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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146075
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】張力調整装置及び建設機械
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/30 20060101AFI20241004BHJP
   E02F 9/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B62D55/30 A
E02F9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058783
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕宜
(57)【要約】
【課題】アジャスタ機構による履帯の張力の調整作業を容易に実施できる張力調整装置及び建設機械を提供する。
【解決手段】クローラ3を構成する履帯3eの張力調整用のアジャスタシリンダ15aのグリス室18に対し、張力調整装置31のグリスポンプ34をカプラ24,36を介して接続し、モータ37によりグリスポンプ34を駆動する。クローラ3をジャッキアップした状態で、履帯3eの下側部との間の距離L(弛みと相関)を距離センサ39で計測する。アジャスタ用コントローラ38により、距離Lが推奨範囲の上限値L1よりも大のときはグリスポンプ34を正転させてグリス室18にグリスを注入し、推奨範囲の下限値L2よりも小のときはグリスポンプ34を逆転させてグリス室18からグリスを排出する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のクローラを構成する履帯の張力を調整する張力調整装置であって、
前記履帯の張力調整用のアジャスタシリンダの油脂室に対しユニット側油圧接続部を介して脱着可能に接続され、前記油脂室に対して油脂を注入及び排出する油脂給排装置と、
前記クローラを支持するサイドフレームに脱着可能に取り付けられ、前記履帯の弛みを計測する弛み計測装置と、
前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき前記油脂給排装置を駆動制御して、前記アジャスタシリンダへの前記油脂の注入及び排出を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする張力調整装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記建設機械の運転室に設けられたガイダンス部に対しユニット側信号接続部を介して脱着可能に接続され、前記ガイダンス部により前記履帯の張力調整作業の手順を提示する
ことを特徴とする請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記油脂給排装置により前記油脂室に対して油脂を注入及び排出する毎に、前記張力調整作業の手順の1つとして前記ガイダンス部により前記クローラのジャッキアップ及び空転を指示する
ことを特徴とする請求項2に記載の張力調整装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき、前記油脂の注入及び排出に応じた前記油脂給排装置の駆動方向及び駆動時間を算出し、算出結果に基づき前記油脂給排装置を駆動制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項5】
前記油脂給排装置、前記弛み計測装置及び前記制御装置は、裏面にマグネットが装着された共通のケーシングに収容され、前記サイドフレームに設けられた嵌合部で位置決めされた状態で前記マグネットを前記サイドフレームに吸着させて脱着可能に取り付けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項6】
クローラにより走行可能とされ、前記クローラを構成する履帯の張力調整用のアジャスタシリンダの油脂室に対して油脂を注入及び排出する油脂給排装置、前記履帯の弛みを計測する弛み計測装置、及び前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき前記油脂給排装置を駆動制御して、前記アジャスタシリンダへの前記油脂の注入及び排出を制御する制御装置から構成された張力調整装置が脱着可能に取り付けられる建設機械において、
前記アジャスタシリンダの前記油脂室内と連通するように設けられ、前記油脂給排装置が脱着可能に接続される車体側油圧接続部と、
前記クローラを支持するサイドフレームに設けられ、前記弛み計測装置が脱着可能に取り付けられる脱着取付部と、
を備えたことを特徴とする建設機械。
【請求項7】
運転室に設けられたガイダンス部とハーネスを介して接続されて前記脱着取付部の近傍に配設され、前記制御装置から出力される前記履帯の張力調整作業の手順を前記ガイダンス部に提示させるべく、前記制御装置が脱着可能に接続される車体側信号接続部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項6に記載の建設機械。
【請求項8】
前記車体側油圧接続部を介した前記油脂室と前記油脂給排装置との接続の良否、及び前記車体側信号接続部を介した前記制御装置と前記ガイダンス部との接続の良否をそれぞれ診断する接続診断部をさらに備え、
前記接続診断部は、前記車体側油圧接続部及び前記車体側信号接続部の何れかが接続不良と判定したときに、再接続の指示を前記ガイダンス部により提示する
ことを特徴とする請求項6に記載の建設機械。
【請求項9】
前記車体側油圧接続部と前記油脂室との間には、前記油脂室内の圧力を検出する圧力検出部が介装され、
前記接続診断部は、前記油脂給排装置により前記油脂室に油脂が注入されて予め設定された診断時間が経過しても、前記圧力検出部により検出される圧力が予め設定された圧力判定値以上にならない場合に、前記車体側油圧接続部の接続不良の判定を下す
ことを特徴とする請求項7に記載の建設機械。
【請求項10】
前記車体側油圧接続部と前記油脂室との間には、手動式の開閉弁が介装されている
ことを特徴とする請求項6に記載の建設機械。
【請求項11】
クローラにより走行可能な建設機械において、
前記クローラを構成する履帯の張力調整用のアジャスタシリンダの油脂室に接続され、前記油脂室に対して油脂を注入及び排出する油脂給排装置と、
前記クローラを支持するサイドフレームに設けられ、前記履帯の弛みを計測する弛み計測装置と、
前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき前記油脂給排装置を駆動制御して、前記アジャスタシリンダへの前記油脂の注入及び排出を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする建設機械。
【請求項12】
前記制御装置は、運転室に設けられたガイダンス部に対し接続され、前記ガイダンス部により前記履帯の張力調整作業の手順を提示する
ことを特徴とする請求項11に記載の建設機械。
【請求項13】
前記制御装置は、前記油脂給排装置により前記油脂室に対して油脂を注入及び排出する毎に、前記張力調整作業の手順の1つとして前記ガイダンス部により前記クローラのジャッキアップ及び空転を指示する
ことを特徴とする請求項12に記載の建設機械。
【請求項14】
前記制御装置は、前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき、前記油脂の注入及び排出に応じた前記油脂給排装置の駆動方向及び駆動時間を算出し、算出結果に基づき前記油脂給排装置を駆動制御する
ことを特徴とする請求項11に記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラの履帯の張力を調整する張力調整装置、張力調整装置が脱着可能に取り付けられる建設機械、及び張力調整装置を内蔵した建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油圧ショベルやブルドーザ等の建設機械には左右一対のクローラが備えられ、各クローラは、駆動スプロケット、アイドラ、トラックローラ及びキャリアローラに環状をなす履帯を巻掛けて構成されている。履帯は駆動スプロケットにより駆動されて建設機械を走行させ、その稼働に伴って次第に摩耗して張力が低下するため、定期的に張力調整の作業が実施されている。また、鉱山等で稼動する超大型油圧ショベル等では、車体を分解した状態で作業現場に運び込むため、組立の際に履帯の張力調整が必須の作業となり、その実施の頻度がより高くなる。
【0003】
このような張力調整の作業のために、クローラにはアジャスタ機構が備えられている。詳しくは、クローラのアイドラにはアジャスタ機構のアジャスタシリンダが連結され、アジャスタシリンダの一側にはアジャスタバルブが螺合している。このアジャスタバルブを介してグリスガン等によりアジャスタシリンダへのグリスの注入や排出が行われ、それに応じてアイドラが前後方向に移動して履帯の張力が調整される。
【0004】
履帯の張力を弱めるためにアジャスタシリンダからグリスを排出する場合には、アジャスタバルブを緩め操作し、アジャスタバルブに形成された排出溝を介してアジャスタシリンダ内を外部と連通させる。これによりアジャスタシリンダ内のグリスが排出溝を経て外部に排出されるが、その際にアジャスタバルブの螺合を完全に解除してしまうと、グリスの圧力を受けたアジャスタバルブが不用意に飛び出してしまう。その対策として、例えば特許文献1には、アジャスタバルブの飛び出しを防止する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6899809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アジャスタ機構による履帯の張力調整は、車体をジャッキアップして履帯に弛みを生じさせ、弛みの計測結果に基づき実施する必要がある。詳しくは、車体のジャッキアップにより張力調整の対象となる左右何れかのクローラを地表から離間させ、このときの履帯の弛みを計測する。次いで、予め設定された推奨範囲に対して弛みが過大な場合には、アジャスタシリンダにグリスを注入し、推奨範囲に対して弛みが過小な場合には、アジャスタシリンダからグリスを排出する。
【0007】
弛みの計測結果に基づくグリスの注入量や排出量は作業者の目分量で行われるため、履帯の弛みを予め設定された推奨範囲に収めるまでには、上記した弛みの計測とグリスの注入・排出とを何度も繰り返す必要がある。この点は特許文献1の技術でも同様であり、結果として履帯の張力調整が非常に煩雑な作業となり、従来から作業の簡略化が望まれていた。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、アジャスタ機構による履帯の張力の調整作業を容易に実施することができる張力調整装置及び建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の張力調整装置は、建設機械のクローラを構成する履帯の張力を調整する張力調整装置であって、前記履帯の張力調整用のアジャスタシリンダの油脂室に対しユニット側油圧接続部を介して脱着可能に接続され、前記油脂室に対して油脂を注入及び排出する油脂給排装置と、前記クローラを支持するサイドフレームに脱着可能に取り付けられ、前記履帯の弛みを計測する弛み計測装置と、前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき前記油脂給排装置を駆動制御して、前記アジャスタシリンダへの前記油脂の注入及び排出を制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の建設機械は、クローラにより走行可能とされ、前記クローラを構成する履帯の張力調整用のアジャスタシリンダの油脂室に対して油脂を注入及び排出する油脂給排装置、前記履帯の弛みを計測する弛み計測装置、及び前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき前記油脂給排装置を駆動制御して、前記アジャスタシリンダへの前記油脂の注入及び排出を制御する制御装置から構成された張力調整装置が脱着可能に取り付けられる建設機械において、前記アジャスタシリンダの前記油脂室内と連通するように設けられ、前記油脂給排装置が脱着可能に接続される車体側油圧接続部と、前記クローラを支持するサイドフレームに設けられ、前記弛み計測装置が脱着可能に取り付けられる脱着取付部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の建設機械は、クローラにより走行可能な建設機械において、前記クローラを構成する履帯の張力調整用のアジャスタシリンダの油脂室に接続され、前記油脂室に対して油脂を注入及び排出する油脂給排装置と、前記クローラを支持するサイドフレームに設けられ、前記履帯の弛みを計測する弛み計測装置と、前記弛み計測装置により計測された弛みに基づき前記油脂給排装置を駆動制御して、前記アジャスタシリンダへの前記油脂の注入及び排出を制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の張力調整装置及び建設機械によれば、アジャスタ機構による履帯の張力の調整作業を容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の超大型油圧ショベルを示す側面図である。
図2】第1実施形態の油圧ショベルにおいて側面カバーを取り外して張力調整装置を取り付けたときの図1のA部拡大図である。
図3】アジャスタシリンダの詳細を示す断面図である。
図4】張力調整装置を示す構成図である。
図5】車体側コントローラが実行するユニット取付ルーチンを示すフローチャートである。
図6】同じく車体側コントローラが実行する接続診断ルーチンを示すフローチャートである。
図7】アジャスタ用コントローラが実行する履帯張力調整ルーチンを示すフローチャートである。
図8】同じくアジャスタ用コントローラが実行するグリス注入・排出ルーチンを示すフローチャートである。
図9】第2実施形態の油圧ショベルにおいて側面カバーを取り外して張力調整装置を露出させたときの図1のA部拡大図である。
図10】左右の張力調整装置と車体側コントローラとの関係を示す構成図である。
図11】車体側コントローラが実行する履帯張力調整ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明を鉱山等で稼働する第1実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の油圧ショベルを示す側面図であり、以下の説明では、油圧ショベルに搭乗したオペレータを主体として前後、左右、上下方向を表現する。
【0015】
油圧ショベル1の下部走行体2には左右一対のクローラ3が備えられ、各クローラ3は図示しない走行用油圧モータにより駆動されて油圧ショベル1を走行させる。下部走行体2上には旋回装置4を介して上部旋回体5が設けられ、旋回装置4の図示しない旋回用油圧モータの駆動により上部旋回体5が旋回する。上部旋回体5の前部にはオペレータが搭乗する運転室6が設置され、上部旋回体5の後部にはカウンタウエイト7が固定されている。
【0016】
上部旋回体5の運転室6の右側には掘削用の作業フロント8が前方に向けて取り付けられ、作業フロント8はブーム9、アーム10及びバケット11から構成されている。ブーム9はブームシリンダ9aにより角度変更され、アーム10はアームシリンダ10aにより角度変更され、バケット11はバケットシリンダ11aにより角度変更される。
【0017】
上部旋回体5の運転室6の後側にはエンジン建屋12が構築され、図示はしないがエンジン建屋12内には、エンジンを動力源としたパワーユニットが収容されている。エンジンによりパワーユニットの油圧ポンプが駆動され、油圧ポンプから吐出された作動油がオペレータの運転操作に応じて油圧回路により切り換えられて上記した走行用油圧モータ、旋回用油圧モータ、各シリンダ9a,10a,11aに供給され、これにより油圧ショベル1が稼動する。
【0018】
図示はしないが下部走行体2のトラックフレームは、センタフレームの左右両側にサイドフレーム13(図2に示す)を連結してなり、これらのサイドフレーム13の外側面にクローラ3が支持されている。各クローラ3は、後側に位置して走行用油圧モータで駆動される駆動スプロケット3a、前側に位置するアイドラ3b、上側に位置する複数のキャリアローラ3c、及び下側に位置する複数のトラックローラ3dに対して、環状をなす履帯3eを巻掛けて構成されている。
【0019】
図2は、側面カバーを取り外して張力調整装置を取り付けたときの図1のA部拡大図、図3は、アジャスタシリンダを示す断面図である。なお、以下の説明では、左側のクローラ3に設けられたアジャスタ機構について述べるが、右側も左右対称の同一構造である。
【0020】
アジャスタ機構15はアイドラ3bの後側でサイドフレーム13の外側面に配設され、通常時には脱着可能な側面カバー16(図1に示す)により外部から隠蔽されている。アジャスタ機構15は、アジャスタシリンダ15a、ヨーク15b、及びアイドラ3bを前後方向に案内する図示しないガイド部材から構成されている。アジャスタシリンダ15aによりヨーク15bを介してアイドラ3bを前後に移動させ、これにより履帯3eの張力を調整している。
【0021】
図3に示すように、アジャスタシリンダ15aのケーシング17には後方からグリス室18(油脂室)が穿設され、グリス室18内にはピストン19が前後方向に摺動可能に配設されて、内部にグリス(油脂)が充填されている。ピストン19からは後方に向けてロッド20が延設され、図示はしないがロッド20の後端がサイドフレーム13に連結されている。ケーシング17内においてグリス室18には配管21の一端が接続され、配管21はケーシング17から外部に引き出されている。配管21上にはグリス室18側から順に、グリス室18内の圧力を検出する圧力センサ22(圧力検出部)及び手動式の開閉弁23が介装されると共に、配管21の他端には車体側カプラ24(車体側油圧接続部)が接続されている。車体側カプラ24は配管21を介してグリス室18と連通し、通常時の開閉弁23は閉弁してグリス室18内のグリスの車体側カプラ24からの漏れを防止している。
【0022】
また、ケーシング17には前方から作動油室25が穿設され、作動油室25内にはピストン26が前後方向に摺動可能に配設されて、内部に作動油が貯留されている。ピストン26からは前方に向けてロッド27が延設され、ロッド27の前端にヨーク15bを介してアイドラ3bが連結されている。ケーシング17内において作動油室25には配管28の一端が接続され、配管28はケーシング17から外部に引き出されてアキュムレータ29が接続されている。
【0023】
開閉弁23の開弁時において、後述する張力調整装置31によりアジャスタシリンダ15aのグリス室18内にグリスが注入・排出されると、それに応じてグリス室18内でピストン19が摺動する。これによりグリスの注入時には、アジャスタシリンダ15a、ヨーク15b及びアイドラ3bが一体で前方に移動して履帯3eの弛みを減少させ、グリスの排出時には、アジャスタシリンダ15a、ヨーク15b及びアイドラ3bが一体で後方に移動して履帯3eの弛みを増加させる。また、油圧ショベル1の前進中に砕石等がクローラ3に衝突すると、アイドラ3b、ヨーク15b及びロッド27を介してピストン26が後方に押され、それに伴う作動油室25内の圧力上昇が配管28を介してアキュムレータ29に吸収され、これにより衝撃が緩和される。
【0024】
ところで、既述したように特許文献1の技術を含めた従来技術のアジャスタ機構では、履帯の弛みを推奨範囲に収めるまでに、履帯の弛みの計測とグリスの注入・排出とを何度も繰り返す必要があった。このような不具合の対策として本実施形態では、弛みの計測及びグリスの注入・排出を自動的に実施すると共に、その機能を奏する張力調整装置31を左右のサイドフレーム13に脱着可能としており、その詳細を以下に述べる。
【0025】
図4は、張力調整装置31を示す構成図である。グリスを貯留したグリスタンク32にはフィルタ33を介してグリスポンプ34の吸込側が接続され、グリスポンプ34の吐出側にはホース35を介してユニット側カプラ36(ユニット側油圧接続部)が接続され、グリスポンプ34はモータ37により正逆両方向に駆動されるようになっている。ユニット側カプラ36は車体側カプラ24に脱着可能に接続され、カプラ24,36の接続状態で開閉弁23が開弁されると、グリスポンプ34とアジャスタシリンダ15aのグリス室18内とが連通する。
【0026】
そして、グリスポンプ34の正転時には、グリスタンク32のグリスがグリスポンプ34に吸い上げられ、ホース35及び配管28を経てグリス室18内に注入されるため、アイドラ3bの前方への移動に伴い履帯3eの弛みが減少する。また、グリスポンプ34の逆転時には、グリス室18内のグリスが配管28及びホース35を経てグリスポンプ34に吸い出されてグリスタンク32に排出されるため、アイドラ3bの後方への移動に伴い履帯3eの弛みが増加する。以上のグリスタンク32、フィルタ33、グリスポンプ34及びモータ37により油脂給排装置が構成されている。
【0027】
なお、カプラ24,36として、接続・切断操作に応じて通路を自動的に開閉する所謂クイックカプラ機能を備えたものを使用することもでき、その場合には開閉弁23を省略してもよい。
【0028】
モータ37はアジャスタ用コントローラ38(制御装置)に接続され、アジャスタ用コントローラ38には、後述する履帯3eに生じた弛みと相関する距離Lを計測する距離センサ39(弛み計測装置)が接続されると共に、ハーネス40を介してユニット側コネクタ41(ユニット側信号接続部)が接続されている。アジャスタ用コントローラ38は、距離センサ39により計測された距離Lを入力し、この距離Lと予め設定された推奨範囲との比較に基づき、グリスポンプ34の駆動方向及び駆動時間T2,T3を算出し、これらの算出結果に基づきモータ37を駆動制御する。
【0029】
一方、上部旋回体5の運転室6内には車体側コントローラ43(接続診断部)が設置され、図2に示すように、車体側コントローラ43にはタッチパネル式のディスプレイ44(ガイダンス部)が接続されている。上記したオペレータの運転操作に応じたパワーユニットの油圧回路の切換は、この車体側コントローラ43により実行される。また、車体側コントローラ43にはハーネス45の一端が接続され、ハーネス45は上部旋回体5から下部走行体2へと配索されて左右に分岐し、左右のクローラ3の近傍でそれぞれの他端に車体側コネクタ46(車体側信号接続部)が接続されている。
【0030】
各コネクタ46は、左右のサイドフレーム13の外側面上のアジャスタ機構15よりも後側位置に固定され、これらのコネクタ46の何れかに選択的に張力調整装置31のユニット側コネクタ41が脱着可能に接続される。これにより、アジャスタ用及び車体側コントローラ38,43の相互通信が可能になると共に、車体側コントローラ43を介してアジャスタ用コントローラ38がディスプレイ44により作業者に対して任意の情報を提示可能となる。
【0031】
図2に示すように、張力調整装置31を構成するグリスポンプ34等の各部品は、直方体状をなす共通のケーシング47に収容されてユニット化され、距離センサ39はケーシング47の下面から下方に指向している。また、ケーシング47からはユニット側カプラ36及びユニット側コネクタ41が外部に引き出され、ケーシング47の裏面にはマグネット48が装着されている。左右のサイドフレーム13の外側面上のアジャスタ機構15よりも後側位置には、それぞれケーシング47の四隅に対応して直角状の嵌合部49(脱着取付部)が溶接されている。
【0032】
これらの嵌合部49とマグネット48とにより、サイドフレーム13の外側面上の所定位置に張力調整装置31が脱着可能に取り付けられる。即ち、左右何れかのサイドフレーム13上で各嵌合部49の中央にケーシング47を嵌め込むと、前後及び上下方向にケーシング47が位置決めされる。これと共にマグネット48がサイドフレーム13の外側面に吸着されるため、ケーシング47が左右方向に位置決めされると共に、各嵌合部49からの脱落が防止される。
【0033】
なお、このように本実施形態の張力調整装置31はケーシング47によりユニット化されると共に、嵌合部49及びマグネット48によりサイドフレーム13に脱着可能に取り付けられるが、これに限るものではない。例えば、張力調整装置31の各部品を個別にサイドフレーム13に取り付けてもよいし、ボルト等を利用してサイドフレーム13にケーシング47を取り付けてもよい。
【0034】
以上のような張力調整装置31の取付状態では、図2に実線で示すように、環状をなす履帯3eの下側部(接地する部位)の前後中央に対して距離センサ39が相対向する。そして、クローラ3をジャッキアップして地表から離間させると、二点鎖線で示すように履帯3eの下側部が弛み、このときの下側部との間の距離Lを距離センサ39が計測可能となる。
【0035】
張力調整装置31は、張力調整の対象となる左右何れかのクローラ3のサイドフレーム13に取り付けられて履帯3eの張力を調整するのであるが、その取付操作のガイダンスは車体側コントローラ43により実行される。そこで、まず車体側コントローラ43の処理について述べる。なお、説明の前提として、張力調整装置31は油圧ショベル1から取り外され、アジャスタシリンダ15aの開閉弁23は閉弁保持され、制御用のコネクタ接続完了フラグF1及びカプラ接続完了フラグF2は共に0に設定されているものとする。
【0036】
図5は、車体側コントローラ43が実行するユニット取付ルーチンを示すフローチャートであり、車両のキースイッチがON操作されると、車体側コントローラ43は当該ルーチンを開始する。
【0037】
まず、ステップS1で、ディスプレイ44に作業メニューを表示する。作業メニューとしては、油圧ショベル1の稼動に関する項目や車両各部の故障診断の項目等が予め設定されており、その中の1つとして、アジャスタ機構15による履帯3eの張力調整の項目も含まれている。ディスプレイ44の表示に呼応して、張力調整を実施する作業者により作業メニューが選択され、続くステップS2で張力調整の項目が選択されたか否かを判定し、No(否定)のときにはルーチンを終了する。この場合には選択された作業メニューが図示しない別のルーチンで実行されるが、本発明の要旨とは関係がないため説明を省略する。
【0038】
作業メニューとして履帯3eの張力調整の項目が選択されてステップS2でYes(肯定)の判定を下したときには、ステップS3に移行する。ステップS3では、張力調整装置31の取付指示、コネクタ41,46及びカプラ24,36の接続指示、及び開閉弁23の開弁指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS4で、ディスプレイ44へのタッチ操作等により操作完了が入力されたか否かを判定する。以下、逐一説明はしないが、作業者による操作完了の入力はディスプレイ44へのタッチ操作で行われるものとする。なお、ディスプレイ44の表示に加えて、図示しないスピーカ(ガイダンス部)から音声により指示するようにしてもよい。
【0039】
ディスプレイ44の表示に呼応して作業者は、左右何れか一方のクローラ3を張力調整対象として定める。そして、図2に示すように、サイドフレーム13の側面カバー16を取り外してアジャスタ機構15を外部に露出させた上で、張力調整装置31を取り付けると共に、コネクタ41,46及びカプラ24,36をそれぞれ接続し、その後に開閉弁23を開弁する。以上により、サイドフレーム13の外側面上の所定位置に張力調整装置31が取り付けられ、アジャスタ用及び車体側コントローラ38,43の相互通信が可能となると共に、張力調整装置31のグリスポンプ34とアジャスタシリンダ15aのグリス室18内とが連通する。
【0040】
そして、ステップS4の判定がYesになると、ステップS5でエンジン始動の指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS6で、始動完了が入力されたか否かを判定する。なお、車体側コントローラ43には、エンジン回転速度やパワーユニットの油圧ポンプの吐出圧等の検出情報が入力されているため、ステップS6では、これらの検出情報に基づきエンジン始動完了を判定してもよく、後述するエンジン停止の際も同じく検出情報に基づき判定してもよい。
【0041】
エンジンが始動されるとパワーユニットが起動するため、クローラ3の空転やジャッキアップ等のような油圧ショベル1の各種動作が可能となる。車体側コントローラ43はステップS6からステップS7に移行し、コネクタ41,46及びカプラ24,36の接続診断の処理を実行する。
【0042】
図6は、車体側コントローラ43が実行する接続診断ルーチンを示すフローチャートであり、ステップS7に移行した車体側コントローラ43は当該ルーチンを開始する。
まず、ステップS21でコネクタ接続完了フラグF1=0であるか否かを判定し、当初はYesの判定を下してステップS22に移行し、アジャスタ用コントローラ38と通信可能であるか否かを判定する。通信可能な場合にはコネクタ41,46が正常に接続されていると見なし、ステップS22からステップS23に移行してコネクタ接続完了フラグF1を1に設定し、その後にルーチンを終了する。また、通信が途絶している場合等にはコネクタ41,46の接続不良と見なし、ステップS23の処理を実行することなくルーチンを終了する。
【0043】
また、ステップS21でNoの判定を下したときにはステップS24に移行し、カプラ接続完了フラグF2=0であるか否かを判定する。当初はYesの判定を下してステップS25に移行する。ステップS25では、アジャスタ用コントローラ38にグリスポンプ34を正転させる旨の指令を出力し、ステップS26で予め設定された診断時間T1が経過したか否かを判定し、ステップS27で、圧力センサ22により検出された圧力Pが予め設定された圧力判定値P0以上であるか否かを判定する。Noの判定を下したときにはステップS25に戻り、ステップS25~27の処理を繰り返す。
【0044】
カプラ24,36が正常に接続され且つ開閉弁23が開弁されている場合には、正転したグリスポンプ34から吐出されたグリスが圧力センサ22に導かれるため、診断時間T1が経過する以前にステップS27の条件が成立する。従って、ステップS27からステップS28に移行してカプラ接続完了フラグF2を1に設定し、その後にルーチンを終了する。また、診断時間T1が経過してもステップS27の条件が成立しない場合には、カプラ24,36の接続不良または開閉弁23の開弁操作の失念と見なし、ステップS28の処理を実行することなくルーチンを終了する。
【0045】
その後、車体側コントローラ43は図5のステップS7からステップS8に移行し、コネクタ接続完了フラグF1=0であるか否かを判定する。ステップS8の判定がYesのときにはステップS9に移行し、エンジン停止の指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS10で停止完了が入力されたか否かを判定する。ステップS10の判定がYesになるとステップS11に移行し、コネクタ41,46の再接続指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS12で操作完了が入力されたか否かを判定し、Yesの判定を下すとステップS5に戻る。
【0046】
また、ステップS8の判定がNoのときにはステップS13に移行し、カプラ24,36及び開閉弁23に関する診断処理(図6のステップS25~27)を実行済みであるか否かを判定し、NoのときにはステップS5に戻る。また、ステップS13の判定がYesのときにはステップS14に移行し、カプラ接続完了フラグF2=0であるか否かを判定し、YesのときにはステップS15に移行する。ステップS15では、エンジン停止の指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS16で停止完了が入力されたか否かを判定する。ステップS16の判定がYesになるとステップS17に移行し、カプラ24,36の再接続指示及び開閉弁23の開弁指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS18で操作完了が入力されたか否かを判定し、YesになるとステップS5に戻る。
【0047】
また、ステップS14の判定がNoのときには、一方のクローラ3の張力調整の準備が完了したと見なして図5のユニット取付ルーチンを終了する。コネクタ41,46の接続によりアジャスタ用コントローラ38がディスプレイ表示等を実行可能となり、以降の処理はアジャスタ用コントローラ38に引き継がれる。
【0048】
例えば、コネクタ41,46の接続不良と、カプラ24,36の接続不良または開閉弁23の開弁操作の失念とが共に発生している場合には、車体側コントローラ43の処理が以下の順に進められる。
【0049】
図6の接続診断ルーチンを開始すると、ステップS22でNoの判定を下してルーチンを終了するため、図5では、ステップS8~10を経てステップS11でコネクタ41,46の再接続指示を表示する。作業者がコネクタ41,46を再接続して接続不良を解消するため、図6のステップS22の判定がYesに転じてコネクタ接続完了フラグF1が1に設定される。このため図5では、ステップS8からステップS13に移行し、未だカプラ24,36及び開閉弁23に関する診断処理が完了していないため、ステップS13からステップS5に戻る。
【0050】
図6のステップS24ではYesの判定を下し、ステップS25~27の診断処理が実行される。このため、再びステップS13に移行するとYesの判定を下し、ステップS14を経てステップS17でカプラ24,36の再接続指示及び開閉弁23の開弁指示を表示する。作業者がカプラ24,36の再接続及び開閉弁23の開弁を実施し、これにより接続不良または開弁操作の失念が解消されるため、図6のステップS27の判定がYesに転じてカプラ接続完了フラグF2が1に設定される。その後の図5のステップS14では判定がNoに転じてルーチンを終了する。
【0051】
アジャスタ用及び車体側コントローラ38,43の相互通信が可能にならないと、ステップS25の処理、即ちアジャスタ用コントローラ38にグリスポンプ34を正転させる処理を実行できない。そこで、まずコネクタ41,46の接続不良を解消し、その後にステップS25~27でカプラ24,36及び開閉弁23に関する診断処理を実行しているのである。
【0052】
車体側コントローラ43が図5のユニット取付ルーチンを終了すると、アジャスタ用コントローラ38が図7に示す履帯張力調整ルーチンを開始する。まず、念のためステップS31で、コネクタ接続完了フラグF1及びカプラ接続完了フラグF2が共に1に設定されているか否かを判定する。既に図6のステップS23,28の処理により両フラグF1,F2が1に設定されているため、Yesの判定を下してステップS32に移行する。ステップS32では、張力調整対象のクローラ3に対するジャッキアップ指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS33でジャッキアップ完了が入力されたか否かを判定する。
【0053】
ディスプレイ44の表示に呼応して作業者は、上部旋回体の旋回操作及び作業フロントの操作を行って張力調整対象のクローラ3をジャッキアップする。クローラ3は地表から離間し、図2に二点鎖線で示すように履帯3eの下側部が弛む。ステップS33の判定がYesになると、ステップS34でグリス注入・排出処理を実行する。
【0054】
図8は、アジャスタ用コントローラ38が実行するグリス注入・排出ルーチンを示すフローチャートであり、ステップS34に移行したアジャスタ用コントローラ38は当該ルーチンを開始する。
【0055】
まず、ステップS51で距離センサ39によりクローラ3の下側部との間の距離Lを計測し、その後にステップS52に移行する。履帯3eを適切な張力に調整するには、張力と相関する距離Lを推奨範囲に収める必要があり、距離Lの適否を判定するために、推奨範囲の上限を規定する上限値L1、及び推奨範囲の下限を規定する下限値L2が予め設定されている。従って、ステップS52では距離Lが上限値L1を超えているか否かを判定し、NoのときにはステップS53で距離Lが下限値L2未満であるか否かを判定し、Noのときにはルーチンを終了する。この場合には、距離Lが推奨範囲に収まっているため、履帯3eの張力調整が不要と見なされ、以下に述べるアジャスタシリンダ15aのグリス室18に対するグリスの注入・排出は実施しない。
【0056】
また、ステップS52の判定がYesのとき、即ち、履帯3eの弛みが過大な場合にはステップS54に移行し、図示しない制御マップに基づき距離Lからグリスポンプ34の駆動時間T2を算出する。距離Lが大であるほど、換言すると履帯3eの弛みが過大であるほど、グリス室18に多量のグリスを注入する必要があることから、大きな駆動時間T2を算出するように制御マップが設定されている。続くステップS55では、算出した駆動時間T2及び予め設定された回転速度でモータ37によりグリスポンプ34を正転させ、その後にステップS58に移行する。従って、グリス室18内にグリスが注入されてアイドラ3bが前方に移動し、これにより履帯3eの弛みが減少する。
【0057】
また、ステップS53の判定がYesのとき、即ち、履帯3eの弛みが過小な場合にはステップS56に移行し、図示しない制御マップに基づき距離Lからグリスポンプ34の駆動時間T3を算出する。距離Lが小であるほど、換言すると履帯3eの弛みが過小であるほど、グリス室18から多量のグリスを排出する必要があることから、大きな駆動時間T3を算出するように制御マップが設定されている。続くステップS57では、算出した駆動時間T3及び予め設定された回転速度でモータ37によりグリスポンプ34を逆転させ、その後にステップS58に移行する。従って、グリス室18内からグリスが排出されてアイドラ3bが後方に移動し、これにより履帯3eの弛みが増加する。
【0058】
以上のようにして履帯3eの張力を調整した後、ステップS58で張力調整対象のクローラ3の空転指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS59で空転完了が入力されたか否かを判定する。ディスプレイ44の表示に呼応して、作業者はジャッキアップしているクローラ3を空転させた上で、空転完了を入力する。アイドラ3bの前後動により履帯3eに偏った不自然な弛みが生じる場合もあるが、クローラ3の空転により弛みが均等化される。このときのステップS58の処理では、作業者の勘違いにより張力調整対象とは逆側のクローラ3が空転されないように、逆側のクローラ3の空転を禁止する旨の指令をアジャスタ用コントローラ38から車体側コントローラ43に出力してもよい。これにより誤操作が車体側コントローラ43により無効化され、作業者は自ずと自己の勘違いを認識する。
【0059】
ステップS59の判定がYesになるとステップS60に移行し、再び距離距離センサ39により距離Lを計測し、続くステップS61で、距離Lが上限値L1以下且つ下限値L2以上であるか否かを判定する。判定がNoのときにはステップS52に戻り、ステップS52~61の処理により再び履帯3eの張力を調整し、ステップS61の判定がYesになるとルーチンを終了する。以上の処理により、張力調整対象として定めた一方のクローラ3に対する張力調整が完了する。
【0060】
その後、アジャスタ用コントローラ38は図7のステップS34からステップS35に移行し、クローラ3のジャッキアップの中止指示、及び作業フロント8の接地指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS36で操作完了が入力されたか否かを判定する。なお、作業フロント8の接地は、油圧ショベル1をより安定した姿勢に保つための処置であるが、必ずしも必要な操作ではないため省略してもよい。
【0061】
ステップS36の判定がYesになると、ステップS37に移行してエンジン停止の指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS38で停止完了が入力されたか否かを判定する。ステップS38の判定がYesになるとステップS39に移行し、張力調整装置31の取外指示、コネクタ41,46及びカプラ24,36の切離指示、及び開閉弁23の閉弁指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS40で操作完了が入力されたか否かを判定する。
【0062】
ステップS35以降のディスプレイ表示に基づき作業者は、張力調整対象のクローラ3のジャッキアップを中止して作業フロント8を接地させ、エンジンを停止させる。さらに、一方のクローラ3からアジャスタ機構15を取り外すと共に、開閉弁23を閉弁し、その後にコネクタ41,46及びカプラ24,36を切り離す。
【0063】
ステップS40の判定がYesになるとステップS41に移行し、左右のクローラ3に対する張力調整が共に完了したか否かを判定する。ステップS41の判定がNoのときには、ステップS41で車体側コントローラ43に処理を再開する旨の指令を出力し、その後にルーチンを終了する。
【0064】
車体側コントローラ43からの指令に基づき、車体側コントローラ43は再び図5のユニット取付ルーチンを開始する。ディスプレイ44上の作業メニューから作業者は再び履帯3eの張力調整の項目を選択し、ステップS3のディスプレイ表示に基づき、他方のクローラ3を張力調整対象として定める。そして、張力調整装置31を他方のクローラ3に取り付けると共に、コネクタ41,46及びカプラ24,36の接続、開閉弁23の開弁を行なう。
【0065】
これにより他方のクローラ3の張力調整の準備が完了し、以降は、この他方のクローラ3を対象として、図5に示す一連の処理を繰り返す。その後は、図7に示す処理がジャスタ用コントローラ38により繰り返され、ステップS41の判定がYesに転じることからルーチンを終了する。以上の処理により、左右のクローラ3に対する張力調整が完了する。
【0066】
このように本実施形態によれば、クローラ3の履帯3eの張力調整を張力調整装置31により自動的に実施することができる。詳しくは、図8のグリス注入・排出ルーチンに基づき、アジャスタ用コントローラ38が距離センサ39による距離Lの計測(ステップS51)、及び距離Lに基づくグリスの注入・排出(ステップS55,57)を自動的に実行している。従って、作業者に要求される操作は、サイドフレーム13に張力調整装置31を取り付け、クローラ3をジャッキアップした上で、ディスプレイ44上で作業メニューとして履帯3eの張力調整の項目を選択するだけの簡単なものとなり、その手間を省いて容易に履帯3eの張力を調整することができる。
【0067】
また、コネクタ41,46を介してアジャスタ用コントローラ38を車体側コントローラ43と接続することにより、運転室6のディスプレイ44に履帯3eの張力調整作業の手順を順次表示している。従って、手順を十分に理解していない作業者であっても、ディスプレイ44の表示に基づき迷うことなく張力調整の作業を進めることができる。
【0068】
さらに、ディスプレイ表示は、作業者の労力を軽減することにも寄与する。即ち、履帯3eの張力を調整する毎にクローラ3を空転させる場合、特許文献1のような従来技術では、地表で距離Lの計測及びグリスの注入・排出を行った後に、運転室6でクローラ3を空転操作することになるため、その度に運転室6への搭乗と地表への降機とを繰り返す必要が生じ、多大な労力を要してしまう。距離Lの計測及びグリスの注入・排出を自動化した本実施形態によれば、作業者は運転室6に搭乗したままディスプレイ44の表示に従ってクローラ3を任意に空転操作できるため、履帯3eの調整作業に伴う労力を大幅に軽減することができる。
【0069】
また、計測した距離Lを推奨範囲の上限値L1及び下限値L2と比較し(ステップS52,53)、比較結果に基づきグリスポンプ34の駆動方向のみならずモータ37による駆動時間(換言すると、グリスの注入量及び排出量)も算出し(ステップS54,56)、これらに基づきグリスポンプ34を駆動している。従って、作業者の目分量でグリスを注入・排出する従来技術に比較すると、現在の履帯3eの弛みに対して的確な量のグリスを注入・排出できることから、張力調整を完了するまでに要するグリスの注入・排出の回数、及びクローラ3の空転回数を減少でき、ひいては張力調整の作業時間を短縮して、本来の油圧ショベル1の作業をいち早く開始することができる。
【0070】
一方、本実施形態では、サイドフレーム13の外側面に対して張力調整装置31を容易に脱着し得るように構成している。詳しくは、張力調整装置31を構成する各部品をケーシング47に収容してユニット化した上で、サイドフレーム13上に溶接した嵌合部49の中央に嵌め込んで、裏面のマグネット48により脱落防止している。このためケーシング47、ひいては内部の距離センサ39が前後、左右及び上下方向に位置決めされて正確な距離Lを計測可能となり、この要因もグリスの注入・排出の回数を減少させることに寄与する。そして、このように張力調整装置31を構成する各部品をユニットとして一括してサイドフレーム13に取付可能なため、各部品を個別にサイドフレーム13に取り付ける場合に比較して、脱着の手間を大幅に軽減することができる。
【0071】
さらに、本実施形態では、図6の接続診断ルーチンに基づき、車体側コントローラ43がコネクタ41,46の接続の良否を判定すると共に(ステップS22)、カプラ24,36の接続の良否及び開閉弁23の開弁操作の失念を判定している(ステップS25~27)。そして、図5のユニット取付ルーチンに基づき、コネクタ41,46の接続不良の場合には、コネクタ41,46の再接続指示をディスプレイ44に表示し(ステップS11)、カプラ24,36の接続不良または開閉弁23の開弁操作の失念の場合には、カプラ24,36の再接続指示及び開閉弁23の開弁指示をディスプレイ44に表示している(ステップS17)。
【0072】
コネクタ41,46の接続不良の場合には、アジャスタ用コントローラ38がディスプレイ44に履帯3eの張力調整作業の手順を表示できなくなり、カプラ24,36の接続不良または開閉弁23の開弁操作の失念の場合には、正常なグリスの注入・排出を実施できなくなる。作業者は、このような状況をディスプレイ44の表示でいち早く認識して対処できるため、これらのトラブルに起因する張力調整作業の遅滞を未然に防止することができる。
【0073】
加えて、コネクタ41,46の接続不良は、アジャスタ用及び車体側コントローラ38,43の相互通信が可能か否かに基づき判断できるため、ハード的な構成を追加することなく、車体側コントローラ43のプログラムを変更するだけで実施できる。また、カプラ24,36の接続不良または開閉弁23の開弁操作の失念についても、プログラム変更に加えて、張力調整装置31に圧力センサ22を追加するだけ実施できる。従って、ほとんどコストアップすることなく上記した利点を得ることができる。
なお、本実施形態では、弛張力調整装置31を構成するアジャスタ用コントローラ38により履帯3eの弛みを調整したが、これに限るものではない。例えばアジャスタ用コントローラ38を省略し、その機能を車体側コントローラ43に付与して履帯3eの弛みを調整させてもよい。
【0074】
一方、張力調整装置31は油圧ショベル1に対して脱着不能な内蔵式とする構成することもできるが、これに比較して脱着式の本実施形態の張力調整装置31は、以下に述べる利点を有する。
油圧ショベル1は、粉塵や砂埃等が舞い散る作業現場で稼動するため、特に地表に近いクローラ3の周辺には泥等が付着し易く、側面カバー16で隠蔽しても内部への泥等の侵入を防ぎきれない。このようなクローラ3の近傍に張力調整装置31が常に固定されていると、例えば、距離センサ39に泥が付着して計測機能等が損なわれる等のトラブルが発生するため、装置としての信頼性が低下する要因になり得る。これに対して、脱着式の張力調整装置31では、履帯3eの張力調整を要するときだけに油圧ショベル1に取り付けるため、ほとんど泥等の影響を考慮する必要がなく、相対的に高い信頼性を得ることができる。
【0075】
また、複数の油圧ショベル1を所有している場合、内蔵式の張力調整装置31では、各油圧ショベル1について左右一対を要し、結果として所有台数の2倍に相当する張力調整装置31が必要になる。これに対して脱着式の張力調整装置31では、多数の油圧ショベル1を所有している場合でも、それぞれの油圧ショベル1に張力調整装置31を取付可能な構成を追加するだけで、単一の張力調整装置31で共用化できる。結果として、実施に要するコストを大幅に低減することができる。
【0076】
但し、内蔵式の張力調整装置31は、調整調整対象のクローラ3毎に脱着作業を行うことなく直ちに調整作業を開始できるという利点があるため、十分な泥等の対策を実施した場合には、内蔵式の張力調整装置31として具体化することも有用である。そこで、内蔵式の張力調整装置31を備えた油圧ショベル101を第2実施形態として以下に説明する。
【0077】
[第2実施形態]
第1実施形態との主たる相違点は、張力調整装置31を内蔵式として、油圧ショベル101の左右のサイドフレーム13にそれぞれ脱着不能に固定した点、これに付随してコネクタ41,46やカプラ24,36を省略すると共に、それらの接続診断の処理を省略した点、及びアジャスタ用コントローラ38に代えて車体側コントローラ43(制御装置)が履帯3eの張力調整を制御する点にある。そこで、重複する構成部分は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
【0078】
図9は、本実施形態の油圧ショベル101において側面カバー16を取り外して張力調整装置31を露出させたときの図1のA部拡大図である。なお、以下の説明では、左側のクローラ3に設けられた張力調整装置31について述べるが、右側も左右対称の同一構造である。
【0079】
張力調整装置31を構成するグリスポンプ34等の各部品がケーシング47に収容されている点は第1実施形態と同様であるが、本実施形態では、ケーシング47がサイドフレーム13に溶接されている。必然的にケーシング47を脱着可能に取り付けるためのサイドフレーム13上の嵌合部49、及びケーシング47の裏面のマグネット48が省略されている。また、ケーシング47の表面には開閉可能なドア47aが設けられ、内部の各部品の保守を実施可能としている。
【0080】
アジャスタ用コントローラ38からはハーネス102が延設され、このハーネス102を介して直接的に車体側コントローラ43と接続されている。また、グリスポンプ34からは配管103が延設され、この配管103を介してアジャスタシリンダ15aのグリス室18と直接的に接続されている。これに付随してカプラ24,36と共に圧力センサ22及び開閉弁23も省略されている。
【0081】
図10は、左右の張力調整装置31と車体側コントローラ43との関係を示す構成図である。
左右の張力調整装置31は共にアジャスタ用コントローラ38が省略され、それぞれのモータ37及び距離センサ39(弛み計測装置)が上記したハーネス102を介して車体側コントローラ43に接続されている。従って、距離センサ39の検出情報が車体側コントローラ43に入力され、この車体側コントローラ43によりモータ37の駆動やディスプレイ44(ガイダンス部)の表示が制御される。なお、左右の張力調整装置31の機能は第1実施形態のものと同様であり、グリスの注入・排出機能を奏する(油脂給排装置)。
【0082】
図11は、車体側コントローラ43が実行する履帯張力調整ルーチンを示すフローチャートであり、第1実施形態と同一内容の処理には、同一のステップ番号を付している。
本実施形態では張力調整装置31の脱着が不要なため、当初より作業者は運転室6に搭乗している。車両のキースイッチがON操作されると、車体側コントローラ43は当該ルーチンを開始し、ステップS1でディスプレイ44に作業メニューを表示する。作業者により張力調整の項目が選択されると、ステップS2からステップS3に移行してエンジン始動の指示をディスプレイ44に表示する。始動完了が入力されてステップS4でYesの判定を下すと、ステップS32でジャッキアップ指示をディスプレイ44に表示し、続くステップS33でジャッキアップ完了が入力されたか否かを判定する。
【0083】
作業者は、張力調整対象として定めた一方のクローラ3をジャッキアップし、車体側コントローラ43は、ステップS33の判定がYesになると、ステップS34でグリス注入・排出処理を実行する。当該処理の内容は、第1実施形態で図8に基づき説明したものと同一のため、その説明は省略する。
【0084】
ステップS34の処理が完了するとステップS35に移行し、ジャッキアップの中止指示、作業フロント8の接地指示をディスプレイ44に表示する。操作完了が入力されるとステップS36からステップS37に移行し、左右のクローラ3に対する張力調整が共に完了したか否かを判定し、NoのときにはステップS32に戻って他方のクローラ3に対して同様の処理を繰り返す。ステップS41の判定がYesになると、ステップS37でエンジン停止の指示をディスプレイ44に表示し、ステップS38で停止完了が入力されるとルーチンを終了する。
【0085】
以上のように本実施形態では、油圧ショベルに対して張力調整装置31が脱着不能な内蔵式とされているものの、その機能は第1実施形態と同様である。従って、重複する説明はしないが、第1実施形態で述べた各種の作用効果を達成することができる。
【0086】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記第1実施形態では、超大型油圧ショベル1、及びこれに適用される脱着式の張力調整装置31に具体化し、第2実施形態では、張力調整装置31を内蔵した超大型油圧ショベル101に具体化したが、これに限るものではない。例えば、一般的な大きさの油圧ショベルに適用してもよいし、クローラ3により走行可能な他の建設機械、例えばブルドーザ等に適用してもよい。
【0087】
また、第1実施形態では、コネクタ41,46を介してアジャスタ用コントローラ38を車体側コントローラ43と接続することにより、運転室6のディスプレイ44に履帯3eの張力調整作業の手順を表示したが、必ずしも車体側コントローラ43と接続する必要はなく、またディスプレイ44による表示を行う必要もない。例えば、張力調整装置31のケーシング47に作業開始ボタンを設け、その操作に基づき図8のグリス注入・排出処理を実行するだけでもよい。この場合は、作業者がエンジン始動やジャッキアップ等の張力調整作業の手順を理解している必要があるが、最も煩雑な操作である弛みの計測とグリスの注入・排出とが自動化されるため、張力調整作業の手間を省くことができる。
【符号の説明】
【0088】
1 油圧ショベル(建設機械)
3 クローラ
3e 履帯
6 運転室
13 サイドフレーム
15a アジャスタシリンダ
18 グリス室(油脂室)
22 圧力センサ(圧力検出部)
23 開閉弁
24 車体側カプラ(車体側油圧接続部)
32 グリスタンク(油脂給排装置)
33 フィルタ(油脂給排装置)
34 グリスポンプ(油脂給排装置)
36 ユニット側カプラ(ユニット側油圧接続部)
37 モータ(油脂給排装置)
38 ジャスタ用コントローラ(制御装置)
39 距離センサ(弛み計測装置)
41 ユニット側コネクタ(ユニット側信号接続部)
43 車体側コントローラ(接続診断部)
44 ディスプレイ(ガイダンス部)
45 ハーネス
46 車体側コネクタ(車体側信号接続部)
47 ケーシング
48 マグネット
49 嵌合部(脱着取付部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11