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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146092
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】高分子薄膜及び電池
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/02 20060101AFI20241004BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20241004BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20241004BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241004BHJP
【FI】
C08G64/02
C08F299/02
H01M50/414
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058807
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 紗英
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝至
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康貴
(72)【発明者】
【氏名】合田 英生
【テーマコード(参考)】
4J029
4J127
5H021
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB07
4J029AE18
4J029GA02
4J029GA04
4J029HC07
4J029JB252
4J029JB262
4J029JB302
4J029KH01
4J127AA01
4J127BA031
4J127BB041
4J127BB081
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD111
4J127BE311
4J127BE31Y
4J127BF271
4J127BF27Y
4J127BG091
4J127BG09Y
4J127BG121
4J127BG12X
4J127CA01
4J127EA12
4J127FA00
5H021EE15
5H021HH01
5H021HH04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電解液等への高い膨潤性を有する高分子薄膜を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構成単位、及び、0.3モル%以上10モル%以下の下記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む、高分子薄膜。

(前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは反応性基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位、及び、0.3モル%以上10.0モル%以下の下記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む、
高分子薄膜。
【化1】

(前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(2-1)、下記構造式(2-2)及び下記構造式(2-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【化2】
【請求項2】
請求項1に記載の高分子薄膜において、
前記一般式(2)における-L-Xが、下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)及び下記構造式(2-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基である、
高分子薄膜。
【化3】
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の高分子薄膜において、
前記共重合体が、0.1モル%以上30.0モル%以下の下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位をさらに含む、
高分子薄膜。
【化4】

(前記一般式(3)及び前記一般式(4)において、Rは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(4-1)、下記構造式(4-2)及び下記構造式(4-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【化5】
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の高分子薄膜において、
酢酸エチルに対する前記共重合体の溶出量が10%以下であり、
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶剤に対する前記共重合体の膨潤度が100%以上である、
高分子薄膜。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の高分子薄膜を含む、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子薄膜及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子薄膜は、様々な用途に使用されており、例えば、電池分野の材料にも使用されている。高分子薄膜は、例えば、電池用セパレータに用いられている。
例えば、特許文献1には、ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に積層された多孔層と、を備える電池用セパレータが開示されている。この多孔層は、フッ化ビニリデン単独重合体及びフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群から選ばれるフッ化ビニリデン系ポリマーと、ポリアクリル酸と、無機粒子を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-053727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電池用セパレータでは、負極活物質表面のデンドライト析出は止めることができないという問題がある。なお、活物質表面に生じたデンドライトは充放電サイクルの中で活物質表面から剥がれ、不可逆容量となる。さらにデンドライトが成長し、正極へ到達すると短絡するため、デンドライト発生を抑制する必要がある。
一方で、負極活物質表面のデンドライト析出は、負極表面とセパレータの間に細かい凹凸に起因する隙間があることが原因であると、本発明者らは考えている。そして、例えば、セパレータが電解液等への高い膨潤性を有するものであれば、セパレータを膨潤させて、負極表面とセパレータの隙間を埋めることができる。
【0005】
本発明の目的は、電解液等への高い膨潤性を有する高分子薄膜、並びに、電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 下記一般式(1)で表される構成単位、及び、0.3モル%以上10モル%以下の下記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む、
高分子薄膜。
【0007】
【化1】
【0008】
(前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(2-1)、下記構造式(2-2)及び下記構造式(2-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【0009】
【化2】
【0010】
[2] [1]に記載の高分子薄膜において、
前記一般式(2)における-L-Xが、下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)及び下記構造式(2-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基である、
高分子薄膜。
【0011】
【化3】
【0012】
[3] [1]又は[2]に記載の高分子薄膜において、
前記共重合体が、0.1モル%以上30モル%以下の下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位をさらに含む、
高分子薄膜。
【0013】
【化4】
【0014】
(前記一般式(3)及び前記一般式(4)において、Rは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(4-1)、下記構造式(4-2)及び下記構造式(4-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【0015】
【化5】
【0016】
[4] [1]から[3]のいずれかに記載の高分子薄膜において、
酢酸エチルに対する前記共重合体の溶出量が10%以下であり、
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶剤に対する前記共重合体の膨潤度が100%以上である、
高分子薄膜。
【0017】
[5] [1]から[4]のいずれかに記載の高分子薄膜を含む、
電池。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、電解液等への高い膨潤性を有する高分子薄膜、並びに、電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る電池の要部の一例を模式的に表す断面図である。
図2】本実施形態に係る高分子薄膜を電池用セパレータに使用した場合における作用効果を説明するための図である。
図3】実施例1で製造した共重合体のH-NMRの測定結果を示すチャートである。
図4】実施例2で製造した共重合体のH-NMRの測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について実施形態を例に挙げて説明する。本発明は実施形態の内容に限定されない。
【0021】
[高分子薄膜]
本実施形態に係る高分子薄膜の好ましい一例について説明する。
【0022】
本実施形態に係る高分子薄膜は、一般式(1)で表される構成単位、及び、0.3モル%以上、10.0モル%以下の一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む。
【0023】
本実施形態に係る高分子薄膜によれば、上記構成を有することにより、電解液等への高い膨潤性を有する高分子薄膜が得られる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。本実施形態に係る高分子薄膜に用いる共重合体は、主ポリマー骨格をカーボネート骨格とすることで、電解液との相溶性が向上する。このため、電池を組み立てるときにおいて、電解液を注入した後に、セパレータとしての高分子薄膜を膨潤させることができる。そして、架橋性官能基(反応性基)を有する一般式(2)で表される構成単位を0.3モル%以上、10.0モル%以下含有することで、架橋反応が適度に進行するため、高膨潤度と低溶出量との両立が可能となる。
【0024】
本実施形態に係る高分子薄膜は、上記構成を有する特定の共重合体を含んでいれば、本発明の目的を損なわない限りにおいて、これら以外の成分を含んでいてもよい。
【0025】
本実施形態に係る高分子薄膜の形態は、特に限定されないが、自立膜であることが好ましい。本実施形態に係る高分子薄膜の自立膜は、当該薄膜単体で自立保持可能な膜を表す。
【0026】
(共重合体)
本実施形態に係る高分子薄膜に含まれる共重合体は、下記一般式(1)で表される構成単位、及び、0.3モル%以上、10.0モル%以下の下記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む。
【0027】
【化6】
【0028】
一般式(1)及び一般式(2)において、
は、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、水素原子又はメチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、メチレン基又はエチレン基であることが好ましく、メチレン基であることが特に好ましい。
は、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、単結合、炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であることが好ましく、単結合、又は炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基であることが特に好ましい。
は、下記構造式(2-1)、下記構造式(2-2)及び下記構造式(2-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。なお、構造式中の波線は、結合位置を表す。
【0029】
【化7】
【0030】
また、合成の容易性の観点から、一般式(2)における-L-Xは、下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)及び下記構造式(2-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基であることが好ましい。なお、構造式中の波線は、結合位置を表す。
【0031】
【化8】
【0032】
このような共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。合成の容易性の観点から、前記共重合体は、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0033】
本実施形態に係る高分子薄膜に含まれる共重合体は、例えば、一般式(1)で表される構成単位と、一般式(2)で表される構成単位とからなる共重合体の場合には、以下のような構成比率となる。
一般式(2)で表される構成単位の比率は、全ての構成単位に対して、0.3モル%以上、10.0モル%以下であることが必要である。この比率が0.3モル%未満であると、溶出量が高くなってしまう。他方、この比率が10.0モル%を超えると、共重合体の架橋密度が高くなり、膨潤性が低下するという問題がある。
同様の観点から、一般式(2)で表される構成単位の比率は、1.0モル%以上であることが好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましい。一方で、一般式(2)で表される構成単位の比率は、8.0モル%以下であることが好ましく、7.0モル%以下であることがより好ましく、6.0モル%以下であることがさらに好ましく、5.0モル%以下であることが特に好ましい。
【0034】
一般式(1)で表される構成単位の比率は、全ての構成単位に対して、90.0モル%以上、99.7モル%以下であることが必要である。また、一般式(1)で表される構成単位の比率は、92.0モル%以上であることが好ましく、93.0モル%以上であることがより好ましく、94.0モル%以上であることがさらに好ましく、95.0モル%以上であることが特に好ましい。一方で、一般式(1)で表される構成単位の比率は、99.0モル%以下であることが好ましく、98.5モル%以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係る高分子薄膜に含まれる共重合体は、0.1モル%以上30.0モル%以下の下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位をさらに含むことが好ましい。
一般式(3)又は一般式(4)で表される構成単位のようなエーテル骨格を含む共重合体とすることで、共重合体のガラス転移温度が低下し、薄膜が柔軟化するため、高イオン伝導度化が期待できる。
【0036】
【化9】
【0037】
一般式(3)及び一般式(4)において、
は、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、水素原子又はメチル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、メチレン基又はエチレン基であることが好ましく、メチレン基であることが特に好ましい。
は、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、単結合、炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であることが好ましく、単結合、又は炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基であることが特に好ましい。
は、下記構造式(4-1)、下記構造式(4-2)及び下記構造式(4-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。なお、構造式中の波線は、結合位置を表す。
【0038】
【化10】
【0039】
また、合成の容易性の観点から、一般式(4)における-L-Xは、下記構造式(4-4)、下記構造式(4-5)及び下記構造式(4-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基であることが好ましい。なお、構造式中の波線は、結合位置を表す。
【0040】
【化11】
【0041】
本実施形態に係る高分子薄膜に含まれる共重合体は、例えば、一般式(1)で表される構成単位と、一般式(2)で表される構成単位と、一般式(3)で表される構成単位と、一般式(4)で表される構成単位とからなる共重合体の場合には、以下のような構成比率となる。
一般式(2)で表される構成単位の比率は、前述のとおりである。
一般式(3)で表される構成単位と、一般式(4)で表される構成単位との合計の比率は、全ての構成単位に対して、0.1モル%以上、30.0モル%以下であることが好ましい。これらの合計の比率が0.1モル%未満であると、エーテル骨格による作用効果が十分に発揮できない傾向にある。他方、これらの合計の比率が30.0モル%を超えると、電解液との相溶性が悪くなり、膨潤度の低下を招く傾向にある。
同様の観点から、これらの合計の比率は、0.2モル%以上であることが好ましく、0.6モル%以上であることがより好ましい。一方で、これらの合計の比率は、25.0モル%以下であることが好ましく、20.0モル%以下であることがより好ましく、10.0モル%以下であることが特に好ましい。
【0042】
一般式(1)で表される構成単位の比率は、全ての構成単位に対して、60.0モル%以上、99.6モル%以下であることが好ましい。また、一般式(1)で表される構成単位の比率は、65.0モル%以上であることが好ましく、70.0モル%以上であることがより好ましい。一方で、一般式(1)で表される構成単位の比率は、98.0モル%以下であることが好ましく、94.0モル%以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態に係る共重合体の測定例に示す方法で測定した分子量は、重量平均分子量(Mw)で表す場合、5,000以上5,000,000以下であることが好ましく、10,000以上1,000,000以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る共重合体の測定例に示す方法で測定した分子量は、数平均分子量(Mn)で表す場合、3,000以上3,000,000以下であることが好ましく、5,000以上500,000以下であることがより好ましい。
また、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は、1以上10以下であることが好ましく、1.1以上5以下であることがより好ましい。前記共重合体の分子量及び分子量分布が上記範囲であることで、膜形態に成形とした際に十分なハンドリング性を有することができる。
【0044】
(共重合体の製造方法)
本実施形態に係る高分子薄膜に含まれる共重合体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により得られるが、例えば、次のような方法で作製できる。
後述の実施例に記載のように、重合触媒の存在下、プロピレンオキシド等のエポキシドモノマーと、二酸化炭素とを、共重合させることにより、製造することができる。具体的には、プロピレンオキシドは開環することにより、一般式(3)で表される構成単位となるが、プロピレンオキシドの一部が、開環しながら二酸化炭素と重合することにより、一般式(1)で表される構成単位となる。
【0045】
共重合体を製造する際に使用する重合触媒としては、特に限定されず、コバルトサレン触媒等の金属サレン錯体触媒及び有機亜鉛系触媒などが例示できる。
【0046】
エポキシドモノマーと二酸化炭素との共重合反応に使用する重合触媒の使用量は、例えば、金属サレン錯体触媒の場合には、エポキシドモノマー1モルに対して、0.05モル以下であることが好ましく、0.01モル以下であることがより好ましく、0.001モル以下であることが特に好ましい。
さらに、金属サレン錯体触媒を使用する場合には助触媒を使用することができる。助触媒としては、例えばオニウム塩化合物が好ましい。前記オニウム塩化合物の具体例として、特に限定されないが、高い反応活性を有する観点から、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド、ピペリジン、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムフルオリド、アンモニウムペンタフルオロベンゾエート、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドなどが好ましい。
【0047】
なお、重合条件は、触媒の種類によっても最適条件が異なるが、例えば、反応容器内の二酸化炭素の圧力は、0.1MPa以上、10MPa以下、好ましくは、0.5MPa以上、5MPa以下である。
また、重合温度は、例えば、コバルトサレン錯体触媒の場合には、触媒作用が良好に働き、反応速度が促進されるという観点から、室温(25℃)程度が好ましい。
【0048】
エポキシドモノマーと二酸化炭素とを共重合させる方法において、出発原料として用いられるエポキシドモノマーとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルなどが挙げられる。なお、共重合体における一般式(1)で表される構成単位と、一般式(2)で表される構成単位とのモル比は、反応性の違いにより、一般式(1)で表される構成単位の出発原料となるエポキシドモノマーと、一般式(2)で表される構成単位の出発原料となるエポキシドモノマーとのモル基準の混合比と一致しない場合がある。
【0049】
(高分子薄膜の特性)
本実施形態に係る高分子薄膜において、酢酸エチルに対する共重合体の溶出量が、40%以下であることが好ましく、質量%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましく、7%以下であることが非常に好ましい。溶出した共重合体の低分子成分は不可逆容量となるため、当該溶出量はなるべく低いことがよい。共重合体の溶出量の下限値は、特に限定されず、例えば、1%以上でもよく、0.1%以上でもよく、0%でもよい。
【0050】
本実施形態に係る高分子薄膜において、酢酸エチルに対する共重合体の溶出量が上記範囲であり、かつ、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶剤に対する共重合体の膨潤度が、100%以上であることが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る高分子薄膜は、上述のとおり、電解液及び電解液の溶媒として使用されるカーボネート系溶媒等への高い膨潤性を有することが好ましい。このような観点から、上記のエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶剤に対する共重合体の膨潤度は、100%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、300%以上であることがさらに好ましく、500%以上であることが特に好ましく、700%以上であることが非常に好ましく、900%以上であることが最も好ましい。この膨潤度の上限値は、特に限定されず、例えば、2000%以下であってもよい。
【0052】
本実施形態に係る高分子薄膜の膜厚は、膜強度の観点から、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。本実施形態に係る高分子薄膜の膜厚は、膜の抵抗を小さくするという観点から、20μm以下であることが好ましく、16μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましい。
【0053】
(高分子薄膜の製造方法)
本実施形態に係る高分子薄膜は、共重合体を含む高分子薄膜が得られやすくなる観点で、光重合開始剤を用いることが好ましい。本実施形態に係る高分子薄膜において、光重合開始剤を用いた場合、共重合体を含む薄膜は、当該薄膜中の共重合体の側鎖にある反応性基(アリル基、及び(メタ)アクリロイル基)が反応して架橋する。
【0054】
本実施形態に係る高分子薄膜の好ましい製造方法の一例について説明する。
【0055】
本実施形態に係る高分子薄膜の製造方法は、下記の工程を備える。
前述の共重合体及び光重合開始剤を混合して、混合物を調製する工程(工程1)。
混合物を成形して、成形物を得る工程(工程2)。
成形物に対し、エネルギー線を照射して、共重合体を含む高分子薄膜を得る工程(工程3)。「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味する。エネルギー線の例としては、紫外線、放射線、電子線等が挙げられる。紫外線は、無電極ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ブラックライト、LEDランプ等を用いて照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。
【0056】
本実施形態に係る高分子薄膜の製造方法の一態様によれば、高分子薄膜としての共重合体を含む薄膜が得られ、当該薄膜の自立膜が得られやすくなる。
【0057】
(工程1)
工程1は、高分子薄膜を得るための原材料を混合して、混合物を得る工程である。工程1では、まず、高分子薄膜を得るための原材料として、前述の共重合体と、光重合開始剤とをそれぞれ準備する。共重合体は、例えば、前述の製造方法によって得られる。次に、これらの準備した原材料について、目的とする量を秤量する。その後、秤量した各原材料を混合し、さらに、必要に応じて、希釈溶媒を加えることによって、混合物が調製される。当該混合物は、公知の撹拌装置等によって各原材料を撹拌することにより調製してもよい。工程1で調整された混合物は、高分子薄膜形成用の混合物である。
【0058】
光重合開始剤は、特に限定されず、公知の化合物が挙げられる。光重合開始剤は、紫外線に感応する光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
光重合開始剤は、例えば、具体的には、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α’-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、及び1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα-ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、及び2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1等のアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、及びアニソインメチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタール等のケタール系化合物;2-ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド系化合物;1-フェノン-1,1-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム等の光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等)チオキサンソン系化合物(チオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン等のベンゾフェノン系化合物;カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナート、及びオリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン]等が挙げられる。
【0060】
光重合開始剤の含有量は、例えば、共重合体100質量部に対して、0.1質量部以上、10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上、7.5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0061】
(工程2)
工程2は、工程1で調製した混合物から成形物を得る工程である。工程2では、工程1で調製した混合物を成形することにより、成形物が得られる。混合物の成形は、特に限定されず、例えば、混合物を支持体の表面に塗布して塗膜を形成することで成形してもよい。支持体として、例えば、基材の少なくとも一方の面に剥離処理面を有する剥離フィルムを用いてもよい。剥離フィルムの剥離処理面の上に、工程1で調製した混合物を塗布して塗膜を形成することで成形物を得ることができる。また、剥離フィルムを用いる場合、基材の少なくとも一方の面に剥離処理面を有する第一剥離フィルムを用い、当該剥離処理面の上に、工程1で調製した混合物を塗布して塗膜を形成して成形物を得た後、基材の少なくとも一方の面に剥離処理面を有する第二剥離フィルムの剥離処理面を成形物に重ねてもよい。成形物を、前記第一剥離フィルムと前記第二の剥離フィルムとの間に挟み込んで、工程3に供してもよい。
【0062】
(工程3)
工程3は、工程2で得た成形物から共重合体を含む高分子薄膜を得る工程である。工程3では、工程2で成形した成形物に対し、エネルギー線を照射することにより、共重合体が架橋して、共重合体の架橋物である薄膜が得られる。エネルギー線の種類は特に限定されないが、反応性や作業性の点から紫外線が好ましい。成形物に対して紫外線を照射する装置は、特に限定されず、例えば、紫外線LEDランプを備えた装置でもよく、高圧水銀ランプを備えた装置でもよく、メタルハライドランプを備えた装置でもよい。
【0063】
成形物に対して紫外線を照射する条件は、特に限定されない。紫外線を照射するときの最大照度及び積算光量は、例えば、以下の条件が挙げられる。最大照度は、5~1000mW/cmであることが好ましい。積算光量は、50~5000mJ/cmであることが好ましい。
【0064】
以上の工程1、工程2、及び工程3を経ることによって、本実施形態に係る高分子薄膜が得られる。工程2で使用された剥離フィルムは、工程3で、紫外線を照射した後、薄膜から剥離フィルムを剥離して、本実施形態に係る高分子薄膜が使用される。
【0065】
[高分子薄膜の使用方法]
本実施形態に係る高分子薄膜は、電解液等への高い膨潤性を有するため、このような特性が求められる用途に適用できる。本実施形態に係る高分子薄膜は、例えば、電池の用途に適用されることが好ましい。この場合、本実施形態に係る高分子薄膜は、例えば、電池用セパレータであることが好ましく、リチウムイオン等の二次電池の電池用セパレータであることも好ましい。
【0066】
[電池]
次に、本実施形態に係る電池の好ましい一例について説明する。
【0067】
本実施形態に係る電池は、本実施形態に係る高分子薄膜が適用された電池である。本実施形態に係る電池は、例えば、電池用セパレータとして、本実施形態に係る高分子薄膜を含む。電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に配置される電解質層とにより構成される。このような構成とすることで、各特性に優れた電池を得ることができる。また、電池としては、二次電池であることが好ましく、リチウムイオン等の二次電池であることがより好ましい。本実施形態に係る電池の構造は、特に限定されず、積層型の構造であっても、巻回型の構造であってもよい。
【0068】
ここで、本実施形態に係る高分子薄膜を用いた電池の一例について、図面を参照して説明する。図面においては、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。
【0069】
図1には、本実施形態に係る高分子薄膜が用いられた例としての電池の一例が示されている。図1に示される電池100は、リチウムイオン二次電池である。図1に示されるように、電池100は、正極10と、負極20と、正極10と負極20との間に、電解質層30とを備えている。正極10は、正極集電体13と、正極集電体13の上に積層された正極合材層11とから構成されており、負極20は、負極集電体23と、負極集電体23の上に積層された負極合材層21とから構成されている。電解質層30は、電解液33と、電解液33が含浸されたセパレータ31とにより構成されており、セパレータ31により、正極10側と負極20側とを互いに隔てている。電池100は、正極集電体13、正極合材層11、電解質層30、負極合材層21、及び負極集電体23が、正極集電体13から負極集電体23に向かって、この順で積層された積層構造を備えており、当該積層構造が図示しない容器の内部に収容されている。電池100において、セパレータ31として、本実施形態に係る高分子薄膜が用いられている。
【0070】
本実施形態に係る高分子薄膜を用いた電池によれば、上記構成を有することにより、デンドライトの発生を抑制できる。この理由は定かではないが、次のように考えられる。本実施形態に係る高分子薄膜をセパレータ31として用いた場合、電池を組み立てるときにおいて、電解液を注入した後には、図2(A)に示すように、セパレータ31と電解液33とは分離している。このような状態では、負極合材層21とセパレータ31の間に細かい凹凸に起因する隙間が存在することになる。そして、この部分に、デンドライトが析出する。一方で、本実施形態に係る高分子薄膜を用いたセパレータ31は、電解液33への高い膨潤性を有するため、電解液を注入後にしばらく時間が経過すると、図2(B)に示すように、セパレータ31が膨潤する。そして、このようなセパレータ31の膨潤により、図2(C)に示すように、負極合材層21とセパレータ31との隙間がなくなる。そのため、本実施形態に係る高分子薄膜をセパレータ31として用いた場合には、デンドライトの発生を抑制できる。
【0071】
以上、図1及び図2を参照して、本実施形態に係る電池の一例を説明したが、本実施形態に係る電池の例は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る電池は、本実施形態に係る高分子薄膜が用いられていれば、種々の形態を採用し得る。
【0072】
正極集電体及び負極集電体に用いられる材質は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、及びステンレス鋼等の金属箔又は金属板、並びに、カーボンシート、及びカーボンナノチューブシート等が挙げられる。
【0073】
正極合材層は、例えば、リチウム含有複合酸化物等の正極活物質、炭素系材料等の導電助剤、及び結着剤等により構成される。
【0074】
負極合材層は、例えば、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びグラフェン等の負極活物質、炭素系材料等の導電助剤、及び結着剤等により構成される。
【0075】
電解質層は、例えば、電解液及びセパレータにより構成される。セパレータは、前述のとおりである。
【0076】
本実施形態に係る電池において、電解液は、リチウム塩と、カーボネート系溶媒とを含むことが好ましい。
【0077】
リチウム塩は、例えば、具体的には、ヘキサフルオロリン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾレート、リチウム4,5-ジシアノ-1,2,3-トリアゾレート、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、ホウフッ化リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、及びフッ化リチウム等が挙げられる。リチウム塩は、これら例示したリチウム塩のうちの1種、又は2種以上を用いることができる。
【0078】
カーボネート系溶媒は、例えば、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びブチレンカーボネート等が挙げられる。カーボネート系溶媒は、これら例示したリチウム塩のうちの1種、又は2種以上を用いることができる。ここで、本実施形態におけるカーボネート系溶媒は、分子構造中にカーボネート骨格を有する化合物を表す。
【0079】
なお、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0080】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されない。
【0081】
以下の実施例及び比較例における測定又は評価は、以下に示す方法により行った。
【0082】
[重量平均分子量(Mw)及び、数平均分子量(Mn)の測定]
ゲル浸透クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製、製品名「HLC-8320GPC」)を用いて、下記の条件で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「TSKgel guardcolumn SuperH-H」「TSKgel SuperHM-H」「TSKgel SuperHM-H」及び「TSKgel SuperH2000」(いずれも東ソー株式会社製)を順次連結したカラム
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:テトラヒドロフラン(共重合体濃度1質量%)
・標準物質:ポリスチレン
・注入量:20μL
・流量:0.60mL/min
・検出器:示差屈折計
【0083】
[溶出量測定]
後述の各実施例及び各比較例で得られた薄膜を、約300mgになるように秤量した。このときの薄膜の質量をMとする。この薄膜をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包んだ。ポリエステル製メッシュに包んだ薄膜の質量を秤量し、薄膜の質量を差し引くことで、ポリエステル製メッシュ単独の質量を算出した。次に、上記ポリエステル製メッシュに包んだ薄膜を、23℃で酢酸エチルに48時間浸漬させた。その後、ポリエステル製メッシュに包んだ薄膜を、酢酸エチルから取り出して、120℃のオーブン中にて2時間乾燥させ、さらに温度23℃、相対湿度50%の環境下で2時間風乾させた。当該風乾後の質量を秤量し、上記ポリエステル製メッシュ単独の質量を差し引くことにより、浸漬後の薄膜のみの質量を算出した。このときの質量をMとする。そして、以下の数式(F1)を用いて溶出量を算出した。
溶出量(%)={(M-M)/M}×100 ・・・(F1)
数式(F1)中、Mはポリエステル製メッシュに包む前に秤量した薄膜の質量、Mは酢酸エチルに浸漬後の薄膜のみの質量を示す。
【0084】
[膨潤度測定]
後述の各実施例及び各比較例で得られた薄膜を、約3cm(縦)×約3cm(横)に裁断し、得られた薄膜片を約1gになるように秤量した。このときの質量をWとする。この薄膜片をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)で包み、ポリエステル製メッシュに包んだ薄膜片の質量を秤量し、薄膜片の質量を差し引くことで、ポリエステル製メッシュ単独の質量を算出した。カーボネート系溶媒[組成:エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1(体積比)の混合溶媒]に24時間浸漬し、膨潤させた。その後、上記ポリエステル製メッシュに包んだ薄膜片を引き上げ、表面の溶媒を紙ワイパーで拭いた後、質量を測定し、上記ポリエステル製メッシュ単独の質量を差し引くことで、膨潤後の薄膜片の質量を算出した。このときの質量をWとする。そして、以下の数式(F2)を用いて膨潤度を算出した。
膨潤度(%)={(W-W)/W}×100 ・・・(F2)
数式(F2)中、Wはポリエステル製メッシュに包む前に秤量した薄膜片の質量、Wは膨潤後の薄膜片のみの質量を示す。
【0085】
[イオン伝導度測定]
後述の各実施例及び各比較例で得られたフルセルに対して、電極間に交流(印加電圧は10mV)を印加して抵抗成分を測定する交流インピーダンス法を用いて測定を行った。得られたコール・コールプロットの実数インピーダンス切片よりイオン伝導度を算出した。なお、測定にはポテンショスタット/ガルバノスタット(VMP-300、biologic社製)を用いた。
イオン伝導度(σ)は、下記数式(F3)により求めた。
σ=L/(R×S) ・・・(F3)
数式(F3)中、σはイオン伝導度(単位:S・cm-1)、Rは抵抗(単位:Ω)、Sは固体電解質膜の測定時の断面積(単位:cm)、Lは電極間距離(単位:cm)を示す。
なお、実施例(膨潤するセパレータ)の電極間距離は、セパレータが電解液に膨潤した後の値を用いた。
測定温度は、25℃である。また、複素インピーダンスの測定結果からイオン伝導度(σ)を算出した。
【0086】
[実施例1]
(重合触媒の合成)
(R,R)-N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1.2-ジアミノシクロヘキサンコバルト(II)と、ペンタフルオロ安息香酸とをモル比で1:1.1になるように秤量し、フラスコに入れ、そこに脱水トルエンを加えた。フラスコをアルミホイルで遮光し、室温で20時間反応させた。化学反応式は、以下のとおりである。反応終了後、減圧下で溶媒を除去し、過剰量のヘキサンで数回洗浄した。その後、室温で真空乾燥を行い、コバルトサレン錯体を得た。
【0087】
【化12】
【0088】
(共重合体Aの合成)
エポキシドモノマーとして、プロピレンオキシドとグリシジルメタクリレートをモル比で96:4になるよう混合した物を用い、重合触媒として合成したコバルトサレン錯体と助触媒としてビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリドを、モル比で、エポキシドモノマー:触媒:助触媒=2000:1:1になるよう秤量し、耐圧容器に入れた。さらに、フェノチアジンを200ppm添加した後、モノマー:酢酸エチル=50:50(質量比)になるよう酢酸エチルを加えた。これらの作業はすべて、圧力容器内をアルゴンで置換して行った。続いて、圧力容器内をパージした後、送液ポンプにより二酸化炭素を圧力容器内に導入し、圧力容器内の圧力を2.0MPaにし、25℃で20時間、重合反応を行った。
反応終了後、圧力容器の内容物にクロロホルムを加えてクロロホルム溶液を調製し、1M塩酸を加えた。次に、クロロホルム溶液を撹拌しているメタノール中に滴下し、生成物を沈殿させた。その後、生成物は、デシケーター中でダイアフラムポンプを用いて減圧乾燥を行い、次いで、60℃で真空乾燥を行って、共重合体Aを得た。
【0089】
得られた共重合体Aの構造を、核磁気共鳴分光法(H-NMR、Biospin Avance 500、Bruker社製)により、溶媒として、(CDCl、0.03体積%テトラメチルシラン含有)を用いて確認したところ、共重合体A中における一般式(1)で表される構成単位(以下、構成単位(1)とも称する)と、一般式(2)で表される構成単位(以下、構成単位(2)とも称する)と、一般式(3)で表される構成単位(以下、構成単位(3)とも称する)と、一般式(4)で表される構成単位(以下、構成単位(4)とも称する)とのモル比は、構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)=95.4:4.3:0.3:0であった(図3参照)。
また、得られた共重合体Aの数平均分子量Mnは35,000、分子量分布Mw/Mnは1.3であった。
【0090】
(薄膜の作製)
得られた共重合体Aに対して、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを共重合体:開始剤=97:3質量%となるように添加し、さらに酢酸エチルで希釈した後に撹拌して、固形分濃度30質量%の薄膜形成用の溶液を調整した。第一の剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET381031」)を用意し、この剥離フィルムの剥離処理面に、調整した薄膜形成用の溶液を塗布し、120℃で、1分間乾燥させ、厚さ10μmの薄膜層を形成した。さらに、第二の剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET382150」)を用意し、この剥離フィルムの剥離処理面を薄膜層の表面に貼合した。その後、第一の剥離フィルムと第二の剥離フィルムとの間に挟み込んだ薄膜の積層物を、ステンレス板に載置して、50℃加温下で紫外線照射[照度:200mW/cm、積算光量:1000mJ/cm、アイグラフィックス株式会社製照度光量計(制御部:EYE UV METER UVPF-A2、受光部:EYE UV METER PD-365A2)を用いて測定]を行うことで、厚さ6μmの薄膜を得た。得られた薄膜は、セパレータである。得られた薄膜を、前述の方法で、溶出量及び膨潤度の測定を行った。
【0091】
(正極の作製)
正極活物質(Li+xNi1/2Co3/5Mn2/5)と、導電材(アセチレンブラック:AB)と、バインダ(ポリフッ化ビニリデン:PVdF)とを、質量比で96:2:2の割合で混合し、分散媒(N-メチルピロリドン:NMP)に分散させて正極合材用ペーストを調製した。そして、当該正極合材用ペーストを正極集電体(アルミニウム箔、厚さ15μm)に塗布した後に、乾燥、圧延することによってシート状の正極を作製した。
【0092】
(負極の作製)
非晶質カーボンで表面を被覆した粒状の天然黒鉛(非晶質コート球形天然黒鉛)を負極活物質として用い、当該負極活物質と導電助剤(アセチレンブラック:AB)と増粘剤(カルボキシメチルセルロース:CMC)とバインダ(スチレンブタジエンゴム:SBR)とを、質量比で96:2:1:1の割合で混合し、分散媒(水)に分散させて負極合材用ペーストを調製した。そして、当該負極合材用ペーストを負極集電体(銅箔、厚さ11μm)に塗布した後に、乾燥、圧延することによってシート状の負極を作製した。
【0093】
(電解液の調製)
EC(エチレンカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)を体積比で1:1の割合で混合した。ECとDMCの混合溶媒に対し1Mになるように、LiTFSLを混合し、電解液を調製した。
【0094】
(フルセルの作製)
上記で作製した薄膜を直径19mmに打ち抜くことで、セパレータを作製した。上記で作製した正極と負極でセパレータを挟むことで、フルセルを作製した。作製したセルに、上記で作製した電解液を注入して、3時間静置した後、前述の方法でイオン伝導度測定を行った。
また、測定後にセルを解体して、セパレータの厚さを測定したところ、12μmであった。
【0095】
[実施例2]
(共重合体Bの重合)
エポキシドモノマーとして、プロピレンオキシドとグリシジルメタクリレートをモル比で98.5:1.5になるよう混合した物を用いた以外は、実施例1と同様にして重合し、共重合体Bを得た。
得られた共重合体Bの構造を、核磁気共鳴分光法を用いて確認したところ、共重合体B中におけるモル比は、構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)=97.5:1.6:0.9:0であった(図4参照)。
また、得られた共重合体Bの数平均分子量Mnは23,000、分子量分布Mw/Mnは1.3であった。
【0096】
(薄膜の作製)
共重合体Bを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で薄膜を作製し、厚さ7μmの薄膜を得た。得られた薄膜の溶出量及び膨潤度の測定を行った。
【0097】
(フルセルの作製)
実施例1と同様の方法で、共重合体Bにより作製した薄膜を用いて、フルセルを作製した。作製したセルに、電解液を注入して、3時間静置した後、イオン伝導度測定を行った。
また、測定後にセルを解体して、セパレータの厚さを測定したところ、52μmであった。
【0098】
[比較例1]
(フルセルの作製)
SEMCORP社製のポリオレフィンセパレータ(厚さ7μm)を直径19mmに打ち抜いた。上記で作製した正極と負極でセパレータを挟むことで、フルセルを作製した。作製したセルに、上記で作製した電解液を注入して、3時間静置した後、前述の方法でイオン伝導度測定を行った。
また、測定後にセルを解体して、セパレータの厚さを測定したところ、7μmであった。
【0099】
[比較例2]
(薄膜の作製)
ポリプロピレンカーボネート(商品名「QPAC40」、EMPOWER MATERIALS社製)をクロロホルムで希釈し、固形分濃度30質量%の薄膜形成用の溶液を調製した。剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に調整した溶液を塗布し、温度90℃、1分乾燥させ、厚さ10μmの薄膜を得た。得られた薄膜の溶出量及び膨潤度の測定を行った。
【0100】
(フルセルの作製)
実施例1と同様の方法で、QPAC40により作製した薄膜を用いて、フルセルを作製した。作製したセルに、電解液を注入して、3時間静置した後、イオン伝導度測定を行ったが、短絡したため測定ができなかった。
また、測定後にセルを解体したところ、薄膜は溶解し、なくなっていた。
【0101】
[比較例3]
(共重合体Cの重合)
エポキシドモノマーとして、プロピレンオキシドとグリシジルメタクリレートをモル比で90:10になるよう混合した物を用いた以外は、実施例1と同様にして重合し、共重合体Cを得た。
得られた共重合体Cの構造を、核磁気共鳴分光法を用いて確認したところ、共重合体B中におけるモル比は、構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)=83.7:15.0:1.1:0.2であった。
また、得られた共重合体Cの数平均分子量Mnは20,000、分子量分布Mw/Mnは1.2であった。
【0102】
(薄膜の作製)
共重合体Cを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で薄膜を作製し、厚さ13μmの薄膜を得た。得られた薄膜の溶出量及び膨潤度の測定を行った。
【0103】
(フルセルの作製)
実施例1と同様の方法で、共重合体Cにより作製した薄膜を用いて、フルセルを作製した。作製したセルに、電解液を注入して、18時間静置した後、イオン伝導度測定を行った。
また、測定後にセルを解体して、セパレータの厚さを測定したところ、15μmであった。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表2に示す結果から、実施例1~2で得られた高分子薄膜は、電解液への高い膨潤性を有することが分かった。
【符号の説明】
【0107】
10…正極、11…正極合材層、13…正極集電体、20…負極、21…負極合材層、23…負極集電体、30…電解質層、31…セパレータ、33…電解液、100…電池。
図1
図2
図3
図4