IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大口電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-硝酸鉄溶液による銀の回収方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146110
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】硝酸鉄溶液による銀の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20241004BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20241004BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241004BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20241004BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241004BHJP
   C25C 1/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B15/00 105
C22B7/00 G
C22B3/06
C22B3/44 101Z
C25C1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058829
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】503404707
【氏名又は名称】大口電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】中島 稿平
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA09
4K001BA22
4K001DB05
4K001DB21
4K001DB22
4K058AA21
4K058BA21
4K058BB04
4K058CA20
(57)【要約】
【課題】銀及び銅を有する被覆基材に対して硝酸鉄含有溶液を用いて安全かつ安定的に銀を回収する方法を提供する。
【解決手段】銀及び銅を含む被覆材で被覆された基材を浸出液としての硝酸鉄溶液に浸漬させることで該被覆材を浸出させる浸出工程S1と、得られた銀イオン及び銅イオンを含む硝酸鉄溶液に塩酸を添加することで該銀イオンを塩化銀として析出させて分離回収する銀回収工程S2と、該分離後の硝酸鉄溶液を酸化処理すると共に硝酸イオン濃度を調整することで再生した後、該浸出液として繰り返す再生工程S3と、該再生前又は再生後の硝酸鉄溶液の一部を抜き出して電解採取することによって該銅イオンを銅メタルとして分離除去した後、廃液として払い出すか又は該浸出液として少なくとも一部を繰り返す脱銅電解工程S4とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀及び銅を含む被覆材で被覆された基材を浸出液としての硝酸鉄溶液に浸漬させることで該被覆材を浸出させる浸出工程と、前記浸出工程により得た銀イオン及び銅イオンを含む硝酸鉄溶液に塩酸を添加することで前記銀イオンを塩化銀として析出させて分離回収する銀回収工程と、前記塩化銀の分離後の硝酸鉄溶液を酸化処理すると共に硝酸イオン濃度を調整することで再生した後、前記浸出液として繰り返す再生工程と、前記再生前又は再生後の硝酸鉄溶液の一部を抜き出して電解採取することによって前記銅イオンを銅メタルとして分離除去した後、廃液として払い出すか又は前記浸出液として少なくとも一部を繰り返す脱銅電解工程とを有することを特徴とする銀の回収方法。
【請求項2】
前記硝酸鉄溶液の一部の抜出量を、前記浸出工程、前記銀回収工程及び前記再生工程が行なわれる系内の水バランスに基づいて求め、前記電解採取した後の硝酸鉄溶液は、その全量を前記廃液とすることを特徴とする、請求項1に記載の銀の回収方法。
【請求項3】
前記硝酸鉄溶液の一部の抜出量を、前記浸出工程、前記銀回収工程及び前記再生工程が行なわれる系内の銅イオンバランスに基づいて求め、前記電解採取した後の硝酸鉄溶液は、前記浸出液として全量を繰り返すか、あるいは前記系内の水バランスを維持するために一部を前記廃液とし、残部を前記浸出液として繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の銀の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸鉄溶液による銀の回収方法に関し、特に銀及び銅を含む被覆材で被覆された基材から硝酸鉄溶液により銀を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、パーソナルコンピュータ、通信機器などの電子機器には、主として、鉄、ニッケル、及びコバルトからなる鉄-ニッケル-コバルト合金の表面に塗布等により銀ロウを被覆させた電子材料が用いられている。この電子材料は、セラミックやガラスに対して金属を接合する場合に適しており、例えば圧電振動子などの気密封入用に好適に利用されている。
【0003】
上記の電子材料は、気密封入等に使用される際の接合面の形状に合わせて打ち抜き加工等により作製されるため、この作製時に多量の加工屑が発生する。この加工屑には貴金属の銀が含まれており、また、基材としての鉄-ニッケル-コバルト合金も高価なニッケル及びコバルトを含んでいるため、これら銀及び鉄-ニッケル-コバルト合金をそれぞれできるだけ高純度に回収することが望ましい。
【0004】
従来、上記のような鉄系合金基材に銀ロウが被覆された電子材料の加工屑に対して、基材としての鉄系合金のロスをできるだけ抑えながら銀を回収する方法として、シアン化アルカリを用いる方法が知られている。この回収方法は、銀ロウで被覆された鉄系合金基材をシアン化アルカリ水溶液等のシアン系剥離液に浸漬することにより、鉄系合金基材の表面から銀ロウのみを剥離して回収するものである。しかしながら、当該回収方法は、毒物であるシアン化アルカリを使用するため、回収設備には特定の専用作業施設を設けると共に、該回収設備から発生する洗浄液中のシアンをほぼ完全に分解するための排水処理設備が必要になる。このため、回収処理に極めて多くの手間とコストがかかることが問題になっていた。
【0005】
そこで、上記のシアン化アルカリを使わない回収方法として、特許文献1には硝酸鉄含有溶液を用いる技術が提案されている。この回収方法は、該硝酸鉄溶液に含まれるFe3+を酸化剤として用いることにより、銀ロウに含まれる金属銀及び金属銅を溶解するものである。具体的には、この特許文献1の回収方法は、鉄-ニッケル-コバルト合金等の鉄系合金の基材に銀又は銀系合金を被覆した電子材料の加工屑に対して、硝酸鉄含有溶液を添加することで該銀又は銀系合金を溶解させ、これにより該基板から該銀又は銀系合金を剥離する溶解剥離工程と、該銀又は銀系合金が溶解した硝酸鉄含有溶液に塩酸を添加することで塩化銀沈殿物を生成する塩化銀生成工程と、該溶解剥離工程後の硝酸鉄含有溶液に含まれる2価の鉄イオン(Fe2+)を3価の鉄イオン(Fe3+)に酸化することで該硝酸鉄含有溶液を再生する硝酸鉄再生工程と、該硝酸鉄再生工程で再生した硝酸鉄含有溶液の濃度を、該溶解剥離工程に使用する硝酸鉄含有溶液の濃度に調整する硝酸鉄含有溶液調整工程とを有している。
【0006】
そして、上記溶解剥離工程では、上記電子材料の加工屑に添加した後の硝酸鉄含有溶液中のFe3+濃度がFe2+濃度の1.5倍当量以上となるように維持し、該溶解剥離工程では上記硝酸鉄再生工程で再生した硝酸鉄含有溶液を使用し、該硝酸鉄含有溶液調整工程では、該溶解剥離工程で溶解した銀合金成分のうち銀を除いたものと当量の硝酸イオンに相当する硝酸を補充することで、該硝酸鉄再生工程で再生した硝酸鉄含有溶液の硝酸イオン濃度を調整している。この回収方法を採用することで、毒物のシアン化アルカリを使用する必要がなくなるうえ、硝酸鉄溶液を複数回繰り返して利用することができるので、安全かつ低コストに銀及び鉄系合金基材を回収することが可能になる。
【0007】
上記特許文献1の回収方法のように、硝酸鉄含有溶液を使用する場合は、被覆材である銀ロウを構成する銀系合金に主として含まれる銅も溶解する。そのため、硝酸鉄含有溶液を繰り返し使用しているうちに硝酸鉄含有溶液中に銅イオンが徐々に蓄積して硝酸鉄含有溶液の粘性が上昇するうえ、硝酸鉄含有溶液中の硝酸イオンの一部がこの銅の溶解に消費される。このように、硝酸鉄含有溶液を繰り返し使用する場合は、該硝酸鉄含有溶液の溶解能力が徐々に低下することが問題になっていた。
【0008】
上記問題に対処するため、特許文献2には硝酸鉄溶液中に蓄積する銅イオンを、鉄粉によるセメンテーション反応を利用して回収する技術が提案されている。具体的にはこの特許文献2の技術は、銀及び銅を含む被覆基材を浸漬処理することで得た銀イオン及び銅イオンを含む硝酸鉄溶液に対して、塩酸を添加して銀イオンを塩化銀として分離回収した後、該分離後の硝酸鉄溶液に鉄粉を添加して銅イオンを銅メタルとして析出させて回収するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-221934号公報
【特許文献2】特開2021-116436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、鉄粉は危険物に指定されており、酸素を含む雰囲気下で加熱されると発火するうえ、酸性液との反応性も高いため、取り扱いに際して安全上のリスクを考慮する必要があった。また、セメンテーション反応のために硝酸鉄液に溶解した鉄粉由来の鉄分によって硝酸鉄液中の鉄イオンや硝酸イオンのバランスが崩れ、銀イオン及び銅イオンの溶解が不安定になるおそれがあった。本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、銀及び銅を有する被覆基材に対して硝酸鉄含有溶液を用いて安全かつ安定的に銀を回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る銀の回収方法は、銀及び銅を含む被覆材で被覆された基材を浸出液としての硝酸鉄溶液に浸漬させることで該被覆材を浸出させる浸出工程と、前記浸出工程により得た銀イオン及び銅イオンを含む硝酸鉄溶液に塩酸を添加することで前記銀イオンを塩化銀として析出させて分離回収する銀回収工程と、前記塩化銀の分離後の硝酸鉄溶液を酸化処理すると共に硝酸イオン濃度を調整することで再生した後、前記浸出液として繰り返す再生工程と、前記再生前又は再生後の硝酸鉄溶液の一部を抜き出して電解採取することによって前記銅イオンを銅メタルとして分離除去した後、廃液として払い出すか又は前記浸出液として少なくとも一部を繰り返す脱銅電解工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全且つ安定的に銀を回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る銀の回収方法の実施形態のブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る銀の回収方法の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この本発明の実施形態の銀の回収方法は、図1に示すように、処理対象となる銀及び銅を含む被覆材で被覆された被覆基材を浸出液としての硝酸鉄溶液に浸漬して、その基材部分は浸出させずに該被覆材だけを浸出させる浸出工程S1と、浸出工程S1により得た銀イオン及び銅イオンを含有する含Ag含Cu硝酸鉄溶液に塩酸を添加することで該銀イオンを塩化銀として析出させた後、該析出した塩化銀を固液分離により分離回収する銀回収工程S2と、該銀回収工程S2において塩化銀を分離回収した後の脱Ag含Cu硝酸鉄溶液を上記浸出工程S1に繰り返して浸出液として再利用するため、酸性処理すると共に硝酸イオン濃度を調整して再生する再生工程S3と、該再生前又は処理後の脱Ag含Cu硝酸鉄溶液の一部を抜き出して電解採取することによって、上記銅イオンを銅メタルとして分離除去した後、得られた脱Ag脱Cu硝酸鉄溶液を廃液として払い出すか又は上記浸出液として繰り返す脱銅電解工程S4とを有している。
【0015】
より具体的に説明すると、上記本発明の実施形態の銀の回収方法の処理対象となる銀及び銅を含む被覆材で被覆された基材は、例えば鉄-ニッケル-コバルト合金などの鉄系合金金属からなる基材の片面又は両面に、銀及び銅を含む合金が被覆された被覆基材を挙げることができる。この銀及び銅を含む合金は、例えば銀ロウを挙げることができる。この銀ロウは、JIS Z 3261 1998に規定されているように、銀及び銅を主成分とし、用途に応じて亜鉛、スズ、カドミウム、ニッケル、リチウムなどの元素が更に添加された合金であり、一般的に銅を15~45%含んでいる。
【0016】
上記の被覆基材は、電子材料の製造段階において打ち抜き加工等の際に発生する加工屑やスペックアウト品が主に対象となるが、被覆材に少なくとも銀及び銅を含む被覆基材であればこれらに限定されるものではない。この被覆基材は、そのまま上記浸出工程S1で処理してもよいが、より効率よく基材から被覆材を浸出させるため、該浸出処理前に切断、裁断、破砕などにより単位体積当たりの表面積を増やすのが好ましい。また、被覆基材に油脂等の不純物、夾雑物等が付着したり混在したりしている場合は、洗浄、分級などの前処理を行なうのが好ましい。次に、上記した本発明の実施形態の銀の回収方法を構成する各工程について説明する。
【0017】
(1)浸出工程S1
浸出工程S1においては、上記被覆基材を浸出液としての硝酸鉄溶液に浸漬させることで、下記反応式1及び2により被覆材に含まれる銀及び銅を酸化剤の役割を担う硝酸鉄により酸化し、それぞれ銀イオン及び銅イオンとして硝酸鉄溶液中に浸出させる。
【0018】
[反応式1]
Fe(NO)+Ag→Fe(NO)+Ag(NO)
[反応式2]
2Fe(NO)+Cu→2Fe(NO)+Cu(NO)
【0019】
上記の被覆基材の浸出処理に使用する硝酸鉄溶液は、硝酸鉄(III)を好ましくは35~40質量%の濃度で含む硝酸鉄水溶液を使用する。この浸出処理時の該硝酸鉄溶液の温度は特に限定はないが、30~35℃程度であれば反応率を高めることができるので好ましい。上記の浸出処理後は、上記銀イオン及び銅イオンを含む含Ag含Cu硝酸鉄溶液を回収すると共に、被覆材が浸出液による溶解によりほぼ除去された基材からなる残渣を取り出す。この取り出した残渣は、必要に応じて水洗等により硝酸鉄溶液を除去した後、基材の原材料として再利用することができる。一方、回収した含Ag含Cu硝酸鉄溶液は、次工程の銀回収工程S2で処理される。
【0020】
(2)銀回収工程S2
銀回収工程S2においては、前工程の浸出工程S1において回収した銀イオン及び銅イオンを含む含Ag含Cu硝酸鉄溶液に所定の当量分の塩酸を添加することにより、下記反応式3に示す銀イオンと塩化物イオンとの反応を生じさせる。これにより、該硝酸鉄溶液に含まれる銀イオンのほぼ全量を塩化銀として析出させる。析出した塩化銀はろ過などの固液分離手段により回収する。回収した塩化銀は、別途、公知の方法で脱水及び還元処理等を経ることで金属の銀を生成することができる。
【0021】
[反応式3]
Ag(NO)+HCl→AgCl↓+HNO
【0022】
(3)再生工程S3
上記の塩化銀が分離回収された後の脱Ag含Cu硝酸鉄溶液は、前述した反応式1及び反応式2で生成されるFe2+を含んでいるので、該脱Ag含Cu硝酸鉄溶液を上記の浸出工程S1に繰り返して浸出液として再利用するため、再生工程S3において酸化処理が施される。これにより該脱Ag含Cu硝酸鉄溶液に含まれるFe2+がFe3+に酸化されるので、酸化剤として再生することができる。この酸化処理の方法には特に限定はなく、空気、酸素富化空気、酸素、オゾン、過酸化水素等の酸化剤を該脱Ag含Cu硝酸鉄溶液に導入する方法を挙げることができる。これらの中では、撹拌機を備えた容器内に脱Ag含Cu硝酸鉄溶液を装入し、撹拌しながら空気を吹き込むエアレーション法が低コストで効率よく酸化処理を行なうことができるのでより好ましい。
【0023】
上記のようにして酸化処理された脱Ag含Cu硝酸鉄溶液は、更に再生工程S3において硝酸イオンの濃度が所定の濃度範囲内に収まるように濃度調整が行なわれる。すなわち、上記の浸出工程S1では、硝酸イオンが銀以外の金属の浸出にも消費されるうえ、浸出工程S1や銀回収工程S2において分離回収される固形分に伴って一部の硝酸鉄溶液がロスする。このため、上記の浸出工程S1、銀回収工程S2、及び再生工程S3による一連の処理が繰り返し行なわれる系内において硝酸鉄溶液の循環サイクルを繰り返しているうちにその硝酸イオン濃度が徐々に低下していき、これに伴い被覆材中の銀に対する硝酸鉄溶液の溶解能が低下するおそれがある。そこで、定期的又は必要に応じて該硝酸鉄溶液の硝酸イオン濃度を測定し、その測定結果に基づいて硝酸又は硝酸鉄が添加される。上記のようにして酸化処理及び濃度調整により再生された再生済硝酸鉄溶液は、上記の浸出工程S1に繰り返して浸出液として再利用される。
【0024】
(4)脱銅電解工程S4
上記のように、浸出工程S1では、被覆材に含まれる銀のみならず銅も硝酸鉄溶液に浸出されるため、上記系内において硝酸鉄溶液の循環サイクルを繰り返しているうちに系内に銅イオンが徐々に蓄積していくことになる。この状態をそのまま放置しておくと、銀に対する硝酸鉄溶液の溶解能が低下して銀の回収効率が低下する。
【0025】
そこで、本発明の実施形態の銀の回収方法では、上記の再生工程S3で再生する前又は再生した後の硝酸鉄溶液の一部を抜き出して電解採取することにより該銅イオンを銅メタルとして分離除去する脱銅電解工程S4を有している。上記の電解採取は、電解処理対象となる硫酸鉄溶液内に不溶性陽極と陰極とを互いに対向させた状態で浸漬させ、これらに通電することで陰極上に硝酸鉄溶液内の目的金属である銅イオンを電気銅として析出させるものである。なお、図1には再生工程S3で再生する前の脱Ag含Cu硝酸鉄溶液の一部に対して脱銅電解工程S4で処理する例が示されている。上記の電解採取により銅イオンが分離除去された後の脱Ag脱Cu硝酸鉄溶液は、図1の実線で示すように廃液として払い出すか、又は点線で示すように、少なくとも一部を系内に戻して残部の脱Ag含Cu硝酸鉄溶液と共に浸出液として再利用する。
【0026】
ところで、上記の銀回収工程S2や再生工程S3では、塩酸や硝酸等の薬剤が添加されるが、その際、該薬剤の希釈用の水分も同時に系内に導入されることがある。この場合は、系内を循環する硝酸鉄溶液の全体量(ホールドアップとも称する)が徐々に増すので、循環する硝酸鉄溶液の一部を系内から適宜抜き出すことで硝酸鉄溶液の循環量が装置のキャパシティーを超えることがないようにすることが望ましい。そこで、本発明の実施形態の銀の回収方法においては、系内の水バランスを所定の範囲内で維持するのに必要な抜出量を求め、この求めた抜出量で系内を循環する硝酸鉄溶液から抜き出した一部の硝酸鉄溶液を上記の脱銅電解工程S4で電解採取する。この場合、電解採取により銅イオンが分離除去された後の硝酸鉄溶液は、廃液として払い出すことで系内の水バランスを安定化させることが可能になる。
【0027】
上記の方法で抜出量を定めることで系内の水バランスを安定化させることができるが、一方、系内に導入される銅イオンは浸出工程S1で処理される被覆基材に含まれる銅の含有量等の諸条件によって変動し得るため、上記のように系内の水バランスに基づいて求めた抜出量では、系内を循環する硝酸鉄溶液内に銅イオンが徐々に蓄積していき、最終的に硝酸鉄溶液の銅イオン濃度がその許容レベルを超えるおそれがある。そこで、定期的又は必要に応じて系内を循環する硝酸鉄溶液の銅イオン濃度を測定し、上記の水バランスに基づいて求めた抜出量では系内を循環する硝酸鉄溶液の銅イオン濃度が徐々に上昇する場合は、上記の水バランスに代えて銅イオンバランスに基づいて上記の抜出量を求める。この場合は、電解採取によって銅イオンを分離除去した後の硝酸鉄溶液は、浸出液として全量を繰り返すか、あるいは上記の系内の水バランスを維持するために一部を廃液として払い出し、残部を上記の浸出液として繰り返すべく系内に戻す。これにより、系内の銅イオンバランスを維持しつつ系内の硝酸鉄溶液のホールドアップの変動を許容範囲内に抑えることができる。
【0028】
以上説明したように、本発明に係る銀の回収方法の実施形態により、被覆基材を浸出処理することで得た硝酸鉄溶液から安全且つ安定的に銀を回収することが可能になる。また、系内の硝酸鉄溶液内の銅イオンバランスを維持することができるので、該硝酸鉄溶液を繰り返し使用しているうちに該硝酸鉄溶液中の銅イオン濃度が増加して溶解能が低下する問題を防ぐことができる。更に、従来のセメンテーションによる脱銅方法よりも経済性の面で有利に脱銅することができる。すなわち、脱銅電解工程はその他の工程とは独立したバッチ処理になるため、その準備や電気銅の回収作業が別途必要になるものの、脱銅電解は1日~数日ごとの操業で済ますことができるので過度な作業負担にはならないうえ、回収される電気銅は純度が高いので高い価格で販売できるからである。次に、本発明の銀の回収方法について実施例を挙げて説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0029】
[実施例1]
銀及び銅を含有する電子材料の加工屑を図1に示すブロックフローに沿った銀の回収方法で処理した。具体的には、先ず浸出工程S1において加工屑を硝酸鉄溶液に浸漬させて浸出処理を行なった後、ろ過により硝酸鉄溶液と加工屑とを分離下。この加工屑が分離された硝酸鉄溶液に対して、次に銀回収工程S2において該硝酸鉄溶液に含まれる銀イオンの当量分の塩酸を添加して塩化銀を析出させ、これをろ過により分離回収した。回収した塩化銀は脱水した。次に再生工程S3において、銀回収工程S2で得たろ液側の硝酸鉄溶液を撹拌機を備えた反応槽に装入し、そこに空気を吹き込んでエアレーションを行なうことで酸化処理を行なった後、硝酸鉄及び硝酸を補充した。このようにして再生した硝酸鉄溶液を次バッチの浸出工程S1に用いた。
【0030】
上記の浸出工程S1、銀回収工程S2及び再生工程S3で構成される銀回収処理を60バッチ繰り返した。その際、銀回収工程S2及び再生工程S3において、1バッチ当たり4Lの水分を添加したので、上記の浸出工程S1、銀回収工程S2及び再生工程S3が行なわれる系内の水バランスを維持するため、再生工程S3で処理する前の硝酸鉄溶液から複数回に分けて合計240Lを抜き出し、各々電解採取による脱銅電解を行なって硝酸鉄溶液に含まれる銅イオンを電気銅として回収した。
【0031】
なお、電解採取に用いた電解槽にはSUS製のアノード電極板とSUS製のカソード電極板とを用いると共に、最大電流250~500Aの整流機を用いて、電流値約350Aで電解採取を行なった。この電解採取により銅イオンが除去された後の硝酸鉄溶液は系内に戻さずに廃液として処分した。上記の60バッチの銀回収処理を1か月かけて行なったところ、1バッチ当たり110~150kgの加工屑を効率よく処理して目的とする回収率で銀を回収することができた。また、系内から抜き出した合計240Lの硝酸鉄溶液から50kgの電気銅を回収することができた。
【0032】
[実施例2]
上記実施例1と同じ設備を用いてロットが異なる加工屑を実施例1と同様に処理したところ、系内を循環する硝酸鉄溶液中の銅イオン濃度が徐々に増加したので、電解採取のための硝酸鉄溶液の合計抜出量を240Lに代えて600Lとし、これを複数回に分けて抜き出した。その結果、系内の銅イオンバランスが安定し、1バッチ当たり110~150kgの加工屑を実施例1と同様に効率よく処理して目的とする回収率で銀を回収することができた。また、電解採取では合計600Lの硝酸鉄溶液から100kgの電気銅を回収することができた。なお、この実施例2では電解採取により銅イオンが除去された後の硝酸鉄溶液のうち実施例1からの増加分である360Lを系内に戻し、残部の240Lを廃液として処分した。
図1