(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146072
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】転圧機械
(51)【国際特許分類】
E01C 19/26 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
E01C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058780
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅嶋 進弥
(72)【発明者】
【氏名】早坂 喜憲
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 貴尚
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 篤
【テーマコード(参考)】
2D052
【Fターム(参考)】
2D052AA09
2D052AD01
2D052AD11
2D052BA20
2D052BB05
2D052CA21
2D052CA24
(57)【要約】
【課題】オペレータの前部転圧輪に対する視認性を確保した上で、散布装置から散布された液剤がオペレータに降りかかることを軽減できる転圧機械を提供する。
【解決手段】車体前部にエンジンルーム16を画成してHSTのエンジン22等を収容する一方、前部転圧輪3fの外周面に向けて散布装置13,14から水A2及び溶剤A1を散布する。車体2のエンジンルーム16の右側に前斜め下方へと延びる開口部19を形成し、その上部後端19aを運転席8側に開口させ、下部前端19bを前部転圧輪3fに相対向させる。エンジンルーム16内で冷却ファン23により後方から前方へと流通する冷却風Cを生起してエンジン22を冷却すると共に、エンジンルーム16の右側面16aに貫設した排風口28を経て、エンジンルーム16内の冷却風Cを排風Dとして開口部19内に排出する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に設けられる前部転圧輪と、
前記車体に設けられ、前記前部転圧輪の外周面に向けて液剤を散布するための散布ノズルと、
前記車体に設けられ、前記前部転圧輪よりも後方に位置する運転席と、
前記車体に設けられる機器収容室と、
前記機器収容室内に搭載され、冷却風を生起する送風ファンと、
を備え、
前記前部転圧輪の少なくとも一部が運転席側に向かって露出するように構成された転圧機械において、
前記送風ファンにより生起された前記冷却風を前記原動機室内から車幅方向の車体外方に向かって排出可能な排風口を備え、
前記排風口は、前記散布ノズルと前記運転席との間に設けられていることを特徴とする転圧機械。
【請求項2】
前記排風口は、前記機器収容室を画定する車幅方向の側板に形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧機械。
【請求項3】
前記排風口は、複数条のスリットからなる
ことを特徴とする請求項3に記載の転圧機械。
【請求項4】
前記複数条のスリットは、それぞれ前記運転席側から前記前部転圧輪側へと前斜め下方に向けて延設されている
ことを特徴とする請求項5に記載の転圧機械。
【請求項5】
前記送風ファンは、前記機器収容室内の後方から前方へと流通する前記冷却風を生起し、
前記機器収容室内には、前記送風ファンにより生起された後方から前方へと流通した冷却風を前記排風口へと案内する案内板が設けられている
ことを特徴とする請求項3に記載の転圧機械。
【請求項6】
原動機と、
前記原動機の冷却水を冷却するための熱交換器と、
前記原動機により駆動される油圧ポンプと、
を備え、
前記送風ファンは、前記機器収容室内の後方から前方へと流通する前記冷却風を生起し、
前記機器収容室内には、後方から前方へと順に、前記熱交換器、前記原動機、前記油圧ポンプが配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の転圧機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転圧機械に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤローラ等の転圧機械による舗装作業等では、舗装材の転圧輪への付着防止を目的として、散布装置から転圧輪の外周面に水や溶剤等(以下、液剤と総称する)を散布している。風による液剤散布の乱れを防止するために、例えば特許文献1では、前部転圧輪の散布装置の上側にカバーを設けて上方からの風を遮っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、転圧機械の走行中には前部転圧輪の周辺に走行風が生じ、散布装置から散布された液剤が走行風に乗って舞い上ってオペレータに降りかかる場合がある。そこで、カバーにより散布装置を完全に遮蔽することも考えられるが、その場合にはオペレータが前部転圧輪の状態、例えば、その外周面への舗装材や泥等の付着状態、或いは液剤の散布状態等を視認し難くなるという新たな不具合が発生してしまう。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、オペレータの前部転圧輪に対する視認性を確保した上で、散布装置から散布された液剤がオペレータに降りかかることを軽減することができる転圧機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の転圧機械は、車体に設けられる前部転圧輪と、前記車体に設けられ、前記前部転圧輪の外周面に向けて液剤を散布するための散布ノズルと、前記車体に設けられ、前記前部転圧輪よりも後方に位置する運転席と、前記車体に設けられる機器収容室と、前記機器収容室内に搭載され、冷却風を生起する送風ファンと、を備え、前記前部転圧輪の少なくとも一部が運転席側に向かって露出するように構成された転圧機械において、前記送風ファンにより生起された前記冷却風を前記原動機室内から車幅方向の車体外方に向かって排出可能な排風口を備え、前記排風口が、前記散布ノズルと前記運転席との間に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の転圧機械によれば、オペレータの前部転圧輪に対する視認性を確保した上で、散布装置から散布された液剤がオペレータに降りかかることを軽減することができる。。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態のタイヤローラを示す正面図である。
【
図3】前部転圧輪の水及び溶剤散布装置の周辺を示す詳細図である。
【
図4】溶剤ノズルから散布された溶剤の噴霧と排風口から排出された排風との流れを示す斜視図である。
【
図5】同じく溶剤ノズルから散布された溶剤の噴霧と排風口から排出された排風との流れを示す側面図である。
【
図6】エンジンルーム内の各機器の配置を示すタイヤローラの断面図である。
【
図7】案内板によるエンジンルーム内の冷却風の流通状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をタイヤローラに具体化した一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態のタイヤローラを示す側面図、
図2は、タイヤローラを示す平面図である。以下の説明では、車両に搭乗した運転者を主体として前後、左右及び上下方向を規定する。
【0010】
タイヤローラ1(以下、車両と称する場合もある)の車体2の前部には、走行輪を兼ねた3本のゴム製の前部転圧輪3fが左右方向に並列配置され、車体2からヨーク4を介して操舵可能に支持されている。また車体2の後部には、走行輪を兼ねた4本のゴム製の後部転圧輪3rが左右方向に並列配置され、車体2から図示しないアクスルを介して支持されている。
【0011】
車体2上にはステアリング5及び前後進レバー6を備えた操作台7が設置され、操作台7の後側において車体2上の右側位置には運転席8が設置され、運転席8の直上にはルーフスタンド9を介してルーフ10が支持されている。結果として運転席8は、前部転圧輪3fの後端よりも後方に位置している。運転席8に着座したオペレータは、ステアリング5、前後進レバー6、及びフロア11上のペダル12を操作してタイヤローラ1を走行させ、舗装作業中には前部及び後部転圧輪3f,3rにより路面に敷きつめられた舗装材を締め固める。
【0012】
前部及び後部転圧輪3f,3rの近傍には、それぞれ水散布装置13及び溶剤散布装置14(それぞれ本発明の「液剤散布装置」に相当する)が設けられ、それぞれ車体2内に設けられた図示しない水タンク及び溶剤タンクと接続されている。舗装作業時には、前部及び後部転圧輪3f,3rの外周面への舗装材や泥の付着を防止すべく、それぞれの外周面に水タンクに貯留された水が水散布装置13から散布されたり、溶剤タンクに貯留された溶剤が溶剤散布装置14から散布されたりする。以下の説明では、これらの水及び溶剤を液剤と総称する場合もある。
【0013】
車体2上の操作台7の前側には、上方に開閉可能なフード15を備えたエンジンルーム16(本発明の「機器収容室」に相当する)が設けられている。エンジンルーム16の右側は、右側板16a(本発明の「側板」に相当する)により画定され、左側は、左側板16bにより画定され、上側は、フード15により画定され、下側は、床板16cにより画定され、前側は、前板16dにより画定され、後側は、後板16eにより画定されている。エンジンルーム16内にはHST(Hydro Static Transmission)が搭載されている。HSTの構成は周知のため概略のみを後述するが、エンジン22(本発明の「原動機」に相当する)より駆動される油圧ポンプ25からの作動油により車体2の各部に設置された油圧アクチュエータを駆動する油圧システムである(
図6に示す)。このHSTにより、後部転圧輪3rの駆動や前部転圧輪3fの操舵、或いは水及び溶剤散布装置13,14の作動等が行われる。
【0014】
図3は、前部転圧輪3fの水及び溶剤散布装置13,14の周辺を示す詳細図であり、同図に基づき、散布装置13,14の構成をさらに詳述する。
水及び溶剤散布装置13,14は前部転圧輪3fの上部前方に配設され、ヨーク4からブラケット18を介して支持されることにより、操舵角に関わらず前部転圧輪3fに対して所定の位置関係に保たれている。溶剤散布装置14は、ブラケット18に支持された左右に延びる溶剤パイプ14a上に、各前部転圧輪3fに対応してそれぞれ溶剤ノズル14bを設けてなる。各溶剤ノズル14bからは後斜め下方に向けて溶剤A1が噴射され、それぞれ対応する前部転圧輪3fの外周面に散布される。水散布装置13は、溶剤散布装置14の前側でブラケット18に支持された左右に延びる水パイプ13a上に、各前部転圧輪3fに対応してそれぞれ水ノズル13bを設けてなる。各水ノズル13bからは後方に向けて水A2が噴射され、それぞれ対応する前部転圧輪3fの外周面に散布される。
【0015】
図4は、溶剤ノズル14bから散布された溶剤A1の噴霧と排風口から排出された排風との流れを示す斜視図、
図5は、同じく溶剤ノズル14bから散布された溶剤A1の噴霧と排風口から排出された排風との流れを示す側面図である。なお、水ノズル13bから散布された水A2の噴霧も、溶剤A1の場合と同様に流れる。
【0016】
車体2のエンジンルーム16の右側、換言すると運転席8の前方に相当する箇所には、オペレータの視認性を確保するための開口部19が形成されている。開口部19の左側はエンジンルーム16の右側面16aにより画成され、開口部19の下側は車体2に形成された下側切欠き面2aにより画成され、開口部19の上側は車体2に形成された上側切欠き面2bにより画成され、開口部19の右側は右方に向けて開放されている。開口部19を介して車体2のエンジンルーム16の右側箇所は前後に分割され、前側の領域は、タイヤローラ1の装備品が取り付けられる取付構造体20として機能する。例えば取付構造体20には、図示しない前照灯が設けられたり、オペレータが後部転圧輪3rの転圧ぎわを視認するための死角確認鏡が支持されたりする。
【0017】
結果として、
図5に示すように開口部19は、運転席8側に開口する上部後端19aから前斜め下方へと直線状に延び、その下部前端19bを最も右側の前部転圧輪3fの外周面に相対向させている。このような開口部19を介して運転席8側と前部転圧輪3f側とが連通し、運転席8に着座したオペレータは、前部転圧輪3fの外周面への舗装材や泥の付着状態、或いは散布装置13,14からの液剤A1,A2の散布状態を視認可能となっている。オペレータの視認性を考慮して、車体2の下側切欠き面2a(開口部19の下側)と上側切欠き面2b(開口部19の上側)とは以下のように設定されている。
【0018】
図1に示すように下側切欠き面2aは、オペレータのアイポイントPと前部転圧輪3fの回転軸線Cよりも若干上側位置とを結んで規定された下限ラインLaに沿って、前斜め下方に傾斜して形成されている。また、上側切欠き面2bは、オペレータのアイポイントPと水及び溶剤散布装置13,14の上部とを結んで規定された上限ラインLbよりも若干上側で、且つ上限ラインLbに沿って前斜め下方に傾斜して形成されている。以上の切欠き面2a,2bの設定により、運転者のアイポイントPと前部転圧輪3fの外周面や散布装置13,14との間に障害物として車体2が存在しなくなるため、オペレータは開口部19を介して前部転圧輪3fの外周面への舗装材や泥の付着状態や散布装置13,14からの液剤A1,A2の散布状態を容易に視認することができる。但し、切欠き面2a,2bの設定はこれに限るものではなく、例えば散布装置13,14の配置等に応じて任意に変更可能である。
【0019】
また、下限及び上限ラインLa,Lbに基づく設定により、開口部19はオペレータの視線に沿った前斜め下方に傾斜する形状をなしている。このため、オペレータの視線を確保した上で、開口部19の形成のために車体2に切り欠かれる領域が最小限にとどめられる。車体2には十分な容量の水タンクや溶剤タンク等を設けることが要望されるが、これらのタンク容量を減じることなく、オペレータの視認性を確保することができる。
【0020】
一方、このように運転席8側と前部転圧輪3f側とが開口部19を介して連通していると、タイヤローラ1の走行中において、前部転圧輪3fの周辺に生じた走行風が開口部19を経て運転席8側へと流れる現象が発生する。前部転圧輪3fの外周面に衝突して飛び散った液剤A1,A2の噴霧Bも走行風に乗って開口部19内を運転席8側へと流れるため、噴霧Bがオペレータに降りかかる事態を防止する対策を講じており、その詳細を以下に述べる。
【0021】
図6は、エンジンルーム16内の各機器の配置を示すタイヤローラ1の断面図、
図7は、案内板によるエンジンルーム16内の冷却風の流通状態を示す斜視図である。
エンジンルーム16内には、HSTのエンジン22が前後方向に沿った姿勢で配設され、エンジン22の後部には冷却ファン23が配設されると共に、ラジエータやオイルクーラ等の熱交換器24が配設されている。エンジン22の前部にはHSTの油圧ポンプ25が連結され、油圧ポンプ25から吐出される作動油により車体各部の油圧アクチュエータが作動するようになっている。例えば、
図6に示すように油圧ポンプ25は油圧配管26を介して車体後部の油圧モータ27と接続され、油圧ポンプ25からの作動油の供給を受けて油圧モータ27が後部転圧輪3rを駆動する。
【0022】
そして、タイヤローラ1の稼動中には冷却ファン23が作動し、エンジンルーム16内に冷却風C(
図6,7中に黒矢印で示す)を生起する。詳しくは、冷却ファン23により操作台7の下側から外気が冷却風Cとしてエンジンルーム16内に採り込まれ、エンジンルーム16内で車両後方から前方へと流通する際に、熱交換器24、エンジン22及び油圧ポンプ25を順次冷却する。
【0023】
図4,6に示すように、車体2の開口部19内に露出したエンジンルーム16の右側面16a(本発明の「エンジンルームの側面」に相当)には3条のスリット28aからなる排風口28が貫設され、この排風口28を介してエンジンルーム16内と開口部19内とが連通している。各スリット28aは所定間隔をおいて並列すると共に、それぞれ開口部19に沿った前斜め下方に向けて直線状に延設されている。
【0024】
図7に示すようにエンジンルーム16内には、冷却風Cを排風口28側に案内するための案内板29が設けられ、平面視において案内板29は、略直角状に湾曲した形状をなしている。詳しくは、案内板29の左面部29aがエンジン22の前部左側で前方へと延び、左面部29aから湾曲箇所を介して前面部29bがエンジン22の前側で右方へと延び、前面部29bの右端がエンジンルーム16の右側面の排風口28よりも前側位置に接続されている。エンジンルーム16内を流れる冷却風Cをまんべんなく案内するために、
図6に示すように案内板29の上部はフード15内まで及んでいる。
【0025】
従って、冷却ファン23により生起された冷却風Cは、エンジンルーム16内を後方へと流れてエンジン22等の冷却作用を奏した後に、案内板29に沿って右方へと案内される。冷却風Cがエンジンルーム16内の右側面に到達すると、排風口28から排風Dとして車体2の開口部19内に排出されて、開口部19内を右方(本発明の「車体側方」に相当)、前方且つ下方へと斜め方向に流れる(
図4,5中に白矢印で示す)。
【0026】
主として排風Dの右方への流れは、エンジンルーム16の右側面16aに排風口28が形成されていること、及び冷却風Cが案内板29で右方に案内されることによって生じる。また、排風Dの前方への流れは、エンジンルーム16内での前方への流れ方向が残存することによって生じる。また、排風Dの下方への流れは、エンジンルーム16の上部を閉鎖するフード15で上方への吹き抜けが妨げられることによって生じる。これにより、各方向の成分を含む斜め方向の排風Dが生起される。
【0027】
以上のようにして排風口28から排出された排風Dは、前部転圧輪3fの外周面に衝突して飛び散った液剤A1,A2の噴霧Bの流れ方向を変更する作用を奏する。
即ち、仮に排風Dが生起されない場合には、前部転圧輪3fの周辺に生じた走行風が開口部19内を経て運転席8側へと流れ、この走行風に乗って液剤A1,A2の噴霧Bも運転席8側へと流れてオペレータに降りかかってしまう。このような走行風に排風口28から排出された排風Dが衝突すると、後斜め上方への走行風の流れ方向、ひいては液剤A1,A2の噴霧Bの流れ方向は、例えば下方、後方且つ右方の斜め方向に変更される(
図4,5中に破線矢印で示す)。このため、開口部19内への走行風の流入が妨げられると共に、一部の走行風が開口部19内に流入したとしても、排風Dにより右方に逸らされたり、或いは逆方向に押し返されたりし、開口部19内を経て運転席8側に達する走行風はほとんど存在しなくなる。従って、走行風に乗って移送される液剤A1,A2の噴霧Bについても運転席8側への移送が妨げられ、オペレータに液剤A1,A2の噴霧Bが降りかかる事態を未然に防止することができる。
【0028】
特に本実施形態では、車体2の開口部19が右方に向けて開放されているため、この開放箇所が走行風の逃げ場として機能して、運転席8側への噴霧Bの移送を妨げ易くしている。例えば、仮に開口部19が右方に開放されずに車体2の右側面が連続することで閉塞されている場合でも、開口部19を介したオペレータの視認性は良好に保たれる。しかしながら、開口部19内に流入した走行風に排風Dが衝突したとき、逃げ場がないため走行風は開口部19内を逆流するしかなく、その際に一部の走行風と共に液剤A1,A2の噴霧Bが排風Dをすり抜けて運転席8側に流れる可能性も生じる。開口部19が右方に向けて開放されていると、斜め右方に流れる排風Dにより、走行風と共に噴霧Bは、例えば
図4に示すように右方の開口部19外へと流れ方向を逸らされるため、結果として運転席8側への噴霧Bの移送をより確実に防止することができる。
【0029】
但し、以上の説明は、右方に向けて開放された開口部19に限定する趣旨ではなく、開口部19を右方に向けて開放させない(閉塞した)構成についても本発明に含むものとする。
【0030】
また、排風口28からの排風Dの排出方向(右方、前方且つ下方への斜め方向)についても、開口部19内での走行風のすり抜けを極力防止すべく設定されたものである。前方且つ下方の斜め方向への流れは、開口部19に沿った方向であるため、逆方向から開口部19に流入した走行風に衝突して押し返すために好適であり、右方の斜め方向への流れは、衝突した走行風の流れ方向を右方に逸らすために好適である。これらの要因により、開口部19内に流入した走行風と共に液剤A1,A2の噴霧Bが排風Dをすり抜ける現象をより確実に防止することができる。
【0031】
なお、排風口28からの排風Dの排出方向は必ずしも上記に限るものではなく、走行風に乗って運転席8側に移送される液剤A1,A2の噴霧Bを妨げることができれば、任意に変更可能である。従って、例えば排風口28から排風Dを下方且つ前方の斜め方向に排出したり、下方且つ右方の斜め方向に排出したりしてもよい。
【0032】
一方、所定間隔をおいて並列した3条のスリット28aにより排風口28を構成し、各スリット28aを開口部19に沿って前斜め下方に向けて延設した点も、以下の利点につながる。まず、トラブル防止の観点から見ると、3条のスリット28aに分割することで、望ましい排風口28の開口面積を確保した上で、その開口幅を狭めて作業者の不用意な手の差し込み等を防止できる。加えて、同一の開口面積であっても排風口28を複数のスリット28aに分割した場合には、単一の大面積の排風口よりも騒音を通過させ難くなるため、エンジンルーム16内から外部に漏れる騒音を低減できるという効果も得られる。
【0033】
また、開口部19内での走行風のすり抜け防止の観点から見ると、排風口28が前斜め下方に延設されていると、前方且つ下方への排風Dの流れが生起され易くなり、上記したような開口部19内で走行風を押し返す作用がより確実に得られる。さらに、各スリット28aから排出された排風Dが乱流を形成し易くなるため、液剤A1,A2の噴霧Bの流れ方向を変更するだけでなく、乱流により噴霧Bを撹拌して気化を促進する作用が得られ、これにより噴霧Bの形態で運転席側に移送される液剤A1,A2を減少できる。
【0034】
加えて、エンジンルーム16内で前方へと流れる冷却風Cは、まず各スリット28aの上部に到達するため、各スリット28aの長手方向において、上部が最も排風Dの排出量が多く、下部ほど排出量が減少する。従って、開口部19内を運転席8側へと流れる走行風は、排風Dの衝突を受けて次第に減少すると共に、各スリット28aの上部に達した時点では、大量の排風Dの衝突を受けて確実に押し返されると共に、その流れ方向を右方に逸らされる。これらの要因は、開口部19内での走行風のすり抜け防止、ひいては液剤A1,A2の噴霧Bのすり抜ける防止に大きく寄与する。
なお、各スリット28aの上部からより多くの排風Dを排出すべく、スリット28aの下部に比較して上部を幅広としてもよい。
【0035】
そして、以上の作用効果を達成した上で、走行風の流れ方向を変更するために、視界を遮ることがない排風Dを利用している。従って、オペレータは良好な視界を保たれ、開口部19を介して前部転圧輪3fの状態を明確に視認することができる。
【0036】
一方、本実施形態では、エンジンルーム16内で冷却風Cを案内板29により排風口28へと案内している。従って、冷却風Cが高い速度を保った状態で排風Dとして排風口28から排出されるため、液剤A1,A2の噴霧Bの流れ方向をより確実に変更して上記効果を達成することができる。
【0037】
また、本実施形態では、エンジンルーム16内を流通する冷却風Cを利用して排風Dを生起している。詳しくは、一般的なタイヤローラでは、エンジンルーム内に前方から熱交換器、エンジン、油圧ポンプの順に配置して、冷却ファンにより車体の前部から採り入れた外気を冷却風としてエンジンルーム内で後方へと流通させて冷却作用を得ている。本実施形態では、このような配置をあえて逆転させることにより、エンジンルーム16内で後方から前方へと流通させた冷却風Cを利用して排風Dを生起し、これにより液剤A1,A2の噴霧Bの流れ方向を変更している。このため、排風Dを生起する送風装置を追加する必要がなくなることは無論、運転席8側に移送される液剤A1,A2の噴霧Bを減少できるという別の効果も得られる。
【0038】
即ち、エンジンルーム16内に採り込まれた冷却風Cは、エンジン22等を冷却する際に受熱して昇温され、排風口28から排出されたときに高い温度をもって液剤A1,A2の噴霧Bと交わる。従って、上記のような排風Dが形成する乱流に加えて、昇温された排風Dの温度も液剤A1,A2の噴霧Bの気化を促進させるために寄与し、噴霧Bの形態で運転席側に移送される液剤A1,A2が減少することから、オペレータに噴霧Bが降りかかる事態を一層確実に防止することができる。
【0039】
特に本実施形態では、エンジンルーム16内で後方から前方へと順に、熱交換器24、エンジン22、油圧ポンプ25を配置している。このため冷却風Cは、各機器24,22,25を順次冷却する過程で段階的に受熱し、各機器24,22,25の熱を無駄なく冷却風Cの昇温に利用できる。従って、排風口28から高温の排風Dを排出して、液剤A1,A2の噴霧Bを効率的に気化させることができる。
【0040】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態ではタイヤローラ1に適用したが、他の転圧機械に適用してもよい。
【0041】
また上記実施形態では、液剤散布装置として前部転圧輪3fの外周面に水A2を散布する水散布装置13、及び溶剤A1を散布する溶剤散布装置14を設けたが、これに限るものではなく、例えば、何れか一方のみを備えてもよい。
【0042】
また上記実施形態では、車体2上の右側に設けられた運転席8に対応して、エンジンルーム16の右側に開口部19及び排風口28を設けたが、これに限るものではない。運転席8が左側に設けられている場合には、エンジンルーム16の左側に開口部19及び排風口28を設けてもよい。また、左右の転圧ぎわの視認のために車体2上で運転席8の位置を左右に切換可能な場合には、エンジンルーム16の左右両側にそれぞれ開口部19及び排風口28を設けてもよい。また、その場合には運転席8の左右切換に連動して、反対側となる排風口28を閉鎖するように構成してもよい。
【0043】
また上記実施形態では、エンジンルーム16の右側面16aに、斜め方向に延びる3条のスリット28aからなる排風口28を設けたが、排風口28の位置や形状はこれに限るものではない。例えば、下側切欠き面2aや上側切欠き面2bに排風口28を設けてもよい。また、各スリット28aを前後方向または上下方向に延設してもよいし、単一の排風口28を形成してメッシュ状のパネルで覆ってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 タイヤローラ(転圧機械)
2 車体
3f 前部転圧輪
8 運転席
13 水散布装置(液剤散布装置)
13b 水ノズル
14 溶剤散布装置(液剤散布装置)
14b 溶剤ノズル
16 エンジンルーム(機器収容室)
16a 右側面(側板)
19 開口部
20 取付構造体
22 エンジン(原動機)
23 冷却ファン
24 熱交換器
25 油圧ポンプ
28 排風口
28a スリット
29 案内板