の中の長波長の光に対する平均反射率が1.9%以上と高いため、この眼鏡レンズを備えた眼鏡の装用者が夕方に夕日の散乱光を眩しいと感じる程度を低減することができる。眼鏡装用者が夕方に感じる眩しさを更に低減する観点からは、上記眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率は、2.0%以上であることが好ましく、2.1%以上であることがより好ましい。また、上記眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率は、例えば、5.0%以下、4.5%以下、4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下、2.9%以下または2.8%以下であることができる。ただし、上記平均反射率が高いほど、眼鏡装用者が夕方に感じる眩しさをより一層低減できるため、上記平均反射率は上記範囲を上回ってもよい。
【0017】
上記眼鏡レンズにおいて、眼球側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率は、上記範囲内であってもよく、上記範囲外であってもよい。
【0018】
<眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rv>
更に、上記眼鏡レンズでは、眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvは0.60%以下である。このように眼鏡レンズの眼球側表面が低反射表面であることは、眼鏡の装用者がゴーストやフレアを感じ難くなることに寄与し得る。例えば、夕方は太陽の角度が低いため日中と比べてフレアをより感じ易い傾向があるが、上記眼鏡レンズは、眼鏡装用者が夕方にフレアを感じ難くなることに寄与し得る。眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが0.60%以下であることは、このように眼鏡レンズの装用感向上につながり得る。眼鏡レンズの装用感の更なる向上の観点から、上記眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvは、0.50%以下であることが好ましく、0.40%以下であることがより好ましい。上記眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvは、例えば0.05%以上または0.10%以上であることができる。ただし、眼鏡レンズの装用感向上の観点からは、眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvが低いことは好ましい。したがって、上記眼鏡レンズの眼球側表面の視感反射率Rvは、上記範囲を下回ってもよい。
【0019】
上記眼鏡レンズにおいて、物体側表面の視感反射率Rvは、上記範囲内であってもよく、上記範囲外であってもよい。
【0020】
眼鏡レンズの物体側表面および眼球側表面のそれぞれにおいて測定される上記の各種物性は、例えば眼鏡レンズに各表面に設ける多層膜の設計によって調整することができる。多層膜の設計は、例えば公知の方法による光学的シミュレーションによって決定することができる。
【0021】
<レンズ基材>
上記眼鏡レンズに含まれるレンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難いという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。硬化性組成物は、重合性組成物ともいうことができる。レンズ基材には、公知の添加剤が含まれ得る。添加剤の一例としては、紫外線吸収剤を挙げることができる。紫外線吸収剤を含むレンズ基材によれば、物体側表面から入射して眼鏡装用者の眼に入射する紫外線量を低減することができる。
【0022】
レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ただし、レンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0023】
上記眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、通常、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材の表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。
【0024】
<多層膜>
上記眼鏡レンズは、レンズ基材の物体側表面上および眼球側表面上にそれぞれ多層膜を有する。
レンズ基材の物体側表面上に位置する多層膜と眼球側表面上に位置する多層膜とは、同じ多層膜であってもよく、異なる多層膜であってもよい。
【0025】
多層膜は、レンズ基材の表面上に直接位置してもよく、一層以上の他の層を介して間接的にレンズ基材の表面上に位置してもよい。レンズ基材と多層膜との間に形成され得る層としては、例えば、偏光層、調光層、ハードコート層等を挙げることができる。ハードコート層を設けることにより眼鏡レンズの耐久性(強度)を高めることができる。ハードコート層は、例えば硬化性組成物を硬化した硬化層であることができる。ハードコート層の詳細については、例えば特開2012-128135号公報の段落0025~0028、0030を参照できる。また、レンズ基材と上記多層膜との間には、密着性向上のためのプライマー層を形成してもよい。プライマー層の詳細については、例えば特開2012-128135号公報の段落0029~0030を参照できる。
【0026】
多層膜の成膜方法としては、公知の成膜方法を用いることができる。成膜の容易性の観点からは、成膜は蒸着により行うことが好ましい。即ち、多層膜に含まれる各層は、蒸着膜であることが好ましい。蒸着膜とは、蒸着によって成膜された膜を意味する。本発明および本明細書における「蒸着」には、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が含まれる。真空蒸着法では、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0027】
多層膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された積層構造を有することができる。本発明および本明細書において、「高屈折率」および「低屈折率」に関する「高」、「低」とは、相対的な表記である。即ち、高屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる低屈折率層より屈折率が高い層をいう。換言すれば、低屈折率層とは、同じ多層膜に含まれる高屈折率層より屈折率が低い層をいう。高屈折率層の屈折率は、例えば1.60以上(例えば1.60~2.40の範囲)であることができ、低屈折率層の屈折率は、例えば1.59以下(例えば1.37~1.59の範囲)であることができる。ただし、上記の通り、高屈折率および低屈折率に関する「高」、「低」の表記は相対的なものであるため、高屈折率材料および低屈折率材料の屈折率は、上記範囲に限定されるものではない。また、屈折率が異なる三種以上の層が多層膜に含まれていてもよい。
【0028】
高屈折率層を構成する高屈折率材料および低屈折率層を構成する低屈折率材料としては、無機材料、有機材料または有機・無機複合材料を用いることができ、成膜性等の観点からは無機材料が好ましい。即ち、多層膜は、無機多層膜であることが好ましい。具体的には、高屈折率層を形成するための高屈折率材料としては、ジルコニウム酸化物(例えばZrO2)、タンタル酸化物(Ta2O5)、チタン酸化物(例えばTiO2)、アルミニウム酸化物(Al2O3)、イットリウム酸化物(例えばY2O3)、ハフニウム酸化物(例えばHfO2)、およびニオブ酸化物(例えばNb2O5)からなる群から選ばれる酸化物の一種または二種以上の混合物を挙げることができる。一方、低屈折率層を形成するための低屈折率材料としては、ケイ素酸化物(例えばSiO2)、フッ化マグネシウム(例えばMgF2)およびフッ化バリウム(例えばBaF2)からなる群から選ばれる酸化物またはフッ化物の一種または二種以上の混合物を挙げることができる。上記の例示では、便宜上、酸化物およびフッ化物を化学量論組成で表示したが、化学量論組成から酸素またはフッ素が欠損もしくは過多の状態にあるものも、高屈折率材料または低屈折率材料として使用可能である。
【0029】
好ましくは、高屈折率層は高屈折率材料を主成分とする膜であり、低屈折率層は低屈折率材料を主成分とする膜である。ここで主成分とは、膜において最も多くを占める成分であって、通常は膜の質量に対して50質量%程度~100質量%、更には90質量%程度~100質量%を占める成分である。上記高屈折率材料または低屈折率材料を主成分とする成膜材料(例えば蒸着源)を用いて成膜を行うことにより、そのような膜(例えば蒸着膜)を形成することができる。成膜材料に関する主成分についても、上記と同様である。膜および成膜材料には、不可避的に混入する不純物が含まれる場合があり、また、主成分の果たす機能を損なわない範囲で他の成分、例えば他の無機物質や成膜を補助する役割を果たす公知の添加成分が含まれていてもよい。成膜は、公知の成膜方法により行うことができ、成膜の容易性の観点からは、蒸着により行うことが好ましい。
【0030】
多層膜は、例えば、高屈折率層と低屈折率層が交互に合計3~10層積層された多層膜であることができる。高屈折率層の膜厚および低屈折率層の膜厚は、層構成に応じて決定することができる。詳しくは、多層膜に含まれる層の組み合わせ、および各層の膜厚は、高屈折率層および低屈折率層を形成するための成膜材料の屈折率と、多層膜を設けることにより眼鏡レンズにもたらしたい各種物性に基づき、公知の手法による光学的シミュレーションにより決定することができる。
多層膜の層構成としては、例えば、レンズ基材側からレンズ最表面側に向かって、
第1層(低屈折率層)/第2層(高屈折率層)/第3層(低屈折率層)/第4層(高屈折率層)/第5層(低屈折率層)/第6層(高屈折率層)/第7層(低屈折率層)の順に積層された構成;
第1層(低屈折率層)/第2層(高屈折率層)/第3層(低屈折率層)/第4層(高屈折率層)/第5層(低屈折率層)/第6層(高屈折率層)/第7層(低屈折率層)/第8層(高屈折率層)/第9層(低屈折率層)の順に積層された構成;
等を挙げることができる。また、第1層が高屈折率層である構成、屈折率が異なる三種の層(高屈折率層、低屈折率層、および高屈折率層より低く低屈折率層より高い屈折率を有する層(中屈折率層))を含む構成等も例示できる。なお、上記の層構成の例示において、「/」との表記は、「/」の左に記載されている層と右に記載されている層が直接接する場合と、「/」の左に記載されている層と右に記載されている層の間に後述する導電性酸化物層が存在す場合とを包含する意味で用いられている。
【0031】
多層膜に含まれる低屈折率層と高屈折率層の組み合わせの好ましい一例としては、ケイ素酸化物を主成分とする層(ケイ素酸化物層;低屈折率層)とジルコニウム酸化物を主成分とする層(ジルコニウム酸化物層;高屈折率層)との組み合わせを挙げることができる。また、ケイ素酸化物を主成分とする層(ケイ素酸化物層;低屈折率層)とニオブ酸化物を主成分とする層(ニオブ酸化物層;高屈折率層)との組み合わせを挙げることもできる。ケイ素酸化物を主成分とする層(ケイ素酸化物層;低屈折率層)とタンタル酸化物を主成分とする層(タンタル酸化物層;高屈折率層)との組み合わせを挙げることもできる。ケイ素酸化物を主成分とする層(ケイ素酸化物層;低屈折率層)とチタン酸化物を主成分とする層(チタン酸化物層;高屈折率層)との組み合わせを挙げることもできる。上記組み合わせの二層が直接接するか、または上記組み合わせの二層の間に後述する導電性酸化物層が存在する積層構造を少なくとも1つ含む多層膜を、多層膜の一例として例示することができる。また、上記の低屈折率層と高屈折率層との組み合わせを有し、かつ中屈折率層としてアルミニウム酸化物層を含む多層膜も、好ましい一例として例示できる。
【0032】
多層膜に含まれる高屈折率層および低屈折率層の各層の膜厚は、例えば3~500nmであることができ、多層膜の総厚は、例えば100~900nmであることができる。
【0033】
多層膜は、以上説明した高屈折率層および低屈折率層に加えて、導電性酸化物を主成分とする層(導電性酸化物層)、好ましくは導電性酸化物を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された導電性酸化物の蒸着膜の一層以上を、多層膜の任意の位置に含むこともできる。導電性酸化物層に関して記載する主成分についても、上記と同様である。
導電性酸化物層としては、眼鏡レンズの透明性の観点から、膜厚10nm以下の酸化インジウムスズ(tin-doped indium oxide;ITO)層、膜厚10nm以下のスズ酸化物層、および膜厚10nm以下のチタン酸化物層が好ましい。酸化インジウムスズ(ITO)層とは、ITOを主成分として含む層である。この点は、スズ酸化物層、チタン酸化物層についても同様である。多層膜が導電性酸化物層を含むことにより、眼鏡レンズが帯電し塵や埃が付着することを防ぐことができる。本発明および本明細書において、多層膜に含まれる「高屈折率層」および「低屈折率層」としては、膜厚10nm以下の酸化インジウムスズ(ITO)層、膜厚10nm以下のスズ酸化物層、および膜厚10nm以下のチタン酸化物層は考慮されないものとする。即ち、これらの層の一層以上が多層膜に含まれる場合であっても、これらの層は、「高屈折率層」または「低屈折率層」とは見做さないものとする。膜厚10nm以下の上記の導電性酸化物層の膜厚は、例えば0.1nm以上であることができる。
【0034】
更に、多層膜上には、更なる機能性膜を形成することもできる。そのような機能性膜としては、撥水性または親水性の防汚膜、防曇膜等の各種機能性膜を挙げることができる。これら機能性膜については、いずれも公知技術を適用することができる。
【0035】
[眼鏡]
本発明の更なる態様は、上記の本発明の一態様にかかる眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、良好な外観を呈することができる。フレーム等の眼鏡の構成については、特に制限はなく、公知技術を適用することができる。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1~9]
両面が光学的に仕上げられ予めハードコートが施された、物体側表面が凸面、眼球側表面が凹面であるプラスチックレンズ基材(無色レンズ、屈折率1.5または1.7)の凹面側(眼球側)のハードコート表面に、アシストガスとして酸素ガスおよび窒素ガスを用いて、イオンアシスト蒸着により表1に示す層構成の多層蒸着膜を形成した。
凸面側(物体側)のハードコート表面にも同じ条件でイオンアシスト蒸着により表1に示す層構成の多層蒸着膜を形成した。
各実施例では、多層蒸着膜は、レンズ基材側(ハードコート側)から眼鏡レンズ表面側に向かって、表1の下方に示す蒸着源から上方に示す蒸着源を順次用いて、第1層、第2層…の順に積層し、眼鏡レンズ表面側最外層が表1の最上欄に示す蒸着源により形成された層となるように形成した。これら実施例では、不可避的に混入する可能性のある不純物を除けば表1に示す酸化物からなる蒸着源を使用し、表1に示す膜厚の各層を順次形成した。
以上により、実施例1~9の眼鏡レンズを得た。
【0038】
【0039】
[比較例1]
比較例1の眼鏡レンズは、以下の層構成の多層膜を凸面側(物体側)および凹面側(眼球側)に有する眼鏡レンズである。
【0040】
【0041】
[比較例2]
比較例2の眼鏡レンズは、以下の層構成の多層膜を凸面側(物体側)および凹面側(眼球側)に有する眼鏡レンズである。
【0042】
【0043】
[眼鏡レンズ物体側表面の各種物性の測定]
<眼球側表面の視感反射率Rv>
実施例および比較例の各眼鏡レンズの眼球側表面において、光学中心における直入射反射分光特性を測定した。測定は、オリンパス社製レンズ反射率測定器USPM-RUを用いて行った(測定ピッチ:1nm、測定条件を直入射に設定)。
上記で測定された直入射反射分光特性から、JIS T 7334:2011にしたがい、眼球側表面の視感反射率Rvを求めた。
【0044】
<眼鏡レンズの物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率>
実施例および比較例の各眼鏡レンズの物体側表面において、光学中心における直入射反射分光特性を測定した。測定は、オリンパス社製レンズ反射率測定器USPM-RUを用いて行った(測定ピッチ:1nm、測定条件を直入射に設定)。
上記で測定された直入射反射分光特性から、物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率を求めた。
【0045】
実施例1~9、比較例1および比較例2の各眼鏡レンズは、両面に同じ多層膜を有するため、物体側表面において測定される物性は眼球側表面において測定される物性と同様であり、眼球側表面において測定される物性は物体側表面において測定される物性と同様である。
【0046】
【0047】
[装用感の評価]
図1に、装用感評価時の眼鏡装用者(被験者)と太陽との配置図を示す。
実施例1、比較例1および比較例2の各眼鏡レンズを備えた眼鏡を作製した。
夕方、各眼鏡を装用した被験者に気を付けながら夕方の太陽の光を見てもらい、被験者による官能評価を実施した。被験者は10名とし、各被験者が「評価項目1:眩しさ」および「評価項目2:ゴーストおよび/またはフレアの状態」を評価した。「評価項目1:眩しさ」については、5点:眩しくない、4点:眩しさを少し感じる、3点:4点より眩しさを感じる、2点:3点より眩しさを感じる、1点:2点より眩しさを感じる、と5段階で点数付けした。「評価項目2:ゴーストおよび/またはフレアの状態」については、5点:ゴーストもフレアも気にならない、4点:ゴーストおよび/またはフレアが少し気になる、3点:4点より気になる、2点:3点より気になる、1点:2点より気になる、と5段階で点数付けした。10名の被験者が付けた点数を表5に示す。10名の被験者の点数について、評価項目1および評価項目2のそれぞれの点数の算術平均および両評価項目の点数の算術平均(総合平均)を表6に示す。表6に示す点数が高いほど、眼鏡レンズの装用感がより良好であるということができる。
【0048】
【0049】
【0050】
以上の結果から、物体側表面の600~780nmの波長領域における平均反射率および眼球側表面の視感反射率Rvを先に記載した範囲に制御することが、眼鏡レンズの装用感向上に寄与することを確認できる。
【0051】
本明細書に記載の各種態様は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。