(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146069
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】逆止弁
(51)【国際特許分類】
A61M 39/24 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61M39/24 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058776
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】河内 恵太
(72)【発明者】
【氏名】北詰 哲也
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066QQ15
4C066QQ94
(57)【要約】
【課題】逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性を向上させる。
【解決手段】第1流路11が設けられた第1ハウジング10と、第2流路21が設けられた第2ハウジング20とが、キャビティ31が形成されるように接合されている。キャビティ31内に弁体50が配置されている。弁体50は、第2ハウジング20の固定部23に嵌入する突起51と、突起51から延びた弾性膜60とを備える。逆止弁1は、第1流路11から第2流路21への流れが許容されるように弾性膜60と第1ハウジング10との間に隙間35が形成される開状態と、第2流路21から第1流路11への流れが禁止されるように弾性膜60が第1ハウジング10に接触する閉状態とに変化する。初期状態において、弾性膜60の外周領域61が第1ハウジング10に環状に接触する。中心軸1aから外周領域61の内周端61aまでの距離が周方向において変化している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流路及び第2流路に連通するキャビティが形成されたハウジングと、前記キャビティ内に配置された弁体とを備えた逆止弁であって、
前記ハウジングは、前記第1流路が設けられた第1ハウジングと、前記第2流路が設けられた第2ハウジングとが、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの間に前記キャビティが形成されるように接合されて構成され、
前記弁体は、前記第2ハウジングの前記第2流路の開口端に設けられた固定部に嵌入する突起と、前記突起から半径方向外向きに延びた弾性曲げ変形が可能な弾性膜とを備え、
前記逆止弁は、
前記第1流路から前記第2流路への流体の流れが許容されるように前記弾性膜の第1面と前記第1ハウジングとの間に隙間が形成される開状態と、
前記第2流路から前記第1流路への流体の流れが禁止されるように前記弾性膜の前記第1面が前記第1ハウジングに環状に接触する閉状態と
に変化し、
前記弁体に対して前記第1流路側の流体の圧力と前記弁体に対して前記第2流路側の流体の圧力とがバランスした初期状態において、前記弾性膜の前記第1面の外周領域が前記第1ハウジングに環状に接触し、
前記初期状態において、前記固定部によって規定される前記逆止弁の中心軸から前記外周領域の内周端までの距離が周方向において変化していることを特徴とする逆止弁。
【請求項2】
前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端の形状は、楕円の一部を含む請求項1に記載の逆止弁。
【請求項3】
前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端は、半円と半楕円とを組み合わせた形状を有する請求項1に記載の逆止弁。
【請求項4】
前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端は、楕円形である請求項1に記載の逆止弁。
【請求項5】
前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端の形状は、略正多角形である請求項1に記載の逆止弁。
【請求項6】
前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端の形状は、略円弧と、前記略円弧に接続された凸部であって、前記略円弧よりも半径方向外向きまたは半径方向内向きに突出している前記凸部とを含む請求項1に記載の逆止弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向への流体の流れを許容し、当該一方向とは反対方向への流体の流れを禁止する逆止弁に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、一方向(順方向)への流体の流れ(順流)を許容し、当該一方向とは反対方向(逆方向)への流体の流れ(逆流)を禁止する逆止弁が用いられることがある。例えば、点滴などの輸液を行う場合、薬液を貯留した容器(例えば輸液バッグ)と患者の静脈に穿刺した留置針とをつなぐ流路上に、薬液の逆流を防止するために逆止弁が設けられることがある。
【0003】
特許文献1に、医療用に使用しうる逆止弁が記載されている。この逆止弁は、流入路が形成された第1筐体と、流出路が形成された第2筐体とが組み合わされた筐体を備える。筐体内の、流入路と流出路との間の中空部(キャビティ)に弁体が配置されている。弁体は、円板形状の弾性体からなる。弁体に対して流入路側の流体の圧力と弁体に対して流出路側の流体の圧力とがバランスした初期状態では、弁体の外周領域が第1筐体の内面に環状に接触している。流体が流入路から中空部に流入すると、流入路側の流体の圧力が上昇する。弁体は第2筐体に向かって弾性的に曲げ変形し、弁体の外周領域が第1筐体の内面から離間する。その結果、流体は、流入路から流出路に向かって順方向に流れることができる。一方、流体が流出路から中空部に流入すると、流出路側の流体の圧力が上昇し、弁体の外周領域が全周にわたって第1筐体の内面に密着する。その結果、流出路から流入路に向かって逆方向に流体が流れるのが禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-156406号公報
【特許文献2】特開2016-056902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体が逆止弁を順方向に流れるためには、弁体より流入路側での流体の圧力(上流側圧力)が、弁体を曲げ変形させるために必要な圧力(閾値)を超えるまで上昇する必要がある。例えばNICU(Neonatal Intensive Care Unit、新生児集中治療室)での輸液では、患者の体が小さいので、薬液はシリンジポンプなどを用いて低流速で投与される。シリンジポンプの下流側に逆止弁を設けた場合、シリンジポンプの運転開始後、上流側圧力が上記閾値を超えるまでに時間を要する。このため、シリンジポンプの運転を開始してから、薬液が逆止弁を通過して実際に患者に流入するまでのタイムラグが長くなる。また、上流側圧力が徐々に上昇して上記閾値を超えたとき、弁体が曲げ変形し、薬液は逆止弁を一気に流れる。このため、薬液はボーラス(bolus)投与となってしまい、シリンジポンプを用いたとしても薬液を一定の低流速で投与することが困難となる。このような薬液投与のタイムラグや薬液のボーラス投与は、投与される薬液によっては患者の循環動態に影響を及ぼしうるため、回避することが望まれる。
【0006】
一般に、上記のタイムラグやボーラス投与は、逆止弁の開弁性(弁体の開きやすさ)による影響を受ける。比較的低い上流側圧力で弁体が曲げ変形すれば、タイムラグやボーラス投与の問題は生じにくい。
【0007】
ところが、逆止弁の開弁性を向上させると、逆方向の流体の流れを禁止するという逆止弁の逆止性能が低下する。開弁性と逆止性能とはトレードオフの関係にあり、従来の逆止弁では、逆止性能を確保したまま開弁性を向上させることは困難であった。
【0008】
本発明の目的は、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性が向上した逆止弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の逆止弁は、第1流路及び第2流路に連通するキャビティが形成されたハウジングと、前記キャビティ内に配置された弁体とを備える。前記ハウジングは、前記第1流路が設けられた第1ハウジングと、前記第2流路が設けられた第2ハウジングとが、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの間に前記キャビティが形成されるように接合されて構成されている。前記弁体は、前記第2ハウジングの前記第2流路の開口端に設けられた固定部に嵌入する突起と、前記突起から半径方向外向きに延びた弾性曲げ変形が可能な弾性膜とを備える。前記逆止弁は、前記第1流路から前記第2流路への流体の流れが許容されるように前記弾性膜の第1面と前記第1ハウジングとの間に隙間が形成される開状態と、前記第2流路から前記第1流路への流体の流れが禁止されるように前記弾性膜の前記第1面が前記第1ハウジングに環状に接触する閉状態とに変化する。前記弁体に対して前記第1流路側の流体の圧力と前記弁体に対して前記第2流路側の流体の圧力とがバランスした初期状態において、前記弾性膜の前記第1面の外周領域が前記第1ハウジングに環状に接触する。前記初期状態において、前記固定部によって規定される前記逆止弁の中心軸から前記外周領域の内周端までの距離が周方向において変化している。
【発明の効果】
【0010】
本発明の逆止弁が初期状態にあるとき、弁体の弾性膜の第1面の外周領域が第1ハウジングに環状に接触する。逆止弁の中心軸から外周領域の内周端までの距離が周方向において変化している。このため、弾性膜は、比較的低い上流側圧力で局所的に弾性曲げ変形することができる。したがって、本発明によれば、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性が向上した逆止弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、初期状態にある本発明の実施形態1にかかる逆止弁の断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施形態1にかかる逆止弁の、第1ハウジング側から見た分解斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施形態1にかかる逆止弁の、第2ハウジング側から見た分解斜視図である。
【
図3】
図3Aは、本発明の実施形態1にかかる逆止弁に用いられる第1ハウジングの下面図である。
図3Bは、本発明の実施形態1にかかる逆止弁に使用される弁体の上面図である。
【
図4】
図4は、初期状態にある比較例の逆止弁の断面図である。
【
図5】
図5Aは、比較例の逆止弁に用いられる第1ハウジングの下面図である。
図5Bは、比較例の逆止弁に使用される弁体の上面図である。
【
図6】
図6は、開状態にある比較例の逆止弁の断面図である。
【
図7】
図7は、開状態にある本発明の実施形態1にかかる逆止弁の断面図である。
【
図8】
図8は、逆方向に液体が流入した本発明の実施形態1にかかる逆止弁の断面図である。
【
図9】
図9は、初期状態にある本発明の実施形態2にかかる逆止弁の断面図である。
【
図10】
図10Aは、本発明の実施形態2にかかる逆止弁に用いられる第1ハウジングの下面図である。
図10Bは、本発明の実施形態2にかかる逆止弁に使用される弁体の上面図である。
【
図11】
図11は、初期状態にある本発明の実施形態3にかかる逆止弁の断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態3にかかる逆止弁に用いられる第1ハウジングの下方から見た斜視図である。
【
図13】
図13Aは、本発明の実施形態3にかかる逆止弁に用いられる第1ハウジングの下面図である。
図13Bは、本発明の実施形態3にかかる逆止弁に使用される弁体の上面図である。
【
図14】
図14は、初期状態にある本発明の実施形態4にかかる逆止弁の断面図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態4にかかる逆止弁に用いられる第1ハウジングの下方から見た斜視図である。
【
図16】
図16Aは、本発明の実施形態4にかかる逆止弁に用いられる第1ハウジングの下面図である。
図16Bは、本発明の実施形態4にかかる逆止弁に使用される弁体の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)本発明の逆止弁は、第1流路及び第2流路に連通するキャビティが形成されたハウジングと、前記キャビティ内に配置された弁体とを備える。前記ハウジングは、前記第1流路が設けられた第1ハウジングと、前記第2流路が設けられた第2ハウジングとが、前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとの間に前記キャビティが形成されるように接合されて構成されている。前記弁体は、前記第2ハウジングの前記第2流路の開口端に設けられた固定部に嵌入する突起と、前記突起から半径方向外向きに延びた弾性曲げ変形が可能な弾性膜とを備える。前記逆止弁は、前記第1流路から前記第2流路への流体の流れが許容されるように前記弾性膜の第1面と前記第1ハウジングとの間に隙間が形成される開状態と、前記第2流路から前記第1流路への流体の流れが禁止されるように前記弾性膜の前記第1面が前記第1ハウジングに環状に接触する閉状態とに変化する。前記弁体に対して前記第1流路側の流体の圧力と前記弁体に対して前記第2流路側の流体の圧力とがバランスした初期状態において、前記弾性膜の前記第1面の外周領域が前記第1ハウジングに環状に接触する。前記初期状態において、前記固定部によって規定される前記逆止弁の中心軸から前記外周領域の内周端までの距離が周方向において変化している。
【0013】
本発明において、「中心軸から前記外周領域の内周端までの距離が周方向において変化している」とは、中心軸から外周領域の内周端までの距離が周方向において一定ではないこと、即ち、中心軸に沿って見たとき、外周領域の内周端が、中心軸と同心の円形ではないことを意味する。
【0014】
(2)上記(1)項の逆止弁において、前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端の形状は、楕円の一部を含んでいてもよい。かかる態様は、中心軸から外周領域の内周端までの距離が周方向において変化した逆止弁の構成を簡単化するのに有利である。
【0015】
(3)上記(1)項又は上記(2)項の逆止弁において、前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端は、半円と半楕円とを組み合わせた形状を有していてもよい。かかる態様は、簡単な構成で逆止弁の開弁性を向上させるのに有利である。
【0016】
(4)上記(1)項又は上記(2)項の逆止弁において、前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端は、楕円形であってもよい。かかる態様は、中心軸から外周領域の内周端までの距離が周方向において変化した逆止弁の構成を簡単化するのに有利である。
【0017】
(5)上記(1)項の逆止弁において、前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端の形状は、略正多角形であってもよい。かかる態様は、逆止弁の開弁性と逆止性能とを良好にバランスさせるのに有利である。なお、本発明において「略正多角形」とは、正確な正多角形と、正多角形の頂点に略円弧(円弧及び楕円の一部を含む)を設けた変形多角形とを含む。
【0018】
(6)上記(1)項~上記(5)項のいずれか一項の逆止弁において、前記中心軸に沿って見たとき、前記外周領域の前記内周端の形状は、略円弧と、前記略円弧に接続された凸部であって、前記略円弧よりも半径方向外向きまたは半径方向内向きに突出している前記凸部とを含んでいてもよい。かかる態様は、大幅な設計変更をすることなく、逆止弁の開弁性を更に向上させるのに有利である。
【0019】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する図面は、説明の便宜上、本発明の実施形態を構成する主要部材を簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の図面に示されていない任意の部材を備え得る。また、本発明の範囲内において、以下の図面に示された部材を変更または省略し得る。各実施形態の説明において引用する図面において、先行する実施形態で引用した図面に示された部材に対応する部材には、当該先行する実施形態の図面で付された符号と同じ符号が付してある。そのような部材については、重複する説明が省略されており、先行する実施形態の説明を適宜参酌すべきである。
【0020】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかる逆止弁1の、中心軸1aを含む面での断面図である。逆止弁1は、内部にキャビティ31が形成されたハウジング30と、キャビティ31内に配置された弁体50とを備える。ハウジング30は、第1流路11が設けられた第1ハウジング10と、第2流路21が設けられた第2ハウジング20とが、第1ハウジング10と第2ハウジング20との間にキャビティ31が形成されるように接合されて構成される。キャビティ31は、第1流路11及び第2流路21のみを介して逆止弁1の外界と連通している。本例では、第1流路11、第2流路21、及び弁体50は同軸に配置され、これらに共通する軸が逆止弁1の中心軸1aである。
【0021】
本発明では、中心軸1aに直交する直線に沿った方向を「半径方向」という。半径方向において、中心軸1aに近い側を半径方向の「内」側、中心軸1aから遠い側を半径方向の「外」側という。中心軸1aの周りを回転する方向を「周方向」という。中心軸1aに平行な方向を「上下方向」という。上下方向において、第1流路11の側を「上」側、第2流路21の側を「下」側という。中心軸1aに垂直な平面に平行な方向を「水平方向」という。但し、「上下方向」及び「水平方向」は、本発明を説明する便宜のためのものであって、逆止弁1の実際の使用時の向きを意味するものではない。
【0022】
詳細は後述するが、逆止弁1は、流体が第1流路11、キャビティ31、第2流路21をこの順に流れるのを許容し、これとは逆に、流体が第2流路21、キャビティ31、第1流路11をこの順に流れるのを禁止するように構成されている。本発明では、第1流路11から第2流路21に向かう流体の流れの向きを「順方向」といい、第2流路21から第1流路11に向かう流体の流れの向きを「逆方向」という。また、流体の流れの向きにかかわらず、弁体50に対して第1流路11側を「上流側」といい、第2流路21側を「下流側」ということがある。
【0023】
図2Aは、逆止弁1の、第1ハウジング10側から見た分解斜視図である。
図2Bは、逆止弁1の、第2ハウジング20側から見た分解斜視図である。
【0024】
図1及び
図2Bに示されているように、第1ハウジング10のキャビティ31を規定する内面15は、第1流路11のキャビティ31側の開口から延びた第1内面13と、第1内面13の外側で第1内面13に隣接する第2内面14とを含む。第1内面13は、半径方向外側に向かって第2ハウジング20に接近するように傾斜した凹曲面である。第2内面14は、本実施形態1では半径方向に平行な平坦面であり、第1内面13を取り囲むように周方向に環状に連続している。第2内面14の外側に、第2ハウジング20に接合される接合部(第1接合部)18が形成されている。接合部18は、制限されないが、周方向に連続する環状の凸条(突起)または凹条(溝)を含んでいてもよい。
【0025】
図1及び
図2Aに示されているように、第2ハウジング20の、第2流路21のキャビティ31側の開口端は、弁体50を保持する固定部23を構成する。中心軸1aに沿って見たとき、固定部23は中心軸1aと同心の円に沿っている。第2ハウジング20のキャビティ31を規定する内面は、固定部23から半径方向外側に向かって第1ハウジング10から離れるように傾斜した凸曲面25を含む。凸曲面25は、制限されないが、例えば円錐台面(円錐台の側面)であってもよい。凸曲面25には、半径方向に沿った複数の溝24が形成されている。複数の溝24は、中心軸1aに対して等角度間隔に配置されている。溝24は、第2流路21に連通し、凸曲面25の外周端にまで延びており、固定部23及び凸曲面25を周方向に分断している。溝24は、逆止弁1を順方向に(即ち、第1流路11から第2流路21へ)流れる流体の流路となりうる。溝24の数は、本実施形態1では3本であるが、本発明はこれに限定されず、これより多くても、少なくてもよい。凸曲面25の外側に、第1ハウジング10に接合される接合部(第2接合部)28が形成されている。接合部28は、制限されないが、周方向に連続する環状の凹条(溝)または凸条(突起)を含む。
【0026】
第1ハウジング10及び第2ハウジング20は、外力によって実質的に変形しない程度の機械的強度(剛性)を有することが好ましい。具体的には、第1及び第2ハウジング10,20の材料は、ポリプロピレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレン、硬質ポリ塩化ビニル等の樹脂が好ましく、特にポリプロピレンが好ましい。第1及び第2ハウジング10,20のそれぞれは、上記樹脂を用いて射出成形法等により全体を一部品として一体的に製造することができる。第1ハウジング10と第2ハウジング20とは、同じ材料で構成されていてもよく、あるいは、異なる材料で構成されていてもよい。
【0027】
第1ハウジング10の接合部18と第2ハウジング20の接合部28とは、両者間に液密なシールが形成されるように接合される。例えば、接合部18の凸条が接合部28の凹条に嵌合され、及び/又は、接合部28の凸条が接合部18の凹条に嵌合される。接合部18と接合部28とを接合する方法は、制限はなく、第1及び第2ハウジング10,20の材料等を考慮して公知の方法を用いうる。例えば、溶着(例えばレーザー溶着、超音波溶着)、接着(例えば溶剤接着)、単なる嵌合(例えばテーパ嵌合)などを用いうる。
【0028】
キャビティ31内に弁体50が配置されている。弁体50は、平面視形状(中心軸1aに沿って見た形状)が略円形の、全体として薄い円盤形状を有している。弁体50の中央に、弁体50の厚さ方向(上下方向、即ち中心軸1a方向)に突出した第1突起51及び第2突起52が設けられている。第1突起51は、第2ハウジング20に向かって突出している(
図2B参照)。第2突起52は、第1ハウジング10に向かって突出している(
図2A参照)。第1及び第2突起51,52の形状は、制限されないが、先端に向かって径が小さくなる略円錐形状または略円錐台形状であってもよい。
【0029】
突起51,52(より正確には突起51,52の基部)から半径方向外向きに弾性膜60が延びている。弾性膜60は、周方向に連続している。弾性膜60は、第1ハウジング10を向いた第1面60a(
図2A参照)と、第2ハウジング20を向いた第2面60b(
図2B参照)とを有する。第1面60a及び第2面60bは、いずれも水平方向に沿った平坦面である。弾性膜60の厚さ(中心軸1a方向の寸法)は一定である。
【0030】
弁体50は、外力によって比較的容易に変形可能であり、且つ、外力を取り除くと直ちに変形前の状態(初期状態)に復帰するように、弾性(あるいは可撓性もしくは軟質)材料(いわゆるエラストマー)からなる。具体的には、弁体50の材料は、シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム等のゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、あるいは、軟質ポリ塩化ビニルが好ましく、特にシリコーンゴムが好ましい。弁体50は、上記の材料を用いて、全体を一部品として一体的に製造することができる。
【0031】
図1に示されているように、弁体50は、第1突起51が、第2流路21の開口端である固定部23に嵌入されて、第2ハウジング20に載置されている。第1突起51の側面(例えば円錐面)が固定部23に嵌入することにより、弁体50は、第2ハウジング20に対して上下方向及び水平方向に位置合わせされる。弁体50が載置された第2ハウジング20に第1ハウジング10が接合される。弾性膜60の第1面60aが、第1ハウジング10の第2内面14に上下方向に接触する。固定部23及び第2内面14は協働して弁体50の傾きを修正する。
【0032】
弁体50は、キャビティ31を、第1ハウジング10(または第1流路11)側の第1キャビティ31aと第2ハウジング20(または第2流路21)側の第2キャビティ31bとに上下に2分割する。第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)と第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)とがバランスした(均衡した)状態を「初期状態」という。
図1は、初期状態の逆止弁1を示している。初期状態では、弾性膜60は、第1ハウジング10の内面15(特に第2内面14)に接触するが、実質的に曲げ変形せず、水平方向(中心軸1aに垂直な面に平行な方向)に沿って延びる。
【0033】
図3Aは、第1ハウジング10の弁体50側から見た下面図である。一点鎖線で示したX軸及びY軸は、いずれも中心軸1aに垂直な一平面に沿って延び、且つ、中心軸1aにて互いに直交する。中心軸1aから半径方向外側に向かって、第1流路11、第1内面13、第2内面14、接合部18がこの順に配置されている。第1内面13の内周端(または第1流路11の開口端)13aの形状は、中心軸1aと同心の円形である。一方、第2内面14の内周端(即ち、第1内面13と第2内面14との境界)14aの形状は非円形である。より詳細には、第2内面14の内周端14aは、Y軸に対して左側では中心軸1aと同心の円に沿っており、Y軸に対して右側ではX軸を長軸とする楕円に沿っている。当該円の半径と、当該楕円の短半径とは同じである。中心軸1aから内周端14aまでの距離は、Y軸に対して左側では一定であるが、Y軸に対して右側ではX軸上で最大となるように周方向において変化している。第1内面13は、円形である第1内面13の内周端13aと、非円形である第2内面14の内周端14aとをなめらかにつなぐ凹曲面である。
【0034】
図3Bは、弁体50の第1ハウジング10側から見た上面図である。
図3BのX軸及びY軸は、
図3AのX軸及びY軸にそれぞれ対応する。上述したように、初期状態では、弾性膜60の第1面60aに、第1ハウジング10の第2内面14が上下方向に接触する(
図1参照)。弾性膜60の第1面60aのうち多数のドットを付した領域は、初期状態において第1ハウジング10の第2内面14が接触する外周領域61である。外周領域61は、弾性膜60の第1面60aの外周に沿って環状に連続している。二点鎖線で示した外周領域61の内周端61aは、第1ハウジング10の第2内面14の内周端14a(
図3A参照)に対応する。中心軸1aに沿って見たとき、外周領域61の内周端61aは非円形である。より詳細には、外周領域61の内周端61aは、Y軸に対して左側では中心軸1aと同心の円に沿っており、Y軸に対して右側ではX軸を長軸とする楕円に沿っている。当該円の半径と、当該楕円の短半径とは同じである。中心軸1aから内周端61aまでの距離は、Y軸に対して左側では一定であるが、Y軸に対して右側ではX軸上で最大となるように周方向において変化している。中心軸1aに沿って見たとき、弾性膜60の外周端60cは、中心軸1aと同心の円形である。したがって、外周領域61の半径方向に沿った幅は、Y軸に対して左側では一定であるが、Y軸に対して右側ではX軸上で最小となるように周方向において変化している。
【0035】
初期状態の逆止弁1(
図1参照)に、流体が第1流路11を通って順方向に流入すると、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇する。第1キャビティ31a内の流体は、弁体50を、第2ハウジング20に向かって押圧する。弁体50の中央(第1突起51)は第2ハウジング20の固定部23で支持されている。このため、第1キャビティ31a内の流体は、
図1のような半径方向に沿った断面において、弾性膜60の外周端が第2ハウジング20側へ変位するように、弾性膜60を弾性的に曲げ変形させる。
【0036】
初期状態において、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)は、弁体50の外周領域61の内周端61aよりも内側の領域(これを「被加圧領域」という)に作用する。本実施形態1では、中心軸1aから外周領域61の内周端61aまでの距離(これを「被加圧領域半径」という)が周方向において変化している。このため、初期状態の弾性膜60を第2ハウジング20側に向かって曲げようとする曲げ荷重は、被加圧領域半径が大きい側において相対的に大きい。
【0037】
本実施形態1の逆止弁1の作用の理解を容易にするために、
図4に示す比較例の逆止弁900を考える。逆止弁900は、第1ハウジング910を除いて実施形態1の逆止弁1と同じである。
図5Aは、逆止弁900を構成する第1ハウジング910の弁体50側から見た下面図である。実施形態1の第1ハウジング10と同様に、中心軸1aから半径方向外側に向かって、第1流路11、第1内面913、第2内面914、接合部18がこの順に配置されている。第1内面913の内周端(または第1流路11の開口端)13aの形状は、中心軸1aと同心の円形である。第2内面914の内周端(即ち、第1内面913と第2内面914との境界)914aの形状も中心軸1aと同心の円形である。第1内面913は、円形である第1内面913の内周端13aと、円形である第2内面914の内周端914aとをなめらかにつなぐ円錐面(凹曲面)である。
図5Bは、逆止弁900に使用される弁体50の上面図である。比較例の弁体50は、実施形態1の弁体50と同じである。逆止弁900が初期状態にあるとき、第1ハウジング910の第2内面914は、弾性膜60の第1面60aの外周領域961に接触する。二点鎖線で示した外周領域961の内周端961aは、第1ハウジング910の第2内面914の内周端914a(
図5A参照)に対応する。中心軸1aに沿って見たとき、外周領域961の内周端961aの形状は、中心軸1aと同心の円形である。上記を除いて、逆止弁900は実施形態1の逆止弁1と同じである。
図4、
図5A、及び
図5Bにおいて、
図1、
図3A、及び
図3Bに示した部材(または要素)に対応する部材(または要素)には
図1、
図3A、及び
図3Bと同じ符号を付してある。
【0038】
図4に示した逆止弁900は、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)と第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)とがバランスした初期状態にある。初期状態の逆止弁900に、流体が第1流路11を通って順方向に流入すると、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇する。上流側圧力は、弁体50の外周領域961の内周端961aよりも内側の領域(被加圧領域)に作用する。中心軸1aから外周領域961の内周端961aまでの距離(被加圧領域半径)は周方向において一定である。弾性膜60の全体は、同一の材料で構成されている。このため、上流側圧力がある閾値を超えると、
図6に示すように、弾性膜60の外周領域961が、第1ハウジング910の第2内面914から、全周にわたってほぼ同時に離間する。弾性膜60の曲げ変形量は周方向において一定である。弾性膜60の外周領域961と第1ハウジング910の第2内面914との間に形成される隙間935の上下方向寸法は、周方向において一定である。かくして、逆止弁900は、「開状態」となる。流体は、第1キャビティ31aから隙間935を通って第2キャビティ31bに流入し、更に第2流路21を流れる。このようにして、流体は、第1流路11から第2流路21へ逆止弁900を流れることができる。
図6において、矢印41及び矢印42は、それぞれ第1流路11及び第2流路21を順方向に流れる流体の向きを示している。
【0039】
外周領域961を第1ハウジング910の第2内面914から離間させるのに必要な上流側圧力(閾値)は、弾性膜60の曲げ剛性や、中心軸1aから外周領域961の内周端961aまでの距離(被加圧領域半径)に依存する。ここで、弾性膜60の「曲げ剛性」とは、弾性膜60の厚さ方向に沿った断面(例えば
図4の断面)内での弾性膜60の曲げ変形のしにくさを意味し、弾性膜60の材料や厚さの影響を受ける。弾性膜60の曲げ剛性が一定であれば、被加圧領域半径が小さいほど上記閾値が高くなり、上流側圧力が高くなるまで弾性膜60の外周領域961は第1ハウジング910の第2内面914から離間しない。このような逆止弁900は開弁性に劣る。開弁性に劣る逆止弁900に、第1流路11を通って順方向に流体が低流速で流入した場合、上述した従来の逆止弁と同様に以下の問題が生じる。第1に、初期状態の逆止弁900に第1流路11を通って流体が順方向に流入し始めたときから流体が第2流路21を通って逆止弁900から流出するまでのタイムラグが長くなる。第2に、弾性膜60が第1ハウジング910の第2内面914から離間したとき第1キャビティ31a内の高圧の流体が一気に流れる。このため、逆止弁900を輸液の流路上に設けた場合には流体がボーラス投与になってしまう。
【0040】
比較例の逆止弁900において、被加圧領域半径を大きくすれば、比較的低い上流側圧力で弾性膜60を第1ハウジング910の第2内面914から離間させることが可能である。これは、逆止弁900の開弁性を向上させ、タイムラグやボーラス投与の問題を解消しうる。しかしながら、流体が第2流路21を通って逆方向に逆止弁900に流入した場合、第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)によって弾性膜60が異常な変形をして、流体が第2キャビティ31bから第1キャビティ31aへ流れるのを許容してしまう可能性がある。これは、第2流路21から第1流路11への流体の流れを禁止するという逆止弁900の逆止性能の低下を招く。
【0041】
このため、比較例の逆止弁900は、逆止性能を確保したまま開弁性を向上させることは困難である。
【0042】
本実施形態1の逆止弁1の作用について説明する。
【0043】
本実施形態1では、上述したように、中心軸1aから外周領域61の内周端61aまでの距離(被加圧領域半径)が周方向において変化している。
図1は初期状態の逆止弁1を示している。
図1の断面は、中心軸1a及びX軸(
図3A及び
図3B参照)を含む。したがって、
図1において、被加圧領域半径は、中心軸1aに対して左側より中心軸1aに対して右側において大きい。
【0044】
初期状態の逆止弁1の第1流路11に流体が順方向41に低流速で流入した場合(
図7参照)、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が徐々に上昇していく。第1キャビティ31a内の流体は、弁体50を第2ハウジング20に向かって押圧する。
図7の断面は、
図1と同様に、中心軸1a及びX軸(
図3A及び
図3B参照)を含む。被加圧領域半径は、
図7において中心軸1aに対して右側で相対的に大きく、X軸上で最大となる。このため、上流側圧力が上昇し始めて間もなく、被加圧領域半径が最大となる内周端61a上の地点近傍において外周領域61が第1ハウジング10の第2内面14から離間するように、弾性膜60が局所的に曲げ変形する。弾性膜60と第1ハウジング10との間に隙間35が形成される。逆止弁1は、「開状態」となる。被加圧領域半径が相対的に小さい側(
図7において中心軸1aに対して左側)では、外周領域61は依然として第2内面14に接触している。流体は、第1キャビティ31aから当該隙間35を通って第2キャビティ31bに流入し、更に第2流路21を矢印42の向きに流れる。このようにして、流体は、第1流路11から第2流路21へ逆止弁1を流れることができる。
【0045】
本実施形態1では、被加圧領域半径が大きな内周端61a上の部分近傍の外周領域61は、これ以外の外周領域61よりも、比較的低い上流側圧力で第2内面14から離間する。逆止弁1を初期状態(
図1参照)から開状態(
図7参照)に変化させるために必要な上流側圧力は、上記比較例の逆止弁900を開状態(
図6参照)に変化させるために必要な上流側圧力に比べて低い。逆止弁1は、比較例の逆止弁900に比べて開弁性が向上している。逆止弁1に順方向に流入する流体の流速が小さくても、上流側圧力が上昇し始めてすぐに、逆止弁1は開状態に変化する。このため、初期状態の逆止弁1に第1流路11を通って流体が順方向に流入し始めたときから流体が第2流路21を通って逆止弁1から流出するまでのタイムラグは短い。比較的低い上流側圧力で逆止弁1は初期状態から開状態に変化するから、上流側圧力は異常に上昇しない。このため、逆止弁1を輸液の流路上に設けた場合には流体がボーラス投与になることはない。
【0046】
なお、本実施形態1において、逆止弁1の第1流路11に流体が順方向に高流速で流入した場合には、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)は高くなる。このため、被加圧領域半径が大きな内周端61a上の部分近傍の外周領域61に加えて、これ以外の外周領域61も、第2内面14から離間する。例えば、上流側圧力が高くなるのにしたがって、最初に被加圧領域半径が大きな内周端61a上の部分近傍の外周領域61が第2内面14から離間して小さな隙間35が形成され(
図7参照)、続いて、この小さな隙間35を起点として、外周領域61の残りの部分が第2内面14から順次離間する。このように、相対的に大きな被加圧領域半径を有する部分は、外周領域61が第2内面14から離間する際の起点を提供する。これは、逆止弁1の開弁性を向上するのに有利である。図示を省略するが、上流側圧力が高くなると、外周領域61が、全周にわたって第1ハウジング10の第2内面14から離間するとともに、外周領域61と第1ハウジング10の第2内面14との間の隙間が拡大する。弾性膜60の第2面60bが第2ハウジング20の凸曲面25に接触するほどに、弾性膜60が大きく曲げ変形するかも知れない。流体は、第1流路11から第2流路21へより大流量で逆止弁1を流れることができる。
【0047】
図8は、初期状態の逆止弁1に、何らかの理由で流体が第2流路21に逆方向45に流入した状態を示す。逆方向45の流体の流入によって第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)が上昇する。第2キャビティ31b内の流体は、弁体50を、第1ハウジング10に向かって押圧する。弾性膜60の第1面60aが第1ハウジング10の内面15に密着する。
図8では、第1面60aの外周領域61が第1ハウジング10の第2内面14に接触しているが、これは一例に過ぎない。第2キャビティ31b内の流体の圧力が高くなると、第1突起51が固定部23から上方に離間し、且つ、弁体50が第1キャビティ31a側に突出するようにドーム状に変形するかも知れない。この場合、第1面60aが第1ハウジング10の第1内面13に接触してもよい。いずれにしても、弾性膜60の第1面60aは第1ハウジング10の内面15に環状に接触して、両者間に環状の液密なシールが形成される。逆止弁1は、弁体50が第2流路21と第1流路11との連通を遮断した「閉状態」となる。第2キャビティ31b内の流体は、弾性膜60と第1ハウジング10との間を通って第1キャビティ31aへ流れることはできない。このようにして、流体が第2流路21から第1流路11へ逆止弁1を流れるのが禁止される。
【0048】
一般に、被加圧領域半径が大きくなると、逆止弁の逆止性能は低下する。本実施形態1では、流体が第2流路21を通って逆方向45に逆止弁1に流入した場合、第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)によって、弾性膜60のうち相対的に大きな被加圧領域半径を有する部分が異常な変形をする可能性がある。しかしながら、被加圧領域半径の周方向の変化(
図3Bのように、外周領域61の内周端61aが半円と半楕円とで構成される場合に、当該半円の半径と当該半楕円の長半径)を最適化することにより、下流側圧力による弾性膜60の異常な変形を抑え、これにより、逆方向の流体の流れを禁止するという逆止弁1の逆止性能を確保することが可能である。
【0049】
このため、本実施形態1の逆止弁1は、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性が向上している。
【0050】
以下に逆止弁1の使用方法を、逆止弁1を点滴などの輸液に用いる場合を例にして説明する。
【0051】
逆止弁1は、輸液を行う際に使用される輸液セットを構成してもよい。輸液セットの構成に制限はない。図示を省略するが、一例に係る輸液セットは、第1流路11を構成する第1管12(
図1参照)に接続された柔軟な第1チューブと、第2流路21を構成する第2管22(
図1参照)に接続された柔軟な第2チューブとを備える。第1チューブには、第1チューブ内の流路を開閉するクランプが設けられている。第2チューブの下流端には患者に穿刺される留置針が設けられている。
【0052】
第1チューブに設けられたクランプを閉じた状態で、第1チューブの上流端を、液体(例えば薬液)が貯留された容器(例えば輸液バッグ)に接続する。次いで、クランプを開いて、容器内の液体を輸液セット(即ち、第1チューブ、逆止弁1、第2チューブ、及び、留置針)に導入するプライミングを行う。その後、クランプを閉じ、逆止弁1への液体の流入を停止する。第1キャビティ31a内の液体の圧力(上流側圧力)と第2キャビティ31b内の液体の圧力(下流側圧力)とがバランスし、逆止弁1は初期状態(
図1参照)にある。この初期状態では、上述したように、弁体50の外周領域61(
図3B参照)が第1ハウジング10の第2内面14に環状に接触している。第1流路11と第2流路21との連通は、弁体50によって遮断されている。
【0053】
次いで、留置針を患者に穿刺する。そして、第1チューブに設けられたクランプを開き、輸液を開始する。
図7に示されているように、液体が矢印41の向き(順方向)に第1流路11を通って第1キャビティ31aに流入する。第1キャビティ31a内の圧力(上流側圧力)が上昇する。第1キャビティ31a内の液体が弁体50を押圧する。弾性膜60の外周領域61が第1ハウジング10の第2内面14から離間し、逆止弁1は「開状態」となる。液体は、第1流路11から第2流路21へ逆止弁1を流れることができる。シリンジポンプを用いて液体を第1流路11に低流速で流入させてもよい。この場合、シリンジポンプの運転を開始してから、液体が逆止弁1を通過して実際に患者に流入するまでのタイムラグは短い。また、液体を、ボーラス投与になることなく、所望する低流速で患者に投与することができる。
【0054】
第1チューブに設けられたクランプを閉じる(またはシリンジポンプの運転を停止する)と、第1流路11へ流入する液体の流れが停止する。弾性膜60は弾性回復し、逆止弁1は初期状態に戻る。輸液は停止される。
【0055】
何らかの理由で液体が第2流路21に逆方向45に流入した場合(
図8参照)、第2キャビティ31b内の液体の圧力(下流側圧力)が上昇する。上述したように、開弁性が向上するように弾性膜60に被加圧領域半径が大きな部分が存在するにもかかわらず、弾性膜60の第1面60aと第1ハウジング10の内面15との間に環状の液密なシールが形成される。逆止弁1は「閉状態」となる。液体が第2流路21から第1流路11へ逆止弁1を流れるのが禁止される。
【0056】
本実施形態1では、中心軸1aに沿って見たとき、外周領域61の内周端61aの形状は楕円の一部を含む(
図3B参照)。これは、中心軸1aから内周端61aまでの距離(被加圧領域半径)が周方向において変化した逆止弁1の構成を簡単化するのに有利である。
【0057】
より詳細には、中心軸1aに沿って見たとき、外周領域61の内周端61aは、半円と半楕円とを組み合わせた形状を有する(
図3B参照)。中心軸1aから内周端61aまでの距離は、半楕円の側で最大となる。このため、初期状態の逆止弁1において、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇し始めると、最初に、弁体50の中心(または中心軸1a)に対して半楕円の側で、外周領域61が第1ハウジング10の第2内面14から離間する(
図7参照)。簡単な構成で逆止弁1の開弁性を向上させることができる。
【0058】
図3A及び
図3Bでは、中心軸1aに沿って見たとき、第2内面14の内周端14a及び外周領域61の内周端61aは、いずれも、Y軸に対して左側の、中心軸1aと同心の半円と、Y軸に対して右側の、X軸を長軸とする半楕円とを組み合わせた形状を有していたが、本発明はこれに限定されない。図示を省略するが、例えば、Y軸に対して右側の半楕円が、Y軸を長軸とする半楕円であってもよい。当該半楕円の長半径は、Y軸に対して左側の半円の半径と同じである。この場合、中心軸1aから内周端14a,61aまでの距離は、Y軸に対して左側(半円側)では一定であるが、Y軸に対して右側(半楕円側)ではX軸上で最小となるように変化する。初期状態の逆止弁1において、第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇し始めると、最初に、弁体50の中心(または中心軸1a)に対して半円の側で、外周領域61が第1ハウジング10の第2内面14から離間する。この場合であっても、上記の例と同様に、簡単な構成で逆止弁1の開弁性を向上させることができる。
【0059】
上記の例では、中心軸1aに沿って見たとき、第2内面14の内周端14aの形状及び外周領域61の内周端61aは、いずれも、半円(即ち、中心角が180度の円弧)と半楕円とを組み合わせた形状を有していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、中心軸1aに沿って見たとき、内周端14a,61aが、中心角が180度より大きい又は小さい円弧と、当該円弧の両端をつなぐ楕円の一部とを組み合わせた形状を有していてもよい。この場合も、中心軸1aから外周領域の内周端までの距離は周方向において変化するので、逆止弁の開弁性を向上させることができる。
【0060】
(実施の形態2)
図9は、初期状態にある本発明の実施形態2にかかる逆止弁2の断面図である。逆止弁2は、第1ハウジング210を除いて実施形態1の逆止弁1と同じである。以下に、実施形態1との相違点を中心に、本実施形態2の逆止弁2及び第1ハウジング210を説明する。
【0061】
図10Aは、第1ハウジング210の弁体50側から見た下面図である。X軸及びY軸は、いずれも中心軸1aに垂直な一平面に沿って延び、且つ、中心軸1aにて互いに直交する。
図3Aに示した実施形態1の第1ハウジング10と同様に、中心軸1aから半径方向外側に向かって、第1流路11、第1内面213、第2内面214、接合部18がこの順に配置されている。第1内面213の内周端(または第1流路11の開口端)13aの形状は、中心軸1aと同心の円形である。一方、第2内面214の内周端(即ち、第1内面213と第2内面214との境界)214aの形状は非円形である。より詳細には、中心軸1aに沿って見たとき、第2内面214の内周端214aは、X軸を長軸とする楕円形である。中心軸1aから内周端214aまでの距離は、Y軸上で最小となり、X軸上で最大となるように周方向において変化している。第1内面213は、円形である第1内面213の内周端13aと、楕円形である第2内面214の内周端214aとをなめらかにつなぐ凹曲面である。第2内面214は、実施形態1の第2内面14と同様に、半径方向に平行な平坦面であり、第1内面213を取り囲むように周方向に環状に連続している。
【0062】
図10Bは、逆止弁2に使用される弁体50の第1ハウジング210側から見た上面図である。
図10BのX軸及びY軸は、
図10AのX軸及びY軸にそれぞれ対応する。実施形態1と同様に、初期状態では、弾性膜60の第1面60aに、第1ハウジング210の第2内面214が上下方向に接触する(
図9参照)。弾性膜60の第1面60aのうち多数のドットを付した領域は、初期状態(
図9参照)において第1ハウジング210の第2内面214が接触する外周領域261である。外周領域261は、弾性膜60の第1面60aの外周に沿って環状に連続している。二点鎖線で示した外周領域261の内周端261aは、第1ハウジング210の第2内面214の内周端214a(
図10A参照)に対応する。外周領域261の内周端261aは非円形である。より詳細には、中心軸1aに沿って見たとき、外周領域261の内周端261aは、X軸を長軸とする楕円形である。中心軸1aから内周端261aまでの距離(被加圧領域半径)は、Y軸上で最小となり、X軸上で最大となるように周方向において変化している。中心軸1aに沿って見たとき、弾性膜60の外周端60cは、中心軸1aと同心の円形である。したがって、外周領域261の半径方向に沿った幅は、Y軸上で最大となり、X軸上で最小となるように周方向において変化している。
【0063】
初期状態の本実施形態2の逆止弁2(
図9参照)において第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇し始めると、上流側圧力は、弁体50の外周領域261の内周端261aよりも内側の領域(被加圧領域)に作用する。中心軸1aから外周領域261の内周端261aまでの距離(被加圧領域半径)はX軸上で最大である。このため、最初に、X軸方向の両端において外周領域261が第1ハウジング210の第2内面214から離間する。上流側圧力が比較的低くても、逆止弁2は開状態に変化する。楕円形の被加圧領域を有する逆止弁2は、開弁性が向上している。
【0064】
上流側圧力が更に上昇すると、外周領域261が、全周にわたって第1ハウジング210の第2内面214から離間するとともに、外周領域261と第1ハウジング210の第2内面214との間の隙間が拡大する。
【0065】
一般に、被加圧領域半径が大きくなると、逆止弁の逆止性能は低下する。即ち、流体が第2流路21を通って逆止弁2に流入した場合、第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)によって、弾性膜60のうち大きな被加圧領域半径を有する部分が異常な変形をする可能性がある。しかしながら、外周領域261の内周端261a(更には第2内面214の内周端214a)が沿う楕円のアスペクト比(長半径/短半径、または当該楕円の扁平率)を最適化することにより、下流側圧力による弾性膜60の異常な変形を抑え、これにより、逆方向の流体の流れを禁止するという逆止弁2の逆止性能を確保することが可能である。
【0066】
このため、本実施形態2の逆止弁2は、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性が向上している。
【0067】
本実施形態2では、中心軸1aに沿って見たとき、外周領域261の内周端261aは楕円形である(
図10B参照)。これは、中心軸1aから内周端261aまでの距離(被加圧領域半径)が周方向において変化した逆止弁2の構成を簡単化するのに有利である。
【0068】
上記の例では、第2内面214の内周端214aの形状及び外周領域261の内周端261aの形状は、いずれも楕円形であったが、本発明はこれに限定されない。内周端214a,261aの形状は、例えば、平行な2直線を2つの半円(または半楕円)でつないだ陸上競技のトラック形状のような、長軸と短軸を有する任意の形状であってもよい。好ましくは、当該形状の重心は、中心軸1aに一致する。
【0069】
本実施形態2は、上記を除いて実施形態1と同じである。本実施形態2のうち実施形態1と共通する構成または要素については、実施形態1の説明が本実施形態2にも適用される。
【0070】
(実施の形態3)
図11は、初期状態にある本発明の実施形態3にかかる逆止弁3の断面図である。逆止弁3は、第1ハウジング310を除いて実施形態1の逆止弁1と同じである。以下に、実施形態1との相違点を中心に、本実施形態3の逆止弁3及び第1ハウジング310を説明する。
【0071】
図12は、第1ハウジング310の下方から見た斜視図である。
図13Aは、第1ハウジング310の弁体50側から見た下面図である。
図13Aにおいて、X軸及びY軸は、いずれも中心軸1aに垂直な一平面に沿って延び、且つ、中心軸1aにて互いに直交する。
図3Aに示した実施形態1の第1ハウジング10と同様に、中心軸1aから半径方向外側に向かって、第1流路11、第1内面313、第2内面314、接合部18がこの順に配置されている。第1内面313の内周端(または第1流路11の開口端)13aの形状は、中心軸1aと同心の円形である。一方、第2内面314の内周端(即ち、第1内面313と第2内面314との境界)314aの形状は非円形である。より詳細には、中心軸1aに沿って見たとき、第2内面314の内周端314aは、略正方形である。略正方形の4辺は、X軸またはY軸に平行である。略正方形の対角線は、中心軸1aにて交差し、且つ、X軸及びY軸に対して45度の角度を有して傾斜している。略正方形の4隅には、円弧が設けられている。中心軸1aから内周端314aまでの距離は、X軸上及びY軸上で最小となり、略正方形の対角軸上で最大となるように周方向において変化している。第1内面313は、円形である第1内面313の内周端13aと、略正方形である第2内面314の内周端314aとをなめらかにつなぐ凹曲面である。第2内面314は、実施形態1の第2内面14と同様に、半径方向に平行な平坦面であり、第1内面313を取り囲むように周方向に環状に連続している。
【0072】
図13Bは、逆止弁3に使用される弁体50の第1ハウジング310側から見た上面図である。
図13BのX軸及びY軸は、
図13AのX軸及びY軸にそれぞれ対応する。実施形態1と同様に、初期状態では、弾性膜60の第1面60aに、第1ハウジング310の第2内面314が上下方向に接触する(
図11参照)。弾性膜60の第1面60aのうち多数のドットを付した領域は、初期状態(
図11参照)において第1ハウジング310の第2内面314が接触する外周領域361である。外周領域361は、弾性膜60の第1面60aの外周に沿って環状に連続している。二点鎖線で示した外周領域361の内周端361aは、第1ハウジング310の第2内面314の内周端314a(
図13A参照)に対応する。外周領域361の内周端361aは非円形である。より詳細には、中心軸1aに沿って見たとき、内周端361aは、略正方形である。略正方形の4辺は、X軸またはY軸に平行である。略正方形の対角線は、中心軸1aにて交差し、且つ、X軸及びY軸に対して45度の角度を有して傾斜している。略正方形の4隅には、円弧が設けられている。中心軸1aから内周端361aまでの距離(被加圧領域半径)は、X軸上及びY軸上で最小となり、略正方形の対角軸上で最大となるように周方向において変化している。中心軸1aに沿って見たとき、弾性膜60の外周端60cは、中心軸1aと同心の円形である。したがって、外周領域361の半径方向に沿った幅は、X軸上及びY軸上で最大となり、略正方形の対角軸上で最小となるように周方向において変化している。
【0073】
初期状態の本実施形態3の逆止弁3(
図11参照)において第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇し始めると、上流側圧力は、弁体50の外周領域361の内周端361aよりも内側の領域(被加圧領域)に作用する。中心軸1aから外周領域361の内周端361aまでの距離(被加圧領域半径)は略正方形の対角軸上で最大である。このため、最初に、対角軸上の4箇所において外周領域361が第1ハウジング310の第2内面314から離間する。上流側圧力が比較的低くても、逆止弁3は開状態に変化する。略正方形の被加圧領域を有する逆止弁3は、開弁性が向上している。
【0074】
上流側圧力が更に上昇すると、外周領域361が、全周にわたって第1ハウジング310の第2内面314から離間するとともに、外周領域361と第1ハウジング310の第2内面314との間の隙間が拡大する。
【0075】
一般に、被加圧領域半径が大きくなると、逆止弁の逆止性能は低下する。即ち、流体が第2流路21を通って逆止弁3に流入した場合、第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)によって、弾性膜60のうち大きな被加圧領域半径を有する部分が異常な変形をする可能性がある。しかしながら、外周領域361の内周端361a(更には第2内面314の内周端314a)が沿う略正方形の形状(対角軸方向寸法/X軸(またはY軸)方向寸法)を最適化することにより、下流側圧力による弾性膜60の異常な変形を抑え、これにより、逆方向の流体の流れを禁止するという逆止弁3の逆止性能を確保することが可能である。
【0076】
このため、本実施形態3の逆止弁3は、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性が向上している。
【0077】
上記の例では、第2内面314の内周端314aの形状及び外周領域361の内周端361aの形状は、いずれも略正方形であったが、本発明はこれに限定されない。内周端314a,361aの形状は、例えば、正三角形や正五角形などの正多角形であってもよい。好ましくは、正多角形の重心は、中心軸1aに一致する。正多角形の頂点に、上記の略正方形と同様の円弧や、楕円の一部などの任意の曲線(好ましくは半径方向外側に向かって突出した曲線)を設けてもよい。
【0078】
本実施形態3では、中心軸1aに沿って見たとき、外周領域361の内周端361aの形状は略正多角形である。上流側圧力が上昇したときに第1ハウジング310の第2内面314から選択的に離間する外周領域361の部分の数は、略正多角形の頂点(隅)の数に依存する。頂点の数を変えることにより、逆止弁の開弁性と逆止性能とを調整することができる。したがって、略正多角形の被加圧領域を有する本実施形態3の逆止弁は、開弁性と逆止性能とを良好にバランスさせるのに有利である。
【0079】
本実施形態3は、上記を除いて実施形態1と同じである。本実施形態3のうち実施形態1と共通する構成または要素については、実施形態1の説明が本実施形態3にも適用される。
【0080】
(実施の形態4)
図14は、初期状態にある本発明の実施形態4にかかる逆止弁4の断面図である。逆止弁4は、第1ハウジング410を除いて実施形態1の逆止弁1と同じである。以下に、実施形態1との相違点を中心に、本実施形態4の逆止弁4及び第1ハウジング410を説明する。
【0081】
図15は、第1ハウジング410の下方から見た斜視図である。
図16Aは、第1ハウジング410の下面図である。
図16Aにおいて、X軸及びY軸は、いずれも中心軸1aに垂直な一平面に沿って延び、且つ、中心軸1aにて互いに直交する。
図3Aに示した実施形態1の第1ハウジング10と同様に、中心軸1aから半径方向外側に向かって、第1流路11、第1内面413、第2内面414、接合部18がこの順に配置されている。第1内面413の内周端(または第1流路11の開口端)13aの形状、及び、第2内面414の内周端(即ち、第1内面413と第2内面414との境界)414aの形状は、いずれも中心軸1aと同心の円形である。第1内面413は、円形である第1内面413の内周端13aと、円形である第2内面414の内周端414aとをつなぐ円錐台面(円錐台の側面)である。第2内面414は、実施形態1の第2内面14と同様に、半径方向に平行な平坦面であり、第1内面413を取り囲むように周方向に環状に連続している。内周端414a上に複数の(本例では6個の)凹部(窪み)416が設けられている。複数の凹部416は、中心軸1aに対して等角度間隔で配置されている。各凹部416は、半径方向に沿って、第1内面413から第2内面414へ、円形の内周端414aと交差して延びている。複数の凹部416は、円形の内周端414aを複数の円弧に分断している。
図14に示されているように、初期状態において、凹部416は、第1ハウジング410と弁体50の弾性膜60との間に、第1キャビティ31aと連続した隙間を形成する。
【0082】
図16Bは、逆止弁4に使用される弁体50の第1ハウジング410側から見た上面図である。
図16BのX軸及びY軸は、
図16AのX軸及びY軸にそれぞれ対応する。実施形態1と同様に、初期状態では、弾性膜60の第1面60aに、第1ハウジング410の第2内面414が上下方向に接触する(
図14参照)。弾性膜60の第1面60aのうち多数のドットを付した領域は、初期状態(
図14参照)において第1ハウジング410の第2内面414が接触する外周領域461である。外周領域461は、弾性膜60の第1面60aの外周に沿って環状に連続している。二点鎖線で示した外周領域461の内周端461aの形状は、半径方向外向きに局所的に突出した複数の凸部461cが設けられた、全体としては略円形である。より詳細には、外周領域461の内周端461aは、中心軸1aと同心の複数の円弧461bと、円弧461bよりも半径方向外向きに突出した複数の凸部461cとで構成される。円弧461bと凸部461cとは周方向に交互に配置されている。凸部461cは、周方向に隣り合う円弧461bをつないでいる。円弧461bは、第1ハウジング410の第2内面414の円形の内周端414a(
図15及び
図16A参照)に対応し、凸部461cは第1ハウジング410の凹部416(
図15及び
図16A参照)に対応する。本例では、凸部461cは、円弧461bより小さな曲率半径を有する円弧である。中心軸1aから内周端461aまでの距離(被加圧領域半径)は、円弧461bにおいて一定であり、凸部461cにおいて大きくなるように周方向において変化している。中心軸1aに沿って見たとき、弾性膜60の外周端60cは、中心軸1aと同心の円形である。したがって、外周領域461の半径方向に沿った幅は、円弧461bにおいて最大となり、凸部461cにおいて最小となるように周方向において変化している。
【0083】
初期状態の本実施形態4の逆止弁4(
図14参照)において第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇し始めると、上流側圧力は、弁体50の外周領域461の内周端461aよりも内側の領域(被加圧領域)に作用する。中心軸1aから外周領域461の内周端461aまでの距離(被加圧領域半径)は凸部461cで最大である。このため、最初に、凸部461c近傍において外周領域461が第1ハウジング410の第2内面414から離間する。上流側圧力が比較的低くても、逆止弁4は開状態に変化する。凸部461cにて被加圧領域半径が局所的に増大した被加圧領域を有する逆止弁4は、開弁性が向上している。
【0084】
上流側圧力が更に上昇すると、外周領域461が、全周にわたって第1ハウジング410の第2内面414から離間するとともに、外周領域461と第1ハウジング410の第2内面414との間の隙間が拡大する。
【0085】
一般に、被加圧領域半径が大きくなると、逆止弁の逆止性能は低下する。即ち、流体が第2流路21を通って逆止弁4に流入した場合、第2キャビティ31b内の流体の圧力(下流側圧力)によって、弾性膜60のうち大きな被加圧領域半径を有する部分が異常な変形をする可能性がある。しかしながら、外周領域461の内周端461aが有する凸部461cの数、凸部461cの周方向寸法、円弧461bに対する凸部461cの半径方向外側への突出長さなどを最適化することにより、下流側圧力による弾性膜60の異常な変形を抑え、これにより、逆方向の流体の流れを禁止するという逆止弁4の逆止性能を確保することが可能である。
【0086】
このため、本実施形態4の逆止弁4は、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性が向上している。
【0087】
上記の例では、外周領域461の内周端461aが備える凸部461cの数は6つであったが、本発明はこれに限定されず、少なくとも一つの凸部461cが内周端461aに設けられていればよい。凸部461cの形状や、寸法(周方向寸法、円弧461bに対する半径方向外側への突出長)は任意に設定することができる。所望する凸部461cが形成されるように、第1ハウジング410に設けられる凹部416が適宜変更される。
【0088】
本実施形態4の凸部461cと同様の凸部を、実施形態1~3の外周領域61,261,361の内周端61a,261a,361aに設けてもよい。この場合、凸部は、中心軸1aから内周端61a,261a,361aまでの距離が最大となる位置に設けることが好ましい。これは、逆止弁の開弁性を更に向上させるのに有利である。内周端61a,261a,361aに所望する凸部が形成されるように、第2内面14,214,314に、凹部416と同様の凹部が設けられる。
【0089】
一般に、凸部は、外周領域(61,261,361,461)の内周端(61a,261a,361a,461a)を構成する略円弧(円弧及び楕円の一部を含む)に、当該略円弧よりも半径方向外向きに突出するように接続されることが好ましい。好ましくは、凸部は半径方向外側に向かって突出した略円弧(円弧及び楕円の一部を含む)を含む。好ましくは、凸部の略円弧の曲率半径は凸部が接続された略円弧の曲率半径より小さい。
【0090】
外周領域(61,261,361,461)の内周端(61a,261a,361a,461a)に凸部を設けるためには、第1ハウジングに、第2内面(14,214,314,414)の内周端(14a,214a,314a,414a)を分断するように凹部を設けるだけでよい。また、上述した比較例の第1ハウジング910の第2内面914の内周端914a(
図5A参照)に、内周端914aを分断するように凹部を設ければ、本実施形態4と同様に、外周領域961の内周端961a(
図5B参照)に、被加圧領域半径を局所的に増大させる凸部を形成することができる。したがって、本実施形態4は、既存の第1ハウジングを大幅に設計変更することなく、逆止弁の開弁性を更に向上させるのに有利である。
【0091】
上記の例では、外周領域461の内周端461aが、中心軸1aと同心の複数の円弧461bと、円弧461bよりも半径方向外向きに突出した複数の凸部461cとで構成されていたが、凸部461cを半径方向内向きに突出した凸部(以下「内向き凸部」という)に置き換えてもよい。この場合、中心軸1aから外周領域461の内周端461aまでの距離(被加圧領域半径)は、円弧461bにおいて一定であり、内向き凸部において小さくなるように周方向において変化する。初期状態の逆止弁において第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇し始めると、最初に円弧461bにおいて外周領域461が第1ハウジング410の第2内面414から離間する。したがって、上記の例と同様に、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら逆止弁の開弁性を向上させることができる。なお、内向き凸部は、第1ハウジング410に、第2内面414の内周端414aから半径方向内向きに突出した、第2内面414と連続する平坦面を有する凸部(突起)を形成することにより形成することができる。外周領域461の内周端461aが凸部461cを有する上記の例の逆止弁と同様に、外周領域461の内周端461aが内向き凸部を有する逆止弁も、既存の第1ハウジングを大幅に設計変更することなく、開弁性が向上する。凸部461cと同様に、内向き凸部の数や、形状、寸法(周方向寸法、円弧461bに対する半径方向内側への突出長)は任意に設定することができる。また、内向き凸部を、実施形態1~3の外周領域61,261,361の内周端61a,261a,361aに設けてもよい。
【0092】
本実施形態4は、上記を除いて実施形態1と同じである。本実施形態4のうち実施形態1と共通する構成または要素については、実施形態1の説明が本実施形態4にも適用される。
【0093】
上記の実施形態1~4は例示に過ぎない。本発明は、上記の実施形態1~4に限定されず、適宜変更することができる。
【0094】
実施形態1~4の弁体50は、中心軸1aと同軸に配置され且つ同一形状の第1突起51及び第2突起52を備えていた(
図2A及び
図2B参照)。弁体50は、中心軸1aに直交する任意の軸に対して2回回転対称である。即ち、弁体50は、上下反転させると反転前と形状が一致する。これは、第2突起52を第2ハウジング20の固定部23に嵌入させて本発明の逆止弁を製造することを可能にする。逆止弁の製造において、弁体50の上下面の判別が不要である。このため、逆止弁の製造が簡単化する。但し、本発明はこれに限定されない。例えば、弁体50が第2突起52を備えていなくてもよい。
【0095】
上記の実施形態1~4では、第1流路11、第2流路21、固定部23、及び弁体50が同軸に配置されていたが、本発明は、これに限定されない。例えば、第2流路21、固定部23、及び弁体50に対して、第1流路11及び/又は内面15が偏心していてもよい。この場合、本発明の逆止弁の中心軸1aは、固定部23によって定義される。
【0096】
上記の実施形態1~4では、中心軸1aから外周領域(61,261,361,461)の内周端(61a,261a,361a,461a)までの距離(被加圧領域半径)を周方向において変化させるために、中心軸1aに沿って見た内周端(61a,261a,361a,461a)は、正確な円形ではなかったが、本発明はこれに限定されない。本発明では、例えば、中心軸1aに沿って見た形状が正確な円形である外周領域の内周端が、中心軸1a(固定部23)に対して偏心していてもよい。この場合も、上記の実施形態1~4と同様に、初期状態において、逆止弁の中心軸1aから外周領域の内周端までの距離(被加圧領域半径)が周方向において変化する。初期状態の逆止弁において第1キャビティ31a内の流体の圧力(上流側圧力)が上昇し始めると、最初に、被加圧領域半径が最大となる側で弾性膜60の外周領域が第1ハウジングの第2内面から離間する。このため、逆止性能を実用上問題のない程度に維持しながら開弁性を向上させることが可能である。なお、中心軸1aに対して偏心した外周領域の内周端は、例えば第1ハウジング10の第2内面の内周端を中心軸1aに対して偏心させることにより得ることができる。
【0097】
上記の実施形態1~4では、初期状態において弁体50の弾性膜60が水平方向に沿って延びていたが、本発明はこれに限定されない。本発明の逆止弁は、例えば特許文献2に記載されているような、半径方向外側に向かって第2ハウジング20側に傾斜した弾性膜を備えた、いわゆるアンブレラ型の弁体を備えていてもよい。弁体の構成に応じて、キャビティ31を規定する内面(例えば、第1ハウジング10の内面15、第2ハウジング20の凸曲面25)の形状は適宜変更されうる。
【0098】
上記の実施形態1~4では、逆止弁を輸液回路に用いる場合を説明したが、本発明の逆止弁の用途はこれに限定されない。流体の逆流を防止する必要がある任意の流路に、本発明の逆止弁を適用することができる。逆止弁を流れる流体は、制限されないが、一般に液体である。液体の種類は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の逆止弁の利用分野は、制限はないが、医療分野、例えば輸液回路や血液透析回路などにおいて好ましく利用することができる。もちろん、医療以外の、例えば化学や食品等の逆止弁が必要とされる分野にも本発明の逆止弁を広範囲に利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1,2,3,4 逆止弁
1a 逆止弁の中心軸
10 第1ハウジング
11 第1流路
13 第1ハウジングの第1内面
14 第1ハウジングの第2内面
15 第1ハウジングの内面
20 第2ハウジング
21 第2流路
23 固定部
30 ハウジング
31 キャビティ
35 弾性膜と第1ハウジングとの間の隙間
50 弁体
51 突起(第1突起)
60 弾性膜
60a 弾性膜の第1面
60b 弾性膜の第2面
61,261,361,461 外周領域
61a,261a,361a,461a 外周領域の内周端
461b 円弧
461c 凸部