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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146085
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】圧縮機及び冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/02 20060101AFI20241004BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20241004BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20241004BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F04B39/02 Y
F04C29/02 361A
H02K7/14 C
H02K1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058798
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健
(72)【発明者】
【氏名】松川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】堤 慧
(72)【発明者】
【氏名】姫田 晃
(72)【発明者】
【氏名】川畑 真一
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
5H601
5H607
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB03
3H003AC03
3H003BD07
3H003BD12
3H003BG08
3H003CF04
3H129AA02
3H129AA14
3H129AB03
3H129BB05
3H129CC25
3H129CC27
3H129CC34
5H601BB11
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD32
5H601DD41
5H607BB01
5H607DD03
5H607FF07
(57)【要約】
【課題】圧縮機の外部へ排出される潤滑油の量を低減する。
【解決手段】圧縮機(100)は、モータ(20)と、クランクシャフト(30)と、圧縮機構(40)と、バランスウェイト(37)と、カバー(61)と、を備える。バランスウェイト(37)は、クランクシャフト(30)のバランスに寄与する。カバー(61)は、バランスウェイト(37)を覆うことによって遠心ポンプとして機能する。カバー(61)は、反バランス空間(63)、上部隙間(65)、及び、下部隙間(66)、を形成する。上部隙間(65)は、冷媒(R)がカバー(61)の上方の空間から反バランス空間(63)へ到達することを可能にする。下部隙間(66)は、冷媒(R)が反バランス空間(63)からカバー(61)の下方の空間へ到達するとともに、径方向外側へ吹き出すことを可能にする。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ(21)及びロータ(25)を有するモータ(20)と、
前記ロータとともに回転するクランクシャフト(30)と、
前記クランクシャフトの回転によって冷媒(R)を圧縮する圧縮機構(40)と、
前記クランクシャフトのバランスのためのバランスウェイト(37)と、
前記バランスウェイトを覆うことによって遠心ポンプとして機能するカバー(61)であって、
前記バランスウェイトの反対側に位置する反バランス空間(63)、
前記冷媒が前記カバーの上方の空間から前記反バランス空間へ到達することを可能にする上部隙間(65)、及び、
前記冷媒が前記反バランス空間から前記カバーの下方の空間へ到達するとともに、径方向外側へ吹き出すことを可能にする下部隙間(66)、
を形成するカバー(61)と、
を備える、圧縮機(100)。
【請求項2】
前記冷媒を吐出する吐出管(17)、
をさらに有し、
前記吐出管は、前記下部隙間よりも上方に位置している、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記モータは、前記冷媒を前記モータの下方から上方へ通過させる貫通部(50)を有し、
前記ステータの外周には、前記冷媒を前記モータの上方から下方へ通過させるコアカット(54)が形成される、
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記ステータは、複数のコイル(24)を有し、
前記貫通部は、
前記ロータを軸方向に貫通するロータ冷媒通路(51)、
前記ステータと前記ロータの間に形成されるエアギャップ(52)、及び、
隣接する前記コイルの間に形成され、前記ステータを前記軸方向に貫通するコイル隙間(53)、
の少なくとも1つを含む、
請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記バランスウェイトは、平面視で前記クランクシャフトを中心とし、かつ、150°以上210°以下の中心角を有する扇形である、
請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記クランクシャフトと前記バランスウェイトは一体の部材である、
請求項5に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記上部隙間は、前記カバーと前記クランクシャフトとの間に形成される、
請求項1から6のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記カバーは、水平な上面部(61a)を有し、
前記上面部は、前記バランスウェイトから離間している、
請求項1から6のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項9】
環状であり、前記カバーと前記ロータの間に設置されるバランスリング(62)、
をさらに備え、
前記下部隙間は、前記カバーと前記バランスリングとの間に形成される、
請求項1から6のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に記載の圧縮機、
を備える、冷凍装置(101)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バランスウェイト及びカバーを備える圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機の外部へ排出される潤滑油の量を低減するために、特許文献1(特開2021-017849号公報)に開示されている圧縮機では、モータのロータの下面に取り付けられているバランスウェイトの寸法、及び、そのバランスウェイトの他の部品に対する相対的な位置を最適化している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
モータの下方のみならず、モータの上方に配置されている部品に関しても、構造を最適化することによって圧縮機の外部へ排出される潤滑油の量を低減できる余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点に係る圧縮機は、モータと、クランクシャフトと、圧縮機構と、バランスウェイトと、カバーと、を備える。モータは、ステータ及びロータを有する。クランクシャフトは、ロータとともに回転する。圧縮機構は、クランクシャフトの回転によって冷媒を圧縮する。バランスウェイトは、クランクシャフトのバランスに寄与する。カバーは、バランスウェイトを覆うことによって遠心ポンプとして機能する。カバーは、反バランス空間、上部隙間、及び、下部隙間、を形成する。反バランス空間は、バランスウェイトの反対側に位置する。上部隙間は、冷媒がカバーの上方の空間から反バランス空間へ到達することを可能にする。下部隙間は、冷媒が反バランス空間からカバーの下方の空間へ到達するとともに、径方向外側へ吹き出すことを可能にする。
【0005】
この構成によれば、バランスウェイトの周辺の構造は、遠心ポンプとして機能する。遠心ポンプは、カバーの上方の空間から冷媒を吸い込むとともに、下方の空間において冷媒を径方向外側へ噴き出す。したがって、下方の空間に存在する潤滑油を含んだ冷媒が径方向外側へ誘導されるので、潤滑油の圧縮機からの排出が抑制される。
【0006】
第2観点に係る圧縮機は、第1観点に係る圧縮機であって、冷媒を吐出する吐出管をさらに有する。吐出管は、下部隙間よりも上方に位置している。
【0007】
この構成によれば、冷媒は下部隙間から径方向外側へ吹き出すのに対し、吐出管は下部隙間より上方に位置している。したがって、潤滑油を含んだ冷媒が吐出管に効果的に到達することが困難なので、潤滑油の排出が抑制される。
【0008】
第3観点に係る圧縮機は、第1観点又は第2観点に係る圧縮機であって、モータが貫通部を有する。貫通部は、冷媒をモータの下方から上方へ通過させる。ステータの外周には、コアカットが形成される。コアカットは、冷媒をモータの上方から下方へ通過させる。
【0009】
この構成によれば、潤滑油を含んだ冷媒が貫通部を通過してカバーの下方の空間へ到達したとき、その冷媒は下部隙間から吹き出す冷媒流によって径方向外側へ誘導され、吐出管には到達しない。したがって、潤滑油の圧縮機からの排出がより効果的に抑制される。
【0010】
第4観点に係る圧縮機は、第3観点に係る圧縮機であって、ステータが、複数のコイルを有する。貫通部は、ロータ冷媒通路、エアギャップ、及び、コイル隙間、の少なくとも1つを含む。ロータ冷媒通路は、ロータを軸方向に貫通する。エアギャップは、ステータとロータの間に形成される。コイル隙間は、隣接するコイルの間に形成され、ステータを軸方向に貫通する。
【0011】
この構成によれば、ロータ冷媒通路、エアギャップ、又はコイル隙間を通過する冷媒の上昇流が、吐出管に達することなく径方向外側へ誘導される。したがって、潤滑油の圧縮機からの排出がさらに効果的に抑制される。
【0012】
第5観点に係る圧縮機は、第1観点から第4観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、バランスウェイトが、平面視で前記クランクシャフトを中心とし、かつ、150°以上210°以下の中心角を有する扇形である。
【0013】
この構成によれば、バランスウェイトは平面視で扇形である。したがって、カバーの内部空間においてバランスウェイトが存在しない箇所に反バランス空間が形成されるので、遠心ポンプを構成することができる。
【0014】
第6観点に係る圧縮機は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、クランクシャフトとバランスウェイトが一体の部材である。
【0015】
この構成によれば、クランクシャフトとバランスウェイトは一体である。したがって、遠心力によってバランスウェイトがクランクシャフトから分離されることがない。
【0016】
第7観点に係る圧縮機は、第1観点から第6観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、上部隙間が、カバーとクランクシャフトとの間に形成される。
【0017】
この構成によれば、冷媒はカバーとクランクシャフトの間から反バランス空間へ吸い込まれる。
【0018】
第8観点に係る圧縮機は、第1観点から第6観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、カバーが、水平な上面部を有する。上面部は、バランスウェイトから離間している。
【0019】
この構成によれば、冷媒はさらに、カバーとバランスウェイトの間から反バランス空間へ吸い込まれる。
【0020】
第9観点に係る圧縮機は、第1観点から第8観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、バランスリングをさらに備える。バランスリングが、環状であり、カバーとロータの間に設置される。
【0021】
この構成によれば、冷媒は反バランス空間からカバーとバランスリングの間を通過してカバーの下方の空間へ噴き出す。
【0022】
第10観点に係る冷凍装置は、第1観点から第9観点のいずれか1つに係る圧縮機を備える。
【0023】
この構成によれば、冷凍装置は、潤滑油を含んだ冷媒の進行方向を吐出管から逸らす圧縮機を有する。したがって、冷凍装置の中で、潤滑油が圧縮機から排出される事象が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、第1実施形態に係る冷凍装置101の構成を示す回路図である。
図2図2は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機100の構成を示す断面図である。
図3図3は、図2の要部を拡大した模式図である。
図4図4は、ステータコア22の平面図である。
図5図5は、スクロール圧縮機100の要部の上面又は断面を示す模式図である。
図6図6は、クランクシャフト30の断面を示す模式図である。
図7図7は、カバー61の斜視図である。
図8図8は、カバー61の断面を示す模式図である。
図9図9は、第1実施形態に係る遠心ポンプ60の断面を示す模式図である。
図10図10は、第1実施形態に係る遠心ポンプ60の断面を示す拡大模式図である。
図11図11は、第2実施形態に係るクランクシャフト30の断面を示す模式図である。
図12図12は、第2実施形態に係る遠心ポンプ60の断面を示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
(1)冷凍装置101の構成
図1は、第1実施形態に係る冷凍装置101の構成を示す。冷凍装置101は、熱源ユニット90、利用ユニット80、及び連絡配管群85を有する。
【0026】
熱源ユニット90は、冷媒Rに対する温熱源(heat source)又は冷熱源(cold source)として機能する。熱源ユニット90は、スクロール圧縮機100、四路切換弁92、熱源熱交換器93、熱源ファン94、膨張弁95、アキュムレータ96、液閉鎖弁97、及びガス閉鎖弁98を有する。
【0027】
利用ユニット80は、冷媒Rから受け取った温熱(heat)又は冷熱(cold)をユーザに提供する。利用ユニット80は、利用熱交換器81、及び利用ファン82を有する。
【0028】
連絡配管群85は、熱源ユニット90と利用ユニット80を接続する。連絡配管群85は、液管86、及びガス管87を有する。液管86は、液閉鎖弁97と利用熱交換器81を接続する。ガス管87は、ガス閉鎖弁98と利用熱交換器81を接続する。
【0029】
熱源ユニット90の構成部品、利用ユニット80の構成部品、及び連絡配管群85は、冷媒回路を構成する。冷媒回路は、冷媒Rを循環させる。
【0030】
熱源ユニット90に搭載されているスクロール圧縮機100は、低圧ガス冷媒(つまり、低い圧力を有し、ガス状態にある冷媒R)を圧縮することによって、高圧ガス冷媒(つまり、高い圧力を有し、ガス状態にある冷媒R)を生成する。
【0031】
四路切換弁92が実線で示す接続を実現する場合、冷凍装置101は冷熱利用運転を行う。このとき、利用熱交換器81は蒸発器(evaporator)又は吸熱器(heat absorber)として機能し、冷媒Rから得た冷熱をユーザに提供する。四路切換弁92が破線で示す接続を実現する場合、冷凍装置101は温熱利用運転を行う。このとき、利用熱交換器81は凝縮器(condenser)又は放熱器(heat radiator)として機能し、冷媒Rから得た温熱をユーザに提供する。
【0032】
(2)スクロール圧縮機100の構成
図2は、スクロール圧縮機100の構成を示す。スクロール圧縮機100は、ケーシング10、モータ20、クランクシャフト30、圧縮機構40、仕切部材70、支持部材77、を有する。
【0033】
(2-1)ケーシング10
ケーシング10は、互いに気密的に接合された胴部11、上蓋部12、及び下蓋部13を有する。
【0034】
ケーシング10の中には内部空間Sが存在する。内部空間Sには、スクロール圧縮機100の部品と、冷媒Rと、潤滑油Lとが存在する。
【0035】
上蓋部12には、低圧ガス冷媒を吸入するための吸入管15が取り付けられている。胴部11には、高圧ガス冷媒を吐出するための吐出管17が取り付けられている。下蓋部13の付近には、潤滑油Lを貯留するための油溜まり14が設けられている。
【0036】
(2-2)モータ20
モータ20は、スクロール圧縮機100の外部から供給される電力を利用して、圧縮機構40を駆動するための動力を生成する。モータ20は、ステータ21及びロータ25を有する。ステータ21は胴部11に固定されている。ロータ25は、ステータ21の中心部の空洞に配置され、回転可能に支持されている。
【0037】
(2-3)クランクシャフト30
クランクシャフト30は、モータ20が生成した動力を圧縮機構40へ伝達する。クランクシャフト30は、主軸部31と、主軸部31に対して偏心した偏心部32と、バランスウェイト37とを有する。換言すれば、クランクシャフト30とバランスウェイト37とは一体の部材である。
【0038】
主軸部31の一部はロータ25の中心部の空洞を通過しており、ロータ25と固定されている。これにより、クランクシャフト30は、ロータ25とともに回転する。バランスウェイト37は、クランクシャフト30のバランスをとるためのものである。
【0039】
クランクシャフト30の内部には、油溜まり14の潤滑油Lを吸い上げるための主通路35が設けられている。主通路35の上端にまで吸い上げられた潤滑油Lは、圧縮機構40を潤滑するために利用される。さらに、主通路35は、クランクシャフト30の径方向に延びる複数の分岐通路36と連通している。分岐通路36は、主軸部31又は偏心部32の側面に潤滑油Lを供給する。これにより、クランクシャフト30は、圧縮機構40、仕切部材70、及び支持部材77と接触する箇所において、多くの場合には潤滑油Lを供給されるすべり軸受に支持された状態で、滑らかに回転することができる。
【0040】
(2-4)圧縮機構40
圧縮機構40は、クランクシャフト30の回転によって伝達された動力を利用して、低圧ガス冷媒を圧縮することによって高圧ガス冷媒を生成する。圧縮機構40は、固定スクロール41と可動スクロール42を有する。固定スクロール41は、仕切部材70に支持されている。可動スクロール42は、ボス46を有する。ボス46の凹部には、クランクシャフト30の偏心部32がはめ込まれている。偏心部32は、多くの場合にはすべり軸受を介してボス46と接触する。クランクシャフト30の回転はボス46に伝達され、それによって可動スクロール42が固定スクロール41に対して公転する。
【0041】
固定スクロール41と可動スクロール42の間には、複数の圧縮室43が形成される。クランクシャフト30が可動スクロール42を公転させることによって、圧縮室43の容積が変動し、これによって冷媒Rが圧縮される。生成された高圧ガス冷媒は、固定スクロール41に設けられた吐出孔45から第1空間S1へ吐出される。
【0042】
(2-5)仕切部材70
仕切部材70は、胴部11に取り付けられている。仕切部材70は、内部空間Sを第1空間S1及び第2空間S2に分割する。仕切部材70は、主軸部31の上部を、多くの場合にはすべり軸受を介して支持する。
【0043】
仕切部材70には、冷媒通路71が設けられている。冷媒通路71は、第1空間S1から第2空間S2へ冷媒Rを通過させるためのものである。
【0044】
仕切部材70は、収容部72をさらに有する。収容部72は、可動スクロール42のボス46を収容する。収容部72は、圧縮機構40を潤滑し終えた潤滑油Lを集めるための一時貯留部としても機能する。収容部72に貯留された潤滑油Lは、図示しない経路を移動して第2空間S2に到達し、その後油溜まり14へ戻る。
【0045】
(2-6)支持部材77
支持部材77は、胴部11に取り付けられている。支持部材77は、クランクシャフト30の主軸部31の下部を、多くの場合にはすべり軸受を介して支持する。
【0046】
(3)冷媒Rと潤滑油Lの移動
引き続き図2を参照して、冷媒Rと潤滑油Lの移動を説明する。
【0047】
圧縮機構40で圧縮を受けて高圧状態になった冷媒Rは、吐出孔45から第1空間S1へ吐出される。冷媒Rは、第1空間S1を囲んでいるケーシング10の上蓋部12に衝突し、又は上蓋部12の内面に沿って移動する。その後、冷媒Rは冷媒通路71を通過して第2空間S2へ移動する。
【0048】
通常、冷媒は相溶性を有している。したがって、第1空間S1に充満する冷媒Rの中には一定の潤滑油Lが含まれている。その潤滑油Lの一部も、冷媒Rとともに冷媒通路71を通過して、第2空間S2へ移動する。
【0049】
第2空間S2にも冷媒Rと潤滑油Lの混合物が充満している。ロータ25の回転は、この混合物に対し、クランクシャフト30の主軸部31を中心とする回転運動を与える。これにより、とりわけ仕切部材70とモータ20の間に位置する混合物において、潤滑油Lは遠心力によって冷媒Rから分離され、胴部11の内壁へ叩きつけられる。この現象はサイクロン分離と呼ばれる。胴部11の内壁の潤滑油Lは、最後に油溜まり14へ落下する。潤滑油Lを除去された冷媒Rは、吐出管17を通過して、スクロール圧縮機100の外部へ吐出される。
【0050】
(4)モータ20の詳細構造
図3は、図2の要部を拡大した模式図である。バランスウェイト37は、モータ20とともに、吐出管17の高さと支持部材77の高さの間に配置されている。
【0051】
モータ20のステータ21は、ステータコア22、2つのインシュレータ23、複数のコイル24を有する。ステータコア22は、多数の積層鋼板から形成されている。インシュレータ23は樹脂製の部品であり、ステータコア22の上面と下面にそれぞれ1つずつ配置されている。複数のコイル24は、受け取った電力を用いて、ロータ25と相互作用するための磁界を発生させる。
【0052】
モータ20のロータ25は、図3には特に示されていないが、多数の積層鋼板、永久磁石、及び端板から形成されている。ロータ25にはスクロール圧縮機100の軸方向に貫通するロータ冷媒通路51が形成されている。ロータ冷媒通路51は「風穴」と呼ばれることもある。ロータ25は、主軸部31の中心軸Cを中心として回転する。
【0053】
図4は、ステータコア22の平面図である。ステータコア22は、円環部22aを有する。円環部22aは、中心軸Cを中心とする円環形状を有する。円環部22aの外周には、複数の凹部が形成されている。この凹部は、コアカット54と呼ばれる。円環部22aの内周には、円環部22aの中心に向かって突出する複数のティース22bが形成されている。
【0054】
図5は、スクロール圧縮機100の要部の上面又は断面を示す模式図である。本図において、モータ20は平面図として描かれている。一方、ケーシング10及びクランクシャフト30は断面図として描かれている。
【0055】
ステータコア22が有する各々のティース22bは、それぞれのティース22bを覆うインシュレータ23の部位とともに巻線が巻き付けられることによって、1つのコイル24を形成している。
【0056】
ステータコア22が有する複数のコアカット54は、ケーシング10の胴部11の内周面とともに、スクロール圧縮機100の軸方向に延びる冷媒Rの通路を形成する。
【0057】
隣接するコイル24の間には、コイル隙間53が形成される。コイル隙間53もまた、スクロール圧縮機100の軸方向に延びる冷媒Rの通路として機能する。
【0058】
ステータ21とロータ25の間には、エアギャップ52と呼ばれる隙間が形成されている。エアギャップ52もまた、スクロール圧縮機100の軸方向に延びる冷媒Rの通路として機能する。
【0059】
ロータ25が有するロータ冷媒通路51もまた、スクロール圧縮機100の軸方向に延びる冷媒Rの通路として機能する。
【0060】
図3に戻り、太い矢印で示されている通り、ロータ冷媒通路51、エアギャップ52、及びコイル隙間53は、いずれも、スクロール圧縮機100が冷媒Rの圧縮を行う際に、冷媒Rを下方から上方へと通過させる。ロータ冷媒通路51、エアギャップ52、及びコイル隙間53は、いずれもモータ20を軸方向に貫通しているので、本願では貫通部50と総称する。換言すれば、貫通部50は、冷媒Rをモータ20の下方から上方へ通過させる。一方、同様に冷媒Rの通路として機能するコアカット54では、太い矢印で示されている通り、冷媒Rが上方から下方へと通過する。
【0061】
(5)遠心ポンプ60
図6は、クランクシャフト30の断面を示す模式図である。クランクシャフト30は、主軸部31、バランスウェイト37、及び、これまで説明を省略してきた突出部38を有している。バランスウェイト37は、平面視において、クランクシャフト30の主軸部31の中心軸Cを中心とする扇形の形状を有する。この扇形の中心角θは、150°以上かつ210°以下である。中心角θは、典型的には180°である。突出部38は、主軸部31の中心軸Cを基準として、バランスウェイト37とは反対方向に突出している。
【0062】
図7は、バランスウェイトを覆うカバー61の斜視図である。カバー61は、全体として円柱の形状を有している。カバー61は、上面部61aと側面部61bを有する。上面部61aは、中心に向かって低くなるように傾斜している。上面部61aには、主軸部31を通過させるための上部開口61cが設けられている。カバー61の下部には、バランスウェイト37を受容するための下部開口61dが設けられている。
【0063】
図8は、カバー61の断面を示す模式図である。この図からも、上面部61aが中心に向かって低くなるように傾斜していることが理解される。
【0064】
図9は、遠心ポンプ60の断面を示す模式図である。遠心ポンプ60の構成要素には、主軸部31、バランスウェイト37、突出部38、カバー61、及びバランスリング62が含まれる。遠心ポンプ60は、吐出管17より下方に配置されるとともに、モータ20より上方に配置されている。
【0065】
カバー61は、バランスウェイト37を覆うことによって遠心ポンプ60として機能する。カバー61は、ボルトBによってバランスウェイト37に締結される。この締結の結果、上面部61aの一部はバランスウェイト37と密着するように水平になる。一方、半バランス空間63では、上面部61aが有する傾斜に起因して、上面部61aが持ち上げられる。この結果、上部開口61cでは、クランクシャフト30と上面部61aの間に上部隙間65が形成される。また、下部開口61dでは、側面部61bの端部とバランスリング62の外周の間に下部隙間66が形成される。
【0066】
バランスリング62は、バランスウェイト37の下面を覆う。バランスリング62は環状であり、カバー61とロータ25の間に設置される。
【0067】
カバー61とバランスリング62はいずれも金属製の部材である。カバー61は、バランスリング62と協働して円柱状の内部空間を形成する。この円柱状の内部空間は、バランスウェイト37の体積をすべて収容している。内部空間のうち、バランスウェイト37によって占められていない残余の空間は、反バランス空間63である。反バランス空間63は、クランクシャフト30の主軸部31を基準として、バランスウェイト37の反対側に位置する。突出部38は、主軸部31から反バランス空間63に向かって突出している。
【0068】
図10は、図9の拡大図である。上部隙間65において、上面部61aの端部と主軸部31は互いに水平方向に寸法G1だけ離間する。また、上面部61aと突出部38の上面は互いに鉛直方向に寸法G3だけ離間する。下部隙間66において、側面部61bの端部とバランスリング62の外周は互いに寸法G2だけ離間する。図中で、寸法G2を形成する離間方向は斜めであるが、これに代えて、離間方向は水平方向であってもよいし、鉛直方向であってもよい。
【0069】
太い矢印は、冷媒Rの移動を示している。クランクシャフト30の回転に伴ってカバー61及びバランスリング62が遠心ポンプ60として機能することにより、上部隙間65において上方から反バランス空間63へ冷媒Rが吸引される。加えて、遠心ポンプ60の機能により、下部隙間66から、スクロール圧縮機100の径方向外側、かつ下方へと冷媒Rが噴出する。吐出管17は、下部隙間66よりも上方に位置している。
【0070】
図3に示すように、貫通部50の少なくとも一部(例えば、コイル隙間53)は、カバー61の平面視の円の半径よりも大きな寸法だけ主軸部31の中心軸Cから水平方向に離間している。換言すれば、平面視において貫通部50の少なくとも一部はカバー61によって隠れることなく露出している。
【0071】
コアカット54を通過してモータ20の下方の空間へ到達した冷媒Rは、潤滑油Lと十分に分離されていない場合がある。そのような潤滑油Lを含んだ冷媒Rが、モータ20の下方の空間から貫通部50を通過してモータ20の上方の空間に到達すると、冷媒Rが潤滑油Lを含んだまま吐出管17から排出されるおそれがある。しかしながら、潤滑油Lを含んだ冷媒Rは、遠心ポンプ60の下部隙間66から径方向外側へ噴出する冷媒流によって、ケーシング10の胴部11の内周面へ向かって押しつけられ、次いで、吐出管17に到達することなくコアカット54を通過してモータ20の下方の空間へ誘導される。
【0072】
(6)特徴
(6-1)
図10に示す遠心ポンプ60は、カバー61の上方の空間から冷媒Rを吸い込むとともに、下方の空間において冷媒Rを径方向外側へ噴き出す。したがって、下方の空間に存在する潤滑油Lを含んだ冷媒Rが径方向外側へ誘導されるので、潤滑油Lのスクロール圧縮機100からの排出が抑制される。
【0073】
(6-2)
図3に示すように、潤滑油Lを含んだ冷媒Rが貫通部50を通過してカバー61の下方の空間へ到達したとき、その冷媒Rは下部隙間66から吹き出す冷媒流によって径方向外側へ誘導され、吐出管17には到達しない。したがって、潤滑油Lのスクロール圧縮機100からの排出がより効果的に抑制される。
【0074】
(6-3)
貫通部50は、ロータ冷媒通路51、エアギャップ52、又はコイル隙間53を含んでいる。貫通部50の少なくとも一部、例えばコイル隙間53は、カバー61よりも外方に位置している。したがって、貫通部50を通過する冷媒Rの上昇流は、下部隙間66から吹き出す冷媒流によって進行方向を変えられるので、吐出管17に達することなく径方向外側へ誘導される。よって、潤滑油Lのスクロール圧縮機100からの排出がさらに効果的に抑制される。
【0075】
(6-4)
図6に示すように、バランスウェイト37は平面視で扇形である。したがって、カバー61の内部空間においてバランスウェイト37が存在しない箇所に反バランス空間63が形成されるので、遠心ポンプ60を構成することができる。
【0076】
(6-5)
クランクシャフト30とバランスウェイト37は一体である。したがって、遠心力によってバランスウェイト37がクランクシャフト30から分離されることがない。
【0077】
(6-6)
図10に示すように、冷媒Rはカバー61とクランクシャフト30の間から反バランス空間63へ吸い込まれる。冷媒Rは反バランス空間63からカバー61とバランスリング62の間を通過してカバー61の下方の空間へ吹き出す。
【0078】
(6-7)
冷凍装置101は、潤滑油Lを含んだ冷媒Rの進行方向を吐出管17から逸らすスクロール圧縮機100を有する。したがって、冷凍装置101の中で、潤滑油Lがスクロール圧縮機100から排出される事象が抑制される。
【0079】
<第1実施形態の変形例>
(7)変形例
(7-1)
上述の基本実施形態では、クランクシャフト30とバランスウェイト37とは一体の部材である。
【0080】
これに代えて、クランクシャフト30とバランスウェイト37とは別体の部材であってもよい。この場合、バランスウェイト37はクランクシャフト30の主軸部31に対し、適切な固定手段によって着脱可能な態様で固定される。
【0081】
この構成によれば、バランスウェイト37はクランクシャフト30に対して着脱可能である。したがって、形状又は質量が異なる複数のバランスウェイト37を準備することにより、ロータ25及びクランクシャフト30の回転バランスを調整しやすい。
【0082】
(7-2)
上述の基本実施形態では、遠心ポンプ60を有しているのはスクロール圧縮機100である。これに代えて、スクロール圧縮機100以外の種類の圧縮機に遠心ポンプ60を搭載してもよい。例えば、ロータリー圧縮機が遠心ポンプ60を搭載していてもよい。この構成によっても、当該圧縮機から潤滑油が排出される事象が抑制できる。
【0083】
<第2実施形態>
図11は、第2実施形態に係るクランクシャフト30の断面を示す模式図である。クランクシャフト30は、第1実施形態のものとは異なり、半バランス空間63に突出する部分を有しない。
【0084】
図12は、第2実施形態に係る遠心ポンプ60を示す。この遠心ポンプ60の上部隙間65には、第1実施形態の寸法G3に相当する離間箇所が存在しない。上部隙間65では、上面部61aの端部と主軸部31が互いに水平方向に寸法G1だけ離間している。
【0085】
このような構成によっても、寸法G1によって形成される上部隙間65が冷媒Rを吸引することができるので、遠心ポンプ60が構成される。遠心ポンプ60は、下方の空間において冷媒Rを径方向外側へ噴き出すので、潤滑油Lのスクロール圧縮機100からの排出が抑制される。
【0086】
第1実施形態の上述の変形例を、第2実施形態に適用してもよい。
【0087】
<むすび>
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0088】
10 :ケーシング
14 :油溜まり
15 :吸入管
17 :吐出管
20 :モータ
21 :ステータ
22 :ステータコア
22a :円環部
22b :ティース
23 :インシュレータ
24 :コイル
25 :ロータ
30 :クランクシャフト
31 :主軸部
32 :偏心部
37 :バランスウェイト
38 :突出部
40 :圧縮機構
50 :貫通部
51 :ロータ冷媒通路
52 :エアギャップ
53 :コイル隙間
54 :コアカット
60 :遠心ポンプ
61 :カバー
61a :上面部
61b :側面部
62 :バランスリング
63 :反バランス空間
65 :上部隙間
66 :下部隙間
100 :スクロール圧縮機(圧縮機)
101 :冷凍装置
C :中心軸
G1 :寸法
G2 :寸法
G3 :寸法
L :潤滑油
R :冷媒
【先行技術文献】
【特許文献】
【0089】
【特許文献1】特開2021-017849号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12