(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146065
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】駐車支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/06 20060101AFI20241004BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20241004BHJP
【FI】
B60W30/06
B60W40/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058768
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 康太
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA21
3D241BB03
3D241CC01
3D241DB05Z
(57)【要約】
【課題】駐車支援中に自車両が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制する。
【解決手段】実施形態の駐車支援装置は、自車両の駐車の目標位置へ前記自車両を移動させるための目標加速度を算出する目標加速度算出部と、積分項を含むフィードバック制御によって前記自車両の前記目標加速度と実加速度の偏差に基づいて要求制駆動力を算出するとともに、前記自車両が段差を乗り越えたか否かを判定し、前記自車両が段差を乗り越えたと判定した場合、前記目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする加速度フィードバック制御部と、前記要求制駆動力に基づいて前記自車両の制駆動力を制御する車両制御部と、を備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の駐車の目標位置へ前記自車両を移動させるための目標加速度を算出する目標加速度算出部と、
積分項を含むフィードバック制御によって前記自車両の前記目標加速度と実加速度の偏差に基づいて要求制駆動力を算出するとともに、前記自車両が段差を乗り越えたか否かを判定し、前記自車両が段差を乗り越えたと判定した場合、前記目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする加速度フィードバック制御部と、
前記要求制駆動力に基づいて前記自車両の制駆動力を制御する車両制御部と、を備える駐車支援装置。
【請求項2】
前記加速度フィードバック制御部は、
前記目標加速度の値が正から負に変わったときに前記積分値が所定閾値以上である場合に、前記自車両が段差を乗り越えたと判定し、前記目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする、請求項1に記載の駐車支援装置。
【請求項3】
前記加速度フィードバック制御部は、
走行していた前記自車両が停止し、かつ、前記目標加速度の値が正である、という状態の継続時間が、予め定められた段差判定オン時間を超え、
その後、前記自車両が走行している状態の継続時間が、予め定められた段差判定オフ時間を超えた場合に、
前記自車両が段差を乗り越えたと判定し、前記目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする、請求項1に記載の駐車支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、駐車支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両(乗用車など)の駐車支援装置が研究開発され、使用されている。駐車支援装置では、例えば、ECU(Electronic Control Unit)によって制駆動力(制動力と駆動力)制御や操舵制御を行うことで、駐車を支援する。制駆動力制御では、例えば、FB(Feedback)制御を用いる。
【0003】
具体的には、例えば、まず、自車両の駐車目標位置と実位置の偏差に基づいて目標速度を算出する。次に、目標速度と実速度の偏差に基づいて目標加速度を算出する。次に、目標加速度と実加速度の偏差に基づいて要求制駆動力を算出する。そして、要求制駆動力に基づいて自車両の制駆動力を制御する。
【0004】
また、FB制御として、PI(Proportional-Integral)制御やPID(Proportional-Integral-Differential)制御を用いる場合、偏差を積分するI制御を行うことになる。例えば、PI制御によって目標加速度と実加速度の偏差(以下、「当該偏差」ともいう。)に基づいて要求制駆動力を算出するときに、I制御が入っていることで、外乱要素(路面環境や段差など)による影響を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術では、例えば、車両が段差を乗り越える場合に、段差を乗り越える直前に当該偏差の積分値が大きくなっている。したがって、その状態で車両が段差を乗り越えると、トルクが急激に小さくなってしまうため、大きな積分値に起因して要求駆動力が大きくなり、車両の乗り心地が悪化してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、駐車支援中に自車両が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制可能な駐車支援装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、実施形態の駐車支援装置は実施形態の駐車支援装置は、自車両の駐車の目標位置へ前記自車両を移動させるための目標加速度を算出する目標加速度算出部と、積分項を含むフィードバック制御によって前記自車両の前記目標加速度と実加速度の偏差に基づいて要求制駆動力を算出するとともに、前記自車両が段差を乗り越えたか否かを判定し、前記自車両が段差を乗り越えたと判定した場合、前記目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする加速度フィードバック制御部と、前記要求制駆動力に基づいて前記自車両の制駆動力を制御する車両制御部と、を備える。
【0009】
この構成により、自車両が段差を乗り越えたと判定した場合に、目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットすることで、自車両が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制することができる。
【0010】
また、実施形態の駐車支援装置において、前記加速度フィードバック制御部は、前記目標加速度の値が正から負に変わったときに前記積分値が所定閾値以上である場合に、前記自車両が段差を乗り越えたと判定し、前記目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする。
【0011】
この構成により、具体的に、目標加速度の値が正から負に変わったときに積分値が所定閾値以上である場合に、自車両が段差を乗り越えたと判定し、積分値を0にリセットすることで、自車両が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制することができる。
【0012】
また、実施形態の駐車支援装置において、前記加速度フィードバック制御部は、走行していた前記自車両が停止し、かつ、前記目標加速度の値が正である、という状態の継続時間が、予め定められた段差判定オン時間を超え、その後、前記自車両が走行している状態の継続時間が、予め定められた段差判定オフ時間を超えた場合に、前記自車両が段差を乗り越えたと判定し、前記目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする。
【0013】
この構成により、具体的に、上述の段差判定オン時間と段差判定オフ時間を用いた判定により、自車両が段差を乗り越えたと判定し、積分値を0にリセットすることで、自車両が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態において、車室の一部を透視した場合の車両の外観斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態の車両の平面図(俯瞰図)である。
【
図3】
図3は、実施形態において、車両後方から見た場合の車両のダッシュボードの構成図である。
【
図4】
図4は、実施形態の駐車支援システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態のECUの機能構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、実施形態において、車両が段差を乗り越えたことの判定に関する説明図である。
【
図7】
図7は、従来技術において、各パラメータの経時的な変化の例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施形態において、各パラメータの経時的な変化の例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施形態のECUによる処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうちの少なくとも一つを得ることが可能である。
【0016】
本実施形態の車両1は、例えば、不図示の内燃機関を駆動源とする自動車、すなわち内燃機関自動車であってもよいし、不図示の電動機を駆動源とする自動車、すなわち電気自動車や燃料電池自動車等であってもよいし、それらの双方を駆動源とするハイブリッド自動車であってもよいし、他の駆動源を備えた自動車であってもよい。また、車両1は、種々の変速装置を搭載することができるし、内燃機関や電動機を駆動するのに必要な種々の装置、例えばシステムや部品等を搭載することができる。また、車両1における車輪3の駆動に関わる装置の方式や、数、レイアウト等は、種々に設定することができる。
【0017】
図1は、実施形態において、車室の一部を透視した場合の車両1の外観斜視図である。
図2は、実施形態の車両1の平面図(俯瞰図)である。
図1に例示されるように、車体2は、不図示の乗員が乗車する車室2aを備えている。車室2a内には、乗員としてのドライバーの座席2bに臨む状態で、操舵部4、加速操作部5、制動操作部6、変速操作部7等が設けられている。
【0018】
操舵部4は、例えば、ダッシュボード24から突出したステアリングホイールである。加速操作部5は、例えば、ドライバーの足下に位置されたアクセルペダルである。制動操作部6は、例えば、ドライバーの足下に位置されたブレーキペダルである。変速操作部7は、例えば、センターコンソールから突出したシフトレバーである。なお、これらの構成は、上述のものに限定されない。
【0019】
また、車室2a内には、表示出力部としての表示装置8や、音声出力部としての音声出力装置9が設けられている。表示装置8は、例えば、LCD(liquid crystal display)や、OELD(organic electroluminescent display)等である。音声出力装置9は、例えば、スピーカである。また、表示装置8は、例えば、タッチパネル等、透明な操作入力部10で覆われている。乗員は、操作入力部10を介して表示装置8の表示画面に表示される画像を視認することができる。
【0020】
また、乗員は、表示装置8の表示画面に表示される画像に対応した位置において手指等で操作入力部10を触れたり押したり動かしたりして操作することで、操作入力を実行することができる。これらの表示装置8、音声出力装置9、操作入力部10等は、例えば、ダッシュボード24の車幅方向すなわち左右方向の中央部に位置されたモニタ装置11に設けられている。
【0021】
モニタ装置11は、スイッチ、ダイヤル、ジョイスティック、押しボタン等の不図示の操作入力部を有することができる。また、モニタ装置11とは異なる車室2a内の他の位置に不図示の音声出力装置を設けることができるし、モニタ装置11の音声出力装置9と他の音声出力装置から、音声を出力することができる。なお、モニタ装置11は、例えば、ナビゲーションシステムやオーディオシステムと兼用されうる。また、車室2a内には、表示装置8とは別の表示装置12(
図3参照)が設けられている。
【0022】
図3は、実施形態において、車両後方から見た場合の車両1のダッシュボードの構成図である。
図3に例示されるように、表示装置12は、例えば、ダッシュボード24の計器盤部25に設けられ、計器盤部25の略中央で、速度表示部25aと回転数表示部25bとの間に位置されている。表示装置12の画面の大きさは、表示装置8の画面(
図1)の大きさよりも小さい。この表示装置12には、主として車両1の駐車支援に関する情報を示す画像が表示されうる。
【0023】
また、
図1及び
図2に例示されるように、車両1は、例えば、四輪自動車であり、左右二つの前輪3Fと、左右二つの後輪3Rとを有する。これら四つの車輪3は、いずれも転舵可能に構成されうる。
【0024】
図4は、実施形態の駐車支援システムの機能構成を示すブロック図である。
図4に例示されるように、車両1は、少なくとも二つの車輪3を操舵するEPS13(電動パワーステアリングシステム)を有している。EPS13は、アクチュエータ13aと、トルクセンサ13bとを有する。EPS13は、ECU14(electronic control unit)等によって電気的に制御されて、アクチュエータ13aを動作させる。以下の説明においては、EPS13は、電動パワーステアリングシステムや、SBW(steer by wire)システム等である。EPS13は、アクチュエータ13aによって操舵部4にトルク、すなわちアシストトルクを付加して操舵力を補ったり、アクチュエータ13aによって車輪3を転舵したりする。この場合、アクチュエータ13aは、一つの車輪3を転舵してもよいし、複数の車輪3を転舵してもよい。また、トルクセンサ13bは、例えば、ドライバーが操舵部4に与えるトルクを検出する。
【0025】
また、
図2に例示されるように、車体2には、複数の撮像部15として、例えば四つの撮像部15a~15dが設けられている。
【0026】
また、ECU14は、撮像部15の画像から、車両1の周辺の路面に示された区画線等を識別し、区画線等に示された駐車区画を検出(抽出)する。
【0027】
また、
図1及び
図2に例示されるように、車体2には、複数の測距部16,17として、例えば四つの測距部16a~16dと、八つの測距部17a~17hとが設けられている。測距部16,17は、例えば、超音波を発射してその反射波を捉えるソナーである。
【0028】
また、
図4に例示されるように、駐車支援システム100では、ほかに、ブレーキシステム18、舵角センサ19、アクセルセンサ20、シフトセンサ21、車輪速センサ22等が、電気通信回線としての車内ネットワーク23を介して電気的に接続されている。
【0029】
車内ネットワーク23は、例えば、CAN(controller area network)として構成されている。ECU14は、車内ネットワーク23を通じて制御信号を送ることで、EPS13、ブレーキシステム18等を制御することができる。また、ECU14は、車内ネットワーク23を介して、トルクセンサ13b、ブレーキセンサ18b、舵角センサ19、測距部16、測距部17、アクセルセンサ20、シフトセンサ21、車輪速センサ22等の検出結果や、操作入力部10等の操作信号等を、受け取ることができる。
【0030】
ECU14は、
図4に示すように、例えば、CPU14a(central processing unit)や、ROM14b(read only memory)、RAM14c(random access memory)、表示制御部14d、音声制御部14e、SSD14f(solid state drive、フラッシュメモリ)等を有している。
【0031】
CPU14aは、例えば、表示装置8,12で表示される画像に関連した画像処理や、車両1の目標位置(駐車目標位置)の決定、車両1の移動経路の演算、物体との干渉の有無の判断、車両1の自動制御、自動制御の解除等の、各種の演算処理および制御を実行することができる。CPU14aは、ROM14b等の不揮発性の記憶装置にインストールされ記憶されたプログラムを読み出し、当該プログラムにしたがって演算処理を実行することができる。
【0032】
RAM14cは、CPU14aでの演算で用いられる各種のデータを一時的に記憶する。また、表示制御部14dは、ECU14での演算処理のうち、主として、撮像部15で得られた画像データを用いた画像処理や、表示装置8,12で表示される画像データの合成等を実行する。また、音声制御部14eは、ECU14での演算処理のうち、主として、音声出力装置9で出力される音声データの処理を実行する。また、SSD14fは、書き換え可能な不揮発性の記憶部であって、ECU14の電源がオフされた場合にあってもデータを記憶することができる。
【0033】
なお、CPU14aや、ROM14b、RAM14c等は、同一パッケージ内に集積されうる。また、ECU14は、CPU14aに替えて、DSP(digital signal processor)等の他の論理演算プロセッサや論理回路等が用いられる構成であってもよい。また、SSD14fに替えてHDD(hard disk drive)が設けられてもよいし、SSD14fやHDDは、ECU14とは別に設けられてもよい。
【0034】
ブレーキシステム18は、例えば、ブレーキのロックを抑制するABS(anti-lock brake system)や、コーナリング時の車両1の横滑りを抑制する横滑り防止装置(ESC:electronic stability control)、ブレーキ力を増強させる(ブレーキアシストを実行する)電動ブレーキシステム、BBW(brake by wire)等である。ブレーキシステム18は、アクチュエータ18aを介して、車輪3ひいては車両1に制動力を与える。
【0035】
また、ブレーキシステム18は、左右の車輪3の回転差などからブレーキのロックや、車輪3の空回り、横滑りの兆候等を検出して、各種制御を実行することができる。ブレーキセンサ18bは、例えば、制動操作部6の可動部の位置を検出するセンサである。ブレーキセンサ18bは、制動操作部6の可動部としてのブレーキペダルの位置を検出することができる。ブレーキセンサ18bは、変位センサを含む。
【0036】
舵角センサ19は、例えば、ステアリングホイール等の操舵部4の操舵量を検出するセンサである。舵角センサ19は、例えば、ホール素子などを用いて構成される。ECU14は、ドライバーによる操舵部4の操舵量や、自動操舵時の各車輪3の操舵量等を、舵角センサ19から取得して各種制御を実行する。なお、舵角センサ19は、操舵部4に含まれる回転部分の回転角度を検出する。舵角センサ19は、角度センサの例である。
【0037】
アクセルセンサ20は、例えば、加速操作部5の可動部の位置を検出するセンサである。アクセルセンサ20は、加速操作部5の可動部としてのアクセルペダルの位置を検出することができる。アクセルセンサ20は、変位センサを含む。
【0038】
シフトセンサ21は、例えば、変速操作部7の可動部の位置を検出するセンサである。シフトセンサ21は、変速操作部7の可動部としての、レバーや、アーム、ボタン等の位置を検出することができる。シフトセンサ21は、変位センサを含んでもよいし、スイッチとして構成されてもよい。
【0039】
車輪速センサ22は、車輪3の回転量や単位時間当たりの回転数を検出するセンサである。車輪速センサ22は、検出した回転数を示す車輪速パルス数をセンサ値として出力する。車輪速センサ22は、例えば、ホール素子などを用いて構成されうる。ECU14は、車輪速センサ22から取得したセンサ値に基づいて車両1の移動量などを演算し、各種制御を実行する。なお、車輪速センサ22は、ブレーキシステム18に設けられている場合もある。その場合、ECU14は、車輪速センサ22の検出結果を、ブレーキシステム18を介して取得する。
【0040】
なお、上述した各種センサやアクチュエータの構成や、配置、電気的な接続形態等は、例であって、種々に設定(変更)することができる。
【0041】
本実施形態では、ECU14は、ハードウェアとソフトウェア(制御プログラム)が協働することにより、駐車支援装置としての機能の少なくとも一部を実現する。
【0042】
図5は、実施形態のECU14の機能構成を示すブロック図である。ECU14は、機能構成として、位置FB(Feedback)制御部141と、速度FB制御部142と、加速度FB制御部143と、車両制御部144と、を備える。位置FB制御部141、速度FB制御部142、加速度FB制御部143は、FB(Feedback)制御として、例えば、PI(Proportional-Integral)制御を実行するが、これに限定されず、ほかに、PID(Proportional-Integral-Differential)制御を実行してもよい。
【0043】
位置FB制御部141は、車両1の駐車の目標位置と実位置の偏差に基づいて目標速度を算出する。
【0044】
速度FB制御部142は、車両1の目標速度と実速度の偏差に基づいて目標加速度を算出する。
【0045】
なお、位置FB制御部141と速度FB制御部142の機能を合わせて目標加速度算出部としてもよい。例えば、目標加速度算出部は、車両1の駐車の目標位置へ車両1を移動させるための目標加速度を算出する。その場合、請求項における目標加速度算出部は、実施形態の位置FB制御部141および速度FB制御部142に相当する。
【0046】
加速度FB制御部143は、積分項を含むFB制御によって車両1の目標加速度と実加速度の偏差に基づいて要求制駆動力を算出するとともに、車両1が段差を乗り越えたか否かを判定する。加速度FB制御部143は、車両1が段差を乗り越えたと判定した場合、目標加速度と実加速度の偏差の積分値(以下、単に「積分値」ともいう。)を0にリセットする。
【0047】
以下、
図6~
図8も併せて参照して説明する。
図6は、実施形態において、車両1が段差を乗り越えたことの判定に関する説明図である。
図6では、下方にいくにつれて時刻が進む。
【0048】
まず、車両1の車輪3が段差90へ向かって進行して段差90に接触する。車両1は、車輪3と段差90の接触によって、進行方向と反対側(紙面左側)の力を受け、一時的に停止する((a)時刻ta1)。次に、車両1が駆動力を増大させることで、車輪3は斜め上方に進行して段差90を登り始める((b)時刻ta2)。次に、車輪3が段差90を乗り越える((c)時刻ta3)。
【0049】
なお、上述の「停止」とは、完全停止だけを意味するものではなく、停止に近い状態(例えば車速が所定閾値以下)も含む。
【0050】
図7は、従来技術において、各パラメータの経時的な変化の例を示すグラフである。(a)は速度のグラフであり、(b)は加速度のグラフである。従来技術における駐車支援では、時刻t11の時点で駐車支援制御がすでに実行されており、目標速度TS1は、時刻t11以降、一定である。
【0051】
このとき、車両1の車輪3が段差90に接触する(
図6(a))と、車両1の実速度AS1は、時刻t12から減少し、時刻t13で0になる。その後、車両1の実速度AS1は、時刻t14まで0で、時刻t14から車両1が段差90を乗り越え始める(
図6(b))と上昇して、時刻t15で目標速度TS1に達する。
【0052】
しかし、時刻t15の時点で積分値が大きくなっているため、その状態で車両1が段差90を乗り越える(
図6(c))と、トルクが急激に小さくなってしまうため、大きな積分値に起因して要求制動力が大きくなり、車両の乗り心地が悪化してしまう。つまり、車両1の実速度AS1は、時刻t15から大きく上昇してから減少し、その後、時刻t16で目標速度TS1と同じになる。なお、目標加速度TA1は、
図7(b)に示すように推移する。
【0053】
そこで、加速度FB制御部143は、例えば、目標加速度の値が正から負に変わったときに積分値が所定閾値以上である場合に、車両1が段差を乗り越えたと判定する(以下、段差判定法1ともいう)。つまり、
図7(b)に示すように、車両1が段差を乗り越えたあたりのタイミングの時刻t15の時点で、目標加速度TA1の値が正から負に変わって、かつ、そのときに積分値が所定閾値以上である、という条件を満たす。よって、加速度FB制御部143は、この条件を満たすときに、車両1が段差を乗り越えたと判定し、積分値を0にリセットする。そうすると、各パラメータは
図8に示すように推移する。
【0054】
図8は、実施形態において、各パラメータの経時的な変化の例を示すグラフである。(a)は速度のグラフであり、(b)は加速度のグラフである。実施形態における駐車支援では、時刻t21の時点で駐車支援制御がすでに実行されており、目標速度TS2は、時刻t21以降、一定である。
【0055】
このとき、車両1の車輪3が段差90に接触する(
図6(a))と、車両1の実速度AS2は、時刻t22から減少し、時刻t23で0になる。その後、車両1の実速度AS2は、時刻t24まで0で、時刻t24から車両1が段差90を乗り越え始める(
図6(b))と上昇して、時刻t25で目標速度TS1に達する。
【0056】
そうすると、時刻t25の時点で積分値が大きくなっているが、加速度FB制御部143が積分値を0にリセットする。その後、車両1が段差90を乗り越える(
図6(c))と、トルクが急激に小さくなってしまうが、積分値が0にリセットされていることで要求制動力はあまり大きくならず、車両の乗り心地の悪化を抑制できる。つまり、車両1の実速度AS1は、時刻t25から少し上昇してから減少し、その後、時刻t26で目標速度TS2と同じになる。このとき、目標加速度TA2は、
図8(b)に示すように推移する。つまり、
図7(b)の目標加速度TA1と比較すると、目標加速度TA2は、時刻t25以降にあまり小さくならない。
【0057】
また、車両1が段差を乗り越えたこと判定は、上述の段差判定法1のほかに、例えば、以下のように行ってもよい。つまり、加速度FB制御部143は、以下の条件1、2の両方を満たしたときに、車両1が段差を乗り越えたと判定する(以下、段差判定法2ともいう)。
【0058】
(条件1)走行していた車両1が停止し、かつ、目標加速度の値が正である、という状態の継続時間が、予め定められた段差判定オン時間(例えば数百ミリ秒程度)を超えたこと。
(条件2)条件1を満たした後に、車両1が走行している状態の継続時間が、予め定められた段差判定オフ時間(例えば数百ミリ秒程度)を超えたこと。
【0059】
まず、条件1は、
図6(a)に示すような場合に満たす条件である。また、条件2は、
図6(c)に示すような場合に満たす条件である。よって、加速度FB制御部143は、これらの条件1、2の両方を満たしたときに、車両1が段差を乗り越えたと判定し、目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする。
【0060】
また、加速度FB制御部143は、段差判定法1と段差判定法2の両方を用いて、少なくとも一方を満たしたときに、車両1が段差を乗り越えたと判定し、目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットするようにしてもよい。そうすれば、車両1が段差を乗り越えたことをより確実、迅速に判定できる。
【0061】
図5に戻って、車両制御部144は、要求制駆動力に基づいて制駆動力装置300(エンジン、ブレーキシステム18など)に指示信号を出力することで、車両1の制駆動力を制御する。
【0062】
次に、
図9を参照して、実施形態のECU14による処理について説明する。
図9は、実施形態のECU14による処理を示すフローチャートである。なお、この処理の間、ECU14は、適宜、車両1の目標位置、実位置、実速度、実加速度などの各種情報を算出、取得等しているものとする。
【0063】
ステップS1において、ドライバーによる操作に応じて、ECU14は、駐車支援を開始する。
【0064】
次に、ステップS2において、位置FB制御部141は、車両1の駐車の目標位置と実位置の偏差に基づいて目標速度を算出する。
【0065】
次に、ステップS3において、速度FB制御部142は、車両1の目標速度と実速度の偏差に基づいて目標加速度を算出する。
【0066】
次に、ステップS4において、加速度FB制御部143は、目標加速度の値が正から負に変わった、かつ、そのときに積分値が所定閾値以上である、という条件(段差判定法1の条件)を満たしたか否かを判定し、Yesの場合はステップS6に進み、Noの場合はステップS5に進む。
【0067】
ステップS5において、加速度FB制御部143は、段差判定法2の条件1、2(段差判定オン→オフ)の両方を満たしたか否かを判定し、Yesの場合はステップS6に進み、Noの場合はステップS7に進む。
【0068】
ステップS6において、加速度FB制御部143は、目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットする。
【0069】
次に、ステップS7において、加速度FB制御部143は、積分項を含むFB制御によって、車両1の目標加速度と実加速度の偏差に基づいて要求制駆動力を算出する。
【0070】
次に、ステップS8において、車両制御部144は、要求制駆動力に基づいて制駆動力装置300に指示信号を出力することで、車両1の制駆動力を制御する。
【0071】
次に、ステップS9において、ECU14は、駐車支援を終了するか否かを判定し、Yesの場合は処理を終了し、Noの場合はステップS2に戻る。
【0072】
このように、本実施形態のECU14によれば、車両1が段差を乗り越えたと判定した場合に、目標加速度と実加速度の偏差の積分値を0にリセットすることで、車両1が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制することができる。なお、ここでの抑制とは、0にすることに限定されず、従来技術の場合よりも減ることを意味する。
【0073】
また、具体的に、例えば、目標加速度の値が正から負に変わったときに積分値が所定閾値以上である場合(つまり、段差判定法1の条件を満たす場合)に、車両1が段差を乗り越えたと判定し、積分値を0にリセットすることで、車両1が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制することができる。
【0074】
また、具体的に、例えば、段差判定オン時間と段差判定オフ時間を用いた段差判定法2により、車両1が段差を乗り越えたと判定し、積分値を0にリセットすることで、車両1が段差を乗り越える場合の乗り心地の悪化を抑制することができる。
【0075】
また、段差判定法1と段差判定法2を併用することで、車両1が段差を乗り越えたことをより確実、迅速に判定できる。
【0076】
なお、車両1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1…車両、10…操作入力部、11…モニタ装置、12…表示装置、13…EPS、14…ECU、100…駐車支援システム、141…位置FB制御部、142…速度FB制御部、143…加速度FB制御部、144…車両制御部、300…制駆動力装置